(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】血液と接触する埋め込み型材料及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20240126BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240126BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20240126BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20240126BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240126BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20240126BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240126BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20240126BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20240126BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20240126BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240126BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240126BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240126BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240126BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20240126BHJP
A61L 33/10 20060101ALI20240126BHJP
A61L 33/06 20060101ALI20240126BHJP
A61F 2/07 20130101ALI20240126BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/20
A61L27/34
A61L27/58
A61L27/16
A61L31/06
A61L31/04 110
A61L31/04 120
A61L31/10
A61L31/12 100
A61L31/16
A61P9/10
A61P9/00
A61P17/02
A61P13/12
A61L27/44
A61L33/10
A61L33/06 300
A61F2/07
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544729
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2022051445
(87)【国際公開番号】W WO2022157345
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】509228260
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
(71)【出願人】
【識別番号】522055924
【氏名又は名称】レ・オピトー・ユニヴェルシテール・ドゥ・ジュネーヴ
(71)【出願人】
【識別番号】315012242
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ジュネーヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェロ・ドゥシェール
(72)【発明者】
【氏名】ビート・ワルポス
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・フォンタナ
(72)【発明者】
【氏名】マリア・ウィット
(72)【発明者】
【氏名】サラ・ドゥ・ヴァランス
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・チョップ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・フェリクス
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB13
4C081AB17
4C081AB34
4C081AC09
4C081AC10
4C081CA02
4C081CA03
4C081CA13
4C081CA16
4C081CD06
4C081CD09
4C081DA03
4C081DC04
4C081EA06
4C097AA14
4C097AA15
4C097BB01
4C097CC01
(57)【要約】
本発明は、血液に適合する材料、前記材料を含む埋め込み型デバイス、そのような材料の調製方法、及びそれでコーティングされた医療機器、並びに抗血栓性及び/又は細胞増殖性の態様のためのこれらの使用を対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 生体適合性不織繊維を含む支持体と;
- 前記生体適合性不織繊維のヘパリン化多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングであって、前記多層ポリマーコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の少なくとも1つの層対を含み、前記多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングは、末端官能化により、前記多層ポリマーコーティングの外側の層対上にヘパリンで官能化されており、前記アニオン性ポリマーは、ヘパリン、及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、又はこれらの混合物から選択され、前記カチオン性ポリマーは、キトサン若しくはその類似体、及びポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、又はこれらの混合物から選択される、ヘパリン化多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングと
を含む、血液に適合する材料。
【請求項2】
前記生体適合性不織繊維は、生分解性である、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記生体適合性不織繊維は、分解性ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)、ポリジオキサノン(PDO、PDS)、又はポリ-p-ジオキサノン、又はPGA-ポリ-4-ヒドロキシブチレート(P4HB)コポリマー、分解性ポリウレタン繊維、及びこれらの組み合わせ又は誘導体からなる群から選択される生分解性ポリマーからなる、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
前記生分解性の生体適合性不織繊維は、ポリカプロラクトン(PCL)繊維、特に、電気紡糸ε-PCLナノ/マイクロ繊維を含むか、又はからなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
前記生体適合性不織繊維は、非生分解性である、請求項1に記載の材料。
【請求項6】
前記生体適合性不織繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、Dacron(登録商標)、及び発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)又はポリウレタン(PU)等のポリマーから選択される非生分解性ポリマーからなる、請求項1又は5に記載の材料。
【請求項7】
前記生体適合性不織繊維は、直径が約0.5~約5μmであり、例えば約1~約5μmである、請求項1から6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項8】
前記アニオン性ポリマーは、ヘパリンである、請求項1から7のいずれか一項に記載の材料。
【請求項9】
前記カチオン性ポリマーは、キトサン又はその類似体である、請求項1から7のいずれか一項に記載の材料。
【請求項10】
前記材料は、前記多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングの内皮細胞誘引性コーティングを更に含み、前記内皮細胞誘引性コーティング上に、ヘパリンが、末端官能化、特に末端コンジュゲーションにより官能化されている、請求項1から9のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
前記生体適合性不織繊維は、最初に、カチオン性ポリマー、特にポリ(エチレンイミン)(PEI)又はポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)等の前記多層ポリマーコーティング用の接着剤を含むプレコーティング沈着物でコーティングされている、請求項1から10のいずれか一項に記載の材料。
【請求項12】
前記多層ポリマーLbLコーティングは、請求項1から11のいずれか一項に規定のアニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の約3個の層対~約8個の層対を含み、前記層対は、前記アニオン性ポリマー及び前記カチオン性ポリマー層が前記多層ポリマーコーティング中において交互となるように配置されている、請求項1から11のいずれか一項に記載の材料。
【請求項13】
前記多層ポリマーLbLコーティングは、約3~約8個、特に3~5個の交互のアニオン性/カチオン性ポリマー層対を含み、前記ポリマー層対は、ヘパリン/キトサン若しくはその類似体層対、及びPAH/PSS層対、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載の材料。
【請求項14】
前記生体適合性不織繊維の前記多層ポリマーコーティングは、外側の層対としてポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)の交互層の少なくとも1対を含み、ヘパリンの末端官能化のための基材を形成している、請求項1から13のいずれか一項に記載の材料。
【請求項15】
下記の群:
- (任意選択的な接着剤)-(Hep/Chi)
5-Hep(式中、(Hep/Chi)
5の最後のLbL層は、末端コンジュゲーションによりヘパリンで官能化されている);
及び
- (任意選択的な接着剤)-(PSS/PAH)
4-Hep(式中、(PSS/PAH)
