(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】触媒コーティングされた三次元構造電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/031 20210101AFI20240130BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240130BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240130BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240130BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240130BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240130BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20240130BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20240130BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240130BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240130BHJP
【FI】
C25B11/031
B01J37/08
B01J37/04 102
H01M4/86 M
H01M4/88 K
H01M4/86 B
C25B11/052
C25B11/063
C25B11/081
C25B9/00 A
C25B1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541967
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-08
(86)【国際出願番号】 EP2022050728
(87)【国際公開番号】W WO2022152836
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523108359
【氏名又は名称】ナノ キャッツ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーンスマイヤー、デニス
(72)【発明者】
【氏名】クランナート、ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】バーニケ、ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
5H018
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA17
4G169BA21C
4G169BB10C
4G169BB12C
4G169BC03A
4G169BC04A
4G169BC05A
4G169BC06A
4G169BC09A
4G169BC10A
4G169BC12A
4G169BC13A
4G169BC16A
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4G169BC22A
4G169BC25A
4G169BC31A
4G169BC35A
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4G169EA13
4G169FB06
4G169FB23
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC04
4G169FC07
4G169FC10
4K011AA11
4K011AA21
4K011AA30
4K011AA33
4K011AA34
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
4K021BB00
5H018BB01
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018DD01
5H018DD03
5H018DD06
5H018DD08
5H018EE02
5H018EE16
5H018EE17
5H018HH08
5H018HH10
(57)【要約】
本発明は、触媒コーティングされた三次元構造電極の製造方法に関する。最初に、テンプレート、金属前駆体及び溶媒から懸濁液を生成することによって、三次元構造金属基板上にメソポーラス触媒コーティングを合成し、次いで、三次元構造金属基板に塗布する。次いで、三次元構造金属基板を乾燥させて、懸濁フィルム内の溶媒を蒸発させ、一体化されたテンプレート構造を有する触媒前駆体の層を得る。次いで、触媒前駆体を含む三次元構造金属基板を、熱処理に供し、メソポーラス触媒コーティングを形成する。
本発明はさらに、最初に述べたタイプの方法によって製造された電極、及びそのような電極を含む電気化学セルに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒コーティングされた三次元構造電極の製造方法であって、以下の工程:
a)三次元構造金属基板を利用可能にする工程;
b)テンプレート、金属前駆体及び溶媒を含む懸濁液を製造する工程;
c)前記懸濁液を前記三次元構造金属基板に塗布し、前記三次元構造金属基板上に懸濁フィルムを形成する工程;
d)前記三次元構造金属基板上の前記懸濁フィルムを温度T
1で乾燥させ、前記懸濁フィルム内の前記溶媒を蒸発させ、一体化されたテンプレート構造を有する前段触媒の層を得る工程;
e)第2の温度T
2及び焼成時間t
2で、前段触媒を含む前記三次元構造金属基板を熱処理し、メソポーラス触媒コーティングを形成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
浸漬コーティング技術を使用して工程c)からの前記懸濁液を塗布することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記三次元構造金属基板が、ネット、発泡体、格子、ストレーナ、織物及び/又はメッシュとして具現化されることを特徴とする、請求項1及び2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記温度T
2が、200℃~1000℃、好ましくは300℃~800℃の範囲内であり、前記焼成時間t
2が、1分~1440分、特に10~120分の範囲内であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記温度T
