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特表2024-505453電気化学素子用の寸法的に安定したセパレータ
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  • 特表-電気化学素子用の寸法的に安定したセパレータ 図1
  • 特表-電気化学素子用の寸法的に安定したセパレータ 図2
  • 特表-電気化学素子用の寸法的に安定したセパレータ 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】電気化学素子用の寸法的に安定したセパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/429 20210101AFI20240130BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240130BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240130BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20240130BHJP
   H01M 50/437 20210101ALI20240130BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240130BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240130BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240130BHJP
   H01M 50/494 20210101ALI20240130BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240130BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240130BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240130BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20240130BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240130BHJP
【FI】
H01M50/429
H01M50/403 B
H01M50/489
H01M50/44
H01M50/437
H01M50/414
H01M50/426
H01M50/434
H01M50/494
H01M50/491
H01M10/0566
H01M10/052
H01M50/403 F
H01G9/02
H01G11/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543462
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(85)【翻訳文提出日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2022051841
(87)【国際公開番号】W WO2022162039
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】102021102055.7
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512252548
【氏名又は名称】デルフォルトグループ、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】DELFORTGROUP AG
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】スベン、プラッパート
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー、フォルガー
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078AB06
5E078CA08
5E078CA09
5E078CA12
5E078CA20
5E078LA08
5E078ZA01
5H021BB05
5H021BB19
5H021CC01
5H021EE02
5H021EE05
5H021EE10
5H021EE12
5H021EE13
5H021EE17
5H021EE22
5H021EE23
5H021EE28
5H021HH01
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH05
5H021HH06
5H029AJ14
5H029DJ04
5H029DJ15
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ08
5H029HJ15
(57)【要約】
電気化学素子用のセパレータが示される。前記セパレータの質量の少なくとも50%が、フィブリル化再生セルロース繊維により形成される。前記フィブリル化再生セルロース繊維を含めて、前記セパレータの質量の少なくとも70%且つ最大で100%がセルロース繊維により形成される。前記セパレータは、カレンダ処理される。ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、前記セパレータは、0.5%以上2.0%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する。このようなセパレータを製造する方法も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学素子用のセパレータであって、前記セパレータの質量の少なくとも50%が、フィブリル化再生セルロース繊維により形成され、
前記フィブリル化再生セルロース繊維を含めて、前記セパレータの質量の少なくとも70%且つ最大で100%がセルロース繊維により形成され、
前記セパレータは、カレンダ処理され、
ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、前記セパレータは、0.5%以上2.0%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する、セパレータ。
【請求項2】
フィブリル化再生セルロース繊維の割合が、前記セパレータの質量の少なくとも55%且つ最大で100%、好適には少なくとも60%且つ最大で95%である、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記フィブリル化再生セルロース繊維は、溶剤紡糸再生セルロース繊維により、好適にはリヨセル(登録商標)繊維により形成される、請求項1または2に記載のセパレータ。
【請求項4】
フィブリル化前の前記フィブリル化再生セルロース繊維の平均線密度が、少なくとも0.8g/10000m(0.8dtex)且つ最大で3.0g/10000m(3.0dtex)、好適には少なくとも1.0g/10000m(1.0dtex)且つ最大で2.5g/10000m(2.5dtex)である、請求項1~3の一項に記載のセパレータ。
【請求項5】
フィブリル化前の前記フィブリル化再生セルロース繊維の平均長さが、少なくとも2mm且つ最大で8mm、好適には少なくとも3mm且つ最大で6mmである、請求項1~4の一項に記載のセパレータ。
【請求項6】
前記フィブリル化再生セルロース繊維を含めたセルロース繊維の割合が、前記セパレータの質量に対して少なくとも75%且つ最大で95%である、請求項1~5の一項に記載のセパレータ。
【請求項7】
前記フィブリル化再生セルロース繊維に加えて、前記セルロース繊維は、非フィブリル化再生セルロース繊維、パルプ繊維、またはそれらの混合物をも含有する、請求項1~6の一項に記載のセパレータ。
【請求項8】
前記パルプ繊維は、針葉樹、落葉樹、麻、亜麻、ジュート、ラミー、ケナフ、カポック、ココナッツ、アバカ、サイザル麻、竹、綿、またはエスパルト草から供給される、または再生紙から供給される、またはこれらの供給源のうちの単数または複数からのパルプ繊維の混合物により形成される、請求項7に記載のセパレータ。
【請求項9】
前記セルロース繊維は、再生セルロース繊維またはパルプ繊維の混合物であり、
いずれの場合も、前記再生セルロース繊維は、フィブリル化再生セルロース繊維、および選択的に非フィブリル化再生セルロース繊維を含有し、
前記セパレータの質量の少なくとも50%がフィブリル化再生セルロース繊維により形成され、前記セパレータにおける前記セルロース繊維の合計が前記セパレータの質量の少なくとも70%且つ最大で100%を占める、という条件下において、パルプ繊維に対する再生セルロース繊維の質量の比が、少なくとも1:1且つ最大で30:1、好適には少なくとも2:1且つ最大で20:1である、請求項7または8に記載のセパレータ。
【請求項10】
前記パルプ繊維は、少なくとも部分的に、最大で0.2mm、好適には最大で0.15mmの長さ加重平均長さを有するミクロフィブリル化パルプ繊維、ナノフィブリル化パルプ繊維、またはパルプ繊維である、請求項1~9の一項に記載のセパレータ。
【請求項11】
前記セパレータは、前記セルロース繊維に加えて、セルロース誘導体、ガラス繊維、またはプラスチック繊維からの繊維をも含有し、
前記プラスチック繊維は、好適には、特にポリエチレンまたはポリプロピレンであるポリオレフィンによって、特にポリエチレンテレフタレートまたはポリ乳酸であるポリエステルによって、特にポリ(4-ヒドロキシ安息香酸-co-6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)であるポリアリレートによって、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリアミドによって、特にポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)である芳香族ポリアミドによって、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特にポリアクリロニトリルまたはポリ(アクリロニトリル-co-メチルアクリレート)であるポリアクリレートによって、ポリフェニレンスルフィドによって、またはポリ(エチレン-co-ビニルアセテート)によって形成される、請求項1~10の一項に記載のセパレータ。
