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特表2024-505037エミュレートされたターゲットからの、反射からの低減された干渉を伴うエコー信号をエミュレートするシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】エミュレートされたターゲットからの、反射からの低減された干渉を伴うエコー信号をエミュレートするシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20240126BHJP
【FI】
G01S7/40 186
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545336
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(85)【翻訳文提出日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 US2021015483
(87)【国際公開番号】W WO2022164434
(87)【国際公開日】2022-08-04
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514046574
【氏名又は名称】キーサイト テクノロジーズ, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】池本 理絵
(72)【発明者】
【氏名】リー,グレゴリー,エス.
(72)【発明者】
【氏名】キリーン,ナタリー
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AD08
5J070AF01
5J070AK40
(57)【要約】
【課題】システム及び方法は、レーダDUTからのレーダ信号に応答して、エミュレートされたターゲットからのエコー信号をエミュレートする。
【解決手段】システムは、レーダ信号を受信し、レーダ信号の反射部分をレーダ信号の入射方向から離れるように所定の偏向角で方向付けて、レーダDUTが反射部分を受信するのを防止するように構成されたアンテナと、エミュレートされたターゲットまでの距離を示す量だけレーダ信号の周波数からシフトされたRF周波数を有するRF信号を提供し、エミュレートされたエコー信号としてRF信号をレーダDUTに送信するように構成された送受信機とを備える。アンテナパターンは、ピークビームをレーダDUTに方向付けるために所定の偏向角を補償するビームスクイント角でアンテナの垂直入射から離れるように角度付けされたピークビームを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験レーダデバイス(レーダDUT)によって送信されたレーダ信号に応答して、エミュレートされたターゲットから反射されたエコー信号をエミュレートするシステムであって、
前記レーダDUTの近距離場の外側に位置決めされ、前記レーダDUTから前記レーダ信号をオーバー・ジ・エアーで受信するように構成された少なくとも1つのアンテナであって、前記レーダ信号の一部分を反射し、前記レーダ信号の前記反射部分を所定の偏向角で前記レーダ信号の入射方向から離れるように方向付けて、前記レーダDUTが前記レーダ信号の前記反射部分を受信するのを防止するように構成され、ここで、前記入射方向は、前記レーダ信号の波面に対して実質的に垂直である、少なくとも1つのアンテナと、
前記少なくとも1つのアンテナに結合され、前記レーダ信号を受信する送受信機であって、前記受信されたレーダ信号を、前記エミュレートされたターゲットまでの距離を示す量だけ前記レーダ信号のレーダ周波数からシフトされた無線周波数(RF)を有するRF信号を提供する周波数を有する生成された信号と混合し、前記少なくとも1つのアンテナを介してエミュレートされたエコー信号として前記RF信号を前記レーダDUTに送信するように構成されている送受信機と
を備え、
前記少なくとも1つのアンテナは、前記少なくとも1つのアンテナの垂直入射から離れるようにビームスクイント角で角度付けされたピークビームを含むアンテナパターンを有し、前記ビームスクイント角は、前記ピークビームを前記レーダDUTに方向付けるために前記所定の偏向角を補償して、前記レーダ信号を受信し、前記IF信号を送信する、システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つのアンテナは、パッチアレイアンテナを含み、前記パッチアレイアンテナは、前記レーダ信号の前記入射方向からブレーズ角で傾斜されたグランドプレーンミラーを備え、前記所定の偏向角は、前記ブレーズ角の約2倍である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ブレーズ角は、前記スクイント角と同じ値であり、前記スクイント角と反対向きである、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記パッチアレイアンテナは、
少なくとも1つの給電ソースから平行に延在する複数のマイクロストリップと、
前記複数のマイクロストリップに接続され、前記複数のマイクロストリップ全体にわたって平行な行に配置された複数のパッチ要素であって、前記複数の行のうちの隣接する行は、互いに電気角度距離だけオフセットされて、前記隣接する行の間に位相勾配を生成し、前記パッチアレイアンテナの前記ビームスクイント角を提供する、複数のパッチ要素と
を更に備える、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの給電ソースは、不平衡ポートを備える、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの給電ソースは、平衡差動ポートを備える、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つのアンテナは、基板内にめっき済みのエアキャビティを備えるめっき済みのキャビティバックアンテナと、前記エアキャビティが反射器として機能するように前記エアキャビティの上の前記基板上に配置されたダイポールアンテナとを含み、前記エアキャビティのキャビティ物理的中心に対する前記ダイポールアンテナの位置は、前記ダイポールアンテナの前記アンテナパターンを変化させて、前記キャビティバックアンテナの前記ビームスクイント角を提供する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記ビームスクイント角は、前記キャビティ物理的中心からの前記ダイポールアンテナのアンテナ位相中心のオフセット位置から反対方向にある、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記所定の偏向角及び前記スクイント角は、前記レーダ信号の前記入射方向に対して実質的に垂直な平面内にある、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記所定の偏向角及び前記スクイント角は、前記レーダ信号の前記入射方向に対して実質的に水平な平面内にある、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
被試験レーダデバイス(レーダDUT)によって送信されたレーダ信号に応答して、エミュレートされたターゲットから反射されたエコー信号をエミュレートする方法であって、
レーダターゲットシミュレータ(RTS)の少なくとも1つのアンテナを、前記レーダDUTによって送信されるレーダ信号の入射方向に対してブレーズ角で角度付けすることであって、前記少なくとも1つのアンテナは、前記レーダDUTの近距離場の外側にあることと、
前記少なくとも1つのアンテナのアンテナパターンを調整して、前記アンテナパターンのピークビームを前記少なくとも1つのアンテナの垂直入射から離れるようにビームスクイント角で角度付けすることと、
前記調整されたアンテナパターンを使用して前記レーダDUTからオーバー・ジ・エアーでレーダ信号を受信し、前記少なくとも1つのアンテナの前記ブレーズ角に起因して所定の偏向角で前記レーダ信号の前記入射方向から離れるように前記レーダ信号の一部分を反射して、前記レーダDUTが前記レーダ信号の前記反射部分を受信するのを防止することと、
前記受信されたレーダ信号を、前記エミュレートされたターゲットまでの距離を示す量だけ前記レーダ信号のレーダ周波数からシフトされた無線周波数(RF)を有するRF信号を提供する周波数を有するローカル生成信号と混合することと、
前記調整されたアンテナパターンを使用して、前記少なくとも1つのアンテナを介してエミュレートされたエコー信号として前記RF信号を前記レーダDUTに送信することと
を含み、
前記ビームスクイント角は、前記ピークビームを前記レーダDUTに方向付けるために前記所定の偏向角を補償して、前記レーダ信号を受信し、前記RF信号を送信する方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのアンテナは、パッチアレイアンテナを含み、前記パッチアレイアンテナは、前記レーダ信号の前記入射方向から前記ブレーズ角で傾斜されたグランドプレーンミラーを有し、前記所定の偏向角は、前記ブレーズ角の約2倍である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ブレーズ角は、前記スクイント角と同じ値であり、前記スクイント角と反対向きである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのアンテナは、基板内にめっき済みのエアキャビティを有するめっき済みのキャビティバックアンテナと、前記エアキャビティが反射器として機能するように前記エアキャビティの上の前記基板上に配置されたダイポールアンテナとを含み、前記エアキャビティのキャビティ物理的中心に対する前記ダイポールアンテナの位置は、前記ダイポールアンテナの前記アンテナパターンを変化させて、前記キャビティバックアンテナの前記ビームスクイント角を提供する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ビームスクイント角は、前記キャビティ物理的中心からの前記ダイポールアンテナのアンテナ位相中心のオフセット位置から反対方向にある、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記所定の偏向角及び前記スクイント角は、前記レーダ信号の前記入射方向に対して実質的に垂直な平面内にある、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記所定の偏向角及び前記スクイント角は、前記レーダ信号の前記入射方向に対して実質的に水平な平面内にある、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
被試験レーダデバイス(レーダDUT)の近距離場の外側で前記レーダDUTによって送信されたレーダ信号を受信し、前記レーダ信号に応答して、エミュレートされたターゲットから反射されたエミュレートされたエコー信号を前記レーダDUTに送信するアンテナシステムであって、
少なくとも1つの給電ソースから平行に延在する複数のマイクロストリップと、
前記複数のマイクロストリップに接続された複数の整合フィードラインと、
前記複数のマイクロストリップに接続され、前記複数のマイクロストリップ全体にわたって平行な行に配置された複数のパッチ要素と、
前記複数のパッチ要素のためのグランドプレーンであって、少なくとも該グランドプレーンは、所定の偏向角で前記レーダ信号の入射方向から離れるように前記レーダ信号の一部分を反射するように角度付けされており、前記レーダDUTが前記レーダ信号の前記反射部分を受信するのを防止するものであり、ここで、前記入射方向は、前記レーダ信号の波面に対して実質的に垂直である、グランドプレーンと
を備え、
