(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】角度分解光電子スペクトロメータおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2273 20180101AFI20240126BHJP
【FI】
G01N23/2273
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545346
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(85)【翻訳文提出日】2023-09-25
(86)【国際出願番号】 SE2022050057
(87)【国際公開番号】W WO2022164365
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514141754
【氏名又は名称】シエンタ・オミクロン・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・オーロフソン
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・カールソン
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA07
2G001BA08
2G001CA03
2G001DA01
2G001EA04
2G001KA13
2G001SA01
(57)【要約】
角度分解光電子スペクトロメータおよびそのようなスペクトロメータ用の方法が記載される。スペクトロメータは、第1の端部(1)および第2の端部(2)を有し、固体サンプル(3)のサンプル表面(Ss)上の測定区域(A)から放出される電子のビームを形成し、電子を第2の端部(2)に移送するように配置される静電レンズシステム(101)を備え、第1のレンズ要素(4)が、サンプル(3)に対して正の電圧で配置されるように構成される。スペクトロメータは、光軸(6)におけるサンプル表面(Ss)上の点から見て、光軸(6)と制限開口(18)上の任意の点との間の角度が、45°より大きく70°より小さいように配置される、制限開口(18)を有する少なくとも第1の遮蔽電極(17)と、第1のレンズ要素(4)よりも測定区域(A)から長い距離で光軸(6)の周りに配置される少なくとも1つの補償電極(7)とを備える。方法によれば、補償電極(7)は、サンプル(3)に対して負の電圧で配置されるように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端部(1)および第2の端部(2)を有し、前記第1の端部(1)に、固体サンプル(3)のサンプル表面(Ss)に面して配置されるレンズ開口(5)を有する第1のレンズ要素(4)を備える静電レンズシステム(101)と、
前記第2の端部(2)に、電子を分析するための測定領域(22)と
を備え、
前記静電レンズシステムが、前記レンズ開口(5)を通り前記第1の端部(1)から前記第2の端部(2)に延びる光軸(6)を備え、
前記静電レンズシステムが、前記サンプル表面(Ss)上の測定区域(A)から放出され、前記レンズ開口(5)を通して入る電子のビームを形成するように配置され、
前記静電レンズシステムが、前記電子を前記第2の端部(2)に移送するように配置され、
前記第1のレンズ要素(4)が、前記サンプル(3)に対して正の電圧で配置されるように構成される、角度分解光電子スペクトロメータ(100)であって、
制限開口(18)を有する少なくとも第1の遮蔽電極(17)であって、前記遮蔽電極(17)が前記サンプル(3)と前記第1のレンズ要素(4)との間に配置され、前記制限開口(18)が前記サンプル表面(Ss)と前記第1のレンズ要素(4)との間の距離(D)の1/5以下の前記サンプル表面(Ss)からの距離(20)内にあり、前記制限開口(18)が前記光軸(6)を取り囲み、前記制限開口(18)のサイズおよび前記サンプル表面と前記制限開口(18)との間の前記距離が、前記光軸(6)と、前記光軸(6)における前記サンプル表面(Ss)と前記制限開口(18)上の任意の点との間の線との間の角度が、45°より大きく70°より小さいようなものである、第1の遮蔽電極(17)と、
前記第1のレンズ要素(4)よりも前記測定区域(A)からより大きい距離で前記光軸(6)の周りに配置される少なくとも1つの補償電極(7)と
を備えること、
前記補償電極(7)が、前記サンプル(3)に対して負の電圧で配置されるように構成されることを特徴とする、角度分解光電子スペクトロメータ(100)。
【請求項2】
前記電圧が前記第1のレンズ要素(4)および前記補償電極上に印加されるとき、電位が前記測定区域(A)から前記第1のレンズ要素(4)に前記光軸に沿って単調増加するように、前記補償電極(7)が構成される、請求項1に記載のスペクトロメータ(100)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの補償電極(7)が前記光軸(6)の周りに対称的に配置される、請求項1または2に記載のスペクトロメータ(100)。
【請求項4】
前記補償電極が、前記サンプル(3)と前記第1のレンズ要素(4)との間に前記光軸(6)に沿って、前記サンプル(3)から前記光軸(6)に沿った距離以内に配置され、これが、前記サンプル表面(Ss)と前記第1のレンズ要素(4)との間の前記距離(D)の半分以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載のスペクトロメータ(100)。
【請求項5】
前記補償電極(7)と前記光軸(6)との間の最短距離(R
C)が、前記レンズシステム(101)の周囲および前記光軸(6)からの最長距離(R