【請求項12】
セルロース繊維以外の繊維の合計の割合が、前記セパレータの質量の最大で30%、好適には最大で20%である、請求項11に記載のセパレータ。
【請求項13】
ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、グアラン、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ジアルデヒド、特にグリオキサール、または単数または複数の無機充填剤、特にカオリン、二酸化チタン(TiO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ジルコニウム(ZrO)または炭酸カルシウム(CaCO)である物質または成分うちの単数または複数をさらに含有する、請求項1~12の一項に記載のセパレータ。
【請求項14】
無機充填剤の量は、前記セパレータの質量の最大で30%、好適には最大で20%、特に好適には最大で15%である、請求項13に記載のセパレータ。
【請求項15】
ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、0.55%以上2.0%以下、好適には0.6%以上1.0%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する、請求項1~14の一項に記載のセパレータ。
【請求項16】
ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、少なくとも0.1kN/m且つ最大で2.0kN/m、好適には少なくとも0.15kN/m且つ最大で1.6kN/mの幅に関する引張応力で、その0.1%降伏点に達する、請求項1~15の一項に記載のセパレータ。
【請求項17】
ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、少なくとも15MPa且つ最大で30MPa、好適には少なくとも18MPa且つ最大で28MPaの断面積に対する引張応力で、その0.1%降伏点に達する、請求項1~16の一項に記載のセパレータ。
【請求項18】
少なくとも1GPa且つ最大で8GPa、好適には少なくとも2GPa且つ最大で6GPaの、ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向におけるヤング率を有する、請求項1~17の一項に記載のセパレータ。
【請求項19】
少なくとも0.05J/m且つ最大で0.80J/m、好適には少なくとも0.10J/m且つ最大で0.60J/mの機械方向における面積に対する弾性エネルギー吸収量を有する、請求項1~18の一項に記載のセパレータ。
【請求項20】
少なくとも4kJ/m且つ最大で15kJ/m、好適には少なくとも5kJ/m且つ最大で13kJ/mの機械方向における体積に対する弾性エネルギー吸収量を有する、請求項1~19の一項に記載のセパレータ。
【請求項21】
少なくとも0.3kN/m且つ最大で2.0kN/m、好適には少なくとも0.5kN/m且つ最大で1.5kN/mの、ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における幅に関する引張強さを有する、請求項1~20の一項に記載のセパレータ。
【請求項22】
少なくとも20MPa且つ最大で60MPa、好適には少なくとも30MPa且つ最大で50MPaの、ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における断面積に対する引張強さを有する、請求項1~21の一項に記載のセパレータ。
【請求項23】
少なくとも0.5%且つ最大で5.0%、好適には少なくとも1.0%且つ最大で4.0%の、ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における破断伸びを有する、請求項1~22の一項に記載のセパレータ。
【請求項24】
ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向における引張荷重下において、0.4%以上2.0%以下、特に好適には0.45%以上1.0%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する、請求項1~23の一項に記載のセパレータ。
【請求項25】
ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向における引張荷重下において、少なくとも0.1kN/m且つ最大で0.8kN/m、好適には少なくとも0.15kN/m且つ最大で0.6kN/mの幅に関する引張応力で、その0.1%降伏点に達する、請求項1~24の一項に記載のセパレータ。
【請求項26】
ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向における引張荷重下において、少なくとも8MPa且つ最大で15MPa、好適には少なくとも10MPa~最大で13MPaの断面積に対する引張応力で、その0.1%降伏点に達する、請求項1~25の一項に記載のセパレータ。
【請求項27】
少なくとも1GPa且つ最大で6GPa、好適には少なくとも1.5GPa且つ最大で5GPaの、ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向におけるヤング率を有する、請求項1~26の一項に記載のセパレータ。
【請求項28】
少なくとも0.04J/m且つ最大で0.25J/m、好適には少なくとも0.05J/m且つ最大で0.20J/mの交差方向における面積に対する弾性エネルギー吸収量を有する、請求項1~27の一項に記載のセパレータ。
【請求項29】
少なくとも1.5kJ/m且つ最大で5.0kJ/m、好適には少なくとも2.0kJ/m且つ最大で4.0kJ/mの交差方向における体積に対する弾性エネルギー吸収量を有する、請求項1~28の一項に記載のセパレータ。
【請求項30】
少なくとも0.3kN/m且つ最大で2.0kN/m、好適には少なくとも0.5kN/m且つ最大で1.5kN/mの、ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向における幅に関する引張強さを有する、請求項1~29の一項に記載のセパレータ。
【請求項31】
少なくとも20MPa且つ最大で60MPa以下、好適には少なくとも30MPa且つ最大で50MPaの、ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向における断面積に対する引張強さを有する、請求項1~30の一項に記載のセパレータ。
【請求項32】
少なくとも1.0%且つ最大で8.0%、好適には少なくとも2.0%且つ最大で7.0%の、ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向における破断伸びを有する、請求項1~31の一項に記載のセパレータ。
【請求項33】
150℃で30分間加熱した後に、少なくとも0.4%且つ最大で1.2%、好適には少なくとも0.45%且つ最大で1.0%の収縮率を有する、請求項1~32の一項に記載のセパレータ。
【請求項34】
少なくとも10μm且つ最大で55μm、好適には少なくとも12μm且つ最大で35μmの、ISO 534:2011に準拠して単一のシート上で測定した厚さを有する、請求項1~33の一項に記載のセパレータ。
【請求項35】
少なくとも8g/m且つ最大で30g/m、好適には少なくとも12g/m且つ最大で25g/mの、ISO 536:2019に準拠した坪量を有する、請求項1~34の一項に記載のセパレータ。
【請求項36】
少なくとも30%且つ最大で85%、好適には少なくとも35%且つ最大で75%の気孔率μを有するセパレータであって、
前記気孔率μは、以下の式に従って計算され、
【数1】
前記式において、mはg/mを単位とする坪量であり、dはμmを単位とする厚さであり、
前記気孔率は、0~1の間の値として得られ、100を乗じることで百分率に変換される、請求項1~35の一項に記載のセパレータ。
【請求項37】
平均流動孔径が、少なくとも40nm且つ最大で1000nm、好適には少なくとも50nm且つ最大で800nmである、請求項1~36の一項に記載のセパレータ。
【請求項38】
前記平均流動孔径の標準偏差が、少なくとも3nm且つ最大で300nm、好適には少なくとも3nm且つ最大で200nmである、請求項1~37の一項に記載のセパレータ。
【請求項39】
少なくとも10秒且つ最大で450秒、好適には少なくとも20秒且つ最大で300秒の、ISO 5636-5:2013に準拠して測定したガーレー通気度を有する、請求項1~38の一項に記載のセパレータ。
【請求項40】
2つの電極と、
電解液と、
請求項1~39の一項に記載のセパレータと、を備える電気化学素子であって、
前記電気化学素子は、好適には、キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、スーパーキャパシタまたはアキュムレータにより形成され、
前記電気化学素子は、特に好適にはリチウムイオン電池である、電気化学素子。
【請求項41】
セパレータを製造するための方法であって、前記方法は、
A‐セルロース繊維を含む繊維ウェブを製造するステップと、
B‐ステップAからの前記繊維ウェブをカレンダ処理するステップと、
C‐前記セパレータを形成する前記繊維ウェブを巻き取るステップと、
を有し、
ステップAにおける前記繊維ウェブ中のセルロース繊維の量および種類は、ステップCにおける前記セパレータの質量の少なくとも50%がフィブリル化再生セルロース繊維により形成され、前記フィブリル化再生セルロース繊維を含めて、ステップCにおける前記セパレータの質量の少なくとも70%且つ最大で100%がセルロース繊維により形成される、ように選択され、
