(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-05
(54)【発明の名称】コーティングされた医療機器
(51)【国際特許分類】
A61F 2/91 20130101AFI20240129BHJP
【FI】
A61F2/91
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544530
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(85)【翻訳文提出日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 EP2022050972
(87)【国際公開番号】W WO2022161813
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】102021101691.6
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021102458.7
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508140512
【氏名又は名称】フェノックス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】PHENOX GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケス,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】モンシュタット,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ハンネス,ラルフ
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267BB06
4C267BB47
4C267CC09
4C267DD10
4C267GG11
(57)【要約】
本発明は、人体または動物の体の血管に挿入するためのステント構造(2)を有する装置(1)に関し、ステント構造(2)は、血管の内壁に当接する拡張状態と、マイクロカテーテル内で血管を通って移動可能である縮径状態とを有し、ステント構造(2)は、好ましくはその近位端において挿入補助具(3)に接続され、装置(1)は、血管痙攣の治療のために配置可能であり、ステント構造(2)は、挿入補助具(3)から取外し可能に設計され、ステント構造(2)の少なくとも一部はコーティングを備え、このコーティングは機能性層を含み、前記機能性層は、少なくとも1つの糖アルコールを含むおよび/または重合性基で官能化された単糖類のオリゴマー化または重合によって形成される。さらに、本発明はまた、血管痙攣の治療のための関連する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体または動物の体の血管に挿入するためのステント構造(2)を有する装置であって、
前記ステント構造(2)は、血管の内壁に当接する拡張状態をとり、かつ、マイクロカテーテル内で血管を通って移動可能である縮径状態を有し、
前記ステント構造(2)は、好ましくはその近位端において挿入補助具(3)に接続され、
前記装置は、血管痙攣の治療のために配置可能であり、
前記ステント構造(2)は、前記挿入補助具(3)から取外し可能に設計され、前記ステント構造(2)の少なくとも一部はコーティングを備え、該コーティングは機能性層を含み、該機能性層は、少なくとも1つの糖アルコールを含むおよび/または重合性基で官能化された単糖類のオリゴマー化または重合によって形成される
ことを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記ステント構造(2)が、互いに接続されたストラットまたはメッシュ構造を形成するワイヤから構成されることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ステント構造(2)が、自己拡張性であり、前記マイクロカテーテルから解放された後に前記拡張状態に自律的に移行することを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記ストラットまたはワイヤが、実質的に矩形の断面の場合、30~300μmの高さおよび幅を有し、円形断面の場合、30~300μmの直径を有することを特徴とする、請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
前記ステント構造(2)の中央において、近位端および/または遠位端にストラットまたはワイヤが配置されないことを特徴とする、請求項2~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記拡張されたステント構造(2)によって半径方向外側に加えられる力が、2.00mmの前記ステント構造(2)の直径を基準として、2~30N/m、好ましくは5~10N/mの範囲であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記ステント構造(2)が、近位部分、中央部分、および遠位部分を有し、前記近位部分は、前記ステント構造(2)が前記挿入補助具(3)に接続される近位端を含み、前記拡張されたステント構造(2)は、前記近位端の外側で全長に沿って実質的に一定の半径方向力を加えることを特徴とする、請求項1~6までのいずれか一項記載の装置。
【請求項8】
前記ストラットまたはワイヤが、前記近位部分および前記遠位部分において、前記中央部分よりも大きい断面を有することを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記ストラットまたはワイヤの密度が、前記近位部分および前記遠位部分において、前記中央部分よりも高いことを特徴とする、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
前記機能性層の単糖類が、少なくとも1つの反応性多重結合、特に二重結合を介して、前記装置に結合していない形態で官能化されていることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記反応性二重結合が、メタクリル基の構成要素であることを特徴とする、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記ステント構造(2)が、前記機能性層の下に金コーティングを備えることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記コーティングが、接着促進剤により前記ステント構造(2)上に位置するキャリア層を含み、前記機能性層は前記キャリア層に結合されることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記接着促進剤が、ケイ素化合物、特にシラン化合物、またはポリオレフィンであることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
血管痙攣の治療方法であって、請求項1~14のいずれか一項に記載の装置(1)の前記ステント構造(2)が、前記挿入補助具(3)によって血管痙攣の位置に移動され、拡張され、前記ステント構造(2)の分離が行われる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体または動物の体の血管に挿入するために設けられたステント構造を有する装置に関し、ステント構造は、血管の内壁に当接する拡張状態と、ステント構造がマイクロカテーテル内で血管を通って移動可能である縮径状態とを有し、ステント構造は、好ましくはその近位端において挿入補助具に接続される。
