(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】被覆ワイヤ
(51)【国際特許分類】
C25D 7/06 20060101AFI20240130BHJP
C22C 5/02 20060101ALI20240130BHJP
C22F 1/14 20060101ALI20240130BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20240130BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20240130BHJP
H01L 21/60 20060101ALI20240130BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20240130BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240130BHJP
C22C 5/06 20060101ALN20240130BHJP
【FI】
C25D7/06 U
C22C5/02
C22F1/14
C25D5/10
C25D5/50
H01L21/60 301F
C25D5/12
C22F1/00 613
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 661Z
C22F1/00 681
C22F1/00 685
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692Z
C22C5/06 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541673
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(85)【翻訳文提出日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 SG2021050060
(87)【国際公開番号】W WO2022169407
(87)【国際公開日】2022-08-11
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515298442
【氏名又は名称】ヘレウス マテリアルズ シンガポール ピーティーイー. リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】サランガパニ,ムラリ
(72)【発明者】
【氏名】リム,イー ウォン
(72)【発明者】
【氏名】セー トー,ワイ キー
(72)【発明者】
【氏名】ダヤラン,マリヤッパン
(72)【発明者】
【氏名】タン,チー チャウ
(72)【発明者】
【氏名】スハルフ,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ソンシク
【テーマコード(参考)】
4K024
5F044
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA12
4K024AA24
4K024AB02
4K024BA01
4K024BB09
4K024BC03
4K024CA01
4K024CA02
4K024DB01
4K024EA11
5F044FF02
5F044FF04
5F044FF10
(57)【要約】
【解決手段】 表面を有するワイヤ芯を備えるワイヤであって、当該ワイヤ芯が、その表面上に重ねられた被覆層を有し、当該ワイヤ芯自体が、銀系ワイヤ芯であり、当該被覆層が、1~100nm厚のニッケル又はパラジウムの内層と、1~250nm厚の隣接する金の外層と、から構成される二重層であり、当該ワイヤが、≦40重量ppmの合計炭素含有量を示すことを特徴とする、ワイヤ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有するワイヤ芯を備えるワイヤであって、前記ワイヤ芯が、その表面上に重ねられた被覆層を有し、前記ワイヤ芯自体が、銀系ワイヤ芯であり、前記被覆層が、1~100nm厚のニッケル又はパラジウムの内層と、1~250nm厚の隣接する金の外層と、から構成される二重層であり、前記ワイヤが、≦40重量ppmの合計炭素含有量を示すことを特徴とする、ワイヤ。
【請求項2】
50~5024μm
2の範囲の平均断面積を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項3】
8~80μmの範囲の平均直径を有する円形断面積を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項4】
前記ニッケル又はパラジウムの内層が、1~30nm厚である、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項5】
前記金の外層が、20~200nm厚である、請求項1~4のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項6】
前記外金層が、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素を、前記ワイヤの重量に基づいて10~100重量ppmの範囲の合計割合で含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項7】
前記少なくとも1つの構成要素の前記合計割合が、前記金層の前記金の重量に基づいて300~3500重量ppmの範囲である、請求項6に記載のワイヤ。
【請求項8】
前記ワイヤの合計炭素含有量が、10~30重量ppmの範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項9】
