(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】水素の製造方法及びプラント
(51)【国際特許分類】
C25B 1/04 20210101AFI20240126BHJP
C01B 3/08 20060101ALI20240126BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240126BHJP
C25B 11/046 20210101ALI20240126BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240126BHJP
C25B 11/049 20210101ALI20240126BHJP
C25B 11/087 20210101ALI20240126BHJP
【FI】
C25B1/04
C01B3/08 Z
C25B9/00 A
C25B11/046
C25B11/052
C25B11/049
C25B11/087
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546212
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(85)【翻訳文提出日】2023-09-20
(86)【国際出願番号】 IB2021050731
(87)【国際公開番号】W WO2022162423
(87)【国際公開日】2022-08-04
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523288086
【氏名又は名称】ギーニ、ディーノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギーニ、ディーノ
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011CA13
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
(57)【要約】
解離形態の塩酸を含む水溶液から水素を製造する方法であって、水溶液中には異なる標準還元電位を有する複数の金属を含む金属合金で構成された少なくとも1つの電極が存在し、この方法は、電極内で発生した電子が金属対の間で低い電位の金属から高い電位の金属に流れる結果として、水溶液中に存在するヒドロニウムイオンを水素に還元する工程と、得られた水素を水溶液から取り出す工程と、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解離形態の塩酸を含む水溶液(20)から出発して水素を製造する方法であって、
前記水溶液はヒドロニウムイオン(H
3O
+)を含み、前記水溶液中には異なる標準還元電位を有する複数の金属を含む金属合金で構成された少なくとも1つの電極が存在し、
前記少なくとも1つの電極において生成された電子が、金属対の間で低い電位を有する金属から高い電位を有する金属へと流れる結果として、前記水溶液中に存在するヒドロニウムイオン(H
3O
+)を水素ガス(H
2)に還元する工程と、
得られた水素ガスを前記水溶液から取り出す工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記金属合金が、マグネシウムと、ベリリウム(Be)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1種の金属と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属合金が主にマグネシウムを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属合金が、85重量%~95重量%、好ましくは90重量%~91重量%の範囲の量のマグネシウムを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電極の金属合金は、
A)Mg:90.81%、Al:5.83%、Zn:2.85%、Mn:0.45%、Si:0046%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%
又は
b)Mg:90.65%、Al:5.92%、Zn:2.92%、Mn:0.46%、Si:0043%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%
から構成される、請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの電極の外面が、少なくとも1種の金属フッ化物、好ましくはフッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム及び/又はフッ化亜鉛を含む被覆層で被覆されている、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記被覆層が、メタクリル樹脂と混合された前記少なくとも1種の金属フッ化物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記メタクリル樹脂が、50重量%~70重量%のPFTEと、15重量%~25重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)と、15重量%~25重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)とを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記メタクリル樹脂が、60重量%のPFTEと、20重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)と、20重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)とを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの電極の前記被覆層が、0.5mm~3.0mm、より好ましくは1.0mm~2.0mmの厚さを有する、請求項6から請求項9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの電極が、その端部の1つにグラファイト要素を有し、前記少なくとも1つの電極の外面の前記被覆層が前記グラファイト要素を覆わない、請求項6から請求項10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの電極の内部に、金属要素、好ましくは鉄又は炭素鋼棒が設けられ、前記金属要素が前記グラファイト要素と接触している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記外面の前記被覆層が、有孔テープ若しくはPTFEメッシュで包まれるか、又は、前記電極に向かう前記水溶液に対して透過性であり、反対方向の前記水溶液に対して不透過性である半透過性の布テープで包まれている、請求項6から請求項12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水溶液が、5%~10%の濃度の塩酸を含む、請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記水溶液のpHが2~4の範囲である、請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒドロニウムイオンの水素ガスへの還元反応が、20℃~70℃、好ましくは55℃~60℃の温度で行われる、請求項1から請求項15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒドロニウムイオンの水素ガスへの還元反応が、大気圧未満の圧力で行われる、請求項1から請求項16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記水溶液が、前記水溶液の再循環工程及び脱気工程によって再生され、前記脱気工程が前記水溶液から酸素が除去される濾過工程を含む、請求項1から請求項17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記濾過工程が、好ましくはMnO