1が、18℃~250℃の範囲であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記懸濁液が、1つ又はいくつかの両親媒性ブロックコポリマーを含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記両親媒性ブロックコポリマーが、ABブロックコポリマー(ポリエチレンオキシドブロックポリスチレン(PEO-PS);ポリエチレンオキシドブロックポリメチルメタクリレート(PEO-PMMA);ポリ-2-ビニルピリジンブロックポリアリルメタクリレート((P2VP-PAMA);ポリブタジエンブロックポリエチレンオキシド((PB-PEO);ポリイソプレンブロックポリジメチルアミンエチルメタクリレート((PI-PDMAEMA);ポリブタジエンブロックポリジメチルアミノエチルメタクリレート(PB-PDMAEMA);ポリエチレンブロックポリエチレンオキシド((PE-PEO);ポリイソブチレンブロックポリエチレンオキシド(PIB-PEO)及びポリ(エチレン-コ-ブチレン)ブロックポリ(エチレンオキシド)(PEB-PEO);ポリスチレンブロックポリ(4ビニルピリジン)(PS-P4VP);ポリイソプレンブロックポリエチレンオキシド(PI-PEO);ポリジメトキシアニリンブロックポリスチレン(PDMA-PS);ポリエチレンオキシドブロックポリ-n-ブチルアクリレート(PEO-PBA);ポリブタジエン-ブロック-ポリ(2ビニルピリジン(PB-P2VP));ポリエチレンオキシド-ブロック-ポリラクチド(PEO-PLA);ポリエチレンオキシドブロックポリグリコリド(PEO-PLGA);ポリエチレンオキシドブロックポリカプロラクトン(PEO-PCL);ポリエチレンブロックポリエチレングリコール(PE-PEO);ポリスチレンブロックポリメチルメタクリレート(PS-PMMA);ポリスチレンブロックポリアクリル酸(PS-PAA);ポリピロールブロックポリカプロラクトン(PPy-PCL);ポリシリコンブロックポリエチレンオキシド(PDMS-PEO)ABAブロックコポリマー(ポリエチレンオキシドブロックポリブタジエンブロックポリエチレンオキシド(PEO-PB-PEO);ポリエチレンオキシドブロックポリプロピレンオキシドブロックポリエチレンオキシド(PEO-PPO-PEO);ポリプロピレンオキシドブロックポリエチレンオキシドブロックポリプロピレンオキシド(PPO-PEO-PPO);ポリエチレンオキシドブロックポリイソブチレンブロックポリエチレンオキシド(PEO-PIB-PEO);ポリエチレンオキシドブロックポリブタジエンブロックポリエチレンオキシド(PEO-PB-PEO));ポリアクチドブロックポリエチレンオキシドブロックポリアクチド(PLA-PEO-PLA);ポリグリコリドブロックポリエチレンオキシドブロックポリグリコリド(PGLA-PEO-PGLA);ポリアクチド-コ-カプロラクトンブロックポリエチレンオキシドブロックポリアクチド-コ-カプロラクトン(PLCL-PEO-PLCL);ポリカプロラクトンブロックポリテトラヒドロフランブロックポリカプロラクトン(PCL-PTHF-PCL);ポリプロピレンオキシドブロックポリエチレンオキシドブロックポリプロピレンオキシド(PPG-PEO-PPG);ポリスチレンブロックポリブタジエンブロックポリスチレン(PS-PB-PS);ポリスチレンブロックポリエチレン-ran-ブチレンブロックポリスチレン(PS-PEB-PS);ポリスチレンブロックポリイソプレンブロックポリスチレン(PS-PI-PS);ABCブロックコポリマー(ポリイソプレンブロックポリエチレンオキシド(PI-PS-PEO);ポリスチレンブロックポリビニルピロリドンブロックポリエチレンオキシド(PS-PVP-PEO);ポリスチレンブロックポリ-2-ビニルピリジンブロックポリエチレンオキシド(PS-P2VP-PEO);ポリスチレンブロックポリ-2-ビニルピリジンブロックポリエチレンオキシド(PS-P2VP-PEO);ポリスチレンブロックポリアクリル酸ポリエチレンオキシド(PS-PAA-PEO));ポリエチレンオキシドブロックポリアクチドブロックデカン(PEO-PLA-デカン);並びに他の両親媒性ポリマー(ポリエチレンオキシドアルキルエーテル(PEO-C
xx)、例えばBrij35、Brij56、Brij58)又はそれらの混合物、好ましくはPEO-PB、PEO-PPO、PEO-PB-PEO、PEO-PPO-PEOからなる群から選択されること
を特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
それぞれ異なる金属の1種若しくはいくつかの金属塩又はそれらの水和物が前記金属前駆体に使用されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属塩が、金属硝酸塩、金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属クエン酸塩、金属アルコキシド又はそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記金属前駆体に含有される前記金属が、アルカリ金属、好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、アルカリ土類金属、好ましくはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、周期表の第3族の金属、好ましくはホウ素、アルミニウム、インジウム、ガリウム、タリウム、周期表の第4族の金属、好ましくはスズ、ケイ素、ゲルマニウム、鉛、周期表の第5族の金属、好ましくはビスマス、及び遷移金属、好ましくはイリジウム、ルテニウム、コバルト、亜鉛、銅、マンガン、カドミウム、バナジウム、イットリウム、ジルコニウム、スカンジウム及びチタンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
使用される前記溶媒が、水又はC1~C4アルコール、C2~C4エステル、C2~C4エーテル、ホルムアミド、アセトンニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ベンジル、トルエン、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、クロロホルム又はそれらの混合物、好ましくはメタノール、エタノール、ホルムアミド及び/又はテトラヒドロフランであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
好ましくは請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を用いて製造された、電気化学セル用の電極であって、
三次元構造金属基板であり、ナノ構造メソポーラス触媒コーティングを含むこと
を特徴とする、電極。
【請求項13】
前記三次元構造金属基板が、ネット、発泡体、格子、織物及び/又はメッシュの形態で具体化されることを特徴とする、請求項12に記載の電極。
【請求項14】
