(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-02
(54)【発明の名称】核融合増殖ブランケット
(51)【国際特許分類】
G21B 1/13 20060101AFI20240126BHJP
G21B 1/11 20060101ALI20240126BHJP
G21C 3/24 20060101ALI20240126BHJP
【FI】
G21B1/13
G21B1/11 G
G21C3/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546216
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 GB2022050248
(87)【国際公開番号】W WO2022162393
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523288204
【氏名又は名称】オックスフォード シグマ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】デービス・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】マスグローブ・ジョナサン
(57)【要約】
トリリウム燃料を増殖するために核融合炉で使用する新規のブランケット設計および構成を提示する。増殖ブランケット設計は、異なる鋼から形成された異なるセクションからなる鋼製導管からなり、鋼製導管は液体増殖材を循環させるために使用される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ核融合炉用の増殖ブランケット(300;400;500)であって、
前壁(310;410;510)と、
プラズマとは反対の前記第1の壁の側(310;410;510)に位置する複数の鋼製導管(330;430;530)であって、液体増殖材を循環させるための複数の第1セクション(340;440;540)と複数の第2セクション(350;450;550)を有する、前記複数の鋼製導管と
を備え、
前記複数の第1セクション(340;440;540)は前記プラズマから離れており、前記複数の第2セクション(350;450;550)は前記プラズマに近接しており、
前記複数の第2セクション(350;450;550)の前記鋼は、酸化物の分散粒子で強化されている、増殖ブランケット。
【請求項2】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第1セクションと前記複数の第2セクションの前記鋼は、アルミナ形成鋼(FeCrAl)である、請求項1に記載の増殖ブランケット。
【請求項3】
前記粒子は主に直径がl00nm以下、好ましくは直径が50nm以下、より好ましくは平均直径が5nmである、請求項1または2に記載の増殖ブランケット。
【請求項4】
前記酸化物の粒子は、酸化イットリウム(Y
2O
3)、二酸化ジルコニウム(ZrO
2)、またはそれらの混合物からなる群から選択される1または複数の酸化物のナノ粒子である、請求項1、2、または3に記載の増殖ブランケット。
【請求項5】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第1セクションの前記鋼は、重量%で、
8.0~14.0のクロム(Cr)と、
3.0~6.0のアルミニウム(Al)と、
0.5~2.0のモリブデン(Mo)と、
0.5~1.1のニオブ(Nb)と、
0.1~0.2のチタン(Ti)と、
各々が0.02未満の炭素(C)、および窒素(N)とを含み、
残りの残部が鉄(Fe)を含む、請求項2に記載の増殖ブランケット。
【請求項6】
好ましくは、前記複数の鋼製導管の前記複数の第1セクションの前記鋼は、重量%で:
8.5~9.5のCrと、
5.0~6.0のAlと、
1.1~1.5のMoと、
0.9~1.1のNbと、
0.125~0.175のTiとを含む、請求項5に記載の増殖ブランケット。
【請求項7】
前記鋼製導管の前記第2セクションの前記鋼は、凝固前の重量%で、
8.0~14.0のCrと、
3.0~6.0のAlと、
0.5~2.0のMoと、
0.5~1.1のNbと、
0.1~0.2のTiと、
0.1~0.5の酸化イットリウム(Y
2O
3)と、
各々が0.02未満のC、及びNのとを含み、
残りの残部がFeを含む、請求項2に記載の増殖ブランケット。
【請求項8】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションの前記鋼は、凝固前の重量%で:
8.5~9.5のCrと、
5.0~6.0のAlと、
1.1~1.5のMoと、
0.9~1.1のNbと、
0.125~0.175のTiと、
0.25~0.3のY
2O
3と、を含む、請求項2に記載の増殖ブランケット。
【請求項9】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションの前記鋼は、凝固前の重量%で、
0.2~0.5のジルコニウム(Zr)を更に含む、請求項7または8に記載の増殖ブランケット。
【請求項10】
前記複数の鋼製導管は、前記プラズマからの中性子束と平行に延びるように前記増殖ブランケットに配置された複数のチューブまたは複数のパイプであり、及び/または
前記複数の鋼鉄製導管は、前記プラズマからの中性子束に対して垂直に延びるように前記増殖ブランケット内に配置された複数のチューブまたは複数のパイプである、請求項1から9のいずれか1項に記載の増殖ブランケット。
【請求項11】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションの長さに対する前記複数の鋼製導管の前記複数の第1セクションの長さの比は、1以上である、請求項10に記載の増殖ブランケット。
【請求項12】
前記鋼製導管は中空の平行六面体を形成している、請求項1から9のいずれか1項に記載の増殖ブランケット。
【請求項13】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションの長さに対する前記複数の鋼製導管の前記複数の第1セクションの長さの比は、1未満である、請求項12に記載の増殖ブランケット。
【請求項14】
前記増殖ブランケット内に1つ以上のバッフルを更に備える、請求項12又は13に記載の増殖ブランケット。
【請求項15】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションは、前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションと前記複数の第1セクションとが互いに接続される溶接領域を更に備え、前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションは、前記溶接領域外では酸化物粒子の均一な分布を有し、前記溶接領域内には酸化物の前記分散粒子が欠乏している、請求項1から14のいずれか1項に記載の増殖ブランケット。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の増殖ブランケットを備える、トリチウム燃料を増殖させるためのシステムであって、液体増殖材が前記増殖ブランケットに戻す前に、前記増殖ブランケットから熱交換器、精製システム、およびトリチウム抽出システムに前記液体増殖材を導くための鋼製配管を更に備える、システム。
【請求項17】
前記配管に使用される前記材料は、アルミナ形成フェライト鋼(FeCrAl)である、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記液体増殖材は、以下のいずれかの溶融混合物を含む、請求項16または17に記載のシステム:
フッ化リチウム(LiF)、およびフッ化ベリリウム(BeF
2);または
Pb-Li共晶合金または他のPb-Li合金;または
リチウム-錫合金。
【請求項19】
液体増殖材の循環用の鋼製導管を備えるプラズマ核融合炉用増殖ブランケットを構築する構築方法であって、
ピルジリング(pilgering)により、アルミナ形成フェライト鋼から前記複数の鋼製導管の複数の第1セクションを形成することと、
押出により、酸化物の分散粒子を有する酸化物分散強化型(ODS)アルミナ形成フェライト鋼から前記鋼製導管の複数の第2セクションを形成することと、
前記複数の第2セクションを前記複数の第1セクションに溶接すること
とを含む構築方法。
【請求項20】
前記複数の第1のセクションと前記複数の第2のセクションは、摩擦鋼溶接で互いに溶接される、請求項19に記載の構築方法。
【請求項21】
酸化物の前記分散粒子は、主に直径が100nm以下、好ましくは直径が50nm以下、より好ましくは直径が5nmである、請求項19または20に記載の増殖ブランケット。
【請求項22】
酸化物ナノ粒子の前記分散粒子は、酸化イットリウム(Y
2O
3)、二酸化ジルコニウム(ZrO
2)、またはそれらの混合物の群から選択される1つ以上の酸化物である、請求項19から21のいずれかに記載の構築方法。
【請求項23】
前記導管の前記第1セクションの前記鋼を形成することは、
重量%で:
8.0~14.0のクロム(Cr)と、
3.0~6.0のアルミニウム(Al)と、
0.5~2.0のモリブデン(Mo)と、
0.5~1.1のニオブ(Nb)と、
0.1-0.2のチタン(Ti)と、
各々が0.02未満の炭素(C)、および窒素(N)とを提供することであって、鉄(Fe)を含む残りの残部を、提供することと、
鋼に凝固させること
とを含む、請求項19に記載の構築方法。
