(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】わずかな周波数差を測定するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
H03L 7/00 20060101AFI20240130BHJP
H03L 7/06 20060101ALI20240130BHJP
H03L 7/26 20060101ALI20240130BHJP
G04G 7/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
H03L7/00 210
H03L7/06 230
H03L7/26
G04G7/00 301
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546169
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(85)【翻訳文提出日】2023-09-19
(86)【国際出願番号】 US2021072442
(87)【国際公開番号】W WO2022164579
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523287182
【氏名又は名称】シーカー エンジニアリング, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】スミス, ジョン エリック
【テーマコード(参考)】
2F002
5J106
【Fターム(参考)】
2F002AF01
2F002GA06
5J106BB01
5J106CC07
5J106CC19
5J106CC25
5J106CC31
5J106CC38
5J106DD12
5J106DD36
5J106GG02
5J106HH01
5J106JJ01
5J106JJ03
5J106KK03
5J106KK05
5J106KK32
5J106KK35
(57)【要約】
本開示は、2つの信号間のわずかな周波数差を迅速かつ高精度で測定するためのシステムおよび方法を対象とする。特定の例では、衛星上の2つのクロック信号間のオフセットが、位置、ナビゲーション、および追跡(PNT)、および衛星通信用途において有用な迅速なクロック同期を可能にする期間において正確に決定されることができる。システムおよび方法は、協調衛星または他の衛星搭載および高高度アセットの集団においても実装され得、複数のそのようなアセットは、正確に時間同期させられ、より正確なアンサンブル平均計算が、双方向時間転送(TWTT)プロトコルを使用して可能にされる。本開示される特定の用途は、原子クロック信号と同調可能クロック信号との間の非常にわずかな周波数差の測定および補正である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙ベースの電子システムにおいてクロックを同期させる方法であって、前記方法は、
第1のクロック源によって、第1の周波数を有する第1のクロック信号を提供することと、
第2のクロック源によって、同調信号に基づいて変動させられることが可能である第2の周波数を有する第2のクロック信号を提供することと、
アナログ/デジタルコンバータ(ADC)によって、前記第1のクロック信号をデジタルの第1のクロック信号に変換することであって、前記ADCは、サンプリング周波数でサンプリングされる、ことと、
実/IQ(R2IQ)スイッチによって、前記デジタルの第1のクロック信号を同相(I)成分および直交(Q)成分に変換することであって、前記R2IQスイッチは、前記サンプリング周波数においてクロックされる、ことと、
前記R2IQスイッチによって、前記第1のクロック信号の前記同相(I)成分および前記直交(Q)成分を復調し、周波数差信号を発生させることと、
位相検出回路によって、前記周波数差信号の位相を抽出することと、
周波数推定器回路によって、前記周波数差信号の前記位相の傾きに基づいて、前記第1の周波数と前記第2の周波数との間の周波数オフセットを推定することと、
周波数同調回路によって、前記周波数オフセットに基づいて、同調信号を設定し、前記同調信号によって前記第2の周波数を調節し、補正された第2のクロック信号を発生させることと
を含む、方法。
【請求項2】
前記同調信号は、前記周波数オフセットに基づき、前記同調信号によって前記第2の周波数を調節することは、前記第1の周波数に実質的に等しいように前記第2の周波数を修正する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプリング周波数は、前記第2のクロック信号の前記第2の周波数に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプリング周波数は、前記第2の周波数のナイキスト周波数の倍数Nであり、Nは、1.1~5の値である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記サンプリング周波数は、前記第2の周波数の4倍である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記周波数オフセットに基づく寄与をアンサンブル平均化回路に提供することと、
前記アンサンブル平均化回路を用いて、前記寄与に基づいて、2つ以上の電子システムの平均時間信号を計算することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アンサンブル平均化回路は、前記宇宙ベースの電子システム上に提供されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アンサンブル平均化回路は、第2の宇宙ベースの電子システム上に提供され、前記寄与は、伝送アンテナによって、前記第2の宇宙ベースの電子システムに伝送される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記寄与は、前記周波数オフセットの分数である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記寄与の大きさは、可変である、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
双方向時間転送回路によって、前記補正された第2のクロック信号または前記周波数オフセットに基づく寄与を前記アンサンブル平均化回路に提供することと、
前記アンサンブル平均化回路によって、2つ以上の宇宙ベースの電子システムの前記平均時間信号を計算することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記R2IQスイッチは、1:2デマルチプレクサと、タイミング回路と、符号反転論理とを備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記R2IQスイッチを用いて、前記第1の周波数のサンプルをI、Q、-I、-Qパターンにおいて変換することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記R2IQスイッチを用いて、
前記第1の周波数の第1のサンプルを同相(I)成分に変換することと、
前記第1の周波数の第2のサンプルを直交(Q)成分に変換することと、
前記第1の周波数の第3のサンプルを反転同相成分(-I)に変換することと、
前記第1の周波数の第4のサンプルを反転直交(-Q)成分に変換することと
をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記R2IQスイッチを用いて、
前記第1の周波数の第5のサンプルを同相(I)成分に変換することと、
前記第1の周波数の第6のサンプルを直交(Q)成分に変換することと、
前記第1の周波数の第7のサンプルを反転同相成分(-I)に変換することと、
前記第1の周波数の第8のサンプルを反転直交(-Q)成分に変換することと
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1のクロック源は、原子クロック源であり、前記第2のクロック源は、同調可能クロック源である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のクロック源は、チップスケール原子時計(CSAC)クロック源であり、前記第2のクロック源は、規則的水晶発振器(DO)および恒温槽型水晶発振器(OCXO)のうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
プロセッサと、メモリと、前記メモリ内に記憶されたプログラムとを備えている衛星ペイロードであって、前記プログラムは、前記プロセッサによって実行され、請求項1に記載の方法を実施するように構成されている、衛星ペイロード。
【請求項19】
衛星の集団においてクロックを同期させるための宇宙ベースのシステムであって、前記システムは、
1つ以上の衛星であって、各衛星は、
少なくとも1つの伝送アンテナおよび少なくとも1つの受信アンテナと、
ペイロードプロセッサと、
第1の周波数で第1のクロック信号を提供する第1のクロック信号源と、
第2の周波数で第2のクロック信号を提供する第2のクロック信号源であって、前記第2のクロック信号は、同調信号に基づいて修正されることが可能である、第2のクロック信号源と、