請求項12及び/又は13に記載の電極を有する電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒コーティングされた三次元構造電極の製造方法に関する。第1の製造工程は、三次元構造金属基板を利用可能にすることを含む。続いて、メソポーラス触媒コーティングを三次元構造金属基板上に合成する。合成のために、好ましくは、テンプレート、金属前駆体及び溶媒からなる溶液又は懸濁液を最初に生成する。次いで、溶液又は懸濁液を三次元構造金属基板に塗布して、三次元構造基板上にフィルムを形成する。次いで、三次元構造基板を温度T1で乾燥させて、フィルム内の溶媒を蒸発させ、一体化されたテンプレート構造を有する触媒前駆体のコーティングを得る。続いて、触媒前駆体を含む三次元構造金属基板を熱処理に供して、メソポーラス触媒コーティングを得る。
【0002】
本発明はさらに、上記の方法で製造された電極、およびそのような電極を備えた電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0003】
水分解用の電解セル及びガスの形態の水素の再変換用の燃料電池では、バインダー分散触媒粉末は、通常、噴霧、スクリーン印刷又はドクターブレードを用いて膜に塗布される。この種の方法は、例えば、独国特許出願公開第19544323号明細書及び米国特許出願公開第20120094210号明細書の文献から知られている。
【0004】
上記の技術で触媒コーティングを製造する場合、調整可能な多孔度を有しバインダーを使用しない均一なコーティングを実現することは不可能である。バインダーを含まないメソポーラステンプレートアノード材料は、特に、ハーフセル手段において酸素発生(OER)の改善された活性を示す。イリジウム含有メソポーラスコーティングは、インク法を用いて製造された同等のバインダー系触媒コーティングよりも著しく高いIr質量活性を達成することが判明している(
図4も参照されたい)。
【0005】
バインダーを含まないメソポーラステンプレート触媒で膜を直接コーティングすることは、このような触媒(バインダーなし)の合成には熱処理が必要であるため不可能である。熱処理により膜が破壊される。
【0006】
電気分解装置又は燃料電池における高活性触媒コーティングの使用を可能にするために、ハーフセルからフルセル手段へのメソポーラスコーティングの移行を可能にする代替方法を見出さなければならなかった。
【0007】
米国特許出願公開第2019/0211464号明細書は、電解用電極の製造方法を開示している。このために、まず、白金族金属前駆体、希土類金属前駆体、有機溶媒及びアミン系溶媒を含むコーティング溶液を製造する。コーティング溶液を金属基板に塗布して触媒コーティングを形成する。続いて、触媒コーティングを乾燥させ、熱処理に供する。金属基板の選択は限定されず、格子、金属発泡体又はエキスパンドメタル(expanded metal)などの多孔質であってもよい。触媒コーティング自体は、多孔質であることは示されていない。結果として、触媒コーティングは適切な比表面積を有さず、その質量に関して不利である。
【0008】
欧州特許第3617348号明細書は、スルファミン酸塩を含むニッケル浴に入れられる多孔質金属体であり得る酸化物分散多孔質金属体を開示している。コーティングは、電極の製造に用いられる。コーティング自体は細孔を含有しない。
【0009】
中国特許第110783574号明細書は、燃料電池電極の製造方法を開示している。前記方法は、有機溶液中に入れられ、次いで再び除去される発泡金属を使用する。脱イオン水で洗浄するなど、さらなる製造工程を行うこともできる。触媒粉末、高分子バインダー、有機溶媒をさらに均一に混合して触媒スラッジを得て、これを金属発泡体に塗布する。発泡金属の構造によって、マクロ多孔性が達成される。しかしながら、これは、細孔の分布、サイズ及び形状を金属発泡体のもの、特にマクロ細孔に限定する。マクロ細孔は、例えば、表面対体積の好ましくない比をもたらすため、触媒の効率を高めるための欠点である。
【0010】
米国特許出願公開第2021/0140058号明細書はまた、電極用の触媒コーティングの製造方法を記載している。最初に、コーティング溶液をこのために利用可能にして、金属基板に塗布する。金属基板は、凹凸(それぞれ「粗さ」、凹凸)を得るために、例えばサンドブラスト、化学エッチング又は溶射技術によって前処理することができる。さらなる前処理工程は、塩処理又は酸処理を含む。続いて、コーティング溶液を前処理された基板に塗布することができ、対流炉及び/又は電気炉で熱処理することができる。金属基板上のコーティング溶液の効率的な構成は、この方法で条件付きでのみ可能である。
【0011】
したがって、特に電極用のコーティングに関連して、効率的な触媒コーティングを製造する必要性が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、先行技術による欠点を除去し、高活性でバインダーを含まないメソポーラステンプレート触媒コーティングを含む電気化学セルを利用可能にすることであった。特に、本発明の目的は、このような電気化学セル用の電極及びこの電極の製造方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による目的は、独立請求項の特徴を用いて解決される。本発明の有利な実施形態を、従属請求項に記載する。
【0014】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、触媒コーティングされた三次元構造電極の製造方法であって、以下の工程:
a)三次元構造金属基板を利用可能にする工程;
b)テンプレート、金属前駆体及び溶媒を含む懸濁液を製造する工程;
c)懸濁液を三次元構造金属基板に塗布し、三次元構造基板上に懸濁フィルムを形成する工程;
d)三次元構造金属基板上の懸濁フィルムを温度T1で乾燥させ、懸濁フィルムに含有される溶液を蒸発させ、一体化されたテンプレート構造を有する前段触媒(catalyst pre-stage)のコーティングを得る工程;
e)第2の温度T2及び焼成時間t2で、前段触媒を含む三次元構造金属基板を熱処理し、メソポーラス触媒コーティングを発生させる工程
を含む、方法に関する。
【0015】
本発明による方法は、先行技術からの逸脱である。なぜなら、触媒は、多くの場合そうであるように適切な方法(噴霧、ブラッシング、スクリーン印刷、ブレード塗布)を用いてバインダー系分散液を介しては塗布されないが、バインダーを含まずに三次元基板上に規定された細孔構造を伴って堆積され(浸漬コーティング)、続いて、フルセル手段(full-cell measure)で実施されるからである。この場合にバインダーを排除することは、有利には、先行技術による既知のバインダー含有触媒とは対照的に、触媒活性材料の体積関連電気伝導率の低下をもたらさない。したがって、本発明による方法を用いて、より高い触媒効率が得られる。さらに、密に充填された細孔構造は、亀裂のないコーティングをもたらし、小さなメソ細孔の場合には、拡散限界を回避しながら、表面と遊離体及び生成物のアクセス可能性との可能な最良な中道をとる。
【0016】
三次元構造電極の使用は、様々な用途、特に電気化学セルでの使用に不可欠な利点をもたらすことが判明している。三次元構造電極は、体積単位当たりの比表面積が特に大きく、したがって、電極と周囲の媒体との相互作用を改善することができる。特に、これは、体積単位当たりの表面が拡大されているため、気泡輸送の改善を可能にする。ナノ構造メソポーラステンプレート触媒コーティングを有する三次元構造電極の製造方法は、先行技術からこれまで知られておらず、提案もされていない。
