(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-05
(54)【発明の名称】ヒドロゲルケージ中の細胞及び/又はオルガネラの分析
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240129BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240129BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240129BHJP
【FI】
C12M1/00 A ZNA
C12N15/09 200
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541889
(86)(22)【出願日】2022-01-12
(85)【翻訳文提出日】2023-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2022050518
(87)【国際公開番号】W WO2022152739
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521286743
【氏名又は名称】パリ シアンス エ レットル
【氏名又は名称原語表記】PARIS SCIENCES ET LETTRES
【住所又は居所原語表記】60, rue Mazarine, 75006 Paris, FRANCE
(71)【出願人】
【識別番号】518364366
【氏名又は名称】エコール シュペリュール ドゥ フィシック エ ドゥ シミー アンダストリエル ドゥ ラ ビル ドゥ パリ
(71)【出願人】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ サイアンティフィク
(71)【出願人】
【識別番号】523261632
【氏名又は名称】マイクロファクトリー
(71)【出願人】
【識別番号】507416908
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】ユベール ジェスレ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック タベラン
(72)【発明者】
【氏名】アンドルー グリフィス
(72)【発明者】
【氏名】ステファヌ シロン
(72)【発明者】
【氏名】ファブリス モンティ
(72)【発明者】
【氏名】ガエル ブリベ-バイイ
(72)【発明者】
【氏名】マージャン アブドラヒム
(72)【発明者】
【氏名】イベット トラン-アマレリ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ヌゲ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029CC03
4B029CC08
4B029DG01
4B029GA03
4B029GB02
4B029GB04
4B029HA05
4B063QA01
4B063QQ02
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4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR82
4B063QS25
4B063QS36
(57)【要約】
マイクロ流体デバイス(10)であって、-複数の閉鎖パターン(16)が上にグラフトされた第1の基材(14)を含む第1の壁(12)と、-第2の基材(20)を含む、第1の壁(12)に対向した第2の壁(18)と、-第1の基材(14)又は第2の基材(20)のいずれかの上にグラフトされた複数の核酸(22)と、を含み、各核酸(22)が、当該第1の基材(14)又は第2の基材(20)上の核酸の位置をコードするバーコードを含み、少なくとも複数の閉鎖パターン(16)又は第2の基材(20)が、収縮状態と、閉鎖パターン(16)及び第2の基材(20)が接触した膨潤状態との間で膨潤可能である作動可能なヒドロゲルから作製されている、マイクロ流体デバイス(10)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体デバイス(10)であって、
-複数の閉鎖パターン(16)が上にグラフトされた第1の基材(14)を含む第1の壁(12)と、
-前記第1の壁(12)に対向し、第2の基材(20)を含む第2の壁(18)と、
-前記第1の基材(14)又は前記第2の基材(20)のいずれかの上にグラフトされた複数の核酸(22)であって、各核酸(22)が、前記第1の基材(14)又は前記第2の基材(20)上の前記核酸の位置をコードするバーコードを含む、複数の核酸(22)と、を含み、
少なくとも前記複数の閉鎖パターン(16)又は前記第2の基材(20)が、収縮状態と、前記閉鎖パターン(16)及び前記第2の基材(20)が接触した膨潤状態との間で膨潤可能である作動可能なヒドロゲルで作製されている、マイクロ流体デバイス(10)。
【請求項2】
作動可能な膨潤性ヒドロゲルが、温度応答性膨潤性ヒドロゲルである、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項3】
前記温度応答性ヒドロゲルが、4℃~98℃、好ましくは20℃~50℃、より好ましくは25℃~40℃の範囲の臨界溶液温度を有する、請求項2に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項4】
前記臨界溶液温度が、下限臨界溶液温度であり、その上では、前記温度応答性ヒドロゲルが前記収縮状態にあり、その下では、前記温度応答性ヒドロゲルが前記膨潤状態にある、請求項3に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項5】
前記臨界溶液温度が、上限臨界溶液温度であり、その上では、前記温度応答性ヒドロゲルが前記膨潤状態にあり、その下では、前記温度応答性ヒドロゲルが前記収縮状態にある、請求項3に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項6】
前記ヒドロゲルのポリマーマトリックスが、アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、オリゴエチレン(メタ)アクリレート、スルホベタイン(メタ)アクリレート及びN-アクリロイルグリシンアミドのホモポリマー、コポリマー及びターポリマー並びにそれらの任意の混合物から選択される、好ましくはアルキル(メタ)アクリルアミドのホモポリマー、コポリマー及びターポリマー並びにそれらの任意の混合物から選択される熱応答性ポリマーを含み、好ましくはそれからなり、より好ましくは、前記ポリマーが、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である、請求項1~5のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項7】
前記デバイス(10)への反応物の導入又は除去をそれぞれ可能にする少なくとも1つの入口(24)及び少なくとも1つの出口(26)を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項8】
前記第1の基材(14)及び前記第2の基材(20)が、独立して、シリコン、石英、ガラス、ポリジメチルシロキサン、環状オレフィンコポリマー及びポリカーボネートなどの熱可塑性物質から、好ましくはガラス及びポリジメチルシロキサンから選択される材料で作製されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項9】
前記複数の閉鎖パターン(16)が、前記作動可能な膨潤性ヒドロゲルから作製され、前記第2の基材(20)が、非膨潤性材料から作製されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項10】
前記第2の基材(20)が、前記作動可能な膨潤性ヒドロゲルから作製され、前記閉鎖パターン(16)が、非膨潤性材料から作製されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項11】
複数のリガンドが、前記第1の基材(14)上及び/又は前記第2の基材(20)上にグラフトされている、請求項1~10のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項12】
核酸とコンジュゲートされた複数のリガンドが、グラフトされた前記核酸(22)の少なくとも一部へのハイブリダイゼーションによって会合されている、請求項1~10のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項13】
各リガンドが、独立して、抗体、抗体断片、レクチン、及びアプタマーからなる群から選択される、請求項11又は12に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項14】
同じバーコードを共有する核酸(22)が、複数の配列を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項15】
核酸(22)が、以下の配列:
1)核酸放出のための制限部位又は光切断可能部位、
2)更なる増幅のための増幅プライマーに相補的な配列、
3)インビトロ転写(IVT)のためのT7 RNAポリメラーゼプロモーター配列、
4)核酸標識のための、ハイブリダイゼーション部位、ライゲーション部位又は組換え部位、及び
5)ユニーク分子識別子(UMI)として機能するランダム化ヌクレオチド残基の配列、のうちの1つ又は任意の組み合わせを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス(10)。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載のデバイス(10)の製造方法であって、
a)第1の基材(14)を提供することと、
b)前記第1の基材(14)の表面上に複数の閉鎖パターン(16)をグラフトすることと、
c)第2の基材(20)を提供することと、
d)前記第1の基材(14)の表面上又は前記第2の基材(20)の表面上のいずれかに複数の核酸(22)をグラフトすることであって、各核酸(22)が、前記第1の基材(14)又は前記第2の基材(20)上の前記核酸(22)の位置をコードするバーコードを含む、グラフトすることと、
e)前記第1の基材(14)と前記第2の基材(20)との間に前記閉鎖パターン(16)及び前記核酸(22)を配置することによって、前記第1の基材(14)及び前記第2の基材(20)を位置決めすることと、
f)前記第1の基材(14)と前記第2の基材(20)とを結合することと、を含む、方法。
【請求項17】
A)前記第1の基材(14)の表面上及び/又は前記第2の基材(20)の表面上に、複数のリガンドをグラフトするステップ、及び/又は
B)グラフトされた前記複数の核酸(22)に、ハイブリダイゼーションによって複数のリガンドを会合させるステップであって、前記複数のリガンドが、前記グラフトされた核酸(22)の少なくとも一部に相補的な核酸とコンジュゲートされる、会合させるステップ、及び/又は
C)前記第1の基材(14)及び/又は前記第2の基材(20)の表面の少なくとも一部に接着コーティングをコーティングし、前記接着コーティングに、非共有結合によって複数のリガンドを会合させるステップ、のうちの少なくとも1つを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が、
1)グラフトされた核酸(22)中に存在する定常配列の全部又は一部に相補的な配列を含むDNAをハイブリダイズさせるステップ、
2)重合によりハイブリダイズDNAを伸長させるステップ、
3)前記グラフトされた核酸(22)をDNA配列とライゲーションするステップ、
4)場合によっては1)、2)又は3)によるハイブリダイゼーション、伸長又はライゲーションによって予め修飾された、前記グラフトされた核酸(22)の全部又は一部を、前記第1の基材(14)又は前記第2の基材(20)の表面から、切断によって放出するステップ、のうちの1つ以上を更に含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
細胞又はオルガネラの分析を実施する方法であって、
a)請求項1~15のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス(10)と、細胞又はオルガネラの調製物とを提供することと、
b)任意選択で、前記細胞又はオルガネラの全て又は一部を、共通の標識核酸配列又は複数の異なる標識核酸配列と会合させることと、
c)ヒドロゲルが収縮状態にある条件下で、懸濁液中の前記細胞又はオルガネラを前記マイクロ流体デバイス(10)に注入することと、
d)前記条件を修正して前記ヒドロゲルを膨潤状態に作動させ、それによって、前記マイクロ流体デバイス(10)の第1の壁(14)及び第2の壁(20)、並びに膨潤状態のヒドロゲルの閉鎖パターン(16)によって形成されるケージ内に細胞又はオルガネラを捕捉することと、
e)任意選択で、捕捉された細胞若しくはオルガネラ及び/又はそれらが分泌する分子を、光学イメージングを使用して分析することと、
f)任意選択で、前記マイクロ流体デバイス(10)の第1の基材(14)又は第2の基材(20)の表面から、グラフトされた核酸(22)を前記ケージ内に放出させることと、
g)任意選択で、捕捉された細胞又はオルガネラを溶解させ、それによって、細胞核酸又はオルガネラ核酸を前記ケージ内に放出させることと
h)前記核酸(22)のバーコードを、放出された前記細胞又はオルガネラの核酸のいずれかと会合させ、かつ/又は核酸配列を標識し、それによって、バーコード化された核酸を形成させることと、
i)前記条件を修正して前記ヒドロゲルを前記収縮状態に作動させることと、
j)f)において放出されない場合、前記マイクロ流体デバイス(10)の前記第1の基材(14)又は前記第2の基材(20)から前記グラフトされた核酸(22)を放出させることと、
k)前記バーコード化された核酸を回収し、配列決定することと、
l)任意選択で、バーコード化された配列決定データを、e)で得られた光学イメージングからのデータ上にマッピングすることと、を含む、方法。
【請求項20】
前記方法が、
e1)前記第1の基材(14)の表面及び/又は前記第2の基材(20)の表面上に直接又は間接的にグラフトされたリガンドに、前記捕捉された細胞又はオルガネラにより分泌又は放出された分析物(単数又は複数)を結合させること、
e2)結合した前記分析物(単数又は複数)に特異的である標識された第2のリガンド(単数又は複数)と結合させることによって、前記グラフトされたリガンドに結合した前記分析物(単数又は複数)を検出すること、を更に含む、請求項19に記載の細胞又はオルガネラの分析を実施する方法。
【請求項21】
ステップe2)において、検出が、
i)蛍光標識された第2のリガンド(単数又は複数)により直接的に実施されるか、又は