【背景技術】
【0002】
血管内プロテーゼ、またはステントは、しばしば血管狭窄の治療のために使用され、血管狭窄の部位に永久的に移植されて、血管を開放状態に保つ。典型的に、ステントは管状構造を有し、間に開口が存在するストラットから構成される表面を達成するようにレーザ切断によって作製されるか、またはワイヤメッシュから構成される。ステントは、カテーテルによって標的部位に送達され、そこで拡張され得る;形状記憶材料から成る自己拡張型ステントの場合、この拡張および血管内壁との当接は自律的に行われる。あるいは、ステントは、ステントがその上にクリンプ装着されるバルーンの助けにより、または他の機械的方法により、拡張され得る。最終的な配置の後、ステントのみが標的部位に留まる;カテーテル、ガイドワイヤまたはプッシャワイヤ、および他の補助手段が血管系から取り除かれる。
【0003】
基本的に類似した設計のインプラントはまた、動脈瘤の頸部の前に配置されることによって、動脈瘤の閉塞のために使用される。しかしながら、このようなフローダイバータは、狭窄を除去するためのステントよりも高い表面密度を有する。フローダイバータの例は、特許文献1に記載されている。
【0004】
血管痙攣は、血管の痙攣性収縮である。血管痙攣は、下流の血管に充分な量の血液が供給されず(虚血)、この結果、灌流が遮断された組織の壊死につながり得るという危険を伴う。特に脳領域においては、くも膜下出血(SAH)の数日後に、しばしば動脈瘤の破裂の結果として、血管痙攣が起こり得る。くも膜下出血の他の原因は、脳外傷および血管奇形または腫瘍からの出血である。くも膜下腔内に浸入した血液は、そこに位置する血管の周囲をすすぎ、血管痙攣の最も重要な誘発因子であるとみなされる。全てのSAH患者の約60%は、出血後5日目から20日目までに多かれ少なかれ顕著な血管痙攣を受ける。動脈血管がひどく収縮すると、依存性の脳組織に供給不足が起こり、これにより不可逆的な損傷(脳梗塞)を受ける可能性がある。主にSAHから生還した全ての患者の約15~20%は、永続的な神経損傷を受け、その結果として障害が残る。主にSAHから生還した患者の約5%は、その後、脳血管痙攣の結果として死亡する。この点に関して、血管痙攣は、動脈瘤の破裂および/または同じまたはこの領域における手術からの出血後に生じる、脳溢血および死亡の主な原因の1つである。
【0005】
通常、血管系は、薬剤、特にカルシウムチャネル遮断剤または血液中のNOレベルを増加させる薬剤で治療される。カルシウムチャネル遮断剤の例はニモジピンであり、これは、くも膜下出血後に血管痙攣を予防するためにしばしば使用される。しかしながら、そのような薬物療法は、かなりの副作用を伴い、さらにコストおよび時間を要する。
【0006】
血管痙攣の治療のための他のオプションは、動脈血圧の上昇および循環する血液体積の増加、バルーンを用いた狭窄血管の拡張、星状神経節の遮断、および交感神経線維の外科的除去(交感神経溶解)などの集中治療手段である。これらの治療方法は、その有効性に関して個別にばらつきがあり、場合によっては非常に複雑であり、効果がしばしば十分に長い間持続的ではない。大脳動脈の壁内の交感神経線維が脳血管痙攣の発症に著しく関与するので、星状神経節の遮断および外科的交感神経溶解は効果的であるが、これらの処置は、星状神経節の遮断は数時間しか継続せず、外科的交感神経溶解は、この目的のために外科的に準備しなければならない狭い範囲の血管セグメントにのみ限定されるため、脳血管痙攣の完全な予防および治療には不十分である。
【0007】
特許文献2から、血管痙攣の治療のための装置が知られており、これは、ステント構造を本質的に含むが、血管系内に永続的に留まるのではなく、血管痙攣の場所に移動され、そこで拡張され、その後再び引き戻される。このような治療は、数日または数週間の間隔で繰り返さなければならないことが多い。
【0008】
しかしながら、血管痙攣を治療し、特に血管痙攣の再発を予防するために、インプラントとして体内に永続的に留まることができる、血管痙攣を治療するための装置を提供することが所望であろう。
【0009】
従来、インプラントの挿入は血小板凝集のリスクを伴うので、永続的なインプラントは血管痙攣の治療には適していないと考えられていた。血小板が、体内のタンパク質によって標識された挿入インプラントの表面に付着し(血小板付着)、その結果、血栓の形成(血小板凝集)が生じ得るので、血小板の付着だけでなく血小板の凝集、したがって血塊、いわゆる血栓の形成が、永続的なインプラントにおいて観察され得る。ほとんどの場合、これは、血小板凝集阻害剤、例えば、アセチルサリチル酸(ASA)、クロピドグレル、プラズゲルまたはチカグレロルによって治療される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2008/107172号
【特許文献2】国際公開第2017/207689号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、血管痙攣の治療に適しており、好ましくは血小板凝集阻害剤を追加投与する必要なく、インプラントとして体内に永続的に留まることができる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、この目的は、人体または動物の体の血管に挿入するために設けられたステント構造を有する装置によって達成され、ステント構造は、血管の内壁に当接する拡張状態と、ステント構造がマイクロカテーテル内で血管を通って移動可能である縮径状態とを有し、ステント構造は、好ましくはその近位端において挿入補助具に接続され、前記装置は、血管痙攣の治療のために配置可能であり、ステント構造は、前記挿入補助具から取り外し可能に設計され、ステント構造の少なくとも一部はコーティングを備え、このコーティングは機能性層を含み、前記機能性層は少なくとも1つの糖アルコールを含む、および/または重合性基で官能化された単糖類のオリゴマー化または重合によって形成される。
【0013】
本発明による装置は、実際の装置のベースとして機能する少なくとも1つの基材と、機能性層とを本質的に含む。機能性層は、所望の特性を装置に付与し、生体模倣または生体反発効果を有する。
【0014】
好ましくは、機能性層は、それぞれポリマー骨格として主鎖を有しそれぞれ複数の側鎖を有する複数の分子を備えた、複雑かつ高度に分岐した親水性マトリックスを実質的に含む。主鎖および/または側鎖は、他の主鎖および/または側鎖と結合を形成することができる。他のマトリックスを形成するモノ-、オリゴ-およびポリマーは、基材に共有結合することなく、これらの主鎖および側鎖に組み込むことができる。機能性層を形成する糖類は、糖アルコールも本発明の意味では糖類とみなされ、ステント構造の表面に結合して重合を引き起こすことができる重合性基で官能化されている。
【0015】
糖類が官能化されている重合性基は、反応性多重結合、特に反応性二重結合を有することができる。したがって、重合は二重結合を介して行うことができる。特に、重合反応に適することが当業者に知られるアクリル基またはメタクリル基でもよい。重合に適した他の基、例えばビニルまたはアリルを使用することも可能である。したがって、主鎖は、少なくとも部分的に重合されたビニル、アリル、アクリルまたはメタクリル化合物またはそれらの誘導体および/またはそれらの異性体またはそれらの組合せを示す。したがって、糖類のオリゴマー化または重合は、通常、糖類が官能化されている重合性基を介して行われる;一方で、グリコシド結合の新たな形成は通常起こらない。
