(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-05
(54)【発明の名称】シアル酸付加HMOの産生における新規の主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)タンパク質(FRED)
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20240129BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240129BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240129BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240129BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240129BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N1/21 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12P19/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540080
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2022051295
(87)【国際公開番号】W WO2022157280
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/051479
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508278309
【氏名又は名称】グリコム・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】Glycom A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ペダーセン, マルギット
(72)【発明者】
【氏名】ダリゴ, イソッタ
(72)【発明者】
【氏名】ビッチ カンプマン, カトリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】パパダキス, マノス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF04
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BC01
4B065CA21
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、遺伝子改変細胞における生物学的分子の組み換え産生の分野に関する。より具体的には、主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)のタンパク質(発現されるタンパク質はFredである)を発現する遺伝子改変細胞を使用するシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の組み換え産生のための方法に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアリル部分を含む1種以上のヒトミルクオリゴ糖(HMO)を産生することができる遺伝子改変細胞であって、前記遺伝子改変細胞が、
(i)配列番号1の主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)ポリペプチド、又は配列番号1と少なくとも70%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする異種核酸配列、及び
(ii)シアリル-トランスフェラーゼをコードする異種核酸配列;並びに
(iii)シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路
を含む、遺伝子改変細胞。
【請求項2】
1種以上の産生された前記HMOが、3’-SL、6’-SL、FSL、DS-LNT、LSTc、LSTa及びLSTbからなる群から選択される、請求項1に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項3】
配列番号1の前記MFSポリペプチド又はその機能的ホモログの発現が、前記MFSポリペプチドを有しない細胞と比較して、前記HMOの排出の増加をもたらす、請求項1又は2に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項4】
前記シアリル-トランスフェラーゼが、表2に示されるものなどのα-2,3-シアリル-トランスフェラーゼ及びα-2,6-シアリル-トランスフェラーゼからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項5】
前記α-2,3-シアリル-トランスフェラーゼが、Nst(配列番号3)若しくはPd2(配列番号4)、及び/又は配列番号3若しくは配列番号4と少なくとも70%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項6】
前記シアル酸糖ヌクレオチドが、CMP-Neu5Acである、請求項1~5のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項7】
シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための前記生合成経路が、配列番号17のneuBCA遺伝子クラスター又は配列番号12の1種以上の異種遺伝子NeuB及び配列番号14のNeuC及び配列番号16のNeuA又は配列番号17、12、14若しくは16と少なくとも80%同一な核酸配列を有するその機能的ホモログによってコードされる、請求項1~6のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項8】
前記細胞がさらに、前記異種核酸配列の発現の調節のための調節エレメントを含む核酸配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項9】
前記調節エレメントが、配列番号1の前記MFSポリペプチド、又は配列番号1と少なくとも70%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログの発現を調節する、請求項8に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項10】
前記調節エレメントが、PglpF(配列番号5)、PglpF_SD4(配列番号6)及びPglpF_SD7(配列番号7)からなる群から選択される、請求項8又は9に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項11】
前記遺伝子改変細胞が、大腸菌(Escherichia coli)などの微生物細胞である、請求項1~10のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項12】
核酸構築物であって、
(i)配列番号1によるMFSポリペプチド、又は配列番号1と70%を超える配列同一性を有するその機能的ホモログをコードする核酸配列(前記MFSポリペプチドをコードする前記核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有する)、及び
(ii)事項(i)の前記核酸配列のいずれか1つ以上の発現を調節する調節エレメントを含む核酸配列
を含む、核酸構築物。
【請求項13】
前記調節エレメントが、PglpF(配列番号5)、PglpF_SD4(配列番号6)及びPglpF_SD7(配列番号7)からなる群から選択される、請求項12に記載の核酸構築物。
【請求項14】
1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖の生合成産生のための方法であって、
(i)請求項1~11のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞を提供する工程;
(ii)配列番号1の主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)ポリペプチド、又は配列番号1と70%を超えて同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする前記異種核酸配列、及び1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)を産生するシアリル-トランスフェラーゼをコードする前記異種核酸配列を発現するのに好適な細胞培養培地において前記遺伝子改変細胞を培養する工程;並びに
(iii)工程(ii)において産生される1種以上のシアル酸付加HMOを収集する工程
を含む方法。
【請求項15】
1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の生合成産生のための請求項1~11のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞又は請求項12若しくは13のいずれか一項に記載の核酸構築物の使用。
【請求項16】
前記シアル酸付加HMOが、3’-SL及び6’-SLからなる群から選択される、請求項15に記載の遺伝子改変細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[分野]
本発明は、遺伝子改変細胞における生物学的分子の組み換え産生の分野に関する。より具体的には、それは、主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)のタンパク質(発現されるタンパク質はFredである)を発現する遺伝子改変細胞を使用するシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の組み換え産生のための方法に関する。
【0002】
[背景]
ヒトミルクオリゴ糖(HMO)は、非消化性炭水化物であり、母乳の3番目に大きい構成成分を占める。ヒト母乳と比較して同様の非消化性オリゴ糖の濃度又は複雑さを有する哺乳動物は存在しない。現在までに、200種を超えるHMOが同定されている(XI CHen,Advances in Carbohydrate Chemistry and Biochemistry,2015,Volume 72のチャプター4及びUrashima et al.:Milk Oligosaccharides,Nova Biomedical Books,New York,2011,ISBN:978-1-61122-831-1を参照のこと)。
【0003】
HMOは、ヒト発生における重要な機能性の発見により、過去10年の間で非常に感心が高くなった。それらのプレバイオティクス特性の他に、HMOは、それらの適用分野を拡大する追加のプラスの効果と結び付けられている(Kunz C.et al.,(2014)Food Oligosaccharides:Production,Analysis and Bioactivity,1st Edition,p5-20,Eds.Moreno J.and Luz Sanz M.,John Wiley&Sons,Ltd)。HMOの健康上の利点は、乳児用調製粉乳及び乳児食などの食品における使用、並びに消費者用健康食品のためのそれらの承認を可能にした。
【0004】
HMOは化学的に合成することができるが、大量生産に関して課題がある。HMOの化学合成と関連する課題を克服するために、いくつかの酵素的方法及び発酵手法が開発されている。発酵に基づくプロセスは、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースなどのいくつかのHMOのために開発されている。発酵に基づくプロセスは通常、組み換え大腸菌(Escherichia coli)(E.coli)などの遺伝子改変細菌株を利用する(概説に関して、Bych et al,Current Opinion in Biotechnology 2019,56:130-137を参照のこと)。
【0005】
HMOの生物工学的産生における最近の開発は、細菌発現系の所定の固有の限界を克服することを可能にしてきた。例えば、HMO産生細菌細胞は、細菌内でのヌクレオチド糖の制限された細胞内プールを増加させるため(国際公開第2012/112777号パンフレット)、HMO産生に関与する酵素の活性を改良するため(国際公開第2016/040531号パンフレット)又は合成されたHMOの細胞外培地中への分泌を促進するため(国際公開第2010/142305号パンフレット、国際公開第第2017/042382号パンフレット)に遺伝子改変され得る。さらに、組み換え細胞内の目的の遺伝子の発現は、例えば、国際公開第2019/123324号パンフレットに記載されるとおりの特定のプロモーター又は他の遺伝子発現調節因子を使用することによって調節され得る。
【0006】
糖排出トランスポーターの使用は、国際公開第2010/142305号パンフレット及び国際公開第2017/042382号パンフレットにおいて記載されており、産生中にHMOを細胞から排出させることによって高レベルのHMOを産生することにより細胞に与えられる代謝負荷を低減する利点を有する。この手法は、組み換えHMO産生細胞の操作において一層多くの注目を集めており、例えば、最近では、タンパク質をコードする数種の新規の糖トランスポーター遺伝子及びヒト母乳の最も豊富なHMOである組み換え産生された2’-フコシルラクトース(2’-FL)の排出を促進できる発酵プロセスについて記載されている(国際公開第2018/077892号パンフレット、米国特許出願公開第2019/00323053号明細書、米国特許出願公開第2019/00323052号明細書)。
【0007】
シアル酸付加HMOの産生は、国際公開第2007/101862号パンフレットにおいて記載されており、例えば、微生物から3’-SLを産生するのに必要な改変を記載している。シアル酸付加HMOの産生は、シアリル部分の酸性度に起因して細胞の酸性化をもたらし、その結果、細胞酸性化の生理学的影響により全体的に好ましくない産生結果をもたらす。したがって、特に細胞からのシアル酸付加HMOの排出の増強は細胞に関して生理学的な利点を有することになる一方で、シアル酸付加HMOの下流の収集及び精製も単純化して、全体的にシアル酸付加HMOの大量生産において多大な利点を有する。
【0008】
しかしながら、現時点では、糖トランスポーターの基質特異性を定義する構造-機能の関連性は、依然として明確に研究されておらず、極めて予測不能なままであるため、例えば、UniProtなどの複数のタンパク質データベースにおける予測されたトランスポーター機能を備える極めて多数の細菌タンパク質間で様々な組み換え産生されたHMO構造の排出が可能な正しいトランスポータータンパク質を正確に特定できるアルゴリズムは、存在しない。
【0009】
本開示は、他の有利な産生上の利点とともに産生される生成物の量を増加させるためのシアル酸付加HMO産生株における特定の異種糖排出トランスポータータンパク質の使用を初めて示す。
【0010】
[概要]
最近、本出願の発明者らは、3-FL、LNT、LNT-II、LNnT及びLNFP-Iなどの他のHMOを輸送することができる主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)におけるいくつかのトランスポーターを同定した(国際公開第2021/148615号パンフレット及び国際公開第2021/148614号パンフレット及び国際公開第2021/148611号パンフレット及び国際公開第2021/110610号パンフレット及びPCT/欧州特許第2021/0514662号明細書及び国際公開第2021/148620号パンフレット及び国際公開第2021/148618号パンフレット)。本開示は、有利な産生上の利点のためのシアル酸付加HMO産生株における異種糖排出トランスポータータンパク質Fredの使用を初めて示す。
【0011】
本開示は、主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)由来のFredタンパク質をコードする異種遺伝子fredのシアル酸付加HMO産生株における過剰発現が、HMOの全体的な産生に影響を及ぼすことなく細胞から排出されるHMOの量を増加させることを示す。様々な組み換え産生HMOに対して特異性を有する新規の効率的な糖排出トランスポータータンパク質の同定及び前記タンパク質を発現する組み換え細胞の開発は、大規模な工業的HMO製造にとって有利である。
【0012】
産生されたHMOは、1つ以上のシアリル部分を含み得る。その点において、産生されたHMOは、3’-SL(3’-シアリルラクトース)、6’-SL(6’-シアリルラクトース)、LSTc(シアリルラクト-N-ネオテトラオースc)、LSTa(シアリルラクト-N-テトラオースa)、LSTb(シアリルラクト-N-テトラオースb)、3’-S,3-FL(シアリル-3-フコシルラクトース)及びDS-LNT(ジシアリルラクト-N-テトラオース)からなる群から選択されてもよい。特に、3’-SL及び6’-SLは、これらが最も豊富なシアル酸付加HMOであるため興味深い。
【0013】
したがって、本発明は、1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)を産生することができる遺伝子改変細胞に関し、前記遺伝子改変細胞は、配列番号1の主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)ポリペプチド、又は配列番号1と70%を超えて同一、例えば、配列番号1と少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、例えば、少なくとも99%又は例えば少なくとも99.7%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする異種核酸を含む。
【0014】
さらに、遺伝子改変細胞は、シアリル-トランスフェラーゼを発現する。特に、シアリル-トランスフェラーゼは、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ及びα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ、例えば、表2のシアリルトランスフェラーゼからなる群から選択される。
【0015】
一実施形態では、Fred発現遺伝子改変細胞はさらに、配列番号3のα-2,3-シアリル-トランスフェラーゼ及び/又は配列番号3と少なくとも70%同一、例えば、少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、例えば、少なくとも99%若しくは例えば、少なくとも99%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログを異種性に発現するように改変され得る。加えて、遺伝子改変細胞は、シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路を含有する。
