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特表2024-505404直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するため、及び/又は直接還元シャフトから海綿鉄を排出するための設備及びプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するため、及び/又は直接還元シャフトから海綿鉄を排出するための設備及びプロセス
(51)【国際特許分類】
   C21B 13/02 20060101AFI20240130BHJP
   F27B 1/20 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C21B13/02
F27B1/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023541931
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-09-06
(86)【国際出願番号】 SE2022050061
(87)【国際公開番号】W WO2022159022
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】2150068-1
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522429011
【氏名又は名称】ハイブリット ディベロップメント アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】モフセニ-モーナー,ファルザード
【テーマコード(参考)】
4K012
4K045
【Fターム(参考)】
4K012DC01
4K012DC03
4K012DC10
4K045AA01
4K045BA02
4K045GC07
(57)【要約】
本開示は、直接還元シャフト(211)に鉄鉱石(207)を装入するための設備及びプロセス、並びに直接還元シャフトから海綿鉄(208)を排出するための設備及びプロセスに関する。両プロセスはそれぞれ、真空に引いて容器からガスを抜くステップと、その後、シールガス(223)を容器に再充填するステップとを含み、シールガスは非酸化剤ガスである。更に、本開示は、このような鉄鉱石を装入するための設備、及び/又は海綿鉄を排出するための設備を備える、海綿鉄の製造のためのシステムに関する。更に、本開示は、鉄鉱石の直接還元のためのプロセスであって、プロセスが、水素、バイオガス、バイオ合成ガス、二酸化炭素、及びこれらの組み合わせから選択されるガスから実質的に構成されるシールガスを直接還元シャフトに、鉄鉱石を装入すること及び/又は海綿鉄を排出することと併せて、導入することを含む、プロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接還元シャフト(211)に鉄鉱石(207)を装入するための設備であって、前記設備が、
鉱石装入容器(213)と、
真空源(229)と、
シールガスの供給源(221)と
を備え、
前記真空源と前記シールガスの前記供給源とがそれぞれ、前記鉱石装入容器と制御可能に流体接続して配置され、
前記シールガスが非酸化剤ガスである、設備。
【請求項2】
前記鉱石装入容器が、密閉可能な鉱石入口(213a)と、密閉可能な鉱石出口(213b)と、少なくとも1つのガス導管(213c、231d)とを備え、前記真空源及び/又は前記シールガスの前記供給源が、前記ガス導管と流体接続して配置される、請求項1に記載の設備。
【請求項3】
前記シールガスが、水素、メタン、バイオガス、合成ガス、二酸化炭素、窒素、精製排ガス、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択される、請求項1又は2に記載の設備。
【請求項4】
不活性ガスの供給源であって、前記不活性ガスの前記供給源が前記鉄鉱石装入設備と制御可能に流体接続して配置され、前記不活性ガスが前記シールガスとは異なる、不活性ガスの供給源を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の設備。
【請求項5】
前記不活性ガスが、二酸化炭素、窒素、精製排ガス、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択され、前記シールガスが、水素、メタン、バイオガス、合成ガス、二酸化炭素、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択される、請求項4に記載の設備。
【請求項6】
常温において約100mbar以下、好ましくは約10mbar以下、更により好ましくは約1mbar以下の圧力を得るように構成された、請求項1~5のいずれか一項に記載の設備。
【請求項7】
直接還元シャフトから海綿鉄を排出するための設備であって、前記設備が、
海綿鉄排出容器(231)と、
真空源(229)と、
シールガスの供給源(221)と
を備え、
前記真空源と前記シールガスの前記供給源とがそれぞれ、前記鉄排出容器と制御可能に流体接続して配置され、
前記シールガスが非酸化剤ガスである、設備。
【請求項8】
海綿鉄の製造のためのシステムであって、前記システムが、
請求項1~6のいずれか一項に記載の鉄鉱石を装入するための設備、及び/又は請求項7に記載の海綿鉄を排出するための設備と、
直接還元シャフト(211)と、
前記直接還元シャフトと流体接続して配置されたメイクアップガスの供給源(220)と
を備える、システム。
【請求項9】
メイクアップガスの前記供給源が電解槽であり、前記メイクアップガスが水素である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するためのプロセスであって、前記プロセスが、
a)鉱石装入容器の鉱石出口を密閉状態に設定するステップ(s303)と、
b)前記鉱石装入容器の鉱石入口を開放状態に設定するステップ(s305)と、
c)前記鉱石入口を介して前記鉱石装入容器に鉄鉱石を装入するステップ(s307)と、
d)前記鉱石入口を密閉状態に設定するステップ(s309)と、
e)真空に引いて前記鉱石装入容器からガスを抜くステップ(s312)と、
f)前記鉱石装入容器にシールガスを再充填するステップ(s313)と、
g)前記鉱石出口を開放状態に設定して、前記直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するステップ(s315)と
を含み、
前記シールガスが非酸化剤ガスである、プロセス。
【請求項11】
前記シールガスが、水素、メタン、バイオガス、合成ガス、二酸化炭素、窒素、精製排ガス、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
e0)真空に引いて前記鉱石装入容器からガスを除去するステップ(s310)と、
f0)前記鉱石装入容器に不活性ガスを再充填するステップ(s311)と
を更に含み、
ステップe0)及びf0)が、ステップd)の後であるがステップe)の前に実行される、請求項10又は11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記不活性ガスが、二酸化炭素、窒素、精製排ガス、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記シールガスと前記不活性ガスとが同じである、請求項12又は13に記載のプロセス。
【請求項15】
シールガスと不活性ガスとが異なり、
前記シールガスが、水素、メタン、バイオガス、合成ガス、二酸化炭素、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択される、請求項12又は13に記載のプロセス。
【請求項16】
h)前記鉱石出口を密閉状態に設定するステップと、
i)真空に引いて前記鉱石装入容器からプロセスガスを除去するステップと、
j)空気、不活性ガス、及びこれらの組み合わせから選択されるガスを前記鉱石装入容器に再充填するステップと、
k)前記鉱石入口を開放状態に設定するステップと
を更に含む、請求項10~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
直接還元シャフトから海綿鉄を排出するためのプロセスであって、前記プロセスが、
i)鉄排出容器の鉄出口及び鉄入口を密閉状態に設定するステップ(s403)と、
ii)真空に引いて前記鉄排出容器からガスを抜くステップ(s405)と、
iii)前記鉄排出容器にシールガスを再充填するステップ(s407)と、
iv)前記鉄排出容器の鉄入口を開放状態に設定するステップ(s409)と、
v)前記鉄入口を介して前記鉄排出容器に海綿鉄を装入するステップ(s411)と、
vi)前記鉄入口を密閉状態に設定するステップ(s411)と
を含み、
前記シールガスが非酸化剤ガスである、プロセス。
【請求項18】