前記ワイヤが、前記ワイヤ表面の1平方メートル当たり≦3mgの炭素の炭素含有量を示す、請求項1~8のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項10】
前記ワイヤ表面の前記炭素含有量が、1平方メートル当たり0.5~2.5mg炭素の範囲である、請求項9に記載のワイヤ。
【請求項11】
少なくとも工程(1)~(5):
(1)銀系前駆部材を用意する工程と、
(2)706~31400μm
2の範囲の中間断面、又は30~200μmの範囲の中間直径が得られるまで、前記前駆部材を伸長して、伸長前駆部材を形成する工程と、
(3)プロセス工程(2)の完了後に得られた前記伸長前駆部材の表面上に、ニッケル又はパラジウムの内層及び隣接する金の外層の二重層被覆を適用する工程と、
(4)所望の最終断面積又は直径が得られ、かつ1~100nmの範囲の所望の最終厚さを有するニッケル又はパラジウムの内層と、1~250nmの範囲の所望の最終厚さを有する隣接する金の外層と、から構成される二重層が得られるまで、プロセス工程(3)の完了後に得られた前記被覆前駆部材を更に伸長する工程と、
(5)最後に、>200~600℃の範囲のオーブン設定温度で、≧0.4~0.8秒の範囲の曝露時間にわたって、プロセス工程(4)の完了後に得られた前記被覆前駆体をストランド焼鈍し、それをクエンチして、前記被覆ワイヤを形成する工程と
を含み、
工程(2)が、400~800℃のオーブン設定温度で50~150分の範囲の曝露時間にわたって、前記前駆部材を中間バッチ焼鈍する1つ以上のサブ工程を含み得、
工程(3)における前記金層の前記適用が、金を含む金電気めっき浴からそれを電気めっきすることによって行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載の被覆ワイヤを製造するプロセス。
【請求項12】
前記ニッケル層又は前記パラジウム層が、電気めっきによって適用される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記クエンチが、水中で、又は好ましくは、水及び少なくとも1種のクエンチ添加剤を含むか又はそれらからなる水性クエンチ溶液中で行われ、後者が、前記水性クエンチ溶液の合計有機炭素含有量が≦10mg/リットルとなる量で存在する、請求項11又は12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記水性クエンチ溶液の前記合計有機炭素含有量が、>0.0001~10mg/リットルの範囲である、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
少なくとも1種のクエンチ添加剤が、アニオン性界面活性剤及び水溶性有機溶媒からなる群から選択される、請求項13又は14に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀系ワイヤ芯と、ワイヤ芯の表面上に重ねられた被覆層とを備える被覆ワイヤに関する。本発明は更に、このような被覆ワイヤを製造する方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
エレクトロニクス及びマイクロエレクトロニクス用途におけるボンディングワイヤの使用は、周知の最新技術である。当初、ボンディングワイヤは金から作られていたが、今日では、銅、銅合金、銀及び銀合金などのより安価な材料が使用されている。このようなワイヤは、金属被覆を有していてもよい。
【0003】
ワイヤの形状に関して、最も一般的なものは、円形断面のボンディングワイヤと、ほぼ矩形断面を有するボンディングリボンである。どちらのタイプのワイヤ形状にも利点があり、特定の用途に役立つ。
【0004】
本発明の目的は、優れたワイヤ引張特性を有し、したがってより高いボンディング速度並びに困難なワイヤループ形状を可能にする、ワイヤボンディング用途での使用に適した被覆銀系ワイヤを提供することである。
【0005】
当該目的の解決への貢献は、カテゴリを形成する請求項の主題によって提供される。カテゴリを形成する請求項の従属下位請求項は、本発明の好ましい実施形態を表す。
【0006】
第1の態様において、本発明は、表面を有するワイヤ芯(以下、略して「芯」とも呼ばれる)を備えるワイヤであって、ワイヤ芯が、その表面上に重ねられた被覆層を有し、ワイヤ芯自体が、銀系ワイヤ芯であり、被覆層が、1~100nm厚のニッケル又はパラジウムの内層と、1~250nm厚の隣接する金の外層と、から構成される二重層であり、ワイヤが、ワイヤが、≦40wt.ppm(重量ppm)の合計炭素(TC)含有量を示すことを特徴とする、ワイヤに関する。
【0007】
本発明のワイヤは、マイクロエレクトロニクスにおけるボンディング用のボンディングワイヤであることが好ましい。好ましくは一体型の物体である。多くの形状が知られており、本発明のワイヤに有用であると思われる。好ましい形状は、断面図において、円形、楕円形及び長方形である。本発明では、「ボンディングワイヤ」という用語は、全ての形状の断面及び全ての通常のワイヤ直径を含むが、円形断面及び細い直径を有するボンディングワイヤが好ましい。平均断面積は、例えば、50~5024μm2、好ましくは、110~2400μm2の範囲であり、したがって、好ましい円形断面の場合、平均直径は、例えば、8~80μm、好ましくは、12~55μmの範囲である。
【0008】
ワイヤ又はワイヤ芯の平均直径、簡単に述べると直径は、「サイジング法」によって得ることができる。この方法によれば、規定された長さに対するワイヤの物理的重量が決定される。この重量に基づいて、ワイヤ又はワイヤ芯の直径が、ワイヤ材料の密度を使用して算出される。直径は、特定のワイヤの5つの切片の5つの測定値の算術平均として算出される。
【0009】
ワイヤ芯は、銀系ワイヤ芯であり、すなわち、ワイヤ芯は、(a)ドープ銀、(b)銀合金、又は(c)ドープ銀合金の形態の銀系材料からなる。