【請求項24】
好ましくは、前記導管の前記第1セクションの前記鋼を形成することは、
重量%で:
8.5~9.5のCrと、
4.0~5.0のAlと、
1.1~1.5のMoと、
0.9~1.1のNbと、
0.125~0.175のTiとを提供することを含む、請求項23に記載の構築方法。
【請求項25】
前記導管の前記第2セクションの前記鋼を形成することは、
重量%で:
8.0~14.0のCrと、
3.0~6.0のAlと、
0.5~2.0のMoと、
0.5~1.1のNbと、
0.1~0.2のTiと、
0.1~0.5の酸化イットリウム(Y
2O
3)と、
各々0.02未満のC、およびNとを提供することであって、Feを含む残りの残部を、提供することと、
酸化物分散鋼に凝固させることとを含む、請求項18に記載の構築方法。
【請求項26】
好ましくは、前記導管の前記第1セクションの前記鋼を形成することは、
重量%で:
8.5~9.5のCrと、
4.0~5.0のAlと、
1.1~1.5のMoと、
0.9~1.1のNbと、
0.125~0.175のTiと、
0.25~0.3のY
2O
3とを提供することを含む、請求項25に記載の構築方法。
【請求項27】
前記導管の前記第2セクションの前記鋼を形成することは、
重量%で、
0.2~0.5のジルコニウム(Zr)を提供すること更に含む、請求項25に記載の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合型原子炉用の増殖ブランケットの材料構成に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー部門では、より環境に優しくクリーンなエネルギーへの需要が成長するにつれて、核融合エネルギー技術に対する関心が高まりを見せている。核融合は、2つの原子核がそれらのコロンビック斥力(Columbic repulsion)に抗して融合する物理反応である。核融合エネルギー技術は、2つの水素の同位体の融合によるこの基本的な核反応を利用する。
【0003】
水素は、最も軽い既知の化学元素であり、宇宙に最も豊富に存在する化学物質であり、全バリオン質量の約75%を占めている。水素には、プロチウム(P)、重水素(D)、およびトリチウム(T)という、3つの自然に発生する同位体がある。Pは、最も一般的な水素の同位体であり、1つの陽子を持ち、中性子は持たない。これは、地球の海洋において自然に発生する水素全ての99.98%以上を占める。重水素としても知られるDは、1つの陽子と1つの中性子を含み、地球の海洋においては水素6420個中約1個の原子の天然存在度を有し、当該海洋において自然に発生する水素全ての約0.02%(質量%で0.03%)を占める。Tは、水素の希少な放射性同位体であり、1つの陽子と2つの中性子を含んでいる。自然に発生するトリチウムは地球上では非常にまれである。大気中では微量にしか存在せず、そのガスと宇宙線との相互作用によって形成される。核融合エネルギー技術は、DとTのプラズマの核融合を利用する。
【0004】
磁気閉込核融合では、D-Tプラズマが、限界温度(>50,000,000℃)下で融合することで、高エネルギーの中性子とヘリウム原子核を放出する。D-Tの核融合によって生成される17.6MeVのエネルギーの約80%は、放出される中性子によって取得される。この反応は次式に要約される:
【0005】
【0006】
磁気ミラー、Zピンチ、ステラレーター、およびトカマクなど、数多くの磁気閉込D-Tプラズマ核融合装置が長年にわたって研究および開発されてきた。現在まで、D-T核融合を達成する最も一般的な方法は、強力な磁場を使用して高温のD-Tプラズマをトーラス状に閉じ込めるトカマクを使用することである。
【0007】
最も先進的なトカマク設計は、ジョイント・ヨーロッパ・トーラスおよびITERなどの「D」形トカマク(これは従来のトカマクとしても知られている)と、トーラスの内部半径を最小化した球形トカマクである。球状トカマクは、A<2.5のアスペクト比を有する。ここで、アスペクト比Aは、トーラスの短半径に対するトーラスの長半径の比として定義される。トカマクの典型的な特徴には、高いプラズマ電流、大きなプラズマ体積、プラズマの起動および加熱のための補助加熱、および従来型または超電導の磁石によって供給される強力なトロイダル磁場が含まれる。発電核融合条件の場合、トカマク装置は、自立核融合を可能にするために、長い閉込時間、高いプラズマ密度、および高温を維持する必要がある。
【0008】
トリチウムは、核融合炉に必要な量を入手することが困難である。D-T燃料核融合炉の場合、トリチウムはD-T核融合反応から生成される中性子を介して炉内で「増殖」する必要がある。最も効率的なアプローチは、リチウムを用いた中性子の捕捉を通して、次の反応によってトリチウムを生成することである:
【0009】
【0010】
【0011】
図1は、トカマク核融合炉装置を示す。トカマク核融合炉装置は、例示のみに使用される。他の核融合炉装置も可能である。これは、トリチウムを増殖させるための増殖ブランケットで囲まれた、磁気的閉込D-Tプラズマを備える。増殖ブランケットは、D-T核融合反応中に放出される中性子にさらされるリチウム含有材で備える。リチウム含有材は、セラミック(例えば、Li
2O、LiAlO
2、Li
2ZrO
3、Li
4SiO
4)、液体金属形態(PbLiまたはSnLi合金または純粋なLi)、または溶融塩(Li
2F-BeF
2)であり得る。
【0012】
増殖ブランケットの機能と特性は、トカマク装置の種類によってではなく、むしろ、核融合反応によって生成される中性子束、フルエンス、およびエネルギースペクトルによって定義される。増殖ブランケットの設計を実行するのに使用されるパラメーターはトリチウム増殖比(TBR)である。これは、核融合反応によって消費されるトリチウムに対する増殖ブランケット内で生成されるトリチウムの比率である。余剰>5%(最低として)が、例えば環境への損失、放射性崩壊、および抽出非効率のようなシステム内のトリチウム損失を補償するために、組み込まれた状態で、TBR>1.05が実行可能な増殖ブランケットのコンセプトに要求される。
【0013】
図1の核融合炉装置は、D-Tプラズマに重水素を更に供給する重水素源や、(増殖ブランケットに液状形態または溶融塩形態のリチウムが含まれる場合の)増殖ブランケットにリチウムを更に供給するリチウム源などの一次燃料源も備える。
【0014】
図1の核融合炉装置は、ヘリウム抽出システムを示す。これはオプションである。
【0015】
加えて、(構造材における吸収を通じた中性子の損失など)システム内への中性子の漏洩に備えるために、
図1の核融合炉装置に中性子増倍材を設けてもよい。一般的な中性子増倍体には、放出される中性子のエネルギーが5MeVを超える場合に使用されるベリリウムのほか、鉛、錫、ウラン、タングステン、および超ウラン元素が含まれる。典型的な中性子増倍反応は、鉛、錫、タングステン、またはベリリウムの場合は(n,2n)である。ウラン/超ウラン元素の場合、典型的な中性子増倍反応は(核分裂、Xn)である。ここで、Xは核分裂同位体に依存する1~5の数字である。なお、列記されている幾つかの元素は、タングステンがE>5MeVのため、(n,2n)のエネルギー閾値反応を持つ。
【0016】
図1の核融合炉装置には、蒸気発生器に接続される熱交換器も具備される。熱交換器は、冷却材が流れるパイプ/チューブを備え、リチウムブランケットから熱を抽出し、蒸気発生器に導かれて蒸気を生成し、最終的には電力を生成する。典型的なタイプの冷却材には、液体増殖材(Pb-Li、Li、または溶融塩)、水、二酸化炭素ガス、メタン、液体ナトリウム、またはヘリウムガスが含まれる。
【0017】
核融合増殖ブランケット内の増殖材として液体金属を使用することが、現在進行中の一つの科学研究分野になっている。これは、固体増殖と比較した場合、放射性廃棄物の削減、高まるプラント入手可能性、およびトリチウム増殖制御の容易さ故に、最も適切な増殖材であろうと考えられている。核融合が信頼できる電源になるためには、ブランケット内でトリチウムが生成される速度を正確に制御する必要がある。更に、液体増殖材は核融合炉用の冷却材としても機能し、最終的には蒸気タービンサイクルを通じて発電する。
【0018】
このような冷却/増殖材の有力な候補は、FLiBe(Li2BeF4)、液体金属Li、および液体金属共晶LiPb(17:83)(但し、Li-Pbの任意の組合せも想定し得る)である。どちらも、大気条件(よって、構造的な力は最小である)、および高温(これは高レベルの効率とコージェネレーション性の可能性を意味する)で良好に機能する。FLiBe(Li2BeF4)、Li、およびLiPb(17:83)は、(密度の違いによる)異なる速度でリチウムを燃焼させ、さまざまな量の不純物を生成する。
【0019】
但し、FLiBeとLiPb(17:83(共晶))は両方とも、FLiBe(Li2BeF4)の場合は腐食、LiとLiPbの場合は溶解などの大きな問題を引き起こし、どちらも、増殖ブランケットにおける冷却/増殖材の実行可能な閉込めに影響を与える。450℃を超える温度では、液体LiPbは、特にクロミア(Cr2O3)形成オーステナイト鋼にとって、非常に腐食性のある媒体となる。更に、中性子照射下では、クロム(Cr)濃度が高いと(>9重量パーセント(wt%))、フェライト系鋼にCrに富んだα’相およびσ相の析出物が形成される故に、深刻な時効脆化が発生する可能性がある。オーステナイト系鋼の場合、中性子照射によって400~600℃の間で放射線誘発膨張が生じる可能性もある。FLiBeの場合、負電荷を持ったフッ素元素が構造材(ニッケル系および鉄系材料)内のCrと反応し、材料からCrが浸出する。この浸出効果(腐食および/または溶解とも呼ばれる)により、材料が脆化する。FLiBe内の水などの不純物は、フッ化水素(HF)を形成し、これも材料を激しく攻撃する。