2が充填された多孔質バッフルメンブレンフィルタを用いて行われ、酸素(O
2)及び塩素(Cl
2)の両方が別々に放出される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
放出された前記塩素が回収され、好ましくはバブリングによって前記水溶液中に再導入される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記再循環工程が、反応温度を実質的に一定に維持するように調整された前記水溶液を冷却する工程を含む、請求項18から請求項20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
解離形態の塩酸を含む前記水溶液(20)中にフッ化水素酸(HF)を供給することをさらに含む、請求項1から請求項21までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記フッ化水素酸(HF)が、前記水溶液10,000ml当たり、50ml~70ml、最も好ましくは60mlの量で添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記電極(複数可)に可視コヒーレント光を照射することを含む、請求項1から請求項23までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記電極(複数可)にLED光を照射することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項1~25に記載の方法に従って水素を製造するためのプラントであって、
解離形態の塩酸を含む水溶液(20)を貯蔵するための少なくとも1つのバッファ槽(1)と、
水素を生成するための少なくとも1つの反応器(2、3)であって、内部に異なる標準還元電位を有する複数の金属を含む金属合金から構成される少なくとも1つの電極が収容されている、少なくとも1つの反応器(2、3)と、
前記少なくとも1つのバッファ槽(1)から前記少なくとも1つの反応器(2、3)に前記水溶液を供給するための少なくとも1つの供給ライン(22、23)と、
前記少なくとも1つの反応器(2、3)から前記少なくとも1つのバッファ槽(1)に前記水溶液を再循環させるための少なくとも1つの再循環ライン(26、28;27、28)と、
前記少なくとも1つの再循環ライン(26、28;27、28)に沿って配置された、前記水溶液を再生するための少なくとも1つの装置(10)と、
前記少なくとも1つの反応器から水素ガスを取り出すための手段(4、5)と、
を含むプラント。
【請求項27】
前記少なくとも1つの再生装置(10)が、前記水溶液から酸素(O
2)を分離することができる、好ましくはMnO
2で充填された少なくとも1つの多孔質バッフルメンブレンフィルタを含む濾過装置を備える、請求項26に記載のプラント。
【請求項28】
前記濾過装置が真空下で動作する、請求項27に記載のプラント。
【請求項29】
前記少なくとも1つの再循環ライン(26、28;27、28)に沿って少なくとも1つの冷却装置(8、9)を備える、請求項26から請求項28までのいずれか1項に記載のプラント。
【請求項30】
請求項1から請求項25までに記載の水素を製造する方法で用いる電極であって、
マグネシウムと、ベリリウム(Be)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1種の金属とを含む金属合金で構成される、電極。
【請求項31】
前記金属合金が、85重量%~95重量%、好ましくは90重量%~91重量%の範囲の量のマグネシウムを含む、請求項30に記載の電極。
【請求項32】
前記金属合金は、
A)Mg:90.81%、Al:5.83%、Zn:2.85%、Mn:0.45%、Si:0046%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%
又は
b)Mg:90.65%、Al:5.92%、Zn:2.92%、Mn:0.46%、Si:0043%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%
から構成される、請求項31に記載の電極。
【請求項33】
前記電極の外面が、少なくとも1種の金属フッ化物、好ましくはフッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム及び/又はフッ化亜鉛を含む被覆層で被覆されている、請求項30から請求項32までのいずれか1項に記載の電極。
【請求項34】
前記被覆層が、メタクリル樹脂と混合された前記少なくとも1種の金属フッ化物を含む、請求項33に記載の電極。
【請求項35】
前記メタクリル樹脂が、50重量%~70重量%のPFTEと、15重量%~25重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)と、15重量%~25重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)とを含む、請求項34に記載の電極。
【請求項36】
前記メタクリル樹脂が、60重量%のPFTEと、20重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)と、20重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)とを含む、請求項35に記載の電極。
【請求項37】
前記電極の前記被覆層が、0.5mm~3.0mm、より好ましくは1.0mm~2.0mmの厚さを有する、請求項30から請求項36までのいずれか1項に記載の電極。
【請求項38】
前記少なくとも1つの電極が、その端部の1つにグラファイト要素を有し、前記少なくとも1つの電極の外面の前記被覆層が前記グラファイト要素を覆わない、請求項30から請求項37までのいずれか1項に記載の電極。
【請求項39】
前記電極の内部に、金属要素、好ましくは鉄又は炭素鋼棒が設けられ、前記金属要素が前記グラファイト要素と接触している、請求項38に記載の電極。
【請求項40】