ii)前記グラフトされたリガンドに結合している前記分析物(単数又は複数)に特異的なリガンド同定核酸で標識された第2のリガンド(単数又は複数)により間接的に実施され、前記リガンド同定核酸の配列が、前記リガンド及び前記グラフトされたリガンドに結合している前記分析物(単数又は複数)の同定を可能にし、前記核酸(22)のバーコードと関連付けられ、それによってバーコード化された核酸を形成する、請求項20に記載の細胞又はオルガネラの分析を実施する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的分析、特に細胞及び/又はオルガネラの分析のためのデバイスに関する。本発明はまた、当該デバイスの製造プロセス及び生物学的分析のためのその様々な用途に関する。
【背景技術】
【0002】
単一細胞マルチオミクス分析は、成長分野である。2018年の市場は3億ドルであり、2022年には16億ドルになると予測されている(BioInformatics,LLC)。単一細胞分析は、健常組織及び罹患組織の細胞不均一性を克服するための不可欠なツールである。実際、細胞のセットの分析は、その組成の不均一性を明らかにすることができない。例えば、腫瘍は、典型的には、複数のタイプの腫瘍細胞を含み、乳がん患者由来のがん性組織は、例えば、HER2陽性細胞及びHER2陰性細胞の両方を含み得、前者は、治療抗体トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))による治療に応答し、後者は応答しない。更に、腫瘍は、典型的には、広範囲の間質及び腫瘍浸潤免疫細胞も含有する。腫瘍全体の分析は、この細分性を決して明らかにしない。
【0003】
バーコード化された次世代配列決定を使用する「オミクス」分析(ゲノム、エピゲノム及びトランスクリプトーム分析)は、現在、単一細胞スケールでハイスループットで可能である。単一細胞は区画内で単離され、細胞から放出された核酸は、各区画、したがって各細胞に固有の核酸配列バーコードで標識される。標識された核酸をプールし、次世代配列決定によって分析する。その後のバイオインフォマティクス分析は、同じ細胞からのリードが同じバーコードを有するので、リードを単一細胞に割り当てることを可能にする。同様に、表現型分析もまた現在、顕微鏡、フローサイトメトリー及びマスサイトメトリーを使用して、単一細胞スケールでハイスループットで可能である。CITE-seqは更に、細胞表面上に提示されたプロテオームのサブ画分の分析を、バーコード化次世代配列決定を介したトランスクリプトーム分析と組み合わせることを可能にする。しかしながら、バーコード化された次世代配列決定からのハイスループット単一細胞オミクスデータは、イメージングからの表現型データ上にマッピングされていない。
【0004】
今日、単一細胞についての表現型(タンパク質発現、タンパク質分泌、グリコシル化、翻訳後修飾、代謝、細胞形態、外部刺激に対する細胞応答など)及びオミクス情報の両方の取得を必要とする複雑かつ不均一な生物学的システムのより良い理解に対する強いニーズが研究及び臨床コミュティによって表されており、そしてこれは、生物学的サンプルの数千の細胞についてである。
【0005】
いくつかの研究又は臨床上の質問に答えるためには、関心のある部分集団を分析するだけでよい場合がある。配列決定されるべき細胞の数を減少させることは、稀な事象、細胞集団の複雑なセットに焦点を合わせること、又は競合的セラノスティックな目的のためのツールを提供することを可能にする。細胞の部分集団は、例えば、蛍光活性化細胞選別(fluorescence-activated cell sorting、FACS)によって、又は単一細胞配列決定の前に磁気ビーズを使用して、事前に濃縮することができるが、細胞を監視し、特定の1つ又は複数の表現型を有する細胞の部分集団の単一細胞配列決定を選択的に行うことを可能にする統合システムは現在存在しない。更に、FACS又は磁気ビーズを使用する予備濃縮は、少数の細胞(例えば、腫瘍生検由来)の分析にはあまり適合せず、細胞の一時的モニタリングに基づく、又は分泌分子(例えば、抗体及びサイトカイン)の検出に基づく、細胞の分類を可能にするものではない。
【0006】
[技術的現状(State of the art)]
現在のシステムは、次世代配列決定の前に、区画内の細胞を単離し、細胞から核酸を放出させ、各区画に、すなわち各細胞に固有の核酸配列バーコードでそれらを標識することを可能にする。しかしながら、現在、多数の細胞(>10,000)の分析を可能にし、光学イメージングによって決定された細胞の表現型をその染色体特性(ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトームなど)に直接結びつけることも、対象の細胞を選択してそれらを個々に配列決定することも、可能にするシステムは存在しない。
【0007】
既存の技術は、以下を可能にするだけである:
1.液滴マイクロ流体工学を使用して、多数の細胞(>10,000)の細胞のバーコード化された単一細胞の配列決定を実施することであって、単一細胞は、液滴のイメージング、蛍光測定又はソーティングなしで、各ビーズに固有の核酸配列バーコードを保有する単一ビーズと一緒に液滴中に区画化される、
2.バルブマイクロ流体工学を使用して、少数の細胞(≦800)細胞の単一細胞の分析を実施することであって、単一細胞は、空気バルブによって分離された微細加工チャンバー内に区画化され、顕微鏡による時間的イメージングを伴い、続いて、特定の表現型を有する細胞の選別又は選択的配列決定を伴わずに、単一細胞の配列決定を行う(Fluidigm C1、Fluidigm Polaris)、
3.少数の細胞(<2,000)の単一細胞の配列決定であって、単一細胞は、細胞のイメージング、蛍光測定又は選別を伴わずに、単一細胞の配列決定のためにマイクロプレートウェル中に区画化される。
【0008】
液滴マイクロ流体工学、バルブマイクロ流体工学又はマイクロプレートウェルを使用する場合、細胞の部分集団は、細胞マーカー(<50)、典型的には細胞表面マーカーの小パネルの蛍光標識及び蛍光活性化細胞選別(FACS)に基づいて、又は細胞表面マーカーに対するリガンドで標識された磁気ビーズを使用して、区画化の前に予め濃縮することができる。しかしながら、分析される各細胞についての配列決定データに対する蛍光データの1対1マッピングは存在しない。しかしながら、マイクロプレートウェルを使用する場合、個々の細胞は、単一細胞配列決定の前に、オミクスデータに対する細胞の蛍光プロファイルの1対1マッピングを用いて、FACSによって個々のウェルに選別されることができる。更に、例えば、CellenONEシステム及びBerkeley Lights optofluidicsシステムなどの他のシステムは、個々の細胞のイメージングを可能にし、その後、個々の細胞をマイクロプレートウェルに選択的に分配する。
【0009】
しかしながら、現在利用可能な技術は、配列決定によって分析される部分集団を選択する可能性を有する、>10,000個の細胞の区画化後の表現型モニタリングを可能にするものではない。
【0010】
特に、現在利用可能な技術は、オミクス解析(ゲノム解析、エピゲノム解析、トランスクリプトーム解析及びプロテオミクス解析)を光学イメージングによる表現型の解析に結びつけることを可能にするものではない。
【0011】
D’Eramo L.;et al.,Microsystems&Nanoengineering,2018,4,17069,doi:10.1038は、温度応答性ヒドロゲルに基づくマイクロ流体アクチュエータを備えるマイクロ流体デバイスを教示している。しかしながら、その開示されたデバイスは、核酸アレイと組み合わせた温度応答性ヒドロゲルから構成される壁を有するケージのアレイを含まず、核酸アレイは、基材のうちの1つの上にグラフトされた複数の核酸を含み、各核酸は、基材上の核酸の位置をコードするバーコードを含む。したがって、開示されたデバイスは、バーコード化された単一細胞の配列決定のために使用することができない。
【発明の概要】
【0012】
[本発明の利点]
本発明によるマイクロ流体デバイスは、特にハイスループット(10,000個を超える細胞)で、かつ非常に競合的なコスト条件下で、バーコード付き次世代配列決定からの単細胞オミクスデータへの光学イメージングからの表現型データの1対1マッピングを用いて、単一又は小群の細胞の分析を可能にする。それは更に、光学イメージングからの表現型データに基づく細胞の部分集団の選択的配列決定を可能にする。
【0013】
特に、本発明によるマイクロ流体デバイスは、活性化可能なヒドロゲルで作製された微小区画(ケージ)内の単一細胞又はオルガネラを単離することを可能にし、単離された各細胞内に見出される細胞及び遺伝物質の可視化、標識、及び生物学的分析を可能にする。膨張性ゲルの使用は、ケージ間に生物学的シールを提供しながら、単一の細胞又はオルガネラがケージ内に配置されるように、要求に応じて、微小区画内の細胞又はオルガネラの集団を導入及び単離する能力を与える。ケージ内に固定されたバーコード化された核酸の使用は、ケージ内の細胞又はオルガネラから放出された、又はそれと会合した任意の核酸の標識(「バーコード化」)を可能にする。
【0014】
この新規な技術は、細胞溶解及び配列決定の前に、光学イメージングによる単一細胞の表現型のハイスループット分析及びモニタリングを可能にし、これは、細胞表現型(タンパク質発現、タンパク質分泌、グリコシル化、翻訳後修飾、代謝、細胞形態、外部刺激に対する細胞応答、など)の1対1マッピングを可能にする。しかしながら、本システムはまた、以下を含む多数の他の有利な特徴を有する:
-イメージングにより、実験の品質管理を可能にし、細胞をロードしたケージの割合、細胞のタイプ、細胞の生存率及び細胞溶解の効率についての情報を提供する、
-イメージングにより、バイオインフォーマティック分析中に誤った数の細胞を有するケージからの配列決定データの除外を可能にし、例えば、単一細胞を有するケージからのデータのみが保持され得る、
-本発明の一実施形態では、光学イメージングからの表現型データに基づいて同定された細胞の部分集団のみが配列決定によって分析される、
-液滴における区画化に基づくシステムとは対照的に、ケージを開放する、部分的に開放する、又は閉鎖する能力のおかげで、分析中の異なるステップにおいて試薬を追加又は除去することができ、これにより、競合する技術では現在可能でないプロトコルにおける所定のレベルの柔軟性が誘導される、
-分析はユーザフレンドリであり、完全に自動化可能である。
【0015】
イメージングによる単一細胞のオミクス解析と表現型解析とを組み合わせることにより、バイオシステムの複雑さをよりよく理解することができる。本発明はまた、患者のより正確な診断及び層別化、並びにより良好なセラノスティック精度を可能にする。
【0016】
[発明の概要]
本発明は、マイクロ流体デバイスに関し、マイクロ流体デバイスは、
-複数の閉鎖パターンが上にグラフトされた第1の基材を含む第1の壁と、
-第1の壁に対向し、第2の基材を含む第2の壁と、
-第1の基材又は第2の基材のいずれかの上にグラフトされた複数の核酸であって、各核酸が、当該第1又は第2の基材上の核酸の位置をコードするバーコードを含む、複数の核酸と、を含み、
少なくとも複数の閉鎖パターン又は第2の基材は、収縮状態と、閉鎖パターン及び第2の基材が接触した膨潤状態との間で膨潤可能である作動可能なヒドロゲルで作製されている。
【0017】
本発明は更に、本発明によるデバイスの製造方法に関し、当該方法は、
1)第1の基材を提供することと、
2)当該第1の基材の表面上に複数の閉鎖パターンをグラフトすることと、
3)第2の基材を提供することと、
4)第1の基材の表面上又は第2の基材の表面上のいずれかに複数の核酸をグラフトすることであって、各核酸が、当該第1又は第2の基材上の核酸の位置をコードするバーコードを含む、グラフトすることと、
5)第1の基材と第2の基材との間に閉鎖パターン及び核酸を配置することによって、第1の基材と第2の基材とを位置決めすることと、
6)第1及び第2の基材を結合することと、を含む。
【0018】
本発明は更に、細胞又はオルガネラの分析を実施する方法に関し、方法は、
a)本発明によるマイクロ流体デバイス、及び細胞又はオルガネラの調製物を提供することと、
b)任意選択で、細胞又はオルガネラの全て又は一部を、共通の標識核酸配列又は複数の異なる標識核酸配列と会合させることと、
c)ヒドロゲルが収縮状態にある条件下で、懸濁液中の細胞又はオルガネラをマイクロ流体デバイスに注入することと、
d)条件を修正してヒドロゲルを膨潤状態に作動させ、それによって、マイクロ流体デバイスの第1の壁及び第2の壁、並びに膨潤状態のヒドロゲルの閉鎖パターンによって形成されるケージ内に細胞又はオルガネラを捕捉することと、
e)任意選択で、捕捉された細胞若しくはオルガネラ及び/又はそれらが分泌する分子を、光学イメージングを使用して分析することと、
f)任意選択で、マイクロ流体デバイスの第1又は第2の基材の表面から、グラフトされた核酸をケージ内に放出させることと、
g)任意選択で、捕捉された細胞又はオルガネラを溶解させ、それによって、細胞核酸又はオルガネラ核酸をケージ内に放出させることと、
h)核酸のバーコードを、放出された細胞核酸若しくはオルガネラ核酸のいずれかと会合させ、かつ/又は核酸配列を標識し、それによって、バーコード化された核酸を形成させることと、
i)条件を修正してヒドロゲルを収縮状態に作動させることと、
j)f)において放出されない場合、マイクロ流体デバイスの第1又は第2の基材からグラフトされた核酸を放出させることと、
k)バーコード化された核酸を回収し、配列決定することと、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、第1に、マイクロ流体デバイスに関し、マイクロ流体デバイスは、
-複数の閉鎖パターンが上にグラフトされた第1の基材を含む第1の壁と、
-第1の壁に対向し、第2の基材を含む第2の壁と、
-第1の基材又は第2の基材のいずれかの上にグラフトされた複数の核酸であって、各核酸が、当該第1又は第2の基材上の核酸の位置をコードするバーコードを含む、複数の核酸と、を含み、
少なくとも複数の閉鎖パターン又は第2の基材は、収縮状態と、閉鎖パターン及び第2の基材が接触した膨潤状態との間で膨潤可能である作動可能なヒドロゲルで作製されている。
【0020】
本発明はまた、上記で定義したマイクロ流体デバイスの製造方法に関する。
【0021】
本発明は更に、上記で定義したマイクロ流体デバイスを使用することによって、生物学的分析、特に細胞又はオルガネラ分析を実施する方法に関する。
【0022】
以下に詳述される全ての実施形態及び優先的な特徴は、本発明の全ての目的、特にデバイス、製造プロセス、及びその異なる用途に独立して適用される。
【0023】
デバイス
膨潤状態では、閉鎖パターンとデバイスの第2の基材とが接触している。したがって、デバイスは複数のケージを備え、各ケージは、閉鎖パターンで作製された側壁と、第1及び第2の基材から構成される端壁とによって画定される。
【0024】
収縮状態では、閉鎖パターンと第2の基材とはもはや接触していない。閉鎖パターンと第2の基材との間の間隙は、流体及び細胞がデバイス内を自由に循環することを可能にする。
【0025】
収縮状態と膨潤状態との間で、本発明によるデバイスは、作動可能なヒドロゲルが部分的にしか膨潤していない多数の中間状態を経る。これらの構成では、閉鎖パターンと第2の基材との間に間隙が依然として存在する。しかしながら、間隙の高さは、ケージ内に捕捉された細胞がケージ内に保持されるように、収縮状態に対して十分に低減される。これらの中間構成は、典型的には、細胞ではなく流体の選択的通過を可能にするために使用され得る。
