(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-06
(54)【発明の名称】二日酔い及び肝臓疾患の予防及び/又は治療のための遺伝子組換え細菌
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20240130BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240130BHJP
A61K 35/741 20150101ALI20240130BHJP
A61K 38/44 20060101ALI20240130BHJP
A61P 25/32 20060101ALI20240130BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C12N15/53
C12N1/21 ZNA
A61K35/741
A61K38/44
A61P25/32
A61P1/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547709
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 CN2022075470
(87)【国際公開番号】W WO2022166978
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/076102
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523226941
【氏名又は名称】コムバイオ セラピューティクス カンパニー、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャン、ビン
(72)【発明者】
【氏名】イン、シェンミン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ヤンニン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01Y
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4B065AB01
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4C084ZA752
4C084ZC372
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4C087ZA75
4C087ZC37
(57)【要約】
本開示は、アセトアルデヒド脱水素酵素をコードするヌクレオチド配列を含む外因性発現カセットを含む、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌であって、該プロバイオティック腸内細菌が大腸菌Nissle 1917株(EcN)である、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌、及びその使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアルデヒド脱水素酵素をコードするヌクレオチド配列を含む外因性発現カセットを含む、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌であって、該プロバイオティック腸内細菌が大腸菌(Escherichia coli)Nissle 1917株(EcN)である、上記プロバイオティック腸内細菌。
【請求項2】
アセトアルデヒド脱水素酵素が、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)由来の天然に存在するAcoD、又はその機能的均等物である、請求項1に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項3】
機能的均等物が、アルデヒドを酸化する活性を少なくとも部分的に保持する、請求項2に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項4】
機能的均等物が、天然に存在するAcoDの変異体、断片、融合体、誘導体、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項2又は3に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項5】
アセトアルデヒド脱水素酵素が、配列番号1のアミノ酸配列、又はその少なくとも80%の配列同一性を有し、かつアルデヒドを酸化する実質的な活性を保持するアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項6】
アセトアルデヒド脱水素酵素をコードするヌクレオチド配列が、EcNにおける発現のためにコドン最適化されており、任意選択で、コドン最適化されたヌクレオチド配列が、配列番号111の配列又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項7】
発現カセットが、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、ターミネーター、シストロン、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上のエレメントを含む1つ以上の調節エレメントをさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項8】
プロモーターが構成的プロモーター又は誘導性プロモーターである、請求項7に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項9】
プロモーターが内因性プロモーター又は外因性プロモーターである、請求項8に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項10】
構成的プロモーターが、配列番号10~49及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項8に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項11】
構成的プロモーターが配列番号10を含む、請求項10に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項12】
誘導性プロモーターが、嫌気性誘導性プロモーター、任意選択で、配列番号53のヌクレオチド配列を含む、請求項8に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項13】
RBSが、配列番号65‐67及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項7に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項14】