【0016】
側鎖は、特に単糖類および/またはオリゴ糖類を含み、単糖類またはオリゴ糖類の還元生成物、特に糖アルコール(アルジトール)もそれらとして解釈される。これとは別に、本発明の目的のために、酸化された単糖類および/またはオリゴ糖類が生じてもよく、酸化された形態も単糖類またはオリゴ糖類として理解される。
【0017】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、本発明により提案されるコーティングの利点は、機能性層が生体模倣特性、それぞれの生体反発特性を有し、血小板によって体の異物として認識されず、むしろ内因性のものであると認識されるという事実に見られる。したがって、本発明により提案される機能性層は、血小板の反応を引き起こさず、特に接着反応または凝集反応を生じさせない。
【0018】
本発明のコーティングの生体模倣効果は、本発明の機能性層がヒトのグリコカリックスを模倣することに起因する。グリコカリックスは、血管の細胞を一種の粘液層で覆い、膜タンパク質および膜脂質に共有結合した様々の多糖類からなる。したがって、糖タンパク質および糖脂質が得られる。
【0019】
本発明により提案されるコーティング、特に機能性層の高い生体模倣効果のために、機能性層溶液の反応物の重合が、本質的に機能性層溶液を基材上に塗布した後にのみ起こることが有利である。その結果、反応物の重合により、本発明のコーティングが施された表面への血小板の接着が、コーティングされていない表面への接着よりも有意に低くなるように、グリコカリックスに対して非常に類似した複合層が生じる。
【0020】
本発明によるコーティングの生体反発効果は、立体反発の原理に基づく。おそらく、表面上のオリゴマーおよびポリマーが利用可能な空間は、タンパク質がこの空間に侵入すると減少する、すなわち、接近するタンパク質は、表面上のオリゴマーおよびポリマーによりエネルギー的に好ましくない形態をとらせる。これにより、全体としてタンパク質に対して反発力が生じる。コーティングからの水分子の移動によって、タンパク質に対して反発性の浸透力が生じることも考えらえる。
【0021】
血小板接着に関して、この作用原理は、結合に適したタンパク質が表面に存在しないかまたはほんのわずかしか存在しないので、血小板の接着が防止され、血小板接着が著しく低減されることを意味する。
【0022】
少なくとも一部の領域でおよび好ましくは全体として円筒形であるステント構造は、概して、円筒の周面にわたって分配された開口部を有する。言い換えれば、ストラットから構成された格子またはメッシュ構造が作成され、複数の開口部またはメッシュが、ベースの円筒構造の周面上に形成される。
【0023】
互いに接続されたウェブまたはストラットから成るステント構造は、基本的に既知の方法でレーザ切断によって製造することができる;これに関連して、切断構造とも称される。このようにして、ステント構造内に複数の開口部またはメッシュ構造が形成され、開口部はステント構造の周囲にわたって分配される。他の製造プロセス、例えばガルバニック製法またはリソグラフィ製法、3Dプリントまたはラピッドプロトタイピングを採用してもよい。
【0024】
あるいは、ステント構造は、編組の形態のワイヤを含むメッシュ状構造でもよい。この場合、ワイヤは、典型的には長手方向軸に沿って螺旋状に延びており、交差する対向ワイヤは交点において互いに上下に延びており、これによって、ワイヤ間にハニカム状の開口部が形成される。ワイヤの総数は8~64であることが好ましい。メッシュ構造を形成するワイヤとして、金属の個々のワイヤを採用してもよいが、ストランド、すなわち小径の複数のワイヤを、好ましくは互いに撚り合わされるフィラメントを形成するように配置してもよい。
【0025】
「アパーチャ」または開口部なる用語は、アパーチャが膜によって周囲から分離されているか否かにかかわらず、格子構造を指す、すなわち、膜によって覆われたアパーチャであっても、アパーチャまたは開口部と称される。必要に応じて、膜を格子構造の外側または内側に適用することができる。格子構造を膜に埋め込むことも可能である。膜は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィンまたはポリスルホンなどのポリマー材料から作製することができる。ポリカーボネートウレタン(PCU)が特に好ましい。
【0026】
特にレーザ切断によって製造される互いに接続されたウェブまたはストラットから成るステント構造の利点は、ワイヤを含むメッシュ構造と比較して、拡張プロセス中に、ストラットのステント構造がメッシュ構造よりも長手方向に収縮しにくいことである。長手方向の収縮中にステント構造が周囲の血管壁に追加の応力を与えるので、長手方向の収縮は最小限に抑えるべきである。血管痙攣は、特に血管に作用する刺激によって引き起こされるので、血管痙攣治療では任意の追加の応力を回避する必要がある。
【0027】
互いに接続されたストラットのステント構造はさらに、その他の点では同様の構造、ストラット/ワイヤ密度およびストラット/ワイヤ厚さを有するこのようなステント構造によって加えられる半径方向の力が、ワイヤを含むメッシュ構造のものよりも高いという利点を提供する。その理由は、交点においてストラットが永続的に取り付けられるのに対し、メッシュ構造のワイヤは通常、互いに上下に延びるだけだからである。
【0028】
ストラットまたはワイヤは、円形、楕円形、正方形、矩形または台形の断面を有することができ、正方形、矩形または台形の断面の縁部は、有利には丸みを帯びる。さらに、ステント構造を電気研磨により処理して、より滑らかかつ丸みを帯びさせ、より外傷性を低くすることが便宜であると考えられる。さらに、細菌または他の汚染物質が付着する危険性が減少する。細いストリップの形態の平らなストラット/ワイヤ、特に金属ストリップの使用も可能である。
【0029】
個々のストラットまたはワイヤの間にステント構造内に形成される開口部は、0.1~6mmの内接円の直径を有し、内接円の直径とは、開口部内に配置可能な最大円の直径を意味する。データは、拡張状態のステント構造、すなわち、ステント構造が外部の制約または制限を受けていないときにステント構造がとる状態を称する。インプラントが埋め込まれる血管の直径に応じて、インプラントは完全に拡張した状態をとることができない場合があるので、血管系内の拡張状態は、外部の制約がない場合に存在する拡張状態とは異なり得る。
【0030】
1mm以上の内接円直径を有する開口部が好ましく、これは、比較的粗いメッシュのステント構造に相当し、そのような構造は、血管痙攣の治療に適切な大きさの半径方向力を加えることができるからである。
【0031】
ステント構造内に作成される開口部は、周囲が閉鎖されてもよい、すなわち、ストラットまたはワイヤによって中断されることなく包囲されることができる(いわゆる「クローズドセル設計」)。しかしながら、「オープンセル設計」が好ましく、少なくともいくつかのストラット/ワイヤが中断部を有し、ストラット/ワイヤによって形成されるセルが少なくとも部分的に開放されている、すなわち完全に閉鎖されていない。このようなオープンセル設計は、より高い柔軟性を示し、これは、非常に曲がりくねった血管において有利であり得る。さらに、クローズドセル設計を有するステント構造は、直線状に伸びた構成をとる傾向があり、これは、特に血管自体がより曲線状の経路を有する場合、血管にある程度の応力を及ぼし得る。
【0032】
さらに、適切な大きさの半径方向力を発生させるためには、比較的大きな断面または直径を有するストラットまたはワイヤの使用、すなわち比較的大きいストラット/ワイヤの使用が便宜であると考えらえる。例えば、実質的に矩形の断面を有するストラットまたはワイヤを使用する場合、ストラット/ワイヤの高さおよび幅は30~300μmが有利であることが証明されており、丸みを帯びたエッジを有する矩形の断面も実質的に矩形であると考えられる。円形断面の場合、直径は30~300μmであるべきである。
