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特表2024-505299フェノールの水素化のためのプロセス制御
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-05
(54)【発明の名称】フェノールの水素化のためのプロセス制御
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/00 20060101AFI20240129BHJP
   C07C 49/403 20060101ALI20240129BHJP
   C07C 29/20 20060101ALI20240129BHJP
   C07C 35/08 20060101ALI20240129BHJP
   C07C 45/29 20060101ALN20240129BHJP
【FI】
C07C45/00
C07C49/403 A
C07C29/20
C07C35/08
C07C45/29
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547191
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2022051593
(87)【国際公開番号】W WO2022167266
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】21155194.0
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517161577
【氏名又は名称】セーアーペー ドリー ベスローテン ヴェンノーツハップ
【氏名又は名称原語表記】CAP III B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】バゼルマンス,ヨハンネス ヘンドリクス ヤコーブス マリア
(72)【発明者】
【氏名】フロート ゼフェルト,ルイーセ アンネマリー
(72)【発明者】
【氏名】リースタウス,テオドルス フリーデリヒ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ティンヘ,ヨハン トーマス
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA04
4H006AB84
4H006AC11
4H006AC12
4H006AC41
4H006AC44
4H006BA25
4H006BA55
4H006BB61
4H006BC13
4H006BC37
4H006BC38
4H006BD33
4H006BD34
4H006BD52
4H006BD60
4H006BD84
4H006BE20
4H006FC22
4H006FE12
(57)【要約】
本発明は、工業規模の水素化反応器においてパラジウムを含む触媒によって触媒されるフェノールの発熱を伴う蒸気相水素化を制御するための改良された方法であって、該反応器に進入混合物が装入され、該反応器からは退出混合物が放出され、かつ退出混合物中の水素の少なくとも一部は進入混合物に再利用され、かつ反応熱の少なくとも一部は冷却媒体に伝達され、該方法はいくつかのプロセスパラメータをインラインで計測するステップ及び該プロセスパラメータを制御するステップを含む、方法を提供する。本発明はさらに、本発明の方法を実行するように構成されたプラントも提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業規模の水素化反応器におけるパラジウムを含む触媒によって触媒されるフェノールの発熱を伴う蒸気相水素化を制御するための方法であって、
該反応器にはフェノール及び水素を含む進入混合物が装入され、また該反応器からはシクロヘキサノン、シクロヘキサノール、フェノール及び水素を含む退出混合物が放出され、かつ
退出混合物中の水素の少なくとも一部は進入混合物に再利用され、
シクロヘキサノンは退出混合物から回収され、また退出混合物由来の水素の少なくとも一部はパージ流として放出され、かつ
フェノール水素化反応の反応熱の少なくとも一部は間接熱交換によって冷却媒体に伝達され、
該方法は、
A)反応器内の圧力をインライン計測で計測するステップ;
B)退出混合物中の水素濃度をインライン計測で計測するステップ;
C)退出混合物中のフェノール濃度をインライン計測で計測するステップ;
D)退出混合物中のシクロヘキサノール濃度をインライン計測で計測するステップ;
D2)場合により、退出混合物中のシクロヘキサノン濃度をインライン計測で計測するステップ;
E)ステップA)の反応器内の圧力を第1の設定値と比較するステップ;
F)ステップB)で得られた水素濃度を第2の設定値と比較するステップ;
G)ステップC)で得られたフェノール濃度を第3の設定値と比較するステップ;
H)ステップD)で得られたシクロヘキサノール濃度を第4の設定値と比較するステップ;
H2)場合により、ステップD2)で得られたシクロヘキサノン濃度を第5の設定値と比較するステップ;
I)ステップA)で得られた反応器内の圧力が第1の設定値から逸脱した場合に、自動運転モードによって少なくとも1つのプロセスパラメータの適合を行うステップ;
J)ステップB)で得られた退出混合物中の水素濃度が第2の設定値から逸脱した場合に、自動運転モードによって少なくとも1つのプロセスパラメータの適合を行うステップ
を含む方法。
【請求項2】
ステップI)及び/又はJ)において適合が行われる少なくとも1つのプロセスパラメータは、
a)進入混合物の流量、及び/又は
b)パージ流の流量
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
進入混合物は希釈用のガスをさらに含む、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
進入混合物に再利用される退出混合物中の水素とは別に、退出混合物中に存在する希釈用のガスの少なくとも一部も進入混合物に再利用される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
K)ステップC)で得られたフェノール濃度が第3の設定値より高い場合に少なくとも1つのプロセスパラメータの適合を行うステップ
をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
L)ステップD)で得られたシクロヘキサノール濃度が第4の設定値より高い場合に少なくとも1つのプロセスパラメータの適合を行うステップ;及び/又は
L2)ステップD2)で得られたシクロヘキサノン濃度が第5の設定値より低い場合に少なくとも1つのプロセスパラメータの適合を行うことを含むステップ
をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップK)、L)、及び/又はL2)において適合が行われる少なくとも1つのプロセスパラメータは、自動運転モードにより適合が行われる、請求項5及び請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップK、L)及び/又はL2)において適合が行われる少なくとも1つのプロセスパラメータは、
a)冷却媒体の温度、
b)退出混合物中の水素濃度、
c)退出混合物中の希釈用のガスの濃度、及び
d)これらの組み合わせ
から成る群から選択される、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップKにおいて適合が行われる少なくとも1つのプロセスパラメータは、
a)冷却媒体の温度の上昇、
b)退出混合物中の水素濃度の上昇、
c)退出混合物中の希釈用のガスの濃度の低下、及び
d)これらの組み合わせ
から成る群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップL及び/又はL2において適合が行われる少なくとも1つのプロセスパラメータは、
a)冷却媒体の温度の低下、
b)退出混合物中の水素濃度の低下、
c)退出混合物中の希釈用のガスの濃度の上昇、及び
d)これらの組み合わせ
から成る群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の間接熱交換における冷却媒体は水であり、かつ水素化反応器の温度は発熱を伴う気相水素化の熱を吸収するために使用される沸騰水の温度によって設定され、水の沸点は沸騰水の圧力を調整することにより設定される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
沸騰水の圧力は0.15MPa~1.5MPaの範囲内に調整される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
退出混合物中の水素濃度は、該方法に装入される水素の量を増加することによって上昇せしめられる、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
工業規模の水素化反応器は、冷却媒体として水を使用する多管式熱交換反応器であり、かつ該反応器により間接熱交換の結果として水蒸気が生成される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成された工業規模のフェノール水素化プラントであって、該プラントは、
― パラジウムを含む触媒を具備する水素化反応器、
― フェノール及び水素を含む進入混合物を反応器に装入することができる少なくとも1つの取入口、
― シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、フェノール及び水素を含む退出混合物を放出することができる少なくとも1つの吐出口、
― 退出混合物中の水素の少なくとも一部を進入混合物に再利用するためのライン、
― 退出混合物からシクロヘキサノンを回収することができる回収部、
― 退出混合物由来の水素の少なくとも一部をパージ流として放出することができるパージ部、
― フェノール水素化反応の反応熱の少なくとも一部を冷却媒体に伝達することができる間接熱交換器
を具備し、
該プラントは、次のパラメータすなわち
― 水素化反応器内の圧力;
― 退出混合物中の水素濃度;
― 退出混合物中のフェノール濃度;
― 退出混合物中のシクロヘキサノール濃度
を全て計測することができるインライン計測デバイスを装備していることを特徴とする、プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてシクロヘキサノン及びシクロヘキサノールが形成される工業規模のフェノール水素化のためのプラント及び触媒プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
大半のシクロヘキサノンは、ナイロン6製造時の中間体であるε‐カプロラクタムの生産において消費される。シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールの混合物は、主としてナイロン6,6に転化されるアジピン酸の生産に使用される。加えて、シクロヘキサノンは、工業用溶剤として、又は酸化反応における活性化剤として使用することができる。シクロヘキサノンはさらに、シクロヘキサノン樹脂の生産のための中間体として使用することもできる。
【0003】
1930年代、シクロヘキサノンの生産は、ε‐カプロラクタム、アジピン酸、ナイロン6及びナイロン6,6の商業生産と並行して工業規模で開始された。以来、シクロヘキサノンの生産量は増大し続けており、今日ではシクロヘキサノンの年産量は700万トンを超える。
【0004】
シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールの3つの主な商業用生産経路は、それぞれシクロヘキサンの酸化、シクロヘキセンの水化、及びフェノールの水素化を基にしている。最初の2つの経路は望ましからぬ副産物を大量に生成し、かつ大きなエネルギー投入を必要とする。第3の経路、すなわちフェノールからシクロヘキサノンへの水素化は、「2段階」又は「1段階」いずれかのプロセスで行われる。「2段階」プロセスでは、フェノールは最初に、例えばNiを含む触媒を使用することにより、水素と反応せしめられてシクロヘキサノールを形成し、その結果シクロヘキサノールが脱水素化されてシクロヘキサノンが得られる。「1段階」プロセスでは、フェノールは直接かつ高選択的に水素化されてシクロヘキサノンとなる。この「1段階」のフェノール水素化プロセスは、高い生産収率と低いエネルギー需要とを兼ね備えていることが知られている。「1段階」プロセスでは、シクロヘキサノンは、例えばPt又はPdを含む触媒を使用して、フェノール水素化反応器においてフェノールから接触水素化により調製される。フェノール水素化の際には、シクロヘキサノールが、ごく微量の他の化合物とは別に主な副産物として形成される。フェノールの水素化は液相又は蒸気相(気相と呼ばれることも多い)で実行することができる。例えば、“Cyclohexanol and Cyclohexanone”, Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology, 例えば3rd Edition, 1979, Vol. 7, p. 410-416;I. Dodgson et al., “A low Cost Phenol to Cyclohexanone Process”, Chemistry and Industry, December 1989, Vol.18, p. 830-833;又はM T. Musser, “Cyclohexanol and Cyclohexanone”, Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 7th Edition, 2007を参照されたい。