【0010】
本明細書で使用される「ドープ銀」という用語は、(a1)>99.49~99.997wt.%(重量%)の範囲の量の銀、(a2)30~<5000重量ppmの総量の、銀以外の少なくとも1つのドーピング元素、及び(a3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀及び少なくとも1つのドーピング元素以外の成分)からなる銀系材料を意味する。好ましい実施形態では、本明細書で使用される「ドープ銀」という用語は、(a1)>99.49~99.997重量%の範囲の量の銀、(a2)30~<5000重量ppmの総量の、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも1つのドーピング元素、並びに(a3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウム以外の成分)からなるドープ銀を意味する。
【0011】
本明細書で使用される「銀合金」という用語は、(b1)89.99~99.5重量%、好ましくは97.99~99.5重量%の範囲の量の銀、(b2)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の少なくとも1つの合金元素、及び(b3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀及び少なくとも1つの合金元素以外の成分)からなる銀系材料を意味する。好ましい実施形態では、本明細書で使用される「銀合金」という用語は、(b1)89.99~99.5重量%、好ましくは97.99~99.5重量%の範囲の量の銀、(b2)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも1つの合金元素、並びに(b3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウム以外の成分)からなる銀合金を意味する。
【0012】
本明細書で使用される「ドープ銀合金」という用語は、(c1)>89.49~99.497重量%、好ましくは97.49~99.497重量%の範囲の量の銀、(c2)30~<5000重量ppmの総量の少なくとも1つのドーピング元素、(c3)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の少なくとも1つの合金元素、及び(c4)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、少なくとも1つのドーピング元素及び少なくとも1つの合金元素以外の成分)からなり、少なくとも1つのドーピング元素(c2)が少なくとも1つの合金元素(c3)以外である、銀系材料を意味する。好ましい実施形態では、本明細書で使用される「ドープ銀合金」という用語は、(c1)>89.49~99.497重量%、好ましくは97.49~99.497重量%の範囲の量の銀、(c2)30~<5000重量ppmの総量の、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも1つのドーピング元素、(c3)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも1つの合金元素、並びに(c4)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウム以外の成分)からなり、少なくとも1つのドーピング元素(c2)が少なくとも1つの合金元素(c3)以外である、ドープ銀合金を意味する。
【0013】
本開示は、「更なる成分」及び「ドーピング元素」に言及している。任意の更なる成分の個々の量は、30重量ppm未満である。任意のドーピング元素の個々の量は、少なくとも30重量ppmである。重量%及び重量ppmで表される全ての量は、芯又はその前駆部材若しくは伸長前駆部材の総重量に基づく。
【0014】
本発明のワイヤの芯は、0~100重量ppm、例えば10~100重量ppmの範囲の総量の、いわゆる更なる成分を含み得る。本文脈において、「不可避不純物」とも呼ばれることが多い更なる成分は、使用される原料中に存在する不純物又はワイヤ芯製造プロセスに由来する微量の化学元素及び/又は化合物である。更なる成分の総量が0~100重量ppmと低いことにより、ワイヤ特性の良好な再現性が保証される。芯中に存在する更なる成分は、通常、別個に添加されない。各個々の更なる成分は、ワイヤ芯の総重量に基づいて30重量ppm未満の量で含まれる。
【0015】
ワイヤの芯は、バルク材料の均質な領域である。どのようなバルク材料にも、ある程度異なる特性を示し得る表面領域が常にあるため、ワイヤの芯の特性は、バルク材料の均質な領域の特性として理解される。バルク材料領域の表面は、形態、組成(例えば、硫黄、塩素及び/又は酸素含有量)及び他の特徴に関して異なり得る。表面は、ワイヤ芯と、ワイヤ芯上に重ねられた被覆層との間の界面領域である。典型的には、被覆層はワイヤ芯の表面上に完全に重ねられる。ワイヤの芯とその上に重ねられた被覆層との間のワイヤの領域において、芯と被覆層の両方の材料の組み合わせが存在し得る。
【0016】
ワイヤ芯の表面上に重ねられた被覆層は、1~100nm厚、好ましくは1~30nm厚のニッケル又はパラジウムの内層と、1~250nm厚、好ましくは20~200nm厚の隣接する金の外層と、から構成される二重層である。この文脈において、「厚」又は「被覆層の厚さ」という用語は、芯の長手軸に垂直な方向における被覆層のサイズを意味する。
【0017】