【0016】
一実施形態では、Fred発現遺伝子改変細胞はさらに、配列番号4のα-2,6-シアリル-トランスフェラーゼ及び/又は配列番号4と少なくとも70%同一、例えば、少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、例えば、少なくとも99%若しくは例えば、少なくとも99%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログを異種性に発現するように改変され得る。加えて、遺伝子改変細胞は、シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路を含有する。
【0017】
一実施形態では、Fred発現遺伝子改変細胞はさらに、配列番号3のα-2,3-シアリル-トランスフェラーゼ及び配列番号4のα-2,6-シアリル-トランスフェラーゼ並びに/又は配列番号3若しくは4と少なくとも70%同一、例えば、少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、例えば、少なくとも99%若しくは例えば、少なくとも99%同一なアミノ酸配列を有する配列番号3若しくは4の機能的ホモログを異種性に発現するように改変され得る。加えて、遺伝子改変細胞は、シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路を含有する。
【0018】
本発明による遺伝子改変細胞はさらに、異種核酸配列の発現の調節のための調節エレメントを含む核酸配列を含み得る。調節エレメントは、目的のポリペプチドをコードする核酸の発現を調節することができ、PglpF、PglpF_SD4、及びPglpF_SD7からなる群から選択することができる。
【0019】
本発明の一実施形態では、前記調節エレメントは、配列番号1に示されるMFSポリペプチド、又は配列番号1と70%を超えて同一、例えば、配列番号1と少なくとも80、例えば、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、例えば、少なくとも99%又は例えば、少なくとも99.7%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログの発現を調節する。
【0020】
好ましい態様では、前記調節エレメントは、配列番号1に示されるMFSポリペプチド、又は配列番号1と95.4%を超えて、例えば、99.7%を超えて、例えば、100%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログの発現を調節する。本発明は、Fredタンパク質を発現するHMO産生組み換え細胞の使用が、HMOの発酵及び精製の両方に関連するHMO製造プロセスの極めて顕著な改良をもたらすことを示す。本明細書で開示されるHMO産生のための組み換え細胞及び方法は、細胞から上清へのHMOのより高い分泌、より低い副生成物形成又は副生成物対生成物比、及び発酵ブロスの下流処理中のHMOの容易な回収の両方を提供する。
【0021】
様々なHMO産生細胞におけるFredをコードするDNA配列の発現は、細胞外培地中でのいくつかの特定のHMOの蓄積及び産生細胞の内部での他のHMOの蓄積、並びにHMOの総産生量の増加と関連することが見出されている(国際公開第2021/148620号パンフレットを参照のこと)。驚くべきことに、産生されたHMOの排出の増加は、本明細書の実施例からわかるとおり、3又は4単位の単糖のいずれかからなるHMO、すなわち、三糖又は四糖であるHMO、例えば、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、3-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、ラクト-N-トリオース2、(LNT-2)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)又はラクト-N-テトラオース(LNT)、特に、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、又はラクト-N-テトラオース(LNT)に関する特徴であるが、産生細胞の内部で蓄積する五糖又は六糖のようなより大きいオリゴ糖構造に関する特徴ではないことが見出されている。
【0022】
一態様では、前記細胞により産生されるHMOは、3’-SL及び6’-SLからなる群から選択される1種以上のヒトミルクオリゴ糖などであるがこれらに限定されないシアル酸付加HMOである。好ましい実施形態では、シアル酸付加HMOは、3’-SLである。
【0023】
さらに驚くべきことに、fred遺伝子を発現する対応するHMO産生細胞において、HMO、3’-SLはほとんど全て3’-SLであり、発酵培地中においてほとんど独占的に見出されることが判明した。
【0024】
本発明はまた、主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)のポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸構築物に関し、主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)ポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%、より好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%及びさらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有し、本発明はまた、大腸菌(Escherichia coli)である核酸構築物を含む遺伝子改変細胞に関する。
【0025】
さらに、本発明は、1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の生合成産生のための方法であって、
(i)本発明による遺伝子改変細胞を提供する工程;
(ii)安定した細胞培養培地中で(i)による遺伝子改変細胞を培養して、排出糖輸送が可能な前記ポリペプチドを発現させ、1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)を産生させる工程及び;
(iii)工程(ii)において産生される1種以上のシアル酸付加HMOを収集する工程
を含む方法を提供する。
【0026】
本発明はまた、1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の生合成産生のための、主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)ポリペプチドをコードする異種核酸配列であって、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有する前記核酸配列を含む遺伝子改変細胞又は核酸構築物の使用に関する。
【0027】
好ましい実施形態では、本発明はまた、(i)配列番号1によるMFSポリペプチド、又は配列番号1と70%を超える、80%、94.5%又は99.7%の配列同一性を有するその機能的ホモログをコードする1種以上の核酸配列(MFSポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%、例えば、少なくとも80%の配列同一性を有する)、(ii)シアリル-トランスフェラーゼ能を有する1種以上のポリペプチドをコードする1種以上の異種核酸配列、並びに事項(i)及び/又は(ii)の核酸配列のいずれか1種以上の発現を調節する調節エレメントを含む1種以上の核酸配列を含む遺伝子改変細胞又は核酸構築物の使用に関する。
【0028】
上述のとおり、1種以上のシアル酸付加HMOを産生することができる、Fredトランスポータータンパク質をコードする核酸配列を含む遺伝子改変細胞の培養中、驚くべきことに、副生成物及びバイオマス形成を減少させながら、対応する1種以上のシアル酸付加HMOが高収率で産生されることが見出されている。これは、下流プロセス中のHMOの回収の改良を促進し、例えば、全体的な回収及び精製手順は、より少ない工程を含む場合があり、精製の全体的な時間が短くなる場合がある。
【0029】
特に、改良された生成物の回収の効果により、本発明は先行技術の開示よりも優れたものになる。
【0030】
本発明の他の態様及び有利な特徴について、下記の非限定的な実施例によって詳細に記載し、例示する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】それぞれ株2及び1において配列番号1のFred MFSトランスポータータンパク質の発現のためにコードする配列番号2のfred遺伝子の統合を(株2)有する及び(株1)有しない改変された大腸菌(E.coli)株の相対的な3’-SL産生を示す。データは、ディープウェルフィードバッチアッセイから得られる。
【
図2】配列番号1のFred MFSトランスポータータンパク質の発現のためにコードする配列番号2のfred遺伝子の統合を(株2)有する及び(株1)有しない改変された大腸菌(E.coli)株の細胞の内部及び外部の3’-SLの相対的な分布を示す。データは、ディープウェルフィードバッチアッセイから得られる。
【
図3】配列番号1のFred MFSトランスポータータンパク質の発現のためにコードする配列番号2のfred遺伝子の統合を(株2、バッチGDF21173及びGDF21177)有する及び(株1、バッチGDF21170及びGDF21174)有しない改変された大腸菌(E.coli)株の細胞における発酵ブロスのペレットと上清画分の間の3’-SL分布の時間プロファイルを示す。
【
図4】配列番号1のFred MFSトランスポータータンパク質の発現のためにコードする配列番号2のfred遺伝子の統合を(株2、バッチGDF21173及びGDF21177)有する及び(株1、バッチGDF21170及びGDF21174)有しない改変された大腸菌(E.coli)株の細胞における発酵全体にわたるウェットバイオマス(BWM)の発達の時間プロファイルを示す。
【
図5】配列番号1のFred MFSトランスポータータンパク質の発現のためにコードする配列番号2のfred遺伝子の統合を(株4)有する及び(株3)有しない改変された大腸菌(E.coli)株の細胞における発酵ブロスのペレットと上清画分の間の3’-SL分布の時間プロファイルを示す。
【
図6】配列番号1のFred MFSトランスポータータンパク質の発現のためにコードする配列番号2によるfred遺伝子の統合を(株4)有する及び(株3)有しない改変された大腸菌(E.coli)株の細胞における発酵全体にわたるウェットバイオマス(BWM)の発達の時間プロファイルを示す。株3及び株4は、ゲノムから統合され、過剰発現されるneuBCA遺伝子を有する。
【
図7A】トランスポーターを有しない細胞(株1)と比較した、代替的なMFSトランスポーター、YberCを発現する細胞(株5)における3’-SLの相対的な産生(A)を示す。
【
図7B】トランスポーターを有しない細胞(株1)と比較した、代替的なMFSトランスポーター、YberCを発現する細胞(株5)におけるペレットと上清の間の分布(B)を示す。データは、ディープウェルフィードバッチアッセイから得られる。
【0032】
[詳細な説明]
下記では、本発明の実施形態についてさらに詳細に記載する。特徴のそれぞれの特定の変形形態は、他に特に記載しない限り、本発明の他の実施形態に適用され得る。
【0033】
一般に、本明細書で使用する全ての用語は、他に明示的に規定又は記載されない限り、当技術分野におけるそれらの通常の意味に従って解釈されるべきであり、本発明の全ての態様及び実施形態に適用することができる。
【0034】
「1つの(a)/1つの(an)/その[細胞、配列、遺伝子、トランスポーター、工程など]」についての全ての言及は、他のことが明示的に記載されない限り、前記細胞、配列、遺伝子、トランスポーター、工程などの少なくとも1つの例についての言及であると開放的に解釈されるべきである。
【0035】
本明細書に開示した任意の方法の工程は、明示的に規定されない限り、本明細書に開示した正確な順序で実施される必要はない。
【0036】
本発明は、一般に、オリゴ糖の効率的な産生のための遺伝子改変細胞及びオリゴ糖を産生させる方法における前記遺伝子改変細胞の使用に関する。特に、本発明は、オリゴ糖、好ましくは異種オリゴ糖、特にヒトミルクオリゴ糖(HMO)を合成することを可能にされた遺伝子改変細胞に関する。
【0037】
したがって、本発明の遺伝子改変細胞は、下記のとおりのグリコシルトランスフェラーゼ活性を備える1種以上の酵素をコードする遺伝子など、(宿主細胞が1種以上のHMOを合成することを可能にする)細胞による1種以上のHMOの合成に必要な一連の組み換え核酸を発現するように改変されている宿主細胞である。本発明のオリゴ糖産生組み換え細胞は、異種組み換え核酸配列、好ましくは、細菌エルシニア・フレデリクセニイ(Yersinia frederiksenii)を起源とする推定上のMFS(主要ファシリテータースーパーファミリー)トランスポータータンパク質をコードするDNA配列を含むようにさらに改変される。
【0038】
具体的には、本発明は、Fredタンパク質をコードする組み換え核酸を含む、1種以上の特定のオリゴ糖、特に、1種以上の特定のHMOの産生のために最適化された遺伝子改変細胞に関する。
【0039】
配列番号2の核酸配列を有するFredタンパク質をコードする核酸配列は、「Fredコード核酸/DNA」又は「fred遺伝子」又は「fred」として本明細書で特定される。
【0040】
「Fredタンパク質」又は「Fredトランスポーター」又は「Fred MFS(主要ファシリテータースーパーファミリー)トランスポータータンパク質」又は「Fred」として互換的に本明細書で特定されるMFSトランスポータータンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有し;配列番号1として本明細書で特定されるアミノ酸配列は、GenBank受入ID WP_087817556.1を有するアミノ酸配列と100%の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0041】
したがって、本発明の一態様は、1種以上のヒトミルクオリゴ糖(HMO)を産生することができる遺伝子改変細胞に関し、前記遺伝子改変細胞は、糖輸送が可能なポリペプチドをコードする異種核酸配列を含み、前記核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%、より好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%及びさらにより好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0042】
したがって、本発明の一態様は、1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)を産生することができる遺伝子改変細胞に関し、前記遺伝子改変細胞は、糖輸送が可能なポリペプチドをコードする異種核酸配列を含み、前記核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%、より好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%及びさらにより好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0043】
さらに、本発明は、1種以上の特定のオリゴ糖、特に、1種以上の特定のHMOの産生のために最適化された遺伝子改変細胞であって、配列番号1のアミノ酸配列と95.4%を超える、例えば、少なくとも95.5%の配列同一性、好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、及びさらにより好ましくは、少なくとも99%の配列同一性を有するタンパク質をコードする組み換え核酸を含む遺伝子改変細胞に関する。
【0044】
さらに、好ましい態様では、本発明は、1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)を産生することができる遺伝子改変細胞であって、配列番号1のアミノ酸配列と70%を超える、例えば、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%、及びさらにより好ましくは、少なくとも99.9%の配列同一性を有するタンパク質をコードする組み換え核酸を含む遺伝子改変細胞に関する。
【0045】
遺伝子改変HMO産生細胞におけるFredトランスポーターの存在は、HMO、特に、シアル酸付加HMOの排出の増加をもたらし、その結果、より大きい割合のHMOが、Fredトランスポーターを有しない同じ細胞と比較して培養ブロスの上清中に存在する。好ましくは、3’-SL、6’-SL、FSL、DS-LNT、LSTc、LSTa及びLSTbなどのシアル酸付加HMOの少なくとも80%が細胞の外部に排出される。特に、3’-SL又は6’-SLの少なくとも80%が細胞の外部に排出される。好ましくは、3’-SL又は6’-SLなどのHMOの全体的な産生は、Fredトランスポーターの存在によって著しくは影響されない。
【0046】
本明細書の文脈における用語「機能的ホモログ」は、配列番号1と70%を超える、例えば、71%~99.9%、例えば、95.4%、例えば、95.5%~99.7%又は100%同一なアミノ酸配列を有し、且つ本発明の少なくとも1つの有利な効果、例えば、産生されるHMOの回収率、HMO産生効率及び/又はHMO産生細胞の生存率の増加を達成するのに有利な機能を有するタンパク質を意味する。
【0047】
用語「主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)」は、糖、薬物、疎水性分子、ペプチド、有機イオンなどを含むある範囲の様々な物質を輸送することを担っている第2の活性トランスポータークラスの大きく且つ並外れて広汎なファミリーを意味する。糖トランスポータータンパク質の特異性は、高度に予測不能であり、例えば、オリゴ糖に対する特異性を備える新規のトランスポータータンパク質の同定には、極めて負担の大きい実験室実験を必要とする(より詳細については、Reddy V.S.et al.,(2012),FEBS J.279(11):2022-2035による概説を参照されたい)。用語「MFSトランスポーター」は、本明細書の文脈において、オリゴ糖、好ましくはHMOの細胞膜を通した輸送、好ましくは、例えば、2’-FL、3-FL、LNT-2、LNT、LNnT、3’-SL又は6’-SLの3又は4糖単位を含むHMO/オリゴ糖の細胞の細胞質ゾルから細胞培地への遺伝子改変細胞により合成されたHMO/オリゴ糖の輸送を促進するタンパク質を意味する。加えて、又はこれに代えて、MFSトランスポーターは、ラクトース、グルコース、細胞代謝産物又は毒素などの本発明によるHMO又はオリゴ糖とみなされない分子の排出も促進し得る。
【0048】
