(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】CD73を上方調節することができる薬剤及びグルココルチコイドの順次投与による疾患の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 38/21 20060101AFI20240130BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240130BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
A61K38/21
A61K31/573
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544560
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-09-19
(86)【国際出願番号】 FI2022050044
(87)【国際公開番号】W WO2022157423
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504459559
【氏名又は名称】ファロン ファーマシューティカルズ オサケ ユキチュア
【氏名又は名称原語表記】Faron Pharmaceuticals Oy
【住所又は居所原語表記】Joukahaisenkatu 6, 20520 Turku Finland
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤルカネン、ユホ
(72)【発明者】
【氏名】スピセル、アレクサンデル
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA44
4C084DA21
4C084MA65
4C084NA05
4C084ZB111
4C084ZC541
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA10
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB11
4C086ZC54
4C086ZC75
(57)【要約】
全身性炎症反応症候群(SIRS)の予防及び/又は治療におけるCD73を上方調節することができる薬剤及びグルココルチコイドの順次投与。CD73を上方調節することができる薬剤及びグルココルチコイドは、順次に投与され、CD73を上方調節することができる薬剤は、グルココルチコイドの前に投与される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤と組み合わせて全身性炎症反応症候群(SIRS)及び/又は多臓器機能障害症候群(MODS)の予防及び/又は治療の方法で使用するための、個体におけるCD73を上方調節することができる薬剤であって、CD73を上方調節することができる薬剤並びにグルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤が順次投与され、CD73を上方調節することができる薬剤が、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の前に投与される、CD73を上方調節することができる薬剤。
【請求項2】
CD73を上方調節することができる薬剤が、I型インターフェロン、並びに/又はCD73を上方調節することができる抗体及び/若しくはその断片、ペプチド、又は巨大分子、並びにそれらの任意の組み合わせを含む、SIRS及び/又はMODSの予防及び/又は治療の方法に使用するための、請求項1に記載のCD73を上方調節することができる薬剤。
【請求項3】
I型インターフェロンが、インターフェロンベータ、インターフェロンアルファ及び/又はそれらの任意の亜型を含む、SIRS及び/又はMODSの予防及び/又は治療の方法に使用するための、請求項2に記載のCD73を上方調節することができる薬剤。
【請求項4】
I型インターフェロンが、インターフェロンベータ-1aを含む、SIRS及び/又はMODSの予防及び/又は治療の方法に使用するための、請求項2又は3に記載のCD73を上方調節することができる薬剤。
【請求項5】
グルココルチコイドが、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン及び/又はデキサメタゾンを含む、SIRS及び/又はMODSの予防及び/又は治療の方法で使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載のCD73を上方調節することができる薬剤。
【請求項6】