前記アンテナシステムのアンテナパターンは、前記グランドプレーンの垂直入射から離れるようにビームスクイント角で角度付けされたピークビームを含み、前記ビームスクイント角は、前記ピークビームを前記レーダDUTに方向付けるために前記所定の偏向角を補償して、前記レーダ信号を受信し、前記エミュレートされたエコー信号を送信する、アンテナシステム。
【請求項19】
前記スクイント角は、前記レーダ信号の前記入射方向に対して実質的に水平面内にあり、前記複数の整合フィードラインのそれぞれの長さの関数である、請求項18に記載のアンテナシステム。
【請求項20】
前記スクイント角は、前記レーダ信号の前記入射方向に対して実質的に垂直な平面内にあり、前記複数のマイクロストリップのそれぞれの上の隣接するパッチ要素間の長さの関数である、請求項18に記載のアンテナシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
先進運転支援システム(ADAS:Advanced driver-assistance system)及び車両用の自律運転システムは、例えば、ミリメートル波レーダ信号を含む検出及びレンジング(ranging:測距)電磁信号を使用する検出及びレンジングシステムに依拠している。レーダ信号は、前方衝突及び後方衝突を警告するために、例えば適応走行制御(adaptive cruise control)及び自律駐車を実施するために、そして究極的には、街路及び幹線道路上で自律運転を実行するために使用される。ADASは、低コスト、及び夜間又は厳しい天候条件(例えば、霧、降雨、降雪、粉塵)において動作する能力を有するので有望である。
【0002】
従来の自動車レーダシステムは、典型的には、自車両(ego vehicle)上に複数の送信機及び受信機を有する。レーダシステムが配備され得る実際の運転環境は、大きく変動する可能性があり、多くのそのような運転環境は、複雑である場合がある。例えば、実際の運転環境は、多数の物体を含んでいて、レーダ信号に応答するエコー信号に影響を及ぼす複雑な反射、回折及び多重反射特性を有するものもある。エコー信号を誤って検知及び/又は解釈(つまり、検知又は解釈あるいはそれらの両方を)する直接の結果として、誤警報若しくは不適切な反応がトリガされるか、又はトリガされるべき警告若しくは反応がトリガされない場合があり、これにより、ひいては衝突に至る可能性がある。したがって、レーダシステムの信頼性のある試験は重要である。
【0003】
しかしながら、ADAS及び自律運転システムの路上試験には問題があり、コストがかかる可能性がある。自動化システムの路上試験を許可している地方自治体はほとんどない。したがって、路上試験は、運転シナリオに関して多様性を提供するものではない。また、路上試験を許可している地方自治体は、通常、自動化システムが重大なエラーを起こした場合に備えて運転席に緊急ドライバを配置すること、及び緊急ドライバの行動を監視し、他の観察を記録するのを助ける別の人を助手席に配置することを義務付けている。これにより、路上試験には追加の費用がかかる。そのため、自動車メーカー及びレーダモジュールベンダーは、地方自治体の許可を得ることなく多種多様な運転シナリオをシミュレートし、緊急ドライバ及び同乗者のコストを削減するために、電子的に運転状況をエミュレートすることに意欲的である。
【0004】
一般的に、複数のエミュレートされたターゲットから反射されたエコー信号をエミュレートする従来のシステムとして、問題の物理特性をエミュレートしようと試みるシミュレータが挙げられる。例えば、従来のシミュレータは、被試験レーダから送信されたレーダ信号を受信し、このレーダ信号を、エミュレートされたターゲットまでのレンジに起因して生じる伝搬遅延に対応する量だけ遅延させ、このレンジ及びターゲットのレーダ反射断面積(RCS:radar cross section)を考慮するようにレーダ信号の振幅をスケーリングし、その後、スケーリングされかつ遅延された信号を被試験レーダに再送信することができ、それにより、被試験レーダからターゲットまでのレーダ信号の送信、及び対応するエコー信号の反射をエミュレートすることができる。
【0005】
しかしながら、従来のシミュレータでは、エミュレートされたレーダターゲットからの戻り信号(エミュレートされたエコー信号)に加えて、「ゴーストターゲット(ghost target)」と称される場合がある不所望の外部信号が発生する。例えば、シミュレータのピクセルの前に物理的に配置された受信/送信アンテナは、完全な吸収体ではないため、レーダ信号の一部分を反射する。反射部分は、アンテナ自体のセットアップ範囲及び到来角(AoA:angles of arrival)において非ゼロのRCSを示す。例えば、パッチアレイアンテナでは、特に、グランドプレーンを使用することが必要であり、これが、望ましくないRCSの主な原因となっている。ゴーストターゲットは、セットアップ範囲(被試験レーダから1メートル未満とすることができる)にエミュレートされたレーダターゲットが存在するという誤った結論付けを、被試験レーダにさせる可能性があり、あるいは、エミュレートされたレーダターゲット自体の適切な検出、及び/又は検出されたエミュレート済みレーダターゲットに応答した自車両の制御(つまり、そのような検出又は制御あるいはそれらの両方)に干渉する可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
例示的な実施形態は、添付の図面と併せて読むと、以下の詳細な説明から最も深く理解される。種々の特徴は必ずしも縮尺通りに描かれていないことを強調したい。実際には、検討を明確にするために、寸法が任意に拡大又は縮小される場合がある。適用可能で、実用的な場合にはいつでも、同じ参照番号が同じ要素を指している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】代表的な実施形態による、反射からの低減された干渉を伴う被試験レーダデバイス(DUT:device under test)のエコー信号をエミュレートするシステムを示す簡略ブロック図である。
図2】代表的な実施形態による、レーダDUTのエコー信号をエミュレートするシステム内のレーダターゲットシミュレータ(RTS:radar target simulator)(例えば、第1のRTS121)のパッチアレイアンテナの簡略ブロック図である。
図3A】代表的な実施形態による、水平ビームスクイントのためのRTSの不平衡パッチアレイアンテナの一例の簡略化された概略図である。
図3B】代表的な実施形態による、水平ビームスクイント(horizontal beam squinting)のための整合回路(matching circuit)の実施態様を示す、図3Aの不平衡パッチアレイアンテナ(unbalanced patch array antenna)の一部分の簡略ブロック図である。
図4A】代表的な実施形態による、水平ビームスクイントのためのRTSの平衡パッチアレイアンテナ(balanced patch array antenna)の一例の簡略化された概略図である。
図4B】代表的な実施形態による、水平ビームスクイントのための整合回路の実施態様を示す、図4Aの平衡パッチアレイアンテナの一部分の簡略ブロック図である。
図5A】代表的な実施形態による、垂直ビームスクイントのためのRTSの不平衡パッチアレイアンテナの一例の簡略化された概略図である。
図5B】代表的な実施形態による、垂直ビームスクイントのための整合回路の実施態様を示す、図5Aの不平衡パッチアレイアンテナの一部分の簡略ブロック図である。
図6A】代表的な実施形態による、垂直ビームスクイントのためのRTSの平衡パッチアレイアンテナの一例の簡略化された概略図である。
図6B】代表的な実施形態による、垂直ビームスクイントのための整合回路の実施態様を示す、図6Aの平衡パッチアレイアンテナの一部分の簡略ブロック図である。
図7】代表的な実施形態による、低減され干渉を伴うたエコー信号をエミュレートするシステムを示す簡略ブロック図である。
図8】代表的な実施形態による、反射からの低減された干渉を伴うエコー信号をエミュレートするための図7の代表的なRTSの簡略ブロック図である。
図9A】代表的な実施形態による、水平又は垂直ビームスクイントのためのRTSのキャビティバックアンテナ(cavity backed antenna)の一例の簡略平面図である。
図9B】代表的な実施形態による、図9Aのキャビティバックアンテナの簡略断面図である。
図10】代表的な実施形態による、反射からの低減された干渉を伴うエコー信号をエミュレートする方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の詳細な説明では、説明のためであり、限定はしないが、本教示による一実施形態を完全に理解してもらうために、具体的な詳細を開示する代表的な実施形態が記述される。代表的な実施形態の説明を不明瞭にするのを避けるために、既知のシステム、デバイス、材料、動作方法及び製造方法の説明は省略される場合がある。それにもかかわらず、当業者の理解の範囲内にあるシステム、デバイス、材料及び方法は、本教示の範囲内にあり、代表的な実施形態に従って使用される場合がある。本明細書において使用される用語は特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものでないことは理解されたい。定義される用語は、定義された用語の科学技術的な意味に加えて、本教示の技術分野において一般に理解され、受け入れられるような意味を有する。
【0009】
種々の要素又は構成要素を説明するために、本明細書において第1の、第2の、第3の等の用語が使用される場合があるが、これらの要素又は構成要素はこれらの用語によって限定されるべきではないことは理解されたい。これらの用語は、或る要素又は構成要素を別の要素又は構成要素から区別するためにのみ使用される。したがって、以下に論じられる第1の要素又は構成要素は、本開示の教示から逸脱することなく、第2の要素又は構成要素と呼ぶことができる。
【0010】
本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定することを意図するものではない。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、「一つの(a、an)」及び、「その(the)」又は「前記(the)」という単数形の用語は、文脈上、他の意味として明確に指示される場合を除いて、単数形及び複数形の両方を含むことを意図している。さらに、「備える(comprises、comprising)」という用語及び/又は類似の用語(つまり、「備える(comprises、comprising)」という用語又は類似の用語あるいはそれらの両方)は、本明細書において使用されるときに、言及される特徴、要素及び/又は構成要素(つまり、特徴、要素、又は構成要素、あるいはそれらの全て)の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、要素、構成要素及び/又はそのグループ(つまり、他の特徴、要素、構成要素、又はそのグループ、あるいはそれらの全て)の存在又は追加を除外しない。本明細書において使用される場合、「及び/又は(and/or)」という用語は、関連して列挙される項目のうちの1つ以上の項目のありとあらゆる組み合わせを含む。
【0011】
別段の言及がない限り、或る要素又は構成要素が、別の要素又は構成要素に「接続される」、「結合される」又は「隣接する」と言われるとき、その要素又は構成要素を当該別の要素又は構成要素に直接接続又は結合することができるか、又は介在する要素又は構成要素が存在する場合があることは理解されよう。すなわち、これらの用語及び類似の用語は、2つの要素又は構成要素を接続するために、1つ以上の中間にある要素又は構成要素が利用される場合がある事例を含む。しかしながら、或る要素又は構成要素が、別の要素又は構成要素に「直接接続される」と言われるとき、これは、2つの要素又は構成要素が、任意の中間にある又は介在する要素又は構成要素を用いることなく、互いに接続される事例のみを含む。
【0012】