4の最後のLbL層は、末端コンジュゲーションによりヘパリンで官能化されている)
からの多層LbLポリマー集合体を含むシステムでコーティングされた生体適合性不織繊維を含む請求項1から14のいずれか一項に記載の材料。
【請求項16】
- 支持体として生体適合性不織繊維を用意する工程;
- 任意選択的に、前記支持体を、多層化ポリマーLbLコーティング用の接着剤を含むプレコーティング沈着物でコーティングする工程;
- プレコーティングされているか又はプレコーティングされていない前記支持体を、多層化ポリマーLbLコーティングでコーティングする工程であって、前記多層ポリマーLbLコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の少なくとも1つの層対を含み、前記アニオン性ポリマーは、ヘパリン、及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、又はこれらの混合物から選択され、前記カチオン性ポリマーは、キトサン若しくはその類似体、及びポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、又はこれらの混合物から選択される、コーティングする工程;
- 前記多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングの外側の層対を、末端官能化によりヘパリンで官能化する工程
を含む、血液に適合する材料を調製する方法。
【請求項17】
人工血管等の、請求項1から14のいずれか一項に記載の材料又は請求項16に記載の方法に従って得られる材料を含む埋め込み型デバイス。
【請求項18】
前記デバイスは、ステント、ステント移植片、内部移植片、血管移植片、塞栓フィルタ、人工血管、薬物送達デバイス/バルーン、パッチ、血管内閉塞デバイス、CNSシャント、心室腹膜シャント、心室心房シャント、門脈体静脈シャント及び腹水用のシャント、心臓弁及び心臓リーフレット、小児心臓手術用のシャント、人工透析のためのアクセス手術用の血管移植片及びシャント、人工心臓、並びにLVADから選択される、請求項17に記載の埋め込み型デバイス。
【請求項19】
請求項1から14のいずれか一項に記載の材料、又は請求項16に記載の方法に従って得られる材料を含む、酸素供給器を含む心肺バイパス/ECMO、又は血液透析/ろ過システム、又は血液浄化システム、並びに全てのカテーテル及びチューブ等の体外循環デバイス。
【請求項20】
- 支持体として生体適合性不織繊維を含む埋め込み型デバイス又はその一部(例えば、前記埋め込み型デバイスの壁)を用意する工程;
- 前記支持体を、前記生体適合性不織繊維のヘパリン化多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)でコーティングする工程であって、前記多層ポリマーコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の少なくとも1つの層対を含み、前記多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングは、末端官能化により、前記多層ポリマーコーティングの外側の層対上にヘパリンで官能化されており、前記アニオン性ポリマーは、ヘパリン、及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、又はこれらの混合物から選択され、前記カチオン性ポリマーは、キトサン若しくはその類似体、及びポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、又はこれらの混合物から選択される、コーティングする工程
を含む、埋め込み型デバイスの調製方法。
【請求項21】
血液と接触する埋め込み型デバイス又は体外循環デバイスの調製のための、請求項1から15のいずれか一項に記載の材料、又は請求項16又は20に記載の方法の使用。
【請求項22】
必要な対象において、修復手術により、心血管虚血性疾患、例えば、冠動脈疾患若しくは末梢血管疾患、小児心血管奇形、外傷、又は臓器欠損、例えば、末期腎疾患(ESRD)若しくは不全を処置する方法であって、前記対象の血液と接触する請求項1から15のいずれか一項に記載の材料を含む埋め込み型デバイスの埋め込み工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、血管移植片、シャント、パッチ、ステント、弁等の埋め込み型デバイスにおける血液と接触する埋め込み型材料、及びその調製、及びその適用に関する。具体的には、本発明は、(特に、心臓血管疾患の、特に、心臓血管虚血性疾患、変性疾患若しくは先天性疾患、例えば、冠動脈疾患若しくは末梢血管疾患、又は透析患者のためのアクセス手術、小児心血管奇形、外傷、及び修復手術の)手術又は治療によるヒト又は動物の処置に有用な生体適合性材料及び埋め込み型人工デバイス(内部人工器官)に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓血管虚血性疾患は、西側世界における死因の第1位を占めており、内径(ID)が小さい血管移植片は、材料科学者にとって依然として課題である。既に市販されている移植片に関連する主な失敗メカニズムとして、早期の血栓/閉塞、及び迅速でコンフルエントな内皮化の欠如、並びに狭窄及び閉塞を引き起こす場合がある後期の内膜過形成が挙げられる。
【0003】
このことは、移植後に病理学的反応を引き起こさない改良された人工血管導管の開発の必要性を示唆する。この移植片は、生体適合性、抗血栓性、形状、サイズ、及び機械的特性、コンプライアンス、再生、及び成長の可能性、並びに感染に対する抵抗性に関して天然の血管に類似しているべきである。天然由来の材料(例えば、コラーゲン又は脱細胞化組織マトリックス)の使用には、動脈瘤及び破裂を引き起こす早期分解につながる免疫学的反応のリスクがある。完全に細胞由来の移植片の製造には非常に時間がかかり、約6か月かかる。従って、臨床診察では、小口径の血管移植片(6mm未満)を使用する手術は、自己動脈又は静脈で主に実施されており、しかしながら、これは、病的であり得るか又は以前の手術に使用されている可能性があり、従って、すぐに使用可能な小口径血管移植片が強く求められている。合成ポリマーには、強度、分解速度、及び再現可能な微細構造等の(物理的及び化学的)特性を制御して大規模に製造可能であるという利点がある。市販の移植片は、ポリエチレンポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、Dacron(登録商標)、又は発泡ポリ(テトラフルオロエチレン)(ePTFE)若しくはポリ(ウレタン)(PU)、又は他のもの等の非分解性ポリマーで作られており、非分解性合成血管移植片として広く使用されている。
【0004】
これは、大口径の血管の置き換えに使用され成功しているが、より小さい血管及び/又は微小血管手術の吻合に必要な小口径人工器官(ID<6mm)としては失敗している。内径が小さい血管移植片は、材料科学者にとって課題となっている。これは、依然として西側世界における非伝染性疾患の死因の第1位を占めている冠動脈疾患又は末梢血管疾患等の心臓血管虚血性疾患の処置に採用される可能性がある。加えて、これは、アクセス手術における末期腎疾患の処置に必要な場合がある。可能な場合には、バイパス手術は、自己動脈又は静脈で実施されており、なぜならば、合成血管移植片の結果は、小口径移植片(ID<6mm)に使用される場合に不良の臨床結果を示すからである。大口径の移植片とは対照的に、内径が6mm未満の人工器官では、血行力学的な流れの撹乱及び血栓形成性合併症が増加する。そのため、小口径移植片の内皮化は、血行力学的及び機能的プロセスに適合するインターフェースを形成すべきである。主な失敗メカニズムは、早期の血栓症(細胞表面相互作用)、及び迅速でコンフルエントな内皮化の欠如である。この失敗は、主に、内皮細胞の欠如に起因する表面血栓形成性、及び血行力学的撹乱により引き起こされる吻合内膜過形成を伴う好ましくない治癒プロセスの結果である。その後、内膜過形成により狭窄及び閉塞が生じる場合があり、再手術が必要となるか又は末梢部の場合には切断が必要となることが多い。これらの制限は全て、血液と接触して埋め込まれるあらゆるデバイス(弁、VAD等)にも適用される。上記の結果として、合成移植片は、冠動脈手術には使用されない。従って、理想的な小口径人工器官の開発は、血管研究における大きな課題である。
【0005】
生体材料の血液適合性を改善するために、30年超にわたり多数の表面コーティングが開発されており、Biran他、2016、Adv. Drug Deliv. Rev.、112、12~23頁で概説されているように、抗凝固剤ヘパリンは、血液適合性を改善するために、さまざまな医療機器への共有結合的に固定された表面コーティングとして採用されている。
【0006】
発砲ポリ(テトラフルオロエチレン)(ePTFE)、いわゆる非処理性表面及び/又はポリカーボネート-ウレタン(PCU)表面の血液適合性(即ち、ヘパリンのコンジュゲーション)を更に改善するために、表面修飾の多数の戦略(例えば、化学的固定化、物理的吸着、及びプラズマ処理)が検討されている。プラズマ処理を使用して達成されたPCU表面官能化は、アミノリシス及びポリドーパミンコーティングによる物理的吸着等の代替方法と比較して、表面上で官能性アミン基を生成するのに著しく効果的であること、次いで、血管移植片表面上に移植されたこの官能性アミン基は、その後の還元的アミノ化によるヘパリンのコンジュゲーションに使用されて、移植片表面上でのヘパリン分子の末端固定化が可能となる可能性があることが示された(Qiu他、2017、Acta Biomater.、51、138~147頁)。プラズマ処理及びその後の還元的アミノ化によるヘパリンのコンジュゲーションは、より高い表面密度だけでなく、より良好な安定性及び抗血栓形成活性を有利に提供し、且つ開存性並びに内皮化及び移植片一体化の初期段階に関する血管移植片の性能が改善されると説明された。
【0007】
生分解性ポリマーは、小口径動脈バイパス移植片を作製するための足場として、その可能性についても研究されている。電気紡糸ポリ-L-ラクチド-co-カプロラクトン(PLCL)マイクロ繊維血管のアミノリシスの下記の2つ方法が比較された:生分解性電気紡糸PLCLマイクロ繊維血管移植片へのヘパリン密度及び生物活性の最適化を考慮したPLCL足場への末端ヘパリンコンジュゲーションを考慮したプラズマ処理及びFomc-PEG-ジアミン挿入法(Hsieh他、2017、Biomed. Mater.、12、6頁)。この研究から、最小限のポリマー鎖分解を誘発しつつ、(fmoc-PEG-ジアミン挿入法による)ヘパリンの末端コンジュゲーションのためのアミノ基の化学的導入により、部分的な繊維の浸食、溶解、及び構造破壊が引き起こされるが、初期ヘパリン密度に関してプラズマ処理の優位性が結論付けらた。しかしながら、表面のプラズマ活性化は、支持体材料に対して非常に攻撃的であり、埋め込み型材料の構造及び機械的特性に望ましくない欠陥を引き起こすことが多く、PCL(ポリカプロラクトン)等の生分解性材料のさらなる生物医学的使用を妨げることさえある。