【0017】
前述のように、本発明の1つの本質的な利点は、バインダーを含まない触媒の製造である。バインダーは、通常、触媒粉末の粒子を互いに及び基板に機械的に付着させることを確実にし、水電解の場合には速いプロトン輸送を確実にするために必要である。本発明による方法は、触媒の共有結合ネットをもたらし、したがってバインダーを含まない十分な内部構造的凝集を生成する。バインダーの1つの本質的な欠点は、電子伝導性を低下させ、したがって活性中心の触媒効率を大幅に低下させることである。バインダーのさらなる欠点は、活性中心のブロックである。
【0018】
本発明の意味の範囲内で、三次元構造基板は、好ましくは、任意の空間方向の膨張を意味する空間構造をとることができるように具体化される。一連の用語は、有利には、基板の内側(又は表面も)上の構造要素の、空間的であることを意味する三次元の配置を意味すると理解される。三次元構造の幾何学的形状は、有利には、基板体積当たりの表面積の増加を達成することを目的とし、これは例えば三次元基板の規則的な細孔、隆起領域、窪み、開口部を通して達成することができる。表面積の増加は、有利には、基板と周囲媒体との相互作用の改善をもたらす。
【0019】
三次元構造金属基板は、好ましくは、本方法の準備工程において洗浄及び前処理される。特に、前処理工程は、望ましくない酸化物及び汚れが有利に除去されるため、続いて塗布されるメソポーラス触媒コーティングの付着性の改善をもたらすエッチングを含むことができる。酸化物及び汚れを除去するための前処理に異なる方法を使用することもできることが理解される。
【0020】
本方法工程の組み合わせは、驚くべき相乗効果をもたらし、本発明の有利な特徴及びそれに関連する全体的な成功をもたらし、個々の特徴は相互依存的である。さらに、本発明による方法の1つの重要な利点は、極めて迅速で再現性があり経済的な合成手順である。
【0021】
三次元構造金属基板の使用はそれ自体、当業者には示唆されなかった。合成手順内の熱処理のために、三次元構造金属基板が反ると予想せざるをえなかった。さらに、三次元金属基板の熱処理は、不利な内部応力、及びいくつかの状況では材料内の亀裂をもたらすと予想せざるをえなかった。特に格子構造、ネットなどは、高温に耐えない薄いメッシュを有する。
【0022】
したがって、塗布された懸濁液の影響によってこの種の材料挙動がかなりの程度まで防止されることは、本発明者らにとって驚くべきことであった。電気化学セルにおける高活性触媒としての有利な特性(のちに熱処理後に得られる)に加えて、塗布された懸濁液/前段触媒もまた、熱処理に関連して電極に対する保護効果を有することは予想されなかった。
【0023】
さらに、浸漬コーティングに続いて、構造化三次元基板の懸濁液は、すべての幾何学的形状(拡張部、アンダーカット又はくぼみ、丸い領域、尖端など)への塗布後に同質かつ均一であることが有利であることが判明している。特に、連続した平坦な領域を有する基板と比較した場合、三次元構造基板は、懸濁液の付着性の改善をもたらす。
【0024】
驚くべきことに、いわゆるエッジ効果(edge effect)の発生は、浸漬コーティング後に特に顕著ではなかった。エッジ効果がより厚いフィルムセグメントをもたらし得ることが知られているが、正しい組成を所与として、同質なコーティング厚を有するコーティングを得ることが可能である。
【0025】
さらなる好ましい実施形態では、工程b)で詳述するように、テンプレート、金属前駆体及び溶媒を含む溶液も製造することができる。
【0026】
したがって、異なる好ましい実施形態による本発明は、触媒コーティングされた三次元構造電極の製造であって、以下の工程:
a)三次元構造金属基板を利用可能にする工程;
b)テンプレート、金属前駆体及び溶媒を含む溶液を製造する工程;
c)溶液を三次元構造金属基板に塗布し、三次元構造金属基板上にフィルムを形成する工程;
d)三次元構造金属基板上のフィルムを温度T1で乾燥させ、コーティング中の溶媒を蒸発させ、一体化されたテンプレート構造を有する前段触媒のコーティングを得る工程
e)第2の温度T2及び焼成時間t2で、前段触媒を含む三次元構造金属基板を熱処理し、メソポーラス触媒コーティングを生じる工程
を含む、製造に関する。
【0027】
さらに好ましい実施形態によれば、いくつかのテンプレート、金属前駆体及び/又は溶媒も使用することができる。テンプレートが細孔テンプレートである場合がさらに好ましい。
【0028】
したがって、別の好ましい実施形態による本発明は、触媒コーティングされた三次元構造電極の製造方法であって、以下の工程:
a)三次元構造金属基板を利用可能にする工程;
b)1つ又はいくつかの細孔テンプレート、1つ又はいくつかの金属前駆体、及び1つ又はいくつかの溶媒を含む溶液又は懸濁液を製造する工程;
c)溶液又は懸濁液を三次元構造金属基板に塗布し、三次元構造金属基板上にフィルムを形成する工程;
d)三次元構造金属基板上のフィルムを温度T1で乾燥させ、フィルム中の溶媒(複数可)を蒸発させ、一体化されたテンプレート構造を有する前段触媒のコーティングを得る工程;
e)第2の温度T2及び焼成時間t2で、三次元構造金属基板を含む前段触媒を熱処理し、メソポーラス触媒コーティングを得る工程
を含む、方法に関する。
【0029】
好ましいフィルムは、溶液フィルム(溶液で作られたフィルム)又は懸濁フィルム(懸濁液で作られたフィルム)を含む群から選択することができる。
【0030】
工程e)においていくつかのメソポーラス触媒コーティングを生成することがさらに好ましい。
【0031】
浸漬コーティングによって生成されたメソポーラスコーティングは、基板に特に良好に接着することが有利であることが判明している。テープによる付着性試験は、コーティング材料を基板から除去しにくいことを示す。同じ条件下で熱処理された比較による噴霧基板は、明らかに不良な付着性を示し、これは均一なフィルム形態で説明することができる。多層コーティングも良好な付着性を示す。別の利点は、メソポーラスコーティングをいくつかの層に容易に塗布できることである。したがって、例えば浸漬コーティングを用いて、所望の幾何学的金属負荷をその幅にわたって意図的に調整することができる。その場合のメソポーラス形態は、多孔質構造がコーティング内の張力をより良好に補償することができるため、高い幾何学的負荷を達成するのに役立つ。テンプレートの焼成/除去中、フィルムは表面法線に沿って収縮し(楕円形の細孔をもたらす)、剥離をもたらし得るコーティング内の張力が補償される。驚くべきことに、テンプレートの好ましい使用により、マルチコーティングメソポーラス触媒コーティングを生成することができ、これにより電気分解を実現するのに特に効率的になることが見出された。
【0032】
金属基板の使用は、有利には、三次元構造の形態を幾何学的に採用するのに適しており、ここで基板は材料(金属)のために十分に高い剛性を有し続ける。したがって、引張荷重及び圧縮荷重に耐えることができ、したがってフルセルスケールへの特に容易な挿入を可能にする安定した基板設計を達成することができる。さらに、金属基板がすべての幾何学的形状をとることができるように、金属を容易に加工することができる。
