(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】HER2単一ドメイン抗体バリアントおよびそのCAR
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240130BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240130BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240130BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240130BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20240130BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240130BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240130BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240130BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240130BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240130BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240130BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240130BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240130BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240130BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240130BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240130BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240130BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240130BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240130BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/30 ZNA
C07K16/46
C12N15/62 Z
C07K14/725
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12Q1/04
C12N5/10
A61P35/00
A61P43/00 105
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K48/00
A61K45/00
A61K35/76
A61K35/12
A61P43/00 121
G01N33/574 A
G01N33/531 A
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542904
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2022050767
(87)【国際公開番号】W WO2022152862
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511300905
【氏名又は名称】アンスティテュ キュリー
(71)【出願人】
【識別番号】508192256
【氏名又は名称】サントレ ナスィヨナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック-セエヌエールエス
(71)【出願人】
【識別番号】523267092
【氏名又は名称】ホーニング バイオサイエンシズ
【氏名又は名称原語表記】HONING BIOSCIENCES
【住所又は居所原語表記】7 rue Beethoven, 75016 PARIS (FR)
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】ペレ、 フランク
(72)【発明者】
【氏名】モーテル、 サンドリン
(72)【発明者】
【氏名】ゴウヴェイア、 ゼリア
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA14
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ96
4B063QR48
4B063QS05
4B063QS10
4B063QS15
4B063QS33
4B063QS36
4B063QS38
4B063QX01
4B064AG20
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA05
4B064DA14
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA21
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE03
4C087AA01
4C087BB65
4C087BC83
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA50
4H045BA54
4H045BA71
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA51
4H045FA74
(57)【要約】
本発明はヒト化HER2単一ドメイン抗体およびそのバリアント、ならびに療法およびがん診断でのそれらの使用に関する。本発明は、最も詳細にはそれらの抗原結合性ドメインに前記ヒト化HER2 sdAbを含むキメラ抗原受容体、およびがん細胞療法におけるそれらの使用を提案する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2に対するヒト化合成単一ドメイン抗体(hssdAb)であって、前記HER2 sdAbは以下の式FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を有し、CDRは:
a.配列番号1のCDR1;配列番号2のCDR2および配列番号3のCDR3、
b.配列番号4のCDR1;配列番号5のCDR2および配列番号6のCDR3、
c.配列番号7のCDR1;配列番号8のCDR2および配列番号9のCDR3、
d.配列番号10のCDR1;配列番号11のCDR2および配列番号12のCDR3、
e.配列番号13のCDR1;配列番号14のCDR2および配列番号15のCDR3、または
f.配列番号16のCDR1;配列番号17のCDR2および配列番号18のCDR3、
から選択される、ヒト化合成単一ドメイン抗体。
【請求項2】
HER2に対するヒト化合成単一ドメイン抗体(hssdAb)であって:
・配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27および配列番号28からなる群から選択される配列;
・配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27および配列番号28からなる群から選択される配列と少なくとも90%の同一性を有する配列;
・配列番号1のCDR1;配列番号2のCDR2および配列番号3のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号4のCDR1;配列番号5のCDR2および配列番号6のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号7のCDR1;配列番号8のCDR2および配列番号9のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号10のCDR1;配列番号11のCDR2および配列番号12のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号13のCDR1;配列番号14のCDR2および配列番号15のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;または
・配列番号16のCDR1;配列番号17のCDR2および配列番号18のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの、
を有する、ヒト化合成単一ドメイン抗体。
【請求項3】
核酸、ポリペプチドまたはタンパク質、ウイルス、毒素および化学実体から選択される目的の化合物へ直接的または間接的に、共有結合または非共有結合で連結しており、
場合により、酵素、蛍光体、NMRまたはMRI造影剤、放射性同位体およびナノ粒子から選択される診断化合物へ直接的または間接的に、共有結合または非共有結合で連結し;
場合により、細胞傷害剤、化学療法剤、放射性同位体、標的化抗がん剤、免疫療法剤(免疫抑制薬または免疫刺激物質など)および溶解ペプチドから選択される治療化合物へ直接的または間接的に、共有結合または非共有結合で連結している、
請求項1~2のいずれか一項に記載のヒト化抗HER2 sdAb。
【請求項4】
免疫グロブリンドメインと融合し、場合によりFcドメインと融合している、請求項1~3のいずれか一項に記載のHER sdAb。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のHER sdAbに存在する少なくとも第1のsdAbを含み、およびポリペプチド、タンパク質または小分子から選択される抗原に対する少なくとも第2の抗原結合性化合物を含む多価結合性化合物であって、
場合により、前記少なくとも第2の抗原結合性化合物は同じかまたは異なる抗原に結合するsdAbであり;
場合により、前記第1のsdAbは前記第2のsdAbのN末端に位置するかまたは前記第1のsdAbは前記第2のsdAbのC末端に位置する、
多価結合性化合物。
【請求項6】
キメラ抗原受容体(CAR)であって、
(a)請求項1~4のいずれか一項に記載のHER sdAbに存在する少なくとも第1のsdAbを含む抗原結合性ドメインであって、前記sdAbが、請求項1のa、b、d~fに規定されるCDR配列を含むか、または配列番号23、配列番号24、配列番号26、配列番号27および配列番号28からなる群から選択される配列;
・配列番号23、配列番号24、配列番号26、配列番号27および配列番号28からなる群から選択される配列と少なくとも90%の同一性を有する配列;
・配列番号1のCDR1;配列番号2のCDR2および配列番号3のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号4のCDR1;配列番号5のCDR2および配列番号6のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号10のCDR1;配列番号11のCDR2および配列番号12のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;を有する抗原結合性ドメインと、
(b)膜貫通ドメイン;および(c)細胞内ドメインを含み、
場合により前記抗原結合性ドメインは第2の抗原に特異的に結合する第2のsdAbをさらに含み、
場合により前記膜貫通ドメインは、CD8ドメインの膜貫通ドメイン、CD3ゼータドメイン、CD28膜貫通ドメイン、DAP10膜貫通ドメインまたはDAP12膜貫通ドメインから選択され、
場合により前記細胞内ドメインは、CD28、OX40、CD3ゼータ、DAP10および/またはDAP12細胞内ドメインに由来する1つまたは複数の共刺激/活性化ドメインを含み、
場合により、CD3-ゼータ鎖、CD28、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、LAG3、TRIM、HVEM、ICOS、CD27および/またはCD40Lに由来する1つまたは複数の追加の活性化/共刺激ドメインを含む、キメラ抗原受容体。
【請求項7】
第2の抗原が、PSMA、PSCA、BCMA、CS1、GPC3、CSPG4、EGFR、HER3、CA125、CD123、5T4、IL-13R、CD2、CD3、CD16(FcγRIII)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD23、L1 CAM、MUC16、ROR1、SLAMF7、cKit、CD38、CD53、CD71、CD74、CD92、CD100、CD123、CD138、CD146(MUC18)、CD148、CD150、CD200、CD261、CD262、CD362、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、糖脂質F77、EGFRvlll、MART-1、gp100、GD-2、O-GD2、NKp46受容体、NY-ESO-1またはMAGE A3のような提示される抗原、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、チトクロームP4501 B1(CY1 B)、ウィルムの腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、アルファフェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、ムチン16、MUC1、p53、サイクリンおよび免疫チェックポイント標的またはその組合せから選択され得る、HER2以外の抗原から典型的にはなる群から選択される、請求項5に記載の多価結合性化合物または請求項6に記載のCAR。
【請求項8】
前記膜貫通ドメインはCD8、CD28、DAP10およびDAP12から選択され、前記細胞内ドメインは、CD3ゼータ鎖細胞内ドメイン、CD28細胞内ドメイン、4-1BB細胞内ドメイン;DAP10細胞内ドメインまたはDAP12細胞内ドメインから選択される群に由来する1つまたは複数のドメインを含み、場合により:
・CARは完全DAP12タンパク質、または前記DAP12タンパク質と少なくとも90%の同一性を有するその断片を含み、
・CARは完全DAP10タンパク質、または前記DAP10タンパク質と少なくとも90%の同一性を有するその断片、およびCD3ゼータ細胞内ドメインを含み、または
・CARは4-1BBおよびCD3ゼータ細胞内ドメインを含む、
請求項6または7に記載のCAR。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のヒト化抗HER2 sdAb、多価結合性化合物またはCARをコードする核酸配列を含む単離された核酸。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸を含むベクター。
【請求項11】
請求項9に記載の核酸または請求項10に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載のヒト化抗HER2 SdAb、多価結合性化合物またはCARを発現する単離細胞または細胞の集団であって;
場合により前記細胞は免疫細胞であり、
場合により前記細胞はマクロファージ、NK細胞、CD4+/CD8+、TIL/腫瘍由来のCD8T細胞、中心記憶CD8+T細胞、Treg、MAITおよびγδT細胞から選択される、単離細胞または細胞の集団。
【請求項13】
療法で使用するための、
場合によりそれを必要とする対象でがんの処置で使用するための、
場合によりがん細胞療法で使用するための、
場合により細胞は同種異系または自己由来であり、
場合によりヒト化抗HER2 sdAb、多価結合性化合物、CAR、核酸、ベクター、宿主細胞、単離細胞または細胞集団は少なくとも1つのさらなる治療剤と併用され、ここで前記少なくとも1つのさらなる治療剤は、抗がん剤、場合により化学療法剤または免疫療法剤であり、場合によりチェックポイント阻害剤である、
請求項1~8のいずれか一項に記載のヒト化抗HER2 SdAb、CAR、核酸、ベクター、宿主細胞、単離細胞または細胞集団。
【請求項14】
HER2媒介がんの検出またはモニタリングのための請求項3に記載のヒト化抗HER2 SdAbの使用。
【請求項15】
対象においてHER2媒介がんを診断またはモニタリングするためのin vitroまたはex vivo方法であって:
c)前記対象からの適当な試料を請求項3に記載の診断薬とin vitroで接触させるステップ、および
d)前記試料中のHER2の発現を決定するステップ
を含む、in vitroまたはex vivo方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗HER2単一ドメイン抗体(sdAb)およびそのバリアント、ならびに診断またはがん療法でのそれらの使用に関する。前記抗HER2-sdAbは、一般的に目的の化合物に直接的にもしくは非直接的に連結することができ、および/またはキメラ抗原受容体に含ませることができ、がん細胞療法、特に細胞性がん療法で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
別名ERBB2(ヒト)、がん原遺伝子Neu、またはさらにCD340(分化抗原群340)としても知られるHER2は、ヒト上皮増殖因子受容体(HER/EGFR/ERBB)ファミリーのメンバーである。HER2の過剰発現は細胞増殖および腫瘍形成と相関しており、様々ながん、例えば乳がんの概ね20%から30%、胃がんの約7%から34%および唾液腺管癌の約30%で起こる。HER2は様々な他のヒトがん、例えば卵巣、肺の腺癌、および侵襲性の強い子宮がんでさらに発現される(Burstein HJ。The distinctive nature of HER2-positive breast cancers、N Engl J Med.2005;353:1652~1654頁;Ruschoff Jら、HER2 testing in gastric cancer:a practical approach.Mod Pathol.2012;25:637~650頁;Meza-Junco J、Au HJ、Sawyer MB。Critical appraisal of trastuzumab in treatment of advanced stomach cancer、Cancer Manag Res.2011;3:57~64頁;Chiosea SIら、Molecular characterization of apocrine salivary duct carcinoma。Am J Surg Pathol.2015;39:744~752頁)。Her2陽性腫瘍は一般に、侵襲性の強いがんの形態および予後不良と相関する。腫瘍増殖を抑制するためにHer2活性をブロックするいくつかの治療方法、特にトラスツズマブなどのモノクローナル抗体(mAb)が開発されている(Santin ADら、Trastuzumab treatment in patients with advanced or recurrent endometrial carcinoma overexpressing HER2/neu。Int J Gynecol Obstet.2008;102:128~131頁;Vasconcellos FAら、Generation and characterization of new HER2 monoclonal antibodies。Acta Histochem.2013;115:240~244頁)。トラスツズマブおよび他のHER2向けの療法による処置は著しい有効性と関連しているが、乳がん患者の概ね20%に相当する最も高いレベルのHER2発現を有する患者だけが、応答する可能性を有する。さらに、高いレベルのHER2を発現する多くの患者は、最良のHER2向けの処置を受けるにもかかわらず進行または再発し、したがって新規の処置アプローチを必要とする。一部の患者にとっても、これらの治療法は著しい臨床受益を示し、それらの有効性は依然として様々かつ控えめであり、例えばHer2陽性頭頸部がんに対する利益はない(Pollock NI、Grandis JR.、HER2 as a therapeutic target in head and neck squamous cell carcinoma。Clin Cancer Res.2015;21:526~533頁;Wu X、Chen S、Lin Lら、A Single Domain-Based Anti-Her2 Antibody Has Potent Antitumor Activities。Transl Oncol.2018;11(2):366~373頁)。したがって、現行のHer2標的化療法を向上させるために新規の治療法を開発する必要性がある。
【0003】
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法の養子移入は、注目すべきことに、臨床試験で一連の劇的な奏効で血液悪性腫瘍の処置のために大きな有望性を示した潜在的免疫療法の1つである。残念ながら、血液悪性腫瘍の処置におけるCAR-T細胞療法によるブレークスルーは、固形腫瘍ではまだよく再現されていない(Y.Guo、Yら、Chimeric antigen receptor-modified T cells for solid tumors:challenges and prospects、J Immunol Res、2016;J.Liら、Chimeric antigen receptor T cell(CAR-T)immunotherapy for solid tumors:lessons learned and strategies for moving forward;J Hematol Oncol、11(2018)、22頁)。さらに、キメラ抗原受容体の設計で主に使用されるscFvは、CAR-Tの治療有効性に負の影響を与える可能性があるいくつかの特徴を示す。実際、scFvは特に、発現および安定性が低いという特徴があり、また、アンフォールディングおよび凝集を起こしやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、患者プロファイルの多様性だけでなく腫瘍の著しい変動性もカバーするために、腫瘍学における現行の治療ツールを向上および多様化させる不変の必要性が依然としてある。これは、HER2過剰発現に関係する侵襲性の強い腫瘍のために特に不可欠である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本出願は今般、高い親和性でHER2に特異的に結合する合成ヒト化単一ドメイン抗体を提供する。
【0006】
これらの単一ドメイン抗体(sdAb)は、(i)固形腫瘍に蓄積すること、および(ii)固形腫瘍で特に高い細胞傷害性を示すことが示された。それらの小さいサイズのために、および、固形腫瘍におけるそれらの高い透過能のおかげで、これらの抗体はさらに、腫瘍の検出およびモニタリングのための必須の診断ツールとなる。
【0007】
さらに、本開示は、CAR T細胞養子療法の現在の落し穴を解決することを目指した新規のキメラ抗原受容体を提供する。特に、本発明者らにより提供された結果は、本開示によって今般開発されたCARは、乳がんなどの固形腫瘍を標的にすること、およびin vivoで高い細胞傷害性を達成することを可能しながらも、古典的CAR設計で前に観察された毒性副作用を軽減することを実証する。
【0008】
したがって、本開示はHER2に対する単一ドメイン抗体(sdAb)に関し、ここで、前記HER2 sdAbは以下の式FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を有し、CDRは以下から選択される:
・配列番号1のCDR1;配列番号2のCDR2および配列番号3のCDR3、
・配列番号4のCDR1;配列番号5のCDR2および配列番号6のCDR3、
・配列番号7のCDR1;配列番号8のCDR2および配列番号9のCDR3、
・配列番号10のCDR1;配列番号11のCDR2および配列番号12のCDR3、
・配列番号13のCDR1;配列番号14のCDR2および配列番号15のCDR3、または
・配列番号16のCDR1;配列番号17のCDR2および配列番号18のCDR3。
【0009】
より詳細には、本発明は、以下を有するHER2に対するヒト化合成単一ドメイン抗体(hssdAb)に関する:
・配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27および配列番号28からなる群から選択される配列;
・配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27および配列番号28からなる群から選択される配列と少なくとも90%の同一性を有する配列;
・配列番号1のCDR1;配列番号2のCDR2および配列番号3のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号4のCDR1;配列番号5のCDR2および配列番号6のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号7のCDR1;配列番号8のCDR2および配列番号9のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号10のCDR1;配列番号11のCDR2および配列番号12のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号13のCDR1;配列番号14のCDR2および配列番号15のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;または
・配列番号16のCDR1;配列番号17のCDR2および配列番号18のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの。
【0010】
一部の実施形態では、ヒト化抗HER2 sdAbは、核酸、ポリペプチドまたはタンパク質、ウイルス、毒素および化学実体から選択される目的の化合物へ直接的または間接的に、共有結合または非共有結合で連結させることができ、
場合により前記抗HER2 sdAbは、酵素、蛍光体、NMRまたはMRI造影剤、放射性同位体およびナノ粒子から選択される診断化合物へ直接的または間接的に、共有結合または非共有結合で連結され;
場合により前記抗HER2 sdAbは、細胞傷害剤、化学療法剤、放射性同位体、標的化抗がん剤、免疫療法剤(免疫抑制薬または免疫刺激物質など)および溶解ペプチドから選択される治療化合物へ直接的または間接的に、共有結合または非共有結合で連結される。
【0011】
一部の実施形態では、本明細書に記載されるHER sdAbは免疫グロブリンドメイン、特にFcドメインに融合される。
【0012】
本発明は、本明細書に規定されるHER sdAbに存在する少なくとも第1のsdAbを含み、およびポリペプチド、タンパク質または小分子から選択される抗原に対する少なくとも第2の抗原結合性化合物を含む多価結合性化合物にさらに関し、
場合により、少なくとも第2の抗原結合性化合物は同じかまたは異なる抗原に結合するsdAbであり;
場合により、第1のsdAbは第2のsdAbのN末端に位置するかまたは第1のsdAbは第2のsdAbのC末端に位置する。
【0013】
本発明は、(a)本明細書に規定されるHER sdAbに存在する少なくとも第1のsdAbを含む抗原結合性ドメイン、(b)膜貫通ドメイン;および(c)細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)をさらに包含し、
場合により抗原結合性ドメインは第2の抗原に特異的に結合する第2のsdAbをさらに含む。
【0014】
好ましい実施形態では、sdAbは:
・配列番号1のCDR1;配列番号2のCDR2および配列番号3のCDR3、
・配列番号4のCDR1;配列番号5のCDR2および配列番号6のCDR3、
・配列番号10のCDR1;配列番号11のCDR2および配列番号12のCDR3、
・配列番号13CDR1;配列番号14のCDR2および配列番号15のCDR3、または
・配列番号16のCDR1;配列番号17のCDR2および配列番号18のCDR3、
から選択されるCDRを含むか、または以下から選択される配列を有する:
・配列番号23、配列番号24、配列番号26、配列番号27および配列番号28からなる群から選択される配列;
・配列番号23、配列番号24、配列番号26、配列番号27および配列番号28からなる群から選択される配列と少なくとも90%の同一性を有する配列;
・配列番号1のCDR1;配列番号2のCDR2および配列番号3のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号4のCDR1;配列番号5のCDR2および配列番号6のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号10のCDR1;配列番号11のCDR2および配列番号12のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号13のCDR1;配列番号14のCDR2および配列番号15のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;または