【0008】
Gao他、2018、Regen. Biomater.、5、105~114頁では、最近、組織再生、及び血管新生、及び血管再構成プロセスを刺激するためにヘパリン化及び触媒的NO生成の効果を組み合わせるために、後にセレン含有触媒-有機セレン修飾ポリエチレンイミンとヘパリンとの交互層(レイヤーバイレイヤー(LbL)集合体)でコーティングされた電気紡糸ポリ(ε-カプロラクトン)のマトリックをベースとする小口径血管移植片が調製された。この集合体では、ヘパリンは、LbL-形成のためのポリアニオンとして使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Biran他、2016、Adv. Drug Deliv. Rev.、112、12~23頁
【非特許文献2】Qiu他、2017、Acta Biomater.、51、138~147頁
【非特許文献3】Hsieh他、2017、Biomed. Mater.、12、6頁
【非特許文献4】Gao他、2018、Regen. Biomater.、5、105~114頁
【非特許文献5】Virk他、2019、Curr. Cardiol. Rep.、21、36頁
【非特許文献6】L'Heureux他、2006、Nat. Med.、12、361~365頁
【非特許文献7】Channasanon他、2007、J. Colloid Interface Sci.、316 331~343頁
【非特許文献8】Cui他 2010、Adv. Funct. Mater.、20、3303~3312頁
【非特許文献9】Graisuwan、2012、J. Colloid Interface Sci.、376、177~188頁
【非特許文献10】Martins、2014、Int. J. Mol. Sci.、15、20800~20832頁
【非特許文献11】Pfeiffer他、2014、J. Biomed. Mater. Res.、102A、4500~4509頁
【非特許文献12】Miranda他、2020、Antibiotics、9、174頁
【非特許文献13】Nottelet他、2009、J. Biomed. Mater. Res.、89A、865~875頁
【非特許文献14】de Valence他、2012、Acta Biomater.、8、3914~3920頁
【非特許文献15】Lian他、2003、J. Vasc. Surg.、37、472~80頁
【非特許文献16】Picart他、2015、Layer-by-Layer Films for Biomedical Applications、C. Picart、F. Caruso及びJ.-C. Voegel(編)、Wiley-VCH: Weinheim, Germany
【非特許文献17】El-Khouri他、2011、Functional Polymeric Ultrathin Films、R. Advincula及びW. Knoll(編) Wiley-VCH: Weinheim, Germany
【非特許文献18】Mourya他、2009、J. Mater. Sci. Mater. Med.、20、1057~79頁
【非特許文献19】Malik他、2018、Int. J. Nanomedicine、13、7959~7970頁
【非特許文献20】Kulkarni他、2017、Carbohydr. Polym.、157、875~902頁
【非特許文献21】Biran他、2016、Adv. Drug Deliv. Rev.、112、12~23頁
【非特許文献22】Verheul他 2008 Biomaterials、29、3642~3649頁
【非特許文献23】Martins他 2013 Carbohydr. Res.、381、153~160頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そのため、早期の血栓事象を予防し且つ移植片の早期の急速な及びコンフルエントな内皮化を可能にする早期の一過性抗血栓特性を可能にする、内径が小さい血管移植片の調製を可能にする好適な材料及び/又はコーティングを発見することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、例えばVirk他、2019、Curr. Cardiol. Rep.、21、36頁で説明されている冠動脈バイパス移植片(CABG)で有用な小口径移植片(内径1~6mm)の調製を可能にするインビボでの組織再生に適した新規の生体適合性材料の予期せぬ発見に関する。この新規の材料及びコーティングは、天然の動脈よりも優れた歪み及び応力により、動脈コンプライアンスに適合するのに適しており、且つ縫合の保持を高め、動脈瘤の形成及び破裂を予防するのに適した機械的特性を示しており、そのため、血管移植片、シャント、パッチ、内部プロテーゼ、弁、及び血液と接触するあらゆる埋め込み型デバイスへの使用が可能となる。そのような材料を調製するために開発された方法は、化学的な又はプラズマによる官能化と比較して再現性が高い構造特性を有する材料がもたされるという主な利点を示しており、細胞の種類、内部成長、及び持続期間に基づく細胞外マトリックスの形成等のインビトロでの細胞作業を必要とする移植片の調製方法よりも時間効率がよい。(L'Heureux他、2006、Nat. Med.、12、361~365頁)。
【0013】
別の態様によれば、本発明に係る方法は、材料に抗凝固特性の延長を付与する。具体的には、本発明の材料は、血管パッチ又は移植片の管腔表面に存在する場合には、予期せぬ長期にわたる抗血栓効果をもたらし、この効果により、初期の血栓形成又は閉塞が防止される。特定の実施形態によれば、本発明の材料は、生分解性の場合には、細胞の成長を伴う宿主反応を誘発し、デノボECM(細胞外マトリックス)がインビボで形成される。
【0014】
更に、別の特定の態様によれば、本発明の材料の多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(multilayer polymer layer-by-layer)(LbL)コーティングが、前記コーティングの外側の層対として、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)とポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)との少なくとも1対の交互層を含む場合には、本発明の材料は、更に、表面上への内皮細胞の成長に対する高い親和性に起因して迅速な内皮化を誘発することにより、有利な細胞付着及び成長特性を付与するという利点を示す。従って、本発明の材料及び方法により、細胞誘引特性を維持しつつ、抗凝固特性の延長という驚くべき特性を達成することが可能となる。
【0015】
別の具体的に有利且つ自明でない態様は、表面を化学的に修飾するか又は表面の機械的特性を変化させるであろう攻撃的なカップリング反応を使用することなく、不均質の基材表面上で上記の機能の組み合わせを可能にする組成物及び方法の工程の発見である。
【0016】
従って、本発明の材料及び方法は、移植時に血液との接触が意図されているあらゆる生体適合性の埋め込み型材料(特に、埋め込み型デバイスでの使用のための材料)に関して有益な効果を有することが期待される。
【0017】
本発明のある態様は、(i)生体適合性不織繊維を含む支持体と、(ii)前記生体適合性不織繊維のヘパリン化多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングであって、前記多層ポリマーコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の少なくとも1つの層対を含み、多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングは、末端官能化により、前記多層ポリマーコーティングの外側の層対上にヘパリンで官能化されており、アニオン性ポリマーは、ヘパリン、及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、又はこれらの混合物から選択され、カチオン性ポリマーは、キトサン又はその類似体、及びポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、又はこれらの混合物から選択される、ヘパリン化多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングとを含む、血液に適合する材料を提供する。
【0018】
本発明の別の態様は、本発明に係る材料を含む埋め込み型デバイスに関する。
【0019】
本発明の別の態様は、本発明に係る材料を含む膜及びカテーテル等の体外循環デバイス、人工肺、血液透析/ろ過システムに関する。
【0020】
本発明の別の態様は、本発明に係る血液に適合する材料を調製する方法に関する。
【0021】
本発明の別の態様は、本発明の埋め込み型デバイスを調製する方法に関する。
【0022】
本発明の別の態様は、必要な対象において、修復手術により、心血管虚血性疾患、例えば、冠動脈疾患若しくは末梢血管疾患、小児心血管奇形、外傷、又は臓器欠損、例えば、末期腎疾患(ESRD)若しくは不全を処置する方法であって、前記対象の血液と接触する、本発明の材料を含む埋め込み型デバイスの埋め込みを含む前記方法に関する。
【0023】
本発明の別の態様は、血液と接触する埋め込み型デバイス又は体外循環デバイスの調製のための本発明に係る材料又は本発明に係る方法の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、(b)ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、(c)完全脱アシル化キトサン(CHI)、(d)デキストラン硫酸ナトリウム塩(DS)、(e)ポリ(L-リジン)(PLL)、及び(f)N,N,N-トリメチルキトサン(TMC)の化学構造を示す図である。
【
図2A】本発明の血液に適合する材料の構造を示す略図である。材料は、(i)生体適合性不織繊維を含む支持体(1)と;(ii)本発明のヘパリン化多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティング(2)と;任意選択的なプレコーティング沈着物(3)とを含み、ヘパリン(4)は、多層ポリマーコーティング(2)に末端官能化されている。
【
図2B】本発明の血液に適合する材料の構造を示す略図である。材料は、i)生体適合性不織繊維を含む支持体(1)と;(ii)本発明のヘパリン化多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティング(2)と;任意選択的なプレコーティング沈着物(3)とを含み、多層ポリマーコーティング(2)は、ヘパリン(4)の末端官能化用のヘパリン化基材を形成する外側の層対(21)としてポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)の交互層の少なくとも1対を含み、多層ポリマーコーティングの下層は、本発明の他のポリマーの層対(22)で形成されている。