【0020】
ライマン、スティーブン S、およびサングン・リーの「溶融塩化物およびフッ化物塩における腐食研究の集計とデータ分析」(Journal of Nuclear Materials 511(2018):523-35)では、溶融塩の腐食に影響を与える要因について議論されている。塩の純度が溶融塩化物およびフッ化物における腐食速度と最も強い相関関係を持つことを報告している。また、彼らは、溶融塩の精製を最小限の腐食レベルまで達成できない場合は、熱力学的に安定したコーティングなどの代替方法を検討する必要があることも示している。
【0021】
CN111863286Aには、炭化ケイ素管をベースとしたベリリウム系液体クラッドが記載されている。
【0022】
FLiBeおよびLiPbなどの二重機能の冷却/増殖材を使用できるように、高レベルの腐食、経年脆化、および放射線脆化を回避する新設計の増殖ブランケットが必要である。このような増殖ブランケットの設計は、原子炉全体の機能を改善することが想定され、そして増殖ブランケットの寿命を延ばすことになる。
【0023】
本発明の様々な実施形態および態様を、添付の図面を参照しながら以下に制限なく説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】中国特許出願公開第111863286号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の第1態様に係るプラズマ核融合炉用の増殖ブランケットは、前壁と、前記前壁のプラズマとは反対の側に位置する複数の鋼製導管とを備える。前記複数の鋼製導管は、液体増殖材の循環させるための、複数の第1セクションと複数の第2セクションを有する。前記複数の第1セクションは前記プラズマから離隔されており、前記複数の第2セクションは前記プラズマに近接している。前記複数の第2セクションの鋼は、酸化物の分散粒子で強化されている。
【0026】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第1セクションおよび前記複数の第2セクションの鋼は、好ましくはアルミナ形成鋼であるFeCrAl(好ましくはフェライト/またはマルテンサイト鋼)である。
【0027】
前記分散粒子は、主として直径が100nm以下、好ましくは直径が50nm以下、より好ましくは平均直径が5nmである。それらは、酸化イットリウムであるY2O3、二酸化ジルコニウムであるZrO2、またはそれらの混合物からなる群から選択される1または複数の酸化物のナノ粒子でもよい。
【0028】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第1セクションの鋼は、重量%で:8.0~14.0のクロム(Cr);3.0~6.0のアルミニウム(Al);0.5~2.0のモリブデン(Mo);0.5~1.1のニオブ(Nb);0.1~0.2のチタン(Ti)、および各々が0.02未満の炭素(C)および窒素(N)とを含む。残りの残部は鉄(Fe)を含む。
【0029】
より好ましくは、前記複数の鋼製導管の前記複数の第1セクションの鋼は、重量%で:8.5~9.5のCr;5.0~6.0のAl;1.1~1.5のMo;0.9~1.1のNb;および0.125~0.175のTiとを含む。
【0030】
好ましくは、前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションの鋼は、凝固前の重量%で:8.0~14.0のCr;3.0~6.0のAl;0.5~2.0のMo;0.5~1.1のNb;0.1~0.2のTi;0.1~0.5の酸化イットリウム(Y2O3);および各々が0.02未満のCおよびNを含む。残りの残部はFeを含む。
【0031】
より好ましくは、前記複数の第2セクションの鋼は、凝固前の重量%で:8.5~9.5のCr;5.0~6.0のAl;1.1~1.5のMo;0.9~1.1のNb;0.125~0.175のTi;および0.25~0.3のY2O3を含む。
【0032】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションの鋼は、凝固前の重量で、0.2~0.5%のジルコニウム(Zr)を更に含んでもよい。
【0033】
前記複数の鋼製導管は、前記プラズマからの中性子束と平行に延びるように前記増殖ブランケットに配置された複数のチューブまたは複数のパイプ、および/または前記プラズマからの中性子束に対して垂直に延びるように前記増殖ブランケットに配置された複数のチューブまたは複数のパイプでもよい。則ち、主な配置は、前記束が主に前記複数のチューブ/複数のパイプに沿うようでも、または前記複数のチューブ/複数のパイプが前記束を横切るようでもよい。後者の配置は、前記プラズマに近い領域で前記束をブロックするのに適している。異なる領域で異なる配置があってもよい。
【0034】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションの長さに対する前記複数の鋼製導管の前記複数の第1セクションの長さの比は、1以上であることが好ましい。
【0035】
複数のチューブ/複数のパイプの代替として、前記複数の鋼製導管は中空の平行六面体または箱または同様の形状を形成してもよい。この場合、前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションの長さに対する前記複数の鋼製導管の前記複数の第1セクションの長さの比は、1未満であることが好ましい。1または複数のバッフルが、前記箱中のより完全な流れのためにそして静的な増殖材のデッドスペースを避けるべく、増殖材の流れを前記複数のバッフル周りに通過させるように、前記箱内にあってもよい。
【0036】
前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションは、前記複数の鋼製導管の前記複数の第2セクションと前記複数の第1セクションとが互いに接続される溶接領域を含んでもよい。前記溶接領域は、一般に均一な酸化物粒子の分布を有する前記複数の第2セクションと相対的に、分散した酸化物粒子が欠乏している。上記配置は、トリチウム燃料を増殖するためのシステムの構成要素でもよい。前記システムは、液体増殖材を前記増殖ブランケットに戻す前に、前記増殖ブランケットから熱交換器、精製システム、およびトリチウム抽出システムに液体増殖材を導くための鋼製配管を有する。前記配管に使用される材料は、アルミナ形成フェライトマルテンサイト鋼であることが好ましい。
【0037】
前記液体増殖材は、フッ化リチウム(LiF)およびフッ化ベリリウム(BeF2)の溶融混合物でもよい。或いは、Pb-Li共晶合金または他のPb-Li合金またはリチウム-スズ合金でもよい。
【0038】
プラズマ核融合炉用の増殖ブランケットを構築する方法も提供される。前記方法は、ピルジリング(pilgering)により、アルミナ形成フェライト系マルテンサイト鋼から前記複数の鋼製導管の複数の第1セクションを形成すること;押出により、酸化物の分散粒子を有する酸化物分散強化型(ODS)アルミナ形成フェライト鋼から、前記複数の鋼製導管の複数の第2セクションを形成すること;および前記複数の第2セクションを前記複数の第1セクションに溶接することを含む。
【0039】
前記複数の第1セクションと前記複数の第2セクションは、摩擦鋼溶接で互いに溶接されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【0041】
【
図2】
図2は、トロイダルトカマク核融合炉の断面図を示す。
【0042】
【
図3a】
図3aは、Y-Z平面における第1実施形態の核融合増殖ブランケット300の図である。
【0043】
【
図3b】
図3bは、X-Y平面における
図3aの核融合増殖ブランケット300を示す。
【0044】
【
図3c】
図3cは、X-Z平面における
図3aの核融合増殖ブランケット300を示す。
【0045】
【
図4a】
図4aは、Y-Z平面における第2実施形態の核融合増殖ブランケット400の図である。
【0046】
【
図4b】
図4bは、X-Y平面における
図4aの核融合増殖ブランケットモジュール400を示す。
【0047】
【
図4c】
図4cは、X-Z平面における
図4aの核融合増殖ブランケットモジュール400を示す。
【0048】
【
図5a】
図5aは、Y-Z平面における第3実施形態の核融合増殖ブランケット500の図である。
【0049】
【
図5b】
図5bは、X-Y平面における
図5aの核融合増殖ブランケット500を示す。
【0050】
【
図5c】
図5cは、Y-Z平面における
図5aの核融合増殖ブランケット500を示す。
【0051】
【
図6】
図6は、核融合炉で使用するトリチウム燃料を増殖させるためのシステムを示す。
【0052】
【
図7】
図7は、液体増殖材の循環用の複数の鋼製導管を備えるプラズマ核融合炉用の増殖ブランケットを構築する方法のステップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図2は、例示のみを目的として、トロイダルトカマク核融合炉200の断面図を示す。トカマク核融合炉の断面では、真空室と呼ばれる中空の中央部分210と、トカマクの内面を覆う複数のタイル220が示されている。これらのタイルのそれぞれが増殖ブランケットである。それ故に、トカマクの内面は複数の繁殖ブランケットで覆われる。