【0005】
フェノールから2つの主要生産物シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールへの(発熱を伴う)水素化は、次の化学量論式:
OH + 2H → C10O + 熱
フェノール 水素 シクロヘキサノン
OH + 3H → C11OH + 熱
フェノール 水素 シクロヘキサノール
で表すことができる。
【0006】
シクロヘキサノールからシクロヘキサノンへの(吸熱性の)脱水素化は、次の化学量論式:
11OH + 熱 → C10O + H
シクロヘキサノール シクロヘキサノン 水素
で表すことができる。
【0007】
英国特許出願公開第890095号明細書は、パラジウム族に属する金属を含有する触媒に、ガス状のフェノールを水素と共に250℃未満の温度で通過させることを含む、接触水素化によってフェノールからシクロヘキサノンを調製するための方法について述べている。同文献は、ガス状の反応体が窒素、アルゴン又はプロパンのような不活性ガスで希釈されてもよいことを述べている。
【0008】
英国特許出願公開第1316820号明細書は、パラジウムの層及び助触媒としてのアルカリ金属炭酸塩が堆積された担体から成る触媒の存在下で蒸気相におけるフェノールの水素化によってシクロヘキサノンを生産する方法について述べている。同文献は、シクロヘキサノンについての選択性が助触媒の存在によって影響を受けることを教示している。
【0009】
英国特許出願公開第1332211A号明細書は、触媒の総重量に基づいて0.1~5重量%の活性アルミナ担持白金族金属並びに5~50重量%のアルカリ土類金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属酸化物を含有する触媒の存在下で、温度75~250℃で蒸気相におけるフェノールの接触水素化によりシクロヘキサノンを生産するための方法について述べている。
【0010】
国際公開第2016075047A1号は、フェノール及び水素からのシクロヘキサノンの生産及び回収のための工業規模の連続法について記述している。同文献は、そのような方法の正味の水蒸気消費量が、生産されるシクロヘキサノン1kgにつき蒸気1.5kg未満となりうることを教示している。
【0011】
国際公開第2011073233A1号は、ドーパントを含む担持水素化触媒を具備する反応器に供給されたフェノールを触媒反応で水素化することにより、連続的にシクロヘキサノン、シクロヘキサノール又はこれらの混合物を調製するための方法について述べている。同文献は、フェノールの水素化の際に反応器に水を供給することにより、フェノールの転化率上昇、並びに/又はシクロヘキサノン及び/若しくはシクロヘキサノールに対する選択性増大を達成できることを教示している。
【0012】
反応器部分における、シクロヘキサノンに対する(非常に)高い選択性、かつしたがってシクロヘキサノールに対する(非常に)低い選択性と、フェノールの(非常に)高い1回通過転化率との組み合わせは、その経済的利点すなわち:生産物流からのシクロヘキサノール及びフェノールの回収並びにシクロヘキサノール脱水素化のための機器がより小型であること、並びに生産物流からのシクロヘキサノール及びフェノールの回収並びにシクロヘキサノール脱水素化のためのエネルギー消費量が低減されることから、大いに望ましい。結果として本発明者らは、シクロヘキサノン生産用の工業規模のフェノール水素化プラントが、シクロヘキサノンに対する高い1回通過選択性をフェノールの高い1回通過転化率と併せ備えた最適なプロセスウィンドウで運転されるべきであることに気付いた。本発明につながった研究から、フェノール水素化プラントのための、シクロヘキサノンに対する1回通過選択性及びフェノールの1回通過転化率の最適な組み合わせは、数多くの可変要素、例えば供給原料であるフェノール及び水素の由来、供給元及び品質、触媒の種類、プロセスの種類、プラントのレイアウト、並びに所望の生産速度によって決まることが示された。
【0013】
実際に、シクロヘキサノールに対する1回通過選択性の上昇、かつ従ってシクロヘキサノンに対する1回通過選択性の低下は、通常はフェノールの1回通過転化率が上昇すると観察される。特に、フェノールの1回通過転化率が(非常に)高いと、シクロヘキサノールに対する1回通過選択性の急激な上昇が観察され、これによりフェノールの100%の1回通過転化率及びシクロヘキサノンに対する100%の1回通過選択性を併せて達成することはできない。
【0014】
フェノール水素化プラントで使用される触媒系は、触媒の経年化による劣化の影響を著しく受ける可能性がある。「経年化(エージング)」は、典型的には、流通時間(TOS)の関数としての、触媒不活性化すなわち触媒の活性及び/又は選択性の喪失とされている。商業用のフェノール水素化プラントでは、所与の触媒バッチの流通時間は、数か月間から多年まで幅がある可能性がある。理論に拘束されるものではないが、経年化は、触媒上への有機化合物の堆積(コーキングと呼ばれることも多い)により、及び/又は触媒金属の結晶構造の変更により引き起こされる、という仮設が立てられている。
【0015】
一般に、フェノールの水素化によるシクロヘキサノン生産のコストは、触媒の経年化により(例えば、シクロヘキサノンに対する選択性の低下、フェノールの1回通過転化率の低下、生産性の低下及び水素のパージロスの増大により)上昇し続ける。
【0016】
概して、所与の水素化触媒バッチの反応終了(EOR)は、技術的(例えば、最大許容温度への到達、若しくは最高許容圧力への到達)又は経済的(既述を参照)な考慮により決定される。
【0017】
触媒寿命を最大限にするために、触媒上の有機堆積物を除去するための注意深く制御された(燃焼)条件下で再生を実施することができる。そのような触媒再生は、場合により、a)触媒上に存在する炭素を含有する揮発性物質を除去するための、ほぼ不活性な(酸素を含まない)雰囲気中における熱処理、b)触媒上に存在する炭素質物質を酸化するための、酸素含有雰囲気中における熱処理、c)ステップa)及び/又はステップb)の後の触媒の冷却、を含むことも考えられる。
【0018】
触媒交換及び触媒再生は多大な時間を要し、かつ(例えば生産高の低下により)費用のかかる作業であるので、触媒寿命を最大限にすることは非常に望ましい。
【0019】
これまでのところ、高レベルの生産速度及び低レベルの生産コストを維持しながら、触媒バッチの寿命全体を通してシクロヘキサノンに対する高い1回通過選択性とフェノールの高い1回通過転化率とを兼ね備えてフェノールをシクロヘキサノンへと水素化することは、いまだに難題である。
【0020】
フェノールからのシクロヘキサノンの調製は何十年間にもわたって知られており、既知の調製法を改善する道筋がこの何年にもわたり徹底的に調査されてきたが、現在知られている工業的プロセス(これらは概して連続式のものである)は未だ欠点を抱えている。
【0021】
特に、既知の連続的なフェノール水素化プロセスにおいて、時間とともにシクロヘキサノンに対する1回通過選択性が低下することは問題である。加えて、不均一系水素化触媒は徐々に活性を喪失し、その結果フェノールの1回通過転化率が低下する。これは時間とともにシクロヘキサノン生産速度の低下をもたらす。このことは、安定した生産速度を維持することができないので不利であるだけでなく、生産されたシクロヘキサノールをシクロヘキサノンへと脱水素化する転化コストの上昇をもたらす。したがって、フェノール水素化反応においては不均一系水素化触媒の選択性及び活性の低下を償う必要がある。
【0022】
本発明のさらなる目的は、既知の方法の改良として機能しうる連続プロセスでシクロヘキサノンを調製する方法、特に、上記に言及されたような既知の方法の1以上の欠点を克服する方法を、提供することである。
【0023】
さらなる目的は、生産される副産物がより少ない、特に、例えばベンゼンのような望ましからぬ副産物が形成される高温の触媒脱水素化によってシクロヘキサノンに転化しなければならないシクロヘキサノールがより少ない、シクロヘキサノンを調製するための方法を提供することである。
【0024】
加えて、本発明の目的は、プロセスパラメータの手動計測及び手動調整を必要としない、フェノール水素化反応を制御する方法を提供することである。
【0025】
より具体的には、本発明の目的は、同じ生産設備で運転された従来の方法と比較して、改善されたシクロヘキサノン選択性を有すると同時に目標のシクロヘキサノン生産速度を維持しながらシクロヘキサノンを調製することである。これは、同じ生産設備で運転された従来の方法と比較して、より環境にやさしい方法、及びより安価な方法のような、利点をもたらす。1以上のさらなる目的が、残りの説明から明白になる場合もある。
【0026】
本発明者らは、上述の目的を解決するか又は少なくとも大幅に軽減する方法を発見した。
【発明の概要】
【0027】
本発明は、工業規模の水素化反応器におけるパラジウムを含む触媒によって触媒されるフェノールの発熱を伴う蒸気相水素化反応を制御するための方法であって、該反応器にはフェノール及び水素を含む進入混合物が装入され、また該反応器からはシクロヘキサノン、シクロヘキサノール、フェノール及び水素を含む退出混合物が放出され、かつ退出混合物中の水素の少なくとも一部は進入混合物に再利用され、シクロヘキサノンは退出混合物から回収され、また退出混合物由来の水素の少なくとも一部はパージ流として放出され、かつフェノール水素化反応の反応熱の少なくとも一部は間接熱交換によって冷却媒体に伝達され、該方法は、
A)反応器内の圧力をインライン計測で計測するステップ;
B)退出混合物中の水素濃度をインライン計測で計測するステップ;
C)退出混合物中のフェノール濃度をインライン計測で計測するステップ;
D)退出混合物中のシクロヘキサノール濃度をインライン計測で計測するステップ;
D2)場合により、退出混合物中のシクロヘキサノン濃度をインライン計測で計測するステップ;
E)ステップA)の反応器内の圧力を第1の設定値と比較するステップ;
F)ステップB)で得られた水素濃度を第2の設定値と比較するステップ;
G)ステップC)で得られたフェノール濃度を第3の設定値と比較するステップ;
H)ステップD)で得られたシクロヘキサノール濃度を第4の設定値と比較するステップ;
H2)場合により、ステップD2)で得られたシクロヘキサノン濃度を第5の設定値と比較するステップ;
I)ステップA)で得られた反応器内の圧力が第1の設定値から逸脱した場合に、自動運転モードによって少なくとも1つのプロセスパラメータの適合を行うステップ;
J)ステップB)で得られた退出混合物中の水素濃度が第2の設定値から逸脱した場合に、自動運転モードによって少なくとも1つのプロセスパラメータの適合を行うステップ
を含む、方法を提供する。
【0028】
本発明者らは、触媒系の経年化及びその他のプロセス外乱により、選択性及び転化率に関する最適なプロセス条件が望まれる場合は、フェノール水素化反応器の圧力及び生産高を注意深くモニタリングすべきであり、かつ必要であればプロセス条件(例えば、進入混合物の流量、特にフェノール圧力及び水素圧力、パージ流の流量、反応器の温度、希釈用ガスの濃度など)について、最適条件下での生産を維持するために直ちに適合を行うべきである、ということを見出した。本発明はこれを、極めて重要であると判明したプロセスパラメータのインライン計測を導入すること、並びにこの計測を事前に定義した設定値及び適合ルールに基づいた自動的な比較及び適合と結び付けることにより、達成する。実施例に示されるように、本発明は、フェノール水素化反応器がヒトの介入を伴うことなく一定した高い生産速度で数か月間~数年間にわたって最適な条件下で運転されることを可能にする。これは驚くべきことであり、従来の技術から予測できたとは考えられない。
【0029】
従来技術において、フェノール水素化プロセスは、制御されるにしてもそれは、フェノール水素化反応器から放出されたガス混合物中の水素、フェノール、シクロヘキサノン又はシクロヘキサノールのような個々の成分の濃度を測定するためのオフライン計測(手動計測)によるものであった。オフライン計測とは、任意の所与の時点について計測値を得るための計測システムの手動操作、例えば、ある瞬間に操作員がプロセスから試料を引き抜き、該試料中の成分の濃度を測定するある種の分析器に採取した材料を注入すること、によって実施される計測を意味する。これらの個々の計測の結果は、プロセス条件が変化しないままでよいか、又は変更が必要かどうかを判断するために、プラントの操作員によって用いられる。
【0030】
オフライン計測の実施は操作員の技能に依存し、かつ従ってそのような計測の結果も操作員の技能に依存して変化する可能性がある。加えて、オフライン計測は典型的には低い頻度で(例えば1週間又は1日に数回)実施される。本発明によって使用されるインライン計測(自動計測)は、人的要素が無いこと、及び連続的に又は少なくとも高頻度で計測できることから、はるかに正確である。インライン計測により、操作員の干渉なしにパラメータの定期的モニタリング又は連続的モニタリングさえも可能となり、これにより、高頻度での計測の反復及び操作員の技能による影響を受けない安定した計測ができるようになる。
【0031】
インライン計測を用いない従来技術のプロセスを使用すると、十分に高い計測頻度及び統計データが欠如していることから、許容できない結果がいつ現われ始めたかを正確に追跡調査することは極めて困難~不可能であった。本発明へと至った研究は、プロセス条件の修正に関する決断がいつ、及び必要となった後どれだけ速くなされるかが、驚くほど強い影響を有することを示した。プロセス条件の修正に関する決断が不正確かつ適時でないと、シクロヘキサノン生産のコスト及び品質に悪影響(水素化触媒の寿命短縮を含む)を及ぼすことが見出された。本発明は、インラインで計測されて事前に定義した設定値と比較されたプロセス条件を変更するための即時の自動反応を可能にすることにより、これらの欠点を克服する。これは、ヒトの介入を必要とせず、かつはるかに一貫性があり最適化されたプロセス制御が達成されるという長所を有するだけでなく、最も重要なこととして、最適なプロセス条件がプロセス全体にわたってほぼ連続的に維持されるのでコストの低減(水素化触媒の寿命延長を含む)及び生産物品質の向上をもたらす。