用語「Fred」は、MFSトランスポーターのクラスの1つのメンバーを説明するために使用される。配列番号1として本明細書で特定されるアミノ酸配列は、GenBank受入ID WP_087817556.1を有するアミノ酸配列と100%同一なアミノ酸配列である。配列番号1のアミノ酸配列を有するMFSトランスポータータンパク質は、「Fredタンパク質」又は「Fredトランスポーター」又は「Fred MFS(主要ファシリテータースーパーファミリー)トランスポータータンパク質」又は「Fred」として互換的に本明細書で特定される。Fredタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号2「Fredコード核酸/DNA」又は「fred遺伝子」又は「fred」として本明細書で特定される。
【0049】
用語「シアリル-トランスフェラーゼ」は、本明細書で使用する場合、シアル酸を活性化されたドナー分子からオリゴ糖アクセプターに移してグリコシド結合を形成することができるタンパク質又はポリペプチドを指す。シアリル-トランスフェラーゼは、Cazyファミリー29に分類される。ある種類のシアリル-トランスフェラーゼは、アルファ-2,3結合でガラクトースにシアル酸を付加することができる一方で、別の種類のシアリルトランスフェラーゼは、アルファ-2,6結合でガラクトース又はN-アセチルガラクトサミンにシアル酸を付加する。活性化されたドナー分子は、好ましくは、CMP-シアル酸又はCMP-Neu5Acである。
【0050】
2つ以上の核酸又はアミノ酸配列の文脈において、用語「[所定の]%の配列同一性」は、2つ以上の配列が、核酸又はアミノ酸の比較ウィンドウ又は指定された配列にわたって最大一致について比較及び整列されたとき、所与のパーセントで共通するヌクレオチド又はアミノ酸残基を有することを意味する(すなわち、配列は、少なくとも90パーセント(%)の同一性を有する)。核酸配列又はアミノ酸配列の同一性パーセントは、デフォルトパラメーターを用いるBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを使用して、又は手動によるアラインメント及び視覚的検査によって測定することができる(例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/を参照されたい)。この定義は、欠失及び/又は付加を有する試験配列の相補体及び配列並びに置換を有する相補体及び配列にも適用される。同一性パーセント、配列同一性を決定するために及びアラインメントのために好適なアルゴリズムの例は、Altschul et al.Nucl.Acids Res.25-3389(1997)に記載されているBLAST 2.2.20+アルゴリズムである。BLAST 2.2.20+は、本発明の核酸及びタンパク質に対する配列同一性パーセントを決定するために使用される。BLAST分析を実施するためのソフトウエアは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通して公的に入手可能である。配列アラインメントアルゴリズムの例は、CLUSTAL Omega(http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/)、EMBOSS Needle(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)、MAFFT(http://mafft.cbrc.jp/alignment/server/)又はMUSCLE(http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/muscle/)である。
【0051】
本発明の目的のために、2つのアミノ酸配列間の配列同一性は、好ましくはバージョン5.0.0以降のEMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al.,2000,Trends Genet.16:276-277)のNeedleプログラムにおいて実装されている、Needleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J.Mo/.Biol.48;443-453)を使用して決定される。使用されるパラメーターは、10のギャップオープンペナルティ、0.5のギャップ伸長ペナルティ、及びEBLOSUM62(30 BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換マトリックスである。「最長の同一性」と表示されたNeedle出力(-nobriefオプションを使用して得られる)が同一性パーセントとして使用され、以下のとおりに計算される:(同一の残基×100)/(アラインメントの長さ-アラインメント内のギャップの総数)。
【0052】
本発明の目的のために、2つのヌクレオチド配列間の配列同一性は、10、好ましくは、バージョン5.0.0以降のEMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al.,2000,Trends Genet.16:276-277)のNeedleプログラムにおいて実装されている、Needleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1 970,前掲)を使用して決定される。使用されるパラメーターは、10のギャップオープンペナルティ、0.5のギャップ伸長ペナルティ、及びDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックスである。「最長の同一性」と表示されたNeedle出力(-nobriefオプションを使用して得られる)が同一性パーセントとして使用され、以下のとおりに計算される:(同一のデオキシリボヌクレオチド×100)/(アラインメントの長さ-アラインメント内のギャップの総数)。
【0053】
本発明の文脈において、用語「オリゴ糖」は、いくつかの単糖単位を含有する糖ポリマーを意味する。いくつかの実施形態では、好ましいオリゴ糖は、3又は4個の単糖単位、すなわち、三糖又は四糖からなる糖ポリマーである。本発明の好ましいオリゴ糖は、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)である。
【0054】
[HMO]
本発明に関連して、用語「ヒトミルクオリゴ糖」又は「HMO」は、ヒト母乳中で見出される複合糖質を意味する(参考のために、Urashima et al.:Milk Oligosaccharides.Nova Science Publisher(2011);又はChen,Adv.Carbohydr.Chem.Biochem.72,113(2015)を参照されたい)。HMOは、1つ以上のβ-N-アセチル-ラクトサミニル及び/又は1つ以上のβ-ラクト-N-ビオシル単位によって伸長され得る還元末端でラクトース単位を含むコア構造を有し、このコア構造は、α-L-フコピラノシル及び/又はα-N-アセチル-ノイラミニル(シアリル)部分によって置換され得る。この点に関して、非酸性(又は中性)HMOは、シアリル残基を欠き、酸性HMOは、それらの構造内に少なくとも1つのシアリル残基を有する。非酸性(又は中性)HMOは、フコシル化されてもよいし、フコシル化されなくてもよい。そのような中性非フコシル化HMOの例としては、ラクト-N-トリオース2(LNT-2)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、ラクト-N-ネオヘキサオース(LNnH)、パラ-ラクト-N-ネオヘキサオース(pLNnH)、パラ-ラクト-N-ヘキサオース(pLNH)及びラクト-N-ヘキサオース(LNH)が挙げられる。中性フコシル化HMOの例としては、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNFP-I)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LNDFH-I)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ジフコシルラクトース(DFL)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNFP-II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNFP-III)、ラクト-N-ジフコヘキサオースIII(LNDFH-III)、フコシル-ラクト-N-ヘキサオースII(FLNH-II)、ラクト-N-フコペンタオースV(LNFP-V)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LNDFH-II)、フコシル-ラクト-N-ヘキサオースI(FLNH-I)、フコシル-パラ-ラクト-N-ヘキサオースI(FpLNH-I)、フコシル-パラ-ラクト-N-ネオヘキサオースII(F-pLNnH II)及びフコシル-ラクト-N-ネオヘキサオース(FLNnH)が挙げられる。
【0055】
酸性及びシアル酸付加HMOの例としては、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、3-フコシル-3’-シアリルラクトース(FSL)、3’-O-シアリルラクト-N-テトラオースa(LST a)、フコシル-LST a(FLST a)、6’-O-シアリルラクト-N-テトラオースb(LST b)、フコシル-LST b(FLST b)、6’-O-シアリルラクト-N-ネオテトラオース(LST c)、フコシル-LST c(FLST c)、3’-O-シアリルラクト-N-ネオテトラオース(LST d)、フコシル-LST d(FLST d)、シアリル-ラクト-N-ヘキサオース(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースI(SLNH-I)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースII(SLNH-II)及びジシアリル-ラクト-N-テトラオース(DSLNT)が挙げられる。本発明に関連して、ラクトースは、HMO種であるとみなされない。
【0056】
本発明の1つの好ましい態様では、特に、3’-SL及び6’-SLから選択される三糖、特に、3’-SLなどの三糖HMOが好ましい。
【0057】
本発明の別の好ましい態様では、四糖HMO、特に、FSLなどの四糖が好ましい。
【0058】
[2’-FL]
2’-フコシルラクトース(2’-FL又は2’O-フコシルラクトース)は、三糖、より正確には、L-フコース、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Fucα1-2Galβ1-4Glc)で構成されるフコシル化中性三糖である。それは、ヒト母乳中において天然に存在する最も支配的なヒトミルクオリゴ糖(HMO)であり、全てのHMOの約30%を占める。遺伝子改変細胞又は酵素反応において、2’-FLは、ラクトース及びフコシルドナーとのα1,2-フコシルトランスフェラーゼ酵素反応によって主に産生される。
【0059】
[3-FL]
3-フコシルラクトース(3-FL)は、三糖、より正確には、D-ガラクトース、L-フコース、及びD-グルコース(Galβ1-4(Fucα1-3)Glc)で構成されるフコシル化中性三糖である。それは、ヒト母乳中に天然に存在する。遺伝子改変細胞又は酵素反応において、3-FLは、ラクトース及びフコシルドナーとのα1,3-フコシルトランスフェラーゼ又はα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ酵素反応によって主に産生される。
【0060】
[LNT]
ラクト-N-テトラオース(LNT)は、四糖、より正確には、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、及びグルコース(GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)で構成される中性四糖である。それは、ヒト母乳中に天然に存在する。
【0061】
[DFL]
ジフコシルラクトース(DFL又は2’,3-ジ-O-フコシルラクトース)は、オリゴ糖、より正確には、L-フコース、D-ガラクトース、L-フコース、及びD-グルコース(Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)Glc)で構成されるフコシル化中性四糖である。それは、ヒト母乳中に天然に存在する。遺伝子改変細胞又は酵素反応において、DFLは、ラクトース及び2個のフコシルドナーとのα1,2-フコシルトランスフェラーゼ、α1,3-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はα1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ酵素反応によって主に産生される。
【0062】
[3’-SL及び6’-SL]
3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミニル、ガラクトース、及びグルコース(Neu5Ac-α2-3Galβ1-4-Glc又はNeu5Ac-α2-6Galβ1-4-Glc)で構成されるシアル酸付加三糖である。それらは、ヒト母乳中に天然に存在する。3’-SLの特定の機能的利点は、病原性細菌、例えば、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)及びそれらの毒素又はウイルス、例えば、ロタウイルスの接着を阻害することによって感染のリスクを低減することを含む。3’-SL及び6’-SLは、特に、ニューロンに必須の構成要素であるシアル酸を供給することによって乳児の脳の発達を促進する。
【0063】
[FSL(3’-S,3-FL)]
3’-シアリル-3-フコシルラクトースは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、L-フコース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-3Galβ1-4(Fucα1-3)Glc)で構成されるシアル酸付加及びフコシル化四糖である。それは、ヒト母乳中に天然に存在する。
【0064】
[LST-a]
シアリルラクト-N-テトラオースAは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-3Galβ1-3GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加五糖である。それは、ヒト母乳中に天然に存在する。
【0065】
[LST-b]
シアリルラクト-N-テトラオースBは、オリゴ糖、より正確には、D-ガラクトース、N-アセチルノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Galβ1-3(Neu5Ac-α2-6)GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加五糖である。それは、ヒト母乳中に天然に存在する。
【0066】
[LST-c]
シアリルラクト-N-テトラオースCは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース(Neu5Ac-α2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加五糖である。それは、ヒト母乳中に天然に存在する。
【0067】
[DS-LNT]
ジシアリルラクト-N-テトラオースは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-3Galβ1-3(Neu5Ac-α2-6)GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加六糖である。それは、ヒト母乳中に天然に存在する。
【0068】
[S-pLNnH]
シアリル-パラ-ラクト-N-ネオヘキサオースは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-3Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加七糖である。
【0069】
[S-LNnH-I]
シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースIは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-3Galβ1-4GlcNAcβ1-6(Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加七糖である。
【0070】
[DS-F-LNH II]
ジシアリル-フコシル-ラクト-N-ヘキサオースIIは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、L-フコース、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-3Galβ1-3(Neu5Ac-α2-6)GlcNAcβ1-3(Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-6)Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加フコシル化九糖である。
【0071】
[FS-LNnH-I]
フコシル-シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースIは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、L-フコース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-3(Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-6)Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加フコシル化八糖である。
【0072】
[FS-LNH]
フコシル-シアリル-ラクト-N-ヘキサオースは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、L-フコース、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-6(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcβ1-3)Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加フコシル化八糖である。
【0073】
[フコシル-LST-a(FLST-a)]
フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースAは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、L-フコース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-3Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加フコシル化六糖である。