【0026】
したがって、各閉鎖パターンは、閉鎖及び開放が外部刺激によって開始される、細胞の捕捉部位を画定する。好ましい実施形態において、外部刺激は、pH、光強度、温度又は電流強度の変化である。非常に好ましい実施形態では、外部刺激は温度変化である。
【0027】
マイクロ流体デバイスは、少なくとも2つの閉鎖パターンを含む。好ましくは、マイクロ流体デバイスは、多数の閉鎖パターン、典型的には100、1,000、10,000、100,000・・・のそれを含む。
【0028】
第1の壁及び第2の壁は、-20℃~100℃の範囲の温度変動に耐えることができる剛性材料で作製されている。第1の実施形態によれば、壁(第1の壁及び/又は第2の壁)は、特有の均質な材料で作製されている。したがって、壁は基材からなる。
【0029】
第2の実施形態によれば、壁は、基材が上に固定/コーティングされた支持材料を更に含む。典型的には、壁は、基材層でコーティングされたガラス又はポリジメチルシロキサンで作製された支持材料からなる。
【0030】
本発明によるデバイスは、等価的に、2つの単層壁、2つの多層壁、又は1つの単層壁及び1つの多層壁を含み得る。
【0031】
第1の基材は、典型的には、シリコン、石英、ガラス、ポリジメチルシロキサン、環状オレフィンコポリマー及びポリカーボネートなどの熱可塑性物質から、好ましくはガラス及びポリジメチルシロキサンから選択される材料から作製されている。
【0032】
好ましくは、第1の基材はポリジメチルシロキサンで作製されている。
【0033】
一実施形態によれば、第1の基材の表面の少なくとも一部は、構造化及び/又は官能化される。
【0034】
「構造化される」とは、本発明の文脈において、基材の表面が不規則であることを意味する。基材の表面は多孔質であってもよく、微視的に構造化されていてもよい。特に、それは、微視的な縞、柱などを含むことができる。
【0035】
基材の構造化は、任意の既知のプロセスに従って実施され得る。例えば、十分に確立されている標準的なソフトリソグラフィ技術を挙げることができる。
【0036】
「官能化される」とは、本発明の文脈において、基材の表面上に化学官能基を固定することを意味する。典型的には、第1の基材の表面は、ヒドロキシド基、シラノール基及びこれらの混合物から選択される化学基、好ましくはシラノール基で官能化される。
【0037】
基材の構造化及び/又は官能化は、閉鎖パターン及び/又は核酸のそれらの表面上へのグラフトを促進することを可能にする。
【0038】
好ましい実施形態によれば、第1の壁は、構造化及び/又は官能化されたポリジメチルシロキサン基材、好ましくは構造化及び官能化されたポリジメチルシロキサン基材から作製されている。
【0039】
閉鎖パターンは、多種多様な形状を有し得る。好ましくは、閉鎖パターンは長方形、正方形、円形又は六角形である。
【0040】
好ましくは、閉鎖パターンは、第1の基材に共有結合的にグラフトされる。
【0041】
特定の実施形態によれば、第2の基材はヒドロゲルで作製され、閉鎖パターンは非膨潤性材料で作製されている。
【0042】
好ましくは、この特定の実施形態によれば、第2の壁は、膨潤性ヒドロゲルが上に堆積された非膨潤性支持材料を含む。
【0043】
非膨潤性支持材料は、構造化及び/又は官能化されてもよい。非膨潤性材料の構造化及び/又は官能化は、第1の基材に関連して上述したものと同様になされる。
【0044】
したがって、この実施形態によれば、閉鎖パターンは非膨潤性であり、ケージの閉鎖を可能にするのは第2の基材の膨潤である。
【0045】
好ましくは、この実施形態によれば、閉鎖パターンは、シリコン、石英、ガラス、ポリジメチルシロキサン、環状オレフィンコポリマー及びポリカーボネートなどの熱可塑性材料から、好ましくはガラス又はポリジメチルシロキサンから選択される材料から作製されている。
【0046】
好ましくは、閉鎖パターンは、0.1μm~100μm、好ましくは1μm~30μmの範囲の高さを有する。
【0047】
好ましくは、閉鎖パターンの壁は、0.1~500μm、好ましくは1μm~20μmの範囲の厚さを有する。
【0048】
有利には、この実施形態によれば、第2の基材は、閉鎖パターンと接触する膨潤状態で測定して、1μm~500μm、好ましくは1μm~100μmの範囲の厚さを有する。
【0049】
有利には、更にこの実施形態によれば、ヒドロゲルを含む第2の基材は、乾燥状態で測定して、0.5μm~150μm、好ましくは0.5μm~50μmの範囲の厚さを有する。
【0050】
好ましい実施形態によれば、閉鎖パターンはヒドロゲルで作製され、第2の基材は非膨潤性材料で作製されている。
【0051】
したがって、この実施形態によれば、第2の基材は非膨潤性であり、閉鎖パターンは膨潤してケージを閉鎖する。
【0052】
好ましくは、この好ましい実施形態によれば、第2の基材は、シリコン、石英、ガラス、ポリジメチルシロキサン、環状オレフィンコポリマー及びポリカーボネートなどの熱可塑性物質から、好ましくはガラス又はポリジメチルシロキサンから選択される材料から作製されている。有利には、ヒドロゲルパターンは、ヒドロゲルパターンが第2の壁と接触しているときの膨潤状態で測定して、0.1μm~500μm、好ましくは1μm~250μm、より好ましくは1μm~100μmの範囲の高さを有する。
【0053】
有利には、ヒドロゲルパターンは、乾燥状態で測定して、0.1μm~150μm、好ましくは0.5μm~100μm、より好ましくは0.5μm~50μmの範囲の高さを有する。
【0054】
好ましくは、ヒドロゲルパターンの壁は、ヒドロゲルパターンが第2の壁と接触しているときの膨潤状態で測定して、0.1μm~100μm、好ましくは1μm~10μmの範囲の解像度を有する。
【0055】
好ましくは、ヒドロゲルパターンの壁は、乾燥状態で測定して、0.1μm~100μm、好ましくは0.5μm~5μmの範囲の解像度を有する。
【0056】
「ヒドロゲル」とは、本発明の文脈において、水性媒体、特に水中に置かれた場合に、特定の物理的及び/又は化学的条件下で、当該水相を吸収及び保持することによって膨潤するポリマー材料を指す。
【0057】
「ヒドロゲル」とは、ゲルの文脈において、特定の物理化学的条件下で、水の存在下で膨潤することができる三次元網目構造を形成するポリマーマトリックスを指す。特に、ヒドロゲルの膨潤は、熱的、光学的、化学的又は電気的刺激によって開始及び/又は調節され得る。
【0058】
例えば、ヒドロゲルの膨潤(又は収縮)は、それが配置される媒体の温度、圧力又はpH値の変化によって開始及び/又は調節され得る。
【0059】
好ましくは、ヒドロゲルは温度応答性膨潤性ヒドロゲルである。「温度応答性膨潤性ヒドロゲル」とは、本発明の文脈において、温度を変化させることによって膨潤又は収縮が誘導されるヒドロゲルを指す。温度応答性膨潤性ヒドロゲルは、典型的には、温度に伴う水溶解度の劇的な変化を示す。
【0060】
特定の温度範囲において、ヒドロゲルは水溶性であり、大量の水を吸収する。
【0061】
逆に、媒体の温度を変化させることによって、ヒドロゲルはもはや水溶性ではなくなる。次いで、ヒドロゲルは水を放出し、収縮する。
【0062】
「膨潤状態」とは、本発明の文脈において、閉鎖パターン及び第2の基材が、デバイスが複数の気密封止ケージを含むように接触しているヒドロゲルの状態を指す。
【0063】
「収縮状態」とは、本発明の文脈において、閉鎖パターン及び第2の基材が接触していないヒドロゲルの状態であって、閉鎖パターンと第2の基材との間の間隙が存在し、マイクロ流体デバイス内部の流体及び細胞の自由な循環を可能にする状態を指す。「収縮状態」は、ヒドロゲルが完全に水を含まないわけではないという点で、以下に定義する「乾燥状態」とは異なる。収縮状態では、ヒドロゲルは依然として少なくとも部分的に水和されている。
【0064】
「乾燥状態」とは、本発明の文脈において、ヒドロゲルがほぼ完全に水を含まない状態を指す。典型的には、ヒドロゲルは、マイクロ流体デバイスの製造中、特にヒドロゲルパターンのグラフト中のヒドロゲル基材による第2の壁のコーティング中、乾燥状態にある。
【0065】
ヒドロゲルの水溶性特性が劇的に変化する温度は、臨界溶液温度(critical solution temperature、CST)として示される。
【0066】
好ましくは、ヒドロゲルは、4℃~98℃、より好ましくは20℃~50℃、更により好ましくは25℃~40℃の範囲の臨界溶液温度(CST)を有する。
【0067】
第1の変形形態によれば、ヒドロゲルの臨界溶液温度(CST)は、下限臨界溶液温度(lower critical solution temperature、LCST)である。LSCTより高い温度では、ヒドロゲルは収縮状態にあり、LCSTより低い温度では、ヒドロゲルは膨潤状態にある。
【0068】
第2の変形形態によれば、ヒドロゲルの臨界溶液温度(CST)は、上限臨界溶液温度(upper critical solution temperature、UCST)である。UCSTより高い温度では、ヒドロゲルは膨潤状態にあり、USCTより低い温度では、ヒドロゲルは収縮状態にある。
【0069】
ヒドロゲルのポリマーマトリックスを構成するポリマーは、典型的には、アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、オリゴエチレン(メタ)アクリレート、スルホベタイン(メタ)アクリレート及びN-アクリロイルグリシンアミドのホモポリマー、コポリマー及びターポリマーから選択され、好ましくはアルキル(メタ)アクリルアミドのホモポリマー、コポリマー及びターポリマー並びにそれらの任意の混合物から選択され、より好ましくは、ヒドロゲルはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を含む。
【0070】
ポリマーは、LCSTポリマー、UCSTポリマー及びこれらの混合物から選択され得る。
【0071】
ヒドロゲルの文脈において上で述べたものと同様に、
-「LCSTポリマー」という表現は、下限臨界溶液温度を有する熱応答性ポリマーを示し、
-「UCSTポリマー」という表現は、上限臨界溶液温度を有する熱応答性ポリマーを示す。
【0072】
ヒドロゲルの全体的な挙動(UCST及び/又はLCST挙動)は、ヒドロゲル中に存在する異なるポリマーの性質及び量に依存する。
【0073】
ポリマーがUCSTポリマーから選択される場合、それは好ましくは、アクリル、アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、オリゴエチレン(メタ)アクリレート、スルホベタイン(メタ)アクリレート、N-アクリロイルグリシンアミド及びそれらの混合物のホモポリマー、コポリマー及びターポリマーから選択される。
【0074】
好ましくは、UCSTポリマーは、メタクリルアミド、アクリルアミド及びアリルメタクリレートのターポリマーである。
【0075】
ポリマーがLCSTポリマーから選択される場合、それは、好ましくはアクリル、アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、オリゴエチレン(メタ)アクリレート及びそれらの混合物のホモポリマー、コポリマー及びターポリマーから、より好ましくはアルキル(メタ)アクリルアミドのホモポリマー、コポリマー及びターポリマーから選択され、より好ましくはLCSTポリマーはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。
【0076】
好ましくは、LCSTポリマーはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。
【0077】
有利には、ポリマーは、1つ又はいくつかのUCST又はLCSTポリマーを含み、好ましくはそれらからなる。
【0078】
有利には、マイクロ流体デバイスは、デバイスへの反応物の導入及び除去をそれぞれ可能にする少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を更に含む。
【0079】
好ましくは、加熱手段が本発明によるデバイスに組み込まれる。
【0080】
一実施形態によれば、各ケージは独立した加熱手段を含む。この実施形態は、各ケージを独立して開閉することができる点で特に有利である。
【0081】
例えば、局所加熱手段は、光で照射されると熱くなる(プラズモン効果)ナノ粒子から構成され得る。ナノ粒子は、例えば、ヒドロゲルと、それが上にコーティングされる壁との間に堆積され得、又はヒドロゲルのポリマーマトリックス中に分散され得る。好ましくは、ナノ粒子は、金属ナノ粒子及びプラズモンナノ粒子から選択され、好ましくは金、グラフェン、銀、銅及び窒化チタンを含む。
【0082】
別の例では、局所加熱はマイクロ抵抗器を使用して実施される。例えば、クロム/金二重層又はTiO2構造を含むマイクロ抵抗器である。
【0083】
マイクロ流体デバイスは、第1の基材又は第2の基材のいずれかの上にグラフトされた複数の核酸を更に含み、各核酸は、当該第1又は第2の基材上の核酸の位置をコードする配列バーコードを含む。
【0084】
有利には、核酸は、ヒドロゲルが膨潤状態にあるときにケージの内側に配置されるようにグラフトされる。
【0085】
より有利には、核酸は、閉鎖パターンの内側の第1の基材上、又は閉鎖パターンの反対側の第2の基材上のいずれかにグラフトされる。
【0086】
好ましくは、閉鎖パターンがヒドロゲルから作製されているとき、核酸は、第2の基材の表面上にグラフトされる。好ましくは、第2の基材がヒドロゲルから作製されているとき、核酸は、第1の基材の表面上にグラフトされる。
【0087】
グラフトされた核酸は、RNA又はDNA、好ましくはDNAである。グラフトされた核酸は、一本鎖、二本鎖又は部分的に二本鎖であり得る。
【0088】
グラフトされた核酸は、好ましくは60~100ヌクレオチド長である。
【0089】
グラフトされた核酸は、3’末端又は5’末端において、直接的に、又はリンカーによってのいずれかで、基材に結合され得る。
【0090】
一実施形態によれば、同じバーコードを共有するグラフトされた核酸は、複数の配列を有する。別の実施形態によれば、同じバーコードを共有するグラフトされた核酸は、同じ配列を有する。
【0091】
一実施形態によれば、グラフトされた核酸の全て又は一部は、別の核酸又は複数の核酸にハイブリダイズされ、部分的又は完全な二本鎖DNA、二本鎖DNA/RNA、又は二本鎖RNAを形成する。
【0092】
一実施形態によれば、グラフトされた核酸は、以下の配列のうちの1つ又は任意の組み合わせを含む:
1)核酸放出のための制限部位又は光切断可能部位、
2)更なる増幅のための増幅プライマーに相補的な配列、
3)更なるインビトロ転写(in vitro transcription、IVT)のためのT7 RNAポリメラーゼプロモーター配列、
4)核酸標識のためのハイブリダイゼーション部位、核酸標識のためのライゲーション部位、又は核酸標識のための組換え部位、及び
5)ユニーク分子識別子(unique molecular identifier、UMI)として機能するランダム化ヌクレオチド残基の配列。
【0093】
好ましくは、グラフトされた核酸は、少なくとも、i)当該第1又は第2の基材上の核酸の位置をコードする配列バーコード、及びii)制限部位又は光切断可能部位、及び任意選択で更にiii)プライマー配列、及び/又はT7配列及び/又はハイブリダイゼーション、ライゲーション又は組換え部位、を含む。
