(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-05
(54)【発明の名称】神経変性認知障害を治療するための、コリンエステラーゼ阻害薬と四級アンモニウム抗ムスカリン剤との固定用量配合剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20240129BHJP
A61K 31/27 20060101ALI20240129BHJP
A61K 31/40 20060101ALI20240129BHJP
A61K 31/46 20060101ALI20240129BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240129BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240129BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240129BHJP
【FI】
A61K45/06
A61K31/27
A61K31/40
A61K31/46
A61K9/48
A61K47/38
A61K47/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546198
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 US2022012963
(87)【国際公開番号】W WO2022164694
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523287779
【氏名又は名称】カーム ファーマシューティカルズ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リッチ,スティーヴン,エー.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA53
4C076BB01
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4C206HA24
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4C206MA72
4C206MA83
4C206NA12
4C206ZA15
4C206ZC20
4C206ZC75
(57)【要約】
【解決手段】本発明は、神経変性認知障害を患うヒトにおける認知機能を改善するための方法を含む。上記方法は、一日総用量のコリンエステラーゼ阻害薬および四級アンモニウム抗ムスカリン化合物を患者に投与することを含む。一日総用量は、摂食前に投与される1つ以上の用量に分割される。四級アンモニウム抗ムスカリン化合物は、患者の体内への迅速吸収用に構成された第1の薬剤送達要素において投与され、コリンエステラーゼ阻害薬は、患者の体内への低速または遅延吸収用に構成された第2の薬剤送達要素において投与される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性認知障害を患うヒトにおける認知機能を改善するための方法であって、
一日総用量のコリンエステラーゼ阻害薬および四級アンモニウム抗ムスカリン化合物を患者に投与することであって、前記一日総用量が、前記患者が食事を行う少なくとも1時間前に投与される1つ以上の用量に分割され、前記四級アンモニウム抗ムスカリン化合物が、第1の速度での前記患者の体内への吸収用に構成された第1の薬剤送達要素において投与され、前記コリンエステラーゼ阻害薬が、第2の速度での前記患者の体内への吸収用に構成された第2の薬剤送達要素において投与され、前記第1の速度が前記第2の速度より速い、投与すること、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1の薬剤送達要素が、前記第2の薬剤送達要素に接着されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の薬剤送達要素が、胃内で速やかに溶解するよう構成されており、前記第2の薬剤送達要素が、封入されており、耐酸性であり、かつ前記患者の体内の小腸での遅延放出用に構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記四級アンモニウム抗ムスカリン化合物が、グリコピロレートである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記グリコピロレートが、経口投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記一日総用量が、グリコピロレート2~8mgを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コリンエステラーゼ阻害薬が、リバスチグミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記リバスチグミンが、経皮投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記リバスチグミンが、経口では最低約12mg/日で、または経皮では最低約13.3mg/日で経口投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記リバスチグミンが、約19mg~54mgの量で経皮投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記一日総用量が、前記コリンエステラーゼ阻害薬3~48mgおよび前記四級アンモニウム抗ムスカリン化合