【0033】
好ましい一実施形態によれば、金属基板は、ニッケル、銀、チタン、鉄、マンガン、コバルト、金、イリジウム、銅、白金、パラジウム、オスミウム、ロジウム、ルテニウム、アルミニウム、ウォルフラム(タングステン)、スズ、亜鉛、鉛、ゲルマニウム、ケイ素、及びそれらの合金を含む群から選択される金属である。上述の材料は、一般に良好な導電性を有するが、同時に、特に電解セル又はガルバニ電池に使用される場合に、周囲の媒体に対する良好な化学的安定性も有するため、有利である。金属基板はまた、上述の金属の組み合わせを含むことができることが理解される。
【0034】
好ましい一実施形態によれば、本方法は、メソポーラス触媒コーティングが、異なる幾何形状を有する三次元構造のTi基板上に製造されることを特徴とする。Ti基板は、表面に天然の薄い酸化物コーティングを含むため、特に好適である。これらの基板をコーティングする場合、基板表面上の酸素官能基は、熱処理中に触媒コーティングと共有結合及び/又はイオン結合を形成することができ、したがって強固な機械的付着性をもたらす。
【0035】
好ましい一実施形態によれば、金属基板はまた、ガラス状炭素、ボロンドープダイヤモンド、炭化物、窒化物、酸化物を含む群からの追加の導電性材料を含む。これらは好ましくは金属基板中により少量で存在し、ここで、より少量は、基板全体の小さい体積百分率の範囲を示す。異なる好ましい実施形態の金属基板は、上述の導電性材料のうちの1つ又はいくつかから本質的に構成される。
【0036】
合成されたメソポーラス触媒コーティングは、好ましくはナノ構造である。ナノ構造化は、原子レベルでの固体の構造化を指すと理解される。標的化された改変(注入)を用いて、固体の原子的、化学的な及び他の、主に表面近くの特性が変更される。
【0037】
ナノ構造メソポーラス触媒コーティングは、有利には、メソポーラス触媒コーティングの規則的なナノ構造であると理解される。これは、触媒コーティングが同じようにほぼ同じ構造要素(例えば、一緒に撚り合わされる)を繰り返し(周期的に)含むことを意味する。驚くべきことに、規則的なメソ構造の形成は、基板表面の幾何学的設計(例えば、膨出、窪み)によって妨げられないことが見出された。
【0038】
1つ又はいくつかの金属塩が、1つ又はいくつかのテンプレートと共に、前段触媒に適した1つ又はいくつかの溶媒に分散され、この混合物が三次元金属基板に移されることがさらに好ましい。その後の溶媒の蒸発は、前段触媒によって囲まれたテンプレートの有利な周期的配列をもたらす。その後の300℃~800℃の範囲にわたる好ましい温度での熱処理は、テンプレートを燃焼させ、前段物質を実際の触媒、好ましくは金属酸化物に変換する。テンプレートを除去することにより、連結され、触媒プロセスに特に有利な表面を提供する細孔が形成される。
【0039】
好ましい合成アプローチは、所望の細孔構造のためのプレースホルダとして機能するテンプレートに基づく。合成中、テンプレートは周囲の材料(前段触媒)によって囲まれ、その除去後、規定の多孔質材料が残される。テンプレートサイズに応じて、数マイクロメートルから数ナノメートルまでの細孔サイズを有する細孔構造が結果的に生成される。規則的な細孔構造及び単峰性の細孔径分布を有する材料は、有利には、いわゆるテンプレート法によって合成することができる。この合成アプローチを用いると、テンプレートは、所望の細孔形状のためのプレースホルダとして機能する。テンプレートを使用することにより、触媒コーティングの特に有利な細孔形態を生成することができる。特に、触媒コーティングはメソポーラスで具体化することができ、これにより特に高い機械的安定性を達成することが可能になった。テンプレートの使用により、さらに有利には、触媒コーティングのための特に高い比表面積を有する、意図的に調整され再現可能に生成された細孔分布を提供することが可能になった。再現性は、特に技術的用途を考慮する場合に大きな利点である。
【0040】
さらなる好ましい実施形態のテンプレートは、有利には、好ましくは界面活性剤、ブロックコポリマー及び/又は樹状コアシェルポリマーを含む。このテンプレートは、触媒コーティング内に有利なメソポーラス構造化をもたらし、テンプレートはミセルを形成することができ、又は他の構造を有することができる。代替実施形態のテンプレートはまた、非ミセル形成コアシェル巨大分子、いわば単分子ミセルを有することができる。さらに、ブロックコポリマーはラメラ構造をとることもできる。
【0041】
好ましい一実施形態によれば、テンプレートはソフトテンプレートとして設計される。ソフトテンプレートは、変形可能な構造指向ユニットである。ソフトテンプレートは、両親媒性ポリマー(多くの場合ブロックポリマー)のミセル又はラメラ構造であり得る。ミセル又はラメラは、典型的には、溶液中に分散したポリマーの臨界濃度を超えて形成される。ソフトテンプレートはまた、樹状又は超分岐コアシェルポリマーも含み、ポリマーのコア及びシェルは異なる親水性を示し、したがって両親媒性でもある。
【0042】
さらに好ましい実施形態によると、テンプレートはハードテンプレートとして具体化される。ハードテンプレートは、剛性の構造指向ユニットである。ナノ構造ハードテンプレートには、金属、酸化物、多くの場合は酸化ケイ素(例えば、MCM群、SBA群、FDU群、KIT群、MSU群、TUD群、HMM群、FSM群)、及び炭素(例えば、CMK群)が含まれる。これらのハードテンプレートは、個々のナノ粒子又はナノ構造化されたより大きな構成であってもよい。
【0043】
1つの好ましい変形例によれば、乾燥の好ましい方法工程は、乾燥が非常に短い時間間隔にわたって起こるように構成することもできる。例えば、金属基板上への懸濁液又は溶液の塗布から熱処理までの時間間隔の間に行われる。実際の操作では、時間間隔は、溶液又は懸濁液を含む容器から三次元金属基板を引き出し、熱処理のためにそれを炉に直接挿入することを含むことができる。このようにして乾燥操作を行うと、寸法構造化された金属基板上への触媒コーティング合成が特に迅速に実現される。
【0044】
乾燥方法工程の異なる好ましい実施形態によれば、懸濁液又は溶液を金属基板上に塗布してから熱処理するまでの時間間隔は、以下のように進行することができる:溶液又は懸濁液を含有する容器から三次元金属基板を引き出し、それを風乾し(例えば、約5分間)、次いで、それを熱処理に供して、基本的に残りの溶媒を完全に除去する及び/又はコーティングを安定化する。
【0045】
異なる好ましい実施形態によれば、本方法は、工程c)からの溶液又は懸濁液が浸漬コーティングによって塗布されることを特徴とする。浸漬コーティング法を使用することによって、三次元構造金属基板に、テンプレート細孔構造を有する同質な触媒コーティングを設けることができることは、当業者には示唆されなかった。テンプレート細孔構造は、有利には、テンプレートを使用して細孔構造(細孔を含む構造)を得ることを指す。浸漬コーティング法はさらに、三次元構造金属基板の特にアンダーカット領域も容易にコーティングすることができるという利点を有する。
【0046】
