(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼及び熱間成形工程
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240130BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240130BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240130BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/00 301S
C22C38/38
C21D9/00 A
C21D1/18 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519094
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 CN2021132955
(87)【国際公開番号】W WO2023087352
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111401590.5
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514227494
【氏名又は名称】鞍鋼股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ANGANG STEEL COMPANY LIMITED.
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】董 毅
(72)【発明者】
【氏名】時 暁光
(72)【発明者】
【氏名】劉 仁東
(72)【発明者】
【氏名】孫 成銭
(72)【発明者】
【氏名】韓 楚菲
(72)【発明者】
【氏名】王 俊雄
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA05
4K042CA02
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA12
4K042CA13
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4K042DC03
4K042DD01
4K042DD05
4K042DE01
4K042DE03
4K042DE05
4K042DE06
(57)【要約】
本発明は、抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼及び熱間成形工程を提供する。前記熱間成形鋼の化学成分は、質量%で、C:0.18%~0.28%、Si:0.20%以下、Mn:1.20%~2.0%、P:0.030%~0.080%、S:0.004%以下、Als:0.02%~0.06%、Nb:0.02%~0.06%、Ti:0.025%~0.045%、V:0.05%~0.15%、Cr:0.5%~2.50%、Mo:0.10%~0.30%、B:0.0015%~0.0035%、N:0.005%以下で、残部は、Fe及び不可避的不純物である。本発明に係る熱間成形鋼は、高抗酸化性及び高塑性を有し、かつ、鋼の熱間成形時の保護雰囲気と熱間成形後のショットピーニング処理を必要としない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼であって、前記熱間成形鋼の化学成分は、質量%で、C:0.18%~0.28%、Si:0.20%以下、Mn:1.20%~2.0%、P:0.030%~0.080%、S:0.004%以下、Als:0.02%~0.06%、Nb:0.02%~0.06%、Ti:0.025%~0.045%、V:0.05%~0.15%、Cr:0.5%~2.50%、Mo:0.10%~0.30%、B:0.0015%~0.0035%、N:0.005%以下で、残部は、Fe及び不可避的不純物である、
ことを特徴とする抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【請求項2】
前記熱間成形鋼の組織は、フェライト、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【請求項3】
前記フェライトは、体積分率で、5%~12%であり、前記マルテンサイトは、体積分率で、78%~89%であり、前記残留オーステナイトは、体積分率で、6%~10%である、
ことを特徴とする請求項2に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【請求項4】