本開示は、それゆえ、その種々の態様、実施形態及び/又は具体的な特徴(つまり、態様、実施形態、又は具体的な特徴、あるいはそれらの全て)若しくはサブ構成要素のうちの1つ以上を通して、以下に具体的に言及されるような利点のうちの1つ以上を明らかにすることを意図している。説明のためであり、限定はしないが、本教示による一実施形態を完全に理解してもらうために、具体的な詳細を開示する例示的な実施形態が記述される。しかしながら、本明細書において開示される具体的な詳細から逸脱するが、本開示と矛盾しない他の実施形態も依然として、添付の特許請求の範囲内にある。さらに、例示的な実施形態の説明を不明瞭にしないように、既知の装置及び方法の説明は省略される場合がある。そのような方法及び装置は、本開示の範囲内にある。
【0013】
一般的に、自動車又は他の移動プラットフォーム等の被試験車両上に配置された被試験レーダデバイス(DUT)からのレーダ信号送信に応答して、エミュレートされたレーダターゲットからのエコー信号をエミュレートするドライブエミュレーションシステムが提供される。実施形態は、反射されたレーダ信号をレーダDUTから離れるように方向付けることによって、送信・受信アンテナ及び他のシステムハードウェアから反射されたレーダ信号等のゴーストターゲットからの干渉を最小化する。これにより、レーダDUTが、反射されたレーダ信号がエミュレートされたレーダターゲットを表すと誤って判定することを防止する。
【0014】
代表的な実施形態によれば、レーダDUTによって送信されたレーダ信号に応答して、エミュレートされたレーダターゲットから反射されたエコー信号をエミュレートするシステムが提供される。エコー信号エミュレーションシステムは、レーダDUTから無線(over-the-air(オーバー・ジ・エアー))でレーダ信号を受信するように構成されたアンテナを備える。アンテナのそれぞれは、レーダ信号の一部分を反射し、レーダ信号の反射部分をレーダ信号の入射方向から所定の偏向角で離れるように方向付けて、レーダDUTがレーダ信号の反射部分を受信するのを防止するように構成される。入射方向は、レーダDUTによって送信されるレーダ信号の波面に対して実質的に垂直である。例えば、アンテナは、パッチアレイアンテナであってもよく、そのそれぞれは、アレイに配置されたパッチ要素と、グランドプレーンミラーとを備え、アレイは、そのグランドプレーンとともに、レーダ信号の入射方向からブレーズ角(blaze angle)で傾斜される。当然ながら、本教示の範囲から逸脱することなく、他のタイプのアンテナが組み込まれてもよい。
【0015】
エコー信号エミュレーションシステムは、レーダ信号を受信するためにアンテナに結合された送受信機を更に備え、各送受信機は、受信されたレーダ信号を、エミュレートされたターゲットまでの距離を示す量だけレーダ信号のレーダ周波数からシフトされた無線周波数(RF:radio frequency)を有するRF信号を出力として提供する周波数を有するローカル生成信号と混合し、アンテナを介して該RF信号をエミュレートされたエコー信号としてレーダDUTに送信するように構成される。各アンテナは、ビームスクイント角でアンテナの垂直入射(normal incidence)から離れるように角度付けされたピークビームを含むアンテナパターンを有し、レーダ信号を受信し、RF信号を送信するために、ビームスクイント角により、ピークビームをレーダDUTに方向付けるために所定の偏向角が補償される。この場合、ビームスクイント角は、ブレーズ角と同じ値であるが、反対方向を向いており、所定の偏向角は、ブレーズ角の約2倍である。
【0016】
別の代表的な実施形態によれば、レーダDUTによって送信されたレーダ信号に応答して、エミュレートされたターゲットから反射されたエコー信号をエミュレートする方法が提供される。本方法は、RTSの少なくとも1つのアンテナを、レーダDUTによって送信されるレーダ信号の入射方向に対してブレーズ角で角度付けすることであって、少なくとも1つのアンテナは、レーダDUTの近距離場の外側にある(例えば、中距離場又は遠距離場にある)ことと、少なくとも1つのアンテナのアンテナパターンを調整して、アンテナパターンのピークビームを少なくとも1つのアンテナの垂直入射からビームスクイント角で角度付けすることと、調整されたアンテナパターンを使用してレーダDUTからオーバー・ジ・エアーでレーダ信号を受信し、少なくとも1つのアンテナのブレーズ角に起因して所定の偏向角でレーダ信号の入射方向から離れるようにレーダ信号の一部分を反射して、レーダDUTがレーダ信号の反射部分を受信するのを防止することと、受信されたレーダ信号を、エミュレートされたターゲットまでの距離を示す量だけレーダ信号のレーダ周波数からシフトされたRF周波数を有するRF信号を提供する周波数を有するローカル生成信号と混合することと、調整されたアンテナパターンを使用して、少なくとも1つのアンテナを介してエミュレートされたエコー信号としてRF信号をレーダDUTに送信することとを含む。レーダ信号を受信し、RF信号を送信するために、ビームスクイント角により、ピークビームをレーダDUTに方向付けるために所定の偏向角が補償される。
【0017】
図1は、代表的な実施形態による、干渉が低減された(例えば、ゴーストターゲットが除去された)レーダDUTのエコー信号をエミュレートするシステムを示す簡略ブロック図である。
【0018】
図1を参照すると、システム100は、例えば無響室等の試験室内の被試験レーダ又はレーダDUT105からのセットアップ範囲Rに位置する複数のレーダターゲットシミュレータ(RTS)を含む。セットアップ範囲Rは、レーダ信号を受信し、対応するエミュレートされたエコー信号を送信するために、レーダDUT105の近距離場(near-field)の外側、例えば、中距離場(mid-field)又は遠距離場(far-field)の範囲にある。例えば、セットアップ範囲Rは、レーダDUT105から少なくとも約0.75メートルである。複数のRTSは、代表的な第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123を含んでおり、これらは、互いに対して平面アレイに配置される。しかしながら、第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123は、本教示の範囲から逸脱することなく、非平面的に配置されてもよいことが理解される。例えば、その内容全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする、2021年1月25日に出願されたGregory S. Lee等による米国特許出願第17/157,160号に記載されているように、第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123は、例えば、レーダDUT105が曲率中心に位置決めされる円筒形又は球形アレイ等の湾曲アレイを形成することができる。
【0019】
第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123のそれぞれは、ハードウェア及びソフトウェアを含み、該ハードウェア及びソフトウェアは、レーダDUT105からレーダ信号を受信し、受信したレーダ信号に応答して、シーンシミュレーション(scene simulation)においてエミュレートされたレーダターゲットから反射されたエミュレートされたエコー信号(戻り信号)を生成するように構成される。例えば、第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123のそれぞれは、図3を参照しながら以下で説明するように、1つ以上のアンテナと、送受信機と、信号生成器とを含むことができるが、本教示の範囲から逸脱することなく、任意のタイプの互換性のあるRTSを組み込むことができる。1つ以上のアンテナは、例えば、パッチアレイアンテナであってもよく、そのパッチアレイアンテナのそれぞれは、2次元アレイに配置されたパッチ要素を含む。例示的な実施形態において、第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123のそれぞれは、レーダDUT105からレーダ信号を受信するための受信(Rx)パッチアレイアンテナと、エミュレートされたエコー信号をレーダDUT105に送信(再送信)するための送信(Tx)パッチアレイアンテナとを含むことができる。第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123のそれぞれの少なくとも一部分は、図1に示されるように、実質的に平坦な面を呈すると仮定される。例えば、Rxパッチアレイアンテナ及びTxパッチアレイアンテナのそれぞれは、実質的に平坦な面を呈するグランドプレーンミラーを含む。
【0020】
レーダDUT105は、レーダ波面130によって示されるレーダ信号を、レーダ波面130に垂直な入射方向135に送信する。第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123は、ブレーズドアレイ(blazed array)で配置されており、これは、対応する実質的に平坦な面がレーダ信号の入射方向135から離れるように角度付けされるように、わずかなブレーズ角θで傾斜されている(傾けられている)ことを意味する。第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123は、レーダDUT105からのレーダ信号の全てを吸収するわけではないため、例えば、キャリア周波数におけるレーダ信号の一部分は、反射波面140に垂直な第2及び第nのRTS121、122及び123からの垂直入射145において、反射波面140によって示される第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123から反射(散乱)されることになる。レーダ信号の反射部分は、図示の構成ではブレーズ角θの2倍(2θ)に等しい所定の偏向角φで、レーダ信号の入射方向135から離れるように方向付けられる。ブレーズ角θは、レーダ信号の反射部分がレーダDUT105によって受信されないか又は別様に検出されないような十分な大きさであり、これにより、反射部分に基づくゴーストターゲットの出現が防止される。例えば、セットアップ範囲Rは、第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123を中距離場又は遠距離場に配置するので、ブレーズ角θは、比較的小さく、例えば、約5度~約25度の範囲内であり得る。ブレーズ角θの値は、以下に説明するように、それぞれのアンテナパターンのピークビームがスクイントされ得る角距離にも依存する。
【0021】
第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123のそれぞれが1つ以上のパッチアレイアンテナを含む場合、レーダ信号の反射部分は、上述したように、グランドプレーンから反射する。しかし、反射部分は、パッチ要素、パッチ要素が配置された誘電体の上面、不完全なRTSレドーム等、グランドプレーンに平行な全ての表面からも反射する。
【0022】
第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123を傾斜させることの欠点は、対応するアンテナのそれぞれのアンテナパターンが同様に傾斜されるため、レーダDUT105がもはやこれらのアンテナパターンのピークビーム内に位置決めされない可能性があることである。すなわち、例示のために第1のRTS121を参照すると、アンテナ(複数の場合もある)が垂直入射145においてピーク指向性を有する場合には、第1のRTS121の傾斜は、レーダDUT105からのレーダ信号の受信及び/又はエミュレートされたエコー信号のレーダDUT105への送信(つまり、レーダDUT105からのレーダ信号の受信、又はエミュレートされたエコー信号のレーダDUT105への送信、あるいはそれらの両方)に関して利得の損失をもたらす。例えば、一方向の利得低減が約2dBである場合、受信方向及び送信方向の双方において信号強度が減少するため、正味のエミュレーション損失は約4dBである。