ステップAにおける前記繊維ウェブの製造、またはステップBにおける前記繊維ウェブのカレンダ処理は、少なくとも部分的に、ステップBの直前に前記繊維ウェブが有する機械方向における幅に関する引張強さの少なくとも20%且つ最大で50%であるウェブ張力で実施され、
ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、ステップCで得た前記セパレータは、0.5%以上2.0%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する、方法。
【請求項42】
ステップAまたはステップBの少なくとも一部において前記ウェブ張力を発生させるための機械方向における前記繊維ウェブの引張荷重が、前記繊維ウェブがステップBの直前に有する機械方向における前記繊維ウェブの幅に関する引張強さの少なくとも25%且つ最大で40%、好適には少なくとも25%且つ最大で35%である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
ステップAにおける前記繊維ウェブの製造は、抄紙機で実施されるとともに、
A.1‐セルロース繊維を含む水性懸濁液を提供するステップと、
A.2‐前記懸濁液中の前記セルロース繊維の少なくとも一部をフィブリル化するステップと、
A.3‐前記懸濁液を稼働ワイヤ上で除水して繊維ウェブを形成するステップと、
A.4‐機械的圧力により前記繊維ウェブを除水するステップと、
A.5‐前記繊維ウェブを乾燥させるステップと、
を備える、請求項41または42に記載の方法。
【請求項44】
前記抄紙機の、乾燥セクションにおけるステップA.5の間に、またはプレスセクションにおけるステップA.4の間に、前記繊維ウェブは前記ウェブ張力を受ける、
請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記ウェブ張力を発生させるステップAまたはBにおける引張荷重下での前記繊維ウェブの平均含水率が、少なくとも4%且つ最大で15%、好適には少なくとも5%且つ最大で12%であり、
前記ウェブ張力は、ステップBの直前の機械方向における前記繊維ウェブの幅に関する引張強さの20%~50%である、請求項41~44の一項に記載の方法。
【請求項46】
前記ウェブ張力を発生させるステップAまたはBにおける引張荷重下での前記繊維ウェブの平均含水率が、少なくとも8%且つ最大で15%であり、
前記ウェブ張力は、ステップBの直前の機械方向における前記繊維ウェブの幅に関する引張強さの20%~30%である、請求項41~45の一項に記載の方法。
【請求項47】
ステップBにおける前記繊維ウェブは、少なくとも2個且つ最大で14個、好適には少なくとも3個且つ最大で10個のニップを通過し、
ステップBにおけるニップの全部または一部の機械的圧力が、少なくとも80kN/m且つ最大で400kN/m、好適には少なくとも160kN/m且つ最大で320kN/mである、請求項41~46の一項に記載の方法。
【請求項48】
ステップBにおけるカレンダ処理は、複数のローラにより実施され、
ステップBにおけるこれらのローラの全部または一部の平均温度が、少なくとも25℃且つ最大で140℃、好適には少なくとも50℃且つ最大で140℃、特に好適には少なくとも80℃且つ最大で140℃である、請求項41~47の一項に記載の方法。
【請求項49】
ステップAにおける前記セルロース繊維の量および組成が、ステップCにおける前記セパレータが、その質量の少なくとも55%且つ最大で100%、好適には少なくとも60%且つ最大で95%において、フィブリル化再生セルロース繊維により形成されるように選択される、請求項41~48の一項に記載の方法。
【請求項50】
前記フィブリル化再生セルロース繊維は、溶剤紡糸再生セルロース繊維により、好適にはリヨセル(登録商標)繊維により形成される、請求項41~49の一項に記載の方法。
【請求項51】
フィブリル化前の前記フィブリル化再生セルロース繊維の平均線密度が、少なくとも0.8g/10000m(0.8dtex)且つ最大で3.0g/10000m(3.0dtex)、好適には少なくとも1.0g/10000m(1.0dtex)且つ最大で2.5g/10000m(2.5dtex)である、および/または、フィブリル化前の前記フィブリル化再生セルロース繊維の長さが、少なくとも2mm且つ最大で8mm、好適には少なくとも3mm且つ最大で6mmである、請求項41~50の一項に記載の方法。
【請求項52】
ステップCにおける前記セパレータは、前記フィブリル化再生セルロース繊維を含めて、前記セパレータの質量に対して少なくとも75%且つ最大で95%のセルロース繊維の割合を有する、請求項41~51の一項に記載の方法。
【請求項53】
ステップCにおける前記セパレータは、請求項1~39の一項に記載のセパレータである、請求項41~52の一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維により実質的に形成され、特定の製造方法により高い寸法安定性を有する電気化学素子用のセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子は、典型的には、正電極と、負電極と、電解液と、セパレータと、ケーシングと、集電体と、を少なくとも備える。セパレータは、電解液に含侵されており、両電極を電気的に分離することが意図されている。この点に関して、電極間でのイオンの流れを、可能な限り妨げないようにすべきである。これにより、電気化学素子は、有利な特性、具体的には急速充電、および高電流を流すオプションを有する。
【0003】
セパレータに対するこのような要求は、セパレータが可能な限り薄くあるべきであり、かつ高い気孔率を有するべきであることを意味する。薄いことにより、一方の電極から他方へのセパレータの気孔を介したイオンの経路が短くなり、電気化学素子の高い堆積エネルギー密度が達成され得る。特に、電気化学素子がアキュムレータである場合、気孔率は、数個の大型の気孔により形成されるのではなく、複数の小型の気孔により形成されるべきである。なぜならば、小型の気孔は、電極における結晶、特にデンドライトの成長を阻害し得るからである。このような結晶は、アキュムレータをショートさせ得るため、その寿命や性能を低下させる。さらに、気孔率は、セパレータの表面全体に亘ってできるだけ一定であるべきである。
【0004】
セパレータは、電解液に対して化学的な安定性を有さなくてはならない。なぜならば、電気化学素子は、複数回にわたって再充電でき、典型的には数年使用されるからである。したがって、セパレータは、酸化性または還元性の環境でも安定性を有する必要がある。
【0005】
安全上の理由から、電気化学素子が損傷した場合の火災のリスクを制限するように、セパレータは良好な熱安定性を有する必要がある。
【0006】
しかしながら、電気化学素子の製造中に、その性能パラメータが変化するという問題が、時折生じる。これは、セパレータの品質がばらつくことに起因する。
【0007】
したがって、高く均一な品質の電気化学素子を製造できる利用可能なセパレータを得ることが求められている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、電気化学素子用のセパレータであって、良好な性能パラメータを有する電気化学素子を高い生産性で製造することを可能にするセパレータを提供することである。
【0009】
この目的は、請求項1に記載の電気化学素子用のセパレータ、請求項40に記載の当該セパレータを備える電気化学素子、および請求項41に記載の電気化学素子用のセパレータを製造するための方法により達成される。さらなる有利な実施形態は、従属請求項において提供される。
【0010】
本件発明者らは、電気化学素子の性能挙動のばらつきは、実際には、製造方法におけるばらつきだけでなく、特にこのような電気化学素子を製造する方法においてセパレータが受ける機械的荷重にも起因することを見出した。この文脈において、セパレータの引張強さが重要であるだけでなく、セパレータが寸法的に安定していること、すなわち、電気化学素子の製造中に発生する荷重のもとで、セパレータが塑性変形、すなわち不可逆的な変形を起こさないということが不可欠である。このような塑性変形により、セパレータの気孔構造が不利に変化し、電気化学素子の性能パラメータが低下したり、電気化学素子の製造中の廃棄物が増加したりし得る。
【0011】
本件発明者らは、前記目的は、電気化学素子用のセパレータであって、質量の少なくとも50%が、フィブリル化再生セルロース繊維により形成され、前記フィブリル化再生セルロース繊維を含めて、前記セパレータの質量の少なくとも70%且つ最大で100%がセルロース繊維により形成され、さらに前記セパレータは、カレンダ処理されるとともに、ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、0.5%以上2.0%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する、セパレータにより達成され得ることを見出した。
【0012】
この点で、0.5%以上の伸びで0.1%降伏点が達成されるという事実は、前記寸法安定性の基準であるとともに、目的達成に不可欠であるとみなされる。
【0013】
本件発明者らの知見によれば、フィブリル化再生セルロース繊維により、セパレータに均質な気孔構造および高い気孔率が提供され得る。セルロース繊維とは対照的に、フィブリル化再生セルロース繊維はその形状があまり変化しないため、均質な気孔構造が生成されるが、セルロース繊維よりもセパレータの強度への寄与が少ない。フィブリル化再生セルロース繊維の科学的純度は、セルロース繊維を上回る利点である。
【0014】
本件発明者らは、フィブリル化再生セルロース繊維の割合が50%であれば有利なセパレータが既に得られることを理解しているが、セパレータに適切な機械的強度を与えるためには、セルロース繊維の合計割合、すなわち再生セルロース繊維を含めた割合は、セパレータの質量に対して、それぞれ少なくとも70%であるべきである。さらに、セルロース繊維は、火災安全性、熱安定性、および生態学的側面に関して、プラスチックフィルムよりも優れている。