【0032】
本発明の方法が、ヒトの干渉を非常に制限した状態で長期にわたり低い生産コストでフェノール水素化反応器の高い生産速度を生み出すのは驚くべきことであった。これは、特別なプロセスパラメータのいくつかのインライン計測値の組み合わせを遂行し、かつこれらの計測値を、本発明の教示に従ってプロセスパラメータの適合が自動的に行われる有利な自動プロセス制御をもたらす自動決断プロセスに結び付けることにより、達成される。今までは、上記のことは、自動化するとよく訓練された操作員が行うことができる作業の融通性及び多様性と比較して多用途性が低下するので、フェノール水素化反応器については不可能と考えられていた。
【0033】
本発明によるプラントの特徴及び構成要素、並びに本発明による方法のステップは、下記により詳細に記載されている。
【0034】
本発明の方法では、フェノールからシクロヘキサノンを生産するための工業規模の水素化反応器に、フェノール及び水素ガスの両方が連続的に供給される。少なくともフェノール及び水素ガスを含む流入供給物全体を、本明細書中では「流入混合物」と称する。流入混合物は、事前に混合された混合物として1本のラインで反応器に入ってもよいし、反応器内部で混じり合ってもよい。水素化反応器では、フェノールが、パラジウムを含む触媒の影響下、蒸気相において触媒反応で転化されて、主としてシクロヘキサノンに、一部はシクロヘキサノールになる。発熱を伴うフェノール水素化反応の熱の少なくとも一部は、間接熱交換によって冷却媒体に伝達される。水素化反応器から出る生産物流は、所望の生産物であるシクロヘキサノン及び副産物のシクロヘキサノールとは別に、未転化のフェノール及び水素も含んでいる。水素化反応器から出る生産物流、及びそこから派生した任意の(さらに処理された)生産物流を、本明細書中ではまとめて「退出混合物」と称する。退出混合物中の未転化の水素の少なくとも一部は進入混合物に再利用され、かつ少なくとも一部はパージされる。シクロヘキサノンは主な生産物として退出混合物から回収される。
【0035】
本発明によれば、フェノール水素化反応器は、ステップA)における反応器内の圧力の計測を可能にするインライン計測デバイスを備えている。圧力は、当業者によく知られた様々な(電気的)デバイスによって計測することができる。特に、歪み計は圧力計測のために用いられることが多い。圧力を計測するために引き伸ばされた時の材料の電気抵抗の変化を使用する、ピエゾ抵抗型歪み計(ピエゾ抵抗素子とも呼ばれる)は、最も一般的な種類の圧力センサである。インライン圧力計測の場所は水素化反応器において様々であってよい。本発明にとっても好ましい、非常に好都合な場所は、供給物流が触媒と接触する前の、反応器の取入口である。例えば、多管式(シェル・チューブ型)水素化反応器では、インライン圧力計測は、供給物流が触媒で満たされたチューブに入る前の反応器のフード内に位置付けられてもよい。この方法では、計測される圧力は、多管式水素化反応器に装入された供給物流の全圧に相当する。しかし別の可能性としては、水素化反応器の吐出口、又は反応器内の別の場所でのインライン圧力計測があってもよいであろう。圧力についての最適な設定値は、通常は反応混合物が触媒を通過する時に圧力が降下するので圧力計測の場所に応じてわずかに変化するであろう。圧力が触媒の下流で計測される場合は、触媒が経年化するにつれて変化する場合もある。
【0036】
本発明の範囲内において、用語「インライン計測」とは、オフライン計測(「手動計測」と呼ばれることも多い)とは対照的な、恒久的に設置されたデバイスによる、したがって一般に操作員の行動を必要としない、自動計測を指す。
【0037】
分析は、連続的又は非連続的な方法によって実施することが可能である。連続的な分析方法は、センサを例えば反応器内、プロセス流体を有するラインの中、若しくは任意の別の機器の中に直接置くか、又は例えば反応器、プロセス流体を有するライン、若しくは任意の別の機器から引き出された少量の側流の中に置くことにより、用いられる。非連続的とは、試料が例えば反応器、プロセス流体を有するライン、又は任意の別の機器から抜き出されて分析機器に注入される、ということになる。連続的な分析からは連続的な応答シグナルが得られる一方、非連続的な方法からは異なる別個の「時点」における応答が得られる。
【0038】
本発明の範囲内において、用語「設定値」とは、システムの必須変数又はプロセス値に関する値を指す。そのような変数がその設定値から逸脱すれば、それはプロセス制御の1つの根拠となる。計測値が所与の設定値を超過するか又は下回った場合にのみ、措置が取られることが可能である。他の場合には、計測された値が設定値から最小限(不感帯の分を)逸脱した場合に措置が求められる。
【0039】
本発明の方法のステップE)では、ステップA)で計測された反応器内の圧力が第1の設定値と比較される。当業者であれば、自身が操作している工業規模の水素化反応器の最適な圧力を知っているであろう。最適な圧力は化学作用、触媒の種類及び反応器の構成(例えばチューブの長さ)と関係している。最適な圧力の設定値が不明である場合、様々な反応器圧力で試運転を実施して最適なフェノール転化率及びシクロヘキサノン選択性を提供する反応器圧力を決定することにより、設定値を容易に決定することができる。圧力が高すぎる場合、選択性は低下する。圧力が低すぎる場合、処理能力、かつ従ってシクロヘキサノンの収率が低すぎる。目標とされる圧力すなわち第1の設定値は、常に大気圧を上回るべきであり、かつ好ましくは0.1~1MPa、より好ましくは0.15~0.6MPa、及び最も好ましくは0.2~0.5MPaの範囲にある。
【0040】
本発明の方法のステップI)では、反応器内の圧力が第1の設定値から逸脱した場合に自動運転によって少なくとも1つのプロセスパラメータの適合が行われる。上記に説明されるように、圧力は高すぎることもあれば低すぎることもあり、注意深くかつ頻繁にモニタリングされるべきである。実際には、第1の設定値は最適な設定値の周辺の圧力範囲であってもよい。例えば、その範囲は、前段落に示された範囲内にある事前に定義された設定値から±0.1MPa、±0.05MPa又は±0.01MPaであってもよい。
【0041】
ステップA)、E)及びI)は、最適な制御を達成するために少なくとも1日1回、より好ましくは少なくとも1時間に1回、最も好ましくは少なくとも1分間に1回又はさらに5~30秒ごとに、実行されることが好ましい。上記ステップは最適な結果を達成するために上記頻度で実行する必要があるので、本発明はステップI)における適合が自動運転で実行されると予見している。
【0042】
特定の効果的なやり方で圧力を再び設定値付近又は設定値に戻すためにステップI)において自動運転で適合させることが可能なプロセスパラメータには、a)進入混合物の流量を調整すること、及び/又はb)パージ流の流量を調整することが含まれる。
【0043】
進入混合物の流量の調節は、特に、反応器に入る水素を含有する流れの流入及び/又は反応器に入るフェノールを含有する流れの流入を調整することにより達成することができる(これらの成分が別個の流路で反応器に入る場合)。反応器内の圧力がステップE)において第1の設定値よりも高いと測定された場合、進入混合物の流量をステップI)で自動的に低減することができる。逆に、反応器内の圧力がステップE)において第1の設定値よりも低いと測定された場合、進入混合物の流量をステップI)で自動的に増加させることができる。
【0044】
上記に説明されたように、本発明によるプラント又は方法において、退出混合物由来の水素の少なくとも一部はパージ流として放出される。このパージ流は、(後述のステップJ)に関係する)水素濃度だけでなくステップIにおいて反応器内の圧力をも調節する、重要な方法である。パージ流の流量は、パージ流の流量を調節するバルブによって調整することができる。反応器内の圧力がステップE)において第1の設定値よりも高いと測定された場合、パージ流の流量をステップI)で自動的に増加させることができる。逆に、反応器内の圧力がステップE)において第1の設定値よりも低いと測定された場合、パージ流の流量をステップI)で自動的に減少させることができる。このようにして、単にバルブを開閉することによる特定の効果的なやり方で、圧力を設定値付近又は設定値に再び戻すことができる。
【0045】
本明細書中で使用されるような用語「フェノール水素化反応器」は、当分野における通常の意味を有する。フェノール水素化反応器はフェノールの水素化が行われる閉鎖空間である。フェノール水素化反応器におけるフェノールから反応生成物への転化は、完全であっても部分的であってもよい。フェノール水素化反応器は単一の反応器として運転することができる。別例として、多数のフェノール水素化反応器を並行して(例えば合計のフェノール水素化能力を増大させるために)、及び/又は連続して(例えば全体的なフェノール転化率を増大させるために)運転することもできる。
【0046】
水素化反応器は、具体的にはフェノールの水素化に適した任意の種類の反応器であってよい。特に、該反応器は、固定層型反応器、スラリー反応器、管の中に触媒を有しており水蒸気の生成を伴う多管式熱交換反応器、及び任意の他の適切な種類の反応器から選択することができる。
【0047】
好ましくは、本発明によるフェノールの蒸気相水素化は、多管式熱交換反応器において、かつ最も好ましくは冷却媒体として水を用いて実行され、その結果水蒸気が生成される。より好ましくは、本発明によるフェノールの蒸気相水素化は、縦型の多管式熱交換反応器において実行される。
【0048】
1つの実施形態では、フェノール水素化反応器は、管の中に触媒材料が配置構成された多管式熱交換反応器である。好ましくは、それは縦型の多管式熱交換反応器である。管には水素及びフェノールを含むガス状混合物が供給され、冷却媒体は外側で管の周囲を循環する。
【0049】
本明細書中で使用されるような用語「熱交換器」は、1つの流れから別の流れへと熱を伝達するためのデバイスである。熱交換器は直接方式(流れが混合される)でも間接方式(流れは隔壁によって分離されたままである)でもよい。本明細書中で言及される熱交換器はすべて間接式熱交換器である。間接式熱交換器は、隔壁を備えた少なくとも2つのチャンバを具備する。熱は、第1のチャンバの中の流れから隔壁を通して第2のチャンバの中の流れへと伝達される。各々のチャンバは独立に、長い通路と、熱伝達を容易にするための大きな表面積対体積比とを有することができる。間接式熱交換器は当業者には良く知られている。本発明に適した間接式熱交換器の例は、多管式、プレート式、及びチューブ式の熱交換器である。
【0050】
本発明の範囲内において、「フェノール水素化反応の反応熱のうち少なくとも一部は~に伝達される」という表現は、フェノールと水素との反応により放出されて熱交換器の壁を介して伝達される熱を指している。フェノールと水素との反応は発熱を伴う(熱を生じる)反応である。
【0051】
本発明の範囲内において、前述の表現の中の「少なくとも一部」という用語は、フェノールと水素との反応により放出される熱のうち少なくとも10%、さらにより好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも85%が熱交換器の壁を介して冷却媒体に伝達されることを意味する。
【0052】
本発明による好ましい(縦型の)多管式熱交換反応器の反応器チューブの数は、典型的には5個より多い。好ましくは、その数は10個より多い。より好ましくは、その数は25個より多い。反応器チューブの数は典型的には100,000個未満である。好ましくは、その数は50,000個未満である。より好ましくは、その数は20,000個未満である。典型的には、本発明の方法において、前記(縦型の)縦型の多管式熱交換反応器の反応器チューブの数は、25~20,000個である。
【0053】
本発明による好ましい(縦型の)多管式熱交換反応器の反応器チューブの長さは、典型的には0.25mより長い。好ましくは、その長さは0.5mより長い。より好ましくは、その長さは1.0mより長い。反応器チューブの長さは典型的には24.0m未満である。好ましくは、その長さは12.0m未満である。より好ましくは、その長さは9.0m未満である。典型的には、本発明の方法において、前記(縦型の)縦型の多管式熱交換反応器の反応器チューブの長さは1.0~9.0mであり、これにより大量の触媒を必要としない一方で良好なフェノール転化率が可能となる。好ましくは、多管式熱交換反応器の全ての反応器チューブは(ほとんど)同じ長さである。
【0054】
多管式熱交換反応器のシェルの内径は、典型的には50mmより大きい。好ましくは、シェルの内径は100mmより大きい。より好ましくは、シェルの内径は200mmより大きい。(縦型の)多管式熱交換反応器のシェルの内径は、典型的には10m未満である。好ましくは、シェルの内径は8m未満である。より好ましくは、シェルの内径は6m未満である。典型的には、本発明の方法において、多管式熱交換反応器の内径は0.2~6mであり、これにより反応器の運転能力が良好であると同時に輸送も可能であるということが可能となる。
【0055】
多管式熱交換反応器の反応器チューブの内径は、典型的には2mmより大きい。好ましくは、内径は5mmより大きい。より好ましくは、内径は10mmより大きい。反応器チューブの内径は典型的には500mm未満である。好ましくは、内径は250mm未満である。より好ましくは、内径は120mm未満である。典型的には、本発明の反応において、前記多管式熱交換反応器の反応器チューブの内径は、10~120mmである。好ましくは、多管式熱交換反応器の全ての反応器チューブは(ほとんど)同じ内径を有する。