鉄鉱石の直接還元のためのプロセスであって、前記プロセスが、
水素、
メタン、
バイオガス、
合成ガス、
水素、メタン、バイオガス、又はバイオ合成ガスと二酸化炭素との組み合わせ、及び
これらの組み合わせ
から選択されるガスから実質的に構成されるシールガスを直接還元シャフトに、前記直接還元シャフトに前記鉄鉱石を装入することと併せて、及び/又は前記直接還元シャフトから海綿鉄を排出することと併せて、導入することを含む、プロセス。
【請求項19】
前記シールガスが、請求項10~16のいずれか一項に記載の鉄鉱石を装入するためのプロセスによって、及び/又は請求項17に記載の海綿鉄を排出するためのプロセスによって導入される、請求項18に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するための設備、及びそのような設備を利用して直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するためのプロセスに関する。本発明は、更に、直接還元シャフトから海綿鉄を排出するための設備、及びそのような設備を利用して直接還元シャフトから海綿鉄を排出するためのプロセスに関する。更に、本発明は、そのような設備を備える、海綿鉄の生産のためのシステム、及び鉄鉱石の直接還元のためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼は、世界で最も重要な工学材料且つ建設材料である。現代の世界において、鋼を含有しない、又はその生産及び/若しくは輸送を鋼に依存しない物体を見つけることは困難である。このように、鋼は我々の現代の生活のほぼすべての側面に複雑に関与している。
【0003】
2018年には、粗鋼の世界の総生産量は18億1000万トンであって、他のどの金属をもはるかに超えており、2050年には28億トンに達することが予想されており、そのうちの50%はバージン鉄源に由来することが予想されている。鋼はまた、一次エネルギー源として電気を使用して、再溶融後に繰り返し使用できる金属の能力により、非常に高い再利用グレードで世界で最も再利用される材料である。
【0004】
このように、鋼は、将来的に更により重要な役割を果たす現代社会の基礎である。
【0005】
鋼は主に次の3つのルートを介して生産される。
i)高炉(BF)内でバージン鉄鉱石を使用し、鉱石中の酸化鉄を炭素で還元して鉄を生産する一貫生産。鉄は、鋼を生産するために、塩基性酸素転炉(BOF)内の酸素吹き込みと、それに続く精製とにより、製鉄所内で更に処理される。このプロセスは、一般に「酸素製鋼」とも呼ばれる。
ii)一次エネルギー源として電気を使用する電気アーク炉(EAF)で溶融された再利用鋼を使用するスクラップベースの生産。このプロセスは、一般に「電気製鋼」とも呼ばれる。
iii)炭素質(carbonaceous)還元ガスによる直接還元(DR)プロセスにおいて還元されて海綿鉄を生産する、バージン鉄鉱石に基づく直接還元生産。海綿鉄は、続いて、鋼を生産するために、EAFにおいてスクラップと共に溶融される。
【0006】
粗鉄という用語は、本明細書では、高炉から得られる(すなわち銑鉄)か、又は直接還元シャフトから得られる(すなわち海綿鉄)かにかかわらず、鋼への更なる処理のために生産されるすべての鉄を意味するために用いられる。
【0007】
上に挙げたプロセスは、数十年にわたって改良され、理論上の最少エネルギー消費量に近づきつつあるが、未解決の根本的な問題が1つ存在する。炭素質還元剤を使用して鉄鉱石を還元すると、副産物としてCO2が生成される。2018年に生産された鋼1トン当たり、平均1.83トンのCO2が生成された。鉄鋼業は、最も多くCO2を排出する産業の1つであり、世界のCO2排出量の約7%を占める。炭素質還元剤が使用される限り、鋼生産プロセスにおいて、過剰なCO2生成は避けられない。
【0008】
HYBRITイニシアチブは、この問題に対処するために設立された。水素による画期的な製鉄技術(HYdrogen BReakthrough Ironmaking Technology)の略であるHYBRITは、SSAB、LKAB、及びVattenfall間のジョイントベンチャーであり、スウェーデンエネルギー庁が一部出資しており、CO2排出量の削減及び鉄鋼業における脱炭素化を目指している。
【0009】
HYBRIT構想の中心にあるのは、バージン鉱石からの海綿鉄の直接還元ベースの生産である。しかしながら、現在の商用直接還元プロセスのように、天然ガスなどの炭素質還元剤ガスを使用する代わりに、HYBRITは、水素直接還元(H-DR)と称する、還元剤として水素ガスを使用することを提案している。水素ガスは、例えば、スウェーデンの電力生産の場合のように、化石フリー及び/又は再生可能な一次エネルギー源を主に使用した水の電気分解によって生産され得る。したがって、鉄鉱石を還元する重要なステップは、入力として化石燃料を必要とすることなく、副産物としてCO2の代わりに水を伴って達成され得る。
【0010】
従来技術の化石ベースの直接還元システムにおいても、提案される水素ベースの直接還元システムにおいても、鉄鉱石が直接還元シャフトに安全に装入され得ることが必要不可欠である。シャフトを通過するプロセスガスは可燃性が高い(通常、化石ベースのプロセスでは水素、一酸化炭素、及び炭化水素を含む)ため、鉱石をシャフトに導入する際には、爆発性の空気/プロセスガスの混合物の形成を避けなければならない。このことは、通常、鉱石を装入する際に、不活性(すなわち、引火性の非酸化剤)シールガスのみがシャフトに導入され、空気はシャフトに導入されないことと、プロセスガスが装入設備を介してシャフトから制御されずに流出しないこととを確保することにより実現される。このことを具体的にどのように実現するかは、直接還元システムの設計に依存する。
【0011】
通常、Midrexプロセスなどの低圧(例えば、2バール以下)で動作するDRシャフトでは、動的ガスシールが装入鉱石装入容器を直接還元シャフトに接続するシールレグ(Seal leg)に配置される。不活性シールガスが、シールレグの1つ以上の点において、DRシャフトの動作圧力を超える圧力で導入される。この高圧シールガスは、空気が装入鉄鉱石と共にDRシャフトに導入されるのを防ぐと同時に、プロセスガスがシールレグを通ってDRシャフトから逃れるのを防ぐ。
【0012】
通常、Hyl ZRプロセスなどの高圧(例えば、2バール超)で動作するDRシャフトでは、装入容器が直接還元シャフトへの入口に配置される。鉱石は、加圧可能な装入容器に装入され、加圧可能な装入容器は、まず不活性シールガスでフラッシングして空気を排除し、次にシールガスを使用して概ねDRシャフトの動作圧力まで加圧される。加圧されると、装入物装入容器とDRシャフトとを分離するバルブが開放されて、装入鉄鉱石をシールガスと共にシャフトに導入することができる。装入容器が鉱石のない空の状態になると、装入容器は、再密閉され、シールガスで再びフラッシングされて、装入容器からプロセスガスを抜く。最後に、装入容器は、大気に開放され、鉱石を再充填され得る。通常、複数の装入容器が並列に配置されて、DRシャフトに鉱石を供給する。
【0013】
また、生産された海綿鉄を安全に排出するために、同様の設備が、通常、直接還元シャフトの排出端にも配置される。
【0014】
直接還元シャフトに鉄鉱石を装入する、及び/又は直接還元シャフトから海綿鉄を排出する改善された手段が依然として求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明の概要
本発明の発明者らは、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入する従来技術の手段におけるいくつかの欠点を突き止めた。
【0016】
鉱石を装入する従来技術の手段は、通常、大量のシールガスの使用を必要とする。シールガスは、通常、例えばシールガスが窒素の場合には空気分離装置を使用して、現場で生産される。大量のシールガスを必要とすることは、直接還元システムの設備及び運転の費用が多いことにつながる。
【0017】
加えて、シールガスは、従来技術の鉱石投入手段を使用する場合、プロセスガスに導入されることが避けられない。上述のように、窒素など、通常使用されるシールガスは、不活性でなければならない(すなわち、プロセスガスと爆発性の混合物を形成してはならない)ため、プロセスガス中に残る。しかしながら、プロセスガスの他の成分は、通常、反応によって消費される(例えば、H、CO、CH)か、循環から除去される(例えば、HO、CO)。このことは、シールガスが徐々にプロセスガス中に蓄積され、何もしなければその比率はますます高まることを意味する。このような状況を避けるため、プロセスガスの一部は、通常、プロセスガス中の不活性成分の濃度を適切に保つために、プロセスガス回路から抽気され、フレアリングされる。このような場合の還元ガスは、少なくとも最初のうちは、化石ベースの還元ガスよりも高価になると予想されるため、このことは、特に提案される水素ベースの直接還元プロセスでは、経済的に有害である。還元ガスが化石ベースの還元ガスである場合、プロセスガスを抽気することもCO2排出量の増加につながるため、環境にとって悪い結果をもたらすことになる。