【0015】
これらの成分を有するセパレータは、原理的には、当該技術分野で既知の製紙方法により製造され得るが、製造中に寸法安定性を達成するための特別な措置がなければ、所望の特性は得られない。当該技術分野で知られているセパレータを引張試験で延伸させた場合、変形はまず線形弾性変形である。これは、変形が加えられた力に比例し、荷重を取り除いた後に完全に元に戻ることを意味する。引張試験でさらに延伸させると、非線形の弾性変形を伴う小さな過渡領域が存在し、ここでは加えられた力はもはや伸びに比例しないが、荷重を取り除いた後、変形は依然として完全に可逆的である。さらに高い伸びでは、塑性変形、すなわち不可逆的な変形が起こり、荷重を取り除いた後も変形は消えない。このような不可逆的な変形は、セパレータの気孔構造を好ましくない方法で変化させ、微視的な亀裂を生じさせるため、これから製造される電気化学素子の特性を悪化させるので、望ましくない。さらに、電気化学素子の製造中の廃棄物が増加し得る。
【0016】
しかしながら、電気化学素子の製造中に、セパレータに不可逆的な変形を残すような荷重が生じ得る。これは、例えば電気化学素子の製造中、例えば円筒形セルの製造中に、セパレータが衝撃、高加速度または速度差を受けた場合に発生し得る。不可逆的な変形は、実際にはセパレータの引張強度をはるかに下回る荷重で発生するため、通常は認知されないが、電気化学素子の特性を全体として劣化させる。
【0017】
セパレータの弾性挙動および塑性挙動は、引張試験で測定され得る。このような引張試験は、ISO 1924-2:2008に準拠して実施され得る。この試験では、幅15mmの試料片を20mm/分の一定速度で破断するまで延伸させる。延伸中、伸びおよび力が記録され、これから応力‐ひずみ線図が計算される。
【0018】
図1は、一例として、本発明による応力‐ひずみ線図を示す。応力‐ひずみ曲線1は、ここでは、水平方向軸2が伸びを示し、鉛直方向軸3が引張応力を示す線図として示されている。ほとんど応力もひずみもない状態4から、試料片が伸び5およびこれに対応する引張応力6で破断するまで、伸びを20mm/分の一定速度で増加させる。最初は、破線7で示すように、線形弾性変形が生じる。この線7の傾きが、ヤング率である。これは、ISO 1924-2:2008に準拠した引張試験から求めてもよい。通常、応力‐ひずみ曲線1ならびに線形弾性挙動線7から、0.1%降伏点を求める。次いで、線7を水平方向軸2に沿って、これが水平方向軸2と0.1%の伸びで交差するまで平行にシフトすることで、平行線8が得られる。このオフセット線8と応力‐ひずみ曲線1との交点9が、0.1%降伏点を示す。これは、対応する伸び10および引張応力11により特徴付けられる。通常、交点9より高い伸びでは不可逆的な変形が生じ、それより小さい伸びでは、挙動は依然として主に弾性的であると想定される。
【0019】
本発明の文脈において、0.1%降伏点は、対応する伸び10と引張強さ11とからなる上述の点9として、常に理解されるべきである。ISO 1924-2:2008に準拠して引張強さを試験する設備は、多くの場合、0.1%降伏点を自動的に決定できる。
【0020】
引張強度は、断面積に対する単位面積当たりの力(MPa)として与えられるが、セパレータの厚さを乗じることで、幅のみに関するようにすることもでき、その場合はkN/mを単位として与えられる。
【0021】
セパレータから電気化学素子を製造するには、機械方向における機械的特性がとりわけ重要である。ここで機械方向とは、セパレータの製造中に繊維ウェブが機械内を走行する方向である。この方向に直交し、繊維ウェブの平面に沿う方向が交差方向である。
【0022】
したがって、本件発明者らの知見によれば、本発明によるセパレータの機械方向における0.1%降伏点は、高い応力および伸びにおけるものであることが重要である。このようなセパレータは、不可逆的な変形を生じることなく、多くの変形エネルギーを吸収することができる。したがって、セパレータは、高い弾性エネルギー吸収量、ひいては高い寸法安定性を有する。図1によれば、ここでの弾性エネルギー吸収量は、応力‐ひずみ曲線1、水平方向軸2、および点9と点10を結ぶ線により画定される領域によって与えられる。良好な近似値として、弾性エネルギー吸収量は、点4、9および10で形成される三角形の面積によっても計算できる。
【0023】
弾性エネルギー吸収量は体積パラメータであるため、体積あたりのエネルギー(kJ/m)の単位を有する。しかし、セパレータの実用例では、セパレータの厚さを乗じて、J/mを単位とするセパレータの単位面積あたりのエネルギーとして与えられてもよい。
【0024】
弾性エネルギー吸収量は、総引張エネルギー吸収量(TEA)と区別する必要がある。なぜならば、後者は、破断までに吸収される総エネルギーを表すものであり、不可逆的な変形が発生するまでに吸収され得るエネルギーだけを表すものではないからである。
【0025】
本発明によるセパレータ中のフィブリル化再生セルロース繊維は、良好な気孔構造を生成するために不可欠である。再生セルロース繊維のフィブリル化は、その表面積を増加させ、水素結合に利用可能な面積を増加させる。これにもかかわらず、それらは断面が丸いため、機械的強度の点で不利な面があるが、これは適切な製造工程によって克服することができる。これにより、セパレータの0.1%降伏点をより高い伸びと応力にシフトさせることができる。
【0026】
図2は、互いに交差する2つのフィブリル化再生セルロース繊維20および21を示す。フィブリル化再生セルロース繊維20および21は、丸い断面を理由として、理論的には単一の点22でしか接触しない。小さな面積22ではわずかな水素結合しか形成されないため、このようにして製造したセパレータの強度およびこれに対応する0.1%降伏点は、良好ではない。フィブリル化再生セルロース繊維20および21は、カレンダ処理により平坦にプレスされ得る。これにより、繊維23および24が得られる。こうして、より大きな接触面積25が生成されることにより、より多くの水素結合が得られるとともに、より高い強度、および良好な0.1%降伏点がもたらされる。
【0027】
本件発明者らの理解によれば、良好な寸法安定性を得るには、重要なのは繊維断面積を変化させることだけではない。図3は、おおよそ直角33で互いに交差する2つのセルロース繊維30および31を示す。セルロース繊維30および31を平坦にプレスしたとしても、接触面積32は比較的小さい、しかしながら、セルロース繊維34および35は、より小さい角度37で互いに交差することにより、繊維間に実質的により大きな接触面積36が生成され、強度および0.1%降伏点が向上する。この改善は、セルロース繊維34および35の長手方向軸の方向において主として生じるが、これに直交する方向においては、改善は実質的に少なくなるか悪化することさえある。したがって、セルロース繊維間の角度37は、小さくしすぎてはならない。以下に説明するように、製造方法、特にウェブ張力、温度および水分を調節することにより、セルロース繊維を延伸させ同様に塑性変形させることができる。これにより、これらを、0.1%降伏点がより高い応力および伸びに有意にシフトするような角度で、平均的に配向することができる。
【0028】
したがって、高い生産性で良好なパラメータを有する電気化学素子を製造することを可能にする本発明による繊維ベースのセパレータは、特に、ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、0.5%以上の伸びにおいてのみ、セパレータがその0.1%降伏点に達するという点で定量的に説明することができる良好な寸法安定性を有する。
【0029】
本件発明者らは、製造方法が相応に適合される場合、このような寸法安定性を有する繊維ベースのセパレータを前記成分から製造できることを実証することができた。繊維ウェブの寸法安定性に好影響をもたらす製造方法における特定の設定の影響、特にウェブ張力、温度および水分の影響について、以下にさらに説明し実験で実証する。これらの手段は、図2を参照して説明した本件発明者らの理論的理解に基づいている。しかしながら、本発明は、製造におけるこれらの特別な手段に限定されず、セパレータについて本発明による0.1%降伏点に導くものであれば、製造方法に対する他の変形例も本発明に包含されることを強調する。同様に、本件発明者らの現行の理解に対応する図2を参照した理論的説明から、本発明のいかなる制限も推論されるべきではない。
【0030】
本発明によるセパレータの質量の少なくとも50%は、フィブリル化再生セルロース繊維により形成される。これらの繊維は、セパレータの良好な気孔構造を生成する。好適には、フィブリル化再生セルロース繊維の割合はより高く、セパレータの質量の少なくとも55%且つ最大で100%、特に好適には少なくとも60%且つ最大で95%である。
【0031】
フィブリル化再生セルロース繊維は、好適には溶剤紡糸再生セルロース繊維、特に好適にはリヨセル(Lyocell,登録商標)繊維である。
【0032】
フィブリル化前のフィブリル化再生セルロース繊維の線密度は、繊維のフィブリル化にとって重要である。フィブリル化前の前記フィブリル化再生セルロース繊維の平均線密度は、好適には少なくとも0.8g/10000m(0.8dtex)且つ最大で3.0g/10000m(3.0dtex)、特に好適には少なくとも1.0g/10000m(1.0dtex)且つ最大で2.5g/10000m(2.5dtex)である。
【0033】
フィブリル化前のフィブリル化再生セルロース繊維の長さは、セパレータの強度にとって最も重要である。繊維が長いほど強度は高くなるが、フィブリル化の際のエネルギー消費も大きくなる。フィブリル化前の前記フィブリル化再生セルロース繊維の平均長さが、好適には少なくとも2mm且つ最大で8mm、特に好適には少なくとも3mm且つ最大で6mmである。
【0034】