【0056】
1つの実施形態では、水素化反応器に装入されるフェノール及び水素を含む進入混合物の温度は、85℃より高い。好ましくは、温度は100℃より高い。より好ましくは、温度は125℃より高い。これにより最適な転化速度が可能となる。触媒の損耗、分解作用及び副産物の形成を回避するために、進入混合物の温度は、300℃未満、好ましくは250℃未満であるべきであり、より好ましくは220℃未満である。最も好ましくは、温度は125℃~220℃である。
【0057】
温度は、本明細書中に述べるように、様々な(電気的)デバイスによって計測することができる。化学産業において温度の計測に最も一般的に使用されるセンサは、抵抗温度計(抵抗温度検出器;RTDとも呼ばれる)及び600℃未満向けの熱電対である。RTDのグループに入るPt100型のセンサが最も一般的に使用される。
【0058】
多管式熱交換反応器のチューブの中では、フェノールの水素化によって熱が生成されることにより、チューブ内の成分の混合物が加熱される。成分の混合物の熱は、冷却媒体を用いた間接冷却によって除去される。
【0059】
水素化反応器から放出されるシクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含む混合物の温度は60℃を上回るべきである。好ましくは、温度は80℃より高い。より好ましくは、温度は100℃より高い。触媒の損耗、分解作用及び副産物の形成を回避するために、水素化反応器から放出されるシクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含む混合物の温度は260℃未満であるべきである。好ましくは、温度は240℃未満である。より好ましくは、温度は220℃未満である。最良の結果は、多管式熱交換反応器から放出されるシクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含む混合物の温度が100~220℃である場合に達成される。下限の温度はフェノール水素化反応における反応速度によって決まる。低温では反応速度は低くなり、かつ結果として大量の触媒及び大型の反応器が必要となろう。加えて、加熱される冷却媒体の温度は低くなり、かつ結果として、吸収される熱についての多くの用途の可能性が失われる。上限の温度はとりわけ触媒の安定性によって決まる。加えて、高温では、フェノールの分解が原因でより多くの望ましからぬ副産物(例えばタール及びベンゼン)が形成されることにより、フェノール水素化の収率が低下することになろう。
【0060】
本発明によれば、水素化反応器内の温度は、間接熱交換に使用される冷却媒体の温度及び流入混合物の温度によって調整される。反応器の温度が高いほど、反応速度は高くなるが、ある一定の温度閾値を上回ると選択性の低下も生じてより多くの望ましからぬ副産物が形成される。
【0061】
この点に関しては、反応器内の実温度を正確に計測又は報告することはできないことに留意すべきである。触媒床中の温度は一定ではなく:場所及び時間のいずれによっても異なる。例えば、フェノールの水素化に使用される多管式熱交換反応器の触媒床内部の局所温度は、フェノールの水素化によって生成された熱及び冷却媒体に伝達された熱の結果である。温度は、触媒床の長手方向及び径方向のいずれにおいても異なる。一般に、触媒床の長手方向における温度は最大値(「ピーク」)を経由する。温度プロファイルの形状及び床内の最高温度の位置は、数多くのプロセスパラメータ、例えば供給物の流量、供給物中のフェノール及び水素両方の濃度、触媒の種類及び触媒の状態並びに触媒床の外側(多管式熱交換反応器の場合はチューブの外側)の冷却媒体の温度に応じて様々である。時間が進むとともに、床内の最高温度の場所は、床内へのガス状供給物の入口付近の場所から、床内からのガス状生成物の出口付近の場所へと徐々に移行する。一般に、触媒床内部のいずれの場所でも正確な温度は分からない。しかしながら、触媒床の長手方向に一連の温度センサ(例えばPt100型のセンサ)を設置することで触媒床内の様々な高さにおいて温度を計測することにより、全体的な兆候を得ることができる。
【0062】
本発明の特に好ましい実施形態では、従って冷却媒体の温度はフェノールの水素化反応を制御するために使用される。冷却媒体の温度が低すぎる場合、冷却媒体に吸収される熱が多すぎることになり、発熱を伴う水素化反応は反応器内でより小規模にしか進行しないことになる。冷却媒体の温度が高すぎる場合、冷却媒体に吸収される熱は不十分となり、発熱を伴う水素化反応が触媒床を局所的に過熱することにより触媒が劣化して望ましからぬ副産物が形成されることになる。本発明者らは、冷却媒体の温度が、反応器から放出されるシクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含む混合物について上述された温度範囲に維持された場合に、良好な結果が達成されることを見出した。
【0063】
冷却媒体の温度は、本発明のステップI)~L)において(好ましくは自動的に)適合を行うことが可能なプロセスパラメータのうちの1つである。これは、退出混合物中のフェノール若しくはシクロヘキサノールの濃度がそれぞれの第3及び第4の設定値を超過しているというステップG)、H)若しくはH2)における知見に応答して、又はステップD2)で得られたシクロヘキサノンの濃度が第5の設定値より低い場合に、ステップK)、L)及び/又はL2)において適合を行うための特に有用なプロセスパラメータである。退出混合物中のフェノールの濃度が第3の設定値を超過した場合、シクロヘキサノンへの転化率を高めるために反応器の温度は高められるべきである。しかしながら、温度及び転化率の上げすぎはシクロヘキサノンに対する選択性に悪影響を及ぼす可能性があるので、注意しなければならない。退出混合物中のシクロヘキサノールの濃度が第4の設定値を超過した場合、シクロヘキサノールへの転化率を低減するために反応器の温度は下げられるべきである。
【0064】
典型的には、フェノールが水素化される多管式熱交換反応器では、熱は冷却媒体によって除去される。水性溶媒若しくは有機溶媒、又はこれらの混合物を冷却媒体として適用することができる。好ましくは、本発明の方法では、多管式熱交換反応器における冷却媒体として水が適用される。熱を吸収することにより、多管式熱交換反応器に装入された冷却媒体は暖められ、かつ好ましくは(部分的又は完全に)蒸発せしめられるか、又はこれらの組み合わせとなる。好ましくは、多管式熱交換反応器に装入される冷却媒体のうち少なくとも10重量%が蒸発せしめられる。より好ましくは、少なくとも50重量%である。さらにより好ましくは、少なくとも90重量%である。典型的には、本発明の方法では、多管式熱交換反応器における冷却媒体として水が適用され、かつその水の90重量%超が蒸発せしめられる。
【0065】
好ましくは、フェノール水素化反応器において用いられる間接熱交換の冷却媒体として水が使用される。これは、冷却媒体の入手し易さ及びコストの点で良好であるだけでなく、熱交換器の中で水蒸気を生産することもできるという長所を有する。この同時生成された水蒸気は、加熱の目的で利用することができるという長所を有する。好ましくは、生成された水蒸気は、フェノールの水素化によるシクロヘキサノンの生産のためのプロセスにおいて利用される。好ましくは、生成された水蒸気は、フェノール水素化反応器に装入されるフェノールの蒸発のために(例えばフェノール蒸発部における加熱源として)利用される。より好ましくは、生成された水蒸気は、フェノール水素化反応器の退出混合物からのシクロヘキサノンの回収のために(例えば蒸留塔の再沸器を駆動することにより)利用される。
【0066】
水が冷却媒体として使用される場合、さらなる好ましい実施形態によれば、沸騰水が冷却媒体として使用される。水蒸気がこのようにして生産されるだけでなく、発熱を伴う気相水素化の熱を吸収するために使用される沸騰水の温度によって、水素化反応器の温度を容易に設定することもできる。水の沸点は、沸騰水の圧力を調整することにより便利に設定することができる。沸騰水の圧力の調整は、特に便利かつ正確な冷却媒体の温度の調整方法である。典型的には、水蒸気の圧力(水が冷却媒体として使用される場合)が計測されて、事前に定義された設定値と比較される。制御システムは、水蒸気の圧力が高すぎるという決定に応答して退出する水蒸気流の流出を増大させる1以上のバルブを自動的に開口するように、又は水蒸気の圧力が低すぎるという決定に応答して退出する水蒸気流の流出を減少させる1以上のバルブを自動的に閉止するように、プログラムすることができる。
【0067】
本発明者らは、沸騰水の圧力を、望まれる冷却量及び反応器温度に応じて0.1MPa~5MPaの範囲に調整することが可能であることを見出した。好ましくは、本発明の方法において、沸騰水の圧力は少なくとも0.1MPa、より好ましくは少なくとも0.15MPaの値に調整される。典型的には、本発明の方法において、沸騰水の圧力は、5MPa未満、より好ましくは1.5MPa未満の値に調整される。好ましくは、本発明の方法において、沸騰水の圧力は0.15MPa~1.5MPaの範囲内に調整される。
【0068】
フェノール水素化反応器の運転能力は、典型的にはフェノール水素化反応器に装入されるフェノールの量に基づいて選択される。
【0069】
本発明の方法は、シクロヘキサノンの生産のために工業規模の水素化反応器を使用する。これは、1年に数千トン(年間キロトン;kta)のフェノールを装入することができるフェノール水素化反応器を意味する。本発明の実施形態では、工業規模のフェノール水素化反応器には、1年につき10,000トン(10kta)を超えるフェノールを装入することが可能である、又は装入されている。工業規模のフェノール水素化反応器へのフェノールの装入は、最大値でなければならないわけではない。好ましくは、工業規模のフェノール水素化反応器へのフェノールの装入は、20kta~350ktaのフェノールである。より好ましくは、工業規模のフェノール水素化反応器へのフェノールの装入は、25kta~250ktaのフェノールである。
【0070】
フェノール水素化反応器の運転モードは、供給バッチ式運転及び連続運転から選択することができる。供給バッチ式運転モードでは、予めフェノールが装入されたフェノール水素化反応器に水素が経時的に装入され、反応生成物は反応終了まで反応器内に残る。連続運転モードでは、水素及びフェノールの両方がフェノール水素化反応器に連続的に装入され、反応生成物及び未転化の供給原料はフェノール水素化反応器から連続的に放出される。好ましくは、工業規模のフェノール水素化反応器は連続モードで運転される。
【0071】
本発明の範囲内において、「退出混合物中の水素の少なくとも一部は進入混合物に再利用される」という表現は、工業規模のフェノール水素化反応器の退出混合物中に存在する水素に言及している。この水素は、工業規模の水素化反応器の中でパラジウムを含む触媒によって触媒されるフェノールの蒸気相水素化では消費されなかった。
【0072】
本発明の範囲内において、前述の表現の中の用語「少なくとも一部」は、好ましくは、退出混合物中の水素のうち少なくとも10%、さらにより好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも85%が進入混合物に再利用されることを意味する。
【0073】
本発明による方法のステップB)では、退出混合物中の水素濃度がインライン計測によって計測される。「退出混合物中の水素濃度」は、フェノール水素化反応器の下流にある任意の水素を含有する流れの水素濃度を意味することが可能である、というのもこの濃度は反応器から直接出ている混合物中の水素濃度に比例することになるからである。実際上、退出混合物中の水素濃度を計測するための特に好都合な場所は、ガス状のパージ流を移送するライン内(下記の実施例1、図2のライン[4]を参照)、退出混合物中の水素の一部を進入混合物へ再利用するライン内(図2のライン[22])、圧縮部から直接存在している(existing)圧縮ガス混合物を移送するライン内(図2のライン[32])、フェノール水素化反応器から直接出ているライン内(図2のライン[29])、又は場合より存在する熱交換器若しくは気液分離器から出ているライン内(図2のライン[30]若しくは[31])である。図2のライン[32]、[22]及び[4]の中の流れは圧縮されており、かつフェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを微量しか含有していない。それらの流れは主として水素及び不活性成分を含有する。よって、上記の場所は、退出混合物中の水素濃度のインライン計測を実施するためには特に好都合である。別段の定義のないかぎり、本明細書中で使用される用語「濃度」はモル比(mol%)を指す。
【0074】
水素濃度は様々な技術によって計測することができる。クロマトグラフ法(特にガスクロマトグラフィ(GC)が、成分の混合物である試料中の個々の成分を分離するために一般に使用され、該成分はその後、検出器(例えば、カサロメータとしても知られる熱伝導度型検出器(TCD))によって定量される。検出器のシグナルはコントローラによって処理されて水素濃度を算出する。一定限度量の成分を含むガス状混合物中の水素濃度の連続計測(較正済み)については、熱伝導度型検出器は一般に直接適用される(クロマトグラフィによる前処理を伴わない)。
【0075】