【0094】
一実施形態によれば、マイクロ流体デバイスのグラフトされた核酸は、定常配列、すなわち全てのグラフトされた核酸中に存在する配列を含む。マイクロ流体デバイスのグラフトされた核酸は、グラフトされた核酸の定常配列の全部又は一部に相補的な配列を含むDNAにハイブリダイズし得る。定常配列の全部又は一部に相補的な配列を含む1つ又は複数の異なるDNAを、グラフトされた核酸にハイブリダイズさせ得る。
【0095】
本発明によるマイクロ流体デバイスは、細胞又はオルガネラを捕捉することができる構造を更に含み得る。そのような構造は、典型的には、Vigneswaran N.et al,2017,Microfluidic hydrodynamic trapping for single cell analysis:mechanisms,methods and applications,Anal.Methods,9,3751-3772などの刊行物の記載から選択される。
【0096】
好ましくは、細胞又はオルガネラを捕捉することができる構造は、閉鎖パターンの内側の第1の基材上又は閉鎖パターンの反対側の第2の基材上のいずれかに局在化される。
【0097】
好ましくは、各ケージは、細胞又はオルガネラを捕捉することができる少なくとも1つの構造を含む。
【0098】
特定の実施形態によれば、複数のリガンドが、閉鎖パターンの反対側の第1の基材(14)上及び/又は第2の基材(20)上に、直接的又は間接的に、共有結合的又は非共有結合的にグラフトされる。
【0099】
有利には、リガンドは、ヒドロゲルが膨潤状態にあるときにケージの内側に配置されるようにグラフトされる。
【0100】
特に、第1の基材(14)上にグラフトされる場合、リガンドは、典型的には、閉鎖パターン(16)の内側にグラフトされる。
【0101】
あるいは、第2の基材(20)上にグラフトされる場合、リガンドは閉鎖パターンに対向している。
【0102】
リガンドは全て同じ基材上にグラフトされてもよい。あるいは、リガンドのいくつかは第1の基材(14)上にグラフトされ、他は第2の基材(20)上にグラフトされる。
【0103】
好ましくは、第1の基材(14)又は第2の基材(20)上に直接グラフトされるとき、複数のリガンドは、第1の基材(14)又は第2の基材(20)上に共有結合的にグラフトされる。
【0104】
より具体的な実施形態によれば、複数のリガンドは間接的にグラフトされ、すなわち、複数のリガンドが中間構造にグラフトされ、当該中間構造が第1の基材(14)又は第2の基材(20)上に直接グラフトされる。したがって、この特定の実施形態によれば、複数のリガンドと基材(14、20)との間に直接的な結合はない。
【0105】
好ましくは、第1の基材(14)又は第2の基材(20)上に間接的にグラフトされるとき、複数のリガンドは、第1の基材(14)又は第2の基材(20)上に非共有結合的にグラフトされる。
【0106】
第1の例によれば、複数のリガンドは、核酸とコンジュゲートされ、グラフトされた核酸(22)の少なくとも一部へのハイブリダイゼーションによって会合される。
【0107】
別の例によれば、複数のリガンドは、第1の基材(14)又は第2の基材(20)上に予めコーティングされた接着コーティングに非共有結合的にグラフトされる。接着コーティングとして、特にストレプトアビジンコーティングを挙げることができる。
【0108】
これらの実施形態において、好ましくは、各リガンドは、独立して、抗体、抗体断片、レクチン、及びアプタマーからなる群から選択される。
【0109】
リガンドは、通常、マイクロ流体デバイス(10)の第1の壁(14)及び第2の壁(20)によって形成されたケージ内に捕捉された細胞又はオルガネラの溶解によって分泌又は放出された1つ又は複数の分析物、並びに膨潤状態のヒドロゲルの閉鎖パターン(16)に結合するように選択される。
【0110】
製造プロセス
本発明はまた、上記で定義したマイクロ流体デバイスの製造方法に関する。
【0111】
好ましくは、製造方法は、以下のステップを含む:
1)第1の基材を提供するステップ、
2)当該第1の基材の表面上に複数の閉鎖パターンをグラフトするステップ、
3)第2の基材を提供するステップ、
4)第1の基材の表面上又は第2の基材の表面上のいずれかに複数の核酸をグラフトするステップであって、各核酸が、当該第1又は第2の基材上の核酸の位置をコードするバーコードを含む、グラフトするステップ、
5)第1の基材と第2の基材との間に閉鎖パターン及び核酸を配置することによって、第1の基材と第2の基材とを位置決めするステップ、
6)第1及び第2の基材を結合するステップ。
【0112】
閉鎖パターンのグラフトは、任意の既知のプロセスに従って実施され得る。
【0113】
閉鎖パターンが非膨潤性材料で作製されているとき、閉鎖パターンのグラフトは、典型的には、ソフトリソグラフィ技術によって実施される。
【0114】
特定の実施形態によれば、第1の基材及び閉鎖パターンは、1つのユニークなステップで一緒に調製される。
【0115】
閉鎖パターンがヒドロゲルから作製されているとき、閉鎖パターンのグラフトは、典型的には、好ましくはUV(紫外線)放射下で、フォトパターニングによって実施される。フォトパターニング法は、第1の基材上へのヒドロゲルのポリマーマトリックスの表面グラフトと、同時のヒドロゲルのポリマーマトリックスの架橋とにある。
【0116】
好ましくは、ポリマーは共有結合的に架橋される。
【0117】
より好ましくは、ポリマーの架橋は、例えばジチオエリスリオールなどのジチオール分子から選択される架橋剤の存在下でなされる。
【0118】
ヒドロゲルのパターニングは、典型的には、標準的なフォトリソグラフィ技術によって、又は直接レーザ書き込みデバイスを用いて実施される。
【0119】
これらの技術は、特に、Chollet,B.,D’Eramo,L.,Martwong,E.,Li,M.,Macron,J.,Mai,T.Q.,Tabeling,P.and Tran,Y.,2016.Tailoring patterns of surface-attached multiresponsive polymer networks.ACS applied materials&interfaces,8(37),pp.24870-24879に開示されている。
【0120】
核酸のグラフトは、典型的には、それぞれDeRisi,J.et al.Use of a cDNA microarray to analyse gene expression.Nat.Genet 14,457-460(1996)、及びFodor,S.P.et al.Light-directed,spatially addressable parallel chemical synthesis.Science(80-.).251,767-773(1991)に詳述されているスポッティング又はインサイチュー光特異的合成により実施される。
【0121】
有利には、ステップ5)の間、第1及び第2の基材は、ヒドロゲルが膨潤状態にあるとき、核酸がケージの内側にあることを可能にするように配置される。
【0122】
より有利には、核酸は、閉鎖パターンの内側の第1の基材上、又は閉鎖パターンの反対側の第2の基材上のいずれかにグラフトされる。
【0123】
結合ステップは、任意の公知の方法に従って実施され得る。
【0124】
第1の実施形態によれば、結合ステップは、酸素プラズマ処理によって実施される。
【0125】
好ましくは、酸素プラズマ処理は、室温で、典型的には5℃~50℃、より好ましくは10℃~40℃、更により好ましくは15℃~30℃の範囲の温度で実施される。
【0126】
好ましくは、酸素プラズマ処理の持続時間は、10秒~2分、より好ましくは30秒~1分の範囲である。
【0127】
好ましくは、この第1の実施形態によれば、本方法は、ステップ6)の前に、酸素プラズマへの曝露中に核酸を保護することができるマスクを核酸上に堆積させる調製ステップを更に含む。
【0128】
マスクは、典型的には接着テープで作製され、好ましくはプラスチックフィルム、紙、布、発泡体、又は接着剤でコーティングされた箔から選択される材料で作製されている。
【0129】
マスクは、プラズマ処理の後、典型的には剥離によって最終的に除去される。
【0130】
第2の実施形態によれば、結合ステップは、デバイスの表面上に圧力を加えることによって実施される。
【0131】
好ましくは、この実施形態によれば、デバイスの表面上への圧力は、主要設計を取り囲む外部マイクロ流体チャネル内に負圧を印加することによって実施される。
【0132】
第3の実施形態によれば、結合ステップは、少なくとも1種のポリマー及び任意選択で少なくとも1種の架橋剤を含む架橋性組成物を使用することによって実施される。
【0133】
この第3の実施形態によれば、結合ステップは以下のように実施される:
a)第1の壁と第2の壁とを合わせる、
b)少なくとも1つのポリマー及び少なくとも1つの架橋剤を含む組成物の層を、2つの壁の間に堆積させて、第1の壁と第2の壁との間の間隙を充填する、
c)少なくとも1種のポリマーを架橋、好ましくは自己架橋させる。
【0134】
好ましくは、ポリマーはポリエポキシドの中から選択される。
【0135】
本プロセスは、更に以下を含み得る:
-ステップ1)とステップ2)との間の、第1の基材の表面を構造化及び/又は官能化する中間ステップ、及び/又は
-ステップ3)とステップ4)との間の、第2の基材の表面を構造化及び/又は官能化する中間ステップ。
【0136】
基材がヒドロゲルから作製されているとき、基材の官能化は、典型的には、Chollet,B.D’eramo,L.,Martwong,E.,Li,M.,Macron,J.,Mai,T.Q.,Tabeling,P.and Tran,Y.,2016.Tailoring patterns of surface-attached multiresponsive polymer networks.ACS applied materials&interfaces,8(37),pp.24870-24879に開示されているプロトコルに従うことによって実施され得る。
【0137】
構造体がヒドロゲルから作製されていないとき、官能化は、典型的には、Beal,John H L et al.「A rapid,inexpensive surface treatment for enhanced functionality of polydimethylsiloxane microfluidic channels.」Biomicrofluidics vol.6,3 36503.30 Jul.2012に詳述されるプロトコルに従って実施され得る。
【0138】
基材がヒドロゲルから作製されているとき、基材の構造化は、典型的には、Chollet,B.D’eramo,L.,Martwong,E.,Li,M.,Macron,J.,Mai,T.Q.,Tabeling,P.and Tran,Y.,2016.Tailoring patterns of surface-attached multiresponsive polymer networks.ACS applied materials&interfaces,8(37),pp.24870-24879に開示されているプロトコルに従うことによって実施され得る。
【0139】
基材が非膨潤性材料から作製されているとき、基材の構造化は、典型的には、標準的なリソグラフィプロトコル、特に標準的なフォトリソグラフィプロトコルに従って実施され得る。
【0140】
特定の実施形態によれば、本方法は、ヒドロゲル材料の堆積の前に、ナノ粒子層、好ましくはパターン化されたクロム/金二重層の基材の表面上への堆積からなる追加のステップを更に含み得る。
【0141】
パターニングされた層の堆積は、例えば、標準的なフォトリソグラフィによって実施され得る。
【0142】
特定の実施形態によれば、本方法は、以下のステップのうちの少なくとも1つを更に含む:
a)第1の基材(14)の表面上及び/又は第2の基材(20)の表面上に複数のリガンドを(直接)グラフトするステップ、及び/又は
b)第1の基材(14)の表面上及び/又は第2の基材(20)の表面上に複数のリガンドを(間接的に)グラフトするステップ。
【0143】
上記で定義されたステップa)は、上記で定義された製造方法の任意の時点で実施され得る。特に、ステップa)は、閉鎖パターン(16)のグラフトの前又は後、核酸(22)のグラフトの前又は後に実施され得る。
【0144】
第1の実施形態によれば、リガンドの間接的なグラフトは、グラフトされた複数の核酸(22)に、ハイブリダイゼーションによって複数のリガンドを会合させることによって実施され、当該複数のリガンドは、グラフトされた核酸(22)の少なくとも一部との相補性を有する核酸とコンジュゲートされる。
【0145】
この第1の実施形態によれば、ステップb)は、好ましくは、核酸(22)のグラフト後に実施される。ステップb)は、ヒドロゲルを膨潤状態に作動させ、それによってマイクロ流体デバイス(10)の第1の壁(14)及び第2の壁(20)、並びに膨潤状態のヒドロゲルの閉鎖パターン(16)によって形成されるケージ内に細胞又はオルガネラを捕捉するように、条件が修正されるまで、実施することができる。
【0146】
第2の実施形態によれば、リガンドの間接的なグラフトは、i)第1の基材(14)及び/又は第2の基材(20)の表面の少なくとも一部に接着コーティングをコーティングするステップと、ii)当該接着コーティングにリガンドをグラフトするステップとを含む。
【0147】
ステップi)は、閉鎖パターン(16)のグラフトの前又は後、核酸(22)のグラフトの前又は後に実施することができる。
【0148】
ステップii)は、好ましくは、接着コーティングの堆積後に実施される。ステップii)は、条件を修正してヒドロゲルを膨潤状態に作動させ、それによってマイクロ流体デバイス(10)の第1の壁(14)及び第2の壁(20)、並びに膨潤状態のヒドロゲルの閉鎖パターン(16)によって形成されるケージ内に細胞又はオルガネラを捕捉するまで、実施することができる。
【0149】
マイクロ流体デバイスの製造のための方法は、以下のステップのうちの1つ以上を更に含む:
1)グラフトされた核酸中に存在する定常配列の全部又は一部に相補的な配列を含むDNA、特にグラフトされた核酸の全部又は一部に存在するDNAをハイブリダイズさせるステップ、特に、定常配列の全部又は一部に相補的な配列を含む1つ又は複数の異なるDNAを使用し得るステップ、
2)(例えば、Maxima、SuperScript RT、Phusion又はQ5ポリメラーゼを使用する)重合によりハイブリダイズDNAを伸長させるステップ、
3)グラフトされた核酸、特にグラフトされたDNAを、あるDNA配列又は別のDNA配列とライゲーションするステップ、及び/又は
4)場合によっては1)、2)又は3)によるハイブリダイゼーション、伸長又はライゲーションによって予め修飾された、グラフトされた核酸の全部又は一部を、第1の基材又は第2の基材の表面から、切断(例えば、光切断又はエンドヌクレアーゼによって触媒される切断)によって放出するステップ。
【0150】
いくつかの態様において、ハイブリダイズするDNAは、グラフトされた核酸とともに、エンドヌクレアーゼの制限部位を含有する二本鎖DNAを形成する。
【0151】
本方法はまた、細胞又はオルガネラを捕捉することができる構造を固定する更なるステップを含んでもよい。
【0152】
