(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-05
(54)【発明の名称】被覆カソード
(51)【国際特許分類】
H01M 4/36 20060101AFI20240129BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20240129BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240129BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240129BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240129BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240129BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01M4/485
H01M4/58
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/0565
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547103
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-10-02
(86)【国際出願番号】 EP2022052173
(87)【国際公開番号】W WO2022167356
(87)【国際公開日】2022-08-11
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514156563
【氏名又は名称】アイメック・ヴェーゼットウェー
【氏名又は名称原語表記】IMEC VZW
(71)【出願人】
【識別番号】599098493
【氏名又は名称】カトリーケ・ユニフェルシテイト・ルーヴァン
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ テイエ,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】フェレーケン,フィリップ
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AM16
5H029CJ24
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ14
5H050AA07
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA09
5H050EA01
5H050EA08
5H050EA23
5H050GA24
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA14
(57)【要約】
Li+イオンを供給および貯蔵するための活物質(10)と、導電性添加剤(12)と、活物質(10)とは異なる、活物質(10)の表面をコーティングするコーティング(11)とを含み、コーティング(11)はアモルファスのハロゲンドープ酸化チタンを含み、コーティング(11)は1~20nmの厚さを有する被覆カソード。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li
+イオンを供給および貯蔵するための活物質(10)、
導電性添加剤(12)、および、
活物質(10)とは異なる、活物質(10)の表面をコーティングするコーティング(11)であって、アモルファスの塩素ドープ酸化チタンを含み、1~20nmの厚さを有し、かつチタンに対する塩素の原子比が、ラザフォード後方散乱分光法で測定した場合、0.04から0.19である、コーティング(11)、を含む被覆カソード。
【請求項2】
活物質(10)は、層状遷移金属酸化物、スピネル相遷移金属酸化物、およびポリアニオン性物質のうちの1つを含む請求項1に記載の被覆カソード。
【請求項3】
導電性添加剤(12)は、炭素添加剤、導電性ポリマー、ケイ化物、または導電性酸化物を含む請求項1または2に記載の被覆カソード。
【請求項4】
コーティング(11)は、活物質(10)および導電性添加剤(12)の表面をコーティングする請求項1~3のいずれかに記載の被覆カソード。
【請求項5】
活物質(10)上および導電性添加剤(12)上のコーティング(11)はコンフォーマルである請求項4に記載の被覆カソード。
【請求項6】
活物質(10)および導電性添加剤(12)に接着された、導電性添加剤(12)とは異なるポリマーバインダーをさらに含む請求項1~5のいずれかに記載の被覆カソード。
【請求項7】
第1の電解質と物理的に接触している、請求項1~6のいずれかに記載の被覆カソード、および、
第2の電解液と物理的に接触しているアノード、を含む電池セルであって、
第1の電解質および第2の電解質は同一であるか、または異なっており、電池セルは、第1の電解質および第2の電解質に含まれるLi
+イオンが、第1の電解質と第2の電解質との間を移動できるように構成されている電池セル。
【請求項8】
第1の電解質および第2の電解質の少なくとも1つは、固体電解質を含む請求項7に記載の電池セル。
【請求項9】
固体電解質は、ナノ複合電解質である請求項8に記載の電池セル。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の被覆カソードを形成する方法であって、
a)Li
+イオンを供給および貯蔵するためのカソード活物質(10)を提供するステップ、
b)活物質(10)の露出表面上に、活物質(10)とは異なる50~130℃の温度で、原子層堆積法によりコーティング(11)を堆積させるステップであって、コーティングは、塩素ドープ酸化チタンを含み、1~20nmの厚さを有するステップ、および、
c)導電性添加剤(12)を提供するステップ、を含み、
ステップb)は、ステップa)の後でステップc)の前、またはステップa)とc)の両方の後に実行される方法。
【請求項11】
請求項7~9いずれか1項に記載の電池セルを形成するための方法であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の被覆カソードを提供するステップ、
アノードを提供するステップ、
被覆カソードを第1の電解質と接触させ、アノードを第2の電解質と接触させるステップであって、第1の電解質と第2の電解質は同じであるか、または異なっているステップ、および、
第1の電解質および第2の電解質に含まれるLi
+イオンが、第1の電解質と第2の電解質との間を移動できるように、電池セルを構成するステップ、を含む方法。
【請求項12】
カソードの活物質(10)をコーティングするための、アモルファスの塩素ドープ酸化チタンを含むコーティング(11)の使用であって、コーティング(11)のチタンに対する塩素の原子比は、ラザフォード後方散乱分光法によって測定した場合に、0.04~0.19である、コーティング(11)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆カソード、被覆カソードの形成方法、被覆カソードを含む電池セル、および電池セルの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池のエネルギー密度を高めるために、高電圧カソード、すなわち、カソードが高い放電電圧(例えば、4Vより高い対Li+/Li)を有するカソードを可能にする新技術が開発されてきた。しかしながら、高電圧カソードの応用は、電池のサイクル、すなわち電池の周期的な充放電中に、電池中の電解液が分解することによって妨げられてきた。当技術分野では、電池の寿命と安定性を向上させるために、例えば、サイクルに関して、より多くの回数をより効率的にサイクルできるように、電池の電極にコーティングが施されることがある。金属酸化物コーティングから有機コーティングに至るまで、複数のコーティングがすでに過去に試験されてきた。
【0003】