【
図2C】本発明の血液に適合する材料の構造を示す略図である。材料は、i)生体適合性腐食繊維を含む支持体(1)と;(ii)本発明のヘパリン化多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティング(2);任意選択的なプレコーティング沈着物(3)とを含み、多層ポリマーコーティング(2)は、ヘパリン(4)の末端官能化用のヘパリン化基材を形成する外側の層対(21)としてポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)の交互層の少なくとも1対を含み、多層ポリマーコーティング(2)の下層は、同一のポリマーの層対で形成されている。
【
図3】(CHI/HEP)
n及び(CHI/DS)
n多層ポリマーコーティングの厚さ(Thickness, nm)を、LbL層の数(Layer number, 即ち、実施例1で説明されるシリコンウエハ上に沈着したアニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の層対の数)に対して表した図である。最初の沈着層の厚さは基材の影響を受けることから、傾きは、より高い層数で得られることに留意されたい。
【
図4A】0時間、24時間、7日、及び10日のインキュベーション後に測定した抗Xa値(UI/ml)で表した、比較コーティングC1~C6と比較した本発明の様々な材料1、2、及び3の抗血栓活性を示した図である。
【
図4B】1、2.5、5、及び7日のインキュベーション後に測定した抗Xa値(UI/ml)で表した、比較コーティングC1~C6と比較した本発明の様々な材料1、2、及び3の抗血栓活性を示した図である。
【
図4C】0、2.5、及び7日のインキュベーション後に実施例2bのアッセイに従って測定したトロンビン生成阻害(EPT:nmol/L/分)能力を示した図である。
【
図5】実施例2で説明されているように1、2.5、5、及び7日のインキュベーション後に測定した抗Xa値(UI/ml)で表した、本発明の材料4及び5の抗血栓活性を示下図である。
【
図6】
図4B及び
図4Cで示されているのと同一のサンプルに関する5日のインキュベーション後の、実施例2cで説明される比較コーティングC1及びC6と比較した、本発明の材料1及び2で試験したインビトロでの細胞培養物からの平滑筋細胞(SMC)(灰色)及び内皮細胞(EC)(黒色)の細胞増殖の半定量的スコア(0~4)を表した図である。細胞誘引コーティング上の内皮細胞(EC)のスコア数が高いほど、内皮化が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
「ヘパリン」という用語は、ヘパリン分子、ヘパリン分子の断片、又はヘパリン誘導体を指す。ヘパリンは、繰り返し単位に沿って分布しているスルホン基を持つグリコサミノグリカンのグループに属する多糖である。ヘパリンの構造は、血液中のタンパク質(特に、例えばトロンビン(T)及び第Xa因子の阻害を触媒する抗トロンビン(AT))と相互作用する特定の結合配列を含む。静脈内投与されるヘパリンの問題を回避するための試みでは、この分子は、下記の3つの異なる方法により材料表面に固定化されることが最も一般的である:イオン的(静電的相互作用)、多点付着(共有結合)、及び末端官能化(共有結合)。この後者の方法の使用の魅力的な利点として、ヘパリン分子のバルクへの配向、及びトロンビン生成の阻害に関与する活性部位の保持が挙げられる。ヘパリン誘導体は、ヘパリンの任意の機能的バリエーション又は構造バリエーションであり得る。ヘパリンは、本発明の多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングの最後のLbL層に付着している。
【0026】
「レイヤーバイレイヤー(LbL)層」という用語は、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の対を定義する。特定の態様によれば、LbL層の数は、約1~約8であり、典型的には約1~約5(例えば、4又は5)である。更に特定の実施形態によれば、生分解性移植片としての使用のために、本発明の材料中のLbL層の数は、企図された機能性に到達するのに必要な数ほど少ない数に保つことが望ましい。層が追加されると、移植片の剛性が増加し、加えて生分解性が低下する。別の特定の実施形態によれば、多層ポリマーコーティングは、外側の層対として、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PHA)及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)の1対の交互層を含む。
【0027】
「不織繊維」という用語は、繊維の織り又は編みを使用しないあらゆる材料構築物を指す。不織繊維は、押出し、膨張、又は電界紡糸/噴霧等の様々な製造手順により得られる不織繊維を含むナノ又はマイクロ繊維又は原線維及び材料であり得る。
【0028】
「キトサン誘導体」という用語は、N-スルホフルフリルキトサン(SFC)及びN-[(2-ヒドロキシル-3-トリメチルアンモニウム)プロピル]キトサン塩化物(HTACC)(Channasanon他、2007、J. Colloid Interface Sci.、316 331~343頁)、N-グリシジルトリメチルアンモニウム塩化物(Cui他 2010、Adv. Funct. Mater.、20、3303~3312頁); N-[(2-ヒドロキシル-3-トリメチルアンモニウム)プロピル]キトサン塩化物(HTACC)、N-スクシニルキトサン(SCC)及びN-スルホフルフリルキトサン(SFC)(Graisuwan、2012、J. Colloid Interface Sci.、376、177~188頁)又はN-四級化キトサン様N,N,N-トリメチルキトサン(TMC)(Martins、2014、Int. J. Mol. Sci.、15、20800~20832頁)等の合成キトサン類似体を包含する。
【0029】
「内皮細胞誘引性コーティング」という用語は、内皮細胞のその表面上への成長に対する高親和性に起因して細胞付着を可能にし且つ迅速な内皮化を誘発するであろうコーティングを指す。コーティングの内皮細胞誘引特性を、本明細書で説明されているアッセイ、又は長期的な臨床前インビボ移植試験等の任意の他の好適なアッセイを実行することにより決定し得る。本発明に係る好適な内皮細胞誘引性コーティング等の例は、前記コーティングの外側の層対として、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)の少なくとも1対の交互層を含む。
【0030】
「人工デバイス」という用語は、血液と接触することが意図されている、本発明で定義されている人工デバイス(例えば、移植可能なデバイス又は体外循環デバイス、並びにカテーテル及び他のデバイス)を含む。人工デバイスは、生分解性デバイス及び非生分解性デバイスを含む。埋め込み型デバイスは、人工血管、移植片、又はシャント、心臓血管パッチ、心臓血管弁又はリーフレット、内部プロテーゼ、例えば、ステント、補助人工心臓、人工心臓、血管内デバイス、例えば、フィルタ、閉塞デバイス、及び血管内リード(ペースメーカー)を含む。体外循環デバイスは、心肺バイパス、体外式膜型人工肺(ECMO)、又は他の血液浄化デバイス、例えば、透析、及びこれらの構成要素に使用されるデバイスを含む。
【0031】
本発明の生分解性デバイスは、この生分解性デバイスの分解中に機械的安定性を改善するために、好ましくは非生分解性であるメッシュを更に含み得、具体的には、メッシュは、柔軟性を改善し、特に血管移植片に挿入された場合には、移植可能なデバイスに抗ねじれ特性を付与する。静脈置換として使用される場合には、メッシュの組み込みにより、血管の外部からの圧迫を防止し得る。更に、生分解性血管移植片の場合には、後期での動脈瘤形成が予防され得る。
【0032】
「生体適合性不織繊維を含む支持体」という用語は、移植片、パッチ、又はリーフレットに適した材料(例えば、本出願で説明されているがこれに限定されない分解性ポリマー及び非分解性ポリマー)を含む。
【0033】
「血液に適合する」という語句は、危害を引き起こすことなく血液と接触して使用され得る材料(具体的には、抗血栓性である材料)を指す。特定の実施形態によれば、血液適合性を、本明細書で説明されているもの等の標準的なアッセイにおける少なくとも1週間以上(典型的には、約1週間~約1か月)の期間にわたる抗血栓効果により評価し得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、「処置」、及び「処置する」、及び同類のものは、一般的に、所望の薬理学的及び/又は身体的及び/又は生理的効果を得ることを意味する。この効果は、疾患、症状、若しくはその状態を予防するか若しくは部分的に予防するという点で予防的であり得、及び/又は疾患、状態、症状、若しくは疾患に起因する悪影響の部分的な若しくは完全な治癒という点で治療的であり得る。「処置」という用語は、本明細書で使用される場合、哺乳動物(特にヒト)の疾患のあらゆる処置を対象にしており、下記を含む:(a)疾患にかかりやすい素因を持っている場合があるが疾患を有しているとはまだ診断されていない対象において、疾患の発生を予防すること;(b)疾患を阻害すること、即ち、この疾患の発症を阻止すること;又は疾患を緩和すること、即ち、疾患及び/又はその症状若しくは状態の退行を引き起こすこと(例えば、損傷の改善若しくは治療)。
【0035】
「対象」という用語は、本明細書で使用される場合、哺乳動物を指す。例えば、本発明で企図される哺乳動物として、ヒト、霊長類、及び家畜、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、具体的には競走馬、実験用齧歯類、及び同類のものが挙げられる。
【0036】
本発明に係る処置の「有効性」という用語を、本発明に係る使用に反応する疾患の変化の経過に基づいて測定し得る。例えば、本発明に係るデバイスの有効性を、本発明の移植されたデバイス/材料による実験転帰及び臨床転帰の改善により測定し得る。
【0037】
本発明に係る材料
図(特に、最初に
図2A)を参照すると、血液に適合する材料は、
- 生体適合性不織繊維を含む支持体(1)と;
- 前記生体適合性不織繊維のヘパリン化多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティング(2)であって、
前記多層ポリマーLbLコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の少なくとも1つの層対を含み、多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングは、末端官能化により、前記多層ポリマーの外側の層対上にヘパリンで官能化されており、アニオン性ポリマーは、ヘパリン、及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、又はこれらの混合物から選択され、カチオン性ポリマーは、キトサン又はその類似体、及びポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、又はこれらの混合物から選択される、ヘパリン化多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティング(2)と