【0074】
[フコシル-LST-b(FLST-b)]
フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースBは、オリゴ糖、より正確には、L-フコース、D-ガラクトース、N-アセチルノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Fucα1-2Galβ1-3(Neu5Ac-α2-6)GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加フコシル化六糖である。
【0075】
[フコシル-LST-c(FLST-c)]
フコシル-シアリルラクト-N-テトラオースCは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、L-フコース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4(Fucα1-3)Glc)で構成されるシアル酸付加フコシル化六糖である。
【0076】
[SLNH]
シアリル-ラクト-N-ヘキサオースは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-6(Galβ1-3GlcNAcβ1-3)Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加七糖である。
【0077】
[SLNnH-II]
シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースIIは、オリゴ糖、より正確には、N-アセチルノイラミン酸、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位(Neu5Ac-α2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-3(Galβ1-4GlcNAcβ1-6)Galβ1-4Glc)で構成されるシアル酸付加七糖である。
【0078】
[HMO合成のための機能的酵素]
1種以上のHMOを合成することができるように、本発明の組み換え細胞は、グリコシルトランスフェラーゼ活性を備える機能的酵素をコードする少なくとも1つの組み換え核酸を含む。ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子は、遺伝子改変細胞のゲノム内に(染色体への統合によって)統合され得るか、或いはプラスミドDNA内に含まれてプラスミド性として発現され得る。HMOの産生のために2種以上のグリコシルトランスフェラーゼ、例えばLNT又はLNnTが必要とされる場合、グリコシルトランスフェラーゼ活性を備える異なる酵素をコードする2つ以上の組み換え核酸、例えばLNTを産生するためにβ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(第2のグリコシルトランスフェラーゼをコードする第2の組み換え核酸)と組み合わせたβ-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(第1のグリコシルトランスフェラーゼをコードする第1の組み換え核酸)がゲノム内に組み込まれてもよく、且つ/又はプラスミドから発現されてもよく、ここで、第1及び第2の組み換え核酸は、相互に独立して、染色体内又はプラスミド上に統合され得る。
【0079】
好ましい一実施形態では、第1及び第2の組み換え核酸は、産生細胞の染色体内に安定に統合され;別の実施形態では、第1及び第2のグリコシルトランスフェラーゼの少なくとも一方は、プラスミド性である。グリコシルトランスフェラーゼ活性を備えるタンパク質/酵素(グリコシルトランスフェラーゼ)は、様々な実施形態では、α-1,2-フコシルトランスフェラーゼ、α-1,3-フコシルトランスフェラーゼ、α-1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ、α-1,4-フコシルトランスフェラーゼ、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ、β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、β-1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ及びβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼの活性を有する酵素から選択され得る。例えば、2’-FLの産生は、改変細胞が活性型α-1,2-フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現することを必要とする。3-FLの産生のために、改変細胞は、活性型α-1,3-フコシルトランスフェラーゼ酵素の発現を必要とする。LNTの産生のために、改変細胞は、少なくとも2つのグリコシルトランスフェラーゼ、β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ及びβ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼを発現する必要がある。6’-SLの産生のために、改変細胞は、活性型α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ酵素及びCMP-シアル酸合成、特に、CMP-neu5Aの合成のための経路などのシアル酸糖ヌクレオチドを生成するための経路を発現しなければならない。3’-SLの産生のために、改変細胞は、活性型α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ酵素及びCMP-シアル酸合成、特に、CMP-neu5Aの合成のための経路などのシアル酸糖ヌクレオチドを生成するための経路を発現しなければならない。産生細胞に含まれる組み換え遺伝子によってコードされ得るグリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質のいくつかの非限定的実施形態は、表1の非限定的例から選択され得る。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変細胞は、配列番号3に示されるとおりのα-2,3-シアリル-トランスフェラーゼ及び/又は配列番号3と少なくとも70%同一、例えば、少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、例えば、少なくとも99%若しくは例えば、100%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログを異種性に発現するように改変される。加えて、遺伝子改変細胞は、シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路を含有する。
【0085】
別の実施形態では、本発明の遺伝子改変細胞は、配列番号4に示されるとおりのα-2,6-シアリル-トランスフェラーゼ及び/又は配列番号4と少なくとも70%同一、例えば、少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、例えば、少なくとも99%若しくは例えば、100%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログを異種性に発現するように改変される。加えて、遺伝子改変細胞は、シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路を含有する。
【0086】
シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路は、細胞において固有のものであってもよいし、配列番号17のneuBCA遺伝子クラスターなどの1種以上の異種遺伝子によって提供されてもよく、異種CMP-Neu5Acシンテターゼは、配列番号16のneuAによってコードされ、異種シアル酸シンターゼは、配列番号12のneuBによってコードされ、異種GlcNAc-6-ホスファート2エピメラーゼは、配列番号14のneuCによってコードされる。
【0087】
一実施形態では、Fred発現遺伝子改変細胞はさらに、配列番号4に示されるとおりのα-2,6-シアリル-トランスフェラーゼ及び/又は配列番号4と少なくとも70%同一、例えば、少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、例えば、少なくとも99%若しくは例えば、100%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログを異種性に発現するように改変され得る。加えて、遺伝子改変細胞は、シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路を含有する。これは、細胞において固有のものであってもよいし、配列番号17のneuBCA遺伝子クラスターなどの1種以上の異種遺伝子によって提供されてもよく、異種CMP-Neu5Acシンテターゼは、配列番号16のneuAによってコードされ、異種シアル酸シンターゼは、配列番号12のneuBによってコードされ、異種GlcNAc-6-ホスファート2エピメラーゼは、配列番号14のneuCによってコードされる。
【0088】
[MFSトランスポーターをコードする異種核酸配列]
本発明のある態様は、配列番号1に示されるとおりの主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)ポリペプチド、又は配列番号1と95.4%を超えて又は99.7%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログである糖輸送が可能なポリペプチドをコードする異種核酸配列を含む核酸構築物を提供し、糖輸送ポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%、例えば、少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0089】
好ましくは、配列番号2、又はそのホモログの核酸配列は、調節エレメント、特に、PglpF、PglpF_SD4及びPglpF_SD7からなる群から選択されるエレメントによって調節される。さらなる実施形態では、核酸構築物はさらに、シアリル-トランスフェラーゼ、特に、本明細書の表2から選択されるシアリル-トランスフェラーゼをコードする核酸配列を含む。
【0090】
用語「異種核酸配列」、「組み換え遺伝子/核酸/DNAコーディング」又は「コーディング核酸配列」は、適切な制御配列、すなわち、プロモーターの制御下にある場合、mRNA内に転写されてポリペプチドに翻訳される一連の連続的非重複トリプレット(コドン)を含む、人工的(すなわち、核酸配列を作製するために標準的な実験室方法を使用してインビトロで生成される)核酸配列を意味する。コーディング配列の境界は、一般に、mRNAの5’末端、翻訳開始コドン(AUG、GUG又はUUG)及び翻訳終止コドン(UAA、UGA又はUAG)でのオープンリーディングフレームのすぐ上流に配置されるリボソーム結合部位によって決定される。コーディング配列として、ゲノムDNA、cDNA、合成及び組み換え核酸配列が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0091】
用語「核酸」には、RNA、DNA及びcDNA分子が含まれる。遺伝コードの縮重の結果として、所与のタンパク質をコードする複数のヌクレオチド配列が産生され得ると理解されている。核酸という用語は、用語「ポリヌクレオチド」と互換的に使用される。
【0092】
「オリゴヌクレオチド」は、短鎖核酸分子である。
【0093】
「プライマー」は、精製された制限消化物中のように天然に存在するか、又は合成的に生成されるかを問わず、核酸鎖に相補的なプライマー伸長生成物の合成が誘導される条件下(すなわち、ヌクレオチド及びDNAポリメラーゼなどの誘導剤の存在下において且つ好適な温度及びpH)に置かれたときに、合成の開始点として作用することができるオリゴヌクレオチドである。プライマーは、好ましくは、増幅における最大効率のための一本鎖であるが、代わりに二本鎖であり得る。二本鎖である場合、プライマーは、伸長生成物を調製するために使用される前に、最初にその鎖を分離するために処理される。好ましくは、プライマーは、デオキシリボヌクレオチド配列である。プライマーは、誘導剤の存在下で伸長生成物の合成を開始させるために十分に長くなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマー源及び本方法の使用を含む多数の因子に依存するであろう。
【0094】
本発明の組み換え核酸配列は、コーディングDNA配列、例えば、遺伝子、又は非コーディングDNA配列、例えば、プロモーター配列などの調節DNAであり得る。本発明の一態様は、組み換え細胞であって、1種以上のHMOの産生のために必要な酵素をコードする組み換えDNA配列及びFredトランスポーターをコードするDNA配列を含む組み換え細胞を提供することに関する。したがって、一実施形態では、本発明は、核酸構築物であって、コーディング核酸配列、すなわち、目的の遺伝子の組み換えDNA配列、例えばグリコシルトランスフェラーゼ遺伝子若しくはfred遺伝子、及び非コーディングDNA配列、例えばプロモーターDNA配列、例えばlacオペロン若しくはglpオペロンのプロモーターに由来する組み換えプロモーター配列、又は別のゲノムプロモーターDNA配列に由来するプロモーター配列、或いは合成プロモーター配列を含む核酸構築物に関し、ここで、コーディング配列及びプロモーター配列は、作動可能に連結している。
【0095】
用語「作動可能に連結した」は、2つ以上の核酸(例えば、DNA)断片間の機能的関係を指す。典型的には、それは、転写調節配列の転写配列との機能的関係を指す。例えば、プロモーター配列は、それが適切な宿主細胞又は他の発現系におけるコーディング配列の転写を刺激又は調節する場合、コーディング配列と作動可能に連結している。一般に、転写配列に作動可能に連結しているプロモーター転写調節配列は、転写配列に物理的に隣接しており、すなわち、それらは、シス作用性である。
【0096】
一実施形態では、本発明の核酸構築物は、ベクターDNAの一部であってもよく、別の実施形態では、構築物は、宿主細胞のゲノム内に統合されている発現カセット/カートリッジである。したがって、用語「核酸構築物」は、ゲノムの遺伝子の発現を修飾するか、又は構築物中に含まれ得る遺伝子/コーディングDNA配列を発現させるために標的細胞、例えば細菌細胞中に移植されることが意図される、核酸の人工的に構築された断片、特にDNA断片を意味する。本発明に関連して、核酸構築物は、2つ以上の組み換えDNA配列:本質的に、プロモーターDNA配列を含む非コーディングDNA配列及び目的の遺伝子、例えばFredタンパク質をコードするコーディングDNA配列、宿主細胞内のHMOの産生に有用な別の遺伝子のグリコシルトランスフェラーゼを含む組み換えDNA配列を含有する。好ましくは、構築物はさらに、構築物のコーディングDNAの転写又は翻訳のいずれかを調節する非コーディングDNA配列、例えば、転写物へのリボソーム結合を促進するDNA配列、転写物を安定化するリーディングDNA配列を含む。
【0097】
構築物(発現カセット)内に含まれる目的の組み換え核酸の細菌ゲノム内への統合は、従来法により、例えばattTn7部位について記載されているとおり、染色体上の特異的部位に相同であるフランキング配列を含有する線状カートリッジを用いることにより(Waddell C.S.and Craig N.L.,Genes Dev.(1988)Feb;);組み換えがファージλのRedリコンビナーゼ機能又はRacプロファージのRecE/RecTリコンビナーゼ機能によって媒介される核酸配列のゲノム統合のための方法により(Murphy,J Bacteriol.(1998);180(8):2063-7;Zhang et al.,Nature Genetics(1998)20:123-128 Muyrers et al.,EMBO Rep.(2000)1(3):239-243);Red/ET組み換えに基づく方法により(Wenzel et al.,Chem Biol.(2005),12(3):349-56.;Vetcher et al.,Appl Environ Microbiol.(2005);71(4):1829-35);又は陽性クローン、すなわち、例えばマーカー遺伝子若しくは遺伝子機能の損失若しくは獲得によって選択され得る発現カセットを有するクローンにより達成され得る。
【0098】
目的の遺伝子を含む発現カセットの単一コピーは、本発明による所望のHMOの産生を確実にし、所望の効果を達成するために十分であり得る。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、細胞のゲノムDNA内に統合された目的の遺伝子の1つ、2つ又は3つのコピーを含む組み換えHMO産生細胞に関する。いくつかの実施形態では、遺伝子の単一コピーが好ましい。
【0099】
好ましい一実施形態では、本発明の核酸構築物の組み換えコーディング核酸配列は、プロモーターに関して異種であり、これは、起源の種のゲノム内の同等の天然コーディング配列が別のプロモーター配列の制御下で転写されている(すなわち、構築物のプロモーター配列ではない)ことを意味する。さらに、宿主細胞に関して、コーディングDNAは、例えば、大腸菌(Escherichia coli)宿主細胞内で発現したFredタンパク質をコードするDNA配列などの異種(すなわち、別の生物学的種若しくは属に由来する)又は例えばコラン酸オペロンの遺伝子、wca遺伝子などの相同なもの(すなわち、宿主細胞に由来する)であり得る。
【0100】
好ましくは、遺伝子改変細胞中で発現されるHMO、プロモーターDNA配列、及びリボソーム結合部位配列(例えば、シャイン・ダルガーノ(Shine-Dalgarno)配列などの他の調節配列の生合成産生に関連する遺伝子を含む本発明の構築物は、遺伝子改変細胞の懸濁液を含む1リットルの発酵培地の少なくとも0.03g/OD(光学密度)のレベル、例えば、およそ0.05g/l/OD~およそ0.5g/l/ODのレベルでのHMOの産生を可能にする。本発明のために、HMO産生の後者のレベルは、「十分であり」、このレベルの所望のHMOを産生することができる遺伝子改変細胞は、「好適な遺伝子改変細胞」であるとみなされ、すなわち、細胞はさらに、HMO産生のために有利である本明細書に記載される少なくとも1つの効果を達成するために、HMOトランスポータータンパク質、例えば、Fredを発現するように改変され得る。
【0101】
本発明の遺伝子改変細胞又は核酸構築物は、推定上のFred MFS(主要ファシリテータースーパーファミリー)トランスポータータンパク質をコードする異種遺伝子などの核酸配列を含む。
【0102】