コーティングは、リチウムイオン電池やリチウム金属電池の電極を改善するための一般的な戦略であるが、コーティングの導入に関するいくつかの問題が残っている。コーティングを介したLi+イオンの拡散は、電池の速度性能を妨げない程度に十分大きくなければならない。この問題は、厚さが1ナノメートル以下の薄いコーティングを使用するか、有効表面積が最小になることにより副反応が最小になる一方、Liイオンが孔からアクセスできるように活物質を不完全に覆うことで、解決できるかもしれない。しかしながら、このようなアプローチは速度性能に悪影響を及ぼすため、寄生反応の低減とこれによる電池寿命の延長と、電池のレート性能の低下とは、トレードオフの関係にならざるを得ない。さらに、コーティング材料がこのような薄いコーティングで構成される場合、コーティング材料の特性はバルクコーティング材料の特性とは異なる可能性がある。コーティングは、電気化学的、化学的、機械的に安定であることが好ましい。電気化学的および化学的に不安定な場合、コーティングが溶解し、コーティングの有益な特性が時間とともに低下する可能性がある。コーティングの機械的不安定性は、例えば、電池のサイクル中に電極材料が膨張または収縮すると、コーティングの亀裂および剥離をもたらす可能性がある。
【0004】
従って、当技術分野では、上述の問題の1つ以上を解決するコーティングが必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、良好な被覆カソード、および被覆カソードを製造するための良好な方法を提供することである。
【0006】
上記目的は、本発明による方法および装置によって達成される。
【0007】
本発明の実施形態の利点は、コーティングが1nmを超える厚さ、例えば20nmまでの厚さを有していてもよく、その一方で、コーティングを通るLiイオンの拡散は、電池における用途のために依然として十分に速いことである。本発明の実施形態の利点は、大きな厚みがコーティングの高い電気化学的、化学的、および機械的安定性をもたらす可能性があることである。本発明の実施形態の利点は、コーティング材料組成物がコーティングに追加の柔軟性をもたらし、それによりサイクル中の電極材料の膨張または収縮の結果としてのコーティングの割れを防止し得ることである。本発明の実施形態の利点は、厚みが大きいことにより、カソードを完全に覆うコーティングが得られ、それにより、コーティングされた電極の活物質と、被覆カソードに物理的に接触する、例えば含浸する電解液との間の物理的接触が防止されることで、それによって、カソードが高い放電電圧(4V対Li+/Liを超える)を提供する場合であっても、電解液の分解が防止され得ることである。本発明の実施形態の利点は、電極のサイクル性、保存寿命、自己放電率、および安定性がコーティングによって改善されることである。
【0008】
第1の態様において、本発明は、イオンを供給および貯蔵するための活物質と、導電性添加剤と、活物質の表面および場合によっては導電性添加剤の表面をコーティングする、活物質とは異なるコーティングと、を含み、コーティングはアモルファスのハロゲンドープ酸化チタンを含み、コーティングが1~20nmの厚さを有する、被覆カソードに関する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、第1の電解質と物理的に接触している、本発明の第1の態様の実施形態にかかる被覆カソードと、第2の電解質と物理的に接触している、アノードと、を含む電池セルであって、第1の電解質と第2の電解質は同じであるか、または異なっており、電池セルは、第1の電解質および第2の電解質に含まれるイオンが、第1の電解質と第2の電解質との間を移動できるように構成されている、電池セルに関する。
【0010】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の実施形態にかかる被覆カソードを形成するための方法に関し、以下のステップ:a)Liイオン(すなわちLi+)を供給および貯蔵するためのカソード活物質を提供するステップと、b)活物質の露出表面上に、活物質とは異なるコーティングを堆積させるステップであって、コーティングは、ハロゲンドープ酸化チタンを含み、1~20nmの厚さを有するステップと、c)導電性添加剤を提供するステップと、を含み、ステップb)は、ステップa)の後でステップc)の前、またはステップa)およびc)の両方の後、のいずれかで実行される。
【0011】
第4の態様において、本発明は、本発明の第2の態様の実施形態にかかる電池セルを形成するための方法であって、以下のステップ:第1の態様のいずれかの実施形態にかかる被覆カソードを提供するステップと、アノードを提供するステップと、被覆カソードを第1の電解質と接触させ、アノードを第2の電解質と接触させるステップであって、第1の電解質および第2の電解質は同じであるか、または異なっており、第1の電解質および第2の電解質に含まれるLi+イオンが、第1の電解質と第2の電解質との間を移動できるように、電池セルを構成するステップと、を含む。
【0012】
第5の態様において、本発明は、カソード活物質をコーティングするための、アモルファスハロゲンドープ酸化チタンを含むコーティングの使用に関する。
【0013】
本発明の特に好ましい態様は、添付の独立請求項および従属請求項に記載されている。従属請求項の特徴は、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と適宜組み合わせることができ、単に特許請求の範囲に明示的に記載されている通りではない。
【0014】
当該分野の装置には絶え間ない改良、変化、および進化があったが、本概念は、先行実施からの逸脱を含む実質的に新規かつ新規な改良を表すと考えられ、その結果、この性質の装置のより効率的、安定的、および信頼性の高い装置が提供される。
【0015】
本発明の上記および他の特徴、特徴、および利点は、本発明の原理を例示的に示す添付の図面と併せて以下の詳細な説明から明らかになるであろう。この説明は、本発明の範囲を限定することなく、例示のためにのみ与えられる。以下に引用する参照図は、添付の図面を指す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】塩素ドープ酸化チタンを含むコーティングのチタンに対する塩素の原子比を、コーティングが堆積された温度の関数としてプロットする。
【
図2】ナノインデンテーション法を用いて測定した、圧痕深さの関数としての各種コーティングの硬度のプロットである。
【
図3】ドープされていない酸化チタンでコーティングされたマンガン酸リチウムを含むサンプルのサイクリックボルタンモグラムである。
【
図4】塩素ドープ酸化チタンコーティングされたマンガン酸リチウムを含む試料のサイクリックボルタンモグラムである。
【
図5】非コーティング、ドープされていない酸化チタンコーティングされた酸化マンガンリチウムからなる試料、および塩素ドープ酸化チタンコーティングされた酸化マンガンリチウムを含む試料のクーロン効率のプロットである。
【
図6】アンドープ酸化チタンコーティングされたリチウムマンガン酸化物を含む試料の体積容量の、Cレートの関数としてのプロットである。
【
図7】塩素ドープ酸化チタンコーティングされたリチウムマンガン酸化物を含む試料の体積容量の、Cレートの関数としてのプロットである。
【
図8】ドープされていない酸化チタンコーティングされたマンガン酸リチウムを含む試料のサイクリックボルタンモグラムである。
【
図9】塩素ドープ酸化チタンコーティングされたマンガン酸リチウムを含む試料のサイクリックボルタンモグラムである。
【
図10】電気化学測定後に得られた、厚さ5nmの塩素ドープ酸化チタンコーティングされたリチウムマンガン酸化物のTEM画像である。
【
図11A】本発明の実施形態にかかる、コーティングされた活物質を含む被覆カソードの断面の概略図である。
【
図11B】本発明の実施形態にかかる、コーティングされた活物質を含む被覆カソードの断面の概略図である。
【
図12A】本発明の実施形態にかかる、活物質および導電性添加剤がコーティングされた、被覆カソードの断面の概略図である。
【
図12B】本発明の実施形態にかかる、活物質および導電性添加剤がコーティングされた、被覆カソードの断面の概略図である。
【0017】
異なる図において、同じ参照符号は、同じまたは類似の要素を指す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を特定の実施形態に関して、特定の図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。説明される図面は概略的なものであり、非限定的なものである。図面において、いくつかの要素の大きさは、例示の目的で誇張され、縮尺通りに描かれていない場合がある。寸法および相対寸法は、本発明の実施に対する実際の縮小に対応するものではない。
