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特表2024-505240脂肪肝疾患の予防、進行防止および処置のための経口医薬品および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-05
(54)【発明の名称】脂肪肝疾患の予防、進行防止および処置のための経口医薬品および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/167 20060101AFI20240129BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240129BHJP
【FI】
A61K31/167
A61P1/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546137
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-09-26
(86)【国際出願番号】 US2022014550
(87)【国際公開番号】W WO2022165328
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】63/144,386
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522113590
【氏名又は名称】アードバーク・セラピューティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AARDVARK THERAPEUTICS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,ジェンフアン
(72)【発明者】
【氏名】ニートハンマー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ティマー,アンジュリ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ティエン-リー
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA19
4C206GA31
4C206KA01
4C206KA15
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA57
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA75
(57)【要約】
酢酸デナトニウム(DA)、クエン酸デナトニウム、マレイン酸デナトニウム、デナトニウムサッカライドおよび酒石酸デナトニウムからなる群より選択されるデナトニウム塩を含む、苦味受容体アゴニストを含む、脂肪肝疾患を予防、進行防止および/または処置するための方法で用いるための医薬組成物を開示する。いくつかの実施態様において、脂肪肝疾患の予防または進行防止のためのデナトニウム塩の1日用量は、25mg/kg~約45mg/kgのQDであり、既存の脂肪肝疾患の処置のためのデナトニウム塩の1日用量は、QDまたはBIDで投与される1日当たり70mg/kg~200mg/kgである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デナトニウム塩を含む苦味受容体アゴニストを含む有効量の医薬組成物を投与することを含む、肝線維化を伴うまたは伴わない脂肪肝疾患を予防、進行防止および/または処置するための方法であって、デナトニウム塩が、酢酸デナトニウム(DA)、クエン酸デナトニウム、マレイン酸デナトニウム、デナトニウムサッカライドおよび酒石酸デナトニウムからなる群より選択される、方法。
【請求項2】
成人におけるNASHおよび関連肝疾患の処置方法のためのデナトニウム塩の投与量範囲が、約1.0mg/kg/日~約12mg/kg/日である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
成人のデナトニウム塩の1日投与量が、約2mg/kg/日~約8mg/kg/日である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
成人のDAの1日投与量が、約3mg/kg/日~約6mg/kg/日である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
方法が、成人の脂肪肝疾患の予防または進行防止のためであり、デナトニウム塩の投与量範囲が、約0.1mg/kg/日~約8mg/kg/日であり、所望により、脂肪肝疾患が、NASHを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
成人のデナトニウム塩の1日投与量が、約0.25mg/kg/日~約4mg/kg/日である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
成人のデナトニウム塩の1日投与量が、約0.5mg/kg/日~約3mg/kg/日である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
デナトニウム塩の1日用量が、1日1回(QD)、1日2回(BID)または1日3回(TID)投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
デナトニウム塩を含む苦味受容体アゴニストを含む、化合物の使用であって、デナトニウム塩が、酢酸デナトニウム(DA)、クエン酸デナトニウム、マレイン酸デナトニウム、デナトニウムサッカライドおよび酒石酸デナトニウムからなる群より選択され、化合物が、ラセミ混合物、またはエナンチオマー、ジアステレオ異性体もしくは医薬的に許容される塩として投与されるものであり、NAFLD、NASHまたはASHの処置、進行防止または予防のための医薬の製造のためである、使用。
【請求項10】
成人におけるNASHおよび関連肝疾患の処置のための使用のためのデナトニウム塩の投与量範囲が、約1.0mg/kg/日~約12mg/kg/日である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
成人のデナトニウム塩の1日投与量が、約2mg/kg/日~約8mg/kg/日である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
成人のDAの1日投与量が、約3mg/kg/日~約6mg/kg/日である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
使用が、成人の脂肪肝疾患の予防または進行防止のためであり、デナトニウム塩の投与量範囲が、約0.1mg/kg/日~約6mg/kg/日であり、所望により、脂肪肝疾患が、NASHを含む、請求項9に記載の使用。
【請求項14】
成人のDAの1日投与量が、約0.25mg/kg/日~約4mg/kg/日である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
成人のDAの1日投与量が、約0.5mg/kg/日~約3mg/kg/日である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
デナトニウム塩の1日用量が、1日1回、1日2回または1日3回投与される、請求項9~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
脂肪肝疾患が、NASHを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項18】
脂肪肝疾患が、ASHを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項19】
脂肪肝疾患が、NAFLDを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項20】
脂肪肝疾患が、HIV関連脂肪性肝炎を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項21】
脂肪肝疾患が、肝線維化を伴う、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項22】
脂肪肝疾患が、肝線維化を伴わない、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項23】