・配列番号16のCDR1;配列番号17のCDR2および配列番号18のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの。
【0015】
そのようなCARでは、膜貫通ドメインは、CD8ドメインの膜貫通ドメイン、CD3ゼータドメイン、CD28膜貫通ドメイン、DAP10膜貫通ドメインまたはDAP12膜貫通ドメインから選択することができ、細胞内ドメインは、CD28、OX40、CD3ゼータ、DAP10および/またはDAP12細胞内ドメインに由来する1つまたは複数のドメインを含むことができる。そのようなCARは、CD3-ゼータ鎖、CD28、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、LAG3、TRIM、HVEM、ICOS、CD27および/またはCD40Lに由来する1つまたは複数の追加の活性化/共刺激ドメインを含むこともできる。
【0016】
本発明の多価結合性化合物またはCARでは、第2の抗原はHER2抗原であってよいか(第1の結合性化合物に関しては異なるエピトープを有する)、または、PSMA、PSCA、BCMA、CS1、GPC3、CSPG4、EGFR、HER3、CA125、CD123、5T4、IL-13R、CD2、CD3、CD16(FcγRIII)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD23、L1 CAM、MUC16、ROR1、SLAMF7、cKit、CD38、CD53、CD71、CD74、CD92、CD100、CD123、CD138、CD146(MUC18)、CD148、CD150、CD200、CD261、CD262、CD362、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、糖脂質F77、EGFRvlll、MART-1、gp100、GD-2、O-GD2、NKp46受容体、NY-ESO-1またはMAGE A3のような提示される抗原、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、チトクロームP450 1 B1(CY1 B)、ウィルムの腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、アルファフェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、ムチン16、MUC1、p53、サイクリンおよび免疫チェックポイント標的、またはその組合せから選択される、HER2以外の抗原からなる群から選択することができる。
【0017】
本発明のCARの一部の実施形態では、膜貫通ドメインはCD8、CD28、DAP10およびDAP12から選択され、細胞内ドメインは、CD3ゼータ鎖細胞内ドメイン、CD28細胞内ドメイン、4-1BB細胞内ドメイン;DAP10細胞内ドメインまたはDAP12細胞内ドメインから選択される群に由来する1つまたは複数のドメインを含む。より詳細には、CARは以下を含むことができる:
・完全なDAP12タンパク質またはDAP12タンパク質と少なくとも90%の同一性を有するその断片、
・完全なDAP10タンパク質またはDAP10タンパク質と少なくとも90%の同一性を有するその断片およびCD3ゼータ細胞内ドメイン、または
・4-1BBおよびCD3ゼータ細胞内ドメイン。
【0018】
本発明は、ヒト化抗HER2 sdAbをコードする核酸配列、多価結合性化合物またはCARを含む単離された核酸、それを含むベクター、ならびに前記核酸および/またはベクターを含む宿主細胞も含む。
【0019】
本発明は、本明細書に記載されるヒト化抗HER2 SdAb、多価結合性化合物またはCARを発現する単離細胞または細胞の集団を含み、ここで細胞は一般的に免疫細胞であり、より詳細には免疫細胞はマクロファージ、NK細胞、CD4+/CD8+、TIL/腫瘍由来のCD8 T細胞、中心記憶CD8+ T細胞、Treg、MAITおよびγδT細胞から選択される。
【0020】
ヒト化抗HER2 SdAb、CAR、核酸、ベクター、宿主細胞、単離細胞または細胞集団は、療法で、特にそれを必要とする対象でのがんの処置で使用することができる。より詳細には、ヒト化抗HER2 SdAb、CAR、核酸、ベクター、宿主細胞、単離細胞または細胞集団は、がん細胞療法で使用することができる。そのような実施形態では、細胞は同種異系または自己由来であってよい。
【0021】
一部の実施形態では、上記のように療法で使用されるヒト化抗HER2 sdAb、多価結合性化合物、CAR、核酸、ベクター、宿主細胞、単離細胞または細胞集団は、少なくとも1つのさらなる治療剤と一緒に投与され、ここで前記少なくとも1つのさらなる治療剤は、抗がん剤、場合により化学療法剤または免疫療法剤であり、場合によりチェックポイント阻害剤である。
【0022】
本発明はHER2媒介がんの検出またはモニタリングのための、本明細書に規定されるヒト化抗HER2 SdAbの使用も包含する。
【0023】
したがって、本発明は、対象においてHER2媒介がんを診断またはモニタリングするための、以下のステップを含むin vitroまたはex vivo方法を含む:
a)前記対象からの適当な試料を診断化合物に連結させた本開示のヒト化抗HER2 sdAbとin vitroで接触させるステップ、および
b)前記試料中のHER2の発現を決定するステップ。
【0024】
詳細な説明
定義:
本明細書で使用される用語は特定の実施形態を記載することだけが目的であり、網羅的なものではない。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、文脈上明らかに別のことを指示しない限り、単数形「a」、「an」および「the」には複数形が含まれる点に注意しなければならない。
【0025】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」または「含有する(containing)」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加の列挙されていない部材も、要素も方法ステップも排除しない。
【0026】
具体的に明記されないかまたは文脈から明らかでない限り、本明細書で使用されるように用語「約」は、当技術分野での正常な許容範囲内に、例えば平均から2標準偏差内にあると理解すべきである。約とは、明記される値から20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%または0.01%以内にあると理解することができる。状況から明らかでない限り、本明細書で提供される全ての数値は用語約によって修飾される。
【0027】
本明細書で使用されるように、用語「単離された」は、(1)最初に生成された(天然または実験的な設定であるかどうかにかかわらず)ときにそれが関連していた構成成分の少なくとも一部から分離されている、および(2)人の手によって生成、調製および/または製造された物質または実体を指す。単離された物質および/または実体は、それらが最初に関連していた他の構成成分の少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%またはそれ以上から分離することができる。一部の実施形態では、単離された薬剤は、約80%を超えて、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約99%を超えて純粋である。本明細書で使用されるように、物質が他の構成成分を実質的に含まない場合、その物質は「純粋」である。
【0028】
単離された核酸、タンパク質、ポリペプチドおよび抗体を含む本開示の「単離された」生成物は、天然の生成物でない(すなわち、「天然に存在しない」)。むしろ、本開示の「単離された」核酸、タンパク質、ポリペプチドおよび抗体は、「人工」生成物である。本開示の「単離された」生成物は、天然の生成物と「著しく異なる」かまたは「有意に異なる」ことができる。非限定的な例として、単離された核酸は、精製されたもの、組換えられたもの、合成されたもの、標識されたもの、および/または固体基質に結合されたものであってよい。そのような核酸は、天然に存在する核酸と著しく異なるかまたは有意に異なることができる。さらなる非限定的な例として、本開示の「単離された」タンパク質、ポリペプチドおよび抗体は、精製されたもの、組換えられたもの、合成されたもの、標識されたもの、および/または固体基質に結合されたものであってよい。そのようなタンパク質、ポリペプチドおよび抗体は、天然に存在するタンパク質、ポリペプチドおよび抗体と著しく異なるかまたは有意に異なることができる。
【0029】
用語「ポリヌクレオチド」、「核酸分子」、「核酸」または「核酸配列」は、長さが少なくとも10塩基のポリマー形のヌクレオチドを指す。本用語は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムもしくは合成DNA)およびRNA分子(例えば、mRNAまたは合成RNA)、ならびに非天然のヌクレオチド類似体、本来のものでないヌクレオシド間結合、または両方を含有するDNAまたはRNAの類似体を含む。核酸は、任意のトポロジーコンフォメーションであってよい。例えば、核酸は一本鎖、二本鎖、三本鎖、4重、部分的二本鎖、分枝状、ヘアピン、環状またはパドロックされたコンフォメーションであってよい。核酸(ポリヌクレオチドとも呼ばれる)は、RNA、cDNA、ゲノムDNA、ならびに上記の合成形および混合ポリマーのセンスおよびアンチセンス鎖を含むことができる。当業者によって容易に理解されるように、それらは化学的もしくは生化学的に改変されてもよいか、または非天然もしくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含有することができる。そのような改変には、例えば、標識、メチル化、天然に存在するヌクレオチドの1つまたは複数の類似体による置換、ヌクレオチド間改変、例えば非荷電連結(例えば、ホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カルバメート等)、荷電連結(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)、ペンダント部分(例えば、ポリペプチド)、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレン等)、キレーター、アルキル剤、および改変された連結(例えば、アルファアノマー核酸等)が含まれる。さらに、水素結合および他の化学的相互作用を通して指定された配列に結合するそれらの能力においてポリヌクレオチドを模倣する合成分子も含まれる。そのような分子は当技術分野で公知であり、例えば、分子の主鎖においてペプチド結合がリン酸結合を置換するものが含まれる。他の改変には、例えば、リボース環が架橋部分または他の構造、例えば「ロックされた」核酸に見出される改変を含有する類似体を含めることができる。
【0030】
「合成」RNA、DNAまたは混合ポリマーは、細胞の外で作製されるもの、例えば化学合成されるものである。
【0031】
本明細書で使用される用語「核酸断片」は、完全長参照ヌクレオチド配列と比較して欠失、例えば5’末端または3’末端の欠失を有する核酸配列を指す。一実施形態では、核酸断片は、断片のヌクレオチド配列が天然に存在する配列の対応する位置と同一である連続した配列である。一部の実施形態では、断片は少なくとも10、15、20もしくは25ヌクレオチドの長さであるか、または少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140もしくは150ヌクレオチドの長さである。一部の実施形態では、核酸配列の断片は、オープンリーディングフレーム配列の断片である。一部の実施形態では、そのような断片は、オープンリーディングフレームヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質のポリペプチド断片(本明細書に規定される)をコードする。
【0032】
核酸は精製することができる。好ましくは、精製された核酸は、50%、75%、85%、90%、95%、97%、98%または99%を超えて純粋である。本開示の文脈の範囲内で、少なくとも50%純粋である精製された核酸とは、50%未満の他の核酸を含有する精製された核酸試料を意味する。例えば、あるプラスミド試料は、それが1%未満の汚染細菌DNAを含有する場合、少なくとも99%純粋でありえる。
【0033】
核酸との関連で用語「作動可能に連結された」は、2つ以上のポリヌクレオチド(例えば、DNA)セグメントの間の機能的関係を指す。一般的に、それは転写される配列との転写調節配列の機能的関係を指す。例えば、プロモーターまたはエンハンサー配列は、それが適当な宿主細胞または他の発現系でコード配列の転写を刺激またはモジュレートする場合、コード配列に作動可能に連結されている。一般的に、転写される配列へ作動可能に連結されるプロモーター転写調節配列は、転写される配列に物理的に連続している、すなわち、それらはシス作用性である。しかし、エンハンサーなどの一部の転写調節配列は、その転写をそれらが増強するコード配列に物理的に連続している必要性もそれに近接して位置する必要性もない。
【0034】
用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すものとして本明細書で互換的に使用される。本用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工の化学模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーおよび天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。別途示さない限り、特定のポリペプチド配列は、保存的に改変されたそのバリアントも黙示的に包含する。さらに、ポリペプチドは、各々1つまたは複数の異なる活性を有するいくつかの異なるドメインを含むことができる。疑いを避けるため、「ポリペプチド」は2アミノ酸を超える任意の長さであってよい。
【0035】
本明細書で使用される用語「ペプチド」は、短いポリペプチド、例えば一般的に約50アミノ酸未満、より一般的には約30アミノ酸未満を含有するものを指す。本明細書で使用されるこの用語は、類似体、および構造的したがって生物学的機能を模倣する模倣体を包含する。
【0036】
用語「単離されたタンパク質」または「単離されたポリペプチド」は、誘導のその起源または供給源の理由で、(1)その天然の状態でそれに付随している天然に結合している構成成分に結合していないか、(2)天然に見出されない純度で存在するか、この場合、純度は他の細胞物質の存在に対して調整することができる(例えば、同じ種からの他のタンパク質を含有しない)、(3)異なる種からの細胞によって発現されるか、または(4)天然に存在しない(例えば、それは天然に見出されるポリペプチドの断片であるか、またはそれは天然に見出されないアミノ酸類似体もしくは誘導体を含むか、標準のペプチド結合以外の連結を含む)タンパク質またはポリペプチドである。したがって、化学合成されるかまたはそれが天然に由来する細胞と異なる細胞機構で合成されるポリペプチドは、その天然に結合している構成成分から「単離される」。ポリペプチドまたはタンパク質は、当技術分野で周知であるタンパク質精製技術を使用して、単離によって天然に結合している構成成分を実質的に含有しないようにすることもできる。このように規定されるように、「単離された」は、このように記載されるタンパク質、ポリペプチド、ペプチドまたはオリゴペプチドが、それが合成された細胞から物理的に取り出されることを必ずしも必要とするとは限らない。
【0037】
タンパク質またはポリペプチドは、精製することができる。好ましくは、精製されたタンパク質またはポリペプチドは、50%、75%、85%、90%、95%、97%、98%または99%を超えて純粋である。本開示との関連で、50%(等)を超えて純粋である精製されたタンパク質とは、50%(等)未満の他のタンパク質を含有する精製されたタンパク質試料を意味する。例えば、あるタンパク質試料は、それが1%未満の夾雑宿主細胞タンパク質を含有する場合、少なくとも99%純粋でありえる。
【0038】
本明細書で使用される用語「ポリペプチド断片」は、天然に存在するタンパク質などの完全長ポリペプチドと比較して欠失、例えばアミノ末端および/またはカルボキシ末端の欠失を有するポリペプチドを指す。一実施形態では、ポリペプチド断片は、断片のアミノ酸配列が天然に存在する配列の対応する位置と同一である連続した配列である。断片は、一般的に少なくとも5、6、7、8、9もしくは10アミノ酸の長さ、または少なくとも12、14、16もしくは18アミノ酸の長さ、または少なくとも20アミノ酸の長さ、または少なくとも25、30、35、40もしくは45アミノ酸、または少なくとも50もしくは60アミノ酸の長さ、または少なくとも70アミノ酸の長さ、または少なくとも100アミノ酸の長さである。
【0039】
用語「パーセント同一」または「パーセント同一性」は、2つ以上の核酸またはポリペプチド配列との関連で、同じである2つ以上の配列または部分配列の程度を指す。2つの配列は、それらが比較されている領域にわたってアミノ酸またはヌクレオチドの同じ配列を有する場合、「同一である」。比較ウインドウまたは指定領域にわたって最大対応のために比較し、整列させたとき、以下の配列比較アルゴリズムを使用して、または手動アラインメントおよび目視検査によって測定したとき、2つの配列が同じであるアミノ酸残基またはヌクレオチドの指定されたパーセンテージを有する場合(すなわち、指定された領域にわたって、または指定されない場合配列全体にわたって60%の同一性、場合により65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性)、2つの配列は「実質的に同一である」。場合により、同一性は、長さが少なくとも約30ヌクレオチド(または、10アミノ酸)である領域、より好ましくは長さが100から500または1000、またはそれ以上のヌクレオチド(または、20、50、200またはそれ以上のアミノ酸)である領域の上に存在する。
【0040】
配列比較のために、一般的に1つの配列が参照配列としての働きをし、それに対して試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験および参照配列がコンピュータに入れられ、必要に応じて部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。デフォルトプログラムパラメータを使用することができ、または代替パラメータを指定してもよい。配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づいて参照配列と比較した試験配列のパーセント配列同一性を次に計算する。
【0041】
本明細書で使用されるように、「比較ウインドウ」は、2つの配列を最適に整列させた後に同じ数の連続した位置の参照配列とある配列を比較することができる、20~600、普通約50~約200、より普通には約100~約150からなる群から選択される連続した位置の数のいずれか1つのセグメントへの言及を含む。比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野で周知である。比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、SmithおよびWaterman、Adv.Appl.Math.2:482c(1970)のローカルホモロジーアルゴリズムによって、NeedlemanおよびWunsch、J.Mol.Biol.48:443(1970)のホモロジーアラインメントアルゴリズムによって、PearsonおよびLipman、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性検索方法によって、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実行(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Dr.、Madison、WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)によって、または手動アラインメントおよび目視検査によって(例えば、Brentら、Current Protocols in Molecular Biology、2003を参照する)実行できる。
【0042】
パーセント配列同一性および配列類似性を決定するのに好適であるアルゴリズムの2つの例は、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムであり、これらは、Altschulら、Nuc.Acids Res.25:3389~3402頁、1977;およびAltschulら、J.Mol.Biol.215:403~410頁、1990、にそれぞれ記載されている。BLAST分析を実行するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通して公開されている。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードと整列させた場合に、いくつかの正の値の閾値スコアTにマッチするかまたはそれを満たす、長さWの短いワードをクエリー配列中で同定することによってハイスコアの配列対(HSP)を最初に同定することを含む。Tは、近傍ワードスコア閾値(Altschulら、前掲)と呼ばれる。これらの初期近傍ワードヒットは、それらを含むより長いHSPを見出す検索を開始するためのシードとして機能する。ワードヒットは、累積アラインメントスコアを増加させることができる限り、各配列に沿って両方向に延長させられる。累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合、パラメータM(マッチした残基の対のためのリワードスコア;常に>0)およびN(ミスマッチ残基のためのペナルティスコア;常に<0)を使用して計算される。アミノ酸配列の場合、累積スコアを計算するためにスコアリングマトリックスが使用される。各方向へのワードヒットの延長は、次の場合に停止される:累積アラインメントスコアがその最大達成値から量X落ちる;1つまたは複数の負のスコアの残基アラインメントの蓄積のために、累積スコアがゼロまたはそれより小さくなる;または、いずれかの配列の末端に到達する。BLASTアルゴリズムのパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)は、デフォルトとして11のワードレンス(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両方の鎖の比較を使用する。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムは、デフォルトとして3のワードレンス、10の期待値(E)、および50のBLOSUM62スコアリングマトリックス(HenikoffおよびHenikoff、(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915を参照する)アラインメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両方の鎖の比較を使用する。BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計分析も実行する(例えば、KarlinおよびAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873~5787頁、1993、を参照する)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1つの尺度は、最小和確率(P(N))であり、それは2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間のマッチが偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、試験核酸の参照核酸との比較における最小和確率が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、核酸は参照配列に類似しているとみなされる。
【0043】
2つのアミノ酸配列の間のパーセント同一性は、PAM120ウェイトレジヂュ表、ギャップレングスペナルティ12およびギャップペナルティ4を使用した、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれたE.MeyersおよびW.Miller、Comput.Appl.Biosci.4:11~17頁、1988)、のアルゴリズムを使用して決定することもできる。さらに、2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)中のGAPプログラムに組み込まれているNeedlemanおよびWunsch、J.Mol.Biol.48:444~453頁、1970)、のアルゴリズムを使用し、Blossom62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、ならびに16、14、12、10、8、6または4のギャップウェイトおよび1、2、3、4、5または6のレングスウェイトを使用して決定することができる。
【0044】
上記の配列同一性のパーセンテージ以外に、2つの核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一であることの別の指標は、第1の核酸によってコードされるポリペプチドが、下記のように第2の核酸によってコードされるポリペプチドに対する抗体と免疫学的に交差反応性であることである。したがって、例えば、2つのペプチドが保存的置換だけが異なる場合、ポリペプチドは一般的に第2のポリペプチドと実質的に同一である。2つの核酸配列が実質的に同一であることの別の指標は、下記のようにストリンジェントな条件下で2つの分子またはそれらの相補体が互いとハイブリダイズすることである。2つの核酸配列が実質的に同一であることの別の指標は、配列を増幅させるために同じプライマーを使用することができることである。
【0045】
本明細書で使用されるように、「機能的バリアント」または所与のタンパク質は、所与のタンパク質の機能を保存する前記タンパク質の野生型バージョン、同じファミリーに属するバリアントタンパク質、ホモログタンパク質またはトランケーションバージョンを含む。一般的に、機能的バリアントは、所与のタンパク質と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%のアミノ酸同一性を示す。
【0046】
本明細書で使用されるように、用語「哺乳動物」は、胎盤哺乳動物および有袋哺乳動物を含む分類哺乳動物綱の任意のメンバーを指す。したがって、「哺乳動物」にはヒト、霊長類、畜産動物および実験哺乳動物が含まれる。例示的な哺乳動物には、齧歯動物、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、ラマ、ウシ、霊長類、ブタおよび任意の他の哺乳動物が含まれる。一部の実施形態では、哺乳動物はトランスジェニック哺乳動物、遺伝子操作哺乳動物およびクローン哺乳動物のうちの少なくとも1つである。
【0047】
本開示により、用語「疾患」は、任意の病理状態、例えばがん疾患、特に本明細書に記載されるがん疾患の形を指す。
【0048】
用語「正常」は、健康な状態または健康な対象もしくは組織における状態、すなわち非病的な状態を指し、ここで「健康な」は好ましくは非がん性を意味する。
【0049】
用語「悪性腫瘍」は、非良性腫瘍またはがんを指す。本明細書で使用されるように、用語「がん」は、脱調節されたか無制御の細胞増殖によって特徴付けられる悪性腫瘍を含む。
【0050】
用語「がん」は、原発性悪性腫瘍(例えば、その細胞が元の腫瘍部位以外の対象の体の部位へ移動していないもの)および二次性悪性腫瘍(例えば、転移、元の腫瘍部位と異なる二次部位への腫瘍細胞の移動、から生じるもの)を含む。
【0051】
がんは腫瘍に似ている細胞のタイプ、したがって腫瘍の起源であると推定される組織によって分類される。これらは、それぞれ組織学および位置である。
【0052】
本開示による用語「がん」は、特に白血病、セミノーマ、黒色腫、テラトーマ、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫および肉腫を含む。用語がんは、直腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん、副腎がん、甲状腺がん、血液がん、皮膚がん、脳のがん、子宮頸がん、腸管がん、肝がん、結腸がん、胃がん、腸がん、頭頸部がん、胃腸がん、リンパ節がん、食道がん、結腸直腸がん、膵がん、耳、鼻および咽喉(ENT)がん、乳がん、前立腺がん、子宮がん、卵巣がんおよび肺がん、軟組織腫瘍およびそれらの転移を特に含む。本開示による用語がんは、がん転移およびがん再発も含む。
【0053】
本開示による「腫瘍の増殖」または「腫瘍増殖」は、そのサイズを増加させる腫瘍の傾向および/または増殖する腫瘍細胞の傾向に関する。