【0023】
この望ましくない結果を補償するために、ビームスクイントを使用して、第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123のそれぞれのアンテナパターンが修正される。ビームスクイントとは、アンテナの垂直入射から離れた角度でアンテナパターンの指向性を意図的にピーキング(peaking)することである。図示の実施形態において、アンテナパターンのピークビーム125が第1のRTS121内のアンテナの垂直入射145から離れるようにビームスクイント角θで角度付けされるように第1のRTS121に対してビームスクイントが実行されており、それによって第1のRTS121のブレーズ角θが補償され、最終的にレーダ信号の反射部分の所定の偏向角φが補償される。ビームスクイント角θは、レーダ信号を受信し、エミュレートされたエコー信号を送信するために、ピークビーム125をレーダDUT105へ方向付ける。一実施形態において、ビームスクイント角θは、補償方向のブレーズ角θに等しい。ピークビーム125は、第1のRTS121が受信と送信の双方のために1つのアンテナを有するか、又は上述したように別個のRxアンテナとTxアンテナとを有するかにかかわらず、受信アンテナパターンと送信アンテナパターンとの双方を表す。したがって、第1のRTS121は、ゴーストターゲットの出現を依然として防止しながら、レーダDUT105の方向に良好に受信及び送信(再送信)する。図示の構成では、第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123は、同じアンテナパターンを有し、同じ量だけ傾斜していると仮定している。したがって、第1のRTS121、第2のRTS122、及び第nのRTS123のビームスクイントは同じになる。
【0024】
第1のRTS121のアンテナがパッチアレイアンテナである場合、ビームスクイントは、パッチ要素の隣接する行の間の戦略的位相関係を調整することによって実行され、所望の方向における放射を増加させることができる。位相関係は、例えば、ピークビーム125を操向(steer)するために、位相シフタを使用して制御することができ、又は位相関係を固定されたままとすることができる。説明のために、パッチアレイアンテナの位相関係は固定されていると仮定している。
【0025】
図2は、代表的な実施形態による、レーダDUTのエコー信号をエミュレートするシステム内のRTS(例えば、第1のRTS121)のパッチアレイアンテナの簡略ブロック図である。
【0026】
図2を参照すると、パッチアレイアンテナ221は、3つの代表的なパッチ要素、すなわち、第1のパッチ要素231、第2のパッチ要素232、第3のパッチ要素233、及び第nのパッチ要素234を、説明のためにアレイのパッチの単一の行に含むように示されている。パッチアレイアンテナ221は、本教示の範囲から逸脱することなく、種々のサイズアレイで配置され得る、3つよりも少ない又は3つよりも多いパッチ要素を含み得ることを理解されたい。また、例示の目的のために、第1のパッチ要素231、第2のパッチ要素232、第3のパッチ要素233、及び第nのパッチ要素234は、水平配置にあり、所定の距離dだけ分離される。
【0027】
第1のパッチ要素231は、受信又は送信された信号の入力位相である位相φを有し、同じ行内の各連続する隣接パッチ要素は、Δφの位相変化が繰り返される構成である。すなわち、第2のパッチ要素232は位相φ+Δφを有し、第3のパッチ要素233は位相φ+2Δφを有し、第3のパッチ要素233は位相φ+(n-1)Δφを有する。Δφの位相変化がゼロである(すなわち、全てのパッチ要素が同じ位相を有する)場合には、パッチアレイアンテナ221のピークビームは、矢印240によって示されるように、パッチアレイアンテナ221のグランドプレーンミラー210に対して実質的に垂直(ブロードサイド)であり、その場合、ピークビームのスクイントは存在しない。Δφの位相変化が非ゼロである場合には、パッチアレイアンテナ221のピークビームは、式(1)に従ってビームスクイント角θだけスクイントされる。
【数1】
【0028】
式(1)において、λは、受信されたレーダ信号又は送信されたエミュレートされたエコー信号の中心周波数の波長であり、dは、アレイの同じ行内の隣接するパッチ要素間の距離である。位相変化Δφが(図2の例に示されるように)正である場合、ビームスクイント角θもまた、矢印245によって示されるように正(ブロードサイド矢印240の右側)である。位相変化Δφが負である場合、ビームスクイント角θも負(ブロードサイド矢印240の左側)である。
【0029】
一実施形態において、パッチ要素は、1つ以上のフィードラインから延在する平行なマイクロストリップに配置され、マイクロストリップは列を提供し、対応するマイクロストリップ上で互いに隣接するパッチ要素はパッチアレイアンテナの行を提供する。異なるマイクロストリップにおける位相変化は、異なるマイクロストリップにそれぞれ給電する異なる線路長を有する整合ネットワークによって実施することができる。
【0030】
図3Aは、代表的な実施形態による、水平ビームスクイントのためのRTSの不平衡パッチアレイアンテナの一例の簡略化された概略図である。図3Bは、代表的な実施形態による、水平ビームスクイントのための整合回路の実施態様を示す、図3Aの不平衡パッチアレイアンテナの一部分の簡略ブロック図である。
【0031】
図3Aを参照すると、不平衡パッチアレイアンテナ300は、フィードライン310と、整合回路350と、4つのマイクロストリップ341、342、343、及び344に沿って整合回路350に接続されたパッチ要素P11~P45とを含む。パッチ要素P11~P45は、説明のために、4つの平行な列C1、C2、C3、及びC4(マイクロストリップ341~344に対応する)と、5つの平行な行R1、R2、R3、R4、及びR5とを備えるアレイ形式で配置される。当然ながら、本教示の範囲から逸脱することなく、代替のアレイサイズを組み込むことができる。フィードライン310は、不平衡パッチアレイアンテナ300に不平衡信号を供給する。フィードライン310は、マイクロストリップ341~344にそれぞれ接続する整合フィードラインを含む整合回路350に接続する。整合フィードラインは、以下に説明するように、異なる長さを有し、異なる位相を提供する。同じ行の隣接するパッチ要素(例えば、行R2のパッチ要素P32及びP42)は、距離dだけ等しく分離され、同じ列の隣接するパッチ要素(例えば、列C4のパッチ要素P41及びP42)は、長さlだけ等しく分離されている。長さlは、ブロードサイドビームピークを提供するように構成された不平衡パッチアレイアンテナの場合と同じである。したがって、不平衡パッチアレイアンテナ300によって提供される水平スクイントは、整合回路350によってマイクロストリップ341~344に提供される異なる位相の関数である。
【0032】
図3Bを参照すると、整合回路350は、列C1、C2、C3、及びC4にそれぞれ対応するマイクロストリップ341~344に接続された複数の位相シフタを含む。図示の実施形態において、不平衡フィードライン310は、任意の位相φを提供する第1の位相シフタ351と、位相変化2Δφを有する任意の位相φを提供する第2の位相シフタ352(φ+2Δφ)とに分割される。第1の位相シフタ351は、位相φを提供する第3の位相シフタ353と、調整された位相φ+Δφを提供する第4の位相シフタ354とに接続される。第2の位相シフタ352は、同様に、位相φを提供する第5の位相シフタ355と、調整された位相φ+Δφを提供する第6の位相シフタ356とに接続される。第1の位相シフタ351~第6の位相シフタ356のそれぞれによって提供される位相及び/又は位相調整(つまり、位相又は位相調整あるいはそれらの両方)は、上述したように、整合回路350内の整合フィードラインのそれぞれのライン長の関数である。これらのライン長は、図3Aにおいて、第1の位相シフタ351~第6の位相シフタ356に対応するようにラベル付けされた破線の楕円によって示されている。
【0033】
図3A及び図3Bに示される代表的な実施形態において、不平衡パッチアレイアンテナ300のピークビームは、例えば図2のように、パッチ要素P11~P45の列C1~C4が左から右に増加する総位相調整(整合ラインの増加する長さ)を有するので、スクイント角だけ右にスクイントされる(正のスクイント)。代替的に、不平衡パッチアレイアンテナ300のピークビームは、列C1~C4の合計位相調整を右から左に増加させることによって、スクイント角だけ左にスクイントされ得る(負のスクイント)。一般的に、いずれのスクイント方向についても、隣接する列C1~C4間の位相調整量Δφが大きいほど、結果として得られるスクイント角は大きくなる。
【0034】
図4Aは、代表的な実施形態による、水平ビームスクイントのためのRTSの平衡パッチアレイアンテナの一例の簡略化された概略図である。図4Bは、代表的な実施形態による、水平ビームスクイントのための整合回路の実施態様を示す、図4Aの平衡パッチアレイアンテナの一部分の簡略ブロック図である。
【0035】
図4Aを参照すると、平衡パッチアレイアンテナ400は、フィードライン411及び412と、整合回路450と、4つのマイクロストリップ341、342、343及び344に沿って整合回路450に接続されたパッチ要素P11~P45とを含む。フィードライン411及び412は、平衡パッチアレイアンテナ400に差動信号を供給する。フィードライン411及び412は、それぞれマイクロストリップ341~344に接続する整合フィードラインを含む整合回路450に接続する。図3A及び図3Bと同様に、平衡パッチアレイアンテナ400によって提供される水平スクイントは、整合回路450によってマイクロストリップ341~344に提供される異なる位相の関数である。
【0036】
図4Bを参照すると、整合回路450は、列C1、C2、C3、及びC4にそれぞれ対応するマイクロストリップ341~344に接続された複数の位相シフタを含む。図示の実施形態において、平衡フィードライン411は、任意の位相φを提供する第1の位相シフタ451に接続し、平衡フィードライン412は、差動信号を考慮して位相変化2Δφ+180度を有する任意の位相φを提供する第2の位相シフタ452(φ+2Δφ+180度)に接続する。第1の位相シフタ451は、位相φを提供する第3の位相シフタ453と、調整された位相φ+Δφを提供する第4の位相シフタ454とに接続される。第2の位相シフタ452は、同様に、位相φを提供する第5の位相シフタ455と、調整された位相φ+Δφを提供する第6の位相シフタ456とに接続される。第1の位相シフタ451~第6の位相シフタ456のそれぞれのライン長は、第1の位相シフタ451~第6の位相シフタ456に対応するようにラベル付けされた破線の楕円によって図4Aに示されている。
【0037】
図4A及び図4Bに示す代表的な実施形態において、平衡パッチアレイアンテナ400のピークビームは、パッチ要素P11~P45の列C1~C4が左から右に増加する位相調整を有するため、スクイント角だけ右にスクイントされる(正のスクイント)。代替的に、平衡パッチアレイアンテナ400のピークビームは、列C1~C4の位相調整を右から左に増加させることによって、スクイント角だけ左にスクイントされ得る(負のスクイント)。
【0038】
図5Aは、代表的な実施形態による、垂直ビームスクイントのためのRTSの不平衡パッチアレイアンテナの一例の簡略化された概略図である。図5Bは、代表的な実施形態による、垂直ビームスクイントのための整合回路の実施態様を示す、図5Aの不平衡パッチアレイアンテナの一部分の簡略ブロック図である。
【0039】