デナトニウム塩が、クエン酸デナトニウムである、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項24】
デナトニウム塩が、酒石酸デナトニウムである、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項25】
デナトニウム塩が、酢酸デナトニウムである、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項26】
デナトニウム塩が、マレイン酸デナトニウムである、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項27】
デナトニウム塩が、デナトニウムサッカライドである、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法または使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年2月1日出願の米国仮特許出願第63/144,386号の優先権の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、デナトニウム塩を含む苦味受容体アゴニストを含む有効量の医薬組成物を投与することを含む、脂肪肝疾患を予防、進行防止および処置する方法であって、デナトニウム塩が、酢酸デナトニウム(DA)、クエン酸デナトニウム、マレイン酸デナトニウム、デナトニウムサッカライドおよび酒石酸デナトニウムからなる群より選択され;脂肪肝疾患の予防または進行防止のためのデナトニウム塩の1日用量が、約0.1mg/kg/日~約8mg/kg/日であり、既存の脂肪肝疾患の処置のためのデナトニウム塩の1日用量が、約1mg/kg/日~約8mg/kg/日であり、それぞれQD、BIDまたはTIDで投与される、方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
脂肪肝疾患は、肝線維化を伴うまたは伴わない、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)およびHIV関連脂肪性肝炎を含む肝疾患群を表わす用語である。具体的には、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、罹患率と死亡率の増加に関連する一般的な肝疾患である。しかし、NASH処置モデルとされるもので多くの化合物が試験されているにもかかわらず、FDAが承認した処置選択肢はない。非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、米国では成人の3~5人に1人、小児の10人に1人が罹患している障害である。これらは、アルコールをほとんどまたはまったく飲まない人の肝臓に過剰な脂肪が蓄積している状態である。NAFLDの最も一般的な形態は、肝細胞に脂肪が蓄積する(これは正常ではないが、それ自体は肝臓に損傷を与えることはおそらくない)、脂肪肝(hepatic steatosis)(脂肪肝(fatty liver))と呼ばれる非重篤な状態である。NAFLDは、メタボリックシンドロームと呼ばれる一連の危険因子を有する個人に現れることが最も多く、食後の糖に対する不耐性の有無にかかわらず、空腹時血漿グルコース(FPG)の上昇、過体重または肥満、高い血中脂質、例えばコレステロールおよびトリグリセリド(TG)および低い高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)レベル、及び高血圧を特徴とするが、すべての患者がメタボリックシンドロームのすべての症状を持っているわけではない。肥満は、NAFLDの最も一般的な原因であると考えられており、一部の専門家は、肥満の成人の約3分の2と肥満の小児の約2分の1が脂肪肝を有し得ると推定している。NAFLD患者の大多数は、症状がなく、身体検査も正常である(ただし、肝臓がわずかに肥大している場合がある)。小児は、腹痛および倦怠感などの症状を示し、斑点状の黒い皮膚の変色(黒色表皮腫)を示すことがある。NAFLDの診断は、通常、日常の検査中に肝臓血液検査で軽度の上昇が見られた過体重または肥満の人で最初に疑われるが、NAFLDは、正常な肝臓血液検査で存在することがあれば、または画像検査、例えば超音波検査またはCTスキャンで偶然検出されることもある。画像検査、最も一般的には肝臓超音波検査または磁気共鳴画像法(MRI)によって確認され、他の原因が除外される。
【0004】
一部のNAFLD患者は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼ばれるより重篤な状態を発症する場合があり、成人アメリカ人の約2~5%、肥満の成人アメリカ人の最大20%がNASHに罹患し得る。NASHでは、肝臓における脂肪の蓄積が、炎症および様々な程度の瘢痕化に関連している。NASHは、末期肝疾患、肝硬変および肝細胞癌に進行する重大なリスクを伴う潜在的に重篤な状態である。肝硬変を発症する一部の患者には肝不全のリスクがあり、最終的には肝移植が必要になる場合がある。したがって、体重減少は、NASHを予防する、またはNASHの進行を遅延させるために推奨される手段である。しかしながら、肝線維化損傷が生じると、体重減少がNASHを処置することは示されていない。
【0005】
NAFLDは、脂肪変性(steatosis)(0~3)、小葉の炎症(lobular inflammation)(0~2)および肝細胞の風船化(hepatocellular ballooning)(0~2)についての肝生検の組織病理学的スコアの合計であるNAFLD活動スコア(NAS)によってNASHと区別され得る。3未満のNASは、NAFLDに対応し、3~4は境界型NASHに対応し、5以上はNASHに対応する。生検は、線維化(0~4)についてもスコア化される。
【0006】
NASHは、末期肝疾患の主な原因である。
【0007】
NAFLDおよびNASHの処置
NAFLDまたはNASHを予防または処置するために現在承認されている薬はない。NAFLD/NASHには多くの薬理学的介入が試みられているが、全体として利益は限られている。抗酸化剤は脂質の過酸化を阻止し、細胞保護剤はリン脂質膜を安定化させ得るが、これまで試みた薬剤で不成功に終わっているかまたはわずかな利益しか得られなかったものには、ウルソデオキシコール酸、ビタミンE(α-トコフェロール)およびビタミンCおよびペントキシフィリンが含まれる。オルリスタットなどの体重減少剤は、食事制限および運動をするだけで体重減少を達成すること(「体重減少単独」)と比べて、有意な利点はない。NAFLD/NASHにおける体重減少研究の多くは、短期間のパイロット研究であって、成功が限られており、壊死性炎症または線維化のわずかな改善のみが報告されている。ピオグリタゾン、チアゾリジンジオンペルオキシソーム増殖剤活性化受容体-γ(PPARγ)作動薬およびインスリン感作薬に対する、体重減少単独の無作為化二重盲検プラセボ対照6か月試験(Belfort, "A placebo-controlled trial of pioglitazone in subjects with nonalcoholic steatohepatitis", N. Engl. J. Med., 355, 2297-2307 (2006))は、体重減少単独では改善を示さなかったが、ピオグリタゾンでの処置は、NASHおよびIGTまたはT2DM患者において、血糖コントロール、インスリン感受性、全身性炎症の指標(hsCRP、腫瘍壊死因子αおよびトランスフォーミング増殖因子βを含む)、および肝臓の組織学を改善した。ピオグリタゾンでの処置はまた、脂肪、肝臓および筋肉のIRを改善し、壊死性炎症の約50%減少(p<0.002)および線維化の37%減少(p=0.08)と関連していた。肝細胞傷害および線維化の改善は、ピオグリタゾンを12か月間用いた別の対照試験で報告されている。対照的に、糖尿病処置として承認されている他のチアゾリジンジオンであるロシグリタゾンを用いた第1の無作為化臨床研究は、NASHにおいてIR、血漿アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルおよび脂肪変性の減少を示した一方で、ロシグリタゾン処置は壊死、炎症または線維化に対して有意な効果を示さなかった。これらの結果で、ALT、インスリン抵抗性およびその他の糖尿病指標が低下しても、NASHの重要な指標である肝線維化は減少しなかったことに注目することが重要である。したがって、糖尿病のコントロールは、NASHの処置またはNASHの予防に十分ではない。さらに、ピオグリタゾンとロシグリタゾンの両方には厳しい安全性制限がある。この試験の2年間の非盲検フォローアップの予備報告も期待外れで、ロシグリタゾン処置による有意な利益は認められなかった。NASHにいくらかの有効性がある薬剤の1つはピオグリタゾンである。残念ながら、ピオグリタゾンは、女性と男性の両方において、体重増加、浮腫、うっ血性心不全および骨粗鬆症性骨折のリスクの著しい増加とも関連している。