前記熱間成形鋼の引張強度は、1400MPa~1700MPaである、
ことを特徴とする請求項1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【請求項5】
前記熱間成形鋼の抗酸化速度は、0.1g/(m
2・h)以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【請求項6】
前記熱間成形鋼の降伏強度は、900MPa~1450MPaである、
ことを特徴とする請求項1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【請求項7】
前記熱間成形鋼の延伸率は、18.0%以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【請求項8】
前記熱間成形鋼の表面は、完全に脱炭されておらず、脱炭層の厚さが15μm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【請求項9】
前記熱間成形鋼の厚さは、0.8mm~12.0mmである、
ことを特徴とする請求項1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の前記化学成分を含む熱間成形基板をA
C3-A
C3+15℃の加熱炉に入れて加熱し、180s-300s保温するステップと;
加熱された熱間成形基板を加熱炉から取り出してA
r3温度まで空冷した後、5s~8s経過してから、熱間成形金型に入れて変形させ、18℃/s以上の冷却速度で180℃~250℃まで冷却してから40s~80s保圧し、その後、成形された部品を取り出して室温まで空冷して、前記熱間成形鋼を得るステップと、を含む、
ことを特徴とする抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼の熱間成形工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用鋼の技術分野に関し、具体的には、抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼及び熱間成形工程に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車体用の新素材が持続的に開発されて、車体に応用されているが、1000MPaを超える冷間プレス加工用の超高強度鋼板は、亀裂しやすい、リバウンドが大きいなどの問題の制約があるため、普通は、単純な形状の部品の製造に使用されている。これに対し、熱間成形鋼は、熱間成形工程によりオーステスト領域で成形されるため、リバウンド量が小さく、組立精度の要求を満たすことができ、保圧して焼入れすることにより、1500MPa以上の超高強度の部品を得ることができるので、車体の構造や部品の設計を効果的に簡単化させ、車両を大幅に軽量化させることができる。
【0003】
現在、市販の熱間成形鋼は、その表面状態によって、塗装熱間成形鋼と無塗装熱間成形鋼に分けられ、その中、無塗装鋼は、加熱炉で加熱する時に、鋼の表面にミルスケールが形成されて、脱炭素の情況が発生しやすく、鋼の性能に影響を与えるため、加熱時に保護雰囲気の使用が必要であり、かつ熱間成形後にショットピーニング処理を必要とするので、コストと工程が増加する。一方、塗装鋼は、鋼板の表面にアルミニウムシリコン系や亜鉛系のコーティングを施したもので、加熱過程での鋼表面の脱炭素と酸化が効果的に防止でき、且つ熱間成形後のショットピーニング処理を省略することができるが、塗装熱間成形鋼のコストは無塗装鋼より高くなる。現在、従来技術により大量生産されて使用されている熱間成形鋼は、その強度レベルが1500MPaであるが、その熱間成形後の延伸率はわずか6~9%で、自動車分野の発展需要を満たさなく、鋼の熱間成形の低コスト化を実現しながら、表面の酸化と脱炭素の問題を解決し、ショットピーニング処理を回避し、同時に熱間成形後の鋼が良好な塑性を有するようになる良い技術は未だにない。
【0004】
特許文献1には、自動車用の超高強度の熱間成形鋼の製造方法が開示されており、その成分は、質量%で、C:0.5%~0.6%,Mn:0.5%~2.0%,Si:1.5%~2.5%,Cr:1.0%~3.0%,Al:1.0%~2.0%,Nb:0.01%~0.03%,B:0.001%~0.005%で、その熱間成形後の鋼板は、強度が1500~2000MPaに達し、延伸率が10%~20%である。その特許文献1に開示された鋼板は、良好な強度と塑性のマッチングを有するが、その成分にはCr元素とAl元素の含有量が高く、コストと製錬の難度が高くなる。また、生産工程が複雑で、既存の生産設備は生産要件を満たせず、かつ生産の時に保護雰囲気とショットピーニング処理も必要である。