前記フィブリル化再生セルロース繊維を含めて、本発明による前記セパレータの質量の少なくとも70%且つ最大で100%が、セルロース繊維により形成される。好適には、セルロース繊維の割合が、前記セパレータの質量に対して少なくとも75%且つ最大で95%である。セパレータ中のこのような繊維の種類および量により良好な強度が得られるため、セパレータは電気化学素子にも加工され得る。
【0035】
フィブリル化再生セルロース繊維を補完するものとして、前記セルロース繊維は、非フィブリル化再生セルロース繊維、パルプ繊維、またはそれらの混合物からも形成され得る。前記パルプ繊維は、好適には、針葉樹、落葉樹、または他の植物、例えば麻、亜麻、ジュート、ラミー、ケナフ、カポック、ココナッツ、アバカ、サイザル麻、竹、綿、またはエスパルト草から供給される、または再生紙から供給される。異なる起源のパルプ繊維の混合物も、セパレータの製造に使用され得る。特に好適には、パルプ繊維は、落葉樹または針葉樹から供給される。
【0036】
特に好適には、前記セルロース繊維は、再生セルロース繊維、すなわち、フィブリル化再生セルロース繊維、そして選択的に非フィブリル化再生セルロース繊維、およびパルプ繊維の混合物である。特に好適な実施形態において、パルプ繊維に対する再生セルロース繊維の質量の比が、少なくとも1:1且つ最大で30:1、好適には少なくとも2:1且つ最大で20:1である。しかしながら、ここで、前記セパレータの質量の少なくとも50%がフィブリル化再生セルロース繊維により形成されなくてはならず、前記セパレータにおける前記セルロース繊維の合計が、前記セパレータの質量の少なくとも70%且つ最大で100%を占めなくてはならない。
【0037】
特に好適には、前記パルプ繊維は、少なくとも部分的に、最大で0.2mm、好適には最大で0.15mmの平均長さ加重長さを有するミクロフィブリル化パルプ繊維、ナノフィブリル化パルプ繊維、またはパルプ繊維である。これらの種類のパルプ繊維は、平均孔径が小さく孔径分布の標準偏差が小さいセパレータを提供するのに特に良好に適している。
【0038】
セルロース繊維に加えて、本発明によるセパレータは、さらなる繊維をも含有し得る。これらには、例えば、セルロース誘導体、ガラス繊維、またはプラスチック繊維から製造される繊維、例えば、例えばポリエチレンまたはポリプロピレンであるポリオレフィンから、例えばポリエチレンテレフタレートまたはポリ乳酸であるポリエステルから、例えばポリ(4-ヒドロキシ安息香酸-co-6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)であるポリアリレートから、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリアミドから、例えばポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)である芳香族ポリアミドから、ポリイミド、ポリビニルアルコール、例えばポリアクリロニトリルまたはポリ(アクリロニトリル-co-メチルアクリレート)であるポリアクリレート、ポリフェニレンスルフィドから、またはポリ(エチレン-co-ビニルアセテート)から製造される繊維が含まれ得る。
【0039】
好適には、セルロース繊維以外の繊維の合計の割合が、しかしながら前記セパレータの質量の最大で30%、特に好適には最大で20%である。このような繊維は、一般に水素結合により互いに結合しないため、セルロース繊維と同様に、高い0.1%降伏点に寄与することができない。ポリビニルアルコールから製造された繊維は例外であり、これらは水素結合も形成し得るため特に好適である。
【0040】
本発明によるセパレータは、当業者がその経験に従って製造方法に対して適切に選択し得るさらなる成分を含有し得る。これには、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、グアラン、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ジアルデヒド、例えばグリオキサール、または単数または複数の無機充填剤、例えばカオリン、二酸化チタン(TiO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ジルコニウム(ZrO)または炭酸カルシウム(CaCO)が含まれる。
【0041】
無機充填剤の量は、前記セパレータの質量の最大で30%、好適には最大で20%、特に好適には最大で15%である。
【0042】
本発明によるセパレータは、カレンダ処理される。これは、セパレータの製造中に、繊維ウェブが、少なくとも1つのニップであって、機械的圧力が繊維ウェブに厚さ方向に及ぼされるニップを通過することを意味する。カレンダ処理により、厚さが減少するとともに孔径が小さくなるが、セパレータの全気孔率も減少する。本発明による方法に従うカレンダ処理の特別な効果は、図2を参照して説明したように、フィブリル化再生セルロース繊維を平坦にすることである。この点に関して、特定の設定がカレンダ処理に有益である。これらについて、本発明による方法に関連して、以下にさらに詳細に説明する。
【0043】
ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、本発明によるセパレータは、0.5%以上2.0%以下、好適には0.55%以上2.0%以下、特に好適には0.6%以上1.0%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する。
【0044】
ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、本発明によるセパレータは、少なくとも0.1kN/m且つ最大で2.0kN/m、特に好適には少なくとも0.15kN/m且つ最大で1.6kN/mの幅に関する引張応力で、その0.1%降伏点に達する。断面積に対して、0.1%降伏点における機械方向における引張応力は、好適には、少なくとも15MPa且つ最大で30MPa、特に好適には少なくとも18MPa且つ最大で28MPaである。
【0045】
ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向におけるヤング率は、好適には少なくとも1GPa且つ最大で8GPa、特に好適には少なくとも2GPa且つ最大で6GPaである。高いヤング率は、セパレータが荷重下で変形しにくいので有利である。しかしながら、例えば、速度差による強制的な伸びがセパレータに大きな力をもたらし、セパレータが破断する可能性があるため、高すぎるヤング率は不利である。
【0046】
面積に対する機械方向における弾性エネルギー吸収量は、好適には少なくとも0.05J/m且つ最大で0.80J/m、特に好適には少なくとも0.10J/m且つ最大で0.60J/mである。体積に対する機械方向における弾性エネルギー吸収量は、少なくとも4kJ/m且つ最大で15kJ/m、特に好適には少なくとも5kJ/m且つ最大で13kJ/mである。高い弾性エネルギー吸収量は、0.1%降伏点における高い応力および伸びによって達成され、セパレータに不可逆的な変形を引き起こすことなく、セパレータの加工中の高い機械的荷重を補償することを可能にする。
【0047】
本発明によるセパレータに関する、機械方向におけるISO 1924-2:2008に準拠した幅に関する引張強さは、好適には少なくとも0.3kN/m且つ最大で2.0kN/m、特に好適には少なくとも0.5kN/m且つ最大で1.5kN/mである。断面積に対して、本発明によるセパレータの機械方向における引張強さは、好適には少なくとも20MPa且つ最大で60MPa、特に好適には少なくとも30MPa且つ最大で50MPaである。
【0048】
本発明によるセパレータに関する、機械方向におけるISO 1924-2:2008に準拠した破断伸びは、好適には少なくとも0.5%且つ最大で5.0%、特に好適には少なくとも1.0%且つ最大で4.0%である。
【0049】
驚くべきことに、本件発明者らは、本発明によるセパレータが、交差方向においても良好な機械的特性を有し、特に、先行技術のセパレータでは達成できない高い破断伸びを有することを見出した。高い破断伸びは、図3を参照して説明したように、セルロース繊維が互いに交差する平均角度を小さく設定することに起因する。この角度は、セパレータの製造中に、本発明による方法に関して以下にさらに説明するウェブ張力や、温度や水分等の他の設定によって影響を受けることがある。
【0050】
したがって、本発明によるセパレータは、交差方向においても高い寸法安定性を有するとともに、不可逆的に変形することなく、電気化学素子の製造中の高い機械的荷重に耐える。さらに、本発明によるセパレータは、非常に高い交差方向の破断伸びを有する。これは驚くべきことである。なぜならば、本発明によれば、セパレータの製造中の繊維の延伸は主として機械方向であるからである。
【0051】
ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向における引張荷重下において、本発明によるセパレータは、0.4%以上2.0%以下、特に好適には0.45%以上1.0%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する。先行技術による典型的なセパレータは、0.2%~約0.3%の伸びで、すでに交差方向におけるその0.1%降伏点に達している。
【0052】
ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向における引張荷重下において、本発明によるセパレータは、好適には少なくとも0.1kN/m且つ最大で0.8kN/m、特に好適には少なくとも0.15kN/m且つ最大で0.6kN/mの幅に関する引張応力で、その0.1%降伏点に達する。断面積に対して、0.1%降伏点における交差方向における引張応力は、好適には少なくとも8MPa且つ最大で15MPa、特に好適には少なくとも10MPa且つ最大で13MPaである。
【0053】
ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向におけるヤング率は、好適には少なくとも1GPa且つ最大で6GPa、特に好適には少なくとも1.5GPa且つ最大で5GPaである。
【0054】