前記第1の周波数と前記第2の周波数との間の周波数差を決定するように構成された周波数差検出(FDD)回路と
を備え、
前記周波数差検出回路は、
前記第2の周波数に基づくサンプリング率において動作するために構成され、周波数差信号を出力するように構成された実/IQ(R2IQ)スイッチと、
周波数差信号位相を抽出するための位相検出回路と、
前記周波数差信号位相の傾きを検出するための傾き推定回路と
を備え、
前記周波数差信号位相の前記傾きは、前記第1の周波数と前記第2の周波数との間の前記周波数オフセットであり、
周波数同調回路が、前記FDD回路によって決定された前記周波数差に基づいて、前記同調信号を調節するように構成され、前記同調信号によって前記第2のクロック信号を調節するようにさらに構成されている、1つ以上の衛星と、
前記1つ以上の衛星上に提供されたアンサンブルクロック計算回路と
を備え、
前記アンサンブルクロック計算回路は、前記1つ以上の衛星のうちの別のものから、前記周波数オフセットに基づく寄与または前記周波数オフセットに基づくタイムスタンプを受信し、前記寄与に基づいて、前記衛星の集団に関するアンサンブルクロック平均を発生させるように構成されている、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる2021年1月28日に出願された米国仮出願第63/142,932号の優先権の利益を主張する。
【0002】
(技術分野)
本明細書に説明される技術は、衛星上の2つのクロック信号等の2つの信号間の周波数差を測定するためのシステムおよび方法に関する。特に、開示されるシステムおよび方法は、原子クロック信号と同調可能クロック信号との間の非常にわずかな周波数差を決定し、クロックを局所的に適切に同期させ、衛星の集団におけるより正確なアンサンブルクロック平均を可能にするために使用され得る。
【背景技術】
【0003】
衛星処理システムが、速度および複雑性において増加するにつれて、および衛星の協調集団が、サイズおよび数において増加し続けるにつれて、局所および集団レベルでの正確なクロック信号の必要性が、ますます重要になる。衛星および衛星の集団における多くの機能は、精密な時間の知識に依拠する。例えば、位置、ナビゲーション、およびタイミング(PNT)用途は、各衛星上で局所的に、および衛星の群に関するアンサンブル平均クロックへの寄与としての両方で、複数のクロックの精密な同期を要求する。別の例は、感知用途において、特に、精密な到着時間(ToA)の知識が性能に直接影響する2つの(または、それを上回る)衛星を伴う感知用途において、生じる。1,000kmの高度における同一平面において5,000km離れた2つの衛星が標的の位置を検出するために使用される概念的であるが現実的なシナリオを検討する。この例に関して、標的は、問題を簡略化するために、海面レベルに位置する。2衛星の事例では、2つの衛星上のクロックの間に10ナノ秒(10E-9秒)の相対クロック誤差が存在する場合、約2.3メートルの変位誤差が、結果として生じるであろう。他方、2つのクロックが厳密に同じ時間を有する(すなわち、2つの衛星間の相対クロック誤差が、0ナノ秒である)が、絶対時間(地上ベースのマスタクロック基準によって定義されるもの等)に対して1,000ナノ秒だけオフセットされていた場合、結果として生じる変位誤差は、約7mm(7E-3メートル)であろう。したがって、マスタクロックに対する2つの衛星の絶対誤差と比較して、衛星間の非常にわずかな相対時間誤差の影響は、30,000倍以上大きく、局所および衛星間での精密な時間同期の重要性を強調する。さらに、集団における衛星を同期させるための方法としてのGNSSの使用がスプーフィングおよびそれらの正確度を劣化させる他の手段に対して脆弱であり、したがって、ある用途(例えば、国家安全保障、軍事、および他の実装)に関して、GNSSが信頼性のある時間源であると見なされないことに留意されたい。下記に詳細に説明される本開示は、宇宙ベースおよび高高度システムにおける精密な時間同期を確実にすることを対象とするが、複数のコンポーネントの間の高精度な同期に依拠する陸上システムにおける用途も有する。
【0004】
本明細書に引用される任意の参考文献およびその任意の説明または議論を含む本明細書のこの背景技術の節に含まれる情報は、技術的参照目的のために含まれ、請求項に定義されるような本発明の範囲が拘束されるべき主題と見なされるべきではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の実施形態は、下記に議論される既存の技術の欠点に対処するために開発された。例えば、ヘテロダインミキサの使用等の既存の解決策は、高周波数クロック信号間のわずかな周波数差を推定するために、かなりの期間を要求する。長い推定時間は、高精度位置、ナビゲーション、およびタイミング(PNT)用途、自律的動作、サイバー/伝送セキュリティ、および帰還性における使用に対して周波数差推定値を古いものにし、したがって、位置を決定することにおいて大きな不正確さをもたらし得る。サンプリング時間がそのようなシステムにおいて減らされる場合、高い相対誤差は、ヘテロダインベースの推定値を信頼できないものにする。
【0006】
この欠陥を改善するために、本開示の実施形態は、6秒より短いサンプリング時間にわたって数十メガヘルツ(1E+6Hz)において動作するクロック間の1ミリヘルツ(1E-3Hz)より低い周波数差を確実に決定することが可能である。この短いサンプリング時間は、同期動作を高精度位置、ナビゲーション、およびタイミング等の用途における使用のために好適にする。
【0007】
原子時計源、例えば、限定ではないが、チップスケール原子時計(CSAC)は、長い期間にわたって安定するクロック信号を提供し、PNT、帰還性、特殊化科学プロジェクト、および自律的動作等の特殊化宇宙用途のためにそれらを好ましくする。例示的CSACは、約数千秒の間隔にわたって生じる最小アラン偏差を有する。局所同調可能クロック、例えば、限定ではないが、恒温槽型水晶発振器(OCXO)等の規則的水晶発振器(DO)が、衛星処理システムおよび協調衛星の集団を同期させるための基準クロックとして提供される。DOの最小アラン偏差は、典型的に、数十秒に及ぶ間隔にわたって生じ、その後、クロックドリフトが、クロック安定性を支配し始める。DOは、長期的に安定した基準としてCSACを使用して、集団に関するアンサンブル平均に向かって誘導される。
【0008】
本開示の実施形態は、復調基準としてDO出力(SDO)を使用して、CSAC出力(SCSAC)の直交復調を実施する。いくつかの実施形態では、位相ロックループ(PLL)に結合された別個の発振器が、アナログ/デジタルコンバータ(ADC)を基準信号に同期させる。デジタル化CSACおよびDO信号の実/IQ変換が、同相および直交信号を発生させるために実施される。本開示のシステムおよび方法は、次いで、複素数値入力の間の複素乗算を(物理デバイスまたは仮想均等物を使用して)実施し、その周波数がSCSAC信号とSDO信号との間の差である複素数値信号をもたらす。
【0009】
本開示の他の実施形態は、別個の発振器および位相ロックループを排除し、DOに関連付けられるADCを排除し、ADCおよび実/IQコンバータクロックとしてSDOを使用し、物理的複素数値ミキサを排除するように設計される。いくつかの実施形態では、「仮想」ミキサが、R2IQコンバータ(CSAC信号を同相および直交成分に変換することに関与する)をDO周波数の倍数においてクロックし、I/Q切り替えおよび反転のタイミングを合わせることによって確立される。これは、高正確度でCSAC信号とDO信号との間の周波数オフセットを計算する結果を達成するが、また、SWaP-C(サイズ、重量、電力、および費用)、設計、および加工の観点から実装を簡略化する。
【0010】
本発明の概要は、詳細な説明において下記にさらに説明される簡略化形態における一連の概念を導入するために提供される。本発明の概要は、請求される主題の範囲を限定するために使用されることを意図していない。本発明の実施形態の特徴、詳細、有用性、および利点のより広範な提示が、以下の記載された説明に提供され、付随の図面に図示される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示のシステムに関する例示的ペイロードブロック図を描写する。
【0012】
【
図2】
図2は、本開示の方法を利用する例示的システムを図示する。
【0013】
【
図3】
図3は、本開示の例の機能ブロック図である。
【0014】
【
図4】
図4は、本開示の別の例の機能ブロック図である。
【0015】
【
図5】
図5は、
図3および4のシステムの例示的回路ブロック図を図示する。
【0016】
【
図6】
図6Aおよび6Bは、本開示による信号処理の出力信号プロットを図示する。
【0017】
【
図7】
図7Aおよび7Bは、集団内の複合集団時間(
図7A)および各局所群(
図7B)に関する協調衛星の例示的集団上のクロックの間の結果として生じる時間オフセット誤差を図示する。
【0018】
【
図8】
図8は、従来技術のヘテロダインベースのアプローチを使用する真実対推定差周波数を比較する代表的結果を描写する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