ターミネーターがT7ターミネーターである、請求項7に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項15】
シストロンがBCD2である、請求項7記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項16】
シストロンが、配列番号62のヌクレオチド配列又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む、請求項7に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項17】
外因性発現カセットが、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌のゲノムに統合される、請求項1~16のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項18】
dsbA、dsbC、dnaK、dnaJ、grpE、groES、groEL、tig、fkpA、surA、skp、PpiD及びDegPからなる群から選択される少なくとも1つのシャペロンタンパク質を発現する、請求項1~17のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項19】
栄養要求株関連遺伝子における少なくとも1つの不活性化又は欠失をさらに含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項20】
プロバイオティック腸内細菌が、チミジン、ウラシル、ロイシン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニン、アデニン、及び非天然アミノ酸からなる群から選択される1つ以上の物質に対する栄養要求株である、請求項1~19のいずれか1項に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項21】
AcoDをコードするヌクレオチド配列、及び1つ以上の調節エレメントを含む組換え発現カセットであって、ヌクレオチド配列がEcNでの発現に最適化されており、任意選択で、コドン最適化されたヌクレオチド配列が、配列番号111の配列又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む、上記組換え発現カセット。
【請求項22】
プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、ターミネーター、シストロン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の調節エレメントをさらに含む、請求項21のいずれか1項に記載の組換え発現カセット。
【請求項23】
プロモーターが、構成的プロモーター、又は誘導性プロモーター(例えば、嫌気性誘導性プロモーター)である、請求項22に記載の組換え発現カセット。
【請求項24】
プロモーターが内因性プロモーター又は外因性プロモーターである、請求項23に記載の組換え発現カセット。
【請求項25】
プロモーターが、配列番号10~53及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項24に記載の組換え発現カセット。
【請求項26】
プロモーターが配列番号10を含む、請求項25に記載の組換え発現カセット。
【請求項27】
RBSが、配列番号65~67及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項22に記載の組換え発現カセット。
【請求項28】
ターミネーターがT7ターミネーターである、請求項22に記載の組換え発現カセット。
【請求項29】
シストロンがBCD2である、請求項22に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項30】
シストロンが、配列番号62のヌクレオチド配列又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む、請求項22に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項31】
請求項1~20のいずれか1項に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌と、生理学的に許容される担体とを含む組成物。
【請求項32】
組成物が食用である、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
組成物が食品サプリメントである、請求項31又は32に記載の組成物。
【請求項34】
組成物が、乳酸発酵食品、発酵乳製品、レジスタントスターチ、食物繊維、炭水化物、脂肪、油、香味剤、調味剤、タンパク質及びグリコシル化タンパク質、水、カプセル充填剤、及びグミ材料から選択される1つ以上の生理学的に許容される担体をさらに含む、請求項31~33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項35】
遺伝子組換え微生物が生細胞である、請求項31~34のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項36】
組成物が、完成食品、粉末、顆粒、錠剤、カプセル又は液体である、請求項31~34のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項37】
組成物が、約0.01~約99.9重量%の遺伝子組換え微生物を含む、請求項31~36のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項38】
請求項1~20のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項31~37のいずれかに記載の組成物の有効量を対象の消化管に投与することを含む、それを必要とする対象のアルコール二日酔いを予防及び/又は治療する方法。
【請求項39】
請求項1~20のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項31~37のいずれかに記載の組成物の有効量を対象の消化管に投与することを含む、それを必要とする対象のアセトアルデヒドのレベルを低下させる方法。
【請求項40】
請求項1~20のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項31~37のいずれかに記載の組成物の有効量を対象の消化管に投与することを含む、それを必要とする対象のアジアンフラッシュを予防及び/又は治療する方法。
【請求項41】
対象が1つ以上のアルコール脱水素酵素を欠損している、請求項38~40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
対象が1つ以上のアルデヒド脱水素酵素を欠損している、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