一実施形態では、外金層は、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素を、ワイヤ(ワイヤ芯+二重層被覆)の重量に基づいて10~100重量ppm、好ましくは10~40重量ppmの範囲の合計割合で含む。同時に、一実施形態において、当該少なくとも1つの構成要素の合計割合は、金層の金の重量に基づいて、300~3500重量ppm、好ましくは300~2000重量ppm、最も好ましくは600~1000重量ppmの範囲であり得る。この実施形態の変形形態では、好ましくは、アンチモンが金層内に存在する。更に好ましくは、アンチモンが金層内に単独で存在し、すなわち、ビスマス、ヒ素及びテルルが同時に存在することがない。言い換えれば、実施形態の好ましい変形形態では、金層は、金層内にビスマス、ヒ素及びテルルが存在せずに、ワイヤ(ワイヤ芯+二重層被覆)の重量に基づいて10~100重量ppm、好ましくは10~40重量ppmの範囲の割合でアンチモンを含み、同時に、更に好ましい実施形態では、アンチモンの割合は、金層の金の重量に基づいて、300~3500重量ppm、好ましくは300~2000重量ppm、最も好ましくは600~1000重量ppmの範囲であり得る。一実施形態では、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素は、金層内で濃度勾配を示すことができ、当該勾配は、ワイヤ芯に向かう方向に、すなわちワイヤ芯の長手軸に対して垂直方向に増加する。当該少なくとも1つの構成要素が金層中にどの化学形態又はどの化学種として存在するか、すなわち元素形態又は化学化合物の形態で金層中に存在するかは未知である。
【0018】
本発明のワイヤが≦40重量ppmの合計炭素含有量を示すことは必須であり、すなわち、ワイヤ(ワイヤ芯+二重層被覆)の重量に基づいて≦40重量ppmの合計炭素含有量である。言い換えれば、ワイヤの合計炭素含有量は、0~40重量ppmの範囲であり、好ましくは、10~30重量ppmの範囲である。合計炭素含有量は、以下の分析方法Aに記載されるように、ASTM E1019に従って決定することができる。好ましい実施形態において、本発明のワイヤは、ワイヤ表面、すなわちワイヤの金層表面の1平方メートル当たり≦3mg炭素の炭素含有量を示す。言い換えれば、ワイヤ表面の炭素含有量は、ワイヤ表面1平方メートル当たり炭素0~3mgの範囲内であることが好ましく、ワイヤ表面1平方メートル当たり0.5~2.5mgの炭素が好ましく、ワイヤ表面1平方メートル当たり0.5~2mgの炭素が更に好ましい。ワイヤ表面の炭素含有量は、以下の分析方法Bに記載されるような機器ガス分析によって決定され得る。
【0019】
特に断りのない限り、本明細書で引用された全ての規格は、出願日時点の現行版である。
【0020】
合計炭素含有量の決定並びにワイヤ表面の炭素含有量の決定は、定量分析法であり、両方とも、炭素の化学的性質の決定を可能にしない。したがって、炭素がどのような化学形態で、又はどのような化学種として存在するかは未知である。
【0021】
ワイヤの合計炭素含有量が40重量ppmの上限を超える場合、ワイヤが「粘着性」になり、ワイヤ引張特性の弱化をもたらし、ワイヤがワイヤスプールから自由に巻き出されないと思われる。これは、ワイヤボンディングプロセスの望まない許容できない停止、いわゆるボンダ停止を引き起こす。ワイヤ表面の炭素含有量が1平方メートル当たり3mgの炭素の上限を超える場合、状況は更に悪化する。
【0022】
合計炭素は、もしあれば、(i)補助剤、例えば、後述する伸長プロセス工程(2)及び/又は(4)中に使用される従来の伸線潤滑剤、及び/又は特に(ii)プロセス工程(5)の後述するクエンチサブ工程中に使用され得る少なくとも1種のクエンチ添加剤に由来し得ると考えられる。
【0023】
この開示は、「少なくとも1種のクエンチ添加剤」に言及している。少なくとも1種のクエンチ添加剤は炭素を含み、特にアニオン性界面活性剤及び水溶性有機溶媒からなる群から選択されてもよい。アニオン性界面活性剤は、疎水性残基に結合した負に荷電した親水性極性基、例えば、長鎖ヒドロカルビル残基に直接結合した、又は連結基を介して結合したカルボキシレート基、サルフェート基又はスルホネート基を特徴とする。このようなアニオン性界面活性剤の例としては、特に、例えば、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ラウリルサルコシン酸ナトリウム、ミレス硫酸ナトリウム、パレス硫酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及びラウレス硫酸アンモニウムのような、対応するアルカリ(ナトリウム又はカリウム)塩又はNH4塩が挙げられる。水溶性有機溶媒の例としては、特に、メタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノールのようなアルコール、並びに水溶性グリコールエーテルが挙げられる。
【0024】
更に、ワイヤ表面の炭素は、もしあれば、プロセス工程(5)の後述するクエンチサブ工程中に使用され得る当該少なくとも1つのクエンチ添加剤に由来し得ると想定される。
【0025】
従来の伸線潤滑剤のような補助剤の当該使用は、合計炭素含有量及びワイヤ表面の炭素含有量に対していくらかの影響しか及ぼさず、すなわち、従来の伸線潤滑剤の当該使用は許容可能であり、当該合計炭素含有量閾値及び当該ワイヤ表面炭素含有量閾値の超過をもたらさないことが見出された。しかしながら、プロセス工程(5)の後述のクエンチサブ工程中に使用され得る少なくとも1種のクエンチ添加剤は、より強い影響を及ぼすものであり、その量は、プロセス工程(5)の後述のクエンチサブ工程中に使用される任意の水性クエンチ溶液内で特定の閾値を超えるべきではないことが見出された。したがって、炭素を含まないクエンチ媒体として水を用いて、又は好ましくは、水及び少なくとも1種のクエンチ添加剤を含むか、又はそれらからなる水性クエンチ溶液の形態のクエンチ媒体を用いて、プロセス工程(5)の以下に記載するクエンチサブ工程を行うことが重要であり、後者は、水性クエンチ溶液の合計有機炭素(TOC)含有量が≦10mg/リットルとなる量で存在し、>0.0001~10mg/リットルの範囲の水性クエンチ溶液の合計有機炭素含有量が好ましく、>0.001~10mg/リットルの範囲が更に好ましい。