本発明の方法のステップF)では、ステップB)で得られた水素濃度が第2の設定値と比較される。当業者は、最適なフェノール転化率及びシクロヘキサノン選択性を得るために、自身が運転している工業規模の水素化反応器において維持されるべき水素濃度を知っているであろう。反応器内の水素濃度が高すぎる場合、より多くのシクロヘキサノールが形成されるにつれてシクロヘキサノンに対する選択性は低下する(上記の反応スキーム及び化学量論を参照のこと)。反応器内の水素濃度が低すぎる場合は、フェノールの転化率が低くなりすぎるであろう。退出混合物中の水素濃度についての最適な設定値は、触媒の経年数及び他のプロセスパラメータに応じて様々であってよい。例えば、まさに未使用の触媒を用いる場合、退出混合物中に存在するごく少量の水素を用いて運転することにより反応速度を加減することが推奨される場合が多い。触媒が経年化している場合は、十分なフェノール転化率を得るためにより多くの水素が添加される必要がある。
【0076】
水素化反応器から直接出ている混合物(図2のライン[29]、同じく図2のライン[30])において、最適な水素濃度についての第2の設定値は、混合中に存在する成分の総モル数に基づいて、0.1~40mol%、特に1~30mol%の範囲にあるとよい。退出混合物中の水素の一部を進入混合物に再利用するラインの中のガス組成が、退出混合物のH濃度を決定するために計測される場合、第2の設定値は、1~100mol%(希釈用のガス、例えば不活性成分が添加されない場合、再利用はほぼ100mol%のHとなりうる)、好ましくは2~85mol%、より好ましくは3~70mol%、最も好ましくは5~50mol%の範囲であってよい。未使用の(又は再生された)触媒が存在する場合にはより低い値となり、上限値には触媒の経年化が考慮される。モル比でのガス組成は図2に示されたライン[31]、[32]、[22]及び[4]において同一であり(温度及び圧力は同一ではない)、よって水素濃度を計測可能であって、前述の範囲はこれらの場所すべてに当てはまる。
【0077】
本発明の方法のステップJ)では、退出混合物中の水素濃度が第2の設定値から逸脱した場合に自動運転によって少なくとも1つのプロセスパラメータの適合が行われる。上記に説明されるように、水素濃度は高すぎることもあれば低すぎることもあり、かつ触媒の状態及び他のプロセスパラメータに応じて変化する。従って注意深く頻繁にモニタリングが行われるべきである。実際に、第2の設定値は最適な設定値の周辺の濃度範囲であってもよい。例えば、その範囲は、前の段落で示した範囲にある事前に定義された設定値から±25%、±10%、±1%又は±0.5%であってもよい。
【0078】
ステップB)、F)及びJ)は、最適な制御を達成するために、少なくとも1日1回、より好ましくは少なくとも1時間に1回、最も好ましくは少なくとも毎分1回又はさらに5~30秒毎に、実行されることが好ましい。最適な結果を達成するために上記ステップをこの頻度で実行する必要があるので、本発明は、ステップJ)における適合が自動運転で実行されると予見している。
【0079】
特定の効果的なやり方で水素濃度を再び設定値付近又は設定値に戻すためにステップJ)において自動運転で適合させることが可能なプロセスパラメータには、a)進入混合物の流量を調整すること、及び/又はb)パージ流の流量を調整することが含まれる。
【0080】
この文脈における進入混合物の流量の調整とは、具体的には、成分である水素及びフェノールが別個の流れで反応器に入る場合に、反応器に入る水素を含有する流れの流入を調整することを意味する。退出混合物中の水素濃度がステップF)において第1の設定値よりも高いと測定された場合、進入混合物の流量をステップJ)で自動的に低減することができる。逆に、退出混合物中の水素濃度がステップF)において第1の設定値よりも低いと測定された場合、進入混合物の流量をステップJ)で自動的に増加させることができる。
【0081】
上記に説明されたように、本発明によるプラント又は方法において、退出混合物由来の水素の少なくとも一部はパージ流として放出される。このパージ流は水素の濃度を調節するための重要な方法である。パージ流の主な目的は不活性成分(希釈用のガス)を取り除くことである。パージ流の流出を増加させると不活性成分の濃度は低くなり、よって水素濃度は高くなる(逆の場合も同様である)。パージ流の流量は、これを調節するバルブによって調整することができる。退出混合物中の水素濃度がステップF)において第1の設定値よりも高いと測定された場合、パージ流の流量をステップJ)で自動的に減少させることができる。逆に、退出混合物中の水素濃度がステップF)において第1の設定値よりも低いと測定された場合、パージ流の流量をステップJ)で自動的に増加させることができる。このようにして、退出混合物中の水素濃度を、単にバルブを開閉することによる特定の効果的なやり方で設定値付近又は設定値に再び戻すことができる。
【0082】
本発明の好ましい実施形態によれば、進入混合物は希釈用のガスをさらに含む。希釈用のガスは、メタン及び/又は窒素のような、不活性ガスであるべきである。不活性であるので、希釈用のガスは進入混合物及び退出混合物いずれの中にも存在する。本明細書中、希釈用のガスは単に「不活性成分」と呼ばれることもある。当業者は、供給物流の中のフェノール及び水素の量(及び関連する圧力)の変化とは無関係に、一定の圧力で水素化プロセスを運転するのを好む場合が多いが、これにはさらに、本発明により実装されるプロセス制御に従って適合を行う必要があるかもしれない。例えば、反応器に供給されるフェノール及び水素の分圧合計が0.21MPaである場合、反応器に供給される不活性成分の分圧は、所望の圧力設定値0.30バールに達するように0.09MPaであるとよい(他の成分が反応器に供給されない場合)。水素が水素化反応器で消費されるにつれて、水素と不活性成分との比は、進入混合物と比較して、未反応の水素及び不活性成分を含有する再利用ガス流においては反応によって変化している。十分な反応速度を維持するために、本発明者らは、不活性成分の量と水素過剰について様々に検討することが可能であることを見出した。結果的に、不活性成分濃度の低下は水素濃度の上昇を、かつ従って反応速度の上昇をもたらす。
【0083】
さらに好ましい実施形態では、進入混合物に再利用される退出混合物中の水素とは別に、退出混合物中に存在する希釈用のガスの少なくとも一部も進入混合物に再利用される。これは、進入混合物に供給されるべき未使用の希釈用ガスの量を最小限にする特定の便利な方法を提示している。進入混合物中に希釈用のガスを使用することにより、この希釈用のガスと水素ガスとのモル比は、流入混合物中よりもパージ中のほうが高い。これは、水素濃度を調節するための特定の便利な可能性を提示している。本発明の方法のステップC)及びD)では、それぞれフェノール及びシクロヘキサノールの濃度がインライン計測で計測される。場合により、本発明の方法は、シクロヘキサノンの濃度がインライン計測で計測される追加のステップD2)を含むことができる。フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンは全て同じインライン計測デバイスを用いて計測することができる。よって、ステップC)、D)及び場合によりD2は、1ステップで実行することができる。フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度は様々な技術によって計測することができる。クロマトグラフ法(特にガスクロマトグラフィ(GC)が、成分の混合物である試料中の個々の成分を分離するために一般に使用され、該成分はその後、検出器(例えば、カサロメータとしても知られる熱伝導度型検出器(TCD))によって定量される。検出器のシグナルはコントローラによって処理されて種々の濃度を算出する。
【0084】
退出混合物中のフェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度のインライン計測の場所は、水素化反応器の下流の様々な位置であってよい。計測は、フェノール水素化反応器から直接出ている混合物中で直接(図2のライン[29])、又は場合により存在する熱交換器又は気液分離器から出ているライン内(図2のライン[30]若しくは[5])で実施することができる。退出混合物中のフェノール、シクロヘキサノール及び/又はシクロヘキサノンの濃度のインライン計測のための特定の便利な場所は、気液分離部[H]の中に存在するか又は気液分離部から出ている(図2のライン[5])、フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む液体中である。いずれの位置にも較正されたインラインガスクロマトグラフ(GC)を設置することができる。フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度は、本明細書中で使用されるようにmol%として表現され、分析された混合物中のフェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの和が100mol%となる。
【0085】
本発明の方法のステップG)で比較に使用されるフェノール濃度についての設定値、かつさらに本発明の方法のステップH)におけるシクロヘキサノール濃度についての設定値は、それぞれ独立に、分析された混合物中のフェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの和を常に100mol%として、0~20mol%、好ましくは0~12mol%、より好ましくは0~10mol%の範囲すなわち10mol%未満でなければならない。逆のことがシクロヘキサノンの濃度に関する第5の設定値に当てはまり、該設定値は、上記3つの成分の濃度の和が本明細書におけるそれぞれの濃度設定値を示すために100mol%とされるので、[アノン]=100mol%-[アノール]-[フェノール]として計算することができる。よって、シクロヘキサノンの濃度、すなわち第5の設定値は、好ましくは、分析された混合物中のフェノール、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンの和を常に100mol%として、80~100mol%、好ましくは88~100mol%、より好ましくは90~100mol%の範囲、又は90mol%よりも上である。
【0086】
一般に、退出する反応混合物中のシクロヘキサノールができる限り少なく(シクロヘキサノンに対する高選択性)かつ未転化のフェノールができる限り少ないこと(高転化率)が望ましいので、第3及び第4の設定値は、ステップC)及びD)で計測された濃度がそれぞれ該当する設定値よりも高い場合に本発明のステップK)及びL)におけるプロセスパラメータの適合を要求するだけであるようになっている。同様に、一般に退出する反応混合物中のシクロヘキサノンができる限り多いこと(シクロヘキサノンに対する高選択性及びフェノールの高転化率)が望ましいので、第5の設定値は、ステップD2)で計測された濃度が該当する設定値よりも低い場合に本発明のステップL2)におけるプロセスパラメータの適合を要求するだけであるようになっている。これは、計測値が設定値より低いか又は高い場合に適合を要求する、本発明の方法のステップE)、F)、I)及びJ)で参照される設定値とは、大きく異なっている。
【0087】
本発明の方法のステップE)、F)、I)及びJ)で参照される設定値と、ステップG)、H)、K)、L)、及びL2)で参照される設定値とのさらなる違いは、前者が、少なくとも1日1回、1時間に1回、毎分1回又は5~30秒毎の範囲であることが推奨されるインライン計測及び設定値との比較を用いて非常に高い頻度で注意を向ける必要があるということである。対照的に、フェノール及びシクロヘキサノールの濃度はかなり低い頻度でしか適合を必要としないことが見出された。本発明者らは、多くの場合は1日1回又は1週間に1回の範囲の結果に基づいて計測、比較、及びおそらくはプロセスパラメータの適合を行うのみで十分であることを見出した。これは、自動決断プロセスが、本発明の方法のステップK)及び/又はL)に関して、依然として望ましくはあるが必要とされていない理由でもある。好ましい実施形態のみに従えば、ステップK)、L)、及び/又はL2)において適合が行われる少なくとも1つのプロセスパラメータは、自動運転モードにより適合が行われる。
【0088】
本発明の方法のステップK)では、退出混合物中のフェノールの濃度が第3の設定値から逸脱した場合に少なくとも1つのプロセスパラメータの適合が行われる。本発明の方法のステップL)では、退出混合物中のシクロヘキサノールの濃度が第4の設定値から逸脱した場合に少なくとも1つのプロセスパラメータの適合が行われる。本発明の方法のステップL2)では、ステップD2)で得られたシクロヘキサノンの濃度が第5の設定値よりも低い場合に少なくとも1つのプロセスパラメータの適合が行われる。ステップK)、L)及び/又はL2)は、例えば、触媒がまだ新鮮であるか又は再生されたときは、場合により実施されればよい。本発明者らは、ステップK)、L)及び/又はL2)が、触媒が経年化し始めるという数週間~数か月後に生じる状況にとって、特に重要であることを見出した。触媒の経年化は、転化率の(軽微な)低下(その結果として退出混合物中のフェノール濃度の上昇)、及び選択性の低下(その結果として退出混合物中のシクロヘキサノール濃度の上昇)をもたらす。通常、触媒の経年化は緩徐なプロセスであり、結果として、未使用又は再生済みの触媒床を用いた運転開始と古い触媒床の交換又は再生との間の期間は数週間から数年に及ぶ。実際の数字は、数多くのパラメータ、例えば未使用のフェノールの品質、未使用の水素の品質、給水、望ましい生成物の規格、触媒の種類及びプラントのレイアウトなどに応じて様々である。しかしながら、プロセス外乱(未使用の水素の中の異常に高濃度のCOなど)が原因で、触媒の経年化が正常な条件下よりもはるかに速いこともあり、かつ結果としてプロセス外乱の始まりと古い(被毒した)触媒床の交換又は再生との間の期間は、わずか数日間又はさらに短時間にまで短縮される恐れもある。この場合にも、ステップK)、L)及び/又はL2)は、触媒経年化の悪影響を弱めるのに有益となりうる。