【0018】
生産された海綿鉄が排出される直接還元シャフトの出口も密閉が必要であり、海綿鉄を排出する従来技術の手段にも、鉱石を装入する従来技術の手段と同じ欠点がある。
【0019】
上述の欠点の少なくともいくつかを克服するか少なくとも軽減する、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入する、及び/又は直接還元シャフトから海綿鉄を排出するための手段を実現すると有利である。特に、シールガスの必要性を減少させ、プロセスガスの抽気の必要性を潜在的になくし、ひいては、直接還元プラントの運転の費用を潜在的に減少させる、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入する、及び/又は直接還元シャフトから海綿鉄を排出するための手段を可能にすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0020】
これらの課題のうちの1つ以上によりよく対処するために、独立請求項に定義された特徴を有する直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するためのプロセスが提供される。
【0021】
本プロセスは、
a)鉱石装入容器の鉱石出口を密閉状態に設定するステップと、
b)鉱石装入容器の鉱石入口を開放状態に設定するステップと、
c)鉱石入口を介して鉱石装入容器に鉄鉱石を装入するステップと、
d)鉱石入口を密閉状態に設定するステップと、
e)真空に引いて鉱石装入容器からガスを抜くステップと、
f)鉱石装入容器にシールガスを再充填するステップと、
g)鉱石出口を開放状態に設定して、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するステップと
を含む。
【0022】
シールガスは非酸化剤ガスである。
【0023】
開示されるプロセスによれば、鉱石を充填された装入容器は、選択された非酸化剤シールガスを再充填する前に、真空に引いて空にされる。真空に引くことにより、装入容器から実質的にすべての空気が除去されるため、酸素の除去を確実にするために装入容器を多量のシールガスでフラッシングすることは必要とされない。これは、従来技術の方法において装入容器をフラッシングするために使用されるシールガスの量(すなわち、通常、1回の装入あたり装入容器の容積の約5倍)とは対照的であり得る。
【0024】
本発明の別の態様によれば、本発明の目的は、添付の独立請求項による、直接還元シャフトから海綿鉄を排出するためのプロセスによって達成される。
【0025】
海綿鉄を排出するためのプロセスは、
i)鉄排出容器の鉄出口及び鉄入口を密閉状態に設定するステップと、
ii)真空に引いて鉄排出容器からガスを抜くステップと、
iii)鉄装入容器にシールガスを再充填するステップと、
iv)鉄排出容器の鉄入口を開放状態に設定するステップと、
v)鉄入口を介して鉄排出容器に海綿鉄を装入するステップと、
vi)鉄入口を密閉状態に設定するステップと
を含み、
シールガスは非酸化剤ガスである。
【0026】
鉄鉱石を装入するためのプロセスと同様に、真空を使用することにより、排出容器から実質的にすべての空気が除去され、このことは、直接還元シャフトに容器を開放する前に、排出容器内の雰囲気が十分に非反応性であることを確実にするために、必要とされるシールガスがより少量であることを意味する。
【0027】
以下の考慮事項は、特に別段の指定のない限り、鉄鉱石を装入するためのプロセスと、海綿鉄を排出するためのプロセスとの両方に独立して適用される。
【0028】
真空に引くことにより、鉱石装入容器(及び、代替的又は追加的に、鉄排出容器)が常温において(20℃)約100mbar以下、好ましくは約10mbar以下、更により好ましくは約1mbar以下の圧力にされ得る。比較的強い真空を使用することにより、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入する(又は直接還元シャフトから海綿鉄を排出する)前に用いられる真空引き/再充填サイクルを少なくすることができる。
【0029】
シールガスは、水素、メタン、バイオガス、合成ガス、二酸化炭素、窒素、精製排ガス、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択され得る。つまり、シールガスは、二酸化炭素、窒素、又は精製排ガスなど、一般的な不活性ガス(引火性の非酸化剤)であり得る。しかしながら、本明細書で説明されるプロセスにより、使用されるシールガスの実質的にすべてを直接還元シャフトに導入することが可能になり、したがって、大量のシールガスが装入容器をパージ(purge)するため、又は動的密閉(dynamic seal)を維持するために使用される従来技術の方法とは対照的に、シールガスは無駄にならない。更に、開示されるプロセスは、シールガスを再充填する前に、装入容器/排出容器を空気のない実質的に空の状態にするため、空気とシールガスとの混合が回避される。これらの特徴が組み合わさることにより、不活性ガス以外のガス、例えばより高価なガス及び/又は潜在的に引火性のガスをシールガスとして使用できる。したがって、水素ガスなどの純粋な還元ガス、メタン、バイオガス、若しくは合成ガスなどの還元ガス及び浸炭ガス、又は二酸化炭素などの間接的浸炭ガスがシールガスとして使用され得る。このようなガスの使用は、不活性ガスの直接還元シャフトへの導入が回避され得るため、プロセスガスにおける不活性成分の蓄積を防ぐためにプロセスガスの抽気が必要ではないことを意味する。これにより、プロセスガスの利用が著しく改善し、運転コストが削減され得る。メタンはバイオメタンであってもよく、及び/又は合成ガスはバイオ合成ガスであってもよい。二酸化炭素は、生物由来の源、すなわち非化石CO2から得られてもよい。
【0030】
場合によっては、直接還元シャフトに鉄鉱石を安全に装入できるようにするには(及び、代替的に又は追加的に、直接還元シャフトから海綿鉄を安全に排出できるようにするには)、単一回の真空引き/再充填サイクルのみで十分である場合もある。このような場合では、真空により空気のみが除去され、充填されたガスは直接還元シャフトに導入されるため、これにより、関連する装入圧力を装入/排出容器にもたらすのに必要なシールガスの量の他に、追加のガスの使用を装入/排出プロセスにおいて避け得る。
【0031】
プロセスは、真空に引いて鉱石装入容器(及び、代替的又は追加的に、鉄排出容器)からガスを除去するステップと、容器に不活性ガスを再充填するステップとを更に含み得る。これらのステップは、鉱石入口を密閉状態に設定するステップd)の後であるが、真空に引いて鉱石装入容器からガスを抜くステップe)の前に(又は、海綿鉄を排出するプロセスでは、ステップiの後であるが、ステップiiの前に)実行され得る。つまり、追加の真空引き/再充填サイクルが実行され得る。このことは、約100mbar超などの比較的低真空が使用される場合であっても、プロセスは、最初の真空引き/再充填サイクルをまず実行して、主に不活性ガスを含むが、いくらかの残留空気のある容器内に混合ガスを供給することにより、段階的に実行され得ることを意味する。その後の真空引き/再充填サイクルは、本発明の目的(すなわち、潜在的に爆発性のガス/空気の混合物の形成を回避する)のために、実質的にシールガスを含む混合ガスを容器内に供給するのに十分であるはずである。
【0032】
当然のことながら、既に述べた単一回及び2回の真空引き/再充填サイクルの代わりに、合計3回又は4回の真空引き/再充填サイクルなどの、必要に応じて複数の真空引き/再充填サイクルが実行されてもよい。しかしながら、プロセスで必要とされる不活性ガスの総量は、真空引き/再充填サイクルを実行するたびに増加するため、可能な限り少ない真空引き/再充填サイクルが使用されることが好ましい。2回以上の真空引き/再充填サイクルが実行される場合、初期のサイクル(複数可)での再充填は不活性ガスを使用して実行され、シールガスを使用した再充填は最後の再充填ステップでのみ実行される。
【0033】
不活性ガスは、二酸化炭素、窒素、精製排ガス、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択され得る。シールガスは、不活性ガスと同じであっても異なってもよい。シールガスが不活性ガスとは異なる場合、シールガスは、水素、メタン、バイオガス、合成ガス、二酸化炭素、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択され得る。不活性ガスではないシールガスを使用することは、プロセスガスに不活性ガスが蓄積するのを防ぐのに役立ち、その結果、上述のようにプロセスガスを抽気する必要性を回避するのに役立つ。メタンはバイオメタンであってもよく、及び/又は合成ガスはバイオ合成ガスであってもよい。二酸化炭素は、生物由来の源、すなわち非化石CO2から得られてもよい。