【0026】
水性クエンチ溶液の合計有機炭素含有量は、以下の分析方法Cに記載されるように、ASTM D7573に従って決定され得る。
【0027】
別の態様において、本発明はまた、上に開示されたその実施形態のいずれかにおける本発明の被覆ワイヤの製造プロセスに関する。本プロセスは、少なくとも工程(1)~(5):
(1)銀系前駆部材を用意する工程と、
(2)706~31400μm2の範囲の中間断面、又は30~200μmの範囲の中間直径が得られるまで、前駆部材を伸長して、伸長前駆部材を形成する工程と、
(3)プロセス工程(2)の完了後に得られた伸長前駆部材の表面上に、ニッケル又はパラジウムの内層及び隣接する金の外層の二重層被覆を適用する工程と、
(4)所望の最終断面積又は直径が得られ、かつ1~100nmの範囲の所望の最終厚さを有するニッケル又はパラジウムの内層と、1~250nmの範囲の所望の最終厚さを有する隣接する金の外層と、から構成される二重層が得られるまで、プロセス工程(3)の完了後に得られた被覆前駆部材を更に伸長する工程と、
(5)最後に、>200~600℃の範囲のオーブン設定温度で、≧0.4~0.8秒の範囲の曝露時間にわたって、プロセス工程(4)の完了後に得られた被覆前駆体をストランド焼鈍し、それをクエンチして、被覆ワイヤを形成する工程と
を含み、
工程(2)が、400~800℃のオーブン設定温度で50~150分の範囲の曝露時間にわたって、前駆部材を中間バッチ焼鈍する1つ以上のサブ工程を含み得、
工程(3)における金層の適用が、金を含む金電気めっき浴からそれを電気めっきすることによって行われる。
【0028】
「ストランド焼鈍」という用語が本明細書で使用される。これは、再現性の高いワイヤの高速生産を可能にする連続プロセスである。本発明の文脈において、ストランド焼鈍とは、焼鈍される被覆前駆体が従来の焼鈍オーブンを通して引っ張られるか又は移動され、焼鈍オーブンを出た後にリールに巻き取られる間に、焼鈍が動的に行われることを意味する。ここで、焼鈍オーブンは、典型的には、所与の長さの円筒管の形態である。例えば、10~60メートル/分の範囲で選択され得る所与の焼鈍速度におけるその規定された温度プロファイルを用いて、焼鈍時間/オーブン温度パラメータを規定し、設定することができる。
【0029】
「オーブン設定温度」という用語が本明細書で使用される。これは、焼鈍オーブンの温度制御装置において固定された温度を意味する。焼鈍オーブンは、チャンバ炉型オーブン(バッチ焼鈍の場合)又は管状焼鈍オーブン(ストランド焼鈍の場合)であり得る。
【0030】
本開示は、前駆部材、伸長前駆部材、被覆前駆部材、被覆前駆体、及び被覆ワイヤを区別する。「前駆部材」という用語は、ワイヤ芯の所望の最終断面積又は最終直径に達していないワイヤ前段階に対して使用され、一方、「前駆体」という用語は、所望の最終断面積又は所望の最終直径のワイヤ前段階に対して使用される。プロセス工程(5)の完了後、すなわち、所望の最終断面積又は所望の最終直径の被覆前駆体の最終ストランド焼鈍後、本発明の意味における被覆ワイヤが得られる。
【0031】
工程(1)で用意される前駆部材は、銀系前駆部材である。すなわち、前駆部材は、(a)ドープ銀、(b)銀合金、又は(c)ドープ銀合金からなる。「ドープ銀」、「銀合金」及び「ドープ銀合金」という用語の意味に関しては、前述の開示を参照されたい。
【0032】
銀系前駆部材は、所望の量の必要な成分で銀を合金化、ドーピング、又は合金化及びドーピングすることによって得ることができる。ドープ銀又は銀合金又はドープ銀合金は、金属合金の当業者に知られている従来のプロセスによって、例えば、所望の比例した比で成分を一緒に溶融することによって調製することができる。その際、1つ以上の従来の母合金を使用することが可能である。溶融プロセスは、例えば、誘導炉を利用して行うことができ、真空下又は不活性ガス雰囲気下で行うことが好都合である。使用される材料は、例えば、99.99重量%以上の純度グレードを有し得る。このようにして生成された溶融物を冷却して、銀系前駆部材の均質な片を形成することができる。典型的には、このような前駆部材は、例えば2~25mmの直径及び例えば2~100mの長さを有するロッドの形態である。このようなロッドは、適切な鋳型を使用して銀系溶融物を連続鋳造し、続いて冷却及び固化することによって作製され得る。
【0033】
プロセス工程(2)では、706~31400μm2の範囲の中間断面、又は30~200μmの範囲の中間直径が得られるまで、前駆部材が伸長されて、伸長前駆部材を形成する。前駆部材を伸長する技術は公知であり、本発明の文脈において有用であると考えられる。好ましい技術は、圧延、スエージ加工、ダイス伸線などであり、これらのうち、ダイス伸線が特に好ましい。後者の場合、所望の中間断面又は所望の中間直径に達するまで、いくつかのプロセス工程で前駆部材を伸線する。このようなワイヤダイス伸線プロセスは、当業者に周知である。従来の炭化タングステン及びダイヤモンドの伸線ダイスを使用することができ、従来の伸線潤滑剤のような補助剤を使用して伸線をサポートすることができる。
【0034】
本発明のプロセスの工程(2)は、400~800℃の範囲のオーブン設定温度で50~150分の範囲の曝露時間にわたって、伸長前駆部材を中間バッチ焼鈍する1つ以上のサブ工程を含み得る。当該任意選択の中間バッチ焼鈍は、例えば、ロッドを直径2mmに伸線し、ドラム上でコイル状に巻いて行うことができる。
【0035】