【0033】
しかしながら、既に述べたように、ステント構造は、編組を形成するワイヤのメッシュ構造であってもよく、これに関連して、編組ステント構造とも称される。
【0034】
ステント構造の近位端および遠位端には、それぞれ緩いワイヤ端部を設けることができるが、これらは血管の損傷を避けるために、好ましくは非外傷性である。ワイヤ端部の非外傷性の構成は、例えばワイヤ端部の丸み付けによって達成できる。別の選択肢は、ステント構造の一方または両方の端部においてワイヤにループを形成させ、再び編組に戻すように誘導することである。したがって、ステント構造の端部はもはや自由ワイヤ端部を有しておらず、血管壁を損傷する危険性が低減される。
【0035】
ステント構造のストラットまたはワイヤの密度は、血管を開くために使用される従来のステントに類似したものにすることができるが、著しく高いものとすることもでき、この場合、ステント構造は、動脈瘤を血流から遮断するために動脈瘤の前に配置されるタイプのフローダイバータと非常に類似する。フローダイバータは、高い表面被覆率を有し、拡張状態ではしばしば20~65%の範囲にある、すなわち、フローダイバータの全表面積の相当に高い割合が、開口部が間に配置されたストラット/ワイヤの形態の材料で作製される。ステント構造、ストラットおよびワイヤの設計、およびこれらの経路または構成などに関する上述のコメントは、ステント構造が従来のステントまたはフローダイバータに類似するかどうかにかかわらず適用される。
【0036】
本明細書で前述した生体模倣コーティングを備えた上述のステント構造が血管内に永続的に留まることを意図しているとしても、関連するステント構造は、血管内への短時間の挿入および血管内での拡張のみに使用することもできる。血管内に永続的に留まることを意図せず、一度で数分後に除去されるステント構造については、ステント構造と挿入補助具との間の分離点は必ずしも必要ではない。説明されたコーティングを少なくとも部分的に備えるステント構造を有する装置のこのような実施形態も、本発明にしたがって特許請求されるものと理解される。それにもかかわらず、分離点は、関連する状況に応じて治療する医師に異なる選択肢を提供するために、すなわち、ステント構造を引き戻すために、または、引き戻しが問題となる場合または医師が他の理由から血管内にステント構造が持続的に留まるべきであると判断した場合に、ステント構造を分離点で分離するために、有利であり得る。
【0037】
典型的には、挿入補助具は、インプラントと共に使用することが知られる、挿入ワイヤまたはプッシャワイヤの形態で提供される。血管系内に永続的に留まることを意図するインプラントの場合、挿入補助具は、分離点を介してインプラントに取り付けられ、前記分離点は、機械的、熱的または電解的な切断を可能にするように設計され得る。本発明によって提案される装置は、少なくとも1つのこのような分離点を有しており、切断/解放を容易にするために単一の分離点が好ましい。挿入補助具は、ステンレス鋼、ニチノールまたはコバルト-クロム合金から作製されることが好ましい。
【0038】
挿入補助具または挿入ワイヤは、好ましくは、ステント構造の近位端に半径方向外側に取り付けられる。言い換えれば、挿入補助具とステント構造との接続は、ステント構造の中心ではなく、血管内壁にまたはその近傍に偏心して配置される。このようにして、血流はできるだけ妨げられない。さらに、挿入補助具の偏心配置により、必要な場合には、マイクロカテーテル内への装置の引き戻しが容易になる。
【0039】
分離点は、好ましくは電解腐食性であるように設計される。この場合、分離点の少なくとも部分的な溶解は、適切な電圧/電源を使用して分離点に電圧を印加することによって達成される。電解溶解法は、電圧を印加することによって分離点を電解腐食させ、その結果、インプラントは挿入補助具から分離される。通常、直流電流が使用され、低アンペア(<3mA)で十分である。分離点は通常は金属で作製され、電圧の印加時にアノードとして作用し、金属の酸化および溶解が起こる。
【0040】
インプラントの陽極酸化を回避するために、インプラントは、分離点および挿入補助具から電気的に絶縁される必要がある。インプラントの電解剥離は、例えば動脈瘤を閉鎖するために使用される閉塞コイルなど、先行技術でよく知られる方法である(例えば、国際公開第2011/147567号参照)。この原理は、電圧を印加すると、適切な材料、特に金属で作製される適切に設計された分離点が、原則として陽極酸化によって、少なくとも関連する分離点の遠位に位置するインプラントの領域が解放される程度まで、溶解するという事実に基づいている。分離点は、例えば、ステンレス鋼、マグネシウム、マグネシウム合金またはコバルト-クロム合金から作製されてもよい。特に好ましいマグネシウム合金は、Sarstedt/ドイツのMeKo社によって開発されたResoloy(登録商標)である(国際公開第2013/024125号参照)。これは、マグネシウム、および、特にランタノイド、特にジスプロシウムからなる合金である。マグネシウムおよびマグネシウム合金を使用する別の利点は、体内に留まるマグネシウム残留物が生理学的に問題ないことである。
【0041】
分離点がアノードとして機能する一方、カソードは、例えば、体表面上に配置することができる。あるいは、装置の別の領域がカソードとして使用されてもよい。もちろん、分離点は、電源に導電的に接続されていなければならない。挿入補助具、特に挿入ワイヤ自体が、導電体として機能してもよい。カソードが体表面に配置される場合、生じる腐食電流はカソードの面積によって制御されるので、カソードの面積はアノードの面積よりも著しく大きく選択されるべきである。ある程度まで、分離点が溶解する溶解速度は、アノード表面に対するカソード表面のサイズを適切に調節によって制御することができる。したがって、本発明により提案される装置は、電圧源と、適用可能または適切な場合には、体表面上に配置可能な電極とを備えていてもよい。
【0042】
電解溶解される分離点の代わりに、従来技術から既知の他の分離点、特に機械的、熱的または化学的に分離可能な分離点を使用することもできる。機械的な分離/切断の場合には、典型的には、形状嵌合、力嵌合または摩擦嵌合が存在し、ステント構造の解放時に解除されて、ステント構造が挿入補助具から分離される。熱的な分離点の場合、分離点を加熱することによって接続が解除され、軟化または溶融されて、切断が達成される。別の選択肢は、分離点で起こる化学反応によって分離が生じる化学的切断を使用することである。
【0043】
異なる種類の分離、例えば電解分離および機械的分離を組み合わせることもできる。この目的のために、特に形状嵌合によってもたらされる機械的接続が、構成要素間に確立され、この接続は、機械的接続を維持する構成要素が電解腐食されるまで維持される。
【0044】
好ましくは、ステント構造は、マイクロカテーテルから解放されると拡張状態に自律的に移行することができる、自己拡張型の設計である。これを達成するために、形状記憶特性を有する材料で作製されるステント構造が有利であり、特に、ニチノールの商品名で知られているニッケル-チタン合金の使用がその価値を証明している。しかしながら、形状記憶特性を有するポリマーまたは他の合金も考えられる。
【0045】
本発明により提案される装置は、特に神経血管分野で使用することができるが、心血管または末梢領域での使用も可能である。
【0046】