を含む。
【0038】
本発明の別のさらなる実施形態では、本発明の材料は、生体適合性不織繊維を含む支持体(1)上の任意選択的なプレコーティング沈着物(3)であって、ヘパリン化多層ポリンマーLbLコーティング(2)用の接着剤を含む前記プレコーティング沈着物を更に含む。特定の実施形態では、接着剤は、カチオン性ポリマーであり得、例えば、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(リジン)であり得る。接着剤として使用され得る別のカチオン性ポリマーは、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)であり得る。
【0039】
本発明の別のさらなる実施形態では、本発明の材料は、多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングの任意選択的な内皮細胞誘引性コーティングを更に含み、この内皮細胞誘引性コーティング上に、ヘパリンが、末端官能化により官能化されている。特定の態様によれば、内皮細胞誘引性コーティングは、生分解性不織繊維と組み合わせて使用される場合に特に有利である。
【0040】
特定の一実施形態では、生体適合性不織繊維を含む支持体は、生体適合性不織繊維(例えば、マイクロ繊維及び/若しくはナノ繊維、又はこれらの組み合わせ)を含むか、又はからなる。
【0041】
別の実施形態では、生体適合性不織繊維は、直径が0.1~10μmであり、例えば、0.5~5μm又は1~5μmである。
【0042】
特定の一実施形態では、不織繊維は、繊維間の隙間によって定義されるある特定の空隙率を有する三次元ネットワーク又はマトリックスを形成する。
【0043】
好ましくは、前記不織繊維は、無配向繊維であり、即ち、特定の軸又は平面に沿って任意の特定の配向を有していないが、様々な電気紡糸パラメータを使用して整列させ得る。
【0044】
特定の一実施形態では、前記不織布は、繊維のいくつかの重ね合わされた層を含むか、又はからなる。
【0045】
更に特定の一実施形態では、前記不織布は、空隙率が様々ないくつかの重ね合わされた層を含むか、又はからなる。
【0046】
別の特定の実施形態によれば、本発明に係る不織繊維を、Pfeiffer他、2014、J. Biomed. Mater. Res.、102A、4500~4509頁で説明されているように調製し得る。
【0047】
別の実施形態では、生体適合性不織繊維は、生分解性である。具体的には、生分解性の生体適合性不織繊維は、分解性ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)、ポリジオキサノン(PDO、PDS)、又はポリ-p-ジオキサノン、又はPGA-ポリ-4-ヒドロキシブチレート(P4HB)コポリマー、分解性ポリウレタン繊維、及びこれらの組み合わせ、並びに例えばMiranda他、2020、Antibiotics、9、174頁で説明されている生物医学用途に使用される任意の他のポリマーからなる群から選択される生分解性ポリマーで見出され得る。
【0048】
更に特定の実施形態では、生分解性の生体適合性不織繊維は、ポリカプロラクトン(PCL)繊維を含むか、又はからなる。
【0049】
具体的な一実施形態では、前記繊維は、ε-PCLナノ繊維であり、好ましくは、電気紡糸ε-ポリカプロラクトンナノ繊維である。例えば、この繊維を、Nottelet他、2009、J. Biomed. Mater. Res.、89A、865~875頁で説明されている方法に従って得ることができる。
【0050】
具体的な一実施形態では、前記繊維は、分子量が10~200kDaの範囲であり、好ましくは40~120kDaの範囲であり、好ましくは60~100kDaの範囲であるポリカプロラクトンである。
【0051】
一実施形態では、前記不織布は、間隙が0.8~12μmである1つ又は複数の層を含むか、又はからなる。この間隙を、de Valence他、2012、Acta Biomater.、8、3914~3920頁で説明さているように足場間隙(e)又は空隙比により測定し得る。
【0052】
別の実施形態では、生体適合性不織繊維は、非生分解性である。具体的には、非生分解性の生体適合性不織繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、Dacron(登録商標)、又は発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)若しくはポリウレタン(PU)、又は他のもの等のポリマーで見出され得、非分解性の合成血管移植片として臨床で広く使用されている。
【0053】
更に特定の実施形態では、非生分解性の生体適合性不織繊維は、ePTFEを含むか、又はからなる。例えば、非生分解性の生体適合性不織繊維は、Lian他、2003、J. Vasc. Surg.、37、472~80頁で説明されている。
【0054】
一実施形態では、多層ポリマーコーティングは、レイヤーバイレイヤー(LbL)沈着多層コーティングである。例えば、LbL沈着多層コーティングを、Picart他、2015、Layer-by-Layer Films for Biomedical Applications、C. Picart、F. Caruso及びJ.-C. Voegel(編)、Wiley-VCH: Weinheim, Germany; El-Khouri他、2011、Functional Polymeric Ultrathin Films、R. Advincula及びW. Knoll(編) Wiley-VCH: Weinheim, Germanyで説明されているように製造し得る。典型的には、多層ポリマーコーティングは、
図3に示すように、例えばシリコンウエハ上でエリプソメトリにより測定した場合に、総厚が約0.1nm~約500nmであり、典型的には約1nm~約500nmであり、具体的には1nm~約100nmであり、それぞれの層対は、厚さが約0.2nm~約50nm(例えば、約1~25nm)である。
【0055】
一実施形態では、アニオン性ポリマー又はカチオン性ポリマーは、分子量
【0056】
【0057】
が5kDa~1MDaの範囲であり、例えば7.5kDa~約1000kDa、例えば約5~200kDa、例えば約5~75kDa(例えば、約7.5kDa)、又は約15kDa~75kDaの範囲である。特定の実施形態によれば、本発明に係る好適なアニオン性ポリマー又はカチオン性ポリマーは、分子量が75kDa未満である。
【0058】
特定の一実施形態では、アニオン性ポリマー又はカチオン性ポリマーは、分子量
【0059】
【0060】
が7.5kDa~75kDaの範囲である。
【0061】
一実施形態では、アニオン性ポリマーは、ヘパリン、及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、又はこれらの混合物から選択される。
【0062】
別の実施形態では、カチオン性ポリマーは、キトサン又はその類似体、及びポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、又はこれらの混合物から選択される。
【0063】
さらなる一実施形態では、アニオン性ポリマーは、ヘパリン、及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)から選択され、カチオン性ポリマーは、キトサン又はその類似体、及びポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)から選択される。
【0064】
特定の一実施形態では、アニオン性ポリマーは、ヘパリンである。
【0065】
特定の一実施形態では、アニオン性ポリマーは、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)である。
【0066】
特定の一実施形態では、カチオン性ポリマーは、キトサン又はその類似体(例えば、N-アルキル化キトサン、例えばトリメチルキトサン)である。
【0067】
特定の一実施形態では、キトサンは、分子量が約7.5kDa~75kDaである。
【0068】
別の特定の実施形態では、キトサンは、脱アセチル化度が少なくとも80%であり、好ましくは少なくとも85%であり、典型的には約80~約95%である。
【0069】
別の特定の実施形態では、トリメチルキトサンは、Mourya他、2009、J. Mater. Sci. Mater. Med.、20、1057~79頁、又はMalik他、2018、Int. J. Nanomedicine、13、7959~7970頁、又はKulkarni他、2017、Carbohydr. Polym.、157、875~902頁で説明されているように調製される。
【0070】
特定の一実施形態では、アニオン性ポリマーは、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)である。
【0071】
更に特定の一実施形態では、多層ポリマーLbLコーティングは、本発明に係るアニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の約3個の層対~約8個の層対を含み、前記層対は、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層が多層ポリマーコーティング中で交互となるように配置される。
【0072】
更に特定の一実施形態では、本発明の材料の多層ポリマーLbLコーティングは、末端官能化ヘパリンで官能化されている前記コーティングの外側の層対として、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)の少なくとも1対の交互層を含む。
【0073】
更に特定の実施形態によれば、多層ポリマーLbLコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の約1個の層対~約8個の層対を含み、前記アニオン性ポリマーは、ヘパリンであり、前記カチオン性ポリマー層は、キトサン又はその類似体から選択され、前記コーティングの外側の層対としてのポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)の交互層の対は、末端官能化ヘパリンで官能化されている。
【0074】
ヘパリンによる膜の末端官能化は、多層ポリマーレイヤーバイレイヤーコーティングの外層のアミン基とヘパリンとの反応により達成される。
【0075】
特定の一実施形態では、生体適合性不織繊維を含む支持体を、最初に、多層ポリマーコーティング用の接着剤を含む沈着物でプレコーティングし得る。
【0076】
特定の実施形態では、接着剤は、多数の第1級アミノ基又は第2級アミノ基を含むカチオン性ポリマー(例えば、ポリ(エチレンイミン)(PEI))である。