いくつかの例では、本開示は、2つの信号間のわずかな周波数差を測定および補正することを対象とする。一例では、本開示は、2つの正弦波信号等の類似する信号間のわずかな周波数差を測定することを対象とする。好ましい使用が、衛星(または他の衛星搭載アセット)の集団上および/または集団間の2つ以上のクロックを同期させることに関して下記に提供される。衛星および衛星の集団の文脈において議論されるが、本開示は、デバイスの精密な同期が要求される2つの電気モータまたは他のシステムの間の制御信号またはフィードバック信号等の任意の2つの類似する入力または出力信号の同期を含むより広範な用途を有し得る。
【0020】
衛星は、局所クロックのための安定した基準を提供するために、宇宙に適した原子周波数標準(AFS)に準拠する原子時計等の長期的に安定したクロック源を装備し得、原子時計等の長期的に安定したクロック源は、従来の水晶発振器(XO)と比較してより低いドリフト率および放射線に対する固有の非感受性を有し得る。いくつかの例では、原子時計は、チップスケール原子時計(CSAC)である。他のタイプの発振器が、そのようなクロックのアラン偏差が同期させられている同調可能クロック源より実質的に低いと仮定して、CSACの代わりに使用され得る。いくつかの例では、CSACに関する典型的なアラン偏差は、10,000秒間隔にわたって約1E-11である一方、高品質DOのそれは、10秒で5E-13である。規則的水晶発振器(DO)のアラン偏差は、10,000秒で約3E-10まで急速に増加する。同調可能規則的水晶発振器が協調衛星の集団に関するアンサンブル平均に向かって局所衛星クロック基準が誘導されることを可能にするために提供され得る一方、CSACは、水晶発振器において自然に生じる時間ドリフトを打ち消すために、安定した基準を提供する。いくつかの例では、規則的水晶発振器は、恒温槽型水晶発振器(OCXO)であり得る。他の例では、LC発振器(例えば、クラップまたはコルピッツ発振器)、電圧制御発振器(VCO)、単一分布発振器、マスタ発振器群等の同調可能クロック源が、使用され得る。説明されるであろうように、アンサンブル平均計算(例えば、衛星集団アセット間のクロック)は、アンサンブル平均における不安定性が導入されないように、局所クロックオフセット(例えば、衛星または他の軌道上ペイロードコンポーネント内のオフセット)に関する検出および補正よりはるかに長くかかり得る。
【0021】
本開示の種々の実施形態は、直交復調アルゴリズムを実装し、CSACクロック信号とDOクロック信号との間のわずかな周波数差を決定し、この周波数差を使用し、衛星に局所的な同調可能DOクロック信号を補正する。計算された周波数差は、衛星の集団におけるアンサンブルクロック平均への寄与としても使用され得る。例えば、寄与は、決定された周波数差に基づいて、個々の衛星(例えば、衛星ペイロード100)上に提供されるアンサンブルクロック計算回路によって、双方向時間転送(TWTT)信号内に埋め込まれるタイムスタンプを用いて、または周波数差の類似する表現によって、発生させられ得る。いくつかの実施形態では、1ミリヘルツ(1mHzまたは0.001Hz)よりわずかな周波数差が、測定され、数十メガヘルツ(MHz)において動作する2つの信号間で補正されることができる。開示される直交復調動作は、複素数値信号に対して動作し、信号の位相を保全し、信号の位相は、例えば、2つの信号SDOおよびSCSACのうちのどちらがより高いまたはより低い周波数にあるかについての情報を提供する。したがって、既存の解決策とは対照的に、周波数差の計算は、追加の処理ステップの必要性なしで、同調可能クロックが調節されなければならない大きさおよび方向を知らせる。直交復調は、非常に正確な推定値(1%未満の真の周波数差と計算された周波数差との間の相対誤差)に達しながら、わずかな時間間隔(6秒以下)において周波数差を推定することが可能である。さらに、単一トーン正弦波等の2つの類似する信号の例では、この用途では、非常に非効率的であろう高速フーリエ変換(FFT)処理のいかなる必要性も、存在しない。例えば、±1Hzの差周波数範囲を仮定すると、長さにおいて約2,000個のサンプルに対するFFTが、要求されるであろう。FFTの必要性を除去することによって、複雑性およびサイズ、重量、および電力(SWaP)の考慮事項は、大幅に改良される。
【0022】
本開示の実施形態は、ここで、種々の図を参照して議論されるであろう。
【0023】
図1は、とりわけ、1つ以上のアナログ/デジタルコンバータ(ADC)102と、1つ以上のデジタル/アナログコンバータ(DAC)104と、1つ以上のデジタル信号処理パイプライン(DSP)110と、1つ以上のプロセッサ112と、チップスケール原子時計(CSAC)等の長期安定性を伴うクロック源114と、規則的水晶発振器(DO)等の同調可能クロック源116と、DO116とCSAC114との間の周波数差を決定するための周波数差検出器(FDD)118モジュールとを有する、簡略化された衛星100ペイロードを図示する。衛星ペイロード100は、衛星と地上との間で通信するために、および/または他の衛星100の集団内の衛星間で通信するために、伝送および受信アンテナ106、108(または光学送受信機)を有し得る。信号入力および出力(図示せず)、シリアライザおよびデシリアライザ(SerDes)(図示せず)、および他のコンポーネント相互接続(図示せず)が、従来の様式でペイロード100のコンポーネントを電気的に結合する。下記に議論されるように、衛星ペイロード100の1つ以上のコンポーネントは、放射線抵抗性であるように設計または製造され得る。いくつかの例では、これは、宇宙および高高度放射線環境においてより良好に機能する一連の特定の材料を含み得、および/または特定の半導体製造、処理、および処置ステップを含み得る。個々のコンポーネントは、放射線検出および軽減機能性を具備し得るか、または、放射線効果検出および軽減アルゴリズムが、衛星コンポーネントへのいかなる放射線の影響も軽減し、それから回復するために、システムレベルでペイロードにおいて実装され得る。
【0024】
プロセッサ112は、1つ以上の処理コアを含み、特定用途向け集積回路(ASIC)、構造化ASIC、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、汎用プロセッサ、中央処理ユニット(CPU)、グラフィックス処理ユニット(GPU)等として形成され得、それらは、半導体パッケージ内の1つ以上のダイ上に提供され得るか、または、複数のパッケージにわたって分散され得る。DSPコア110、プロセッサ112、ADC102、DAC104、および/またはFDD118を含む種々のコンポーネントは、3nm~180nmの特徴サイズを有し得、例えば、3nm、5nm、7nm、12nm、14nm、22nm、28nm、32nm、45nm、65nm、90nm、または半導体パッケージ内の特徴サイズの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、衛星ペイロード100の2つ以上のコンポーネントは、半導体パッケージ内の1つ以上のダイ上で一緒に統合される。例えば、ADC102、DAC104、DSP110、プロセッサ112、クロック源114、同調可能クロック源116、および/またはFDD118は、半導体パッケージ内の1つ以上のダイ上で一緒に統合され得る。伝送アンテナ106および受信アンテナ108は、位相アレイ(PA)、直接放射アレイ(DRA)、パラボラ反射器、光学(例えば、レーザ)リンク等として提供され得る。光学およびRFの両方の送受信機の組み合わせも、提供され得る。これらのコンポーネントの全てまたはいくつかが、本明細書に説明される周波数差分アルゴリズムの実装において利用され得る。
【0025】
図2は、地球300または他の天体(例えば、軌道上の月、小惑星等)の周囲の軌道における複数の衛星100を図示する。伝送アンテナ106および受信アンテナ108と同一または異なるタイプであり得る衛星間通信リンク150が、集団における衛星100の間の情報の伝送を促進する。伝送アンテナ106、受信アンテナ108、および衛星間通信リンク150と同一または異なるタイプであり得る陸上通信リンク160が、集団における衛星100と陸上アセット200との間の通信を促進する。いくつかの例では、陸上アセット200は、限定ではないが、人物、自動車、航空機、船舶、気球等を含む、移動アセット等のアセットであり得る。他の例では、陸上アセット200は、衛星ゲートウェイ、アンテナアレイ、建物、住宅等の静止アセットであり得る。陸上アセット200は、集団または個々の衛星100が局所およびアンサンブル時間平均の微細な較正のために使用し得る「真の時間」を提供し得る。衛星の集団の文脈において議論されるが、衛星100は、本開示の範囲から逸脱することなく、単独の軌道アセット(すなわち、集団の一部ではない)として提供され得る。そのような実装では、衛星間通信リンク150は、選択的に省略され得る。
【0026】