【0005】
特許文献2には、自動車用の高強度、高靱性の熱間成形鋼板及びその製造方法が開示されており、鋼板の化学成分は、質量%で、C:0.1~0.5%、Si:0.5~1.5%、Mn:1.2%~2.4%、Ti:0.01%~0.05%、B:0.001%~0.005%、S:0.01%以下、P:0.01%以下で、熱間成形後の鋼板は、引張強度が1600MPa、延伸率が16%に達し、総合的な性能が良く、合金のコストが低い。しかし、鋼板は最終的な組織や機械的性質を得るために、加熱工程で変形させ、2回の焼入れを行う必要があり、その熱間成形工程は複雑で既存の設備では実現できず、また加熱時の保護雰囲気と熱間成形後のショットピーニング処理も必要である。
【0006】
以上により、抗酸化性に優れた自動車用の高塑性の熱間成形鋼と熱間成形工程の開発は、その応用が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】中国特許第107354385号明細書
【特許文献2】中国特許第103255340号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記技術的課題に鑑みてなされたものであり、抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼及び熱間成形工程を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の技術的手段は、以下の通りである。
本発明の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼は、前記熱間成形鋼の化学成分が、質量%で、C:0.18%~0.28%、Si:0.20%以下、Mn:1.20%~2.0%、P:0.030%~0.080%、S:0.004%以下、Als:0.02%~0.06%、Nb:0.02%~0.06%、Ti:0.025%~0.045%、V:0.05%~0.15%、Cr:0.5%~2.50%、Mo:0.10%~0.30%、B:0.0015%~0.0035%、N:0.005%以下、残部がFe及び不可避的不純物である。
【0010】
熱間成形鋼の組織が、フェライト、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなる。
【0011】
フェライトが体積分率で5%~12%で、マルテンサイトが体積分率で78%~89%で、残留オーステナイトが体積分率で6%~10%である。
【0012】
熱間成形鋼は、引張強度が1400MPa~1700MPaで、抗酸化速度が0.1g/(m2・h)以下で、降伏強度が900MPa~1450MPaで、延伸率が18.0%以上で、鋼の表面が完全に脱炭されておらず、脱炭層の厚さが15μm以下で、熱間成形鋼板の厚さが0.8mm~12.0mmである。
【0013】
本発明に係る熱間成形鋼の成分は、以下の作用がある。
C:Cは、鋼の強度を確保し、鋼の焼入れ性の向上に有利である。炭素含有量が低すぎると、鋼はホットスタンピング後の強度が所望の目標に達しない一方、炭素含有量が高すぎると、熱間成形された鋼は、強度が高すぎて、塑性が低下する。これに加えて、Cの含有量を増加させると、鋼の相転移温度が低下されて、オーステナイト化温度を低下させることができ、ショットピーニング処理が不要な表面を得るのに有利であるとともに、Cの含有量の増加により、鋼が加熱の保圧過程で十分な量の過冷オーステナイトを生成するので、塑性を向上させる。従って、本発明におけるCの最適範囲は0.18%~0.28%である。
【0014】
Si:Siは鋼の中で炭化物の析出がない元素であり、熱間成形の冷却と保圧過程での炭化物の析出を抑制し、残留オーステナイト量と安定性を確保する効果がある。しかし、Siの含有量が高すぎると、熱間成形基板の表面に大量のミルスケールや色差などの欠陥が発生し、熱間成形部品の表面品質に影響を与えるとともに、Si元素が高すぎると、二相域が拡大し、オーステナイト化温度が上昇して、鋼が高い温度で保温されるので、鋼表面が劣化しやすくなる。従って、本発明の鋼におけるSiの含有量は0.20%以下とする。
【0015】
Mn:本発明におけるMnの主な役割は、鋼の焼入れ性を向上させて、相転移温度を低下させ、鋼のより低い温度でのオーステナイト化を実現することである。Mnの含有量が高すぎると、鋼組織の均一性を悪化させ、組織の中に深刻な帯状の組織欠陥が発生しやすくなる。従って、本発明では、Mnの含有量を1.20%~2.0%に選定する。
【0016】
P:本発明におけるPの役割は、Siと類似して、セメンタイトの生成を抑制して残留オーステナイトの安定性を向上することができる。また、Pは、ラスマルテンサイトスラブを微細化して均一に分布させ、靱性を向上させる。本発明におけるPの含有量は0.030%~0.080%である。