組成物がアルコールの摂取前、摂取中又は摂取後に投与される、請求項38~42のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
アルコールの摂取開始の24時間前までに組成物を対象に投与することを含む、請求項38~43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
対象がALDH2バリアント対立遺伝子のキャリアである、請求項38~44のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
請求項1~20のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項31~37のいずれかに記載の組成物の有効量を対象の消化管に投与することを含む、それを必要とする対象におけるアルコール性肝疾患の予防及び/又は治療のための方法。
【請求項47】
アルコール性肝疾患が、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎又はアルコール性肝硬変である、請求項46に記載の方法
【請求項48】
請求項1~20のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項31~37のいずれかに記載の組成物の有効量を対象の消化管に投与することを含む、それを必要とする対象におけるアルコール性脂肪肝疾患からアルコール性肝線維症、アルコール性肝硬変又はアルコール性肝癌への進行を予防及び/又は遅らせるための方法。
【請求項49】
請求項1~20のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項31~37のいずれかに記載の組成物の有効量を対象の消化管に投与することを含む、それを必要とする対象におけるアルコール性肝炎からアルコール性肝線維症、アルコール性肝硬変又はアルコール性肝癌への進行を予防及び/又は遅らせるための方法。
【請求項50】
請求項1~20のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項31~37のいずれかに記載の組成物の有効量を対象の消化管に投与することを含む、それを必要とする対象における非アルコール性脂肪肝(NAFLD)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を予防及び/又は治療するための方法。
【請求項51】
請求項1~20のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項31~37のいずれかに記載の組成物の有効量を対象の消化管に投与することを含む、それを必要とする対象においてNAFLDのNASHへの進行を予防及び/又は遅らせるための方法。
【請求項52】
請求項1~20のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項31~37のいずれかに記載の組成物の有効量を対象の消化管に投与することを含む、それを必要とする対象においてNASHの肝線維症への進行を予防及び/又は遅らせるための方法。
【請求項53】
対象が血中エタノールレベルの上昇を有する、請求項50~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
対象が、アルコール産生腸内微生物叢の存在量の増加を有する、請求項50~52のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌、並びに二日酔い及び肝臓疾患の予防及び/又は治療へのその応用の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
二日酔いは、社会にとって大きな問題であり、経済的損失の大きな原因である。二日酔い及びそれに関連する問題(例えば、アルコール性肝疾患)は、西洋及び東洋の文化の両方において、何千年もの間、認識されてきた。しかしながら、二日酔い及び関連する肝臓疾患に対する効果的な予防及び/又は治療方法はほとんどない。
【0003】
したがって、二日酔い及びアルコール性肝疾患を予防及び/又は治療するための新規な方法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
1つの態様において、本開示は、アセトアルデヒド脱水素酵素をコードするヌクレオチド配列を含む外因性発現カセットを含む、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌を提供し、ここで、プロバイオティック腸内細菌は、大腸菌(Escherichia coli)Nissle 1917株(EcN)である。
【0005】
いくつかの実施形態において、アセトアルデヒド脱水素酵素は、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)由来の天然に存在するAcoD、又はその機能的均等物である。
【0006】
いくつかの実施形態において、機能的均等物は、アルデヒドを酸化する活性を少なくとも部分的に保持する。
【0007】
いくつかの実施形態において、機能的均等物は、天然に存在するAcoDの変異体、断片、融合体、誘導体、又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、アセトアルデヒド脱水素酵素は、配列番号1のアミノ酸配列、又はその少なくとも80%の配列同一性を有し、かつアルデヒドを酸化する実質的な活性を保持するアミノ酸配列を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、アセトアルデヒド脱水素酵素をコードするヌクレオチド配列は、EcNにおける発現のためにコドン最適化されており、任意選択で、コドン最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号111の配列又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、発現カセットは、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、ターミネーター、シストロン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上のエレメントを含む1つ以上の調節エレメントをさらに含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、プロモーターは、構成的プロモーター、又は誘導性プロモーターである。
【0012】
いくつかの実施形態において、プロモーターは、内因性プロモーター、又は外因性プロモーターである。
【0013】