【0054】
本開示のために、用語「がん」および「がん疾患」は、用語「腫瘍」および「腫瘍疾患」と互換的に使用される。
【0055】
「処置する」は、対象の腫瘍のサイズまたは腫瘍の数を低減することを含む、疾患を予防または排除するために;対象で疾患を阻止するか遅らせるために;対象で新規疾患の発達を阻害するか遅らせるために;疾患を現在有するか前にもっていた対象で症状および/もしくは再発の頻度もしくは重症度を低減させるために;および/または対象の寿命を延長する、すなわち増加させるために、対象へ本明細書に記載される化合物または組成物を投与することを意味する。特に、用語「疾患の処置」は、疾患またはその症状を治癒すること、持続時間を短縮すること、改善すること、予防すること、進行もしくは悪化を遅らせるか阻害すること、またはその開始を阻止するか遅らせることを含む。
【0056】
本明細書に記載される治療的に活性な薬剤または製品、ワクチンおよび組成物は、注射または注入を含む任意の従来の経路を通して投与することができる。
【0057】
本明細書に記載される薬剤は、有効量で投与される。「有効量」は、単独でまたはさらなる投与と一緒に所望の反応または所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患または特定の状態の処置の場合、所望の反応は好ましくは疾患の経過の阻害に関連する。これは、疾患の進行を遅くすること、特に疾患の進行を遮断または覆すことを含む。疾患または状態の処置における所望の反応は、前記疾患または前記状態の開始の遅延または開始の予防であってもよい。本明細書に記載される薬剤の有効量は、処置される状態、疾患の重症度、年齢、生理的状態、サイズおよび体重を含む患者の個々のパラメータ、処置の持続時間、付随する療法(あるならば)のタイプ、具体的な投与経路および類似の因子に依存する。したがって、本明細書に記載される薬剤の投与用量は、そのようなパラメータのいくつかに依存する可能性がある。患者における反応が初期の用量で不十分な場合には、より高い用量(または、異なるより局在化された投与経路によって達成される効果的により高い用量)を使用することができる。
【0058】
本明細書に記載される医薬組成物は好ましくは無菌であり、所望の反応または所望の効果をもたらすための治療活性物質の有効な量を含有する。
【0059】
本明細書に記載される医薬組成物は、薬学的に適合する量で、および薬学的に適合する製剤で一般的に投与される。用語「薬学的に適合する」は、医薬組成物の活性構成成分の作用と相互作用しない無毒物質を指す。この種類の製剤は、通常塩、バッファー物質、保存剤、担体、免疫増強補助物質、例えばアジュバント、例えばCpGオリゴヌクレオチド、サイトカイン、ケモカイン、サポニン、GM-CSFおよび/またはRNA、および該当する場合は他の治療活性化合物を含有することができる。医療で使用される場合、塩は薬学的に適合するべきである。
【0060】
単一ドメイン抗体およびそのバリアント
本明細書で使用されるように、用語「HER2」は当技術分野でのその一般的な意味を有し、ヒトHER2(「受容体チロシン-プロテインキナーゼerbB-2」とも呼ばれる)、特にヒトHER2の天然配列ポリペプチド、アイソフォーム、キメラポリペプチド、全てのホモログ、断片および前駆体を含む。天然のHER2のアミノ酸配列には、UniProt参照P04626(ERBB2_HUMAN)が含まれる。
【0061】
より具体的には、用語「HER2」には、以下の配列番号29>sp|P04626|ERBB2_HUMAN受容体チロシン-プロテインキナーゼerbB-2 OS=Homo sapiens OX=9606 GN=ERBB2 PE=1 SV=1のヒトHER2が含まれる。
MELAALCRWGLLLALLPPGAASTQVCTGTDMKLRLPASPETHLDMLRHLYQGCQVVQGNLELTYLPTNASLSFLQDIQEVQGYVLIAHNQVRQVPLQRLRIVRGTQLFEDNYALAVLDNGDPLNNTTPVTGASPGGLRELQLRSLTEILKGGVLIQRNPQLCYQDTILWKDIFHKNNQLALTLIDTNRSRACHPCSPMCKGSRCWGESSEDCQSLTRTVCAGGCARCKGPLPTDCCHEQCAAGCTGPKHSDCLACLHFNHSGICELHCPALVTYNTDTFESMPNPEGRYTFGASCVTACPYNYLSTDVGSCTLVCPLHNQEVTAEDGTQRCEKCSKPCARVCYGLGMEHLREVRAVTSANIQEFAGCKKIFGSLAFLPESFDGDPASNTAPLQPEQLQVFETLEEITGYLYISAWPDSLPDLSVFQNLQVIRGRILHNGAYSLTLQGLGISWLGLRSLRELGSGLALIHHNTHLCFVHTVPWDQLFRNPHQALLHTANRPEDECVGEGLACHQLCARGHCWGPGPTQCVNCSQFLRGQECVEECRVLQGLPREYVNARHCLPCHPECQPQNGSVTCFGPEADQCVACAHYKDPPFCVARCPSGVKPDLSYMPIWKFPDEEGACQPCPINCTHSCVDLDDKGCPAEQRASPLTSIISAVVGILLVVVLGVVFGILIKRRQQKIRKYTMRRLLQETELVEPLTPSGAMPNQAQMRILKETELRKVKVLGSGAFGTVYKGIWIPDGENVKIPVAIKVLRENTSPKANKEILDEAYVMAGVGSPYVSRLLGICLTSTVQLVTQLMPYGCLLDHVRENRGRLGSQDLLNWCMQIAKGMSYLEDVRLVHRDLAARNVLVKSPNHVKITDFGLARLLDIDETEYHADGGKVPIKWMALESILRRRFTHQSDVWSYGVTVWELMTFGAKPYDGIPAREIPDLLEKGERLPQPPICTIDVYMIMVKCWMIDSECRPRFRELVSEFSRMARDPQRFVVIQNEDLGPASPLDSTFYRSLLEDDDMGDLVDAEEYLVPQQGFFCPDPAPGAGGMVHHRHRSSSTRSGGGDLTLGLEPSEEEAPRSPLAPSEGAGSDVFDGDLGMGAAKGLQSLPTHDPSPLQRYSEDPTVPLPSETDGYVAPLTCSPQPEYVNQPDVRPQPPSPREGPLPAARPAGATLERPKTLSPGKNGVVKDVFAFGGAVENPEYLTPQGGAAPQPHPPPAFSPAFDNLYYWDQDPPERGAPPSTFKGTPTAENPEYLGLDVPV
【0062】
用語「抗体」は、広義には、4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖で構成される任意の免疫グロブリン(Ig)分子、またはその抗原結合性部分、またはIg分子の必須のエピトープ結合特性を保持するその任意の機能的断片、突然変異体、バリアントもしくは誘導体を指す。そのような突然変異体、バリアントまたは誘導体の抗体フォーマットは、当技術分野で公知である。完全長抗体では、各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書でHCVRまたはVHと略す)および重鎖定常領域で構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書でLCVRまたはVLと略す)および軽鎖定常領域で構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLで構成される。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域が間に散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分化することができる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順序で配置される、3つのCDRおよび4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。免疫グロブリン分子は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgAIおよびIgA2)またはサブクラスであってよい。
【0063】
抗体断片は、例えばF(ab’)2、Fab、Fv、sFvなどのような抗体の部分である。完全長抗体の機能的断片は、完全長抗体の標的特異性を保持する。したがって、mAbに基づく治療法に代わる治療法を開発するために、Fab(断片、抗体)、scFv(単鎖可変鎖断片)および単一ドメイン抗体(dAb)などの組換え機能的抗体断片が使用されている。scFv断片(概ね25kDa)は、2つの可変ドメイン、VHおよびVLからなる。当然、VHおよびVLドメインは疎水性相互作用を通して非共有結合をしており、解離する傾向がある。しかし、ドメインを親水性フレキシブルリンカーに連結して単鎖Fv(scFv)を作製することによって、安定した断片を工学操作することができる。最小の抗原結合性断片は、単一の可変断片、すなわちVHまたはVLドメインである。軽鎖/重鎖パートナーのそれぞれへの結合は、標的結合のために必要とされない。そのような断片は、単一ドメイン抗体で使用される。したがって、単一ドメイン抗体(12~15kDa)はVHまたはVLドメインのいずれかを有する。
【0064】
本明細書で使用されるように、用語「単一ドメイン抗体」(sdAb)またはnanobody(登録商標)(Ablynxの商品名)は、当技術分野でのその一般的な意味を有し、ラクダ科の哺乳動物で見出され、軽鎖が天然に欠けているタイプの抗体の単一の重鎖可変ドメインからなる、わずか12~15kDaの分子量を有する抗体断片を指す。したがって、一部の実施形態では、そのような単一ドメイン抗体はVHHであってよい。(単一)ドメイン抗体の一般的な記載のために、上で引用した先行技術、ならびにEP0368684、Wardら(Nature 1989年10月12日;341(6242):544~6頁)、Holtら、Trends Biotechnol、2003、21(11):484~490頁;およびWO06/030220、WO06/003388も参照する。単一ドメイン抗体のアミノ酸配列および構造は、当技術分野で、および本明細書において、それぞれ「フレームワーク領域1」すなわち「FR1」、「フレームワーク領域2」すなわち「FR2」、「フレームワーク領域3」すなわち「FR3」、および「フレームワーク領域4」すなわち「FR4」と呼ばれる4つのフレームワーク領域すなわち「FR」で構成されると考えることができ、そのフレームワーク領域は3つの相補決定領域すなわち「CDR」によって割り込まれ、それらは当技術分野で、それぞれ「相補性決定領域1」すなわち「CDR1」、「相補性決定領域2」すなわち「CDR2」および「相補性決定領域3」すなわち「CDR3」と呼ばれる。したがって、単一ドメイン抗体は、一般構造:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を有するアミノ酸配列と規定することができ、FR1からFR4はそれぞれフレームワーク領域1から4を指し、CDR1からCDR3は相補性決定領域1から3を指す。本開示との関連で、単一ドメイン抗体のアミノ酸残基は、International ImMunoGeneTics情報システムアミノ酸番号付け(http://imgt.cmes.fr/)によって与えられる、VHドメインのための一般的な番号付けによって番号付けされる。
【0065】
本明細書で使用されるように「単離されたsdAb」は、他の抗体、特に異なる抗原特異性を有する他のsdAbが実質的に含まれない単一ドメイン抗体(sdAb)を指す(例えば、HER2に特異的に結合する単離された抗体は、HER2以外の抗原に特異的に結合する抗体が実質的に含まれない)。さらに、単離された抗体は、他の細胞物質および/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0066】
本明細書で使用されるように、用語「合成」は、そのような抗体は天然に存在する抗体の断片から得られていないが、人工コード配列を含む組換え核酸から生成されたことを意味する。
【0067】
本明細書で使用されるように、用語抗HER2抗体または抗HER2 sdAbは、HER2タンパク質に向けられる、特に配列番号29のヒトHER2タンパク質に向けられる抗体またはsdAbの用語と同じ意味を有する。
【0068】
sdAb親和性は、sdAbがその抗原結合性部位(パラトープ)を通して、抗原の上に提示されるエピトープ、例えば本開示のHER2に結合する強さを指す。親和性は、KD値の調査に基づいて調査することができる。
【0069】
本明細書で使用されるように、用語「KD」は、koffのkonとの比(すなわちkoff/kon)から得られ、モル濃度(M)で表される、平衡解離定数を指すものである。KD値は抗体の濃度(特定の実験のために必要とされる抗体の量)に関連し、したがって、KD値がより低い(より低い濃度)ほど抗体の親和性はより高い。抗体のKD値は、当技術分野で十分に確立されている方法を使用して決定することができる。mAbのKD値を決定する方法は、Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1988;Coliganら編、Current Protocols in Immunology、Greene Publishing Assoc.and Wiley Interscience、N.Y.、1992、1993、およびMuller、Meth.Enzymol.92:589~601頁、1983、に見出すことができ、これらの参考文献は参照により本明細書に完全に組み込まれる。親和性測定は、一般的に25℃で実行される。本明細書で使用される用語「kassoc」または「ka」または「kon」は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を指すものであり、本明細書で使用される用語「kdis」または「kd」または「koff」は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指すものである。抗体のKDを決定する方法は、表面プラズモン共鳴を使用すること、またはBiacore(登録商標)などのバイオセンサーシステムを使用することによる(親和性調査に関する詳細な情報についてはRich RLら、Anal Biochem、2001も参照するが、sdAbの親和性測定の特定の実行についてのさらなる詳細についてはMoutel Sら、eLife 2016;5:e16228も参照する)。簡潔には、sdAbはそれらのそれぞれの抗原より小さいタンパク質であるので、それらはBiocoreバイオセンサー機器からのセンサーシップの上で捕捉することができ、組換え抗原(すなわち、一般的にrHER2)は分析物として使用することができる。分析物は、注射から注射の間でセンサーシップの再生なしで、単一のサイクルで例えば3.125nM~50nMの範囲で増加する濃度で逐次的に注射することができる。結合パラメータは、オーバレイされたセンサーグラムを1:1であてはめることによって得ることができる。BIAevalutationソフトウェアのラングミュア結合モデル。
【0070】
親和性測定は、バイオレイアー干渉法(BLI)に基づくOctetバイオセンサーで実行することもできる(さらなる詳細については結果も参照する)。BLI技術の原理は、2つの表面-固定化タンパク質の層および内部参照層-から反射される白色光の光学干渉パターンに基づく。バイオセンサーチップ表面に固定化されたリガンドと溶液中の分析物の間の結合は、バイオセンサーチップにおける光学的厚さの増加をもたらし、それはナノメートルで測定される干渉パターンにおけるシフトをもたらす。波長シフト(Δλ)は、生物学的層の光学的厚さの変化の直接的な測定であり、このシフトがある期間にわたって測定され、その大きさが時間の関数としてプロットされるとき、古典的な会合/解離曲線が得られる。この相互作用はリアルタイムで測定され、結合特異性、会合速度および解離速度ならびに濃度を顕著な精密さおよび正確さでモニタリングする能力を提供する。
【0071】
一部の実施形態では、見かけの親和性は、ELISAアッセイ(一般的にhHER2-Fcでコーティングされたウェルによる)またはフローサイトメトリー(一般的に組換えHER2、特にhHER2を発現する細胞を使用)を使用して、結合アッセイで調査することができる。
【0072】
一般的に、本開示による単一ドメイン抗体は、HER2、特に本明細書に規定されるヒトHER2に、約10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下または10-11M以下のKD結合親和性で結合する。好ましくは、KD結合親和性は10-7~10-10Mの間、10-8~1.10-11Mの間、特に10-8~10-10の間に含まれ、特に1.10-9~100.10-9の間、特に1.10-9~10.10-9の間、1.10-9~5.10-9の間、または5.10-9~100.10-9の間、特に10.10-9~100.10-9の間、より詳細には50.10-10~100.10-9の間に含まれる。
【0073】
本発明者らは、必要な特性、特に必要な親和性を有し、以下の配列によって特徴付けられる6つの参照単一ドメイン抗体(sdAb)を単離した:
【0074】
【0075】
したがって、本開示は、表1で規定される6つの参照単一ドメイン抗体の1つの少なくとも3つのCDRを有する単一ドメイン抗体を包含する。表1に詳細に記載されるsdAb n°1~6は、ヒト化アミノ酸残基を含むフレームワーク領域を含み、したがって、ヒト化sdab(hsdAb)と呼ばれるか、ヒト化合成sdAb(hssdAb)とも呼ばれる。
【0076】
一部の実施形態では、本開示によるsdAbは、配列番号23~28のいずれか1つに示すアミノ酸配列と少なくとも60、70、80、90、95、96、97、98、99または100パーセントの同一性を有するsdAbを含む。
【0077】
本開示によるsdAbは、配列番号19~22のヒト化された配列の1つまたは複数と少なくとも60、70、80、90、95、96、97、98、99または100パーセントの同一性を有するフレームワーク領域配列を有する抗HER2 sdAbを特に含む。
【0078】
本発明の一部の実施形態では、本明細書に開示される抗HER2 sdAbの3つのCDR領域は、表1で規定される参照ヒト化sdAb(hsdAb)n°1~6の1つの3つのCDR領域と100%同一であってよい。代わりに一部の実施形態では、本開示によるhsdAbは、アミノ酸の欠失、挿入または置換、特に保存的置換によって突然変異させたが、表1のsdAbのCDR領域と比較して、CDR領域に少なくとも60、70、80、90、95、96、97、98、99または100パーセントの同一性を有するアミノ酸配列を有することができる。一般的に、本開示により、抗体は、その3つのCDRの1つまたは複数に、表1のsdAbの3つのCDR配列のそれぞれと比較して1つ、2つ、3つまたは4つのアミノ酸変異(欠失、挿入または置換-特に保存的置換を含む)を有することができる。
【0079】
一部の実施形態では、本開示の単一ドメイン抗体は、参照sdAbの対応する3つのCDR領域と100%同一である3つのCDR領域を有する、表1の参照単一ドメイン抗体の1つの突然変異バリアントであり、ここで、FR1、FR2、FR3および/またはFR4領域の1つまたは複数において、対応する参照sdAb(配列番号19~22)の対応するフレームワーク領域と比較して1つ、2つ、3つ、4つまたは5つ以下のアミノ酸がアミノ酸の欠失(複数可)、挿入(複数可)または置換(複数可)、特に保存的置換(複数可)によって突然変異している。
【0080】
一部の実施形態では、本開示のsdAbは、配列番号23~28と比較して1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入または他の改変を有し、かつ単一ドメイン抗体の生物学的機能を保持する、配列番号23~28から選択される配列を含むかまたはそれから構成される。改変は、参照単一ドメイン抗体またはポリペプチドの配列と比較してアミノ酸配列の変化をもたらす、単一ドメイン抗体またはポリペプチドをコードする1つまたは複数のコドンの1つまたは複数の置換、欠失または挿入を含むことができる。アミノ酸置換は、セリンによるロイシンの置き換え、すなわち保存的なアミノ酸の置き換えなどの、類似の構造および/または化学特性を有する別のアミノ酸による1つのアミノ酸の置き換えの結果であってよい。挿入または欠失は、場合により約1~5アミノ酸の範囲内にあることができる。許容される変異は、アミノ酸の挿入、欠失または置換を配列中に系統的に加え、生じたバリアントを完全長または成熟した天然配列によって示される活性について試験することによって決定することができる。
【0081】
一部の実施形態では、改変は保存的な配列改変である。本明細書で使用されるように、用語「保存的な配列改変」は、アミノ酸配列を含有する抗体の結合特性に著しく影響しないか変化させないアミノ酸改変を指すものである。そのような保存的な改変には、アミノ酸の置換、付加および欠失が含まれる。改変は、部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介突然変異誘発などの当技術分野で公知の標準技術によって、本明細書に記載される単一ドメイン抗体に導入することができる。保存的なアミノ酸置換は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で規定されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、無極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分枝状側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ならびに脂肪族残基(I、L、VおよびM)、シクロアルケニル関連残基(F、H、WおよびY)、疎水性残基(A、C、F、G、H、I、L、M、R、T、V、WおよびY)、負に荷電した残基(DおよびE)、極性残基(C、D、E、H、K、N、Q、R、SおよびT)、正に荷電した残基(H、KおよびR)、小残基(A、C、D、G、N、P、S、TおよびV)、非常に小さい残基(A、GおよびS)、回転に関与する残基(A、C、D、E、G、H、K、N、Q、R、S、P)および構成T、フレキシブル残基(Q、T、K、S、G、P、D、EおよびR)を有するアミノ酸が含まれる。
【0082】
さらなる保存的置換群には、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リシン-アルギニン、アラニン-バリンおよびアスパラギン-グルタミンが含まれる。ヒドロパシー/親水特性および残基重量/サイズの点での保存も、mAb1~11のいずれか1つのCDRと比較してバリアントで実質的に保持される。タンパク質に双方向性生物学的機能を付与することにおけるヒドロパシーアミノ酸指数の重要性は、当技術分野で一般的に理解されている。アミノ酸の相対的なヒドロパシー特性は、生じたタンパク質の二次構造に寄与することが認められ、それはタンパク質の他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとの相互作用を次に規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷特性に基づいてヒドロパシー指数を割り当てられ、これらは以下の通りである:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);トレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リシン(-3.9);およびアルギニン(-4.5)。類似の残基の保持は、さらにまたは代わりに、BLASTプログラムの使用によって決定される類似性スコアによって測定することもできる(例えば、標準の設定BLOSUM62、OpenGap=11およびExtended Gap=1を使用したNCBIを通して入手可能なBLAST2.2.8)。
【0083】
したがって、本開示の単一ドメイン抗体のCDR領域中の1つまたは複数のアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基で置き換えることができ、変化した抗体は、本明細書に記載される機能アッセイを使用して、保持される機能(すなわち、上の(c)~(i)に示す機能)について試験することができる。
【0084】
一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、配列番号24~29の1つから選択されるが、1つまたは複数のアミノ酸置換、例えば1から20、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸置換を含む。1つまたは複数のアミノ酸置換は、フレームワーク領域の1つまたは複数の中にあることができる。あるいはまたはさらに、1つまたは複数のアミノ酸置換は、CDRの1つまたは複数の中にあることができる。一部の実施形態では、アミノ酸置換はフレームワークおよびCDR配列の中にある。
【0085】
一部の実施形態では、ヒト化単一ドメイン抗体は、1つまたは複数の配列改変を含むがその機能特性は親の未改変の単一ドメイン抗体に類似している(15%未満、特に10%未満または5%未満の変異)、配列番号23~28を有するそれらから選択される単一ドメイン抗体のバリアントである。より詳細には、本明細書で意図されるバリアント抗体は、一般的にHER2のための保存された結合親和性、ならびに特にCARフォーマットでの好ましくは保存されたin vitro細胞傷害活性を有する(本明細書の結果で例示される)。
【0086】
一部の実施形態では、前記バリアントは、未改変の単一ドメイン抗体と比較して、結合親和性、特異性、熱安定性、発現レベル、エフェクター機能、グリコシル化、低減された免疫原性または溶解性などの特性の1つまたは複数の向上を有する。
【0087】
当業者は、in vitroおよびin vivo発現ライブラリーを含む、本明細書に記載される抗原結合性分子を同定し、取得し、最適化する異なる方法があることを知る。当技術分野で公知である最適化技術、例えば、ディスプレイ(例えば、リボソームおよび/またはファージディスプレイ)、および/または突然変異誘発(例えば、誤りがちな突然変異誘発)を使用することができる。したがって、本開示は、本明細書に記載される単一ドメイン抗体の配列の最適化されたバリアントをさらに含む。
【0088】
単一ドメイン抗体の工学操作
一部の実施形態では、本開示によるsdAbは、例えば腎クリアランスを低減させるかまたは例えばプロテアーゼから保護するためにそれらの分子量を増加させるために、化学改変させることができる。半減期を増加させるために、例えばPEG化(ポリエチレングリコール(PEG)基の共有結合)が広く使われている。腎クリアランスを制限する他の戦略は、sdAbへの負電荷の結合、例えばシアリン酸ポリマー(ポリシアル化)またはヒドロキシエチルデンプン(HES化)の付加、およびヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)ホルモンの高度にシアル化されたベータカルボキシ末端ペプチド(CTP)アミノ酸-残基との融合によるものを含む。
【0089】
本開示の一部の実施形態では、本明細書に記載される単離されたヒト化単一ドメイン抗体は、目的の化合物へ直接的にまたは非直接的に、共有結合でまたは非共有結合で連結することができる。上記の目的の物質または化合物は、本明細書で規定される単一ドメイン抗体へ末端(NまたはC末端)の1つに、または前記単一ドメイン抗体のアミノ酸の1つの側鎖に、直接的に、および共有結合または非共有結合で連結することができる。目的の物質は、前記単一ドメイン抗体へ前記単一ドメイン抗体の末端の1つに、または前記単一ドメイン抗体のアミノ酸の1つの側鎖に、スペーサーによって間接的に、および共有結合または非共有結合で連結することができる。
【0090】
ペプチド、特に抗体への目的の物質の従来の連結方法は、当技術分野で公知である(例えば、TernynckおよびAvrameas 1987「Techniques immunoenzymatiques」Ed.INSERM、Paris;Hermanson、2010、Bioconjugate Techniques、Academic Pressを参照する)。
【0091】
一部の実施形態では、本明細書に記載される単一ドメイン抗体は、特に式sdAb-(L-(D)m)nの「抗体薬物コンジュゲート」または薬学的に許容されるその塩の形であってよく;式中、sdAbは前に開示されるように単一ドメイン抗体であり;Lはリンカーであり;Dは目的の化合物であり;mは1~8の整数であり;nは1~10の整数であり、一般的に3または4に等しい。
【0092】
本明細書で使用される用語「抗体薬物コンジュゲート」は、単一ドメイン抗体と別の薬剤、例えば化学療法剤、毒素、免疫療法剤、画像化プローブなどとの連結を指す。連結は共有結合または非共有相互作用、例えば静電力を通したものであってよい。イムノコンジュゲートを形成するために、当技術分野で公知である様々なリンカーを用いることができる。リンカー(L)は、例えば切断可能リンカー、切断されないリンカー、親水性リンカー、プロ荷電リンカーおよびジカルボン酸をベースとしたリンカーからなる群から選択することができる。
【0093】