物2~8mgを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記四級アンモニウム抗ムスカリン化合物がグリコピロレートであり、前記コリンエステラーゼ阻害薬がリバスチグミンであり、前記一日総用量が、2~4mg/日のグリコピロレートおよび12~48mg/日のリバスチグミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の薬剤送達要素と前記第2の薬剤送達要素のうち少なくとも一方が、カプセルである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記コリンエステラーゼ阻害薬が、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、タクリン、フィゾスチグミン、ピリドスチグミン、ネオスチグミン、イピダクリン、フェンセリン、イコペジル、ザナペジル、アンベノニウム、エドロホニウム、フペルジンA、およびラドスチギルからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記四級アンモニウム抗ムスカリン化合物が、トロスピウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
トロスピウムの前記一日総用量が、20~60mgである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
神経変性認知障害を患うヒトにおける認知機能を改善するための方法であって、
第1の開始時間に、2~8mgの治療量の四級アンモニウム抗ムスカリン化合物をヒトの体内へ導入すること、
第2の開始時間に、3~48mgの治療量のコリンエステラーゼ阻害薬を前記ヒトの前記体内へ導入すること、
第1の速度で、前記2~8mgの治療量の前記四級アンモニウム抗ムスカリン化合物を前記ヒトの体内へ放出すること、および
第2の速度で、前記3~48mgの治療量の前記コリンエステラーゼ阻害薬を前記ヒトの体内へ放出すること
を含み、
前記第1の開始時間が前記第2の開始時間と同じであり、前記第1の速度が前記第2の速度とは異なる、方法。
【請求項18】
前記治療量の四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬を前記ヒトへ導入することが、経口、静脈内、皮下、または筋肉内で行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記治療量の前記コリンエステラーゼ阻害薬を前記ヒトへ導入することが、経口または経皮で行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記治療量の四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬が、速溶性ゼラチンカプセルにおいてヒトの体内へ導入され、前記治療量のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が、遅延放出用に構成された封入型耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルにおいてヒトの前記体内へ導入される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記四級アンモニウム抗ムスカリン化合物が、グリコピロレートまたはトロスピウムである、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
2~8mgの治療量の四級アンモニウム抗ムスカリン化合物を人体へ放出するよう構成され、第1の溶解速度を有する第1の部分と、
3~48mgの治療量のコリンエステラーゼ阻害薬を人体へ放出するよう構成され、第2の溶解速度を有する第2の部分と
を含む、薬剤送達要素であって、
前記第1の溶解速度が前記第2の溶解速度より速い、薬剤送達要素。
【請求項23】
前記コリンエステラーゼ阻害薬が、リバスチグミンを含み、前記四級アンモニウム抗ムスカリン化合物が、グリコピロレートまたはトロスピウムを含む、請求項22に記載の薬剤送達要素。
【請求項24】
前記第1の部分が、前記第2の部分と比して速やかに溶解し、前記第2の部分が、封入されており、耐酸性であり、かつ前記人体の小腸における遅延放出用に構成されている、請求項22に記載の薬剤送達要素。
【請求項25】
前記第1の部分が、ゼラチンカプセルを含み、前記第2の部分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルを含む、請求項22に記載の薬剤送達要素。
【請求項26】
前記第1の部分が、第1のカプセルであり、前記第2の部分が、前記第1のカプセル内に収容された第2のカプセルである、請求項22に記載の薬剤送達要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知治療の分野に関する。具体的には、本発明は、四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬と併用したコリンエステラーゼ阻害薬により治療した患者における認知機能の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性認知疾患は、苦痛に伴う機能喪失、ケア費用、および個人的自己同一性喪失の点において、個人および社会に犠牲をもたらす。そのような疾患や神経変性認知障害としては、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、パーキンソン病、および進行性核上性麻痺が挙げられるが、これらに限定されない。