衛星100は、高精度で現在の時間の共通認識を共有するために、時間同期させられる必要がある。通信リンク150は、衛星100の集団におけるその最近傍の近隣物と各衛星の局所推定値を共有するために使用される。限定ではないが、IEEE1588(参照することによって本明細書に組み込まれる)によって定義されるもの等の双方向時間転送(TWTT)プロトコルが、各衛星ペイロード100が、差をゼロに向かって駆動するために、それ自体とその近隣物との間の相対時間差を推定することを可能にする。TWTTは、GPS拒否または不良環境における衛星を伴う等、別個のノードが共通の時間ベースへの直接アクセスを有していない事例において必要とされ得る。経時的に、カルマンフィルタリング等の最適な推定技法を使用して、集団に関するアンサンブルクロックが、維持されることができる。本開示は、衛星上同期をより迅速かつ正確に達成するシステムを説明し、TWTTも、したがって、より正確であり、アンサンブル平均が、より効率的に達成される。いくつかの例では、別のプロセスが、集団アンサンブル平均時間と、陸上通信リンク160を使用して地上ステーション(例えば、陸上アセット200)における陸上マスタ発振器によって決定されるような絶対時間との間のいかなるオフセットも補正するために使用され得る。本開示の文脈における用語「陸上」は、限定ではないが、月、火星、金星、小惑星等の地球以外の天体を指し得る。
【0027】
ここで
図3を参照すると、周波数差検出方法および関連モジュールの実施形態が、議論されるであろう。周波数差検出器FDD188(
図1参照)が、周波数差検出方法を実行するための単一のモジュールとして図示されるが、周波数差検出方法が、1つ以上の専用モジュールによって、またはDSP110、プロセッサ112(ASIC、構造化ASIC、FPGA、CPU、GPU)等の他の衛星100ペイロードコンポーネントの中に実装されるモジュールによって達成され得ることに留意されたい。
【0028】
FDD118によって実施される機能ステップは、下記に議論される完全な周波数差検出アルゴリズムを表す。S
DOおよびS
CSACに関するナイキスト基準を満たす周波数において動作する補助発振器320は、ADC324およびADC326によるアナログ/デジタル変換のためのクロックを提供する。補助発振器320出力は、位相ロックループ(PLL)回路322を使用して、S
DOに同期させられる。S
DOは、
図3の信号線321によって表されるように、衛星100ペイロード内の他の回路網のためのクロックとして使用され得る。実/IQ(R2IQ)コンバータ328および330によって出力される信号は、ADC324およびADC326の出力の複素数値表現である。複素ミキサ331回路網が、R2IQコンバータ328およびR2IQコンバータ330によって出力される信号間の複素×複素乗算を実施する。周波数差分アルゴリズムを完了するために実施されるステップは、いくつかの例では、R2IQコンバータ328および330と、複素ミキサ331とを含み得る周波数差推定モジュール338によって実施される。他の例では、R2IQコンバータ328および330および複素ミキサ331は、周波数差推定(FDE)モジュール338とは別個の個々のコンポーネントとして提供され得る。複素ミキサ331の出力は、ローパスフィルタ332によってフィルタリングされ得る。データレート低減が、ローパスフィルタ332によって実施され得、それは、複素ミキサ331によって出力される信号のデシメーションの形態をとり得る。ローパスフィルタ332によって出力される信号の位相は、位相アンラッパ334によって抽出される。位相アンラッパ334回路は、導入され得るmodulo 2π位相跳躍を除去する。位相アンラッパ334によって出力される信号の傾きが、抽出され、符号および大きさの両方が、周波数差推定回路336によって保持される。アンラップ位相信号の傾きの大きさは、CSAC信号とDO信号との間の周波数差である一方、符号は、この周波数差を補正するために、要求されるオフセットの方向を知らせる。故に、いかなる追加の処理も、周波数差の大きさを決定するために必要ではなく、どちらのクロックがより高いまたはより低い周波数にあるかを決定するためにも必要ではない。
【0029】
FDD118は、基準として規則的水晶発振器DO出力(SDO)を使用して、チップスケール原子時計(CSAC)出力(SCSAC)の直交復調を実施するように構成される。CSAC信号SCSACは、ADC324に提供される一方、DO信号SDOは、ADC326に提供される。ADC324は、SCSACをデジタル表現SCSAC(D)に変換し、ADC326は、SDOをデジタル表現SDO(D)に変換する。補助発振器320信号およびSDO信号が、入力として位相ロックループ(PLL)322に提供され、その出力は、ADC324および326のためのサンプリング周波数(fS)として提供される。PLL322は、補助発振器320が信号SDOと同期させられることを確実にする。DOおよびCSAC信号のデジタル表現SDO(D)およびSCSAC(D)は、それぞれ、実/IQコンバータ328および330によって、同相および直交成分に変換される。実/IQ(R2IQ)コンバータ328および330は、R2IQプロセスからもたらされる望ましくない和周波数を除去するために、ローパスフィルタを含み得る。
【0030】
IQ成分への変換後、DOおよびCSAC信号は、複素ミキサ331(すなわち、非実数値)に提供され、それは、(実数値ミキサの場合における和周波数および差周波数の両方ではなく)SCSACとSDOとの間の差周波数のみを伴う複素数値信号を発生させる。一例では、SDO信号は、基準信号として選定され、SCSAC信号は、未知の信号として選定される。この選定は、単純に、選定慣習であり、本開示の範囲から逸脱することなく、SCSACが、基準として選定され、SDOが、未知として選定されることができる。
【0031】
いくつかの例では、ミキサ331によって実施される複素乗算後の著しく減らされた信号帯域幅に見合うように、100,000:1を上回るデシメーションが、実施される。デシメーション比は、依然として、十分なオーバーサンプリングマージンを伴うナイキスト基準を尊重しながら、保持されるサンプルの数を最小化するように選定され得る。10MHz CSAC信号の非限定的例では、信号処理のこの時点における帯域幅は、10MHzのサポート可能な帯域と比較して、数ミリヘルツであり、それは、デシメーションが、n番目のサンプル毎に保存し、残りを破棄することのみによって実施されることを可能にする。他の実装では、従来の方法による明示的なデシメーションが、必要であり得、LPFおよびデシメーションモジュール332のフィルタ特性内に含まれ得る。いくつかの例では、100,000:1を下回るまたは上回るデシメーションが、実施され得、デシメーションレベルは、SCSAC、SDOの周波数またはFDD信号処理チェーンにおける個々のコンポーネントの処理帯域幅に基づいて選定され得る。
【0032】
複素ミキサ331におけるS
CSAC信号とS
DO信号との混合後、混合信号は、雑音フィルタリングを提供するために、ローパスフィルタ332に提示される。いくつかの例では、ローパスフィルタ332は、0.1Hzの周波数応答カットオフを伴う三次ローパスフィルタ332であり得る。結果として生じる雑音フィルタリングされた信号は、アンラッパ334によって位相アンラップされ得、アンラップ信号の導関数が、周波数推定回路336における導関数によって決定される。結果として生じる信号の位相の導関数は、適切なスケーリングを用いることで、CSACとDOとの間の周波数差である。周波数推定回路336も、導関数信号を2πでスケーリングし(例えば、信号を2πで除算し)、結果は、S
CSACとS
DOとの間の差周波数である。2πでの除算は、信号の単位を、ラジアン毎秒から周波数であるサイクル毎秒に変換する。いくつかの例では、傾き
【数1】
であり、式中、x
iおよびy
iは、それぞれ、時間および位相サンプル点である一方、Nは、サンプルの数であるような線形最小二乗推定器の使用は、周波数を直接もたらし、傾きmの符号によって、(2πでのスケーリング後に)2つの信号のどちらがより高い周波数にあるかを示す。いくつかの事例では、位相アンラッパ334が含まれないこともあり、回路設計をさらに簡略化することに留意されたい。例えば、位相オフセットが、+/-πを超えない場合、位相アンラップは、必要ではないこともある。
【0033】
別個のコンポーネント332、334、および336によって実施されるものとして説明されるが、ローパスフィルタリング、デシメーション、位相アンラップ、導関数計算、および傾き推定処理の全てまたは一部は、本開示の範囲から逸脱することなく、周波数差推定モジュール338(例えば、汎用プロセッサ、中央処理ユニット、ASIC、構造化ASIC、FPGA等)によって実施され得る。
【0034】
上で議論されるように、未知の信号としてのS
CSACおよび基準信号としてのS
DOを用いることで、負の傾き推定は、f
DO>f
CSACであることを示す一方、正の傾きは、反対の条件を示す(fは、それぞれの信号の周波数である)。S
CSAC信号が、基準として選定され、S
DOが、未知として選定された場合、正の傾き推定は、f
CSAC>f
DOであることを示す一方、負の傾きは、反対の条件を示す。すなわち、複素復調は、傾きの符号において、S
CSACおよびS
DOのどちらがより高いおよびより低い周波数にあるかについての情報を保全し、それは、処理複雑性を簡略化する。故に、S
DOクロック信号は、S
CSACに合致するように、またはS
CSACの周波数に対して(例えば、周波数オフセットまたは周波数差の分数値または倍数だけ)既知のオフセットにあるように、(例えば、
図5の回路の一部等の周波数制御回路によって)同調されることができる。
【0035】
図4は、周波数差検出器(FDD)118の別の実施形態を図示する。
図4の例では、FDD118aは、基準として規則的水晶発振器DO出力(S
DO)を使用して、チップスケール原子時計CSAC出力(S