【0034】
具体的には、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するためのプロセスは、鉱石出口を密閉状態に設定するステップと、真空に引いて鉱石装入容器からプロセスガスを除去するステップと、空気、不活性ガス、及びこれらの組み合わせから選択されるガスを鉱石装入容器に再充填するステップと、鉱石入口を開放状態に設定するステップとを更に含み得る。不活性ガスは、二酸化炭素、窒素、精製排ガス、及びこれらの組み合わせから選択され得る。このようにして、装入容器はガスの有効利用を確保しながら、鉄鉱石の更なる装入の導入のために準備され得る。
【0035】
本発明の別の態様によれば、本発明の目的は、添付の独立請求項による、鉄鉱石の海綿鉄への直接還元のためのプロセスによって達成される。プロセスは、水素、メタン、バイオガス、及び合成ガス、又は水素、メタン、バイオガス、若しくはバイオ合成ガスと二酸化炭素との組み合わせ、又はこれらの組み合わせから選択されるガスから実質的に構成されるシールガスを、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入することと併せて、及び/又は直接還元シャフトから海綿鉄を排出することと併せて、直接還元シャフトに導入することを含む。メタンはバイオメタンであってもよく、及び/又は合成ガスはバイオ合成ガスであってもよい。二酸化炭素は、生物由来の源、すなわち非化石CO2から得られてもよい。「と併せて、導入する」とは、例えば、本明細書及び添付の独立請求項に記載されているように、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入する、及び/又は直接還元シャフトから海綿鉄を排出するためのプロセスを用いて、シールガスが、直接還元シャフトに導入され得ることを意味する。
【0036】
直接還元シャフトへの固体の装入及び/又は排出と併せて、ガスが直接還元シャフトに導入されることは避けられないため、鉄鉱石を還元及び/又は場合により浸炭するようなシールガスを導入することにより、プロセスは、直接還元における目的に役立つガスのみを導入し、プロセスに悪影響を及ぼし得るガスの導入を回避する。プロセスに悪影響を及ぼし得るガスは、例えば、プロセスガスに蓄積し、過度の濃度にまで蓄積されるとプロセスガスの還元能力を低下させ得る、窒素などの不活性ガスである。通常、このような蓄積の影響を改善するためには、プロセスガスの抽気が必要である。したがって、開示されるプロセスは、プロセスガスのより効果的な使用を可能にし、これにより、プロセスの運転経費を減少させ得る。
【0037】
プロセスは、直接還元シャフトにメイクアップガスを鉄鉱石に対して向流で導入することを含み得る。メイクアップガスは、水素及びバイオ合成ガスから選択され、シールガスと同じであっても異なってもよい。このメイクアップガスは、鉄鉱石を海綿鉄に十分に還元するのに十分な還元ガスがプロセスに導入されることを確実にし得る。
【0038】
本発明の更なる態様によれば、本発明の目的は、添付の独立請求項による、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するための設備によって達成される。鉄鉱石を装入するための設備は、
-鉱石装入容器と、
-真空源と、
-シールガスの供給源と
を備える。
【0039】
真空源とシールガスの供給源とがそれぞれ、鉱石装入容器と制御可能に流体接続して配置される。
【0040】
シールガスは非酸化剤ガスである。
【0041】
このような設備は、本明細書及び添付の独立請求項に記載されているように、直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するためのプロセスを実行するのを助ける。鉱石装入容器、又はより具体的には鉱石装入容器の鉱石出口は、通常、直接還元シャフトの入口と連絡して配置され、鉱石が鉱石装入容器から直接還元シャフトに通ることを可能にする。
【0042】
本発明のまた更なる態様によれば、本発明の目的は、添付の独立請求項による、直接還元シャフトから海綿鉄を排出するための設備によって達成される。
【0043】
海綿鉄を排出するための設備は、
-鉄排出容器と、
-真空源と、
-シールガスの供給源と
を備える。
【0044】
真空源とシールガスの供給源とがそれぞれ、鉄排出容器と制御可能に流体接続して配置される。
【0045】
シールガスは非酸化剤ガスである。
【0046】
このような設備は、本明細書及び添付の独立請求項に記載されているように、直接還元シャフトから海綿鉄を排出するためのプロセスを実行するのを容易にする。鉄排出容器、又はより具体的には鉄排出容器の鉄入口は、通常、直接還元シャフトの出口と連絡して配置され、海綿鉄が直接還元シャフトから鉄排出容器に通ることを可能にする。
【0047】
以下の考慮事項は、特に別段の指定のない限り、鉄鉱石を装入するための設備と、海綿鉄を排出するための設備との両方に独立して適用される。
【0048】
鉱石装入容器は、密閉可能な鉱石入口と、密閉可能な鉱石出口と、少なくとも1つのガス導管とを備え得る。鉄排出容器は、密閉可能な鉄入口と、密閉可能な鉄出口と、少なくとも1つのガス導管とを備え得る。真空源及び/又はシールガスの供給源は、ガス導管と流体接続して配置され得る。
【0049】
シールガスの供給源に関して、シールガスは、水素、メタン、バイオガス、合成ガス、二酸化炭素、窒素、精製排ガス、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択され得る。メタンはバイオメタンであってもよく、及び/又は合成ガスはバイオ合成ガスであってもよい。二酸化炭素は、生物由来の源、すなわち非化石CO2から得られてもよい。
【0050】
設備(複数可)は、不活性ガスの供給源を更に備え得る。不活性ガスの供給源は、鉱石装入容器及び/又は鉄排出容器と制御可能に流体接続して配置され得る。不活性ガスはシールガスとは異なってもよい。
【0051】
設備(複数可)が、不活性ガスの供給源を更に備える場合、不活性ガスは、二酸化炭素、窒素、精製排ガス、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択され得、シールガスは、水素、メタン、バイオガス、合成ガス、二酸化炭素、及びこれらの組み合わせからなるリストから選択され得る。メタンはバイオメタンであってもよく、及び/又は合成ガスはバイオ合成ガスであってもよい。二酸化炭素は、生物由来の源、すなわち非化石CO2から得られてもよい。
【0052】
設備(複数可)は、鉱石装入容器(及び、代替的又は追加的に、鉄排出容器)において、常温において(20℃)約100mbar以下、好ましくは約10mbar以下、更により好ましくは約1mbar以下の圧力を得るように構成され得る。このことは、
真空源が、容器を所望の圧力にするのに十分に強いこと、及び/又は
容器が、そのような低圧に耐えられるように構成される(すなわち、容器は真空容器であり得る)こと、及び/又は
密閉可能な入口、密閉可能な出口、及び/又はガス導管(複数可)などの容器における開口部は、真空源が容器内の圧力を維持できる程度まで密閉可能であること
を必要とし得る。
【0053】
本発明のまた別の態様によれば、本発明の目的は、添付の独立請求項による、海綿鉄の生産のためのシステムによって達成される。システムは、本明細書で説明される鉄鉱石を装入するための設備、及び/又は本明細書で説明される海綿鉄を排出するための設備を備える。つまり、システムは、本明細書で説明される鉄鉱石を装入するための設備、又は本明細書で説明される海綿鉄を排出するための設備、又は本明細書で説明される鉄鉱石を装入するための設備及び海綿鉄を排出するための設備を備える。システムは、当技術分野において周知の装入設備及び/又は排出設備を更に備え得る。システムは、直接還元シャフトと、直接還元シャフトと流体接続して配置されたメイクアップガスの供給源とを更に備える。システムが鉄鉱石を装入するための設備を備える場合、鉱石装入容器は直接還元シャフトの入口と連絡して配置され得る。システムが海綿鉄を排出するための設備を備える場合、鉄排出容器は直接還元シャフトの出口と連絡して配置され得る。システムが、鉄鉱石を装入するための設備と海綿鉄を排出するための設備との両方を備える場合、システムは、単一の真空源、単一のシールガスの供給源、及び/又は単一の不活性ガスの供給源のみを必要とし得る。つまり、装入設備及び排出設備に別個のガス供給源及び/又は真空源は必要なく、これらの供給源が統合され得る。
【0054】
メイクアップガスの供給源は、電解槽であってもよい。電解槽は、水の電気分解によって水素を生成してもよいし、水と二酸化炭素との共電解によって合成ガス(一酸化炭素と水素との混合物)を生成してもよい。したがって、メイクアップガスは、水素、又はバイオ合成ガスなどの合成ガスであってもよい。このようにして、還元ガスの供給源として化石燃料の使用を必要とすることなく、海綿鉄を生産することが可能となる。
【0055】