CD73レベルの増加が観察された後に、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の投与が開始される、SIRS及び/又はMODSの予防及び/又は治療の方法で使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載のCD73を上方調節することができる薬剤。
【請求項7】
CD73を上方調節することができる薬剤が、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の前に少なくとも3日間、典型的には3~7日間投与される、SIRS及び/又はMODSの予防及び/又は治療の方法で使用するための、行請求項1~6のいずれか一項に記載のCD73を上方調節することができる薬剤。
【請求項8】
CD73を上方調節することができる薬剤が、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の投与を開始する前に少なくとも3連続日、典型的には3~7連続日で投与される、SIRS及び/又はMODSの予防及び/又は治療の方法で使用するための、請求項7に記載のCD73を上方調節することができる薬剤。
【請求項9】
CD73を上方調節することができる薬剤が、静脈内投与される、SIRS及び/又はMODSの予防及び/又は治療の方法で使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載のCD73を上方調節することができる薬剤。
【請求項10】
CD73を上方調節することができる薬剤が、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤と同時に投与されない、SIRS及び/又はMODSの予防及び/又は治療の方法で使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載のCD73を上方調節することができる薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急の疾患及び状態における臓器保護のためのI型インターフェロンなどのCD73を上方調節することができる薬剤と外因性グルココルチコイドとの順次治療に関する。
【背景技術】
【0002】
I型インターフェロン(IFN)及び内因性コルチゾールは、それぞれウイルスの侵襲及びストレスに対する我々の自然な反応である。いずれにおいても呼び出すことができないことは致命的であり、アジソン病はコルチゾールの欠乏であり、IFN欠乏はセルフタイトルの症候群として知られている。内因性コルチゾール及び所与のグルココルチコイドがI型IFNシグナル伝達を遮断するため、これらの自然反応が順次に生じる必要があることが分かっており[1]、併用投与される場合、これら2つの薬剤は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を患う患者の死亡率を増加させることが示されている[2]。したがって、これまでに、先行技術は、I型IFNとグルココルチコイドとが一緒に使用されるべきではないことを学び、グルココルチコイド又はI型IFNのどちらの医薬成分が、抗炎症剤が投与されるべきである緊急状態及び全身性炎症反応に適しているかについて、科学的議論が進行中である。現在、グルココルチコイドは、COVID-19に起因する全身性炎症の治療の標準治療であり[3]、I型IFNは、この設定では奏功していない[4]。
【0003】
I型インターフェロン(IFN)は、構造的に類似したサイトカインの群からなり、IFN-β、IFN-ε、IFN-κ、IFN-ω、IFN-δ、IFN-ζ、及びIFN-τとともに、IFN-αの13~14亜型を含む。これらは、先天性免疫系の主要な役割を果たし、ウイルスの侵襲に対する我々の自然な反応の一部として高度に保存され、宿主防御において抗ウイルス性の役割を果たす。これらのIFNは、I型IFNがそれらの受容体IFNARに結合した後、IFN刺激遺伝子によってコードされる抗ウイルスエフェクター分子を介して誘導される。これらのIFN刺激タンパク質のうちの1つは、CD73である。CD73は、重要な酵素であり、恐らくアデノシン三リン酸(ATP)からアデノシンへの代謝経路におけるその役割のために、最も保存された酵素のうちの1つである。CD73及びCD39は、両方とも分解に関与しているが、CD73は、この代謝に対する速度制限酵素である[6]。
【0004】
ウイルス攻撃の急性期の間、炎症は疾患プロセスの一部であり、治癒を可能にする。ウイルス感染細胞は、インターフェロンを産生し始めるが、近くの細胞にウイルスプロセスの注意を促すためにシグナル伝達分子を送る[5]。ATPは、そのようなシグナル伝達分子であり、炎症におけるその役割は、文献で十分に確立されており、ウイルス攻撃中にストレス細胞から放出され、それぞれ隣接する細胞及び食細胞に対して「危険(danger)」シグナル及び「私を見つけて(find me)」シグナルの両方として機能する[7]。
【0005】