【0008】
NASH患者を対象とした第2相試験は、毎日皮下投与されるセマグルチド(GLP-1アゴニスト)での処置により、プラセボよりもNASHが消散した患者の割合が高くなることを示した。しかしながら、この試験は、線維化段階が改善した患者の割合に群間の有意差は示さなかった(Newsome et al., N. Engl. J. Med. "A Placebo-Controlled Trial of Subcutaneous Semaglutide in Nonalcoholic Steatohepatitis" November 13, 2020)。残念なことに、「線維化の悪化なくNASHの消散が達成された患者の割合は、0.1mg群で40%、0.2mg群で36%、0.4mg群で59%、0.4mg群で17%、プラセボ群で17%であった(P=0.48)。体重減少の平均割合は、0.4mg群で13%、プラセボ群で1%であった。悪心、便秘および嘔吐の発生率は、プラセボ群より0.4mg群で高かった(悪心42%対11%、便秘22%対12%、嘔吐15%対2%)。悪性新生物は、セマグルチドを投与された患者3名(1%)で報告されたが、プラセボを投与された患者では報告されなかった。全体として、新生物(良性、悪性または不定)がセマグルチド群の患者の15%、プラセボ群では8%で報告された。特定の臓器での発生パターンは観察されなかった。」したがって、セマグルチドなどのGLP-1アゴニストでさえ、NASHの処置、予防または進行遅延に必要な長期投与のリスクを正当化するNASHの予防または処置のための穏やかな処置ではない。
【0009】
得られた臨床データの要約は、NASHの処置は、どのような体重減少技術であっても、処置手段としての体重減少とは無関係のように見えることを示した。しかし、体重減少は、NASHの予防の有効な手段であり得て、これはNASHの進行を示す可能性がある。したがって、NASHを含む脂肪肝疾患の予防、進行防止および処置を予測するための、より良く受け入れられるトランスレーショナルモデルが必要とされている。したがって、特に処置を注射ではなく経口で送達できる場合には、効果的で安全なNASH処置選択肢が必要とされている。また、完全なNASH肝疾患および損傷の発症を予防し、NASHの進行を示すための安全な薬剤も必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、デナトニウム塩を含む苦味受容体アゴニストを含む有効量の医薬組成物を投与することを含む、脂肪肝疾患を予防、進行防止および/または処置するための方法であって、デナトニウム塩が、酢酸デナトニウム(DA)、クエン酸デナトニウム、マレイン酸デナトニウム、デナトニウムサッカライドおよび酒石酸デナトニウムからなる群より選択され;脂肪肝疾患の予防または進行防止のためのデナトニウム塩の1日用量が、約0.1mg/kg/日~約8mg/kg/日であり、既存の脂肪肝疾患の処置のためのデナトニウム塩の1日用量が、約1mg/kg/日~約8mg/kg/日であり、それぞれQD、BIDまたはTIDで投与される、方法を提供する。
【0011】
より具体的には、本開示は、デナトニウム塩を含む有効量の医薬組成物を投与することを含む、肝線維化を伴うまたは伴わない、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)およびHIV関連脂肪性肝炎からなる群より選択される脂肪肝疾患を予防および進行防止するための方法であって、デナトニウム塩が、酢酸デナトニウム(DA)、クエン酸デナトニウム、マレイン酸デナトニウム、デナトニウムサッカライドおよび酒石酸デナトニウムからなる群より選択され、脂肪肝疾患の予防または進行防止のためのデナトニウム塩の1日用量が、約0.1mg/kg/日~約8mg/kg/日のQD、BID、またはTIDである、方法を提供する。好ましくは、医薬組成物は、約0.5g~約5gの酢酸をさらに含む。より好ましくは、成人に対する酢酸の1日当たりの投与量は、約1.5g~約3gである。
【0012】
本開示は、デナトニウム塩を含む有効量の医薬組成物を投与することを含む、肝線維化を伴うまたは伴わない、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)およびHIV関連脂肪性肝炎からなる群より選択される肝疾患を処置するための方法であって、デナトニウム塩が、酢酸デナトニウム(DA)、クエン酸デナトニウム、マレイン酸デナトニウム、デナトニウムサッカライドおよび酒石酸デナトニウムからなる群より選択され、既存の脂肪肝疾患の処置のためのデナトニウム塩の1日用量が、QD、BIDまたはTIDで投与される約1.0mg/kg/日~約8mg/kg/日である、方法を提供する。好ましくは、医薬組成物は、約0.5g~約5gの酢酸をさらに含む。より好ましくは、成人に対する酢酸の1日当たりの投与量は、約1.5g~約3gである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1A~Bは、ビヒクルまたは30mg/kg DAでの1年間の毎日の処置中のAMLN食餌を与えたマウスの群平均の絶対体重(図1A)および相対体重(%ベースライン、図1B)を示す。
図2図2は、DA処置マウスの空腹時血糖値が、24週目のみでビヒクル処置マウスでのものより有意に低かったことを示している。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。NS、有意でない。
図3図3は、DA処置マウスのインスリンレベルが、4および12週目に有意に上昇したが、その後は上昇しなかったことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。**p<0.01。NS、有意でない。
図4図4は、DA処置マウスのHbA1cレベルが、12および48週目に有意に低下したが、24週目では低下しなかったことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。(HbA1cレベルを投与前または4週目にアッセイしなかった。)対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。**p<0.01。***p<0.001。NS、有意でない。HbA1cを投与前または4週目にアッセイしなかった。
図5図5Aは、DA処置マウスのGLP-1レベルが、24週目のみで有意に低下したことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。差の大きさは他の時点と同様であったが(統計的有意性がない)、24週目の変動は他の週より小さく、この効果の統計的有意性は意味がないことが示唆している。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。***p<0.001。NS、有意でない。図5Bは、GLP-2レベルを示す。GLP-2は48週目にのみアッセイしたことに注意すること。DA処置マウスのGLP-2レベルは、このパラメーターを評価した唯一の時点である48週目にビヒクル処置マウスでのものと有意差はなかった。
図6図6は、DA処置マウスの血清ALT活性レベルが、24および48週目に有意に低下したが、それ以前は低下しなかったことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。**p<0.01。***p<0.001。NS、有意でない。
図7図7は、DA処置マウスの血清AST活性レベルが、24週目のみで有意に低下したことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。**p<0.01。NS、有意でない。
図8図8は、DA処置マウスの血清ALBレベルは、どの評価時点でもビヒクル処置マウスでのものと有意差はなかったことを示す。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。NS、有意でない。