図5Aを参照すると、不平衡パッチアレイアンテナ500は、フィードライン510と、整合回路550と、4つのマイクロストリップ541、542、543、及び544に沿って整合回路550に接続されたパッチ要素P11~P44とを含む。パッチ要素P11~P44は、説明のために、4つの平行な列C1、C2、C3、及びC4(マイクロストリップ541~544に対応する)と、5つの平行な行R1、R2、R3、及びR4とを備えるアレイ形式で配置される。当然ながら、本教示の範囲から逸脱することなく、代替のアレイサイズが組み込まれてもよい。フィードライン510は、不平衡パッチアレイアンテナ500に不平衡信号を供給する。フィードライン510は、マイクロストリップ541~544にそれぞれ接続された整合フィードラインを含む整合回路550に接続される。同じ行の隣接するパッチ要素(例えば、行R3のパッチ要素P32及びP42)は、距離dだけ等しく分離され、同じ列の隣接するパッチ要素(例えば、列C4のパッチ要素P41及びP42)は、長さlだけ等しく分離される。すなわち、行R1、R2、R3、及びR4は、マイクロストリップ541~544全体にわたって平行に配置され、隣接する行は、隣接する行の間に位相勾配を生成してパッチアレイアンテナ500の垂直ビームスクイント角を提供するように、(長さlによって示される)互いから電気角度距離だけオフセットされる。
【0040】
特に、同じ列内の隣接するパッチ要素を分離する長さlは、不平衡パッチアレイアンテナ500によって提供される上向き又は下向きのスクイントの量を決定する。すなわち、長さlが、ブロードサイドビームピークを提供するために必要とされる隣接するパッチ要素を分離する公称の長さよりも長い(図5Aに示されるように)場合には、不平衡パッチアレイアンテナ500は、上向き(正の)ビームスクイントを提供する。逆に、長さlが公称の長さよりも短い場合には、不平衡パッチアレイアンテナ500は、下向き(負の)ビームスクイントを提供する。したがって、不平衡パッチアレイアンテナ500によって提供される垂直スクイントは、マイクロストリップ541~544のそれぞれの上のパッチ要素を分離する長さlの値の関数である。
【0041】
図5Bを参照すると、整合回路550は、列C1、C2、C3、及びC4にそれぞれ対応するマイクロストリップ541~544に接続された複数の位相シフタを含む。マイクロストリップ541において、例えば、パッチ要素P11は、長さx+Δxだけパッチ要素P12から分離され、パッチ要素P12はまた、長さx+Δxだけパッチ要素P13から分離され、ここで、xは、例えば、マイクロストリップ又はコプレーナ導波路(CPW:coplanar waveguide)の、例えば、公称全ガイド波長λである。xの値は、基板の誘電率が1よりも大きいために、自由空間波長λより短い。その場合、Δx=λ*Δφ/2πであり、ここで、Δφは、水平ビームスクイントに関して式(1)を参照して上述したものと同じである。図示の実施形態において、不平衡フィードライン510は、第1の位相シフタ551及び第2の位相シフタ552に分割され、そのそれぞれが任意の位相φを提供する。第1の位相シフタ551は、第3の位相シフタ553及び第4の位相シフタ554に接続され、そのそれぞれが位相φを提供する。同様に、第2の位相シフタ521は、第5の位相シフタ555及び第6の位相シフタ556に接続され、そのそれぞれはまた、位相φを提供する。位相シフタの種々のセットの位相は、位相整合を提供するために同じになる。位相は、第1の位相シフタ551~第6の位相シフタ556に対応するようにラベル付けされた破線の楕円によって図5Aに示されるライン長によって提供される。不平衡パッチアレイアンテナ500によって提供される垂直スクイントは、上述したように、長さlの関数である。
【0042】
上述したように、図5A及び図5Bに示す代表的な実施形態において、マイクロストリップ541~544上の隣接するパッチ要素P11~P44を分離する長さlは、別様でスクイントを提供しない公称の長さよりも長いため、不平衡パッチアレイアンテナ500のピークビームは、スクイント角だけ上方にスクイントされる。代替的に、長さlを、スクイントを提供しない公称の長さよりも短くなるように低減することにより、不平衡パッチアレイアンテナ500のピークビームをスクイント角だけ下方にスクイントさせることができる。一般的に、いずれのスクイント方向についても、長さlと公称の長さとの間の差が大きいほど、結果として生じる上向き又は下向きのスクイント角が大きくなる。
【0043】
図6Aは、代表的な実施形態による、垂直ビームスクイントのためのRTSの平衡パッチアレイアンテナの一例の簡略化された概略図である。図6Bは、代表的な実施形態による、垂直ビームスクイントのための整合回路の実施態様を示す、図6Aの平衡パッチアレイアンテナの一部分の簡略ブロック図である。
【0044】
図6Aを参照すると、平衡パッチアレイアンテナ600は、フィードライン611及び612と、整合回路650と、4つのマイクロストリップ541、542、543及び544に沿って整合回路650に接続されたパッチ要素P11~P44とを含む。フィードライン611及び612は、平衡パッチアレイアンテナ600に差動信号を供給する。フィードライン611及び612は、所望の位相を提供するために、それぞれマイクロストリップ541~544に接続する整合フィードラインを含む整合回路650に接続する。この場合も、平衡パッチアレイアンテナ600によって提供される垂直スクイントは、マイクロストリップ541~544上の隣接するパッチ要素P11~P44間の長さlの関数である。すなわち、長さlが、ブロードサイドビームピークを提供するために必要とされる隣接するパッチ要素を分離する公称の長さよりも長い(図6Aに示されるように)場合、平衡パッチアレイアンテナ600は、上向き(正の)ビームスクイントを提供する。逆に、長さlが公称の長さよりも短い場合、平衡パッチアレイアンテナ600は、下向き(負の)ビームスクイントを提供する。
【0045】
図6Bを参照すると、整合回路650は、列C1、C2、C3、及びC4にそれぞれ対応するマイクロストリップ541~544に接続された複数の位相シフタを含む。図示の実施形態において、平衡フィードライン611は、任意の位相φを提供する第1の位相シフタ651に接続される。平衡フィードライン612は、第2の位相シフタ652に接続されており、この位相シフタは、差動信号(φ+180)を考慮して、任意の位相φ+180度を提供する。第1の位相シフタ651は、第3の位相シフタ653及び第4の位相シフタ654に接続され、そのそれぞれが位相φを提供する。同様に、第2の位相シフタ621は、第5の位相シフタ655及び第6の位相シフタ656に接続され、そのそれぞれはまた、位相φを提供する。位相は、第1の位相シフタ651~第6の位相シフタ656に対応するようにラベル付けされた破線の楕円によって図6Aに示されるライン長によって提供される。図6A及び図6Bに示される代表的な実施形態において、マイクロストリップ541~544上の隣接するパッチ要素P11~P45を分離する長さlは、さもなければスクイントを提供しないものである公称の長さよりも長いため、平衡パッチアレイアンテナ600のピークビームは、上向きにスクイントされる(正のビームスクイント)。代替的に、長さlを、スクイントを提供しない公称の長さよりも短くなるように低減することにより、平衡パッチアレイアンテナ600のピークビームを下方にスクイントさせることができる(負のビームスクイント)。
【0046】
上述したように、RTS及び対応する1つ以上のアンテナは、ドライブエミュレーションシステムに組み込むことができ、該ドライブエミュレーションシステムは、レーダDUTからのレーダ信号送信に応答してエミュレートされたレーダターゲットからのエコー信号をエミュレートする。図7は、代表的な実施形態による、干渉が低減された(例えば、ゴーストターゲットが除去された)レーダDUTのエコー信号をエミュレートするための例示的なシステムを示す簡略ブロック図である。本開示の利益を有する当業者によって理解されるように、1つの可能性の高い車両レーダは、現在の及び新興の自動車用途において種々の能力で使用される自動車レーダである。別のエミュレーション例は、車載人物検出システムであり、レーダは、例えば、暑い晴れた日に窓を開けて駐車した車の中等、潜在的に有害な状況で人/子供/ペットの存在又は不在を検出するように構成される。しかしながら、ここで説明されるエコー信号エミュレーションシステムは、自動車レーダシステムに限定されず、例えば、トラック、バス、オートバイ、自転車、原動機付き自転車(例えば、スクータ)、及び航空機を含む、車両レーダシステムを使用することができる他のタイプの車両に適用することができることが強調される。
【0047】
図7を参照すると、エコー信号エミュレーションシステム700は、レーダDUT105を試験するように配置され、該レーダDUT105は、周波数変調連続波(FMCW)レーダ信号を送信し、シーンエミュレーションにおいてターゲットからのレーダ信号の反射(エコー)をエミュレートするエミュレートされたエコー信号を含む戻り信号を受信するように構成することができる。エコー信号エミュレーションシステム700はまた、一部の位相変調連続波(PMCW:phase modulated continuous wave)システムとも協働することができる。レーダDUT105は、1つ以上のレーダ送信機及び対応する送信アンテナ、並びに1つ以上のレーダ受信機及び対応する受信アンテナを有する。システム700の全て又は一部は、無響試験室等の試験室内に含まれ得る。
【0048】
システム700は、それぞれが少なくとも1つのアンテナ708及び少なくとも1つのRTS710を含む複数の再照射器706を含む。RTS710は、例えば、周波数オフセット送受信機又はミニRTS(mRTS:mini-RTS)であり得る。アンテナ708は、例えば、パッチアンテナアレイ、又は上述したようにキャビティバックアンテナとすることができる。以下でより詳細に説明するように、各RTS(周波数オフセット送受信機)710は、概して、受信機回路、送信機回路、同相(I)-直交(Q)ミキサ(I/Qミキサ)を含む。信号発生器730は、I/Qミキサに入力され、レーダ信号と混合されるI信号及びQ信号を生成する。信号発生器730は、例えば、DDS(Direct Digital Synthesizer)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)及びDAC(Digital-to-Analog Converter)とすることができる。I/Qミキサは、受信機回路と送信機回路の双方の一部と見なされ得る。受信されたレーダ信号は、LOポートにおいて局部発振器(LO:local oscillator)信号としてI/Qミキサに入力することができ、信号生成器730によって生成されたI信号及びQ信号は、例えば、IFポートにおいて中間周波数(IF:intermediate frequency)信号としてI/Qミキサに入力することができる。LO信号とIF信号との混合積は、例えば、RFポートにおいてRF信号としてI/Qミキサによって出力することができ、ここで、RF信号は、レーダ信号のキャリア周波数からわずかにシフトされたRF周波数を有する。RF信号は、必要に応じて増幅/減衰され、送信機回路によって、エミュレートされたエコー信号としてアンテナ708を介してレーダDUT105に送信される。FMCWレーダ信号の場合、エミュレートされたエコー信号の周波数及び大きさは、エミュレートされたターゲットのエミュレートされたレンジ及びRCSを示す。例えば、チャープ信号(chirp signal)を使用するFMCWレーダ信号の場合、チャープ信号の線形ランプ内のエミュレートされたエコー信号のRF周波数とエミュレートされたエコー信号との間の周波数差が小さいほど、エミュレートされたターゲットはレーダDUT105に近く見える。一般的に、距離情報は周波数差から抽出され、RCS情報はエミュレートされたエコー信号の大きさによって提供される。
【0049】
代替的な構成では、本教示の範囲から逸脱することなく、信号発生器730は、再照射器706のそれぞれに物理的に含まれなくてもよく、その場合、1つの信号発生器730が、複数のRTS710に対してI信号及びQ信号を提供することができる。この構成では、信号発生器730は、例えば、FPGA及びDAC等、各RTS710について独立したI信号周波数及びQ信号周波数を作成することが可能な単一のソースを使用して実装することができる。