細胞外ATPは、下流の炎症誘発シグナル伝達を開始するための重要なメディエーターである。ATPがなければ、下流のIL-1、IL-6、IL-10及びTNFは産生されない[7]。細胞外空間にATPを放出する能力は、炎症のプロセスを開始するためのプリン作動性シグナル伝達のために重要であり、ATPが放出されるための複数の経路が存在する。損傷及び感染の部位に炎症細胞を動員する必要があるが、シグナル伝達経路がエスカレートし、ATPがクリアランスされないと有害作用が生じる可能性がある[8]。ストレス細胞又は死にかけている細胞からのIFNの放出は、それらの受容体であるIFNARに結合し、細胞外ATPをアデノシンに分解し始めることができる内皮層上の保護CD73の誘導を可能にする。アデノシンは、強力な抗炎症及び臓器保護剤である[6]。
【0006】
ストレスを引き起こした最初の攻撃が解決されない場合、全身性炎症反応症候群(SIRS)が発生する可能性がある。これは、感染症及び非感染性侵襲の両方から発生する。それらは、過剰な炎症性サイトカイン産生及びATPなどの有毒な内因性分子の放出を特徴とする[7]、[8]。これらの分子は、開始攻撃の原因物質を解決するために必要であるが、これらの分子は、徐々により多くの損傷を引き起こし、多臓器機能障害症候群(MODS)に至り、サイトカインが適時に対処されない場合、患者は死亡する[8]。
【0007】
数十年にわたって、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)(以前は急性肺損傷(ALI)として知られていた)及び敗血症などのSIRSに関連する疾患の臨床管理において、グルココルチコイドは、物議を醸す結果をもたらしており、それらの使用は、依然として議論が続いている[9]。ARDSにつながるCOVID-19疾患を引き起こす現在のSARS-CoV2ウイルスパンデミックは、我々に、重度のウイルス性呼吸器感染症におけるグルココルチコイドの初期使用は有害であるが、過度の炎症及び低酸素化が広がるその疾患の後期においては、グルココルチコイドが有益であるということを再び示している[3]。グルココルチコイドは、SIRSにおけるサイトカインストームを抑制するために使用され、死亡率に有効性をもたらすために一部の患者で使用されてきた。しかしながら、I型IFNも、COVID-19、MERS、及びARDSの実行可能な治療法として検討されている[10]。しかし、ARDS及び他の緊急症状において一緒に与えられた場合、IFN及びグルココルチコイドの組み合わせは、有害であるとまさに示されている[2、10]。
【発明の概要】
【0008】
前臨床研究及びCOVID-19の主要な進行中の治験を含む複数の臨床治験において、また臓器保護のためのCD73を誘導しようとするインターフェロンベータ(IFNベータ)の使用について行われている臨床治験において、これらの治験には、ARDSの2つの治験(ClinicalTrials.gov;NCT00789685及びNCT02622724)及び緊急大動脈手術後の多臓器機能障害症候群(MODS)の予防のための治験(ClinicalTrials.gov;NCT03119701)が含まれ、SIRSに至った疾患の初期のグルココルチコイドの投与が患者の死亡率を増加させることが示されている。特に、グルココルチコイド剤と、全身性炎症反応症候群(SIRS)、内皮機能障害及び毛細血管漏出を特徴とする疾患の治療のためのCD73転写の誘導のための、I型インターフェロン受容体IFNARを作動化することができる薬剤との同時投与により、CD73の誘導を遮断することによって死亡率の増加が示されたことが見出されている[2]。INTEREST治験(ClinicalTrials.gov;NCT02622724)において、ARDSの治療のための静脈内IFNベータの使用を調査したところ、以前に報告されたように、IFNベータとともにグルココルチコイドなどのステロイドを投与されなかった患者と比較して、IFNベータとともにグルココルチコイドを投与された患者において、28日の死亡率が有意であった[2]。しかしながら、IFNベータ治療後にグルココルチコイドを使用した場合、その死亡率は有意に低かったことが分かった。グルココルチコイドの使用は全体として不良な生存と関連付けられたにもかかわらず、28日死亡率は、最初にIFNベータ、そして次いでグルココルチコイドを投与された患者では増加しなかった。
【0009】
したがって、ATPのアデノシンへの転換のためのI型インターフェロンなどのCD73を上方調節することができる薬剤、及びグルココルチコイドの両方を、緊急及び全身性炎症反応の状態における最良の患者利益のために順次に使用する必要があることが、今回分かった。これは、両治療薬の狭い治療ウィンドウ内での投与の必要性を強調し、内臓及び血管系を保護するための内因性インターフェロン及びコルチゾール反応の自然の経路への洞察を提供する。
【0010】