通常、治療は、マイクロカテーテル内で本発明の装置を標的部位、すなわち血管痙攣が発生した部位に前進させることによって行われる。これに続いて、マイクロカテーテルを近位方向に引き戻すことによって、ステント構造が解放され、ステント構造が拡張して、血管の内壁に当接し、血管痙攣を治療する。ここで、ステント構造は、永続的に、または、一時的な使用の場合は一定時間、典型的には1~10分間、その位置に置かれる。ステント構造が永続的に血管内に留置されない場合には、その後、マイクロカテーテルは、再び遠位方向に移動されてステント構造を折り畳み、マイクロカテーテルは装置と共に引き戻される。この処置は、数日間続けて繰り返すことができる。
【0047】
「近位」および「遠位」なる用語は、装置を挿入する際に治療する医師の方を向く部分を近位と称し、治療する医師から離れる方を向く部分を遠位と称することを理解されたい。したがって、装置は典型的にはマイクロカテーテルによって遠位方向に前進される。「軸方向」なる用語は、近位から遠位へ延びる装置の長手軸を指し、「半径方向」なる用語は、これに対して垂直に延びるレベル/平面を指す。
【0048】
本発明の装置を用いて行われるこの治療と並行して、例えばニモジピンの投与による薬剤治療を行うこともできる。これは、特に血管痙攣が生じた位置に動脈内投与することができる。
【0049】
概して、ステント構造は、血流をできるだけ妨げず、後続の血管および血管によって供給される組織への供給不足を防止するために、両端が開放されるように設計されている。血管内に永続的に留まることを意図しないステント構造は、遠位端において閉じられていてもよい;遠位端に配置される閉じた構造は、より非外傷性である。これに関連して、開放とは、ステント構造の各端部にストラットまたはワイヤが配置されておらず、ストラット/ワイヤがステント構造の外周に限定されていることを意味すると理解される。しかしながら、閉じた端部が設けられる場合、ステント構造の中心にもストラットまたはワイヤが存在する。遠位端が閉じられた場合でもストラットまたはワイヤの間に開口部が存在するので、この端部は完全に不浸透性ではない;血流は、依然としてそれぞれの開口部を通過することができる。
【0050】
拡張型ステント構造によって半径方向外側に向かって血管内壁に作用する力は、2.00mmのステント構造の直径を基準として、2~30N/m、好ましくは5~10N/mの範囲であるべきである。この場合に示される半径方向力は、単位長さ当たりに半径方向に作用する力を指す、すなわち相対的な半径方向力とみなされる。この場合、血管内壁に当接し、したがって血管内壁に力を作用させることができるステント構造の部分(有効長)のみが考慮される。有効長に沿って、ステント構造は、ステント構造の周囲に配置された包絡線の最低50%を覆わなければならない。対照的に、絶対半径方向力は、ステント構造全体に適用できる値を示す。
【0051】
作用する半径方向力(拡張力(chronic outward force)、COF)は、以下に説明するようにveeブロック試験によって決定される。
【0052】
veeブロック試験のセットアップは、2つのポリメチルメタクリレート(PMMA)ブロックを含み、これらのブロックはそれぞれフライス加工されかつ滑らかに研磨された90°vee溝を設けられる。これらのveeブロックは、接触すると正方形断面の中空空間がブロック間に形成されるように、順に重ねて配置される。一方のveeブロックはしっかりと固定されているが、他方には力センサが設けられている。
【0053】
COFは、ステント構造が自己拡張中に、血管にまたは試験においてveeブロックに及ぼす力を表す。半径方向力を決定するために、搬送ホースまたはマイクロカテーテル内に位置するステント構造を、veeブロックの間の中央に配置する。その後、搬送ホース/マイクロカテーテルが引き戻され、ステント構造が解放される。その自己拡張特性のために、構造が折り畳まれ、その際に生じる半径方向力は、veeブロックの1つに接続された力センサによって測定され、さらに評価され得る。異なる長さのステント構造を比較することができるように、相対的な半径方向力が以下のように計算される:
【数1】
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】ヘパリン処理した全血と共に10分間インキュベーションした後のコーティングされていないニチノールプレート小片を、蛍光顕微鏡下で10倍に拡大して示している。多数のCD61陽性血小板の付着がはっきりと見られる。
【
図2】ヘパリン処理した全血と共に10分間インキュベーションした後のコーティングされたニチノールプレート小片を、蛍光顕微鏡下で10倍に拡大して示している。付着したCD61陽性血小板はわずかしか認めることができない。
【
図3】本発明による装置1の例示的な側面図を示す。この装置は、ステント構造2と、挿入/プッシャワイヤの形態の挿入補助具3とを有する。この例では、ステント構造2はレーザ切断によって作製され、全体として連続的なハニカム構造を形成するストラットを含む。挿入補助具3は、分離点4を介してその近位端においてステント構造2に、偏心的に、すなわち縁部領域において接続されている。分離点4に電圧を印加することにより、ステント構造2を挿入補助具3から分離し、血管内に永続的に埋め込むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0055】
有利な実施形態によれば、拡張状態においてステント構造によって加えられる半径方向力は、その長さに沿って実質的に一定である、すなわち、近位部分および遠位部分において、半径方向力は中央部分の半径方向力と等しい。対照的に、従来の均一に構成されたステントでは、近位部分および遠位部分に実際に作用する半径方向力は、通常、中央部分よりも弱い。したがって、近位部分および遠位部分における半径方向力を選択的に増加させ、拡張状態において半径方向力が有効長にわたって実質的に一定であるステント構造を作製することが便宜であり、典型的にはもはや血管内壁に完全に接触しないストラットまたはワイヤは、半径方向力を考慮する際に無視される。したがって、近位端は、最も近位に位置し、もはや有効長の一部ではなく、ストラット/ワイヤが挿入補助具に向かって先細りする、ステント構造の部分を称する。典型的には、この近位端の長さは、8~10mmである、すなわち、ステント構造の全長は、ステント構造の有効長よりもほぼこの分だけ長い。
【0056】
近位部分および遠位部分において半径方向力を増加するために、ストラットまたはワイヤは、中央部分におけるよりも大きい断面を有するように設計されてもよく、したがって、ストラット/ワイヤはより大規模になり、ステント構造が中央部分においてより高い半径方向力を作用するという固有の傾向が完全にまたは部分的に補われる。
【0057】
代替的にまたは追加的に、近位部分におけるストラットまたはワイヤの密度は、中央部分における密度よりも高くてもよい。この手段によっても、従来のステントにおいて観察される近位または遠位の半径方向力の低下が完全にまたは部分的に補なわれる。
【0058】
別の可能性は、ステント構造の周面上を螺旋状に、またはステント構造の周面に沿って長手方向に延びる、スリットをステント構造に設けることである。この場合、個々のストラットまたはワイヤは、半径方向力の特性に影響を及ぼすために、スリットにかかっていてもよい。
【0059】
典型的には、自由に拡張された状態におけるステント構造の直径は、2~8mmの範囲、好ましくは4~6mmの範囲である。拡張状態におけるステント構造の全長は、通常、5~50mm、好ましくは10~45mm、さらに好ましくは20~40mmの範囲である。有効長、すなわち血管内壁に半径方向力を実際に及ぼす拡張状態におけるステント構造の長さは、大抵の場合、約8~10mm短い。