図9図9は、DA処置マウスの血清BAレベルが、24週目のみで有意に低下したことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。NS、有意でない。
図10図10は、IL-6(図10A)、IL-9(図10B)、IL-13(図10C)、IP-10(図10D)、KC(図10E)、MCP-1(図10F)、MIP-1a(図10G)、MIP-1B(図10H)、MIG(図10I)およびTNFα-6(図10J)について、ビヒクルまたは30mg/kgでの1年間毎日処置の間、AMLN食餌を与えたマウスにおいて統計学的有意差を示したサイトカインの血中レベル(n=10)を示す。サイトカイン名/グラフタイトルの括弧内の整数は、マルチプレックスアッセイの一部として使用されたアッセイ番号に対応する。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。**p<0.01。NS、有意でない。
図11図11A(絶対値)およびB(相対値、体重正規化)は、ビヒクルまたは30mg/kg DAで1年間毎日処置した後の剖検肝臓重量を示す。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。NS、有意でない。
図12図12は、ビヒクルまたは30mg/kg DAで1年間毎日処置した後の血清HDL、LDLおよびTGAレベルを示す。血清TGAレベルは、1年間毎日投与した後、DA処置マウスが有意に低下したが、HDLまたはLDLは低下しなかった(ビヒクル投与動物と比較)。DA、酢酸デナトニウム。HDL、高密度リポタンパク質。LDL、低密度リポタンパク質。TGA、トリグリセリド。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。NS、有意でない。
図13図13は、ビヒクルまたは30mg/kg DAで1年間毎日処置した後の肝臓TGA(図13A)、TC(図13B)およびFFA(図13C)を示す。1年間毎日投与した後、DA処置マウスにおいて、肝臓のTGAレベルは有意に低下したが、TCまたはFFAのレベルは低下しなかった(ビヒクル投与マウスと比較)。
図14図14は、DA(ARD-101)での処置が盲検病理組織学的検査に基づいてNAFLD活動性スコアを有意に改善したことを示す。
図15図15Aおよび15Bは、ARD-101(DA)での処置が、AMLN食誘発性NASHマウスの体重(図15A)および体重変化(図15B)に対して顕著な効果を示したことを示す。データは平均値で表す。統計分析を片側t検定で実施した。ビヒクルと比較して***p<0.001;組合せと比較して$$P<0.01および$$$P<0.001。
図16図16Aおよび図16Bは、肝臓重量(図16A)および肝臓/体重比(図16B)を示し、DA(ARD-101)がビヒクルと比較して肝臓重量および肝臓/体重比を有意に減少させたことを示す。
図17図17AはALTレベルを示し、図17BはASTレベルを示す。試験終了時に、DA(ARD-101)はビヒクル対照と比較してALTおよびASTレベルを有意に低下させた。
図18図18A(トリグリセリド(TG))、18B(LDL)および18C(HDL)はそれぞれ、実施例2の試験終了時に、DA(ARD-101)が、トリグリセリド(TG)、低密度リポタンパク質(LDL)および高密度リポタンパク質(HDL)を有意に減少させたことを示す。
図19図19は、示した処置群についての実施例2の試験終了時のグルコースレベルの変化を示す。
図20図20は、実施例2の試験終了時の示した処置群についてのHbA1cレベルを示す。ベースラインHbA1cレベルは、5.0%であった。
図21図21は、示した処置群についての実施例2の試験終了時のインスリンレベルを示す。ベースラインインスリンレベルは、1.5ng/mlであった。
図22図22は、2つの処置が、ビヒクル対照と比較して胆汁酸レベルに有意な影響を及ぼさなかったことを示す。ベースライン胆汁酸レベルは、30μmol/Lであった。
図23図23A(CK-18)は、DA(ARD-101)が、ビヒクル対照と比較してCK-18レベルを有意に低下させたことを示す。図23Bは、示した処置群についてのTGF-β1レベルを示す。
図24図24Aおよび24Bは、実施例2の試験終了時に、2つの処置が、ビヒクルと比較してIL-6およびTNF-αレベルに有意な影響を及ぼさなかったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、脂肪肝疾患の予防に焦点を当てた第1インビボ研究(実施例1に示す)と、その後、脂肪肝疾患の処置に焦点を当てた第2インビボ研究(実施例2に示す)に基づいている。両研究から得られたこれらのデータは、様々な投与頻度および用量範囲でのデナトニウム塩での処置は、影響を受けやすい個人(NASHの発症リスクが極めて高い2型糖尿病患者など)における脂肪肝疾患の予防効果と、より少ない1日1回のデナトニウム塩の経口投与での疾患進行の防止効果の両方を提供できるという驚くべき証拠を提供する。また、インビボモデルでNASHを処置するには、より多い1日2回のデナトニウム塩の投与が必要であり、GLP-1アゴニストと同様の効果がありながら、GLP-1アゴニストのプロトタイプとして販売されているセマグルチドの既知の(ヒトでの)重篤な副作用はなかった。
【0015】
定義:
「脂肪肝疾患」は、肝線維化を伴うまたは伴わない、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)およびHIV関連脂肪性肝炎を含む、肝臓における望ましくない脂肪の蓄積を特徴とする疾患群のいずれかを意味する。
【0016】
デナトニウム塩の「治療有効量」は、NAFLDまたはNASHなどの脂肪肝疾患を処置するためにヒトに投与した場合に、脂肪肝疾患の処置に効果を及ぼすのに十分な量を意味する。ヒトにおけるNAFLDまたはNASHの「処置すること」または「処置」は、以下の1つ以上を含む:
(1)NAFLDまたはNASHを発症するリスクを予防または軽減すること、すなわち、NAFLDまたはNASHの素因があるかもしれないが、まだNAFLDまたはNASHの症状を経験または示していない対象体において、NAFLDまたはNASHの臨床症状が生じないようにすること(すなわち予防);
(2)NAFLDまたはNASHを抑制すること、すなわち、NAFLDもしくはNASHまたはその臨床症状の発症を止めるまたは軽減すること;および
(3)NAFLDまたはNASHを緩和すること、すなわち、NAFLDまたはNASHの退行、逆転または改善を引き起こすか、またはその臨床症状の数、頻度、期間または重症度を軽減すること。
特定の対象体に対する治療有効量は、処置される対象体の健康および身体状態、NAFLDまたはNASHの程度、医学的状況の評価、および他の関連要因に応じて変化する。治療有効量は、日常的な試験を通じて決定できる比較的広い範囲に入ることが予想される。
【0017】
「または」は、文脈上別段の必要がない限り、包括的な意味(「および/または」と同等)で使用される。
【0018】
本明細書で用いる範囲および量は、特定の値または範囲を「約」として表現し得る。「約」は、正確な量も含む。したがって、「約5mg」は「約5mg」およびまた「5mg」を意味する。一般に、用語「約」は、実験誤差の範囲内にあると予想される量、例えば、15%、10%または5%以内を含む。
【0019】
セクションの見出しは、読者の便宜のためにのみ提供されており、開示を限定するものではない。
【0020】
(投与量)
実施例1および2における2つのインビボマウス試験の結果、およびヒト第1相臨床安全性試験における第1の結果は、本開示のデナトニウム塩の安全で有効な投与量範囲を提供した。マウスからヒトへの換算式に基づいて、マウスにおける50mg/kg、BID(実施例2におけるインビボ試験での処置に使用される用量)に相当するヒトの用量は4mg/kg、BID(または8mg/kg/日)である。成人の平均体重が60kgであることを考慮すると、対応する用量は240mg、BID(または480mg/日)である。ファースト・イン・ヒューマン臨床試験において、240mg、BID(480mg/日)の忍容性は良好であった。したがって、処置目的の場合、1日あたりの投与量上限(成人)600mg~1000mgは、安全で忍容性があり、本明細書で提供する前臨床マウスモデルでは、より低い1日用量でも有効性が示されている。
【0021】
