(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】コーティングされた医療製品および医療製品をコーティングする方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/10 20060101AFI20240130BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20240130BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20240130BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20240130BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20240130BHJP
【FI】
A61L31/10
A61L27/34 ZNA
A61L27/40
A61L31/12
C07K7/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546269
(86)(22)【出願日】2022-02-02
(85)【翻訳文提出日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2022052403
(87)【国際公開番号】W WO2022167447
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】102021102377.7
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508140512
【氏名又は名称】フェノックス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】PHENOX GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】レンツ-ハビヤン,ティム
(72)【発明者】
【氏名】バンネヴィッツ,カトリン
(72)【発明者】
【氏名】トレースケン,フォルカー
(72)【発明者】
【氏名】ハンネス,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】モンシュタット,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケス,ハンス
【テーマコード(参考)】
4C081
4H045
【Fターム(参考)】
4C081AC03
4C081AC09
4C081BA17
4C081CD112
4C081DC03
4C081EA06
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA50
4H045BA53
4H045BA56
4H045EA34
(57)【要約】
本発明は、医療製品に関し、医療製品の少なくとも一部がコーティングを施され、前記コーティングは機能性層を含み、機能性層は、糖類およびインテグリン結合モチーフを有するペプチド配列を含む。本発明により提案される医療製品は、改良された細胞接着性、および同時に、低減された血小板接着および凝集を示し、これによって周囲組織への生着が促進されるが、血小板の凝集、特に再狭窄が防止される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療製品であって、該医療製品の少なくとも一部がコーティングを施され、前記コーティングは機能性層を含み、
前記機能性層は、糖類およびインテグリン結合モチーフを有するペプチド配列を含むことを特徴とする、医療製品。
【請求項2】
前記機能性層が、RGDペプチド配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載の医療製品。
【請求項3】
前記機能性層が、重合性基で官能化された糖類とインテグリン結合モチーフを有する反応性基で官能化されたペプチドとの反応によって生成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の医療製品。
【請求項4】
前記機能性層が、重合性基で官能化された糖類とインテグリン結合モチーフを有する反応性基で官能化されたペプチドとの共重合によって生成されることを特徴とする、請求項3に記載の医療製品。
【請求項5】
前記機能性層が、重合性基で官能化された糖類とインテグリン結合モチーフを有する反応性基で官能化されたペプチドとの連続的反応によって生成されることを特徴とする、請求項3に記載の医療製品。
【請求項6】
前記機能性層が、インテグリン結合モチーフを有する反応性基で官能化されたペプチドと重合性基で官能化された糖類との連続的反応によって生成されることを特徴とする、請求項3に記載の医療製品。
【請求項7】
前記機能性層が、糖類ユニットおよびペプチドユニットを担持する重合性分子と、少なくとも1つのインテグリン結合モチーフを有するペプチドとの重合によって生成されることを特徴とする、請求項3に記載の医療製品。
【請求項8】
前記糖類が単糖類であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項9】
前記糖類が、その非官能化形態で、少なくとも部分的に糖アルコール、あるいは、脱水により糖アルコールから誘導可能な環式または複素環式化合物であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項10】
前記重合性基が、反応性多重結合、特に二重結合を含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項11】
前記反応性二重結合が、(メタ)アクリル、アリルまたはビニル基の構成要素であることを特徴とする、請求項10に記載の医療製品。
【請求項12】
前記コーティングが、接着促進剤を有するキャリア層を含み、前記機能性層が、前記キャリア層に結合されていることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項13】