交差方向における面積に対する弾性エネルギー吸収量は、好適には少なくとも0.04J/m且つ最大で0.25J/m、特に好適には少なくとも0.05J/m且つ最大で0.20J/mである。体積に対して、交差方向における弾性エネルギー吸収量は、好適には少なくとも1.5kJ/m且つ最大で5.0kJ/m、特に好適には少なくとも2.0kJ/m且つ最大で4.0kJ/mである。
【0055】
本発明によるセパレータに関する、交差方向におけるISO 1924-2:2008に準拠した幅に関する引張強さは、好適には少なくとも0.3kN/m且つ最大で2.0kN/m、特に好適には少なくとも0.5kN/m且つ最大で1.5kN/mである。断面積に対して、本発明によるセパレータの交差方向における引張強さは、好適には少なくとも20MPa且つ最大で60MPa以下、特に好適には少なくとも30MPa且つ最大で50MPaである。
【0056】
本発明によるセパレータに関する、交差方向におけるISO 1924-2:2008に準拠した破断伸びは、好適には少なくとも1.0%且つ最大で8.0%、特に好適には少なくとも2.0%且つ最大で7.0%である。
【0057】
本発明によるセパレータから製造される電気化学素子の安全性に関する重要な特徴は、高温でのセパレータの収縮率である。150℃で30分間加熱した後の本発明によるセパレータの収縮率は、好適には少なくとも0.4%且つ最大で1.2%、特に好適には少なくとも0.45%且つ最大で1.0%である。
【0058】
本発明によるセパレータは、薄型でなくてはならない。これにより、電解液を流れるイオンは、2つの電極間のセパレータの気孔を通って短距離を移動するだけでよく、これから製造される電気化学素子は高い体積エネルギー密度を有する。一方で、電極同志を電気的に安全に互いに絶縁するとともにセパレータの良好な強度を達成するためには、ある程度の厚さが必要である。したがって、本発明によるセパレータの厚さは、好適には少なくとも10μm且つ最大で55μm、特に好適には少なくとも12μm且つ最大で35μmである。セパレータの厚さは、ISO 534:2011に準拠して単一のシート上で測定され得る。厚さは、セパレータのカレンダー処理設定および坪量から実質的に影響を受ける。
【0059】
セパレータの坪量は、良好な強度を提供するが、坪量とともに厚さおよび材料消費量も増加する。したがって、本発明によるセパレータの坪量は、好適には少なくとも8g/m且つ最大で30g/m、特に好適には少なくとも12g/m且つ最大で25g/mである。坪量は、ISO 536:2019に準拠して測定され得る。
【0060】
セパレータの気孔率は、セパレータの総体積に対する気孔体積の比率であり、通常百分率で表される。セパレータの気孔率は、それぞれISO 534:2011およびISO 536:2019に準拠して測定した厚さおよび坪量、ならびに繊維の密度から推定され得る。ここで、繊維に対して1500kg/mの密度が選択され得る。これらの仮定を用いることにより、気孔率μは、セパレータの総体積に対する気孔体積の比率として以下の式によって近似的に計算され得る。
【0061】
【数1】
【0062】
ここで、mはg/mを単位とする坪量であり、dはμmを単位とする厚さであり、前記気孔率は、0~1の間の値として得られ、100を乗じることで百分率に変換され得る。気孔率は可能な限り高いことが望ましいが、主に要求される機械的強度、および可能な限り小さい気孔という要求により上から制限される。気孔率は、好適には少なくとも30%且つ最大で85%、特に好適には少なくとも35%且つ最大で75%である。
【0063】
孔径分布、平均流動孔径、および平均流動孔径の標準偏差は、ASTM F316-03(2019) Standard Test Methods of Pore Size Characteristics of Membrane Filters by Bubble Point and Mean Flow Pore Testに準拠した毛細管流動ポロシメトリーにより測定され得る。ここで、圧力差を増加させつつ、セパレータを通過する媒体の流量が測定される。この試験方法は、セパレータに特に適している。なぜならば、セパレータを貫通する気孔のみが検出され、各気孔の最も狭い断面が流量を決定するからである。気孔のこれらの特徴は、セパレータを通過するイオンの移動に対しても重要である。
【0064】
セパレータの気孔は、電極上でのデンドライトの成長を制限するように一定の大きさを超えてはならず、かつそれらは、すべて同じ大きさ、すなわち標準偏差の小さい孔径分布を有するべきである。したがって、好適には、平均流動孔径は、少なくとも40nm且つ最大で1000nm、好適には少なくとも50nm且つ最大で800nmである。
【0065】
典型的に、本発明によるセパレータの孔径は、単峰型分布であるため、孔径分布の幅は、平均流動孔径の標準偏差により良好に特徴付けられる。したがって、本発明によるセパレータに関する平均流動孔径の標準偏差は、好適には少なくとも3nm且つ最大で300nm、特に好適には少なくとも3nm且つ最大で200nmである。
【0066】
毛細管流動ポロシメトリーによる孔径分布の測定には手間がかかるため、セパレータの気孔構造は、単にガーレー通気度によっても特徴付けることができる。通気度は、セパレータが電解液をどれだけ速く吸収できるかについての良好な基準でもある。高い吸収速度は、電気化学素子の製造時の生産性に有利である。ガーレー通気度は、ISO 5636-5:2013に準拠して測定され得る。好適には少なくとも10秒且つ最大で450秒、好適には少なくとも20秒且つ最大で300秒である。
【0067】
セパレータは、電気化学素子に使用され得る。本発明による電気化学素子は、2つの電極と、電解液と、本発明によるセパレータと、を備える。好適には、前記電気化学素子は、キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、スーパーキャパシタまたはアキュムレータであり、特に好適には、前記電気化学素子は、リチウムイオン電池である。
【0068】
本発明によるセパレータは、以下のステップを備える本発明による方法により製造され得る。
A‐セルロース繊維を含む繊維ウェブを製造するステップと、
B‐ステップAからの前記繊維ウェブをカレンダ処理するステップと、
C‐前記セパレータを形成する前記繊維ウェブを巻き取るステップ。
ステップAにおける前記繊維ウェブ中のセルロース繊維の量および種類は、ステップCにおける前記セパレータの質量の少なくとも50%が、フィブリル化再生セルロース繊維により形成され、前記フィブリル化再生セルロース繊維に加え、ステップCにおける前記セパレータの質量の少なくとも70%且つ最大で100%がセルロース繊維により形成されるように選択され、ステップAにおける前記繊維ウェブの製造、またはステップBにおける前記繊維ウェブのカレンダ処理は、部分的に、ステップBの直前に前記繊維ウェブが有する機械方向における幅に関する引張強さの少なくとも20%且つ最大で50%であるウェブ張力で実施され、ステップCで得た前記セパレータは、ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、0.5%以上2.0%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する。
【0069】
本件発明者らの知見によれば、0.1%降伏点の増加は、とりわけ、ステップAにおける製造中またはステップBにおけるカレンダ処理中に、繊維ウェブを、ステップBの直前に前記繊維ウェブが有する機械方向における幅に関する引張強さ(kN/m)の少なくとも20%且つ最大で50%である機械方向における高い引張荷重に部分的にさらすことにより達成され得る。本件発明者らは、荷重を理由として繊維が機械方向に延伸されることで、繊維同志が平均してより小さい角度で互いに交差し、図3を参照して説明したように、完成したセパレータが、より高い伸びまで弾性挙動により引張荷重に対して反応すると仮定する。
【0070】
本件発明者らの知見によれば、機械方向におけるステップBの直前の繊維ウェブの幅に関する引張強さは、適切な基準値であると判明した。繊維ウェブの引張強さは、本発明による方法のステップBの直前にすでに確立されているため、これが代表値を構成する。
【0071】
ステップAまたはステップBの少なくとも一部における機械方向における繊維ウェブの引張荷重は、好適には前記繊維ウェブがステップBの直前に有する機械方向における前記繊維ウェブの幅に関する引張強さの少なくとも25%且つ最大で40%、特に好適には少なくとも25%且つ最大で35%である。繊維ウェブの引張荷重は、製造用またはカレンダ処理用の装置を通って繊維ウェブを搬送するローラの印加トルクから本質的に影響を受け得る。
【0072】
明らかに、本発明による方法の最初の実行中において、ステップBの直前に繊維ウェブが有する幅に関する引張強さは、まだ正確には知られていない。しかしながら、当業者は、繊維組成、繊維のフィブリル化、および繊維ウェブの坪量に基づく経験から、ステップBにおけるカレンダ処理の直前の繊維ウェブの引張強さの比較的正確な推定値を提供することができ、これをウェブ張力を設定するための基礎として利用できる。方法が安定的に実施される場合、ウェブ張力を、ステップBにおけるカレンダ処理の直前に得た繊維ウェブのサンプルの実際に測定した引張強さに、より正確に適合させることができる。このステップは、複数回繰り返すことができる。
【0073】
繊維ウェブに対する上述の引張荷重は、ステップAにおける繊維ウェブの製造中、またはステップBにおけるカレンダ処理中に、適用され得る。
【0074】
好適には、ステップAにおける前記繊維ウェブの製造は抄紙機で実施され、以下のA.1~A.5のステップを備える。
A.1‐セルロース繊維を含む水性懸濁液を提供するステップと、
A.2‐前記懸濁液中の前記セルロース繊維の少なくとも一部をフィブリル化するステップと、
A.3‐前記懸濁液を稼働ワイヤ上で除水して繊維ウェブを形成するステップと、
A.4‐機械的圧力により前記繊維ウェブを除水するステップと、
A.5‐前記繊維ウェブを乾燥させるステップ。
【0075】