具体的には、脂肪肝疾患については、デナトニウム塩の1日当たりの成人用量は、1日当たり約10mg~約600mgまたは約0.2mg/kg体重~約10mg/kg体重である。最も好ましくは、成人のためのデナトニウム塩は、1日当たり約40mg~約400mgまたは約1mg/k体重g~約8mg/kg体重である。デナトニウム塩の1日量は、1日1回、1日2回または1日3回投与される。最も好ましくは、デナトニウム塩の1日量は、1日2回投与される。
【0022】
具体的には、脂肪肝疾患の予防については、デナトニウム塩の1日当たりの成人用量は、1日当たり約5mg~約400mgまたは約0.1mg/kg体重~約8mg/kg体重である。最も好ましくは、成人のためのデナトニウム塩は、1日当たり約20mg~約200mgまたは約0.5mg/kg体重~約4mg/kg体重である。デナトニウム塩の1日量は、1日1回、1日2回または1日3回投与される。最も好ましくは、デナトニウム塩の1日用量は、1日1回投与される。
【0023】
参照により組み込まれる資料が本開示の明示的な内容と矛盾する限りにおいて、明示的な内容が優先される。
【0024】
【化1】

酢酸デナトニウム無水物またはDAは、100mgのDAごとに83mgのデナトニウムカチオン、17mgの酢酸アニオンが存在する無水塩である。
【0025】
このスキームAは、酢酸デナトニウム(DA)の合成を説明している。
【0026】
工程1:リドカインからの水酸化デナトニウムの合成
還流装置に25gのリドカイン、60mlの水および17.5gの塩化ベンジルを加え、撹拌しながら70~90℃で加熱する。溶液を先に示した値で24時間加熱および撹拌する必要があり、溶液を30℃に冷却する必要がある。未反応の試薬を3×10mLのトルエンで除去する。撹拌しながら65gの水酸化ナトリウムを65mLの冷水に溶解させ、それを撹拌しながら3時間かけて水溶液に加える。混合物をろ過し、いくらかの水で洗浄し、オープンエアで乾燥させる。熱クロロホルムまたは熱エタノール中で再結晶する。
【化2】
【0027】
工程2:水酸化デナトニウムから無水酢酸デナトニウムの製造
還流装置に、10gの水酸化デナトニウム(MW:342.475g/mol、0.029mol)、20mLのアセトン、および15mLのアセトンに溶解させた2gの氷酢酸(0.033mol)を加え、混合物を35℃で3時間撹拌および加熱する。その後、蒸発乾固し、熱アセトン中で再結晶させた。
【化3】
【0028】
DA錠剤の処方
これは、胃内即時放出経口医薬製剤として、遊離塩基としての酢酸デナトニウム(DA)の即時放出50mg顆粒製剤を提供する。
【0029】
表1に、DAの定性的および定量的な製剤組成を示す。
【表1】
【0030】
以下に詳細な製造工程を説明する。
【0031】
1. 薬物積層プロセス - 薬物積層ペレット
薬物積層プロセスを、ローターインサートを備えた流動床造粒機(ローター造粒機)で実施した。薬物溶液を、ポビドンK30(Kollidon 30)と酢酸デナトニウムをエチルアルコール中に溶解させることにより調製した。薬物溶液を、ローター造粒機内で円運動をする白糖球状顆粒(35/45メッシュ)の床に接線方向に噴霧した。その後、最終的な薬物負荷ペレットを、ローター造粒機内で10分間乾燥させ、取り出し、#20メッシュを通して篩過した。
【0032】
2. シールコーティングプロセス - シールコーティングペレット
シールコーティング分散液を、ヒプロメロースE5をエチルアルコールと精製水の混合物(1:1)中に透明な溶液が得られるまで別々に溶解させることにより調製した。その後、残りの量のエチルアルコールを上記の溶液に加え、続いてタルクを加えた。分散液を20分間混合して、タルクを均一に分散させた。シールコーティング分散液を、薬物負荷ペレット上に接線方向に噴霧して、5%の重量増加を達成した。その後、シールコーティングペレットを、ローター造粒機内で5分間乾燥させ、取り出し、箱型乾燥機/オーブン内で55℃にて2時間さらに乾燥させた。その後、シールコーティングペレットを、#20メッシュを通して篩過した。
【0033】
3. 最終混合 - デナトニウム即時放出(IR)ペレット
シールコーティングペレットを、V型混合器を用いてメッシュ#60を通して篩過したタルクと混合し、取り出した。混合したシールコーティングビーズ、デナトニウムIRペレットを、カプセル化に用いた。
【0034】
4. カプセル化 - デナトニウムカプセル剤50mg
50mgのデナトニウムIRペレットを、自動カプセル充填機を用いてサイズ1の白色不透明な硬ゼラチンカプセルに充填した。その後、カプセルをインラインカプセル研磨機および金属検出器に通した。カプセルの重量および外観の工程内制御を、カプセル化プロセス中に実施した。合格品質水準(AQL)のサンプリングおよび検査を、カプセル化プロセス中に複合サンプルに対して品質保証(QA)により実施した。完成品の複合サンプルを採取し、出荷試験の規格に従って分析した。
【0035】
5. 包装 - カプセル剤50mg - 30個
50mgのカプセル剤を、33mmの白色CRCキャップが付いた50/60cc白色HDPE丸形Sラインボトルに30個ずつ包装した。ボトルを、インダクションシーラーを用いて締め付け、密閉した。
【表2-1】


【表2-2】


【表2-3】


【表2-4】


【表2-5】
【0036】
表2は、大きく異なるNASHインビボモデルにおける様々な結果を示している。これは、データの直接比較を困難にする。第1の行に対応する研究(アードバーク・セラピューティクスと呼ばれる)は、以下の実施例1に提供され、図は本開示とともに提供される。多くの従来技術のNASHモデルとは異なり、マウスモデルにおいて完全な線維化NASHを誘導するには少なくとも30週間のAMLN食が必要と推定されるため、本開示では極めて長い48週間の毎日投与を行ったことに留意すべきである。他の研究の多くは期間が短かった。したがって、実施例1の研究は、NASHおよび肝線維化を特徴とする類似の肝疾患の予防または進行遅延の方法の効果をより予測するものである。
【0037】
NASH処置のモデルとして体重減少を強調した研究は、既存のNASH状態の処置に向けられているようである。したがって、本開示は、2020年12月23日出願の米国特許出願第17/132,580号を参照によりさらに組み込む。特に、実施例9および添付の図は、より高用量のDA(46.2mg/kg/日のDAまたは37.4mg/kg/日の乾燥デナトニウムに相当する23.1mg/kg BID)を用いた体重減少研究の結果を示し、これは体重増加の著しい減少を示している。約2倍のDAの1日用量を用いたDIOのより短期間の体重減少研究とは対照的に、より低用量のDAを用いた本NASH予防研究は、48週間にわたるビヒクル対照との体重増加に差異を示さなかった(本明細書の図1)。したがって、この比較は、1日当たり予防に対してより高用量のDAが処置では必要とされるか、より高頻度の投与が処置では必要とされるか、あるいは両方の態様が処置では必要とされることを意味する。しかし、実施例1の研究は、同様の用量ではあるが、1日1回のみ(2回ではなく)が、NASHの予防および進行遅延に十分であるが、NASHの処置のマーカーとなり得る体重減少には十分ではないことを明確に示している。したがって、NASHおよび関連肝疾患の処置方法についてのデナトニウム塩の投与量範囲は、約1.0mg/kg/日~約12mg/kg/日;好ましくは約2mg/kg/日~約8mg/kg/日;最も好ましくは約3mg/kg/日~約6mg/kg/日である。したがって、NASHおよび関連肝疾患の予防および進行遅延の方法におけるデナトニウム塩の投与量範囲は、約0.1mg/kg/日~約6mg/kg/日、好ましくは約0.25mg/kg/日~約4mg/kg/日;最も好ましくは約0.5mg/kg/日~約3mg/kg/日である。
【0038】
(実施態様)
第1態様において、本開示は、デナトニウム塩を含む有効量の医薬組成物を投与することを含む、肝線維化を伴うまたは伴わない脂肪肝疾患(例えば、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)およびHIV関連脂肪性肝炎)の予防または進行防止のための方法であって、デナトニウム塩が、酢酸デナトニウム(DA)、クエン酸デナトニウム、マレイン酸デナトニウム、デナトニウムサッカライドおよび酒石酸デナトニウムからなる群より選択され、脂肪肝疾患の予防または進行防止のためのデナトニウム塩の1日用量が、約0.1mg/kg/日~約8mg/kg/日のQD、BIDまたはTIDである、方法(方法1)を提供する。好ましくは、医薬組成物は、約0.5g~約5gの酢酸をさらに含む。より好ましくは、成人に対する酢酸の1日当たりの投与量は、約1.5g~約3gである。
【0039】