前記医療製品への前記接着促進剤の結合および/または前記キャリア層への前記機能性層の結合が、共有結合であることを特徴とする、請求項12に記載の医療製品。
【請求項14】
前記接着促進剤が、ケイ素化合物、特にシラン化合物を含むことを特徴とする、請求項12または13に記載の医療製品。
【請求項15】
前記重合性基と前記糖類および/またはペプチドとの間にスペーサーが存在することを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項16】
前記医療製品が、ニッケル、チタン、白金、イリジウム、金、コバルト、クロム、アルミニウム、鉄および/または上述の金属の合金を含む群から選択される金属から少なくとも部分的に製造されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項17】
前記医療製品が、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリオレフィン、および対応するブロックコポリマーを含む群から選択されるプラスチック材料から少なくとも部分的に製造されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項18】
前記医療製品が、身体内に永続的に留まるように意図されたインプラントであることを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項19】
前記医療製品が、血管内医療製品であることを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載の医療製品。
【請求項20】
前記医療製品が、神経血管または心血管医療製品あるいは末梢領域のための医療製品であることを特徴とする、請求項19に記載の医療製品。
【請求項21】
機能性層で医療製品をコーティングする方法であって、前記機能性層は、反応性基で官能化された糖類およびインテグリン結合モチーフを有する反応性基で官能化されたペプチドの反応によって製造されることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療製品用のコーティングに関し、コーティングは細胞接着を促進する特性を有する。
【背景技術】
【0002】
様々な病気のパターンを治療するための医療製品の使用または適用は、絶えず増加している。これらの医療製品の多くは、概して血管系または患者の身体に入り、治療中にそこに永続的に留まるインプラントである。
【0003】
このようなインプラントが永続的に異物として認識されないように、インプラントが移植後にできるだけ急速に生着することが有利である。このためには、体内細胞をインプラントに付着させなければならない。したがって、細胞接着を促進するコーティングが施されたインプラントが有利である。さらに、インプラントは、炎症を起こす可能性を有してはならない。血管に移植されるステントおよび類似の医療製品の場合、再狭窄も防止されなければならない。
【0004】
細胞接着および細胞の機械的固定を促進するアミノ酸配列は、アミノ酸アルギニン、グリシンおよびアスパラギン酸からなる一文字コードによるRGD配列である。この配列は、細胞外マトリックスのタンパク質、例えばフィブロネクチンおよびビトロネクチン中に存在する。インテグリン(細胞表面受容体)を用いて、細胞はこのアミノ酸配列に結合することができる。インテグリン結合モチーフを有する他のペプチド配列も知られている。
【0005】
改良された再内皮化特性を有するステントが、特許文献1に記載されている。細胞表面上のインテグリンへのインテグリン選択ペプチドの結合によって、細胞の増殖を誘導し従って再狭窄を引き起こし得るシグナル伝達カスケードが活性化されるが、本発明者らは、インテグリン活性化にもかかわらず、RGDペプチドが実際には再狭窄を抑制することを見出した。これは、ステントへの内皮細胞の接着の増加に起因し、これによって周囲組織へのステントの急速な内皮化および浸潤がもたらされ、したがって再狭窄の発生が防止される。
【0006】
しかしながら、血管内に留置されるインプラントに関しては、インプラント自体によって引き起こされる血液凝固の防止、すなわち血小板接着および血小板凝集の防止が非常に重要である。このような現象、したがって血液凝固または血栓の形成は、永続的または一時的なインプラントで、ならびに、治療または診断目的で患者の身体に短時間のみ挿入される医療器具で観察することができる。血小板は、身体の内因性タンパク質によって標識された、導入された医療製品の表面に付着し(血小板接着)、その結果、血栓が形成され得る(血小板凝集)。
【0007】
例えば、このような血栓が血管系において遊離すると、時に重篤または致命的になり得る二次的な疾患を引き起こす可能性がある。これは、主に、分離された血栓が洗い流され、より小さい血管内に塞栓の形で留まり、血管を大きく閉塞し、その結果、病変部の十分な灌流を危険にさらす場合である。結果として生じる臨床症状は、例えば、脳梗塞、心臓発作または血栓症であり得る。
【0008】
患者のためにこれらのリスクを最小限に抑えるために、概して、手術または介入が必要な場合に血栓症のリスクを低減するため、二重血小板阻害が最近の一般的な方法である。この場合、患者は通常、手術前に抗血小板薬/血小板凝集阻害剤の組合せ、特にアセチルサリチル酸(ASA)およびクロピドグレルの組合せを初回投与され、手術後に所定の期間定期的に摂取を続けなければならない。これとは別に、二重血小板阻害に関するガイドラインに挙げられている他の血小板凝集阻害剤を投与することもできる。これらは通常、ASAと組み合わせたクロピドグレルの代わりに投与される。例えば、プラスグレルまたはチカグレロルである。
【0009】
二重血小板阻害の欠点は、それが全身性であり、したがって全身的な効果も有することである。したがって、二重血小板阻害の期間中、患者の出血のリスクが全体的に高まる。
【0010】
