IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インダストリー−アカデミック コーポレーション ファウンデーション,ヨンセイ ユニバーシティの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】腎臓疾患の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/22 20150101AFI20240130BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240130BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240130BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240130BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240130BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240130BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
A61K35/22
C12N5/071 ZNA
C12N5/10
C12N15/11 Z
C12N15/113 Z
C12Q1/68
A61P13/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547483
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 KR2022001727
(87)【国際公開番号】W WO2022169279
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】10-2021-0016870
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507175175
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コーポレーション ファウンデーション,ヨンセイ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】キ・テク・ナム
(72)【発明者】
【氏名】ユラ・イ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
4B065AA91X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA25
4B065BB19
4B065BC46
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB41
4C087BB63
4C087NA14
4C087ZA81
(57)【要約】
本発明による腎臓組織由来幹細胞;またはオルガノイドは、治療のための施術が容易であり、高い自己増殖能で大量供給が可能であり、腎臓細胞への分化能に優れ、腫瘍形成の可能性が低いだけでなく、病変に直接注入される場合、損傷した組織を再生する能力が非常に卓越する。したがって、このような幹細胞のうち、特に成体幹細胞ベースの再生治療に非常に好適に使用できる。また、本発明による組成物は、腎臓細胞のうち、特に腎臓幹細胞のみを特異的に選別することができる。さらに、Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓幹細胞は、再生能力および多能性に非常に優れ、ネフロンに分裂可能な能力を有しているので、腎臓疾患の予防または治療に非常に効果的に使用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lrig1(Leucine Rich Repeats And Immunoglobulin Like Domains 1)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む腎臓疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記腎臓組織由来幹細胞は、Klf6(Krueppel-like factor 6)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を追加的にさらに発現する、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記腎臓疾患は、急性腎損傷(Acute kidney injury;AKI)または慢性腎損傷(Chronic kidney disease;CKD)である、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓組織由来幹細胞を含む腎臓オルガノイド。
【請求項5】
前記腎臓組織由来幹細胞は、Klf6(Krueppel-like factor 6)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を追加的にさらに発現する、請求項4に記載の腎臓オルガノイド。
【請求項6】
請求項4または5に記載の腎臓オルガノイドを有効成分として含む、腎臓疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項7】
(a)目的とする個体から分離された腎臓上皮細胞から、Lrig1(Leucine Rich Repeats And Immunoglobulin Like Domains 1)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子が発現した細胞を分離するステップと、
(b)前記Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子が発現した細胞を培養するステップと、
(c)前記培養された細胞をマトリゲルに入れてオルガノイドを形成するステップと、を含む腎臓オルガノイドの製造方法。
【請求項8】
前記(a)ステップで分離された細胞は、Klf6(Krueppel-like factor 6)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を追加的にさらに発現するものである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記(b)ステップにおいて、前記遺伝子が発現した細胞を培養するステップは、ウシ胎児血清、成長因子および抗生剤が含まれている細胞培養培地を用いるものである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
前記(c)ステップにおいて、前記オルガノイドを形成するステップは、B27補充剤、条件培地、成長因子、N-アセチルシステインおよびALK5(TGFβ kinase/activin receptor-like kinase)抑制剤が含まれている細胞培養培地を用いるものである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記条件培地は、Wnt3a条件培地、ノギン(noggin)条件培地およびRspo1条件培地からなる群より選択される少なくとも1つ以上である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記マトリゲルは、成長因子減少マトリゲルである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項13】
Lrig1(Leucine Rich Repeats And Immunoglobulin Like Domains 1)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤を含む腎臓組織由来幹細胞検出用組成物。
【請求項14】
前記検出用組成物は、Klf6(Krueppel-like factor 6)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤をさらに含む、請求項13に記載の検出用組成物。
【請求項15】
前記遺伝子の発現レベルを測定する製剤は、前記遺伝子に特異的に結合するプライマー、プローブおよびアンチセンスヌクレオチドからなる群より選択される少なくともいずれか1つである、請求項13に記載の検出用組成物。
【請求項16】
前記タンパク質の発現レベルを測定する製剤は、前記タンパク質に特異的に結合する抗体、オリゴペプチド、リガンド、PNA(peptide nucleic acid)およびアプタマー(aptamer)からなる群より選択される少なくともいずれか1つである、請求項13に記載の検出用組成物。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか1項に記載の検出用組成物を含む腎臓組織由来幹細胞検出用キット。
【請求項18】
目的とする個体から分離された生物学的試料からLrig1(Leucine Rich Repeats And Immunoglobulin Like Domains 1)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップ、を含む腎臓組織由来幹細胞の検出方法。
【請求項19】
前記発現レベルを測定するステップの際、前記生物学的試料からKlf6(Krueppel-like factor 6)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを追加的に測定する、請求項18に記載の検出方法。
【請求項20】
前記遺伝子の発現レベルは、前記遺伝子に特異的に結合するプライマー、プローブおよびアンチセンスヌクレオチドからなる群より選択される少なくともいずれか1つ以上により測定されるものである、請求項18に記載の検出方法。
【請求項21】
前記タンパク質の発現レベルは、前記タンパク質に特異的に結合する抗体、オリゴペプチド、リガンド、PNAおよびアプタマーからなる群より選択される少なくとも1つ以上により測定されるものである、請求項18に記載の検出方法。
【請求項22】
前記Lrig1(Leucine Rich Repeats And Immunoglobulin Like Domains 1)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルが対照群と比較して増加した場合、腎臓組織由来幹細胞として検出するステップをさらに含む、請求項18に記載の検出方法。
【請求項23】
目的とする個体から分離された生物学的試料からLrig1(Leucine Rich Repeats And Immunoglobulin Like Domains 1)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子が発現する細胞を分離するステップ、を含む腎臓組織由来幹細胞の分離方法。
【請求項24】
前記分離される細胞は、Klf6(Krueppel-like factor 6)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を追加的にさらに発現するものである、請求項23に記載の分離方法。
【請求項25】
前記分離するステップは、磁気活性細胞分類法(Magnetic activated cell sorting;MACS)またはフローサイトメトリー分析(Flow cytometry Analysis)により行われるものである、請求項23に記載の分離方法。
【請求項26】
Lrig1(Leucine Rich Repeats And Immunoglobulin Like Domains 1)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓組織由来幹細胞を分離するステップと、