【0077】
図(特に、最初に
図2)を参照すると、ヘパリン化多層ポリマーLbLコーティング(2)は、多層ポリマーLbLコーティング(2)中においてヘパリンがアニオン性ポリマーとして使用され得るという事実とは独立して、末端官能化により前記多層ポリマーコーティング(2)の外層上へのヘパリン(4)の官能化により得られる。
【0078】
ヘパリンの様々な末端官能化戦略が、例えばBiran他、2016、Adv. Drug Deliv. Rev.、112、12~23頁で説明さているように既知である。
【0079】
更に特定の実施形態によれば、ヘパリンは、末端付着(EPA)を介して前記多層ポリマーLbLコーティングの外側の層対上に官能化されており、ヘパリンの還元末端(一般的に、亜硝酸脱アミノ化により最初に部分的に解重合されている)は、還元的アミノ化により、多層ポリマーLbLコーティングの最終層のアミノ官能基に共有結合している。
【0080】
更に特定の実施形態によれば、ヘパリンは、末端コンジュゲーション(EPC)を介して前記多層ポリマーLbLコーティングの外側の層対上に官能化されており、特に、ヘパリンは、例えばHsieh他、2017、上記参照で説明されている多層ポリマーLbLの最終層のアミノ官能基に結合している。
【0081】
更に特定の実施形態によれば、ヘパリンは、ポリマーコーティング上への官能化の前にヘパリン上に高反応性のアルデヒド基を設けるために、ヘパリンのジアゾ化後に官能化される。
【0082】
更に特定の実施形態によれば、ヘパリンの末端コンジュゲーションにより、LbLコーティング(特に、ヘパリンが末端コンジュゲーションにより官能化されている多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングの細胞誘引性コーティング)の外層への内皮細胞の十分なアクセスを提供することが可能となる。
【0083】
図(特に、最初に
図2B及び
図2C)を参照すると、別の特定の実施形態では、生体適合性不織繊維を含む支持体の多層ポリマーLbLコーティングは、外側の層対(21)として、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)の交互層の少なくとも1つの対を含み、ヘパリン(4)の末端官能化用のヘパリン化基材を形成している。この場合では、ヘパリン(4)は、多層ポリマーコーティング(2)に末端官能化されており、多層ポリマーコーティングの下層は、同一のポリマー(
図2C)又は好ましくは本明細書で説明されている他のポリマー(
図2Bにおける(22))のいずれかの層対で形成されている。
【0084】
更に特定の実施形態によれば、生体適合性不織繊維を含む支持体の多層ポリマーLbLコーティングは、支持体(プレコーティング剤により任意選択的にプレコーティングされている)が、最初に、最初のLbL層対のアニオン性ポリマーでコーティングされている。
【0085】
別の特定の実施形態では、支持体の多層ポリマーLbLコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層のいくつかの層対を含み、アニオン性ポリマー層は、様々な層対間で同一の又は異なるアニオン性ポリマー又はカチオン性ポリマーで形成され得る。
【0086】
別の特定の実施形態では、支持体の多層ポリマーLbLコーティングは、約3~8個(特に3~5個)の交互アニオン性/カチオン性ポリマー層対を含み、これらのポリマー層対は、ヘパリン/キトサン又はその類似体層対、及びPAH/PSS層対、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0087】
別の特定の実施形態では、埋め込み型材料支持体の多層ポリマーコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の約3~8個(例えば約3~7個、例えば約3~約5個、特に4~5個)の層対を含み、アニオン性ポリマーは、ヘパリンであり、カチオン性ポリマーは、キトサン又はその類似体である。
【0088】
別の特定の実施形態では、支持体の多層ポリマーLbLコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の約3~8個(例えば約3~7個、例えば約3~約4個、特に4~5個)の層対を含み、アニオン性ポリマーは、PSSであり、カチオン性ポリマーは、PAHである。
【0089】
別の特定の実施形態では、支持体の多層ポリマーLbLコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の約3~約7個(例えば、約3~約5個)の層対(例えば、3、4、又は5個)を含み、アニオン性ポリマーは、ヘパリン(HEP)であり、カチオン性ポリマーは、キトサン(CHI)であり、外側のポリマー層対は、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の約1~約2個の層対からなり、アニオン性ポリマーは、PSSであり、カチオン性ポリマーは、PAHであり、外側のポリマー層対PSS/PAHにヘパリンが末端官能化されている。
【0090】
特定の一実施形態では、(HEP/CH)層対を含むか又はからなる多層ポリマーコーティング、及び(PSS/PAH)層対を含むか又はからなる多層ポリマーコーティングにおいて、多層ポリマーLbLからの層対当たりの厚さの増分は、1~20nmの範囲である。
【0091】
本発明の有利な態様によれば、多層ポリマーLbLコーティングの厚さを、特定のポリマー層対の選択により調整し得る。
【0092】
別の更に特定の実施形態では、本発明に係る材料は、下記の群:
- (任意選択的な接着剤)-(Hep/Chi)5-Hep(式中、(Hep/Chi)5の最後のLbL層は、末端コンジュゲーションによりヘパリンで官能化されている);
及び
- (任意選択的な接着剤)-(PSS/PAH)4-Hep(式中、-(PSS/PAH)4の最後のLbL層は、末端コンジュゲーションによりヘパリンで官能化されている)
からの多層(LbL)ポリマー集合体を含むシステムでコーティングされた生体適合性不織繊維を含む。
【0093】
特定の態様によれば、接着剤が存在している。
【0094】
別の特定の態様によれば、接着剤は、PEIである。
【0095】
別の特定の態様によれば、接着剤は、PAHである。
【0096】
本発明に係る材料の調製
特定の実施形態によれば、
- 支持体として生体適合性不織繊維を提供する工程;
- 前記支持体を、多層化ポリマーLbLコーティングでコーティングする工程であって、
多層ポリマーLbLコーティングは、アニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマーの少なくとも1つの層対を含み、アニオン性ポリマーは、ヘパリン、及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、又はこれらの混合物から選択され、カチオン性ポリマーは、キトサン若しくはその混合物、及びポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、又はこれらの混合物から選択される、コーティングする工程;
- 前記多層ポリマーレイヤーバイレイヤー(LbL)コーティングの外側の層対を、末端官能化によりヘパリンで官能化する工程
を含む、血液に適合する材料を調製する方法が提供される。
【0097】
特定の実施形態によれば、埋め込み型材料は、電界紡糸により支持体として提供される生体適合性不織繊維の形態である。
【0098】
別の特定の実施形態によれば、生体適合性不織繊維は、壁が管腔表面を形成している管腔を形成する管状構造の形態の支持体を形成するように紡糸されている。
【0099】
特定の実施形態によれば、不織繊維の支持体は、約10分にわたるアルコール溶液への浸漬、次いで約10分にわたる超純水への浸漬、次いで(例えば、約100%~約95%のエタノール等のエタノールを含む溶液中での)コーティング前の乾燥による前処理に供される。
【0100】
別の特定の実施形態によれば、血液に適合する材料を調製する方法は、多層化ポリマーコーティングの前に、埋め込み型材料の表面上に接着剤のプレコーティング沈着物を提供する任意選択的なプレコーティング工程を更に含む。
【0101】
特定の実施形態によれば、多層化ポリマーLbLコーティング用の接着剤によるプレコーティング工程は、最初の層対の最初のポリマー層がカチオン性ポリマーである場合に有利に使用される。
【0102】
別の特定の実施形態によれば、多層化ポリマーコーティング用の接着剤によるプレコーティング工程は、埋め込み型材料がPCLである場合に有利である。
【0103】
別の特定の実施形態によれば、本発明に係る血液に適合する材料を調製する方法であって、多層化ポリマーLbLコーティングが、レイヤーバイレイヤー(LbL)沈着により生体適合性不織繊維に(直接的に又はプレコーティングされた生体適合性不織繊維上に)適用されている、方法が提供される。
【0104】
別の特定の実施形態によれば、本発明に係る血液に適合する材料を調製する方法であって、ヘパリンが、多層化ポリマーコーティングに末端官能化により官能化されている、方法が提供される。
【0105】
別の特定の実施形態によれば、本発明に係る血液に適合する材料を調製する方法であって、生体適合性不織繊維の多層ポリマーLbLコーティングは、外側の層対として、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)の交互層の少なくとも1つの対を含み、且つヘパリンの末端官能化用のヘパリン化基材を形成している、方法が提供される。
【0106】
別の特定の実施形態によれば、本発明に係るヘパリン化多層ポリマーコーティングは、抗血栓性及び/又は細胞増殖性を有しており、従って、あらゆるインビトロ、動物、又はヒトでの応用のために血液との接触が意図されているあらゆる支持体上で使用され得る。
【0107】
本発明の人工デバイス
別の特定の実施形態によれば、本発明の材料の基材は、血液と接触する埋め込み型又は非埋め込み型の医療デバイスであり得、特に、本明細書で定義されているもの等の血液と接触する安定した又は生分解性の埋め込み型人工デバイスであり得る。
【0108】
特定の実施形態によれば、本発明に係る埋め込み型医療デバイスは、抗血栓特性を有する。
【0109】
特定の実施形態によれば、本発明に係る埋め込み型医療デバイスは、抗凝固特性を有する。
【0110】
特定の実施形態によれば、本発明に係る埋め込み型医療デバイスは、埋め込み前の前内皮化工程を必要としてない。
【0111】
特定の実施形態によれば、血液との接触に適した埋め込み型医療デバイスが提供され、前記デバイスは、生体適合性不織繊維を含む表面(例えば壁)を含み、前記表面は、本発明に係る多層ポリマーコーティングでコーティングされている。
【0112】
特定の実施形態によれば、生分解性及び生体適合性の不織繊維を含む表面が、電気紡糸された生体適合性不織繊維により形成されている、血液との接触に適した埋め込み型医療デバイスが提供される。
【0113】