前記外面の前記被覆層が、有孔テープ若しくはPTFEメッシュで包まれるか、又は、前記電極に向かう水溶液に対して透過性であり、反対方向の前記水溶液に対して不透過性である半透過性の布テープで包まれている、請求項33から請求項39までのいずれか1項に記載の電極。
【請求項41】
請求項1から請求項25までに記載の水素を製造する方法で用いる水溶液であって、
ヒドロニウムイオン(H
3O
+)と塩化物イオン(Cl
-)とを含む、水溶液。
【請求項42】
ヒドロニウムイオン(H
3O
+)及び塩化物イオン(Cl
-)に加えて、フッ化水素酸(HF)を含む、請求項41に記載の水溶液。
【請求項43】
前記フッ化水素酸(HF)が、前記水溶液10,000ml当たり、50ml~70ml、最も好ましくは60mlの量である、請求項42に記載の水溶液。
【請求項44】
異なる標準還元電位を有する複数の金属を含む金属合金から構成される電極の被覆方法であって、
前記電極が、請求項1から請求項25までに記載の水素を製造する方法で用いられ、
-前記電極をフッ化水素酸及び水浴に浸漬する工程であって、前記電極の外面を構成する前記金属が前記フッ化水素酸と反応して、金属フッ化物塩のフッ素化パティーナを形成する工程と、
-金属フッ化物塩の前記フッ素化パティーナを乾燥させる第1の乾燥工程と、
-前記フッ素化パティーナ上にメタクリル樹脂ゲルを塗布する工程と、
-得られた金属フッ化物及びメタクリル樹脂を含む混合物を乾燥させる第2の乾燥工程と、
を含む、電極の被覆方法。
【請求項45】
前記メタクリル樹脂が、50重量%~70重量%のPFTEと、15重量%~25重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)と、15重量%~25重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)とを含む、請求項44に記載の電極の被覆方法。
【請求項46】
前記第2の乾燥工程の最後に、前記電極が、有孔テープ若しくはPTFEメッシュで包まれるか、又は、前記電極に向かう前記水溶液に対して透過性であり、反対方向の前記水溶液に対して不透過性である半透過性の布テープで包まれる、請求項44又は請求項45に記載の電極の被覆方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、化学及び精製産業において現在使用されている重要な原料である。また、環境への影響が少なく、エネルギー含有量が高いことから、水素を燃料として使用することへの関心が高まっている。
【0003】
現在、大規模な水素製造のための最も一般的な方法は、出発材料として炭化水素や化石燃料を使用することを伴う。
【0004】
主な炭化水素の変換プロセスは水蒸気改質であり、水蒸気の存在下で軽質炭化水素(例えば、メタン)の吸熱的な触媒変換からなる。
【0005】
もう1つの方法は部分酸化であり、重質炭化水素(例えば、石油化学工業からの重油残渣)を酸素の存在下で熱処理する。
【0006】
しかしながら、炭化水素の利用は、大気中への大量のCO2の排出を伴い、地球の熱収支を増大させ、温室効果をもたらすため、環境に非常に悪い影響を及ぼす。
【0007】
現在、CO2を同時に生成することなく水素を製造するための多くの技術が研究されている。
【0008】
その1つが水の電気分解(水電解)である。しかしながら、この技術は生成される水素の量が限られていること、電気を使用するコストが高いこと等、多くの欠点を有する。これらの理由から、水電解プロセスは、現在、生産される水素のごくわずかな量しかカバーしていない。
【0009】
水素はまた、生物学的生産を介して又は熱を利用した熱分解によって水から得ることができる。しかしながら、これらの技術でさえ、大規模な水素製造には非効率的である。
【0010】
したがって、よりエネルギー効率が高く、大気中へのCO2排出を削減することができ、より低コストである、大量の水素を製造する方法を開発することが急務である。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、エネルギー消費が低減され、環境への影響が少ない、大量の水素を製造する方法を提供することを目的とする。
【0012】
これは、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0013】
本発明の方法によれば、水素は解離形態の塩酸を含む水溶液から生成され、前記水溶液はヒドロニウムイオン(H3O+)を含み、前記水溶液中には、様々な標準還元電位を有する複数の金属を含む金属合金で構成された少なくとも1つの電極が存在する。この方法は、
金属対の間の前記少なくとも1つの電極で発生した電子が、低い電位の金属から高い電位の金属に流れる結果として、前記水溶液中に存在するヒドロニウムイオン(H3O+)を水素ガス(H2)に還元する工程と、
このようにして得られた水素ガスを、前記水溶液から取り出す工程と、
を含む。
【0014】
前記水溶液は、塩酸を水中に導入することによって調製され、塩酸は解離して、以下の式に従って、それぞれ遊離ヒドロニウムイオン(H3O+)を放出し、塩素イオン(Cl-)を形成する。
HCl + H2O → H3O+ + Cl- (1)
【0015】
標準還元電位(E0)は、化学種が電子を得る傾向、すなわち還元される傾向の尺度である。E0の値が高いほど、化学種の電子親和力が高く、還元されやすい。標準還元電位E0は、電位E0=0.00V(ボルト)の標準水素電極に関連して定義され、標準条件下、すなわち温度298K(25℃)及び圧力100kPa(1バール)で測定される。
【0016】
各対の金属間の電位差は、電子のこの流れが、低い電位の金属から高い電位の金属に移動することを確実にするのに十分な大きさでなければならない。好ましくは、前記電位差は少なくとも0.20ボルト、より好ましくは少なくとも0.50ボルトに等しい。
【0017】
前記電子の流れが生成される金属の各対において、電子を放出する金属は、アノードとして動作し、半反応式に従って還元剤として作用して酸化する。
M → Mn+ + ne- (2)
【0018】
「n」は整数であり、好ましくは2又は3である。
【0019】
電子を受け取る金属は、代わりに不活性カソードとして動作する。カソードでは、溶液中に存在するH3O+イオンが酸化剤として作用し、半反応式に従って電子を獲得する。
2H+ + 2e- → H2 (3)
【0020】
特に前記少なくとも1つの電極上では、以下の酸化還元反応が起こる。
H2O(l) → O2(g) + 2H2(g) (4)
【0021】
この反応により酸素とともに水素ガスが生成する。
【0022】
前記少なくとも1つの電極を形成する金属合金は、好ましくはマグネシウム(Mg)と、ベリリウム(Be)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの金属とを含む。
【0023】
好ましい実施形態において、前記金属合金は、主にマグネシウムを含む。特に好ましい実施形態では、前記金属合金は、85重量%~95重量%の範囲、好ましくは90重量%~91重量%の範囲の量のマグネシウムを含む。
【0024】
マグネシウムは、前記複数の金属の中で最も低い標準還元電位を有する金属であり、このため電子を移動させる傾向が最も大きい。したがって、金属合金が水溶液と接触すると、マグネシウムから前記複数の金属の各金属への電子の移動が起こる。これにより、マグネシウムは常にアノードとして動作し、nが値「2」を有する半反応式(1)に従って酸化する。