【0019】
さらに、本明細書および特許請求の範囲において、第1、第2、第3などの用語は、類似の要素を区別するために使用されるものであり、必ずしも、時間的、空間的、順位的、またはその他の方法で、順序を記述するために使用されるものではない。このように使用される用語は、適切な状況下では交換可能であり、本明細書に記載される本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示される以外の順序で動作可能であることを理解されたい。
【0020】
さらに、本明細書および特許請求の範囲における上、下、上、下などの用語は、説明の目的で使用されており、必ずしも相対的な位置を説明するためのものではない。このように使用された用語は、適切な状況下では交換可能であり、本明細書に記載された本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示された以外の向きでも動作可能であることを理解されたい。
【0021】
特許請求の範囲において使用される用語「含む(comprising)」は、その後に列挙される手段に限定されるものとして解釈されるべきではなく、他の要素またはステップを排除するものではないことに留意されたい。従って、この用語は、言及された記載された特徴、整数、ステップ、または構成要素の存在を特定するものとして解釈されるべきであるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、または構成要素、またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。従って、「含む(comprising)」という用語は、記載された特徴のみが存在する状況と、これらの特徴と1つ以上の他の特徴とが存在する状況を対象とする。従って、本発明にかかる「含む(comprising)」という語は、さらなる構成要素が存在しないことも一実施形態として含む。従って、「手段AおよびBを含む装置」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみからなる装置に限定して解釈されるべきではない。
【0022】
同様に、特許請求の範囲に使用されている「結合された(coupled)」という用語も、直接接続のみに限定して解釈すべきではないことに留意されたい。「結合された(coupled)」および「連結された(connected)」という用語は、それらの派生語とともに使用することができる。これらの用語は、互いに同義語として意図されているものではないことを理解されたい。従って、「装置Bに結合された装置A」という表現の範囲は、装置Aの出力が装置Bの入力に直接接続された装置またはシステムに限定されるべきではない。「結合された(coupled)」とは、2つ以上の要素が物理的または電気的に直接接触していること、または2つ以上の要素が互いに直接接触していないが、それでもなお互いに協力または相互作用していることを意味する場合がある。
【0023】
本明細書全体を通して「一実施形態(one embodiment)」または「実施形態(an embodiment)」という言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書を通じて様々な箇所で「一実施形態において(in one embodiment)」または「実施形態において(in an embodiment)」という表現が現れるが、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではなく、その可能性もある。さらに、特定の特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において、本開示から当業者に明らかであるように、任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0024】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明において、本発明の様々な特徴は、開示を合理化し、様々な発明の態様の1つまたは複数の理解を助ける目的で、単一の実施形態、図、またはその説明において、グループ化されることがあることを理解されたい。しかしながら、この開示方法は、特許請求される発明が、各請求項に明示的に記載されている以上の特徴を必要とするという意図を反映していると解釈されるべきものではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明的態様は、単一の前述の開示された実施形態のすべての特徴よりも少ない特徴にある。従って、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、各請求項がこの発明の別個の実施形態としてそれ自体で立つことにより、この詳細な説明に明示的に組み込まれる。
【0025】
さらに、本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むみ、他の特徴は含まないが、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であることを意味し、当業者に理解されるように、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲において、特許請求される実施形態のいずれかを任意の組み合わせで使用することができる。
【0026】
さらに、実施形態のいくつかは、コンピュータシステムのプロセッサまたは機能を実行する他の手段によって実施することができる方法または方法の要素の組み合わせとして本明細書に記載される。従って、このような方法または方法の要素を実施するために必要な命令を有するプロセッサは、方法または方法の要素を実施するための手段を形成する。さらに、装置の実施形態の本明細書で説明する要素は、本発明を実施する目的で要素によって実行される機能を遂行するための手段の一例である。
【0027】
本明細書で提供される説明において、多数の具体的な詳細が規定される。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細なしに実施され得ることが理解される。他の例では、本明細書の理解を不明瞭にしないために、周知の方法、構造、および技術は詳細に示されていない。
【0028】
第1の態様において、本発明は、Li+イオンを供給および貯蔵するための活物質と、導電性添加剤と、活物質とは異なるコーティングであって、活物質および場合によっては導電性添加剤の表面をコーティングするコーティングと、を含み、コーティングがアモルファスハロゲンドープ酸化チタンを含み、コーティングが1~20nmの厚さを有する、被覆カソードに関する。
【0029】
本明細書で使用される場合、および他に規定がない限り、用語「被覆カソード」は、基板上に被覆されたカソードを意味するのではなく、コーティングによって被覆されたカソードを意味する。
【0030】
とはいえ、第1の態様の被覆カソードは、典型的には集電体と接触しており、集電体上でコーティングされていることができる。このような実施形態では、被覆カソードは、a)コーティングによって被覆された、およびb)基板(集電体)上で被覆されたカソードである。
【0031】
実施形態では、コーティングは電子的に非導電性である。有利なことに、コーティングは、活物質と電解質との間の物理的および電気的接触、ならびに任意に、被覆カソードに含浸する可能性のある導電性添加剤と電解質との間の物理的および電気的接触を防止することができ、これにより電解質の分解を防止することができる。分解は、例えば、アノードとカソードとの間に十分に大きな電位差が形成され、電解液の電気化学的安定性が損なわれた場合に起こり得るが、これに限定されるものではない。分解は、例えば、活物質を電解質から分離する固体電解質間相(SEI)バリア層の形成をもたらす可能性があり、バリア層を通るLi+イオンの移動度、すなわち電解質と活物質との間の移動度が低くなる可能性がある。その結果、活物質はLi+イオンを電解液に供給することができないか、または電解液からLi+イオンを貯蔵することができない。コーティングは、電解質の分解を防止し、それによってバリア層の形成を防止することができる。
【0032】