【0017】
S:本発明において、Sは有害元素であり、SはMnS夾雑物を形成して、鋼板の微細組織と機械的性質を悪化させる。従って、本発明では、Sを0.004%以下に限定する。
【0018】
Als:Als(酸可溶性アルミニウム)は、製錬工程で脱酸素と窒素固定の役割を果たすが、Alsが多すぎると、アルミニウム系の夾雑物が多くなる。従って、本発明では、Alsの範囲は、0.020%~0.060%である。
【0019】
Cr:Crは、鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、本発明では、Cr元素の主な役割は、鋼の高温での抗酸化性を向上させるとともに、鋼の焼戻し安定性を向上させ、鋼が保圧温度範囲内で焼戻しマルテンサイトが発生しないよう確保することにある。Crの最適の含有量は、0.50%~2.50%である。
【0020】
Mo:Moは、中強度の炭化物形成元素であり、鋼の強度と靱性を向上させる。本発明では、Moはマルテンサイト転移温度を低下させ、残留オーステナイトの安定性を著しく向上させることができ、同時に、Mo元素の添加は鋼の抗酸化性を向上させる。本発明では、Moの含有量は、0.10%~0.30%である。
【0021】
Nb、V:NbとVは、主に鋼の細粒強化、析出強化などにその役割を果たす。本発明では、両者は、ナノスケールの微細な炭化物として分散析出することにより、本来のオーステナイト粒界を効果的にピン止めし、さらに熱間成形鋼板の各相の組織を微細化し、総合性能を向上させることができる。同時に、分散析出した炭化物は、水素トラップとして機能し、鋼の中の拡散可能の水素をピン止めして、耐遅れ破壊性を向上させることができる。また、VとNから形成されたVNの析出はBNの析出を抑制し、B析出による強度の低下を防止することができる。本発明では、Nbの含有量は0.020%~0.060%であり、Vの含有量は0.050%~0.15%である。
【0022】
Ti:Tiは、ホウ素鋼において主に窒素を固定するために使用され、ホウ素の焼入れ効果の発揮を確保する。また、TiはC元素と微細な炭化物になって析出されて、熱間成形後の組織のマルテンサイトの硬度と強度を低下させ、これは鋼の塑性と靱性を向上するのに有利である。本発明では、Tiの含有量は、0.025%~0.045%である。
【0023】
B:鋼にホウ素を添加すると、鋼の焼入れ性を著しく向上させ、焼入れ後の鋼の強度の安定性を確保することができる。Bの含有量が低すぎると、その効果が著しくなく、Bの含有量が高すぎると、鋼の中のNとともにBの化合物を形成しやすく、鋼板の性能を低下させる。従って、本発明では、Bの含有量は、0.0015%~0.0035%である。
【0024】
N:Nの含有量は低ければ低いほどよいが、低すぎると製造が難しくなり、コストが増加するようになる。従って、本発明では、Nの含有量は0.005%以下である。
【0025】
本発明では、C、Mn、Cr、Mo等の合金元素を添加することで、オーステナイト化温度を低下させて、鋼の焼入れ性を向上させ、鋼の酸化を抑制するとともに、鋼の熱間成形の臨界冷却速度を低下させ、厚規格の熱間成形鋼を製造することができる。また、化学成分と熱間成形工程の組み合わせにより、空冷段階で一定量のフェライトを得、かつ冷却後の保圧段階で一定量の安定性がよい残留オーステナイトを得ることで、鋼の塑性を改善させる。成分の中にSiとP元素を添加することにより、炭化物の析出を抑制し、鋼の中の残留オーステナイトの含有量を確保し、鋼の機械的性質を向上させる。さらに、鋼の成分のCr、Mo元素は抗酸化作用を発揮するため、鋼は、無保護雰囲気条件下で加熱と保温が可能であり、熱間成形後にショットピーニング処理を行わず、後続の工程を直接に実施することができる。
【0026】
本発明は、さらに、抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼の熱間成形工程を提供し、以下のようなステップを含む。
ステップ(1):上記成分を含む熱間成形基板をAC3-AC3+15℃の温度の加熱炉に入れて加熱し、180s-300s保温する。
ステップ(2):加熱された熱間成形基板を加熱炉から取り出してAr3温度まで空冷した後、5s~8s経過してから、熱間成形金型に入れて変形させ、18℃/s以上の冷却速度で180℃~250℃まで冷却してから40s~80s保圧し、その後、成形された部品を取り出して室温まで空冷し、熱間成形鋼を得る。
【0027】
本発明に係る鋼は、熱間成形時に保護雰囲気が必要なく、熱間成形後にショットピーニング処理を必要とせず、後続の工程を直接に実施することができるため、工程全体のコストが従来の熱間成形製品より低い。
【0028】