【0025】
ケイ素は、前記金属のセットの中で最も高い標準還元電位を有する金属であり、このため常に不活性カソードとして動作して、溶液中に存在するヒドロニウムイオンは、半反応式(2)に従って水素ガスを形成する電子を獲得する。
【0026】
マグネシウム(Mg)とケイ素(Si)の中間の標準還元電位を有する各金属は、電子交換が行われる金属に応じて、半反応式(1)に従って不活性カソード又はアノード酸化として動作する。半反応式(1)がBe、Mn、Zn、Fe、Cu、Niなどの金属を含む場合、nは値「2」をとり、代わりにAlなどの金属を含む場合、nは値「3」をとる。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、前記金属合金は、重量%で、Mg:90.81%、Al:5.83%、Zn:2.85%、Mn:0.45%、Si:0.046%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%の組成を有する。
【0028】
本発明の別の実施形態によれば、前記金属合金は、重量%で、Mg:90.65%、Al:5.92%、Zn:2.92%、Mn:0.46%、Si:0.043%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%の、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%の組成を有する。
【0029】
本発明の特に有利な実施形態によれば、前記少なくとも1つの電極は、少なくとも1つの金属フッ化物(特に、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム及び/又はフッ化亜鉛)を含む被覆層でその外面が被覆されている。
【0030】
好ましくは、前記少なくとも1つの電極は、メタクリル樹脂と混合された前記金属フッ化物のうちの1種以上を含む被覆層で外部が被覆される。さらに好ましくは、前記メタクリル樹脂は、50重量%~70重量%のPFTE、15重量%~25重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)、及び15%重量~25重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)を含む。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記メタクリル樹脂は、60重量%のPFTE、20重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)、及び20重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)を含む。
【0032】
好ましくは、前記少なくとも1つの電極のこの被覆層は、0.5mm~3.0mm、より好ましくは1.0mm~2.0mmの厚さを有する。
【0033】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、前記少なくとも1つの電極は、その一方の端部に、電極の外面の前記被覆層によって覆われていないグラファイト要素を有する。
【0034】
有利には、前記少なくとも1つの電極の内部には、例えば鉄又は炭素鋼棒などの金属要素も設けられ、この金属要素は電極の前記グラファイト要素と接触している。
【0035】
本発明のさらに別の実施形態によれば、前記少なくとも1つの電極の外面被覆層は、有孔テープ(perforated tape)又はPTFEメッシュで包まれている。好ましくは、被覆層上に適用される前記テープ又はPTFEメッシュは、数ミクロン、例えば1μm~3μmの厚さを有する。
【0036】
本発明の別の実施形態によれば、前記少なくとも1つの電極の外面被覆層は、半透過性の布テープで包まれており、この布テープは、電極に向かう水溶液に対して透過性であり、反対方向の水溶液に対しては不透過性である。前記布は、水素に対しても透過性である。
【0037】
前記水溶液は、塩酸を水中に導入して混合物を形成することによって調製される。好ましくは、前記混合物は、5%~10%、好ましくは6%~7%の範囲の量の塩酸を含む。前記パーセントの値は、体積%である。
【0038】
水溶液中の塩酸の存在により、本発明の方法は酸性環境で行われる。前記方法が行われるpHは、好ましくは2~4の範囲、より好ましくは2~3. 4の範囲である。
【0039】
前記方法は、好ましくは20℃~70℃の範囲、好ましくは55℃~60℃の範囲の温度で実施される。
【0040】
前記の方法は、好ましくは大気圧未満の圧力、例えば、0. 3バール~0. 5バール(絶対圧)の圧力で実施される。
【0041】
このようにして得られた水素は、低分子量であるため、溶液から自然に放出される。
【0042】
プロセス中に発生した酸素は、その高い分子量から、代わりに水溶液中に残存し、水溶液中に存在する塩素と結合して次亜塩素酸(HClO)を形成する傾向がある。
【0043】
本発明の好ましい実施形態によれば、水溶液中の次亜塩素酸の蓄積を回避するために、後者は、有利には、水溶液の再循環工程及び脱気工程によって再生される。これらの工程は、半反応式(3)に関して上述した還元工程中に水素と共に生成された酸素を取り出すために調整される。前記脱気工程は、酸素が除去される濾過工程を含む。
【0044】
特に、濾過工程は、好ましくはMnO2が充填された多孔質バッフルメンブレンフィルタ(porous baffle membrane filters)を用いて行われ、その間に、酸素(O2)及び塩素(Cl2)の両方が別々に放出される。次いで、塩素は、好ましくはバブリングによって、それを水溶液に再導入することによって回収される。
【0045】
好ましくは、前記脱気工程は真空下で実施される。
【0046】
本発明による方法の基礎を形成する反応は発熱性であるので、前記再循環工程は、好ましくは反応温度を前述の範囲内に維持するように調整された、水溶液を冷却する工程も含む。
【0047】
本発明の別の態様は、上述の方法に従う水素を製造するためのプラントに関する。
このプラントは、
解離形態の塩酸を含む水溶液を貯蔵するための少なくとも1つのバッファ槽と、
異なる標準還元電位を有する複数の金属を含む金属合金から構成される少なくとも1つの電極が収容されている、水素を製造するための少なくとも1つの反応器と、
前記少なくとも1つのバッファ槽から前記少なくとも1つの反応器に前記水溶液を供給するための少なくとも1つの供給ラインと、
前記少なくとも1つの反応器から前記少なくとも1つのバッファ槽へ水溶液を再循環させるための少なくとも1つの再循環ラインと、
水溶液の再生のための少なくとも1つの装置であって、前記少なくとも1つの再循環ラインに沿って配置される、少なくとも1つの装置と、
前記少なくとも1つの反応器から水素ガスを取り出すための手段と、
を含む。
【0048】
好ましくは、前記再生装置は、前記少なくとも1つの反応器内での水素の生成(脱気)中に形成される酸素(O2)を分離するように調整され、好ましくはMnO2が充填された、例えば少なくとも1つの多孔質バッフルメンブレンフィルタを含む濾過装置を含む。好ましくは、前記濾過装置は、真空下で動作する。
【0049】