実施形態において、活物質は、リチウムと少なくとも1つの遷移金属とを含む酸化物であってもよい。
【0033】
実施形態において、活物質によるLi+イオンの供給は、活物質中に構成される遷移金属イオンを酸化させ(例えば、Co3+→Co4+)、それによって、被覆カソードに物理的に接触する(例えば、含浸する)電解液中に拡散することができるLi+イオンを形成することを含んでもよい。このプロセスは、抽出または脱インターカレーションと呼ばれる。実施形態では、活物質によるイオンの貯蔵は、活物質中(例えば、活物質の表面)へのLi+イオンの挿入と同時に、活物質中に構成される少なくとも遷移金属イオンの還元(例えば、Co4+→Co3+)を伴う場合がある。このプロセスは挿入またはインターカレーションと呼ばれる。
【0034】
実施形態では、コーティングおよび活物質は異なる材料を含む、または異なる材料から構成される、という点で、コーティングは活物質とは異なる。実施形態において、活物質は、層状遷移金属酸化物(例えば、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNixMnyCozO2)、ここでx+y+z=1)、スピネル相遷移金属酸化物(リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン酸化物(LiMn1.5Ni0.5O4))、またはポリアニオン性材料(LizXYで、X=Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Y=リン酸基(PO4)、硫酸基(SO4)、またはケイ酸塩(SiO4)、zは電気的中性を確保するのに十分である(例えばzは1(LiFePO4など)または2(Li2MnSiO4など)に等しい場合がある)。活物質は、例えば、コーティング電極に物理的に接触する電解質にLi+イオンを供給し、貯蔵するためのものである。実施形態では、活物質は、Li+イオン挿入時に還元する遷移金属イオンからなる。好ましい実施形態では、活物質は、Li+を供給および貯蔵するためのものであってもよい。実施形態において、コーティングは、Li+とは異なるさらなるイオンのためのバリアとして作用してもよく、さらなるイオンは、例えば、活物質中に構成される金属のさらなるイオンまたはO2-もしくはPO4
3-などのアニオン、または電解質中に構成されるO2-もしくはPO4
3-などのさらなるイオンから構成されてもよい。これにより、活物質は、Li+イオンのみを電解質に供給し、さらなるイオンは供給しないことができる。
【0035】
実施形態において、コーティングのチタンに対するハロゲンの原子比は、ラザフォード後方散乱分光法で測定した場合、0.01~0.25、好ましくは0.01~0.20、より好ましくは0.04~0.19である。実施形態において、ハロゲンは塩素からなる。
【0036】
好ましい実施形態において、第1の態様の本発明は、以下:
-Li+イオンを供給および貯蔵するための活物質(10)、
-導電性添加剤(12)、および、
-活物質(10)とは異なる、活物質(10)の表面をコーティングするコーティング(11)であって、コーティング(11)はアモルファスの塩素ドープ酸化チタンを含み、コーティング(11)は1~20nmの厚さを有する、コーティング(11)、を含み、
コーティング(11)のチタンに対する塩素の原子比は、ラザフォード後方散乱分光法で測定した場合、0.04~0.19である被覆カソードに関する。
【0037】
有利には、ハロゲンがドープされた酸化チタンからなるコーティングを通るLi+などのイオンの拡散係数は、大きくてもよく、例えば、ドープされていない酸化チタンからなるコーティングよりも大きくてもよい(例えば、S. Moitzheimら、Chlorine Doping of Amorphous TiO2 for Increased Capacity and Faster Li+-Ion Storage, Chemistry of Materials 29(2017), 10007~10018頁参照)。実施形態において、コーティングの厚さは1~20nm、好ましくは3~10nmである。有利には、イオンの拡散係数が大きくてもよいので、コーティングは、イオンに対してブロッキングになることなく、十分に大きな電気化学的、化学的、および機械的安定性を有するのに十分な厚さであってもよい。さらに、厚さが少なくとも1nmであることは、活物質の表面が粗い場合であっても、コーティングが活物質を完全に覆うことを容易にする可能性がある。
【0038】
実施形態において、電極/電解質界面、集電体界面、および前記両界面間の等距離における活物質上の平均コーティング厚さのうち、これらの平均コーティング厚さのうち最大のものは、これらの平均コーティング厚さのうち最小のものよりも最大で10倍大きくてもよい。例えば、これらの実施形態において、電極/電解質界面における平均コーティング厚さが10nmである場合、電極/集電体界面における平均コーティング厚さは1nmより小さくない。
【0039】
本発明の実施形態の利点は、ハロゲンドープ酸化チタンを含むコーティングの可撓性が、ドープされていない酸化チタンを含むコーティングの場合よりも大きくなり得ることであり、そのため、ハロゲンドープ酸化チタンを含むコーティングは、サイクル寿命が長くなり得る。
【0040】
実施形態において、活物質上のコーティングはコンフォーマルである。実施形態において、等角性(conformality)は、活物質の各粒子の周りのコーティングの厚さの変動が、全ての粒子にわたって平均して、この粒子の周りのコーティングの平均厚さからの標準偏差が20%未満、例えば10%未満であることを含む。コンフォーマルコーティングは、コーティングの異なる位置に関して均一な、コーティングを通るイオンの均一な拡散をもたらす可能性がある。それにより、コーティングの膨張および収縮が均一となり、コーティングの機械的安定性がさらに向上する可能性がある。実施形態において、コーティングは活物質の露出表面を覆う。実施形態において、活物質は粒子を含み、場合によっては互いに物理的に接触している。実施形態において、導電性添加剤は、炭素添加剤、導電性ポリマー、ケイ化物、または導電性酸化物を含む。最も一般的な導電性添加剤は炭素添加剤であり、最も典型的なものはカーボンブラックである。有利には、導電性添加剤は粒子間の電気的接触を改善する。実施形態において、コーティングは、活物質および任意に導電性添加剤の露出表面を覆う。実施形態において、コーティングは、活物質の露出表面および導電性添加剤の露出表面を覆う。これらの実施形態において、好ましくは、導電性添加剤は活物質と物理的に、したがって電気的に接触している。これにより、導電性添加剤と活物質との間の電子の流れは、コーティングによって妨げられることがない。活物質が導電性添加剤と物理的に接触している場合、導電性添加剤の電位は通常、活物質の電位と同じであるため、導電性添加剤と電解質との接触により、電解質内で電気化学反応が誘発される可能性がある。実施形態では、活物質上および導電性添加剤上のコーティングは等角ある。
【0041】
実施形態において、電極/電解質界面、集電体界面、および前記両界面間の等距離における導電性添加剤上の平均コーティング厚さのうち、これらの平均コーティング厚さのうち最大のものは、これらの平均コーティング厚さのうち最小のものよりも最大で10倍大きくてもよい。例えば、これらの実施形態において、電極/電解質界面における導電性添加剤上の平均コーティング厚さが10nmである場合、電極/集電体界面における平均コーティング厚さは1nmより小さくない。
【0042】
好ましくは、電極/電解質界面、集電体界面、および両界面間に存在する活物質は、コーティングによって完全に覆われている。
【0043】
より好ましくは、電極/電解質界面、集電体界面、および前記両界面間に存在する活物質および導電性添加剤は、コーティングによって完全に覆われている。
【0044】