前記分離された腎臓組織由来幹細胞を培養するステップと、を含む腎臓組織由来幹細胞を培養する方法。
【請求項27】
前記分離される細胞は、Klf6(Krueppel-like factor 6)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を追加的にさらに発現するものである、請求項26に記載の培養する方法。
【請求項28】
腎臓疾患の予防または治療のための細胞治療剤スクリーニング用動物モデルの製造方法において,
Lrig1(Leucine Rich Repeats And Immunoglobulin Like Domains 1)を暗号化する遺伝子がCreERT2-LoxPシステムによって条件的に発現する動物に腎臓損傷を誘導するステップと、
前記動物にエストロゲン拮抗剤を処理して、目的とする遺伝子の発現を誘導するステップと、を含む、動物モデルの製造方法。
【請求項29】
前記腎臓損傷を誘導するステップは、葉酸の腹腔内投与;虚血/再灌流損傷を誘導;および片側性尿管閉塞誘導で構成された方法のいずれか1つを行うものである、請求項28に記載の動物モデルの製造方法。
【請求項30】
請求項28に記載の製造方法により製造された腎臓疾患の予防または治療のための細胞治療剤スクリーニング用動物モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎臓疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は生体の恒常性(homeostasis)を維持する重要な臓器であり、体内の体液量、血液中のイオン濃度とpHを調節し、代謝性老廃物、毒素、薬物などの老廃物を排泄し、血圧調節およびその他の代謝性、内分泌機能を行う。また、ビタミンDを活性化させて小腸でカルシウムが吸収されるように補助し、様々なホルモンの合成にも関与する。前記腎臓が排泄、調節、代謝および内分泌的機能を正常に行えずに全体的に機能が低下したり異常がもたされた状態を、腎臓疾患という。腎臓の損傷による機能の低下は、腎臓および関連構造の増大、腎臓の萎縮、体液量の変化、電解質不均衡、代謝性アシドーシス、ガス交換障害、抗感染機能損傷、尿毒性毒素の蓄積などをもたらす。特に、急性腎不全は、様々な原因によって腎臓機能が低下して高い致死率を示す難治性疾患である。腎臓機能が回復しても損傷の原因と程度によって再発したり治療されない場合、慢性および末期腎不全(end-stage renal failure)に進行したりする。
【0003】
現代医学の発展にもかかわらず、病院に入院する多くの患者が腎臓機能の低下によって多くの苦痛を強いられており、特に病気の重症度が高い患者は腎臓機能の低下によって腎代替療法が必要な場合が多い。急性腎損傷の有病率は入院患者の約5%で、重患者室に入院する患者の約30~50%まで報告されており、このような有病率は新しい治療法の開発にもかかわらず着実に増加する傾向にある。
【0004】
このような腎臓疾患を治療するために、幹細胞に対する前臨床報告書と臨床試験が現在活発に進められているのが現状である。具体的には、中間葉幹細胞、脂肪由来幹細胞、羊水幹細胞および腎臓前駆細胞などに至る多様なタイプの幹細胞が腎臓を復旧するのに多様に研究されている。このような幹細胞のうち、特に成人の腎臓に由来する成体幹細胞を用いた細胞治療剤は、向上した腎臓生着および分化の潜在的な利点があり、自己治療に非常に有用に活用できるなどの利点が存在する。
【0005】
このような脈絡で、腎臓の場合、近位細尿管末端、糸球体および腎乳頭(Renal papiila)に成体幹細胞が存在すると報告されており、このような幹細胞によって損傷した腎臓細胞の再生を誘導できる細胞治療剤に関する多様な研究が続いている。
【0006】
しかし、依然として、このような腎臓幹細胞を識別し治療剤として適用するための幹細胞を同定し、臨床に活用するための適用可能性などに関する研究は不備であるのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一目的は、腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む腎臓疾患の予防または治療用薬学組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、腎臓オルガノイドの製造方法;これにより製造された腎臓オルガノイド;および腎臓オルガノイドを有効成分として含む腎臓疾患の予防または治療用薬学組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、腎臓組織由来幹細胞検出用組成物;およびこれを含む腎臓幹細胞検出用キットを提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、腎臓組織由来幹細胞の検出方法;および腎臓幹細胞を分離する方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、腎臓組織由来幹細胞を培養する方法を提供することである。
【0012】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は以上に言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は以下の記載から当業界における通常の知識を有する者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1.腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む薬学組成物
本発明の一実施形態では、腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む腎臓疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0014】
本発明の前記腎臓幹細胞は、Lrig1(Leucine Rich Repeats And Immunoglobulin Like Domains 1)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を発現する。
【0015】
本発明の前記Lrig1またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓上皮細胞は、他の細胞とは異なり、幹細胞能を有する腎臓組織由来幹細胞であって、特に腎臓の後期発達段階である尿細管形成(Tubulogenesis)に関与してネフロンに分裂可能な能力を有することができる。したがって、本発明の目的上、前記幹細胞能を有するLrig1またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓上皮細胞を用いる場合には、腎臓疾患を非常に効果的に予防または治療することができる。
【0016】
本発明の前記「Lrig1」は、EGFR-系統、METおよびRETタンパク質などの受容体チロシンキナーゼと相互作用する膜通過タンパク質(transmembrane protein)である。前記Lrig1は、ヒト、サルなどの霊長類、マウス、ラットなどの齧歯類などを含む哺乳類に由来するものであってもよいし、例えば、ヒトのLrig1(アクセス番号:NM_015541によって暗号化されるポリペプチドまたはNP_056356、配列番号1で表されるポリペプチド)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0017】
また、本発明において、前記腎臓組織由来幹細胞は、Klf6(Krueppel-like factor 6)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を追加的に発現することができる。
【0018】
本発明の前記「Klf6」は、腫瘍抑制遺伝子(tumor suppressor gene)に相当するKLF6遺伝子によって暗号化されるタンパク質である。前記Klf6は、ヒト、サルなどの霊長類、マウス、ラットなどの齧歯類などを含む哺乳類に由来するものであってもよいし、例えば、ヒトのLrig1(アクセス番号:NP_001153596.1によって暗号化されるポリペプチドまたはNM_001160124.1;NP_001153597.1によって暗号化されるポリペプチドまたはNM_001160125.1[Q99612-3];NP_001291.3によって暗号化されるポリペプチドまたはNM_001300.5[Q99612-1]、配列番号2で表されるポリペプチド)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明の前記「腎臓組織由来幹細胞」は、腎臓の組織内に存在する幹細胞であって、腎臓のすべての細胞タイプに分化できる自己再生性(Self-renewing)および多能性幹細胞を意味する。このような幹細胞は、腎臓損傷の再生および恒常性に関与することができる。
【0020】
本発明の前記腎臓組織由来幹細胞は、細胞治療剤として使用されるものであってもよい。
【0021】
本発明の前記「細胞治療剤」は、患者に直接注入する治療方法に使用される生きている細胞であって、生きている自家細胞、同種細胞または異種細胞を体外で培養、増殖したり選別するなど、物理的、化学的または生物学的方法で操作して製造する医薬品を意味する。本発明の目的上、前記腎臓組織由来幹細胞は、患者の腎臓に存在するLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子が発現している幹細胞能に非常に優れているので、移植拒絶反応などのような副作用が非常に少ないという利点が存在する。
【0022】
本発明の前記「腎臓疾患」は、腎臓機能の弱化をもたらす疾患であって、腎臓機能の悪化が進行する速度によって急性腎損傷(Acute kidney injury;AKI)および慢性腎損傷(Chronic kidney disease;CKD)が含まれ、例えば、急性腎損傷であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明の前記腎臓疾患は、例えば、糸球体腎炎、慢性腎不全、急性腎不全、腎症候群、腎盂炎、腎臓結石および腎臓癌からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明の前記「予防」は、動物の病理学的細胞の発生または細胞の損傷、消失の程度の減少を意味する。予防は、完全であり、または部分的であってもよい。この場合には、個体内の病理学的細胞の発生または異常な免疫作用などが前記腎臓疾患の予防および治療用組成物を使用しない場合と比較して減少する現象を意味することができる。
【0025】
本発明の前記「治療」は、治療しようとする対象または細胞の天然過程を変更させるために臨床的に介入するすべての行為を意味し、臨床病理状態が進行する間、またはこれを予防するために行うことができる。目的とする治療効果は、疾病の発生または再発を予防したり、症状を緩和させたり、疾病によるすべての直接または間接的な病理学的結果を低下させたり、転移を予防したり、疾病の進行速度を減少させたり、疾病状態を軽減または一時的緩和させたり、予後を改善させることを含むことができる。すなわち、前記治療は、前記組成物によって腎臓疾患の症状が好転したり完治するすべての行為を包括すると解釈される。
【0026】
本発明の前記腎臓組織由来幹細胞は、1×10~1×10、1×10~2×10、2×10~4×10、4×10~6×10、6×10~8×10、8×10~1×10、1×10~2×10、2×10~4×10、4×10~1×1010、2×10~6×10、6×10~1×10、1×10~2×10、2×10~2×10、1×10~1×10、1×10~1×10、1×10~1×1010または1×10~1×10個のいずれか1つの細胞/kgの投与量で投与できるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明の前記薬学組成物は、カプセル、錠剤、顆粒、注射剤、軟膏剤、粉末または飲料形態であることを特徴とし、前記薬学組成物は、ヒトを対象にすることを特徴とする。