一部の実施形態では、本開示の単一ドメイン抗体は、目的の化合物にコンジュゲートされるかまたは共有結合される。本明細書で使用されるように、用語「コンジュゲーション」は当技術分野でのその一般的な意味を有し、化学的コンジュゲーションまたは化学的架橋を意味する。多くの化学的架橋方法も、当技術分野で公知である。架橋試薬は、ホモ二官能性(すなわち、同じ反応を受ける2つの官能基を有する)またはヘテロ二官能性(すなわち、2つの異なる官能基を有する)であってよい。多数の架橋試薬が市販されている。それらの使用のための詳細な使用説明書は、民間の供給業者から容易に入手できる。ポリペプチド架橋およびコンジュゲート製剤に関する一般的な参考文献は:WONG、Chemistry of protein conjugation and cross-linking、CRC Press(1991)である、さらにMonoclonal Antibodies And Cancer Therapy(Reisfeldら編、Alan R.Liss,Inc.、1985)の中の「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」の中のArnonら、「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」;Controlled Drug Delivery(Robinsonら編、Marcel Deiker,Inc.、第2版1987)の中のHellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」;Monoclonal Antibodies’84:Biological And Clinical Applications(Pincheraら編、1985)の中のThorpe、「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review」;Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy(Baldwinら編、Academic Press、1985)の中の「Analysis、Results、and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」;およびThorpeら、1982、Immunol.Rev.62:119~58頁も参照する。さらに、例えば、PCT刊行物WO89/12624も参照する。)。一般的に、核酸分子はそれぞれN-ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはマレイミド官能基を通して抗体の上のリシンまたはシステインに共有結合する。工学操作されたシステインを使用したコンジュゲーションまたは非天然アミノ酸の組込みの方法は、コンジュゲートの均質性を向上させることが報告されている(Axup、J.Y.、Bajjuri、K.M.、Ritland、M.、Hutchins、B.M.、Kim、C.H.、Kazane、S.A.、Haider、R.、Forsyth、J.S.、Santidrian、A.F.、Stafin、K.ら(2012)。Synthesis of site-specific antibody-drug conjugates using unnatural amino acids。Proc.Natl.Acad.Sci.USA 109、16101~16106頁;Junutula、J.R.、Flagella、K.M.、Graham、R.A.、Parsons、K.L.、Ha、E.、Raab、H.、Bhakta、S.、Nguyen、T.、Dugger、D.L.、Li、G.ら(2010)Engineered thio-trastuzumab-DMl conjugate with an improved therapeutic index to target human epidermal growth factor receptor2-positive breast cancer。Clin.Cancer Res.16、4769~4778頁。)。Junutulaら(2008)は、従来のコンジュゲーション方法と比較して向上した治療指数を示すと主張されている、「THIOMAB」(TDC)と呼ばれるシステインをベースとした部位特異的コンジュゲーションを開発した。一部の実施形態では、本開示の単一ドメイン抗体は、リンカー分子によって異種部分にコンジュゲートされる。本明細書で使用されるように、用語「リンカー分子」は、本開示の単一ドメイン抗体に結合している任意の分子を指す。結合は、一般的に共有結合性である。一部の実施形態では、リンカー分子はフレキシブルであり、本開示の単一ドメイン抗体の結合に干渉しない。
【0094】
本明細書で意図される目的の化合物または物質は、核酸、ポリペプチドまたはタンパク質、ウイルス、毒素、細菌および化学実体から非限定的に選択することができる。
【0095】
一部の実施形態では、目的の化合物は、抗体、そのバリアントおよび断片、特に同じかまたは別の単一ドメイン抗体、アプタマーまたは酵素などの抗原結合性ドメイン剤を含む。
【0096】
上記の目的の化合物または物質は、治療または診断化合物であってよい。治療化合物には特に抗がんおよび/または細胞傷害活性を有する治療化合物が含まれ、診断化合物には一般的に画像化プローブが含まれる。
【0097】
一部の実施形態では、目的の化合物は、診断または治療化合物を含むか封入する担体(または、カーゴ)として使用されるリポ粒子(リポソームまたはミセルなど)またはポリマー実体(例えば、アルブミンをベースとしたナノ粒子およびポリマーをベースとしたポリマーソム)である(Villarazaら2010 Chem Rev.、110、2921~2959頁)。したがって、sdAbはがん細胞へ毒性カーゴを送達するための非常に都合のよいツールであり、異なるナノ粒子フォーマットへの化学的コンジュゲーションに適切である。
【0098】
本明細書で使用される用語「毒素」、「細胞毒素」または「細胞傷害性化合物」は、細胞の成長および増殖に有害である任意の薬剤を指し、細胞または悪性腫瘍を低減、阻害または破壊する作用をすることができる。
【0099】
本明細書で使用される用語「抗がん化合物」は、がんなどの細胞増殖性障害を処置するために使用することができる任意の薬剤を指し、細胞傷害剤、化学療法剤、放射性同位体、標的化抗がん剤、免疫療法剤(免疫抑制薬または免疫刺激物質など)および溶解ペプチドが限定されずに含まれる。
【0100】
抗がんまたは細胞傷害活性を有する治療化合物は、例えば、V-ATPアーゼ阻害剤、プロアポトーシス剤、Bcl2阻害剤、MCL1阻害剤、HSP90阻害剤、IAP阻害剤、mTor阻害剤、微小管安定剤、微小管不安定化剤、オーリスタチン、ドラスタチン、マイタンシノイド、MetAP(メチオニンアミノペプチダーゼ)、タンパク質CRM1の核外移行の阻害剤、DPPIV阻害剤、プロテアソーム阻害剤、ミトコンドリア中のホスホリル転移反応の阻害剤、タンパク質合成阻害剤、キナーゼ阻害剤、CDK2阻害剤、CDK9阻害剤、キネシン阻害剤、HDAC阻害剤、DNA傷害剤、DNAアルキル化剤、DNAインターカレーター、DNA副溝結合剤およびDHFR阻害剤からなる群から選択することができる。
【0101】
一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、細胞傷害性部分にコンジュゲートされる。細胞傷害性部分は、例えば、タキソール;サイトカラシンB;グラミシジンD;臭化エチジウム;エメチン;マイトマイシン;エトポシド;テノポシド;ビンクリスチン;ビンブラスチン;コルヒチン;ドキソルビシン;ダウノルビシン;ジヒドロキシアントラシンジオン;チューブリン阻害剤、例えばマイタンシン、またはその類似体もしくは誘導体;抗分裂剤、例えばモノメチルオーリスタチンEまたはF、またはその類似体もしくは誘導体;ドラスタチン10または15またはその類似体;イリノテカンまたはその類似体;ミトキサントロン;ミトラマイシン;アクチノマイシンD;1-デヒドロテストステロン;グルココルチコイド;プロカイン;テトラカイン;リドカイン;プロプラノロール;ピューロマイシン;カリケアマイシンまたはその類似体もしくは誘導体;代謝拮抗物質、例えばメトトレキセート、6メルカプトプリン、6チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5フルオロウラシル、デカルバジン、ヒドロキシ尿素、アスパラギナーゼ、ゲムシタビンまたはクラドリビン;アルキル化剤、例えばメクロレタミン、チオテパ、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ダカルバジン(DTIC)、プロカルバジン、マイトマイシンC;シスプラチンまたはカルボプラチンなどのプラチナ誘導体;デュオカルマイシンA、デュオカルマイシンSA、ラケルマイシン(CC-1065)またはその類似体もしくは誘導体;抗生物質、例えば、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、アントラマイシン(AMC);ピロロ[2,1-c][1,4]-ベンゾジアゼピン(PDB);ジフテリア毒素および関連分子、例えばジフテリアA鎖およびその活性断片およびハイブリッド分子、リシン毒素、例えばリシンAまたは脱グリコシル化リシンA鎖毒素、コレラ毒素、志賀様毒素、例えば、SLT I、SLT II、SLT IIV、LT毒素、C3毒素、志賀毒素、百日咳毒素、破傷風毒素、ダイズボウマン-ビルクプロテアーゼ阻害剤、シュードモナス外毒素、アロリン、サポリン、モデッシン、ゲラニン、アブリンA鎖、モデッシンA鎖、アルファ-サルシン、Aleuritesfordiiタンパク質、ダイアンシンタンパク質、Phytolaccaamericanaタンパク質、例えばPAPI、PAPIIおよびPAP-S、momordicacharantia阻害剤、クルシン、クロチン、sapaonariaofficinalis阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシンおよびエノマイシン毒素;リボヌクレアーゼ(Rアーゼ);DNアーゼI、ブドウ状球菌エンテロトキシンA;ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質;ジフテリン毒素;ならびにシュードモナスエンドトキシンからなる群から選択することができる。
【0102】
一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、オーリスタチンまたはそのペプチド類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。オーリスタチンは微小管動態力学、GTP加水分解ならびに核および細胞の分裂に干渉すること(Woykeら(2001)Antimicrob.Agents and Chemother.45(12):3580~3584頁)、ならびに抗がん(米国特許第5663149号)および抗真菌活性(Pettitら、(1998)Antimicrob.Agents and Chemother.42:2961~2965頁)を有することが示された。例えば、オーリスタチンEは、パラアセチル安息香酸またはベンゾイル吉草酸と反応させてそれぞれAEBおよびAEVBを生成することができる。他の一般的なオーリスタチン誘導体には、AFP、MMAF(モノメチルオーリスタチンF)およびMMAE(モノメチルオーリスタチンE)が含まれる。好適なオーリスタチンならびにオーリスタチン類似体、誘導体およびプロドラッグ、ならびにAbへのオーリスタチンのコンジュゲーションのための好適なリンカーは、例えば、米国特許第5,635,483号、第5,780,588号および第6,214,345号、ならびに国際特許出願刊行物WO02088172、WO2004010957、WO2005081711、WO2005084390、WO2006132670、WO03026577、WO200700860、WO207011968およびWO205082023に記載される。
【0103】
一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、メルタンシン(エムタンシンまたはDM1とも呼ばれる)またはそのペプチド類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。メルタンシンは、チューブリン阻害剤であり、それがチューブリンへの結合による微小管のアセンブリを阻害することを意味する。
【0104】
一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、ピロロ[2,1-c][1,4]-ベンゾジアゼピン(PDB)またはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。好適なPDBおよびPDB誘導体、ならびに関連技術は、例えば、Hartley J.A.ら、Cancer Res 2010;70(17):6849~6858頁;Antonow D.ら、Cancer J 2008;14(3):154~169頁;Howard P.W.ら、Bioorg Med Chem Lett 2009;19:6463~6466頁およびSagnouら、Bioorg Med Chem Lett 2000;10(18):2083~2086頁に記載される。
【0105】
一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、アントラサイクリン、マイタンシン、カリケアマイシン、デュオカルマイシン、ラケルマイシン(CC-1065)、ドラスタチン10、ドラスタチン15、イリノテカン、モノメチルオーリスタチンE、モノメチルオーリスタチンF、PDB、またはそのいずれかの類似体、誘導体もしくはプロドラッグからなる群から選択される細胞傷害性部分にコンジュゲートされる。
【0106】
一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、アントラサイクリンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、マイタンシンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、カリケアマイシンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、デュオカルマイシンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、ラケルマイシン(CC-1065)またはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、抗体は、ドラスタチン10またはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、抗体は、ドラスタチン15またはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、抗体はモノメチルオーリスタチンEまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、モノメチルオーリスタチンFまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、抗体は、ピロロ[2,1-c][1,4]-ベンゾジアゼピンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、イリノテカンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。
【0107】
一部の実施形態では、sdAbは核酸または核酸関連分子にコンジュゲートされる。そのような一実施形態では、コンジュゲートされた核酸は、細胞傷害性リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)もしくはデオキシリボヌクレアーゼ(例えば、DNアーゼI)、アンチセンス核酸、阻害性RNA分子(例えば、siRNA分子)または免疫賦活性核酸(例えば、免疫賦活性CpGモチーフ含有DNA分子)である。一部の実施形態では、抗体はアプタマーまたはリボザイムにコンジュゲートされる。
【0108】
一部の実施形態では、sdAbは、例えば融合タンパク質として、CLIP、マガイニン2、メリチン、セクロピンおよびPI8などの溶解ペプチドにコンジュゲートされる。
【0109】
一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、サイトカイン、例えばIL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-23、IL-24、IL-27、IL-28a、IL-28b、IL-29、KGF、IFNa、IFN3、IFNy、GM-CSF、CD40L、Flt3リガンド、幹細胞因子、アンセスチムおよびTNFaにコンジュゲートされる。
【0110】
一部の実施形態では、単一ドメイン抗体は、放射性同位体または放射性同位体含有キレートにコンジュゲートされる。例えば、抗体はキレーターリンカー、例えばDOTA、DTPAまたはチウキセタンにコンジュゲートさせることができ、それは抗体が放射性同位体と複合体を形成することを可能にする。単一ドメイン抗体は、さらにまたは代わりに、1つまたは複数の放射標識アミノ酸または他の放射標識分子を含むかそれにコンジュゲートさせることができる。放射性同位体の非限定例には、3H、14C、15N、35S、90Y、”Tc、125I、131I、186Re、213Bi、225Acおよび227Thが含まれる。治療目的のために、β粒子またはα粒子放射線を放出する放射性同位体、例えば、131I、90Y、211At、212Bi、67Cu、186Re、188Reおよび212Pbを使用することができる。
【0111】
診断化合物は、酵素、蛍光体、NMRまたはMRI造影剤、放射性同位体およびナノ粒子から選択することができる。例えば、診断化合物は、以下からなる群から選択することができる:
・ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、グルコース-6-ホスファターゼまたはベータ-ガラクトシダーゼなどの酵素;
・蛍光体、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、スペクトルの紫外線(UV)部分の波長で励起される青色蛍光色素(例えばAMCA(7-アミノ-4-メチルクマリン-3-酢酸);Alexa Fluor(登録商標)350)、青色光によって励起される緑色蛍光色素(例えばFITC、Cy2、Alexa Fluor(登録商標)488)、緑色光によって励起される赤色蛍光色素(例えばローダミン、テキサスレッド、Cy3、Alexa Fluor色素546、564および594)、または電子検出器(CCDカメラ、光電子増倍管)で可視化される遠赤外光で励起される色素(例えばCy5);
・PET画像化のために使用することができる放射性同位体、例えば18F、nC、13N、15O、68Ga、82Rb、44Sc、64Cu、86Y、89Zr、124I、152Tb、またはSPECT/シンチグラフィー研究のために使用することができる、67Ga、81mKr、99mTc、mIn、123I、125I、3Xe、201T1、155Tb、195mPt、または、オートラジオグラフィーもしくはin situハイブリダイゼーションのために使用することができる14C、3H、35S、3P、125I、211 212 75 76 131 111、または化合物を標識するために使用することができる、At-、Bi-、Br-、Br-、I-、In、177Lu-、212Pb-、186Re-、188Re-、153Sm-、0Y;
・NMRまたはMRI造影剤、例えば、常磁性薬剤ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)およびマンガン(Mn)、ならびに酸化鉄(MION、SPIOまたはUSPIOなど)または白金鉄(SIPP)に基づく超常磁性薬剤、ならびに18F、13C、23Na、17O、15NなどのX核;
・ナノ粒子、例えば金ナノ粒子(B.Van de Broekら、ACSNano、第5巻、第6号、4319~4328頁、2011)または量子ドット(A.Sukhanovaら、2012 Nanomedicine、8516~525頁)。
【0112】
好ましい実施形態では、前記診断化合物は蛍光体、より好ましくはAlexa Fluor(登録商標)488、またはMRI造影剤、より好ましくはガドリニウムである。
【0113】
診断剤を検出のために使用する場合は、それは、シンチグラフィー研究のための放射性原子、例えば99Tcもしくは123I、または核磁気共鳴(NMR)画像化(MRIとしても知られる)のためのスピン標識、例えば、13C、9F、Fe、Gd、123I、n1In、Mn、15Nもしくは7Oを含むことができる。
【0114】
本開示による目的の物質は、哺乳動物またはヒト血液脳関門に浸透することができるか、または浸透することができない。
【0115】
一部の実施形態では、目的の化合物が異種ポリペプチドである場合、本開示の単一ドメイン抗体は、(代わりに、またはさらに)1つまたは複数の異種ポリペプチド(複数可)に融合させて融合タンパク質(本明細書で「融合ポリペプチド」または「ポリペプチド」とも呼ばれる)を形成することができる。「融合」または「キメラ」タンパク質またはポリペプチドは、それが本来天然に連結していない第2のアミノ酸配列に連結している第1のアミノ酸配列を含む。別々のタンパク質に通常存在するアミノ酸配列は、融合ポリペプチドの中で一緒にすることができる。融合タンパク質またはポリペプチドは、例えば化学合成によって、またはペプチド領域が所望の関係でコードされるポリヌクレオチドを作製し、翻訳することによって作製される。
【0116】
本開示により、このように融合タンパク質は、そのC末端および/またはそのN末端で、特にそのC末端で異種ポリペプチドのN末端と、および/またはそのN末端で異種ポリペプチドのC末端と、直接的にまたはスペーサーを通して融合している、本明細書に記載される少なくとも1つの単離されたヒト化単一ドメイン抗体(hsbAb)を含むことができる。本明細書で使用されるように、用語「直接的に」は、ヒト化単一ドメイン抗体の末端(NまたはC末端)の(最初のまたは最後の)アミノ酸は、異種ポリペプチドの末端(NまたはC末端)の(最初のまたは最後の)アミノ酸に融合していることを意味する。換言すると、この実施形態では、前記sdAbのC末端の最後のアミノ酸は、前記異種ポリペプチドのN末端の最初のアミノ酸に共有結合によって直接的に連結されるか、または前記sdAbのN末端の最初のアミノ酸は、前記異種ポリペプチドのC末端の最後のアミノ酸に共有結合によって直接的に連結される。本明細書で使用されるように、「リンカー」とも呼ばれる「スペーサー」という用語は、本開示のsdAbを異種ポリペプチドに連結する少なくとも1つのアミノ酸の配列を指す。そのようなスペーサーは、立体的障害を阻止するのに役立つ可能性がある。本開示で開示されるリンカーの例は、以下の配列(Gly3-Ser)4、(Gly3-Ser)、Ser-Glyまたは(Ala-Ala-Ala)を有する。
【0117】
一部の実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、酵素、例えばリポーター酵素、アルブミンまたは免疫グロブリンであってよい。
【0118】
一部の実施形態では、目的の化合物は、多価結合性化合物を形成する別のまたは同じ抗原結合性ドメインを含む、1つまたは複数のポリペプチドであってよい。特に、目的の化合物は、本明細書で開示されているか開示されていない、1つまたは複数の単一ドメイン抗体であってよい。2つ以上の抗原結合性ドメインを含む、特に2つ以上の単一ドメイン抗体を含むかそれから本質的になる、生じる融合タンパク質またはポリペプチドは、本明細書で「多価性」ポリペプチドまたは「多価性」抗原結合性化合物と呼ばれる。一部の実施形態では、前記融合タンパク質またはポリペプチドは、本明細書に記載される第1の結合性ドメインを有する少なくとも1つの単一ドメイン抗体、および一般的に同じく単一ドメイン抗体である少なくとも1つの他の結合性ドメイン(例えば、タンパク質、ポリペプチドまたは小分子から選択される、同じか別のエピトープ、抗原または標的に対する)を含むことができる。「多重特異的」(融合)ポリペプチドは、類似の抗原結合性ドメインを含む、特に同じ単一ドメイン抗体を含むポリペプチド(「単一特異的」(融合)ポリペプチド)に対して、少なくとも2つの異なる抗原結合性ドメイン(すなわち、異なるエピトープ、抗原または標的を標的にする)を含むポリペプチドを指す。
【0119】
したがって、一部の実施形態では、本明細書に記載される融合タンパク質は、任意の所望のタンパク質、ポリペプチド、抗原、抗原決定基またはエピトープに対して向けられる少なくとも第2の抗原結合性ドメインを提供することもできる。前記結合性ドメインは、HER2に対して、特に同じか異なるHER2エピトープに対して向けられてもよいか、またはポリペプチド、タンパク質もしくは小分子から選択される任意の他のエピトープ、抗原もしくは標的に対して向けられてもよい。
【0120】
本開示の「二重特異的」融合タンパク質は、第1の抗原(すなわちHER2)に対する本明細書に開示される少なくとも1つの単一ドメイン抗体、および第2のHER2エピトープまたは抗原(すなわち、HER2と異なる)に対する少なくとも1つのさらなる結合性ドメインを含む融合ポリペプチドであり、本開示の「三重特異的」ポリペプチドは、第1の抗原(すなわちHER2)に対する本明細書に開示される少なくとも1つの単一ドメイン抗体、第2のHER2エピトープまたは抗原(すなわち、HER2と異なる)に対する少なくとも1つのさらなる結合性ドメイン、および第3のHER2エピトープまたは抗原(すなわち、両者、すなわち第1および第2の抗原と異なる)に対する少なくとも1つのさらなる結合性ドメインを含むポリペプチドである;等。
【0121】
一般的に、HER2以外の抗原は、CD19、CD20、CD22、CD33、PSMA、PSCA、BCMA、CS1、GPC3、CSPG4、EGFR、HER3、CA125、CD123、5T4、IL-13R、CD2、CD3、CD16(FcγRIII)、CD23、L1 CAM、MUC16、ROR1、SLAMF7、cKit、CD38、CD53、CD71、CD74、CD92、CD100、CD123、CD138、CD146(MUC18)、CD148、CD150、CD200、CD261、CD262、CD362、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、糖脂質F77、EGFRvIII、MART-1、gp100、GD-2、O-GD2、NKp46受容体またはNY-ESO-1またはMAGE A3のような提示される抗原、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、チトクロームP4501 B1(CY1 B)、ウィルムの腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、アルファフェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、ムチン16、MUC1、p53、サイクリン、免疫チェックポイント標的またはその組合せから選択することができる。
【0122】
一部の実施形態では、二重特異的T細胞またはNK細胞エンゲージャー分子に関して一般的に例示されるように、多重特異的融合ポリペプチドの少なくとも1つのさらなる抗原は、少なくとも免疫細胞抗原、例えば1つまたは複数のT細胞抗原、1つまたは複数のマクロファージ抗原、1つまたは複数のNK細胞抗原、1つまたは複数の好中球抗原および/または1つまたは複数の好酸球抗原を含む(特にBiTEs(登録商標)について、Wolf E、Hofmeister R、Kufer P、Schlereth B、Baeuerle PAを参照する。「BiTEs:bispecific antibody constructs with unique anti-tumor activity」。Drug Discov Today。2005年9月15日;10(18):1237~44頁。レビュー)。T細胞抗原のための他のものの中で、T細胞受容体αおよびβ鎖のCD2およびフレームワーク配列、特にCD2またはCD3、最も詳細にはCD3複合体のε鎖を使用することができる。例えば、NK細胞抗原のために、FcγRIIIからのおよび/またはNKp46受容体からの断片を使用することができる。
【0123】
前記多重特異的ポリペプチドは、CAR療法と同じ原理の免疫細胞リダイレクティング免疫療法で使用することができる(例示的なレビューについては、Ellwanger K、Reusch U、Fucek Iら、Redirected optimized cell killing(ROCK(登録商標)):A highly versatile multispecific fit-for-purpose antibody platform for engaging innate immunity。MAbs.2019;11(5):899~918頁を参照する)。
【0124】
一部の実施形態では、さらなる結合性ドメインは、単一ドメイン抗体の半減期が増加するように血清タンパク質に対して向けることができる。一般的に、前記血清タンパク質は、アルブミンである。
【0125】