本開示はさらに、脂肪肝疾患の予防または進行防止のための方法の以下の実施態様を提供する:
1.1 脂肪肝疾患が、NASHである、方法1。
1.2 脂肪肝疾患が、NASHまたはNAFLDまたはASHである、方法1または1.1。
1.3 デナトニウム塩が、酢酸デナトニウムである、前記方法のいずれか。
1.4 デナトニウム塩が、クエン酸デナトニウムである、前記方法のいずれか。
1.5 デナトニウム塩が、マレイン酸デナトニウムである、前記方法のいずれか。
1.6 デナトニウム塩の1日用量が、0.2mg/kg/日QDである、前記方法のいずれか。
1.7 デナトニウム塩の1日用量が、1.0mg/kg/日QDである、前記方法のいずれか。
1.8 デナトニウム塩の1日用量が、4.0mg/kg/日QDである、前記方法のいずれか。
【0040】
第2態様において、本開示は、デナトニウム塩を含む有効量の医薬組成物を投与することを含む、肝線維化を伴うまたは伴わない脂肪肝疾患(例えば、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)またはHIV関連脂肪性肝炎)を処置するための方法であって、デナトニウム塩が、酢酸デナトニウム(DA)、クエン酸デナトニウム、マレイン酸デナトニウム、デナトニウムサッカライドおよび酒石酸デナトニウムからなる群より選択され、既存の脂肪肝疾患の処置のためのデナトニウム塩の1日用量が、QD、BIDまたはTIDで投与される約1.0mg/kg/日~約10mg/kg/日である、方法(方法2)を提供する。好ましくは、医薬組成物は、約0.5g~約5gの酢酸をさらに含む。より好ましくは、成人に対する酢酸の1日当たりの投与量は、約1.5g~約3gである。
【0041】
本開示はさらに、脂肪肝疾患の処置のための方法の以下の実施態様を提供する:
2.1 脂肪肝疾患が、NASHである、方法2。
2.2 脂肪肝疾患が、NASHまたはNAFLDまたはASHである、方法2または2.1。
2.3 デナトニウム塩が、酢酸デナトニウムである、前記方法のいずれか。
2.4 デナトニウム塩が、クエン酸デナトニウムである、前記方法のいずれか。
2.5 デナトニウム塩が、マレイン酸デナトニウムである、前記方法のいずれか。
2.6 デナトニウム塩の1日用量が、2.5mg/kg/日BIDである、前記方法のいずれか。
2.7 デナトニウム塩の1日用量が、5mg/kg/日BIDである、前記方法のいずれか。
2.8 デナトニウム塩の1日用量が、7.5mg/kg/日BIDである、前記方法のいずれか。
【0042】
(NASH処置の臨床試験に関するFDAガイダンス)
2021年1月29日、米国食品医薬品局(FDA)は、線維化を伴うNASHに関して、処置薬候補が動物モデルおよび臨床試験でどのように有効性を示すことができるかについてのセミナーを開催した。FDAは、NASH(線維化を伴う、以下NASH)は重篤な状態であり、代用エンドポイントの臨床使用により臨床上の利益を予測できることを確認した。動物試験(例えば本明細書の実施例1で提供されるもの)において、組織病理学的検査は、処置、予防、疾患の進行の有益性のより良い証拠である(動物試験の長さに応じて)。したがって、臨床試験において、FDAは、臨床上の利点(またはその欠如)を示す手段として代用エンドポイントおよび肝生検を受け入れる。FDAは、NASH薬の開発の課題は、肝臓における慢性炎症性変化の徐々にゆっくりとした進行によるものであり、完全なNASH(進行性肝線維化)の予防または処置または進行遅延のNASH薬は、生涯にわたる処置となる可能性があることを認識した。代用エンドポイントに関して、FDAは、組織病理学が「臨床上の利益を予測する可能性がかなり高い」と示唆している。FDAは、NASHが進行させた肝臓の「脂肪性肝炎の他の組織学的特徴ではなく、線維化が、死亡率、移植および肝臓関連の事象の増加と独立して関連している」ことを示した(Angulo et al. Gastroenterology, 149:389-397, 2015を引用)。
【0043】
臨床試験を実施する際に、FDAは、初期段階の試験で非侵襲性の疾患特異的バイオマーカー(例えばアミノトランスフェラーゼ)、総ビリルビンおよびX線検査法(例えばエラストグラフィー、MRI-PDFF)を用いて肝臓の硬さを評価することを提案している。承認のために、FDAは、肝臓組織学上の改善を受け入れる。「肝生検は、組織学上の改善がNASH患者の臨床転帰の改善を予測する可能性が高いことを実証した研究に基づいた代用手段である」。肝線維化は、ステージ0(なし)、ステージ1、ステージ2、ステージ3およびステージ4(肝硬変)にグレート付けされる。NASHの推奨ポイントは、(1)脂肪性肝炎の消散、かつ肝線維化が悪化しないこと;または(2)肝線維化の改善、かつ脂肪性肝炎が悪化しないこと;または(3)脂肪性肝炎の消散と線維化の改善の両方である。
【実施例
【0044】
実施例1
本実施例は、NASH状態が食餌によって誘発されたマウスにおける低用量DA(強制経口投与による30mg/kg/日のQD)の52週間の試験の結果を提供する。このような長期間(48~52週間)の動物誘発性NASHのデータは、NASHを含む脂肪肝疾患を予防する方法、およびNASHを含む脂肪肝疾患の進行を遅らせる方法を裏付けるものと解釈できる。雄性C57BL/6マウス(試験開始時は4週齢)は、到着後、高脂肪の「西洋食」(AMLN食)(DIO-NASH)(D09100301、Research Diet、USA)(脂肪40%(トランス脂肪18%)、炭水化物40%(フルクトース20%))、コレステロール2%、脂肪40kcal%、フルクトース20kcal%、コレステロール2%)で維持し、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を誘発する。順応後、群1および2(各々n=22)に、胃内強制経口投与(PO)によって、(それぞれ)ビヒクル(蒸留水)または酢酸デナトニウム(DA)を30mg/kgで投与した。用量を、1mL/kgの投与量で丸1年間(366日目まで)1日1回(QD)投与した。試験全体を通じて、体重および臨床所見をモニターした。ベースライン(1日目)および試験期間中定期的に(4、12、24および48週目)絶食動物から血液を採取し、血清または血漿に処理し、代謝パラメーター[グルコース、インスリン、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、グルカゴン様ペプチド1および2(GLP-1および-2)]、選択した血清化学パラメーター[Alaアミノトランスフェラーゼ(ALT)、Aspアミノトランスフェラーゼ(AST)、アルブミン(ALB)、および総胆汁酸(BA)]、および複数のサイトカイン(合計32個)を評価した。52週間のQD投与後、絶食動物から採血して安楽死させ、肝臓を採取して重量を測定した。最終的な血清サンプルは、低密度および高密度コレステロール(それぞれLDLおよびHDL)およびトリグリセリド(TGA)について評価し;肝臓は、総コレステロール(TC)、TGA、および遊離脂肪酸(FFA)について評価した。
【0045】
試験中に、1匹のビヒクル投与マウス(51週目)および2匹のDA投与マウス(各々12週目と49週目)を含む3匹の動物が死亡したのが見つかった。これら3匹の動物はいずれも、死亡が発見される前に臨床症状を示していなかったが、DA投与した死亡のうち1匹は44週目から体重の減少を示し、DA投与した死亡のもう1匹は試験開始時から他の動物よりも著しく体重が重かった。群2(DA投与)のいずれかの死亡が被験物質に関連しているかは不明であった。試験期間中に他の臨床所見は認められなかった。
【0046】
両方の群について、体重は、1年の長期試験中にベースラインから平均約200%の増加(すなわち、体重が3倍になる)を示した。注目すべきことに、投与後最初の時点(4日目)での相対体重(群2のDA投与マウスで相対体重が低かったとき)を唯一の例外として、体重(絶対値または相対値で表す)に、試験中、2群間で統計的有意差は認められなかった。
【0047】
生存中の血液サンプルについて、DA投与マウスは、以下の有意な差を示した(ビヒクルと比較)。
・代謝パラメーター:24週目に空腹時血糖およびGLP-1レベル、ならびに12および48週目にHbA1cの減少;および4および12週目にインスリンレベルの評価。GLP-2レベルには有意差は見られなかった(48週目にのみ評価)。
・血清化学:24および48週目にALT、ならびに24週目にASTおよびBAの減少。血清ALBレベルには有意差は見られなかった。