【0003】
認知的神経変性は、高齢者において非常に一般的な深刻な神経学的病態である。概算では、80歳を超えて生きる人々のおよそ三分の一は、何らかの形の神経変性認知障害と診断されることとなる。認知的神経変性は、以下のようなさまざまな疾患過程から生じ得るが、これらに限定されない。
【0004】
神経変性認知症:
アルツハイマー病
ピック病
進行性核上性麻痺
レビー小体型認知症
パーキンソン病
前頭側頭型認知症
血管疾患:
脳卒中
多発脳梗塞性認知症
くも膜下出血
頭部外傷
感染症:
脳炎後認知症
梅毒
ヘルペス脳炎
先天性異常:
21トリソミー
中毒性脳損傷:
ウェルニッケ脳症
コルサコフ精神病
アルコール性健忘症候群
アルコール性認知症
【0005】
この一般的病態の主な結果とは、個人の知的機能の普遍的低下であり、通常、正常な日常的活動に対して多大な障害を生じる。ほとんどの形態の認知的神経変性に対して使用可能な疾患修飾治療は現在存在しないが、症状を緩和し、かつ、さまざまな程度まで認知機能を改善するための特定の治療は使用可能であり、これら治療は、これら個人を施設に収容する必要性を少なくとも遅らせることができる。
【0006】
脳内の神経伝達化学物質であるアセチルコリンの減少が、精神的機能を低下させる主要機構のうちの一つであることは、臨床上定められている。脳内のアセチルコリンの分解を予防または少なくとも最小限とすることができる薬物は、神経変性認知障害と診断された患者の認知能力を大きく改善させる。これら薬物は、一般的にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬と呼ばれる。しかし、あらゆる薬物と同様、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の投与に対しては副作用がある。例えば、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、これらの薬剤を投与された患者において尿失禁および便失禁を悪化させる。その他の副作用として、心拍数の低下、発汗、血管拡張、および気管支分泌物の増加が挙げられる。そのような副作用は、多くの高齢患者にとって非常に不快であることがあるので、患者が、神経変性認知障害の治療を成功させるためのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の有効な投薬に耐えることができない。
【0007】
認知的神経変性を有する患者におけるこのような望ましくない副作用を改善する試みとして、例えば、抗ムスカリン性抗コリン性薬剤(一般に「抗ムスカリン薬」と呼ばれる)の投与が挙げられる。これらの薬剤は、アセチルコリン受容体の末梢刺激を遮断する。あいにく、前述のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の副作用を治療するためのこれらの薬物の使用は、認知的神経変性に寄与することがよくあるが、この認知的神経変性は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬がそもそも治療するよう意図されているものである。したがって、これらの薬剤を用いる利益は、既存の神経変性認知障害を悪化させる危険性とのバランスを取らねばならない。その結果、多くの患者は、十分な治療を受けていないか、全く治療を受けていないかのいずれかである。
【0008】
特定の発達障害、とりわけ自閉症スペクトラム障害は、1歳以降のある時点において正常発達がしばしば妨げられるという観察された事項により示唆されるように、神経変性過程を共有していることがある。神経変性過程は、中枢神経系からの内在性分子のクリアランス障害を反映している可能性があることを示唆するデータが増加している。その疑いのある分子としては、ベータアミロイド、アルファシヌクレイン、タウ、および内在性代謝過程により起こるこれら分子の多数の修飾が挙げられるが、これらに限定されない。
【0009】
アミロイドに対して放射標識された抗体などの神経変性過程の早期検出技術の発達にも関わらず、そのような介入の臨床上の役割は、疾患修飾療法がなければこれらの診断的介入費用の正当化が困難であるという事実により限定されてきた。
【0010】
長年にわたり、研究者は、抗コリン性薬剤の認知的効果を研究し、かつ、抗コリン性および抗ムスカリン性薬剤が高齢者における認知低下およびすでに障害を有する人々におけるさらなる認知低下を引き起こすことを見出した。この効果は、尿失禁および過活動膀胱を治療する薬剤に特に当てはまる。実際、多くの専門家は、失禁とともに神経変性認知障害を治療することに関するジレンマを、「脳と膀胱と」の間の選択と呼んでいる。薬物を処方する際、専門家は、患者およびその家族と話し合い、認知機能を改善しようとして用いられている薬物に起因する失禁を治療するが、この治療が認知機能のさらなる損害につながることとなるか、またはその代わりに、(しばしば恥ずかしい大人用オムツの使用や、失禁患者の施設収容までも含む)失禁問題に対する代替解決法に頼るかを決定せねばならないことがよくある。
【0011】
高齢者をしばしば苦しめる認知障害の重篤なタイプのうちの1つは、急性せん妄と呼ばれる。第一の指標は、急激に変動する精神状態の著しい変化、正常な注意程度の維持不能、無秩序な考え、および意識レベルのゆらぎである。急性せん妄はしばしば、重症内科疾患、最近の手術、およびいくつかの薬物の使用またはさまざまな薬物間の相互作用から生じる可能性がある。患者に対する急性せん妄の影響は、重篤かつしばしば慢性的であり、頻繁に死亡につながる。
【0012】