【0054】
中性子線およびガンマ線遮蔽材230が増殖ブランケットの反対側に設けられ、構造全体がスチール製の二重壁真空容器240内に収容される。遮蔽材230は真空容器240を保護する。二重壁真空容器240は、複数の増殖ブランケットを備えたプラズマ真空室210とプラントの残りの部分との間の境界を形成する。ダイバータ250は、核融合反応によって生成される熱と灰(ヘリウム灰)を抽出し、プラズマ汚染を最小化し、プラズマ制御を支援する。
【0055】
核融合増殖ブランケットの新設計の様々な実施形態および態様を以下に示す。
【0056】
アルミナ(Al2O3)形成フェライト(Fe-Cr-Al)系合金(FeCrAl)は、空気中では1000℃以上の温度で優れた酸化特性を持ち、600℃までの温度では液体LiおよびLiPbにおいて興味深い腐食特性も示す。また、フェライト鋼は、オーステナイト鋼およびニッケル系材料と比較して、放射線誘起膨潤耐性とヘリウム脆化にも優れている。
【0057】
アルミナ(Al2O3)形成フェライト(Fe-Cr-Al)系合金(FeCrAl)の興味深い腐食特性を利用した増殖ブランケットの新設計を提案する。
【0058】
図3aは、Y-Z平面における核融合増殖ブランケット300の図(核融合増殖ブランケット300の側面図)である。増殖ブランケット300は、使用時、核融合炉の核融合プラズマ320に近接する増殖ブランケット300の側に前壁310を有する。核融合増殖ブランケット300は、前壁310の核融合プラズマに近接する側とは反対の側に位置する複数の鋼製導管を含む。鋼製導管330は、複数の第1セクション340と複数の第2セクション350とを含む。第2セクション350は、核融合プラズマ320および前壁310に近接している。第1セクション340は、核融合プラズマ320および前壁310から離隔している。少なくとも第1セクションは鋼製支持構造体360によって支持される。また、第2セクションは、同じ鋼製支持構造体または特別の鋼製支持構造体によって支持されてもよく、或いは第1セクションによって支持されてもよい。
【0059】
核融合増殖ブランケット300の外部には、核融合増殖ブランケット300の少なくとも2つの鋼製導管330の第1セクション340に接続されるか、または一体的に形成される複数の鋼製パイプ/チューブ370が設けられる。
【0060】
核融合増殖ブランケット300の前壁310は、核融合炉の核融合プラズマ320を核融合増殖ブランケット300の鋼製導管から隔てる壁である。前壁310は、中性子透過性の材料から形成され、中性子束が核融合プラズマ320から鋼製導管330を含む核融合増殖ブランケット300を通過し易くする。前壁310を形成するのに使用される材料は、酸化物分散強化型(ODS)鋼であることが好ましい。
【0061】
前壁310のプラズマに面する側は、タングステン、モリブデン(またはそれらの混合物)、または環境に直面する融合に適した高いプラズマスパッタリング閾値(例えば、これらの元素の閾値と同様)を有する材料で形成された構成要素を有する。
【0062】
ODS鋼は、内部に小さな酸化物粒子が分散した金属マトリックスで構成される鋼である。ODS鋼の例には、超合金MA956限定されず、並びにMA957、14YWT、12YWT、EUROFER-ODS、F82H-ODS、およびPM2000が含まれる。
【0063】
利点として、前壁310にODS鋼を使用することにより、非ODS鋼で作られた場合よりも、材料の優れた放射線耐性により、その寿命にわたって中性子照射による損傷を受けることが少なくなる。更に、ODS鋼を使用することにより、前壁310は、非ODS鋼で作られた場合に比べて、その寿命にわたって水素およびヘリウムの脆化が少なくなるという利点がある。
【0064】
前壁310の核融合プラズマに最も近い側から核融合増殖ブランケット300の最も遠い反対側までの核融合増殖ブランケット300の長さ(a)は、50cm~250cmである。好ましくは、核融合増殖ブランケット300の長さ(a)は、75cm~125cmである。
【0065】
第1セクション340および第2セクション350を備える鋼製導管330は、少なくとも2つの異なる材料から作られる。複数の鋼製導管各々の第1セクション340および第2セクション350は互いに接続されて、少なくとも2つの異なる材料を含む一体の鋼製導管を形成する。それらは、溶接技術を使用して互いに接続されることが好ましい。複数の鋼製導管330は、摩擦攪拌接合(fiction-stir welding)などの溶接技術を使用して互いに接続される。
【0066】
一度互いに接続されると、鋼製導管330は、液体増殖材が流れることができる、接続された複数の鋼製導管の蛇行やコイルまたは迷路(一般に「アレイ」)を形成する。
図3Aに示すように、複数の鋼製導管330の配列は、液体増殖材が増殖ブランケットの底部から増殖ブランケットの上部まで流れることを可能にする蛇行状の構造を形成していてもよい。
【0067】
一例として、使用される液体増殖材は、フッ化リチウム(LiF)とフッ化ベリリウム(BeF2)の溶融混合物でもよい。代替例として、使用される液体増殖材は、溶融リチウム、液体鉛リチウム(Pb-Li)共晶、またはPb-Liパーセンテージの任意の組合せでもよい。共晶合金の組合せは、単相および最低溶融温度を有するため好ましいが、他の比率を使用することもできる。他の溶融リチウム塩混合物または他の溶融リチウム合金も可能である。
【0068】
鋼製導管330の各々の第1セクション340は、例えば鉄クロムアルミニウム(FeCrAl)合金などのアルミナ形成フェライト鋼から形成される。鋼製導管330の各々の第1セクションの組成FeCrAl合金は、鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)に加えて、タングステン(W)、チタン(Ti)、炭素(C)、および窒素(N)などの他の元素を含んでもよい。鋼製導管330の各々の第1セクションのFeCrAl合金の組成は、例えばモリブデン(Mo)およびニオブ(Nb)などのすでに列挙したものに加えて、他の元素を更に含んでもよい。
【0069】
鋼製導管330の第1セクション340のFeCrAl合金は、重量(wt)%で:8.0~14.0のCr、3.0~6.0のAl、0.5~2.0のMo、0.5~1.1のNb、0.1~0.2のTi、および各々が0.02未満のCおよびNを含んでもよい。wt%の残りの残部はFeを含む。
【0070】
利点として、鋼製導管330の第1セクション340の組成中のCrを8~14のwt%に制限することによって、中間温度(250~550℃)での中性子照射下で脆化するCrリッチなリッチα’相およびσ相析出物の形成が軽減される。
【0071】
好ましくは、鋼製導管の第1セクションのFeCrAl合金は、wt%で:8.5~9.5のCr、5.0~6.0のAl、1.1~1.5のMo、0.9~1.1のNb、0.125~0.175のTiを含む。加えて、鋼製導管の第1セクションのFeCrAl合金は、wt%で:各々が0.02未満のCおよびNを含み、wt%の残りの残部はFeを含む。
【0072】
利点として、鋼製導管の第1セクション340を上述の組成物から作製することによって、製造中にAlが酸素(O)と反応する際にアルミナ(Al2O3)の形成を可能にするのに十分な量のAlがFeCrAl合金中に提供される。FeCrAlにおけるAl2O3の形成により、その耐熱性が向上する。このことは、増殖ブランケット300の鋼製導管330を流れる、例えばLiFおよびBeF2、またはLi、またはPb-Li共晶合金である液体増殖材が高温であることを考慮すると重要である。これにより、利点として鋼製導管の第1セクションの寿命が長くなる。
【0073】
利点として、鋼製導管の第1セクション340をFeCrAl合金の上記組成物から作製することによって、より堅牢な鋼が増殖ブランケットに具備される。Al2O3コーティングは、低透過速度、低拡散速度、および低溶解度など、優れた水素/重水素/三重水素バリア特性を備えている。この特徴は、増殖ブランケットシステム内でのトリチウム管理において優れたパフォーマンスを提供する。
【0074】
利点として、鋼製導管の第1セクション340をFeCrAl合金の上記組成物から作製することによって、より堅牢な鋼が増殖ブランケットに具備される。FeCrAl合金中へのMoの添加は、液体増殖材に起因する腐食に対する耐性を改善する。Nbの添加は、FeCrAl合金における窒化ニオブおよび炭化ニオブの形成に繋がって、合金の高温クリープ耐性を改善する。Tiの添加は、FeCrAl合金における窒化チタンおよび炭化チタンの形成に繋がって、合金の放射線耐性および高温クリープ耐性を改善する。これらの添加のすべてが、利点として、鋼製導管330の第1セクション340の寿命を延ばすのである。
【0075】
或いは、複数の鋼製導管330の複数の第1セクション340のFeCrAl合金は、wt%で:8.0~25.0のCr、2.0~6.0のAl、0.1~3.0のMo、0.1~2.0のNb、<0.01~1.0のTi、<0.001~0.2のC、および0.02未満のNを含んでもよい。wt%の残りの残部はFeを含む。
【0076】
鋼製導管330の第1セクション340の各々は、25.0~170.0cmの範囲の長さ(c)を持つ。
【0077】
鋼製導管330の各々の第2セクション350は、例えば酸化物分散強化型(ODS)FeCrAl鋼のような、酸化物の強化されたFeCrAlから形成される。鋼製導管330の各々の第2セクション350の酸化物強化型FeCrAl合金の組成は、Fe、Cr、およびAlに加えて、タングステン(W)、Ti、C、およびNなどの他の元素を含んでもよい。複数の鋼製導管330の各々の複数の第2セクション350の酸化物強化型FeCrAl合金の組成は、例えばMo、Nb、および酸化イットリウム(Y2O3)など既に列挙したものに加えて他の元素を更に含んでもよい。