上記熱間成形基板は、製錬、熱間圧延及び冷間圧延を経て得られたものである。製錬の成分及びその質量%は、上記の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼の成分及びその質量%である。
【発明の効果】
【0029】
従来技術と比べると、本発明は、以下のメリットがある。
(1)化学成分と熱間成形工程を組み合わせて、従来の完全マルテンサイト組織に、一定量のフェライトと残留オーステナイトを導入することで、鋼の塑性を向上させ、引張強度が1400MPa以上を確保できる条件下で、延伸率が18%以上になることができる。
(2)Cr元素等を添加することにより、鋼の高温での抗酸化性能を向上させ、鋼の抗酸化速度は、0.1g/(m2・h)以下であり、抗酸化性のレベルはレベル1に達し、鋼の熱間成形時に保護雰囲気が必要なく、熱間成形後にショットピーニング処理を必要とせず、後続の工程を直接に実施することができる。
(3)提供した熱間成形鋼の製造と熱間成形工程は既存設備で実施することができ、設備の改造が不要で、低コストで実現できる。
上記の理由により、本発明は自動車用鋼などの分野で広く普及されることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
コンフリクトがない場合、本発明の実施例及び実施例の特徴を互いに組み合わせることが可能である。説明された実施例は、本発明の実施例の一部のみであり、すべての実施例ではない。以下、少なくとも一つの例示的な実施例に対する説明は実際的には説明的なものであり、本発明及びその応用または使用についていかなる制限をするものではない。本発明の実施例に基づいて、当業者が創造的な労働を行わない前提で得られるすべての他の実施例は、いずれも本発明の請求の範囲に属するべきである。
【0031】
本発明は、抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼を提供し、熱間成形鋼の化学成分は、質量%で、C:0.18%~0.28%、Si:0.20%以下、Mn:1.20%~2.0%、P:0.030%~0.080%、S:0.004%以下、Als:0.02%~0.06%、Nb:0.02%~0.06%、Ti:0.025%~0.045%、V:0.05%~0.15%、Cr:0.5%~2.50%、Mo:0.10%~0.30%、B:0.0015%~0.0035%、N:0.005%以下で、残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0032】
熱間成形鋼の組織は、フェライト、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなる。
【0033】
フェライトは、体積分率で、5%~12%であり、マルテンサイトは、体積分率で78%~89%であり、残留オーステナイトは、体積分率で、6%~10%である。
【0034】
熱間成形鋼は、引張強度が1400MPa~1700MPaで、抗酸化速度が0.1g/(m2・h)以下で、降伏強度が900MPa~1450MPaで、延伸率が18.0%以上で、鋼の表面が完全に脱炭されておらず、脱炭層の厚さが15μm以下で、熱間成形鋼の厚さが0.8mm~12.0mmである。
【0035】
本実施形態に係る、抗酸化性に優れた高強度の熱間成形鋼は、製錬、熱間圧延及び冷間圧延を実施してから、厚さが0.8mm~12.0mmである熱間成形基板を得る。その後、熱間成形工程を行い、該熱間成形工程は具体的に以下のステップを含む。
【0036】
ステップ(1):熱間成形基板をAC3-AC3+15℃の温度の加熱炉に入れて加熱し、180s-300s保温する。その目的は、熱間成形基板を完全にオーステナイト化させ、本来のオーステナイト結晶粒の小さい寸法をゆうするようにするためである。また、低いオーステナイト化温度は、熱間成形基板表面の酸化を軽減させることができる。
【0037】
ステップ(2):加熱された熱間成形基板を加熱炉から取り出してAr3温度まで空冷した後、5s~8s経過してから、熱間成形金型に入れて変形させ、18℃/s以上の冷却速度で180℃~250℃まで冷却してから40s~80s保圧し、その後、成形された部品を取り出して室温まで空冷し、熱間成形鋼を得る。
【0038】
本発明の実施例における成分、熱間成形工程のパラメータ及び熱間成形後の鋼板の組織と性能は、表1~3に示す。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