一部の実施形態では、さらなる結合性ドメインは、本開示の単一ドメイン抗体が血液脳関門を通過するように血液脳関門の血管内皮の上の受容体に対して向けることができる。標的化受容体には、中でもトランスフェリン受容体、インスリン受容体、IGF-IおよびIGF-II受容体が含まれる。
【0126】
一部の実施形態では、1つまたは複数のさらなる結合性ドメインは、従来の鎖抗体(特にヒト抗体)および/または重鎖抗体の1つまたは複数の部分、断片またはドメインを含むことができる。例えば、本明細書に規定される単一ドメイン抗体は、場合によりリンカー配列を通して従来の(一般的にヒトの)VHまたはVLに連結することができる。
【0127】
一部の実施形態では、本開示のポリペプチドまたは融合タンパク質は、免疫グロブリンドメインに連結される本開示の単一ドメイン抗体を含むことができる。例えば、ポリペプチドまたは融合タンパク質は、免疫グロブリンまたはその一部もしくは断片に連結される本開示の単一ドメイン抗体を含む。例えば、ポリペプチドまたは融合タンパク質は、Fcドメイン(CH2-CH3)、特にヒトFc領域に連結される本開示の単一ドメイン抗体を含む。様々な哺乳動物の(一般的にヒトまたはマウス抗体からの)抗体サブクラスからのFc領域を使用することができる。前記Fc部分は、本開示の単一ドメイン抗体の半減期および生成さえも増加させるのに有益である可能性がある。例えば、Fc部分は血清タンパク質に結合することができ、したがって単一ドメイン抗体の半減期を増加させる。
【0128】
一部の実施形態では、少なくとも1つの単一ドメイン抗体は、場合によりリンカー配列を通して、1つまたは複数の(一般的にヒトの)ヒンジおよび/またはCHI、および/またはCH2および/またはCH3ドメインに連結することもできる。例えば、好適なCHIドメインに連結されている単一ドメイン抗体は、例えば従来のFab断片またはF(ab’)2断片に類似しているが、従来のVHドメインの片方または(F(ab’)2断片の場合には)両方が、本明細書に規定される単一ドメイン抗体と置き換えられた抗体断片/構造を生成するために-好適な軽鎖と一緒に-使用することができる。
【0129】
一部の実施形態では、本開示の1つまたは複数の単一ドメイン抗体は、1つまたは複数の定常ドメイン(例えばFc部分を形成するために一部として使用することができる2つまたは3つの定常ドメイン)に、Fc部分に、および/または本開示のポリペプチドに1つまたは複数のエフェクター機能を付与し、および/または1つまたは複数のFc受容体に結合する能力を付与することができる1つまたは複数の抗体部分、断片もしくはドメインに、(場合により好適なリンカーまたはヒンジ領域を通して)連結することができる。例えば、この目的のために、およびそれに限定されずに、1つまたは複数のさらなるアミノ酸配列は、例えば重鎖抗体、より一般的には従来のヒト鎖抗体からの、抗体の1つまたは複数のCH2および/またはCH3ドメインを含むことができ;および/または、例えばIgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)から、IgEから、または別のヒトIg、例えばIgA、IgDもしくはIgMから、Fc領域を形成することができる。
【0130】
キメラ抗原受容体
本明細書で使用される用語「キメラ抗原受容体」または「CAR」または「CARs」は工学操作された受容体を指し、それは抗原特異性を細胞(例えば、T細胞、例えばナイーブT細胞、中心記憶T細胞、エフェクター記憶T細胞またはその組合せ)に移植し、したがって、抗原結合性ドメインの抗原結合特性をT細胞の溶解能力および自己更新と合わせる。CARは、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体またはキメラ免疫受容体としても知られる。本明細書で使用される用語「抗原結合性ドメイン」または「抗原特異的標的化ドメイン」は、特異抗原を標的にして結合するCARの領域を指す。CARが宿主細胞で発現されるとき、このドメインは細胞外ドメイン(エクトドメイン)を形成する。
【0131】
本開示のCARは、一般式:
sdAb(n)-[場合によりヒンジ-]膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン、の分子を含み、
式中、nは1以上である。
【0132】
一部の実施形態では、nは少なくとも2、例えば2、3、4または5である。sdAb(n)は抗原結合性ドメインを形成し、細胞で発現されるときは細胞の外側に位置する。
【0133】
一部の実施形態では、本明細書に記載されるCARは好ましくは少なくとも2つの抗原結合性化合物(一般的に単一ドメイン抗体)を含み、したがって、1つまたは複数の抗原を標的にすることができる。本開示のCARの抗原結合性ドメインは、HER2(一般的にヒトHER2タンパク質)に両方とも特異的である少なくとも2つのsdAbを含むことができ、したがって、二価結合性分子を提供する。一部の実施形態では、抗原結合性ドメインは、HER2に両方とも特異的であるが、異なるエピトープに結合することができる、2つまたは少なくとも2つのVH単一ドメイン抗体を含む。言い換えると、本明細書に開示されるCARの抗原結合性ドメインは、HER2の第1のエピトープに結合する第1の単一ドメイン抗体およびHER2の第2のエピトープに結合する第2の単一ドメイン抗体を含むことができる。エピトープは重なっていてもよい。したがって、抗原結合性ドメインは二パラトープ性である。他の実施形態では、抗原結合性ドメインは、HER2に両方とも特異的であり、同じエピトープに結合する2つの単一ドメイン抗体を含む。この実施形態では、本明細書に開示される少なくとも2つの同一の抗HER2 sdAbを使用することができる。
【0134】
一部の実施形態では、抗原結合性ドメインは本開示による抗HER2 sdAb、および場合により、別の抗原に特異的である別の抗原結合性ドメインを含み、したがって、二重特異的抗原結合性ドメインを提供する。言い換えると、抗原結合性ドメインは、HER2に含まれる第1の標的に結合する第1の単一ドメイン抗体および第2の標的に結合する第2の単一ドメイン抗体を含む。したがって、ある特定の実施形態では、本開示は二重特異的CARに関する。
【0135】
好ましい実施形態では、sdAbは、以下から選択されるCDRを含む:
・配列番号1のCDR1;配列番号2のCDR2および配列番号3のCDR3,
・配列番号4のCDR1;配列番号5のCDR2ofand配列番号6のCDR3,
・配列番号10のCDR1;配列番号11のCDR2および配列番号12のCDR3、
・配列番号13のCDR1;配列番号14のCDR2および配列番号15のCDR3、または
・配列番号16のCDR1;配列番号17のCDR2および配列番号18のCDR3。
または、以下から選択された配列を有する:
・配列番号23、配列番号24、配列番号26、配列番号27、および配列番号28からなる群から選択される配列;
・配列番号23、配列番号24、配列番号26、配列番号27、および配列番号28からなる群から選択される配列と少なくとも90%の同一性を有する配列;
・配列番号1のCDR1;配列番号2のCDR2および配列番号3のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;
・配列番号4のCDR1;配列番号5のCDR2および配列番号6のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの。
・配列番号10のCDR1;配列番号11のCDR2および配列番号12のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの。
・配列番号13のCDR1;配列番号14のCDR2および配列番号15のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの;または
・配列番号16のCDR1;配列番号17のCDR2および配列番号18のCDR3、ならびにこれらのCDRの1つまたは複数に1つまたは複数の保存的アミノ酸改変をさらに有するもの。
一部の実施形態では、CARは、配列番号25の配列を有するsdAbを含まないか、または配列番号7~9のCDRを含まない。
【0136】
本明細書で使用される用語「二重特異的CAR」または「二重特異的抗原結合性ドメイン」は、したがって、HER2を含む2つの標的への特異性を有するポリペプチドを指す。したがって、本明細書に記載される二重特異的結合性分子は、HER2および第2の標的を発現する(または、その細胞表面に提示する)細胞に選択的および特異的に結合することができる。
【0137】
他の実施形態では、結合性分子は2つを超える抗原結合性ドメインを含み、多重特異的結合性分子を提供する。したがって、本明細書に記載される多重特異的抗原結合性ドメインは、HER2に結合する他に1つまたは複数の追加の標的に結合することができ、すなわち、多重特異的ポリペプチドは、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つまたはそれより多くの標的に結合することができ、ここで多重特異的ポリペプチド剤は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つまたはそれより多くの標的結合性部位をそれぞれ有する。
【0138】
一部の実施形態では、本開示による多重特異的CARが結合することができる追加の抗原には、腫瘍抗原が含まれる。一部の実施形態では、腫瘍抗原は、血液悪性腫瘍または固形腫瘍と関連している。例えば、腫瘍抗原は、PSMA、PSCA、BCMA、CS1、GPC3、CSPG4、EGFR、HER3、CA125、CD123、5T4、IL-13R、CD2、CD3、CD16(FcγRIII)、CD23、L1 CAM、MUC16、ROR1、SLAMF7、cKit、CD19、CD20、CD22、CD33、CD38、CD53、CD71、CD74、CD92、CD100、CD123、CD138、CD146(MUC18)、CD148、CD150、CD200、CD261、CD262、CD362、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、糖脂質F77、EGFRvIII、MART-1、gp100、GD-2、O-GD2、NKp46受容体、NY-ESO-1またはMAGE A3のような提示される抗原、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、チトクロームP4501 B1(CY1 B)、ウィルムの腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、アルファフェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、ムチン16、MUC1、p53、サイクリンおよび免疫チェックポイント標的またはその組合せからなる群から選択することができる。しかし、他の腫瘍抗原も本開示の範囲内の標的であることを当業者は理解するだろう。
【0139】
上で詳述される結合性ドメインに加えて、本開示のCARは膜貫通ドメインをさらに含む。本明細書で使用される「膜貫通ドメイン」(TMD)は、原形質膜を通過し、内質シグナル伝達ドメイン、および、場合によりヒンジにより抗原結合性ドメインに連結されるCARの領域を指す。一実施形態では、本開示のCARの膜貫通ドメインは、膜貫通タンパク質(例えば、I型膜貫通タンパク質)の膜貫通領域、人工疎水性配列またはその組合せである。一部の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD8ドメイン、CD3ゼータドメイン、CD28膜貫通ドメイン、DAP10膜貫通ドメイン、Dap12膜貫通ドメインまたはその組合せを含む。他の膜貫通ドメインは当業者に明らかになり、本開示の代替の実施形態に関連して使用することができる。
【0140】
DAP10およびDAP12は、NK細胞で発現されるほとんどの活性化NKRおよびT細胞で発現される全てのNKRと組むことができるアダプターである(Chen X、Bai F、Sokol Lら、A critical role for DAP10 and DAP12 in CD8+T cell-mediated tissue damage in large granular lymphocyte leukemia。Blood。2009;113(14):3226~3234頁を参照する)。
【0141】
免疫系では、DAP12(DNAX活性化タンパク質12)は、骨髄系統の細胞、例えばマクロファージおよび顆粒球で見出され、ここでそれは、例えば、ウイルスおよび細菌のような病原体に対する炎症性応答に両方とも関与する、骨髄細胞メンバー(TREM)およびMDL1(骨髄DAP12関連レクチン1/CLEC5A)の上で発現される誘発受容体と関連している(レビューのために、BakkerA.B.ら、1999。「Myeloid DAP12-associating lectin(MDL)-1 is a cell surface receptor involved in the activation of myeloid cells」。Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:9792~9796頁を参照する。)。DAP12は単一の細胞質免疫受容体チロシンをベースとした活性化モチーフ(ITAM;D/ExxYxxL/Ix6-12YxxL/I)を有し、Sykタンパク質チロシンキナーゼ、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)および細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK/MAPK)を活性化することによってシグナル伝達する。このシグナル伝達経路は、顆粒流動化、標的細胞溶解およびサイトカイン生産をもたらす。
【0142】
DAP12タンパク質(Ref SeqGene:NG_009304.1、Uniprot ref:O43914)は、DAP12のジスルフィド結合したホモダイマーの形成を許容し、リガンド結合能力を有しないシステイン残基から主になる、最小限の細胞外領域を含む。細胞内で、DAP12は単一のITAMを有し、それはチロシンリン酸化の後にNK細胞中の特にSykおよびZAP70を動員して、活性化する。
【0143】
本明細書でDAP12は、野生型ヒトタンパク質、野生型オルソログの1つまたはその機能的バリアントを意味するものである。いずれの場合も、機能的バリアントは、少なくとも細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを含む。さらに、本開示によるDAP12の機能的バリアントは、少なくともITAM(免疫受容体チロシンをベースとした活性化モチーフ)配列をさらに含む。好ましくは、ヒト野生型DAP12タンパク質が使用される。適切な実施形態では、DAP12シグナルペプチド(メチオニンを含む最初の21のアミノ末端アミノ酸に対応する)は、CD8シグナルペプチドなどの別のシグナルペプチドと置き換えることができる。
【0144】
DAP10(DNAX活性化タンパク質10)は、93アミノ酸のI型膜タンパク質である(Genebank ref:ヒトDAP10タンパク質:AAD47911.1)。それは、短い細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび短い細胞質ドメインを含有する。DAP10細胞質ドメインは、T細胞でITAMをベースとしたTCR/CD3複合体と共に共刺激シグナル伝達を提供する、YINMシグナル伝達モチーフを含む。
【0145】
本明細書でDAP10は、野生型ヒトタンパク質、野生型オルソログの1つまたはその機能的バリアントを意味するものである。いずれの場合も、機能的バリアントは、少なくとも細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを含む。さらに、本明細書に開示されるDAP10の機能的バリアントは、少なくともYxxMモチーフをさらに含む。好ましくは、ヒト野生型DAP10タンパク質が使用される。適切な実施形態では、DAP10シグナルペプチド(メチオニンを含む最初の21のアミノ末端アミノ酸に対応する)は、CD8シグナルペプチドなどの別のシグナルペプチドと置き換えることができる。
【0146】
完全DAP10またはDAP12は、好ましくは、上記のシグナルペプチドを含むか含まない、含まれたデータベース参照によるヒトDAP10または12を意図する。一部の実施形態では、本開示のCARは、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを含み、DAP10またはDAP12と少なくとも90%(一般的に少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、99%)の同一性を有する、上記のDAP10またはDAP12の誘導体を含む。
【0147】
好ましくは、DAP10、DAP12の、またはそれらの機能的バリアントの1つの細胞外ドメインは、前に規定されるように結合性ドメインと融合している。一般的に、DAP10、DAP12の、またはそれらの機能的バリアントの1つの前記細胞外ドメインは、単鎖Fv抗体またはナノボディなどの抗体と融合している。1つの代わりの実施形態では、DAP10、DAP12の、またはそれらの機能的バリアントの1つの前記細胞外ドメインは、結合性ドメインと融合しているヒンジと融合している。ヒンジは、CD8ヒンジなどの2~50アミノ酸を含む任意のリンカーアミノ酸配列であってよい。
【0148】
本開示のCARは、細胞内シグナル伝達ドメインをさらに含む。「細胞内シグナル伝達ドメイン」、「細胞質ドメイン」または「エンドドメイン」は、活性化シグナルをT細胞へ送り、細胞がその専門化した機能を実行するように導くドメインである。エフェクター機能シグナルを伝達し、本開示により使用することができるドメインの例には、限定されずに、T細胞受容体複合体のζ鎖またはそのホモログ(例えば、η鎖、FcsRIyおよびβ鎖、MB1(Iga)鎖、B29(Ig)鎖等)のいずれか、ヒトCD3ゼータ鎖、CD3ポリペプチド(Δ、δおよびε)、sykファミリーチロシンキナーゼ(Syk、ZAP70等)、srcファミリーチロシンキナーゼ(Lck、Fyn、Lyn等)、ならびにCD2、CD5、OX40、CD28、DAP10およびDAP12などのT細胞伝達に関与する他の分子からの細胞内ドメインが含まれる。他の細胞内シグナル伝達ドメインは当業者に明らかになり、本開示の代替の実施形態に関連して使用することができる。一部の実施形態では、細胞内ドメインは、DAP10、DAP12、CD28、ヒトCD3ゼータ鎖の細胞内ドメインおよびその組合せから特に選択される。
【0149】
一般的に、本開示によるCARはDAP10またはDAP12を含むことができ、CD3ζ鎖および/またはCD28活性化もしくは共刺激ドメインをさらに含む。
【0150】
好ましくは、CARは、CD3-ζ鎖(簡単にζとも呼ばれる)、および共刺激受容体CD28、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、LAG3、TRIM、HVEM、ICOS、CD27またはCD40Lの細胞質ドメインから選択される、少なくとも1つの追加の活性化ドメインの少なくとも50、60、70、80、90、100、110、120、150または200アミノ酸の断片を含む追加の活性化または共刺激ドメイン(複数可)(または、細胞内ドメイン)を含む。様々な実施形態では、CARは、上記の追加の活性化ドメインのアミノ酸配列と少なくとも90%を超える、好ましくは95%を超える、より好ましくは99%を超える同一性を共有する、少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、150または200アミノ酸の断片を含む追加の活性化ドメイン(複数可)を含む。
【0151】
一部の実施形態では、本開示のCARは、抗原特異的係合の後のCAR-T細胞活性を増強するために、1つまたは複数の共刺激ドメインをさらに含む。本開示のCARへのこのドメインの組入れは、記憶細胞の増殖、生存および/または発達を増強する。共刺激ドメインは、細胞内に位置する。共刺激ドメインは、以下の群から選択されるタンパク質から得られる機能性シグナル伝達ドメインである:CD3ゼータ、CD28、CD137(4-IBB)、CD134(OX40)、Dap10、CD27、CD2、CD5、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、Lck、TNFR-I、TNFR-II、Fas、CD30、CD40、LAG3、TRIM、HVEM、ICOS、CD40Lまたはその組合せ。他の共刺激ドメイン(例えば、他のタンパク質からの)は、当業者に明らかになる。複数のシグナル伝達経路を動員するために、単一のCARに複数の共刺激ドメインが含まれてもよい。一実施形態では、共刺激ドメインは4-1 BBから得られる。用語「4-1 BB」は、GenBank Acc.番号AAA62478.2で提供されるアミノ酸配列、またはヒト以外の種、例えば齧歯動物(例えばマウスまたはラット)、サルまたは類人猿からの同等の残基を有する、TNFRスーパーファミリーのメンバーを指す。用語「4-1BB共刺激ドメイン」は、GenBank Acc.番号AAA62478.2のアミノ酸残基214~255、またはヒト以外の種、例えばマウス、齧歯動物、サル、類人猿などからの同等の残基を指す。
【0152】
本開示の一部の実施形態では、CARはその細胞内ドメインにDAP10、DAP12またはそのバリアントだけを含む。
【0153】
CAR設計の例は、特にJaspers JE、Brentjens RJ.「Development of CART cells designed to improve antitumor efficacy and safety」(Pharmacol Ther.2017;178:83~91頁)で提供される。
【0154】
その中に含まれる結果は、HER2sdAb-DAP10-zおよびHER2sdAb-41-zをベースにしたCARが、がん細胞系に対して高い細胞傷害性を示すことを示した。あるいは、より少ない細胞傷害性を示す一方で、sdAb-DAP12をベースにしたCARは、それらが副作用を低減することが予想されるので有益である可能性がある。
【0155】
一部の実施形態では、本開示のCARは、細胞外抗原結合性ドメインおよび膜貫通ドメインを連結するヒンジまたはスペーサー領域をさらに含む。このヒンジまたはスペーサー領域は、生じるCARの異なる長さおよび柔軟性を達成するために使用することができる。本開示により使用することができるヒンジまたはスペーサー領域の例には、限定されずに、抗体のFc断片またはその断片もしくは誘導体、抗体のヒンジ領域またはその断片もしくは誘導体、抗体のCH2領域、抗体のCH3領域、人工スペーサー配列、例えばペプチド配列、またはその組合せが含まれる。他のヒンジまたはスペーサー領域は当業者に明らかになり、本開示の代替の実施形態に関連して使用することができる。一実施形態では、ヒンジはIgG4ヒンジまたはCD8Aヒンジである。
【0156】
一部の実施形態では、本開示のCARは、CARの異なるドメインを連結する「リンカードメイン」または「リンカー領域」をさらに含む。このドメインは、長さが約1~100アミノ酸のオリゴ-またはポリペプチド領域を含む。好適なリンカーは当業者に明らかになり、本開示の代替の実施形態に関連して使用することができる。
【0157】
一部の実施形態では、本開示のCARは、一般的にN末端位置に「リーダー配列」をさらに含む。一部の実施形態では、リーダー配列は例えばCD8Aドメインである。
【0158】
一部の実施形態では、CARは、ポリペプチドのN末端に位置するシグナルペプチドをさらに含む。
【0159】
本開示による好適なCAR構築物は、特にWO2019077165またはWO2012079000A1に開示される。本開示により有利には、それらの特許出願に記載のscFv結合性ドメイン(複数可)は1つまたは複数の単一ドメイン抗体で置き換えられ、本明細書に記載される少なくとも1つの抗HER2単一ドメイン抗体を含む。
【0160】
一部の実施形態では、DAP10またはDAP12のシグナルペプチドは、別のシグナルペプチドと置き換えることができる。例えば、DAP10またはDAP12のシグナルペプチドのCD8による置き換えは、CAR発現を向上させることに気がついた。
【0161】
本開示のCARは、標識、例えば蛍光標識または他のタグなどの画像化を促進する標識をさらに含むことができる。これは、例えば、腫瘍結合を画像化する方法で使用することができる。標識は、抗原結合性ドメインにコンジュゲートさせることができる。
【0162】
一部の実施形態では、CARはC末端領域にSBP(ストレプトアビジン結合ペプチド)ドメインなどのタンパク質ドメインを含むことができる。本明細書に記載されるCARは、単一ポリペプチド鎖として合成することができる。この実施形態では、抗原特異的標的化領域はN末端に縦に並んで配置され、リンカーペプチドによって区切られる。
【0163】
核酸、ベクター、宿主細胞
本開示は、前述の単一ドメイン抗体もしくはそのバリアントまたはCARをコードする単離された核酸、およびそれを含む核酸構築物も提供する。本開示による核酸は、組換えDNA技術および/または化学的DNA合成の周知の方法によって得ることができる。それと少なくとも60%、70%、80%または90%の配列同一性を有する配列も、本開示の範囲内にある。
【0164】
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」または「核酸分子」は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、またはDNAもしくはRNAの組合せを指す。RNAには、本明細書に記載されるCARポリペプチドをコードするin vitro転写RNAまたは合成RNAまたはmRNA配列が含まれる。核酸は、自殺遺伝子をさらに含むことができる。構築物は、プラスミド、ベクター、転写または発現カセットの形であってよい。
【0165】
したがって、本開示は、宿主細胞内の核酸の転写の調節を可能にする転写プロモーターの制御下の、本開示による核酸を含む組換え発現カセットも提供する。前記核酸は、宿主細胞でのその翻訳の調節を可能にする適当な制御配列に連結されてもよい。
【0166】
本開示は、本開示による核酸を含む組換えベクター(例えば、組換え発現ベクター)も提供する。有利には、前記組換えベクターは、本開示による発現カセットを含む組換え発現ベクターである。
【0167】
本明細書で使用される用語「ベクター」は、それが連結されている別の核酸を増殖させることが可能な核酸分子を指す。本用語は、自己複製する核酸構造としてのベクター、ならびにそれが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。ある特定のベクターは、それらが作動可能に連結されている核酸の発現を導くことが可能である。そのようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0168】
本開示によるベクターは、好ましくは、例えば目的の配列の複製、この配列の発現、染色体外の形でのこの配列の維持、さもなければ宿主の染色体物質への組入れによる、哺乳動物細胞への安定した遺伝子導入および長期遺伝子発現のために好適なベクターである。組換えベクターは標準の組換えDNAテクノロジー技術を使用して構築され、当技術分野で公知である従来の方法を使用して生産される。
【0169】
一部の実施形態では、本開示のベクターは、組入れベクター、例えば組入れウイルスベクター、例えば特にレトロウイルスまたはAAVベクターである。好ましくは、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクター、最も好ましくは組入れウイルスベクターである。
【0170】
本開示との関連で、「レンチウイルスベクター」は、遺伝物質の細胞への送達のために工学操作され、トランスで提供されるレンチウイルスタンパク質(例えば、Gag、Polおよび/またはEnv)を必要とする、非複製非病原性ウイルスを意味する。実際、レンチウイルスベクターは、機能的Gag、PolおよびEnvタンパク質の発現を欠いている。レンチウイルスベクターは、有利には自己不活性化ベクター(SINベクター)である。レンチウイルスベクターは、目的の遺伝子(複数可)の発現を向上させるために、有利には中心ポリプリントラクト/DNA FLAP配列(cPPT-FLAP)、および/またはインシュレータ配列(複数可)、例えばニワトリβグロビンインシュレータ配列(複数可)を含む。レンチウイルスベクターは、有利には別のエンベロープタンパク質、好ましくは別のウイルスエンベロープタンパク質、好ましくは水疱性口内炎ウイルス(VSV)糖タンパク質で偽型化される。一部の好ましい実施形態では、前記レンチウイルスベクターは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)ベクターである。
【0171】
レンチウイルスベクターはレンチウイルス、特にヒト免疫不全ウイルス(HIV-1またはHIV-2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ウマ感染性脳炎ウイルス(EIAV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)およびネコ免疫不全ウイルス(FIV)に由来し、それらは病原性に関与する遺伝子決定因子を除去し、治療効果を得るのに有益な新規の決定因子を導入するように改変される。