したがって、本発明の核酸構築物は、機能的MFSトランスポーターをコードすることができる遺伝子、fred、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有する核酸配列を含有する。好ましくは、配列番号2、又はそのホモログの核酸配列は、調節エレメント、特に、PglpF、PglpF_SD4及びPglpF_SD7からなる群から選択されるエレメントによって調節される。さらなる実施形態では、核酸構築物はさらに、シアリル-トランスフェラーゼ、特に、本明細書の表2から選択されるシアリル-トランスフェラーゼをコードする核酸配列を含む。
【0103】
遺伝子改変細胞又は核酸構築物中に含有される核酸配列は、配列番号1のタンパク質、又は配列番号1と70%を超えて同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする。
【0104】
遺伝子改変細胞又は核酸構築物中に含有される核酸配列は、配列番号1のタンパク質、又は配列番号1と95.4%を超えて同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする。
【0105】
配列番号1のタンパク質の機能的ホモログは、変異誘発によって得られてもよい。機能的ホモログは、配列番号1のアミノ酸配列の機能性と比較して少なくとも50%、例えば、60%、70%、80%、90%又は100%の残存した機能性を有するべきである。機能的ホモログは、配列番号1のアミノ酸配列の機能性と比較してより高い機能性を有し得る。配列番号1の機能的ホモログは、本発明による遺伝子改変細胞のHMO産生を増強することができなければならない。
【0106】
[遺伝子改変細胞]
本明細書で使用する場合、「遺伝子改変細胞」は、遺伝子材料が遺伝子工学技術を使用して人間の介入によって改変されている細胞として理解され、そのような技術は、例えば、以下に限定されないが、例えば、異種ポリヌクレオチド配列、Crisper/Cas編集及び/又はランダム変異誘発による形質転換又は形質移入である。本発明の文脈において、用語「遺伝子改変細胞」及び「宿主細胞」は、互換的に使用される。
【0107】
本発明において、「遺伝子改変細胞」は、好ましくは、外来ポリヌクレオチド配列によって形質転換又は形質移入されている宿主細胞である。
【0108】
遺伝子改変細胞は、好ましくは、原核細胞である。宿主細胞として機能し得る適切な微生物細胞としては、酵母細胞、細菌細胞、古細菌細胞、藻類細胞、及び真菌細胞が挙げられる。
【0109】
遺伝的に操作された細胞は、例えば、細菌又は真菌であり得る。好ましい一実施形態では、遺伝的に操作された細胞は、細菌細胞である。
【0110】
[宿主細胞]
遺伝子改変細胞(宿主細胞又は組み換え細胞)は、例えば、細菌細胞又は酵母細胞であり得る。好ましい一実施形態では、遺伝子改変細胞は、細菌細胞である。
【0111】
細菌宿主細胞に関して、原則として、限定されないが、それらは、目的の遺伝子を挿入するための遺伝的操作を可能にする限り、真正細菌(グラム陽性又はグラム陰性)又は古細菌であってもよく、製造規模で培養することができる。好ましくは、宿主細胞は、高細胞密度への培養を可能にする特性を有する。本発明に従うHMOの産業的組み換え生産に好適な細菌宿主細胞の非限定的な例として、エルウィニア・ヘルビコラ(Erwinia herbicola)(パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans))、シトロバクター・フロインジイ(Citrobacter freundii)、カンピロバクター属(Campylobacter)種、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)、ペクトバクテリウム・カロトボルム(Pectobacterium carotovorum)、又はキサントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)があり得る。枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バチルス・サーモフィルス(Bacillus thermophilus)、バチルス・ラテロスポルス(Bacillus laterosporus)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ミコイデス(Bacillus mycoides)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・レンツス(Bacillus lentus)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、及びバチルス・サーキュサンス(Bacillus circulans)を含むバチルス属(genus Bacillus)の細菌も使用され得る。同様に、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ヘルベチクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・デルブリュッキイ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・クリスパツス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ジェンセニイ(Lactobacillus jensenii)及びラクトバチルス・ラクティス(Lactococcus lactis)含むが、これらに限定されないラクトバチルス属(Lactobacillus)及びラクトコッカス属(Lactococcus)の細菌は、本発明の方法を使用して改変され得る。ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)及びプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Proprionibacterium freudenreichii)も、本明細書に記載した本発明のための好適な細菌種である。本発明の一部としてさらに含まれるのは、エンテロコッカス属(Enterococcus)(例えば、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)及びエンテロコッカス・サーモフィルス(Enterococcus thermophiles))、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)(例えば、ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)及びビフィドバクテリウム・ビフィズム(Bifidobacterium bifidum))、スポロラクトバチルス属の種(Sporolactobacillus spp.)、ミクロモモスポラ種(Micromomospora spp.)、ミクロコッカス属の種(Micrococcus spp.)、ロドコッカス属の種(Rhodococcus spp.)、及びシュードモナス属の種(Pseudomonas)(例えば、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa))に由来する本明細書に記載されるとおりに改変された株である。
【0112】
本明細書に記載される特徴を含む細菌は、ラクトース及び細胞によって産生されたHMOなどのオリゴ糖の存在下で培養され、細菌自体又は細菌の培養上清のいずれかから回収される。好ましい一実施形態では、本発明の遺伝子改変細胞は、大腸菌(Escherichia coli)細胞である。
【0113】
別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、酵母細胞、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、クリベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルシアヌス(Kluveromyces marxianus)などである。
【0114】
別の実施形態では、宿主細胞は、アスパルギルス属種(Aspargillus sp)、フザリウム属種(Fusarium sp)又はトリコデルマ属種(Thricoderma sp)などの糸状菌であり、例示的な種は、A.ニガー(A.niger)、A.ニデュランス(A.nidulans)、A.オリゼ(A.oryzae)、F.ソラニ(F.solani)、F.グラミネアラム(graminearum)及びT.リーゼイ(T.reesei)である。
【0115】
本発明の遺伝子改変細胞は、例えば、Sambrook et al.,Wilson&Walker,“Maniatise et al.,and Ausubel et al.による要覧に記載されたものなど、当技術分野の標準的な方法を使用して提供され得る。
【0116】
HMO産生に好適な宿主、例えば大腸菌(E.coli)は、内因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子又は外因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子を含んでもよく、例えば、大腸菌(E.coli)は、内因性lacZ遺伝子(例えば、GenBank受入番号V00296(GI:41901))を含む。本発明のために、HMO産生宿主細胞は、任意のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を含むか、又は不活性化されている当該遺伝子を含むように遺伝的に操作される。遺伝子は、細菌ゲノム由来の対応する核酸配列の完全若しくは部分欠失によって不活性化され得るか、又は遺伝子配列は、それが転写される方法で変異されるか、又は転写される場合、転写物は、翻訳されないか、又はタンパク質(すなわち、β-ガラクトシダーゼ)に翻訳される場合、そのタンパク質は、対応する酵素活性を有していない。このように、HMO産生細菌は、HMOの産生のために有益である増加した細胞内ラクトースプールを蓄積する。
【0117】
いくつかの実施形態では、操作された細胞、例えば、細菌は、欠損性シアル酸異化経路を含有する。「シアル酸異化経路」は、シアル酸の分解を生じさせる、通常、酵素によって制御され、触媒される一連の反応を意味する。本明細書に記載される例示的なシアル酸異化経路は、大腸菌(E.coli)経路である。この経路において、シアル酸(Neu5Ac;N-アセチルノイラミン酸)は、全てnanATEK-yhcHオペロンによってコードされ、且つNanRによって抑制される酵素NanA(N-アセチルノイラミン酸リアーゼ)及びNanK(N-アセチルマンノサミンキナーゼ)及びNanE(N-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼ)によって分解される(http://ecocyc.org/ECOLI)。欠損性シアル酸異化経路は、内因性nanA(N-アセチルノイラミン酸リアーゼ)(例えば、GenBank受入番号D00067.1(GL216588))及び/又はnanK(N-アセチルマンノサミンキナーゼ)遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、GenBank受入番号(アミノ酸)BAE77265.1(GL85676015))及び/又はnanE(N-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼ、GI:947745)内に変異を導入することにより、大腸菌(E.coli)宿主内に与えられる。任意選択により、nanT(N-アセチルノイラミン酸トランスポーター)遺伝子も不活化されるか又は変異している。シアル酸代謝の他の中間体として、(ManNAc-6-P)N-アセチルマンノサミン-6-ホスファート;(GlcNAc-6-P)N-アセチルグルコサミン-6-ホスファート;(GlcN-6-P)グルコサミン-6-ホスファート及び(Fruc-6-P)フルクトース-6-ホスファートが挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、nanAは、変異している。他の好ましい実施形態では、nanA及びnanKは、変異している一方、nanEは、機能的なままである。別の好ましい実施形態では、nanA及びnanEは、変異している一方、nanKは、変異、不活化又は欠失されていない。変異は、nanA、nanK、nanE及び/又はnanTの遺伝子産物をコードする核酸配列内の1つ以上の変化である。例えば、変異は、核酸配列内の1個、2個、最大5個、最大10個、最大25個、最大50個又は最大100個の変化であり得る。例えば、nanA、nanK、nanE及び/又はnanT遺伝子は、ヌル変異によって変異している。本明細書に記載されるヌル変異は、酵素の機能の消失(すなわち活性の低下又は活性なし)又は酵素の消失(すなわち遺伝子産物なし)のいずれかを引き起こすアミノ酸の置換、付加、欠失又は挿入を包含する。「欠失した」は、(機能的)遺伝子産物が産生されないように、コーディング領域が完全に又は部分的に除去されていることを意味する。「不活化された」は、結果として生じる遺伝子産物が機能的に不活性であるか、又は固有の天然に存在する内因性遺伝子産物の活性の100%未満、例えば90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%若しくは20%の遺伝子産物をコードするようにコーディング配列が変更されていることを意味する。「非変異」遺伝子又はタンパク質は、天然の、天然に存在する、若しくは内因性のコーディング配列から1個、2個、最大5個、最大10個、最大20個、最大50個、最大100個、最大200個若しくは最大500個以上のコドンが異ならないか、又は対応するコードされたアミノ酸配列と異ならないことを意味する。
【0118】
好ましい実施形態では、細菌(例えば、大腸菌(E.coli))は、シアル酸合成能を含み、すなわち、遺伝子改変細胞は、シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路を含む。例えば、遺伝子改変細菌は、外因性UDP-GlcNAc 2-エピメラーゼ(例えば、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)のneuC(GenBank AAK91727.1)若しくは均等物(例えば、(GenBank CAR04561.1)、Neu5Acシンターゼ(例えば、C.ジェジュニ(C.jejuni)のneuB(GenBank AAK91726.1)若しくは均等物、(例えば、フラボバクテリウム・リムノセディミニス(Flavobacterium limnosediminis)シアル酸シンターゼ、GenBank WP_023580510.1)、及び/又はCMP-Neu5Acシンテターゼ(例えば、C.ジェジュニ(C.jejuni)のneuA(GenBank AAK91728.1)若しくは均等物(例えば、ビブリオ・ブラジリエンシス(Vibrio brasiliensis)CMP-シアル酸シンターゼ、GenBank WP_006881452.1)の提供を介してシアル酸合成能を含む。
【0119】
一実施形態では、遺伝子改変細胞は、配列番号13(NeuC)のUDP-GlcNAc 2-エピメラーゼ及び/若しくは配列番号11(NeuB)のCMP-Neu5Acシンテターゼ及び/若しくは配列番号15(NeuA)のNeu5Acシンターゼ、又はそれぞれ配列番号11若しくは13若しくは15と少なくとも80%、例えば少なくとも90%若しくは例えば少なくとも99%同一なアミノ酸配列を有するその機能的バリアントを含む。
【0120】
改変細菌中での天然N-アセチルグルコサミン含有HMOの産生もまた、当技術分野において知られている(例えば、Gebus C et al.(2012)Carbohydrate Research 363 83-90を参照されたい)。
【0121】
3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、3-フコシル-3’-シアリルラクトース(FSL)、3’-O-シアリルラクト-N-テトラオースa(LST a)、フコシル-LST a(FLST a)、6’-O-シアリルラクト-N-テトラオースb(LST b)、フコシル-LST b(FLST b)、6’-O-シアリルラクト-N-ネオテトラオース(LST c)、フコシル-LST c(FLST c)、シアリル-ラクト-N-ヘキサオース(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースI(SLNH-I)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースII(SLNH-II)及びジシアリル-ラクト-N-テトラオース(DSLNT)、シアリル-パラ-ラクト-N-ネオヘキサオース(S-pLNnH)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースI(S-LNnH-I)、ジシアリル-フコシル-ラクト-N-ヘキサオースII(DS-F-LNH II)、フコシル-シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースI(FS-LNnH-I)及び/又はフコシル-シアリル-ラクト-N-ヘキサオース(FS-LNH)などのN-アセチルノイラミン酸(シアリル)含有HMOの産生のために、前記遺伝子改変細胞は、外因性N-アセチルノイラミン酸トランスフェラーゼ(すなわち、シアリルトランスフェラーゼ)、又はその機能的バリアント若しくは断片を含むように改変される。外因性シアリルトランスフェラーゼ遺伝子は、表2に列挙されるシアリルトランスフェラーゼなどであるがこれらに限定されない、いくつかの供給源のいずれか1つから得られてもよい。
【0122】