急性せん妄が起こる神経学的機構は、他の神経変性認知障害と同様に完全には分かっていないが、神経伝達物質であるアセチルコリンが、重要な役割を担うと考えられている。認知症を患う患者において、アセチルコリンの低下は、死後研究で見られてきた。神経変性認知障害に対する治療の場合と同様、コリンエステラーゼ阻害薬物の使用は、脳内のアセチルコリンの分解をさまざまな程度で予防すると判断されてきた。しかし、中枢神経系(CNS)外の上述の望ましくない副作用が、結果として生じることがよくある。これらの問題を最小化するために、コリンエステラーゼ阻害薬の末梢系への作用を遮断する薬剤の投与が望まれるだろう。あいにく、他の神経変性認知障害と同様に、抗コリン薬は、中枢神経系毒性を引き起こすことにより潜在的な問題に頻繁に寄与する。
【発明の概要】
【0013】
コリンエステラーゼ阻害薬物を用いた神経変性認知障害の治療方法は、上述の望ましくない副作用を低減または回避する。ある実施形態によると、本発明の方法は、神経変性認知障害を患うヒトにおける認知機能を改善するための方法を含む。上記方法は、一日総用量のコリンエステラーゼ阻害薬および四級アンモニウム抗ムスカリン化合物を患者に投与することを含み、一日総用量は、摂食の少なくとも1時間前に投与される1つ以上の用量に分割される。四級アンモニウム抗ムスカリン化合物は、患者の体内への迅速吸収用に構成された第1の薬剤送達要素において投与され、コリンエステラーゼ阻害薬は、患者の体内への遅延吸収用に構成された第2の薬剤送達要素において投与される。
【0014】
別の実施形態において、神経変性認知障害を患うヒトにおける認知機能を改善するための方法は、第1の開始時間に第1の速度で、2~8mgの治療量の四級アンモニウム抗ムスカリン化合物を人体内へ放出する第1の薬剤送達要素と、第2の開始時間に第2の速度で、3~48mgの治療量のコリンエステラーゼ阻害薬を人体内へ放出する第2の薬剤送達要素とを含み、第1の開始時間が第2の開始時間と同じであり、第1の速度が第2の速度と異なる。
【0015】
別の実施形態において、神経変性認知障害を患うヒトにおける認知機能を改善するための方法は、2~8mgの治療量の四級アンモニウム抗ムスカリン化合物を人体へ放出するよう構成された第1の部分を含む。第1の部分は、第1の溶解速度を有し、第2の部分は、3~48mgの治療量のコリンエステラーゼ阻害薬を人体へ放出するよう構成されている。第2の部分は、第2の溶解速度を有し、第1の溶解速度は、第2の溶解速度より速い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】薬剤送達要素のある実施形態を示す図である。
【
図2A】リバスチグミンおよびグリコピロレートの投与の第I相臨床試験の結果を示すグラフである。
【
図2B】リバスチグミンおよびトロスピウムの投与の第I相試験の結果を示すグラフである。
【
図3】食事の1時間前にリバスチグミン/グリコピロレートの共製剤を摂取した後のある患者のリバスチグミン血清濃度時間プロファイルを示すグラフである。
【
図4】疾患修飾効果を示しているレビー小体型認知症患者のリバスチグミン定常状態血清濃度レベルを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
急性せん妄を含むさまざまな形の神経変性認知障害を患う患者は、これら神経変性認知障害としばしば共存する尿失禁および/または便失禁、吐き気、徐脈、気管支漏、ならびに/または気管支痙攀の望まれない末梢作用を患者が受けることなく、これらの病態を減少、最小化、または完全に緩和する効果的な量の薬物で治療可能である。該治療は、進行性認知症およびその他の神経変性認知障害の疾患の進行を変化させることができる。治療で望まれる目標は、神経学的病態を治療するための最も効能のある種類および量の薬物を、そのような薬物の高用量投与による不要な副作用を増大させることなく投与することである。適切な治療は、神経変性認知障害治療に用いられるコリンエステラーゼ阻害薬の非減薬(unmitigated)高用量投与に伴う有害作用を最小化する用量で、コリンエステラーゼ阻害薬と併用し、適切なレベルで投与される四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬を含む。治療は、疾患の修飾、すなわち、疾患の進行の減速という結果を生じる。ある実施形態において、疾患を改善させるために投与される四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬は、グリコピロレートであり、疾患を改善させるために投与されるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、リバスチグミンである。0~25ng/ml(ミリリットルあたりナノグラム)のリバスチグミン血清濃度は、いくつかの神経変性疾患における症状制御の向上に医学的に関連している。一般的に、25ng/mlを上回るリバスチグミン血清濃度は、尿失禁および/または便失禁、吐き気、徐脈、気管支漏、気管支痙攀、ならびに起立性低血圧を含む上記有害作用と関連している。
【0018】
四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の望まない副作用を予防するか、または実質的に改善することにより、そうでない場合に患者が耐えられるより高用量のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の投与が可能となる。四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬は、そのような化合物が中枢神経系から排除されているので、一般的に、認知症、急性認知症、およびレビー小体型認知症などの神経変性認知障害を患う患者に投与可能である。患者はまた、コリンエステラーゼ阻害薬であるリバスチグミンをも投与可能である。そのような治療は、限定はされないが、尿失禁および/または便失禁、吐き気、徐脈、気管支漏、ならびに気管支痙攀を含むアセチルコリン過剰による有害作用の制御向上に加えて、認知機能の著明な改善という結果をもたらす。