以下の詳細な説明を読めば、本発明の更なる目的、利点、及び新規な特徴が当業者に明らかになるはずである。
【0056】
図面の簡単な説明
本発明並びにその更なる目的及び利点をより完全に理解するために、以下に記載の詳細な説明は、添付の図面と併せて読まれるべきである。図面では、同一の参照符号は様々な図面において同様の項目を示す。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】HYBRIT構想による鉱石ベースの製鋼バリューチェーンを概略的に示す。
図2】本明細書に開示されるプロセスを実行するのに適したシステムの例示的な実施形態を概略的に示す。
図3】本明細書に開示される鉄鉱石を装入するためのプロセスの例示的な実施形態を概略的に示すフローチャートである。
図4】本明細書に開示される海綿鉄を排出するためのプロセスの例示的な実施形態を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
詳細な説明
本発明は、直接還元シャフトに鉄鉱石を充填するときに、真空を用いて装入容器から空気を除去した後、選択されたシールガスを再充填することにより、幅広い潜在的な利点が得られるという発明者らの洞察に基づくものである。装入容器内部の雰囲気が十分に不活性になるまで雰囲気を希釈する(フラッシングされる必要のあるシールガスが「容器容積」の何倍にも相当する)ことに基づく従来技術の方法とは対照的に、本開示のプロセスは、まず空気を除去し、空気をシールガスと置き換えるため、必要とされるシールガスはより少量である。必要とされるシールガスはより少量であり、途中でシールガスと空気とが混合されることがないため、シールガスを不活性な(すなわち、空気又はプロセスガスと引火性又は爆発性の混合物を形成しない)ガスに限定する必要がない。代わりに、所望の場合には、水素、メタン、バイオガス、又は合成ガスなど、潜在的に引火性の非酸化剤ガスが使用されてもよい。このことは、プロセスガスにおける不活性ガスの蓄積が回避され得、プロセスガスの抽気の必要性が低減され得るか完全に回避され得ることを意味する。メタンはバイオメタンであってもよく、及び/又は合成ガスはバイオ合成ガスであってもよい。二酸化炭素は、生物由来の源、すなわち非化石CO2から得られてもよい。
【0059】
直接還元シャフトから海綿鉄を排出する場合にも同じコンセプトが適用され得、同じ又は同様の利点が得られる。
【0060】
プロセスガスという用語は、本明細書では、直接還元プロセスにおける段階に関わらず、直接還元プロセスにおける混合ガスを指すために用いられる。つまり、プロセスガスとは、直接還元シャフトに導入され、直接還元シャフトを通過し、直接還元シャフトから出て行き、直接還元シャフトに再循環されて戻されるガスをいう。プロセスの様々な時点におけるプロセスガスを表すため、又はプロセスガスの一部を形成するためにプロセスガスに添加される成分ガスを表すため、より具体的な用語が使用される。
【0061】
還元ガスは、シャフトの入口よりも低い点において導入されるガスであり、還元ガスは、鉱石を還元し、場合により海綿鉄を浸炭するために、鉱石の移動床とは反対に上方に流れる。
【0062】
トップガスは、鉱石入口に近接するシャフトの上端から取り出される、部分的に使用済みのプロセスガスである。処理後、トップガスは、還元ガスの成分として直接還元シャフトに再循環されて戻され得る。
【0063】
メイクアップガスは、還元能力を維持するためにプロセスガスに添加される新しいガスである。通常、メイクアップガスは、再循環されたトップガスに、直接還元シャフトに再導入される前に添加される。よって、還元ガスは、通常、再循環されたトップガスと共にメイクアップガスを含む。メイクアップガスと再循環されたトップガスとは、直接還元シャフトに導入される前に混合されてもよいし、別々に導入されてシャフト内で混合されてもよい。
【0064】
シールガスは、鉱石装入設備から直接還元シャフトに、直接還元シャフトの入口で入るガスである。直接還元シャフトの出口端もまたシールガスを使用して密閉され得るため、シールガスは、排出設備からDRシャフトに、直接還元シャフトの出口で入り得る。したがって、直接還元シャフトからの海綿鉄の排出の際に導入されるシールガスを使用し、本発明の変形形態が同様に適用可能である。従来技術のプロセスで使用されるシールガスは典型的には不活性であり、不活性シールガスもまた本明細書に開示されるプロセスで使用され得る。しかしながら、従来技術のプロセスとは対照的に、本明細書に開示されるプロセスにおけるシールガスは、代わりに、還元ガス及び/又は浸炭ガスであってもよく、したがって、メイクアップガスを補完するものと見なされ得る。
【0065】
不活性ガスは、空気又はプロセスガスのいずれとも潜在的に引火性又は爆発性の混合物を形成しないガス、すなわち、プロセスを支配する条件下で、燃焼反応において酸化剤又は燃料として作用しないガスである。本明細書では二酸化炭素が不活性ガスと呼ばれているが、逆水性ガスシフト反応によって一酸化炭素に変換され得、その後、還元反応及び/又は浸炭反応に関与し得ることに留意されたい。したがって、引火性/爆発性の混合物を形成しないという目的のために不活性であるが、それでも特定の条件下では消費され、プロセスガスに蓄積しない。
【0066】
鉄鉱石の装入
鉄鉱石装入原料は、通常、主に鉄鉱石ペレットから構成されるが、一部の塊状鉄鉱石も導入され得る。鉄鉱石ペレットは、通常、大部分がヘマタイト(hematite)を含み、脈石、フラックス(flux)、及びバインダなど、更なる添加物又は不純物を伴う。しかしながら、ペレットは、なんらかの他の金属及びマグネタイト(magnetite)などの他の鉱石を含み得る。直接還元プロセス用に特化された鉄鉱石ペレットが市販されており、このようなペレットが本プロセスにおいて使用されてもよい。
【0067】
鉱石装入容器は、通常、密閉可能な鉱石入口と、密閉可能な鉱石出口と、ガスを抜く及び/又は導入するのに適した少なくとも1つのガス導管とを備える容器である。当然のことながら、容器は、複数のガス導管を備えてもよく、例えば、ガスを抜いたり導入したりするための別個の導管、又は様々なガスの導入のための複数の導管を備えてもよい。鉱石装入容器は、自身が受ける圧力、すなわち、真空引きステップで生じる常圧よりも低い圧力(約100mbar以下、好ましくは約10mbar以下)と、シールガスを再充填することに起因して生じる常圧を超える圧力(約2バール~約10バールなど、2バール超であることが多い)との両方に耐えることができるように適切に構築される。複数の鉱石装入容器が単一の直接還元シャフトに鉱石を供給するために並列に配置されてもよい。例えば、2つ、3つ、又は4つの鉱石装入容器が、単一の直接還元シャフトに鉱石を供給するように配置されてもよい。
【0068】
装入容器に鉱石を装入する前に、導入される鉱石を収容できるようにするために、鉱石出口が密閉状態に設定される。「ある状態に設定する」とは、構成要素がまだそのような状態にない場合は当該状態にする、又は既にそのような状態にある場合はその状態を維持することを意味する。したがって、「ある状態に設定する」という用語は、必ずしも状態の変化を伴わない。鉱石は入口を介して容器に装入され、そして入口は密閉される。次いで、ガス導管と流体接続して配置された真空源が、装入容器から大気を抜くために使用される。真空源は、例えば真空ポンプであり得る。このようなポンプは当技術分野で既知である。装入容器及びポンプは、装入容器が常温(20℃)において約100mbar以下、好ましくは約10mbar以下、更により好ましくは約1mbar以下の圧力にされ得るように構成されることが好ましい。よって、実質的にすべての空気が装入容器から抜かれる。真空引き段階で達成可能な真空度が十分に低い場合、装入容器は、その後、装入圧力まで、すなわち、直接還元シャフトに鉱石を導入するために望ましい装入容器の圧力までシールガスが再充填され得る。装入圧力は、通常、直接還元シャフトの動作圧力を超える圧力であってもよく、例えば、約2バール~約10バールの圧力であってもよい。真空引き段階で達成可能な真空度が十分に低くない場合、望ましくない量の空気が装入容器に残り得る。このような場合、装入容器がまず不活性ガスを再充填された後に、更なる真空引きステップが行われてもよい。このようにして、残る空気の量を安全なレベルまで下げることができる。真空引きステップ及び不活性ガスを再充填するステップは、安全を確保するため、必要に応じて何回でも行われ得る。最後の再充填するステップでは、装入容器は、装入時に直接還元シャフトに導入されるシールガスを充填される。鉱石及びシールガスを充填した後、鉱石とシールガスとの混合物を直接還元シャフトに装入できるように、装入容器の鉱石出口が開放状態に設定される。
【0069】