この補足的なステップは、通常、標準的なフォトリソグラフィによって実現される。
【0153】
用途
本発明のマイクロ流体デバイスは、細胞又はオルガネラの分析方法において使用することができ、単一の細胞の表現型情報と、単一の細胞若しくはオルガネラ、又は例えば相互作用する2つ以上の細胞、及びこれは同時に何千もの細胞についてのオミクス情報とを組み合わせる可能性を有する。
【0154】
細胞又はオルガネラの分析を行う方法は、以下を含む:
a)本発明によるマイクロ流体デバイス、及び細胞又はオルガネラの調製物を提供することと、
a)任意選択で、細胞又はオルガネラの全て又は一部を、共通の標識核酸配列又は複数の異なる標識核酸配列と会合させることと、
b)ヒドロゲルが収縮状態にある条件下で、懸濁液中の細胞又はオルガネラをマイクロ流体デバイスに注入することと、
c)条件を修正してヒドロゲルを膨潤状態に作動させ、それによって、マイクロ流体デバイスの第1の壁及び第2の壁、並びに膨潤状態のヒドロゲルの閉鎖パターンによって形成されるケージ内に細胞又はオルガネラを捕捉することと、
d)任意選択で、捕捉された細胞若しくはオルガネラ及び/又はそれらが分泌する分子を、光学イメージングを使用して分析することと、
e)任意選択で、マイクロ流体デバイスの第1又は第2の基材の表面から、グラフトされた核酸をケージ内に放出させることと、
f)任意選択で、捕捉された細胞又はオルガネラを溶解させ、それによって、細胞核酸又はオルガネラ核酸をケージ内に放出させることと、
g)核酸のバーコードを、放出された細胞核酸若しくはオルガネラ核酸のいずれかと会合させ、かつ/又は核酸配列を標識し、それによって、バーコード化された核酸を形成させることと、
h)条件を修正してヒドロゲルを収縮状態に作動させることと、
i)f)において放出されない場合、マイクロ流体デバイスの第1又は第2の基材からグラフトされた核酸を放出させることと、
j)バーコード化された核酸を回収し、配列決定することと、
k)任意選択で、バーコード化された配列決定データを、e)で得られた光学イメージングからのデータ上にマッピングすること。
【0155】
ステップc)において、ヒドロゲルが収縮状態にある条件下で懸濁液中の細胞又はオルガネラをマイクロ流体デバイスに注入することは、典型的には、ヒドロゲルが収縮状態にあるように、作動可能なヒドロゲルの性質に応じて、温度、圧力又はpHを設定することによって実施される。例えば、マイクロ流体デバイスが下限臨界溶液温度(LCST)温度応答性ヒドロゲルを含む場合、マイクロ流体デバイスの温度は、ヒドロゲルを収縮させるために下限臨界溶液温度(LCST)を超えて上昇される。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)を含むか又はそれからなる温度応答性ヒドロゲルについては、ヒドロゲルは≦28℃で完全に膨張し、≧36℃で完全に収縮し、これらの温度間で部分的に膨張し(温度応答については
図7を参照されたい)、37℃ではケージが完全に開いて細胞又はオルガネラのロードが可能となる(D’Eramo et al.,Microsystems&Nanoengineering(2018)4,17069)。例えば、マイクロ流体デバイスが上限臨界溶液温度(UCST)温度応答性ヒドロゲルを含む場合、マイクロ流体デバイスの温度を上限臨界溶液温度(UCST)未満に低下させて、ヒドロゲルを収縮させる。P(MA-AM-AMA)を含むか又はそれからなる温度応答性ヒドロゲルの場合、ヒドロゲルは≦10℃で完全に収縮し、≧50℃で完全に膨張し、これらの温度の間で部分的に膨張し、10℃ではケージが完全に開いて細胞又はオルガネラのロードが可能となる。一実施形態によれば、ステップd)において、単一細胞又は単一オルガネラがケージ内に捕捉される。別の実施形態によれば、2つ(又はそれ以上)の相互作用する細胞、例えば、形質細胞及びレポーター細胞、細胞傷害性T細胞(又はCAR T細胞)及び標的細胞(例えば、腫瘍細胞)、T細胞及び抗原提示細胞、がケージ内に捕捉される。
【0156】
ヒドロゲルを膨潤状態に作動させるために、温度、圧力又はpH(作動可能なヒドロゲルの性質に依存する)を、ヒドロゲルが膨潤して第2の基材と接触するように修正する。例えば、マイクロ流体デバイスが下限臨界溶液温度(LCST)温度応答性ヒドロゲルを含む場合、マイクロ流体デバイスの温度は、ヒドロゲルを膨張させるために下限臨界溶液温度(LCST)未満に低下される。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)を含むか又はそれからなる温度応答性ヒドロゲルについては、温度は、典型的には≦28℃に設定することができ、ここでヒドロゲルは完全に膨張する(D’Eramo et al.,Microsystems&Nanoengineering(2018)4,17069)。例えば、マイクロ流体デバイスが上限臨界溶液温度(UCST)温度応答性ヒドロゲルを含む場合、マイクロ流体デバイスの温度を上限臨界溶液温度(UCST)超に上昇させて、ヒドロゲルを膨張させる。P(MA-AM-AMA)を含むか又はそれからなる温度応答性ヒドロゲルでは、ヒドロゲルは≧50℃で完全に膨張する。
【0157】
本方法は、ステップd)とh)との間に、細胞又はオルガネラの周囲条件を変化させることを更に含み得る。周囲条件を変化させることは、例えば、塩、界面活性剤、タンパク質、及び/又は核酸配列を含有する水相をマイクロ流体デバイス内で循環させることを含む。周囲条件を変化させることは、ケージが細胞若しくはオルガネラを捕捉することができる構造も含む場合にケージを完全に開放することによって、又はケージを部分的に開放することによって、閉鎖したケージのヒドロゲルを通過する塩などの分子を交換することを含む。
【0158】
一実施形態によれば、本方法は、例えば、ステップd)の後であってステップe)の前に、必須ではないが、以下を更に含む:
e1)第1の基材(14)の表面及び/又は第2の基材(20)の表面上に直接又は間接的にグラフトされたリガンドに、捕捉された細胞又はオルガネラにより分泌又は放出された分析物(単数又は複数)を結合させること、
e2)結合した分析物(単数又は複数)に特異的である標識された第2のリガンド(単数又は複数)と結合させることによって、グラフトされたリガンドに結合した分析物(単数又は複数)を検出すること。
【0159】
第1の実施形態によれば、ステップe2において、検出は、蛍光標識された第2のリガンド(単数又は複数)を用いて直接実施される。
【0160】
第2の実施形態によれば、ステップe2において、検出は、グラフトされたリガンドに結合された分析物(単数又は複数)に特異的なリガンド同定核酸で標識された第2のリガンド(単数又は複数)を用いて間接的に行われ、当該リガンド同定核酸の配列は、リガンド及びグラフトされたリガンドに結合された分析物(単数又は複数)の同定を可能にする。
【0161】
この第2の実施形態によれば、本方法は、当該リガンド同定核酸の配列を増幅することを更に含んでもよい。増幅は、好ましくは線形増幅からなり、より好ましくは少なくとも1つのポリメラーゼ及び少なくとも1つの制限酵素又はニッキング酵素を使用することによる。
【0162】
本方法のこの第2の実施形態によれば、ステップh)において、本方法は、核酸(22)のバーコードをリガンド同定核酸と会合させ、それによってバーコード化された核酸を形成するステップを更に含んでもよい。
【0163】
一実施形態によれば、ステップb)で提供される共通の標識DNA配列又は複数の異なる標識DNA配列は、細胞又はオルガネラの表現型選別のためのDNAツールボックス反応(又は動的DNA反応ネットワーク)に使用され、それによって、ステップf)又はj)における移植された核酸の放出を作動させる。DNAツールボックス反応の原理は、例えば、国際公開第2017/141068号及び同第2017/141067号に記載されている。
【0164】
一実施形態によれば、ステップg)において、捕捉された細胞又はオルガネラは、浸透圧ショックによって溶解される。これは、マイクロ流体デバイス内で低-又は高-浸透水相を循環させることによって、当業者によって容易に実施され得る。ケージは、この操作のために閉鎖したままであってもよい。
【0165】
一実施形態によれば、ステップh)は、マイクロ流体デバイスの第1又は第2の基材の表面に依然としてグラフトされ得るか、又はマイクロ流体デバイスの第1又は第2の基材の表面から放出され得るバーコードを含む核酸を、放出された細胞又はオルガネラ核酸及び/又は標識核酸配列に対する相補性によってハイブリダイズさせることを含む。特に、バーコードを含む核酸がDNAである場合、ステップh)[又はステップi)とj)との間の方法]は、放出された細胞又はオルガネラ核酸(又は標識核酸配列)にハイブリダイズしたバーコードを含むDNAを、DNAポリメラーゼを用いて伸長させて、バーコードを含む放出された細胞又はオルガネラ核酸(又は標識核酸配列)の相補鎖を作製するステップを更に含み得る。核酸は、例えば、mRNAのポリ(A)テールへのハイブリダイゼーションのための配列オリゴd(T)又はオリゴd(T)VNの3’領域(mRNA配列決定のため)、特定のRNA(標的化RNA配列決定のため)又はDNA(標的化DNA配列決定のため)の配列に相補的な配列の3’領域、ランダム配列、例えばd(N)6の3’領域(RNA配列決定又はDNA配列決定のため)、逆転写酵素テンプレートスイッチングのための3つのリボ(G)ヌクレオチドを有する3’領域(RNA配列決定のため)、又は例えばTn5トランスポザーゼによって触媒される「タグメント化」後の組換えによって導入されるヌクレオチド配列に相補的な3’領域を含み得る。後者は、例えば、ゲノムDNA配列決定、又はDNAメチレーション(Methyl-seq又はバイサルファイト配列決定を使用する)若しくはクロマチン構造(配列決定を伴うトランスポザーゼアクセス可能クロマチン、ATAC-Seqを使用する)のエピゲノム分析、又は細胞若しくはオルガネラによって放出されたRNAに対する第1鎖cDNA合成後に形成されたRNA-DNAデュプレックス若しくは第1鎖及び第2鎖cDNA合成後に形成された二本鎖DNAのタグメント化後のRNA配列決定に使用することができる。
【0166】
別の実施形態によれば、バーコードを含む核酸はDNAであり、完全に又は部分的に二本鎖であってもよく、ステップh)は、バーコードを含むDNAを細胞又はオルガネラによって放出されたDNAにライゲーションすることを含む。例えば、バーコードは、例えば、制限消化後(ゲノムDNA配列決定又はDNAメチル化の分析のため)、又は小球菌ヌクレアーゼによる消化後(MNase-seq又はChIP-seqを使用するメタゲノム分析のため)に、ゲノムDNAにライゲーションされ得る。
【0167】
更に別の実施形態によれば、バーコードを含む核酸はDNAであり、完全に又は部分的に二本鎖であってもよく、ステップh)は、バーコードを含むDNAを細胞又はオルガネラによって放出されたDNAと組換えることを含む。例えば、バーコードは、ゲノムDNA配列決定、又はDNAメチレーション(Methyl-seq又はバイサルファイト配列決定を使用する)若しくはクロマチン構造(配列決定、ATAC-Seqを有するトランスポザーゼアクセス可能クロマチンを使用する)のエピゲノム分析のためにゲノムDNAと組換えられ得る。あるいは、バーコードを含む核酸は、細胞若しくはオルガネラによって放出されたRNA上での第1鎖cDNA合成後に形成されたRNA-DNA二本鎖と再結合するか、又は細胞若しくはオルガネラによって放出されたRNA上での第1鎖及び第2鎖cDNA合成後に形成された二本鎖DNAと再結合する(RNA配列決定のため)。好ましい実施形態において、オリゴヌクレオチドは、Tn5トランスポザーゼによって触媒されるDNAと組換えるモザイク末端(Mosaic End、ME)配列を含む。
【0168】
一実施形態によれば、本方法は、ステップd)とh)との間に、例えば近接ライゲーションアッセイ又は近接伸長アッセイによって、ケージ内に細胞又はオルガネラ物質(例えば、表面分子、分泌分子、又は溶解産物)が存在するとバーコードを含む核酸を放出するステップを更に含む。
【0169】
本発明を、以下の図面及び実施例によって更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【
図1】本発明によるデバイスの閉鎖パターンの概略図である。 本発明によるマイクロ流体デバイス10は、テーブルの形態で配置された複数の閉鎖パターン16を含む。示される閉鎖パターン16は、正方形の形態であるが、同等に、長方形、円形、又は六角形の形態であってもよい。閉鎖パターン16は、厚さe及び高さhを有する。
【
図2】本発明の第1の実施形態によるマイクロ流体デバイスの概略図であり、パターンは作動可能なヒドロゲルから作製されている。 マイクロ流体デバイス10は、複数の閉鎖パターン16が上にグラフトされた第1の基材14を含む第1の壁12を含む。第1の壁12に面する第2の壁18は、第2の基材20を含む。第2の基材20には、複数の核酸22がグラフトされている。閉鎖パターン16は、収縮状態と、閉鎖パターン16及び第2の基材20が接触した膨潤状態との間で膨潤可能である作動可能なヒドロゲルで作製されている。マイクロ流体デバイス10は、デバイス10への反応物の導入及び除去をそれぞれ可能にする入口24及び出口26を更に含む。 スキームAでは、閉鎖パターン16は収縮状態にある。閉鎖パターン14と第2の基材20との間の間隙28は、デバイスの内部に存在する流体及び細胞がデバイス10の内部を自由に循環することを可能にする。 特定の物理化学的条件に置かれると、閉鎖パターン16は水を吸収して膨潤し始める。したがって、閉鎖パターン16は、第2の基材20に接触するまで伸長する。 スキームBでは、閉鎖パターン16は膨潤状態にあり、第2の基材20と接触している。したがって、デバイス10は複数のケージ30を備え、各ケージ30は、閉鎖パターン16のうちの1つで作製された側壁と、第1の基材14及び第2の基材20の一部で構成された端壁とによって画定される。
【
図3】本発明の第2の実施形態によるマイクロ流体デバイスの概略図であり、第2の基材は作動可能なヒドロゲルから作製されている。 マイクロ流体デバイス10は、複数の閉鎖パターン16が上にグラフトされた第1の基材14を含む第1の壁12を含む。第1の壁12に面する第2の壁18は、第2の基材20を含む。第1の基材14上には、複数の核酸22がグラフトされている。第2の基材20は、収縮した状態と、閉鎖パターン16と第2の基材20とが接触した膨潤状態との間で膨潤可能である作動可能なヒドロゲルから作製されている。マイクロ流体デバイス10は、デバイス10への反応物の導入及び除去をそれぞれ可能にする入口24及び出口26を更に含む。 スキームAでは、第2の基材20は収縮状態にある。閉鎖パターン14と第2の基材20との間の間隙28は、デバイスの内部に存在する流体及び細胞がデバイス10の内部を自由に循環することを可能にする。 特定の物理化学的条件下に置かれると、第2の基材20は水を吸収し始め、膨潤する。したがって、第2の基材20の厚さは、閉鎖パターン16に接触するまで増加する。 スキームBでは、第2の基材20は膨潤状態にあり、閉鎖パターン16と接触している。したがって、デバイス10は複数のケージ30を備え、各ケージ30は、閉鎖パターン16のうちの1つで作製された側壁と、第1の基材14及び第2の基材20の一部で構成された端壁とによって画定される。
【