浸漬コーティングは、いくつかの追加の利点を有する。例えば、いくつかの三次元構造金属基板を同時にコーティングすることができ、したがって特に経済的な製造が可能になる。さらに、浸漬コーティングは、溶液又は懸濁液への短時間の浸漬が好ましい触媒コーティングを得るのに既に十分であるため、短い処理時間で有利にも生じる。浸漬コーティングは、材料が浪費されない(溶液又は懸濁液が1つの容器内にある)ため、さらに非常に資源保護的である。浸漬コーティングのために、最初に基板を容器に入れ、次いで溶液を充填し、再び除去することがさらに好ましい場合がある。
【0047】
好ましい一実施形態による方法は、三次元構造金属基板がネット、発泡体、格子、ストレーナ、織物又はメッシュの形態をとることを特徴とする。
【0048】
ネット又は格子として具体化された三次元構造金属基板が特に好ましい。好ましい又は特に好ましいネット又は格子の実施形態は、それらの実施形態が上記の材料から容易に得ることができるため、有利である。さらに、これらの構成は、金属基板を容易に変形させることを有利に可能にする。
【0049】
好ましい一実施形態では、本方法は、温度T2が200℃~1000℃の範囲、好ましくは300℃~800℃であり、焼成時間t2が1分~1440分の範囲、特に10分~120分の間、好ましくは10分~60分の間であることを特徴とする。特に記載されたパラメータの範囲内で、テンプレートは、有利には完全に燃焼することができ、その結果、ナノ構造のメソポーラス触媒コーティングが得られる。
【0050】
別の好ましい実施形態によれば、テンプレートは、適切な媒体を使用することによって触媒段階から取り外す/洗い流すこともできる。熱処理とテンプレートの取り外しとの組み合わせも連続的に行うことができることが理解される。テンプレートが媒体を用いて焼かれることなく除去される限り、これらのテンプレート構造は、有利にはもう一度処理及び/又は使用することができる。
【0051】
前段触媒は、好ましくは、テンプレートを熱分解し、無機種を結晶性金属酸化物に変換するために、焼成される。
【0052】
焼成は、前駆体の酸化物への変換、テンプレートの焼却、及び非晶質細孔壁の結晶材料への変換によって引き起こされる、コーティングの大幅な体積損失をもたらす。基板上のコーティングの付着性は比較的強いため、とりわけ基板表面と金属酸化物種との間の共有結合のため、コーティングは基板に対して垂直にのみ収縮し、コーティングに断裂を引き起こすことはない。
【0053】
本明細書に開示されているすべてのパラメータ範囲、例えば、温度、力、圧力、距離などは、当然、指定された範囲内のすべての値並びにそれらの最大及び最小限界値を含む。値にも一定の変動があることは当業者には明らかである。したがって、この場合、およそ200℃~1000℃、特に好ましくは300℃~800℃の温度範囲、並びに好ましくは約1分~1440分、特におよそ10~120分の焼成時間を有する。これは、文書の他のすべてのパラメータ範囲と同様に変換することができる。
【0054】
「本質的に(essentially)」、「およそ(approximately)」、「約(about)」及び「約(circa)」などの用語は、±40%未満、好ましくは±20%未満、特に好ましくは±10%未満、さらにより好ましくは±5%未満、特に±1%未満の許容範囲を記載し、常に正確な値を含む。「同様の(similar)」は、好ましくは、「ほぼ同じ(approximately the same)」量を表す。「部分的に(in part)」は、好ましくは、少なくとも5%まで、特に好ましくは10%まで、特に好ましくは少なくとも20%まで、場合によっては少なくとも40%までもの量を表す。
【0055】
好ましい一実施形態による熱処理は、加熱システムで行われる。テンプレートを除去するために、例えば、空気流中の管状炉又はマッフル炉を使用することができる。この種の炉は均一な温度分布を有するため、有利には、プロセスを繰り返すことができる。炉からの排熱は、それに関連するエネルギーを節約するために、追加の処理工程(例えば、乾燥)にさらに有利に使用することができる。
【0056】
炉による加熱の代わりに、異なる有利な実施形態の熱処理は、以下のような異なる方法を使用して行うこともできる。前段触媒を含む基板は、好ましくは、ハロゲンランプからの熱放電を用いて急速熱アニーリング(RTA)によって熱的に処理される。前段触媒を含む基板は、フラッシュランプアニールによってさらに有利に加温され、これは有利には表面の急速な加熱及び排他的な加熱をもたらす。さらに、レーザーアニーリング法が好ましい。この方法は、前段触媒を含む基板のさらに急速な加熱をもたらし、極めて短い貫通深さが達成され、表面のみが加熱される。また、誘導炉で適切な基板を加熱することも可能であり、これも非常に迅速な加熱をもたらす。加熱には赤外線放射体を使用することがさらに好ましい場合がある。
【0057】
好ましい一実施形態による方法は、温度T1が18℃~250℃の範囲であることを特徴とする。三次元金属基板のコーティングは、室温~80℃の範囲の温度で行うことができる。結果として、非常に少ないエネルギーが有利に使用される。加えて、加熱システムの熱放電は、懸濁フィルムの迅速な乾燥を達成するための乾燥エネルギーとしてこれらの温度に十分であり、これはさらに、方法についての相当な経済的節約となる。
【0058】
好ましい一実施形態によれば、本方法は、懸濁液が1種又はいくつかの両親媒性ブロックコポリマーを含むことを特徴とする。
【0059】
規則的なメソポーラス触媒コーティングのテンプレート化には、好ましくは、親水性ポリエチレンオキシドブロック(PEO)を含む両親媒性ブロックコポリマーが使用される。
【0060】
両親媒性分子は、規則的なメソポーラス固体を合成するための好ましいテンプレートである。両親媒性分子は、自己組織化によってミセルを有利に形成し、自己を液晶相に配列する。典型的には2nm~50nmの範囲のナノ構造を有するこれらの流動性結晶は、好ましくは、メソポーラス酸化物の合成中にエンドテンプレート(endo template)として機能する。
【0061】
異なる好ましい実施形態によれば、前段触媒を含む三次元構造金属基板は、不活性雰囲気中で熱処理される。ブロックコポリマー基板はまた、300℃を超える温度で不活性雰囲気中で分解する。
【0062】