L)の2倍未満、好ましくは1.5倍未満、最も好ましくは1倍未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載のスペクトロメータ(100)。
【請求項6】
前記補償電極(7)と前記光軸(6)との間の最短距離(R
C)が、前記レンズ開口(5)の縁部(E
A)と前記光軸(6)との間の最長距離より長い、請求項1から5のいずれか一項に記載のスペクトロメータ(100)。
【請求項7】
前記補償電極(7)から前記サンプル表面(Ss)上の前記測定区域(A)への視線をブロックする第2の遮蔽電極(8)を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のスペクトロメータ(100)。
【請求項8】
少なくとも2つの補償電極(7’、7’’)を備え、前記補償電極が、異なる電圧を印加して、全電極(7’、7’’)によって生成される前記サンプル表面上の最小電場の位置の移動を可能にするように構成される、請求項1から7のいずれか一項に記載のスペクトロメータ(100)。
【請求項9】
前記光軸(6)の周りに対称的に配置され、前記光軸(6)に沿って前記レンズ開口(5)と前記サンプル表面(Ss)との間に配置される補正縁部(10)を備える少なくとも1つの補正電極(9)を前記レンズシステムが備え、電子が前記補正電極(9)を通過するのを可能にする開口を前記補正縁部(10)が画定し、前記補正縁部(10)上の各点が、前記レンズ開口の縁部(E
A)上の各点よりも前記光軸からより長い距離にある、請求項1から5のいずれか一項に記載のスペクトロメータ(100)。
【請求項10】
第1の端部(1)および第2の端部(2)を有し、前記第1の端部(1)に、固体サンプル(3)のサンプル表面(Ss)に面して配置されるレンズ開口(5)を有する第1のレンズ要素(4)を備える静電レンズシステム(101)と、
前記第2の端部(2)に、電子を分析するための測定領域(22)と
を備え、
前記静電レンズシステムが、前記レンズ開口(5)を通り前記第1の端部(1)から前記第2の端部(2)に延びる光軸(6)を備え、
前記静電レンズシステムが、前記サンプル表面(Ss)上の測定区域(A)から放出され、前記レンズ開口(5)を通して入る電子のビームを形成するように配置され、
前記静電レンズシステムが、前記電子を前記第2の端部(2)に移送するように配置される、角度分解光電子スペクトロメータ(100)のための方法であって、
前記第1のレンズ要素上に、前記サンプル(3)に対して正の電圧を印加するステップを含み、
前記サンプル(3)と前記第1のレンズ要素(4)との間に、制限開口(18)を有する少なくとも第1の遮蔽電極(17)を設けるステップであって、前記制限開口(18)が前記サンプル表面(Ss)と前記第1のレンズ要素(4)との間の距離(D)の1/5以下の前記サンプル表面(Ss)からの距離(20)内にあり、前記制限開口(18)が前記光軸(6)を取り囲み、前記制限開口(18)のサイズおよび前記サンプル表面と前記制限開口(18)との間の前記距離が、前記光軸(6)における前記サンプル表面(Ss)上の点から見て、前記光軸(6)と前記制限開口(18)上の任意の点との間の角度が、45°より大きく70°より小さいようなものである、ステップと、
前記光軸(6)の周りに配置される少なくとも1つの補償電極(7)を設けるステップと、
前記第1のレンズ要素(4)上の前記電圧によってもたらされる電場と比較して、前記サンプル表面(Ss)上の前記測定区域(A)でより低い電場が実現されるように、前記粒子を放出するサンプル(Ss)に対して負の電圧で前記補償電極(7)を配置するステップと
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項11】
前記電圧が前記第1のレンズ要素(4)および前記補償電極(7)上に印加されるとき、電位が前記測定区域(A)から前記第1のレンズ要素(4)に前記光軸(6)に沿って単調増加するように、前記補償電極(7)が構成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記補償電極(7)上の前記負の電圧が、前記第1のレンズ要素(4)上の前記正の電圧より大きい大きさを有する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記補償電極7の前記電圧が、前記測定区域(A)における前記電場が、前記補償電極(7)が前記サンプル表面(Ss)と同じ電位であるときの前記測定区域(A)における前記電場の10%未満、好ましくは5%未満、最も好ましくは1%未満となるような大きさのものである、請求項10、11、または12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記補償電極(7)から前記サンプル表面(Ss)上の前記測定区域(A)への視線をブロックする第2の遮蔽電極(8)を設けるステップを含む、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記スペクトロメータが少なくとも2つの補償電極(7’、7’’)を備え、前記補償電極に印加される前記電圧が、前記補償電極(7’、7’’)によってもたらされる最大電場の位置を動かすために変えられる、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記光軸(6)の周りに対称的に配置され、前記光軸(6)に沿って前記レンズ開口(5)と前記サンプル表面(Ss)との間に配置される補正縁部(10)を備える補正電極(9)を設けるステップを含み、電子が前記補正電極(9)を通過するのを可能にする開口を前記補正縁部(10)が画定し、前記縁部(10)上の各点が、前記レンズ開口の縁部(E