上記のとおりのラクト-N-トリオース2(LNT-2)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNFP-I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNFP-II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNFP-III)、ラクト-N-フコペンタオースV(LNFP-V)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFH-I)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFH-II)及びラクト-N-ネオジフコヘキサオースII(LNDFH-III)などのN-アセチルグルコサミン含有HMOの産生のために、前記遺伝子改変細胞は、外因性UDP-GlcNAc:Galα/β-R β-3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子又はその機能的バリアント若しくは断片を含むように改変される。この外因性UDP-GlcNAc:Galα/β-R β-3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子は、いくつかの供給源のいずれか1つ、例えば、髄膜炎菌(N.meningitidis)(Genbankタンパク質目録 AAF42258.1)又は淋菌(N.gonorrhoeae)(Genbankタンパク質目録 ACF31229.1)から記載されるlgtA遺伝子から得られてもよい。任意選択により、追加の外因性グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、外因性UDP-GlcNAc:Galα/β-R β-3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼを含む細菌内で共発現されてもよい。例えば、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子は、UDP-GlcNAc:Galα/β-R β-3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子と共発現される。この外因性β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子は、いくつかの供給源のいずれかの1つ、例えば、髄膜炎菌(N.meningitidis)から記載される1つであるlgtB遺伝子(Genbankタンパク質目録 AAF42257.1)、又はH.ピロリ(H.pylori)から記載される1つであるHP0826/galT遺伝子(Genbankタンパク質目録 NP_207619.1)から得ることができる。任意選択により、外因性UDP-GlcNAc:Galα/β-R β-3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子を含む細菌内で共発現される追加の外因性グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、例えば、大腸菌(E.coli)055:H7から記載されるP-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子、wbgO遺伝子(Genbankタンパク質目録 WP_000582563.1)、又はH.ピロリ(H.pylori)からのjhp0563遺伝子(Genbankタンパク質目録 AEZ55696.1)、又はストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)からのIb型OI2のcpslBJ遺伝子(Genbankタンパク質目録 AB050723)である。上記の酵素のいずれかの機能的バリアント及び断片もまた、開示される本発明によって包含される。
【0123】
シアリルトランスフェラーゼ遺伝子、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子及び/又はガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子もまた、Pglpプロモーターに作動可能に連結することができ、対応するゲノム統合カセットから発現され得る。一実施形態では、ゲノムに統合されている遺伝子は、ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、例えば、H.ピロリ(H.pylori)由来のGalT酵素をコードするHP0826遺伝子(Genbankタンパク質目録 NP_207619.1)であり;別の実施形態では、ゲノムに統合されている遺伝子は、β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、例えば、髄膜炎菌(N.meningitidis)由来のlgtA遺伝子(Genbankタンパク質目録 AAF42258.1)であり;本発明で好ましい実施形態では、ゲノムに統合されている遺伝子は、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、例えば、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)のNST(Genbankタンパク質目録 AAC44541.1又は配列番号3)である。これらの実施形態では、β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ又はガラクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、同様に、ゲノムに統合された又はプラスミド性のカセットから発現され得る。第2の遺伝子は、任意選択により、glpプロモーター(配列番号5)の制御下又は発現系にとって好適である任意の他のプロモーター、例えばPlac(配列番号8)の制御下のいずれかで発現され得る。
【0124】
HMO産生宿主細胞は通常、機能性lacY及び機能障害性lacZ遺伝子を含む。
【0125】
本発明の組み換え細胞によって産生されるHMOは、当技術分野において利用できる好適な手法を使用して精製され得る(例えば、国際公開第2015/188834号パンフレット、国際公開第2017/182965号パンフレット又は国際公開第2017/152918号パンフレットに記載されるものなど)。
【0126】
[糖輸送が可能なコードされたポリペプチド]
糖輸送は、オリゴ糖などであるがこれに限定されない糖の輸送、並びに本発明に関連して、遺伝子改変細胞の細胞質若しくは周辺質から産生培地及び/又は産生培地から遺伝子改変細胞の細胞質若しくは周辺質への1種/又は1種以上のHMOの流入及び/又は流出輸送に関する。したがって、遺伝子改変細胞の細胞質若しくは周辺質から産生培地及び/又は産生培地から遺伝子改変細胞の細胞質若しくは周辺質にHMOを輸送できる遺伝子改変細胞において発現されるポリペプチドは、糖輸送が可能なポリペプチドである。したがって、本発明において、糖輸送は、オリゴ糖などであるがこれに限定されない糖の流出及び/又は流入輸送を意味し得る。
【0127】
その点において、糖輸送が可能なポリペプチドは、主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)に属するポリペプチドである。基本的には、ポリペプチドは、配列番号1と70%を超える、例えば、少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、95%、99%又は99.9%の配列同一性を有するか又はそれは、本明細書に記載されるとおりのその機能的バリアントである。特に、ポリペプチドは、配列番号1と95.4%を超える、例えば、少なくとも95.5%、例えば、少なくとも96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有するか又はそれは、本明細書に記載されるとおりのその機能的バリアントである。配列番号1は、Fredタンパク質のアミノ酸配列である。
【0128】
本発明の遺伝子改変細胞又は核酸構築物は、Fredタンパク質をコードする異種遺伝子などの核酸配列を含む。前記核酸配列は、配列番号2に示されるとおりのfred遺伝子と少なくとも70%の配列同一性、例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又は99%などの配列同一性を有する。
【0129】
一実施形態では、核酸配列構築物は、配列番号1のタンパク質、又は配列番号1と70%を超えて、例えば、少なくとも80%、90%、95%、99%、若しくは99.9%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする。
【0130】
別の実施形態では、核酸配列構築物は、配列番号1のタンパク質、又は配列番号1と95.4%を超えて、例えば、少なくとも95.5%、96%、97%、98%、若しくは99%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする。
【0131】
配列番号1のタンパク質の機能的ホモログは、変異誘発によって得られてもよい。機能的ホモログは、配列番号1のアミノ酸配列の機能性と比較して少なくとも50%、例えば、60%、70%、80%、90%又は100%の残存した機能性を有するべきである。機能的ホモログは、配列番号1のアミノ酸配列の機能性と比較してより高い機能性を有し得る。配列番号1の機能的ホモログは、本発明による遺伝子改変細胞のHMO産生を増強することができなければならない。特に、配列番号1の機能的ホモログは、本発明による遺伝子改変細胞の細胞外でのシアル酸付加HMOの比率を高めることができなければならない。
【0132】
遺伝子改変細胞又は核酸構築物は、糖輸送が可能なポリペプチドをコードする1種以上の核酸配列を含有し得る。より多くの場合、本発明の遺伝子改変細胞又は核酸構築物は、単一コピーの糖輸送が可能なポリペプチドをコードする。
【0133】
目的の遺伝子を含む発現カセットの単一コピーは、本発明による所望のHMOの産生を確実にし、所望の効果を達成するために十分であり得る。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、細胞のゲノムDNA内に統合された目的の遺伝子の1つ、2つ又は3つのコピーを含む組み換えHMO産生細胞に関する。いくつかの実施形態では、単一コピーの遺伝子が好ましい。
【0134】
遺伝子改変細胞又は核酸構築物はまた、糖輸送ポリペプチドをコードする核酸配列の発現の調節のための1種以上の調節エレメントを含有してもよく、前記核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有する。
【0135】
[核酸構築物]
宿主細胞の形質移入又は形質転換のために、核酸構築物が必要となる。これらは、細胞内にプラスミド構築物として存在してもよいし、ゲノム統合のために適合させられてもよい。
【0136】
本発明の一態様は、i)配列番号1によるMFSポリペプチド、又は配列番号1と少なくとも70%の配列同一性、例えば、配列番号1と80%、例えば、90%、例えば、95%、例えば、99.7%、例えば、100%の配列同一性を有するその機能的ホモログをコードする核酸配列(MFSポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性、例えば、配列番号2と80%、例えば、90%、例えば、95%、例えば、100%の配列同一性を有する)、及び/又はii)配列番号3若しくは配列番号4のポリペプチド又は配列番号3若しくは配列番号4と少なくとも70%、例えば、80%、例えば、90%、例えば、95%を有するその機能的バリアントなどのシアリル-トランスフェラーゼ能を有する1種以上のポリペプチドをコードする核酸配列、並びにiii)事項i)及び/又はii)の核酸配列の発現を調節する調節エレメントを含む核酸配列を含む核酸構築物である。
【0137】
本発明の一実施形態では、核酸構築物は、i)配列番号1によるMFSポリペプチド、又は配列番号1と少なくとも70%の配列同一性、例えば、配列番号1と80%、例えば、90%、例えば、95%、例えば、100%の配列同一性を有するその機能的ホモログをコードする核酸配列(MFSポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性、例えば、配列番号2と80%、例えば、90%、例えば、95%、例えば、100%の配列同一性を有する)、及びii)配列番号3若しくは配列番号4のポリペプチド又は配列番号3若しくは配列番号4と少なくとも70%、例えば、80%、例えば、90%、例えば、95%を有するその機能的バリアント若しくはその機能的バリアントなどのシアリル-トランスフェラーゼ能を有する1種以上のポリペプチドをコードする核酸配列、並びにiii)事項i)及びii)の両方の核酸配列の発現を調節する調節エレメントを含む核酸配列を含む。
【0138】
本発明の一実施形態では、核酸構築物は、i)配列番号1によるMFSポリペプチド、又は配列番号1と少なくとも70%の配列同一性、例えば、配列番号1と80%、例えば、90%、例えば、95%、例えば、100%の配列同一性を有するその機能的ホモログをコードする核酸配列(MFSポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性、例えば、配列番号2と80%、例えば、90%、例えば、95%、例えば、100%の配列同一性を有する)、及びii)事項i)の両方の核酸配列の発現を調節する調節エレメントを含む核酸配列を含む。
【0139】
本発明の一実施形態では、核酸構築物は、i)配列番号3若しくは配列番号4のポリペプチド、又は配列番号3若しくは配列番号4と少なくとも70%、例えば、80%、例えば、90%、例えば、95%を有するその機能的バリアント若しくはその機能的バリアントなどのシアリル-トランスフェラーゼ能を有する1種以上のポリペプチドをコードする核酸、並びにii)事項i)及びii)の両方の核酸配列の発現を調節する調節エレメントを含む核酸配列を含む。
【0140】
本発明の一実施形態では、核酸構築物は、i)配列番号1によるMFSポリペプチド、又は配列番号1と少なくとも70%の配列同一性、例えば、配列番号1と80%、例えば、90%、例えば、95%、例えば、100%の配列同一性を有するその機能的ホモログをコードする核酸配列(MFSポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性、例えば、配列番号2と80%、例えば、90%、例えば、95%、例えば、100%の配列同一性を有する)、及びii)配列番号3若しくは配列番号4のポリペプチド又は配列番号3若しくは配列番号4と少なくとも70%、例えば、80%、例えば、90%、例えば、95%を有するその機能的バリアント若しくはその機能的バリアントなどのシアリル-トランスフェラーゼ能を有する1種以上のポリペプチドをコードする核酸配列、並びにiii)事項i)及びii)の核酸配列の発現を独立して調節する調節エレメントを含む少なくとも2種の核酸配列を含む。
【0141】
本発明の核酸構築物の調節エレメントは、好ましくは、PglpF、PglpF_SD4及びPglpF_SD7からなる群から選択される。
【0142】
[調節エレメント]
上述のとおり、遺伝子改変細胞又は核酸構築物はさらに、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有する核酸配列などであるがこれに限定されない核酸配列、表2のシアリルトランスフェラーゼ及び/又は表1の代替的なトランスフェラーゼの発現の調節のための調節エレメントを含む核酸配列を含み得る。調節領域の核酸配列は、異種又は同種のものであり得る。
【0143】
用語「調節エレメント」、又は「プロモーター」、又は「プロモーター領域」、又は「プロモーターエレメント」は、転写の開始中にDNA依存性RNAポリメラーゼによって認識及び結合される核酸配列である。プロモーターは、他の転写及び翻訳調節核酸配列(「制御配列」とも呼ばれる)と一緒に、所与の遺伝子又は遺伝子の群(1つのオペロン)を発現するために必要である。一般に、転写及び翻訳調節配列としては、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始及び終結配列、翻訳開始及び終結配列並びにエンハンサー又はアクチベーター配列が挙げられるが、これらに限定されない。「転写開始部位」は、転写される第1ヌクレオチドを意味し、+1と指定される。開始部位の下流のヌクレオチドは、+2、+3、+4などと番号付けされ、5’逆(上流)方向にあるヌクレオチドは、-1、-2、-3などと番号付けされる。構築物のプロモーターは、種のゲノムにおいてコードされる任意の遺伝子のプロモーター領域に由来し得る。好ましくは、大腸菌(E.coli)のゲノムDNAのプロモーター領域。したがって、RNAポリメラーゼに結合し、転写を開始することができる任意のプロモーターが、本発明を実施するために好適である。原則として、任意のプロモーターを使用して、本発明のMFSトランスポーター又はグリコシルトランスフェラーゼなどの組み換え遺伝子の転写を制御することができる。本発明の実行において、異なる又は同一のプロモーター配列を使用して、宿主細胞のゲノムに統合されたか又は発現ベクターDNA中の異なる目的の遺伝子の転写を促進してもよい。一例において、プロモーター配列Aが、MFSトランスポーターの発現を促進しており、別のプロモーター配列B又は同一のプロモーター配列Aが、グリコシルトランスフェラーゼの発現を促進している。
【0144】
構築物中に含まれる組み換え遺伝子を最適に発現させるために、構築物は、さらなる調節配列、例えば、リボソーム結合のための配列である大腸菌(E.coli)のglp遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)に由来するDNA配列などのリーディングDNA配列を含み得る。後者の配列の例は、国際公開第2019/123324号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に記載され、本明細書の非限定的実施例に例示されている。
【0145】
本発明の一態様では、1種以上の調節エレメントが、本発明に従って、配列番号2によるfred遺伝子をコードするDNA構築物及び/又は1種以上のグリコシルトランスフェラーゼをコードするDNA構築物に挿入され得る。本発明の別の態様では、配列番号2によるfred遺伝子の1つ以上のコピーが、本発明に従ってDNA構築物に挿入され得る。本発明のさらに別の態様では、配列番号2によるfred遺伝子は、本発明に従って、1種以上の同一の又は同一ではないDNA構築物に挿入され得る。
【0146】
本発明の一態様では、本発明の構築物に含まれる組み換え遺伝子の発現の調節のための調節エレメントは、glpFKXオペロンプロモーター、PglpF(配列番号5)である。本発明の別の態様では、プロモーターは、lacオペロンプロモーター、Plac(配列番号8)である。本発明のさらに別の態様では、調節エレメントは、プロモーター配列の下流の改変されたリボソーム結合部位配列を含むPglpF配列の改変されたバージョンであるPglpF_SD4(配列番号6)及び/又はPglpF_SD7(配列番号7)である。しかしながら、本発明による1種以上のポリペプチドをコードする1種以上の組み換え核酸の転写及び/又は転写のレベルの調節を可能にするいずれかのプロモーターが、本発明の実施のために好適である。
【0147】
通常、本発明による異種遺伝子の発現のためのプロモーターは、表3から選択される。
【0148】
【0149】
本発明の遺伝子改変細胞内又は核酸構築物中に存在する好ましい調節エレメントは、PgatY_70UTR、PglpF、PglpF_SD1、PglpF_SD10、PglpF_SD2、PglpF_SD3、PglpF_SD4、PglpF_SD5、PglpF_SD6、PglpF_SD7、PglpF_SD8、PglpF_SD9、Plac_16UTR、Plac、PmglB_70UTR及びPmglB_70UTR_SD4からなる群から選択される。
【0150】
本発明の遺伝子改変細胞内又は核酸構築物中に存在する特に好ましい調節エレメントは、PglpF、PglpF_SD4及びPglpF_SD7からなる群から選択される。
【0151】
[生合成産生のための遺伝子改変細胞]
本発明において、プロモーターは、遺伝子改変細胞における1種以上のHMOの生合成産生の最適なレベルを達成し、本発明による所望の効果を達成するのに必要であり得るか又は有利であり得る。したがって、本発明のプロモーター配列は、糖輸送が可能なポリペプチド及び/又は本発明のグリコシルトランスフェラーゼの転写を可能にし且つ発現を調節して、HMO若しくはHMO前駆体の最適化された生合成及び輸送並びに/又はHMO産生の副生成物の分解をもたらす。