好ましくは、本発明によるプラントはまた、前記再循環ラインに沿って少なくとも1つの冷却装置を備え、この冷却装置は、前記少なくとも1つの反応器からの水溶液流出物を冷却し、反応温度を20℃~70℃の範囲に維持するように適合された少なくとも1つの熱交換器を含む。
【0050】
特に有利な実施形態によれば、前記冷却装置は、再生装置の上流に配置される。
【0051】
いくつかの実施形態では、プラントは、並列に配置された2つの反応器を備えており、2つの反応器の各々が、水溶液の供給ライン及び再循環ライン、再循環ライン内を循環する水溶液の再生装置、及び水素取出手段を有する。
【0052】
本発明の別の対象は、上述の水素製造方法で使用するための金属合金からなる電極に関する。電極が作製される金属合金の組成、ならびに電極及びその被覆層の実際の構造に関しては、プロセスに関連して提供される説明を参照することができる。
【0053】
本発明の対象はまた、ヒドロニウムイオン(H3O+)及びクロリドイオン(Cl-)を含む、上記の水素製造方法で使用するための水溶液である。
【0054】
本発明のさらなる対象は、前記少なくとも1つの電極の外面を被覆するための方法である。
【0055】
前記方法は、
- 前記少なくとも1つの電極をフッ化水素酸及び水浴中に浸漬することを含む工程であって、電極の外面を構成する金属がフッ化水素酸と反応して、金属フッ化物塩のフッ素化パティーナ(patina)を形成する工程と、
- 金属フッ化物塩の前記フッ素化パティーナを乾燥させる第1の工程と、
- 前記フッ素化パティーナ上にメタクリル樹脂ゲルを塗布する工程であって、前記メタクリル樹脂は、前記方法に関連して記載された種類のものである、メタクリル樹脂ゲルを塗布する工程と、
- このようにして得られた金属フッ化物及びメタクリル樹脂を含む混合物を、前記電極の外面被覆層を得るために乾燥させる第2の工程と、
を含む。
【0056】
好ましくは、前記第2の乾燥工程は、10~16時間、より好ましくは12時間の持続時間を有する。
【0057】
本発明の好ましい実施形態によれば、電極を被覆するための方法は、前記第2の乾燥工程の最後に、有孔テープ又はPTFEメッシュで電極を包む工程をさらに含む。好ましくは、前記テープ又はPTFEメッシュは、数ミクロン、例えば1μm~3μmの厚さを有する。
【0058】
本発明の別の実施形態によれば、電極を包む前記工程は電極に向かう水溶液に対して透過性であり、反対方向の水溶液に対して不透過性である半透過性の布テープを用いて実行される。前記布はまた、水素に対しても透過性である。
【0059】
本発明は、熱エネルギー及び電気エネルギーの外部からの投入を実質的に伴わずに水素を得ることができるためエネルギー消費が低く、大気中へのCO2の排出を伴わないので環境への影響が少なく、また、塩酸は広く市販されている物質であるため低価格である、大量の水素を製造する方法を提供することができるという利点を有する。
【0060】
本発明の利点は、非限定的な例として提供される、好ましい実施形態に関する以下の詳細な説明によって、より明確に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】
図1は、本発明に係る方法の好ましい実施形態に係る水素を製造するためのプラントを示す図である。
【
図2】
図2は、
図1のプラント図の電極を詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1は、水素を連続的に製造するためのプラント100を示す。それは、本質的に、水溶液20を貯蔵するためのバッファ槽1と、互いに同一でかつ並列に配置された水素を生成するための2つの反応器2及び3と、バッファ槽1から反応器2及び3に水溶液を供給するためのライン21、22及びライン21、23の各々と、前記反応器2及び3で生成された水素ガスを取り出すための、例えば従来の排出管である、手段4及び5と、を備える。
【0063】
反応器2及び3の各々は、それぞれ番号6及び7で示されるカートリッジを含み、各カートリッジは、異なる標準還元電位を有する金属からなる金属合金から構成される複数の電極を備えている。
【0064】
前記金属合金は、マグネシウムと、ベリリウム(Be)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの金属と、を含む。好ましくは、マグネシウムが85重量%~95重量%、より好ましくは90重量%~91重量%の量で含まれる。
【0065】
前記電極は、粒状形態で存在する前記金属が混合され、完全に溶融されるまで加熱され、このようにして得られた溶融塊が専用の型にキャストされ、その内部で冷却固化されるプロセスに従って、粒状形態で存在する前記金属から得られる。最後に、本発明に係る電極が前記型から取り出される。
【0066】
本発明の好ましい実施形態によれば、溶融塊をキャストする前に、鉄又は炭素鋼棒などの金属要素が前記型内に配置される。好ましくは、金属要素は、その一端部が溶融塊と接触しないように、前記型の内部に配置される。溶融塊が冷却され、電極が前記型から取り出されると、金属要素の前記端部は電極の外側に配置され、電極から突出する。
【0067】
【0068】
前記
図2は、前記金属合金からなる実質的に円筒状本体201を備える電極200を概略的に示す。円筒状本体201は、その内部に収容された金属棒202を有する。金属棒202は、その一端部203が円筒状本体201から突出している。前記端部203は、そこに固定されたグラファイト要素204を有する。好ましくは、グラファイト要素は金属棒202の前記端部にねじ留めされ、プラスチックワッシャ205がグラファイト要素204と円筒状本体201との間に配置される。このようにして、グラファイト要素203と金属棒202との間の接触部が形成される。
【0069】
次に、円筒状本体201は概して206で示される外面被覆層を順に有する。外面被覆層206は、少なくとも1種の金属フッ化物(特に、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム及び/又はフッ化亜鉛)が、メタクリル樹脂208、好ましくは60重量%のPFTE、20重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)及び20%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)と混合された層207を含む。
【0070】
少なくとも1つの金属フッ化物及びメタクリル樹脂からなる外面被覆層206は、有利には、数ミクロン、例えば1μm~3μmの厚さを有する有孔テープ又はPTFEメッシュ209で包むことによって順に被覆される。
【0071】
図1の例では、電極とカートリッジ6及び7の各々は、底部に対して上昇した位置で、反応器2及び3の内部に配置されている。
【0072】
反応器2、3の各々は、水溶液を再循環させるためのそれぞれのライン26、28及び27、28によってバッファ槽1と流体連通しており、これらのラインは、前記水溶液を処理するための一連の装置を通過する。特に、反応器2、3の各々は、前述の再循環ラインを介して、少なくとも1つの熱交換器(図示せず)からなる冷却装置8、9と流体連通している。水溶液は、冷却装置8、9から、多孔質バッフルメンブレンフィルタを含む濾過装置10に流入する。多孔質バッフルメンブレンフィルタは、好ましくはMnO2(図示せず)で充填され、反応器2及び3内での水素製造中に生成される酸素(O2)を分離することができる(脱気)。