A)上の各点よりも前記光軸からより長い距離にある、請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のレンズ要素(4)上よりも高い正の電圧が、前記補正電極(9)上に印加される、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1のレンズ要素を有するレンズシステムを備え、レンズシステムに入ることができる電子のために、サンプル表面からの放出角度を増やすため、サンプル表面に対して第1のレンズ要素上に正の電圧を配置するように構成される、粒子を放出する固体サンプルのサンプル表面から放出される電子を分析するように配置された角度分解光電子スペクトロメータに関する。本発明はまた、角度分解光電子スペクトロメータのための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面の電子特性の調査は、長い間の研究分野であった。表面の電子特性の調査のために利用可能ないくつかの異なる技法がある。光子放出分光法は、光子を使用して電子がサンプルから放出される、高感度な方法である。このように放出される電子は、光電子と呼ばれる。光電子は、サンプルの表面から全方向に放出される。光電子を分析器に集めて合焦させるために、静電レンズシステムが使用される。光電子は、開口を通ってレンズシステムに入る。
【0003】
光電子は、ある受光角でレンズシステムの中に受け入れられる。受光角は、開口のサイズを増加させること、および/または、開口とサンプルとの間の距離を減らすことによって増やすことができる。異なる理由で、開口のサイズを増加させること、または、開口とサンプルとの間の距離を減らすことは、常に望ましいわけではない。受光角を増やすための別の方法は、サンプルとレンズとの間に電圧をかけて、サンプルとレンズ入口との間に抽出場を実現することであり、この抽出場は、静電レンズシステムの開口の中へと光電子を加速させる。そのような抽出場を有する静電レンズシステムは、通常油浸レンズと呼ばれる。というのは、サンプルがレンズシステムの部分であるためである。
【0004】
抽出場を使用することでの問題は、不均一または波形のサンプルが電子の軌道を歪ませ、このことによって、サンプルの角度的に分解した画像が得られるのを妨げることである。さらに、サンプルの周囲が電場に影響を及ぼし、電子の軌道を歪ませる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、固体サンプルのサンプル表面から放出される電子を分析するために配置される、角度分解光電子スペクトロメータを提供することであり、このスペクトロメータは、電子のための大きい受光角を実現する一方で、サンプル表面にほぼゼロの電場を依然として保ち、角度分布の完全性を維持する。
【0006】
別の目的は、方法、および固体サンプルのサンプル表面から放出される電子を分析するために配置される、角度分解光電子スペクトロメータレンズシステムを提供することであり、この方法は、電子のための受光角を増やす一方で、サンプル表面にほぼゼロの電場を依然として保ち、角度分布の完全性を維持する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的のうちの少なくとも1つは、独立請求項による角度分解光電子スペクトロメータおよび方法で達成される。
【0008】
さらなる利点は、従属請求項の特徴で実現される。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、第1の端部および第2の端部を有し、第1の端部に、固体サンプルのサンプル表面に面して配置されるべきレンズ開口を有する第1のレンズ要素を備える静電レンズシステムを備える、角度分解光電子スペクトロメータが提供される。角度分解光電子スペクトロメータは、第2の端部に、電子を分析するための測定領域を備える。静電レンズシステムは、レンズ開口を通って第1の端部から第2の端部に延びる光軸を備える。静電レンズシステムは、サンプル表面上の測定区域から放出され、レンズ開口を通して入る電子のビームを形成するように配置される。静電レンズシステムは、電子を第2の端部に移送するように配置される。第1のレンズ要素は、サンプルに対して正の電圧で配置されるように構成される。角度分解光電子スペクトロメータは、それが制限開口を有する少なくとも1つの遮蔽電極を備えるという点で特徴付けられる。遮蔽電極は、サンプルと第1のレンズ要素との間に配置され、制限開口がサンプル表面と第1のレンズ要素との間の距離の1/5以下のサンプル表面からの距離内にあり、制限開口が光軸を取り囲み、制限開口のサイズおよびサンプル表面と制限開口との間の距離は、光軸と、光軸におけるサンプル表面と制限開口上の任意の点との間の線との間の角度が、45°より大きく70°より小さいようなものである。角度分解光電子スペクトロメータは、第1のレンズ要素よりも測定区域からより長い距離で光軸の周りに配置される少なくとも1つの補償電極を備える。補償電極は、サンプルに対して負の電圧で配置されるように構成される。
【0010】
クーロンの法則は、真空中の点電荷からの場は、電荷からの距離の逆二乗に比例すると述べている。点0から同じ方向で、距離1に点電荷qを、距離2に電荷-4qを有する簡単で素朴な場合には、点0における場は0である。しかし、点0と電荷qとの間の直線上の場は、電荷qから離れる方を向き、電荷qに対してより小さい距離で増加する。これは、点0と電荷qとの間に置かれた電子がqに向かって加速されることを意味する。点0がサンプルであり電荷qがレンズ入口である本発明で達成されるものが、同様の場の分布である。
【0011】
本発明の第1の態様による角度分解光電子スペクトロメータでは、サンプル表面で電場を本質的にキャンセルすることが可能である。このように、電場が表面の凹凸によって歪む場合がある表面に電子が近いときに、電場が電子に影響を及ぼさない。
【0012】