本発明によるこれらの一般的な治療薬の順序付け(sequencing)は、死亡率、機械的換気の必要性及び集中治療室への入室を含む、先行技術で見られる現在の問題に取り組むことができる新規な治療レジメを提供する。
【0011】
したがって、本発明の目的は、全身性炎症反応症候群(SIRS)を誘導し、多臓器機能障害症候群(MODS)による死亡を引き起こす任意の適応症に好適な救急医療状況のための新規治療戦略を提供することである。
【0012】
とりわけ上記の目的を達成するために、本発明は、同封の独立請求項に提示されるものによって特徴付けられる。本発明のいくつかの好ましい実施形態は、他の請求項に記載される。
【0013】
本明細書で言及される実施形態及び利点は、該当する場合、当該薬剤の順序、方法、及び本発明に係る使用の両方に関連するが、必ずしも具体的に言及されているとは限らない。
【0014】
本発明は、治療有効量の、
(a)個体におけるCD73を上方調節することができる薬剤と、
(b)グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤と
の組み合わせであって、
個体において、最初に臓器保護エレメントを誘導し、次いで過剰な炎症を抑制するために順次に使用するための組み合わせに関する。
【0015】
本発明において、グルココルチコイドは、個体における臓器保護(CD73誘導)を遮断するが、I型インターフェロンの抗ウイルス効果(MxA)は遮断しないことが観察されている。したがって、適切な臓器保護効果を誘導するために、I型インターフェロン及び/又はインターフェロン受容体(IFNAR)作動薬などのCD73を上方調節することができる薬剤を最初に与える必要があり、この誘導が起こった後にのみ、グルココルチコイドを抗炎症剤として投与することができる。これは、I型インターフェロンが抗ウイルス薬とみなされ、グルココルチコイドがI型IFNのMxAなどの測定可能な抗ウイルス効果に影響を及ぼさないため、以前は理解されていなかった。現在、グルココルチコイドは、I型インターフェロンの抗ウイルス特性を妨害しないが、I型インターフェロンの臓器保護効果を著しく干渉することが示されている。
【0016】
本発明は、SIRS及びMODSにつながる緊急状態を有する患者のための、ATPのアデノシンへの転換のためにCD73を上方調節することができる薬剤、並びにグルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体作動薬の順次治療方法を提供する。したがって、本発明の一態様によれば、個体においてCD73を上方調節することができる薬剤は、全身性炎症反応症候群(SIRS)及び/又は多臓器機能障害症候群(MODS)の予防及び/又は治療の方法において、グルココルチコイドと組み合わせて使用され、CD73を上方調節することができる薬剤、並びにグルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤は、順次に投与されることを特徴とし、CD73を上方調節することができる薬剤は、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の前に投与される。
【0017】
本発明は、個体において、SIRSの発症を予防する、及び/又はSIRSを治療する、及び/又はMODSに至ることを予防するための方法であって、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤での順次治療において、治療有効量のCD73を上方調節することができる薬剤を個体に投与することを含み、CD73を上方調節することができる薬剤は、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の前に投与される、方法を提供する。本発明の好ましい実施形態によれば、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の投与は、CD73の誘導が達成された後に開始される。好ましい実施形態では、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤は、CD73の誘導が達成される前に投与されるべきではなく、一旦CD73の誘導が達成されると、CD73を上方調節することができる薬剤による治療を終了するべきである。本発明の好ましい実施形態によれば、CD73を上方調節することができる薬剤は、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤と同時に投与されない。
【0018】
グルココルチコイドとの順次治療におけるCD73に上方調節することができる薬剤との組み合わせは、一緒に使用される治療と比較して、低い死亡率と関連することが示されている。本発明によれば、CD73に上方調節することができる薬剤は、SIRSを防止するように疾患の急性期に投与されて、CD73の上方調節を通じて臓器を保護し、疾患の慢性期にグルココルチコイドでの順次治療が行われるべきである。