【0019】
本明細書中で説明される方法および組成物の抗コリン性ムスカリン剤を用いると、患者を苦しめる神経変性認知障害を効果的に治療するアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の最大投与量を投与および継続可能であるという利益が得られる。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の用量を増加させることにより、毒性分子のクリアランス向上を含む機構による変性過程を減速、または停止させ得る。四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬とコリンエステラーゼ阻害薬との共製剤の使用により、コリンエステラーゼ阻害薬の治療用量の投与が可能となることで、治療用薬剤の薬効が最大化される。
【0020】
適切な四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬として、薬剤トロスピウムおよびグリコピロレートが挙げられるが、すべての抗ムスカリン薬剤が同じわけではない。このカテゴリー内のさまざまな薬剤を区別する1つの方法は、脂溶性によるものである。非常に低い脂溶性を有する抗コリン性ムスカリン薬剤のクラスの四級アンモニウム化合物は、本明細書中で説明される方法および化合物の関連の中での使用に望ましいと判断されてきた。それらの低い親油性(脂質媒体中に溶解する化合物の能力)の結果、これらの分子は、より高い脂溶性を有するものほど容易には血液脳関門を通過しない傾向にある。血液脳関門を通過しないことにより、これらの化合物は、中枢神経系におけるアセチルコリンの正常な機能に干渉せず、神経変性認知障害の治療用アセチルコリン性阻害薬の薬効と干渉することもない。さらに、これらの低脂溶性四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬剤は、尿失禁および/または便失禁、吐き気、徐脈、気管支漏、ならびに気管支痙攀などのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の使用による望まない末梢作用を改善する。
【0021】
本明細書中で説明される方法における使用のための四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン薬としては、トロスピウム、およびグリコピロレートが挙げられる(非四級抗コリン性薬剤としては、オキシブチニン、トルテロジン、ダリフェナシン、およびソリフェナシン(solefenacin)が挙げられるが、これらに限定されない)。オクタノール/水分配係数に比例する認められたパラメータであるLogPは、水と比較した脂質中のある化合物の相対的可溶性を測定するための基準である。水中の薬剤分子の相対的可溶性は、薬剤分子が血液脳関門を通過し、中枢神経系におけるアセチルコリンの正常機能と干渉する能力と相関するもっとも重要な物理特性である。低いlogP値は、低い脂溶性および低い血液脳関門通過確率を表す。グリコピロレートとトロスピウムの両者は、グリコピロレートおよびトロスピウムの化学構造の性質に基づく低いlogPを有する。比較してみると、現在用いられている標準的な抗ムスカリン薬剤は、6.076もの高さのlogP値を有する(トルテロジン)。トロスピウムのlogP値は、0.78であり、グリコピロレートの算出された親油性は、-75.75であるので、これにより、グリコピロレートおよびトロスピウムを本明細書中で説明される実施形態の関連の中で以前述べられた治療目標を達成するための好ましい化合物とする。
【0022】
(臭化グリコピロニウムとしても知られる)グリコピロレートは、化合物名が臭化3-[シクロペンチル(ヒドロキシ)フェニルアセトキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウム、分子式がC19H28BrNO3、分子量が398.34である四級アンモニウム対イオンを有する臭化物塩である。
【0023】
(塩化トロスピウムとしても知られる)トロスピウムは、化合物名が塩化3(2ヒドロキシ-2,2ジフェニルアセトキシ)スピロ[ビシクロ[3.2.1]オクタン-8,1’ピロリジン]-1’-イウムである四級アンモニウム塩である。塩化トロスピウムの分子式は、C25H30ClNO3であり、その分子量は、427.97である。塩化トロスピウムの化学構造は、以下の通りである。
【0024】
【0025】
四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン剤は、神経変性認知障害の治療に用いられるさまざまなアセチルコリンエステラーゼ阻害薬のいずれと同時に投与されてもよい。そのような薬剤としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
ドネペジル
リバスチグミン
ガランタミン
タクリン
フィゾスチグミン
ピリドスチグミン
ネオスチグミン
イピダクリン
フェンセリン
イコペジル
ザナペジル
アンベノニウム
エドロホニウム
フペルジンA
ラドスチギル
【0027】
限定はされないが、尿失禁および/または便失禁、吐き気、徐脈、気管支漏、気管支痙攀、ならびに起立性低血圧を含むコリンエステラーゼ阻害薬によるアセチルコリン過剰の不要な有害作用を示す神経変性認知障害を患う患者を効果的に治療するために、四級アンモニウム抗ムスカリン剤を適切なアセチルコリンエステラーゼ阻害薬と併用してもよい。両薬剤クラスは、静脈内、筋肉内(「非経口」)、または経皮投与可能である。急性せん妄患者は、しばしば混乱している、かつ/またはけんか腰であるので、これらの患者は、経口薬の服用を拒否することがよくある。しかし、経口投与が成功する場合もある。