補償電極に印加される電圧は、好ましくは、第1のレンズ要素上の電圧によってもたらされる電場と比較し、サンプル表面上の測定区域でより低い電場が実現されるような大きさのものである。好ましくは、電圧は、測定区域における電場が、補償電極がサンプル表面と同じ電位であるときの測定区域における電場の10%未満、好ましくは5%未満、最も好ましくは1%未満であるように選択される。補償電極上の電圧は、測定区域における電場がこれらの制限のうちの1つを満足するような大きさのものであってよい。電子による反発が起こらないように、測定区域における電場が依然として正であることが好ましい。正の電圧で電子がレンズに向けて加速され、このことによって、より大きい受光角がもたらされる。補償電極の電圧は、したがって、より大きい放出角度を有する電子がレンズ開口に入ることを可能にするレンズ効果をも実現する。
【0013】
本発明者は、サンプル表面からの非常に大きい放出角度を有する電子が、より高いレベルのノイズの一因となることに気がついた。これの理由は、部分的には、電子が大きすぎる角度でレンズ開口に入るためである。こうして、補償電極のレンズ効果によって、より高いレベルのノイズがもたらされることになる。第1の態様による制限開口を有する少なくとも1つの遮蔽電極を導入することによって、70°より大きい放出角度を有する電子が取り除かれる。このセットアップは静電型であるため、サイズを拡大縮小可能である。このセットアップのサイズを管理可能に保つため、制限開口をサンプル表面に近く、サンプル表面と第1のレンズ要素との間の距離の1/5、好ましくは1/10内に有することが好ましい。このことによって、電子を効果的に取り除くことが実現される。このことによって、ノイズレベルが低減する。
【0014】
前記電圧が第1のレンズ要素および補償電極上に印加されるとき、電位が測定区域から第1のレンズ要素に光軸に沿って単調増加するように、補償電極を構成することができる。こうして、動作において、より低い電場がサンプル表面から放出される電子に影響を及ぼすことになる。また、電圧が第1のレンズ要素と補償電極に印加されるとき、電位が測定区域から第1のレンズ要素に光軸に沿って単調増加すると、さらに低いエネルギーの粒子がレンズシステムのレンズ開口に入ることができる。
【0015】
補償電極から測定区域の距離は、好ましくは、第1のレンズ要素から測定区域の距離より長い。補償電極の区域が第1のレンズ要素の区域より大きくない限り、第1のレンズ要素上の電圧によってもたらされる電圧をキャンセルするため、測定区域において、クーロンの法則に従って、サンプル表面に対して反対極性の符号のより高い電圧を補償電極上に印加しなければならない。補償電極の区域が第1のレンズ要素の区域よりはるかに大きい場合、補償電極上の電圧の大きさは、第1のレンズ要素上の電圧の大きさより小さくてよい。第1のレンズ要素への距離が短くなると、第1のレンズ要素からの電場の影響は、補償電極からの場より早く増加することになる。したがって、測定区域における電場をキャンセルする電圧が補償電極上に印加されると、単調増加する電位が実現される。
【0016】
少なくとも1つの補償電極は、光軸の周りに対称的に配置することができる。そのような、補償電極の対称的な配置によって、測定区域における電場の所望の補償を実現することがより簡単になる。
【0017】
サンプル表面からの電子の放出は、光源からの電磁放射によって引き起こされる。できるだけ急でサンプル表面上に合焦する角度でサンプル表面に向けて電磁放射を提供することが好都合である。これを得るため、電磁放射ビームは、第1のレンズ要素の外側近くを通過する必要がある。補償電極は、サンプル表面と第1のレンズ要素との間の距離の半分以下である、光軸に沿ったサンプルからの距離内に、光軸に沿って、サンプルと第1のレンズ要素との間に配置することができる。このように補償要素を配置することによって、電磁放射がサンプルに達する余地が残る。それはまた、電磁放射を合焦する要素と補償電極との間の距離を増加させ、このことが次いで、電磁放射を合焦する要素と補償電極との間のクロストークを減少させる。
【0018】
補償電極と光軸との間の最短距離が、レンズシステムの周囲および光軸からの最長距離の2倍未満、好ましくは1.5倍未満、最も好ましくは1倍未満であるように、角度分解光電子スペクトロメータを配置することができる。このように、角度分解光電子スペクトロメータの全体の寸法が小さく保たれる。
【0019】
補償電極と光軸との間の最短距離は、レンズ開口の縁部と光軸との間の最長距離より長くてよい。このように、粒子がサンプル表面から放出されるが依然としてレンズ開口に入ることができる最大角度を補償電極が制限する危険性が取り除かれる。
【0020】
角度分解光電子スペクトロメータは、補償電極からサンプル表面上の測定区域への視線をブロックする少なくとも1つの遮蔽電極を備えることができる。そのような遮蔽電極の配置で、補償電極からの電場の効果を、補償電極、遮蔽電極、およびサンプルの幾何形状および位置によっても制御することができる。このことによっても、補償電極上の電圧の大きさが第1のレンズ要素上の電圧の大きさより低い一方で、測定区域における電場のキャンセルを可能にすることができる結果となる。
【0021】
角度分解光電子スペクトロメータは、少なくとも2つの補償電極を備えることができ、補償電極は、異なる電圧を印加して、補償電極によってもたらされる最大電場の位置の移動を可能にするように構成される。好ましくは、角度分解光電子スペクトロメータが1つより多い補償電極を備えるときの、補償電極の数は4である。補償電極のうちの2つは、サンプル表面上で第1の方向に最小電場の位置を動かすために使用することができる一方で、他の2つの電極は、サンプル表面上で第2の方向に最小電場の位置を動かすために使用することができ、第2の方向は第1の方向に対して垂直である。
【0022】
角度分解光電子スペクトロメータは、少なくとも1つの補正電極を備えることができ、補正電極は、光軸の周りに対称的に配置され、光軸に沿ってレンズ開口とサンプル表面との間に配置される補正縁部を備えており、補正縁部は電子が補正電極を通過するのを可能にする開口を画定し、補正縁部上の各点は、レンズ開口縁部上の各点よりも光軸からより長い距離にある。