一実施形態では、生体分解性埋め込み型医療デバイス、特に、管腔を形成する管状構造を有し、且つ前記デバイスの壁が管腔表面を形成している血管移植片が提供される。
【0114】
特定の実施形態によれば、人工血管である、血液との接触に適した埋め込み型医療デバイスが提供される。
【0115】
一実施形態では、前記デバイスは、管腔を形成する管状構造を有し、且つ前記デバイスの壁が管腔表面を形成している生分解性血管移植片であり、前記生分解性血管移植片は、任意のサイズ、直径、又は構造(直線状若しくは分岐状)のものであるが、特に、6mm未満の内径(ID<6mm)、典型的には約1~約6mmの内径を有する。
【0116】
具体的な一実施形態では、生分解性血管移植片は、冠動脈血管移植片である。
【0117】
有利には、本発明に係る生分解性血管移植片等の埋め込み型人工デバイスは、永続的な又は一時的な体内医療デバイスである。
【0118】
一実施形態では、本発明に係る埋め込み型人工デバイスは、ステント、例えば、分岐型ステント、バルーン拡張型ステント、自己拡張型ステント、ステント移植片、例えば、分岐型ステント移植片、移植片、例えば、血管移植片、分岐型移植片、塞栓フィルタ、人工血管、薬物送達デバイス/バルーン、パッチ、血管内閉塞デバイス、CNSシャント(例えば、心室胸腔シャント、VAシャント、又はVPシャント)、心室腹膜シャント、心室心房シャント、門脈シャント、及び腹水用のシャント、心臓弁リーフレット、小児心臓手術用のシャント、血管移植片、及び透析のためのアクセス手術用のシャントからなる群から選択される。更に、本発明に係る生分解性埋め込み型医療デバイスはまた、人工心臓、左心室補助装置(LVAD)等の体外式心臓補助装置、又は非埋め込み型体外補助装置である心肺バイパス(CPB)体外式膜型人工肺(ECMO)、又は血液浄化装置、及びこれらのカテーテルである。
【0119】
更に特定の実施形態によれば、本発明に係る材料(特に、本発明に係るコーティング材料1若しくは3)、又は本発明の方法に従って得られる材料を含む、酸素供給器を含む心肺バイパス/ECMO、又は血液透析/ろ過システム、又は血液浄化システム、並びに全てのカテーテル及びチューブ等の体外循環デバイスが提供される。
【0120】
本発明の人工デバイスの調製
特定の実施形態によれば、
- 支持体として生体適合性不織繊維を含む埋め込み型デバイス又はその一部(例えば、前記埋め込み型デバイスの壁)を提供する工程;
- 前記支持体を、本発明に係る多層化ポリマーLbLコーティングでコーティングする工程
を含む、埋め込み型デバイスの調製方法が提供される。
【0121】
特定の実施形態によれば、
- 生体適合性不織繊維の電気紡糸又は押出し/膨張のいずれかにより壁を形成する工程;
- 前記壁を、レイヤーバイレイヤー(LbL)沈着により多層ポリマーコーティングでコーティングする工程であって、多層ポリマーコーティングは、本発明に係るアニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の少なくとも1つの層対を含む、コーティングする工程;
- 前記多層化ポリマーLbLコーティングを、その外層上で末端官能化によりヘパリンで官能化させる工程
を含む、血液に適合する埋め込み型デバイスを調製する方法が提供される。
【0122】
特定の実施形態によれば、埋め込み型デバイス又はその一部は、生体適合性不織繊維の電気紡糸によって壁を形成することにより、支持体として提供される。
【0123】
特定の実施形態によれば、本発明の埋め込み型デバイスの調製方法であって、非分解性又は分解性のメッシュを、血液と接触する非生分解性又は完全生分解性の埋め込み型デバイス(例えば、人工)、特に、完全生分解性血管移植片に導入する、調製方法が提供される。この具体的な実施形態によれば、完全生分解性血管移植片が、動脈循環若しくは静脈循環、又は任意の他の管状構造に埋め込まれる場合には、非分解性又は分解性のメッシュにより、完全なポリマー分解後に血管再生が不十分な場合に、移植片の壁の破裂、又は拡張、又はねじれが防止されることになる。このメッシュにより、分解の前、最中、及び後に、移植片の機械的安定性が改善される。従って、本発明は、本発明で定義される完全生分解性の埋め込み型人工デバイスと、非分解性又は分解性のメッシュとを含む人工デバイスに関する。
【0124】
患者
ある実施形態では、本発明に係る患者は、虚血性、変性、又は先天性の循環器疾患、外傷(例えば、神経性の、末梢性の、心臓性の、血管性の、若しくは整形外科的な外傷)、又は末期腎疾患(ESRD)等の臓器欠損若しくは臓器不全に罹患しているか又は罹患するリスクがある対象である。
【0125】
さらなる実施形態では、本発明に係る患者は、血管再建手術等の再建手術を受けている対象である。
【0126】
本発明に係る使用
特定の実施形態によれば、本発明の材料、プロセス、及び方法は、手術又は治療による心臓血管疾患、特に、心臓血管虚血性疾患、例えば、冠動脈疾患、末梢血管疾患の処置、又は透析のためのアクセス手術、又は小児患者、小児心臓血管奇形、外傷、若しくは修復手術における移植片若しくはシャントの適用に有用である。
【0127】
特定の態様によれば、本発明に係る生体適合性材料は、非分解性又は分解性の埋め込み型人工デバイス(例えば、手術又は治療によるヒト又は動物の処置、特に、心臓血管疾患、特に、心臓血管虚血性疾患、例えば、冠動脈疾患、又は末梢血管疾患、又は透析患者のためのアクセス手術、小児心臓血管奇形、外傷、及び修復手術に有用な血管移植片(内部人工器官))の調製に有用であり得る。
【0128】
極めて疎水性(100°を超える接触角)であるePTFE等の非分解性ポリマーの材料特性に関するいくつかの問題は、本発明での提案に係る材料により解決される可能性があり、なぜならば、この材料は、表面をより親水性にし、そのため、細胞接着/増殖及び低い血栓形成性が促進され、従ってより生体適合性であり、炎症/異物反応も軽減され得、内膜過形成及び石灰化等の後期合併症の軽減につながる場合もあるからである。
【0129】
本発明を説明する実施例を、より詳細に且つ図に示された実施形態を参照して、下記で説明する。
【実施例】
【0130】
(実施例1:本発明の材料による血管移植片の調製)
本発明の材料を、埋め込み型血管移植片として有用な基材上に適用した。
【0131】
全ての試薬を、いかなる追加の精製工程も行なうことなく、受け取ったまま使用した。
【0132】
ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH,≒50,000g/mol)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS,≒70,000g/mol)、及びロイコノストック属種(Leuconostoc ssp.)由来のデキストラン硫酸ナトリウム塩(DS,≧500000g/mol)を、Sigma-Aldrich社(St. Quentin Fallavier, France)から購入し、ポリ(L-リジン)臭化水素酸塩(PLL,≒15,000~30,000g/mol)及びキトサン(CHI,低分子量,75~85%脱アセチル化)を、Sigma-Aldrich社(Schnelldorf, Germany)から購入した。分枝ポリ(エチレンイミン)(PEI, Lupasol WF,≒25,000g/mol)を、BASF社(Ludwigshafen, Germany)から購入した。ブタ腸粘膜由来のヘパリンナトリウム塩(>180 USP単位/mg, SIGMAからの参照H4784)を使用した。N,N,N-トリメチルキトサン(TMC,
【0133】
【0134】
≒90,000g/mol、四級化度0.25)を、他の箇所で説明されているように(Verheul他 2008 Biomaterials、29、3642~3649頁; Martins他 2013 Carbohydr. Res.、381、153~160頁)、ヨウ化メチル(CH3I)によるキトサン(Golden-Shell Biochemical社, China)の化学修飾により得た。
【0135】
PEIの溶液を、超純水で2.5mg/mLの濃度にて調製した。LbL膜の集合体に使用される高分子電解質溶液を、使用されるポリアニオンに基づいて、下記の3つの異なる群に分類し得る:HEP、DS、又はPSS。
【0136】
HEP含有LbL膜に関して、ポリマー溶液を、CHIの場合を除いて1.0mg/mLの濃度にて0.15M塩化ナトリウム溶液で調製した。キトサンを、酢酸の溶液(0.5M)及び0.15M NaClに溶解させて、最終濃度を2.0mg/mLとした。1mg/mLでのHEP溶液を、酢酸緩衝液(pH 4)を使用して調製した。
【0137】
DSベースのLbL膜に関して、DSの水溶液(pH≒6.5)を、1mg/mLのポリマー濃度にて1M NaClで調製した。キトサンを、酢酸の溶液(0.5M)及び1M NaClに溶解させて、最終濃度を2.0mg/mLとした。PLL溶液を、1mg/mLの濃度及び1M NaClで調製した。
【0138】
PSS含有LbL膜に関して、ポリマー溶液を、1.0mg/mLの濃度にて0.15M塩化ナトリウム溶液で調製した。
【0139】
いずれ高分子電解質溶液に関してもpH値の最終調整を行なわなかった。
【0140】
混合物DS:HEP 1:10を、ミリリット当たりの各成分のモル比(鎖の数)を考慮して、0.15M NaClにて酢酸緩衝液で調製し、1mg/mLの最終ポリマー濃度を維持した(緩衝液100mLに溶解したDS 77.3mg、及びHEP 23.2mg)。
【0141】
a)生体適合性不織繊維を含む支持体を提供すること
本発明のコーティングの支持体として、生体適合性不織繊維を使用した。この目的のために、ε-ポリカプロラクトン(PCL)マイクロ及びナノ繊維足場を、電気紡糸により調製した。簡潔に説明すると、CHCl3/EtOH(70% v/v)中の15% PCL(80,000Da, Sigma社)の溶液を、20kVで充電し(Spellman High Voltage Electronics Ltd社, Pulborough, West Sussex, UK)、シリンジポンプ(Fresenius Vial SA社, Brezins, France)により、12mL/hの連続速度にて、ステンレス製針に通して排出した。ポリマー繊維を、自作スタンドに取り付けられた、接地され、回転し(4,500rpm)、且つ並進している(200移動秒-1及び4cm振幅)ステンレス製マンドレル(直径2mm、又は2m未満、又は2m超)により、20cmの針-回収機距離で回収した。電気紡糸の後、移植片を、一晩真空中に置いて、あらゆる残留溶媒を除去した。そのようなPCL繊維の平均的なサイズ及び分布を、2.2±0.6μmの平均繊維径に対応する過去の研究で測定した。
【0142】
得られた繊維メッシュ(本明細書では、「移植片」及び「パッチ」と称される)を、心臓血管手術用インプラントで使用される血管移植片を模倣するバイオ人工表面として使用した。不織繊維支持体(例えば、移植片/パッチ)の短い前処理を、10分にわたるエタノールへの浸漬及び超純水での10分にわたるすすぎにより実行し、乾燥させた。移植前の滅菌を、最小線量25kGy、及び最大線量32kGyのガンマ線を使用して実施した。
【0143】