【0028】
本発明の前記薬学組成物はこれらに限定されるものではないが、それぞれ通常の方法により、散剤、顆粒剤、カプセル、錠剤、水性懸濁液などの経口型剤形、外用剤、坐剤および滅菌注射溶液の形態に剤形化されて使用できる。本発明の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。薬学的に許容される担体は、経口投与時には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などが使用可能であり、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などが混合されて使用可能であり、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などが使用可能である。本発明の薬学組成物の剤形は、上述のような薬学的に許容される担体と混合して多様に製造できる。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル(elixir)、サスペンション、シロップ、ウエハなどの形態に製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは多数回投薬の形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、徐放型製剤などに剤形化することができる。
【0029】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤および希釈剤の例には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートまたは鉱物油などが使用できる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などを追加的に含むことができる。
【0030】
本発明の前記薬学組成物の投与経路はこれらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれ、例えば、経口または非経口投与であってもよい。
【0031】
本発明の前記「非経口」とは、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、硬膜内、病巣内および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明の目的上、前記薬学組成物は、腎臓に直接注射される方式で投与できるが、これに限定されるものではない。
【0032】
本発明の前記薬学組成物は、使用された特定化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康、性別、食事、投与時間、投与経路、排出率、薬物配合および予防または治療される特定疾患の重症を含む様々な要因によって多様に変化可能であり、前記薬学組成物の投与量は、患者の状態、体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および期間によって異なるが、当業者によって適宜選択可能であり、1日0.0001~50mg/kgまたは0.001~50mg/kgで投与することができる。投与は、1日1回投与してもよく、数回分けて投与してもよい。前記投与量はいかなる面でも本発明の範囲を限定するものではない。本発明による医薬組成物は、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤に剤形化される。
【0033】
2.オルガノイド
本発明において、後述する腎臓オルガノイドは、治療のための施術が容易であり、高い自己増殖能で大量供給が可能であり、腎臓細胞への分化能に優れ、腫瘍形成の可能性が低いだけでなく、病変に直接注入される場合、損傷した組織を再生する能力が非常に卓越する。したがって、成体幹細胞ベースの再生治療に非常に好適に使用できる。特に、このような腎臓オルガノイドは、既存の中間葉幹細胞、胚幹細胞または逆分化万能幹細胞を用いる細胞治療剤と比較して直接再生効果に非常に優れているというメリットが存在する。
【0034】
以下、腎臓オルガノイド、腎臓オルガノイドの製造方法およびその用途について詳しく説明する。
【0035】
(1)腎臓オルガノイド
本発明の他の実施形態では、腎臓オルガノイドを提供する。
【0036】
本発明の前記腎臓オルガノイドは、Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓組織由来幹細胞を含む。
【0037】
本発明の前記Lrig1またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓上皮細胞は、他の細胞とは異なり、幹細胞能を有する腎臓組織由来幹細胞であって、特に腎臓の後期発達段階である尿細管形成(Tubulogenesis)に関与してネフロンに分裂可能な能力を有することができる。したがって、本発明の目的上、前記幹細胞能を有するLrig1またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓上皮細胞は、非常に効果的にオルガノイドを形成することができる。
【0038】
また、本発明において、前記腎臓組織由来幹細胞は、Klf6タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を追加的に発現することができる。
【0039】
本発明の前記腎臓オルガノイドにおいて、Lrig1またはKlf6タンパク質またはこれによって暗号化される遺伝子、腎臓組織由来幹細胞などに関する内容は、上記の「1.腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【0040】
本発明の前記「オルガノイド」は、3D立体構造を有する細胞を意味し、動物などから収集、取得していない人工的な培養過程により製造した組織と類似のモデルを意味する。2D培養とは異なり、3D細胞培養は、体外で細胞がすべての方向に成長することができる。
【0041】
(2)腎臓オルガノイドの製造方法
本発明のさらに他の実施形態では、腎臓オルガノイドの製造方法を提供する。
【0042】
本発明の前記製造方法は、(a)目的とする個体から分離された腎臓上皮細胞から、Lrig1(Leucine Rich Repeats And Immunoglobulin Like Domains 1)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子が発現した細胞を分離するステップと、(b)前記Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子が発現した細胞を培養するステップと、(c)前記培養された細胞をマトリゲルに入れてオルガノイドを形成するステップと、を含む。
【0043】
本発明の前記Lrig1またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓上皮細胞は、他の細胞とは異なり、幹細胞能を有する腎臓組織由来幹細胞であって、特に腎臓の後期発達段階である尿細管形成(Tubulogenesis)に関与してネフロンに分裂可能な能力を有することができる。したがって、本発明の目的上、前記幹細胞能を有するLrig1またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓組織由来幹細胞を用いる場合には、腎臓オルガノイドを非常に高い収率で製造することができる。
【0044】
また、本発明の前記(a)ステップで分離される細胞は、Klf6(Krueppel-like factor 6)タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子が発現するものであってもよい。
【0045】
本発明の前記腎臓オルガノイドの製造方法において、Lrig1またはKlf6タンパク質またはこれによって暗号化される遺伝子、腎臓組織由来幹細胞、オルガノイドなどに関する内容は、上記の「1.腎臓幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」および「(1)腎臓オルガノイド」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【0046】
本発明の前記(a)ステップにおいて、細胞を分離するステップは、目的とする個体から分離されたサンプルを解離させた後、通常の方法により磁気活性細胞分類法(Magnetic activated cell sorting;MACS)またはフローサイトメトリー分析(Flow cytometry Analysis)により行われるが、これに限定されるものではない。
【0047】
本発明の前記サンプルを解離させるステップは、コラゲナーゼ(Collagenase)を用いるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0048】
本発明の前記(b)ステップにおいて、前記遺伝子が発現した細胞を培養するステップは、ウシ胎児血清、成長因子および抗生剤が含まれている細胞培養培地を用いるものであってもよい。
【0049】
本発明の前記(c)ステップにおいて、前記オルガノイドを形成するステップは、B27補充剤、条件培地、成長因子、N-アセチルシステインおよびALK5(TGFβ kinase/activin receptor-like kinase)抑制剤が含まれている細胞培養培地を用いるものであってもよい。
【0050】
本発明の前記「成長因子」は、細胞の成長に必要な物質であって、例えば、VEGF(Vascular endothelial growth factor)、HGF(Hepatocyte growth factor)、IGF(Insulin-like growth factor)、EGF(Epidermal growth factor)、FGF(Fibroblast growth factor)などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0051】
本発明の前記「条件培地」は、Wnt3a条件培地、ノギン(noggin)条件培地およびRspol条件培地からなる群より選択される少なくとも1つ以上であってもよく、例えば、Wnt3a条件培地、ノギン(noggin)条件培地およびRspo1条件培地を含むものであってもよいし、例えば、40%Wnt3a条件培地、10%ノギン条件培地、10%Rspo1条件培地を含むものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明の前記「細胞培養培地」は、生体外(In vitro)で細胞株の成長および維持のための基本的な成分が含まれているものであって、例えば、DMEM(Dulbeco’s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI-1640、DMEM/F10、DMEM/F12、ADMEM/F12、GMEM(Glasgow’s Minimal essential Medium)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)などであってもよく、前記(b)ステップの細胞培養培地は、RPMI-1640であってもよく、前記(c)ステップの細胞培養培地は、ADMEM/F12であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明の一具体例において、前記(b)ステップにおいて、前記細胞培養培地には、10%ウシ胎児血清、20ng/mlのEGF(Epidermal growth factor)および1%ペニシリン-ストレプトマイシンが含まれるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0054】