プロセス工程(2)の任意選択の中間バッチ焼鈍は、不活性雰囲気下又は還元性雰囲気下で行われてもよい。多数のタイプの不活性雰囲気及び還元性雰囲気が当技術分野で知られており、焼鈍オーブンをパージするために使用される。既知の不活性雰囲気のうち、窒素又はアルゴンが好ましい。既知の還元性雰囲気のうち、水素が好ましい。別の好ましい還元性雰囲気は、水素と窒素との混合物である。水素と窒素との好ましい混合物は、90~98体積%の窒素と、それに応じた2~10体積%の水素とであり、体積%は合計100体積%である。窒素/水素の好ましい混合物は、それぞれ混合物の総体積に基づいて、93/7、95/5及び97/3体積%/体積%に等しい。
【0036】
プロセス工程(3)では、ニッケル又はパラジウムの内層及び隣接する金の外層の二重層被覆の形態の被覆が、プロセス工程(2)の完了後に得られた伸長前駆部材の表面上に、当該表面上に被覆を重ねるように適用される。
【0037】
当業者は、ワイヤの実施形態について開示された層厚の被覆を最終的に得るために、すなわち、被覆前駆部材を最終的に伸長した後に、伸長前駆部材上のこのような被覆の厚さを算出する方法を知っている。当業者は、実施形態による材料の被覆層を銀系表面上に形成するための多数の技術を知っている。好ましい技術は、電気めっき及び無電解めっきなどのめっき、スパッタリング、イオンめっき、真空蒸着及び物理蒸着などの気相からの材料の堆積、並びに溶融物からの材料の堆積である。ニッケル又はパラジウム内層と外金層とから構成される当該二重層を適用する場合、ニッケル又はパラジウム層を電気めっきによって適用することが好ましい。
【0038】
金層は電気めっきによって適用される。金電気めっきは、金電気めっき浴、すなわちニッケル又はパラジウムカソード表面が金で電気めっきされることを可能にする電気めっき浴を利用して行われる。言い換えれば、金電気めっき浴は、カソードとして配線されたニッケル又はパラジウム表面上に、元素状の金属形態で金を直接適用することを可能にする組成物である。金電気めっき浴は、金と、好ましくはアンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素とを含む。したがって、金電気めっき浴は、好ましくは、元素状の金の堆積を可能にするだけでなく、好ましくは、金層内のアンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される当該少なくとも1つの構成要素の堆積も可能にする組成物である。当該少なくとも1つの構成要素がどのような化学種であるか、すなわち、当該構成要素が金層中に元素状の形態で存在するか、又は化合物として存在するかは未知である。好ましい金電気めっき浴は、好適な化学形態の当該少なくとも1つの構成要素を、1種以上の溶解塩として金を含有する水性組成物に添加することによって作製することができる。少なくとも1つの構成要素を添加することができるこのような水性組成物の例は、Atotech製のAurocor(登録商標)K24HF、並びにUmicore製のAuruna(登録商標)558及びAuruna(登録商標)559である。あるいは、例えばMetalor製のMetGold Pure ATFのように、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素を既に含む金電気めっき浴を使用することができる。金電気めっき浴中の金の濃度は、例えば、8~40g/L(グラム/リットル)、好ましくは10~20g/Lの範囲であり得る。好ましい金電気めっき浴中の、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素の濃度は、例えば、15~50重量ppm、好ましくは15~35重量ppmの範囲であり得る。
【0039】
金層の電気めっき適用は、金電気めっき浴を通してカソードとして配線されたニッケル又はパラジウム被覆伸長前駆部材を誘導することによって行われる。このようにして得られた、金電気めっき浴から出る金被覆前駆部材は、プロセス工程(4)を行う前に、すすぎ、乾燥させてもよい。すすぎ媒体として水を使用することが好都合であり、アルコール及びアルコール/水混合物がすすぎ媒体の更なる例である。金電気めっき浴を通過する、ニッケル又はパラジウム被覆された伸長前駆部材の金電気めっきは、例えば、0.2~20Vの範囲の直流電圧で、例えば、0.001~5A、特に0.001~1A又は0.001~0.2Aの範囲の電流で行うことができる。典型的な接触時間は、例えば、0.1~30秒、好ましくは2~8秒の範囲であり得る。これに関連して使用される電流密度は、例えば0.01~150A/dm2の範囲であり得る。金電気めっき浴は、例えば45~75℃、好ましくは55~65℃の範囲の温度を有し得る。
【0040】
金被覆層の厚さは、本質的に以下のパラメータ、すなわち、金電気めっき浴の化学組成、伸長前駆部材と金電気めっき浴との接触時間、電流密度によって所望のように調整することができる。これに関連して、金層の厚さは、概して、金電気めっき浴中の金の濃度を増加させることによって、カソードとして配線された伸長前駆部材と金電気めっき浴との接触時間を増加させることによって、及び電流密度を増加させることによって、増加させることができる。
【0041】
プロセス工程(4)では、プロセス工程(3)の完了後に得られた被覆前駆部材を、(4)1~100nm、好ましくは1~30nmの範囲の所望の最終厚さを有するニッケル又はパラジウムの内層と、1~250nm、好ましくは20~200nmの範囲の所望の最終厚さを有する隣接する金の外層と、から構成される二重層を有するワイヤの所望の最終断面積又は直径が得られるまで、更に伸長する。被覆前駆部材を伸長する技術は、プロセス工程(2)の開示において上述したものと同じ伸長技術である。
【0042】