CSAC)の直交復調を実施するように構成される。本実装では、S
DO信号は、S
CSAC信号の周波数の2.2倍~10倍、またはCSAC信号の公称ナイキスト周波数の1.1倍~5倍になるように構成される。いくつかの例では、R2IQスイッチおよびADCのためのサンプリング率として使用されるS
DO信号は、CSACのナイキスト周波数の1.1、1.5、1.7、2、2.5、3、3.5、4、4.5、または5倍の倍数N(すなわち、S
CSAC信号の周波数f
CSACの2.2倍、3倍、3.4倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍)であり得る。いくつかの実装では、S
CSACおよびS
DOの役割は、逆転され得、その場合、負の傾きは、S
CSACが2つの周波数のより高いものにあることを示すであろう。いくつかの実装では、サンプリング周波数f
Sは、実/IQ変換を可能にし得、R2IQスイッチ428において実施されるベースバンド復調は、単一のステップとして実施されることができる。
【0036】
アナログ/デジタルコンバータ(ADC)424が、信号SCSACをデジタル化する。クロック信号SDO_Nxが、信号SCSACのナイキスト周波数の倍数Nである周波数においてADC424に提供される。故に、SCSACおよびSDO信号は、互いに類似する、または近接する周波数を有することが予期されるため、SDO_Nxも、いくつかの例では、SDOのナイキスト周波数の倍数Nである周波数を表し得る。上で議論されるように、Nは、1.1~5の範囲内の数であり得る(例えば、Nは、1.1、1.5、1.7、2、2.5、3、3.5、4、4.5、または5に等しくなるように選定され得る)。実/IQ変換を実施する、R2IQスイッチ428回路も、SDO_Nxによってクロックされる。信号SDO_Nxは、信号線421によって表されるように、衛星100ペイロード内の他の回路網によって使用され得る。ローパスフィルタ(LPE)およびデシメーション回路432は、R2IQスイッチ428によって出力される信号上の不要な周波数イメージを除去するために、ローパスフィルタ動作を実施する。LPFおよびデシメーション回路432は、いくつかの例では、R2IQスイッチ428によって出力されるデータストリームのサンプル率も減らし得る。LPF回路432によって出力される信号の位相は、位相アンラッパ434によって抽出される。位相は、R2IQスイッチ428および/またはLPFおよびデシメーション回路432によって出力される信号の中に導入されていることもあるmodulo 2π位相跳躍を除去するために、アンラップされ得る。位相アンラッパ434によって出力される信号の傾き(例えば、アンラップ位相の導関数)が、計算され、符号および大きさの両方が、周波数推定回路436における導関数によって保持される。適切なスケーリングを用いることで、この出力は、CSACとDOとの間の周波数差である。周波数推定回路436は、導関数信号を2πでスケーリングし(例えば、信号を2πで除算し)、結果は、SCSACとSDOとの間の差周波数である。
【0037】
サンプリング周波数f
sが、f
DO_2xから導出される(すなわち、N=2である、またはサンプリング周波数が、DOの周波数の4倍である)、いくつかの実装では、明示的な複素ミキサ乗算動作S
CSAC・S
DOは、排除されることができる。これは、4つの実数値乗算器と、2つの実数値加算器とから成る複素乗算動作を排除し得、故に、この議論では、これは、「仮想混合」と称される。「R2IQ」スイッチ428によって実施される仮想ミキサは、1:2デマルチプレクサと、符号反転論理と、タイミング回路(例えば、2ビットカウンタ)とを備え得る。この動作の結果は、S
CSACとS
DOとの間の差に復調される信号である。例えば、f
S/4による直交復調は、
【数2】
での乗算に対応し、オイラー表記は、
【数3】
に対応し、式中、
【数4】
である。n=[0,1,2,3,・・・]に関して、前述の式は、[1,j,-1,-j]に簡略化される。jでの乗算は、虚軸(または直交チャネル)上への回転であり、したがって、この仮想乗算の実装は、付随の否定を伴って、または伴わず、連続するデジタル化サンプルを同相(I)または直交(Q)チャネルのいずれかの上に切り替えることによって実施される。
【0038】
この復調は、R2IQスイッチ428によって実施される適切に配列されたスイッチおよび符号変更を用いて実装される。例えば、SCSACの第1のサンプルは、その同相(I)成分に変換され、第2のサンプルは、直交(Q)成分に変換され、第3のサンプルは、-I成分に変換され、第4のサンプルは、-Q成分に変換され得る。この切り替えの配列が、次いで、繰り返される。SCSACの周波数は、近似的に、またはいくつかの例では、厳密に、サンプリング率の4分の1(すなわち、fs/4)であるので、SCSACは、SCSACとSDOとの間の差周波数に復調される。
【0039】
S
CSACの復調は、±f
S/2(サンプリング周波数の半分)の数ミリヘルツ内に望ましくないイメージを伴うDCの数ミリヘルツ(mHz)内の値をもたらす。
図3に関して上で議論されるLPFに類似し得る狭帯域ローパスフィルタ432が、処理によって導入された(または、DOまたはCSAC信号内に以前から存在する)f
S/2におけるイメージを排除する。一例では、ローパスフィルタ432は、例えば、0.1Hzの周波数応答カットオフを伴う三次LPF等の単純な低次フィルタであり得る。
【0040】
継続して
図4を参照すると、
図3に関して上で説明される処理と同様、ローパスフィルタおよびデシメーションモジュール432によって、R2IQスイッチ428の出力は、デシメートされ、雑音は、フィルタリングして除かれる。動作時、仮想ミキサ(例えば、R2IQスイッチ428)によって実施される複素乗算後の著しく減らされた信号帯域幅に見合うように、かなりのデシメーション(いくつかの例では、100,000:1を上回る)が、実施される。10MHz CSAC信号の非限定的例では、この時点における帯域幅は、10MHzのサポート可能な帯域と比較して、数ミリヘルツであり、それは、デシメーションが、n番目のサンプル毎に保存し、残りを破棄することのみによって実施されることを可能にする。他の実装では、従来の方法による明示的なデシメーションが、必要であり得、LPFおよびデシメーションモジュール432のフィルタ特性内に含まれ得る。100,000:1を下回るまたは上回るデシメーションが、実施され得、デシメーションレベルは、S
CSAC、S
DOの周波数またはFDD信号処理チェーンにおける個々のコンポーネントの処理帯域幅に基づいて選定され得る。S
CSACおよびS
DO信号が仮想的に混合された後、ローパスフィルタ432は、上で議論されるように、不要な雑音および信号イメージを減らすように動作する。結果として生じる雑音フィルタリングされた信号の位相は、アンラッパ434によってアンラップされ、アンラップ信号の導関数が、周波数推定回路436によって決定される。結果として生じる信号の位相の導関数は、適切なスケーリングを用いることで、CSACとDOとの間の周波数差である。周波数推定回路436は、導関数信号を2πでスケーリングし(例えば、信号を2πで除算し)、結果は、S
CSACとS
DOとの間の差周波数である。
【0041】
図3の議論と同様、
図4の例において別個のコンポーネント428、432、434、および436によって実施されるものとして説明されるが、ローパスフィルタリング、デシメーション、位相アンラップ、導関数計算、および傾き推定処理の全てまたは一部は、本開示の範囲から逸脱することなく、周波数差推定(FDE)モジュール438(例えば、信号プロセッサ、汎用プロセッサ、CPU、グラフィックス処理ユニット(GPU)、ASIC、構造化ASIC、FPGA等)によって実施され得る。
【0042】
上で議論されるように、未知の信号としてのS
CSACおよび基準信号としてのS
DOを用いることで、負の傾き推定は、f
DO>f
CSACであることを示し、f
DOおよびf
CSACは、それぞれの信号S
DOおよびS
CSACの周波数である。正の傾きは、反対の条件を示す。他方、S
CSAC信号が、基準として選定され、S
DOが、未知として選定された場合、負の傾き推定は、f
CSAC>f
DOであることを示す一方、正の傾きは、反対の条件を示す。故に、S
DOクロック信号は、S
CSACに合致するように、またはS
CSACの周波数に対して(例えば、周波数オフセットまたは周波数差の分数値だけ)既知のオフセットにあるように、それに応じて(例えば、
図5の回路の一部等の周波数制御回路によって)同調されることができる。いずれのシナリオでも、複素復調は、S
CSACおよびS
DO周波数のより高いものおよびより低いものが、傾きの符号から決定される決定されることを可能にする情報を保全し、それは、処理複雑性を減らす。さらに、4つの実数値乗算器と、2つの実数値加算器とから成る明示的な複素乗算動作を排除することによって、サイズ、重量、電力、および費用(SWaP-C)は、著しく改良される。
【0043】