本発明の一具体例において、前記(c)ステップにおいて、前記細胞培養培地には、1.5%B27補充剤、40%Wnt3a条件培地、10%ノギン条件培地、10%Rspo1条件培地、50ng/ml EGF、100ng/ml FGF-10、1.25mMのN-アセチルシステインおよび5μMのA8301(CAS no.CAS Number909910-43-6)が含まれているものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0055】
本発明の前記マトリゲルは、成長因子減少マトリゲルであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0056】
(3)腎臓オルガノイド
本発明の他の実施形態では、本発明による前記腎臓オルガノイドの製造方法により製造された腎臓オルガノイドを提供する。
【0057】
本発明の前記腎臓オルガノイドは、非常に優れた幹細胞能を有するLrig1またはこれを暗号化する遺伝子、好ましくは、Lrig1およびKlf6タンパク質またはこれらを暗号化する遺伝子を発現する腎臓組織由来幹細胞を用いて製造されたものであって、腎臓を非常に効果的に実現して腎臓損傷治療剤を効果的にスクリーニングできるだけでなく、直接腎臓損傷に使用される細胞治療剤として使用できる。
【0058】
本発明の前記腎臓オルガノイドにおいて、Lrig1またはKlf6タンパク質またはこれによって暗号化される遺伝子、腎臓オルガノイドおよび製造方法などに関する内容は、上記の「1.腎臓幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」および「(1)腎臓オルガノイド」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【0059】
(4)腎臓疾患の予防または治療用薬学組成物
本発明のさらに他の実施形態では、腎臓オルガノイドを有効成分として含む腎臓疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0060】
本発明の前記腎臓オルガノイドは、細胞治療剤として使用されるものであってもよい。
【0061】
本発明の前記腎臓疾患の予防または治療用薬学組成物において、Lrig1タンパク質またはこれによって暗号化される遺伝子、薬学組成物、予防、治療、腎臓オルガノイドおよび製造方法などに関する内容は、上記の「1.腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」および「(1)腎臓オルガノイド」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【0062】
本発明の前記腎臓オルガノイドは、1×10~1×10、1×10~2×10、2×10~4×10、4×10~6×10、6×10~8×10、8×10~1×10、1×10~2×10、2×10~4×10、4×10~1×1010、2×10~6×10、6×10~1×10、1×10~2×10、2×10~2×10、1×10~1×10、1×10~1×10、1×10~1×1010または1×10~1×10個のいずれか1つの細胞/kgの投与量で投与できるが、これに限定されるものではない。
【0063】
4.検出用組成物、キットおよび検出方法
(1)腎臓組織由来幹細胞の検出用組成物
本発明の他の実施形態では、腎臓組織由来幹細胞検出用組成物を提供する。
【0064】
本発明の前記検出用組成物は、Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤を含む。
【0065】
また、本発明の前記検出用組成物は、Klf6タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定する製剤をさらに含むことができる。
【0066】
本発明の前記検出用組成物において、Lrig1またはKlf6タンパク質および腎臓組織由来幹細胞などに関する内容は、上記の「1.腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【0067】
本発明の前記遺伝子の発現レベルを測定する製剤は、生物学的試料中に存在するDNAまたはこれによって転写されるmRNAの発現レベルを測定できるものであればすべて含まれてもよく、例えば、前記遺伝子に特異的に結合するプライマー、プローブおよびアンチセンスヌクレオチドからなる群より選択される少なくともいずれか1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0068】
本発明の前記「プライマー」とは、標的遺伝子配列を認知する断片であって、正方向および逆方向のプライマー対を含むが、好ましくは、特異性および敏感性を有する分析結果を提供するプライマー対である。プライマーの核酸配列が試料中に存在する非-標的配列と不一致の配列であるので、相補的なプライマー結合部位を含む標的遺伝子配列のみ増幅し、非特異的増幅を誘発しないプライマーの時、高い特異性が付与できる。
【0069】
本発明の前記「プローブ」とは、試料中の検出しようとする標的物質と特異的に結合できる物質を意味し、前記結合により特異的に試料中の標的物質の存在を確認できる物質を意味する。プローブの種類は当業界にて通常使用される物質として制限はないが、好ましくは、PNA(peptide nucleic acid)、LNA(locked nucleic acid)、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、RNAまたはDNAであってもよいし、最も好ましくは、PNAである。より具体的には、前記プローブは、バイオ物質として生物に由来するか、これに類似のもの、または生体外で製造されたものを含むものであり、例えば、酵素、タンパク質、抗体、微生物、動植物細胞および器官、神経細胞、DNA、およびRNAであってもよいし、DNAは、cDNA、ゲノムDNA、オリゴヌクレオチドを含み、RNAは、ゲノムRNA、mRNA、オリゴヌクレオチドを含み、タンパク質の例には、抗体、抗原、酵素、ペプチドなどを含むことができる。
【0070】
本発明の前記「LNA(Locked nucleic acids)」とは、2’-O、4’-Cメチレンブリッジを含む核酸アナログを意味する。LNAヌクレオシドは、DNAとRNAの一般的な核酸塩基を含み、ワトソン・クリック(Watson-Crick)塩基対規則によって塩基対を形成することができる。しかし、メチレンブリッジによる分子の「locking」によって、LNAは、Watson-Crick結合で理想的形状を形成できなくなる。LNAがDNAまたはRNAオリゴヌクレオチドに含まれると、LNAは、より速く相補的ヌクレオチド鎖と対をなして二重螺旋の安定性を高めることができる。
【0071】
本発明の前記「アンチセンス」は、アンチセンスオリゴマーがワトソン・クリック塩基対の形成によってRNA内の標的配列と混成化されて、標的配列内で典型的にmRNAとRNA:オリゴマーヘテロ二重体の形成を許容する、ヌクレオチド塩基の配列およびサブユニット間のバックボーンを有するオリゴマーを意味する。オリゴマーは、標的配列に対する正確な配列相補性または近似相補性を有することができる。
【0072】
本発明の前記遺伝子の情報は、前記NCBIアクセス番号により確認可能なサイトによって通常の技術者が容易に確認できるので、通常の技術者が導出された遺伝子配列に基づいて前記遺伝子に特異的に結合するプライマー、プローブまたはアンチセンスヌクレオチドを容易に作製することができる。
【0073】
本発明の前記タンパク質の発現レベルを測定する製剤は、生物学的試料中に存在するタンパク質の量を測定できるものであればすべて含まれてもよく、例えば、前記タンパク質に特異的に結合する抗体、オリゴペプチド、リガンド、PNA(peptide nucleic acid)およびアプタマー(aptamer)からなる群より選択される少なくともいずれか1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0074】
本発明の前記「タンパク質」は、そのタンパク質自体のみならず、スプライシングおよび可変プロモーターによって生成されるか、突然変異または多形成のような遺伝的変化によって生成できるタンパク質異性体(Isoform)またはタンパク質変異体(Variant)を含む。
【0075】
本発明の前記「抗体」は、抗原と特異的に結合して抗原-抗体反応を起こす物質を指す。本発明の目的上、抗体は、前記バイオマーカータンパク質に対して特異的に結合する抗体を意味する。本発明の抗体は、多クローン抗体、単クローン抗体および組換え抗体をすべて含む。前記抗体は、当業界にて広く公知の技術を利用して容易に製造できる。例えば、多クローン抗体は、前記タンパク質の抗原を動物に注射し、動物から採血して抗体を含む血清を得る過程を含む当業界にて広く公知の方法によって生産できる。このような多クローン抗体は、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、サル、ウマ、ブタ、ウシ、イヌなどの任意の動物から製造できる。また、単クローン抗体は、当業界にて広く公知のハイブリドーマ方法、またはファージ抗体ライブラリー技術を用いて製造できる。前記方法で製造された抗体は、ゲル電気泳動、透析、塩沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィーなどの方法を用いて分離、精製される。また、本発明の抗体は、2個の全長の軽鎖および2個の全長の重鎖を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的な断片を含む。抗体分子の機能的な断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)2およびFvなどをすべて含むものを意味する。
【0076】
本発明の前記「PNA」とは、人工的に合成されたDNAまたはRNAに類似の重合体を指し、1991年、デンマークのコペンハーゲン大学のNielsen、Egholm、BergとBuchardt教授によって初めて紹介された。DNAはリン酸-リボース糖骨格を有するのに対し、PNAはペプチド結合によって連結された繰り返しのN-(2-アミノエチル)-グリシン骨格を有し、これによってDNAまたはRNAに対する結合力と安定性が大きく増加して、分子生物学、診断分析およびアンチセンス治療法に使用されている。前記PNAは、本発明の技術分野にて広く知られた背景技術を参照してさらに具体化することができる。
【0077】
本発明の前記「アプタマー」とは、オリゴ核酸またはペプチド分子であり、アプタマーの一般的な内容は、文献[Bock LC et al.,Nature355(6360):5646(1992);Hoppe-Seyler F,Butz K“Peptide aptamers:powerful new tools for molecular medicine”.J Mol Med.78(8):42630(2000);Cohen BA,Colas P,Brent R.“Anartificial cell-cycle inhibitor isolated from a combinatorial library”.Proc Natl Acad Sci USA.95(24):142727(1998)]を参照して具体化することができる。
【0078】
本発明の前記抗体、オリゴペプチド、リガンド、PNAおよびアプタマーなどは、前記NCBIアクセス番号により確認可能なサイトによって確認可能なアミノ酸配列に基づいて通常の技術者によって容易に作製することができる。
【0079】
(2)腎臓組織由来幹細胞の検出用キット
本発明のさらに他の実施形態では、本発明による前記検出用組成物を含む腎臓組織由来幹細胞の検出用キットを提供する。