実施形態において、被覆カソードは、活物質、導電性添加剤(および集電体)に接着された、導電性添加剤とは異なる(および活物質およびコーティングとは異なる)ポリマーバインダーをさらに含む。有利なことに、ポリマーバインダーは、被覆カソードの機械的安定性を向上させ、活物質と導電性添加剤との間、導電性添加剤と集電体との間、および集電体と活物質との間の物理的および電気的接触を持続させることができる。例えば、ポリマーバインダーは活物質と導電性添加剤を結合させることができる。例えば、活物質が粒子からなる場合、ポリマーバインダーは粒子同士を結合させてもよい。ポリマーバインダーは電気的に非導電性であるため、ポリマーバインダーをコーティングする必要はないかもしれない。しかしながら、ポリマーバインダーは、ポリマーバインダーからなる被覆カソードの製造を容易にするために、活物質および導電性添加剤と共にコーティングされてもよい。ポリマーバインダーの非限定的な例は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースナトリウムの混合物(SBR+CMC)、およびポリアクリロニトリルである。実施形態では、コーティングは、活物質、導電性添加剤、およびポリマーバインダーの表面をコーティングする。
【0045】
実施形態において、被覆カソードは、活物質、導電性添加剤、およびポリマーバインダーを含んでもよく、それらの全てがその表面にコーティングを有する。他の実施形態では、被覆カソードは、活物質と導電性添加剤とを含み、両者ともその表面にコーティングを有し、コーティングされていないポリマーバインダーを含んでもよい。さらに他の実施形態において、被覆カソードは、コーティングされた活物質、コーティングされていない導電性添加剤、およびコーティングされていないポリマーバインダーを含んでもよい。
【0046】
実施形態において、被覆カソードは、本発明の第2の態様のいずれかの実施形態において定義されるような第1の電解質と物理的に接触してもよい。実施形態において、第1の電解質は多孔質であってもよい。実施形態において、第1の電解質は、複数の相互接続された細孔を含む多孔性マトリックスを含んでもよい。実施形態において、細孔は、第1の材料からなる第1の層によって覆われてもよい。実施形態において、第1の層は、本発明の第2の態様において定義されるようなものであってよい。第1の層は、例えば、ポリマーまたはイオン液体であってよい。実施形態において、ポリマーは、本発明の第2の態様において定義されるものであってよい。実施形態において、第1の材料の第1の層は、電解質化合物を含む第2の層によって覆われてもよく、それによってナノ複合電解質が形成される。
【0047】
実施形態において、電解質化合物は、本発明の第2の態様のいずれの実施形態において定義されるものであってもよい。
【0048】
実施形態において、被覆カソードは、ナノ複合電解質と物理的に接触し、それにより、活物質の表面上および任意選択で導電性添加剤の表面上にコーティングを有する複合電極を形成する。
【0049】
第1の態様のいずれかの実施形態の特徴は、本発明の他の態様のいずれの実施形態について対応するように独立して記載され得る。
【0050】
第2の態様において、本発明は、以下:
-第1の電解質と物理的に接触している、本発明の第1の態様の実施形態にかかる被覆カソード、および、
-第2の電解質と物理的に接触しているアノード、を含む電池セルであって、
第1の電解質および第2の電解質は、同一であるか、または異なっており、電池セルは、第1の電解質および第2の電解質中に含まれるイオンが、第1の電解質と第2の電解質との間を移動できるように構成される電池セルに関する。
【0051】
第2の態様の任意の実施形態のいずれかの特徴は、本発明の他の態様の任意の実施形態について対応するように独立して記載され得る。
【0052】
実施形態において、カソードは、電池セルの放電時に活物質中に構成される遷移金属イオンの電気化学的還元が起こり得る電極を指し、アノードは、電池セルの放電時にLi+イオンの電気化学的酸化または活物質中に含まれるイオンの酸化が起こり得る電極を指す。第1の電解液がコーティング電極に物理的に接触することにより、Li+イオンがコーティングを介して活物質と第1の電解液との間を移動してもよい。これにより、Li+イオンが活物質から、コーティングを通って、電解液にデインターカレーションするによって、活物質はLi+イオンを第1の電解液に供給できる。これにより、電解質からコーティングを介して活物質へのLi+イオンのインターカレーションによって、活物質は電解質からLi+イオンを貯蔵することができる。実施形態において、アノードは、Li+イオンを貯蔵および供給するための材料を含む。
【0053】
実施形態において、Li+イオンが第1の電解質と第2の電解質との間を移動できるように構成されている電池は、第1の電解質と第2の電解質とが同じ電解質からなり、第1の電解質が第2の電解質と物理的に接触し、例えば、第1の電解質と第2の電解質とを隔てる障壁が存在しない。実施形態において、Li+イオンが第1の電解質と第2の電解質との間を移動できるように構成されている電池セルは、第1の電解質と第2の電解質とを分離するイオン導電性膜、すなわちLi+イオンに対して導電性の膜が存在することを含んでいる。有利なことに、これらの実施形態において、第1の電解質および第2の電解質は異なっていてもよく、第1の電解質および第2の電解質は混合することができないが、Li+イオンは依然として第1の電解質と第2の電解質との間を、すなわちイオン導電性膜を通って移動することによって移動することができる。特定の実施形態では、電池セルは、第1の電解質と第2の電解質との間に第3の電解質を含む。実施形態において、第1の電解質は、第1のイオン導電性膜によって第3の電解質から分離される。実施形態において、第2の電解質は、第2のイオン導電性膜によって第3の電解質から分離される。
【0054】
実施形態において、第1の電解質および第2の電解質は、独立して、任意のタイプの電解質から構成されてもよい。例えば、これらは独立して、固体電解質(例えば、ポリマー電解質または複合電解質)、または液体電解質でもよい。実施形態において、第1の電解質および第2の電解質は、任意の電解質組成物(例えば、エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネート等中のLiPF6)を含んでも良い。すなわち、本発明は、電解質の種類や組成を問わない。実施形態において、第1の電解質および第2の電解質の少なくとも一方は、固体電解質、好ましくはナノ複合電解質を含む。他の実施形態では、第1の電解質および第2の電解質の両方が液体電解質を含む。実施形態では、第1の電解質は固体電解質であり、第2の電解質は固体電解質である。有利には、これらの実施形態において、第1の電解質と第2の電解質とが異なる場合、第1の電解質と第2の電解質とは、イオン導電性膜を必要とすることなく、互いに分離されたまま、すなわち混合されないままでもよい。有利なことに、固体電解質は液体電解質と比較して不活性であり、例えば空気や水分に対して不活性であるため、固体電解質を含む電池は、本質的に安全性が向上する可能性がある。さらに、固体電解質は高いエネルギー密度を有する可能性がある。有利なことに、固体電解質の一種であるナノコンポジット電解質は、特に高いLi+イオン移動度を有することができる。ナノ複合電解質は、例えばEP3616250、およびChenらの、Science Advances 6(2020)eaav3400に既に記載されている。
【0055】
ナノコンポジット電解質は、例えば、第1の層で覆われた複数の相互接続された細孔を含む多孔質マトリックスを含むことがあり、この細孔は、第2の層で覆われている。一例として、理論によれば、第1の材料、例えばポリマーまたはイオン液体、を含む第1の層は、細孔の内表面を覆うことができる。次に、電解質化合物が第1の層を覆い、第2の層を形成する。マトリックス材料、第1の層、および第2の層の間の特定の相互作用の組み合わせにより、電解質化合物のイオン、例えばLi+は、細孔を通って比較的自由に移動することができ、それによって電極間を高速で移動することができる。実施形態では、マトリックスは、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、またはそれらの組み合わせの酸化物からなる。実施形態において、イオン液体は、1-ペンチル-1-メチルピロリジニウム、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-プロピル-1-メチルピロリジニウム、1-エチル-1-メチルピロリジニウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム、1,2-ジエチル-3,5-ジメチルイミダゾリウム、トリメチル-n-ヘキシルアンモニウム、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム、およびN-エチル-N-メチルモルホリジニウムから選択されるカチオン、ならびにClO4