図4】本発明による細胞又はオルガネラの分析を実施する方法の主なステージの概略図である。ステージは、上から下へ昇順で識別される。 ステージ1:解離した細胞を温度Aでマイクロ流体デバイスに注入し、ケージを収縮状態にする。 ステージ2:マイクロ流体デバイスの温度を、細胞の捕捉を可能にする温度Bに変更することによって、ケージを膨潤させる。次いで、周囲の緩衝液を交換することによって、例えば、低塩緩衝液を使用して、細胞を溶解させる。捕捉されなかった細胞を洗い流す。 ステージ3:依然として温度Bで、緩衝液を再び交換して、各ケージの底のグラフトされたオリゴヌクレオチド上での核酸ハイブリダイゼーションを可能にする。 ステージ4:マイクロ流体デバイスの温度を温度Aに変更することによってケージを後退させる。これにより、グラフトされたオリゴヌクレオチド上に存在する各ケージに特異的なバーコードを、細胞から放出されたハイブリダイズした核酸に結合させるために、反応混合物の注入及びインキュベーションが可能になる。 ステージ5:依然として温度Aで、マイクロ流体デバイスからグラフト又はハイブリダイズされたバーコード化cDNA及び/又はタグを放出させるために、新しい反応混合物が注入される。次いで、回収されたサンプルを精製し、増幅し、配列決定する。
【
図5】トランスクリプトーム解析に基づく、本発明による細胞又はオルガネラの解析を実施する例示的な方法において実施される一連の操作の概略図である。灰色の長方形は、細胞(丸)及び捕捉プライマー(棒)を含有するヒドロゲルケージを表す。プロセスは、上から下に向かって、以下を含む: a-細胞の捕捉後にケージを閉鎖する、b-浸透圧ショックによる細胞の溶解及びケージ中のマーカー上のmRNAのハイブリダイゼーション、c-ケージの開放、RT(トランスクリプトームの場合)、d-cDNAの切断及び回収。
【
図6】200個のケージを含むチップを表す。ケージ上のズームは、上から下に、捕捉(右の線)、ケージ間の蒸留水の循環によって誘導される浸透圧ショックによる溶解(第2の線)、及び溶解された細胞物質の放出(最後の線)、を示す。
【
図7】実施例1で合成されたPNIPAMヒドロゲルの膨潤比を、温度の関数として、4つの異なる水溶液中で示す。曲線1は純水中で得られたものであり、曲線2はリン酸塩緩衝液中で得られたものであり、曲線3はpH=2で得られたものであり、曲線4はpH=9で得られたものである。
【
図8】実施例1のマイクロ流体デバイスにおけるDNA鎖のマイクロアレイ構造を表す。
図8aは、実施例1のマイクロ流体デバイスに含まれるマイクロアレイの断面を表す。矢印は、DNA鎖の位置を示す。各DNAスポットは、DNA鎖のセットから構成される。
図8bは、実施例1のマイクロ流体デバイスに含まれるDNAアレイのDNAスポットを構成するDNA鎖の組成の例を表す。DNAスポットの全てのDNA鎖は同一である。各DNAスポット間で、DNA鎖はそれらのスポット特異的バーコードによって異なる。100万までのスポット特異的バーコードが設計されている。
【
図9】蛍光タグに基づく局在化グリッドの部分的表現である。形状及び色は、固有の位置を定義する。
【
図10】実施例3で合成されたポリ(メタクリルアミド-アクリルアミオド-アリルメタクリレート)ヒドロゲルの温度の関数としてのリン酸生理食塩水緩衝液中での膨潤比を表す。
【
図11】実施例4で使用したデバイスにおけるDNAマイクロウェルの構造を表す。
図11aは、実施例4のマイクロ流体デバイスに含まれるマイクロアレイの断面を表す。矢印は、DNA鎖の位置を示す。各DNAスポットは、DNA鎖のセットから構成される。垂直の黒い棒は、ケージ壁を構成するPDMS製の壁を表す。
図11bは、実施例4のマイクロ流体デバイスに含まれるDNAアレイのDNAスポットを構成するDNA鎖の組成の例を表す。DNAスポットの全てのDNA鎖は同一である。各DNAスポット間で、DNA鎖はそれらのスポット特異的バーコードによって異なる。100万までのスポット特異的バーコードが設計されている。
【
図12】実施例5において細胞部分集団を特異的に標識するために使用されたビオチン化オリゴの組成を表す。細胞を、抗体特異的バーコードを保有する部分集団特異的抗体で標識する。抗体は、ストレプトアビジンにカップリングされる(例えば、abcam-ab102921からのストレプトアビジンコンジュゲーションキット-Lightning-Linkを使用)。細胞標識の前に、本図に記載されるようなビオチンコンジュゲートオリゴを、12:1の関係で抗体溶液に添加する。
【
図13】実施例6のマイクロ流体デバイスにおけるDNA鎖のマイクロアレイ構造を表す。
図13aは、実施例6のDNAアレイ調製の概略図である。この方法は、各グラフト鎖を隣接するグラフト鎖にハイブリダイズさせ、次いで各グラフト鎖をハイブリダイゼーション部位の5’においてニッキング制限酵素で切断することにより、DNAアレイの各DNAスポット内のオリゴヌクレオチドを逆転させることを含む。
図13bは、実施例6のマイクロ流体デバイスに含まれるマイクロアレイの断面を表す。矢印は、DNA鎖の位置を示す。各DNAスポットは、DNA鎖のセットから構成される。垂直の黒い棒は、ケージ壁を構成するPDMS製の壁を表す。パネルc.は、実施例6のマイクロ流体デバイスに含まれるDNAアレイのDNAスポットを構成するDNA鎖の組成の例を表す。DNAスポットの全てのDNA鎖は同一である。各DNAスポット間で、DNA鎖はそれらのスポット特異的バーコードによって異なる。100万までのスポット特異的バーコードが設計されている。
【
図14】実施例7のマイクロ流体デバイスにおけるDNA鎖のマイクロアレイ構造を表す。
図14aは、実施例7のマイクロ流体デバイスに含まれるマイクロアレイの断面を表す。矢印は、DNA鎖の位置を示す。各DNAスポットは、DNA鎖のセットから構成される。
図14bは、実施例7のマイクロ流体デバイスに含まれるDNAアレイのDNAスポットを構成するDNA鎖の組成の例を表す。DNAスポットの全てのDNA鎖は同一である。各DNAスポット間で、DNA鎖はそれらのスポット特異的バーコードによって異なる。100万までのスポット特異的バーコードが設計されている。
【
図15】実施例8のマイクロ流体デバイスにおけるDNA鎖のマイクロアレイ構造を表す。
図15aは、実施例8のマイクロ流体デバイスに含まれるマイクロアレイの断面を表す。矢印は、DNA鎖の位置を示す。各DNAスポットは、DNA鎖のセットから構成される。
図15bは、実施例8のマイクロ流体デバイスに含まれるDNAアレイのDNAスポットを構成するDNA鎖の組成の例を表す。DNAスポットの全てのDNA鎖は同一である。各DNAスポット間で、DNA鎖はそれらのスポット特異的バーコードによって異なる。100万までのスポット特異的バーコードが設計されている。
【
図16】実施例8のマイクロ流体デバイスの一部におけるDNAアレイスポット及びケージのインフォーマティック識別である。識別は、マイクロ流体デバイスの明視野イメージ及び蛍光イメージ(650nmでの励起及び670nmでの発光)の重ね合わせに基づく。明視野イメージは、ケージを識別することを可能にする。黒丸A、B及びCによって表される蛍光イメージは、蛍光DNAプローブが上に予めハイブリダイズされている特定のスポットを同定することを可能にする。黒丸A、B及びCの相対位置は、チップ上の固有の位置を規定し、重ね合わされたイメージ上にDNAアレイの元の構成をマッピングすることを可能にする。最後に、この識別のおかげで、スポット特異的バーコードを各ケージと関連付けることができる。
【
図17】実施例8の配列決定データにおいて有効な遺伝子を提示するリードから抽出された14,752個のバーコードのマイクロ流体デバイスにおける空間再分割を表す。各黒丸は、そのバーコードが配列決定データ中の少なくとも1つのcDNAに関連するDNAアレイからのDNAスポットを表す。欠けている円は、配列決定データにおいて少なくとも1つのcDNAに関連してバーコードが見出されなかったDNAアレイからのDNAスポットである。回収されたバーコードの位置によって表される六角形形状は、マイクロ流体デバイス製造中に酸素プラズマから保護された領域に対応する。保護領域におけるスポットの大部分は、配列決定データにおいて同定されている。
【
図18】実施例8において配列決定によって同定された遺伝子の長さ分布を表す。
図18aは、Ensemblバージョン104.38によってアノテートされたGenome Reference ConsortiumのアセンブリGRCh38.p13 Genocode 38におけるタンパクコード遺伝子としてアノテートされた20,465個の遺伝子の長さ分布を表す(http://may2021.archive.ensembl.org/Homo_sapiens/Info/Annotationを参照)。遺伝子長は、エキソン長の合計として決定される。各遺伝子について、選択的スプライシング変異体の平均サイズを使用した。
図18bは、実施例8の配列決定データにおいて有効な遺伝子及び有効なバーコードを提示するリードから同定された14,507個の固有の遺伝子のみの同じデータベースからの長さ分布を表す。パネルa及びbにおけるサイズ分布の類似性は、実施例8における遺伝子回収においてサイズバイアスが存在しないことを実証する。
【
図19】2つの異なる細胞株を用いた実施例8の3つの反復のクラスタリングのための注釈付きUMAPを表す(McInnes,L,Healy,J,UMAP:Uniform Manifold Approximation and Projection for Dimension Reduction,ArXiv e-prints 1802.03426,2018)。実施例8に記載のRNA-seqを、JurkatヒトT細胞で2回、RamosヒトB細胞で1回繰り返した。各実験について、15,000個のバーコードをランダムにグループ化して、200個のスーパーバーコードを形成して、浅い配列決定深さ及びクラスタリングを防止するバーコード当たりの同定されたcDNAの数が少ないことに対処する。次に、Scanpy Pythonソフトウェア(https://scanpy.readthedocs.io)を使用して、主成分分析(principal component analysis、PCA)を実行し、次いでライデングラフクラスタリング法(Traag et al.,2018,From Louvain to Leiden:guaranteeing well-connected communities)を使用してクラスターを検出し、注釈を追加する前にUMAPグラフを介して2次元でクラスタリングを表す。完全な手順は、以下のリンクでScanpyウェブサイト上で詳述される:https://scanpy-tutorials.readthedocs.io/en/latest/pbmc3k.html#Clustering-the-neighborhood-graph。 2つのクラスターが同定され、一方(クラスター1)は、Jurkat細胞(T細胞)を用いた2つの実験からのデータから構成され、他方(クラスター2)は、Ramos細胞(B細胞)を用いた実験からのデータから構成され、この方法が、異なる(密接に関連する)細胞型を同定するために使用され得ることを実証する。
【実施例】
【0171】
実施例で使用されるオリゴヌクレオチドは、表1に開示される配列を有する。
【表1】
【0172】
実施例1-DNAアレイを用いたLCSTケージにおける全scRNA-seq
熱作動性ヒドロゲルの合成
エン官能化ポリ(n-イソプロピルアクリルアミド)は、D’Eramo L.;et al.,Microsystems&Nanoengineering,2018,4,17069,doi:10.1038の追加情報に記載のステップに従い合成する。
【0173】
得られたポリマーの膨潤特性を、温度の関数として、種々の水溶液:純水、pH2及びpH9のリン酸生理食塩水緩衝液、中で評価する。結果を
図7に示す。
【0174】
第1の基材の準備
ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane、PDMS)製の第1の基材は、標準的なソフトリソグラフィ技術によって調製され、微細構造及びチャンバーを含む。構造及びチャンバーの高さは、対物レンズに依存し、10分の数ミクロンから100ミクロンまでの高さであり得る。
【0175】
第1の基材の官能化
PDMS基材を、イソプロパノールで洗浄した後、酸素プラズマに50秒間曝露する。表面活性化の直後に、3体積%のメルカプトプロピルトリメトキシシラン(ABCR Gelest)を含む無水トルエンの溶液を、窒素下の反応器内で3時間基材と接触させる。表面のチオール修飾に続いて、基材をトルエンでリンスし、最後に窒素流で乾燥させる。
【0176】
第1の基材上へのヒドロゲルフィルムの光パターニング
予め形成された官能化pNIPAM(エン反応性である)を、ジチオール架橋剤を用いてチオール修飾及び微細構造化PDMS基材上にスピンコーティングする。3~15重量%の濃度の官能化pNIPAM及び3~10重量%の濃度のジチオエリスリトール(Sigma Aldrichから購入、CAS番号3483-12-3)架橋剤を含有する、数百μLの微量のブタノール及びメタノール(V/V=1/1)の溶液を、基材上に堆積させる。スピンコーティングの条件は、30秒のスピン時間に対して500rpm~3000rpmの間で変化する角速度で固定する。広げたフィルムを90℃のオーブンで5分間加熱することによって乾燥させる。得られる層の厚さは10分の数ミクロン~15ミクロンまで変化する。
【0177】
多数の微細構造ケージを提示するクロムマスクをチャンバーのデザインと整列させ、UVランプの下に置でディープUV曝露(8ワット、250nm波長)を行う。曝露後、基材を超純水浴中で5分間洗浄することによって遊離ポリマー鎖を洗い流す。ヒドロゲルパターン化基材を窒素流で乾燥させる。
【0178】
第2の基材の準備
使用される第2の基材は、DNA鎖がスポットされたスライドガラスである(Agilentから購入、Agilent Microarray Formatとして参照)。
【0179】
このアイテムは、異なるDNA鎖がグラフトされた100万個までの固有のスポットを提示しつつ、各スポット上に異なるバーコードを提供する。各スポットは何百万ものDNA鎖を含有する。
【0180】
DNAのマイクロアレイ構造を
図8に示し、各スポットが異なるバーコードを有する。
【0181】
局在化システムがアレイの設計中に組み込まれる。多数の独特なスポットの中で、それらのいくつかは、蛍光標識捕捉(2つ以上)のための特異的配列を有する。それらは、
図9に示すように、三角形、四角形及び円形を含む複数の形状を形成するように配置される。
【0182】
デバイスの閉鎖
第1の基材と第2の基材との間の結合は、O2プラズマ処理を50秒間使用することによって実施される。酸素プラズマがそこで活性になることを回避するために、保護層が関心領域上にタップされる。曝露の終了後、関心領域がヒドロゲル構造に面するように、PDMS基材をDNAアレイの上に配置する。チップを70℃のオーブン内に保管することによって、少なくとも30分間、硬化ステップを適用する。
【0183】
特異的捕捉のためのチップの調製:全scRNA-seq
100mM酢酸カリウムの溶液(30mMのHEPES(pH7.5))及び20μMのオリゴヌクレオチドA、B及びC、D、Eをマイクロ流体チャンバー内に40℃(ケージ開放)で注入して、更なる捕捉配列を着座したDNA鎖上にハイブリダイズさせ、局在化ステップに進める。フローを停止し、混合オリゴヌクレオチドを有するチップを60℃超で2分間加熱し、次いで室温で10分間冷却し、37℃のPBS溶液でリンスする。