【0023】
角度分解光電子スペクトロメータは、第1のレンズ要素上より補正電極上により高い正の電圧を印加するために構成することができる。補正電極の主な機能は、測定区域から大きい角度で光軸に放出される電子を引きつけることである。このように、前記電子がレンズ開口を通って入るのを阻止される。前記電子は、それらの角度に起因して、レンズ要素の第2の端部に到達しない。したがって、補正電極によってノイズが低減される。
【0024】
本発明の第2の態様によれば、第1の端部および第2の端部を有し、第1の端部に固体サンプルのサンプル表面に面して配置されるべきレンズ開口を有する第1のレンズ要素を備え、第2の端部に電子を分析するための測定区域を備える、静電レンズシステムを備える、角度分解光電子スペクトロメータのための方法が提供される。静電レンズシステムは、レンズ開口を通って第1の端部から第2の端部に延びる光軸を備える。静電レンズシステムは、サンプル表面上の測定区域から放出され、レンズ開口を通して入る電子のビームを形成するように配置される。静電レンズシステムは、電子を第2の端部に移送するように配置される。方法は、第1のレンズ要素上に、粒子を放出するサンプルに対して正の電圧を印加するステップを含む。方法は、サンプルと第1のレンズ要素との間に制限開口を有する少なくとも1つの遮蔽電極を設けるステップであって、制限開口がサンプル表面と第1のレンズ要素との間の距離の1/5以下のサンプル表面からの距離内にあり、制限開口が光軸を取り囲む、ステップを方法が含むことで特徴付けられる。制限開口のサイズおよびサンプル表面と制限開口との間の距離は、光軸と、光軸におけるサンプル表面と制限開口上の任意の点との間の線との間の角度が、45°より大きく70°より小さいようなものとなる。方法はまた、光軸の周りに配置される少なくとも1つの補償電極を設け、第1のレンズ要素上の電圧によってもたらされる電場と比較して、サンプル表面上の測定区域でより低い電場が実現されるように、粒子を放出するサンプルに対して負の電圧で補償電極を配置するステップを備えることで特徴付けられる。
【0025】
本発明の第2の態様による方法で、サンプル表面における電場を本質的にキャンセルすることが可能である。このように、電場が表面の凹凸によって歪む場合がある表面に電子が近いときに、電場が電子に影響を及ぼさない。
【0026】
補償電極に印加される電圧は、好ましくは、第1のレンズ要素上の電圧によってもたらされる電場と比較し、サンプル表面上の測定区域でより低い電場が実現されるような大きさのものである。従来技術によるセットアップでは、補償電極がサンプル表面と同じ電位であり、第1のレンズ要素上に電圧が印加される。このことによって、測定区域に電場がもたらされることになる。好ましくは、好ましい実施形態によれば、補償電極に印加される電圧は、測定区域における電場が、補償電極がサンプル表面と同じ電位であるときの測定区域における電場の10%未満、好ましくは5%未満、最も好ましくは1%未満であるように選択され、第1の例と同じ電圧が第1のレンズ要素に印加される。補償電極上の電圧は、測定区域における電場が前記制限のうちの1つを満足するような大きさのものであってよい。電子による反発が起こらないように、測定区域における電場が依然として正であることが好ましい。補償電極の電圧はまた、より大きい放出角度を有する電子がレンズ開口に入ることを可能にするレンズ効果を実現する。
【0027】
本発明者は、サンプル表面からの非常に大きい放出角度を有する電子が、より高いレベルのノイズの一因となることに気がついた。これの理由は、部分的には、電子が大きすぎる角度でレンズ開口に入るためである。こうして、補償電極のレンズ効果によって、より高いレベルのノイズがもたらされることになる。第1の態様による制限開口を有する少なくとも1つの遮蔽電極を導入することによって、70°より大きい放出角度を有する電子が取り除かれる。このセットアップは静電型であるため、サイズを拡大縮小可能である。このセットアップのサイズを管理可能に保つため、制限開口をサンプル表面に近く、サンプル表面と第1のレンズ要素との間の距離の1/5、好ましくは1/10内に有することが好ましい。このことによって、電子を効果的に取り除くことが実現される。このことによって、ノイズレベルが低減する。
【0028】
前記電圧が第1のレンズ要素および補償電極上に印加されるとき、電位が測定区域から第1のレンズ要素に光軸に沿って単調増加するように、電極を構成することができる。こうして、より低い電場がサンプル表面からの電子の放出に影響を及ぼすことになる。また、電圧が第1のレンズ要素と補償電極に印加されるとき、電位が測定区域から第1のレンズ要素に光軸に沿って単調増加すると、さらに低いエネルギーの粒子がレンズシステムのレンズ開口に入ることができる。
【0029】
補償電極上の負の電圧は、第1のレンズ要素上の正の電圧より大きい大きさを有することができる。そのような電圧で、サンプル表面における電場は、1点で完全にキャンセルすることができる。
【0030】
方法は、補償電極を、サンプル表面上の測定区域から電気的に、部分的に遮蔽する、少なくとも1つの遮蔽電極を設けるステップを含むことができる。そのような遮蔽電極の配置で、補償電極からの電場の効果を、補償電極、遮蔽電極、およびサンプルの幾何形状および位置によっても制御することができる。このことによっても、補償電極上の電圧が第1のレンズ要素上の電圧より低い一方で、測定区域における電場のキャンセルを可能にする結果となる。
【0031】
本方法は、少なくとも2つの補償電極を設けるステップを含むことができ、補償電極に印加される電圧は、全電極によって生成されるサンプル表面上の最小電場の位置を動かすために変えられる。
【0032】