【0019】
本発明は、疾患及び/又は状態の治療、並びにSIRS及びMODSにつながる可能性のある緊急の医学的状態に利用することができる。本発明は、SIRSにつながり得るあらゆる形態の疾患に適用可能な治療方法である。SIRSは、感染症の攻撃及び非感染性侵襲の両方によって引き起こされ得る。感染症の攻撃の例には、SARS-CoV2及びインフルエンザなどのウイルスが含まれ得るが、全ての微生物がSIRSを引き起こす可能性がある。非感染性侵襲は、外傷、火傷、手術又は虚血-再灌流傷害である可能性がある。このリストは網羅的ではないが、本発明は、SIRSにつながる可能性のあるあらゆる侵襲を包含する。SIRSは、典型的には、過剰な炎症性サイトカイン産生及びATPなどの有毒な内因性分子の放出を特徴とする。SIRSは、血管機能障害、毛細血管漏出、及び血栓症につながる可能性があり、生命を脅かす多臓器機能障害症候群(MODS)につながる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下の図は、緊急大動脈手術を生き残った、MODSにつながるSIRS及び死亡の予防のために、静脈内インターフェロンベータで治療された患者におけるCD73(臓器保護)及びMxA(抗ウイルス)反応を示す(ClinicalTrials.gov;NCT03119701)。より詳細には以下のとおりである。
【0021】
【
図1】グルココルチコイドなどのステロイドの同時投与の有無にかかわらず、全ての患者において観察されるMxA(ミクソウイルス抵抗性タンパク質A)の上方調節があることを示す。MxAは、IFNベータ薬物活性の古典的な薬力学的マーカーであるが、抗ウイルス活性のみを測定する。
【
図2】インターフェロンベータ(IFNベータ-1a)を、グルココルチコイドなどのステロイドと一緒に使用する場合、CD73の上方調節がないことを示す。
【
図3】生存にはCD73反応が必要であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、「CD73を上方調節することができる薬剤」という用語は、ATPのアデノシンへの変換を達成することができる、任意の好適な薬剤を指す。局所アデノシンを産生することができる内皮外酵素であるCD73は、内皮バリア及び肺機能を維持するための重要な分子である。局所アデノシンの増加には、CD73発現の上方調節が必要である。I型インターフェロンは、CD73の発現を増加させ、局所アデノシンの増加をもたらすことが知られている。多くの炎症状態は、炎症/損傷した内皮細胞の表面からのCD73の喪失をもたらすことが知られており、したがって、炎症性ATPの抗炎症性アデノシンへの有効なクリアランスを低減する。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、CD73を上方調節することができる薬剤は、I型インターフェロン及び/若しくはその断片、並びに/又はCD73を上方調節することができる抗体及び/若しくはその断片、ペプチド又は巨大分子、並びにそれらの任意の組み合わせを含む。本発明の一実施形態によれば、CD73を上方調節することができる薬剤は、CD73を誘導する受容体IFNARに結合する任意の抗体及び/若しくはその断片、ペプチド並びに/又は巨大分子であり得る。抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体若しくはモノクローナル抗体、又はその任意の断片若しくは任意の分子であり得る。本発明の別の実施形態によれば、CD73を上方調節することができる薬剤は、循環中のアデノシンへのATPのクリアランスを上方調節することができる任意の他の薬理学的薬剤であってもよい。本発明の一実施形態では、CD73を上方調節することができる薬剤及び/又はアデノシンへのATPのクリアランスが可能である薬剤は、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤との順次治療において使用される。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、CD73を上方調節することができる薬剤は、外因性I型インターフェロン又は同様の効果を誘導することができる薬剤を含む。本発明によれば、外因性I型インターフェロンは、インターフェロンベータ、インターフェロンアルファ及び/又はそれらの任意の亜型を含む。本発明の一実施形態では、CD73を上方調節することができる薬剤は、インターフェロンベータを含む。本発明の一実施形態によれば、外因性I型インターフェロンは、インターフェロンベータ-1a及び/又はインターフェロンベータ-1bであり得る。本発明による一実施形態では、I型インターフェロンは、インターフェロンベータ-1aを含む。本発明によれば、I型インターフェロンは、必要な治療に基づいて選択される。本発明による例示的な実施形態では、I型インターフェロンは、任意の現在の開発資産、例えば、インターフェロンベータ-1aを含むRebif(Merck and Co)、インターフェロンベータ-1aを含むAvonex(Biogen)、インターフェロンベータ-1bを含むBetaseron(Bayer)及びインターフェロンベータ-1aを含むTraumakine(Faron Pharmaceuticals Oy)、又はそれらの任意の組み合わせを選択することができる。これらのI型IFN医薬品は、現在開示されている及び既知の開発I型IFN作動薬の例に過ぎず、本発明は、これらに限定されない。