鉱石が直接還元シャフトに装入されると、鉱石装入容器は、容器に含まれるあらゆるプロセスガスを安全に除去し、新たな装入鉱石のために容器を準備するために、リセットされるべきである。このことは、鉱石出口を密封し、プロセスガスを除去するために装入容器を真空引きし、その後、空気、窒素、精製排ガス、又は二酸化炭素などの適切なガスを装入容器に再充填することによってなされ得る。このステップで抜かれたプロセスガスは、直接還元シャフトに再循環され得る。容器は、大気圧程度の圧力まで再充填される。或いは、従来技術の方法と同様に、容器は、開放前にプロセスガスを除去するために、不活性ガスで単にフラッシングされ得る。容器の潜在的に引火性の内容物が空にされ、容器が再び大気圧又はその付近になると、容器の入口が開放されて新たな装入鉄を受け入れることができる。
【0070】
直接還元
直接還元シャフトは、当分野で一般に知られている任意の種類のものであってよい。シャフトとは、固気向流移動床反応器(solid-gas countercurrent moving bed reactor)を意味し、これにより、鉄鉱石装入原料が反応器の上部の入口に装入されて、反応器の下部に配置された出口に向かって重力で下降する。還元ガスは、シャフトの鉱石入口よりも下方の点Iで導入され、還元ガスは、鉱石を還元し、場合により浸炭させるために、上方に流れる。
【0071】
還元は、通常、約900℃~約1100℃の温度で行われる。必要な温度は、通常、例えば、電気予熱器などの予熱器を使用して、反応器に導入されるプロセスガスの予熱によって維持される。ガスの更なる加熱は、予熱器を出た後、且つ反応器への導入前に、酸素又は空気によるガスの発熱部分酸化によって得られてもよい。還元は、DRシャフト内で、約1バール~約10バール、好ましくは約3バール~約8バールの圧力で行われ得る。
【0072】
従来の直接還元プロセスでは、プロセスガスの補充に使用されるメイクアップガスは化石ベースであり、通常、合成ガスと天然ガスとを様々な割合で含む。本開示は、このような化石ベースのメイクアップガスを利用するプロセスに適用可能である。しかしながら、海綿鉄を得るための化石フリーのプロセスを提供するために、メイクアップガスは化石燃料に由来しないことが好ましい。
【0073】
メイクアップガスは主に水素から構成され得る。例えば、メイクアップガスは、少なくとも80体積%、好ましくは90体積%超、更により好ましくは95体積%超の水素ガス(体積%は1気圧、0℃の常態で測定)を含んでも、このような水素ガスから実質的に構成されても、構成されてもよい。開示されるプロセスは、メイクアップガスとして水素を使用し、プロセスガスに炭素質ガスを導入しないことにより、実質的に炭素フリーの海綿鉄の製造を可能にする。しかしながら、場合によっては、浸炭海綿鉄(carburized sponge iron)を入手することが望ましい場合もある。したがって、適切なレベルの海綿鉄の浸炭を実現するために、いくらかの量の浸炭ガス及び/又は二酸化炭素がメイクアップガスとして添加されてもよい。浸炭ガスは、海綿鉄を直接浸炭できる炭素含有ガスであり、例えば、炭化水素又は一酸化炭素など、完全に酸化されているわけではない炭素化合物すべてである。このようなガスとしては、限定されるものではないが、メタン、バイオガス、合成ガス、及びこれらの混合物が挙げられる。しかしながら、本プロセスにおける浸炭効果は、代替的又は追加的に、二酸化炭素を導入することにより実現されてもよい。直接還元シャフトの炭素リーン状態(carbon-lean condition)が支配的である中、二酸化炭素は一酸化炭素に転換され、その後海綿鉄を浸炭することができる。メタンはバイオメタンであってもよく、及び/又は合成ガスはバイオ合成ガスであってもよい。二酸化炭素は、生物由来の源、すなわち非化石CO2から得られてもよい。
【0074】
水素の他に、メイクアップガスの残りは、したがって、二酸化炭素及び/又は浸炭ガスを含んでもよいし、二酸化炭素及び/又は浸炭ガスから実質的に構成されてもよいし、構成されてもよい。二酸化炭素及び/又は浸炭ガスがメイクアップガスの一部を構成する場合、これらは水素メイクアップガスと共に直接還元シャフトに導入され得る。或いは、メイクアップガスの一部を構成する二酸化炭素及び/又は浸炭ガスの一部又は全部を、メイクアップガスの大部分とは別に直接還元シャフトに添加することもできる。例えば、浸炭ガスを直接還元シャフトの浸炭ゾーン又は冷却ゾーンに添加することができる。
【0075】
プロセスガスは、少なくとも部分的に再循環され得、これにより、DRシャフトからのトップ(使用済み)ガスは、DRシャフトに再導入される前に、水及び/又は塵埃などの副生成物を除去するために洗浄され処理され得る。この再循環されたトップガスは、反応器に再導入される前に新しいメイクアップガスと混合されてもよいし、新しいメイクアップガスの供給とは別に導入されてもよい。
【0076】
鉄鉱石装入原料と共に導入されたシールガスはまた、プロセスガスの一部を形成する。上述のように、シールガスは窒素又は精製排ガスなどの不活性ガスであってもよい。このような場合、プロセスガスにおけるバランスを維持し、不活性成分の蓄積を防ぐために、プロセスサイクルからプロセスガスの一部を継続的に除去する必要があり得る。このことは、プロセスガスの抽気として本来知られる。プロセスサイクルから抽気されたプロセスガスは、例えば、予熱と併せてプロセス加熱を行うために燃焼され得る。
【0077】
或いは、シールガスは、上記の潜在的なメイクアップガスとして説明されたガスなど、プロセスにおける目的を果たす非酸化剤ガスを含んでもよいし、このようなガスから実質的に構成されてもよいし、構成されてもよい。これらには、水素、メタン、バイオガス、合成ガス、二酸化炭素、及びこれらの組み合わせが含まれる。メタンはバイオメタンであってもよく、及び/又は合成ガスはバイオ合成ガスであってもよく、及び/又は二酸化炭素はバイオCO2であってもよい。このような場合、不活性ガスがプロセスガスに添加されることはなく、したがって、プロセスガスの抽気はなくなり得る。不活性ガスをシールガスとして製造する必要性も減少し、空気分離装置などの資本設備は小型化されるか完全になくされ得る。
【0078】
海綿鉄は鉄鉱石の還元生成物として得られ、直接還元シャフトの下端にある出口から排出される。シャフトは、海綿鉄が出口から排出される前に冷却され得るように、下部に配置された冷却排出コーンを有し得る。
【0079】
海綿鉄の排出
直接還元シャフトから海綿鉄を排出することは、シャフトに鉄鉱石を装入するのと同様の要件を有する。排出の際には、可燃性/爆発性ガスの混合ガスが形成されないことが不可欠であり、不活性ガスがプロセスガスに導入されることは可能な限り避けることが好ましい。したがって、本発明の原理はまた、海綿鉄の排出装置及びプロセスにも適用され得る。
【0080】
鉄排出容器は、通常、密閉可能な鉄入口と、密閉可能な鉄出口と、ガスを抜く及び/又は導入するのに適した少なくとも1つのガス導管とを備える容器である。当然のことながら、容器は、複数のガス導管を備えてもよく、例えば、ガスを抜いたり導入したりするための別個の導管、又は様々なガスの導入のための複数の導管を備えてもよい。鉄排出容器は、自身が受ける圧力、すなわち、真空引きステップで生じる大気圧よりも低い圧力(約100mbar以下、好ましくは約10mbar以下)と、シールガスを再充填することに起因して生じる大気圧を超える圧力(約2バール~約10バールなど、2バール超であることが多い)との両方に耐えることができるように適切に構築される。複数の鉄排出容器が単一の直接還元シャフトから鉄を受け取るために並列に配置されてもよい。例えば、2つ、3つ、又は4つの鉱石排出容器が、単一の直接還元シャフトから鉄を排出するように配置されてもよい。
【0081】
排出容器に鉄を排出する前に、鉄入口及び出口が密閉状態に設定される。ガス導管と流体接続して配置された真空源が、排出容器から大気を抜くために使用される。真空源は、例えば真空ポンプであり得る。このようなポンプは当技術分野で既知である。排出容器及びポンプは、排出容器が常温(20℃)において約100mbar以下、好ましくは約10mbar以下、更により好ましくは約1mbar以下の圧力にされ得るように構成されることが好ましい。よって、実質的にすべての空気が排出容器から抜かれる。真空引き段階で達成可能な真空度が十分に低い場合、排出容器は、その後、排出圧力まで、すなわち、直接還元シャフトから海綿鉄を受け入れるために望ましい排出容器の圧力までシールガスを再充填され得る。排出圧力は、通常、直接還元シャフトの動作圧力以上であってもよく、例えば、約2バール~約10バールの圧力であってもよい。真空引き段階で達成可能な真空度が十分に低くない場合、望ましくない量の空気が排出容器に残り得る。このような場合、排出容器がまず不活性ガスを再充填された後に、更なる真空引きステップが行われてもよい。このようにして、残る空気の量を安全なレベルまで下げることができる。真空引きステップ及び不活性ガスを再充填するステップは、安全を確保するため、必要に応じて何回でも行われ得る。最後の再充填するステップでは、排出容器は、海綿鉄の排出時に直接還元シャフトに導入されるシールガスを充填される。適切な雰囲気が排出容器の内部において確立されると、鉄入口が開放されて海綿鉄を直接還元シャフトから容器内に受け入れることができる。海綿鉄を装荷されると、排出容器の入口は閉鎖され得る。次いで、閉鎖された容器は、高温の海綿鉄とプロセスガスとの混合物を含む。好ましくは、容器のガス状内容物は、再び真空に引いて除去され、排出容器の出口を開放して収容された海綿鉄を放出する前に、適切な圧力で不活性ガスと置き換えられるべきである。このステップで抜かれたプロセスガスは、直接還元シャフトに再循環され得る。