【0184】
主チャンバーの520nm、563nm、665nm、704nmの連続波長で蛍光イメージングを行い、蛍光形状及びスポットをケージに対して位置決めする。
【0185】
単一細胞の捕捉
試験は、異なるマイクロ流体幾何学形状を用いて実施され、全てがヒドロゲルケージをホストする大型チャンバーである共通特徴を有することを示す。
【0186】
TBS中の1%Pluronic f68、15%Optiprep及び1%BSAを含む1mL当たり1000万個の濃度の細胞懸濁液を調製する。細胞を100μl/hでチップ内に注入し、ケージを開放するためにチップを37℃に加熱する。細胞がケージの周囲及び上方を循環したら、流れを停止し、温度を20℃に下げてケージを閉鎖する。細胞はケージ内に捕捉される。
【0187】
溶解を行うために、膨潤したヒドロゲルケージによって塞がれていない追加の入口を通して低塩水の溶液をチャンバー内に注入する。
【0188】
細胞のRNA鎖は、その後、ケージの周りの水相がPBSで交換されるにつれて、グラフトされた捕捉配列にハイブリダイズする。
【0189】
10分間の流れ停止後、ケージを開放し(温度を37℃に上昇させ)、チャンバー内にPBSを流すことによって洗浄ステップを行う。
【0190】
完全に洗浄した後、10U/μlの逆転写酵素(Thermo Scientific Maxima H+)、0.5mMのdNTP及び1U/μlのRiboLock RNase阻害剤並びに26μMのオリゴヌクレオチドFをRT緩衝液1×中に含む混合物をチャンバー内に注入し、続いて流れを止め、捕捉された鎖の逆転写を55℃で2時間進行させる。酵素を直ちにPBS水溶液でフラッシュしてRTを停止させる。
【0191】
1mM ATPを補充したCutSmart緩衝液1×中に酵素BmtI及びHi-T4リガーゼを含有する第2の混合物を37℃で注入し、次いで、チャンバー内で停止させて、バーコード化鎖をcDNAにライゲーションし、DNAアレイからcDNAを分離する。次いで、内容物をPBS溶液で押し出すことによって回収する。
【0192】
次いで、回収チューブを65℃で20分間インキュベートして、先に注入した酵素を不活性化する。
【0193】
ExoI処理の後、プライマーG及びHを使用して、回収した試料に対してPCR増幅を実施する。
【0194】
次いで、PCR産物を精製し、定量した後、配列決定する。
【0195】
配列決定データの脱多重化は、位置30~44のバーコード、位置65~76のUMI、及びリード1の位置109から始まるRNA転写物を見て実施する。
【0196】
実施例2-DNAアレイを用いたLCSTケージにおける標的化scRNA-seq
マイクロ流体デバイスは実施例1と同一である。
【0197】
特異的捕捉のためのチップの調製
調製は実施例1に詳述されるとおりであり、オリゴヌクレオチドBの3’末端のポリ(dT)VNを遺伝子特異的配列で置換する。異なる遺伝子又は遺伝子の異なる部分を標的とするオリゴヌクレオチドの混合物を使用することができる。
【0198】
捕捉、溶解及びライブラリー調製
捕捉、溶解及びハイブリダイゼーションステップは実施例1に詳述されるとおりである。
【0199】
逆転写の間、オリゴヌクレオチドFの3’末端rGrG+Gは、オリゴヌクレオチドBと同様の遺伝子を標的とする遺伝子特異的配列で置換されるが、逆方法で置換される。異なる遺伝子又は遺伝子の異なる部分を標的とするオリゴヌクレオチドの混合物を使用することができる。
【0200】
放出から配列決定までのステップは実施例1に詳述されるとおりである。
【0201】
配列決定データの脱多重化を実施例1と同様に行う。
【0202】
実施例3-DNAアレイを用いたUCSTケージにおける全scRNA-seq
UCST挙動を示す熱作動性ヒドロゲルの合成
2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド(V50)を熱ラジカル開始剤として使用して、メタクリルアミド(methacrylamide、MA)、アクリルアミド(acrylamide、AM)及びアリルメタクリレート(allylmethacrylate、AMA)を90:5:5のモル比でフリーラジカル重合することによって、エン官能化UCSTポリマーを合成する。MA(8g、94mmol)、AM(0.371g、5.2mmol)、AMA(0.659g、5.2mmol)及びV50(0.071g、0.3mmol)を247mLの水及び123mLのホルムアミド中で混合した。溶液を、還流条件下、55℃で1時間、窒素バブリングにより脱酸素化した。媒体を窒素下、55℃で24時間還流条件下で進行させた。次いで、ポリマー溶液を純水中で70℃で4日間透析した。エン官能化UCST P(MA-AM-AMA)ターポリマーを凍結乾燥によって回収した。
【0203】
得られたポリマーの膨潤特性を、温度の関数として、リン酸生理食塩水緩衝液中で評価する。結果を
図10に示す。
【0204】
第1の基材の準備
詳細は実施例1に示すとおりである。
【0205】
第1の基材の官能化
詳細は実施例1に示すとおりである。
【0206】
第1の基材上へのヒドロゲルフィルムの光パターニング
P(MA-AM-AMA)ターポリマー(エン反応性UCSTポリマー)を、少なくとも40℃の温度でジチオール架橋剤を用いてチオール修飾及び微細構造化PDMS基材上にスピンコーティングする。3~15重量%の濃度のP(MA-AM-AMA)ポリマーと、3~10重量%の濃度のジチオエリスリトール(Sigma Aldrichから購入、CAS番号3483-12-3)架橋剤とを含有する数百uLの微量の酢酸溶液(V/V=1/1)を基材上に堆積させる。スピンコーティングの条件は、30秒のスピン時間に対して500rpm~3000rpmの間で変化する角速度で固定する。広げられたフィルムを、水飽和環境において90℃のオーブン中で5分間加熱することによって乾燥させる。得られる層の厚さは10分の数ミクロン~15ミクロンまで変化する。
【0207】
多数の微細構造ケージを提示するクロムマスクをチャンバーのデザインと整列させ、UVランプの下に配置してディープUV曝露(8ワット、250nm波長)を行う。曝露後、基材を超純水浴中で5分間洗浄することによって遊離ポリマー鎖を洗い流す。ヒドロゲルパターン化基材を窒素流で乾燥させる。
【0208】
第2の基材の準備
詳細は実施例1に示すとおりである。
【0209】
特異的捕捉のためのチップの調製:scRNA-seq
チップの調製は実施例1に詳述するとおりである。これらのステップの温度のみが異なる:オリゴヌクレオチドの注入及びリンスは20℃で行う。
【0210】
単一細胞の捕捉
捕捉ステップは実施例1に詳述されるとおりであり、細胞注入は20℃で実施する。チップを37℃より高く加熱することによってケージを閉鎖する。
【0211】
溶解及びハイブリダイゼーションステップは実施例1に詳述されるとおりである。
【0212】
この場合、洗浄ステップは室温で実施する。
【0213】
最後のステップは実施例1に詳述されるとおりである。
【0214】
実施例4-LCSTのフィルム及びマイクロウェル中にスポットされた鎖をホストするPDMS基質を用いた全scRNA-seq
熱作動性ヒドロゲルの合成
詳細は実施例1に示すとおりである。
【0215】
第1の基材の準備
清浄で新しいスライドガラス(厚さ1mm)を第1の基材として使用する。
【0216】
第1の基材の官能化
基質のチオール修飾は、実施例1に記載されるのと同じプロトコルに従って実施する。
【0217】
ヒドロゲルフィルムの光パターニング
プロトコルは、マスク設計を除いて、すなわち、マイクロ流体チャンバーの幅及び長さに一致する大きな長方形を提示する異なる設計を除いて、実施例1に詳述されるものと同一とする。
【0218】
第2の基材の準備
使用される第2の基材はPDMS製であり、ソフトリソグラフィの標準的な技術に従って構造化する。チャンバーの内側には、数ミクロン~100ミクロンまで変化する深さを有するマイクロウェルのアレイが構造化される。
【0219】
ガラス及びポリ(ジメチルシロキサン)表面上に共有結合的に固定化された捕捉オリゴヌクレオチドプローブを使用する、微細藻類を引き起こす有害な藻類ブルームの検出に基づき(Analytical and Bioanalytical Chemistry.2013.10.1117/12.2034011)、基材を官能化して、マイクロウェル内にアミン修飾DNA鎖を固定化する。
【0220】
標準的なDNAスポッティングプロトコルを使用して、5’アミン修飾された一本鎖DNAが堆積され、その後、各マイクロウェルにおいて異なるバーコードを有するマイクロウェル内にグラフトされる。
【0221】
【0222】
実施例1と同じプロトコルに従って、局在化システムをアレイの設計に組み込む。
【0223】
デバイスの閉鎖
デバイスの閉鎖は、保護するマイクロアレイがPDMS基材上にあることを示す実施例1と同一である。
【0224】
特異的捕捉のためのチップの調製:scRNA-seq
100mM酢酸カリウム;30mMのHEPES(pH7.5)及び100μMのオリゴヌクレオチドC、D、E及びIの溶液を、40℃でマイクロ流体チャンバー内に注入する(ケージは開いている)。フローを停止し、混合オリゴヌクレオチドを有するチップを60℃超で2分間加熱し、次いで室温で10分間冷却し、40℃のPBS溶液でリンスする。
【0225】
局在化のための蛍光イメージングを実施例1と同様に行う。
【0226】
単一細胞の捕捉
捕捉、溶解、ハイブリダイゼーション及びRTステップは実施例1に詳述されるとおりである。
【0227】
CutSmart緩衝液1×中に酵素BmtIを含有する溶液を37℃で注入し、次いで、チャンバー内で停止させて、バーコード化鎖をcDNAにライゲーションし、cDNAをチップの表面から分離する。次いで、内容物をPBS溶液で押し出すことによって回収する。
【0228】
次いで、回収チューブを65℃で20分間インキュベートして、先に注入した酵素を不活性化する。
【0229】
ExoI処理の後、プライマーJ及びHを使用して、回収した試料に対してPCR増幅を実施する。
【0230】
次いで、PCR産物を精製し、定量した後、配列決定する。
【0231】
配列決定データの脱多重化は、位置1~15のバーコード、位置16~27のUMI、及びリード1の位置60から始まるRNA転写物を見て実施する。
【0232】
実施例5-scCITEアレイを有するLCSTケージにおけるDNA-seq
マイクロ流体デバイスは実施例1と同一である。
【0233】
特異的捕捉のためのチップの調製
調製は実施例1に詳述されるとおりであり、オリゴヌクレオチドBに10%のオリゴヌクレオチドKを補充する。
【0234】
細胞標識
細胞を、
図12に示すように、抗体特異的バーコードを保有する部分集団特異的抗体で標識する。
【0235】
抗体は、ストレプトアビジンにカップリングされる(例えば、abcam-ab102921からのストレプトアビジンコンジュゲーションキット-Lightning-Linkを使用)。細胞標識の前に、
図6bに記載するようなビオチンコンジュゲートオリゴを12:1の比で抗体溶液に加える。
【0236】
捕捉、溶解及びライブラリー調製
捕捉、溶解及びハイブリダイゼーションステップは実施例1に詳述されるとおりである。
【0237】
完全に洗浄した後、10U/μlの逆転写酵素(Thermo Scientific Maxima H+)、0.5mMのdNTP及び1U/μlのRiboLock RNase阻害剤並びに26μMのオリゴヌクレオチドFをRT緩衝液1×中に含む混合物をチャンバー内に注入し、続いて流れを止め、捕捉された鎖の逆転写を55℃で2時間進行させる。酵素を直ちにPBS水溶液でフラッシュしてRTを停止させる。
【0238】
1mM ATPを補充したCutSmart緩衝液1×中に酵素BmtI及びHi-T4リガーゼを含有する第2の混合物を37℃で注入し、次いで、チャンバー内で停止させて、バーコード化鎖をcDNAにライゲーションし、DNAアレイからcDNAを分離する。次いで、PBSの溶液を流すことによって内容物を回収する。
【0239】
次いで、回収チューブを65℃で20分間インキュベートして、先に注入した酵素を不活性化する。
【0240】
ExoI処理の後、プライマーG、H及びLを使用して、回収した試料に対してPCR増幅を実施する。
【0241】
次いで、PCR産物を精製し、定量した後、配列決定する。
【0242】
配列決定データの脱多重化を実施例1のように行い、更に、リード1の97位から始まる抗体タグを調べる。
【0243】
実施例6-ブリッジ型DNAアレイを用いたLCSTケージにおける全scRNA-seq
第1の基材の準備
プロトコルは実施例1に詳述するとおりである。
【0244】
第2の基材の準備
DNAアレイは実施例1に詳述されているが、本例では代わりに
図13に示される配列を有する。
【0245】
デバイスの閉鎖
実施例1に詳述するとおりである。
【0246】
特異的捕捉のためのチップの調製:scRNA-seq
CutSmart緩衝液1×中に酵素Nb.BstIを含有する溶液を、マイクロ流体チャンバー内に37℃(ケージ開放)で注入して、フリッピングステップに進める。
【0247】
流れを37℃で10分間停止し、37℃のPBS溶液でリンスする。
【0248】
1mMのATP及び20μMのオリゴヌクレオチドM、Nを補充したCutSmart緩衝液1×中に酵素Hi-T4リガーゼを含有する溶液を、マイクロ流体チャンバー内に37℃(ケージは開いている)で注入して、伸長ステップに進む。
【0249】
流れを37℃で10分間停止し、37℃のPBS溶液でリンスする。
【0250】
次に、100mM酢酸カリウムの溶液(30mMのHEPES(pH7.5))及び20μMのオリゴヌクレオチドC、D、Eをマイクロ流体チャンバー内に40℃で注入して、蛍光配列を固定されたDNA鎖にハイブリダイズさせる(局在化ステップ)。
【0251】
フローを停止し、混合オリゴヌクレオチドを有するチップを60℃超で2分間加熱し、次いで室温で10分間冷却し、37℃のPBS溶液でリンスする。
【0252】
局在化のための蛍光イメージングを実施例1と同様に行う。
【0253】
捕捉、溶解及びライブラリー調製
捕捉、溶解及びハイブリダイゼーションステップは実施例1に詳述されるとおりである。
【0254】
完全に洗浄した後、10U/μlの逆転写酵素(Thermo Scientific Maxima H+)、0.5mMのdNTP及び1U/μlのRiboLock RNase阻害剤並びに26μMのオリゴヌクレオチドFをRT緩衝液1×中に含む混合物をチャンバー内に注入し、続いて流れを止め、捕捉された鎖の逆転写を55℃で2時間進行させる。酵素を直ちにPBS水溶液でフラッシュしてRTを停止させる。
【0255】
CutSmart緩衝液1×中に酵素NheIを含有する第2の混合物を37℃で注入し、次いで、チャンバー内で停止させて、バーコード化鎖をcDNAにライゲーションし、DNAアレイからcDNAを分離する。次いで、内容物をPBS溶液で押し出すことによって回収する。
【0256】
次いで、回収チューブを65℃で20分間インキュベートして、先に注入した酵素を不活性化する。
【0257】
ExoI処理の後、プライマーO及びHを使用して、回収した試料に対してPCR増幅を実施する。
【0258】
次いで、PCR産物を精製し、定量した後、配列決定する。