【0025】
本発明において、グルココルチコイドは、グルココルチコイド受容体(NR3C1)に結合することができる薬剤を指す。本発明による一実施形態では、グルココルチコイドは、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン及び/又はデキサメタゾンを含む。本発明の一実施形態によれば、グルココルチコイド受容体を作動化することができる任意の薬剤(グルココルチコイド受容体作動薬)は、I型インターフェロンなどのCD73を上方調節することができる薬剤と順次に投与することができる。このリストは、全ての利用可能なグルココルチコイドの網羅的なリストではなく、本発明は、このクラスの薬物における現在の開発中及び市販の薬剤のうちのいずれをも具体化することができる。
【0026】
本発明によれば、CD73に上方調節することができる薬剤、並びにグルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤は、順次に投与され、CD73に上方調節することができる薬剤は、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の前に投与される。本発明の一実施形態によれば、CD73を上方調節することができる薬剤は、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の前に少なくとも3日間投与され、典型的には、CD73を上方調節することができる薬剤は、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の投与を開始する前に3~7日間投与される。CD73の誘導は、典型的には、I型インターフェロンなどのCD73を上方調節することができる薬剤の最初の投与の3日後に達成されたことが観察されている。本発明による一実施形態では、I型インターフェロンなどのCD73を上方調節することができる薬剤は、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の投与を開始する前に少なくとも3連続日、典型的には3~7連続日で投与される。例示的な実施形態では、I型インターフェロンなどのCD73を上方調節することができる薬剤は、1日1回投与される。本発明の例示的な実施形態では、CD73に上方調節することができる薬剤が、最初に最大3~7連続日にわたって投与され、続いてグルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤が、治療期間の残りの期間にわたって投与される。本発明によれば、CD73を上方調節することができる薬剤は、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤と同時に投与されない。CD73を上方調節することができる薬剤の投与は、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の投与の開始前に終了する。
【0027】
本発明の一実施形態では、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化することができる薬剤の投与は、CD73の誘導が達成された後に開始される。言い換えれば、患者は、最初にCD73を誘導することができる薬剤単独で治療されなければならず、所望の治療反応を通知した後、CD73薬剤を誘導することができる薬剤なしで、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化する薬剤を単独で投与することによる治療が開始される。
【0028】
CD73に上方調節することができる薬剤、並びにグルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化する薬剤は、治療有効量で投与され、これは、所望の治療結果をもたらすのに十分な本発明による薬剤の任意の量を含むことを意味する。選択された用量は、CD73を誘導することができる薬剤の場合、CD73の誘導に十分でなければならず、グルココルチコイド及び/又は作動化する薬剤は、サイトカインストームを抑制すべきである。
【0029】