【0078】
鋼製導管330の第2セクション350のFeCrAl合金は、wt%で:8.0~14.0のCr、3.0~6.0のAl、0.5~2.0のMo、0.5~1.1のNb、0.1~0.2のTi、0.1~0.5のY2O3、および各々が0.02未満のCおよびNを含んでもよい。wt%の残りの残部はFeを含む。これらは、凝固前の鋼の成分の好ましいパーセンテージである。鋼は、例えばマルテンサイト鋼となるような、組成に(例えば炭素および酸化物の量において)若干の変化をもたらす無拡散変態プロセスを行うことが好ましい。
【0079】
好ましくは、鋼製導管330の第2セクション350のFeCrAl合金は、重量%で、8.5~9.5のCrと、5.0~6.0のAlと、1.1~1.5のMoと、0.9~1.1のNbと、0.125~0.175のTiと、0.25~0.3のY2O3とを含む。また、鋼製導管の第2セクションのFeCrAl合金は、重量%で、各々が0.02%未満のCおよびNとを含み、重量%の残りの残部はFeを更に含む。これらは、凝固前のスチールの成分の好ましい割合である。スチールは、例えばマルテンサイト鋼となるような、組成に(例えば炭素および酸化物の量において)若干の変化をもたらす無拡散変態プロセスを行うことが好ましい。
【0080】
鋼製導管330の第2セクション350内のY2O3の分散粒子は、好ましくはY2O3ナノ粒子である。これらは主に平均直径が100nm未満であり、平均直径が50nm未満であることが好ましく、平均直径が約5nmであることがより好ましい。これらのイットリウム含有ナノ粒子は、最終形態が異なる化学量論量または組成を有してもよいことが理解されよう。
【0081】
鋼製導管の第2セクション350が上記のFeCrAl合金の組成を有することで、第2セクションは鋼製導管の第1セクション340と同様のメリットを有する。
【0082】
利点として、鋼製導管330の第2セクション350の組成にY2O3を含めることにより、第2セクション350は、第1セクション340に比べ、放射線耐性やヘリウム脆化耐性がより優れ、降伏応力などの機械的強度や高温強度が向上する。
【0083】
鋼製導管330の第2セクション350のFeCrAl合金は、重量%で0.2~0.5のジルコニウム(Zr)を更に含んでもよい。これは、凝固前のスチールの成分の好ましいパーセンテージである。鋼は、例えばマルテンサイト鋼となるような、組成(炭素や酸化物が変化する程度)を若干変化させる無拡散変態を行うことが好ましい。
【0084】
利点として、鋼製導管330の第2セクション350の組成にZrを含めることにより、第2セクション350は、第1セクション340に比べ、放射線耐性がより優れ、高温強度が向上する。Zrを添加することにより、酸化物粒子の個数密度が増加し、平均粒子径が小さくなるため、イットリウム系粒子が精製される。
【0085】
鋼製導管330の各第2セクション350は、長さ(b)が、16.0~125.0cmの範囲である。
【0086】
各々の鋼製導管350の第1セクション340(c)の長さと第2セクション350(b)の長さとの比が1より大きくなるよう、鋼製導管330の第1セクション340(c)の長さは、鋼製導管350各々の第2セクション350(b)の長さより大きくなければならない。
【0087】
形成されると、各鋼製導管330が有する上述の第1セクション340と第2セクション350とが、摩擦撹拌接合技術を使用して溶接領域で接合される。
【0088】
摩擦撹拌接合技術を使用して互いに接続された鋼製導管330の溶接領域では、酸化物の分散粒子(例えば、Y2O3の分散粒子)が欠乏している。鋼製導管330の第2セクション350内における酸化物の分散粒子は、溶接領域外において均一に分布したままである。これにより、鋼製導管330の第2セクション350は、溶接領域外において、酸化物分散による耐放射線性や高温強度などの効果を保つことができる。
【0089】
少なくとも2つの鋼製パイプ/チューブ370は、核融合増殖ブランケット300における複数の鋼製導管330の少なくとも2つ(最初と最後)の第1セクション340と接続されるか、またはそれと一体的に形成される。鋼製パイプ/チューブ370は、鋼製導管330の第1セクション340と同一のFeCrAl合金で形成されることが好ましい。
【0090】
好ましくは、一方側において、一方の鋼製パイプ/チューブ370は、核融合増殖ブランケットの上部において、1つの鋼製導管330の第1セクション340と接続されるか、または一体的に形成される。好ましくは、他方側(例えば、左上から右下、またはその逆)において、他方の鋼製パイプ/チューブ370が、核融合増殖ブランケットの底部側において、1つの鋼製導管330の第1セクション340に接続されるか、または一体的に形成される。また、マニホールドを有する複数のインレットパイプおよび/またはマニホールドを有する複数のアウトレットパイプを備えるような配置であってもよい。
【0091】
鋼製パイプ/チューブ370を少なくも2つの鋼製導管330の第1セクション340と接続する、または一体的に形成することで、液体増殖材は、少なくとも2つの鋼製パイプ/チューブ370のうちの一方を介して増殖ブランケット300に供給され、他方を介して増殖ブランケット300から抽出される。
【0092】
増殖ブランケット300には、鋼製導管330を支持する支持構造360が設けられる。支持構造360は増殖ブランケットの長さ(a)の分だけ延伸する複数の支柱、ステー、横材や、或いは棚吊、メッシュ等を備えていてもよい。或いは、支持構造360は、増殖ブランケットの、前壁310と対向する一方側から、好ましくは、鋼製導管330の第1セクション340と第2セクション350とが接続された溶接領域を含んで、前壁310まで延伸する複数の素子を備えてもよい。後者の配置により、前壁とプラズマとに近い領域(b)に対して高耐放射線性を求める必要がない。このような場合、支持構造は、第1セクション340と同一の鋼で作製できる(或いは、リチウム増殖材に直接さらされないため、よりグレードの低い鋼で作製することもできる)。複数のセクション350は、対応の第1セクション340への溶接によって支持されることができ、或いは、高中性子抵抗性用の代替支持体によって支持されることができる。
【0093】
図3bは、
図3aの核融合増殖ブランケットモジュール300をX-Y平面で示す図(核融合増殖ブランケット300の上面図)である。
【0094】
X-Y平面では、
図3aの増殖ブランケットは、X-Y平面内に延伸し、上述の第1セクション340および第2セクション350を備える鋼製導管330を複数有するように示されている。第2セクション350は、核融合プラズマ320と前壁310とに近接している。第1セクション340は、核融合プラズマ320と前壁310とから離れている。
【0095】
図3aおよび3bから明らかなように、増殖ブランケット300は、上述の第1セクション340と第2セクション350とを備える複数の鋼製導管330の三次元(3D)アレイを備えている。3Dアレイは、Y-Z平面(
図3a)とX-Y平面(
図3b)の両方において延伸している。
【0096】
Y-Z平面(
図3a)における複数の鋼製導管330のうちの少なくとも1つの第1セクション340は、X-Y平面(
図3b)における複数の鋼製導管330のうちの少なくとも別の1つの第1セクション340に接続されている。これにより、液体増殖材料が図に示す左右方向に沿って、即ちX-Y平面内に、増殖ブランケットじゅうに流れる。
【0097】
図3cは、
図3aおよび3bの核融合増殖ブランケットモジュール300の一部をX-Z平面で示す図(核融合増殖ブランケットモジュール300を前壁310の側から見ている)である。
図3cは、鋼製導管330の3DアレイのX-Z平面図である。
【0098】
図3a~3cの実施形態において、鋼製導管330は、増殖ブランケット400が原子炉内に設置される際、核融合プラズマからの中性子束の方向と平行に延びるように配置されるチューブまたはパイプであってもよい。
【0099】
図3a~3cの実施形態は、ODS鋼セクションと非ODS鋼セクションとにおいて数がほぼ等しい曲げ部を有するというメリットがある。ODS鋼は、図に示すように、直角U型曲げを押出して成形できるが、非ODS鋼は、より簡単に曲げ部を成形できる。従って、
図3の配置は、(b)と(c)が同等の長さであるか、(b)が(c)より長い場合に有利である。
【0100】
図4aは、核融合増殖ブランケット400の代替実施形態をY-Z平面で示す図(核融合増殖ブランケットモジュール400の側面図)である。増殖ブランケット400は、核融合炉が設置された場合に核融合プラズマ420に近接する前壁410を含む。
図3a~3cの核融合増殖ブランケット300と同様に、核融合増殖ブランケット400も、鋼製支持構造460によって支持された第1セクション440と第2セクション450とを備える鋼製導管430を複数含む。第2セクション450は、核融合プラズマと前壁410とに近接しており、Y方向において核融合増殖ブランケット400の長さ(b)の分だけを延伸している。長さ(b)は、核融合増殖ブランケット400の核融合プラズマと前壁410とに近接する領域から、核融合プラズマ420と前壁410とから離れた領域まで延伸する。鋼製導管420の第1セクション440は、核融合プラズマと前壁410とから離れており、Y方向において、第1セクションから核融合プラズマと前壁410に向うよう、核融合増殖ブランケット400の長さ(c)の分だけを延伸している。核融合増殖ブランケット400の外部に、核融合増殖ブランケット400における少なくとも2つの鋼製導管430の第1セクション440と接続されたか、または一体的に形成された鋼製パイプ/チューブ470が設けられている。