【0028】
四級アンモニウム抗ムスカリン薬剤(QAAM)は、生理学的および薬理学的理由によりアセチルコリンが過剰に生産されるか、またはアセチルコリンの影響が長引いている期間中、当該薬剤の有する内在性アセチルコリンに対する拮抗能により利益をもたらす。これらの化合物は、中枢神経系(CNS)に認識できるほどには浸透しないという共通の特性があり、臭化グリコピロレートおよび塩化トロスピウムは、抗ムスカリン性受容体に対する末梢抗コリン性効果を必要とする患者の治療に特に有用であった。
【0029】
ACEI-QAAMにより治療されている神経変性認知障害患者において、全アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、通常の単剤療法の用量の少なくとも4倍という高い用量が許容されている。リバスチグミンについては、米国における最大単剤療法用量は、現在、経口では12mg/日、または経皮では9.5mg/日である(FDAは最近、13.5mg/日の経皮使用を承認したが、承認されている経口最大用量は依然として、12mg/日である)。本発明のいくつかの実施形態においては、48mg/日以下の経口投与量が用いられる。一実施形態において、併用治療の一日あたりの投与量は、一日2回経口で、1~2mgのグリコピロレートと併用した24~48mg/日(または経皮で17.9~39.9mg)のリバスチグミンである。
【0030】
レビー小体型認知症の症状を呈する患者については、例えば、リバスチグミンとグリコピロレートとの配合剤(combination)を投与可能である。一実施形態において、12mg~48mg/日のリバスチグミンを経口投与するか、または、17.9mg~39.9mgを経皮投与する。別の実施形態において、19mg~24mg/日のリバスチグミンを投与する。さらに別の実施形態において、最大24mg/日のリバスチグミンを投与する。その他の実施形態において、48mg/日以下のリバスチグミンの経口投与量が用いられる。一実施形態において、グリコピロレートを2~8mg/日の速度で投与可能である。
【0031】
一般的に、25ng/mlを上回るリバスチグミン血清濃度は、尿失禁および/または便失禁、吐き気、徐脈、気管支漏、気管支痙攀、ならびに起立性低血圧を含む上記有害作用と関連している。また、この程度以上のレベルは、さらなる症状改善および疾患修飾効果とも関連している可能性がある。
【0032】
空腹時に四級アンモニウム抗ムスカリン剤を投与することにより、生物学的利用能を促進することができる。それに比べて、食物とともにリバスチグミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬を投与することにより、尿失禁および/または便失禁、吐き気、徐脈、気管支漏、気管支痙攀、ならびに起立性低血圧などの前述の有害作用と関連するコリンエステラーゼ阻害薬の吸収の遅延を助け、そのピーク濃度を低減することができる。よって、コリンエステラーゼ阻害薬と四級アンモニウム抗ムスカリン剤の調整された吸収は、コリンエステラーゼ阻害薬の有害作用の低減または回避に役立ち得る。
【0033】
食品摂取に関連した別々の時間間隔で2種類の薬剤を服用することは、神経変性認知障害を患う患者にとって不便である。また、とりわけ食品摂取まわりの調整でアドヒアランスの困難を示す患者集団に対して四級アンモニウム抗ムスカリン化合物とコリンエステラーゼ阻害薬とを別々に投与することも問題となることがある。上で述べたように、急性せん妄患者は、しばしば混乱している、かつ/またはけんか腰であり、その結果、これらの患者は、経口薬の服用を拒否したり忘れたりすることがよくある。これらの場合は、経口投薬または投与回数の単純化が有益である。単一用量におけるグリコピロレートとリバスチグミンとの共製剤化により、アドヒアランスの困難を示す患者集団に対して2種類の薬物を別々に投与することを最小限に抑えられるので、投与がより容易になる。共製剤は、経口のみならず経皮で、または他の投与方法により患者に投与可能である。例えば、経皮投与は、非協力的または健忘症の患者には経口投与よりも容易であり得る。
【0034】
ある実施形態において、神経変性認知障害を患うヒトにおいて認知機能を改善する方法は、一日総用量が3~48mgのコリンエステラーゼ阻害薬(リバスチグミン)を第1の開始時間に、かつ第1の速度で、ならびに、2~8mgの四級アンモニウム抗ムスカリン化合物(グリコピロレート)を第2の開始時間に、かつ第2の速度で患者に経口投与することを含み、第1の開始時間は、第2の開始時間と異なり、第1の速度は、第2の速度と異なる。一日総用量は、摂食の少なくとも1時間前に投与される個々の用量に分割してもよい。
【0035】
一日総用量は、人体内に3~48mgの治療量のリバスチグミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬、および2~8mgの治療量のグリコピロレートなどの四級アンモニウム抗ムスカリン化合物または20~60mgのトロスピウムを各々が放出する1つ以上の薬剤送達要素において投与可能である。さまざまな形態の薬剤送達要素としては、経皮パッチ、錠剤、注入可能な液体、および丸薬、錠剤またはカプセルが挙げられる。薬剤送達要素は、適宜これらを、またはその他いずれかの現在知られているか将来開発される薬剤送達構造体を含み得る。
【0036】