【0073】
再循環ライン26、28、27、28の各々は、実質的に前記反応器の底部まで延在する特別な導出管12、13を介して反応器2、3の内部と接続される。特に、前記導出管12、13の開口部は、反応器2、3の底部とカートリッジ自体の基部との間で、カートリッジ6、7の下方に配置される。
【0074】
プラントはまた、バッファ槽1内に存在する水溶液の内部再循環のための1つ以上のラインを有する。要求に応じて、これらのラインは、それぞれの接続ダクトを介して、反応器に水溶液を供給するためのラインに接続することができる。
図1に示す例では、それぞれの接続ダクト24b及び25bを介して供給ライン22及び23に接続された2つの内部再循環ライン24及び25がある。
【0075】
プラントはまた、バッファ槽1の上流にセクション14を備えており、セクション14では、塩酸の酸溶液40を主水41と混合することによって水溶液10が調製される。このセクション14は、本質的に、酸溶液40を貯蔵するための槽15と、主水を濾過するための装置16と、濾過された水を供給するためのライン42とを備えている。
【0076】
主水の流れ41は、濾過装置16の上流にある弁V1と、その下流にある逆止弁V2とによって制御される。代わりに、溶液40は、槽15に接続された空気圧ポンプP1によって圧送される。空気圧ポンプP1は、バッファ槽1への充填時に作動され、空気圧弁V3を開く。次いで、溶液40は逆止弁V4を通過し、濾過された主水42と混合され、前述の水溶液20を形成する。
【0077】
前記水溶液20は、好ましくは3体積%~20体積%、5体積%~10体積%、好ましくは6体積%~7体積%の量の塩酸を含む。
【0078】
使用中、プラント100は以下のように動作する。
【0079】
バッファ槽1には、水溶液20が充填されている。次いで、前記水溶液は、それぞれの液面レベルL1及びL2に達するまで反応器2及び3に供給される。
【0080】
より詳細には、
図1に示す例を参照すると、ライン21を介してバッファ槽1を出た水溶液はポンプP2によって圧送され、反応器2及び3の充填を制御する流量計17を通って運ばれ、次いで2つの部分に分けられる。これらの各部分は、ライン22及び23を介して、それぞれの空気圧弁V6及びV7を通過して、反応器2及び3に供給される。
【0081】
反応器が充填されると、水溶液は所定の時間(好ましくは、数分の範囲内)だけ反応器内に留まり、電極の存在下で反応して、反応式(4):H2O(l) → O2(g) + 2H2(g)に従って、酸素と水素ガスとを発生する。反応温度は好ましくは55℃~60℃であり、圧力は2.5バール~3バールである。
【0082】
このようにして得られた水素ガスは、低分子量であるため、溶液から放出され、反応器2、3内の収集チャンバに蓄積される。前記収集チャンバは、液面レベルL1、L2とそれぞれの反応器の蓋との間に配置される。前記収集チャンバ内に蓄積された水素は、それぞれの排出管4及び5を通して反応器2及び3から取り出され、適切な槽(図示せず)内に貯蔵される。
【0083】
代わりに、水溶液は、それぞれの導出管12、13を介して抜き出され、再循環ライン26、27内で再循環される。水溶液の抜き出しは、空気圧弁V5及びV6によって制御され、空気圧弁V5及びV6の開度は反応器2、3内の液面レベルL1及びL2によって制御される。
【0084】
カートリッジ6、7の下方にある導出管12、13の開口部の位置は、電極で生成された水素ガスが、水溶液と共に再循環ライン26、27に引き込まれないような位置とされる。
【0085】
再循環ライン26、27を介して反応器から取り出された水溶液は、冷却水流(図示せず)との間接的な熱交換によって、まず冷却装置8、9の熱交換器における冷却工程に供される。再循環ライン26、27内を循環する水溶液は、反応器2、3の内部で一定温度(好ましくは、55℃~60℃)が維持されるように冷却される。
【0086】
このように冷却された水溶液は、次いで、水溶液から酸素を取り出すために、脱気工程に供される。この脱気工程は、好ましくは濾過装置10の内部の真空下で実施される濾過工程を含む。これにより、酸素が水溶液から分離され、専用の排出管32を介して取り出される。真空下という用語は、1バールよりわずかに低い圧力、例えば0. 5バール~0. 8バールの間の圧力を意味する。
【0087】
濾過工程が、好ましくはMnO2(図示せず)が充填された多孔質バッフルメンブレンフィルタを用いて装置10の内部で実施されている間に、酸素に加えて塩素(Cl2)も別途放出される。次いで、塩素は、好ましくはバブリングによって、水溶液に再導入することによって回収される。
【0088】
その後、酸素を実質的に含まない水溶液が、再循環ライン28を介してバッファ槽1に再循環される。
【0089】
水溶液20は、液面レベルL1、L2を一定に保つように、バッファ槽1から、供給ライン21、22、21、23を介して、反応器2、3に連続的に再導入される。前記水溶液20は、内部再循環ライン24及び25を通して再循環させることによって一定の動きを維持する。再循環を可能にするために、水溶液はそれぞれのポンプP3及びP4によって圧送される。
【0090】
反応器2及び3の点検又はメンテナンスを伴う操作の間、反応器2及び3はそれぞれの流路29及び30を介して空にされ、水溶液は流れ31として廃棄物回収槽(図示せず)に送られる。これらの操作の間、必要に応じて、電極の再生を行うことが可能である。特に、これらの電極をフッ化水素酸の水溶液に適当な時間(例えば、10~20分間、好ましくは15分間)だけ浸漬することによって、電極の外面被覆層206を復元することが可能である。
【0091】
必要に応じて、プラントの運転中、内部再循環ライン24、25内を循環する水溶液の一部を、再循環ライン24、25をそれぞれの供給ライン22、23に接続するそれぞれのダクト24b、25bを介して反応器2、3に供給することができる。
【0092】
プラントで使用される装置は、有利には密閉式で実現され、好ましくは鋼製であり、濾過装置10に加えて、バッファ槽1も真空下で動作する。この場合、バッファ槽1内の圧力は、0.03バール~0.08バールである。これにより、水溶液中に存在する酸素が外気と接触することがない。
【実施例】
【0093】
以下に、本発明に係る方法の実施例を説明する。
【0094】
高さ120cm、直径30cmを有する2つの同一の円筒状の反応器を使用した。
【0095】
各々の反応器に、同じく円筒状で、高さ40cm、直径4cmを有し、Mg:90.81%、Al:5.83%、Zn:2.85%、Mn:0.45%、Si:0.046%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%からなる金属合金で作製された32個の電極を含むカートリッジを導入した。
【0096】
カートリッジを、反応器の底部から約20cmの高さに配置した。
【0097】
次いで、各反応器に、総容量25リットルの水及び塩酸を含む溶液を充填した。
【0098】
前述の溶液は、2.36リットルの38%塩酸溶液を、前述の容量25リットルに相当する量の主水に導入することによって調製した。
【0099】