【0082】
海綿鉄
粗鉄という用語は、本明細書では、高炉から得られる(すなわち、銑鉄)か、開示されるプロセスにおけるように、直接還元シャフトから得られる(すなわち、海綿鉄)かに関わらず、鋼への更なる処理のために製造されたあらゆる鉄を示すために用いられる。DRシャフトの出口で得られる海綿鉄は、直接還元ペレットの構造的完全性、及びDRシャフトにおいて支配的な条件に起因して、通常、主にペレットの形態である。このような海綿鉄は、通常、直接還元鉄(DRI)と呼ばれる。プロセスパラメータによっては、これは高温(HDRI)又は低温(CDRI)として提供され得る。低温DRIは、タイプ(B)DRIとしても知られている。DRIは、再酸化しやすく、場合によっては自然発火性である。しかしながら、DRIを不動態化するいくつかの既知の手段が存在する。製品の海外輸送を促進するために一般に使用されるこのような不動態化手段の1つとして、高温DRIをブリケット(briquette)に圧縮することが挙げられる。このようなブリケットは、一般に、高温ブリケット化鉄(HBI)と称され、タイプ(A)DRIとしても知られている。
【0083】
本明細書のプロセスによって得られた海綿鉄生成物は、本質的に、完全金属化海綿鉄、すなわち、約94%超又は約96%超など、約90%超の還元度(DoR)を有する海綿鉄であり得る。還元度は、酸化鉄から除去された酸素の量として定義され、酸化鉄中に存在する酸素の初期量のパーセンテージとして表現される。反応速度論(reaction kinetics)に起因して、約96%超のDoRを有する海綿鉄を得ることは、多くの場合商業的に好ましくないが、所望の場合にはこのような海綿鉄が製造され得る。
【0084】
上述のように、本明細書で説明されるプロセスは、所望に応じて、炭素フリー又は浸炭海綿鉄を製造するのに適する。浸炭海綿鉄とは、炭素含有海綿鉄を意味する。海綿鉄生成物中に存在する炭素は、通常、セメンタイト(Fe3C)及び/又はグラファイトの形態であり得る。グラファイトは、粉塵となりやすく、EAFの溶融物に達する前に海綿鉄から失われやすい。このため、炭素が海綿鉄にセメンタイトとして存在する方が好ましい場合がある。
【0085】
浸炭海綿鉄は、約1重量%~2重量%の炭素などの0.5重量%~3重量%の炭素など、0.1重量%~5重量%の炭素を含み得る。これは、後続のEAF処理ステップで使用されるスクラップに対する海綿鉄の比率に依存し得るが、海綿鉄が0.5重量%~5重量%の炭素含有量、好ましくは約3重量%などの1重量%~4重量%の炭素含有量を有することが、更なる処理にとって一般に望ましい。所望の場合、本プロセスの浸炭海綿鉄製品は、その後、更なる処理の前に、他の手段によって更に浸炭され得る。
【0086】
ガス
水素ガスが、少なくとも部分的に水の電気分解によって取得され得ることが好ましい。水の電気分解が再生可能エネルギーを用いて実行されると、再生可能な供給源から還元ガスを提供できる。電解水素は、導管によって電解槽からDRシャフトに直接搬送されてもよいし、水素が製造時に貯蔵されて、必要に応じてDRシャフトに搬送されてもよい。
【0087】
二酸化炭素がシールガス、メイクアップガス、又は不活性ガスとして本明細書で説明されるプロセスで使用される場合、二酸化炭素の供給源は実質的に純粋な二酸化炭素、例えば95体積%以上の二酸化炭素、好ましくは98体積%以上の二酸化炭素であることが好ましい。二酸化炭素の供給源は、好ましくは、高濃度供給源、好ましくは高濃度生物起源供給源であり得る。例えば、濃縮「グリーン」CO2は、嫌気性消化によるバイオガス生産の副産物として、又はバイオエタノール生産の副産物として取得され得る。プロセスで使用される二酸化炭素が再生可能な供給源に由来するものである場合、プロセスはCO2排出量に関して正味マイナスとなり得る。しかしながら、本来直接排出されるはずの化石供給源由来の二酸化炭素の供給源を使用することは、プロセスがCO2を過剰に排出することにはなり得ないことを意味する。二酸化炭素を供給する代替手段は、バイオマスの酸素燃焼(oxy-fuel combustion)を利用して、還元ガスを、直接還元シャフトに導入する前に予熱することである。酸素燃焼の原理は単純であり、酸化剤として実質的に純粋な酸素を使用してバイオマスが燃焼される。その結果、排出流は、実質的に二酸化炭素と蒸気とから構成される。蒸気は単純な凝縮によって除去でき、実質的に純粋な二酸化炭素の供給源を提供し得る。従来、酸素燃焼を利用するには、実質的に純粋な酸素を提供することが経済的な障害となっていた。しかしながら、この場合では、水の電気分解から低い追加コストで酸素を容易に供給し得、還元ガスの酸素燃料による予熱を経済的に実現可能にし得る。
【0088】
浸炭ガスは、シールガス及び/又はメイクアップガスとして使用され得る。浸炭ガスは、浸炭を提供する当技術分野で既知又は予想される任意のガスであってもよい。この点に関してガスとは、浸炭反応器内で支配的な高温で気体状の物質をいうが、室温では液体又は固体であってもよい。好適な浸炭ガスには、メタン、天然ガス、LPG若しくは石油などの炭化水素、又は合成ガス、低級(C1~C6)アルコール類、エステル類、及びエーテル類などの他の炭素質物質が含まれる。浸炭ガスは、化石を起源とするものであってもよいが、正味のCO2排出を低減するために、部分的又は全体的に再生可能な供給源から得られることが好ましい。再生可能とは、人間の時間規模で自然に補充される資源を意味する。浸炭ガス中に存在する炭素の利用率が高いことで、化石同等物と比較して相対的に希少でコストが高くても、再生可能な浸炭ガスの使用が可能になる。好適な再生可能浸炭ガスには、バイオメタン、バイオガス、バイオマスの熱分解又は部分燃焼から得られたガス(例えば、バイオ合成ガス)、メタノールなどの低級アルコール類若しくはエーテル類、再生可能な原料に由来するDME若しくはエタノール、又はこれらの組み合わせが含まれる。硫黄は、グラファイトの核形成を防止し、海綿鉄生成物を不動態化することが知られているため、硫黄含有浸炭ガスが使用され得る。
【0089】
浸炭ガスの組成は、最終的に得られる浸炭海綿鉄に合わせて選択され得る。炭化水素との浸炭反応は比較的吸熱的で、比較的低温の最終生成物をもたらすが、CO含有浸炭ガスとの反応はより発熱的で、より高温の最終生成物をもたらす。この効果は、得られる最終製品の温度を調整するために利用され得る。例えば、ブリケッティング(HBI)のために高温の製品が望まれる場合には、部分的に酸化された炭素(例えば、CO、ケトン、アルデヒドの形態)を含むガスが使用され得る一方、低温の海綿鉄(CDRI)が望まれる場合には、バイオメタンが使用され得る。
【0090】
シールガスとして又はメイクアップガスにおいて、プロセスガスに添加するのに適した二酸化炭素及び/又は補助浸炭ガスの総量を考えるとき、考えるべき因子は、所望の浸炭の度合い、水性ガスシフト平衡への添加炭素の影響、及び還元ガスの還元能力への添加炭素が有する影響である。例えば、炭素を過剰に添加すると、プロセスガス中に著しく二酸化炭素が蓄積し、還元ガスの還元能力を低下させる可能性があり、プロセスガスの抽気が必要になる。
【0091】
窒素又は精製排ガスなどの不活性ガスがシールガスとして使用され得る。窒素は、例えば空気分離装置(ASU)を使用した空気の低温蒸留によって取得され得る。精製排ガスとは、十分に不活性なシールガスとしての使用に確実に適するように処理された排ガスを意味する。このような処理としては、過剰酸素を除去するための後燃焼、及び/又は排ガスの乾燥が挙げられる。
【0092】
実施形態
ここで、特定の例示的な実施形態及び図面を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、本明細書で論じる及び/又は図面に示す例示的な実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲の範囲内で変形されてもよい。更に、一部の特徴は特定の特徴をより明確に示す目的で誇張されているため、図面が原寸に比例しているとは見なされないものとする。
【0093】
図1は、HYBRIT構想による鉱石ベースの製鋼バリューチェーンの従来技術の実施形態を概略的に示している。鉱石ベースの製鋼バリューチェーンは、鉄鉱石鉱山101にて開始する。採掘後、鉄鉱石103は、ペレット化工場105において選鉱されて処理され、鉄鉱石ペレット107が製造される。これらのペレットは、プロセスにおいて使用される塊状鉱石があればそれと共に、主要還元剤として水素ガス115を使用する直接還元シャフト111における還元により、海綿鉄109に変換され、主な副産物として水117を生成する。水素ガス115は、化石フリー又は再生可能な供給源122から主に得られることが好ましい電気121を使用した電解槽119内での水117の電解によって製造される。水素ガス115は、直接還元シャフト111に導入する前に水素貯蔵庫120内に貯蔵され得る。海綿鉄109は、電気アーク炉123を使用して、場合により、ある割合の鉄スクラップ125又は他の鉄源と共に溶融されて、溶融物127を提供する。溶融物127は、更に下流の二次冶金プロセス129にかけられ、鋼131が製造される。鉱石から鋼に至るバリューチェーン全体が化石フリーであり得、低炭素排出又はゼロ炭素排出しか生じ得ないことが意図されている。