いくつかの実施形態において、構成的プロモーターは、配列番号10~49及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、構成的プロモーターは、配列番号10の核酸配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、誘導性プロモーターは、嫌気性誘導性プロモーターを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、嫌気性誘導性プロモーターは、配列番号53のヌクレオチド配列を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、RBSは、配列番号65~67及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、ターミネーターはT7ターミネーターである。
【0019】
いくつかの実施形態において、シストロンはBCD2である。
【0020】
いくつかの実施形態において、シストロンは、配列番号62のヌクレオチド配列又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、外因性発現カセットは、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌のゲノムに組み込まれる。
【0022】
いくつかの実施形態において、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌は、dsbA、dsbC、dnaK、dnaJ、grpE、groES、groEL、tig、fkpA、surA、skp、PpiD及びDegPからなる群から選択される少なくとも1つのシャペロンタンパク質をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を発現する。
【0023】
いくつかの実施形態において、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌は、栄養要求株関連遺伝子における少なくとも1つの不活性化又は欠失をさらに含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、プロバイオティック腸内細菌は、チミジン、ウラシル、ロイシン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニン、アデニン、及び非天然アミノ酸からなる群から選択される1つ以上の物質に対する栄養要求株である。
【0025】
1つの態様において、本開示は、AcoDをコードするヌクレオチド配列、及び1つ以上の調節エレメントを含む組換え発現カセットを提供し、ここで、ヌクレオチド配列は、EcNにおける発現のために最適化されており、任意選択で、コドン最適化ヌクレオチド配列は、配列番号111の配列、又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、組換え発現カセットは、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、ターミネーター、シストロン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の調節エレメントをさらに含む。
【0027】
いくつかの実施形態において、プロモーターは、構成的プロモーター、又は誘導性プロモーター(例えば、嫌気性誘導性プロモーター)である。
【0028】
いくつかの実施形態において、プロモーターは、内因性プロモーター、又は外因性プロモーターである。
【0029】
いくつかの実施形態において、プロモーターは、配列番号10~53及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0030】
いくつかの実施形態において、プロモーターは、配列番号10のヌクレオチド配列を含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、RBSは、配列番号65~67及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0032】
いくつかの実施形態において、ターミネーターはT7ターミネーターである。
【0033】
いくつかの実施形態において、シストロンはBCD2である。
【0034】
いくつかの実施形態において、シストロンは、配列番号62のヌクレオチド配列又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む。
【0035】
1つの態様において、本開示は、本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌、及び生理学的に許容される担体を含む組成物を提供する。
【0036】
いくつかの実施形態において、組成物は食用である。
【0037】
いくつかの実施形態において、組成物は食品サプリメントである。
【0038】
いくつかの実施形態において、組成物は、乳酸発酵食品、発酵乳製品、レジスタントスターチ、食物繊維、炭水化物、脂肪、油、香味剤、調味剤、タンパク質及びグリコシル化タンパク質、水、カプセル充填剤、及びグミ材料から選択される1つ以上の生理学的に許容される担体をさらに含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、遺伝子組換え微生物は生細胞である。
【0040】
いくつかの実施形態において、組成物は、完成食品、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、又は液体である。
【0041】
いくつかの実施形態において、組成物は、約0.01~約99.9重量%の遺伝子組換え微生物を含む。
【0042】
1つの態様において、本開示は、それを必要とする対象においてアルコール二日酔いを予防及び/又は治療するための方法であって、対象の消化管に、本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0043】
1つの態様において、本開示は、それを必要とする対象においてアセトアルデヒドのレベルを低減するための方法であって、対象の消化管に、本明細書に提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0044】
1つの態様において、本開示は、それを必要とする対象においてアジアンフラッシュを予防及び/又は治療するための方法であって、対象の消化管に、本明細書において提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0045】
いくつかの実施形態において、対象は、1つ以上のアルコール脱水素酵素が欠損している。
【0046】
いくつかの実施形態において、対象は、1つ以上のアルデヒド脱水素酵素が欠損している。
【0047】
いくつかの実施形態において、組成物は、アルコールの摂取前、摂取中、又は摂取後に投与される。
【0048】
いくつかの実施形態において、本方法は、アルコールの摂取開始の24時間前までに組成物を対象に投与することを含む。
【0049】
いくつかの実施形態において、対象は、ALDH2バリアント対立遺伝子のキャリアである。