【0259】
配列決定データの脱多重化は、位置22~36のバーコード、位置63~74のUMI、及びリード1の位置107から始まるRNA転写物を見て実施する。
【0260】
実施例7-UCSTケージにおけるscATAC-seq
第1の基材の準備
プロトコルは実施例3に詳述するとおりである。
【0261】
第2の基材の準備
DNAアレイは実施例3に詳述されているが、本例では
図14に示される配列を有する。
【0262】
デバイスの閉鎖
実施例3に詳述するとおりである。
【0263】
特異的捕捉のためのチップの調製:scAtAC-seq
1× T4ポリヌクレオチドキナーゼ反応緩衝液中に酵素T4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB M0201)を含有する溶液を、20℃でマイクロ流体チャンバー内に注入し(ケージは開いている)、37℃で30分間インキュベートして、DNAアレイ上に固定された鎖の5’リン酸化を進行させる。
【0264】
次いで、チャンバーを20℃のPBS溶液でリンスする。
【0265】
100mM酢酸カリウムの溶液;30mMのHEPES(pH7.5))及び20μMのオリゴヌクレオチドC、D、Eをマイクロ流体チャンバー内に20℃で注入して、更なる蛍光配列を固定されたDNA鎖にハイブリダイズさせる(局在化ステップ)。
【0266】
フローを停止し、混合オリゴヌクレオチドを有するチップを60℃超で2分間加熱し、次いで室温で10分間冷却し、20℃のPBS溶液でリンスする。
【0267】
局在化のための蛍光イメージングを実施例1と同様に行う。
【0268】
20μmのオリゴヌクレオチドAを含む1×phi29 DNAポリメラーゼ反応緩衝液中に酵素phi29を含有する溶液を、20℃でマイクロ流体チャンバー(ケージ開放)内に注入して、二本鎖DNAアダプター(バーコード化MEDS)を作製する。
【0269】
37℃で10分間インキュベートした後、チャンバーを20℃のPBS溶液でリンスする。
【0270】
捕捉、溶解及びライブラリー調製
捕捉及び溶解は実施例3に詳述されるとおりである。
【0271】
CutSmart緩衝液1×中に酵素BmtIを含有する混合物を37℃で注入し、次いでチャンバー内で停止させ、37℃で10分間インキュベートして、DNAアレイからdsDNAを放出させる。
【0272】
次いで、1×TD反応緩衝液中にNextera Tn5トランスポザーゼ(TDE1)を含む混合物を37℃でチャンバー内に注入し、その後、37℃で30分間フローを固定化して転位を進行させる。
【0273】
次いで、20℃の水の溶液を流すことによって内容物を回収する。
【0274】
ExoI処理の後、プライマーG及びPを使用して、回収した試料に対してPCR増幅を実施する。
【0275】
次いで、PCR産物を精製し、定量した後、配列決定する。
【0276】
配列決定データの脱多重化は、位置30~44のバーコード、及びリード1の位置64から開始するDNA転写物を見て実施する。
【0277】
参考文献:Buenrostro,J.,Wu,B.,Litzenburger,U.et al.Single-cell chromatin accessibility reveals principles of regulatory variation.Nature 523,486-490(2015)
【0278】
実施例8-精製RNAを有するDNAアレイ株を用いたLCSTケージ中の全RNA配列決定
熱作動性ヒドロゲルの合成
詳細は実施例1に示すとおりである。
【0279】
第1の基材の準備
詳細は実施例1に示すとおりである。
【0280】
第1の基材の官能化
詳細は実施例1に示すとおりである。
【0281】
第1の基材上へのヒドロゲルフィルムの光パターニング
詳細は実施例1に示すとおりである。
【0282】
第2の基材の準備
使用される第2の基材は、DNA鎖がスポットされたスライドガラスである(Agilentから購入、Agilent Microarray Formatとして参照)。
【0283】
このアイテムは、異なるDNA鎖がグラフトされた100万個までの固有のスポットを提示しつつ、各スポット上に異なるバーコードを提供する。各スポットは何百万ものDNA鎖を含有する。
【0284】
DNAのマイクロアレイ構造を
図15に示し、各スポットは異なるバーコードを有する。
【0285】
局在化システムがアレイの設計中に組み込まれる。多数の独特なスポットの中で、それらのいくつかは、ハイブリダイゼーションによる蛍光標識されたDNAオリゴヌクレオチド(2つ以上)の捕捉のための特異的配列を有する。それらは、
図9に示すように、三角形、四角形及び円形を含む複数の形状を形成するように配置される。
【0286】
デバイスの閉鎖
詳細は実施例1に示すとおりである。
【0287】
特異的捕捉のためのチップの調製:全RNA-seq
オリゴヌクレオチドをインシリコで設計し、標準的な脱塩を行ったIDTE緩衝液(pH8.0)中、25~100μMの濃度でIDTから購入した。
【0288】
100mM酢酸カリウム、30mM HEPES、pH7.5及び10μMのオリゴヌクレオチドQ、R及びSの溶液を、マイクロ流体チャンバー内に40℃(ケージ開放)で注入して、更なる捕捉配列を固定されたDNA鎖にハイブリダイズさせ、局在化ステップに進める。フローを停止し、混合オリゴヌクレオチドを有するチップを60℃超で2分間加熱し、次いで室温で10分間インキュベートし、40℃で1×SSC溶液(Thermo Scientific#15413549)でリンスする。
【0289】
メインチャンバーの明視野蛍光イメージング(650nmで励起及び670nmで発光)を行う。DNAアレイスポット及びケージのインフォーマティック識別を、
図16に示すように実施する。識別は、両方のイメージの重ね合わせに基づく。明視野イメージは、ケージを識別することを可能にする。
図16の黒丸A、B及びCによって表される蛍光イメージは、蛍光DNAプローブが上に予めハイブリダイズされている特定のスポットを同定することを可能にする。これらの円の相対位置は、チップ上の固有の位置を規定し、DNAアレイの元の構成を重ね合わせたイメージ上にマッピングすることを可能にする。最後に、この識別のおかげで、スポット特異的バーコードを各ケージと関連付けることができる。
【0290】
プライマー合成。
【0291】
1mM ATP(NEB#P0756S)を補充したThermopol 1×(NEB#B9004S)中にSulfolobus DNAポリメラーゼIV(NEB#M0327S)及びHi-T4リガーゼ(NEB#M2622S)を含有する混合物を40℃で注入し、次いで、チャンバー内で50℃で2時間インキュベートして、バーコード化したプライマーを重合及びライゲーションする。次いで、内容物を40℃の1×SSC溶液(Thermo Scientific#15413549)でリンスする。
【0292】
細胞培養
JurkatヒトTリンパ球ATCC(登録商標)TIB-152を、10%熱不活性化ウシ胎児血清(Gibco#10082147)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco#15140122)を補充したRPMI 1640培地(Gibco#61870044)中で培養する。細胞を、ATCC推奨に従って、5%CO2を含む37℃で、25cm2又は75cm2培養フラスコに播種する。75~80%コンフルエンスに達したら、細胞を希釈する。細胞培養物から回収した後、最後に細胞を130r.c.f.で5分間遠心分離する。
【0293】
mRNA鎖の捕捉
Qiagen RNeasy Mini Kit(Qiagen#74104)を使用してJurkat細胞から全RNAを精製し、1×SSC及び1U/μlのRNase阻害剤(Thermo Scientific#11581505)とともに40℃で注入した。次いで、マイクロ流体デバイスを65℃で5分間インキュベートし、次いで4℃まで下げ、続いて25℃で5分間インキュベートする。続いて、mRNA鎖を、グラフトされた捕捉配列にハイブリダイズさせる。
【0294】
バーコード化cDNA合成
37℃でケージを開放し、チャンバーの内容積の20倍に相当する体積のRT緩衝液(Thermo Scientific#EP0742)をチャンバーに3分間流すことによって、洗浄ステップを行う。
【0295】
洗浄後、1×RT緩衝液中に10U/μlの逆転写酵素(Thermo Scientific#EP0742)、0.5mM dNTP(NEB#N0447S)及び1U/μlのRNase阻害剤(Thermo Scientific#11581505)を含む混合物をチャンバー内に注入し、続いてフローの固定化及び捕捉された鎖の逆転写を50℃で2時間行う。酵素を直ちに1×SSC溶液でフラッシュして、逆転写を停止させる。
【0296】
1×Exonuclease I反応緩衝液(NEB#M0293S)中に2U/μlのエキソヌクレアーゼIを含有する第2の混合物を注入し、37℃で30分間インキュベートする。酵素を直ちに1×SSC溶液でフラッシュして反応を停止させる。
【0297】
DNase/RNase不含蒸留水(Invitrogen#10977023)をチャンバーに注入し、98℃まで加熱して合成cDNAを脱ハイブリダイズする。次いで、追加の水を流すことによって内容物を回収する。
【0298】
10μLのNEB2緩衝液(NEB#M0212L)及び10μLの10μMオリゴヌクレオチドTを、65uLの回収した試料に添加する。
【0299】
溶液を95℃で2分間インキュベートし、直ちに氷に移す。次いで、8μLの10nm dNTP及び7μLのKlenow exo(NEB#M0212L)を添加する。
【0300】
混合物を4℃に予冷したサーモサイクラーに入れ、温度をゆっくりと37℃に上げ、30分間保持して第2鎖の合成を行う。
【0301】
次いで、SPRIselect磁気ビーズ(Beckman#B23317)を製造業者の指示に従って使用してcDNAを精製する。
【0302】
次いで、プライマーG及びH並びにQ5 High-Fidelity DNAポリメラーゼ(NEB#M0491)を使用して、精製された試料に対して、30秒の伸長を伴う2段階PCR増幅を15サイクル行う。
【0303】
SPRIselect磁気ビーズ(Beckman#B23317)を使用してPCR産物を精製し、定量した後、Illumina配列決定プラットフォームを使用して配列決定する。
【0304】
配列決定データの逆多重化は、各リードについて、Index1リードの1~15位からのバーコード、Read1リードの1~12位からのUMI、及びRead2リードの1位から始まるRNA転写物を検索することによって実施される。
【0305】
1,504,957個の完全な配列決定されたリードのうち、本発明者らは、ユニークバーコード、ユニーク遺伝子及びユニークUMIを有するリードとして決定された738,483個のユニークcDNAを同定した。本発明者らは、バーコード当たり平均102リード及びバーコード当たり50UMIの中央値を同定した。配列決定は、UMI当たりのリード数が少ないことによって示されるように、飽和するほど十分に深くなかった。
【0306】
図17は、配列決定データにおいて有効な遺伝子を提示するリードから抽出された14,752個のバーコードのマイクロ流体デバイスにおける空間再分割を表す。各黒丸は、そのバーコードが配列決定データ中の少なくとも1つのcDNAに関連するDNAアレイからのDNAスポットを表す。欠けている円は、配列決定データにおいて少なくとも1つのcDNAに関連してバーコードが見出されなかったDNAアレイからのDNAスポットである。回収されたバーコードの位置によって表される六角形形状は、マイクロ流体デバイス製造中に酸素プラズマから保護された領域に対応する。保護領域におけるスポットの大部分は、配列決定データにおいて同定されている。
【0307】
14,507個のユニークな遺伝子を、有効なバーコードを提示するリードから抽出した。
【0308】
図18は、実施例8において配列決定によって同定された遺伝子の長さ分布を表す。パネルaは、Ensemblバージョン104.38によってアノテートされたGenome Reference ConsortiumのアセンブリGRCh38.p13 Genocode 38におけるタンパクコード遺伝子としてアノテートされた20,465個の遺伝子の長さ分布を表す(http://may2021.archive.ensembl.org/Homo_sapiens/Info/Annotationを参照)。遺伝子長は、エキソン長の合計として決定される。各遺伝子について、選択的スプライシング変異体の平均サイズを使用した。パネルbは、配列決定データにおいて有効な遺伝子及び有効なバーコードを提示するリードから同定された14,507個の固有の遺伝子のみの同じデータベースからの長さ分布を表す。パネルa及びbにおけるサイズ分布の類似性は、遺伝子回収におけるサイズバイアスの非存在を実証する。
【0309】
これをJurkat細胞で2回繰り返し、Jurkat細胞と同様の条件で培養したRamosヒトBリンパ球ATCC(登録商標)CRL-1923細胞で1回繰り返した。
図19は、2つの異なる細胞株を用いた実施例8の3つの反復のクラスタリングのための注釈付きUMAPを表す(McInnes,L,Healy,J,UMAP:Uniform Manifold Approximation and Projection for Dimension Reduction,ArXiv e-prints 1802.03426,2018)。実施例8に記載のRNA-seqを、JurkatヒトT細胞で2回、RamosヒトB細胞で1回繰り返した。各実験について、15,000個のバーコードをランダムにグループ化して、200個のスーパーバーコードを形成して、浅い配列決定深さ及びクラスタリングを防止するバーコード当たりの同定されたcDNAの数が少ないことに対処する。次に、Scanpy Pythonソフトウェア(https://scanpy.readthedocs.io)を使用して、主成分分析(PCA)を実行し、次いでライデングラフクラスタリング法(Traag et al.,2018,From Louvain to Leiden:guaranteeing well-connected communities)を使用してクラスターを検出し、注釈を追加する前にUMAPグラフを介して2次元でクラスタリングを表す。完全な手順は、以下のリンクでScanpyウェブサイト上で詳述される:https://scanpy-tutorials.readthedocs.io/en/latest/pbmc3k.html#Clustering-the-neighborhood-graph。
【0310】
2つのクラスターが同定され、一方(クラスター1)は、Jurkat細胞(T細胞)を用いた2つの実験からのデータから構成され、他方(クラスター2)は、Ramos細胞(B細胞)を用いた実験からのデータから構成され、この方法が、異なる(密接に関連する)細胞型を同定するために使用され得ることを実証する。
【0311】
実施例9-Jurkat及びRamosヒト細胞の混合物から開始するDNAアレイを用いたLCSTケージにおける全scRNA-seq。
【0312】
手順は、マイクロ流体デバイスに精製RNAを注入する代わりに、実施例1に記載されるようにチップに細胞を注入し、捕捉し、溶解することを除いて、実施例8と同一である。
【配列表】
【国際調査報告】