本実施形態において、化学成分と熱間成形工程を組み合わせて、従来の完全マルテンサイト組織に、一定量のフェライトと残留オーステナイトを導入することで、鋼の塑性を向上させ、引張強度が1400MPa以上を確保できる条件下で、延伸率が18%以上になることができる。Cr、Mo等の元素を添加することにより、鋼の抗酸化性能を向上させ、鋼の抗酸化速度は0.1g/(m2・h)以下で、抗酸化性のレベルはレベル1に達し、鋼は、熱間成形時に保護雰囲気が必要なく、熱間成形後にショットピーニング処理を必要とせず、後続の工程を直接に実施することができる。提供された熱間成形鋼と熱間成形工程の全工程のコストは、従来の熱間成形部品の生産コストより低く、設備の改造を行わず、既存の設備で実現することができる。
【0043】
最後に以下のことを説明すべきである。以上の各実施例は本発明の技術的手段を説明するためのものにすぎなく、それを限定するものではない。上述した各実施例を参照しながら本発明を詳細に説明したが、上述した各実施例に記載の技術的手段を修正するか、またはその技術的特徴の一部または全部に対して同等な取り替えを実施することも可能であり、それらの修正や取り替えによって、対応する技術的手段の本質が本発明の各実施例の技術的手段の範囲から逸脱しないことは当業者に理解されよう。
【0044】
(付記)
(付記1)
抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼であって、前記熱間成形鋼の化学成分は、質量%で、C:0.18%~0.28%、Si:0.20%以下、Mn:1.20%~2.0%、P:0.030%~0.080%、S:0.004%以下、Als:0.02%~0.06%、Nb:0.02%~0.06%、Ti:0.025%~0.045%、V:0.05%~0.15%、Cr:0.5%~2.50%、Mo:0.10%~0.30%、B:0.0015%~0.0035%、N:0.005%以下で、残部は、Fe及び不可避的不純物である、
ことを特徴とする抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【0045】
(付記2)
前記熱間成形鋼の組織は、フェライト、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなる、
ことを特徴とする付記1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【0046】
(付記3)
前記フェライトは、体積分率で、5%~12%であり、前記マルテンサイトは、体積分率で、78%~89%であり、前記残留オーステナイトは、体積分率で、6%~10%である、
ことを特徴とする付記2に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【0047】
(付記4)
前記熱間成形鋼の引張強度は、1400MPa~1700MPaである、
ことを特徴とする付記1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【0048】
(付記5)
前記熱間成形鋼の抗酸化速度は、0.1g/(m2・h)以下である、
ことを特徴とする付記1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【0049】
(付記6)
前記熱間成形鋼の降伏強度は、900MPa~1450MPaである、
ことを特徴とする付記1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【0050】
(付記7)
前記熱間成形鋼の延伸率は、18.0%以上である、
ことを特徴とする付記1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【0051】
(付記8)
前記熱間成形鋼の表面は、完全に脱炭されておらず、脱炭層の厚さが15μm以下である、
ことを特徴とする付記1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【0052】
(付記9)
前記熱間成形鋼の厚さは、0.8mm~12.0mmである、
ことを特徴とする付記1に記載の抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼。
【0053】
(付記10)
付記1~9のいずれか1つに記載の前記化学成分を含む熱間成形基板をAC3-AC3+15℃の加熱炉に入れて加熱し、180s-300s保温するステップと;
加熱された熱間成形基板を加熱炉から取り出してAr3温度まで空冷した後、5s~8s経過してから、熱間成形金型に入れて変形させ、18℃/s以上の冷却速度で180℃~250℃まで冷却してから40s~80s保圧し、その後、成形された部品を取り出して室温まで空冷して、前記熱間成形鋼を得るステップと、を含む、
ことを特徴とする抗酸化性を有する自動車用の高塑性の熱間成形鋼の熱間成形工程。
【国際調査報告】