【0050】
1つの態様において、本開示は、それを必要とする対象においてアルコール性肝疾患を予防及び/又は治療するための方法であって、対象の消化管に、本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0051】
いくつかの実施形態において、アルコール性肝疾患は、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎又はアルコール性肝硬変である。
【0052】
1つの態様において、本開示は、それを必要とする対象において、アルコール性脂肪肝疾患からアルコール性肝線維症、アルコール性肝硬変又はアルコール性肝癌への進行を予防及び/又は遅らせるための方法であって、対象の消化管に、本明細書に提供される遺伝子組換えプロバイオティク腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0053】
1つの態様において、本開示は、それを必要とする対象において、アルコール性肝炎からアルコール性肝線維症、アルコール性肝硬変又はアルコール性肝癌への進行を予防及び/又は遅らせるための方法であって、対象の消化管に、本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0054】
1つの態様において、本開示は、それを必要とする対象において、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を予防及び/又は治療するための方法であって、対象の消化管に、本明細書に提供される遺伝子組換えプロバイオティク腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0055】
1つの態様において、本開示は、それを必要とする対象においてNAFLDのNASHへの進行を予防及び/又は遅らせるための方法であって、対象の消化管に、本明細書に提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0056】
1つの態様において、本開示は、それを必要とする対象においてNASHの肝線維症への進行を予防及び/又は遅らせるための方法であって、対象の消化管に、本明細書に提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0057】
特定の実施形態において、対象は、血中エタノールレベルの上昇及び/又はアルコール産生腸内微生物叢の存在量の増加を有する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】
図1は、gRNAプラスミドZL‐003_kefBのプラスミドプロファイルを示す。
【
図2】
図2は、kefB‐J23119‐AcoD、kefB‐J23101‐AcoD及びkefB‐J23108‐AcoDのPCRエレクトロフェログラムを示す。
【
図3A】
図3Aは、対照細菌、組換え細菌119及び組換え細菌101の耐性試験結果を示す。
【
図3B】
図3Bは、組換え細菌119、組換え細菌101及び組換え細菌108におけるAcoDの相対発現量を示す。
【
図4】
図4は、in vitroにおける対照細菌、組換え細菌119、組換え細菌101及び組換え細菌108のアセトアルデヒド除去能力を示す。
【
図5】
図5は、対照細菌及び組換え細菌119のin vivoにおけるアセトアルデヒド除去能力を示す。
【
図6】
図6は、in vitroにおける対照細菌、組換え細菌119、Groを発現する組換え細菌119及びKJEを発現する組換え細菌119のアセトアルデヒド除去能力を示す。
【
図7】
図7は、対照細菌(EcN)、組換え細菌119‐AcoD(119‐AcoD)、J23119プロモーターにより大腸菌内在性119‐AldB遺伝子を過剰発現させた組換え細菌AldB(119‐aldB)のin vitroでのアセトアルデヒド除去能力を示す。
【
図8】
図8は、対照細菌(EcN)、組換え細菌AcoD(AcoD)、及びAcoDのオープンリーディングフレームの上流にBCD2シストロンを付加した組換え細菌BCD2(BCD2)のin vitroアセトアルデヒド除去能力を示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本開示を通じて、冠詞「a」、「an」、及び「the」は、本明細書において、冠詞の文法的対象の1つ又は1つより多く(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「抗体」(“an antibody”)は、1つの抗体又は1つより多くの抗体を意味する。
【0060】
本開示の以下の説明は、単に本開示の様々な実施形態を例示することを意図している。そのため、議論される特定の改変は、本開示の範囲に対する限定として解釈されるものではない。当業者には、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な均等物、変更、及び修正がなされ得ることが明らかであり、そのような均等物の実施形態が本明細書に含まれることが理解される。刊行物、特許及び特許出願を含む、本明細書で引用される全ての参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0061】
I.定義
本明細書で使用される「有効量」又は「薬学的に有効な量」という用語は、所望の結果をもたらすのに必要な1つ以上の薬剤の量及び/又は投与量、及び/又は投与レジメを指す、例えば、対象が治療又は組成物を受けている状態又は疾患に関連する1つ以上の症状を対象において軽減するのに十分な量、又は対象における状態の重症度を軽減するか又は進行を遅延させるのに十分な量(例えば、治療上有効な量)、対象における疾患又は状態のリスクを軽減するか又は発症を遅延させるのに十分な量、及び/又は最終的な重症度を軽減するのに十分な量(例えば、予防上有効な量)を指す。
【0062】
本明細書で使用する用語「コードする」(“encodes”)、「コードされる(された)」(“encoded”)又は「コードする(している)」(“encoding”)とは、mRNAへの転写及び/又はペプチド若しくはタンパク質への翻訳が可能であることを意味する。用語「コード配列」又は「遺伝子」は、ペプチド又はタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を指す。これら2つの用語は、本開示において互換的に使用され得る。いくつかの実施形態において、コード配列は、メッセンジャーRNA(mRNA)から逆転写される相補的DNA(cDNA)配列である。いくつかの実施形態において、コード配列はmRNAである。
【0063】
本明細書で使用する「相同」という用語は、最適に整列させたときに、他の配列に対して少なくとも60%(例えば、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有する核酸配列(又はその相補鎖)又はアミノ酸配列を指す。
【0064】