本発明による方法の好適な実施形態において、前記抄紙機の乾燥セクションであるステップA.5の間に、またはプレスセクションであるステップA.4の間に、前記繊維ウェブは前述のウェブ張力を受け得る。この点に関して、繊維ウェブがプレスセクションであるステップA.4においてウェブ張力を受ける変形例が特に好適である。乾燥セクションであるステップA.5において、繊維ウェブの構造はすでに部分的に確立しているが、プレスセクションであるステップA.4において、これはより容易に影響を受け得る。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態において、繊維ウェブは上述のウェブ張力を、抄紙機とは異なる別個の装置で受けてもよく、このような方法で寸法安定性を得てもよい。これは、好適には、ステップBにおけるカレンダ処理の前、またはこれと同時に実施され得る。
【0077】
したがって、当業者は、本発明によるセパレータの0.1%降伏点を増加させるための利用可能な方法の複数の変形例を有することにより、高い寸法安定性を有するセパレータを得る。
【0078】
本件発明者らは、繊維ウェブの含水率が高いほど繊維の可動性が高まるため、繊維を引張荷重で延伸しやすくなると想定している。これは主として、非変形状態で強い捲縮を有するフィブリル化再生セルロース繊維に当てはまる。したがって、ステップBの直前の機械方向における前記繊維ウェブの幅に関する引張強さの20%~50%である(前記ウェブ張力を発生させる)ステップAまたはBにおける引張荷重下での前記繊維ウェブの平均含水率は、好適には少なくとも4%且つ最大で15%、特に好適には少なくとも5%且つ最大で12%である。含水率が提供された間隔の上限範囲において選択される場合、繊維ウェブに対してより低い引張荷重を選択することができる。本発明による方法の特に好適な実施形態において、ステップBの直前の機械方向における前記繊維ウェブの幅に関する引張強さの20%~30%であるステップAまたはBにおける引張荷重下での前記繊維ウェブの平均含水率は、少なくとも8%且つ最大で15%である。
【0079】
好適には、繊維ウェブの含水率は、繊維ウェブの幅に亘って均質である。しかしながら、製造方法に対する特別な要求を満たすために、幅に亘る一定の含水率プロファイルが、例えばスプレーバーなどの従来技術で知られた手段を用いて繊維ウェブに生成され得る。
【0080】
ステップBでは、少なくとも1つにニップにおいて、ステップAからの繊維ウェブに対して、繊維ウェブに直交するように機械的圧力を及ぼすことにより、繊維ウェブが厚さ方向に圧縮される。単数または複数のニップ内の圧力と温度の適切な設定により繊維が平坦化され、図2に適切に拡大して示すように、フィブリル化再生セルロース繊維間の接触面積が増大する。このようにして、0.1%降伏点はより高い応力と伸びにシフトし、セパレータはより寸法的に安定する。
【0081】
ステップBにおけるニップの個数はより多く、好適には少なくとも2個且つ最大で14個、特に好適には少なくとも3個且つ最大で10個である。
【0082】
本件発明者らの知見によれば、カレンダ加工を実施するには、単数または複数のニップを形成するローラが高温を有することが有利であることが見出された。したがって、ステップBにおけるこれらのローラの全部または一部の平均温度が、好適には少なくとも25℃且つ最大で140℃、特に好適には少なくとも50℃且つ最大で140℃、特に少なくとも80℃且つ最大で140℃である。80℃を超える温度では、繊維構造の共有結合架橋および固定が起こり得る。これにより0.1%降伏点をさらに改善することができる。
【0083】
ステップBにおけるニップの全部または一部の機械的圧力は、少なくとも80kN/m且つ最大で400kN/m、好適には少なくとも160kN/m且つ最大で320kN/mである。好適な間隔は、いくつかの効果を特に良好に組み合わせることを可能にする。これには、気孔率をあまり減少させることなく、フィブリル化再生セルロース繊維間の接触面積を増加させること、厚さを減少させること、および平均孔径を減少させることが含まれる。
【0084】
ステップAにおけるセルロース繊維の量は、ステップCにおけるセパレータの質量の少なくとも50%がフィブリル化再生セルロース繊維により形成されるように選択される。しかしながら、フィブリル化再生セルロース繊維の割合はより高く、好適にはステップCにおけるセパレータの質量の少なくとも55%且つ最大で100%、特に好適には少なくとも60%且つ最大で95%である。
【0085】
前記フィブリル化再生セルロース繊維は、好適には溶剤紡糸再生セルロース繊維、特に好適にはリヨセル(登録商標)繊維である。
【0086】
フィブリル化前の前記フィブリル化再生セルロース繊維の平均線密度が、少なくとも0.8g/10000m(0.8dtex)且つ最大で3.0g/10000m(3.0dtex)、特に好適には少なくとも1.0g/10000m(1.0dtex)且つ最大で2.5g/10000m(2.5dtex)である。
【0087】
フィブリル化前の前記フィブリル化再生セルロース繊維の長さが、少なくとも2mm且つ最大で8mm、特に好適には少なくとも3mm且つ最大で6mmである。
【0088】
フィブリル化再生セルロース繊維を含めて、ステップCにおける前記セパレータの質量の少なくとも70%且つ最大で100%が、セルロース繊維で形成される。好適には、セルロース繊維の割合は、ステップCにおけるセパレータの質量に対して少なくとも75%且つ最大で95%である。
【0089】
フィブリル化再生セルロース繊維を補完するものとして、前記セルロース繊維は、非フィブリル化再生セルロース繊維、パルプ繊維、またはそれらの混合物からも形成され得る。前記パルプ繊維は、好適には、針葉樹、落葉樹、または他の植物、例えば麻、亜麻、ジュート、ラミー、ケナフ、カポック、ココナッツ、アバカ、サイザル麻、竹、綿、またはエスパルト草から供給される、または再生紙から供給される。異なる起源のパルプ繊維の混合物も、ステップAにおけるセパレータの製造に使用され得る。特に好適には、パルプ繊維は、落葉樹または針葉樹から供給される。
【0090】
特に好適には、前記セルロース繊維は、再生セルロース繊維、すなわち、フィブリル化再生セルロース繊維、そして選択的に非フィブリル化再生セルロース繊維、およびパルプ繊維の混合物である。特別な実施形態において、パルプ繊維に対する再生セルロース繊維の質量の比が、少なくとも1:1且つ最大で30:1、好適には少なくとも2:1且つ最大で20:1である。しかしながら、ここで、ステップCにおける前記セパレータの質量の少なくとも50%がフィブリル化再生セルロース繊維により依然として形成されなくてはならず、前記セパレータにおける前記セルロース繊維の合計が、ステップCにおける前記セパレータの質量の少なくとも70%且つ最大で100%を占めなくてはならない。
【0091】
特に好適には、前記セルロース繊維は、少なくとも部分的に、最大で0.2mm、好適には最大で0.15mmの平均長さ加重長さを有するミクロフィブリル化パルプ繊維、ナノフィブリル化パルプ繊維、またはパルプ繊維である。
【0092】
セルロース繊維に加えて、ステップCにおけるセパレータは、さらなる繊維をも含有し得る。これらには、例えば、セルロース誘導体、ガラス繊維、またはプラスチック繊維から製造される繊維、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンであるポリオレフィンから、例えばポリエチレンテレフタレートまたはポリ乳酸であるポリエステルから、例えばポリ(4-ヒドロキシ安息香酸-co-6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)であるポリアリレートから、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリアミドにより、例えばポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)である芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、例えばポリアクリロニトリルまたはポリ(アクリロニトリル-co-メチルアクリレート)であるポリアクリレート、ポリフェニレンスルフィドから、またはポリ(エチレン-co-ビニルアセテート)から製造される繊維が含まれ得る。
【0093】
好適には、セルロース繊維以外の繊維の合計の割合が、ステップCにおけるセパレータの質量の最大で30%、好適には最大で20%である。
【0094】
ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、ステップCにおけるセパレータは、0.5%以上2.0%以下、好適には0.55%以上2.0%以下、特に好適には0.6%以上1.0%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する。
【0095】
ISO 1924-2:2008に準拠した機械方向における引張荷重下において、ステップCにおけるセパレータは、好適には、少なくとも0.1kN/m且つ最大で2.0kN/m、特に好適には少なくとも0.15kN/m且つ最大で1.6kN/mの引張応力で、その0.1%降伏点に達する。断面積に対して、0.1%降伏点における機械方向における引張応力は、好適には少なくとも15MPa且つ最大で30MPaであり、特に好適には少なくとも18MPa且つ最大で28MPaである。
【0096】
機械方向における弾性エネルギー吸収量は、好適には少なくとも0.05J/m且つ最大で0.8J/m、特に好適には少なくとも0.10J/m且つ最大で0.6J/mである。体積に対して、機械方向における弾性エネルギー吸収量は、少なくとも4kJ/m且つ最大で15kJ/m、特に好適には少なくとも5kJ/m且つ最大で13kJ/mである。
【0097】
ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向における引張荷重下において、ステップCにおけるセパレータは、好適には0.4%以上2.0%以下、特に好適には0.45%以上1%以下の伸びで、その0.1%降伏点に達する。
【0098】