方法は、光軸の周りに対称的に配置され、光軸に沿ってレンズ開口とサンプル表面との間に配置される補正縁部を備える補正電極を設けるステップを含むことができる。補正縁部は電子が補正電極を通過するのを可能にする開口を画定し、縁部上の各点は、レンズ開口縁部上の各点よりも光軸からより長い距離にある。
【0033】
第1のレンズ要素上よりも高い正の電圧を、補正電極上に印加することができる。補正電極の主な機能は、測定区域から大きい角度で光軸に放出される電子を引きつけることである。このように、前記電子がレンズ開口を通って入るのを阻止される。前記電子は、それらの角度に起因して、レンズ要素の第2の端部に到達しない。したがって、補正電極によってノイズが低減される。
【0034】
補正電極上に印加されるより高い正の電圧で、電位は、測定区域から第1のレンズ要素に光軸に沿って単調増加しないことになる。
【0035】
以下では、本発明の好ましい実施形態が図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1a】本発明の実施形態による角度分解光電子スペクトロメータを概略的に示す図である。
【
図2】第1の設定による電場からもたらされる電子の軌道を有する、
図1aに示されたスペクトロメータの一部を示す断面図である。
【
図3】第2の設定による電場からもたらされる電子の軌道を有する、
図2に示されたスペクトロメータの一部を示す断面図である。
【
図4】第2の設定による電場からもたらされる電子の軌道を有する、
図2に示されたスペクトロメータの一部を示す断面図である。
【
図5】第3の設定による電場からもたらされる電子の軌道を有する、異なる実施形態によるスペクトロメータの一部を示す断面図である。
【
図6】第4の設定による電場からもたらされる電子の軌道を有する、異なる実施形態によるスペクトロメータの一部を示す断面図である。
【
図7】異なる実施形態によるスペクトロメータの一部を示す斜視図である。
【
図8】異なる実施形態による角度分解光電子スペクトロメータの一部を示す断面図である。
【
図9】異なる実施形態による角度分解光電子スペクトロメータの一部を示す断面図である。
【
図10】異なる実施形態による角度分解光電子スペクトロメータの一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、添付図面を参照して、例示的な実施形態の、以下の例示で非限定の詳細な説明中に記載される。図面では、異なる図面中の同様の特徴が同じ参照数字によって示される。図面は原寸に比例しない。
【0038】
図1aは、本発明の実施形態による角度分解光電子スペクトロメータ100を概略的に示す。
図1bは、
図1aの一部の拡大図である。角度分解光電子スペクトロメータ100は、第1の端部1および第1の端部1からある距離の第2の端部2を有する静電レンズシステム101を備える。粒子を放出する固体サンプル3がマニピュレータ16上に配置される。粒子を放出するサンプル3は、そのサンプル表面Ssが静電レンズシステム101の第1の端部1に面して配置される。静電レンズシステム101は、レンズ開口5を有する第1のレンズ要素4およびさらなるレンズ要素12を備える。光軸6がレンズ開口5を通って第1の端部1から第2の端部2に延びる。静電レンズシステム101はまた、光軸6の周りに対称的に配置される補償電極7を備える。補償電極7は、第1のレンズ要素4上の電圧によってもたらされる電場と比較して、サンプル表面Ss上の測定区域Aで電場を低下させるため、粒子を放出するサンプルSsに対する電圧で配置されるように構成される。
図1bでは、測定区域が太線でマーキングされる。測定区域は、電子が放出される区域である。角度分解光電子スペクトロメータ100は、制限開口18を有する遮蔽電極17を備える。遮蔽電極17は、2つ以上の部分に分割することができる。遮蔽電極17は、サンプル3と第1のレンズ要素4との間に配置され、制限開口18がサンプル表面Ssと第1のレンズ要素4との間の距離Dの1/5以下のサンプル表面Ssからの距離20内にあり、制限開口18が光軸6を取り囲む。遮蔽電極17は、開口がサンプル表面Ssと第1のレンズ要素4との間の距離Dの前記1/5内である限り、サンプル表面Ssと第1のレンズ要素4との間の距離Dの前記1/5を超えて延びることができる。
図1bに示されるように、制限開口18のサイズおよびサンプル表面と制限開口18との間の距離20は、光軸6と、光軸6におけるサンプル表面Ssと制限開口18上の任意の点との間の線27との間の角度αが、45°より大きく70°より小さく、好ましくは60°より小さいようなものである。
図1bでは、角度αは約60°である。
図1bでは、測定区域Aがサンプル表面Ss上に太線として示される。サンプル3は、サンプル表面Ssと制限開口18との間の距離がサンプル3とは独立であるように配置される。粒子は、可視または紫外線またはX線であってよい電磁放射25によって、サンプル表面Ssから放出されて生じることができる。静電レンズシステム101は、粒子を放出するサンプル3のサンプル表面Ss上の測定区域Aから放出され、第1の端部1でレンズ開口5を通してレンズシステムに入る電子のビームを形成し、電子を第2の端部2に移送するように配置される。第2の端部に到達した後に、粒子は測定領域22の中へと入口21を通過し、たとえば、静電半球または飛行時間分析器であってよい分析デバイス11によって分析される。分析器はレンズシステム101の部分ではない。レンズシステム101は、レンズ開口5を有する第1のレンズ要素4を第1の端部1に備え、レンズ開口5は、前記粒子の少なくとも一部がレンズシステム101に入ることを可能にするため、サンプル表面Ssに面して配置される。レンズ開口5を通して入る粒子の数は、レンズ開口5のサイズおよび粒子を放出するサンプル3からの粒子の放出角度によって決定される。第1のレンズ要素4と粒子を放出するサンプルとの間に印加される電場がないと、測定区域から見たレンズ開口5の立体角が、レンズ開口5を通して入る粒子についての放出角度を決定する。レンズ開口5を通して入る粒子の放出角度を増加させるため、第1のレンズ要素4は、サンプル表面Ssからの粒子を引きつける、サンプル表面Ssに対する電圧で配置されるように構成される。第1のレンズ要素4にそのような正の電圧を印加することによって、測定区域Aから放出された粒子が第1のレンズ要素4に向けて加速されることになる。このことによって、より大きい放出角度を有する粒子がレンズ開口5に入る結果となる。