【0094】
図2は、本明細書に開示されるプロセスを実施するのに適したシステムの例示的な実施形態を概略的に示している。
【0095】
直接還元シャフト211が、鉄鉱石207の入口211aと、海綿鉄208を排出するための出口211bと、還元ガス211cの入口と、トップガス211dの出口とを設けられる。装入容器213が、直接還元シャフト211への入口211aと連絡して配置される。排出容器231が、直接還元シャフト211の出口211bと連絡して配置される。
【0096】
装入容器213は、鉄鉱石207の入口213aと、鉄鉱石207の出口213bと、ガス入口213cと、ガス出口213dとを備える。装入容器213の入口213aは、鉱石ビン227と接続して配置される。装入容器213のガス入口213cは、シールガス223の供給源221と接続して配置され、ガス出口213dは、真空ポンプ229と接続して配置される。
【0097】
排出容器231は、海綿鉄208の入口231aと、海綿鉄208の出口231bと、第1のガス入口231cと、第2のガス入口231eと、ガス出口231dとを備える。排出容器231の入口231aは、直接還元シャフト211の出口211bと接続して配置される。装入容器231の第1のガス入口231cは、シールガス223の供給源221と接続して配置される。装入容器231の第2のガス入口231eは、シールガス235の供給源233と接続して配置される。ガス出口231dは、真空ポンプ229と接続して配置される。
【0098】
最初、装入容器213の鉱石入口213aは開放され、鉱石出口213b、ガス入口213c、及びガス出口213dは閉鎖される。鉱石ビン227からの鉄鉱石207が装入容器213に導入される。鉱石が装荷されると、鉱石入口213aは密閉され、ガス出口213dは開放され、装入容器213は真空ポンプ229を使用して空気を抜かれ、装入容器213内の圧力は約100mbar以下に低下される。目標圧力に達すると、ガス出口213dは閉鎖され、ガス入口213cは開放され、装入容器213はシールガス223により直接還元シャフト211の動作圧力に近い圧力まで加圧される。加圧されると、ガス入口213cは閉鎖され、装入容器213の鉱石出口213bは開放されて、鉄鉱石207が直接還元シャフト211の入口211aに装入され得るようにする。シールガス223は、必然的に、装入動作において直接還元シャフトに付随して導入される。直接還元シャフト211に装入された鉄鉱石207は、シャフトを徐々に通って出口211bにおいて排出される。シャフト211を通過する間、鉱石207は、海綿鉄208が反応器211の排出口211bで得られるように、向流の還元ガス217によって還元される。
【0099】
海綿鉄208を排出する前に、排出容器231はまずその入口231a及び231bで密閉され、真空ポンプ229を使用して真空に引かれ、シールガス223で再充填される。これにより、容器231は、海綿鉄208を受け入れできる状態になる。容器の入口231aが開放されて、海綿鉄208が容器内に落下し、容器内のシールガスが直接還元シャフト211内に上方に移動できるようにする。その後、排出容器の入口231aが閉鎖され、排出容器231が真空ポンプ229を使用して引かれ、不活性ガス235を用いて常圧まで再充填される。次いで、排出容器231の出口231bは、海綿鉄208を放出するために開放され得る。
【0100】
メイクアップガス215は、水素ガス貯蔵庫又は水電解槽など、メイクアップガス220の供給源から供給される。メイクアップガス215は、処理されたトップガス218と混合されて、還元ガス217を形成する。還元ガス217は、直接還元シャフト211に導入される前に、予熱器241に通される。出口211dを出るトップガス216は、DRシャフト211に再導入するためのガスを調製するために、複数の処理装置243を通される。複数の処理装置は、ガスから固形物を除去する電気集塵機を通すなどの洗浄工程、還元ガス217などの他のプロセスガスとの熱交換、及び水の分離を含み得る。処理されたトップガス218は、メイクアップガス215と混合され、直接還元シャフト211に入口211cを通して再導入する前に、予熱器241に通される。入口211cに入るガスの温度は、部分酸化によって更に上昇させられ得る。このような場合、酸素の供給(図示せず)は、予熱器241と入口211cとの間に配置され得る。
【0101】
鉱石が装入容器213から排出されると、容器は新たな鉱石の装入のために準備され得る。まず、鉱石出口213bが閉鎖される。その後、ガス出口213dが開放され、プロセスガスが、真空ポンプ229を使用して装入容器213から抜かれる。次いで、ガス出口213dは閉鎖され、装入容器は、常圧までガスを再充填される。図示の例では、容器213は、ガス入口213cを開放することによってシールガス223を再充填されるが、代わりに、シールガスが不活性ガスではない場合に、不活性ガスの供給源(図示せず)から充填されてもよい。最後に、ガス入口213cは閉鎖され、鉱石入口213aは開放される。このようにして、装入容器213は、その初期構成に復帰し、更なる鉄鉱石の装入を受け入れできる状態になる。
【0102】
図3は、本明細書に開示の直接還元シャフトに鉄鉱石を装入するためのプロセスの例示的な実施形態を概略的に示すフローチャートである。ステップs301は、プロセスの開始を示す。ステップs303において、鉱石装入容器213の鉱石出口213bが密閉状態に設定される。ステップs305において、鉱石装入容器213の鉱石入口213aが開放状態に設定される。鉱石出口213b及び鉱石入口213aがそれぞれ既に閉鎖状態及び開放状態にある場合、これらのステップは装入設備の状態のいかなる変化も含まないことに留意されたい。ステップs307において、鉱石装入容器213は、鉱石入口213aを介して鉄鉱石207を装入される。ステップs309において、鉱石入口213aが密閉状態に設定される。ステップs312において、ガスが、真空に引いて鉱石装入容器213から抜かれる。ステップs313において、鉱石装入容器は、シールガス223を再充填される。ステップs315において、鉱石出口213bは開放状態に設定されて、直接還元シャフト211に鉄鉱石207を装入する。ステップs317は、プロセスの終了を示す。
【0103】
列挙されたステップは連続して実行されるが、介在するステップが存在してもよい。例えば、何らかの理由で装入容器に適用可能な真空が実質的にすべての空気を除去するのに十分でない場合、例えば装入容器がそのような低圧を許容しない場合、ステップs309とs312との間に1つ以上の追加の真空引き/再充填サイクルが実行され得る。1つのこのような真空引き/再充填サイクルを図3に示す。これは、真空に引いて鉱石装入容器213からガスを抜くステップs310と、鉱石装入容器に不活性ガスを再充填するステップs311とを含む。
【0104】
図4は、本明細書に開示の直接還元シャフトから鉄鉱石を排出するためのプロセスの例示的な実施形態を概略的に示すフローチャートである。ステップs401は、プロセスの開始を示す。ステップs403において、鉄排出容器231の鉄出口231a及び鉄入口231bは密閉状態に設定される。出口231b及び入口231aが既に閉鎖状態にある場合、これらのステップは排出設備の状態のいかなる変化も含まないことに留意されたい。ステップs405において、ガスが、真空に引いて鉄排出容器231から抜かれる。ステップs407において、鉄装入容器231は、シールガス223を再充填される。ステップs409において、鉄排出容器231の鉄入口231aが開放状態に設定される。ステップs409において、鉄排出容器231は、鉄入口231aを介して海綿鉄208を装入される。ステップs411において、鉄入口が密閉状態に設定される。このようにして、海綿鉄208が、直接還元シャフト211から排出される。いくつかの任意選択の中間ステップ(図示せず)を介して、排出容器は、海綿鉄208の放出のために準備される。最終ステップであるs413において、鉄出口231bは開放され、海綿鉄208は放出される。ステップs415は、プロセスの終了を示す。列挙されたステップは連続して実行されるが、介在するステップが存在してもよい。例えば、何らかの理由で排出容器に適用可能な真空が実質的にすべての空気を除去するのに十分でない場合、例えば排出容器がそのような低圧を許容しない場合、ステップs403とs405との間に1つ以上の追加の真空引き/再充填サイクルが実行され得る(図示せず)。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】