別の欠点は、二重血小板阻害に関連するリスク、特に出血リスクの増大が大きくて利点を確実に上回る一部の患者群にとって、二重血小板阻害が全く選択肢にならないことである。極端な場合、患者によっては、介入後に血栓形成のリスクから十分に保護することができないという理由だけで、特定の治療方法を受けることさえできない場合がある。例えば、二重血小板阻害療法は、血管内プロテーゼ(ステント等)の移植後に採用される確立した方法である。このため、特許文献2には、基質への結合時にのみオリゴマー化または重合する糖類で医療製品をコーティングすることが提案されている。これらは、血管の細胞を一種の粘液層で覆い、膜タンパク質(糖タンパク質)および膜脂質(糖脂質)に共有結合した様々な多糖類からなる、天然グリコカリックスを模倣する。したがって、これは生体模倣的効果である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2008/143933号
【特許文献2】国際公開第2018/210989号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、細胞接着または細胞付着を促進することによって周囲組織への医療製品の迅速な生着を保証するが、同時に血小板の接着および凝集の増加を防止する医療製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、本発明に従って、少なくとも部分的なコーティングを含む医療製品によって達成され、コーティングは機能性層を含み、機能性層は、糖類およびインテグリン結合モチーフを有するペプチド配列を含む。
【0014】
本発明は、一方では細胞接着および生着を促進するが、他方では特定の細胞タイプの接着、すなわち血小板接着を回避するという考えに基づく。これは、インテグリン結合モチーフを有するペプチド配列を医療製品に適用するだけでなく、さらに糖類を機能性層に組み込むことによって可能であることが見出された。
【0015】
本発明による医療製品は、少なくとも実際の医療製品のベースとして作用する基材、ならびに機能性層とを実質的に含む。機能性層は医療製品に所望の特性を付与する。
【0016】
インテグリン結合モチーフを有するペプチド配列として、RGDペプチド配列が特に好ましく、その細胞接着の媒介がよく研究されている。しかしながら、インテグリン結合モチーフを有する他のペプチド配列の使用も考えられる。本出願がペプチドまたはペプチド配列に言及する場合、関連する文脈が別段のことを示さない限り、少なくとも1つのインテグリン結合モチーフを有するペプチド/ペプチド配列を意味するものと理解される。
【0017】
糖類およびペプチド配列を医療製品の表面に結合させるために、好ましくは、糖類の重合およびペプチドとの反応が生じ、機能性層を形成する。このために、糖類およびペプチドの両方が、医療製品の表面に結合し重合を誘導することができる重合性基または反応性基で官能化される。ペプチドは必ずしも重合自体に関与する必要はなく、それを介して糖類との結合を行うことができる反応性基を含んでいれば十分である。しかしながら、糖類の重合性基およびペプチドの反応性基は、同一に選択されることが多い。
【0018】
このために、一方では糖類を、他方ではペプチドを、それぞれ重合性/反応性基に結合することができ、次いで、通常は少なくとも部分的に重合である反応が起こり、機能性層を形成する。糖類またはペプチドの構成要素である重合性/反応性基は、同一であるか、または少なくともそれらの間で反応が生じるものである。したがって、共重合が可能であり、それらの間で反応を生じることが可能である。しかしながら、医療製品の表面での官能化糖類およびペプチドの別個の反応も同様に可能である。重合を行うために、官能化糖類および官能化ペプチドの両方を含有する溶液を、基材上に塗布し、溶液から機能性層が形成される。官能化糖類および官能化ペプチドは、異なる比率で存在し得る。
【0019】
しかしながら、糖類またはペプチドが有する重合性/反応性基の重合または反応は、同時に起こる必要はない;物質の一方の基の反応を最初に行い、その後に物質の他方の基の反応性ユニットを適用することも可能である。したがって、重合性基または反応性基を備えた様々な化合物、すなわち一方では糖類および他方ではペプチドの2つ(またはそれ以上)の連続的な交換が問題となる。これに関連して、後重合とも称される。実際には、第一の重合性物質基を有する第一の溶液からの重合を最初に行い、次いで溶液を交換し、第二の重合性または反応性物質基を有する第二の溶液からの反応を行う。記載された後重合の原理において、官能化された糖類および官能化されたペプチドを、様々な比率で使用することもできる。
【0020】
一方でp-糖類および他方でp-ペプチドという別個の分子が使用され、ここでpは任意の重合性またはより一般的な反応性基を表し、したがって様々な変異体が生じ、そのうちのいくつかがここで例として挙げられる:
a)p-糖類およびp-ペプチドの同時重合
b)最初にp-糖類の重合、次いで溶液の交換およびp-ペプチドとの反応
c)最初にp-ペプチドとの反応またはp-ペプチドの重合、次いで溶液の交換およびp-糖類との反応またはp-糖類の重合
d)最初にp-糖類の重合、次いで溶液の交換およびp-ペプチドとの反応、その後、溶液のさらなる交換およびp-糖類の重合またはp-糖類との反応。
【0021】
同様にして、連続的な重合または反応の任意の他の組合せが原理的に考えられる。
【0022】
ペプチドの空間的膨張は単糖のものより著しく大きいので、通常は重合または反応させなければならない官能化糖類の量は、官能化ペプチドの量よりも多い。これは、同時に行われる重合、ならびに連続する後重合に当てはまる。このようにして、糖類およびペプチドのポジティブな特性は、コーティングされた医療製品の表面で同様に顕著になる。あるいは、上記の例d)に記載されるように、追加量のp-糖類を適用して、表面上で効果的な糖類の量を意図的に増加させることができる。
【0023】
ポリマーまたは重合性化合物とのさらなる反応のための官能基を有するRGDペプチドの一例は、
アセチル-Cys-Doa-Doa-Gly-Arg-Gly-Asp-Ser-Pro-NH2
であり、
ここで、Doa=8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸であり、
ロイトリンゲン/ドイツのCellendes GmbHから入手できる。官能化は、チオール基を介して達成され、例えば、これを介してポリビニルアルコールとの連結が生じ、これは今度はポリエチレングリコールと架橋することができる。ポリエチレングリコールユニットは、重合性アクリレート機能を有していてもよい。
【0024】
本発明に従って使用することができる別のRGDペプチドは、反応性アクリレート機能を有することができる、GRGDSPK(Gly-Arg-Gly-Asp-Ser-Pro-Lys)である。RGD配列を含むこのペプチドによるコーティングは、特に、最初にコーティングすべき表面上でp-糖類の重合を行い、次いで溶液をRGDペプチド溶液と交換し、その後、官能化されたGRGDSPKとの反応を行うことによって実施することができる。
【0025】
別の可能性は、糖類およびペプチドの両方を担持する重合性分子を提供することである。これは、重合性基が糖類に結合し、糖類がペプチドに結合する、またはその逆の態様で達成することもできる。アクリレートリンカーを使用する場合、その例は、
アクリレート-糖類-RGD-ペプチド
である。
【0026】
重合が生じて機能性層を形成する際に、両方の機能性を有する層が自動的に生じる。しかしながら、糖類およびペプチドユニットを有する重合性分子を使用する場合でも、機能性層の特性に選択的に影響を与えるために、追加のp-糖類またはp-ペプチドを同時に、後から、または予め適用することもできる。上記ですでに述べたように、一方でペプチドと他方でサッカリドとの間に存在する立体的な関係のために、追加のp-糖類を適用することが概して便宜である。
【0027】
したがって、糖類およびペプチド(p-糖類-ペプチド、pは任意の重合性/反応性基を表し、重合性/反応性基が結合している官能性とは無関係)の両方を有する重合性分子を使用することにより、様々な変異体が生じ、その一部を以下に例として挙げる:
a)p-糖類-ペプチドとp-糖類の同時(共)重合
b)最初にp-糖類の重合、次いで溶液の交換およびp-糖類-ペプチドの重合
c)最初にp-糖類-ペプチドの重合、次いで溶液の交換およびp-糖類の重合。
【0028】
重合性基と糖類またはペプチドとの間にはスペーサーが存在していてよい。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)ユニットの使用が可能である。PEGユニットの分子量は、好ましくは300~15,000Da、特に1,000~10,000Daまたは2,000~5,000Daである。
【0029】
本発明においてRGDペプチドに言及する場合、これはアルギニン、グリシンおよびアスパラギン酸(Arg-Gly-Asp)からなるRGDペプチド配列を有するペプチドを称する。このペプチド配列は、環化形態(cRGD)で存在してもよい。RGDペプチドはトリペプチドとして存在していてもよいが、全体としてより多くのアミノ酸で構成されてもよい;しかしながら、アルギニン、グリシンおよびアスパラギン酸の配列が含まれることが重要であり、これは、医療製品に接着する細胞のインテグリンを結合するために重要である。したがって、RGDペプチドは、例えば、配列:
Ap-RGD-Bq
を含んでもよく、
ここで、AおよびBは、それぞれ独立して天然または非天然アミノ酸であり、pおよびqは、それぞれ独立して0、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10であり得る。AおよびBはいずれも、ペプチド鎖内で変化することができる。
【0030】
例えば、
(-RGD-Zr-)
のようなRGD配列を有する環状ペプチドも可能であり、
ここでも、Zは同一または異なる天然または非天然アミノ酸であり、r=0、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10である。
【0031】
アミノ酸は、概して天然のL-アミノ酸であるが、本発明により請求されるように、個々のまたは限定的なD-アミノ酸の使用は排除されない。アミノ酸またはペプチド骨格が官能化されているか、またはさらなる基を有するRGD基を有するペプチドも、本発明の範囲内でRGDペプチドとみなされる。
【0032】
インテグリン結合モチーフを含有するペプチド配列による表面コーティングは、内皮細胞に対する細胞接着を増加させるが、著しく小さい血小板の細胞接着は増加させない態様で、有利に実施される。内皮細胞のサイズは約10~25μmであるのに対し、血小板は約1~4μmのサイズを有する。アンカー点として作用するペプチドの密度があまり高くない場合、内皮細胞は、接着を誘導する細胞反応を生じるのに十分なペプチドとすでに接触するが、血小板はそうではない。例えば、それらが個々のペプチドとのみ接触する場合、媒介シグナルは、血小板の接着を誘導するにはまだ十分ではない。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、これはおそらく、アンカー点の密度が低い場合、インテグリン受容体を介した最初の接着が理論的にまだ可能であるが、インテグリンのクラスター化を介して媒介される細胞活性化にとっては間隔が大きすぎることに起因する。
【0033】
RGDペプチドを備えた表面で行われた研究から、固定化されたペプチドリガンドの間隔は、有利には少なくとも40nm、さらに有利には少なくとも50nm、特に少なくとも60nmであることが判明した。500nmまでのペプチドリガンドの間隔が特に有利であることが判明した。ペプチドリガンドのこのような間隔は、一方では内皮細胞の十分な付着および接着を保証するが、血小板についてはまだ観察されていない。その結果、血小板凝集のリスクを増大させることなく、内皮細胞の付着および医療製品、特にインプラントの成長を促進するという目的が達成される。コーティング反応に影響する反応条件、例えば濃度、時間、温度、官能化ペプチドの選択などを適切に選択することによって、所望の表面被覆を、意図的に設定し、例えば走査型電子顕微鏡または原子間力顕微鏡によって確認することができる。
【0034】