本発明では、CD73に上方調節することができる薬剤、並びにグルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化する薬剤は、当業者に既知の様々な方法及び送達系のうちのいずれかを使用して投与され得る。本発明で使用される薬剤は、それらの意図した目的を達成する任意の手段によって投与され得る。例えば、投与は、例えば、注射による静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下又は他の非経口投与経路であってもよく、例えば、挿管又はネブライザーを介した吸入を含んでもよい。薬理学的活性化合物に加えて、当該薬剤の薬学的製剤は、好ましくは、活性薬剤の薬学的に使用することのできる製剤への加工を容易にする賦形剤及び補助剤を含む、好適な薬学的に許容される担体を含有する。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、CD73を上方調節することができる薬剤は、静脈内投与される。例示的な実施形態では、インターフェロンベータ-1aなどのI型インターフェロンが静脈内投与される。インターフェロンベータ-1aなどの静脈内投与されたインターフェロンは、循環中及びその受容体IFNARによって取り込まれる内皮上の薬物の生物学的利用能を最大化する。筋肉内又は皮下投与によるI型IFN血清濃度は、内皮上のCD73のタンパク質転写を誘導するのに十分なレベルに達していない。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、SIRSの発症を予防する方法、及び/又はMODSにつながるSIRSを治療する方法は、治療有効量の、
(a)CD73に上方調節することができる薬剤と、
(b)グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化する薬剤と、
を個体に順次に投与して、最初に臓器保護エレメントを誘導し、次いで過剰な炎症を抑制することを含む。
【0032】
本発明の一実施形態では、SIRS及びMODSの予防及び/又は治療のための方法は、
-CD73に上方調節することができる治療有効量の薬剤を投与することと、
-CD73の上方調節をモニタリングすることと、
-CD73の誘導が達成された後、治療有効量のグルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化する薬剤を投与することと、
を含む。
【0033】
本発明の好ましい実施形態によれば、グルココルチコイド投与は、CD73の誘導が達成された後に開始され、したがって、CD73に上方調節することができる薬剤の投与は終了している。CD73の上方調節は、患者からのCD73レベルを測定し、測定値を、IFN治療などのCD73に対して上方調節することができる薬剤の投与を開始する前に当該患者から測定された値、及び/又は当該治療中の前の測定値と比較することによって監視することができる。好ましい実施形態では、グルココルチコイドは、CD73の誘導が達成される前に投与されるべきではなく、一旦CD73の誘導が達成されると、CD73を上方調節することができる薬剤による治療を終了するべきである。本発明の好ましい実施形態によれば、CD73を上方調節することができる薬剤及びグルココルチコイドは、同時に投与されない。
【0034】
本発明による治療方法では、グルココルチコイドに加えて、任意の他の抗サイトカイン阻害剤を使用してもよい。
【0035】
本発明によれば、治療有効量の、CD73を上方調節することができる薬剤の投与、続いてCD73の誘導が達成された後に、治療有効量の、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体を作動化する薬剤の投与を、任意の疾患及び/又は状態の治療、並びにSIRS、ARDS及びMODSにつながる緊急の医学的状態に使用することができる。「治療」又は「治療すること」という用語は、疾患又は障害の予防、並びに当該疾患又は障害の緩和又は軽減を含むと理解されるものとする。患者がMODSに進行した場合、グルココルチコイド及び/又はグルココルチコイド受容体作動薬単独がより良い治療になる可能性が高く、IFNAR作動薬は、必要とされない可能性が高い。
【0036】