本明細書で使用される用語「ヌクレオチド配列」、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、オリゴヌクレオチド(すなわち、短いポリヌクレオチド)を含む。これらはまた、合成及び/又は非天然の核酸分子(例えば、ヌクレオチド類似体又は修飾された骨格残基若しくは連結を含む)を指す。この用語はまた、一本鎖又は二本鎖のいずれかの形態のデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドオリゴヌクレオチドを指す。この用語は、天然ヌクレオチドの類似体を含む核酸を包含する。この用語はまた、合成骨格を有する核酸様構造も包含する。別段の指示がない限り、特定のポリヌクレオチド配列は、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変されたバリアント(例えば、縮退コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、SNP、及び相補配列も暗黙的に包含する。具体的には、縮退コドン置換は、1つ以上の選択された(又は全ての)コドンの3位が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することによって達成され得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605‐2608(1985);及びRossoliniら,Mol.Cell.Probes 8:91‐98(1994))。
【0065】
アミノ酸配列(又は核酸配列)に関して「配列同一性パーセント(%)」という用語は、配列を整列(align)させ、必要に応じてギャップを導入した後、同一のアミノ酸(又は核酸)の最大数を達成するために、参照配列中のアミノ酸(又は核酸)残基と同一である候補配列中のアミノ酸(又は核酸)残基の割合として定義される。言い換えると、アミノ酸配列(又は核酸配列)の配列同一性パーセント(%)は、比較対象の参照配列に対して同一であるアミノ酸残基(又は塩基)の数を、候補配列又は参照配列のいずれか短い方のアミノ酸残基(又は塩基)の総数で割ることによって計算することができる。アミノ酸残基の保存的置換は、同一残基として考慮されてもされなくてもよい。アミノ酸(又は核酸)配列同一性パーセントを決定する目的のためのアラインメントは、例えば、BLASTN、BLASTp(米国国立生物工学情報センター(NCBI)のウェブサイト上で入手可能、Altschul S.F. et al.,J.Mol.Biol.、215:403‐410(1990);Stephen F. et al.,Nucleic Acids Res.、25:3389‐3402(1997)参照)、ClustalW2(European Bioinformatics Instituteのウェブサイト上で入手可能、Higgins D.G. et al.,Methods in Enzyzymology,266:383‐402(1996);Larkin M.A.et al.,Bioinformatics(Oxford,England),23(21):2947‐8(2007)も参照)、及びALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公的に入手可能なツールを用いて達成することができる。当業者は、ツールによって提供されるデフォルトのパラメーターを使用してもよいし、例えば、適切なアルゴリズムを選択するなど、アラインメントに適切なようにパラメーターをカスタマイズしてもよい。
【0066】
本明細書で使用される「プロバイオティック」という用語は、非病原性を意味する。いくつかの実施形態において、プロバイオティック微生物細胞は、有効量で投与された場合、例えば、ヒト又は動物の微生物叢のバランスの改善に関連する健康上の利益、及び/又は正常な微生物叢を回復させるための利益を含む、対象の健康又は幸福に有益な効果を提供する。本明細書で使用される用語「プロバイオティクス」は、プロバイオティック微生物細胞(例えば、生きている微生物細胞)の調製物を指す。
【0067】
本明細書で使用される用語「対象」には、ヒト及び非ヒト動物が含まれる。非ヒト動物には、すべての脊椎動物、例えば、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ネコ、ウサギ、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などの哺乳類及び非哺乳類が含まれる。本明細書では、特に断りのない限り、「患者」又は「対象」という用語は互換的に使用される。
【0068】
本明細書で使用される疾患、障害又は状態の「治療する」又は「治療」には、疾患、障害又は状態を予防又は緩和すること、疾患、障害又は状態の発症又は発症速度を遅らせること、疾患、障害又は状態を発症するリスクを低減すること、疾患、障害又は状態に関連する症状の発症を予防又は遅延させること、疾患、障害又は状態に関連する症状を軽減又は終息させること、疾患、障害又は状態の完全な又は部分的な退行を生じさせること、疾患、障害又は状態を治癒させること、又はそれらの組み合わせを含む。
【0069】
AcoDに関して本明細書で使用する「天然に存在する」という用語は、AcoDポリペプチド又はポリヌクレオチドの配列が、自然界に見出されるものと同一であることを意味する。天然に存在するAcoDは、AcoDのネイティブ配列若しくは野生型配列、又はその断片であり得るが、たとえその断片自体が自然界に存在しなくてもよい。天然に存在するAcoDはまた、変異体やアイソフォームのような天然に存在するバリアントや、異なる細菌株で見出される異なるネイティブ配列を含むことができる。天然に存在する全長AcoDポリペプチドは506アミノ酸残基の長さを有する。天然に存在するAcoDの例示的なアミノ酸配列には、限定されないが、AcoD(配列番号1)が含まれる。
【0070】
II.遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌及び組換え発現カセット
遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌
アセトアルデヒド脱水素酵素AcoD
1つの態様において、本開示は、アセトアルデヒド脱水素酵素をコードするヌクレオチド配列を含む外因性発現カセットを含む、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌を提供し、ここで、プロバイオティック腸内細菌は、大腸菌(Escherichia coli)Nissle 1917株(EcN)である。
【0071】