好ましくは、重合性基に結合される糖類は、単糖類である。これに関連して、糖類とは、糖類の還元および酸化生成物、特に糖アルコールも含むことを意味する。オリゴマー化または重合は、基質への結合時にのみ生じる。官能化単糖類は、基質に共有結合し、単糖類が結合する基は基質に共有結合することができるように構成される。したがって、機能性層は、適用された官能化単糖類の重合および官能化ペプチドとの反応によって生じる複合マトリックスを含む。
【0035】
好ましくは、非官能化形態の糖類は、少なくとも部分的に糖アルコールまたは関連する誘導体あるいは異性体である。糖アルコール(アルジトール)は、アルデヒド官能基がアルコールに還元された糖の還元生成物である。
【0036】
機能性層の好ましい糖アルコールは、その非官能化形態で、分子式C
6H
14O
6を有する糖アルコール、例えばソルビトールおよび/またはその誘導体、例えばソルビタンに相当する。他の糖アルコールは、マンニトール、ラクチトール、キシリトール、トレイトール、エリトリトールまたはアラビトールであり得る。ソルビトールの構造を以下に示す:
【化1】
【0037】
「非官能化形態で」とは、言及された分子式が官能化されていない糖アルコールの分子式を表すが、適切な場合には、その誘導体および/または異性体も含むことを意味する。
【0038】
化学において一般的に使用される「類似構造の誘導物質」なる用語の定義に加えて、本発明の目的のために、誘導体は、脱水によって物質から誘導することができる全ての環式および複素環式化合物であると理解されるべきである。この例は、ソルビタンまたは無水ソルビタンであり、ソルビトールからの水分子の分離によって形成される。したがって、これはソルビトールの無水物を表す。別の例は、水分子のさらなる分離によって得られるイソソルビドである。
【0039】
糖類およびペプチドが官能化されている重合性基は、反応性多重結合、特に反応性二重結合を有することができる。したがって、重合は二重結合を介して行うことができる。特に、重合反応に適することが当業者に知られるアクリル基またはメタクリル基でもよい。重合に適した他の基、例えばビニルまたはアリルを使用することも可能である。ペプチドに関して、重合性基、特に(メタ)アクリレートリンカーは、例えばN-末端に位置することができる。したがって、糖類のオリゴマー化または重合は、通常、糖類が官能化されている重合性基を介して行われる;他方、グリコシド結合の新たな形成は通常起こらない。
【0040】
したがって、本発明により提案されるコーティングの機能性層が構成される溶液は、糖成分として以下の物質の1つまたは複数を含むことができる:
(1)アクリレート基が異なる位置に配置されていてもよい、ソルビトール-アクリレート(1つまたは複数のアクリレート基からなる)。
【化2】
【0041】
(2)ソルビトールアクリレートが部分的に酸化されていてもよく、アルデヒド、ケトおよび/またはカルボキシ基を含み得る、ソルビトールアクリレート(1つまたは複数のアクリレート基を含む)。
【化3】
【0042】
(3)カルボキシ基などのさらなる反応性基を含み得る、ソルビトールアクリレート(1つまたは複数のアクリレート基を有する)。
【化4】
【0043】
(4)無水物、例えば重合性基を含むソルビタン(モノ)アクリレート。
【化5】
【0044】
(5)非重合性基、例えばカルボキシ基を有するソルビトール。
【化6】
【0045】
(6)重合性ではないが機能性層のポリマーマトリックス中に組み込むことができる、複合ソルビトール化合物。
【化7】
【0046】
機能性層の構造は、物質の具体的な組成によって変えることができる。例えば、架橋剤の割合を高めることによって、より緊密な網目状の機能性層を製造するか、または架橋剤の割合を低減することによって、より長い線状領域を有するより低度に架橋した機能性層を製造することが可能である。
【0047】
本発明によれば、基材に相当する医療製品自体は、通常、接着促進剤を含むキャリア層によって覆われ、このキャリア層を介して機能性層を基材に結合することができる。本発明の範囲内で、好ましい接着促進剤はシラン接着促進剤である。あるいは、他の接着促進剤、例えばポリオレフィン接着促進剤、またはチタン酸塩またはジルコン酸塩をベースとする接着促進剤を使用することもできる。
【0048】
接着促進剤のさらなる例は以下の通りである
-貴金属基材に特に適している、チオールおよびジチオ化合物
-白金基材に特に適している、アミンおよびアルコール
-銀基材およびアルミニウム基材に特に適している、カルボン酸;アルミニウム基材は酸化アルミニウム表面を有し得る
-鉄、酸化鉄、チタンおよび二酸化チタン基材に特に適している、ホスホン酸(ホスホネート)
-様々の金属および金属酸化物基材に特に適している、ある程度は基材と非共有結合する、錯体化接着促進剤、特にキレート。
【0049】
接着促進剤は、原則として共有結合が可能なように、官能基を含むべきであり、これを介して接着促進剤が機能性層と反応することができる。医療製品の関連する材料に応じて、接着促進剤の衣料製品への結合も共有結合でもよい。
【0050】
例えば、適切な接着促進は、シラン化、すなわちケイ素化合物、特にシラン化合物をその表面の少なくとも一部に化学的に結合することによって達成することができる。表面上で、ケイ素化合物およびシラン化合物は、例えばヒドロキシ-およびカルボキシ基に結合している。
【0051】
本発明の意味におけるシラン化合物とは、一般式RmSiXn(m、n=0~4、ここでRは有機ラジカル、特にアルキル、アルケニルまたはアリール基を表し、Xは加水分解基、特にOR、OHまたはハロゲンを表し、R=アルキル、アルケニルまたはアリールである)に従う全ての化合物である。特に、シランは一般式RSiX3を有することができる。さらに、本発明の目的のために、いくつかのケイ素原子を有する関連化合物もシラン化合物に数えられる。特に、有機ケイ素化合物の形態のシラン誘導体は、本発明に従ってシラン化合物とみなされる。したがって、本発明の意味におけるシラン化合物は、ケイ素骨格および水素からなり、シランとして指定される物質のみではない。
【0052】
塩素化ポリオレフィン(CPO)またはアクリル化ポリオレフィン(APO)を含むポリオレフィンも接着促進剤として使用することができる。
【0053】