【0060】
ステント構造がストラットからなる場合、例えば、25~70μmの壁厚を有する管から構造を切断することができる;編組ワイヤを含むメッシュ構造の場合、ワイヤ厚は20~70μmであることが好ましい。例えば、装置を圧縮された状態で標的位置に移動し得るマイクロカテーテルは、0.4~0.9mmの内径を有する。
【0061】
別の可能性は、電気導体をステント構造に組み込むことであり、これにより、血管壁内に延びる神経線維に、電気パルス、高周波パルスまたは超音波パルスを印加して、神経線維の機能を一時的にまたは永続的に低下させ、このようにして血管痙攣を予防または治療することが可能である。このような原理は、国際公開第2018/046592号に記載され、脳供給動脈の血管内除神経のためにステント構造を使用することに基づく。
【0062】
物理的には、高周波(HF)信号、直流、交流または超音波の形態で神経線維にパルスを印加することができる。原則として、除神経は最終的には血管壁の加熱に基づいており、これにより、神経線維の機能が消失または損傷される。高周波パルスまたは超音波パルスの使用は、周囲の血管壁の深さに最大エネルギーを生成する限りでは、血管壁全体ではなく神経線維が特に損傷されるので、好ましい。ここでいう神経繊維は、交感神経系のものである。
【0063】
治療医が治療を視覚化できるようにするために、装置は1つまたは複数の放射線不透過性マーカーを備えるのが便宜である。放射線不透過性マーカーは、例えば、白金、パラジウム、白金-イリジウム、タンタル、金、タングステン、または他の放射線不透過性金属でもよい。例えば、放射線不透過性コイルを装置の様々な箇所に配置することができる。ステント構造、特にステント構造のストラットまたはワイヤに、放射線不透過性材料からなるコーティング、例えば金コーティングを施すことも可能である。このコーティングは、例えば1~6μmの厚さを有することができる。放射線不透過性材料によるコーティングは、ステント構造全体を覆う必要はない;これは、特に、血管内壁と接触するステント構造の領域において、すなわち、本質的にステント構造の円筒部分において重要である。それでもなお、放射線不透過性コーティングを設ける場合でも、1つまたは複数の放射線不透過性マーカーを、装置内に、特にステント構造の遠位端に追加的に配置することが便宜であると考えられる。
【0064】
追加的な選択肢は、形状記憶特性を有する金属、特に、少なくとも部分的に白金コアを有する適切なニッケル-チタン合金から作製されるストラットを使用することである。このようなストラットは、DFT(drawn filled tubing)ワイヤとして知られている。このようにして、一方ではニッケル-チタンの有利な特性、すなわち形状記憶特性の付与が、他方では白金により提供される有利な特性、すなわちX線可視性の確保と組み合わされる。
【0065】
本発明による装置に加えて、本発明は、上述のタイプの装置が使用される、血管痙攣治療のための方法にも関する。前記方法は、装置のステント構造を、挿入補助具によって血管痙攣の位置に移動させ、そこで拡張させ、これは通常、装置を収容するマイクロカテーテルを近位方向に引き戻すことによって行われる。次いで、挿入補助具からステント構造を取り外すが、これは、電解的に、すなわち、ステント構造と挿入補助具との間に配置された分離点に電圧を印加することによって行うことができる。
【0066】
ステント構造がマイクロカテーテルによって標的位置に前進される前に、まず比較的内腔が大きいガイドカテーテルがしばしば使用され、このガイドカテーテルを通して内腔の小さいマイクロカテーテルがさらに遠位に前進される。神経血管用途の場合、例えば、ガイドカテーテルを通して鼠径部から頸動脈への前進が行われ、その後、マイクロカテーテルのみを通してさらなる前進が行われる。
【0067】
ステント構造を血管痙攣の位置に一時的にのみ配置することも考えられる。この場合、ステント構造は、数分間、好ましくは1~10分間だけ、拡張された状態で血管痙攣の位置に留まる。その後、ステント構造は血管から除去される。このために、マイクロカテーテルを遠位方向に前進させ、ステント構造を再び折り畳んでつぶし、マイクロカテーテル内に収容することができる。次いで、マイクロカテーテルおよび装置を引き戻して血管系から取り出すことができる。上述の処置は、血管痙攣の治療を継続するために、数日間続けて繰り返すことが望ましい。
【0068】
血管痙攣の治療に関連して上述したような装置の設計ならびにそれぞれのコーティングは、特に狭窄(血管収縮)の治療または動脈瘤の治療を含む他の目的のためにも使用することができる。狭窄の治療の場合、装置は、実質的には通常のステントとして機能するが、このステントには、血小板の蓄積、ひいては治療の成功を危うくする血栓の形成を防止するために、上述のコーティングを施される。上述のように、ステント構造は、クローズドセル設計または少なくとも部分的なオープンセル設計を使用して、(レーザ)切断することができ、することができる。任意選択的に、近位端および/または遠位端に緩いワイヤ端を備えた編組ステント構造も使用することができるが、ステント構造の近位端および/または遠位端のワイヤは編組内に戻されなければならない。
【0069】
別の代替的な用途は、動脈瘤を治療するためのフローダイバータとしての使用である。基本的な設計およびコーティングに関しては、上述したことが当てはまるが、フローダイバータの表面被覆率および表面密度は、典型的には、通常のステントのものを上回る。フローダイバータは、動脈瘤の頸部の前に配置されて、血流を動脈瘤から確実に遠ざけ、最終的に動脈瘤の劣化/萎縮につながる。
【0070】
動脈瘤の前方に配置されるステント構造またはフローダイバータの別の可能な機能は、動脈瘤内に組み込まれた閉塞コイルなどの閉塞手段の脱出を防止することである。動脈瘤からの閉塞手段のこのような流出または脱出は、例えば、閉塞手段が血流によってさらに遠位に位置する領域に運ばれ、そこで血管の閉塞または血管壁の損傷をもたらすなど、望ましくない結果をもたらす可能性がある。この目的のために、ステント構造は、血管内に永続的に埋め込むことができるが、それを通して閉塞手段を動脈瘤内に導入することができるマイクロカテーテルを動脈瘤に挿入した後に、動脈瘤の前に装置を一時的に配置することも可能である。このようにして、装置は、動脈瘤からの閉塞手段の流出を防止する。充分に多くの閉塞手段、通常はコイルが動脈瘤に導入された場合、これらの閉塞手段は互いに組み合い、その結果、動脈瘤からの脱出を互いに妨げる、すなわち、動脈瘤が完全に充填された後、動脈瘤頸部のさらなる閉塞は必要ないかもしれない。このような技術は「留置(jailing)」とも呼ばれる。このような、一時的にのみ導入されるステント構造の場合、挿入補助具に接続する分離点は必ずしも配置される必要はなく、ステント構造が少なくとも部分的に記載されたコーティングを担持している限り、このような装置も、さらなる実施形態による本発明に含まれると考えられる。
【0071】
別のタイプのフローダイバータは、血管の分岐部位(分岐部)に位置する動脈瘤の前に配置される、いわゆる分岐フローダイバータである。このような分岐フローダイバータまたは分岐インプラントは、例えば、国際公開第2014/029835号に記載されている。このようなインプラントの遠位部分は、より近位に位置する部分に対して半径方向に拡張される。前記遠位部分は、動脈瘤の頸部を少なくとも部分的に閉塞するように構成されている。血小板の接着および凝集を防止するために記載されたコーティングは、そのような分岐インプラントにも有用である
【0072】