したがって、反応器中の溶液の組成は、水が26.464リットル、塩酸が0.896リットルとなった。
【0100】
換言すれば、混合物は、96.72体積%の主水と3.28体積%の塩酸とを含んでいた。
【0101】
溶液の滞留時間は約15分であり、22Nm3/hの水素ガスを生成することができた。このような水素の製造方法では、1.5kWh未満のエネルギー消費が有利に達成された。
【0102】
さらなる実施形態によれば、本発明の方法はまた、解離形態の塩酸を含む水溶液(20)中にフッ化水素酸(HF)を供給することを含む。好ましくは、このようなフッ化水素酸(HF)は、前記水溶液10,000ml当たり、50ml~70ml、最も好ましくは60mlの量で添加される。
【0103】
これに関連して、本発明の方法で使用するための水溶液はまた、ヒドロニウムイオン(H3O+)及び塩化物イオン(Cl-)に加えて、上記の量のフッ化水素酸(HF)を含む。このような水溶液中で、フッ化水素酸はイオン解離を起こす。
【0104】
電極に可視コヒーレント光、特にLED光を照射することにより、水素ガス(H2)の生成量が20%まで増加するという、特に満足のいく結果が得られる。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解離形態の塩酸を含む水溶液(20)から出発して水素を製造する方法であって、
前記水溶液はヒドロニウムイオン(H
3O
+)を含み、前記水溶液中には異なる標準還元電位を有する複数の金属を含む金属合金で構成された少なくとも1つの電極が存在し、
前記少なくとも1つの電極において生成された電子が、金属対の間で低い電位を有する金属から高い電位を有する金属へと流れる結果として、前記水溶液中に存在するヒドロニウムイオン(H
3O
+)を水素ガス(H
2)に還元する工程と、
得られた水素ガスを前記水溶液から取り出す工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記金属合金が、マグネシウムと、ベリリウム(Be)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1種の金属と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属合金が主にマグネシウムを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属合金が、
85重量%~95重量%の範囲の量のマグネシウムを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電極の金属合金は、
A)Mg:90.81%、Al:5.83%、Zn:2.85%、Mn:0.45%、Si:0046%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%
又は
b)Mg:90.65%、Al:5.92%、Zn:2.92%、Mn:0.46%、Si:0043%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%
から構成される、請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの電極の外面が、少なくとも1種の
金属フッ化物を含む被覆層で被覆されている、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記被覆層が、メタクリル樹脂と混合された前記少なくとも1種の金属フッ化物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記メタクリル樹脂が、50重量%~70重量%のPFTEと、15重量%~25重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)と、15重量%~25重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)とを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記メタクリル樹脂が、60重量%のPFTEと、20重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)と、20重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)とを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの電極の前記被覆層が、
0.5mm~3.0mmの厚さを有する、請求項6から請求項9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの電極が、その端部の1つにグラファイト要素を有し、前記少なくとも1つの電極の外面の前記被覆層が前記グラファイト要素を覆わない、請求項6から請求項10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの電極の内部に、
金属要素が設けられ、前記金属要素が前記グラファイト要素と接触している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記外面の前記被覆層が、有孔テープ若しくはPTFEメッシュで包まれるか、又は、前記電極に向かう前記水溶液に対して透過性であり、反対方向の前記水溶液に対して不透過性である半透過性の布テープで包まれている、請求項6から請求項12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水溶液が、5%~10%の濃度の塩酸を含む、請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記水溶液のpHが2~4の範囲である、請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒドロニウムイオンの水素ガスへの還元反応が、
20℃~70℃の温度で行われる、請求項1から請求項15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒドロニウムイオンの水素ガスへの還元反応が、大気圧未満の圧力で行われる、請求項1から請求項16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記水溶液が、前記水溶液の再循環工程及び脱気工程によって再生され、前記脱気工程が前記水溶液から酸素が除去される濾過工程を含む、請求項1から請求項17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記濾過工程
が、多孔質バッフルメンブレンフィルタを用いて行われ、酸素(O
2)及び塩素(Cl
2)の両方が別々に放出される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
放出された前記塩素が回収され
、前記水溶液中に再導入される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記再循環工程が、反応温度を実質的に一定に維持するように調整された前記水溶液を冷却する工程を含む、請求項18から請求項20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