b)任意選択的に、支持体を、接着剤を含むプレコーティング沈着物でコーティングすること
接着剤のプレコーティング沈着物を使用する場合には、PEI溶液を、15分にわたる浸漬、及び超純水での3回2分間のすすぎ、続いて乾燥により、上記で得られた不織繊維基材上にコーティングする。
【0144】
c)支持体(接着剤でプレコートされている又はされていない)を、本発明のアニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の少なくとも1つの層対を含む多層ポリマーLbLコーティングでコーティングすること
上記で得られたPCL-パッチの約3cm×6cmのサンプルを、基材を溶液に浸漬させることによりコーティングした。ポリマーの析出工程及びすすぎ工程の時間は、高分子電解質溶液中で約1分であり、続いて、超純水での3×8秒のすすぎを行なった。
【0145】
本発明のLbL膜の組み合わせ(LbLシステム1~3)を含む本発明の下記の材料、及び比較コーティングC1~C6を、下記のTable 1(表1)で列挙されているように、様々なデバイスの生体適合性不織繊維表面上で調製した。
【0146】
【0147】
d)最後のLbL層上の多層化ポリマーコーティングのヘパリン化
ヘパリン化多層ポリマーLbLコーティングは、ヘパリンが多層ポリマーLbLコーティングのアニオン性ポリマーとして組み込まれるか否かという事実とは無関係に、前記多層ポリマーコーティングの外層上へのヘパリンの官能化により得られる。
【0148】
ヘパリン化を、様々な既知の技術により実行し得る。特定の態様では、Hsieh他、2017、上記参照で説明されているように、ヘパリン分子を、末端コンジュゲーション(EPC)を使用して、多層化ポリマーコーティングの表面に付着させる。
【0149】
ヘパリン末端コンジュゲーションのために、前工程で得られた材料を、24時間にわたり、Hep EPC溶液(0.02M 第一リン酸ナトリウム、0.2M 塩化ナトリウム、及び3mg mL-1シアノ水素化ホウ素ナトリウム)に浸漬し、オービタルシェーカー(200rpm)を使用して撹拌し、次いで超純水で3×2分すすいで乾燥させる。
【0150】
特定の態様によれば、ヘパリン末端コンジュゲーションに有利なヘパリン化基材は、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(アリルアミン塩酸塩)(PSS)を含む少なくとも1つの外側の層対で形成されている。
【0151】
多層化ポリマーコーティングに付着したヘパリンの量を、米国特許第4,613,665号で説明されているカルバゾールアッセイを使用して決定し、約9.6μg/cm2であった。
【0152】
これらの結果は、多層化ポリマーLbLコーティングが、ヘパリン(アルデヒド末端基)分子と効率的に反応するのに十分な量の第一級アミノ基をバルク方向に提示することを示唆する。
【0153】
ePTFE等の微多孔質非分解性ポリマーで作られた血管移植片及びパッチの現在の臨床での使用を考慮して、本発明のコーティングを、これらの材料でも試験している。この目的のために、eTFEの従来の表面活性化手順(例えば、プラズマ処理等)を使用するか又は使用せずに調製した表面と、レイヤーバイレイヤーコーティング法とを、上記で説明されているPCLで使用したものと比較して下記のように調整した。
【0154】
a)生体適合性不織繊維を含む支持体を提供すること
沈着前に、e-PTFEパッチを、1時間にわたりEtOHに浸漬させ、次いで30分にわたりMilli-Q水に浸漬させた。
【0155】
b)任意選択的に、支持体を、接着剤を含むプレコーティング沈着物でコーティングすること
接着剤のプレコーティング沈着物を使用する場合には、パッチを、20分にわたりPEI又はPAH溶液に浸漬し、続いてMilli-Q水で3回2分すすいだ。
【0156】
c)支持体(接着剤でプレコートされていか又はされていない)を、本発明のアニオン性ポリマー層及びカチオン性ポリマー層の少なくとも1つの層対を含む多層ポリマーLbLコーティングでコーティングすること
上記で得られたePTFE-パッチを、このパッチの1分にわたり対応する高分子電解質(PSS又はPAH)への浸漬、続いてMilli-Q水での3回8秒のすすぎによる(PSS/PAH)4多層膜の沈着によってコーティングした。
【0157】
本発明のLbL膜の組み合わせを含む本発明の下記の材料(LbLシステム4~5)を、下記のTable 2(表2)で列挙されているように、様々なデバイスの生体適合性不織繊維表面上で調製する。
【0158】
【0159】
d)最後のLbL層上の多層化ポリマーコーティングのヘパリン化
ヘパリン化多層ポリマーLbLコーティングは、PCLサンプルに関して上記で説明されているEPC手順を使用して上記で得られたLbL修飾e-PTFEパッチ上でのヘパリンの末端付着による前記多層ポリマーコーティングの外層の官能化により得られる。e-PTFEパッチを、PCLサンプルの場合のような各沈着工程後ではなく、沈着プロセスの最後でのみ乾燥させた。
【0160】
(実施例2:本発明の材料でコーティングされた移植片のキャラクタリゼーション)
実施例1で得られた移植片を、下記のように試験した。
【0161】
a)移植片の安定性
血液培地を、コーティングの上部への主にタンパク質吸着を含むであろう追加の事象を考慮して、少なくとも24時間~最大7及び/又は10日にわたる室温又は37℃での0.15M NaCl水溶液への浸漬を使用してシミュレートして、抗血栓実験と同様の条件下でそのような膜の安定性を評価する。時間(h)にわたる合計膜厚(nm)を、シリコンウエハ上でのエリプソメトリにより評価し、多層化ポリマーコーティング厚は、初期値の90%超を維持しており、このことは、これらの条件下で7日超にわたり膜の完全性が維持されたことを示唆する。
【0162】
この安定性は、宿主体が、血栓形成及びそれから生じる合併症から安全に内皮化工程を経るのに役立つ可能性があることを示唆する。
【0163】
更に、γ滅菌(25KGy)及び保存(最大9か月間の冷蔵)を行なっても血管移植片に関する安定性結果は変化しないことを観察している。
【0164】
b)抗血栓特性
血管移植片の抗血栓性能を、2種の相補的な方法を使用してインビトロで評価した。
【0165】
最初に、ヒト血漿と共にインキュベートした場合に移植片から放出された抗凝固剤の量を評価した。この目的のために、移植片をチューブに入れ、各条件に関して3重に、37℃にて24時間、60時間、5、7、及び10日にわたり、静止条件下で、プールされたヒト血漿(CRYOcheck, PrecisionBiologic社)700μLと共にインキュベートした。各インキュベーション期間後での血漿中の抗Xa活性を、Atellica機器(Siemens社, Germany)を使用する発色性抗Xaアッセイで測定した。次に、Calibrated Automated Thrombogram(登録商標)(Stago社, Asnieres sur Seine, France)を使用する、プールされたヒト血漿(CRYOcheck, PrecisionBiologic社)中のトロンビンの形成を阻害する各移植片の効力を評価した。この目的のために、移植片を、上記で説明したようにインキュベートし、次いで、新鮮なプール血漿(CRYOcheck)300μLと共にウェルに入れた。次いで、トロンビン生成を、PPP試薬(Stago社、参照86193)により、37℃で、製造業者に推奨されるように測定した。
【0166】
比較系C1~C6と比較した、本発明の材料でコーティングされた移植片の結果を、それぞれ
図4A~B及び
図4Cに示す。ヘパリンを有しないコントロールパッチは、抗Xa増加を示さない。最長の抗Xa効果を、PEI-(Hep/Chi)
5-Hep末端(1)で観測した。
図4A及び
図4B間の本発明(コーティング1)の結果のばらつきは、様々な時点及び様々な一連の実験に起因する。
【0167】
図4Aは、キトサン類似体TMCを使用するコーティング(本発明のコーティング3)が、キトサンを有するもの(本発明のコーティング1)と同様の抗凝固特性を有したことを示す。
【0168】
本発明の(PSS/PAH)ベースのコーティング(本発明のコーティング4及び5)も、上記で説明したようにePTFEパッチに適用して分析した。
図5は、(PSS/PAH)ベースのコーティングもePTFE上で抗凝固特性を有しており、この特性は、接着剤としてのPEI副層の存在に依存しなかったことを示す。
【0169】
これらのデータから、本発明に係る材料は、全ての時点でトロンビンが正常に生成されるコントロールと比較して、最大5又は7日までのヒト血漿中でのトロンビンの持続的な阻害を示すことを明確に理解し得る。注目すべきことに、トロンビン生成の阻害は、上清血漿中での抗Xaアッセイで評価した場合に、インキュベーションの最初の24時間の間での抗凝固剤(ヘパリン)の初期放出にもかかわらず、本発明の全てのサンプルで有効であった。
【0170】
c)細胞接着
内皮細胞及び平滑筋細胞の動員における血管移植片の性能を、下記で説明するインビトロでの細胞増殖アッセイで評価した。
【0171】
図6に示すように、平滑筋細胞(SMC)及び内皮細胞(EC)との5日間のインキュベーション後に、細胞数を半定量的に計数した。SMC増殖は、血管壁を再配置してECM形成を引き起こすために、分解性材料では重要である。ヘパリンは、LbLシステム1に関して
図6で示されるように、この活性を低下させることが既知である。
【0172】
これらの結果は、多層ポリマーLbLコーティングが、外側の層対としてポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)の交互層の少なくとも1対を含むヘパリン化基材を含み、且つヘパリンが、このヘパリン化基材への末端コンジュゲーションにより官能化されている場合に、内皮細胞が、多層ポリマーLbLコーティングに迅速に付着し得ることを裏付ける。
【0173】
この発見は、本発明の材料により迅速で完全な内皮化を得ることができ、この材料は、新血管へのインビボ変換を誘導し得る、表面が血液と接触する本発明の材料を含む生分解性血管移植片との関連で特に有用であることを裏付ける。
【0174】
まとめると、これらのデータは、血液と接触する生体適合性デバイス(特に、血管移植片)の移植後の凝固及び血栓形成を阻害する本発明の材料の能力を裏付けるが、上述に限定されない。
【0175】
更に、本発明の材料の調製方法は、有利なことに、LbL技術により多層化ポリマーコーティングで均一にコーティングされている生体適合性不織繊維が得られる方法を提供する。この均一性は、光学顕微鏡及び蛍光顕微鏡により示されるだけでなく、本質的に全ての繊維がコーティングされていることを裏付ける強力な抗凝固反応が存在しており、それにより、微小欠陥での凝固事象が防止されているという事実によっても主に裏付けられる。
【0176】
材料のLbLコーティング(本発明の2)は、更に、細胞(特に、内皮細胞)の接着及びその増殖も可能にした(
図6)。最後に、末端官能化(特に、ヘパリンのコンジュゲーション)により、プレトロンビン形成、及びその結果としての血栓形成の遅延に関して、本発明のデバイス(パッチ)の性能が相当に改善された。
【国際調査報告】