【0152】
本発明の遺伝子改変細胞において、1種以上のHMOの生合成産生に関連する少なくとも1種の遺伝子、プロモーターDNA配列、及びリボソーム結合部位配列(例えば、シャイン・ダルガーノ配列)などの他の調節配列をコードする核酸構築物が遺伝子改変細胞中に含まれる。遺伝子改変細胞における1種以上のHMOの生合成産生に関連する遺伝子の発現によって、HMOの産生を可能にして、記載されるとおりの本発明を実行するための宿主細胞「好適な宿主細胞」を作製する。遺伝子改変細胞において、上述のとおりのHMOの生合成産生に関連する遺伝子の発現は、遺伝子改変細胞の懸濁液を含む1リットルの発酵培地から0.03g/l/OD(光学密度)のレベルでの1種以上のHMOの産生を可能にする。したがって、HMOレベルは、およそ0.05g/l/OD~およそ0.5g/l/OD、例えば、少なくとも0.4g/l/ODであり得る。本発明のために、HMO産生のレベルは、「十分」であるとみなされ、このレベルの所望のHMO又はHMOの混合物を産生することができる遺伝子改変細胞は、本発明を実行するための好適な遺伝子改変細胞とみなされる。
【0153】
したがって、本発明に照らして、「好適な遺伝子改変細胞」はさらに、MFSファミリー、例えば、fredの糖輸送が可能な糖ポリペプチドを発現して、何らかの方法で、より高いHMOレベルの生合成産生、生合成産生におけるより高いレベルの純度、より速い産生時間及び/又はより効率的なHMOの生合成産生などであるがこれらに限定されない有利なHMO産生を達成するように上記のとおりに改変され得る。
【0154】
[産生の方法]
本発明のある態様は、1種以上のシアル酸付加HMOの産生のための方法であって、
a)HMOを産生することができる遺伝子改変細胞を提供する工程(前記細胞は、
i.配列番号1のタンパク質又は配列番号1と70%を超えて、例えば、少なくとも80%同一な、好ましくは、少なくとも90%同一な、より好ましくは、少なくとも94.5%、最も好ましくは、少なくとも99.7%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする組み換え核酸;及び
ii.シアリル-トランスフェラーゼ、好ましくは、表2から選択されるシアリル-トランスフェラーゼ、さらにより好ましくは、配列番号3若しくは配列番号4の異種シアリル-トランスフェラーゼ又は配列番号3若しくは配列番号4と少なくとも70%、例えば、80%、例えば、90%、例えば、95%を有するその機能的バリアントをコードする異種核酸配列;及び
iii.シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路を含む);並びに
b)好適な細胞培養培地中で(i)の前記細胞を培養して、HMO産生及びDNA配列の発現を可能にして、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号1と70%を超えて、例えば、少なくとも80%同一な、好ましくは、少なくとも90%同一な、より好ましくは、少なくとも95、最も好ましくは、少なくとも99.7%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログを産生させる工程;
c)工程(ii)において産生された1種以上のシアル酸付加HMOを収集する工程を含む方法に関する。
【0155】
本発明によれば、用語「培養する(culturing)」(又は「培養する(cultivating)」、又は「培養」、又は「発酵」とも呼ばれる)は、当産業において知られている方法に従った制御されたバイオリアクター内での細菌発現細胞の増殖に関する。
【0156】
1種以上のHMOを産生させるために、本明細書に記載されるとおりのHMO産生細菌は、当技術分野において知られている手法に従って、好適な炭素源、例えばグルコース、グリセロール、ラクトースなどの存在下で培養され、産生されたHMOは、培養培地及び培養プロセス中に形成される微生物バイオマスから収集される。その後、HMOは、当技術分野において知られている手法、例えば国際公開第2015/188834号パンフレット、国際公開第2017/182965号パンフレット又は国際公開第2017/152918号パンフレットに記載されるものなどの手法に従って精製され、精製されたHMOは、栄養補助食品、医薬品として又は例えば研究用などの任意の他の目的に使用される。
【0157】
HMOの製造は通常、大量で培養を実施することによって行われる。本発明の意味における用語「製造する工程」及び「製造規模」は、最小体積が5Lの培養ブロスを用いた発酵を規定する。通常、「製造規模」プロセスは、目的の生成物を含有する大量の調製物を処理することができ、例えば、治療用化合物又は組成物の場合、臨床試験及び市場供給の需要を満たす量の目的のタンパク質を産生することができることによって規定される。大量であることに加えて、製造規模の方法は、振盪フラスコによる培養のような単純な実験室規模の方法とは対照的に、撹拌、通気、栄養素供給、プロセスパラメーター(pH、温度、溶存酸素圧、背圧など)のモニタリング及び制御のための機器を装備しているバイオリアクター(発酵槽)の技術システムの使用を特徴とする。大体のところ、本開示の実施例に記載される振盪フラスコ、卓上バイオリアクター又はディープウェル形式などの実験室規模の方法における発現系の挙動は、バイオリアクターの複雑な環境におけるそのシステムの挙動の予測を可能にする。
【0158】
発酵プロセスに使用される好適な細胞培地に関して、制限はない。培養培地は、半規定(すなわち、複雑な培地化合物(例えば、酵母抽出物、大豆ペプトン、カザミノ酸など)を含有する)であり得るか、又はそれは、いかなる複雑な化合物も含めずに化学的に規定され得る。
【0159】
用語「1種以上のHMO」は、HMO産生細胞が単一のHMO構造(第1のHMO)又は複数のHMO構造(第2、第3などのHMO)を産生することができる可能性があることを意味する。いくつかの実施形態では、単一のHMOを産生する遺伝子改変細胞が好ましい可能性があり、他の好ましい実施形態では、複数のHMO構造を産生する遺伝子改変細胞が好ましい可能性がある。単一のHMO構造を産生する遺伝子改変細胞についての非限定的例は、2’-FL、3-FL、3’-SL、6’-SL又はLNT-2産生細胞である。複数のHMO構造を産生することができる遺伝子改変細胞の非限定的な例は、DFL、FSL、LNT LNnT、LNFP I、LNFP II、LNFP III、LNFP IV、LNFP V、pLNnH、pLNH2、LSTa、LSTb、LSTc、DSLNT、F-LSTa及びF-LSTb産生細胞であり得る。
【0160】
特に、本発明は、3’-SL及び/又は6’-SL産生細胞からなる群から選択される1種以上の単一のHMO構造を産生する遺伝子改変細胞に関する。
【0161】
本発明の文脈における用語「収集する」は、発酵の終了に続いて産生されたHMOを回収することに関する。異なる実施形態では、それは、バイオマス(すなわち、遺伝子改変細胞)及び培養培地の両方に含まれる、すなわち、バイオマスからの発酵ブロスの分離前に/分離せずにHMOを回収することを含み得る。他の実施形態では、産生されたHMOは、バイオマス及び発酵ブロスから個別に、すなわち培養培地(すなわち発酵ブロス)からのバイオマスの分離後/分離に続いて回収され得る。培地からの細胞の分離は、当業者によく知られる方法のいずれか、例えば、任意の好適な種類の遠心分離又は濾過により実行することができる。培地からの細胞の分離は、発酵ブロスの収集直後に続けるか、又は適切な条件で発酵ブロスを貯蔵した後の段階で実行することができる。残留しているバイオマス(又は全発酵)からの産生されたHMOの回収には、バイオマス(産生細胞)からの抽出が含まれる。これは、当技術分野の任意の好適な方法により、例えば超音波処理、煮沸、均質化、リゾチームを用いる酵素的溶解、又は凍結及び破砕によりなされ得る。
【0162】
発酵からの回収後、HMOは、さらなる加工処理及び精製に利用可能である。
【0163】
発酵によって産生されたHMOの精製は、国際公開第2016/095924号パンフレット、国際公開第2015/188834号パンフレット、国際公開第2017/152918号パンフレット、国際公開第2017/182965号パンフレット、米国特許出願公開第2019/0119314号明細書(全てが参照により組み込まれる)に記載される好適な手法を使用してなされ得る。
【0164】
記載されるとおりの本発明のHMO生成物、好ましくは、3’-SL及び/又は6’-SL。
【0165】
[使用]
本発明はまた、1種以上のヒトミルクオリゴ糖(HMO)の産生における使用のための本明細書に記載されるとおりの宿主細胞の使用に関する。特に、本発明は、特定のHMOの産生のための本明細書に記載されるとおりの宿主細胞の使用に関し、宿主細胞は、好ましくは、3’-SL及び6’-SLから選択され、最も好ましくは、3’-SLである1種の特定のHMOの大部分を生成する目的で選択される。
【0166】
[配列]
本出願は、参照によって本明細書に組み込まれるテキストフォーマット及び電子フォーマットの配列表を含有する。
【0167】
配列の概要が本明細書で提供され、列挙される配列と公的な参考文献の間に不一致がある場合、配列表における配列が優先される。
【0168】
【0169】
GenBank IDと配列番号の間に配列の不一致が生じる場合、配列番号が正しい配列であるとみなされる。
【0170】
[全般]
記載される発明と関連させて上で論じられたいずれかの特徴及び/又は態様は、本明細書に記載される方法に類似して適用されることが理解されるべきである。
【0171】
以下の図面及び実施例は、本発明を例示するために以下で提供される。それらは、例示のためのものであることが意図され、決して限定として解釈されるべきではない。
【0172】
[項目]
1.シアリル部分を含む1種以上のヒトミルクオリゴ糖(HMO)(シアル酸付加HMO)を産生することができる遺伝子改変細胞であって、前記遺伝子改変細胞が、
(i)配列番号1の主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)ポリペプチド、又は配列番号1と少なくとも70%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする異種核酸配列、及び
(ii)シアリル-トランスフェラーゼをコードする異種核酸配列;並びに
(iii)シアル酸糖ヌクレオチドを作製するための生合成経路を含む、遺伝子改変細胞。
2.1種以上の産生されたHMOが、3’-SL、6’-SL、FSL、DS-LNT、LSTc、LSTa及びLSTbからなる群から選択される、項目1による遺伝子改変細胞。
3.前記細胞によって産生されるHMOが、3’-SL、6’-SL及びLSTaからなる群から選択される、項目2による遺伝子改変細胞。
4.HMOが、3’-SL又は6’-SLである、項目2又は3による遺伝子改変細胞。
5.前記機能的ホモログが、配列番号1と少なくとも94.6%同一である、先行する項目のいずれか1つによる遺伝子改変細胞。
6.配列番号1の前記MFSポリペプチド又はその機能的ホモログの発現が、MFSポリペプチドを有しない細胞と比較して、前記HMOの排出の増加をもたらす、先行する項目のいずれか1つによる遺伝子改変細胞。
7.シアル酸付加HMOの少なくとも80%が、遺伝子改変細胞の外部に排出される、項目6による遺伝子改変細胞。
8.シアリル-トランスフェラーゼが、表2に示されるものなどのα-2,3-シアリル-トランスフェラーゼ及びα-2,6-シアリル-トランスフェラーゼからなる群から選択される、先行する項目のいずれか1つによる遺伝子改変細胞。
9.α-2,3-シアリル-トランスフェラーゼが、Nst(配列番号3)若しくはPd2(配列番号4)、及び/又は配列番号3若しくは配列番号4と少なくとも70%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログから選択される、先行する項目のいずれか1つによる遺伝子改変細胞。
10.シアル酸糖ヌクレオチドが、CMP-Neu5Acである、先行する項目のいずれか1つによる遺伝子改変細胞。
11.細胞が、配列番号11のNeuB、配列番号13のNeuC及び配列番号15のNeuA、又はそれぞれ配列番号11、13若しくは15と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする核酸配列を含む、項目10による遺伝子改変細胞。
12.細胞が、neuBCAクラスターをコードする配列番号17の異種核酸配列、又は配列番号17と少なくとも80%の配列同一性を有するその機能的ホモログを含む、項目10又は11による遺伝子改変細胞。
13.細胞がさらに、異種核酸配列の発現の調節のための調節エレメントを含む核酸配列を含む、先行する項目のいずれか1つによる遺伝子改変細胞。
14.調節エレメントが、配列番号1のMFSポリペプチド、又は配列番号1と少なくとも70%同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログの発現を調節する、項目13による遺伝子改変細胞。
15.調節エレメントが、PglpF(配列番号5)、PglpF_SD4(配列番号6)及びPglpF_SD7(配列番号7)からなる群から選択される、項目13又は14による遺伝子改変細胞。
16.遺伝子改変細胞が、微生物細胞である、先行する項目のいずれか1つによる遺伝子改変細胞。
17.微生物細胞が、細菌又は真菌である、項目16による遺伝子改変細胞。
18.前記真菌が、コマガタエラ属(Komagataella)、クリベロマイセス属(Kluyveromyce)、ヤロウイア属(Yarrowia)、ピキア属(Pichia)、サッカロマイセス属(Saccaromyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)若しくはハンゼヌラ属(Hansenula)の酵母細胞から又はアスペルギルス属(Aspergillus)、フザリウム属(Fusarium)若しくはトリコデルマ属(Tricoderma)の糸状菌から選択される、項目17による遺伝子改変細胞。
19.前記細菌が、エシェリキア属(Escherichia)種、バチルス属(Bacillus)種、ラクトバチルス属(lactobacillus)種及びカンピロバクター属(Campylobacter)種からなる群から選択される、項目17による遺伝子改変細胞。
20.細菌が、K-12又はB21などの大腸菌(Escherichia coli)である、項目17又は19による遺伝子改変細胞。
21.核酸構築物であって、
(i)配列番号1によるMFSポリペプチド、又は配列番号1と70%を超える配列同一性を有するその機能的ホモログをコードする核酸配列(MFSポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有する)、及び
(ii)事項(i)の核酸配列のいずれか1つ以上の発現を調節する調節エレメントを含む核酸配列
を含む、核酸構築物。
22.核酸構築物であって、
(i)配列番号1によるMFSポリペプチド、又は配列番号1と70%を超える配列同一性を有するその機能的ホモログをコードする核酸配列(MFSポリペプチドをコードする核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%の配列同一性を有する)、及び
(ii)シアリル-トランスフェラーゼ能を有する1種以上のポリペプチドをコードする核酸配列、並びに/又は
(iii)事項(i)及び/又は(ii)の核酸配列のいずれか1つ以上の発現を調節する調節エレメントを含む核酸配列
を含む、核酸構築物。
23.調節エレメントが、PglpF(配列番号5)、PglpF_SD4(配列番号6)及びPglpF_SD7(配列番号7)からなる群から選択される、項目21又は22による核酸構築物。
24.1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の生合成産生のための方法であって、
(i)項目1~20のいずれか1つによる遺伝子改変細胞を提供する工程;
(ii)配列番号1の主要ファシリテータースーパーファミリー(MFS)ポリペプチド、又は配列番号1と70%を超えて同一なアミノ酸配列を有するその機能的ホモログをコードする前記異種核酸配列、及び1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)を産生するシアリル-トランスフェラーゼをコードする異種核酸配列を発現するのに好適な細胞培養培地において遺伝子改変細胞を培養する工程;並びに
(iii)工程(ii)において産生される1種以上のシアル酸付加HMOを収集する工程
を含む方法。
25.シアル酸付加HMOの少なくとも80%が、細胞培養物の上清に存在する、項目24による方法。
26.シアル酸付加HMOが、細胞培養物の上清から収集される、項目24又は25による方法。
27.産生するシアル酸付加HMOが、3’-SL及び6’-SLから選択される、項目24~26による方法。
28.培養培地が、グルコース、スクロース、フルクトース、キシロース及びグルコースからなる群から選択されるエネルギー源を含む、項目24~27のいずれか1つによる方法。
29.ラクトースが、HMO形成のための基質として、遺伝的に操作された細胞の培養中に添加される、項目24~28のいずれか1つによる方法。
30.1種以上のシアル酸付加ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の生合成産生のための項目1~20のいずれか1つによる遺伝子改変細胞、又は項目21~23のいずれか1つによる核酸構築物の使用。
31.3’-SL及び6’-SLからなる群から選択されるHMOの生合成産生のための項目1~20のいずれかによる遺伝子改変細胞、又は項目21~23のいずれか1つによる核酸構築物の使用。
【0173】
[実施例]
[材料及び方法]
他に明記しない限り、分子生物学の分野において知られている標準的な技術、ベクター、制御配列エレメント及び他の発現系エレメントは、核酸の操作、形質転換及び発現のために使用される。そのような標準的な技術、ベクター及びエレメントは、例えば、Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology(1995)(John Wiley&Sons);Sambrook,Fritsch,&Maniatis(eds.),Molecular Cloning(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY);Berger&Kimmel,Methods in Enzymology 152:Guide to Molecular Cloning Techniques(1987)(Academic Press);Bukhari et al.(eds.),DNA Insertion Elements,Plasmids and Episomes(1977)(Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY);Miller,J.H.Experiments in molecular genetics(1972.)(Cold spring Harbor Laboratory Press,NY)に見出すことができる。