・サイトカイン:4週目にIP-10およびMIP-1B;12週目にIL-13;24週目にMIP-1a;48週目にIL-6、IL-9およびKC;4および48週目におよびMIGの減少。他の評価したサイトカインのレベル(n=24)には、処置に関連した有意な差は見られなかった。
【0048】
1年間のQD投与後の剖検では、DA処置マウスにおいて相対的(体重で正規化した)肝臓重量は減少したが、絶対的肝臓重量は減少しなかった(ビヒクル投与動物と比較)。
【0049】
最終的な血液サンプルから、1年間毎日投与した後、DA処置マウスにおいて血清TGAレベルが有意に低下した(ビヒクル投与動物と比較)ことが明らかになった。剖検肝臓サンプルでは、DA処理マウスにおいてTGAレベルが著しく低下したが、TCまたはFFAのレベルは低下しなかった(ビヒクル投与動物と比較)。
【0050】
したがって、AMLN食誘発性NASHマウスへの1年間のDA投与(30mg/kg、PO、QD)は、生存、体重または臨床徴候に悪影響を及ぼさないと考えられた。ビヒクルと比較して、DAは、選択した生存中の時点で、多くの代謝パラメーター(空腹時血糖、GLP-1、HbA1cおよびインスリン)、血清化学(ALT、ASTおよびBA)、およびサイトカインのサブセット(IL-6、IL-9、IL-13、IP-10、KC、MIG、MIP-1aおよびMIP-1B)に著しい変化をもたらした。1年間のQD投与後、DA投与マウスは、相対肝臓重量および血清および肝臓の両方におけるTGAレベルの低下(ビヒクルと比較)を示した。
【0051】
雄性C57BL/6マウス(n=44)を、Taconic Biosciences, Inc.(Rensselaer、NY)から4週齢動物として購入した。到着後、電子天秤(Ohaus SCOUT(登録商標)PRO、Parsippany、NJ)を用いて動物の体重を量り、マウスの状態が良好であることを確認するための臨床検査を受け、群飼した(1ケージあたり4匹まで)。動物を、SaniChip bedding 7090A(Harlan Teklad、Hayward、CA)を用いて、HEPAフィルター付き静的ケージ内で維持した。動物室制御は、温度と相対湿度をそれぞれ22℃±4℃と50%±20%に維持するように設定した。飼育室は12:12の明暗サイクルであった。動物を、試験に参加する前に少なくとも3日間その場で順応させた。到着後および試験期間中、マウスは水(水ボトルで)と、(断食に関して記載している場合を除く)40kcal%の脂肪、20kcal%のフルクトースおよび2%コレステロールを含む高脂肪の「西洋食」(AMLNダイエット、No.D09100301;Research Diets、New Brunswick、NJ)を自由に摂取した。DAを、DW中に30mg/mLで配合した。固体DAの重量を量り、適切な量のDWに加え;溶液をよく混合し、目視検査をして、沈殿がないことを確認し、試験品が完全に可溶化されたことを確認した。DA投与溶液を毎週新たに製造し、毎日の投与で使用する間は4℃で冷蔵保存した。
【0052】
-1日目(すなわち、投与開始の1日前);および4、12、24および48週目に(すなわち、投与の1、3、6、および12か月後)に、血液および糞便サンプルを絶食動物から採取した。
・糞便サンプル(3~4匹のマウスのケージあたり4ペレット)を各ケージの床から直接採取し、2つのアリコートに分け、将来の微生物叢およびマイクロバイオーム分析のために-80℃で保存した。これらの分析結果はこの報告に含まれていない。
・血液(100μL/動物)を各動物から顎下経路で採取した。すべての血液サンプルを血糖値について評価し、血清と血漿の両方に処理した。時点およびアッセイに応じて、1群当たりのサンプルのすべてまたは半分(つまり、10または11)のいずれかを以下のパラメーターについて評価した:
- 血清:選択した血清化学パラメーター[Alaアミノトランスフェラーゼ(ALT)、Aspアミノトランスフェラーゼ(AST)、アルブミン(ALB)、および総胆汁酸(BA)]、インスリン、およびグルカゴン様ペプチド1および2(GLP-1および-2)
- 血漿:ヘモグロビンA1c(HbA1c)およびサイトカイン。
【0053】
366日目(52週目)に、絶食マウスの体重を量り、最終的心臓穿刺に付し、安楽死させた。血液を血清に処理した。肝臓を摘出し、重量を量り、急速冷凍し、-80℃で保存し;残った組織は廃棄した。血清を低密度および高密度コレステロール(それぞれLDLおよびHDL)およびトリグリセリド(TGA)について評価した。肝臓を総コレステロール(TC)、TGA、および遊離脂肪酸(FFA)について評価した。
【0054】
血液および肝臓のパラメーターを、表3に示すキットおよび装置を用いて測定した。
【表3】
【0055】
結果:
両群について、体重は、1年間の長期試験中にベースラインから平均約200%増加(すなわち、体重は3倍)を示し、この増加の大部分(約150%)は最初の5か月間で生じた。注目すべきことに、体重(絶対値または相対値で表す)は、投与開始後の第1の時点(4日目)の相対体重(群2のDA投与マウスの相対体重が低かった)を唯一の例外として、試験中2群で統計学的に有意な差はなかった。
【0056】
図1は、ビヒクルまたは30mg/kg DAでの1年間の毎日の処置中のAMLN食餌を与えたマウスの群平均の絶対体重(図1A)および相対体重(%ベースライン、図1B)を示す。
【0057】
図2は、DA処置マウスの空腹時血糖値が、24週目のみでビヒクル処置マウスでのものより有意に低かったことを示している。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。NS、有意でない。
【0058】
図3は、DA処置マウスのインスリンレベルが、4および12週目に有意に上昇したが、その後は上昇しなかったことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。**p<0.01。NS、有意でない。
【0059】
図4は、DA処置マウスのHbA1cレベルが、12および48週目に有意に低下したが、24週目では低下しなかったことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。(HbA1cレベルを投与前または4週目にアッセイしなかった。)対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。
**p<0.01。***p<0.001。NS、有意でない。HbA1cを投与前または4週目にアッセイしなかった。
【0060】
図5A~Bは、DA処置マウスのGLP-1レベルが、24週目のみで有意に低下したことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。差の大きさは他の時点と同様であったが(統計的有意性がない)、24週目の変動は他の週より小さく、この効果の統計的有意性は意味がないことを示唆している。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。***p<0.001。NS、有意でない。GLP-2は48週目にのみアッセイしたことに注意すること。
【0061】
血清の化学的性質:
図6は、DA処置マウスの血清ALT活性レベルが、24および48週目に有意に低下したが、それ以前は低下しなかったことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。**p<0.01。***p<0.001。NS、有意でない。
【0062】
図7は、DA処置マウスの血清AST活性レベルが、24週目のみで有意に低下したことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。**p<0.01。NS、有意でない。
【0063】
図8は、DA処置マウスの血清ALBレベルは、どの評価時点でもビヒクル処置マウスでのものと有意差はなかったことを示す。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。NS、有意でない。
【0064】
図9は、DA処置マウスの血清BAレベルが、24週目のみで有意に低下したことを示す(ビヒクル処置マウスでのものと比較)。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。NS、有意でない。
【0065】
血中サイトカインレベル