コーティング可能な基材を形成する医療製品は、様々な材料で作製することができる。これらには、例えば、ニッケル、チタン、白金、インジウム、金、コバルト、クロム、アルミニウム、鉄または合金などの金属、ならびにこれらの組合せが含まれる。例えば、ある金属を別の金属でコーティングすることもでき、この場合、本発明により請求されるコーティングは、好ましくはキャリア層および機能性層を含む外側の金属層上に塗布される。ベースの金属が酸化物層によって覆われている基材も、コーティング可能な金属に含まれる。他のコーティング可能な基材はガラスである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明により提案されるコーティングを用いて一連の実験をインビトロで行い、一方では内皮細胞および他方では血小板の接着に対する影響を調べた試験の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0055】
特に好ましい実施形態は、金コーティングを全体的にまたは部分的に施した医療製品に関し、金コーティングによってX線可視性が確保される。特に、これにより、血管内の医療製品の拡張を視覚化することができ、治療医は、拡張が所望のように行われるかどうかを認識することができる。これは、例えば、インプラントが血管痙攣の治療を目的とする場合に特に有利である。次に、金コーティングは、本発明のコーティングにより覆われ、機能性層は、糖類およびインテグリン結合モチーフを有するペプチド配列を含む。ほとんどの場合、キャリア層も適用される。金コーティングが適用される医療製品のベース材料は、関連する医療製品のための通常の金属または通常の金属合金、例えばニッケル-チタン合金、コバルト-クロム合金またはステンレス鋼であってよい。
【0056】
ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリオレフィン、ならびに関連するブロックコポリマーなどの様々なプラスチックから医療製品を製造することも可能である。医療工学の分野において、多数の適切なプラスチックが当業者に既知である。金属表面または酸化物表面には通常は接着促進剤が必要であるが、基材として用いられるポリマーには必ずしも必要ではない。
【0057】
しかしながら、本発明は、上述のプラスチックおよび金属のコーティングに限定されるものではなく、むしろ、例としてのみ理解されたい。原理的には、本発明は、関連する医療製品に適する全ての考えられる材料のコーティングを対象とすることを意図する。
【0058】
好ましくは、機能性層のマトリックスは、キャリア層または基材に共有結合しており、好ましくはグラフト重合によって合成され、機能性層はキャリア層または基材上に生成される。糖類およびペプチドを担持する適用された重合性基の重合は、好ましくは本質的にキャリア層/基材上で、機能性層内で起こり、それより前には起こらない。
【0059】
異なるタイプの(グラフト)重合が本発明に含まれると理解される。したがって、側鎖の成長は特に主鎖から開始することができる。このアプローチは「grafting from」とも呼ばれる。同様に、側鎖が既にオリゴマー化または重合を開始し、既に成長している側鎖が主鎖に結合することも可能である(「grafting onto」)。さらに、オリゴマー化または重合された主鎖および側鎖が会合することもできる(「grafting through」)。
【0060】
好ましくは、機能性層は、それぞれがポリマー骨格としての主鎖と複数の側鎖とを有する複数の分子を含む、複雑かつ高度に分岐した親水性マトリックスを実質的に含む。主鎖および/または側鎖は、他の主鎖および/または側鎖と結合を形成してもよい。他のマトリックスを形成するモノマー、オリゴマーおよびポリマーは、それ自体がキャリア層に共有結合することなく、これらの主鎖および側鎖に組み込むことができる。
【0061】
主鎖は、少なくとも部分的に重合されたビニル、アリル、アクリルまたはメタクリル化合物、またはそれらの誘導体および/またはそれらの異性体またはそれらの組合せを含むことができる。
【0062】
側鎖は、特に単糖類および/またはオリゴ糖類を含み、単糖類またはオリゴ糖類の還元生成物、特に糖アルコール(アルジトール)ならびにペプチドもそのように理解される。さらに、酸化された単糖類および/またはオリゴ糖類が生じてもよく、酸化された形態も、本発明の目的のために単糖類またはオリゴ糖類と理解される。
【0063】
本発明により提案される医療製品は、コーティングされた基材としての医療製品の基本構造を含み、前記コーティングは、好ましくは、基材上に存在するキャリア層と、キャリア層上に存在する機能性層とを含む。キャリア層は、本質的に、基材に共有結合することができる接着促進剤を含む。さらに、非共有結合性の接着促進剤、例えば錯体結合を介して基材に結合する接着促進剤も既知である。好ましい接着促進剤は、ケイ素化合物およびポリオレフィン系接着促進剤である。好ましい実施形態によれば、機能性層は、少なくとも1つの官能化糖アルコールを含み、これを介して機能性層がキャリア層に共有結合される。
【0064】
機能性層の好ましい糖アルコールは、その非官能化形態で、分子式C6H14O6を有する糖アルコール、例えばソルビトールおよび/またはその誘導体、例えばソルビタン、および/またはその異性体、例えばマンニトールに相当する。
【0065】
「非官能化形態で」とは、言及された分子式が官能化されていない糖アルコールの分子式を表すが、適切な場合には、その誘導体および/または異性体も含むことを意味する。官能化とは、基材、キャリア層および/またはキャリア層または基材に既に付着した化合物への結合を可能にする化合物中への官能基の導入を示すと理解される。
【0066】
本発明による機能性層は、分子式C6H14O6の糖アルコールおよび/またはその誘導体および/またはその異性体の官能化変異体を含んでもよい。機能性層は、特に、適用された官能化糖アルコールの重合によって生じ得る複合マトリックスを含むことができる。
【0067】
機能性層の糖アルコールは、少なくとも部分的に互いに重合されていてよい。
【0068】