【0172】
レンチウイルスベクターは、前記レトロウイルスベクターの生産または発達のステージによって、RNAまたはDNA分子の形で存在することができる。レンチウイルスベクターはプラスミドなどの組換えDNA分子の形で、またはレンチウイルスおよび他のタンパク質の複合体の中のRNA分子(複数可)などのレンチウイルスベクター粒子(本開示との関連で互換的に命名されたレンチウイルス粒子)の形であってもよい。
【0173】
そのようなベクターは、シス-およびトランス-作用性配列の分離に基づく。複製欠陥のあるベクターを生成するために、トランス作用性配列(例えば、gag、pol、tat、revおよびenv遺伝子)を欠失させ、導入遺伝子をコードする発現カセットと置き換えることができる。
【0174】
非分裂細胞での効率的な組入れおよび複製は、レンチウイルスゲノムの中心に2つのc/s作用性配列、中心ポリプリントラクト(cPPT)および中心終止配列(CTS)の存在を一般的に必要とする。これらは、中心DNA「フラップ」と呼ばれる三本鎖DNA構造の形成につながり、それは、核孔での組入れ前複合体の脱外被、および樹状細胞などの非分裂細胞の核への発現カセットの効率的な移入のためのシグナルとして作用する。一実施形態では、本開示は、特に欧州特許出願EP2169073に記載される、cPPT/CTS配列と呼ばれる中心ポリプリントラクトおよび中心終止配列を含むレンチウイルスベクターを包含する。
【0175】
宿主細胞ゲノムへのベクタープロウイルスDNA配列の組入れに関与する長い末端反復配列(LTR)などの、さらなる配列が通常シスで存在する。ベクターは、LTR配列を例えば前記LTRのドメインU3(AU3)で突然変異させることによって得ることができる(Miyoshi Hら、1998、J Virol.72(10):8150~7頁;Zuffereyら、1998、J V/ro/72(12):9873~80頁)。好ましくは、ベクターはエンハンサーを含有しない。一実施形態では、本開示は、LTR配列を、好ましくは3’LTRのプロモーターおよびエンハンサー配列を除去した突然変異させたU3領域(AU3)とを含んでいるレンチウイルスベクターを包含する。
【0176】
ベクター粒子へのポリヌクレオチド配列のカプシド封入を助けるために、パッケージング配列Ψ(プサイ)を組み込むこともできる(Kesslerら、2007、Leukemia、21(9):1859~74頁;Paschenら、2004、Cancer Immunol Immunother 12(6):196~203頁)。一実施形態では、本開示は、レンチウイルスパッケージング配列Ψ(プサイ)を含むレンチウイルスベクターを包含する。
【0177】
導入遺伝子のin vivoでのより安定した発現を得るために、有利にはさらなる追加の機能的配列、例えば輸送RNA結合部位またはプライマー結合部位(PBS)またはウッドチャック転写後調節エレメント(WPRE)が本開示のレンチウイルスベクターポリヌクレオチド配列に含まれてもよい。一部の実施形態では、本開示は、PBSを含むレンチウイルスベクターを包含する。一部の実施形態では、本開示は、WPREおよび/またはIRESを含むレンチウイルスベクターを包含する。
【0178】
したがって、好ましい実施形態では、レンチウイルスベクターは、少なくとも1つのcPPT/CTS配列、1つのΨ配列、1つの(好ましくは2つの)LTR配列、およびβ2ηηまたはクラスI MHCプロモーターの転写制御下の導入遺伝子を含む発現カセットを含む。
【0179】
本開示の一部の実施形態では、本開示のベクター(すなわち組換えトランスファーベクター)は、宿主細胞内でのフック融合タンパク質および/または標的融合タンパク質の発現のための適当な手段を含む発現ベクターである。
【0180】
フック融合タンパク質および/または標的融合タンパク質をコードする核酸配列の高い発現を推進するために、様々なプロモーターを使用することができる。プロモーターは、組織特異的、ユビキタス、構成的または誘導可能なプロモーターであってよい。好ましいプロモーターは、特にT細胞および/またはNK細胞、好ましくはヒトT細胞およびヒトNK細胞で機能的である。特に、好ましいプロモーターは、T細胞またはNK細胞で、好ましくはヒトT細胞またはNK T細胞でレンチベクターから標的融合タンパク質(特に前に規定されるCAR)の高い発現を推進することができる。例えば、本開示によるプロモーターは、ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(PGK)、脾臓病巣形成ウイルス(SFFV)プロモーター、そのプロモーターの短い形(EFS)を含む伸長因子-1アルファ(EF-1アルファ)プロモーター、ウイルスのプロモーター、例えばサイトメガロウイルス(CMV)前初期のエンハンサーおよびプロモーター、ハイブリッドLTRプロモーターを含むレトロウイルスの5’および3’LTRプロモーター、ヒトユビキチンプロモーター、MHCクラスIプロモーター、MHCクラスIIプロモーターおよびβ2ミクログロブリン(β2m)プロモーターから選択することができる。プロモーターは、有利にはヒトプロモーター、すなわち、ヒト細胞または脾臓病巣形成ウイルス(SFFV)などのヒトウイルスからのプロモーターである。ヒトユビキチンプロモーター、MHCクラスIプロモーター、MHCクラスIIプロモーターおよびβ2ミクログロブリン(β2m)プロモーターが特により好ましい。好ましくは、MHCクラスIプロモーターは、HLA-A2プロモーター、HLA-B7プロモーター、HLA-Cw5プロモーター、HLA-FまたはHLA-Eプロモーターである。一部の実施形態では、プロモーターはCMVプロモーター/エンハンサーでも、デクチン-2またはMHCIIプロモーターでもない。そのようなプロモーターは当技術分野で周知であり、それらの配列は配列データベースで利用可能である。
【0181】
一般的に、レンチウイルス粒子は、カプシドと呼ばれるタンパク膜、一部の場合にはカプシドを囲む脂質のエンベロープによって囲まれているDNAまたはRNA(最も好ましくは一本鎖RNA)から作製される遺伝物質で構成される、ウイルスの細胞外感染型を指す。したがって、レンチウイルスベクター粒子(または、レンチウイルス粒子)は、ウイルスのタンパク質と関連している、前に規定されるレンチウイルスベクターを含む。ベクターは、好ましくは組入れベクターである。
【0182】
レンチウイルス粒子のRNA配列は、宿主細胞ゲノムに挿入された二本鎖DNA配列(プロウイルスベクターDNA)から転写によって得ることができるか、または形質転換宿主細胞でのプラスミドDNA(プラスミドベクターDNA)の一時的発現から得ることができる。特に治療適用のためにレンチウイルス粒子を設計し、調製するための適当な方法は当技術分野で周知であり、例えば、Merten OW、Hebben M、Bovolenta C。Production of lentiviral vectors。Mol Ther Methods Clin Dev.2016年4月13日;3:16017頁、に記載される。
【0183】
好ましくは、レンチウイルス粒子は、組入れ能力を有する。このように、それらは機能的インテグラーゼタンパク質を含有する。非組入れベクター粒子は、レンチウイルスベクター粒子の組入れ能力のほとんどまたは全てを排除する、1つまたは複数の突然変異を有する。例えば、非組入れベクター粒子は、レンチウイルスpol遺伝子によってコードされるインテグラーゼに、組入れ能力の低減を引き起こす突然変異(複数可)を含有することができる。対照的に、組入れベクター粒子は、レンチウイルスベクター粒子の組入れ能力のほとんどまたは全てを排除するいかなる突然変異も含有しない機能的インテグラーゼタンパク質を含む。
【0184】
一部の実施形態では、本開示は:
(a)上で規定されるキメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含む核酸、および場合により
(b)別のタンパク質またはポリペプチドをコードする核酸
を含む1つまたは複数のベクターを含むベクター系を包含し、ここで、核酸(a)および(b)は同じかまたは別個のベクターの上に位置する。
【0185】
好ましい核酸(a)は、前のセクションで記載されている。
【0186】
ベクター系が複数のベクター、一般的に2つ以上のベクターを含むとき、前記ベクターは一般的に同じ種類である(例えば、レンチウイルスベクター)。以下のセクションでは、ベクターは「1つまたは複数のベクター」または「ベクター系」を指すこともできる。好ましくは、本開示は、レンチウイルスベクター系、特にレンチウイルス粒子系を包含する。
【0187】
本開示により、ベクターは発現ベクターであってよい。ベクターは、プラスミドベクターであってよい。
【0188】
本開示の一実施形態では、CARおよび他のタンパク質をコードする核酸は別々のベクターに挿入される。
【0189】
別の実施形態では、CARおよび他のタンパク質をコードする核酸は、同じベクターに挿入される。
【0190】
後の実施形態では、各コード配列(すなわち他のタンパク質またはポリペプチドおよびCARをそれぞれコードする核酸)は、別々の発現カセットに挿入することができる。したがって、各発現カセットは、宿主細胞での対応するタンパク質の発現を可能にする調節配列、例えば特にプロモーター、プロモーター/エンハンサー、開始コドン(ATG)、コドン終止、転写終止シグナルに機能的に連結されるコード配列(オープンリーディングフレームまたはORF)を含む。
【0191】
あるいは、リボソーム内部進入部位(IRES)、または同時発現を可能にする2つのコード配列の間に挿入された自己切断2Aペプチドを使用した特異な発現カセットから、タンパク質を発現させることもできる。
【0192】
タンパク質(複数可)をコードする核酸(複数可)は単一の発現ベクターに挿入することができ、前記単一ベクターは二シストロン性発現カセットを含む。二シストロン性発現カセットを含有するベクターは、当技術分野で周知である。有利には、二シストロン性発現カセットは、単一のプロモーターからの両方の融合タンパク質の発現を可能にするリボソーム内部進入部位(IRES)を含有する。好適な市販されている二シストロン性ベクターには、限定されずに、pIRES(Clontech)、pBud(Invitrogen)およびVitality(Stratagene)シリーズのプラスミドを含めることができる。好ましくは、IRES配列の上流に位置する核酸は、プロモーターに作動可能に連結される。好ましくは、あらゆる標的融合タンパク質を保持するのに十分にフック融合タンパク質が発現されることを確実にするために、フックタンパク質をコードする核酸はIRES配列の上流に挿入され、標的融合タンパク質をコードする核酸は前記IRES配列の下流に挿入される。一部の実施形態では、各々異なるフックをコードする複数の、一般的に少なくとも2つの核酸、および標的融合タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸が挿入される、多シストロン性発現ベクターを使用することができる。
【0193】
IRESの代わりに、自己切断2Aペプチドを使用することもできる。その小さいサイズおよび高い切断、ならびに2Aペプチドの上流および下流の核酸配列の間での翻訳効率のため、そのような戦略は高度に有利である。本開示による好適な2Aペプチドは、特にKim JH、Lee S-R、Li L-Hら、High Cleavage Efficiency of a 2A Peptide Derived from Porcine Teschovirus-1 in Human Cell Lines、Zebrafish and Mice。PLoS ONE。2011;6(4):e18556、に記載されているが、Liu、Z.、O.Chen、J.B.J.Wall、M.Zheng、Y.Zhou、L.Wang、H.Ruth Vaseghi、L.QianおよびJ.Liu.2017。Systematic comparison of 2A peptides for cloning multi-genes in a polycistronic vector。Scientific reports。7:2193、も参照する。2Aペプチドは、FMDV 2A(本明細書でF2Aと略される);ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)2A(E2A);ブタテッショウウイルス-1 2A(P2A)およびThoseaasignaウイルス2A(T2A)から選択することができる。P2AまたはT2Aペプチドが好ましい。
【0194】
本開示は、前に規定されるように1つまたは複数のウイルス粒子がウイルスベクター、一般的に組入れウイルスベクターを含む、ウイルス粒子系も包含する。好ましくは、ウイルスベクターはレンチウイルスベクターであり、ウイルス粒子はレンチウイルス粒子である。一実施形態では、ウイルス粒子系は、フックタンパク質およびCARをそれぞれコードするウイルスベクターを含む分離された粒子を含む。代わりの実施形態では、ウイルス粒子系は、前述の通り、フック融合タンパク質およびCARの両方をコードするウイルスベクターを含む1つの粒子を含む。フックタンパク質をコードする核酸配列およびCARをコードする核酸配列は、好ましくは上で規定される特異な発現カセットから発現される。
【0195】
本開示は、本明細書に開示される核酸構築物、特に本開示による組換え発現カセットまたは組換えベクターを含有する宿主細胞も提供する。宿主細胞は、原核または真核生物の宿主細胞である。用語「宿主細胞」は外因性核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫も含まれる。宿主細胞には「形質転換体」および「形質転換細胞」が含まれ、それらには、一次形質転換細胞および継代数に関係なくそれに由来する子孫が含まれる。子孫は親細胞と核酸内容が完全に同一でなくてもよく、突然変異を含有することができる。当初形質転換された細胞でスクリーニングまたは選択されたのと同じ機能または生物活性を有する突然変異体子孫が、本明細書に含まれる。
【0196】
本開示は、上で規定される宿主細胞の中で、前に規定される単一ドメイン抗体またはCARからなるかまたはそれを含むポリペプチドを生産する方法であって、以下のステップを含む方法も提供する:
・本開示による核酸構築物、組換え発現カセットまたは組換えベクターを含有する宿主細胞を提供するステップ、
・前記宿主細胞を培養するステップ、
・および場合により本開示の単一ドメイン抗体またはCARを精製するステップ。
【0197】
ポリペプチドを精製する方法は、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィーおよび逆相クロマトグラフィー)など、当技術分野で周知である。
【0198】
本開示は、本明細書に開示される核酸構築物を含む組成物も包含する。
【0199】
免疫細胞およびそれを得る方法
本開示は、前述の核酸構築物、特にベクター、およびより詳細には前述の少なくとも1つまたは複数のCARをコードするウイルスベクター粒子を含む、単離された細胞、細胞の集団、細胞系または細胞培養も提供する。好ましくは、ベクターおよび/またはレンチウイルス粒子は、フックタンパク質をコードする核酸配列をさらに含む。
【0200】
一実施形態では、細胞は、細胞ゲノムに組み入れられたベクターおよび/またはウイルスベクター粒子を含有する。一実施形態では、細胞は、CARを安定して発現するベクターを含有する。一実施形態では、細胞は、CARをコードするレンチウイルスベクター粒子を生成する。
【0201】
細胞は、好ましくは哺乳動物の細胞、特にヒト細胞である。ヒトの非分裂細胞が特に好ましい。好ましくは、細胞は免疫細胞である。本明細書で使用されるように、用語「免疫細胞」には、造血起源であるもの、および免疫応答で役割を果たす細胞が含まれる。免疫細胞には、リンパ球、例えばB細胞およびT細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、骨髄細胞、例えば単球、マクロファージ、好酸球、肥満細胞、好塩基球および顆粒球が含まれる。
【0202】
本明細書で使用されるように、用語「T細胞」にはT細胞受容体(TCR)を有する細胞が含まれ、本開示によるT細胞は、炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、調節Tリンパ球、粘膜関連不変T細胞(MAIT)、γδT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、または1型および2型のヘルパーT細胞ならびにTh17ヘルパー細胞を含むヘルパーTリンパ球からなる群から選択することができる。別の実施形態では、前記細胞は、CD4+Tリンパ球およびCD8+Tリンパ球からなる群に由来することができる。
【0203】
前記免疫細胞は健康なドナー、またはがんを患っている対象を起源とすることができる。
【0204】
免疫細胞は血液から抽出することができるか、幹細胞に由来することができる。幹細胞は、成人幹細胞、胚性幹細胞、より詳細には非ヒト幹細胞、臍帯血幹細胞、前駆体細胞、骨髄幹細胞、人工多能性幹細胞、全能幹細胞または造血幹細胞であってよい。代表的なヒト細胞は、CD34+細胞である。
【0205】
T細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織および腫瘍を含むいくつかの非限定的供与源から得ることができる。ある特定の実施形態では、T細胞は、FICOLL(商標)分離などの当業者に公知である任意の数の技術を使用して対象から収集される血液のユニットから得ることができる。一実施形態では、対象の循環血液からの細胞は、アフェレーシスによって得られる。ある特定の実施形態では、T細胞はPBMCから単離される。PBMCは、全血の密度勾配遠心分離、例えば、LYMPHOPREP(商標)勾配、PERCOLL(商標)勾配またはFICOLL(商標)勾配を通した遠心分離によって得られるバフィーコートから単離することができる。T細胞は、例えばCD14 DYNABEADS(登録商標)の使用による単球の消去によって、PBMCから単離することができる。一部の実施形態では、密度勾配遠心分離の前に赤血球を溶解してもよい。
【0206】
別の実施形態では、前記細胞は、健康なドナー、がんを診断された対象に由来することができる。細胞は自己由来でも、同種異系であってもよい。
【0207】
同種異系免疫細胞療法では、免疫細胞は患者ではなく健康なドナーから収集される。一般的に、これらは、移植片対宿主病の可能性を低減するようにマッチさせたHLAである。あるいは、HLAマッチングを必要としない汎用性「既製」製品は、TCRαβ受容体の破壊または除去などの移植片対宿主病を低減するように設計された改変を含む。レビューについては、Grahamら、Cells。2018年10月;7(10):155を参照する。ベータ鎖をコードする2つの遺伝子ではなく単一の遺伝子がアルファ鎖(TRAC)をコードするので、TRAC遺伝子座がTCRαβ受容体発現を除去または破壊するための一般的な標的である。あるいは、TCRαβシグナル伝達の阻害剤を発現させることができ、例えば、CD3ζのトランケーション形はTCR阻害分子として作用することができる。HLAクラスI分子の破壊または除去も、用いられている。一般的に、遺伝子破壊はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化剤様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)およびクリスパー(CRISPR)-Cas関連ヌクレアーゼなどの遺伝子編集技術を使用して達成することができ、有利に使用することができる(Li、H.、Yang、Y.、Hong、W.ら、Applications of genome editing technology in the targeted therapy of human diseases:mechanisms,advances and prospects。Sig Transduct Target Ther 5、1(2020)を参照する)。例えば、Torikaiら、Blood。2013;122:1341~1349頁は、HLA-A遺伝子座をノックアウトするためにZFNを使用したが、Renら、Clin.Cancer Res.2017;23:2255~2266頁は、HLAクラスI発現のために必要とされるベータ-2ミクログロブリン(B2M)をノックアウトした。Renらは、TCRαβ、B2Mおよび免疫チェックポイントPD1を同時にノックアウトした。
【0208】
一般的に、養子細胞療法で利用されるように免疫細胞は活性化され、増大される。本明細書で開示される免疫細胞は、in vivoまたはex vivoで増大させることができる。免疫細胞、特にT細胞は、一般的に当技術分野で公知である方法を使用して活性化し、増大させることができる。一般的に、T細胞は、CD3/TCR複合体に関連したシグナルを刺激する薬剤、およびT細胞の表面の共刺激分子を刺激するリガンドをそれに結合して有する表面との接触によって増大される。
【0209】
一般的に、免疫細胞は本明細書に開示されるキメラ抗原受容体を発現するように改変される。複数の腫瘍特異的標的の発現は、標的抗原の発現を突然変異または低減させることによる抗原エスケープの可能性を低減することができる。前述の通り、本開示のCARは多重特異的CARであってよい(すなわち、複数の抗原に対して向けられる、すなわちHER2および少なくとも別の抗原に対して向けられる)。さらに、または代わりに、本明細書に記載される免疫細胞は、本明細書に規定される1つまたは複数のCAR(複数可)、および1つまたは複数の他の抗原(複数可)を標的にする少なくとも別のCARを発現することができる。
【0210】
特異分子の発現を抑圧することによっておよび/または組換え抗原受容体を発現するように免疫細胞を遺伝子改変することができる方法は、当技術分野で周知である。抗原受容体をコードする核酸分子は、例えばベクター(ウイルスまたは非ウイルスDNAプラスミドをベースとしたベクターなど)または任意の他の好適な核酸構築物の形で細胞に導入することができる。一般的に一部の実施形態では、ウイルスをベースとした送達系の主要な欠点を回避するのに、非ウイルスベクター戦略が好ましいかもしれない。例えば、組換え発現は、トランスポゾンをベースとした発現、例えば一般的にSleeping Beauty(SB)トランスポゾンシステム(Molecular reconstruction of Sleeping Beauty、a Tc1-like transposon from fish、and its transposition in human cells。Ivics Z、Hackett PB、Plasterk RH、Izsvak Z、Cell。1997年11月14日;91(4):501~10頁を、またはレビューについては、Hackett PB、Largaespada DA、Cooper LJ.A transposon and transposase system for human application。Mol Ther.2010;18(4):674~683頁;およびAronovich EL、McIvor RS、Hackett PB。The Sleeping Beauty transposon system:non-viral vector for gene therapy。Hum Mol Genet.2011;20(R1):R14~R20、を参照する。)または、PiggyBacトランスポゾンシステム(Woodard LE、Wilson MH、piggyBac-ing models and new therapeutic strategies。Trends Biotechnol.2015;33(9):525~533頁;Ivics Z、Li MA、Mates Lら、Transposon-mediated genome manipulation in vertebrates。Nat Methods。2009;6(6):415~422頁;Li X、Burnight ER、Cooney ALら、piggyBac transposase tools for genome engineering。Proc Natl Acad Sci USA。2013;110(25):E2279~E2287;およびZhao、Shuangら「PiggyBac transposon vectors:the tools of the human gene encoding。」Translational lung cancer research第5巻、1(2016):120~5頁を参照する)を使用して達成することができる。一般的にさらに、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化剤様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)およびクリスパー(CRISPR)-Cas関連ヌクレアーゼなどのゲノム編集技術を有利に使用することができる(Li、H.、Yang、Y.、Hong、W.ら、Applications of genome editing technology in the targeted therapy of human diseases:mechanisims、advances and prospects。Sig Transduct Target Ther 5、1(2020);CRISPR-Casシステムに関しては、例えば、Miura、H.、Quadros、R.、Gurumurthy、C.ら、Easi-CRISPR for creating a knock-in and conditional knockout mouse models using long ssDNA donors。Nat Protoc 13、195~215頁(2018);Hendel、A.、Bak、R.、Clark、J.ら、Chemically modified guide RNAs enhance CRISPR-Cas genome editing in human primary cells。Nat Biotechnol 33、985~989頁(2015);Roth、T.L.、Puig-Saus、C.、Yu、R.ら、Reprogramming human T cell function and specificity with non-viral genome targeting。Nature 559、405~409頁(2018)。https://doi.org/10.1038/s41586-018-0326-5またはEyquem、J.ら、Targeting a CAR to the TRAC locus with CRISPR/Cas9 enhances tumour rejection。Nature 543、113~117頁(2017)の近年の研究を参照する)。
【0211】
ベクターおよびそれらの必要な構成成分は、当技術分野で周知である。抗原受容体をコードする核酸分子は、当技術分野で公知である任意の方法、例えばPCRを使用した分子クローニングを使用して作製することができる。抗原受容体配列は、一般的に使用される方法、例えば部位特異的突然変異誘発を使用して改変することができる。
【0212】
別の態様では、本開示は、本明細書に記載されるCARで細胞を形質転換することを含む、適応免疫療法で使用するための細胞の集団を作製するためのex vivo方法に関する。
【0213】
本開示の組成物およびキット
本開示は、1つまたは複数の抗HER2単一ドメイン抗体(複数可)、CAR(複数可)、それをコードする核酸構築物、および/または本明細書に開示されるCARを含む1つまたは複数の単離細胞(複数可)もしくは細胞集団(複数可)を単独で、または安定化化合物などの少なくとも1つの他の薬剤と組み合わせて含む医薬組成物も包含し、それは、任意の無菌の生体適合性の医薬担体で投与することができ、場合により無菌の薬学的に許容されるバッファー(複数可)、希釈剤(複数可)および/または賦形剤(複数可)で製剤化することができる。薬学的に許容される担体は、組成物を一般的に増強するか安定化させ、および/または組成物の調製を促進するために使用することができる。薬学的に許容される担体には、生理的に適合し、および一部の実施形態では薬学的に不活性である溶媒、分散媒体、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張性および吸収遅延剤などが含まれる。
【0214】
本明細書に開示されるsdAbを含む医薬組成物の投与は、経口的または非経口的に達成することができる。非経口送達の方法には、局所、動脈内(腫瘍に直接的に)、筋肉内、脊髄、皮下、髄内、クモ膜下、心室内、静脈内、腹腔内または鼻腔内の投与が含まれる。
【0215】
本開示の遺伝子改変細胞または医薬組成物は、非経口投与を含む任意の都合のよい経路によって投与することができる。非経口投与には、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、直腸、膀胱内、皮内、局所または皮下の投与が含まれる。組成物は、1つまたは複数の投薬単位の形をとることができる。
【0216】
したがって、活性成分に加えて、これらの医薬組成物は、医薬として使用することができる製剤への活性化合物の処理を促進する、賦形剤および補助剤を含む好適な薬学的に許容される担体を含有することができる。製剤および投与の技術に関するさらなる詳細は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Ed.Maack Publishing Co、Easton、Pa.)の最新版に見出すことができる。