【0080】
本発明の前記キットにおいて、Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子、腎臓組織由来幹細胞、タンパク質の発現レベルを測定する製剤、遺伝子の発現レベルを測定する製剤などに関する内容は、上記の「1.腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」および「(1)腎臓幹細胞の検出用組成物」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【0081】
本発明の前記キットは、RT-PCRキット、DNAチップキット、ELISAキット、タンパク質チップキット、ラピッド(rapid)キットまたはMRM(Multiple reaction monitoring)キットであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0082】
本発明の前記キットは、分析方法に適した1種類またはそれ以上の他の構成成分組成物、溶液または装置をさらに含むことができる。
【0083】
本発明の一具体例において、前記キットは、逆転写重合酵素反応を行うために必要な必須要素をさらに含むことができる。逆転写重合酵素反応キットは、前記遺伝子に対して特異的なプライマー対を含む。プライマーは、前記遺伝子の核酸配列に特異的な配列を有するヌクレオチドであって、約7bp~50bpの長さ、より好ましくは、約10bp~30bpの長さを有することができる。また、対照群遺伝子(例えば、ハウスキーピング遺伝子)の核酸配列に特異的なプライマーを含むことができる。その他の逆転写重合酵素反応キットは、テストチューブまたは他の適切な容器、反応緩衝液(pHおよびマグネシウム濃度は多様)、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、Taq-ポリメラーゼおよび逆転写酵素のような酵素、DNase、RNase抑制剤DEPC-水(DEPC-water)、滅菌水などを含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0084】
本発明の他の具体例において、本発明の診断用キットは、DNAチップを行うために必要な必須要素を含むことができる。DNAチップキットは、遺伝子またはその断片に相当するcDNAまたはオリゴヌクレオチド(oligonucleotide)が付着している基板、および蛍光標識プローブを作製するための試薬、製剤、酵素などを含むことができる。また、基板は、対照群遺伝子(例えば、ハウスキーピング遺伝子)またはその断片に相当するcDNAまたはオリゴヌクレオチドを含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0085】
本発明のさらに他の具体例において、本発明の診断用キットは、ELISAを行うために必要な必須要素を含むことができる。ELISAキットは、前記タンパク質に対して特異的な抗体を含む。抗体は、マーカータンパク質に対する特異性および親和性が高く、他のタンパク質に対する交差反応性がほとんどない抗体で、単クローン抗体、多クローン抗体または組換え抗体である。さらに、前記ELISAキットは、対照群(例えば、ハウスキーピングタンパク質)タンパク質に特異的な抗体を含むことができる。その他のELISAキットは、結合した抗体を検出可能な試薬、例えば、標識された二次抗体、発色団(chromophores)、酵素(例:抗体とコンジュゲートされる)およびその基質または抗体と結合可能な他の物質などを含むことができる。
【0086】
(3)腎臓組織由来幹細胞の検出方法
本発明のさらに他の実施形態では、腎臓組織由来幹細胞の検出方法を提供する。
【0087】
本発明の前記検出方法は、目的とする個体から分離された生物学的試料からLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを測定するステップ、を含む。
【0088】
また、本発明の前記発現レベルを測定するステップの際、前記生物学的試料からKlf6タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルを追加的に測定することができる。
【0089】
本発明の前記検出方法において、腎臓組織由来幹細胞、Lrig1またはKlf6タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子などに関する内容は、上記の「1.腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」および「(1)腎臓幹細胞の検出用組成物」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【0090】
本発明の前記「生物学的試料」は、個体から得られるか、個体に由来する任意の物質、生物学的体液、組織または細胞を意味するものであり、例えば、全血(whole blood)、白血球(leukocytes)、末梢血液単核細胞(peripheral blood mononuclear cells)、白血球軟膜(buffy coat)、血漿(plasma)および血清(serum)を含む血液、尿(urine)、精液(semen)、器官分泌物(organ secretions)、細胞(cell)または細胞抽出物(cell extract)を含むことができ、例えば、腎臓組織または腎臓細胞であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0091】
本発明の前記遺伝子の発現レベルを測定するステップは、前記遺伝子に特異的に結合するプライマー、プローブおよびアンチセンスヌクレオチドからなる群より選択される少なくともいずれか1つである遺伝子の発現レベルを測定する製剤を用いて、逆転写重合酵素反応(RT-PCR)、競争的逆転写重合酵素反応(Competitive RT-PCR)、リアルタイム逆転写重合酵素反応(Real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA;RNase protection assay)、ノーザンブロッティング(Northern blotting)またはDNAチップなどにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0092】
本発明の前記タンパク質の発現レベルを測定するステップは、前記タンパク質に特異的に結合する抗体、オリゴペプチド、リガンド、PNA(peptide nucleic acid)およびアプタマー(aptamer)からなる群より選択される少なくともいずれか1つであるタンパク質の発現レベルを測定する製剤を用いて、タンパク質チップ分析、免疫測定法、リガンドバインディングアッセイ、MALDI-TOF(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、SELDI-TOF(Sulface Enhanced Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、放射線免疫分析、放射免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、補体固定分析法、2次元電気泳動分析、液体クロマトグラフィー-質量分析(liquid chromatography Mass Spectrometry、LC-MS)、LC-MS/MS(liquid chromatography-Mass Spectrometry/Mass Spectrometry)、ウェスタンブロッティングまたはELISA(enzyme linked immunosorbent assay)などにより行われるが、これに限定されるものではない。
【0093】
本発明の前記検出方法において、前記Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現レベルが対照群と比較して増加した場合、腎臓組織由来幹細胞として検出するステップをさらに含むことができる。
【0094】
5.腎臓組織由来幹細胞の分離方法
本発明のさらに他の実施形態では、腎臓組織由来幹細胞の分離方法を提供する。
【0095】
本発明の前記分離方法は、目的とする個体から分離された生物学的試料からLrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子が発現する細胞を分離するステップ、を含む。
【0096】
本発明の細胞を分離するステップの際、前記細胞は、Klf6タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子が追加的に発現するものであってもよい。
【0097】
本発明の前記分離方法において、Lrig1またはKlf6タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子、腎臓組織由来幹細胞、生物学的試料などに関する内容は、上記の「1.腎臓幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」、「(1)腎臓幹細胞の検出用組成物」および「(3)腎臓組織由来幹細胞の検出方法」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【0098】
本発明の前記分離するステップは、磁気活性細胞分類法(Magnetic activated cell sorting;MACS)またはフローサイトメトリー分析(Flow cytometry Analysis)により行われる。
【0099】
6.腎臓組織由来幹細胞を培養する方法
本発明のさらに他の実施形態では、腎臓組織由来幹細胞を培養する方法を提供する。
【0100】
本発明の前記培養する方法は、Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓組織由来幹細胞を分離するステップと、前記分離された腎臓組織由来幹細胞を培養するステップと、を含む。
【0101】
本発明の前記分離するステップの際、前記腎臓組織由来幹細胞は、Klf6タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子が追加的に発現するものであってもよい。
【0102】
本発明の前記分離方法において、Lrig1またはKlf6タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子、腎臓組織由来幹細胞などに関する内容は、上記の「1.腎臓幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【0103】
本発明の前記培養する方法は、本発明の前記5.腎臓組織由来幹細胞を分離する方法に記載された方法により、腎臓組織由来幹細胞を分離した後に、これを培養、例えば、試験管内(In vitro)で培養するものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0104】
本発明の前記培養するステップにおいて、「培養」とは、細胞の任意の試験管内の培養を意味する。本発明の培養は、細胞培養培地を用いることができ、細胞培養培地は、細胞を培養する環境で使用するすべての種類の培地を意味し、例えば、アミノ酸、エネルギー源として少なくとも1つの炭水化物、微量元素、ビタミン、塩および可能な追加成分(例:細胞の成長、生産性、または生産物の品質に影響を及ぼすため)を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0105】
7.動物モデルの製造方法
本発明のさらに他の実施形態では、腎臓疾患の予防または治療のための細胞治療剤のスクリーニング用動物モデルの製造方法を提供する。
【0106】