好ましくは、コーティングは、基材上に位置するキャリア層を含み、次いで機能性層がキャリア層に結合されている。形成された結合は、特に共有結合であってよいが、錯体結合のような他の結合であってもよい。キャリア層は、基材に結合した接着促進剤を本質的に含む。好ましい接着促進剤は、ケイ素化合物およびポリオレフィン系接着促進剤である。
【0069】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、糖類に関する本発明によるコーティングの利点は、機能性層が生体模倣特性または生体反発特性を有し、血小板によって体の異物として認識されず、むしろ内因性のものであると認識されるという事実に見られる。したがって、本発明により提案される機能性層は、血小板の反応を引き起こさず、特に接着反応または凝集反応を生じさせない。
【0070】
本発明のコーティングの生体模倣効果は、本発明の機能性層がヒトのグリコカリックスを模倣することに起因する。グリコカリックスは、血管の細胞を一種の粘液層で覆い、膜タンパク質(糖タンパク質)および膜脂質(糖脂質)に共有結合した様々の多糖類からなる。
【0071】
本発明により提案されるコーティング、特に機能性層の高い生体模倣効果に関して、機能性層溶液の反応物の重合が、本質的に機能性層溶液を基材またはキャリア層に塗布した後にのみ起こることが有利である。その結果、反応物の重合により、本発明のコーティングが施された表面への血小板の接着が、コーティングされていない表面への接着よりも有意に低くなるように、グリコカリックスに対して非常に類似した複合層が生じる。
【0072】
本発明によるコーティングの生体反発効果は、立体反発の原理に基づく。おそらく、表面上のオリゴマーおよびポリマーが利用可能な空間は、タンパク質がこの空間に侵入すると減少する、すなわち、接近するタンパク質は、表面上のオリゴマーおよびポリマーによりエネルギー的に好ましくない形態をとらせる。これにより、全体としてタンパク質に対して反発力が生じる。コーティングからの水分子の移動によって、タンパク質に対して反発性の浸透力が生じることも考えらえる。
【0073】
血小板接着に関して、この作用原理は、結合に適したタンパク質が表面に存在しないかまたはほんのわずかしか存在しないので、血小板の接着が防止され、血小板接着が著しく低減されることを意味する。
【0074】
他方で、機能性層中のペプチドの存在により、通常は体内に持続的に留まることを意図されたインプラントである、医療製品への内皮細胞の接着が増大する。細胞接着が高められることにより、インプラントの迅速な内皮化および周囲組織への定着が確保される。
【0075】
本発明によるコーティングの別の利点は、接着促進の中間段階を介して、コーティングが、関連する接着促進剤のために活性化可能であり、特に活性化された、医療製品の表面および構造のみを被覆することである。したがって、機能性層溶液を塗布する際に、コーティングすべきでない領域を付加的に保護する必要なしに、医療製品全体を機能性層溶液中に配置することが可能である。
【0076】
このような選択的コーティング、それぞれ選択的に実施されるコーティング方法は、複数の医療製品について、少なくとも、異なる材料から作製される医療製品(この場合、関連するコーティングはこれらの材料の一部にのみ適用される)について、上述の利点を提供する。
【0077】
本発明により提案されるコーティングは、コーティング方法が、後に機能性層を担持することが意図される医療製品の部分/領域のみを活性化することを可能にする。また、コーティングされる部分が接着促進のために活性化可能な物質を含むように、医療製品が既に設計されていることも考えられる。
【0078】
本発明によるコーティングが施された医療製品は、血管内、特に神経血管および心血管の分野の適用のために適切である;しかしながら、医療製品のために本発明により提案されるコーティングは、血液と接触するすべての医療製品に常に便宜に適用し得る。
【0079】
本発明により提供される医療製品は、例えば、ステント(血管内プロテーゼ)であってもよく、これは例えば、血管狭窄の治療に使用され、血管狭窄の部位に永久的に移植されて血管を開放状態に保つ。コーティングにより、インプラントは組織中に迅速に定着し、所定の時間の後、身体によってもはや異物として認識されない。典型的には、ステントは管状構造を有し、間に開口が存在するストラットを含む表面を達成するようにレーザ切断によって作製されるか、またはワイヤメッシュを含む。ステントは、カテーテルによって標的部位に送達され、そこで拡張され得る
【0080】
血管痙攣を治療するために、ステント様インプラントを血管に移植することもできる。血管痙攣は、血管の痙攣性収縮である。血管痙攣は、下流の血管に充分な量の血液が供給されず(虚血)、灌流が遮断された組織の壊死につながり得るという危険を伴う。血管痙攣ステントの設置によって、血管が拡張される。
【0081】
コーティングの別の適用分野は、例えば動脈瘤の治療に使用される、フローダイバータである。基本的な設計およびコーティングに関しては、上述したことが当てはまるが、フローダイバータの表面被覆率および表面密度は、典型的には、通常のステントのものを上回る。フローダイバータは、動脈瘤の頸部の前に配置されて、血流を迂回させて動脈瘤を通過させ、最終的に動脈瘤が萎縮することを確保する。
【0082】
動脈瘤の前方に配置されるステント構造またはフローダイバータの別の可能な機能は、動脈瘤内に組み込まれた閉塞コイルなどの閉塞手段の脱出を防止することである。動脈瘤からの閉塞手段のこのような流出または脱出は、例えば、閉塞手段が血流によってさらに遠位に位置する領域に運ばれ、そこで血管の閉塞または血管壁の損傷をもたらすなど、望ましくない結果をもたらす可能性がある。この目的のために、ステント構造は、血管内に永続的に埋め込むことができる。
【0083】
フローダイバータのサブグループは、血管の分岐部位(分岐部)に位置する動脈瘤の前に配置される、いわゆる分岐フローダイバータである。このような分岐フローダイバータまたは分岐インプラントは、例えば、国際公開第2014/029835号に記載されている。このようなインプラントの遠位部分は、より近位に位置する部分に対して半径方向に拡張される。前記遠位部分は、動脈瘤の頸部を少なくとも部分的に閉塞するように構成されている。血小板の接着および凝集を防止するために記載されたコーティングは、そのような分岐インプラントにも有用である。