ISO 1924-2:2008に準拠した交差方向における引張荷重下において、ステップCにおけるセパレータは、好適には少なくとも0.1kN/m且つ最大で0.8kN/m、特に好適には少なくとも0.15kN/m且つ最大で0.6kN/mの引張応力で、その0.1%降伏点に達する。断面積に対して、0.1%降伏点における交差方向における引張応力は、好適には少なくとも8MPa且つ最大で15MPa、特に好適には少なくとも10MPa且つ最大で13MPaである。
【0099】
交差方向における弾性エネルギー吸収量は、好適には少なくとも0.04J/m且つ最大で0.25J/m、特に好適には少なくとも0.05J/m且つ最大で0.20J/mである。体積に対して、交差方向における弾性エネルギー吸収量は、好適には少なくとも1.5kJ/m且つ最大で5kJ/m、特に好適には少なくとも2kJ/m且つ最大で4kJ/mである。
【0100】
ステップCにおけるセパレータのさらなるパラメータ、例えば機械方向および交差方向におけるヤング率、機械方向および交差方向における引張強さ、機械方向および交差方向における破断伸び、収縮率、坪量、厚さ、気孔率、平均流動孔径、平均流動孔径の標準偏差、および通気度は、本発明によるセパレータについて上記でさらに開示したように、指示された好適な間隔内で有効である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1図1は、例示として、0.1%降伏点を測定するための応力‐ひずみ線図を示す。
図2図2は、例示として、フィブリル化再生セルロース繊維が互いに交差する接触面積を、ステップBにおけるカレンダ処理の前後で示す。
図3図3は、例示として、2本のセルロース繊維間の交差角度が接触面積の大きさに及ぼす影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0102】
本発明によるセパレータ、および本発明による方法のいくつかの好適な実施形態、および本発明によらない比較例としてのセパレータを以下に説明する。
【0103】
例1
本発明による方法のステップAに従って、繊維ウェブを抄紙機で製造した。この繊維ウェブは、完成したセパレータの質量に対して、77%のフィブリル化セルロース繊維と、13%のナノフィブリル化パルプ繊維と、10%のポリエチレンテレフタレート(PET)の繊維とからなるものであった。
【0104】
繊維ウェブを、ステップBに従って、4つのニップを有するカレンダにおいて、150kN/mの線荷重で、130°Cのニップを形成するローラの温度でカレンダ処理した。次いで、繊維ウェブを、ステップCで巻き取り、こうしてセパレータを得た。ステップBでカレンダ処理を行う直前の繊維ウェブの引張強さは、機械方向において約0.4kN/mであり、この引張強さに対応して、カレンダ加工を開始する直前の種々のウェブ張力が選択された。セパレータの坪量は、ISO 536:2019に準拠して15.6g/mであり、ISO 534:2011に準拠して測定した単一シートの厚さは、約22.3μmであった。このようにして得られたセパレータについて、ISO 1924-2:2008に準拠した引張強さ、破断伸び、ヤング率、および応力‐ひずみ曲線を測定し、そこから0.1%降伏点と弾性エネルギー吸収量を算出した。
【0105】
機械方向に関するデータを表1に、交差方向に関するデータを表2に示す。ここで、「WT/TS」は、カレンダ処理開始直前の、機械方向における繊維ウェブの幅に関する引張強さに対する、カレンダ処理直前のウェブ張力の比である。「LL」は、カレンダ処理中にすべてのニップに作用する機械的線荷重である。「TH」は、厚さである。「0.1%-YP」は、kN/mおよびMPaを単位とする対応する応力および対応する%を単位とする伸びに対する0.1%降伏点である。「EEA」は、J/mおよびkJ/mを単位とする弾性エネルギー吸収量である。「YM」は、GPaを単位とするヤング率である。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
表1は、本発明XおよびYによらないセパレータは、いずれも0.45%未満の比較的低い伸びで、それらの0.1%降伏点に達することを示す。本発明A、BおよびCによるセパレータの機械方向におけるヤング率は、本発明XおよびYによらないセパレータのそれよりもわずかに高い。したがって、同じ伸びであっても、本発明A、BおよびCによるセパレータは、より多くの弾性エネルギーを吸収することができ、これだけで、すでに寸法的により安定している。
【0109】
また、ウェブ張力が、ステップBの直前に繊維ウェブが有する機械方向における幅に関する引張強さの約20%を超える場合、弾性挙動はより高い伸びを示すこともわかる。セパレータの機械方向における幅に関する引張強さに対するウェブ張力の比を20%よりも大きく増加させることは可能であるが、0.1%降伏点に対する改善は生じない。
【0110】
交差方向における効果は驚くべきものである。なぜならば、製造中に機械方向に引張荷重がかかると、完成したセパレータの交差方向の機械的特性は実質的に変化しないか、むしろ悪化すると予想されていたからである。しかしながら、実験によれば、交差方向においても、0.1%降伏点がより高い応力と伸びにシフトするため、弾性エネルギー吸収量も実質的に増加することがわかった。
【0111】
本発明によるセパレータAの気孔構造を、ASTM F316-03(2019)に準拠して毛細管流動ポロシメトリーにより測定した。平均流動孔径は、150nmの標準偏差で173nmであった。気孔率は45%であり、ISO 5636-5:2013に準拠したガーレー通気度は54秒であった。
【0112】
機械的特性と気孔構造により、本発明によるセパレータA、B、Cは電気化学素子の製造に適しており、リチウムイオン電池の実験的製造は問題なく可能であった。
【0113】
例2
本発明による方法のステップAに従って、繊維ウェブを抄紙機で製造した。この繊維ウェブは、完成したセパレータの質量に対して、77%のフィブリル化セルロース繊維と、10%のナノフィブリルかパルプ繊維とからなるものであった。
【0114】
繊維ウェブを、ステップBに従って、6つのニップを有するカレンダにおいて、80kN/m~400kN/mの種々の線荷重で、90°Cのニップを形成するローラの温度でカレンダ処理した。次いで、繊維ウェブを、ステップCで巻き取り、こうして複数のセパレータを得た。ステップBでカレンダ処理を行う直前の繊維ウェブの幅に関する引張強さは、約0.44kN/m~0.46kN/mであり、この引張強さに対応して、繊維ウェブをステップAにおける乾燥セクションで種々のウェブ張力にさらした。繊維ウェブを、乾燥セクションのこのゾーンの前にサイズプレスで湿らせた。セパレータの坪量は、ISO 536:2019に準拠して15.6g/mであった。このようにして得られたセパレータについて、ISO 1924-2:2008に準拠した引張強さ、破断伸び、ヤング率、および応力‐ひずみ曲線を測定し、そこから0.1%降伏点と弾性エネルギー吸収量を算出した。
【0115】
機械方向に関するデータを表3に、交差方向に関するデータを表4に示す。ここで、「WT/TS」は、カレンダ処理開始直前の、機械方向における繊維ウェブの幅に関する引張強さに対する、カレンダ処理直前のウェブ張力の比である。「LL」は、カレンダ処理中にすべてのニップに作用する機械的線荷重である。「TH」は、厚さである。「0.1%-YP」は、kN/mおよびMPaを単位とする対応する応力および対応する%を単位とする伸びに対する0.1%降伏点である。「EEA」は、J/mおよびkJ/mを単位とする弾性エネルギー吸収量である。「YM」は、GPaを単位とするヤング率である。
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
表3は、本発明VおよびWによらないセパレータは、いずれも0.47%および0、49%の伸びで、機械方向におけるそれらの0.1%降伏点に達することを示す。本発明によるセパレータD、E、F、GおよびHのヤング率は、本発明によらないセパレータVおよびWのそれよりもわずかに高い。したがって、同じ伸びであっても、本発明によるセパレータD~Hは、より多くの弾性エネルギーを吸収することができ、これだけで、すでに寸法的により安定している。
【0119】
ステップAにおける乾燥セクションでのウェブ張力が、カレンダ処理の直前に繊維ウェブが有する機械方向における幅に関する引張強さの約20%を超える場合、弾性挙動はより高い伸びを示すこともわかる。カレンダ処理直前の繊維ウェブの機械方向における幅に関する引張強さに対するウェブ張力の比を20%よりも大きく増加させることは可能であり、部分的に0.1%降伏点および弾性エネルギー吸収量のさらなる改善をもたらす。
【0120】
本発明によるセパレータD、GおよびHの比較により、カレンダ処理中の線荷重が、弾性エネルギー吸収量に影響を及ぼすことがわかる。線荷重が高いと、機械方向および交差方向における弾性エネルギー吸収量が減少する。
【0121】
本発明によるセパレータD~Hについて、ISO 1924-2:2008に準拠した引張強さは、5.5%から7.3%という非常に高い値の交差方向の破断伸びを示した。比較として、本発明によらないセパレータVおよびWの交差方向の破断伸びは、5%未満であった。これは、本発明による方法のさらなる利点である。
【0122】
ISO 5636-5:2013に準拠した、本発明によるセパレータのガーレー通気度は140秒~250秒であり、平均流動孔径は130nm~160nmであり、平均流動孔径の標準偏差は80nm~150nmであった。この理由から、気孔構造は電気化学素子のセパレータとして使用するのに適切であると想定せざるを得ない。
【0123】
本発明によるセパレータD~Hからリチウムイオン電池を製造することは、何の問題もなく可能であった。
【0124】
本発明によるセパレータX、Y、VおよびWは、電気化学素子の製造に適しているが、本発明によるセパレータA~Hは、より優れた機械的特性を有するので、より優れた性能パラメータを有する電気化学素子をより高い生産性で製造することができる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】