【0217】
投与経路によって、単一ドメイン抗体またはそのバリアントは、酸および化合物を不活性化する可能性がある他の天然の条件の作用から化合物を保護する物質でコーティングされてもよい。
【0218】
組成物は一般的に無菌で、好ましくは流体である。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合は所望の粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合には、等張剤、例えば糖、多価アルコール、例えばマンニトールまたはソルビトール、および塩化ナトリウムを組成物中に含ませることが好ましい。吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンを組成物に含ませることによって、注射可能な組成物の長期吸収をもたらすことができる。
【0219】
経口投与のための医薬組成物は、当技術分野で周知である薬学的に許容される担体を使用して、経口投与のために好適な投薬量で製剤化することができる。そのような担体は、患者による摂取のために、医薬組成物を錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などとして製剤化することを可能にする。
【0220】
経口使用のための医薬製剤は、活性化合物と固体賦形剤の組合せにより得ることができ、場合により生じる混合物を磨砕し、所望により好適な補助剤を加えた後に顆粒剤の混合物を加工して、錠剤または糖衣剤コアを得ることができる。好適な賦形剤は、炭水化物またはタンパク質フィラー、例えばラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖;コーン、コムギ、イネ、ジャガイモまたは他の植物からのデンプン;セルロース、例えばメチル、セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースナトリウム;ならびに、アラビアおよびトラガカントを含むゴム;ならびにゼラチンおよびコラーゲンなどのタンパク質である。所望により、崩壊剤または可溶化剤、例えば架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムを加えてもよい。
【0221】
糖衣剤コアは、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポルゲル、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタン、ラッカー溶液および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有することもできる、濃縮糖液などの好適なコーティングで提供される。製品識別のために、または活性化合物の量、すなわち投薬量を特徴付けるために、錠剤または糖衣剤コーティングに染料または色素を加えてもよい。
【0222】
経口的に使用することができる医薬製剤には、ゼラチン製の押込嵌めカプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどのコーティングで作られた軟質の密封カプセルが含まれる。押込嵌めカプセルは、ラクトースまたはデンプンなどのフィラーまたは結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、および場合により安定剤と混合されている活性成分を含有することができる。ソフトカプセルでは、活性化合物は、安定剤の有る無しで、好適な液体、例えば脂肪油、流動パラフィンまたは液体ポリエチレングリコールに溶解または懸濁させることができる。
【0223】
非経口投与のための医薬製剤には、活性化合物の水性溶液が含まれる。注射のために、本開示の医薬組成物は、水性溶液で、好ましくはハンクスの溶液、リンガー液または生理緩衝食塩水などの生理的に適合するバッファーで製剤化することができる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘性を増加させる、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランなどの物質を含有することができる。さらに、適当な油性注射懸濁液として、活性化合物の懸濁液を調製することができる。好適な親油性溶媒またはビヒクルには、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームが含まれる。場合により、懸濁液は、高度濃縮溶液の調製を可能にするために、化合物の溶解性を増加させる好適な安定剤または薬剤を含有することもできる。
【0224】
局所または経鼻投与のために、浸透すべき特定の障壁に適当な浸透剤が製剤で使用される。そのような浸透剤は、当技術分野で一般的に公知である。
【0225】
本開示の医薬組成物は、当技術分野で周知であり日常的に実施される方法に従って調製することができる。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、Mack Publishing Co.、第20版、2000;およびSustained and Controlled Release Drug Delivery Systems、J R.Robinson編、Marcel Dekker,Inc.、New York、1978を参照する。医薬組成物は、好ましくはGMP条件下で製造される。
【0226】
特定の障害または状態の処置で有効/活性である本開示の医薬組成物の量は、障害または状態の性質に依存しており、標準の臨床技術によって決定することができる。さらに、最適な投薬量範囲の同定を助けるために、in vitroまたはin vivoアッセイを場合により用いることができる。組成物で用いられる正確な用量は、投与経路および疾患または障害の重大性にも依存し、治療医師の判断および各患者の状況によって決定されるべきである。
【0227】
本明細書で開示される組成物は、好適な投薬量が得られるように、本開示の結合性分子(例えば、単一ドメイン抗体またはそのバリアントまたはキメラ抗原受容体)の有効量を含む。化合物の正しい投薬量は特定の製剤、適用様式ならびにその特定の部位、宿主および処置されている疾患により異なる。年齢、体重、性別、食事、投与の時期、排出速度、宿主の状態、薬物組合せ、反応感受性および疾患の重症度のような他の因子が考慮されるべきである。投与は、最大耐容用量の範囲内で連続的に、または定期的に実行することができる。
【0228】
一般的に、この量は、組成物の重量に対して少なくとも約0.01%の本開示の結合性分子である。本開示の好ましい組成物は、非経口投薬量単位が約0.01%から約2重量%の本開示の結合性分子を含有するように調製される。
【0229】
静脈内投与のために、組成物は一般的に動物の体重1kgあたり約0.1mgから約250mg、好ましくは動物の体重1kgあたり約0.1mgから約20mg、より好ましくは動物の体重1kgあたり約1mgから約10mgを含むことができる。
【0230】
本組成物は、好適な担体の形、例えばエアゾール、噴霧剤、懸濁液、または使用のために好適な任意の他の形をとることができる。好適な医薬担体の他の例は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載される。
【0231】
本明細書で開示される医薬組成物は、他の治療法、例えば抗がん剤と同時投与されてもよい。
【0232】
医療使用
本開示は、それを必要とする対象における療法での医薬としての使用のための、特にがんの処置で使用するための、一般的にがん細胞療法のための、本明細書に記載される抗HER2単一ドメイン抗体もしくはそのバリアント、本明細書に記載されるHER2に対するCARもしくはそのバリアント、前記抗HER2単一ドメイン抗体もしくはCARをコードする核酸、または本明細書に記載されるCARを含む細胞、細胞系もしくは細胞集団にも関する。この実施形態では、上で規定される細胞は、自己由来細胞(処置される対象から)または同種異系細胞であってよい。
【0233】
本開示は、特にがんの処置のための、例えばがんの細胞療法のための医薬の製造における、本明細書に記載される抗HER2単一ドメイン抗体もしくはそのバリアント、本明細書に記載されるHER2に対するCARもしくはそのバリアント、前記抗HER2単一ドメイン抗体もしくはCARをコードする核酸、または本明細書に記載される前記CARを含む細胞、細胞系もしくは細胞集団にも関する。
【0234】
本開示は、がんの予防および/または処置のための方法であって、対象に本明細書に記載される抗HER2単一ドメイン抗体もしくはそのバリアント、本明細書に記載されるHER2に対するCARもしくはそのバリアント、前記抗HER2単一ドメイン抗体もしくはCARをコードする核酸、または本明細書に記載されるCARを含む細胞、細胞系もしくは細胞集団を投与することを含み、それを必要とする対象に本明細書に記載される抗HER2単一ドメイン抗体もしくはそのバリアント、CAR、CARを含む細胞、細胞系もしくは細胞集団、および/または本開示の医薬組成物の薬学的に活性な量を投与することを含む方法も包含する。本方法は、がんを有する対象を同定するステップをさらに含むことができる。
【0235】
本開示は、標的化免疫療法における、抗HER2単一ドメイン抗体またはそのバリアント、HER2に対するCARまたはそのバリアント、前記抗HER2単一ドメイン抗体またはCARをコードする核酸、本明細書に記載されるCARを含む細胞系または細胞集団の1つまたは複数の使用も含む。例えば、本開示のsdAb、特に免疫細胞抗原およびCAR発現免疫細胞(特にCAR T細胞)をさらに標的にする多重特異的ポリペプチドの形のそのバリアントは、免疫細胞リダイレクティング免疫療法で使用することができる。
【0236】
別の態様では、本開示は、対象における標的細胞集団または組織へのT細胞性免疫応答を刺激する方法であって、本明細書に記載されるHER2に対して向けられるCARを発現する、細胞または細胞集団の有効量を対象に投与することを含む方法に関する。
【0237】
別の態様では、本開示は、対象で抗腫瘍免疫を提供する方法であって、本明細書に記載されるHER2に対して向けられるCARを発現するように遺伝子改変された細胞または細胞集団の有効量を哺乳動物に投与し、それによって対象で抗腫瘍免疫を提供することを含む方法に関する。
【0238】
本開示は、対象において養子細胞またはCAR-T細胞療法で使用するための、抗HER2単一ドメイン抗体(そのバリアントを含む)、本明細書に記載されるHER2に対するCAR、または前記ヒト化抗HER2 SdAbもしくはCARをコードする核酸構築物、または前に規定される前記CARを発現する免疫細胞にも関する。一般的に、本開示の方法で使用するための免疫細胞は、リダイレクトされたT細胞、例えば、リダイレクトされたCD8+および/またはCD4+T細胞である。
【0239】
一部の実施形態では、抗HER2単一ドメイン抗体(そのバリアントを含む)、および本明細書に記載されるHER2に対するCAR、ならびにそれらをコードする核酸構築物、およびそのようなCARを含む細胞は、腫瘍増殖を阻害し、分化を誘導し、腫瘍体積を低減し、および/または腫瘍の腫瘍原性を低減するのに有益である。使用方法は、in vitro、ex vivoまたはin vivoの方法であってよい。
【0240】
ある特定の態様では、対象はヒトである。ある特定の態様では、対象は腫瘍を有するか、腫瘍を除去された。対象は、がんを起こす危険があってもよい。
【0241】
がんは、固形がんまたは液体腫瘍であってよい。本明細書に記載される方法、使用および組成物によって処置することができるがんには、限定されずに、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、胃腸、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、首、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌または子宮からのがん細胞が含まれる。さらに、がんは具体的に以下の組織型であってよいが、これらに限定されない:新生物、悪性;癌腫;癌腫、未分化;巨大および紡錘形細胞癌;小細胞癌;乳頭癌;扁平上皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;毛質癌;遷移細胞癌;乳頭遷移細胞癌;腺癌;ガストリノーマ、悪性;胆管癌;肝細胞癌;複合的肝細胞癌および胆管癌;小柱腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫様ポリープ内の腺癌;腺癌、家族性結腸ポリポーシス;固形癌;カルチノイド腫瘍、悪性;ブランキオロ-肺胞腺癌;乳頭状腺癌;嫌色素性癌;好酸性癌;酸親和性腺癌;好塩基性癌;透明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞性腺癌;乳頭状および濾胞性腺癌;非被包性硬化性癌;副腎皮質癌;類内膜癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂性腺癌;耳垢腺癌;粘液性類表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢胞腺癌;乳頭状漿液嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;浸潤性管癌;髄質癌;小葉癌;炎症性癌;パジェット病、乳房;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;扁平上皮異形成のある腺癌;胸腺腫、悪性;卵巣の間質腫瘍、悪性;卵胞膜細胞腫、悪性;顆粒膜細胞腫、悪性;および神経芽細胞腫、悪性;セルトリ細胞癌;ライディッヒ細胞腫瘍、悪性;脂質細胞腫瘍、悪性;パラガングリオーマ、悪性;乳房外パラガングリオーマ、悪性;褐色細胞腫;グロムス肉腫;悪性黒色腫;メラニン欠乏性黒色腫;表在性伝播性黒色腫;巨大色素性母斑中の悪性黒色腫;類上皮細胞黒色腫;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胚性横紋筋肉腫;肺胞横紋筋肉腫;間質性肉腫;混合腫瘍、悪性;ミュラー混合腫瘍;腎芽腫;肝芽細胞腫;癌肉腫;間葉細胞腫、悪性;ブレンナー腫瘍、悪性;仮葉腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚細胞腫;胚性癌;テラトーマ、悪性;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛癌;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉腫;血管周囲細胞腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;皮質近接部の骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨の巨大細胞腫瘍;ユーイング肉腫;歯原性腫瘍、悪性;エナメル芽細胞歯牙肉腫;エナメル上皮腫、悪性;エナメル芽細胞線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫;神経膠腫、悪性;上衣細胞腫;星状細胞腫;原形質星状細胞腫;線維性星状細胞腫;神経膠星状芽細胞腫;神経膠芽腫;希突起膠細胞腫;乏突起神経膠芽細胞腫;原始神経外胚葉;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽細胞腫;網膜芽細胞腫;嗅覚神経原性腫瘍;髄膜腫、悪性;神経線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫瘍、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキンリンパ腫;側肉芽腫;悪性リンパ腫、小リンパ球;悪性リンパ腫、大細胞、散在性;悪性リンパ腫、濾胞性;菌状息肉腫;他の特定の非ホジキンリンパ腫;悪性組織球症;多発性骨髄腫;肥満細胞肉腫;免疫増生性小腸病;白血病;リンパ性白血病;形質細胞白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞白血病;骨髄性白血病;好塩基性白血病;好酸性白血病;単球性白血病;肥胖細胞性白血病;巨核芽球白血病;骨髄肉腫;および毛様細胞白血病。
【0242】
本開示により処置および/または予防することができるより具体的ながんには、HER媒介のがんが含まれる。一般的に、HER2媒介がんは、HER2が発現または過剰発現されるがんである。HER2が発現および/または過剰発現される一般的ながんには、乳がん、胃がんまたは腹部がん(gastic or stomach cancer)、唾液腺管癌、肺腺癌(例えば、非小細胞肺(NSCLC))、卵巣がん、子宮がん(例えば、子宮漿液性子宮内膜癌)、結腸がん、神経膠芽腫および膵臓がんが含まれる。
【0243】
一部の実施形態では、上記のがん処置および/または養子細胞がん療法は、追加のがん療法と併用投与される。一部の実施形態では、上記のがん処置および/または養子細胞がん療法は、標的化療法、免疫療法、例えば免疫チェックポイント療法および免疫チェックポイント阻害剤、共刺激抗体、化学療法および/または放射線療法と併用投与される。
【0244】
チェックポイント阻害剤などの免疫チェックポイント療法には、限定されずに、プログラム死-1(PD-1)阻害剤、プログラム死リガンド-1(PD-L1)阻害剤、プログラム死リガンド-2(PD-L2)阻害剤、リンパ球活性化遺伝子3(LAG3)阻害剤、T細胞免疫グロブリンおよびムチン-ドメイン含有タンパク質3(TIM-3)阻害剤、IgおよびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(TIGIT)阻害剤、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)阻害剤、T細胞活性化のV-ドメインIgサプレッサー(VISTA)阻害剤、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)阻害剤、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)阻害剤、KIR2L3阻害剤、KIR3DL2阻害剤および癌胎児性抗原関連細胞接着因子1(CEACAM-1)阻害剤が含まれる。特に、チェックポイント阻害剤には、抗体抗PD1、抗PD-L1、抗CTLA-4、抗TIM-3、抗LAG3が含まれる。共刺激抗体は、ICOS、CD137、CD27、OX-40およびGITRを限定されずに含む免疫調節受容体を通して、陽性シグナルを送達する。
【0245】
抗PD1抗体の例には、限定されずに、ニボルマブ、セミプリマブ(REGN2810またはREGN-2810)、ティスレリズマブ(BGB-A317)、ティスレリズマブ、スパルタリズマブ(PDR001またはPDR-001)、ABBV-181、JNJ-63723283、BI754091、MAG012、TSR-042、AGEN2034、ピジリズマブ、ニボルマブ(ONO-4538、BMS-936558、MDX1106、GTPL7335またはオプジーボ)、ペムブロリズマブ(MK-3475、MK03475、ラムブロリズマブ、SCH-900475またはケイツルーダ)、ならびに国際特許出願WO2004004771、WO2004056875、WO2006121168、WO2008156712、WO2009014708、WO2009114335、WO2013043569およびWO2014047350に記載される抗体が含まれる。
【0246】
抗PD-L1抗体の例には、限定されずに、LY3300054、アテゾリズマブ、デュルバルマブおよびアベルマブが含まれる。
【0247】
抗CTLA-4抗体の例には、限定されずに、イピリムマブ(例えば、米国特許第6,984,720号および米国特許第8,017,114号を参照する)、トレメリムマブ(例えば、米国特許第7,109,003号および米国特許第8,143,379号を参照する)、単鎖抗CTLA4抗体(例えば、国際特許出願WO1997020574およびWO2007123737を参照する)および米国特許第8,491,895号に記載される抗体が含まれる。
【0248】
抗VISTA抗体の例は、米国特許出願公開第20130177557号に記載される。
【0249】
LAG3受容体の阻害剤の例は、米国特許第5,773,578号に記載される。
【0250】
KIR阻害剤の例は、KIR3DL2を標的にするIPH4102である。
【0251】
本明細書で使用されるように、用語「化学療法」は、当技術分野でのその一般的な意味を有し、患者に化学療法剤を投与することを含む処置を指す。本明細書で使用される化学療法実体は細胞に破壊的である実体を指し、すなわちその実体は細胞の生存能力を低減する。化学療法実体は、細胞傷害薬であってよい。化学療法剤には、限定されずに、チオテパおよびシクロホスファミドなどのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファンなどのアルキルスルホン酸;ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパおよびウレドパなどのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよびトリメチロメラミンを含むエチレンイミンおよびメチラメラミン;アセトゲニン(特にブラタシンおよびブラタシノン);カンプトセシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシンおよびビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189およびCB1-TM1を含む);エロイテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンジスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、酸化メクロレタミン塩酸塩、メルファラン、ノベンビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチンおよびラニムスチンなどのニトロソ尿素;抗生物質、例えばエンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンガムマールおよびカリケアマイシンオメガール;ジネマイシン、例えばジネマイシンA;ビスホスホネート、例えばクロドロネート;エスペラマイシン;ならびにネオカルジノスタチン発色団および関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えばマイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗物質、例えばメトトレキセートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似体、例えばフルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン;アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補液、例えばフロリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート;デフォファミン;デメコルチン;ジアジクオン;エルフォルミチン;酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;マイタンシンおよびアンサマイトシンなどのマイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモル;ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメト;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;N-メチルヒドラジン(MIH)およびプロカルバジンを含むメチルヒドラジン誘導体;PSK多糖複合体);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T-2毒素、ベラクリンA、ロリジンAおよびアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドキセタキセル;クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチンなどの白金配位錯体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセロダ;イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオミチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド;カペシタビン;アントラサイクリン、ニトロソ尿素、代謝拮抗物質、エピポドフィロトキシン、L-アスパラギナーゼなどの酵素;アントラセンジオン;プレドニゾンおよび同等物、デキサメタゾンおよびアミノグルテチミドなどの副腎皮質ステロイドアンタゴニストを含むホルモンおよびアンタゴニスト;カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロールなどのプロゲスチン;ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオール同等物などのエストロゲン;タモキシフェンなどの抗エストロゲン;プロピオン酸テストステロンおよびフルオキシメステロン/同等物を含むアンドロゲン;フルタミド、ゴナドトロピン放出ホルモンの類似体およびロイプロリドなどの抗アンドロゲン;ならびにフルタミドなどの非ステロイド系抗アンドロゲン;IFNa、IL-2、G-CSFおよびGM-CSFなどの生物応答修飾因子;ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体が含まれる。
【0252】
放射線療法の好適な例には、限定されずに、外部ビーム放射線療法(表面X線療法、正中電圧X線療法、メガ電圧X線療法、放射線外科、定位的放射線療法、分画定位的放射線療法、コバルト療法、電子療法、高速中性子療法、中性子捕獲療法、プロトン療法、強度変調放射線療法(IMRT)、三次元等角放射線療法(3D-CRT)など);近接照射療法;アンシールドソース放射線療法;トモセラピー;などが含まれる。ガンマ線は、放射線療法で使用される光子の別の形である。ある特定の元素(ラジウム、ウランおよびコバルト60など)はそれらが分解するか崩壊するときに放射線を放出するので、ガンマ線は自然発生的に生成される。一部の実施形態では、放射線療法はプロトン放射線療法またはプロトンミニビーム放射線療法であってよい。プロトン放射線療法は、陽子線を使用する放射線療法の超正確な形である(Prezado Y、Jouvion G、Guardiola C、Gonzalez W、Juchaux M、Bergs J、Nauraye C、Labiod D、De Marzi L、Pouzoulet F、Patriarca A、Dendale R。Tumor Control in RG2 Glioma-Bearing Rats:A Comparison Between Proton Minibeam Therapy and Standard Proton Therapy。Int J Radiat Oncol Biol Phys.2019年6月1日;104(2):266~271頁。doi:10.1016/j.ijrobp.2019.01.080;Prezado Y、Jouvion G、Patriarca A、Nauraye C、Guardiola C、Juchaux M、Lamirault C、Labiod D、Jourdain L、Sebrie C、Dendale R、Gonzalez W、Pouzoulet F。Proton minibeam radiation therapy widens the therapeutic index for high-grade gliomas。Sci Rep.2018年11月7日;8(1):16479頁。doi:10.1038/s41598-018-34796-8)。放射線療法は、FLASH放射線療法(FLASH-RT)またはFLASHプロトン照射であってもよい。FLASH放射線療法は、現在のルーチン臨床診療におけるそれらより数桁高い投与速度(極めて高い投与速度)での放射線治療の超高速送達を含む(Favaudon V、Fouillade C、Vozenin MC。The radiotherapy FLASH to save healthy tissues。Med Sci(Paris)2015;31:121~123頁。Doi:10.1051/medsci/20153102002);Patriarca A.、Fouillade C.M.、Martin F.、Pouzoulet F.、Nauraye C.ら、Experimental set-up for FLASH proton irradiation of small animals using a clinical system。Int J Radiat Oncol Biol Phys、102(2018)、619~626頁。doi:10.1016/j.ijrobp.2018.06.403。Epub 2018年7月11日)。