-、BF4
-、PF6
-、BH4
-、PO4
3-、Cl-、Br-、I-、NO3
-、ジシアンアミド、チオシアニド、ビストリフリミドから選択されるアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、ビス-(ペルフルオロエチルスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホニル)アセトアミド、およびビス(オキソラト)ボレートから選択されるアニオンを含む。実施形態において、ポリマーは、2,000~200,000g/molの分子量を有するポリエチレンオキシドのようなポリエーテル、および/または以下のポリマー:ポリエーテル、好ましくはエチレンオキシドまたはプロピレンオキシド、ポリ(メチルメタクリレート)、およびポリフッ化ビニリデンのうちの1つから誘導されるコポリマーを含んでもよい。実施形態において、電解質化合物は、金属塩を含み、金属塩は、Li+、およびClO4
-(過塩素酸塩)、BF4
-(テトラフルオロホウ酸塩)、PF6
-(ヘキサフルオロリン酸塩)、ビストリホルムイミド、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス-(パーフルオロエチルスルホニル)イミド、およびBOB(ビス(シュウ酸塩)ホウ酸塩)から選択されるアニオンを含む。アニオンはまた、トリフレート(トリフルオロメタンスルホネート)、BETI(ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド)、DFOB(ジフルオロ(オキサラト)ボレートバイソン)、PDI(ジシアノ-ペンタフルオロエチルイミダゾール)、TDI(ジシアノ-トリフルオロメチルイミダゾール)、DMSI(シクロジフルオロメタン-1,1-ビス(スルホニル)イミド)、HPSI(シクロヘキサフルオロプロパン-1,1-ビス(スルホニル)イミド)、DFOD(ジフルオロ(オキサラト)ボレート)、BFMB(ビス(フルオロマロナト)ボレート)、BISON(タトラシアノボアレート)、およびDCTA(ジシアノトリアゾレート)から選択されても良い。
【0056】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の実施形態にかかる被覆カソードを形成するための方法に関し、以下のステップ:a)Li+イオンを供給および貯蔵するために、活性カソード材料、すなわち活物質を提供するステップと、b)活物質の露出した表面上に、活物質とは異なるコーティングを堆積させるステップであって、コーティングは、ハロゲンドープ酸化チタンを含み、1~20nmの厚さを有するステップと、c)導電性添加剤を提供するステップと、を含み、ステップb)は、ステップa)の後でステップc)の前、またはステップa)およびc)の両方の後、のいずれかで実行される方法に関する。
【0057】
典型的には、カソード活物質は集電体上に設けられ、集電体は典型的には金属箔である。例えば、カソード活物質は集電体上にドロップキャストすることができる。
【0058】
第3の態様のいずれかの実施形態の特徴は、本発明の他の態様のいずれかの実施形態について対応するように独立して記載され得る。
【0059】
ステップb)が、ステップa)の後でステップc)の前に実施される実施形態では、活性カソード材料のみがコーティングされる。ステップb)が、ステップa)およびステップc)の両方の後に実施される実施形態では、導電性添加剤および活性カソード材料の両方がコーティングされる。好ましい実施形態では、ステップb)は、ステップa)とc)の両方の後に実行される。有利には、導電性添加剤もそのようにしてコーティングされ、活物質と物理的に接触する。被覆カソードが結合ポリマーをさらに含む実施形態において、本方法は、結合ポリマーを提供するさらなるステップa’)を含む。好ましい実施形態では、ステップa’)は、ステップa)の後でステップb)およびc)の前、またはステップa)およびc)の後でステップb)の前に実施される。有利なことに、これらの実施形態では、第1に、カソード活物質、導電性添加剤、および結着ポリマーを提供してもよく、第2に、カソード活物質、導電性添加剤、および結着ポリマーを単一のステップでコーティングしてもよい。最も典型的なケースでは、活物質、導電性添加剤、および高分子結合剤(存在する場合)を一緒に混合してスラリーを形成し、これを集電体上に塗布する。有利には、これらの実施形態において、カソード活物質、導電性添加剤、および結着ポリマーは、カソード活物質、導電性添加剤、および結着ポリマーの間に良好な電気的および物理的接触があるように混合されるように提供されてもよい。
【0060】
実施形態において、コーティングは、原子層堆積、化学蒸着(CVD)または化学溶液堆積(CSD)(例えば、ゾル-ゲルプロセス)など、コーティングを堆積するのに適した任意の方法によって堆積されてもよく、好ましくは原子層堆積によって堆積される。実施形態では、コーティングの堆積は、30~150℃の温度で原子層堆積によって行われる。原子層堆積は、活物質、場合によっては導電性添加剤、および場合によっては結合ポリマーのすべての露出表面上に、薄く、コンフォーマルのコーティングを堆積させるのに非常に適している。有利なことに、原子層堆積をこの温度範囲で行うことにより、原子層堆積中にこれらの材料を損傷したり分解したりすることなく、活物質、ポリマーバインダー、および導電性添加剤のそれぞれに堆積を行うことができる。実際、より高い温度を使用すると、材料の熱分解を引き起こす可能性がある。さらに、堆積されるコーティングのハロゲン対チタンの原子比は、原子層堆積を行う温度に依存する可能性がある。それにより、コーティングのハロゲン/チタン原子比は、温度を調整することによって調整することができる。低い温度は、一般的に高いハロゲン/チタン原子比に対応する。コーティングがより高いハロゲン/チタン原子比を有する場合、コーティングはより高い柔軟性を有し、Li+はコーティングを通るより大きな拡散係数を有することができる。好ましくは、コーティングの堆積は、50~130℃の温度で原子層堆積によって行われる。実施形態では、原子層堆積は、前駆体としてTiCl4を用い、酸化剤としてH2Oまたはオゾンを用いて行われる。
【0061】
第4の態様の好ましい実施形態において、本発明は、第1の態様のいずれかの実施形態による被覆カソードを形成するための方法であって、以下を含むステップ:
a)Li+イオンを供給および貯蔵するためのカソード活物質(10)を提供するステップ、
b)活物質(10)の露出表面上に、活物質(10)とは異なる50~130℃の温度で、原子層堆積法によってコーティング(11)を堆積させるステップであって、コーティングは、塩素ドープ酸化チタンを含み、1~20nmの厚さを有するステップ、および、
c)導電性添加剤(12)を提供するステップ、を含み、
ステップb)は、ステップa)の後でステップc)の前、またはステップa)およびc)の両方の後、に実行される方法である。
【0062】
第4の態様において、本発明は、本発明の第2の態様の実施形態による電池セルを形成するための方法であって、本発明の第1の態様の実施形態にかかる被覆カソードを提供するステップと、アノードを提供するステップと、被覆カソードを第1の電解質と接触させ、アノードを第2の電解質と接触させるステップであって、第1の電解質および第2の電解質は同じであるか、または異なっており、第1の電解質および第2の電解質中に含まれるLi+イオンが、第1の電解質と第2の電解質との間を移動できるように、電池セルを構成するステップと、を含む、方法に関する。
【0063】
第4の態様のいずれかの実施形態の特徴は、本発明の他の態様のいずれかの実施形態について対応するように独立して記載され得る。
【0064】