【0174】
以下に記載される実施形態は、本発明を例示するために選択されたものであり、決して本発明を限定するものではない。
【0175】
[株]
本実施例で利用される株は、以下の表5に記載される。
【0176】
【0177】
[培養]
他に明記しない限り、大腸菌(E.coli)株を、0.2%のグルコースを含有する基本最少培地中において37℃で撹拌しながら増殖させた。寒天プレートを、37℃で一晩インキュベートした。
【0178】
基本最少培地は、以下の組成を有した:NaOH(1g/L)、KOH(2.5g/L)、KH2PO4(7g/L)、NH4H2PO4(7g/L)、クエン酸(0.5g/l)、微量ミネラル溶液(5mL/L)。微量ミネラル原液は、ZnSO4*7H2O 0.82g/L、クエン酸 20g/L、MnSO4*H2O 0.98g/L、FeSO4*7H2O 3.925g/L、CuSO4*5H2O 0.2g/Lを含有した。基本最少培地のpHを、5NのNaOHを用いて7.0に調整し、オートクレーブにかけた。播種の前に、基本最少培地に、1mM MgSO4、4μg/mL チアミン、0.5%の所与の炭素源(グリセロール(Carbosynth))を供給した。チアミン、及び抗生物質を、濾過により滅菌した。全てのパーセンテージでの濃度は、グリセロールについて体積/体積として、グルコースについて重量/体積として表される。
【0179】
[化学的コンピテント細胞及び形質転換]
大腸菌(E.coli)を、LBプレートから、OD600が約0.4になるまで37℃で振盪しながら、0.2%のグルコースを含有する5mLのLB内で播種した。13000gで25秒間にわたる遠心分離により、2mLの培養物を収集した。上清を除去し、細胞ペレットを600μLの低温TB溶液(10mMのPIPES、15mMのCaCl2、250mMのKCl)中で再懸濁させた。細胞を氷上で20分間インキュベートした後、13000gで15秒間ペレット化した。上清を除去し、細胞ペレットを100μLの低温TB溶液中で再懸濁させた。プラスミドの形質転換は、100μLのコンピテント細胞及び1~10ngのプラスミドDNAを使用してなされた。細胞及びDNAを、氷上で20分間インキュベートした後、42℃で45秒間熱ショックを与えた。氷上での2分間のインキュベーション後、400μLのSOC(20g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母抽出物、0.5g/LのNaCl、0.186g/LのKCl、10mMのMgCl2、10mMのMgSO4及び20mMのグルコース)を添加し、細胞培養を1時間にわたり振盪しながら37℃でインキュベートした後、選択プレート上にプレーティングした。
【0180】
プラスミドを、供給業者(ThermoFisher Scientific)によって推奨された条件において、TOP10化学的コンピテント細胞に形質転換させた。
【0181】
[DNA技術]
大腸菌(E.coli)由来のプラスミドDNAを、QIAprepスピンミニプレップキット(Qiagen)を用いて単離した。大腸菌(E.coli)由来の染色体DNAを、QIAmp DNAミニキット(Qiagen)を用いて単離した。PCR産物を、QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製した。DreamTaq PCRマスターミックス(Thermofisher)、Phusion UホットスタートPCRマスターミックス(Thermofisher)、USER Enzyme(New England Biolab)を、供給業者によって推奨されるとおりに使用した。プライマーは、Eurofins Genomics、Germanyによって供給された。PCR断片及びプラスミドは、Eurofins Genomicsによってシーケンシングされた。コロニーPCRは、T100(商標)サーマルサイクラー(Bio-Rad)においてDreamTaq PCRマスターミックスを使用してなされた。
【0182】
本発明の遺伝子改変HMO産生細胞において発現される異種タンパク質は、表6に記載され、本発明の以下の例証において使用されたプロモーターエレメントは、表7に記載され、プラスミド骨格、プロモーター、エレメント、及びfredの増幅のために使用されるオリゴは、表8に記載される。
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
[プラスミドの構築]
大腸菌(E.coli)ゲノム内への相同組み換えのために適切な2個のDNA断片によって分離された2つのI-SceIエンドヌクレアーゼ部位及びT1転写終結配列を含有するプラスミド骨格を合成した。例えば、1本のプラスミド骨格(pUC57::gal)では、galオペロン(galKにおける相同組み換えのために必要とされる)、及びT1転写終結配列を合成した(GeneScript)。galオペロン内の相同組み換えのために使用されるDNA配列は、配列の大腸菌(Escherichia coli)K-12 MG155完全ゲノム(GenBank:ID:CP014225.1)内で塩基対3.628.621~3.628.720及び3.627.572~3.627.671をカバーした。相同組み換えによる挿入は、galK及びgalK-表現型の949塩基対の欠失を生じさせるであろう。同様の方法で、pUC57(GeneScript)に基づく骨格又は大腸菌(E.coli)ゲノム内への相同組み換えのために適切な2個のDNA断片によって分離された2つのI-SceIエンドヌクレアーゼ部位及びT1転写終結配列を含有する任意の他の適切なベクターを合成することができるであろう。大腸菌(Escherichia coli)K-12 DH1染色体DNAの特異的DNA配列のプライマーの設計及び増幅のために、分子生物学の分野においてよく知られる標準的な技術を使用した。そのような標準的な技術、ベクター及びエレメントは、例えば、Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology(1995)(John Wiley&Sons);Sambrook,Fritsch,&Maniatis(eds.),Molecular Cloning(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY);Berger&Kimmel,Methods in Enzymology 152:Guide to Molecular Cloning Techniques(1987)(Academic Press);Bukhari et al.(eds.)に見出すことができる。
【0187】
大腸菌(E.coli)DH1から得られた染色体DNAを使用して、オリゴO261及びO262を用いてプロモーターPglpF、オリゴO261及びO459を用いてPglpF_SD4、並びにオリゴO261及びO462を用いてPglpF_SD7を含有する300bpのDNA断片を増幅した(表8)。
【0188】
エルシニア・フレデリクセニイ(Yersinia frederiksenii)に由来するfred遺伝子、配列番号2のコドン最適化バージョンを含有する1.182bpのDNA断片を、GeneScriptによって合成した(表6)。fred遺伝子を、オリゴKABY733及びKABY734を使用して増幅した。
【0189】
全てのPCR断片(プラスミド骨格、エレメントを含有するプロモーター及びfred遺伝子)を精製し、プラスミド骨格、プロモーターエレメント(Plac、PglpF、PglpF_SD4又はPglpF_SD7)、及びDNA断片を含有するfred(又は目的の他の遺伝子、表6を参照のこと)を組み立てた。プラスミドを、標準USERクローニングによってクローン化した。任意の適切なプラスミドにおけるクローニングは、任意の標準のDNAクローニング技術を用いて実施することができるであろう。プラスミドを、TOP10細胞内に形質転換させ、100μg/mLのアンピシリン(又は任意の適切な抗生物質)及び0.2%のグルコースを含有するLBプレート上で選択した。構築されたプラスミドを精製し、プロモーター配列及びfred遺伝子の5’末端は、DNAシーケンシング(MWG Eurofins Genomics)によって検証した。このように、fred(又は目的の他の遺伝子、表6を参照のこと)遺伝子に連結された目的の任意のプロモーターを含有する遺伝子カセットを構築した。
【0190】
[株の構築]
使用される細菌株であるMDOは、大腸菌(Escherichia coli)K-12 DH1から構築した。大腸菌(E.coli)K-12 DH1の遺伝子型は、F-、λ-、gyrA96、recA1、relA1、endA1、thi-1、hsdR17、supE44である。大腸菌(E.coli)K-12 DH1に加えて、遺伝子型MDOは、以下の改変:lacZ:1.5kbpの欠失、lacA:0.5kbpの欠失、nanKETA:3.3kbpの欠失、melA:0.9kbpの欠失、wcaJ:0.5kbpの欠失、mdoH:0.5kbpの欠失、及びgmd遺伝子の上流へのPlacプロモーターの挿入
を有する。
【0191】
大腸菌(E.coli)K-12 DH1 MDOの染色体DNAにおけるfred遺伝子及びT1転写終結配列に連結されたプロモーターを含有する発現カセットの挿入は、Herring et al.(Herring,C.D.,Glasner,J.D.and Blattner,F.R.(2003).Gene(311).153-163)によって基本的に記載されるとおりにGene Gorgingによって実施された。簡潔に述べると、ドナープラスミド及びヘルパープラスミドを、MDOに同時形質転換させ、0.2%のグルコース、アンピシリン(100μg/mL)又はカナマイシン(50mg/mL)及びクロラムフェニコール(20μg/mL)を含有するLBプレート上で選択した。単一コロニーを、クロラムフェニコール(20μg/mL)及び10μLの20%のL-アラビノースを含有する1mLのLB中に播種し、7~8時間にわたり振盪しながら37℃でインキュベートした。大腸菌(E.coli)のgalK遺伝子座内への統合のために、次に、細胞をM9-DOGプレート上にプレーティングし、37℃で48時間インキュベートした。MM-DOGプレート上で形成される単一コロニーを、0.2% グルコースを含有するLBプレート上で再びストリークし、37℃で24時間インキュベートした。McaConkey-ガラクトース寒天プレート上で白色に見え、アンピシリン及びクロラムフェニコールの両方に感受性であったコロニーは、ドナー及びヘルパープラスミドを消失しており、galK遺伝子座における挿入物を含有すると予測された。galK部位での挿入を、プライマーO48(配列番号20)及びO49(配列番号21)を使用するコロニーPCRによって同定し、挿入されたDNAを、シーケンシング(Eurofins Genomics、Germany)によって検証した。
【0192】
大腸菌(E.coli)染色体DNA内の他の遺伝子座での遺伝子カセットの挿入は、異なる選択マーカー遺伝子及び異なるスクリーニング方法を使用して同様の方法でなされた。
【0193】
[ディープウェルアッセイ]
ディープウェルアッセイは、最初にLv et al(Bioprocess Biosyst Eng(2016)39:1737-1747)によって記載されるとおりに実施され、本発明の目的のために最適化された。
【0194】
より詳細には、実施例に開示される株は、4日間プロトコルを用いて24ディープウェルプレート内でスクリーニングされた。最初の24時間において、振盪機培養細胞を、700rpmの振盪により34℃で増殖させて高密度にした一方、2’-FL、3-FL及び3’-SL産生細胞に関して次の48時間、並びにLNT産生細胞に関して72時間において、細胞を遺伝子発現及び生成物形成の誘導を可能にする培地に移した。詳細には、1日目の間に、硫酸マグネシウム、チアミン及びグルコースが補給された基本最少培地を用いて新鮮な播種材料を調製した。インキュベーションの24時間後、細胞を、硫酸マグネシウム及びチアミンが補給された新しい基本最少培地(2ml)に移し、20% グルコース溶液(1μL)及び10% ラクトース溶液(0.1ml)からなる初期ボーラスを添加し、続いて炭素源としての50% スクロース溶液(0.04ml)を、スクロースヒドロラーゼ(インベルターゼ、5μlの0.1g/Lの溶液)の添加を伴う細胞に供給し、その結果、グルコースが、インベルターゼによるスクロースの切断によって増殖のために遅い速度で供給された。新規培地の播種の後、細胞を、48時間にわたり28℃、700rpmで振盪した。変性及びその後の遠心分離の後、上清をHPLCによって分析した。試料全体の分析のために、煮沸によって調製した細胞溶解液は、4700rpmで10分間にわたる遠心分離によってペレット化した。上清中のHMO濃度を、HPLC又はHPAC法によって決定した。
【0195】
[3’-SL発酵プロセス及び関連する測定]
全て発酵を、200mLのDasboxバイオリアクター(Eppendorf、Germany)中で実行し、それぞれの開始体積は100mLであった。培地は、25g/kg 炭素源(グルコース)、30g/kg ラクトース、MgSO4x7H2O、KOH、NaOH、NH4H2PO4、KH2PO4、微量元素溶液、クエン酸、消泡剤及びチアミンからなる規定の最少培養培地であった。微量金属溶液(TMS)は、Mn、Cu、Fe、硫酸塩としてZn及びクエン酸を含有した。発酵は、上述の規定の最少培地中において増殖された2%(v/v)の前培養による播種によって開始された。バッチ培地中に含有される炭素源の枯渇の後、グルコース、MgSO4x7H2O、TMS、消泡剤及びラクトースを含有する無菌フィード溶液を、既定の線形プロファイルを使用して限定的なグルコースの様式で連続的に供給した。
【0196】
発酵全体にわたるpHは、NH4OH溶液による滴定によって6.8で制御された。エアレーションは、大気を使用して1 VVMで制御され、溶存酸素は、20%超の空気飽和で維持され、撹拌機速度によって制御された。温度は、34℃で連続的に維持された。
【0197】
発酵全体にわたって、試料は、HPLCを使用して3’-SL、シアル酸、ラクトース及び他の微量な副生成物の濃度を決定するために採取された。全ブロス試料を、脱イオン水中で3倍に希釈し、20分間煮沸し、これに続いて17000gで3分間遠心分離し、得られた上清をHPLCによって分析した後、生成された3’-SLの全ブロス画分を得た。3’-SLの上清画分を、煮沸を伴わずにHPLCにより分析し、17000gで3分間の遠心分離によってペレットから分離した。
【0198】
ウェットバイオマス(BWM)は、1mLの発酵ブロスを既知の重量(g)を有する2mLの微量遠心機チューブに分注することによって決定され、ブロス試料の重量(g)を測定し、遠心分離(3分間17000g)後に上清を除去し、最終的にペレットの重量を測定した。ペレットの重量(g)をブロスの重量(g)で割り、その結果に1000を掛けることによって、g/kgでBWMを得た。全ての重量測定は、3桁の小数精度を使用する化学天秤で実施された。
【0199】
上清及びペレット分布は、BWM(g/kg)を使用して得られる各試料に関する上清の重量(kg)及び蓄積された発酵ブロス重量(kg)を計算することによって計算された。上清重量(kg)は、上清中の3’-SLの濃度(g/L)によって掛けられ、全ブロス中の3’-SLの重量(g)によって割られ、最終的に100によって掛けられて、上清中の3’-SLの比率(%)が計算された。発酵ブロス上清の密度は、1g/cm3であった。
【0200】
[実施例1-MFSトランスポーター、Fredの有り無し両方での3’-SLの産生]
[fred遺伝子を発現する3’-SL産生のための大腸菌(Escherichia coli)の操作]
【0201】
【0202】
大腸菌(Escherichia coli)K-12(DH1)MDO株は、目的の異種遺伝子を発現するように操作され得る。例えば、株1及び株3は、アルファ-2,3-シアリル-トランスフェラーゼ、nst及びCMP-Neu5Ac合成酵素、neuBCA遺伝子を過剰発現する3’-SL産生株である。neuBCA遺伝子は、pBS-nadC-neuBCAプラスミドから発現され得るか(株1)又はゲノム中に統合され得る(株3)。単一コピーにおいてfredに連結されたプロモーターエレメント(PglpF)を含有する発現カセットの株1又は株3のバックグラウンドへの挿入は、それぞれ株2及び株4をもたらした。
【0203】
株は、「材料及び方法」の節に記載されるとおりのディープウェルアッセイにおいて試験された。
【0204】
ディープウェルアッセイからの結果は、3’-SLの発現がFredトランスポーターの挿入によって影響されないことを示した(
図1)。しかしながら、3’-SLの分布は、Fredトランスポーターの存在により著しく変化させられ、Fredトランスポーターが、細胞から上清への3’-slの輸送を促進して、ほんの一部の3’-SLをペレット中に残した一方で、Fredトランスポーターがない場合、40%の3’-SLが細胞内部に残存することを明白に示している(
図2)。
【0205】
株のさらなる評価は、「材料及び方法」の節に記載されるとおりに株を発酵させた後に実施された。
【0206】
発酵データから、Fredトランスポーターを有しない株(株1及び3)に関して、3’-SLは細胞内で最初は高く、経時的にそれが上清に放出される一方で、Fredトランスポーターを有する細胞(株2及び4)は、上清中に高レベルの3’-SLで始まるように見えることがわかる(
図3及び5)。
【0207】
Fredトランスポーターの存在はまた、バイオマスの発達に影響するようであり、同じ量の3’-SLが産生されるが、Fredトランスポーターが存在する場合、同じ量の3’-SLを産生するのに必要なバイオマスの量が著しく少なくなり(
図4及び6)、これはエネルギー消費の点でも、バイオマス除去のための下流の処理においても有利である。
【0208】
[実施例2-MFSトランスポーター、YberCの有り無し両方での3’-SLの産生]
[yberC遺伝子を発現する3’-SL産生のための大腸菌(Escherichia coli)の操作]
大腸菌(Escherichia coli)K-12(DH1)MDO株は、実施例1に記載されるとおりに目的の異種遺伝子を発現するように操作され得る。本実施例において、Fredの代わりに異種のコピーのYberCを発現したことを除いて、株2と類似する株が作製された。簡潔に述べると、単一コピーでコドン最適化されたyberC遺伝子に連結されたプロモーターエレメント(PglpF)を含有する発現カセットを、株1に挿入することによって、株5を作製した。
【0209】
株は、「材料及び方法」の節に記載されるとおりのディープウェルアッセイにおいて試験された。ディープウェルアッセイからの結果は、PglpF(5)を使用するyberC遺伝子の発現が、YberCを有しない株(株1)と比較して3’-SL産生のおよそ16%の減少をもたらすことを示した(
図7A)。これは、YberCトランスポーターが、Fredトランスポーターと比較して3’-SL産生に対して負の影響を及ぼすことを示す。
【0210】
上清への分泌に関して、YberCは、Fredと同様に、ペレット画分中の3’-SLの量を減少させ、培地中の3’-SLの量を増加させることによって3’-SL生成物の分布を改善する(
図7Bを参照のこと)。
【配列表】
【国際調査報告】