【0084】
「近位」および「遠位」なる用語は、装置を挿入する際に治療する医師の方を向く部分を近位と称し、治療する医師から離れる方を向く部分を遠位と称することを理解されたい。したがって、装置は典型的にはマイクロカテーテルによって遠位方向に前進される。「軸方向」なる用語は、近位から遠位へ延びるインプラントの長手軸を指し、「半径方向」なる用語は、これに対して垂直に延びるレベル/平面を指す。
【0085】
記載されたインプラントは、互いに接続されたウェブまたはストラットから構成されてもよい。そのような構造は、基本的に既知の方法でレーザ切断によって製造することができる;これに関連して、切断構造とも称される。このようにして、インプラント上に複数の開口部またはメッシュ構造が形成され、開口部はステント構造の周囲にわたって分配される。他の製造プロセス、例えばガルバニック製法またはリソグラフィ製法、3Dプリントまたはラピッドプロトタイピングを採用してもよい。
【0086】
あるいは、関連するインプラントは、編組を形成するワイヤのメッシュ構造から構築されてもよい。この場合、ワイヤは、典型的には長手方向軸に沿って螺旋状に延びており、交差する対向ワイヤは交点において互いに上下に延びており、これによって、ワイヤ間にハニカム状の開口部が形成される。ワイヤの総数は8~64であることが好ましい。メッシュ構造を形成するワイヤとして、金属製の個々のワイヤを採用してもよいが、ストランド、すなわち小径の複数のワイヤを、好ましくは互いに撚り合わされるフィラメントを形成するように配置してもよい。
【0087】
通常は近位端において、インプラントは、分離点を介して挿入補助具、特に挿入ワイヤに接続することができる。例えば、分離点は、電解腐食性に設計されていてよく、電圧が印加されるとインプラントの分離が行われる。同様に、従来技術から既知の他の分離点、特に機械的、熱的または化学的に分離可能な分離点を使用することもできる。機械的な分離/切断の場合には、典型的には、形状嵌合、力嵌合または摩擦嵌合が存在し、インプラントの解放時に解除されて、インプラントが挿入補助具から分離される。熱的な分離点の場合、分離点を加熱することによって接続が解除され、軟化または溶融されて、切断が達成される。別の選択肢は、分離点で起こる化学反応によって分離が生じる化学的切断を使用することである。
【0088】
インプラントは、自己拡張型に設計することができる、すなわち、インプラントは、解放後に自律的に膨張状態をとる。このために、インプラントは、形状記憶特性を有する材料、例えばニチノールという名称で知られているニッケル-チタン合金から製造される。他のステント様インプラントは、バルーンを用いて拡張されるが、本発明により請求されるコーティングは、そのようなインプラントにも使用することができる。
【0089】
便宜上、治療医が治療を視覚化できるようにするために、医療製品は、1つまたは複数の放射線不透過性マーカーを備える。放射線不透過性マーカーは、例えば、白金、パラジウム、白金-イリジウム、タンタル、金、タングステン、または他の放射線不透過性金属でもよい。例えば、放射線不透過性コイルを医療製品の様々な箇所に配置することができる。ステント構造、特にステント構造のストラットまたはワイヤに、放射線不透過性材料からなるコーティング、例えば金コーティングを施すことも可能である。例えば、このコーティングは、1~6μmの厚さを有することができる。放射線不透過性材料によるコーティングは、医療製品全体を覆う必要はない;これは、特に、血管内壁と接触する領域において、すなわち、本質的にステント構造の円筒部分において重要である。それでもなお、放射線不透過性コーティングを設ける場合でも、1つまたは複数の放射線不透過性マーカーを、特に医療製品の遠位端に追加的に配置することが有用であると考えられる。
【0090】
本発明による医療製品に加えて、本発明は、このような医療製品の製造方法、すなわち、医療製品を機能性層でコーティングする方法にも関し、機能性層は、反応性基で官能化された糖類と反応性基で官能化されたペプチドとを反応させることによって生成され、反応は概して少なくとも部分的に重合である。
【0091】
医療製品に関する全ての説明および記載された特徴の組合せは、対応する態様で本発明による方法にも当てはまり、逆も同様である。
【0092】
請求項に個々に含まれる任意の特徴および特性は、任意選択的におよび技術的に目的に適った態様で互いに組み合わされてもよく、本発明のさらなる実装形態または方法が明らかにされることに留意されたい。
【0093】
試験
本発明により提案されるコーティングを用いて一連の実験をインビトロで行い、一方では内皮細胞および他方では血小板の接着に対する影響を調べた。試験した小ニチノールサンプルプレートを3つのグループに分けた:
1)コーティングされていない小ニチノールプレート(A+D)
2)表面上で重合し重合性基で官能化された糖アルコールのコーティングを有する小ニチノールプレート(B+E)
3)ペプチドGRGDSPKでさらにコーティングされた第2グループに対応する小ニチノールプレート(C+F)。
【0094】
結果を
図1に示す。プレートA~Cには、ヒト内皮細胞(HUVEC;ヒト臍帯静脈内皮細胞)を播種し、特異的蛍光色素で染色した。プレートD~Fは、ヒト全血と共にインキュベートした。接着血小板を特異的蛍光色素で染色した。
【0095】
コーティングされていないプレートAおよびDは、内皮細胞(A)および血小板(D)の両方の細胞の強い集積を示すことがわかる。対照的に、糖類層のみが適用されたプレートBおよびEは、内皮細胞(B)および血小板(E)のいずれの細胞の付着もほとんど示さない。一方では、血小板の不存在は、新たな血栓形成を防止するために好ましい;他方では、インプラントの生着を促進するために内皮細胞の付着が望ましいであろう。
【0096】
後者はプレートCおよびFにより示される。内皮細胞のコロニー形成(C)は強く、コーティングされていないプレートに匹敵する大きさである。他方、血小板の集積はごくわずかのままである(F)。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】