被覆カソードを第1の電解質と接触させることは、被覆カソードの露出表面を第1の電解質と接触させることを含んでもよい。実施形態において、被覆カソードのすべての露出表面は、第1の電解質と接触される。アノードを第2の電解液と接触させることは、アノードの露出表面を第2の電解液と接触させることを含んでも良い。実施形態において、アノードのすべての露出表面は、第2の電解質と接触される。第1の電解質および/または第2の電解質が固体電解質を含む実施形態において、固体電解質は、例えば、電極、例えばコーティングされたカソードまたはアノードを、固体電解質の前駆体を含む液体前駆体と接触させ、例えば含浸させ、液体前駆体中の反応を誘導して固体電解質を形成することによって提供されてもよい。実施形態において、液体前駆体は、マトリックス材料の前駆体、好ましくは、テトラエチルオルソシリケート、テトラメチルオルソシリケート、またはテトラプロピルオルソシリケート;電解質化合物;および第1の材料、例えば、ポリマーまたはイオン液体を含むテンプレート材料を含んでも良い。実施形態において、反応は、酸または塩基を添加することによって誘導され得る。テンプレート材料は、有利には、固体電解質における細孔の形成を誘導し、それによって、第1の材料を含む第1の層によって覆われた複数の相互接続された細孔を含む多孔性マトリックスを形成し、この細孔は、電解質化合物を含む第2の層によって覆われ、それによって、EP3616250、およびChenら、Science Advances 6(2020)eaav3400に記載されているようなナノ複合電解質を形成することができる。
【0065】
第5の態様において、本発明は、カソード活物質をコーティングするための、ハロゲンドープ酸化チタンを含むコーティングの使用に関する。
【0066】
第5の態様の好ましい実施形態において、本発明は、カソードの活物質(10)をコーティングするための、アモルファスの塩素ドープ酸化チタンを含むコーティング(11)の使用に関し、コーティング(11)のチタンに対する塩素の原子比は、ラザフォード後方散乱分光法によって測定した場合に、0.04~0.19である。
【0067】
第5の態様のいずれかの実施形態の特徴は、本発明の他の態様のいずれかの実施形態について対応するように独立して記載され得る。
【0068】
次に、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明によって本発明を説明する。本発明の他の実施形態が、本発明の真の精神または技術的教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って構成され得ることは明らかであり、本発明は、添付の特許請求の範囲の条件によってのみ限定される。
【0069】
実施例1:被覆カソードの形成
第1の実施例では、被覆カソードが得られる。例えば、カソード活物質、すなわち活物質、この例ではリチウムマンガン酸化物(LMO)を含む活物質を堆積させることができる。この例では、Kurt J. Leskerスパッタツールが、ターゲット上にリチウムマンガン酸化物を堆積させるために使用される。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、当業者であれば、カソード活物質を得るのに適した任意の方法を用いることができることを理解するであろう。本実施例では、カソード活物質のアニールを行う。アニール後、試料、すなわちターゲット上に堆積したリチウムマンガン酸化物をAr雰囲気中に保存する。この例では、化学量論的なスピネル型マンガン酸リチウムの膜が得られる。
【0070】
その後、原子層堆積法(ALD)を用いて、リチウムマンガン酸化物の膜上にコーティングを成膜する。このために、TiCl4(Pegasus Chemicals社から入手)を前駆体として使用し、H2Oを酸化剤として使用した。成膜はPicosun ALDリアクタで、リアクタ温度は50℃から130℃の範囲で行った。TiCl4前駆体には0.2秒、H2O前駆体には0.5秒のパルス時間を、それぞれ使用した。
【0071】
ラザフォード後方散乱分光法(RBS)は、異なる温度で堆積されたコーティング中のチタン原子と塩素原子の絶対濃度を測定するために使用された。1.523MeVのビームエネルギーで、40nAHe
+ビームを入射した。解析は、社内で開発したソフトウェアを用いて行った。
図1が参照されるが、これは、コーティングの堆積温度の関数として、様々なコーティングの塩素対チタン原子比、すなわちCl/Tiのプロットである。明らかに、使用された温度範囲内で、塩素/チタン原子比は、温度が下がるにつれて増加し、130℃で堆積されたコーティングのCl/Ti=0.04の最小値から、50℃で堆積されたコーティングのCl/Ti=0.19までの範囲に及ぶ。
図2を参照すると、TiO
1.9Cl
0.19と、ドープされていない酸化チタンの組成からなるコーティングの硬度を、圧痕深さの関数としてプロットしたものであり、ナノインデンテーション技術を用いて測定された、硬度、即ち変形に対する材料の可撓性が測定され、これは概ね材料の引っ張り強度と相関性がある。ナノインデンテーションは、鋭利なプローブ先端をサンプルに押し付けることで行われる。この過程で、変位と荷重の両方が測定される。プローブがサンプルに押し込まれると、材料の弾塑性挙動を含む荷重曲線が測定される。これは、フィルムの弾性挙動のみを含むアンローディング曲線とは対照的である。各(アン)ローディング曲線が得られた後、フィルムに形成されたクラックの長さが測定される。
【0072】
すべての変数を組み合わせることで、硬度と弾性率を別々に測定できる。
図2から明らかなように、塩素ドープ酸化チタン皮膜は、ドープされていない酸化チタンよりも著しく低い硬度を有する。
【0073】
実施例2:被覆カソードの電気化学分析
この実施例では、電気化学分析が様々なサンプルで実施され、各サンプルは、上面がコーティングでコーティングされた厚さ88nmのリチウムマンガン酸化物フィルムを含む。ここで、異なる試料のコーティングは、以下のもの:厚さ3nmと5nmのTiO1.98Cl0.04、厚さ5nmのTiO2、厚さ1nm、3nm、5nmのTiO1.9Cl0.19、を含む。
【0074】
電気化学分析では、特注の3電極テフロン(登録商標)セルを用いて電気化学測定を行った。テフロン(登録商標)セルは、垂直のオープンエンドコンパートメントと第2のセミオープンエンドコンパートメントを含む。コンパートメントは電解液で満たされている。この例では、電解液は0.94MLiClO4溶液であり、10gのLiClO4(バッテリーグレード、乾燥、99.99%、シグマアルドリッチ)にプロピレンカーボネート(PC)(無水、シグマアルドリッチ)を加えて最終的に100mlの電解液とすることで調製される。2つのコンパートメントは、イオン交換ができるように水平キャピラリで接続されている。サンプルは、電解液がサンプルのコーティングされた上面に接触するように、オープンエンドのコンパートメントの下に置かれる。テフロン(登録商標)セルから電解液がサンプル上に漏れないように、デュポン社のカレッツOリングが使用される。リチウムリボンは両方の垂直コンパートメントの開放端に置かれ、対極および参照電極として機能する。
【0075】
電気化学測定は、Metrohm Novaソフトウェアパッケージを使用して操作するM101 Metrohmポテンショスタットを使用して実施した。電気化学測定は、Arで満たされたMBraunグローブボックス(O2およびH2O含有量<0.1ppm)内で行われた。電気化学測定は、第1のサイクリックボルタンメトリー、続くガルバノスタティック充放電、それに続く第2のサイクリックボルタンメトリーを含む。
【0076】
第1のサイクリックボルタンメトリーは、まず開放電流電位を印加し、試料に印加する電圧を4.35V対Li
+/Liにシフトさせることで行われる。次に、試料に印加する電圧を2.4V~4.25V対Li
+/Liの間で、スキャン速度10mV/sで5回掃引した。
図3は、ドープされていない酸化チタンでコーティングされたマンガン酸リチウムを含む試料のサイクリックボルタンモグラムである。さらに
図4を参照すると、組成TiO
1.9Cl
0.19の塩素ドープ酸化チタンコーティングでコーティングされたマンガン酸リチウムを含むサンプルのサイクリックボルタンモグラムである。明らかに、同じ厚さのコーティングでは、塩素ドープ酸化チタンの方が、ドープしていない酸化チタンよりも、検出電流がかなり大きい。厚さ5nmのアンドープ酸化チタンコーティングを含む試料では、電流はほとんど検出されず、コーティングが試料中のLi
+イオンをほぼ完全にブロックしていることがわかる。しかしながら、厚さ5nmの塩素ドープ酸化チタンを含む試料では、厚さ3nmのアンドープ酸化チタンコーティングを含む試料よりもさらに大きな電流が検出された。この結果は、塩素ドープ酸化チタンに対するLi
+イオン拡散性が大きいことを明確に示している。有利なことに、塩素ドープ酸化チタンコーティングの厚さは、ドープされていない酸化チタンコーティングよりもはるかに大きくても、Li
+イオン拡散率は、コーティングが電池で使用可能であるために十分大きい。
【0077】