解離形態の塩酸を含む前記水溶液(20)中にフッ化水素酸(HF)を供給することをさらに含む、請求項1から請求項21までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記フッ化水素酸(HF)が、前記水溶液10,000ml当たり、
50ml~70mlの量で添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記電極(複数可)に可視コヒーレント光を照射することを含む、請求項1から請求項23までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記電極(複数可)にLED光を照射することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項1~25に記載の方法に従って水素を製造するためのプラントであって、
解離形態の塩酸を含む水溶液(20)を貯蔵するための少なくとも1つのバッファ槽(1)と、
水素を生成するための少なくとも1つの反応器(2、3)であって、内部に異なる標準還元電位を有する複数の金属を含む金属合金から構成される少なくとも1つの電極が収容されている、少なくとも1つの反応器(2、3)と、
前記少なくとも1つのバッファ槽(1)から前記少なくとも1つの反応器(2、3)に前記水溶液を供給するための少なくとも1つの供給ライン(22、23)と、
前記少なくとも1つの反応器(2、3)から前記少なくとも1つのバッファ槽(1)に前記水溶液を再循環させるための少なくとも1つの再循環ライン(26、28;27、28)と、
前記少なくとも1つの再循環ライン(26、28;27、28)に沿って配置された、前記水溶液を再生するための少なくとも1つの装置(10)と、
前記少なくとも1つの反応器から水素ガスを取り出すための手段(4、5)と、
を含むプラント。
【請求項27】
前記少なくとも1つの再生装置(10)が、前記水溶液から酸素(O
2)を分離することができ
る、少なくとも1つの多孔質バッフルメンブレンフィルタを含む濾過装置を備える、請求項26に記載のプラント。
【請求項28】
前記濾過装置が真空下で動作する、請求項27に記載のプラント。
【請求項29】
前記少なくとも1つの再循環ライン(26、28;27、28)に沿って少なくとも1つの冷却装置(8、9)を備える、請求項26から請求項28までのいずれか1項に記載のプラント。
【請求項30】
請求項1から請求項25までに記載の水素を製造する方法で用いる電極であって、
マグネシウムと、ベリリウム(Be)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)のうちの少なくとも1種の金属とを含む金属合金で構成される、電極。
【請求項31】
前記金属合金が、
85重量%~95重量%の範囲の量のマグネシウムを含む、請求項30に記載の電極。
【請求項32】
前記金属合金は、
A)Mg:90.81%、Al:5.83%、Zn:2.85%、Mn:0.45%、Si:0046%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%
又は
b)Mg:90.65%、Al:5.92%、Zn:2.92%、Mn:0.46%、Si:0043%、Cu:0.0036%、Be:0.0012%、Fe:0.0010%、Ni:0.00050%
から構成される、請求項31に記載の電極。
【請求項33】
前記電極の外面が、少なくとも1種の
金属フッ化物を含む被覆層で被覆されている、請求項30から請求項32までのいずれか1項に記載の電極。
【請求項34】
前記被覆層が、メタクリル樹脂と混合された前記少なくとも1種の金属フッ化物を含む、請求項33に記載の電極。
【請求項35】
前記メタクリル樹脂が、50重量%~70重量%のPFTEと、15重量%~25重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)と、15重量%~25重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)とを含む、請求項34に記載の電極。
【請求項36】
前記メタクリル樹脂が、60重量%のPFTEと、20重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)と、20重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)とを含む、請求項35に記載の電極。
【請求項37】
前記電極の前記被覆層が、
0.5mm~3.0mmの厚さを有する、
請求項33から請求項36までのいずれか1項に記載の電極。
【請求項38】
前記少なくとも1つの電極が、その端部の1つにグラファイト要素を有し、前記少なくとも1つの電極の外面の前記被覆層が前記グラファイト要素を覆わない、
請求項33から請求項37までのいずれか1項に記載の電極。
【請求項39】
前記電極の内部に、
金属要素が設けられ、前記金属要素が前記グラファイト要素と接触している、請求項38に記載の電極。
【請求項40】
前記外面の前記被覆層が、有孔テープ若しくはPTFEメッシュで包まれるか、又は、前記電極に向かう水溶液に対して透過性であり、反対方向の前記水溶液に対して不透過性である半透過性の布テープで包まれている、請求項33から請求項39までのいずれか1項に記載の電極。
【請求項41】
請求項1から請求項25までに記載の水素を製造する方法で用いる水溶液であって、
ヒドロニウムイオン(H
3O
+)と塩化物イオン(Cl
-)とを含む、水溶液。
【請求項42】
ヒドロニウムイオン(H
3O
+)及び塩化物イオン(Cl
-)に加えて、フッ化水素酸(HF)を含む、請求項41に記載の水溶液。
【請求項43】
前記フッ化水素酸(HF)が、前記水溶液10,000ml当たり、
50ml~70mlの量である、請求項42に記載の水溶液。
【請求項44】
異なる標準還元電位を有する複数の金属を含む金属合金から構成される電極の被覆方法であって、
前記電極が、請求項1から請求項25までに記載の水素を製造する方法で用いられ、
-前記電極をフッ化水素酸及び水浴に浸漬する工程であって、前記電極の外面を構成する前記金属が前記フッ化水素酸と反応して、金属フッ化物塩のフッ素化パティーナを形成する工程と、
-金属フッ化物塩の前記フッ素化パティーナを乾燥させる第1の乾燥工程と、
-前記フッ素化パティーナ上にメタクリル樹脂ゲルを塗布する工程と、
-得られた金属フッ化物及びメタクリル樹脂を含む混合物を乾燥させる第2の乾燥工程と、
を含む、電極の被覆方法。
【請求項45】
前記メタクリル樹脂が、50重量%~70重量%のPFTEと、15重量%~25重量%の1,2-プロパンジオールモノメタクリレート(CAS 27813-02-1)と、15重量%~25重量%のヒドロキシエチルメタクリレート(CAS 868-77-9)とを含む、請求項44に記載の電極の被覆方法。
【請求項46】
前記第2の乾燥工程の最後に、前記電極が、有孔テープ若しくはPTFEメッシュで包まれるか、又は、前記電極に向かう前記水溶液に対して透過性であり、反対方向の前記水溶液に対して不透過性である半透過性の布テープで包まれる、請求項44又は請求項45に記載の電極の被覆方法。
【国際調査報告】