本発明の前記動物モデルの製造方法は、目的とする遺伝子がCreERT2-LoxPシステムによって条件的に発現する動物に腎臓損傷を誘導するステップと、前記動物にエストロゲン拮抗剤を処理して、目的とする遺伝子の発現を誘導するステップと、を含む。
【0107】
本発明の前記動物モデルの製造方法において、腎臓組織由来幹細胞、腎臓疾患、細胞治療剤に関する内容は、上記の「1.腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【0108】
本発明の前記「CreERT2-LoxPシステム」は、プロモーター特異的に発現したCre-ERT2ポリペプチドが2つのLoxPヌクレオチド配列を認識し、2つのLoxPヌクレオチド配列の間を部位特異的組換えを触媒して、前記LoxPヌクレオチドの下流の遺伝子を特異的に発現させるシステムをいう。このようなシステムの構築方法は、Lab Anim Res.2018Dec;34(4):147-159.などに記載された内容によって通常の技術者が容易に構築することができる。
【0109】
本発明の前記「目的とする遺伝子」は、細胞治療剤として使用できる可能性がある細胞で特異的に発現するか、または発現すると予想される遺伝子であって、本発明の目的上、Lrig1を暗号化する遺伝子、好ましくは、Lrig1を暗号化する遺伝子およびKlf6を暗号化する遺伝子であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0110】
本発明の前記「動物モデル」は、ヒトの疾病などと非常に類似の形態を示すことができる動物を意味する。このような動物モデルを用いる場合には、多様な疾病の原因と発病過程などを研究することができ、治療剤選別、毒性検査などのような可能性の有無を判断する基礎資料を得ることができる。
【0111】
本発明の前記動物は、ヒトを除いた任意の哺乳類動物を意味し、胚、胎児、新生児、成人を含むすべての年齢の動物を含む。このような動物は、ウサギ、齧歯類(マウス、ネズミ、ハムスター、アレチネズミまたはモルモット)、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、鳥(ニワトリ、シチメンチョウ、カモ、ガチョウ)および霊長類(チンパンジー、サル、アカゲザル)からなる群より選択されるいずれか1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0112】
本発明の前記腎臓損傷を誘導するステップは、葉酸の腹腔内投与;虚血/再灌流損傷を誘導;および片側性尿管閉塞誘導で構成された方法のいずれか1つを行うものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0113】
本発明の前記葉酸は、100mg/kg~300mg/kgで腹腔内投与されるものであってもよく、例えば、150mg/kgまたは250mg/kgで投与されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。前記葉酸の投与用量が100mg/kg未満の場合には、腎臓に急性腎臓損傷が誘導されないことがあり、300mg/kg超過の場合には、動物モデルに毒性が存在して、目的とする実験結果の解析に影響を及ぼしたり、または動物モデルが死亡することがある。
【0114】
本発明の前記エストロゲン拮抗剤は、タモキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、クロミフェン(Clomifene)、ラロキシフェン(Raloxifene)、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0115】
8.動物モデル
本発明のさらに他の実施形態では、本発明の前記製造方法により製造された腎臓疾患の予防または治療のための細胞治療剤スクリーニング用動物モデルを提供する。
【0116】
本発明の前記動物モデルにおいて、製造方法、細胞治療剤、腎臓疾患などに関する内容は、上記の「1.腎臓組織由来幹細胞を有効成分として含む薬学組成物」および「6.動物モデルの製造方法」に記載されたものと同一であるので、記載を省略する。
【発明の効果】
【0117】
本発明による腎臓組織由来幹細胞;またはオルガノイドは、治療のための施術が容易であり、高い自己増殖能で大量供給が可能であり、腎臓細胞への分化能に優れ、腫瘍形成の可能性が低いだけでなく、病変に直接注入される場合、損傷した組織を再生する能力が非常に卓越する。したがって、このような幹細胞のうち、特に成体幹細胞ベースの再生治療に非常に好適に使用できる。
【0118】
また、本発明による組成物は、腎臓細胞のうち、特に腎臓幹細胞のみを特異的に選別することができる。さらに、Lrig1タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を発現する腎臓幹細胞は、再生能力および多能性に非常に優れ、ネフロンに分裂可能な能力を有しているので、腎臓疾患の予防または治療に非常に効果的に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
図1】本発明の一実施例による生体内系統追跡研究で使用されるマウス動物モデルを用いた実験プロセスの模式図を示す図である。
図2】本発明の一実施例による生体内系統追跡研究で使用される胚状態のマウス動物モデルを用いた実験プロセスの模式図を示す図である。
図3】本発明の一実施例による高用量(250mg/kg)葉酸誘導急性腎臓損傷動物モデルの製造方法に関する模式図を示す図である。
図4】本発明の一実施例による高用量(150mg/kg)葉酸誘導急性腎臓損傷動物モデルに本発明による腎臓オルガノイドを移植した後、分析過程に関する模式図を示す図である。
図5】本発明の一実施例による虚血/再灌流損傷誘導急性腎臓損傷動物モデルの製造方法に関する模式図を示す図である。
図6】本発明の一実施例による片側性尿管閉塞誘導急性腎臓損傷動物モデルの製造方法に関する模式図を示す図である。
図7】本発明の一実施例によるマウスの腎臓においてtdTomato+細胞(Lrig1tdT+)の存在の有無を組織染色結果により確認した結果を示す図である。
図8】本発明の一実施例によるマウスの腎臓においてtdTomato+細胞(Lrig1tdT+)の数を定量化した結果を示す図である。
図9】本発明の一実施例による発生段階のマウスにおいてtdTomato+細胞(Lrig1tdT+)の存在の有無を組織染色結果により確認した結果を示す図である。
図10】本発明の一実施例による発生段階のマウスにおいてtdTomato+細胞(Lrig1tdT+)の数を定量化した結果を示す図である。
図11】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドを蛍光顕微鏡を用いて確認した結果を示す図である。
図12】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドで発現する遺伝子の発現レベルをリアルタイム重合酵素連鎖反応により確認した結果を示す図である。
図13】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドを1日から19日まで長期間培養した時、腎臓オルガノイド数が増加することを確認した結果を示す図である。
図14】本発明の一実施例による高用量(150mg/kr)葉酸誘導急性腎臓損傷動物モデルにPBSまたは本発明による腎臓オルガノイドを移植し、腎臓復旧の存在の有無を確認するために、組織染色およびKIM1の発現レベルを確認した結果を示す図である。
図15】本発明の一実施例による高用量(150mg/kr)葉酸誘導急性腎臓損傷動物モデルにPBSまたは本発明による腎臓オルガノイドを移植し、腎臓復旧の存在の有無を確認するために、血中BUNおよびクレアチン濃度を確認した結果を示す図である。
図16】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドにおいてKi-67の発現を蛍光顕微鏡で確認した結果を示す図である。
図17】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドにおいて近位細尿管(PT)クラスターをPTS1、PTS2、PTS3およびPTQPsの4個のサブ-クラスターに分類したことを示した。
図18】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドにおいてPTS1、PTS2、PTS3およびPTQPsのクラスター別遺伝子の発現レベルを確認した結果をバブル-プロットで示す図である。
図19】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドにおいてPTS1、PTS2、PTS3およびPTQPsのクラスター別遺伝子の発現レベルを確認した結果をバブル-プロットで示す図である。
図20】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドを移植した後、Cre-loxp誘導後1日目と365日目にPTS1、PTS2、PTS3およびPTQPsクラスター細胞の比率を測定した結果を示す図である。
図21】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドを移植した後、Cre-loxp誘導後1日目対比の365日目にPTS1、PTS2、PTS3およびPTQPsクラスター細胞数の変化を測定した結果を示す図である。
図22】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドにおいてPTS1、PTS2、PTS3およびPTQPsの各クラスター別自己-再生関連遺伝子、静止(quiescence)関連遺伝子、および多能性/未成熟細胞関連遺伝子の発現レベルを確認した結果をバイオリン-プロットで示す図である。
図23】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドにおいてPTS3およびPTQPsクラスターで高く発現する上位10個の遺伝子を示す図である。
図24】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドを移植した後、Cre-loxp誘導後1日目と365日目の腎臓切片でLTL(PTマーカー)およびKLF6を染色した免疫蛍光染色写真を示す図である。
図25】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドを移植した後、Cre-loxp誘導後1日目と365日目の腎臓切片で20Xフィールド(field)あたりLTL+KLF6+細胞を定量化した結果を示す図である(N=3、24個のイメージ)。
図26】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドを移植した後、Cre-loxp誘導後1日目と365日目に各クラスター別tdTomato+細胞の比率を示す図である。
図27】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドの近位細尿管(PT)で擬時間(pseudotime)系統を3つの異なる状態に区分したものであり、PTS1、PTS3およびPTQPsクラスターはそれぞれ異なる色で示した。黒い矢印は擬時間の方向を示した。
図28】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドを移植した後、Cre-loxp誘導後1日目と365日目にtdTomato+細胞を系統グラフにプロットし、発現レベルを色で区分した結果を示す図である。ここで、低発現は灰色、高発現は赤色で示した。
図29】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドを移植した後、Cre-loxp誘導後1日目と365日目の腎臓切片をLrig1tdTomato+およびKLF6染色した免疫蛍光染色写真を示す図である。