【0089】
シクロヘキサノンの濃度も測定される場合(上記のステップD2を参照)、本発明の方法は、ステップD2で得られたシクロヘキサノンの濃度を第5の設定値と比較することを含むさらなるステップH2、かつ場合により、ステップD2)で得られたシクロヘキサノンの濃度が第5の設定値より低い場合に少なくとも1つのプロセスパラメータの適合を行うことを含むさらなるステップL2)を、含むことができる。第5の設定値、すなわち退出混合物中の望ましいシクロヘキサノン濃度は、いずれも分析される混合物中のフェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの和を100mol%として、75~100mol%、好ましくは85~100mol%又は90~100mol%、最も好ましくは95mol%超、98mol%又は99mol%である。
【0090】
未だステップK)、L)又はL2)での適合を発動させることはなく許容可能とみなされる、設定値からの逸脱量は、本発明に従って当業者が定義することができる(例えば、その範囲は、上記に示された範囲内にある事前に定義された設定値から±25%、±10%、±1%又は±0.5%であってよい)。
【0091】
ステップC)、G)及びK)並びにステップD)、H)及びL)は、好ましくは少なくとも1か月に1回、より好ましくは少なくとも1週間に1回、最も好ましくは少なくとも1日、1時間又は1分に1回実行される。
【0092】
特定の効果的なやり方でフェノール及びシクロヘキサノールの濃度をそれぞれ再び設定値未満に戻すためにステップK)及びL)において自動運転によって適合させることが可能なプロセスパラメータには、a)冷却媒体の温度を調整すること、b)退出混合物中の水素濃度を調整すること、c)退出混合物中の希釈用のガスの濃度を調整すること、及びd)これらの組み合わせ、が挙げられる。
【0093】
反応器の温度がフェノール水素化反応器におけるフェノールの転化率及びシクロヘキサノンに対する選択性に影響を及ぼすことは良く知られている。熱交換器に関して上記に説明されたように、冷却媒体の温度を(特に、冷却媒体として沸騰水が使用される場合は沸騰水の圧力により)調整することは、反応器の温度を調整するための特定の便利な方法である。典型的には、冷却媒体の温度(かつ従って反応器の温度)は、シクロヘキサノンへの転化率を上昇させるために高められるべきである。しかしながら、温度及び転化率の上げすぎはシクロヘキサノンに対する選択性に悪影響を及ぼす可能性があるので、注意しなければならない。
【0094】
本明細書中で使用される「退出混合物中の水素濃度を調整すること」という用語は、ほとんどの場合、特にプロセスに装入される水素の量を増加することによって「進入混合物中の水素濃度を調整すること」を意味することになろう。反応器に供給される水素の量を増加することにより、反応器内の水素濃度及び水素分圧が高まり、これにより反応速度、すなわち転化率が上昇する。しかしながら、水素濃度及び関連するシクロヘキサノールへの転化率が上昇しすぎると、シクロヘキサノンに対する望ましい選択性が低下するので、注意するべきである。退出混合物中の水素濃度を調整する特に便利な方法は、ステップF)における比較及びステップJ)におけるプロセスパラメータの適合に使用される第2の設定値を調整することである。これについては、以下の実施例2において例示する。このようにして、退出混合物中の水素濃度を、プロセスパラメータを用いて間接的に調整することも可能である。
【0095】
本明細書中で使用される退出混合物中の希釈用ガスの濃度を適合させることは、ほとんどの場合、進入混合物中の希釈用ガスの濃度を適合させることを意味することになろう。例えば、退出混合物中の希釈用ガスの濃度の低下は、進入混合物中の希釈用ガスの濃度を低下させることにより実現される。これを達成する特定の便利な方法は、新鮮な水素の添加をより少なくすること、又は再利用ガス混合物の添加をより多くすることによる。上述のように、希釈用ガスの濃度を調整すること(特に低下させること)は、水素の濃度、並びにこれにより反応速度及び関連する転化率を調整する(特に上昇させる)便利な方法である。
【0096】
好ましい実施形態では、フェノール濃度を再び設定値未満に戻すためにステップK)で自動運転により適合を行うことが可能なプロセスパラメータは、a)冷却媒体の温度を上昇させること、b)退出混合物中の水素濃度を上昇させること、c)退出混合物中の希釈用のガスの濃度を低下させること、及びd)これらの組み合わせ、から選択される。
【0097】
好ましい実施形態では、シクロヘキサノール濃度を再び設定値未満に戻すためにステップL)で自動運転により適合を行うことが可能なプロセスパラメータは、a)冷却媒体の温度を低下させること、b)退出混合物中の水素濃度を低下させること、c)退出混合物中の希釈用のガスの濃度を上昇させること、及びd)これらの組み合わせ、から選択される。
【0098】
方法が、ステップD2)で得られたシクロヘキサノンの濃度が第5の設定値よりも低い場合に少なくとも1つのプロセスパラメータの適合を行うステップL2)を含む場合、適合が行われるプロセスパラメータは、フェノールの濃度に関係する第3の設定値について上述したものと同じである。その理由は、退出混合物中のフェノール濃度を低下させることについて記載された手段は全て、シクロヘキサノンへの転化率及びシクロヘキサノンに対する選択性をそれぞれ上昇させる手段であるからである。よって、プロセスパラメータの適合を行う上記手段は、退出混合物中のシクロヘキサノンの濃度を第5の設定値よりも上に高めるために、ステップL2)で使用することもできる。例えば、冷却媒体の温度の上昇を、以下の実施例4で示すようにステップL2)で使用することができる。高すぎるフェノール濃度及び低すぎるシクロヘキサノン濃度を克服するためのさらなる方法は、進入混合物中のフェノール濃度の低減、すなわちより少ないフェノールを水素化反応器に供給することによる。しかしながら、これはプラントの生産高を低減することになろう。
【0099】
上述の方法の次に、本発明はさらに、本発明による方法を実行するように構成された工業規模のフェノール水素化プラントを提供する。これは上記の方法ステップに関して記載された構成要素を備えているが、さらに、本発明のステップE)~J)、かつ好ましくはさらにステップK)及びL)並びに/又はD2)及びL2)を実行することが可能な制御システム(例えばソフトウェア)も備えている。制御システムは、本発明のステップE)~J)並びに好ましくはさらにステップK)及びL)並びに/又はD2)及びL2)における決断プロセスを実行するだけでなく、好ましくはさらに決断プロセスのアウトプットとして上記に説明されたプロセスパラメータの適合も行う。例えば、制御システムを、反応器内の圧力又は水素の濃度が低すぎるというステップE)及び/又はF)における測定に応答して、パージ流の流出の減少及び/又は進入混合物の流入の増加を行う1以上のバルブを自動的に開口するように、プログラムすることができる。このようにして、プラントは方法のステップI)及びJ)を実行するように構成される。これは、制御システムに関する可能なインプット及びアウトプットの一例にすぎない。上記の本発明の方法の詳細な説明は、必要な変更を加えれば本発明のプラントの対応する部分及び特徴についても当てはまる。
【0100】
本発明のプラントは、少なくとも
― パラジウムを含む触媒を具備する水素化反応器、
― フェノール及び水素を含む進入混合物を反応器に装入することができる少なくとも1つの取入口、
― シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、フェノール及び水素を含む退出混合物を放出することができる少なくとも1つの吐出口、
― 退出混合物中の水素の少なくとも一部を進入混合物に再利用するためのライン、
― 退出混合物からシクロヘキサノンを回収することができる回収部、
― 退出混合物由来の水素の少なくとも一部をパージ流として放出することができるパージ部、
― フェノール水素化反応の反応熱の少なくとも一部を冷却媒体に伝達することができる間接熱交換器
を具備する。
【0101】
本発明のプラントは特に、次のパラメータ:
― 水素化反応器内の圧力;
― 退出混合物中の水素濃度;
― 退出混合物中のフェノール濃度;
― 退出混合物中のシクロヘキサノール濃度;及び
― 場合により、退出混合物中のシクロヘキサノン濃度
を計測することができるインライン計測デバイスが存在することを特徴とする。
【0102】
プラントはさらに、上述のような本発明のステップE)~J)、かつ好ましくはステップK)及びL)並びに/又はD2)、H2)及びL2)を実行することが可能な自動制御システムを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0103】
図1】本発明に従ってフェノールからシクロヘキサノンを調製及び回収するためのプラント及び方法を概略的に示す図。
図2】本発明によるフェノール水素化反応部[A]の実施形態を概略的に示す図。フェノール水素化反応部[A]は、水素精製部[D]、フェノール蒸発部[E]、フェノール水素化部[F]、熱交換部[G]、気液分離部[H]及び圧縮部[J]を具備する。
【発明を実施するための形態】
【0104】
図面の説明においては、次の参照数字が使用されることになる:
[A]フェノール水素化反応部
[B]分離・精製部
[C]シクロヘキサノール脱水素化反応部
[D]水素精製部
[E]フェノール蒸発部
[F]フェノール水素化部
[G]熱交換部
[H]気液分離部
[J]圧縮部
[1]水素を含む流れ
[2]未使用のフェノールの流れ
[3]回収されたフェノールを含む流れ
[4]ガス状のパージ流
[5]フェノール、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール及び水素を含む混合物
[6]シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む流れ
[7]シクロヘキサノンを多く含む流れ
[8]シクロヘキサノールを多く含む第1の流れ
[9]シクロヘキサノールを多く含む第2の流れ
[10]軽質成分の流れ
[11]重質成分の流れ
[12]生成された水素
[21]水素ガス
[22]再利用された水素ガス
[23]水素を含有する流れ
[24]合流したフェノールの流れ
[25]ガス状成分の流れ
[26]蒸発しなかった成分
[27]水
[28]供給物の流れ
[29]シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、フェノール及び水素を含むガス混合物
[30]水素ガス並びに液体のフェノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含む混合物
[31]水素を含むガス混合物
[32]圧縮されたガス混合物
【0105】
[図面の詳細な説明]
フェノールからシクロヘキサノンを調製及び回収するためのプラント及び対応する方法が、図1に概略的に示されている。そのような方法は、通常は2つの部から構成され、場合により第3の部を備えている。3つの部全てが記載されている。
【0106】
シクロヘキサノンは、フェノール水素化反応部[A]においてフェノールを水素と反応させることにより触媒反応で調製される。シクロヘキサノンは分離・精製部[B]で回収される。場合により存在するシクロヘキサノール脱水素化反応部[C]では、望ましくない副産物シクロヘキサノールが触媒反応でシクロヘキサノン及び水素へと転化される。
【0107】
フェノール水素化反応部[A]は、ライン[1]を介した水素を含む流れ、ライン[2]を介した未使用のフェノールの流れ、及び場合によりライン[3]を介した回収フェノールを含む流れが装入される少なくとも1つの水素化反応器を具備し、かつ追加装備を具備することもできる。水素を含む流れは、場合により希釈用のガスとして不活性成分(例えば窒素及び/又はメタン)及び場合により一酸化炭素を含むことができる。場合により、不活性成分(例えば窒素及び/又はメタン)及び場合により一酸化炭素は、フェノール水素化反応部[A]に別々に装入される(図1には示されていない)。本発明による触媒反応のフェノール水素化は、蒸気相のプロセスで行われる。フェノール水素化反応部[A]から、水素及び場合により不活性成分(例えば窒素及び/又はメタン)及び場合により一酸化炭素を含むガス状のパージ流がライン[4]を介して放出され、かつフェノール、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール及び水素を含む液体混合物がライン[5]を介して放出される。水素化反応部[A]については、パージ流[4]及び生成物流[5]を得る方法であるので図2に関連して以下により詳細に説明する。
【0108】
フェノール、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール及び水素を含む混合物は、ライン[5]を介して分離・精製部[B]に供給される。場合により、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む流れがライン[6]を介してシクロヘキサノール脱水素化反応部[C]から分離・精製部[B]へと供給される。通常、分離・精製部[B]は1以上の蒸留塔を具備する。分離・精製部[B]では、シクロヘキサノンを多く含む流れ及び場合によりシクロヘキサノールを多く含む流れ及び場合によりフェノールを含む流れが回収される。この分離・精製部[B]から、シクロヘキサノンを多く含む流れがライン[7]を介して一次生成物として放出される。このシクロヘキサノンを多く含む流れは、溶媒として、又は例えばε‐カプロラクタム、カプロラクトン若しくはアジピン酸の生産の原料として、使用されることが考えられる(図1には示されていない)。場合により、シクロヘキサノールを多く含む第1の流れはライン[8]を介してプロセスの外側に放出される。シクロヘキサノールを多く含むこの第1の流れは、溶媒として、又は例えばアジピン酸の生産の原料として、使用されることが考えられる(図1には示されていない)。場合により、シクロヘキサノールを多く含む第2の流れはライン[9]を介してシクロヘキサノール脱水素化反応部[C]へと放出される。場合により、回収フェノールを含む流れはライン[3]を介してフェノール水素化反応部[A]へと放出される。場合により、ベンゼン、シクロヘキサン及び水を場合により含んでいる軽質成分流がライン[10]を介して放出される。場合により、フェノール及びフェノールより高い沸点を有する成分を含んでいる重質成分流がライン[11]を介して放出される。