【0039】
前記電圧が第1のレンズ要素4および補償電極7上に印加されるとき、電位が測定区域Aから第1のレンズ要素4に光軸6に沿って単調増加するように、補償電極7が構成される。
【0040】
第1のレンズ要素4から離れて、静電レンズ要素101は、さらなるレンズ要素12を備える。さらなるレンズ要素は本出願では詳細には記載されない。というのは、本出願の焦点は、サンプル表面Ssと第1のレンズ要素4との間の場にあるためである。
【0041】
電場の機能が、
図2および
図3に関してより詳細に記載される。第1のレンズ要素4上の電圧は、電子を引きつけるために正であるべきである。補償電極7上の電場は、第1のレンズ要素4上の正の電場によってもたらされるサンプル3における電場を補償するために負であるべきである。
【0042】
図2は、第1の設定による電場からもたらされる電子の軌道13を有する、
図1に示された角度分解光電子スペクトロメータ100の一部を断面図で示す。さらなるレンズ要素は12で示される。
図2に示される実施形態では、電子の運動エネルギーが10eVであり、サンプル表面Ssに対して、200Vの正の電圧が第1のレンズ要素4に印加される。この正の電圧によって、サンプル表面Ssに近接した、強く曲がった電子軌道がもたらされる。このことによって、光軸6から+/-45度以内の角度でサンプル表面Ssから放出される電子が、何ら正の電場がない+/-15度のみと比較して、レンズ開口5を通って入ることがもたらされる。補償電極7には電圧が印加されない。サンプル表面Ssから0.2mmの電場は、この場合、8200V/mである。
【0043】
図3は、第2の設定による電場からもたらされる電子の軌道13を有する、
図1に示された角度分解光電子スペクトロメータ100の一部を断面図で示す。
図2に示される実施形態では、サンプル表面Ssに対して、200Vの正の電圧が第1のレンズ要素4に印加される。-386Vの負の電圧が補償電極7に印加される。これらの電場によって、第1の設定による電場でよりもかなり低い、表面から0.2mmで0.3V/mの電場がもたらされる。電子の運動エネルギーが100eVである場合、電圧が10倍増加すると、同じ軌道が実現される。したがって、補償電極からの負の電場と第1のレンズ要素からの正の電場との組合せによって、第1の設定による電場と比較して、サンプル表面Ssに近接したより弱く曲がった電子軌道がもたらされる。しかし、電子が第1のレンズ要素に向けて移動すると、補償電極7と第1のレンズ要素4からの組み合わされた電場が、電子軌道を曲げることになる。このことによって、光軸6から+/-45度内の角度でサンプル表面Ssから放出される電子が、使用可能な軌道でレンズ開口5を通って入る、すなわち、光軸6から+/-45度内の角度でサンプル表面Ssから放出される電子が、レンズシステム101の第2の端部2に移送される結果となる(
図1)。
【0044】
図2および
図3に見ることができるように、補償電極7は、第1のレンズ要素4と同じ側のサンプル表面Ss上に配置される。補償電極から光軸6の距離R
Cは、第1のレンズ要素と光軸との間の距離R
Aより長い。また、補償電極7は、サンプル表面Ssから光軸6に沿って、第1のレンズ要素より長い距離に配置される。これによって、補償電極7から測定区域Aにかなり長い距離がもたらされる。補償電極からの電場が第1のレンズ要素4からの電場をキャンセルすることが可能となるため、補償電極7上の負の電圧は、第1のレンズ要素4上の正の電圧よりかなり高くならなければならない。
【0045】
図4は、第2の設定による電場からもたらされる電子の軌道13を有する、
図3に示された角度分解光電子スペクトロメータ100の一部を断面図で示す。
図4は、光軸6に対して、45度より大きい放出角度を有する電子についての電子の軌道も示す。
図4に見られるように、大きい放出角度の電子の軌道の一部がレンズ開口5に入ることになる。これらの電子の軌道14は、レンズシステム101による適切な取り扱いには大きすぎる偏差を有することになる。典型的には、それらの一部は、後方折畳みマッピングで第2の端部2に移送されることになる。そのような電子によって、レンズシステム101の第2の端部2における分析器11中の信号のノイズがもたらされることになる。
図4では、大きい放出角度を有する電子のブロックを説明するために、半分の遮蔽電極17のみが示される。
図4中の実施形態ではまた、測定区域A上に電磁放射25を合焦させる合焦要素24が示される。波長および実装形態の選択に応じて、合焦要素は、x線用の毛細管、光ファイバ、レンズ、または鏡であってよい。
【0046】
図5は、第3の設定による電場からもたらされる電子の軌道を有する、異なる実施形態による角度分解光電子スペクトロメータ100の一部を断面図で示す。
図5に示される実施形態では、補償電極7は、サンプル3と第1のレンズ要素4との間に光軸6に沿ってサンプル3から距離23以内に配置され、距離23は、長手軸6に沿って、サンプル表面Ssと第1のレンズ要素4との間の距離Dの半分以下である。
図5に示される角度分解光電子スペクトロメータ100の部分は、補償電極7からサンプル表面Ss上の測定区域Aへの視線をブロックする第2の遮蔽電極8を備える。第2の遮蔽電極8は、遮蔽電極17で既に遮断されたものと別に、さらなる電子が遮断されることを可能にする。