また、狭窄および動脈瘤の適応症に関しても、本発明は、関連する装置だけでなく、関連する方法に関する。この処置の間、装置は、通常マイクロカテーテルによって目標位置に誘導される。装置は解放され、拡張された形状をとる。これは、マイクロカテーテルを近位方向に引き戻すことによって、または装置をマイクロカテーテルから遠位方向に押し出すことによって行われる。次いで、遠位ステント構造が挿入補助具から取り外され、ステント構造が血管内に解放され、そこに留まることができる。次いで、マイクロカテーテルを近位方向に引き戻して血管系から取り外すことができる。血小板の蓄積および血栓の形成は、狭窄の治療または動脈瘤の閉塞を意図するステント構造が血管内に留まる場合に効果的に防止される。
【0073】
関連する実施形態とは無関係に、本発明の本質的な特徴は、生体模倣コーティングである。原則として、基材として機能する装置は、接着促進剤を含むキャリア層によって覆われ、このキャリア層を介して機能性層を基材に結合することができる。本発明の範囲内で、好ましい接着促進剤はシラン接着促進剤である。あるいは、他の接着促進剤、例えばポリオレフィン接着促進剤、またはチタン酸塩またはジルコン酸塩をベースとする接着促進剤を使用することもできる。
【0074】
接着促進剤のさらなる例は以下の通りである
-貴金属基材に特に適している、チオールおよびジチオ化合物
-白金基材に特に適している、アミンおよびアルコール
-銀基材およびアルミニウム基材に特に適している、カルボン酸;アルミニウム基材は酸化アルミニウム表面を有し得る
-鉄、酸化鉄、チタンおよび二酸化チタン基材に特に適している、ホスホン酸(ホスホネート)
-様々の金属および金属酸化物基材に特に適している、ある程度は基材と日共有結合する、錯体化接着促進剤、特にキレート。
【0075】
接着促進剤は、原則として共有結合が可能なように、官能基を含むべきであり、これを介して接着促進剤が機能性層と反応することができる。関連する装置の材料に応じて、接着促進剤と装置との結合も共有結合でもよい。
【0076】
例えば、適切な接着促進は、シラン化、すなわちケイ素化合物、特にシラン化合物をその表面の少なくとも一部に化学的に結合することによって達成することができる。表面上で、ケイ素化合物およびシラン化合物は、例えばヒドロキシ-およびカルボキシ基に結合している。
【0077】
好ましくは、基材は、接着促進剤と結合を生じさせる。本出願の目的のために、このような基材は、「コーティング可能な基材」と称される。したがって、コーティング可能な基材は、接着促進剤と少なくとも部分的にまたは機能性層と直接結合するために、表面が十分に反応性および/または十分に活性化可能である基材を含む。
【0078】
したがって、本発明の意味において、コーティング可能な基材は、多種多様な性質のものであり、特に酸化可能な基材およびこれらの組み合わせを含んでもよい。これらには、例えば、ニッケル、チタン、白金、インジウム、金、コバルト、クロム、アルミニウム、鉄または合金などの金属、ならびにこれらの組合せが含まれる。例えば、ある金属を別の金属でコーティングすることもでき、この場合、本発明により請求されるコーティングは、好ましくはキャリア層および機能性層を含む外側の金属層上に塗布される。ベースの金属が酸化物層によって覆われている基材も、コーティング可能な金属に含まれる。他のコーティング可能な基材はガラスである。
【0079】
特に好ましい実施形態は、金コーティングを全体的にまたは部分的に施した装置に関し、金コーティングによってX線可視性が確保される。特に、これにより、血管内の装置の拡張を視覚化することができ、治療医は、拡張が所望のように行われるかどうかを認識することができる。これは、インプラントが血管痙攣の治療を目的とする場合に特に有利である。次に、本発明により提案されるコーティングは、機能性層およびほとんどの場合キャリア層を含む金コーティングに適用される。金コーティングが施される装置のベース材料は、関連する医療機器のための通常の金属または通常の金属合金、例えばニッケル-チタン合金、コバルト-クロム合金またはステンレス鋼であってよい。
【0080】
本発明の意味におけるコーティング可能な基材は、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリオレフィン、ならびに関連するブロックコポリマーなどの様々なプラスチックであってもよい。医療工学の分野において、多数の適切なプラスチックが当業者に既知である。金属表面または酸化物表面には通常は接着促進剤が必要であるが、基材として用いられるポリマーには必ずしも必要ではない。
【0081】
例えば、適切な接着促進は、シラン化により、すなわち、ケイ素化合物、特にシラン化合物のその表面の少なくとも一部への化学結合によって達成され得る。表面上で、ケイ素化合物およびシラン化合物は、例えばヒドロキシ基およびカルボキシ基に結合している。
【0082】
塩素化ポリオレフィン(CPO)またはアクリル化ポリオレフィン(APO)を含むポリオレフィンも接着促進剤として使用することができる。
【0083】
本発明の意味におけるシラン化合物とは、一般式RmSiXn(m、n=0~4、ここでRは有機ラジカル、特にアルキル、アルケニルまたはアリール基を表し、Xは加水分解基、特にOR、OHまたはハロゲンを表し、R=アルキル、アルケニルまたはアリールである)に従う全ての化合物である。特に、シランは一般式RSiX3を有することができる。さらに、本発明の目的のために、いくつかのケイ素原子を有する関連化合物もシラン化合物に数えられる。特に、有機ケイ素化合物の形態のシラン誘導体は、本発明に従ってシラン化合物とみなされる。したがって、本発明の意味におけるシラン化合物は、ケイ素骨格および水素を有し、シランとして指定される物質のみではない。
【0084】
好ましくは、機能性層のマトリックスは、キャリア層または基材に共有結合しており、好ましくはグラフト重合によって合成され、機能性層はキャリア層または基材上に生成される。適用される単糖類の重合は、単糖類の還元生成物および酸化生成物、特に糖アルコール(アルジトール)もそのように理解され、本質的に好ましくは、キャリア層/基材上または機能性層内でのみ起こる。糖アルコール(アルジトール)は、アルデヒド官能基がアルコールに還元された糖の還元生成物である。
【0085】
本発明の目的に関して、どの形態で(グラフト)重合が起こるかは関連がない。したがって、側鎖の成長は特に主鎖から開始することができる。このアプローチは「grafting from」とも呼ばれる。同様に、側鎖が既にオリゴマー化または重合を開始し、既に成長している側鎖が主鎖に結合することも可能である(「grafting onto」)。さらに、オリゴマー化または重合された主鎖および側鎖が会合することもできる(「grafting through」)。
【0086】
好ましくは、機能性層は、それぞれがポリマー骨格としての主鎖と複数の側鎖とを有する複数の分子を含む、複雑かつ高度に分岐した親水性マトリックスを実質的に含む。主鎖および/または側鎖は、他の主鎖および/または側鎖と結合を形成してもよい。他のマトリックスを形成するモノマー、オリゴマーおよびポリマーは、それ自体がキャリア層に共有結合することなく、これらの主鎖および側鎖に組み込むことができる。
【0087】
主鎖は、少なくとも部分的に重合されたビニル、アリル、アクリルまたはメタクリル化合物、またはそれらの誘導体および/またはそれらの異性体またはそれらの組合せを含むことができる。
【0088】
側鎖は、特に単糖類および/またはオリゴ糖類を含み、単糖類またはオリゴ糖類の還元生成物、特に糖アルコール(アルジトール)もそのように理解される。さらに、酸化された単糖類および/またはオリゴ糖類が生じてもよく、酸化された形態も、本発明の目的のために単糖類またはオリゴ糖類と理解される。
【0089】