【0101】
上記の前壁310と同様に、前壁410は、核融合炉の核融合プラズマを核融合増殖ブランケット400における複数の鋼製導管430から隔てており、中性子透過性の材料から形成されている。前壁410を形成するための材料は、タングステン、モリブデン、または環境に直面する核融合に適した類似の材料のいずれかで形成されたプラズマ対向成分を有する酸化物分散強化型(ODS)鋼であることが好ましい。第1の壁410は、第1実施形態における第1の壁(即ち、核融合増殖ブランケット300の第1の壁310)と同様のメリットを有する。核融合増殖ブランケット400は、前壁410の核融合プラズマに最も近い側から、核融合増殖ブランケット400の最も遠い反対側までの長さ(a)が50cm~250cmである。好ましくは、核融合増殖ブランケット400の長さ(a)は75~125cmである。
【0102】
核融合増殖ブランケット400の複数の鋼製導管430は、核融合プラズマに近接している。各鋼製導管430は、第1セクション440と、第2セクション450とを備えており、第1セクション440と第2セクション450は、少なくとも2つの異なる材料から作られ、互いに接続されて一体型鋼製導管を形成する。各鋼製導管430各々における第1セクション440と第2セクション450とは溶接により接続され、好ましくは、摩擦攪拌接合によって接続される。
【0103】
上記の鋼製導管330と同様に、複数の鋼製導管430は、接続されて鋼製導管のアレイを形成し、液体増殖材が流れることができる。
図4aに示すように、アレイは、液体増殖材が増殖ブランケットにおいて左から右へ(または右から左へ)流れるように、蛇行状、コイル状、またはその他の迷路状の構造を形成してもよい。
【0104】
複数の鋼製導管430各々における第1セクション440は、FeCrAl合金で形成される。鋼製導管430各々における第1セクションのFeCrAl合金の組成は、第1実施形態と同一の組成(即ち、複数の鋼製導管330各々における第1セクション340と同一の組成)を含んでもよい。
【0105】
複数の鋼製導管430各々における第1セクション440も、第1実施形態における複数の鋼製導管(即ち、複数の鋼製導管330各々における第1セクション340)と同様のメリットを有する。
【0106】
鋼製導管430の第1セクション440は、核融合増殖ブランケットに渡って延伸する長さ(c)が、25.0~170.0cmである。
【0107】
複数の鋼製導管430各々における第2セクション450は、FeCrAl-ODS鋼などの酸化物強化型FeCrAlから形成される。複数の鋼製導管430各々における第2セクション450の酸化物強化型FeCrAl合金の組成は、第1実施形態と同一の組成(即ち、複数の鋼製導管330各々における第2セクション350と同一の組成)を含んでもよい。
【0108】
複数の鋼製導管430各々における第2セクション450も、第1実施形態における複数の鋼製導管(即ち、複数の鋼製導管330各々における第2セクション350)と同様のメリットを有する。
【0109】
鋼製導管430における第2セクション450は、核融合増殖ブランケットに渡って延伸する長さ(b)が16.0~125.0cmである。
【0110】
鋼製導管430における第1セクション440(c)が延伸する長さと鋼製導管450における第2セクション450(b)が延伸する長さとの比が1より大きくなるよう、長さ(c)が長さ(b)より大きいでなければならない。
【0111】
形成されると、鋼製導管430の第1セクション440と鋼製導管の第2セクション450は、溶接領域480にて互いに接合される(
図4bを参照)。特に、鋼製導管330各々における第1セクション440と第2セクション450は、摩擦撹拌接合技術を使用して接合される。
【0112】
摩擦鋼接合を使用して鋼製導管430の第1セクション440と第2セクション45とを接合することにより、鋼製導管430の第1セクション440と第2セクション450とが接合された溶接領域480において、酸化物の分散粒子(例えば、Y2O3の分散粒子)が欠乏する。
【0113】
鋼製導管430の第2セクション450内における酸化物の分散粒子(例えば、Y2O3の分散粒子)は、溶接領域の外側において均一に分布したままである。これにより、鋼製導管430の第2セクション450は、溶接領域外において、耐放射線性や高温強度などの酸化物分散による効果を保つことができる。
【0114】
上記と同様に、少なくとも2つの鋼製パイプ/チューブ470は、核融合増殖ブランケット400における少なくとも2つの鋼製導管430の第1セクション440に接続されるか、または一体的に形成される。鋼製パイプ/チューブ470は、鋼製導管430の第1セクション440と同一のFeCrAl合金で形成されることが好ましい。
【0115】
図3の支持構造360と同様に、増殖ブランケット400には、鋼製導管430を支持する支持構造460が設けられる。
【0116】
図4bは、
図4aの核融合増殖ブランケットモジュール400の一部をX-Y平面で示す図(核融合増殖ブランケット400の上面図)である。
【0117】
X-Y平面では、
図4aの増殖ブランケットも、X-Y平面内に延伸し、上述の第1セクション440と第2セクション350とを備える鋼製導管430を複数有するよう示されている。第2セクション450は、核融合プラズマと前壁410とに近接している。第1セクション440は、核融合プラズマ420と前壁410とから離れている。核融合増殖ブランケット400の外側に、核融合増殖ブランケット400における少なくとも2つの鋼製導管430の第1セクション440に接続されたか、または一体的に形成された鋼製パイプ/チューブ470が設けられている。
【0118】
図4aおよび4bから明らかなように、増殖ブランケット400は、上述したように第1セクション440と第2セクション450とを各々備える複数の鋼製導管430の三次元(3D)アレイを備える。3Dアレイは、Y-Z平面(
図4a)とX-Y平面(
図4c)の両方において広がっている。
【0119】
図4cは、
図4aおよび4bの核融合増殖ブランケットモジュール400をX-Z平面で示す図(核融合増殖ブランケットモジュール400を前壁410から見た図)である。
図4cは、鋼製導管430の3DアレイのX-Zの平面を示している。
【0120】
図4a~4cの実施形態において、鋼製導管430は、増殖ブランケット400が原子炉内に設置される際、核融合プラズマから中性子束が流れる方向に対して垂直に延びるように配置されるチューブまたはパイプであってもよい。
【0121】
図4a~4cの実施形態は、
図3a~3cの実施形態と同一のメリットを有する。また、鋼製導管の方向および配置の観点から、
図4a~4cの実施形態は、
図3a~3cの実施形態より少ない溶接部を有するメリットがある。したがって、より容易に製造できる。
図4の配置では、相対的な寸法によるが、第2(ODS)セクションにおいて必要な曲げ部の数が少ない。図示の例において、長さ(c)が長さ(b)を超える場合、
図4の配置を用いることが好ましい。
【0122】
一例として、運転中、液体増殖材は核融合増殖ブランケット300、400の鋼製導管320、420を流れる。液体増殖材は、核融合増殖ブランケットの底部に位置する鋼製導管330、430の第1セクション340、440と接続されたか、または一体的に形成された鋼製パイプ/チューブ370、470を介して増殖ブランケット300、400に供給されることが好ましい。
【0123】
一例として、
図3a~3cの実施形態において、液体増殖材は、鋼製導管320を通って核融合増殖ブランケット300の上へ流れ、核融合増殖ブランケットの上部に到達する。核融合増殖ブランケットの上部に到達すると、液体増殖材は、左右方向、即ちY方向に、核融合増殖ブランケット300の上部に位置する別の鋼製導管320の第1セクション330に流れる。続いて、液体増殖材は、鋼製導管320を通って増殖ブランケットを下って核融合増殖ブランケットの底部まで流れる。この過程は、液体増殖材が核融合増殖ブランケット300における最後の鋼製導管330に到達するまで繰り返される。核融合増殖ブランケット300における最後の鋼製導管330は、核融合増殖ブランケットの上部に位置する別の鋼製パイプ/チューブ370に接続されたか、または一体的に形成された別の鋼製導管330である。液体増殖材は、この別の鋼製パイプ/チューブ370を介して核融合増殖ブランケットから出る。
【0124】
一例として、
図4a~
図4cの実施形態において、液体増殖材は、鋼製導管420を通って核融合増殖ブランケット400を横切り、核融合プラズマ410から離れた核融合増殖ブランケットの右側から、核融合プラズマ410に向って核融合増殖ブランケットの左側に流れる。核融合プラズマ410に近づくと、液体増殖材料は、前後方向、即ちY方向に沿って、核融合増殖ブランケット300における別の鋼製導管420の第2セクション430に流れる。続いて、液体増殖材料は、核融合増殖ブランケットの、核融合プラズマ410に近い左側から、核融合増殖ブランケットの、核融合プラズマ410から離れる右側に流れる。この過程は、液体増殖材が核融合増殖ブランケット400における最後の鋼製導管430に到達するまで繰り返される。核融合増殖ブランケット400における最後の鋼製導管430は、核融合増殖ブランケットの上部に位置する別の鋼製パイプ/チューブ470に接続されたか、または一体的に形成された別の鋼製導管430である。液体増殖材は、この別の鋼製パイプ/チューブ470を介して核融合増殖ブランケットから出る。