【0050】
シーンエミュレーション内のエミュレートされたターゲットごとに1つの再照射器706が存在することができる。代替的に、1つ以上の散乱性のターゲット及び/又は1つ以上の非散乱性のターゲット(つまり、1つ以上の散乱性のターゲット又は1つ以上の非散乱性のターゲットあるいはそれらの両方)を含む複数のエミュレートされたターゲットに1つの再照射器706を使用することができる。一実施形態において、再照射器706は、2Dアレイにおいて配列させることができ、ここで、各再照射器706は、2Dアレイにおける一要素を表す。この場合、エミュレートされたターゲットに対応する空間位置を有する要素は、そのターゲットに対応するエミュレートされたエコー信号を生成することになる。
【0051】
システム700は、コントローラ744を有するコンピュータ740も備える。本明細書において説明されるコントローラ744は、命令を記憶するメモリ746と、本明細書において説明されるプロセスの全て又は一部を実施するために、記憶された命令を実行する例示的なプロセッサ748との組み合わせを備えることができる。データベース720が、1つ以上のターゲットを有する様々な所定のシナリオを含む、ターゲットエミュレーションに使用される情報を記憶することができる。例えば、データベース720は、レーダDUT105からのレンジ、RCS、速度、加速度等の、ポイントターゲットの所望の特性を記憶することができる。データベース720は、コード、パワー、視野等の、特定のレーダDUT105のパラメータに関する情報を更に記憶することができる。レーダDUT105は、様々なタイプの有線及び/又はワイヤレスネットワーク(つまり、有線又はワイヤレスネットワークあるいはそれらの両方の)接続によってコンピュータ740に接続することができる。コントローラ744は、破線によって示される制御信号を介して、RTS710及び信号発生器730の動作を制御するように構成される。
【0052】
コントローラ744は、コンピュータ又は1つ以上のコンピューティングデバイスの別のアセンブリ等のワークステーション、ディスプレイ/モニタ、及びスタンドアロンコンピューティングシステムの形態の1つ以上の入力デバイス(例えば、キーボード、ジョイスティック及びマウス)、サーバシステムのクライアントコンピュータ、デスクトップ又はタブレット内に収容又はリンクさせることができる。「コントローラ」という用語は、本開示の当該技術分野において理解されるように、及び本開示において例示的に説明されるように、本開示において説明されるような様々な原理のアプリケーションを制御する特定用途向けメインボード又は特定用途向け集積回路の全ての構造的構成を広く包含する。コントローラ144の構造的構成は、以下で論述されるように、プロセッサ(複数の場合もある)、コンピュータ使用可能/コンピュータ可読記憶媒体(複数の場合もある)、オペレーティングシステム、アプリケーションモジュール(複数の場合もある)、周辺デバイスコントローラ(複数の場合もある)、スロット(複数の場合もある)、及びポート(複数の場合もある)を含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
加えて、コンピュータ740及び/又はコントローラ744(つまり、コンピュータ740又はコントローラ744あるいはそれらの両方)は、ともにネットワーク接続された構成要素を示しているものの、複数の構成要素は、単一のシステムに統合することができる。例えば、コンピュータ740及び/又はコントローラ744は、ディスプレイ(図示せず)及び/又はシステム700(つまり、ディスプレイ又はシステム700あるいはそれらの両方)と統合することができる。他方、コンピュータ740及び/又はコントローラ744のネットワーク接続される構成要素は、異なる部屋又は異なる建物に分散させること等によって空間的に分散させることもでき、この場合、ネットワーク接続される構成要素は、データ接続を介して接続することができる。また別の実施形態においては、コンピュータ740及び/又はコントローラ744の構成要素のうちの1つ以上は、データ接続を介して他の構成要素に接続されず、代わりに、メモリスティック又は他の形式のメモリ等によって手動で入力及び/又は出力(つまり、入力又は出力あるいはそれらの両方)を与えられる。更に別の実施形態においては、本明細書において説明される機能は、コンピュータ740及び/又はコントローラ744の要素の機能に基づきながらも、システム700の外部で実行することができる。
【0054】
図示された実施形態において、コンピュータ740は、メモリ746、プロセッサ748を備えるコントローラ744と、ユーザ及び/又はネットワークインタフェース(図示せず)及びディスプレイ(図示せず)(つまり、ユーザ、又はネットワークインタフェース及びディスプレイ、あるいはそれらの全て)とを備える。コンピュータ740及び/又はコントローラ744は、処理ユニットとして実施することができる。様々な実施形態において、処理ユニットは、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、配線論理回路の任意の組み合わせ、又はこれらの組み合わせを使用して、1つ以上のコンピュータプロセッサ(例えば、プロセッサ748)、デジタル信号プロセッサ(DSP:digital signal processor)、中央処理ユニット(CPU:central processor)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:field-programmable gate array)、特定用途向け集積回路(ASIC:application specific integrated circuit)、又はこれらの組み合わせを含むことができる。コンピュータ740、コントローラ744及び/又はプロセッサ748(つまり、コントローラ744又はプロセッサ748あるいはそれらの両方)のそれぞれが、本明細書において説明される様々な機能の実行を可能にするコンピュータ可読コード(例えば、ソフトウェア、ソフトウェアモジュール)を記憶する、自身の処理メモリ(例えば、メモリ746)を備えることができる。例えば、処理メモリは、図9を参照して以下で説明される方法の様々なステップを含む、本明細書において説明される方法のいくつかの又は全ての態様を実行するために処理ユニット(例えば、コンピュータプロセッサ)によって実行可能なソフトウェア命令/コンピュータ可読コードを記憶することができる。すなわち、命令/コンピュータ可読コードの実行により、概して、コンピュータ740及び/又はコントローラ744の処理ユニットが、レーダDUT105によって送信されたレーダ信号に応答して、エミュレートされたレーダターゲットから反射されたエコー信号をエミュレートする。
【0055】
本明細書において説明されるメモリ746、及び他の任意のメモリ(データベース720を含む)は、様々なタイプのランダムアクセスメモリ(RAM:random access memory)、リードオンリメモリ(ROM:read only memory)及び/又は他の記憶媒体(つまり、様々なタイプのランダムアクセスメモリ、リードオンリメモリ、又は他の記憶媒体、あるいはそれらの全て)とすることができ、これらには、フラッシュメモリ、電気的プログラマブルリードオンリメモリ(EPROM:electrically programmable read-only memory)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM:electrically erasable and programmable read only memory)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM:compact disk read only memory)、デジタル多用途ディスク(DVD:digital versatile disk)、レジスタ、ラッチ、フリップフロップ、ハードディスク、リムーバブルディスク、テープ、フロッピィディスク、ブルーレイディスク、若しくはユニバーサルシリアルバス(USB:universal serial bus)ドライバ、又は当該技術において知られている他の任意の形態の記憶媒体が含まれる。これらは(例えば、一時的な伝播信号と比較して)有形かつ非一時的である。メモリは、本教示の範囲から逸脱することなく、揮発性のもの又は不揮発性のもの、セキュアなもの及び/又は暗号化されたもの(つまり、セキュアなもの又は暗号化されたものあるいはそれらの両方)、非セキュアなもの及び/又は暗号化されていないもの(つまり、非セキュアなもの又は暗号化されていないものあるいはそれらの両方)とすることができる。メモリ746及びデータベース720は、分散されてネットワーク接続されたメモリ及びデータベースを含めて、1つ以上のメモリ及びデータベース、並びに複数のメモリ及びデータベースを表すことができる。
【0056】
一般的に、動作時、レーダDUT105は、再照射器706のうちの1つのアンテナ708(有益には、比較的高い利得のアンテナである)のうちのそれぞれ1つにおいて集束されるRFレーダ信号(例示的には、mm波信号)を放射する。アンテナ708は、レーダDUT105から受信される信号の波長のために選択されたパッチアレイアンテナ又はキャビティバックアンテナとすることができる。当然ながら、本教示の範囲から逸脱することなく、アンテナ708として他のタイプのアンテナが組み込まれてもよい。
【0057】
上述したように、アンテナ708のそれぞれは、レーダDUT105によって送信されたレーダ信号の一部分を反射するように(対応する再照射器706とともに)傾斜され、それによって、レーダ信号の反射部分をレーダ信号の入射方向から所定の偏向角で離れるように方向付けて、レーダDUT105がレーダ信号の反射部分を受信するのを防止する。アンテナ708のアンテナパターンは、アンテナ708の傾斜を補償するように修正され、その結果、各アンテナ708のピークビームは、レーダDUT105に方向付けられた角度でスクイントされ、その方向におけるアンテナ708の利得を増加させる。
【0058】
アンテナ708に入射されたレーダ信号は、RTS710のそれぞれに供給される。コントローラ744からの入力に基づいて、入射レーダ信号の周波数シフトが、RTS710のそれぞれにおいて行われ、レーダDUT105からのターゲットの距離、若しくはレーダDUT105に対するターゲットの速度、又はそれら両方を有利にエミュレートする。加えて、方位角(図7の座標系における+x方向)及び仰角(図7の座標系における+z方向)がアンテナ708によってエミュレートされる。アンテナ708は、再照明器706の電子的に操向可能アンテナアレイ(steerable antenna array)の一部とすることができる。同様に、アンテナ708の代わりに又はこれに加えて、再照明器706を機械的に移動させることができる。RTS710によって提供されるエミュレートされたエコー信号は、レーダDUT105に入射する。コンピュータ740は、レーダDUT105の精度の更なる解析のために、レーダDUT105から信号を受信する。
【0059】
一般的に、FMCW波形を利用するレーダは、例えば、77GHz帯域においてRFレーダ信号を送信することによって動作する。レーダ信号は、瞬時周波数が所定の期間にわたって第1の周波数から第2の周波数に線形に変化するように変調され、これは、チャープ信号と称される。RF周波数は、所定の期間にわたって線形に上昇することができ(アップチャープ(upchirp))、ここで、第1の周波数(例えば、77GHz)は、第2の周波数(例えば、78GHz)よりも低く、又は、RF周波数は、所定の期間にわたって線形に低下することができ(ダウンチャープ(downchirp))、ここで、第1の周波数(例えば、78GHz)は、第2の周波数(例えば、77GHz)よりも高い。周波数におけるこの線形傾斜は、レーダから送信される連続波信号を形成するように繰り返される。