本明細書で使用する場合、用語「アセトアルデヒド脱水素酵素」は、アセトアルデヒドの酢酸への酸化を触媒することができる酵素又はその機能的均等物を指す。特定の実施形態において、アセトアルデヒド脱水素酵素はヒト由来である。特定の実施形態において、アセトアルデヒド脱水素酵素は、非ヒト生物、例えば、Cupriavidus necator由来である。特定の実施形態において、アセトアルデヒド脱水素酵素は、アセトアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)である。用語「ALDH2」は、ALDH2の遺伝子と同様に、ALDH2のタンパク質を指し得る。特定の実施形態において、アセトアルデヒド脱水素酵素はAcoDである。アセトアルデヒド脱水素酵素、ALDH2、又はAcoD(例えば、Cupriavidus necator由来)に関して本明細書で使用される「機能的均等物」という用語は、アミノ酸配列若しくはポリヌクレオチド配列、又は化学構造に差異があるにもかかわらず、アセトアルデヒド脱水素酵素、ALDH2、又はAcoD(例えば、Cupriavidus necator由来)の1つ以上の生物学的機能を少なくとも部分的に保持する、任意のアセトアルデヒド脱水素酵素バリアントを意味する。アセトアルデヒド脱水素酵素、ALDH2、又はAcoD(例えば、Cupriavidus necator由来)の生物学的機能には、限定されないが、アセトアルデヒドの酢酸への酸化、エタノール分解、ケトン分解を触媒することが含まれる。
【0072】
特定の実施形態において、アセトアルデヒド脱水素酵素は、Cupriavidus necator由来の天然に存在するAcoD、又はその機能的均等物である。本明細書で使用される場合、用語「AcoD」は、Cupriavidus necator由来のアセトアルデヒド脱水素酵素のタンパク質;並びにそのようなAcoDタンパク質をコードする任意の遺伝子及び全ての遺伝子を指す。
【0073】
特定の実施形態において、天然に存在するAcoDの機能的均等物は、アルデヒドを酸化する活性を少なくとも部分的に保持する。機能的均等物は、天然に存在するAcoDの変異体、断片、融合体、誘導体、又はそれらの任意の組合せを含むことができる。特定の実施形態において、AcoDは、配列番号1のアミノ酸配列、又はその少なくとも80%の配列同一性を有しながらアセトアルデヒドを酸化する実質的な活性を保持するアミノ酸配列を含む。
【0074】
特定の実施形態において、AcoDをコードするヌクレオチド配列は、EcNにおける発現のためにコドン最適化されており、任意選択で、コドン最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号111の配列又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む。本明細書で使用される「コドン最適化された」という用語は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、宿主細胞又は生物、例えばEcNにおいて遺伝子発現を改善し、翻訳効率を高めるために、宿主細胞又は生物によって好まれるコドンを含むように構成されたことを指す。
【0075】
調節エレメント
特定の実施形態において、発現カセットは、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、ターミネーター、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上のエレメントを含む1つ以上の調節エレメントをさらに含む。1つ以上の調節エレメントは、アセトアルデヒド脱水素酵素のポリヌクレオチド配列に作動可能に連結される。本明細書で使用する「作動可能に連結する」という用語は、スペーサー又はリンカーの有無にかかわらず、目的の2つ以上の生物学的配列が意図された様式で機能することを可能にする関係にあるような、それらの生物学的配列の並置を指す。この用語は、ポリヌクレオチドに関して使用することができる。一例として、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー配列など)に作動可能に連結されている場合、ポリヌクレオチドからのポリペプチドの調節された発現を可能にするような方法でポリヌクレオチド配列が連結されていることを意味することが意図される。ポリペプチドに関して使用される場合、ポリペプチド配列が、連結された産物が意図された生物学的機能を有することを可能にするような方法で連結されることを意味することが意図される。例えば、抗体可変領域は、抗原結合活性を有する安定な産物を提供するように、定常領域に作動可能に連結され得る。
【0076】
1.プロモーター
特定の実施形態において、プロモーターは、構成的プロモーター、又は誘導性プロモーターである。
【0077】
本明細書で使用する場合、用語「プロモーター」は、コード配列の転写を制御し得るポリヌクレオチド配列を指す。プロモーター配列は、RNAポリメラーゼの認識、結合及び転写開始に十分な特異的配列を含む。さらに、プロモーター配列は、RNAポリメラーゼのこの認識、結合及び転写開始活性を調節する配列を、任意に、本明細書で提供されるプロバイオティック腸内細菌において含み得る。プロモーターは、それ自身と同じ核酸分子上に位置する遺伝子、又はそれ自身と異なる核酸分子上に位置する遺伝子の転写に影響を及ぼす可能性がある。プロモーター配列の機能は、制御の性質に応じて、構成的であってもよいし、刺激によって誘導可能であってもよい。
【0078】
「構成的プロモーター」という用語は、その制御下にある及び/又はそれが作動可能に連結されているコード配列又は遺伝子の連続的な転写を促進することができるプロモーターを指す。EcNの構成的プロモーター及びバリアントは当技術分野でよく知られており、BBa_J23119、BBa_J23101、BBa_J23102、BBa_J23103、BBa_J23109、BBa_J23110、BBa_J23114、BBa_J23117、USP45_プロモーター、OmpA_プロモーター、BBa_J23100、BBa_J23104、BBa_J23105、BBa_I14018、BBa_J45992 BBa_J23118、BBa_J23116、BBa_J23115、BBa_J23113、BBa_J23112、BBa_J23111、BBa_J23108、BBa_J23107、BBa_J23106、BBa_I14033、BBa_K256002、BBa_K1330002、BBa_J44002、BBa_J23150、BBa_I14034、Oxb19、oxb20、BBa_K088007、Ptet、Ptrc、PlacUV5、BBa_K292001、BBa_K292000、BBa_K137031、及びBBa_K137029が含まれるが、これらに限定されない。例示的な構成的プロモーターのヌクレオチド配列は、表1に示される配列番号10~49、及び少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有するそれらの相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、構成的プロモーターは、配列番号10のヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、このようなプロモーターは、インビトロで、例えば、培養、展開及び/又は製造条件下で活性である。いくつかの実施形態において、このようなプロモーターは、インビボで、例えば、インビボ環境、例えば、消化管微環境で見出される条件下で活性である。