例えば、典型的な複素デジタル復調器は、4つのデジタル乗算器と、2つのデジタル加算器とから成り、それは、おおよそ8,000個の2入力等価ゲートに対応する。放射線軽減および/または放射線抵抗性論理が含まれる場合、サイズは、24,000個の等価ゲートに拡大し得る。本開示では、1:2スイッチ(例えば、R2IQスイッチ428)を使用する複素デジタル復調器は、レジスタの2つの組と、2ビットカウンタとを備えている。2ビットカウンタは、上で説明されるような交互符号変換を伴う同相および直交チャネルに実数値ストリームを逆多重化するために必要とされる、繰り返し2進系列[b’00,b’01,b’10,b’11]を発生させるように構成される。上で説明される典型的な複素デジタル変調器と比較して、これは、耐放射線強化性、放射線抵抗性、および/または放射線軽減論理を含むR2IQスイッチ428の実装を可能にし、この回路は、復調機能だけに関して、おおよそ1,000個の等価ゲートまたは回路サイズおよび複雑性の24:1低減(すなわち、典型的な複素デジタル復調器の24,000個の等価ゲートと比較したときに24:1)に対応する。回路サイズおよび複雑性におけるこの約24:1低減に加えて、さらにより大きいサイズ、重量、電力、および費用(SWaP-C)利益が、
図4に関して上で議論されるような別個の発振器(例えば、
図3の補助発振器320)および位相ロックループPLL(例えば、
図3のPLL322)の排除によって、上で議論されるR2IQスイッチ428およびアルゴリズムの実装によって実現される。加えて、
図4の例では、物理的ミキサの必要性を排除することによって、R2IQ信号処理によって導入される雑音の量の低減が、存在する。
【0044】
図5は、
図3および4において信号S
DOおよびS
CSACを発生させ、かつ補正信号S
corr513を受信し、測定信号S
Meas514を伝送する周波数差検出器コンポーネント501、およびクロック源であるチップスケール原子時計(CSAC)504および規則的水晶発振器(DO)505における回路間の例示的接続を図示する。
図5は、周波数制御経路を図示し、それらは、回路トレース、並列回路相互接続、SerDesトレース等であり得、それらは、DO505(または他の同調可能クロック源)の周波数が2つ以上のクロック源の間の検出された周波数差に応答して同調および制御されることを可能にする。いくつかの例では、FDD501は、
図3および4に関して上で議論されるような周波数差推定モジュール338または438のコンポーネントを含み得る。
図4に説明されるように、S
CSACは、アナログ/デジタルコンバータ(ADC)502によってデジタル化され、その出力は、R2IQスイッチ428に渡される(
図4参照)。S
DO_4xは、ADC502のためのサンプリングクロックとして使用され、また、FDD501に提供される。信号S
DO_Nx510は、例えば、信号Clk
Ref512によって表されるクロック信号として、衛星100ペイロード内の他の回路網によって使用され得る。いくつかの実施形態では、Clk
Ref512は、複数のコピーを作成すること、位相および周波数を変更すること、インピーダンス特性を変更すること、出力レベル特性を変更することを行うためのクロック分配回路(CDC)511によるS
DO_4x510の修正バージョンであり得る。いくつかの実施形態では、CSAC504の周波数は、デジタルまたはアナログ制御S
ctrl_stat506を使用して調節可能であり得る。デジタル実装が、RS-232、RS-422、RS-485等の電気規格、シリアル周辺機器インターフェース(SPI)等を使用して、汎用非同期送信機/受信機(UART)を実装し得る。特に、UARTがインターフェースを提供するいくつかの実施形態では、S
ctrl_stat506は、CSAC504の健全性および性能に関するステータスを返す双方向信号であり得る。DO505は、制御電圧V
tune508を使用して誘導される。いくつかの実施形態では、V
tune508は、FDD501によって発生させられた複数ビットデジタル信号S
tune509から導出され、その場合、回路503は、デジタル/アナログコンバータ(DAC)によって形成されるアナログ信号である。いくつかの実施形態では、V
tune508は、パルス幅変調(PWM)信号S
tuneから導出され、その場合、回路503は、組み合わせられた能動的または受動的ローパスフィルタおよび絶縁増幅器回路(図示せず)である。いくつかの実施形態では、V
tune508は、ワード長が、8ビットから16ビット以上のものに変動し得るデジタルワードである。いくつかの実施形態では、信号S
corr513は、信号S
tune509を導出するために使用される補正値を供給するCPU、GPU、ASIC、構造化ASIC、FPGA、DSP、または類似する処理デバイスからのアナログまたはデジタル入力であり得る。いくつかの実施形態では、信号S
Meas514は、算出をサポートするために、またはステータス指示として、CPU、GPU、ASIC、構造化ASIC、FPGA、DSP、または類似する処理デバイスに供給されるFDD501によって決定されるような測定差信号の表現であり得る。
【0045】
図6は、
図3および4の実施形態に説明される信号処理出力の例を図示する。低雑音事例が、明確化のために示されるが、しかしながら、11dB(またはそれを上回る)の雑音レベルであっても、周波数差検出アルゴリズムは、1mHzより低い周波数差を6秒未満で、かつ1%より低い相対誤差を伴って計算することが可能である。
【0046】
図6Aは、周波数差が-0.001Hzである場合を示し、周波数差が-0.001Hzであることは、S
DOが基準として使用されるとき、S
DOが、より高い周波数にあることを意味する。
図6Bは、周波数差が+0.001Hzである場合を示し、周波数差が+0.001Hzであることは、S
DOが、2つの周波数のうちのより低いものにあることを意味する。曲線602および612は、LPFモジュール432によるローパスフィルタリングおよびデシメーションの後の結果を示す。曲線604および614は、曲線602および612の最小二乗推定値を示す。曲線606および616は、434において推定された傾きのスケーリングされたバージョンであり、差周波数の値を表す。曲線606および616の傾きの大きさは、周波数差の絶対値を示す。606および616の傾きの符号は、S
CSACおよびS
DOのどちらがより高いおよびより低い周波数にあるかを示す。
【0047】
図6Aでは、線602は、ミキサ331のアンラップ瞬時位相出力(または、
図4に関して上で議論されるように、仮想ミキサとしての機能を果たすR2IQスイッチ428の出力、LPF432および位相アンラッパ434による処理後)を表す。線604は、アンラップ瞬時位相602の線形最小二乗適合であり、上で議論されるように2πでスケーリングされると、結果は、傾き推定曲線606である。「推定位相」と標識化される曲線606の傾きは、DO信号とCSAC信号との間の周波数差を表す。この慣習では、上で議論されるように、傾きの符号は、どちらの信号が他方を上回るかを我々に知らせる。
図6Aの例では、
図3および4に関して上で議論されるように、DOは、実ミキサ(
図3)または仮想ミキサ(
図4)のための基準信号として選定されているので、傾き推定曲線606上の正の傾きは、S
DOの周波数が周波数S
CSACを下回ることを示す。したがって、S
DOクロック信号は、傾き推定曲線606によって計算された推定傾きに対応する量だけS
DOの周波数を増加させることによって、S
CSACに合致するように、またはS
CSACからの既知のオフセットにあるように、それに応じて(例えば、
図5の回路等の周波数制御回路によって)同調されることができる。
【0048】
同様に、
図6Bは、ミキサ331の瞬時位相出力(または、
図4に関して上で議論されるように、仮想ミキサとしての機能を果たす、R2IQスイッチ428の出力)を表す、瞬時位相線612を図示する。線614は、アンラップ瞬時位相612の線形最小二乗適合である。上で議論されるように、2πでスケーリングされると、616の傾き係数mは、DO信号とCSAC信号との間の周波数差である。この慣習では、上で議論されるように、傾きの符号は、どちらの信号が他方を上回るかを示す。
図6Aおよび6Bに示される例では、
図3および4に関して上で議論されるように、DOは、実ミキサ(
図3)または仮想ミキサ(
図4)のための基準信号として選定されているので、「推定位相」と標識化される曲線616上の負の傾きは、S
DOの周波数が周波数S
CSACを上回ることを示す。S
DOクロック信号は、傾き推定曲線616によって計算された推定傾きに対応する量だけS
DOの周波数を減少させることによって、S
CSACに合致するように、またはS
CSACからの既知のオフセットにあるように、それに応じて(例えば、
図5の回路等の周波数制御回路によって)同調されることができる。
【0049】
図6Aおよび6Bの表題に示されるように、推定傾きの相対誤差は、1パーセントの10分の1を下回る。実際に、S
DOとS
CSACとの間で検出された周波数差であるこの傾き推定は、この例では、3秒のサンプリング間隔にわたって実施される。実際の周波数差と計算された周波数差との間の低相対誤差は、非常に短いサンプリング周波数と相まって、2つの高周波数クロック信号間のわずかな周波数差を測定することにおいて多大な改良を提供する。これは、チップスケール原子時計(CSAC)114、504と規則的水晶発振器(DO)116、505との間のより正確なクロック同期を可能にする。衛星の協調集団(