図30】本発明の一実施例による腎臓オルガノイドを移植した後、Cre-loxp誘導後1日目と365日目の腎臓切片で20Xフィールド(field)あたりLrig1tdTomato+KLF6+細胞を定量化した結果を示す図である(N=5、42個のイメージ)。
【発明を実施するための形態】
【0120】
本発明は、従来の急性腎不全のような腎臓疾患治療の限界点を克服し、より効果的な治療剤を開発するためのものである。本発明は、腎臓組織由来幹細胞またはオルガノイドを用いて効果的な腎臓疾患治療剤を開発するためのものである。高濃度葉酸(FA)のみを処理した場合、および高濃度葉酸を処理しPBSを注入した場合(FA+PBS)には、血中BUNおよびクレアチン(Creatine)が存在するレベルが非常に高いのに対し、腎臓オルガノイドを注入した場合には、BUNおよびクレアチンが存在するレベルが正常(Normal)と類似程度に減少した。このような結果により、Lrig1陽性腎臓オルガノイドは、損傷した腎臓の治療に非常に効果的に使用できることが直接的に分かる。
【実施例
【0121】
[実験方法]
[実験方法1]実験動物
本明細書で行われたすべての生体内(In vivo)実験は韓国の延世大学動物倫理審議委員会(IACUC2017-0325)の承認を受けて行われた。
【0122】
明暗周期12時間交代下、特定の病原体がない(Specific pathogen-free;SPF)バリア施設に実験動物を収容し、ピコラボのラボ齧歯類ダイエット20(PicoLab Lab Rodent Diet20,LabDiet,St.Louis,MO,米国)飼料を供給する方式で実験動物を飼育した。
【0123】
生体内(In vivo)実験で使用された実験動物の場合、1)Lrig1CreERT2/+はヴァンダービルト大学のロバートJ.コフィー(Robert J.Coffey)から提供され、2)B6.Cg-Gt(ROSA)26Sortm14(CAG-tdTomato)/Hze/J(R26R-LSL-tdTomato;The Jackson Laboratory、007914)は延世大学のポク・ジンウン教授から提供され、3)B6.129(Cg)-Gt(ROSA)26Sortm4(ACTB-tdToamto-EGFP)Luo/J(ACTB-mT/mG;The Jackson Laboratory、007676)は延世大学のキ・ヒョンウン教授から提供された。
【0124】
[実験方法2]生体内系統追跡研究方法
図1に示されるように、前記実験方法1の同型のレポーターマウスであるLrig1CreERT2/+マウスおよびR26R-LSL-tdTomatoマウスを交配させて異型のマウスを生産した。前記マウスにトウモロコシオイルに含まれているタモキシフェン(Sigma-Aldrich)2mgを3日連続で腹腔内に注入してCre-loxp組換え誘導した後、1日、3日、10日、30日、60日、90日、180日または365日目に分析を行った。
【0125】
また、図2に示されるように、同型のレポーターマウスであるLrig1CreERT2/+マウスおよびR26R-LSL-tdTomatoマウスを交配させて発生したE9.5、E10.5、E13.5およびE18.5胚に、トウモロコシオイルに含まれている4-ヒドロキシタモキシフェン(Sigma-Aldrich)2mgを1回注入し、産後6週目に分析を行った。
【0126】
[実験方法3]生体外(In vitro)2Dおよびオルガノイド培養方法
2Dおよびオルガノイド培養のために、Lrig1CreERT2/+マウスおよびR26R-ACTB-mT/mGマウスを交配させて生産された同型のレポーターマウスを6週~10週飼育した後、一次腎臓上皮細胞を採取した。前記採取された一次腎臓上皮細胞に2mg/mlの1型コラゲナーゼを入れて、37℃で30分間スムーズに撹拌しながら培養した。その後、フィルタを用いて前記一次腎臓上皮細胞を濾過した後に分離された単一細胞を培養した。以後、Lrig1タンパク質が発現した細胞をRPMI1640(10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum;FBS)、20ng/mlのEGF、1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含む)培地に入れて、5%COおよび37℃の条件でコンフルエンス(Confluence)が80%になる程度である7日~8日間培養した。以後、成長因子減少マトリゲルおよび培養培地が含まれているウェルに1×10の数の前記培養された細胞を分注し培養した。ここで、前記培養培地は1%ペニシリン-ストレプトマイシン、ヘプス(HEPS)およびグルタマックスが含まれているADMEM/F12培養培地をベースとして、1.5%B27補充剤、40%Wnt3a条件培地(produced using stably transfected L cells)、10%noggin条件培地、10%Rspo1条件培地、50ng/mlのEGF、100ng/mLのFGF-10、1.25mMのN-アセチルシステイン(N-acetylcysteine)および5μMのA8301(CAS no.CAS Number909910-43-6)が含まれているものを使用した。
【0127】
マトリゲルで前記細胞が十分にポリメライゼーション(Polymerizaion)されるようにした後、オルガノイド培養培地を追加し、オルガノイド培養培地は3日ごとに入れ替えた。
【0128】
[実験方法4]急性腎臓損傷動物モデルの作製
[4-1]高用量葉酸誘導急性腎臓損傷動物モデルの作製
図3に示されるように、成人(8~10週齢)Lrig1-CreERT2;LSL-tdTomatoマウスに、前記実験方法2に記載されたように、タモキシフェンを注入する過程によりLrig1タンパク質が発現できるようにした。以後、急性腎臓損傷誘導のために、250mg/kgの葉酸(Folic acid;FA)を腹腔内に注入した。
【0129】
また、図4に示されるように、C57BL/6マウスに150mg/kgの葉酸を腹腔内に注入して急性腎臓損傷を誘導し、葉酸を注入後3日目に前記実験方法3で作製した腎臓オルガノイドを直立性移植する方式で移植した。具体的には、イソフルランを用いて前記急性腎臓損傷が誘導されたC57BL/6マウス(n=3)を痲酔し、脇腹を切開して腎臓を外部に露出させた。その後、対照群であるPBSまたは前記実験方法3で作製された腎臓オルガノイド約40個を前記腎臓の皮質部位に最小15回以上直接注入した。以後、分析のために、11日間マウスを飼育した。以後、14日目にマウスから血漿クレアチニン(Creatinine)およびBUNの数値を測定するために血液サンプルを採取した。
【0130】
[4-2]虚血/再灌流損傷誘導急性腎臓損傷動物モデルの作製
図5に示されるように、成人(8~10週齢)Lrig1-CreERT2;LSL-tdTOmatoマウスに、前記実験方法2に記載されたように、タモキシフェンを注入する過程によりLrig1タンパク質が発現できるようにした。以後、前記マウスの腎動脈を鉗子で20分間閉塞する過程により急性腎臓損傷を誘導した。3日後、前記マウスの腎臓組織を採取して確認した結果、急性腎臓損傷が誘導されたことを確認することができた。
【0131】
[4-3]片側性尿管閉塞誘導急性腎臓損傷動物モデルの作製
図6に示されるように、成人(8~10週齢)Lrig1-CreERT2;LSL-tdTomatoマウスに、前記実験方法2に記載されたように、タモキシフェンを注入する過程によりLrig1タンパク質が発現できるようにした。以後、尿管を鉗子で7日間閉塞する過程により急性腎臓損傷を誘導した。7日後、前記マウスの腎臓組織を採取して確認した結果、急性腎臓損傷が誘導されたことを確認することができた。
【0132】
[実験結果]
[実験結果1]マウスの腎臓におけるLrig1-tdTomato子孫のタモキシフェン誘導による血統分析
腎臓においてLrig1を発現する細胞とそれらの子孫の行動様式を分析するために、R26R-LSL-tdTomatoマウスモデルを用いて系統追跡分析を行った。
【0133】
図7に示すように、初日にはコルテックス(Cortex)で非常に少ないレベルのtdTomato+細胞が観察されたのに対し、365日目にはLrig1を発現する細胞によって誘導された子孫細胞は全体腎臓で管構造の12(±2.4)%を生成することが確認された。
【0134】
図8に示すように、日付によってLrig1を発現する細胞の数(Lrig1tdT+)を定量化した時、このような細胞クローンは時期が続くにつれて順次に一緒に増加し、このような増加はLrig1発現後365日まで続いた。
【0135】
図9および図10に示すように、尿管芽分岐段階(Ureteric bud branching stage)であるE9.5およびE10.5ではtdTomato+細胞(Lrig1tdT+)が観察されなかった。しかし、腎形成段階(Nephrogenesis stage)であるE13.5ではtdTomato+細胞が観察され、大部分の細胞はチューブ構造を形成するように拡張されていた。
【0136】
このような結果により、Lrig1が初期に成熟した腎臓に発達した後、ネフロン分裂を生成するのに関与する幹細胞集団であることが分かる。
【0137】
[実験結果2]高濃度葉酸によって誘導された急性腎臓損傷動物モデルにおける腎臓オルガノイド直交移植による治療効果の確認
図11に示すように、前記実験方法3に記載された方法により作製された腎臓オルガノイドを蛍光顕微鏡を用いて分析した結果、腎臓オルガノイドを培養して7日目および9日目に緑色のLrig1細胞が多数観察された。
【0138】
また、図12に示すように、腎臓オルガノイドを培養して17日目に、遺伝子発現レベルを通常の方法により下記表1のプライマーを用いてリアルタイム重合酵素連鎖反応(Real-time PCR)を行って確認した時、Lrig1の発現レベルだけでなく、Sall1、Six2、Foxo1、Cited、Osr1、Hoxp7、Jagged1およびGata3のような腎臓幹細胞の遺伝子の発現レベルも一緒に増加していることを確認した。さらに、図13に示すように、Lrig1陽性である腎臓オルガノイドの場合には、生成されるオルガノイド数が9日目から19日目まで約40個以上の数に増加した。
【0139】
【表1】
【0140】
図14に示すように、前記実験方法4の[4-1]に記載された高濃度葉酸によって誘導された急性腎臓損傷動物モデルにPBS(FA+PBS)または腎臓オルガノイド(FA+Organoid)を実験方法4によって腎臓に直接注入し、14日後に通常の方法によりH&E染色を行った。その結果、PBSのみを注入した場合(FA+PBS)には、高濃度葉酸によって損傷した腎臓が復旧されず、KIM1の発現レベルが高いのに対し、腎臓オルガノイドを注入した場合には、高濃度葉酸によって損傷した腎臓が復旧され、KIM1の発現レベルが減少した。このような結果により、腎臓オルガノイドの注入は損傷した腎臓を非常に効果的に復旧させることができることが分かる。
【0141】
また、図15に示すように、高濃度葉酸(FA)のみを処理した場合、および高濃度葉酸を処理しPBSを注入した場合(FA+PBS)には、血中BUNおよびクレアチン(Creatine)が存在するレベルが非常に高いのに対し、腎臓オルガノイドを注入した場合には、BUNおよびクレアチンが存在するレベルが正常(Normal)と類似程度に減少した。このような結果により、Lrig1陽性腎臓オルガノイドは損傷した腎臓の治療に非常に効果的に使用できることが直接的に分かる。
【0142】
また、図16に示すように、蛍光顕微鏡により確認した結果、免疫蛍光染色により腎臓内に注入されたオルガノイドを確認し、Ki-67のような増殖マーカーが発現することが分かったので、腎臓内に注入されたオルガノイドは増殖性があることが確認された。
【0143】
[実験結果3]Lrig1およびその子孫細胞の成人腎臓における幹細胞ニッチ形成効果