プロセス工程(5)は、ストランド焼鈍サブ工程及びクエンチサブ工程を含む。プロセス工程(5)では、プロセス工程(4)の完了後に得られた被覆前駆体を、200~600℃、好ましくは350~500℃の範囲のオーブン設定温度で、0.4~0.8秒の範囲の曝露時間にわたって、最終的にストランド焼鈍し、クエンチして、被覆ワイヤを形成する。最終的にストランド焼鈍された被覆前駆体、すなわち依然として高温の被覆ワイヤは、水中で、又は好ましくは、水及び少なくとも1種のクエンチ添加剤を含むか又はそれらからなる水性クエンチ溶液中でクエンチされ、後者が、水性クエンチ溶液の合計有機炭素含有量が≦10mg/リットルとなる量で存在する。>0.0001~10mg/リットルの範囲の水性クエンチ溶液の合計有機炭素含有量が好ましく、>0.001~10mg/リットルの範囲が更に好ましい。クエンチとは、直ちに又は急速に、すなわち0.2~0.6秒以内に、最終的にストランド焼鈍された被覆前駆体を、プロセス工程(5)で経た温度から室温まで、例えば浸漬又は滴下により冷却することを意味する。
【0043】
プロセス工程(5)のストランド焼鈍及びクエンチの完了後、本発明の被覆ワイヤが仕上がる。その特性を十分に活用するためには、ワイヤボンディング用途のために直ちに、すなわち遅滞なく、例えばプロセス工程(5)の完了後28日以内にそれを使用することが好都合である。あるいは、ワイヤの広いワイヤボンディングプロセスウィンドウ特性を維持し、酸化又は他の化学的攻撃を防ぐために、仕上げたワイヤは、典型的には、プロセス工程(5)の完了直後に、すなわち遅滞なく、例えばプロセス工程(5)の完了後<1~5時間以内に巻き取られ、真空シールされ、次いでボンディングワイヤとして更に使用するために保管される。真空シール状態での保管は12ヶ月を超えてはならない。真空シールを開いた後、ワイヤは、28日以内にワイヤボンディングに使用する必要がある。
【0044】
全てのプロセス工程(1)~(5)並びに巻き取り及び真空シールは、クリーンルーム条件(US FED STD 209Eクリーンルーム規格、1k規格)下で行われることが好ましい。
【0045】
本発明の第3の態様は、その任意の実施形態による前述の開示された方法によって得ることができる被覆ワイヤである。本発明の被覆ワイヤは、ワイヤボンディング用途におけるボンディングワイヤとしての使用によく適していることが見出された。
【実施例】
【0046】
分析方法A.からC.
A.ワイヤの合計炭素含有量の決定
ワイヤの合計炭素(TC)含有量は、LECO製のCS844分析器を使用して、ASTM E 1019に基づいて決定された。各分析のために、0.5gのそれぞれのワイヤ及び1.5gのLeco Cu-Acceleratorを、酸化アルミニウム製のるつぼに入れた。るつぼを酸素流(3l/分)中で45秒間1500℃に加熱して、ワイヤ中の炭素を酸化した。酸化された炭素を赤外線吸収により検出した。
【0047】
B.ワイヤ表面の炭素含有量の決定
LECO製のRC 612 Multiphase Determinatorを使用して、ワイヤ表面の炭素含有量を決定した。0.22dm2の表面積を示すワイヤ片をニッケルるつぼに入れ、酸素流(0.5l/分)中で、600℃で120秒間加熱した。酸化された炭素は赤外線吸収によって検出された。
【0048】
C.水性クエンチ溶液の合計有機炭素(TOC)含有量の決定
TOCは、ASTM D7573によって決定される。
【0049】
ワイヤボール-ウェッジボンディング手順及びボンダ停止の評価
ボール-ウェッジボンディングは複数の工程、すなわち第1のEFO焼成、ワイヤ先端の溶融、フリーエアボール(FAB)の形成、ボンドパッドへの第1のボンド(ボールボンド)、ルーピング、基板又はめっきフィンガ上の第2のボンド(ウェッジボンド又はステッチボンド)、ワイヤのテールカットを有する。
【0050】
ここで、FABを、所定の高さ(先端203.2μm)及び速度(接触速度6.4μm/秒)からAl-0.5重量%Cuボンドパッドに向かって降下させた。ボンドパッドに触れると、一連の規定されたボンディングパラメータ(100gのボンド力、95mAの超音波エネルギー、及び15msのボンド時間)が作用して、FABが変形し、接合ボールが形成された。接合ボールを形成した後、キャピラリを所定の高さ(キンク高さ152.4μm、ループ高さ254μm)まで上昇させて、ループを形成した。ループを形成した後、キャピラリをリードまで降下させて、ステッチを形成した。ステッチを形成した後、キャピラリを上昇させ、ワイヤクランプを閉じてワイヤを切断し、所定の尾部の長さを作製した(尾部の長さの延長は254μm)。各サンプルについて、意味のある数の1250本のワイヤをボンディングした。
【0051】
ボンダ停止の評価:
不良:1250個のワイヤボンドの形成中に≧1個のボンダ停止。スプールからのワイヤの巻き出しが困難であるか、又はテール切断部分の長さが一貫せず、短いテールをもたらし、これは、EFO焼成のために十分なワイヤが残っておらず、ボンダが停止していることを意味する。ボンディングサイクルを再開するためにワイヤを通す必要があるので、これは不利である。
【0052】
良好:1250個のワイヤボンドの形成中にボンダ停止が0。
【0053】
ワイヤ実施例/比較例1~8
各々が少なくとも99.99重量%の純度(「4N」)を示す、98.5重量%の銀(Ag)及び1.5重量%のパラジウム(Pd)をるつぼ内で溶融した。次いで、8mmロッド状のワイヤ芯前駆部材を、溶融物から連続的に鋳造した。次いで、ロッドを数回の伸線工程で伸線して、直径2mmの円形断面を有するワイヤ芯前駆体を形成した。ワイヤ芯前駆体を、500℃のオーブン設定温度で60分の曝露時間にわたって中間バッチ焼鈍した。ロッドを数回の伸線工程で更に伸線して、直径46μmの円形断面のワイヤ芯前駆体を形成した。次いでワイヤ芯前駆体を、ニッケルの内層及び隣接する金の外層の二重層被覆で電気めっきした。この目的のために、カソードとして配線されているワイヤ芯前駆体を、60℃の温熱ニッケル電気めっき浴に通し、続いて61℃の温熱金電気めっき浴に通した。ニッケル電気めっき浴は、90g/L(グラム/リットル)のNi(SO3NH2)2、6g/LのNiCl2及び35g/LのH3BO3を含み、一方、金電気めっき浴(Metalor製のMetGold Pure ATFに基づく)は、13.2g/Lの金含有量及び20重量ppmのアンチモン含有量を有した。