図2に図示されるもの等)における衛星上に提供されるとき、それは、集団に関するより正確かつ更新されたアンサンブルクロック平均を可能にし、したがって、集団構成物(例えば、衛星100)およびエンドユーザ(例えば、陸上アセット200)に局所的に提供される位置、ナビゲーション、およびタイミングの正確度を改良する。他の衛星100との双方向時間転送(TWTT)が、例えば、衛星間通信リンク150を使用して行われ、カルマンフィルタリングを提供し、従来の様式でアンサンブルクロック平均補正のための最適な推定値を決定し得る。衛星間通信リンク150は、いくつかの例では、光学リンク、RFリンク、または光学およびRFリンクの組み合わせであり得る。アンサンブルクロック計算回路は、代替として、または加えて、人間、衛星ゲートウェイ、飛行機、ドローン、気球等の陸上または空中アセットに提供され得る。
【0050】
図7Aおよび7Bは、各々がカルマンフィルタリングであり得る最適なアンサンブル平均推定技法の適用後の10個の衛星(100)の10個の平面における100個の衛星の集団におけるクロックの間の結果として生じる時間オフセット誤差を図示する。線702、704、および706は、それぞれ、各プロットにおいて、1倍、2倍、および3倍標準偏差(σ)レベルを示す。この例示的状況では、5ナノ秒の概念的であるが、現実的な測定雑音値が、仮定される一方、0.005の補正利得(すなわち、推定誤差の0.5%が、各反復の補正として適用される)が、適用されている。トレース708は、ゼロ時間オフセットに対するオフセットを表す。初期時間オフセット誤差は、30ナノ秒(ナノ秒)に設定され、初期周波数誤差は、1mHz(0.001Hz)となるように設定された。各衛星の4つの最近傍の近隣物間の双方向時間転送(TWTT)が、隣接する衛星間で時間オフセット情報を共有するために使用され、カルマンフィルタであり得る最適な推定技法が、隣接する衛星にわたる基準クロック周波数間の最小二乗誤差を最小化する要求される周波数補正を決定するために、周波数差検出回路と併せて使用される。各トレース708は、単一の衛星に関するオフセット誤差を表す。測定された補正のわずかな部分(測定された周波数差の分数またはパーセンテージであり得る補正の量または適用されている寄与のサイズ)のみが、各反復に対して適用される(例えば、衛星の局所オフセットの0.5%)ので、この非限定的例では、集団における衛星にわたるクロックは、約1日半(120,000秒)で平衡状態に到達する。集団における任意の2つの衛星間の時間オフセット誤差の1σ(第1の標準偏差)は、この非限定的シミュレーション実行の場合、約1.6ナノ秒である。この誤差に関する下限は、TWTTプロセスにおいて使用されるサンプリング周波数クロックに起因する測定不確実性によって決定される。
【0051】
図7Bは、中心衛星に隣接する4つの衛星である局所群内の衛星間の時間誤差を示す。トレース710は、中心衛星ノードに対する時間オフセットの大きさの絶対値を表す。
図7Bに図示されるように、1σ(第1の標準偏差)時間差は、5日後に約1ナノ秒である。上で議論されるように、本明細書に使用されるTWTTプロセスは、IEEE1588-2019(ネットワーク化測定および制御システムのための精密クロック同期プロトコルに関するIEEE規格(参照することによって本明細書に組み込まれる))等によって説明されるもの等の公知のプロトコルに準拠し得る。
【0052】
いくつかの例では、アンサンブル平均の誘導は、即時ではないこともあり、それは、安定したアンサンブル平均が達成されることを確実にするために、選択的かつ可変に加減され得る。例えば、限定ではないが、1mHz周波数差が、CSACとDOとの間で決定される場合、(局所および遠隔カルマンフィルタリングを含む、双方向時間転送(TWTT)アルゴリズムによって遂行される)アンサンブル平均への寄与は、例えば、限定ではないが、約0.1mHzであり得る。アンサンブル平均への寄与の大きさおよび頻度は、集団のサイズ、既存のアンサンブル平均と局所衛星周波数差との間の差、周波数差のサイズ等を含むいくつかの変数に応じて、変動し得る。例えば、衛星上で局所的に測定された実際の測定時間および周波数差の分数またはパーセンテージが、アンサンブル平均に寄与され得る。これは、非常に頻繁に起こる(または、大きい大きさを有する)寄与によって導入され得るアンサンブル平均の計算における不要な不安定性を回避し得る。したがって、集団レベルにおいて、安定したアンサンブル平均は、局所衛星周波数差計算および補正が迅速に達成される程度と比較して、落ち着くまでにより長い期間(例えば、数分、数時間、または数日)がかかり得るが、アンサンブル平均が確立されると、計算された局所時間および周波数差(例えば、種々の衛星上のDO周波数とCSAC周波数との間の差)の寄与は、アンサンブル平均が、既存の解決策と比較してはるかにより正確になる(例えば、経時的により少ない偏差)ことを可能にするであろう。他の例では、アンサンブル平均が計算されるにつれて、時間補正(例えば、アンサンブル平均アルゴリズムへの時間オフセット寄与)の大きさは、アンサンブル平均が、平衡からより遠い(例えば、時間平均が、依然として、大きい分散を有する)とき、より大きくなり得(より大きい「利得」)、時間オフセット寄与は、アンサンブル平均が、平衡状態により近くなるにつれて、より小さくなり得る(より小さい「利得」)。平衡状態は、アンサンブル平均が、1つの平均から次のものに所定の閾値を下回る量だけ変動する状態であり得;アンサンブル平均の平均値は、1つの期間から後続の期間に閾値以下で変動する値を有する等。平衡状態は、標準偏差値の傾きまたは一次導関数が所定の期間にわたって約ゼロであるときにも定義され得る。
【0053】
わずかな周波数差を測定するための従来技術のヘテロダインベースのアプローチと比較した本開示されるアプローチの利点を例証する。
図8は、従来技術のヘテロダインを使用して、真の周波数差(プロット802)対測定された周波数差(プロット804)を比較する、代表的結果を描写する。
図8では、雑音が、実世界用途に似るために追加されている。しかしながら、ヘテロダインベースの雑音なしシミュレーションは、わずかにのみより正確であり、かなりの持続時間後であっても、周波数差がわずかなときに大きい信号誤差をもたらす。
図8に図示されるように、平均相対誤差は、それぞれ、60、180、300、および480秒にわたって約67%、44%、51%、および23%である。雑音なし事例であっても、平均相対誤差は、それぞれ、60、180、300、および480秒にわたって約44%、15%、9%、および4%である。本相対誤差は、ヘテロダインアプローチが、両方の信号が同じ構造(すなわち、この場合、両方とも正弦波)であるという事実を活用できていないことを反映する。0.001Hzの周波数は、正弦波が1サイクルを完了するために1,000秒を要求する。60秒では、サイクルの6%のみが、周波数を推定するために使用される。480秒であっても、2分の1サイクル未満が、推定を行うために利用可能である。
【0054】
比較すると、本開示は、実数値ミキサを使用した2.65%(誤差STD 7.01E-5Hz)および仮想ミキサを使用した1.90%(誤差STD 5.54E-6Hz)の相対誤差を伴って、わずか6秒で1mHzの周波数差を測定することが可能である。
(放射線考慮事項)
【0055】
衛星用途において動作する電子機器が経験する電離放射線環境に起因して、本開示の実施形態において実装される電子機器の全てまたは一部が、耐放射線強化性または放射線抵抗性であることが望ましくあり得る。例えば、本明細書に説明され、
図1-5に(非網羅的に)描写されるコンポーネントの全てまたはサブセットは、放射線抵抗性または耐放射線強化性であり得る。これは、プロセス(電子デバイスが製造される方法に関する基礎となる半導体技術に関係する)によって、設計(ダイ上の回路要素の物理的レイアウトに関係する)によって、または他の手段によって、耐放射線強化されている電子機器のいずれかまたはいくつかの組み合わせを含むことができる。放射線抵抗性は、その設計が電離放射線環境における使用のために意図的に最適化されていないデバイスの試験、分析、または試験および分析を介して決定され得る。
【0056】
衛星が直面する過酷な環境は、電子回路網を設計する難度を増加させ得る。衛星用途における主要な環境リスクのうちの1つは、宇宙に存在する電離放射線環境に関連付けられている。電離放射線に関連付けられる放射線効果が、陸上用途にも存在し、そのような放射線効果が、概して、ソフト誤差と呼ばれることに留意されたい。宇宙における電離放射線環境は、重イオン、陽子、および中性子を含み、それらは、単一事象効果(SEE)、総電離線量(TID)、および/または変位損傷線量(DDD)を介して、半導体デバイスの正常動作に影響を及ぼし得る。TIDおよびDDDの効果は、概して、ミッション持続時間にわたって累積し、電流漏出を含む半導体パラメータに影響を及ぼす。SEEの効果は、概して、瞬間的であり、半導体回路の動作に影響を及ぼし得る。これらのSEE効果は、単一事象ラッチアップ(SEL)、単一事象反転(SEU)、単一事象過渡(SET)、および単一事象機能割込み(SEFI)を含む。SELに対する軽減は、シリコンオンインシュレータ(SOI)等の技術の使用を介して提供されることができる。SEU、SET、および/またはSEFIの効果は、シリアル通信回線(一般的にレーンと称される)を無効な状態(例は、ロックの喪失であろう)に入らせ、有効なデータが、長い期間にわたってもはや伝送または受信されなくなることを含み得る。典型的な半導体チップ設計に関する陸上用途におけるソフト誤差の発生率は、宇宙用途における同じ半導体チップ設計に関するSEU、SET、および/またはSEFIの発生率よりかなり低い。