図5に示される実施形態では、電子の運動エネルギーは10eVであり、-2.1Vの電圧が第2の遮蔽電極上に印加される。第2の遮蔽電極8上の電圧の機能は、第2の遮蔽電極8からの電子を反発させることである。補償電極は、光軸6に垂直であるとともに光軸6に沿った加速度を提供する。遮蔽電極はまた、光軸6に対して大きい角度で測定区域から放出される電子を吸収する。-30Vの電圧が補償電極に印加され、+80Vの電圧が第1のレンズ要素4に印加される。
図5に見ることができるように、光軸6に対して大きい角度で測定区域から放出される電子は、第1の遮蔽電極17によって吸収され、レンズ開口5を通って入らない。
図6中の実施形態ではまた、測定区域A上に電磁放射25を合焦させる合焦要素24が示される。
【0047】
図6は、第4の設定による電場からもたらされる電子の軌道を有する、異なる実施形態による角度分解光電子スペクトロメータ100の一部を断面図で示す。
図6に示される実施形態では、遮蔽電極8は、サンプル3に近い円錐台形状を有する。
図6中の実施形態ではまた、測定区域A上に電磁放射25を合焦させる合焦要素24が示される。
図6に見られるように、第1のレンズ要素4よりサンプルに近い補償電極7の配置によって、電磁放射25を合焦させる合焦要素24を、静電の観点から好ましい補償電極からの距離に配置することができる結果となる。また、合焦要素は、
図4の実施形態と比較して、第1のレンズ要素4により近く配置することができる。このことによって、電磁放射25が、より急な角度でサンプル表面Ss3上に入射する結果となり、それによって、次いで、サンプル表面Ss上の電磁放射25のより小さいスポットがもたらされる。
【0048】
図6に示される角度分解光電子スペクトロメータ100の部分は、光軸6の周りに対称的に配置され、光軸6に沿ってレンズ開口5とサンプル表面Ssとの間に配置される補正縁部10を備える補正電極9を備える。レンズ開口5は、レンズ開口縁部E
Aによって画定される。補正縁部10は、電子が補正電極9を通過するのを可能にする開口を画定する。補正縁部10の各点は、レンズ開口縁部E
Aよりも光軸6から長い距離にある。
【0049】
図6の実施形態では、電子の運動エネルギーが10eVであり、+100Vの電圧が第1のレンズ要素に印加され、+104Vの電圧が補正電極9に印加され、-9Vの電圧が遮蔽電極8に印加され、-1000Vの電圧が補償電極7に印加される。補正電極の主な機能は、測定区域から光軸6に大きい角度で放出される電子を引きつけることである。このように、前記電子がレンズ開口5を通って入るのを阻止される。このように、ノイズが低減される。
【0050】
図7は、異なる実施形態による角度分解光電子スペクトロメータ100一部の斜視図を示す。
図7の実施形態による角度分解光電子スペクトロメータ100の部分は、4つの補償電極7、7’、7’’、7’’’、および4つの対応する第2の遮蔽電極8、8’、8’’、8’’’を有する。
図7に示される角度分解光電子スペクトロメータ100の部分はまた、そのうちの3つのみが
図7に示される、4つの補正電極9、9’、9’’を備える。動作において、サンプル表面にわたる最も低い電場の点を動かすために、異なる電圧を異なる補償電極7、7’、7’’、7’’’に印加することができる。同じ電圧が全部の補償電極7、7’、7’’、7’’’に印加されると、最も低い電場の点は光軸となる。
【0051】
図8は、異なる実施形態による角度分解光電子スペクトロメータ100の一部を断面図で示す。
図8の角度分解光電子スペクトロメータ100は、
図5に示されたものと同様である。
図8の実施形態と
図5の実施形態との間の主な違いは、
図8の光電子スペクトロメータ100が第3の遮蔽電極26を備えるということであり、本実施形態の第3の遮蔽電極26は、
図8の第1の遮蔽電極と同様である。第3の遮蔽電極26は、第1の遮蔽電極17と第2の遮蔽電極8との間に配置される。
図8では、マニピュレータのふたが第1の遮蔽電極17を構成する。遮蔽電極上で場所を変えて、異なる位置に制限開口18を有する第1の遮蔽電極17を有することが可能となる。しかし、できるだけサンプルの近くに制限開口18を有することが好ましい。というのは、そのような配置によって、周囲の環境から効果的にサンプルが遮蔽されることになるためである。
【0052】
図9は、異なる実施形態による角度分解光電子スペクトロメータ100の一部を断面図で示す。
図8との比較での唯一の違いは、補償電極7がレンズ開口5の下流に、すなわち、
図2~
図4のように動かされていることである。
【0053】
図10は、異なる実施形態による角度分解光電子スペクトロメータ100の一部を断面図で示す。
図10の実施形態は、第1の遮蔽電極17がマニピュレータのふたで構成されるという違いだけで、
図5に示された実施形態と同様である。
【0054】
上で記載した実施形態は、添付される特許請求の範囲およびそれらの制限によってだけ制限される、本発明の範囲から逸脱することなく多くの方法で変更することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 第1の端部
2 第2の端部
3 固体サンプル、粒子を放出するサンプル
4 第1のレンズ要素
5 レンズ開口
6 光軸、長手軸
7 補償電極
7’ 補償電極
7’’ 補償電極
7’’’ 補償電極
8 第2の遮蔽電極
8’ 第2の遮蔽電極
8’’ 第2の遮蔽電極
8’’’ 第2の遮蔽電極
9 補正電極
9’ 補正電極
9’’ 補正電極
10 補正縁部
11 分析デバイス、分析器
12 さらなるレンズ要素
13 電子の軌道
14 電子の軌道
16 マニピュレータ
17 第1の遮蔽電極
18 制限開口
20 距離
21 入口
22 測定領域
23 距離
24 合焦要素
25 電磁放射
26 第3の遮蔽電極
27 線
100 角度分解光電子スペクトロメータ
101 静電レンズシステム、静電レンズ要素
【国際調査報告】