【0060】
送信されたレーダ信号は、ターゲットに向かって光の速さで伝播し、ターゲットから反射し、反射されたエコー信号としてレーダに戻り、ここで、エコー信号は、レーダとターゲットとの間のラウンドトリップ時間だけ遅延している。この遅延の長さは、レーダとターゲットとの間の距離に対応する。エコー信号は、次に、レーダにおいて現在送信されているレーダ信号と混合され、この動作は、ホモダイン受信(homodyne reception)として知られている。結果として得られるIF信号は、受信されたエコー信号の周波数と、レーダにおいて現在送信されているレーダ信号の周波数との間の瞬時差分に等しい周波数を有する。
【0061】
すなわち、受信されたエコー信号における遅延と、所定の期間にわたって送信されるレーダ信号の周波数における線形傾斜とに起因して、現在送信されているレーダ信号(周波数において線形に変化している)と、受信されたエコー信号(当初送信されたレーダ信号の周波数である)との間に周波数差分が存在することになる。したがって、この周波数差分は、ラウンドトリップ遅延とヘルツ毎秒(Hz/s)単位の周波数掃引速度とを乗算した値に比例する。例えば、近接したターゲットは遠隔のターゲットよりも遅延が少ないので、近接したエミュレートされたターゲットは、より小さい周波数差分をもたらし、それゆえ、より遠隔のエミュレートされたターゲットよりも低いIF信号周波数をもたらす。エミュレートされたターゲットがポイントターゲットである場合には、結果として得られるIF信号は、単一の周波数における単一のトーン(tone)となる。エミュレートされたターゲットが複数のターゲットを含む場合、結果として得られるIF信号は、それぞれのターゲットまでの瞬時レンジに対応する周波数を有する複数のトーンを有する。N個のターゲットを検討する一般的な場合において、レーダにおけるIF信号は、N個のトーン、対応するターゲットまでのレンジに対応する各トーンの周波数、及びそのターゲットからのエコー信号の相対受信強度に対応する各トーンの振幅を含む。とりわけ、受信強度は、レーダからターゲットまでのレンジ、及びターゲットのRCS当たりのターゲットの反射率の関数である。所与のターゲットRCSについて、強度は、一般的に、関数1/Rに従ってレンジに反比例し、ここで、Rは、レーダとターゲットとの間の距離である。
【0062】
この状況において、本開示の代表的な実施形態は、RTS710によって提供される周波数オフセットを利用して、レーダDUT105からエミュレートされたターゲットまでの範囲をエミュレートする。周波数オフセットを使用して、各エミュレートされたターゲットは、伝播遅延に起因した実効周波数シフトによって示される。しかしながら、レンジを示すためにエコー信号の送信を遅延させるのではなく、遅延自体が、エコー信号に対する所望の遅延に対応する予測周波数シフトを与える周波数オフセット送受信機によってエミュレートされる。例えば、以下でより詳細に論述されるように、レーダDUT105から送信されたレーダ信号は、単側波帯(SSB:single-sideband)ミキサを使用して周波数オフセット信号によってRTS710において混合することができる。周波数オフセット信号は、遅延(又はラウンドトリップ差分)に対応するエコー信号において存在するであろう要求される周波数シフトに等しい周波数(又は周波数のパターン)を有する。実際には、周波数オフセット信号は、厳密には、エコー信号を受信し、これを現在送信されているレーダ信号と混合するときの、レーダDUT105における所望のIF信号の形態である。それゆえ、第1のレンジにおける単一のエミュレートされたターゲットは、当該単一のターゲットまでのレンジを表す周波数を有する単一のトーンから構成されるIF信号をレーダDUT105においてもたらすことになる。これは、所望のIF信号を周波数オフセット信号として使用することによって、RTS710内のSSBミキサを使用して生成することができる。複数のエミュレートされたターゲットが、複数のトーンから構成されるIF信号をもたらすことになる。それゆえ、このマルチトーンIF信号をオフセット信号として利用することにより、複数のエミュレートされたターゲットをエミュレートするエコー信号がもたらされる。
【0063】
図8は、代表的な実施形態による、反射からの干渉が低減されたエコー信号をエミュレートする、図7の代表的な再照射器(及び対応するRTS及び周波数オフセット送受信機)の簡略ブロック図である。この代表的な実施形態に関して説明されるRTSの態様は、全てのRTSに共通しているものとすることができる。
【0064】
図8を参照すると、再照明器706は、上記で説明されたように、アンテナ708と、アンテナ708に接続されたRTS710とを含む。当然ながら、実用時には、システム内に2つ以上のRTS710が存在する場合があり、それゆえ、(例えば、図7の代表的な実施形態に示されているように)2つ以上のアンテナ708が存在する場合がある。アンテナ708は、レーダDUT105からオーバー・ジ・エアーでレーダ信号801を受信するように構成される。RTS710は、エミュレートされたターゲットを示すレーダ信号に応答して、エミュレートされたエコー信号820を生成するように構成され、ここで、エミュレートされたエコー信号820は、アンテナ708によって送信され、レーダDUT105によって受信される。エミュレートされたエコー信号820は、例えばデータベース720に記憶されたシーンエミュレーションに基づいて、レーダDUT105からエミュレートされたターゲットまでのレンジを示す。加えて、レーダ信号の反射部分822が、アンテナ708及びRTS710によって反射される。補正されない場合、反射部分822は、レーダDUT105によって受信され、ゴーストターゲットを生成し、エミュレートされたエコー信号820と干渉することがある。
【0065】
図示された実施形態において、RTS710は、サーキュレータ802と、I/Qミキサ803と、信号発生器730とを備える。サーキュレータ802は、RTS110が、レーダDUT105からレーダ信号801を受信するとともに、レーダDUT105にエミュレートされたエコー信号820を送信するために単一のアンテナ708を使用することを可能にする。代替的に、アンテナ708は、本教示の範囲から逸脱することなく、別個の受信アンテナ及び送信アンテナとして実装することができ、この場合、サーキュレータ802は省略することができる。
【0066】
I/Qミキサ803は、例えばレーダ信号の標準的な90度移相を伴うSSBミキサとすることができ、この結果、下側波帯(LSB:lower sideband)を除去した上側波帯(USB:upper sideband)、又はUSBを除去したLSBのいずれかの出力がもたらされる。信号発生器730は、例えば、ダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS:direct digital synthesizer)、又はFPGA及びデジタル対アナログ変換器(DAC)を使用して実施することができるが、本教示の範囲から逸脱することなく他のタイプの制御可能信号発生器を組み込むことができる。信号発生器730は、例えば、コンピュータ740によって、様々な振幅及び位相のI信号及びQ信号を提供するように制御可能である。信号発生器730は、以下で論述されるように、I信号及びQ信号のDC値(DCオフセット)を別個に調整するようにも制御可能である。
【0067】
図示された実施形態において、I/Qミキサ803は、LOポートと、RFポートと、IFポートとを備え、ここで、LOポートは、LO信号としてアンテナ708からレーダ信号801を受信するように構成され、IFポートは、信号発生器730からI信号及びQ信号を受信するように構成される。I/Qミキサ803は、レーダ信号を、I信号及びQ信号と混合し、例えば増幅及び/又は減衰(つまり、増幅又は減衰あるいはそれらの両方)の後に、最終的にエミュレートされたエコー信号820として提供されるように、混合積(mixing product)をRFポートからのRF信号として出力する。図示されていないものの、RTS710は、レーダ信号801がLO信号としてI/Qミキサに入力される前にレーダ信号801を処理するために、信号処理構成要素、例えば、フィルタ、減衰器及び/又は増幅器(つまり、増幅器又は減衰器あるいはそれらの両方)を更に備えることができることが理解される。
【0068】
I/Qミキサ203から出力されたRF信号は、利得制御入力805を備える、可変利得増幅器(VGA:variable gain amplifier)又は出力減衰器等の利得コントローラ804に提供され得る。上記で言及したように、利得制御器804の利得制御入力805は、コンピュータ740によって制御することができる。利得コントローラ804は更に、アンテナ708におけるレーダDUT105からのレーダ信号801に応答してエコー信号820の適切なエミュレーションを可能にする。特に、アンテナ708からのエミュレートされたエコー信号820のパワーは、エミュレートされたターゲットのRCSの表示である。したがって、利得コントローラ804によって提供される利得又は減衰は、アンテナ708に入射するレーダ信号のパワー、及びエミュレートされたターゲットの所望のエミュレーション距離におけるRCSに基づいて、利得制御入力805において選択される。
【0069】
RF信号は、RTS710によってアンテナ708を介してレーダDUT105に送り返される。上述したように、アンテナ708のアンテナパターン824は、アンテナパターン824のピークビーム825が、ピークビーム825をレーダDUT105に向かう方向へと方向付ける角度でスクイントされるように調整される。このビームスクイントは、アンテナ708のブレーズ角を補償し、その結果、アンテナパターンの最大利得は、レーダ信号801を受信し、エミュレートされたエコー信号820を送信するためにレーダDUT105に向かって方向付けられるが、アンテナ708は、反射部分822をレーダDUT105から離れるように偏向させるために、レーダ信号801の入射方向から離れるように角度付けされる。
【0070】
エコー信号エミュレーションシステムの更なる説明は、例えば、2021年1月13日に出願されたChristian Bourde等の米国特許出願第17/148230号に提供されており、その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0071】
一般的に、再送信されるパワーの制御は、一貫したRCSをエミュレートするのに使用される。RCSは、例えば、データベース720内のテーブル内のルックアップに記憶することができる。そのために、エミュレートされたターゲットまでの所与の範囲Rについて、戻りエコー信号の振幅(強度)はRCSに比例し、1/Rとして減少することが知られている。車両は、典型的には、10dBsmであるものとして引用され、当該10dBsmは測定面積であり、1平方メートル(s.m.:square meter)に対して10dBであり、又は10平方メートルを意味する。多くの物体が表にまとめられており(車両、歩行者、自転車、建物等)、表にまとめられていない物体は、レイトレーシング(ray tracing)技法によって計算することができる。本教示によって、特定の物体についての距離R(既知の1/Rレーダ減衰則(radar decay law)に従う)及びRCSの許容値に相当するレーダDUT105までの戻りエコー信号強度を提供することに強調が置かれている。代表的な実施形態によれば、信号強度(及びひいてはパワー(power:電力))は、I信号及びQ信号の強度を調整することによって調整され、I信号及びQ信号が弱くなるほど、比較的に弱いエミュレートされたエコー信号を提供する。とりわけ、或る特定の代表的な実施形態においては、コンピュータ740は、レーダDUT105において単一の焦点に提供される一貫した戻りエコー信号を事前計算し、コントローラ744は、その後、I信号及びQ信号の強度を調整して、このSSB強度を達成する。代替的に、有益には、RTS710の利得コントローラの利得又は減衰は、戻りエコー信号のSSB強度を制御するように調整することができる。