上記の実験結果により、Lrig1陽性細胞は近位細尿管(proximal tubule;PT)で長期間生存し、潜在的な腎臓幹/前駆細胞に相当し、前記Lrig1陽性細胞由来の子孫細胞(descendants)がPT恒常性を維持するのに実質的に貢献することが分かった。PTでLrig1+細胞とその由来細胞の細胞的異質性を確認するために、図17に示すように、PTクラスターをPTS1、PTS2、PTS3およびPTQPsの4個のサブ-クラスターに分類した。この時、PTS1の分類のためにSlc5a12およびSlc5a2マーカー、PTS2分類のためにSlc13a3およびDdah1マーカー、PTS3分類のためにSlc16a9およびSlc7a13マーカーを用いた。そして、図18に示すように、急性腎臓損傷状態で上方調節されるピルベートデヒドロゲナーゼ腎臓4(Pyruvate dehydrogenase kidney 4;Pdk4)およびシステイン-リッチタンパク質(Cystein-rich protein 61;Cyr61)が豊富に発現するサブ-クラスターであるPTQPsを見つけた。より具体的に定義すべく、PTQPsを他のPTサブ-クラスターと比較した。PTQPsで発現する上位50個の遺伝子の発現レベルを確認した結果、図19に示すように、PTQPsでは腎臓損傷および回復関連遺伝子が高く発現することを確認することができ、2ネフロン前駆体遺伝子(2nephron progenitor genes)も発現することを確認することができた。各PTサブ-クラスターで細胞数を測定した結果、図20に示すように、Cre-loxp組換え後365日目にはPTS2およびPTQPs細胞数が増加した。また、図21に示すように、Cre-loxp組換え後365日目の腎臓でPTQPsクラスター細胞数が1日目の腎臓と比較して5倍増加したことを確認することができた。これから、PT細胞は時間経過とともに増加し、特に、PTQPsおよびPTS2クラスター細胞数が増加することが分かった。次に、成人幹細胞遺伝子モジュールを用いて腎臓のPTQPsクラスターを定義した。その結果、DEGsで計650個の遺伝子を検出した。図22に示すように、PTQPsクラスターで幹-関連遺伝子が高く発現し、自己-再生関連遺伝子(Klf5は除いて、Ptbp1、Ncl、Ctr9およびCited2)、静止(quiescence)関連遺伝子(Hif1a、Myc、およびFoxo3)、そして多能性または未成熟細胞関連遺伝子(Id2、Btg2、Tubb6、およびKlf2)が上方調節されたことを確認することができた。これにより、PTQPsクラスターは、腎臓損傷-回復関連遺伝子と成熟PT細胞のマーカーを含めて幹能関連遺伝子が発現することが分かり、このような結果から当該クラスターを「PT静止前駆体(PT quiescent progenitors;PTQPs)」と名付けたのである。
【0144】
次に、PTS3と区別されるPTQPsマーカーを確認した結果、図23に示すように、DEGsで高く発現する幹細胞ニッチとして知られた遺伝子を確認することができた。PTS3クラスターではPTセグメント3(PT segment 3)特異的遺伝子が高く発現したのに対し、PTQPsでは高く発現しなかった。PTQPsマーカーを検証するために、Jun、Klf6およびCyr61を用いて腎臓切片をIF染色した。JunおよびCyr61はPTだけでなく多様なネフロン切片で高く発現して、これらを除いた。次に、PTで発現するかを確認するために、1日目および365日目の腎臓切片でKLF6およびLTLを染色した。図24に示すように、1日目の腎臓切片でKlf6+LTL+PT尿細管が弱く発現したのに対し、365日目の腎臓切片ではKlf6+LTL+PT尿細管が強く発現した。定量化の結果、図25に示すように、KLF6+発現PT尿細管は365日目の腎臓で著しく増加したことを確認することができた。これから、365日目の腎臓でPTQPs分布の増加はKlf6を用いて確認できることが分かった。
【0145】
Lrig1陽性細胞に由来する子孫細胞がPTQPs集団をなすかを確認するために、1日目および365日目の腎臓切片でtdTomato発現細胞を確認した。その結果、図26に示すように、1日目の腎臓切片ではtdTomato+細胞はPTS1細胞の54%、PTS3の27%をなしたが、365日目の腎臓切片ではそれぞれ50%および11%に減少した。これに対し、1日目の腎臓切片でPTS2細胞の12%、PTQPs細胞の17.8%をなしたが、365日目にはそれぞれ20%および18%に増加した。これから、Lrig1陽性細胞に由来する子孫細胞がPTQPs細胞集団をなすことが分かった。また、単一細胞での情報により分化への進行を示す細胞の軌跡(trajectory)を分析した。軌跡の初期段階ではPT幹細胞ニッチとして知られたPTS3と新しい幹細胞ニッチとして究明されたPTQPsに相当した。このような細胞群集団はPTS1への2個の区分される軌跡に分けられるが(図27)、1日目の腎臓ではPTS3が優勢になってからPTS1クラスターに分化する様相を示し、365日目にはPTQPsクラスターが主にPTS1クラスター細胞の恒常性を行うことが分かった。1日目および365日目にPTS3およびPTQPsとtdTomato-発現細胞をアラインした結果、図28に示すように、1日目にはPTS3クラスターでtdTomato発現細胞はPTS1に分化されることを確認することができ、365日目にはPTQPsクラスターでtdTomato発現細胞は主にPTS1を維持させることが分かった。Klf6およびtdTomato+細胞を染色すれば、図29および30に示すように、1日目と比較して365日目にKlf6+tdTomato+尿細管が著しく増加したことを確認することができた。これにより、Lrig1陽性細胞およびこれに由来する子孫細胞がPTQPsクラスターをなすことが分かった。実験条件でも1日目の腎臓は6週齢マウスから取ったが、365日目の腎臓は13ヶ月齢のマウスから取った。上記の実験結果から腎臓の恒常性は若い腎臓(1日目の腎臓)ではPTS3によって調節され、そして、老化した腎臓(365日目の腎臓)ではPTQPsが新しい幹細胞ニッチを示すことが分かった。
【0146】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で多様な修正および変形が可能であることは当技術分野における通常の知識を有する者には自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、従来の急性腎不全のような腎臓疾患治療の限界点を克服し、より効果的な治療剤を開発するためのものである。現在、腎臓幹細胞を識別し治療剤として適用するための幹細胞を同定し、臨床に活用するための適用可能性などに関する研究は不備であるのが現状であるが、開発の必要性が要求されている。本発明は、腎臓組織由来幹細胞;またはオルガノイドは、治療のための施術が容易であり、腎臓細胞への分化能に優れ、腫瘍形成の可能性が低いだけでなく、病変に直接注入される場合、損傷した組織を再生する能力が非常に卓越するので、腎臓疾患の予防または治療に非常に効果的に用いられると期待される。
[配列リストのフリーテキスト]
配列番号1:
MARPVRGGLG APRRSPCLLL LWLVLVRLEP VTAAAGPRAP CAAACTCAGD SLDCGGRGLA
ALPGDLPSWT RSLNLSYNKL SEIDPAGFED LPNLQEVNLS YNKLSEIDPA GFEDLPNLQE
VYLNNNELTA VPSLGAASSH VVSLFLQHNK IRSVEGSQLK AYLSLEVLDL SLNNITEVRN
TCFPHGPPIK ELNLAGNRIG TLELGAFDGL SRSLLTLRLS KNRITQLPVR AFKLPRLTQL
DLNRNRIRLI EGLTFQGLNS LEVLKLQRNN ISKLTDGAFW GLSKMHVLHL EYNSLVEVNS
GSLYGLTALH QLHLSNNSIA RIHRKGWSFC QKLHELVLSF NNLTRLDEES LAELSSLSVL
RLSHNSISHI AEGAFKGLRS LRVLDLDHNE ISGTIEDTSG AFSGLDSLSK LNLGGNAIRS
VQFDAFVKMK NLKELHISSD SFLCDCQLKW LPPWLIGRML QAFVTATCAH PESLKGQSIF
SVPPESFVCD DFLKPQIITQ PETTMAMVGK DIRFTCSAAS SSSSPMTFAW KKDNEVLTNA
DMENFVHVHA QDGEVMEYTT ILHLRQVTFG HEGRYQCVIT NHFGSTYSHK ARLTVNVLPS
FTKTPHDITI RTTTVARLEC AATGHPNPQI AWQKDGGTDF PAARERRMHV MPDDDVFFIT
DVKIDDAGVY SCTAQNSAGS ISANATLTVL ETPSLVVPLE DRVVSVGETV ALQCKATGNP
PPRITWFKGD RPLSLTERHH LTPDNQLLVV QNVVAEDAGR YTCEMSNTLG TERAHSQLSV
LPAAGCRKDG TTVGIFTIAV VSSIVLTSLV WVCIIYQTRK KSEEYSVTNT DETVVPPDVP
SYLSSQGTLS DRQETVVRTE GGPQANGHIE SNGVCPRDAS HFPEPDTHSV ACRQPKLCAG
SAYHKEPWKA MEKAEGTPGP HKMEHGGRVV CSDCNTEVDC YSRGQAFHPQ PVSRDSAQPS
APNGPEPGGS DQEHSPHHQC SRTAAGSCPE CQGSLYPSNH DRMLTAVKKK PMASLDGKGD
SSWTLARLYH PDSTELQPAS SLTSGSPERA EAQYLLVSNG HLPKACDASP ESTPLTGQLP
GKQRVPLLLA PKS
配列番号2:
MDVLPMCSIF QELQIVHETG YFSALPSLEE YWQQTCLELE RYLQSEPCYV SASEIKFDSQ
EDLWTKIILA REKKEESELK ISSSPPEDTL ISPSFCYNLE TNSLNSDVSS ESSDSSEELS
PTAKFTSDPI GEVLVSSGKL SSSVTSTPPS SPELSREPSQ LWGCVPGELP SPGKVRSGTS
GKPGDKGNGD ASPDGRRRVH RCHFNGCRKV YTKSSHLKAH QRTHTGEKPY RCSWEGCEWR
FARSDELTRH FRKHTGAKPF KCSHCDRCFS RSDHLALHMK RHL
配列番号3: GGTGAGCCTGGCCTTATGTGAATA
配列番号4: CACCACCATCCTGCACCTCC
配列番号5: TACTCTTTCCTTCAGGCAGTGA
配列番号6: GATCGAGGCAAGTGCATGG
配列番号7: CACCTCCACAAGAATGAAAGCG
配列番号8: CTCCGCCTCGATGTAGTGC
配列番号9: AACCTTGGAGTGAAGGATCGC
配列番号10: GTAGGAGAGCCTATTGGAGATGT
配列番号11: CTCAACATTTCCAATCCGACCC
配列番号12: GGCATCCTTGCTCTTAGTGGG
配列番号13: GAGAGCCAGCCTACCATCC
配列番号14: GGGTCCTCGTGTTTGAAGGAA
配列番号15: AAGTTCGGTTTTCGCTCCAGG
配列番号16: ACACCCCGGAGAGGTTCTG
配列番号17: CTCGGCCATTCGTACATGGAA
配列番号18: GGATACCTCTGCACCGTAGC
配列番号19: GCGTCAGGGAGATGGTAAAG
配列番号20: CATCAGGGAAACAGTTGCAG
配列番号21: CGCTAAGAATCCGCTGGTGAAG
配列番号22: GGATCTTGACGAAGCAGTCGTT
配列番号23: CCTCGGGTCAGTTTGAGCTG
配列番号24: CCTTGAGGCACACTTTGAAGTA
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
【配列表】
2024505587000001.app
【国際調査報告】