【0109】
場合により存在するシクロヘキサノール脱水素化反応部[C]は、少なくとも1つの脱水素化反応器及び1以上の熱交換器を具備する。シクロヘキサノール脱水素化反応部[C]では、シクロヘキサノールは触媒反応で転化されてシクロヘキサノン及び水素となる。一般に、シクロヘキサノールの脱水素化は高温で実施される気相反応である。場合により、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む生成物流はライン[6]を介して分離・精製部[B]に装入される。シクロヘキサノール脱水素化反応部[C]で生成された水素はライン[12]を介して生成水素として放出される。場合により、シクロヘキサノール脱水素化反応部[C]の生成水素は、フェノール水素化反応部[A]に供給される(図1には示されていない)。場合により、シクロヘキサノール脱水素化反応部[C]の生成水素は別の水素を消費するプロセスに供給される(図1には示されていない)。場合により、シクロヘキサノール脱水素化反応部[C]の生成水素は発熱ユニットに供給される(図1には示されていない)。
【0110】
図2には、フェノール水素化反応部[A](破線で囲まれたエリア)の本発明による実施形態のスキームが示されている。
【0111】
水素を含む流れは、ライン[1]を介してフェノール水素化反応部[A]に装入される。水素を含む流れは、例えば、ナフサ分解装置、メタン改質装置、石炭ガス化プロセス、電気分解プロセス、又は脱水素化プロセスが発生源であってよい。典型的には、水素を含む流れは窒素及び/又はメタンのような不活性成分を含有する。場合により、窒素及び/又はメタンのような不活性成分は、希釈用のガスとして、水素を含む流れに添加することができる(図2には示されていない)。水素を含む流れが、CO及び/又はHSのような水素化にとって有害な成分を含有する場合は、水素ガス精製ステップが必要である。装入される水素の中のこれらの有害な成分の存在は、例えば水素ガス生成ユニットにおける混乱状態を原因とした、一時的なものであってもよいし、恒久的なものであってもよい。そのような水素精製ステップにおいて、有害な不純物は、不活性成分へと転化されてもよいし、水素を含む流れから取り除かれてもよい。
【0112】
この目的のために、水素を含む流れは、ライン[1]を介して、場合により存在する水素精製部[D]に装入される。水素精製部[D]への装入前に、水素を含む流れの温度を、水素精製ユニット[D]で要求される温度へと熱交換部において変更することができる(図2には示されていない)。一般に、そのような熱交換部では、水素を含む流れの温度が高められる。
【0113】
水素精製部[D]は、有害成分を不活性成分に転化するための1以上の触媒、及び/又は有害成分を除去するための1以上の吸着剤を具備することができる。好ましくは、水素精製部[D]は、COの転化のための触媒、及び/又はHSの除去のための吸着剤を具備する。水素ガスは、ライン[21]を介して水素精製部[D]から放出される。ライン[21]の中の水素ガス及びライン[22]の中の再利用された水素ガスが合流することにより、ライン[23]を介してフェノール蒸発部[E]に装入される水素を含有する流れが形成される。水素精製部[D]は、並行及び/又は連続して運転される1以上の反応ユニット及び/又は吸着ユニットを具備することができる。場合により、水、例えば蒸気の形態のものが、水素精製部[D]の前に、水素精製部の中で、又は水素精製部の後で、水素ガスに添加されてもよい(図2には示されていない)。水素精製部[D]は、例えばライン[1]の中の水素を含む流れの品質が十分な場合は、存在しなくてもよいし、迂回されてもよい(図2には示されていない)。
【0114】
未使用のフェノールの流れが場合によりライン[2]を介して装入されるが、しかし好ましくは、回収されたフェノールを含む流れがライン[3]を介して装入されることにより、合流したフェノールの流れが形成されてライン[24]を流れる。ライン[3]を介して装入される回収フェノールを含む流れは、図1に示された分離・精製部[B]から放出される。場合により、回収されたフェノールを含む流れは、ライン[2]を介して装入される未使用のフェノールの流れとは合流されずに別々にフェノール蒸発部[E]に装入されるか、又は存在しない(図2には示されていない)。場合により、フェノール蒸発部[E]への装入の前に、ライン[24]を流れる合流したフェノールの流れの温度が、並行及び/又は連続して運転可能な1以上の熱交換器を具備する熱交換部(図2には示されていない)において高められる。
【0115】
フェノール蒸発部[E]では、ライン[24]を介して入った事実上全ての成分が蒸発せしめられる。ガス状成分の流れはライン[25]を介してフェノール蒸発部[E]から放出される。ライン[24]を介して入り、かつ蒸発しない成分は、フェノール蒸発部[E]からライン[26]を介して非蒸発成分として(連続的に、又はバッチ毎に)放出される。これらは通常はごく少量である。一般にフェノール蒸発部[E]は、流入する供給物の加熱、特に水蒸気による加熱を必要とする。好ましくは、フェノール蒸発部[E]は、放出されるガス状成分の流れから混入した液滴を除去するためのデバイス、例えばワイヤメッシュデミスタを具備する。フェノール蒸発部[E]は、並行及び/又は連続して運転される1以上の蒸発器を具備する。場合により、ライン[25]の中のガス状成分の流れは、並行及び/又は連続して運転される1以上の熱交換器を具備する熱交換部(図2には示されていない)において温度調整される。一般に、この熱交換部では、ガス状成分の流れは温度を高められる。場合により、若干の水、例えば蒸気の形態のものがライン[27]を介してライン[25]の流れに装入されることにより、ライン[28]を流れてフェノール水素化部[F]に装入される供給物の流れが形成される。
【0116】
フェノール水素化部[F]は、連続及び/又は並行して運転される1以上の水素化反応器から構成される。フェノール水素化部[F]では、シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールが、フェノールの不均一系触媒反応による水素化によって連続プロセスで得られる。シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、フェノール及び水素を含むガス混合物は、ライン[29]を介してフェノール水素化部[F]から放出される。
【0117】
ライン[29]を介してフェノール水素化部[F]から放出されたシクロヘキサノン、シクロヘキサノール、フェノール及び水素を含むガス混合物は、熱交換部[G]で冷却され、これによりフェノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールの少なくとも何分の1かは凝結される。熱交換部[G]は、並行及び/又は連続して運転される1以上の熱交換器を具備する。冷却媒体としては、1以上の冷却媒体が、ライン[29]を介してフェノール水素化部[F]から放出されたシクロヘキサノン、シクロヘキサノール、フェノール及び水素を含むガス混合物を冷却するために使用されることが考えられる。適用される冷却媒体のうち少なくとも1つは、ライン[29]を介してフェノール水素化部[F]から放出されたシクロヘキサノン、シクロヘキサノール、フェノール及び水素を含むガス混合物の中に存在するフェノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールの少なくとも何分の1かを凝結させるのに十分低い温度であるべきである。場合により、ガスの冷却はいくつかの段階で連続して実施され、そのため場合によっては各段階で別の冷却媒体が使用される。場合により、冷却媒体のうち少なくとも1つは、フェノール水素化反応部[A]からの、分離・精製部[B]からの、及び/又はシクロヘキサノール脱水素化反応部[C]からの、プロセス流である(図2には示されていない)。場合により、冷却媒体のうちの1つは、ライン[22]を介して装入される再利用された水素ガスである(図2には示されていない)。
【0118】
水素ガス並びに液体のフェノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含む混合物は、熱交換部[G]からライン[30]を介して放出され、気液分離部[H]に装入される。気液分離部[H]は、並行及び/又は連続して運転される1以上の気液分離器を具備する。フェノール、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール及び水素を含む液体混合物は、気液分離部[H]からライン[5]を介して放出され、図1に示す分離・精製部[B]に装入される。水素を含むガス混合物は、気液分離部[H]からライン[31]を介して放出されて圧縮部[J]に装入される。任意の種類の気液分離器を気液分離部[H]において利用することができるが、液体が容器の底部に沈降する縦型の容器が使用された場合に特に良好な結果が得られる。一般に、気液分離部[H]は、放出されるガス状成分の流れから混入した液滴を除去するためのデバイス、例えばワイヤメッシュデミスタを具備する。
【0119】
圧縮部[J]は、ガス混合物を圧縮するための1以上のデバイスを具備する。該デバイスは並行及び/又は連続して運転することが可能である。圧縮されたガス混合物は圧縮部[J]からライン[32]を介して放出され、ライン[22]を介して移送される再利用水素ガスと、ライン[4]を介して移送されるガス状のパージ流とに分けられる。場合により、ライン[22]を介して移送される再利用水素ガスは熱交換部に装入され、そこで加熱される(図2には示されていない)。再利用された水素ガス(場合により加熱されている)はライン[22]を介して放出され、次いでライン[21]の中の水素ガスと合流する。
【0120】
本発明の方法を実行するとき、ライン[4]を介して移送されるガス状のパージ流は、通常は水素及び1以上の不活性成分、例えば窒素及び/又はメタン、並びに場合により一酸化炭素を含む。ライン[4]を介して放出されたこのガス状のパージ流は、例えば燃料として使用することができる(図2には示されていない)。場合により、フェノール水素化反応部[A]からの放出前に、ライン[4]を介して移送されるガス状のパージ流は熱交換部に装入され、そこでガス状のパージ流は冷却される(図2には示されていない)。場合により、この熱交換部で形成された液体が気液分離部[H]に装入される(図2には示されていない)。
【実施例
【0121】
以下の実施例は、本発明について一層詳細に、特に本発明のある特定の形態に関して、説明する役割を果たす。しかしながら該実施例は、本開示を限定するようには意図されていない。
【0122】
実施例は、図1に示した本発明の実施形態に非常に類似したフェノールからシクロヘキサノンを調製及び回収するための化学プラントのフェノール水素化反応部[A]において実行された。フェノールからシクロヘキサノンを調製及び回収するための化学プラントはさらに、高品質のシクロヘキサノンがより高沸点の成分及びより低沸点の成分から蒸留分離されて得られる分離・精製部[B]、並びにシクロヘキサノールがシクロヘキサノンに転化されるシクロヘキサノール脱水素化反応部[C]を具備していた。フェノール水素化反応部[A]は、図2に示した本発明の実施形態に非常に類似した、水素精製部[D]、フェノール蒸発部[E]、フェノール水素化部[F]、熱交換部[G]、気液分離部[H]、及び圧縮部[J]を具備していた。
【0123】
約94体積%の水素、約6体積%の窒素、微量のCO及び微量のHSを含んでいる水素を含む流れが、ライン[1]を介して水素精製部[D]に装入された。水素精製部[D]では、COは触媒反応でCHに転化され、HSは吸着剤によって除去された。正常な運転条件下では、水素精製部[D]からライン[21]を介して放出された水素ガス中のCO含量及びHS含量はいずれも1ppmを各々大きく下回った。ライン[22]を介して移送された再利用水素ガスを、ライン[21]を介して移送された新たに供給される水素ガスと組み合わせることにより得られた、水素を含有する流れは、ライン23を介してフェノール蒸発部[E]に装入された。
【0124】
ライン[2]を介して装入される未使用のフェノールの流れとライン[3]を介して装入される回収フェノールを含む流れとが組み合わされて、蒸気加熱式フェノール蒸発部[E]に装入された。フェノール蒸発部[E]では、事実上全てのフェノールが蒸発せしめられる。少流量の非蒸発成分はライン[26]を介してフェノール蒸発部[E]から放出され、残りはライン[25]を介してガス状成分の流れとして放出された。ライン[25]のガス状成分の流れに対して、ライン[27]を介して水蒸気が、ライン[28]におけるフェノール量に対する水の量がフェノール量に基づいて約1重量%となるように添加された。このようにして、フェノール水素化部[F]の供給物の流れ(ライン[28]を介して移送される)が得られた。
【0125】