試料のレート性能を測定するために、ガルバノ静電充放電実験を行った。レート性能とは、充放電レート、すなわち印加電流の関数としての活物質の電荷貯蔵容量である。充放電曲線は、2.4V~4.25V対Li+/Liで測定される。Cレート1Cでの印加面電流密度は8.7μA/cm2に相当し、RBSを用いて測定したリチウムマンガン酸化物膜中のマンガン量から導き出した。RBSは、単位面積当たりの試料中のマンガンの総量、すなわち#原子/cm2を与える。LMOの容量は、Mn原子1個あたり1Liに等しい(2.4V~4.25V対Li+/Liでサイクルした場合)。このことから、理論容量が計算できる(その結果、1Cに対応する電流も計算できる(すなわち、全電荷/3600s))。
【0078】
ここで、Cレートとは、計算された理論上の最大容量に対して相対的に電池が充放電されると想定される速度の尺度である。したがって、Cレートは充放電中の印加電流に比例し、xCは1/x時間の予想充電時間に対応する。各試料について、1C、0.5C、2C、5C、10C、20C、50C、100CのCレートで体積容量(試料中の活物質体積あたりの容量)を測定し、再び1Cにおいて、各Cレートで5回サイクルさせた。
図6を参照すると、ドープされていない酸化チタンでコーティングされたリチウムマンガン酸化物からなるサンプルの体積容量が、Cレートの関数としてプロットされている。コーティングされていない酸化マンガンリチウムの参照試料と比較すると、3nmのドープされていない酸化チタンでコーティングされた酸化マンガンリチウムは、すべてのCレートで比較的低い体積容量を有する。5nmのドープされていない酸化チタンでコーティングされたリチウムマンガン酸化物は、すべてのCレートで無視できる体積容量を示し、これは、ドープされていない酸化チタンコーティングにおけるリチウムの拡散速度が非常に低い結果である。
【0079】
ガルバノスタティック充放電実験から、各サンプルのクーロン効率は、還元電流の積分値(すなわち、放電ステップに関連する電荷)を酸化電流の積分値(すなわち、充電ステップに関連する電荷)で割ることによって決定することができる。理想的には、クーロン効率は約1.00であり、充電ステップ中に放出される充電量と対応するマンガン酸化量は、放電ステップ中に活物質に貯蔵される充電量と対応するマンガン還元量に等しくなる。
図5を参照すると、異なるサンプルについて計算されたクーロン効率と、コーティングされていない酸化マンガンリチウムについて決定されたクーロン効率が示されている。3nmおよび5nmの塩素ドープ酸化チタンを含むサンプルのクーロン効率は、それぞれ98%および97%であり、3nmのドープされていない酸化チタンのクーロン効率(~96.5%)を上回っており、電気化学的安定性が向上していることがわかる。最良の結果が得られたのは厚さ5nmのアンドープアモルファス酸化チタンであり、この酸化チタンのクーロン効率は約1.00であったが、サイクリックボルタンモグラムから、厚さ5nmのアンドープアモルファス酸化チタンを通るLi
+の拡散速度は極めて低いことが観察された。
【0080】
図7を参照すると、塩素ドープ酸化チタンでコーティングされたマンガン酸リチウムを含む試料の体積容量が、Cレートの関数としてプロットされている。これらのサンプルの全てのCレートにおける体積容量は、コーティングされていない酸化マンガンリチウムの体積容量よりも高いか、それに匹敵し、全ての場合において、ドープされていない酸化チタンでコーティングされた酸化マンガンリチウムの体積容量よりも高い。厚さ5nmのコーティングが最も大きな差を示した。これは拡散係数の違いに起因している。5nmのドープされていない酸化チタンコーティングはLi
+イオンをブロックしてしまうのに対し、5nmの塩素ドープ酸化チタンコーティングはLi
+イオンを透過する。実際、5nmの塩素ドープ酸化チタンでコーティングされたリチウムマンガン酸化物の体積容量は、コーティングされていないリチウムマンガン酸化物と同程度である。1nmの塩素ドープ酸化チタンでコーティングされたリチウムマンガン酸化物の体積容量は、コーティングされていないものよりも向上している。理論に束縛されることなく、これは高電圧印加時の電解質溶液の分解が抑制されたためと考えられる。
【0081】
第2のサイクリックボルタンメトリは、4.25V対Li
+/Liで開始し、10mV/sのスキャンレートで2.4V~4.35V対Li
+/Liの間で5回試料をサイクルさせることによって行われる。
図8は、ドープされていない酸化チタンでコーティングされたマンガン酸リチウムを含む試料のサイクリックボルタンモグラムである。塩素ドープ酸化チタンでコーティングされたマンガン酸リチウムを含む試料のサイクリックボルタンモグラムである
図9を参照されたい。
図9において、2つのカソードコーティングは、その厚さとは無関係に、非常に類似した電流を示している。これは、本発明のコーティングで得られる拡散係数の増加に関連していると考えられる。低い電流は高い内部抵抗に対応する。
図8では、ドープされていない厚いコーティングは、内部抵抗が明らかに増加しており、これは厚さとともにスケールする。
図9のドープされたサンプルは、厚みが増加しても内部抵抗の顕著な増加は見られない。
【0082】
電気化学測定の前後で、試料のTEM画像を得た。電気化学測定後に得られたTEM画像である
図10を参照すると、活物質10すなわちリチウムマンガン酸化物が、塩素ドープ酸化チタンのコーティング11で5nmの厚さでコーティングされてなる試料のTEM画像であり、コーティングの塩素/チタン比は0.19であった。電気化学測定前に得られたTEM像と電気化学測定後に得られたTEM像との間に差は観察されず、コーティングの化学的、電気化学的、機械的安定性が高いことが示された。
【0083】
実施例3:被覆カソード
本発明の実施形態にかかる被覆カソードの断面の概略図である
図11Aおよび
図11Bを参照する。被覆カソードは、アモルファスハロゲンドープ酸化チタンを含むコーティング11でコーティングされた、Li
+イオンを供給および貯蔵するための活物質10を含む。被覆カソードは、活物質10の粒子間の電気的接触を改善するための導電性添加剤12をさらに含む。この例では、本発明の実施形態によれば、導電性添加剤12は、コーティング11によってコーティングされていない。この例では、コーティング11は、導電性添加剤12と活物質10との間に存在する。
図11Aおよび
図11Bでは、さらに、被覆カソードを通る電子の概略経路13が示されている。活物質10はコーティングされているが、導電性添加剤12はコーティングされていないため、電子は導電性添加剤12と活物質10の間を移動するために、コーティング11を通って流れなければならない。アモルファスハロゲンドープ酸化チタンは電気的に非導電性である可能性があるため、コーティング11は、導電性添加剤12と活物質10との間を移動する電子の障壁を形成する可能性がある。
【0084】
本発明の実施形態にかかる被覆カソードの断面の概略図である
図12Aおよび
図12Bを参照する。被覆カソードは、アモルファスハロゲンドープ酸化チタンを含むコーティング11でコーティングされた、Li
+イオンを供給および貯蔵するための活物質10を含む。被覆カソードは、活物質10の粒子と集電体との間の電気的接触を改善するための導電性添加剤12をさらに含む。この例では、本発明の実施形態によれば、導電性添加剤12は、アモルファスハロゲンドープ酸化チタンコーティングによってコーティングされる。
図12Aおよび
図12Bでは、さらに、被覆カソードを通る電子の概略経路13が示されている。活物質10と導電性添加剤12は、活物質10と導電性添加剤12との間の物理的接触が保持されるようにコーティングされているので、電子は、導電性添加剤12と活物質10との間を移動するためにコーティング11を流れる必要がない。したがって、コーティング11が導電性添加剤12および活物質10をコーティングする実施形態が好ましいと考えられる。
【0085】
本明細書では、本発明によるデバイスについて、材料と同様に、好ましい実施形態、特定の構造、および構成について説明してきたが、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、形態および詳細において様々な変更または修正を行うことができることを理解されたい。例えば、上記で与えられたいかなる式も、使用され得る手順の単なる代表である。本発明の範囲内で記載される方法にステップを追加または削除してもよい。
【国際調査報告】