本発明により提案される装置は、少なくともコーティングされた基材を含み、前記コーティングは、好ましくは、基材上に位置するキャリア層と、キャリア層上に位置する機能性層とを含む。キャリア層は、本質的に接着促進剤を含み、ほとんどの場合、この接着促進剤は基材に共有結合している。さらに、非共有結合性の接着促進剤、例えば錯体結合を介して基材に結合する接着促進剤も既知である。好ましい接着促進剤は、ケイ素化合物およびポリオレフィン系接着促進剤である。好ましい実施形態によれば、機能性層は、少なくとも1つの官能化糖アルコールを含み、これを介して機能性層がキャリア層に共有結合される。
【0090】
機能性層の好ましい糖アルコールは、その非官能化形態で、分子式C
6H
14O
6を有する糖アルコール、例えばソルビトールおよび/またはその誘導体、例えばソルビタンに相当する。他の糖アルコールは、マンニトール、ラクチトール、キシリトール、トレイトール、エリトリトールまたはアラビトールであり得る。ソルビトールの構造を以下に示す:
【化1】
【0091】
「非官能化形態で」とは、言及された分子式が官能化されていない糖アルコールの分子式を表すが、適切な場合には、その誘導体および/または異性体も含むことを意味する。官能化とは、基材、キャリア層および/またはキャリア層または基材に既に付着した化合物への結合を可能にする化合物中への官能基の導入を示すと理解される。
【0092】
本発明による機能性層は、分子式C6H14O6の糖アルコールおよび/またはその誘導体および/またはその異性体の官能化変異体を含む。機能性層は、特に、適用された官能化糖アルコールの重合によって生じ得る複合マトリックスを含むことができる。
【0093】
化学において一般的に使用される「類似構造の誘導物質」なる用語の定義に加えて、本発明の目的のために、誘導体は、脱水によって物質から誘導することができる全ての環式および複素環式化合物であると理解されるべきである。この例は、ソルビタンまたは無水ソルビタンであり、ソルビトールからの水分子の分離によって形成される。したがって、これはソルビトールの無水物を表す。別の例は、水分子のさらなる分離によって得られるイソソルビドである。
【0094】
好ましくは、糖アルコールは、少なくとも1つの反応性基を介して官能化されており、この反応性基は、好ましくは反応性多重結合、特に二重結合を含み、この反応性二重結合は、好ましくはアクリル基である。重合に適した他の官能基は、必ずしも反応性二重結合を有する必要はないが、当業者に既知であり、例えばメタクリル基、ビニル基またはアリル基も含む。
【0095】
好ましくは、機能性層の糖アルコールは、少なくとも部分的に互いに重合されている。
【0096】
装置は、好ましくは、コーティングを備えた少なくとも1つの基材を含み、コーティングは機能性層を含む。機能性層は、少なくとも1つの官能化単糖を含み、単糖は、キャリア層に共有結合可能であり、キャリア層への結合時にのみオリゴマー化または重合が生じる。このようにして、天然グリコカリックスに特に類似する機能性層が形成されることが見出された。糖類のオリゴマー化または重合が基材への結合時にのみ起こるという本発明のコーティングの構造は、既成ポリマーが表面上に塗布されるコーティングと大きく異なる。特に、形成されたコーティングは、通常100nm以下である特に低い層厚を有するという点で、従来技術のコーティングと異なる。ほとんどの場合、コーティングの厚さは10~100nmの範囲である。これはまた、コーティングされた医療機器の機械的特性が影響を受けるとしてもわずかであるという利点、すなわち、弾性、放出後の拡張能力、血管に半径方向力を加える能力などがすべて保持されるという利点と関連している。
【0097】
好ましくは、コーティングは、基材上に位置するキャリア層を含み、次いで機能性層がキャリア層に結合されている。形成された結合は、特に共有結合であってよいが、錯体結合のような他の結合であってもよい。キャリア層は、基材に結合した接着促進剤を本質的に含む。好ましい接着促進剤は、ケイ素化合物およびポリオレフィン系接着促進剤である。
【0098】
機能性層の単糖は、好ましくは、少なくとも1つの糖アルコールおよび/またはその誘導体および/またはその異性体を含む。
【0099】
したがって、本発明により提案されるコーティングの機能性層が構成される溶液は、以下の物質の1つまたは複数を含むことができる:
(1)アクリレート基が異なる位置に配置されていてもよい、ソルビトール-アクリレート(1つまたは複数のアクリレート基からなる)。
【化2】
【0100】
(2)ソルビトールアクリレートが部分的に酸化されていてもよく、アルデヒド、ケトおよび/またはカルボキシ基を含み得る、ソルビトールアクリレート。
【化3】
【0101】
(3)カルボキシ基などのさらなる反応性基を含み得る、ソルビトールアクリレート(1つまたは複数のアクリレート基を有する)。
【化4】
【0102】
(4)無水物、例えば重合性基を有するソルビタン(モノ)アクリレート。
【化5】
【0103】
(5)非重合性基、例えばカルボキシ基を有するソルビトール。
【化6】
【0104】
(6)重合性ではないが機能性層のポリマーマトリックス中に組み込むことができる、複合ソルビトール化合物。
【化7】
【0105】
機能性層の構造は、物質の具体的な組成によって変えることができる。例えば、架橋剤の割合を高めることによって、より緊密な網目状の機能性層を製造するか、または架橋剤の割合を低減することによって、より長い線状領域を有するより低度に架橋した機能性層を製造することが可能である。
【0106】
本発明によるコーティングの別の利点は、接着促進の中間段階を介して、コーティングが、関連する接着促進剤のために活性化可能であり、特に活性化された、装置の表面および構造のみを被覆することである。したがって、機能性コーティング溶液を塗布する際に、コーティングすべきでない領域を付加的に保護する必要なしに、装置全体を機能性コーティング溶液に浸漬することが可能である。
【0107】
このような選択的コーティング、それぞれ選択的に実施されるコーティング方法は、複数の装置について、少なくとも、異なる材料から作製される装置(この場合、関連するコーティングはこれらの材料の一部にのみ適用される)について、上述の利点を提供する。
【0108】
本発明により提案されるコーティングは、コーティング方法が、後に機能性層を担持することが意図される装置の部分/領域のみを活性化することを可能にする。また、コーティングされる部分が接着促進のために活性化可能な物質を含むように、装置が既に設計されていることも考えられる。
【0109】
本発明によるコーティングが施された装置は、特に血管内、神経血管および心血管の分野の適用のために適切である;しかしながら、本発明による装置のためのコーティングは、血液と接触するすべての装置に常に便宜に適用し得る。
【0110】
装置に関してなされた任意の全ての説明は、同様に関連する方法にも適用され、その逆も同様である。
【0111】
試験
本発明により提案されるコーティングの有効性を評価するために、本発明のコーティングを一連のインビトロ試験に供した。このために、コーティングされていない小ニチノールプレート試験片、および、本発明に従ってシラン化され、その後重合ソルビトールアクリレートでコーティングされた小ニチノールプレート試験片を、試験系列ごとに、ヘパリン化全血と共に10分間インキュベートした。次いで、蛍光標識CD61抗体を用いた蛍光顕微鏡法により、血小板の接着を測定した。
【0112】
本発明に従ってコーティングされたニチノールプレート試験片に対する血小板の接着は、コーティングされていないニチノールプレートと比較して有意に低いことが見出された。
【国際調査報告】