本発明の方法により、コリンエステラーゼ阻害薬と四級アンモニウム抗ムスカリン化合物とは、別々の薬剤送達要素中で、または複数の部分を有する単一の薬剤送達要素として投与可能である。いくつかの実施形態によると、別々に投与される場合は、治療量の四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬は、患者に経口、静脈内、または筋肉内投与可能であり、治療量のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、患者に経口または経皮投与可能である。コリンエステラーゼ阻害薬は、摂食の少なくとも1時間前に患者に投与可能である。
【0037】
図1は、第1の部分22と、第1の部分22に接着または封入された第2の部分24とを含む単一の薬剤送達要素20を概略的に示している。第1の部分22は、四級アンモニウム抗ムスカリン化合物を含んでいてもよく、第2の部分24は、コリンエステラーゼ阻害薬を含んでいてもよい。第1の部分22は、速溶性カプセル(例えば、ゼラチンカプセル)などの速溶性のものであってもよいがこれに限定されず、第2の部分24は、遅延放出用に構成されたカプセルなどの封入型耐酸性構造体であってもよいがこれに限定されない。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセルは、封入型耐酸性構造体の一例である。第2の部分24の遅延放出により、コリンエステラーゼ阻害薬の小腸への作用を促進することができる。
【0038】
ある実施形態において、薬剤送達要素20は、摂食の少なくとも1時間前に投与可能である。いくつかの実施形態において、投与後に、第1の部分22および第2の部分24が同時に溶解し始める。ただし、これらの実施形態において、第1の部分22は、2~8mgの治療量の四級アンモニウム抗ムスカリン化合物を第1の溶解速度にしたがって人体内へ放出する一方、第2の部分24は、3~48mgの治療量のコリンエステラーゼ阻害薬を第2の溶解速度にしたがって人体内へ放出する。第1の溶解速度は、第2の溶解速度より速い。QAAM化合物を含む第1の部分22は、比較的速やかに溶解する一方、コリンエステラーゼ成分を含む第2の部分24は、第1の部分22より遅く溶解する。よって、第2の部分24の溶解が遅いことにより、患者が食事を行い、患者の身体が食物を吸収した後に第2の部分24が放出可能となる。
【0039】
いくつかの実施形態において、第2の部分24が第1の部分22に封入されているときなどは、第2の部分24の溶解の始まりは、第1の実施形態22の溶解の始まりから遅れる。この状況において、本明細書中で使用される「溶解速度」という語は、第1の部分22の溶解の始まりから、または人体内への薬剤送達要素20の導入から算出した平均溶解速度である。これと比べて、「瞬間溶解速度」という語は、あらゆる所与の時点における溶解速度を意味すると意図される。同様に、薬剤送達要素20に収容されているQAAM化合物およびコリンエステラーゼ阻害薬に適用される際の「吸収速度」という語は、薬剤送達要素20が人体内へ導入される時、またはQAAM化合物が人体に吸収され始める時などのQAAM化合物とコリンエステラーゼ阻害薬との両方について同じ時点から算出した吸収の平均速度を意味すると意図される。「瞬間吸収速度」という語は、あらゆる所与の時点における吸収速度を意味すると意図される。よって、第2の部分24が第1の部分22より後に溶解し始め、その後同様に後に溶解し終わるか、または第2の部分24が第1の部分22と同時に溶解し始めるが、より低い瞬間溶解速度で溶解する結果、後に溶解し終わるかに関わらず、第2の部分24は、第1の部分22より低い溶解速度を有すると考えてよい。
【0040】
四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン剤と併用したアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ACEI-QAAM)により治療される患者を研究して、経時的な認知、情動、および機能の改善についてのデータを収集できる。
図2Aから
図4に示されているデータに反映されているように、本発明の方法を用いた患者における遅延および低減したピークリバスチグミン血清レベルが肯定的な実験データおよび結果に示されている。
【0041】
図2Aは、以下の5人の対象、すなわち、(a)任意の食物摂取の1時間前の絶食状態において即時放出グリコピロレートと用量を増加させたリバスチグミンとを同時に投与した2人の健常対照被験者、(b)絶食状態の被験者にグリコピロレートを投与し、摂食1時間後の当該被験者にリバスチグミンを投与することで、グリコピロレートとリバスチグミンとを別々に投与した2人の健常対照被験者、および(c)食事を摂る1時間前にリバスチグミンとグリコピロレートとの新規な共製剤の服用量を投与した1人の被験者に対して投与12時間後のリバスチグミン血清濃度時間プロファイルを比較している。
【0042】
第I相試験において、
図2Aに示すように、患者1003と患者1004とは両者とも、食事の1時間前の絶食状態において即時放出グリコピロレートと用量を増加させたリバスチグミンとを同時に投与した健常対照被験者であった。患者1010および患者1011には、絶食状態においてグリコピロレートを投与し、吐き気などの副作用のいくつかを改善するためにおよそ1時間後に食物とともにリバスチグミンを投与するといったように、2種類の薬物を別々に投与した。患者1006には、絶食状態において同時にグリコピロレートとともに用量を低減したリバスチグミンを投与した。投与後12時間にわたり、血清リバスチグミンレベルを得た。