群間で統計的有意差があるサイトカインの平均値(n=10)を図10にプロットする。これら10個のサイトカインのうち、8個は投与開始後に有意な群間差を示した。他の2個のサイトカイン[MCP-1(単球化学誘引タンパク質1、別名CCL2)およびTNFα(腫瘍壊死因子α)]は、投与前の時点でのみ有意な群間差を示したが、これは明らかに処置と関係のない効果であった。DA処理マウスにおけるサイトカインレベルの統計的に有意な低下(ビヒクル処理マウスと比較)は次のように観察された:
4週目のみ:IP-10(インターフェロンγ誘導タンパク質10、別名CXCL10);MIP-1B(マクロファージ炎症性タンパク質1β、別名CCL4)。
12週目のみ:IL-13(インターロイキン13)。
24週目のみ:MIP-1a(マクロファージ炎症性タンパク質1α)。
48週目のみ:IL-6(インターロイキン6);IL-9(インターロイキン9);KC(ケラチン生成細胞誘導ケモカイン、別名CXCL1またはCINC-1)。
4および48週目のみ:MIG(γインターフェロン誘導モノカイン、別名CXCL9)。
【0066】
図10は、IL-6(図10A)、IL-9(図10B)、IL-13(図10C)、IP-10(図10D)、KC(図10E)、MCP-1(図10F)、MIP-1a(図10G)、MIP-1B(図10H)、MIG(図10I)およびTNFα-6(図10J)について、ビヒクルまたは30mg/kgでの1年間毎日処置の間、AMLN食餌を与えたマウスにおいて統計学的有意差を示したサイトカインの血中レベル(n=10)を示す。サイトカイン名/グラフタイトルの括弧内の整数は、マルチプレックスアッセイの一部として使用されたアッセイ番号に対応する。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。**p<0.01。NS、有意でない。
【0067】
最終的な肝臓パラメーター
図11A(絶対値)およびB(相対値、体重正規化)は、ビヒクルまたは30mg/kg DAで1年間毎日処置した後の剖検肝臓重量を示す。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。NS、有意でない。
【0068】
図12は、ビヒクルまたは30mg/kg DAで1年間毎日処置した後の血清HDL、LDLおよびTGAレベルを示す。血清TGAレベルは、1年間毎日投与した後、DA処置マウスが有意に低下したが、HDLまたはLDLは低下しなかった(ビヒクル投与動物と比較)。DA、酢酸デナトニウム。HDL、高密度リポタンパク質。LDL、低密度リポタンパク質。TGA、トリグリセリド。対応のない両側t検定によってそれぞれの日のビヒクル値との比較。差は、p<0.05で統計的に有意であるとみなした。*p<0.05。NS、有意でない。
【0069】
図13A~Cは、ビヒクルまたは30mg/kg DAで1年間毎日処置した後の肝臓TGA(図13A)、TC(図13B)およびFFA(図13C)を示す。1年間毎日投与した後、DA処置マウスにおいて、肝臓のTGAレベルは有意に低下したが、TCまたはFFAのレベルは低下しなかった(ビヒクル投与マウスと比較)。
【0070】
本試験の結論は、AMLN食誘発性NASHマウスへの1年間のDA投与(30mg/kg、PO、QD)は、生存、体重または臨床徴候に悪影響を及ぼさないと考えられるというものであった。ビヒクルと比較して、DAは、選択した生存中の時点で、少数の代謝パラメーター(空腹時血糖、GLP-1、HbA1cおよびインスリン)、血清化学(ALT、ASTおよびBA)、およびサイトカインのサブセット(IL-6、IL-9、IL-13、IP-10、KC、MIG、MIP-1aおよびMIP-1B)に著しい変化をもたらした。1年間のQD投与後、DA投与マウスは、相対肝臓重量および血清および肝臓の両方におけるTGAレベルの低下(ビヒクルと比較)を示した。
【0071】
結論として、図12~14のこの1年間のNASH試験の組織病理学データは、DAでの処置が、盲検病理組織学的検査に基づいて、脂肪症を有意に改善し、線維化を改善/抑制したことを示した(一例として、総線維化スコア1.52対0.58、p値<0.0001)。新しいFDAのNASH/線維化基準に基づけば、他の多くのNASH動物試験(多くの場合極めて短期間究、本明細書の表2を参照)では見られない組織病理学データは、肝線維化を伴うまたは伴わない、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)およびHIV関連脂肪性肝炎からなる群より選択される脂肪肝疾患の予防または進行防止のための方法が、酢酸デナトニウム(DA)、クエン酸デナトニウム、マレイン酸デナトニウム、デナトニウムサッカライド、および酒石酸デナトニウムからなる群より選択されるデナトニウム塩の経口用量を投与することにより達成できるという結論を裏付ける。
【0072】
実施例2
この実施例は、陽性対照セマグルチド(HbA1cを低下させるためのGLP-1アゴニスト市販薬)と比較したNASHの処置に対するDAの治療効果とを調査するために、脂肪肝疾患処置の第2のインビボマウスモデルから得られた結果を提供する。実施例1の予防モデルとの本試験の違いは、30mg/kgに対してより高用量のDA(75mg/kg)を用いたこと、投与が1日2回(実施例1の試験のQDに対してBID)であったこと、陽性対照セマグルチドを用いたこと、異なるマウス系統(B6マウス)を用いたこと、そして動物に試験開始前の17週間すでにAMLN食を与えていたため、試験開始時に動物はすでに成体(対実施例1では4週齢であったのに対して実施例2では23週齢)であったことであった。試験用量は75mg/kg BIDで開始した。しかしながら、2週間の投与後、このDA用量は忍容性が低いことが判明したため、残りの10週間の投与ではDA用量を50mg/kg BIDに下げた(合計12週間)。
【0073】
本試験には、それぞれ10匹のマウスからなる3群、(A)強制経口投与BIDによる蒸留水でのビヒクル対照、(B)強制経口投与BIDによるDA、および(C)セマグルチド10mmol/kg皮下QDが含まれた。体重および変化を週に3回測定した。血清代謝マーカー(血中グルコース、血中インスリン、HbA1c、HDL、LDLトリグリセリドおよび胆汁酸)を試験開始時(ベースライン)および終了時に測定した。試験終了時に、肝臓試料の組織病理学および炎症性バイオマーカー(IL-6、TNFα、CK-18およびTGF-β)の血清レベルを評価した。組織病理学を、表4に従ったNAFLD活動性スコアおよび線維化スコアに従ったスコアスケールを用いて盲検下で実施した。
【表4】
【0074】
図14は、DA(ARD-101)での処置が盲検病理組織学的検査に基づいてNAFLD活動性スコアを有意に改善したことを示す。図15A~Bは、ARD-101(DA)での処置が、AMLN食誘発性NASHマウスの体重および体重変化(図16A~B)に対して顕著な効果を示したことを示す。
【0075】
図16Aおよび図16Bは、肝臓重量(図16A)および肝臓/体重比(図16B)を示し、DA(ARD-101)がビヒクルと比較して肝臓重量および肝臓/体重比を有意に減少させたことを示す。
【0076】
図17AはALTレベルを示し、図17BはASTレベルを示す。試験終了時に、DA(ARD-101)はビヒクル対照と比較してALTおよびASTレベルを有意に低下させた。
【0077】
図18A(トリグリセリド)、18B(LDL)および18C(HDL)はそれぞれ、試験終了時に、DA(ARD-101)が、トリグリセリド(TG)、低密度リポタンパク質(LDL)および高密度リポタンパク質(HDL)を有意に減少させたことを示す。
【0078】
図19は、試験終了時の空腹時血糖レベルを示す。図20は、試験終了時のHbA1cレベルを示す。ベースラインHbA1cレベルは、5.0%であった。図21は、試験終了時のインスリンレベルを示す。ベースラインインスリンレベルは、1.5ng/mlであった。図22は、2つの処置が、ビヒクル対照と比較して胆汁酸レベルに有意な影響を及ぼさなかったことを示す。ベースライン胆汁酸レベルは、30μmol/Lであった。
【0079】
図23A(CK-18)および23B(TGF-β)は、DA(ARD-101)が、ビヒクル対照と比較してCK-18レベルを有意に低下させたことを示す(図24A)。
【0080】
図24Aおよび24Bは、試験終了時に、2つの処置が、ビヒクルと比較してIL-6およびTNF-αレベルに有意な影響を及ぼさなかったことを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図10-4】
図10-5】
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【国際調査報告】