フェノール水素化部[F]は、蒸気相中でのフェノール水素化のために連続モードで運転される、約120ktaのフェノールの年間運転能力を有する工業規模の多管式フェノール水素化反応器)を1台備えていた。チューブには担持水素化触媒Pd/Al(0.9重量%)及び助触媒として添加される1重量%のNa(NaHCOとして)が充填された。チューブの数は約5600であった。各反応器チューブ内の触媒床の高さは約2mであった。毎時間質量供給流量(WHSV)は5(kgフェノール/hr)/(kg触媒)であった。冷却媒体としてボイラー用水が反応熱の除去のためにチューブ外側の空間に装入されることにより、水蒸気が生産された。反応熱の85%超が冷却媒体に伝達された。
【0126】
[実施例1]
多管式水素化反応器に未使用の触媒が充填された。プロセスの運転開始の72時間後に開始して、以下のプロセス条件を7か月の連続生産期間について記録した。
【0127】
冷却媒体として使用された沸騰水の圧力は、0.48MPaに設定された(関連する温度はおよそ150℃であった)。生成された蒸気は、蒸留塔のリボイラのエネルギー源として使用された。
【0128】
反応器内の圧力は、多管式水素化反応器に装入される供給物の流れの全圧を、該供給物の流れが触媒を充填したチューブに入る前に、反応器のフード内でインライン計測で計測することにより計測された。圧力センサは、反応器内の圧力の大きさの尺度である電気シグナルを連続的に発信した。圧力の設定値(第1の設定値)は0.38MPaであった。圧力がこの設定値から逸脱した場合、ライン[4]のガス状のパージ流の流出は、第1の設定値が維持されるように自動的に調整された(圧力が高すぎるとライン[4]のバルブの開口が開始され;圧力が低すぎるとライン[4]のバルブの閉止が開始された)。
【0129】
退出混合物中の水素濃度は、較正されたインライン熱伝導度型検出器(カサロメータ)によるライン[4]の中のガス状のパージ流のインライン計測により連続的に計測された。熱伝導度型検出器は、水素濃度の尺度である電気シグナルを連続的に発信した。水素濃度の設定値(第2の設定値)は4mol%であったが、すべてのガス状成分(主として水素及び不活性ガス、例えばメタン及び/又は窒素など)の濃度の和は常に100mol%となる。水素濃度がこの設定値から逸脱した場合、ライン[1]の水素ガスの流入は、第2の設定値が維持されるように自動的に調整された(水素濃度が低すぎるとライン[1]の水素ガスの流入増大が開始され;水素濃度が高すぎるとライン[1]の水素ガスの流入低減が開始された)。
【0130】
退出混合物中のフェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度は、気液分離部[H]の縦型容器式気液分離器の液溜底部の中の液体の、較正されたインラインガスクロマトグラフ(GC)によるインライン計測によって測定された。気液分離部[H]の縦型容器式気液分離器の液溜底部の中の液体の、フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度についての設定値(第3~第5の設定値)は、それぞれ3mol%、3mol%及び95mol%であった(フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度の和を常に100mol%とした)。運転開始後の最初の7か月の間、フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度はそれぞれ<3mol%、<3mol%及び>95mol%であった(フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度の和を常に100mol%とした)。
【0131】
シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、フェノール及び水素を含むガス混合物[29]がフェノール水素化反応器から放出され、熱交換部[G]で40℃まで冷却された。結果として得られた、水素ガス並びに液体のフェノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含む混合物は、ライン[30]を介して放出され、気液分離部[H]の縦型容器に装入された。その縦型容器の底部から、液体混合物がライン[5]を介して放出され、分離・精製部[B]に装入された(図1を参照)。分離・精製部[B]では、シクロヘキサノンを多く含む流れ(>99mol%のシクロヘキサノン)、シクロヘキサノールを多く含む流れ、軽質成分の流れ及び重質成分の流れが、蒸留分離及び精製によって得られた。シクロヘキサノールを多く含む流れはライン[9]を介してシクロヘキサノール脱水素化反応部[C]に装入された。シクロヘキサノール脱水素化反応部[C]では、シクロヘキサノールが触媒反応で脱水素化されることにより水素及びシクロヘキサノンが生成された。生成した水素はライン[12]を介して放出され、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む流れはライン[6]を介して放出されて分離・精製部[B]に装入された。
【0132】
水素を含むガス混合物は、気液分離部[H]の縦型容器の最上部からライン[31]を介して放出され、圧縮部[J]の圧縮器に装入された。圧縮部[J]の圧縮器から放出された水素を含む圧縮ガス混合物は、ライン[4]を介して移送されるガス状のパージ流と、ライン[22]を介して移送される再利用水素ガスとに分けられた。
【0133】
実施例1の結果は、本発明に従って反応器内の圧力及び退出混合物中の水素濃度のインライン計測並びに自動制御を組み合わせることにより、フェノール水素化反応器を、ヒトの介在を伴わずに一定した高い生産速度で約7か月間運転することが可能であったことを示している。
【0134】
[実施例2]
実施例1に記載されたのと同じ化学プラントで実行されるフェノールからのシクロヘキサノンの調製及び回収は、初期の7か月間の後も継続された。
【0135】
数日後、較正されたインラインガスクロマトグラフによって測定された、気液分離部[H]の縦型容器式気液分離器の液溜底部の液体中のフェノール濃度は、3mol%に設定された設定値を超過した(フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度の和を常に100mol%とした)。これに対する反応として、水素濃度の設定値が1mol%(4mol%から5mol%へと)高められた。この作用の結果、較正されたインラインガスクロマトグラフ(GC)によって測定された、気液分離部[H]の縦型容器式気液分離器の液溜底部の液体中のフェノール濃度が3mol未満%に低下した一方で、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度はそれぞれ<3mol%及び>95mol%のままであった(フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度の和を常に100mol%とした)。この新しい状況は、水素濃度の設定値をそれ以上調整することなく約1か月を超えて維持することが可能であった。運転開始後12か月までの間に、水素濃度の設定値は、気液分離部[H]の縦型容器式気液分離器の液溜底部の液体中のフェノール濃度を3mol%未満の値に調整するために、1mol%ずつ数回(水素濃度の設定値の値が10mol%になるまで)高めなければならなかった。
【0136】
水素濃度の設定値を4mol%から10mol%に高めた結果は、ライン[4]のガス状のパージ流の流出が経時的に増大したということであった。
【0137】
実施例2の結果は、退出混合物中の水素濃度の適合が退出混合物中のフェノール濃度を制御するために使用されることを示している。退出混合物中のフェノールの濃度がその設定値3mol%を超過する度に、退出混合物中の水素濃度の設定値が1mol%ずつ段階的に(4mol%から10mol%まで)高められ、かつ結果として、退出混合物中の水素濃度は4mol%から10mol%へと段階的に上昇した。退出混合物中の水素濃度の上昇後は常に、退出混合物中のフェノール濃度は再び3mol未満%に低下した。この制御戦略により、化学プラントのフェノール水素化反応部[A]の一定した高い生産速度を運転開始後12か月まで延長させることができた。
【0138】
[実施例3]
実施例2に記載されたのと同じ化学プラントで実行されるフェノールからのシクロヘキサノンの調製及び回収は、初期の12か月間の後も継続された。
【0139】
数日後、較正されたインラインガスクロマトグラフ(GC)によって測定された、気液分離部[H]の縦型容器式気液分離器の液溜底部の液体中のシクロヘキサノン濃度は、95mol%に設定された設定値を下回った(フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度の和を常に100mol%とした)。これに対する反応として、冷却媒体として使用される沸騰水の圧力が0.02MPa高められた(0.50MPaとなった)。この結果として、関連する温度は約1.5℃上昇して約152℃となった。
【0140】
この作用の結果、較正されたインラインガスクロマトグラフによって測定された、気液分離部[H]の縦型容器式気液分離器の液溜底部の液体中のシクロヘキサノン濃度が再び95mol%を上回った一方、フェノール及びシクロヘキサノールの濃度はそれぞれ<3mol%のままであった(フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度の和を常に100mol%とした)。この状況は、冷却媒体として使用される沸騰水の圧力をさらに調整することなく2か月を超えて維持することが可能であった。
【0141】
実施例3の結果は、退出混合物中のシクロヘキサノン濃度が退出混合物中のシクロヘキサノン濃度のための設定値よりも低い場合に冷却媒体として使用される沸騰水の圧力を一度適合させることにより、化学プラントのフェノール水素化反応部[A]の一定した高い生産速度をさらに2か月間維持することが可能であったことを示している。
【0142】
[実施例4]
実施例3に記載されたのと同じ化学プラントで実行されるフェノールからのシクロヘキサノンの調製及び回収は、初期の14か月間の後も継続された。市場状況により、フェノール水素化反応部[A]の生産速度を30%縮小しなければならなかった。
【0143】
設定値の適合を行わずにフェノール水素化反応部[A]へのフェノール供給速度を低減した直後、較正されたインラインガスクロマトグラフ(GC)によって測定された、気液分離部[H]の縦型容器式気液分離器の液溜底部の液体中のシクロヘキサノール濃度は、3mol%に設定された設定値を超過した(フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度の和を常に100mol%とした)。これに対する反応として、水素濃度の設定値(第2の設定値)は2mol%低減され(10mol%から8mol%)、該設定値に対してシステムは、上記実施例1に関して説明したようにライン[1]の水素ガスの流入を減少させることにより反応した。この作用の結果、進入混合物及び退出混合物の水素濃度は低下し、これにより、較正されたインラインガスクロマトグラフによって測定された、気液分離部[H]の縦型容器式気液分離器の液溜底部の液体中のシクロヘキサノール濃度は再び3mol%未満に低下した一方、フェノール及びシクロヘキサノンの濃度はいずれもそれぞれ<3mol%及び>95mol%のままであった(フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度の和を常に100mol%とした)。この状況は、設定値のうちいずれかをさらに調整することなく1か月間を超えて維持することが可能であった。
【0144】
実施例4の結果は、退出混合物中の水素濃度の設定値を低下させ、かつその結果として進入混合物及び退出混合物の水素濃度が低下することにより、退出混合物中のシクロヘキサノールの濃度をその設定値3mol%より低い値まで低減することが可能であったことを示している。
【0145】
[実施例5]
フェノールからのシクロヘキサノンの調製及び回収を、実施例1に記載したのと同じ化学プラントで行なったが、ただし本実施例では、圧力が設定値から逸脱した場合にライン[4]のガス状のパージ流の流出は自動的には調整されず、かつ水素濃度が設定値から逸脱した場合にライン[1]の水素ガスの流入は自動的には調整されなかった。
【0146】
その代わりに、圧力が設定値から逸脱した場合、ライン[1]の水素ガスの流入が自動的に調整された(圧力が低すぎるとライン[1]の水素ガスの流入増大が開始され;圧力が高すぎるとライン[1]の水素ガスの流入低減が開始された)。また、水素濃度が設定値から逸脱した場合、ライン[4]のガス状のパージ流の流出が自動的に調整された(水素濃度が高すぎるとライン[4]のガス状のパージ流の流出低減が開始され;水素濃度が低すぎるとライン[4]のガス状のパージ流の流出増大が開始された)。
【0147】
かつこの場合も、運転開始後の最初の7か月の間、気液分離部[H]の縦型容器式気液分離器の液溜底部の液体のフェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度は、それぞれ<3mol%、<3mol%及び>95mol%のままであった(フェノール、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの濃度の和を常に100mol%とした)。
【0148】
実施例5の結果は、本発明に従って反応器内の圧力及び退出混合物中の水素濃度のインライン計測並びに自動制御を組み合わせることにより、フェノール水素化反応器を、ヒトの介在を伴わずに一定した高い生産速度で約7か月間運転することが可能であったことを示している。
図1
図2
【国際調査報告】