図2Aに示されている結果によると、患者1003および患者1004における絶食状態でのグリコピロレートとリバスチグミンとの共投与と比較して、1時間の間をおいて絶食状態と食後状態とにそれぞれ別々にグリコピロレート用量とリバスチグミン用量とを与え、その結果、四級アンモニウム抗コリン性ムスカリン受容体拮抗薬であるグリコピロレートの調整された吸収が起こったことにより、コリンエステラーゼ阻害薬であるリバスチグミンの有害作用に関連する高いリバスチグミンレベルが回避されたことが示された。比較すると、患者1010および患者1011が絶食状態におけるグリコピロレートとこれら患者が食後状態におけるリバスチグミンとの別々の投与は、弱められ、これにより、ピークリバスチグミンレベルの低下および有害作用、とりわけ吐き気の低減に関連したピーク血清濃度の遅延が示された。共製剤化により、患者は、単一の薬剤送達要素中の薬物の1回の用量を服用でき、かつ、アドヒアランスの困難を示す患者集団に対して2種類の薬物の別々投与をなくすことができると提案された。共製剤化は、この単数の用量を可能とし、なおかつ、食後状態および絶食状態における成分の別々投与に見られるものとほぼ等しいリバスチグミン血清濃度が得られる。絶食状態において服用された共製剤化薬剤送達要素で得られた10ng/mlという患者1006の時間プロファイルは、別々に投与された成分のものと類似の吸収動態を示している。
【0043】
図2Bは、(a)絶食状態におけるリバスチグミン6mgとグリコピロレートとは異なる四級アンモニウム抗ムスカリン剤であるトロスピウム20mgとの同時投与と、(b)絶食状態におけるリバスチグミン6mgおよびトロスピウム20mg、ならびに1時間後の摂食状態におけるリバスチグミン6mgの別々の投与と、(c)本発明のある実施形態において、1日2回(BID)服用された新規な共製剤化薬剤投与量の同時投与とで得られた、健常対照被験者におけるリバスチグミン血清濃度時間プロファイルを比較している。患者1001、患者1002、および患者1005には、絶食状態においてトロスピウムとリバスチグミンとを同時に投与した。被験者1008には、絶食状態と食後状態とにおいて、それぞれトロスピウムとリバスチグミンとを投与した。
図2Bに示されているリバスチグミン血清濃度は、グリコピロレートとリバスチグミンとを別々に投与した際に見られるのと同様に、食物とともに薬物を服用することにより達成されるピークリバスチグミンレベルの減衰を示している。
【0044】
図3は、単一の対照被験者におけるリバスチグミン/グリコピロレートの共製剤投与の効果を示している。この共製剤は、別々の日の朝の食物摂取の1時間前に2つの異なる用量で投与された。ある実施形態において、薬剤送達システムは、グリコピロレート0.5mgおよびリバスチグミン4.5mgを有する共製剤カプセルである。この特定の実施形態では、用量は、グリコピロレート0.5mgおよびリバスチグミン4.5mgの倍数であってもよく、かつ病態に応じて1日あたり2回、3回、または4回投与してもよい。その他の実施形態において、患者および治療されている疾患に最適化された投薬レジメンを達成するために、四級アンモニウム抗ムスカリン/コリンエステラーゼ阻害薬化合物の比率を変えてもよい。
【0045】
図2Aおよび
図2Bと比較して、
図3は、複合薬剤送達システムの単回投薬で達成されるリバスチグミンの血清濃度-時間プロファイルが、絶食状態と食後状態とにおいて成分を別々に投与した場合に達成されるものと類似していることを証明している。共製剤薬剤送達システムでの投薬は、絶食状態における両成分の同時投与に伴う吐き気とは関連していなかった。
【0046】
図4は、レビー小体型認知症を有し、かつ別々に投与されたリバスチグミンとグリコピロレートとの併用により長年にわたる認知低下速度の低減を示していた患者3001、患者3003、患者3005、患者3007、患者3009における定常状態血清リバスチグミンレベルを示している。これらの被験者は、高用量、すなわち経口で36~42mg/日および経皮で39.9mg/日のリバスチグミンにも関わらず有害作用を呈さなかった。患者3009には、リバスチグミン36mgという1日あたりの用量とするために、食事の1時間前に、1日4回、グリコピロレート0.5mgとグリコピロレート4.5mgとの共製剤カプセルを2錠投与した。濃度-時間曲線に基づき、共製剤は、投与間隔全体を通してリバスチグミンの類似の濃度を維持できることが導き出された。
【0047】
レビー小体型認知症における症状群としては、鮮明な幻覚、転倒、立位での血圧の急降下(起立性低血圧)が含まれる。意識および見当識の急速な変動が起こり、睡眠障害(レム睡眠行動障害)がよくある。患者は、精神病に一般に用いられる薬剤に不耐性であることが多い(神経遮断薬過敏症候群)。患者は、うつ傾向とともに気分の変動があり、パーキンソン病と同様の症状がさまざまな程度で見られる。単一の薬剤送達要素において、共製剤は、レビー小体型認知症を有する患者により利便性高く投与可能であり、かつ、これら患者にもよりよく耐えられる可能性がある。
【0048】
レビー小体型認知症は、パーキンソン病のいくつかの特徴を有する進行性認知症性疾患である。レビー小体型認知症は、アルツハイマー病より進行が早く、かつ神経変性認知能力の低下の変化を経時的に観察する機会を提供する(Olichney JMら、“認知低下は、アルツハイマー病においてよりレビー小体バリアントにおいて早く進む”、Neurology、1998;51(2)351、参照により本明細書中に組み込まれる)。とりわけリバスチグミンでのコリンエステラーゼの阻害は、レビー小体型認知症に対するもっとも効能のある治療である。
【0049】
よって、本明細書中で説明した本発明の実施形態は、本発明の原理の適用を単に例示しているに過ぎないことは理解されたい。例示されている実施形態の詳細への本明細書中の言及は、請求項の範囲を限定するよう意図されてはおらず、該請求項自体は、本発明に不可欠と考えられる特徴を記載している。
【国際調査報告】