本発明は、SIRSにつながるあらゆる形態の疾患及び/又は状態に適用可能な治療方法である。全身性炎症反応症候群につながる可能性のある緊急の医学的状態又は重大な疾患及び/若しくは状態は、感染症及び非感染性侵襲の両方の疾患を含む。感染性疾患には、ウイルス感染症及び細菌感染症の両方が含まれ得る。感染症の攻撃の例には、SARS-CoV2、インフルエンザ、EBOLA、MERS、SARS、トリインフルエンザ、ブタインフルエンザ及び他の重度のウイルス感染症などのウイルスが含まれ得るが、全ての微生物が、SIRSを引き起こす可能性もある。感染性疾患は、SIRS、ARDS及びMODSにつながるインフルエンザ又はコロナウイルス感染症であり得るが、他の重度の生命を脅かすウイルス感染症でもあり得る。炎症につながる非感染性侵襲は、外傷、火傷、手術及び虚血性再灌流傷害を含む。これらは、疾患の例であるが、これらに限定されない。本発明は、SIRSにつながり得る任意の侵襲を包含する。SIRSは、過剰な炎症性サイトカイン産生及びATPなどの有毒な内因性分子の放出を特徴とする。SIRSは、血管機能障害、毛細血管漏出、及び血栓症につながる可能性があり、生命を脅かす多臓器機能障害症候群(MODS)につながる。したがって、本発明は、敗血症、重度の急性ウイルス感染症を患うヒト、虚血再灌流傷害につながる主要な心血管手術を受けているヒト、並びに急性腎障害(AKI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)及び/又は多臓器不全(MOF)と呼ばれる疾患状態を有するヒトにおける血管内皮疾患の予防及び/又は治療に使用することができる。本発明は、多発性硬化症MSの治療にも好適であり得る。更に、本発明による順次治療は、有毛細胞白血病、悪性黒色腫、濾胞性リンパ腫、尖圭コンジローマ、AIDS関連カポジ肉腫、慢性C型肝炎、急性C型肝炎、及び慢性B型肝炎を含むヒトにおける悪性疾患の予防及び/又は治療に使用することができる。
【0037】
本発明の治療方法はまた、血管若しくは心臓手術、臓器移植、脳卒中、心筋梗塞若しくは急性冠状動脈症候群に起因する虚血再灌流損傷の予防及び/若しくは治療における使用、又は主要な血管若しくは心臓手術及び臓器移植の前の虚血プレコンディショニングにおける使用にも適している。加えて、本発明は、心筋梗塞及び脳卒中における虚血-再灌流傷害の予防及び/又は治療における使用に適している。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、当該順次併用治療は、感染性疾患、慢性感染症、重度のウイルス若しくは細菌感染症、重度の細菌性肺炎、敗血症及び外傷性状態からなる群から選択される全身性炎症反応症候群(SIRS)につながる疾患及び/又は状態の治療及び/又は予防に使用することができる。本発明によれば、SIRSに関連する疾患又は状態はまた、急性呼吸困難症候群(ARDS)及び急性肺損傷(ALI)を含む。
【0039】
本発明の実施形態によれば、本発明の治療を必要とするか、又は本発明の治療から受益する疾患又は障害は、血管-内皮疾患、急性呼吸困難症候群(ARDS)又は他の外傷性状態、虚血-再灌流傷害、主要な血管又は心臓手術及び臓器移植の前の虚血プレコンディショニング、急性膵炎、急性腎損傷、多臓器不全(MOF)、重度の呼吸器又は出血性ウイルス感染症、及び多発性硬化症(MS)から選択され得る。
【0040】
SIRSの予防又は治療における本発明による順次治療は、内皮炎症、内皮機能障害、毛細血管漏出及び微小血管血栓症の低減を特徴とする。
【0041】
一態様によれば、本発明は、標準レジメの抗ウイルス薬に反応しない、及び/又はこれらの抗ウイルス阻害剤に限られた反応性のみを示す感染性侵襲に有用であり得る。
【0042】
実験
緊急大動脈手術後のMODSの予防のための臨床試験において(ClinicalTrials.gov;NCT03119701:RAAA(INFORAAA)のための開腹手術後の患者の多臓器不全の予防におけるFP-1201-lyo(インターフェロンベータ-1a)の有効性と安全性)、10μgのインターフェロンベータ-1a又はプラセボが、グルココルチコイドなどのステロイドの有無にかかわらず、24時間ごとに最大6日間患者に静脈内投与された。FP-1201-lyo(Traumakine,Faron Pharmaceuticals Oy)は、活性成分としてインターフェロンベータ-1aを含む。
【0043】
図1及び2は、各患者の個々のプロットとして提示された治験中のMxA(ミクソウイルス抵抗性タンパク質A)及びCD73の上方調節を示す。CD73反応/誘導は、3連続日のIFNベータ-1a投与後にしばしば観察され、時にはより長い投与が必要であった。
図3は、生存にCD73応答が必要であることを示す。
図3には、プラセボで治療した患者も含まれる。
【0044】
図1及び2から、グルココルチコイドは、静脈内IFNベータで治療された患者における臓器保護特性(CD73)と同じ程度には、IFNベータの抗ウイルス特性(MxA)を遮断しないと結論付けることができる。
図2は、グルココルチコイドが臓器保護(CD73)を遮断することを示すが、
図1から、I型IFNの抗ウイルス効果(MxA)が遮断されていないことが分かる。したがって、I型IFN又はインターフェロン受容体(IFNAR)作動薬は、適切な臓器保護効果を誘導するために最初に与えられる必要があり、この誘導が起こった後にのみ、グルココルチコイドを抗炎症剤として投与することができる。
【0045】
【国際調査報告】