【0054】
その後、被覆ワイヤ前駆体を20μmの最終径に更に伸線し、続いて430℃のオーブン設定温度で0.6秒の曝露時間にわたって最終ストランド焼鈍を行い、続いてそのようにして得られた被覆ワイヤを、表1に示されるように、水(Bestchem製の脱イオン水タイプII)又は水性クエンチ溶液(Bestchem製の脱イオン水タイプII+イソプロパノール及び/又はアニオン性界面活性剤(ステアリン酸ナトリウム))中でクエンチした。各ワイヤの水性クエンチ溶液との接触時間は0.3秒であった。クエンチ後、ワイヤを300mの長さで巻き取った。
【0055】
20μm厚のワイヤは、9nm厚のニッケルの内層と、90nm厚の隣接する金の外層とを有していた。
【0056】
【表1】
実施例1~5:本発明による
実施例6~8:比較例
【手続補正書】
【提出日】2023-07-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有するワイヤ芯を備えるワイヤであって、前記ワイヤ芯が、その表面上に重ねられた被覆層を有し、前記ワイヤ芯自体が、銀系ワイヤ芯であり、前記被覆層が、1~100nm厚のニッケル又はパラジウムの内層と、1~250nm厚の隣接する金の外層と、から構成される二重層であり、前記ワイヤが、≦40重量ppmの合計炭素含有量を示すことを特徴とする、ワイヤ。
【請求項2】
50~5024μm
2の範囲の平均断面積を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項3】
8~80μmの範囲の平均直径を有する円形断面積を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項4】
前記ニッケル又はパラジウムの内層が、1~30nm厚である、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項5】
前記金の外層が、20~200nm厚である、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項6】
前記外金層が、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素を、前記ワイヤの重量に基づいて10~100重量ppmの範囲の合計割合で含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項7】
前記少なくとも1つの構成要素の前記合計割合が、前記金層の前記金の重量に基づいて300~3500重量ppmの範囲である、請求項6に記載のワイヤ。
【請求項8】
前記ワイヤの合計炭素含有量が、10~30重量ppmの範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項9】
前記ワイヤが、前記ワイヤ表面の1平方メートル当たり≦3mgの炭素の炭素含有量を示す、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項10】
前記ワイヤ表面の前記炭素含有量が、1平方メートル当たり0.5~2.5mg炭素の範囲である、請求項9に記載のワイヤ。
【請求項11】
少なくとも工程(1)~(5):
(1)銀系前駆部材を用意する工程と、
(2)706~31400μm
2の範囲の中間断面、又は30~200μmの範囲の中間直径が得られるまで、前記前駆部材を伸長して、伸長前駆部材を形成する工程と、
(3)プロセス工程(2)の完了後に得られた前記伸長前駆部材の表面上に、ニッケル又はパラジウムの内層及び隣接する金の外層の二重層被覆を適用する工程と、
(4)所望の最終断面積又は直径が得られ、かつ1~100nmの範囲の所望の最終厚さを有するニッケル又はパラジウムの内層と、1~250nmの範囲の所望の最終厚さを有する隣接する金の外層と、から構成される二重層が得られるまで、プロセス工程(3)の完了後に得られた前記被覆前駆部材を更に伸長する工程と、
(5)最後に、>200~600℃の範囲のオーブン設定温度で、≧0.4~0.8秒の範囲の曝露時間にわたって、プロセス工程(4)の完了後に得られた前記被覆前駆体をストランド焼鈍し、それをクエンチして、前記被覆ワイヤを形成する工程と
を含み、
工程(2)が、400~800℃のオーブン設定温度で50~150分の範囲の曝露時間にわたって、前記前駆部材を中間バッチ焼鈍する1つ以上のサブ工程を含み得、
工程(3)における前記金層の前記適用が、金を含む金電気めっき浴からそれを電気めっきすることによって行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載の被覆ワイヤを製造するプロセス。
【請求項12】
前記ニッケル層又は前記パラジウム層が、電気めっきによって適用される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記クエンチが、水中で、又は好ましくは、水及び少なくとも1種のクエンチ添加剤を含むか又はそれらからなる水性クエンチ溶液中で行われ、後者が、前記水性クエンチ溶液の合計有機炭素含有量が≦10mg/リットルとなる量で存在する、請求項11又は12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記水性クエンチ溶液の前記合計有機炭素含有量が、>0.0001~10mg/リットルの範囲である、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
少なくとも1種のクエンチ添加剤が、アニオン性界面活性剤及び水溶性有機溶媒からなる群から選択される、請求項13に記載のプロセス。
【国際調査報告】