好ましい一実施形態による方法は、両親媒性ブロックコポリマーが、ABブロックコポリマー(ポリエチレンオキシドブロックポリスチレン(PEO-PS);ポリエチレンオキシドブロックポリメチルメタクリレート(PEO-PMMA);ポリ-2-ビニルピリジンブロックポリアリルメタクリレート((P2VP-PAMA);ポリブタジエンブロックポリエチレンオキシド((PB-PEO);ポリイソプレンブロックポリジメチルアミンエチルメタクリレート((PI-PDMAEMA);ポリブタジエンブロックポリジメチルアミノエチルメタクリレート(PB-PDMAEMA);ポリエチレンブロックポリエチレンオキシド((PE-PEO);ポリイソブチレンブロックポリエチレンオキシド(PIB-PEO)及びポリ(エチレン-コ-ブチレン)ブロックポリ(エチレンオキシド)(PEB-PEO);ポリスチレンブロックポリ(4ビニルピリジン)(PS-P4VP);ポリイソプレンブロックポリエチレンオキシド(PI-PEO);ポリジメトキシアニリンブロックポリスチレン(PDMA-PS);ポリエチレンオキシドブロックポリ-n-ブチルアクリレート(PEO-PBA);ポリブタジエン-ブロック-ポリ(2ビニルピリジン(PB-P2VP));ポリエチレンオキシド-ブロック-ポリラクチド(PEO-PLA);ポリエチレンオキシドブロックポリグリコリド(PEO-PLGA);ポリエチレンオキシドブロックポリカプロラクトン(PEO-PCL);ポリエチレンブロックポリエチレングリコール(PE-PEO);ポリスチレンブロックポリメチルメタクリレート(PS-PMMA);ポリスチレンブロックポリアクリル酸(PS-PAA);ポリピロールブロックポリカプロラクトン(PPy-PCL);ポリシリコンブロックポリエチレンオキシド(PDMS-PEO)ABAブロックコポリマー(ポリエチレンオキシドブロックポリブタジエンブロックポリエチレンオキシド(PEO-PB-PEO);ポリエチレンオキシドブロックポリプロピレンオキシドブロックポリエチレンオキシド(PEO-PPO-PEO);ポリプロピレンオキシドブロックポリエチレンオキシドブロックポリプロピレンオキシド(PPO-PEO-PPO);ポリエチレンオキシドブロックポリイソブチレンブロックポリエチレンオキシド(PEO-PIB-PEO);ポリエチレンオキシドブロックポリブタジエンブロックポリエチレンオキシド(PEO-PB-PEO));ポリアクチドブロックポリエチレンオキシドブロックポリアクチド(PLA-PEO-PLA);ポリグリコリドブロックポリエチレンオキシドブロックポリグリコリド(PGLA-PEO-PGLA);ポリアクチド-コ-カプロラクトンブロックポリエチレンオキシドブロックポリアクチド-コ-カプロラクトン(PLCL-PEO-PLCL);ポリカプロラクトンブロックポリテトラヒドロフランブロックポリカプロラクトン(PCL-PTHF-PCL);ポリプロピレンオキシドブロックポリエチレンオキシドブロックポリプロピレンオキシド(PPG-PEO-PPG);ポリスチレンブロックポリブタジエンブロックポリスチレン(PS-PB-PS);ポリスチレンブロックポリエチレン-ran-ブチレンブロックポリスチレン(PS-PEB-PS);ポリスチレンブロックポリイソプレンブロックポリスチレン(PS-PI-PS);ABCブロックコポリマー(ポリイソプレンブロックポリエチレンオキシド(PI-PS-PEO);ポリスチレンブロックポリビニルピロリドンブロックポリエチレンオキシド(PS-PVP-PEO);ポリスチレンブロックポリ-2-ビニルピリジンブロックポリエチレンオキシド(PS-P2VP-PEO);ポリスチレンブロックポリ-2-ビニルピリジンブロックポリエチレンオキシド(PS-P2VP-PEO);ポリスチレンブロックポリアクリル酸ポリエチレンオキシド(PS-PAA-PEO));ポリエチレンオキシドブロックポリアクチドブロックデカン(PEO-PLA-デカン);並びに他の両親媒性ポリマー(ポリエチレンオキシドアルキルエーテル(PEO-Cxx)、例えばBrij35、Brij56、Brij58)又はそれらの混合物、好ましくはPEO-PB、PEO-PPO、PEO-PB-PEO、PEO-PPO-PEOからなる群から選択されることを特徴とする。
【0063】
好ましい一実施形態によれば、本方法は、それぞれ異なる金属の1種若しくはいくつかの金属塩又はそれらの水和物が金属前駆体として使用されることを特徴とする。
【0064】
別の好ましい実施形態によれば、金属ナノ粒子を金属前駆体に使用することもでき、これを、ポリマーテンプレートを用いてコーティングとして堆積されたメソポーラステンプレートとすることができる。金属ナノ粒子は、適用可能であれば産業界から廃棄物の形態で有利に得ることができ、したがってリサイクルプロセスで再び使用することができる。
【0065】
異なる好ましい実施形態による方法は、金属塩が、金属硝酸塩、金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属クエン酸塩、金属アルコキシド又はそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする。
【0066】
追加の錯化材料を添加することによって適用可能であれば、これらが適切な溶媒に可溶性である限り、追加の塩を代替実施形態に使用することもできる。
【0067】
好ましい一実施形態によれば、本方法は、金属前駆体に含有される金属がアルカリ金属、好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、アルカリ土類金属、好ましくはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、周期表の第3族からの金属、好ましくはホウ素、アルミニウム、インジウム、ガリウム、タリウム、周期表の第4族の金属、好ましくはスズ、ケイ素、ゲルマニウム、鉛、周期表の第5族の金属、好ましくはビスマス、並びに遷移金属、好ましくはイリジウム、ルテニウム、コバルト、亜鉛、銅、マンガン、カドミウム、バナジウム、イットリウム、ジルコニウム、スカンジウム及びチタンからなる群から選択されることを特徴とする。
【0068】
好ましい一実施形態によれば、本方法は、ルテニウム及び/又はイリジウム及び/又はチタンが金属前駆体に使用されることを特徴とする。金属の組み合わせは、特に、高い完全性及び安定性を有する触媒コーティングをもたらす。ルテニウム及びイリジウム系コーティングは、酸素発生及び塩素発生における使用に対して高い活性を示す。また、コーティング中に酸化チタンが存在すると、チタン基板への付着性が向上する。
【0069】
好ましい一実施形態の方法は、メソポーラスRu及びIrを含有する触媒コーティングが、異なる幾何学的形状を有する三次元構造のTi基板上に合成されることを特徴とする。
【0070】
好ましい一実施形態によれば、本方法は、水又はC1~C4アルコール、C2~C4エステル、C2~C4エーテル、ホルムアミド、アセトンニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ベンジル、トルオール、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、クロロホルム又はそれらの混合物、好ましくはメタノール、エタノール、ホルムアミド及び/又はテトラヒドロフランが使用されることを特徴とする。
【0071】
本発明の方法の利点及び好ましい実施形態は、本発明による電極、並びに本発明による電気化学セルへと同様に移転されるべきであり、逆もまた同様である。
【0072】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、好ましくは上記の方法に従って製造される電気化学セル用の電極であって、電極が三次元構造金属基板であり、ナノ構造メソポーラス触媒コーティングを含むことを特徴とする電極に関する。
【0073】
ナフィオン膜上にバインダーと共に分散粉末の形態の触媒を噴霧し、続いてそれを電気化学セル、好ましくは電気分解装置に設置することは、特に、フルセル規模で水分解するための、電気化学セルを用いた標準的な手順である。したがって、触媒粉末の代わりにナノ構造メソポーラス触媒コーティングを有する三次元構造電極を電気化学セルに挿入することにつながる広範な(本発明の)検討が必要であった。