【0125】
当業者であれば、液体増殖材が核融合増殖ブランケットを流れる所定の方向が、上述の操作例に限定されないと理解するであろう。例えば、液体増殖材は、核融合増殖ブランケットの上部に位置する鋼製パイプ/チューブ370、470に接続されたか、または一体的に形成された鋼製導管330、430を介して核融合増殖ブランケットに入り、核融合増殖ブランケットの底部に位置する鋼製パイプ/チューブ370、470を介して核融合増殖ブランケットから出てもよい。
【0126】
同様に、当業者であれば、液体増殖材は、核融合増殖ブランケットの、上から下へ、下から上へ、前から後へ、後から前へ、左から右へ、または右から左へのずれかの方向に交互に流れることができると理解するであろう。
【0127】
図5aは、代替実施形態の核融合増殖ブランケット500をY-Z平面で示す図(核融合増殖ブランケット500の側面図)である。増殖ブランケット500は、前壁510を含む。核融合増殖ブランケット500を核融合炉に組み込んだ場合、前壁は、核融合増殖ブランケット500の核融合炉の核融合プラズマ520に近い側の壁である。核融合増殖ブランケット500も、鋼製支持構造体560によって支持された第1セクション540と第2セクション550とを備える鋼製導管530を複数含む。第2セクション550は、核融合プラズマ520と前壁510とに近接している。第1セクション540は、核融合プラズマ520と前壁510とから離れている。核融合増殖ブランケット500の外側に、核融合増殖ブランケット500における少なくとも2つの鋼製導管530の第1セクション440と接続されたか、または一体的に形成された鋼製パイプ/チューブ570が設けられる。
【0128】
上記の前壁310および410と同様に、前壁510は、核融合炉の核融合プラズマを核融合増殖ブランケット500における複数の鋼製導管530から隔てており、中性子透過性の材料から形成されている。前壁510の形成に使用される材料は、タングステン、モリブデン、それらの混合物、または環境に直面する核融合に適した高プラズマスパッタリング閾値を有する材料のいずれかで形成されたプラズマ対向成分を含む酸化物分散強化(ODS)鋼であることが好ましい。第1の壁510は、第1および第2実施形態における第1の壁(即ち、核融合増殖ブランケット300における第1の壁310、および核融合増殖ブランケット400における第1の壁410)と同一のメリットを有する。
【0129】
核融合増殖ブランケット500は、前壁510の核融合プラズマに最も近い側から、核融合増殖ブランケット500の最も遠い反対側までの長さ(a)が50cm~250cmである。好ましくは、核融合増殖ブランケット400の長さ(a)は20~30cmである。
【0130】
核融合増殖ブランケット500における複数の鋼製導管530は、核融合プラズマに近接している。鋼製導管530は、第1セクション540と、第2セクション550とを備えており、第1セクション540と第2セクション550は、少なくとも2つの異なる材料から作られ、互いに接続されて一体型鋼製導管を形成する。各鋼製導管530における第1セクション540と第2セクション550とは溶接により接続され、好ましくは、摩擦攪拌接合によって接続されている。
【0131】
複数の鋼製導管530各々は、摩擦鋼接合などの溶接技術を使用して互いに接続される。互いに接続されると、複数の鋼製導管530各々は、液体増殖材が流れることができるタブを形成する。例えば、複数の鋼製導管530各々は、中空の平行六面体であってもよい。
【0132】
複数の鋼製導管530各々における第1セクション540は、FeCrAl合金で形成される。複数の鋼製導管530各々における第1セクションのFeCrAl合金の組成は、第1および第2実施形態と同一の組成(即ち、複数の鋼製導管330各々における第1セクション340、および複数の鋼製導管430各々における第1セクション440と同一の組成)を含んでもよい。
【0133】
複数の鋼製導管530各々における第1セクション540も、第1および第2実施形態における複数の鋼製導管(即ち、複数の鋼製導管330各々における第1セクション340および複数の鋼製導管430各々における第1セクション440)と同一のメリットを有する。
【0134】
鋼製導管530における第1セクション540は、核融合増殖ブランケットに渡って延伸する長さ(c)が6.0~34.0cmである。好ましくは、鋼製導管530における第1セクション540は、核融合増殖ブランケットに渡って延伸する長さ(c)が13.0~20.0cmである。
【0135】
複数の鋼製導管530各々における第2セクション550は、ODS-FeCrAl鋼などの酸化物強化型FeCrAlから形成される。複数の鋼製導管530各々における第2セクション550のFeCrAl合金の組成は、第1および第2実施形態と同一の組成(即ち、複数の鋼製導管330における第2セクション350、および複数の鋼製導管450各々における第2セクション450と同一の組成)を含んでいてもよい。
【0136】
複数の鋼製導管530各々における第2セクション550も、第1および第2実施形態における複数の鋼製導管(即ち、複数の鋼製導管330各々における第2セクション350、および複数の鋼製導管430各々における第2セクション450)と同様のメリットを有する。
【0137】
鋼製導管530の第2セクション550は、核融合増殖ブランケットに渡って延伸する長さ(b)が3.0~17.0cmである。好ましくは、鋼製導管530における第2セクション550は、核融合増殖ブランケットに渡って延伸する長さ(b)が6.0~10.0cmである。
【0138】
鋼製導管530における第1セクション540(c)が延伸する長さは、鋼製導管550の第2セクション550(b)が延伸する長さとの比が1未満になるよう、各々の長さ(c)が長さ(b)より小さくなければならない。
【0139】
形成されると、鋼製導管530の第1セクション540と鋼製導管の第2セクション450は、溶接領域580において互いに接合される。特に、複数の鋼製導管530各々における第1セクション540と第2セクション550は、摩擦撹拌接合技術を使用して接合される。
【0140】
摩擦鋼接合を使用して鋼製導管530の第1セクション540と第2セクション550とを接合することにより、溶接領域580は、第1および第2実施形態の溶接領域(即ち、複数の鋼製導管330各々における溶接領域380、および複数鋼製導管430各々における溶接領域480)と同様のメリットを有する。
【0141】
上述と同様に、少なくとも2つの鋼製パイプ/チューブ570は、核融合増殖ブランケット500における少なくとも2つの鋼製導管530の第1セクション540と接続されるか、または一体的に形成される。これらの鋼製パイプ/チューブ570は、鋼製導管530の第1セクション540と同一のFeCrAl合金で形成されることが好ましい。
【0142】
或いは、少なくとも1つの別の鋼製パイプ/チューブ570は、核融合増殖ブランケット500における各鋼製導管530の第2セクション550と接続されるか、または一体的に形成される(
図5a~5cに示す)。
【0143】
利点として、少なくとも1つの鋼製パイプ/チューブ570が核融合増殖ブランケット500における各鋼製導管530の第2セクション550と接続されるか、または一体的に形成されるように構成されることで、液体増殖材が増殖ブランケット500の核融合プラズマ520に近い前部まで供給できる。
【0144】
図3の支持構造360、および
図4の支持構造460各々と同様に、増殖ブランケット500に、鋼製導管530を支持する支持構造560が設けられる。
【0145】
図5bは、
図5aの核融合増殖ブランケット500をX-Y平面で示す図(核融合増殖ブランケット500の上面図)である。
【0146】
X-Y平面では、
図5aの増殖ブランケットも、X-Y平面内に延伸し、上述の第1セクション540と第2セクション550とを備える鋼製導管530が複数有していることが示されている。第2セクション550は、核融合プラズマと前壁510とに近接している。第1セクション540は、核融合プラズマ520と前壁510とから離れている。また、核融合増殖ブランケット500における鋼製導管530の第1セクション440および第2セクション550と接続、または一体的に形成された鋼製パイプ/チューブ570が設けられる。
【0147】
図5aおよび5bから明らかなように、増殖ブランケット500は、上述の第1セクション540と第2セクション550と各々が備える、三次元(3D)の鋼製導管530を備える。3Dアレイは、Y-Z平面(
図4a)とX-Y平面(
図4c)の両方において広がっている。
【0148】
図5cは、
図5aおよび5bの核融合増殖ブランケット500をX-Z平面で示す図(核融合増殖ブランケットモジュール500を前壁510の面から見た図)である。
図5cは、3D鋼製導管530のX-Z平面図である。
【0149】
図5a~5cから明らかなように、鋼製導管530は直方体または平行六面体である。直方体または平行六面体は、液体増殖材が鋼製導管530を流れるように中空であってもよい。
【0150】
更に、核融合増殖ブランケット500はその内側に、液体増殖材が増殖ブランケットの周囲を流れるように案内するバッフル590(図示せず)を有してもよい。バッフル590は、前壁510と同様の設計で、同一の材料から構成されてもよい。或いは、バッフル590は、鋼製導管530の第1セクション540と同一の材料を含んでもよい。或いは、バッフル590は、鋼製導管530の第2セクション550と同一の材料を含んでもよい。