【0057】
自然放射線環境と異なり、種々の人工放射線環境(例えば、即発線量、システム発生EMP効果(SGEMP)、X線およびガンマ線フラッシュ、過渡線量効果、線量率反転、線量率バーンアウト、線量率メタライゼーション不良、線量率ラッチアップ、線量率レールスパン崩壊等)が、本明細書において想定される。放射線考慮事項および強化は、帰還性考慮事項およびオペレーションスルー条件と異なる。
【0058】
宇宙用途のための半導体チップ設計におけるSEU、SET、および/またはSEFIの軽減は、半導体製造における材料および処理技法の選択および最適化(プロセスによる耐放射線強化(RHBP))と、次いで、半導体製造プロセスにおける従来の材料およびプロセスを介して製造されるチップの設計における特殊化構造の設計および製造(設計による耐放射線強化(RHBD))とを含む様々な技法を使用して実施されることができる。RHBP、RHBD、または従来型(電離放射線環境における使用のために具体的に最適化されない)のいずれかである半導体チップを含むシステムにおいてシステムレベル軽減を提供するための追加の技法が、存在し、そのようなSEU、SET、および/またはSEFI軽減技法は、本願では、システムレベル放射線軽減技法(SLRMT)と称される。他のシステムレベル放射線軽減技法は、放射線の影響を受けるコンポーネントに時間的または空間的に近接する誤差検出および補正(EDAC)(例えば、オンパッケージまたはオンダイで提供されるシステムレベル軽減等)を使用し得る。
【0059】
例えば、クロック信号、クロック発生器、クロックバッファ、クロックプリスケーラ、ADC、DAC、DSPコア、演算増幅器、または種々の計算回路のうちのいずれかに対する放射線効果は、同じパッケージ内、異なるパッケージ内、同じ基板上、または同じペイロード内に提供される他の回路網によって検出され得る。放射線効果軽減は、放射線事象によって影響を受けている回路またはモジュールではなく、本システム内の1つ以上の他の要素によってもたらされ得る。逆に、これらの要素はまた、それらが放射線効果から回復することを可能にする論理を具備し得る。水晶発振器、チップスケール原子時計等のクロック発生器の例では、水晶構造または材料は、放射線効果の効果を最小化するように選定または設計され得る。例えば、発振水晶として掃引石英(または他の宇宙に適した材料)を使用することは、経時的なTIDおよびDDD効果を減らし得、またはそれらを防止し得る。さらに、これらの要素は、放射線効果が損傷を引き起こすことを阻止するための論理および回路網を具備し得る。DSP、CPU、および関連付けられるメモリサブシステムの例では、回路は、上昇された電流引き込み等の放射線事象の兆候を検出し、損傷が生じ得る前に電源を無効にするように実装され得る。
【0060】
宇宙電離放射線環境における使用のための電子機器システムの効果的な設計は、システム設計チームが、RHBP、RHBD、および/または従来型のいずれかであるコンポーネントを効果的かつ効率的に利用することを要求し、多くの場合、SLRMTの使用を含む。コンポーネント選択およびSLRMTの最適化は、軽減されるべきである放射線効果の具体的詳細および取得されるべきシステム放射線抵抗性の所望のレベルに大いに依存する。多くのSEU、SET、および/またはSEFIは、概して、そのような効果の効果的かつ効率的な軽減を提供するために、SEE誘発事象がコンポーネントまたはシステムレベル回路において生じた場所に空間的および時間的の両方で可能な限り近接して最良に軽減される。例えば、特徴サイズ<90nmを伴うASIC技術ノードにおいて誘発されるSETの持続時間は、<1ナノ秒であり得、特徴サイズ<32nmに関して数十ピコ秒と同程度に短くあり得る。同じ半導体パッケージ内のそのような短い持続時間のSETの軽減は、同じシステム内の別個の場所における2つ以上のチップに及ぶアプローチに対してSET軽減のより効率的な実装を提供することができる。この効率は、SEE誘発誤差の源に空間的および/または時間的に近接して検出および軽減するための能力からもたらされる。
【0061】
放射線試験は、粒子加速器からの荷電粒子のビームを使用して遂行され得、荷電粒子ビームは、陽子および/または重イオンを含み得、加速器は、サイクロトロンまたは線形加速器であり得る。陽子ビームの場合のビームエネルギーは、0.1MeV~200MeV以上の範囲内であり得、典型的に、約>1MeV~約65または200MeVのいずれかの範囲内である。重イオンビームの場合のビームは、0.1~100MeV cm2/mg以上の範囲内の線エネルギー付与(LET)を有し得、典型的に、>0.5~約60~85MeV cm2/mgの範囲内である。そのような試験において使用される粒子の合計フルエンスは、かなり変動し得、多くの場合、陽子ビームの場合では各ビームエネルギーにおいて1cm2あたり106~1012個以上の粒子の範囲内であり、多くの場合、重イオンビームの場合では各LET値において1cm2あたり102~108個以上の粒子の範囲内である。放射線誘発反転(SEU)、過渡(SET)、および/または機能割込み(SEFI)の数は、多くの場合、ビームフルエンスの関数としての所与の面積(典型的に、1cm2)における観察された事象の数に関連する断面として表される。断面は、1.0以下であり、10-10cm2より小さくあり得、それは、多くの場合、約10-2~<10-10cm2の範囲内である。検出されたSEU、SET、および/またはSEFIの数が、十分に小さく、これが、そのデバイスの1つ以上の事例を含むシステムまたは回路の動作に有意な影響を及ぼさないであろう場合、デバイスは、概して、放射線抵抗性であると見なされる。試験および/または分析によって実証されるようなLET>37MeV cm2/mgにおける重イオン断面<10-4cm2は、所与のデバイスが放射線抵抗性であることを実証するために十分であり得る断面の例である。デバイスが1つ以上のビームLET値またはビームエネルギー値において放射線抵抗性であると見なされるために、分析によって測定または決定される重イオンまたは陽子断面は、かなり変動し得、部分的に、衛星に関する予想される軌道と、そのデバイスを含む回路および/またはシステムが、SEU、SET、および/またはSEFIが生じるときに所望の動作を維持することが可能である程度とに依存する。
【0062】
本開示に開示されるいくつかまたは全ての電気コンポーネントは、少なくともいくつかのタイプの耐放射線強化、放射線抵抗性、放射線軽減論理、および/または補償を含み得る。故に、ADC、DAC、R2IQスイッチ、局所発振器、PLL、LPF回路、周波数差検出回路、FPGA、ASIC、構造化ASIC、CPU、ミキサ、SerDes、演算増幅器、クロック分配バッファ、クロックプリスケーラ、および回路入/出力の全てまたは一部は、放射線抵抗性であるか、耐放射線強化性であるか、または他の処理ステップによって軽減される放射線効果に関して監視され得る。いくつかの例では、部分的または完全な三重モジュール冗長(TMR)が、追加のダイ空間または電力消費を潜在的に犠牲にして提供され得る。他の例では、SEEの確率を減らすように最適化された物理設計を有するライブラリセルの使用が、使用され得る。本開示のアルゴリズムの実装は、DSPプロセッサ内、個々の要素の論理内等における放射線軽減アルゴリズムと結合される演算増幅器、CPU、ASIC、構造化ASIC、および/またはFPGAの混合物を用いて最良に遂行され得る。これは、いくつかの例では、スクラビングアルゴリズムおよびプロセスおよびパッケージ外放射線効果検出および放射線軽減トリガを含み得る。
【0063】
ある例示的実施形態および方法のみが、上記に詳細に説明されているが、当業者は、多くの修正が、本開示の新規の教示および利点から実質的に逸脱することなく、例示的実施形態および方法に対して可能であることを容易に理解するであろう。
【0064】
全ての方向参照(例えば、近位、遠位、上側、下側、上向き、下向き、左、右、側方、縦方向、前、後、上部、底部、上方、下方、垂直、水平、半径方向、軸方向、時計回り、および反時計回り)は、本発明の読者の理解を支援するための識別目的のためにのみ使用され、特に、本発明の位置、配向、または使用に関する限定を生じさせない。接続参照(例えば、取り付けられる、結合される、接続される、および継合される)は、別様に示されない限り、要素の集合の間の中間部材および要素の間の相対移動を含み得る。したがって、接続参照は、必ずしも2つの要素が直接接続され、互いに固定関係にあることを暗示しない。例示的図面は、例証目的にすぎず、本明細書に添付される図面に反映される寸法、位置、順序、および相対的サイズは、変動し得る。
【0065】
上記の明細書、例、およびデータは、請求項に定義されるような本発明の例示的実施形態の構造および使用の完全な説明を提供する。請求される発明の種々の実施形態が、ある程度の詳細を伴って、または1つ以上の個々の実施形態を参照して、上で説明されているが、当業者は、請求される発明の精神または範囲から逸脱することなく、開示される実施形態の多数の改変を行い得る。他の実施形態も、したがって、想定される。上記の説明に含有され、付随の図面に示される全ての事項が、限定ではなく、特定の実施形態の例証としてのみ解釈されるものとすることを意図している。詳細または構造の変更が、以下の請求項に定義されるような本発明の基本要素から逸脱することなく、行われ得る。
【国際調査報告】