【0253】
「併用」は、本開示によるT細胞組成物の投与の前、同時または後の追加の療法の投与を指すことができる。
【0254】
さらに、またはチェックポイント遮断との組合せに代わるものとして、本開示のT細胞組成物は、TALENおよびCrispr/Casを限定されずに含む遺伝子編集技術を使用して、それらを免疫チェックポイントに耐性にさせるように遺伝子改変することもできる。そのような方法は当技術分野で公知であり、例えば米国特許出願公開第20140120622号を参照する。遺伝子編集技術は、T細胞によって発現される免疫チェックポイント(上に掲載されるチェックポイント阻害剤を参照する)、より詳細には限定されずにPD-1、Lag-3、Tim-3、TIGIT、BTLA CTLA-4およびこれらの組合せの発現を阻止するために使用することができる。ここで議論されるT細胞は、これらの方法のいずれかによって改変することができる。
【0255】
本開示によるT細胞は、サイトカイン、可溶性免疫調節受容体および/またはリガンドを限定されずに含む、腫瘍に向かうことを増加させ、およびまたは腫瘍微小環境に炎症媒介物を送達する分子を発現するように遺伝子改変することもできる。
【0256】
本開示の異なる実施形態をこのように記載したので、当業者は本明細書の開示は例示的なだけであり、本開示の範囲内で様々な他の代替形態、適応および改変を加えることができることに留意するべきである。したがって、本開示は、本明細書で例示される具体的な実施形態に限定されない。
【0257】
診断ツール
単一ドメイン抗体(sdAb)は、バイオマーカーを検出または規定することによって、早期診断およびがん予防を助けることができる。sdAbは、それらの高い特異性のために現行のmAbベースの診断技術を向上させることができる。さらに、極端な温度、pHまたはイオン強度の下でのそれらの高い安定性は、厳しい条件の下でもなお適用することができることを確実にする。
【0258】
一般的に、本開示による抗HER sdAbは、細胞ベースのELISAアッセイで使用することができる。サンドイッチELISAを実行するために、抗原上の異なるエピトープを好ましくは標的にする、捕捉および検出するナノボディが使用される。
【0259】
ナノボディの小さいサイズは、それが急速な腫瘍蓄積および均一な分布、ならびに効率的な血液クリアランスを可能にし、高い腫瘍対バックグラウンド比に寄与するので、分子画像化の分野で特に非常に有利である。さらに、ナノボディは数種類の造影剤に容易にコンジュゲートすることができ、それらの高い特異性はそれらの使用を比較的安全にさせる。単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)はγ線に基づき、したがって、本開示のsdAbは99mTc、177Lu、123Iおよび111Inなどの放射性核種に連結することができる。他方、陽電子放出放射性同位体68Ga、124Iまたは89Zrは、陽電子放射断層撮影(PET)目的のために使用することができる。
【0260】
本開示の一部の実施形態では、本明細書に記載される抗HER2単一ドメイン抗体は、生体試料中のHER2の存在を検出するのに有益である。本明細書で使用される用語「検出する」は、定量的または定性的検出を包含する。本明細書で使用されるように、用語「生体試料」は、患者から単離される組織、細胞、生体液およびその単離体、ならびに患者または対象に存在する組織、細胞および流体を含むものである。ある特定の態様では、生体試料は1つまたは複数の細胞(複数可)または組織(複数可)を含む。ある特定の態様では、そのような組織には、HER2を発現する、特に対照の対象または対象の対照集団からの他の組織または類似の組織と比較してより高いレベルでHER2を発現する正常なおよび/またはがん性の組織が含まれる。
【0261】
さらに、HER2の増加した発現と関連している障害、一般的にHER2関連のがんまたは腫瘍を診断する方法も含まれる。ある特定の態様では、本方法は以下を含む:
・(試験される)生体試料を本開示の抗HER2単一ドメイン抗体と接触させること;
・試料(一般的に細胞)によって発現されるHER2への前記ヒト化抗HER2 sdAbの結合を検出することによって、前記試料中のHER2の発現レベルを決定すること(定量的または定性的に);および
・前記試料中のHER2の発現レベルを参照値と比較すること。
【0262】
一般的に、ここで、参照値と比較して生体試料中のHER2発現のより高いレベルは、HER2発現の増加と関連した疾患の存在を示す。ある特定の態様では、疾患は細胞増殖性障害、例えばがんまたは腫瘍、特にHER2媒介がんである。ある特定の態様では、生体試料はHER2関連の疾患が疑われるかそれを有する個体から得られる。
【0263】
一般的に、参照値は、特に対応する対照細胞中の試料の同じ種類の組織に対応する対照組織中のHER2発現のレベルであってよい。一部の実施形態では、参照値は、対照または参照の試料から得ることができる。対照試料は、試験試料と同じ対象もしくは患者から、対照健康対象から、または健康対象の対照集団から得られる対応する正常組織からの試料であってよい。
【0264】
一実施形態では、本明細書に開示される抗HER2 sdAbは、抗HER2処置または療法による療法のために適格な対象を選択するために使用され、一般的に、ここでHER2は患者の選択のためのバイオマーカーである。本開示は、増加したHER2発現と関連している障害(例えば、がん)を患っている対象を診断する方法における抗HER2 sdAbの使用をさらに提供し、本方法は:試料を本明細書に記載される抗HER2 sdAbと接触させ、結合したsdAbの存在を検出することによって、対象から得た試料中のHER2の存在または発現レベルを決定することを含む。抗HER療法は一般的に抗HER2抗体またはそのバリアント、一般的には本明細書に開示される抗HER2 sdAbまたはそのバリアント、同じく本明細書に開示される多価結合性化合物またはキメラ抗原受容体である。
【0265】
ある特定の態様では、上記のそれらなどの診断または検出の方法は、細胞の表面で発現されるか、その表面でHER2を発現する細胞から得た膜調製物中の抗HER2単一ドメイン抗体の結合を検出することを含む。細胞の表面で発現されるHER2へのヒト化抗HER2 sdAbの結合を検出するための例示的なアッセイは、「FACS」アッセイである。
【0266】
HER2への本明細書に開示されるヒト化抗HER2 sdAbの結合を検出するために、ある特定の他の方法を使用することができる。そのような方法には、限定されずに、当技術分野で周知である抗原結合性アッセイ、例えばウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイ、および免疫組織化学(IHC)が含まれる。有利には、これらの実施形態では、本明細書に開示されるヒト化抗HER2 sdAbは、前述の通り診断化合物、特に検出可能な標識に連結される。
【0267】
一実施形態では、本開示は、がんを患っている個体の抗がん療法による処置への応答を予測するin vitroの方法も提供する。一般的に、抗がん療法は抗HER2療法であり、抗HER2抗体またはそのバリアント、特に本明細書に記載される抗HER2 sdAb(例えば、細胞傷害性部分にコンジュゲートしている)、特に前に本明細書に規定される多価結合性化合物またはキメラGPC4抗原受容体(CAR)を含む。本方法は:試料を本明細書に開示される抗HER2 sdAbと接触させ、結合したsdAbの存在を検出することによって、対象から得た(試験)試料中のHER2の存在または発現レベルを決定することを含み、ここで、試験試料中のHER2の存在または発現レベルは、対象が抗がん療法による処置に応答する可能性がより高いことを示す。場合により、前に規定されるように、HER2の発現レベルは定量化して参照値と比較することができる。参照値は、一般的に閾値であり、ここで、閾値より上の試験試料中のHER2発現レベルは、対象が抗がん療法による処置に応答する可能性がより高いことを意味する。
【0268】
以下では、本発明は以下の実施例および図面によって例示される。
【0269】
【0270】
【0271】
【0272】
【0273】
【0274】
【0275】
【図面の簡単な説明】
【0276】
【
図1】サブトラクティブ選択は、立体配置的または細胞型特異的なhs2dAbにつながった。(A)腫瘍細胞表面のサブトラクティブ選択スキーム。(B)ウサギFcと融合したHER2(HER2rFc)または対照ウサギIgG(rIgG)の上でのELISAによる抗HER2 sdAb(1~5)の特異性の決定。(C)抗HER2 hsdAb1、2および5は、免疫蛍光法でSKBR3膜を装飾した:SKBR3細胞は1%パラホルムアルデヒドで固定し、hsdAb1、2または5で染色し、抗HisTag(Sigma)および抗マウスCy3二次抗体(Jackson)によって明らかにされた。(D)SKBR3 HER2陽性細胞対MCF10A HER2陰性細胞の上での抗HER2 hsdAb n°1、2および5のFACS分析。
【
図2】異種移植されたマウスモデルでの免疫蛍光法 ヒトFcドメインまたはトラスツズマブ(陽性対照)と一緒の注射された抗HER2 hsdAb n°1による免疫蛍光法。腫瘍は96時間後に回収し、中央軸に沿って切片にし(ビブラトームカット50μm BC911異種移植片(HER2+))、二次抗ヒトFc Cy3で標識した。
【
図3】2つの独立したCD8+T細胞ドナーを使用してクリスタルバイオレットによって評価した、HER2陽性SKBR3がん細胞系に対する抗HER2 hsdAb 41BB-z(HER2-41-z)CARを発現するT細胞の細胞傷害性。CD8Tドナー細胞導入のために使用したCARは、本明細書に記載される抗HER2sdAb(HER2-CAR)、またはそのN末端ドメインでCD8膜貫通ドメインと、続いて4-1BBおよびCD3ゼータ細胞内刺激ドメインと融合し、およびC末端でSBP(ストレプトアビジン結合ペプチド)タグと融合した、本明細書でCD19-41-zと呼ばれる、CD19抗原に対するscFv(CD19scFv-CAR)で構成された。これらのデータは、4つを超える独立したCD8+T細胞ドナーを表す。
【
図4A】
図4:HER2陽性SKBR3乳がん細胞系に対する異なる活性化ドメインを有するHER2 hsdAb CARの細胞傷害性。4A。異なる刺激性ドメインと融合し、C末端にSBPを有する抗HER2 sdAbN°1によって構成されたCAR Tを発現するT細胞を使用した、SKBR3乳がん細胞系に対するxCELLigenceアッセイによる細胞傷害性評価。完全な刺激性タンパク質DAP12を含む第一世代のCAR DAP12(HER2 sdAb1-DAP12)、および本明細書でDAP10z(本明細書でHER2 sdAb1-DAP10-CD3またはHER2 sdAb1-DAP10-zと呼ばれる)とも呼ばれ、したがって、CARの第一世代と比較してN末端でDAP10と融合した追加のCD3ゼータドメインを含む完全なDAP10タンパク質およびCD3z細胞内ドメインを含む第二世代のCARは、両方とも、HER2 sdAbがそのC末端ドメインでCD8の膜貫通ドメインと、続いて4-1BB、CD3ゼータ細胞内ドメインおよびSBPタグと融合している古典的CAR設計と比較された(このCARは、HER2 sdAb-41-zとも呼ばれる)。矢印は、CAR T添加の時期を示す。このアッセイは、2つの独立したドナーで再現された。
【
図4B】4B。SKBR3を陽性のHER2細胞とし、RPE-1を低または陰性のHER2細胞とした、発光性標的細胞の死滅によって決定されたクリスタルバイオレット細胞傷害性アッセイ。CAR T細胞は2つの独立したドナー(BおよびC)から作製し、標的細胞に向かわせた。およそ72時間後に、より高い死滅と関連した低レベルで発光を決定した。発光値は最大生存について正規化し、細胞死のパーセンテージに変換した。最大腫瘍死滅は、HER2 sdAb-41-z、HER2 sdAb DAP10zおよびCD19 scFv-41BBz(scFv-41-z)を発現するT細胞で観察され、これは非腫瘍細胞系(RPE-1)のより高い死滅とも関連していた。HER2 sdAb DAP12 CARを発現するT細胞は、より低いエフェクター対標的比で低い細胞傷害活性を示すが、より高いエフェクター対標的比では他のCARに類似し、正常な細胞系に対して最も低い活性であった。類似の結果は、ドナーBおよびCで観察された。
【
図5】HER2陽性SKBR3乳がん細胞系に対するHER2 hsdAb CARの異なるクローン(hsdAb n°1および2)の細胞傷害性。SKBR3細胞系に対する異なるHER2 hsdAb CAR(shAb1および2)の細胞傷害性を評価するために、xCELLigenceアッセイを使用したリアルタイム細胞死分析を使用した。このアッセイで使用したCD8 T細胞は、2つの異なるドナーAおよびBから単離された。
【
図6】A-一次T細胞の導入効率および生存。B-養子導入CAR T細胞は、担癌マウスレシピエントで腫瘍増殖を効率的に制御した。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0277】
1.材料および方法
in vitro実験
親和性測定:親和性測定は、表面プラズモン共鳴によって実行することができる(例えば、Moutel、Sandrineら「NaLi-H1:A universal synthetic library of humanized nanobodies providing highly functional antibodies and intrabodies。」eLife第5巻e16228.2016年7月19日、doi:10.7554/eLife.16228で詳述される)。より詳細には、表面プラズモン共鳴単一サイクル動態方法によって測定された、10HISタグと融合している選択されたhs2dAbの結合親和性。解離平衡定数KDは、解離速度と会合速度間の動態定数の比Koff/Konに対応する。非関連hs2dAbは陰性対照として使用され、検出可能な結合シグナルを与えなかった。親和性測定は、バイオレイアー干渉法(BLI)によってOctet-HTX(Sartorius)でも実行され、これはバイオセンサーチップの表面から反射される白色光の干渉パターンを分析することによって高分子相互作用を測定するための光学技術である。分子相互作用の動態および親和性を決定するために、BLI実験を使用した。組換えヒトHer2/ErbB2 Fcタグ(ACROBiosystems)を捕捉するためにプロテインAによるバイオセンサーを使用し、センサーは次に37℃で動態を測定するために精製されたsdAbを含有するウェルの中に浸した。
【0278】
フローサイトメトリー:HER2イムノアッセイのために、1%SFVを追加したリン酸緩衝食塩水(PBS)で、細胞表面染色を実行することができる。100μLの上清(80μLファージ+20μL PBS/ミルク1%)を氷上で1時間、1.105細胞の上でインキュベートすることができる。氷上で1時間の抗M13抗体(GE healthcare、France)の1:250希釈溶液、続いて45分間のCy5コンジュゲート抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch、Europe Ltd)の1:400希釈溶液によって、ファージ結合を検出することができる。試料は、CellQuestProソフトウェア(BD Biosciences、France)を使用して、FACSCaliburの上でのフローサイトメトリーによって分析することができる。
【0279】
in vivo実験
T細胞の形質導入
パッケージングプラスミドpsPAX2(12260;Addgene)およびエンベローププラスミドpVSVG(pMD2.G;12259、Addgene)を使用したCAR HER2-41-z構築物を含有するレンチウイルス粒子の生産は、HEK293FT細胞で実行した。
【0280】
PBMCから単離された一次CD4/CD8+T細胞を培養プレートに平板培養し、10ng/mL IL7/IL15を追加したTexMacsバッファーの中で1~5のMOIのHER2 CARレンチウイルス粒子で3日間形質導入させた。形質導入された一次CD4/CD8+T細胞は、細胞死滅および形質導入効率を評価するためにフローサイトメトリーアッセイによって形質導入から6~7日後に分析した。
【0281】
フローサイトメトリー
形質導入された細胞を遠心分離し(300g、4℃、5分)、冷たい1×PBS中で2回洗浄し(300g、4℃、5分)、生/死固定可能染色でインキュベートした(氷上で20分;Thermofisher)。細胞は次に冷PBS(300g、4℃、5分)またはFACSバッファー(1×PBS、1%BSA、0.05%アジ化ナトリウム、1mL EDTA 0.5M、濾過、4℃で保存)で2回洗浄し、直ちに分析しないときは、細胞を3%PFA-1×PBSで固定し(10分、室温)、1×PBSで2回洗浄した。
【0282】
動物実験
NGSマウスは、Institute Curieの動物施設内にSPF条件で住まわせた。生動物実験は、国ガイドラインに従って実行した。PBS中の100万のSK-OV-3/Luc卵巣癌細胞系(CellBiolabs)を、0日目に免疫不全NSGマウス(NOD scidガンママウス)に静脈内(i.v.)注射した。21日後に、PBS中の1,400,000のCAR HER2-41-z T細胞を、免疫不全NSGマウス(NOD scidガンママウス)に静脈内注射した。
【0283】
マウスの生物発光画像化は、IVIS光学画像化(Perkin Elmer)で実行した。150mg/kgのD-ルシフェリンでマウスを注射し、イソフルラン吸入によって麻酔をかけ、10~15分後(発光のピーク)に画像化した。特異的な関心領域(ROI)でシグナル定量化を決定した。
【0284】
2.結果
腫瘍特異的エピトープを標的にすることは、様々な診断および治療アプローチのために必須である。単一ドメイン抗体またはnanobodies(登録商標)、特にVHHと呼ばれるラクダ科の天然の単一ドメインVHは、組換え断片として発現させることができる。操作するのが容易であり、2つのドメインの潜在的な誤った折り畳みによって制限されないので、それらはscFvのような古典的な抗体断片より魅力的な代替形態を表す(WornおよびPluckthun、1999)。VHH FRWはファミリーIIIのヒトVHドメインと高い配列および構造的相同性を示すこと(Muyldermans、2013)、ならびにVHHはヒトVHと同等の免疫原性を有すること(Bartunekら、2013;Holzら、2013)に注目すべきである。したがって、それらは治療適用のための非常に興味深い薬剤にさらになる。
【0285】
単一ドメイン抗体の同定
本発明者らは、合成単一ドメイン抗体ライブラリーを前に開示した。単一ドメイン抗体のフレームワーク領域の特異な特徴が同定され、したがって、高度に安定した単一ドメイン抗体足場を得ること、および合成単一ドメイン抗体ライブラリー、例えば合成単一ドメイン抗体ファージディスプレイライブラリーの作製におけるその使用を可能にしている(WO2015063331およびMoutelら、eLife 2016;5:e16228を参照する)。
【0286】
前記合成単一ドメイン抗体ライブラリーは、今やHER2に対してスクリーニングされた。
【0287】
乳房腫瘍細胞の表面を選択的に検出する抗体を同定するように、負の選択スキームを設定した:標的1に対して選択する前に、参照細胞系に対してhs2dAbを提示するファージを先ず消去した(
図1A)。標的細胞系として、SKBR3系を使用したが、その理由はそれがHER2細胞表面タンパク質を過剰発現するからで、一方、ライブラリーを前もって吸着するために、HER2に陰性であるMCF10A細胞系を使用した。第3回の生体パニングの後、クローンをFACSによって分析し、SKBR3細胞およびMCF10A細胞の上で試験した。SKBR3陽性のクローンの配列決定は、結合剤を選択することができることを明らかにした。
【0288】
乳房腫瘍抗原HER2に対する6つの単一ドメイン抗体(sdAb)が上記のように今や同定され、治療適用、特にがん治療適用のために開発された。細胞表面でのHER2の検出は、免疫蛍光法によって、またはFACSによって達成することができる(
図1Cおよび1Dを参照する)。
【0289】
【0290】
本発明のヒト化抗HER2 sdAbは、1~100.10-9の、特に1~10.10-9の、1~5.10-9の、または5~100.10-9の、特に10~100.10-9の、より詳細には50.10-10~100.10-9のKD(上を参照する)を有する。今回同定された6つの合成単一ドメイン抗体(s2dAb)は、高度に安定で、低い免疫原性リスクを有する。それらは、10-8~1.10-11MのHER2への結合親和性をさらに示す。
【0291】
親和性測定は、上で詳述されるようにBLIを使用しても実行された。類似の親和性値が得られた。
【0292】
【0293】
CHO上清細胞で生成されたIgG様再構成抗体のHER2陽性腫瘍をin vivoで標的にする能力は、異種移植されたマウスモデルを使用して調査することができる。動物は、Fc断片とまたはトラスツズマブ(陽性対照)と一緒に抗HER2 sdAb n°1により注射した。96時間後に腫瘍を回収し、内部にアクセスできるように中央軸に沿って切断し、二次抗ヒトFcによる標識を実行した。再構成されたIgG様Abの質量(80kDa)は、直接的な腎臓濾過および一価のsdAbに特異的な急速なクリアランスを害する。その結果として、sdAb1-hFcは、陽性対照トラスツズマブと同じ動態で腫瘍組織に蓄積した。蛍光は正確な定量的比較を可能にしないが、組換え抗体は腫瘍内部への濃縮でトラスツズマブと同じくらい有効なようである(
図2を参照する)。
【0294】
抗HER2 sdAb n°1は様々な形でも(sdAbだけ、二量体およびFcと融合)マウスに注射された。見かけのpKはサイズとともに増加し、抗体は移植された腫瘍で見出すことができる(データ示さず)。
【0295】
本明細書に記載されるHER2に対する単一ドメイン抗体を含むキメラ抗原受容体の設計および有効性
上記のヒト化抗HER2 sdAbを使用し、HER2を発現する固形腫瘍を標的にすることを目的とした(
図3および4を参照する)様々な設計によるキメラ抗原受容体が開発された。
【0296】
CARとしての本明細書に記載されるHER2 sdAb(特にHER2 sdAb n°1)の有効性は、様々な足場を使用して確認された:クリニックで使用された現行の足場(41BB-CD3ゼータ、本明細書で41-zとも呼ばれる、MiloneMC、FishJD、CarpenitoCら、Chimeric receptors containing CD137 signal transduction domains mediate enhanced survival of T cells and increased antileukemic efficacy in vivo[公開された修正は、Mol Ther.2015年7月;23(7):1278頁に現れる]。Mol Ther.2009;17(8):1453~1464頁)(
図3~5)および新たに開発されたCAR足場(DAP10-zおよびDAP12をベースとした足場、
図4~5)。
【0297】
xCELLigence、クリスタルバイオレットおよびルシフェラーゼ標的細胞ベースのアッセイなどのin vitroアッセイを使用して、本明細書に記載されるCARをベースとしたHER2 sdAbの固形腫瘍に対する適用性および活性を実証するいくつかの結果が得られた。
【0298】
抗HER2 hsdAb n°1に対するhssdAb(ヒト合成単一ドメイン抗体の場合、またはhs2dAb)を、シグナル伝達ドメイン4-1BBおよびCD3ゼータ(CD3z)を含む41-z CARとC末端で、続いてSBPタグと融合させた(
図3および4の凡例を参照する)。これらのCARの細胞傷害性は、CAR構築物を発現するエフェクターT細胞とのインキュベーションの後の標的細胞死のパーセンテージの評価を可能にする、クリスタルバイオレットin vitroアッセイを使用して検証された(
図3を参照する)。これらの結果は、本発明の抗HER2 sdAbをベースにしたCAR、特に抗HER2 sdAb n°1 41-z CARが、異なる標的対エフェクター比においてHER2を高度に発現する腫瘍(本実施例では、腫瘍乳房細胞系SKBR3)を死滅させることで高度に効率的であった証拠を提供する(
図3)。
【0299】
本明細書に記載されるHER2 sdAbが、scFv-CD19 CARで前に検証された異なる活性化ドメイン(複数可)を有する他のCARで使用できるかどうかについてさらに試験された。これらには、DAP10-CD3ゼータをベースにしたCAR(HER2 hsdAb-DAP10-CD3、DAP10-zとも呼ばれる)、および第1世代CARとしてのDAP12をベースとしたCAR(HER2 sdAb-DAP12)が含まれる(
図3)。これらのCARの細胞傷害性を評価するために、2つの独立したアッセイを使用した:xCELLigence(
図4A)およびそれらの生存能力の代理としての標的細胞系の発光レベルの測定(
図4B)。
【0300】
xCELLigenceアッセイを使用して、エフェクターT細胞に形質導入されたとき、全てのCARがSKBR3がん細胞系を効率的に死滅させることができることが観察された。しかし、様々なエフェクター対標的細胞比を使用して、ほとんどの細胞傷害性CARがHER2 sdAb-DAP10-zおよびHER2 sdAb41-zをベースにしたCARであるが、HER2 sdAb-DAP12をベースにしたCARはわずかにより効率的でないことが検証された(
図4A)。
【0301】
これらの結果は、ルシフェラーゼ標的細胞活性を使用して再現された(
図4B)。このルシフェラーゼをベースとしたアッセイでは、HER2に対するscFv(前に臨床試験でCARとして、および治療抗体として使用(トラスツズマブ))の細胞傷害性も評価した。HER2 sdAb(本明細書に記載される)をベースにしたCARと比較したHER2 scFvをベースにしたCARの腫瘍細胞に対する細胞傷害性は類似していたが、HER2 scFvをベースにしたCARは非腫瘍細胞系(RPE-1)を死滅させることでも非常に効率的であったのに対して、HER sdAbをベースにしたCARはわずかにより低い細胞傷害性であった(
図4B)。非腫瘍細胞系に対するより低い細胞傷害性は、DAP12に基づくHER2 sdAb CARを使用したときにさらにより顕著であった(
図4B)。これらのデータは、DAP12と関連したより低い効率は、それがより特異的な応答を可能にしつつより少ないCRSを誘導することができるので有利なはずであるという証拠を提供する。
【0302】
HER2 hsdAb n°1および2は、前述の通り41-z CARをベースとした設計で構築した。これらの構築物を発現するエフェクターT細胞によるHER2陽性細胞(例えばSKBR3細胞)の死滅効率は、リアルタイム細胞死滅xCELLigenceアッセイを使用して比較した(
図5)。HER2 sdAb n°1を発現するエフェクターT細胞(2つの異なるドナーから得た、
図5左および右)、および2つの41-zをベースにしたCAR構築物は、T細胞を使用して標的細胞を死滅させることで高度に効率的であったことが観察された。scFv CD19 41-z CARを発現するエフェクターT細胞は、対照として使用した。
【0303】
最後に、一次T細胞を本明細書に記載されるCAR HER2-41-z構築物で形質導入し(詳細は下も参照する)、効率は約90%、生存のパーセンテージはおよそ70%であった(
図6A)。次に腫瘍細胞静脈内投与の21日後に、CART細胞を静脈内注射した(
図6B)。腫瘍は、CAR HER2-41-zによって効率的に制御されたが、CAR T細胞なしの群では腫瘍は有意に増加し(
図2)、腫瘍増殖に対するHER2 CARの効率を実証している。
【0304】
CAR構築物:
抗HER2 hsdAb1 41BB-z(mycタグ)
>[n°1-n&vHHHER2 myc.xdna-1236bp]3658pTRIP-SFFV-BFP-2a-VHHaHer2ju.xdnaから抽出された断片[4504から5739の間]。
【0305】
【0306】
抗HER2 hsdAb1 41BB-z (アルファタグ)
>[n°1-n&vHHHER2 alfa.xdna-1251bp]pTRIP-SFFV-BFP-2a-CARVHHaHer.xdnaから抽出された断片[4504から5754の間]。
【0307】
【0308】
抗HER2 sdAb1 DAP10z
>[sdAb n°1-DAP10CD3-SBP.xdna-1140bp]pTRIP-SFFV-BFP-2a-vhhHER2-Myc-DAP10CD3-SBPから抽出された断片[4504から5643の間]
【0309】
【0310】
HER2 sdAb1 DAP12 CAR
>[vHER2n°1-DAP12.xdna-837bp]pTRIP-SFFV-BFP-2a-vhhHER2-Myc-DAP12-SBP.xdnaから抽出された断片[4504から5340の間]
【0311】
【0312】
HER2 sdAb n°2 41-z CAR
>[C8-n2vHHHER2 myc.xdna-1236bp]配列ウィンドウ(Sequence Window)#8から抽出された断片[4504から5739の間]
【0313】
【0314】
scFv CD19 41-z CAR
>[scFv cD19 CAR.xdna-1596bp]pTRIP-SFFV-BFP-2a-aCD19june-SBPから抽出された断片[4504から6099の間]
【0315】
【配列表】
【国際調査報告】