【0151】
図5a~5cの実施形態は、
図3a~3cの実施形態と同じ利点がある。加えて、
図5a~5cの実施形態は、鋼製導管の向きと配置により、
図3a~3cの実施形態よりも溶接部の数が少ないことに利点がある。これにより、製造が容易になる可能性がある。また、
図5の配置では、第2(ODS)セクションに屈曲部を設ける必要がないことも利点である。
【0152】
一例として、運転中、液体増殖材は核融合増殖ブランケット500の鋼製導管520を通って流れる。好ましくは、液体増殖材は、核融合増殖材ブランケットの底部に位置する鋼製導管530の第1セクション540に接続されたか、またはそれと一体的に形成された鋼製パイプ/チューブ570を介して増殖材ブランケット500に供給される。
【0153】
一例として、
図5a~5cの実施形態では、液体増殖材は鋼製導管520を通って核融合増殖ブランケット500の周囲を流れる。液体増殖材の流れは自由であってもよいし、増殖ブランケット500の内側周囲に配置されたバッフル590、例えば体積全体に流路を形成する交互に重なり合うバッフルによって、蛇行または他の延長経路に向けられていてもよく、熱伝達の効率を高め、除熱に寄与しない流れの少ない静的領域を回避している。液体増殖材は、別の鋼製パイプ/チューブ570を通って核融合増殖ブランケットから出る。
【0154】
核融合炉で使用するトリチウム燃料を増殖させるためのシステムを
図6に示す。システムは、
図3a~3cの増殖ブランケットに係る核融合増殖ブランケット300を備える。しかしながら、当業者であれば、
図4a~4dおよび
図5a~5cを参照して説明した核融合増殖ブランケット400、500を、
図6に示す核融合炉で使用するトリチウム燃料を増殖させるためのシステムに同様に組み込むことができることを理解するであろう。システムの核融合増殖材ブランケット300、400、500は、鋼製パイプ/チューブ370、470、570に接続されるか、それと一体的に形成されて、システムの周りに液体増殖材を流している。核融合増殖材ブランケット300、400、500に加えて、システムは、熱交換器610、620、630と、精製システム610、620、630と、トリチウム抽出システム610、620、630とを更に含んでいてもよい。システムに、ポンプをシステムに組み込んで、液体増殖材をシステム内に送り込んでもよい(図示しないが、610、620、630のいずれか一つとすることができる)。
【0155】
一例として、運転中、液体増殖材はシステムの鋼製パイプ/チューブ370、470、570を通って増殖ブランケット300、400、500の上部に流れ込む。液体増殖材は次に、前述のように増殖ブランケット300、400、500の中を流れる。液体増殖材が最後の増殖材ブランケット300、400、500を通って流れると、増殖材ブランケットの底部から流出し、熱交換器610、620、630を通って液体増殖材から熱エネルギーを取り出して発電し、精製システム610、620、630を通って濾過されて材料から不純物を除去され、トリチウム抽出システム610、620、630を通って液体増殖材ブランケットで生成されたトリチウムを抽出して核融合炉プラズマで使用する。液体増殖材は、その後、システムの周囲に送り戻され、再び増殖材ブランケット300、400、500に送られてもよい。
【0156】
液体増殖材がシステム内を流れる具体的な方向が上述の例示的な運転に限定されないことは、当業者には理解されよう。例えば、液体増殖材は核増殖ブランケットの底部に入ってもよい。
【0157】
図7は、プラズマ核融合炉で使用するための
図3~5のいずれかの増殖ブランケットの構築方法を示す。
【0158】
ステップ705において、複数の鋼製導管330、430、530各々の第2セクション350、450、550を、粉末冶金およびパイプ押出成形で、例えばFeCrAl合金のようなアルミナ形成フェライト鋼から製造する。例えば、ガスアトマイズしたFeCrAl粉末を、Y2O3とFeO粉末、Y2O3とZrO2、またはY2O3とTiO2粉末などの酸化物粉末と共にボールミリングする。他の組成の酸化物粉末でも可能であることは理解されよう。製粉された粉末は、脱気、密封、押出成形され、酸化物分散強化型(ODS)FeCrAl合金鋼管となる。
【0159】
ステップ710において、複数の鋼製導管330、430、530(即ちODS-FeCrAl合金鋼製管)各々の第2セクション350、450、550を熱処理する。例えば、スチールを所定の時間(例えば、30分~4時間のうちのいずれか)、焼入れ段階(600~800℃)まで加熱して、炭化物の生成、窒化物の生成、ナノ酸化物の発現など、様々な微細構造特徴を発現させる。熱処理後、曲げ加工を施し、成形する。
【0160】
ステップ715において、複数の鋼製導管330、430、530各々の第1セクション340、440、540を、溶融および押出などの標準的鉄鋼プロセスを用いて、例えばFeCrAl合金などのアルミナ形成フェライト鋼から製造し、FeCrAl合金は、所望の断面のダイスに押し込まれて、FeCrAl合金鋼製管、即ち非ODS-FeCrAl合金鋼製管を形成する。
【0161】
ステップ720において、複数の鋼製導管330、430、530(即ち非ODS-FeCrAl合金鋼製管)各々の第1セクション340、440、540を熱処理する。例えば、スチールを所定の時間(例えば、30分から4時間のうちのいずれか)、焼入れ段階(600~800℃)まで加熱して、炭化物の生成や窒化物の生成など、様々な微細構造の特徴を発現させる。熱処理後、曲げ加工を施し、成形する。
【0162】
ステップ730において、第1セクション350、450、550と第2セクション350、450、550を互いに摩擦攪拌接合して、複数の鋼製導管330、430、530各々を形成する。例えば、接合部を跨ぐ摩擦攪拌接合(FSW)ツールの下で第1セクション350、450、550の一端と第2セクション350、450、550の他端を互いに接触させてクランプしてもよい。これが溶接領域となる。FSWツールを回転させ、溶接領域に差し込むと、摩擦熱が発生し、溶接領域に塑性ゾーンが形成される。その後、FSWツールを溶接領域の周囲に通す(または、FSWツールが接合部の周囲を円周方向に通るように2つのセクションを回転させる)。FWSツールのプローブ上の特殊なプロファイルにより、可塑化された材料が強制的に混合され、溶接部が形成される。
【0163】
ステップ740において、鋼製導管330、430、530の第1セクション350、450、550と第2セクション350、450、550との間に形成された溶接領域を熱処理する。例えば、スチールを400~600℃の間で加熱して、溶接領域内に発生する残留応力を例えば30分~4時間のうちのいずれかの所定時間緩和させる。
【0164】
ステップ750において、個々の構成部品を接続して
図3~5の増殖ブランケットの構成を組み立てることにより、増殖ブランケットを構築する。例えば、鋼製導管330、430、530は、鋼製導管330、430、530の重量を支える3次元支持構造体を備えていてもよい。さらに、前壁310、410、510は、増殖ブランケットが核融合炉に設置された際に鋼製導管330、430、530の核融合プラズマに近接する側面に固定される。さらに、液体増殖材を増殖ブランケットに戻す前に液体増殖材を増殖ブランケットから熱交換器、精製システム、およびトリチウム抽出システムに導くために、増殖ブランケットを増殖ブランケットの外部の鋼製配管370、470、570に接続してもよい。
【0165】
ブリーダーブランケットを製造する際に、ステップ705から750を特定の順序で行う必要はないことが理解されよう。例えば、第1セクション340;440;540および第2セクション350、450、550を製造(各々ステップ705および715)した後、ステップ710および720で第1セクションおよび第2セクションを熱処理および曲げ加工する前に、ステップ730で説明したように、第1セクションおよび第2セクションを摩擦攪拌接合してもよい。
【0166】
ステップ705から750もまた、ここに開示されたものとは異なる順序で実行してもよいことも理解されよう。例えば、すべての溶接工程を1本の長い直管部に対して行い、その後、その長さに沿って部分的に熱処理を施し、曲げ成形することが可能である。あるいは、ステップ705から750は、増殖ブランケットを構築する過程で何度繰り返してもよい。例えば、鋼製導管の第1セクション340、440、540と第2セクション350、450、550を製造(各々ステップ705及び715)した後、第1セクション340、440、540と第2セクション350、450、550を摩擦攪拌接合で互いに溶接する前に、第1セクション340、440、540および第2セクション350、450、550のうち、2つの異なるセクション間の溶接領域を形成するのには使用されない部分を、熱処理、曲げ形成してもよい。第1セクション340、440、540と第2セクション350、450、550を互いに溶接した後、それらの部分を更に熱処理し、例えば溶接領域の両側で曲げることによって、曲げ形成する。これにより、溶接工具をあてがう接合部へのアクセスがより明確になる。
【0167】
請求の範囲は、上記に例示した厳密な構成および部品に限定されないことを理解されたい。添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲から逸脱することなく、上述した増殖ブランケットの配置、動作、詳細、およびその製造方法において、様々な修正、変更、および変形を行うことができる。
【国際調査報告】