【0072】
レーダDUT105がFMCWデバイスである場合、距離/速度は、RTS710を使用して電子的にエミュレートされる。そのために、FMCWレーダシステムは、上述されたように、チャープ波形を使用し、それにより、レーダDUT105からの当初の送信(Tx)波形の、受信(Rx)エコー波形との相関は、ターゲット距離を明らかにする。例えば、±kswのチャープ速度(Hz/s単位で測定される)を有するアップチャープ/ダウンチャープシステムにおいて、距離dにあるとともに、レーダDUT105を有する自車両に対してゼロ相対速度にあるターゲットは、式(2)によって与えられる周波数シフト(δf)をもたらすことになり、ここで、cは、光の速さであり、2の係数は、レーダDUT105からの信号のラウンドトリップ伝播に起因したものである。
δf=±(2ksw d/c) 式(2)
【0073】
シフトの符号は、波形のいずれの部分(アップチャープ対ダウンチャープ)が処理されているのかに依存する。対照的に、相対速度に起因したドップラーシフトは、「コモンモード」周波数シフトとして顕現し、例えば、波形の両半分にわたる純粋なアップシフトは、レーダDUTがターゲットに接近していることを示す。レーダDUTのIF/ベースバンドプロセッサにおいて相関が実行され、数MHzの帯域幅が典型的である。
【0074】
FMCWレーダシステムの一般的に配備されるバリエーションは、反復アップチャープ、又は反復ダウンチャープを使用するが、双方(間にデッドタイムを含む)は使用しない。したがって、エミュレートされたターゲットまでの距離は、前述の段落のように求められるが、ここで、符号の問題はなくなる。相対速度は、連続フレームIF相関信号同士の間の移相を測定することによって求められ、ここで、フレームは、波形の1周期を指す当該技術分野の用語である。多くのFMCWレーダの応用において、フレーム反復率は、典型的には、数kHz~数十kHzである。
【0075】
当然ながら、本教示の範囲から逸脱することなく、パッチアレイアンテナ以外の操向可能ピークビーム(steerable peak beam)を伴うタイプのアンテナが、RTSとともに使用するために組み込まれてもよい。例えば、代替的な実施形態において、各RTSのアンテナ(複数の場合もある)は、キャビティバックアンテナ(cavity backed antenna)であってもよく、該キャビティバックアンテナは、基板内のめっき済みのエアキャビティと、エアキャビティが反射器として機能するようにエアキャビティの上の基板上に配置されたダイポールアンテナとを含む。図9Aは、代表的な実施形態による、垂直ビームスクイントのためのRTSのキャビティバックアンテナの一例の簡略平面図であり、図9Bは、代表的な実施形態による、線A-A’に沿った図9Aのキャビティバックアンテナの簡略断面図である。
【0076】
図9A及び図9Bを参照すると、めっき済みのキャビティバックアンテナ900は、ダイポールアンテナ920に接続されたフィードライン911及び912を含み、このダイポールアンテナ920は、反射エアキャビティ950の上のアンテナ誘電体940(図9Aでは透明)上に形成された4つの代表的なアンテナ要素921、922、923、及び924を含む。当然ながら、本教示の範囲から逸脱することなく、エアキャビティ950の中へ下向きに放射するように構成可能な代替タイプのアンテナ及び/又は複数のアンテナ要素(つまり、アンテナ又は複数のアンテナ要素あるいはそれらの両方)が組み込まれてもよい。めっき済みのキャビティバックアンテナ900は、プリント回路基板(PCB:printed circuit board)930を更に含み、エアキャビティ950は、PCB930内で深さDに形成される。PCB930は、例えば、底部銅層、誘電体層、及び上部銅層を含む3つの層から形成することができ、エアキャビティ950は、上部銅及び誘電体層を通じて形成することができる。エアキャビティ950は、例えば、銅で形成され得る導電性めっきでめっきされ、キャビティフロア951及びキャビティ側壁955を提供し、これにより、エアキャビティ950がダイポールアンテナ920のための反射器として作用することが可能となる。図示の構成では、ダイポールアンテナ920は、アンテナ誘電体940を通してエアキャビティ950の中に放射し、キャビティフロア951及び側壁955において反射され、アンテナ誘電体940を通して上方に再放射する。
【0077】
めっき済みのキャビティバックアンテナ900のアンテナパターンは、ピークビームの方向を含めて、エアキャビティ950に対するダイポールアンテナ920の位置の関数である。エアキャビティ950の形状及び深さは、概して、めっき済みのキャビティバックアンテナ900の全体的な性能に影響を及ぼす。したがって、ダイポールアンテナ920の相対位置を変更することにより、ダイポールアンテナ920のアンテナパターンを変更して、所望のビームスクイント角を提供することができる。エアキャビティ950の形状及び深さは、概して、めっき済みのキャビティバックアンテナ900の全体的な性能に影響を及ぼす。
【0078】
例えば、めっき済みのキャビティバックアンテナがスクイント角なしで放射するように設計される場合には、ダイポールアンテナの位相中心は、キャビティの物理的中心の上に配置される。ダイポールアンテナの位相中心がキャビティ内の他の場所に位置決めされる場合には、結果として得られるアンテナパターンは、位相中心とキャビティの物理的中心との間の関係によって決定される方向及び量にスクイントされたピークビームを有する。例えば、図9Aでは、アンテナ位相中心926(アンテナ要素921、922、923、及び924の中心)は、キャビティ物理的中心956に対して、キャビティ前面CF(cavity front)寄りに位置決めされる。したがって、ダイポールアンテナ920は、アンテナ位相中心926がキャビティ物理的中心956からオフセットされる方向とは反対向きのスクイント角で反射され、図示の例では、キャビティ後部CB(cavity back)の方向となる。一般的に、アンテナ位相中心926がキャビティの物理的中心956からオフセットされるほど、ビームスクイントの量は大きくなる。
【0079】
同様に、ダイポールアンテナ920は、アンテナ位相中心926をキャビティ物理的中心956からキャビティ後部CBに向かってオフセットすることによって、キャビティ前部CFに向かってスクイント角で反射することができる。また、ダイポールアンテナ920は、アンテナ位相中心926をキャビティの物理的中心956から左及び右に向かってそれぞれオフセットすることによって、エアキャビティの右及び左に向かってスクイント角で反射することができる。したがって、一般的に、ビームスクイントの方向は、アンテナ位相中心926がキャビティ物理的中心956から位置決めされるオフセット方向から約180度反対の異なる方向に効果的に操向することができる。ビームスクイントの方向及び量は、経験的に決定することができる。
【0080】
図10は、代表的な実施形態による、反射からの干渉が低減されたレーダDUTによって送信されたレーダ信号に応答してエコー信号をエミュレートする方法を示すフロー図である。本方法は、例えば、コンピュータ740の制御下で、上述したシステム100及び/又はシステム700(つまり、システム100又はシステム700あるいはそれらの両方)によって実施することができる。
【0081】
図1を参照すると、ブロックS1011において、RTS(例えば、RTS121、122、123)の少なくとも1つのアンテナが、レーダDUTによって送信されるレーダ信号の入射方向から離れるように角度付けされる。この角度はブレーズ角と称することができる。ブレーズ角は、レーダDUTから入射方向に放射されたレーダ信号の反射部分が、レーダDUTの中距離場又は遠距離場(すなわち、近距離場の外側)に位置するRTSの少なくとも1つのアンテナ及び他の表面から、反射部分がレーダDUTを迂回する方向に反射されるように、十分に大きい。
【0082】
ブロックS1012において、少なくとも1つのアンテナのアンテナパターンは、ビームスクイント角で、少なくとも1つのアンテナの垂直入射から離れてレーダDUTに向かってアンテナパターンのピークビームに角度付けするように調整される(スクイントされる)。したがって、ビームスクイント角は、少なくとも1つのアンテナがレーダ信号の入射方向から離れるように角度付けされることを補償し、その結果、アンテナパターンの最大利得は、依然としてレーダDUTに方向付けられる。
【0083】
ブロックS1013において、レーダ信号は、調整されたアンテナパターンを使用して少なくとも1つのアンテナにおいてレーダDUTからオーバー・ジ・エアーで受信される。レーダ信号の反射部分は、少なくとも1つのアンテナ、及びRTSの他の表面によって、少なくとも1つのアンテナのブレーズ角によって決定される所定の偏向角でレーダ信号の入射方向から離れるように反射される。所定の偏向角は、ブレーズ角の2倍である。
【0084】
ブロックS1014において、受信されたレーダ信号は、上述したように、周波数オフセット送受信機によって、生成されたIF信号と混合され、エミュレートされたターゲットまでの距離を示す量だけレーダ信号のレーダ周波数からシフトされたRF周波数を有するRF信号を提供する。RF信号は、必要に応じて増幅/減衰され、エミュレートされたターゲットのRCSを正確に表すことができる。
【0085】
ブロックS1015において、RF信号は、調整されたアンテナパターンを使用して少なくとも1つのアンテナを介してエミュレートされたエコー信号としてレーダDUTに送信される。調整されたアンテナパターンのビームスクイント角は、ピークビームをレーダDUTに方向付けるために所定の偏向角を補償して、レーダ信号を受信し、RF信号を送信する。被試験レーダは、レーダ信号の反射部分によって引き起こされる干渉なしにエミュレートされたエコー信号を受信するため、ゴーストターゲットの出現が回避される。
【0086】
本発明は、図面及び上記説明に詳細に図示及び説明されてきたが、そのような説明図及び説明は、例示又は模範とみなされるべきであり、限定とみなされるべきではなく、本発明は、開示された実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、請求項に係る発明を実施する際に、図面、開示及び添付の特許請求の範囲の検討により、開示される実施形態に対する他の変形形態を理解し、それを行うことができる。特許請求の範囲において、「を含む」という単語は他の要素又はステップを排除せず、不定冠詞「一つの("a" or "an")」は複数形を排除しない。或る特定の手段が互いに異なる複数の従属請求項に列挙されているだけであれば、それらの手段を組み合わせて有利に使用することができないことは示されていないものとする。
【0087】
本発明の態様は、装置、方法又はコンピュータプログラム製品として具現化することができる。したがって、本発明の態様は、全体がハードウェアの実施形態、全体がソフトウェアの実施形態(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコード等を含む)、又はソフトウェアの態様及びハードウェアの態様を組み合わせた実施形態の形を取ることができる。これらは全て、本明細書において、「回路」、「モジュール」又は「システム」と総称される場合がある。さらに、本発明の態様は、コンピュータ実行可能コードが具現化された1つ以上のコンピュータ可読媒体に具現化されるコンピュータプログラム製品の形を取ることができる。
【0088】
代表的な実施形態が本明細書に開示されているが、当業者であれば、本教示に従った多くの変形形態が可能であり、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることが分かる。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることを除いて限定されるものではない。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
【国際調査報告】