【0074】
ナノ構造メソポーラス触媒コーティングを含む電極は、実質的な利点を有する。したがって、メソポーラス触媒コーティングの種のより高い質量活性が判明している(
図4も参照されたい)。
【0075】
この種の電極は、多孔質又は開孔設計のために成分体積当たりの比表面積が特に大きく、さらに、完全な電気化学セルを安定化する高い機械的安定性を有するため、さらに有利である。
【0076】
ナノ構造メソポーラス触媒コーティングは、特に本質的な利点を有する。ハーフセルスケールでは、メソポーラステンプレート触媒コーティングは、例えばインクベースの方法で製造された同等の従来の触媒コーティングよりも電気化学的活性種の質量活性が明らかに高いことが判明している。触媒コーティングの好ましいメソポーラス設計は、テンプレート、好ましくは軟質テンプレートを使用することによる前段触媒の熱処理を用いて有利に製造された。
【0077】
さらに好ましい実施形態によれば、電極は、三次元構造金属基板がネット、発泡体、格子、織物及び/又はメッシュの形態をとることを特徴とする。
【0078】
異なる好ましい実施形態によれば、本発明は、バインダーを含まない触媒を含む電気化学セルに関する。
【0079】
好ましい一実施形態では、電気化学セルは、上述のタイプの電極を含む。本発明による電極は、特に、本質的に同質な細孔構造を有するバインダーを含まない触媒を有し、遊離体及び生成物の最適な材料輸送をもたらし、それに対応してより高い触媒活性をもたらすという利点を有する。
【0080】
電気化学セルは、好ましくは、電池、蓄電池、燃料電池、電気分解装置を含む群から選択される。
【0081】
本発明による電極は、塩素を生成するための電気分解に関連してさらに好ましく使用することができる。
【0082】
三次元構造基板は医療技術にも使用することができ、このような基板は熱処理の温度上昇に耐えることができることが不可欠である。このために、メソポーラス材料を活性成分担体として使用することができる。巨大分子は多孔質系に貯蔵され、適切な位置で活性剤として長期間にわたって分散されることができる。多孔度及び材料の目標とする調整の選択肢は、この場合に重要な利点である。
【0083】
図を用いて本発明をさらに説明するが、これらに限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】触媒コーティングされた三次元構造電極の好ましい製造方法の概略フローチャートである。
【0085】
【
図2】メソポーラス酸化イリジウムコーティングによるコーティングの前(a)と後(b)のチタンネットの比較を示すREM(走査型電子顕微鏡)画像である。
【0086】
【
図3】先行技術による方法と比較するための、触媒コーティングされた三次元構造電極の好ましい製造方法の概略フローチャートである。
【0087】
【
図4】水電気分解装置における2つの触媒系のシクロボルタメトリック(CV)測定としての電気触媒活性の図表示である。
【0088】
【
図5】塩素製造に使用されるメソポーラステンプレート触媒コーティングを有する電極ネットの、増加した触媒活性の図表示である。
【発明を実施するための形態】
【0089】
図1は、触媒コーティングされた三次元構造電極の好ましい製造方法の工程順を概略的に示す。この方法は、好ましくは、このために第1の方法工程の間に溶液が生成される、テンプレート支持浸漬コーティングプロセスを含む。溶液は、前駆体、溶媒及びテンプレートを含む。金属塩、例えばRu(OAc)
3又はIr(OAc)
3が前駆体として極めて好ましい。好ましくは、テンプレートにはミセル形成ブロックコポリマーが使用される。溶液の製造に続いて、三次元構造電極を溶液に浸漬し、電極表面を引き出したときに電極表面上にフィルムが形成され得る。溶媒は、好ましくは室温で既に蒸発しているため、短い間隔の後、電極表面は、一体化されたミセルを有する前段触媒を有する。ミセルの自己配列から出発して、三次元構造電極の表面に規則正しいナノ構造が形成される。最終熱処理中、前段触媒は触媒コーティングに変換される。熱処理は、ミセルを形成するテンプレートの焼却をもたらし、その結果、ナノ構造メソポーラス触媒コーティングが形成される。REM画像は、450℃で焼成された、チタンネット上のメソポーラステンプレートRulrTiO
xコーティングの上方からの図を示す。
【0090】
図2は、ガス拡散コーティングとして有利に使用することができるチタンネットのREM写真を示す。特に、画像は、メソポーラス酸化イリジウムコーティングによるコーティングの前(A)及び後(B)のチタンネットを示す。上記の画像は、ネットを50倍に拡大して示している。一方、以下の画像は、ネットを100000倍に拡大して示している。コーティングを空気中400℃で焼成した。
【0091】
図3は、先行技術による方法と対照した、触媒コーティングされた三次元構造電極の好ましい製造方法のための一連の工程を概略的に示す。先行技術では、インクは、好ましくはイソプロピル(
iPrOH)、ナフィオン、水、及び触媒粉末を含む分散液を超音波を用いて混合してインクを形成することで製造される。次いで、基板、例えばナフィオン膜を、好ましくは噴霧コーティングによってインクでコーティングする。最後の工程では、膜をフルセルスケールに挿入する。
【0092】
一方、本発明による方法は、浸漬コーティングの使用が好ましい。例えばエタノール、ミセル形成テンプレート及び貴金属塩、すなわちIr(OAc)3を含む懸濁液を最初に生成する。次いで、三次元基板を、上記の懸濁液を含む容器に浸漬する。懸濁液から三次元基板を引き出すことで、基板上に前段触媒コーティングをもたらす。次いで、熱処理を用いて触媒コーティングを形成し、最終方法工程の間に、三次元基板をフルセルスケールに挿入する。
【0093】
図4は、膜と接触しているアノードとしての、メソポーラス酸化イリジウムでコーティングされたCCG(触媒コーティングされたガス拡散層)の電極触媒活性を示す。膜をカソード側で標準Pt/C触媒でコーティングする(片面コーティングされたCCM)。この構成を、カソード側に同じPt/C触媒を有し、参照系としてバインダー含有Irコーティングを有する市販のCCM(触媒コーティングされた膜)と比較する(両面にコーティングされたCCM)。CCG系は、バインダー含有基準と比較した場合、およそ2倍の幾何学的電流密度を達成する。
【0094】
図5に示す点図の視覚化は、塩素製造に使用されるメソポーラステンプレート触媒コーティングを有する三次元構造電極の触媒活性の増加を示す。三次元構造電極が標準的な合成方法でコーティングされ、したがってテンプレートメソポーラス触媒コーティングを含まない参照触媒を、比較のために使用した。
【0095】
以下の限界条件を比較のために使用した:80℃;アノードでのNaCl(300g/l);カソードでのNaOH(400g/l);350mA/Cm2でのクロノポテンショメトリー測定;カソード:Niネット上の市販の触媒;膜:N982WX;アノード:Tiネット上の触媒コーティング。
【国際調査報告】