【0079】
本明細書で使用する「誘導性プロモーター」という用語は、化学物質、光、ホルモン、ストレス、嫌気状態又は病原体のような外部刺激によって、1つ以上の細胞型においてオンにすることができる制御されたプロモーターを指す。誘導性プロモーター及びバリアントは、当該技術分野において周知であり、PLteto1、galP1、PLlacO1、Pfnrsが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、例示的な誘導性プロモーターのヌクレオチド配列は、表1に示される配列番号50~53、及び少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有するそれらの相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。特定の実施形態において、誘導性プロモーターは、嫌気性誘導性プロモーターを含む。いくつかの実施形態において、誘導性プロモーターは、配列番号53のヌクレオチド配列を含む。
【0080】
いくつかの実施形態において、プロモーターは、内因性プロモーター、又は外因性プロモーターである。本明細書中で使用される「外因性プロモーター」は、コード領域と作動可能な組み合わせのプロモーターを指し、ここで、プロモーターは、生物のゲノムにおいてコード領域と天然に関連するプロモーターではない。ゲノム中のコード領域に天然に関連又は連結されているプロモーターは、そのコード領域にとって「内因性プロモーター」と呼ばれる。
【0081】
特定の実施形態において、構成的プロモーターは、配列番号10~49及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。特定の実施形態において、構成的プロモーターは、配列番号10を含む。
【0082】
2.リボソーム結合部位(RBS)
特定の実施形態において、RBSは、配列番号65~67及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。本明細書で使用される場合、互換的に使用される用語「リボソーム結合部位」又は「RBS」は、タンパク質の翻訳を開始する際にリボソームが結合する配列を指す。RBSは約35ヌクレオチド長であり、3つの個別ドメインを含む:(1)シャイン‐ダルガーノ(SD)配列、(2)スペーサー領域、及び(3)コード配列(CDS)の最初の5~6コドン。RBS及びそのバリアントは当技術分野でよく知られており、USP45、Synthesized(合成)、OmpAなどが挙げられるが、これらに限定されない。例示的なRBSのヌクレオチド配列は、表1に示す配列番号65~67、及び少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有するそれらの相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。特定の実施形態において、RBSは、配列番号66及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0083】
3.ターミネーター
特定の実施形態において、ターミネーターはT7ターミネーターである。本明細書で使用される用語「ターミネーター」は、得られるポリヌクレオチド鎖へのヌクレオチドのその後の組込みを防止し、それによってポリメラーゼ媒介伸長を停止させる、酵素的に組込み可能なヌクレオチドを指す。いくつかの実施形態において、ターミネーターは、表1に示される配列番号68~69、又はその一部、及び少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)の配列同一性を有するそれらの相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0084】
【0085】
4.シャペロン
特定の実施形態において、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌は、dsbA、dsbC、dnaK、dnaJ、grpE、groES、groEL、tig、fkpA、surA、skp、PpiD及びDegPからなる群から選択される少なくとも1つのシャペロンタンパク質を発現する。
【0086】
特定の実施形態において、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌は、dsbA、dsbC、dnaK、dnaJ、grpE、groES、groEL、tig、fkpA、surA、skp、PpiD及びDegPからなる群から選択される少なくとも1つのシャペロンタンパク質をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含むシャペロン発現カセットをさらに含む。
【0087】
シャペロンタンパク質は、タンパク質のフォールディングやオリゴマータンパク質複合体の凝集、タンパク質の膜貫通輸送を促進するためにタンパク質前駆体をアンフォールド状態に維持すること、変性したタンパク質を分解して修復できるようにすることなど、多くの重要な生物学的プロセスに関与している。それは、主に他のペプチドが正常なコンフォメーションを維持して正しいオリゴマー構造を形成するのを助け、それによって正常な生理学的機能を発揮する。様々なシャペロンタンパク質は当技術分野でよく知られている。いくつかの実施形態において、シャペロンタンパク質は、70kDa熱ショックタンパク質(Hsp70)の細胞質SSAサブファミリーからのSsa1p、Ssa2p、Ssa3p及びSsa4p、BiP、Kar2、Lhs1、Sil1、Sec63、タンパク質ジスルフィド異性化酵素Pdi1pからなる群から選択される。
【0088】
5.ゲノム統合部位
特定の実施形態において、外因性発現カセットは、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌のゲノムに統合される。いくつかの実施形態において、外因性発現カセットは、CRISPR‐Casゲノム編集システムによって、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌のゲノムに統合される。本明細書で提供される任意の適切な宿主細胞は、外因性発現カセットがゲノムに統合されるように操作され得る。異種遺伝子が一定量発現し、シャシーのプロバイオティック腸内細菌の生化学的及び生理学的活性に大きな悪影響を及ぼさない限り、様々なゲノム統合部位を選択することができる。
【0089】
いくつかの実施形態において、外因性発現カセットは、表2に列挙されたものから選択される統合部位においてEcNゲノム中に統合される。いくつかの実施形態において、EcNゲノム中の外因性発現カセットと統合される好適な統合部位はkefBである。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、表2に列挙されたEcNのゲノム部位は、AcoDの発現カセットを挿入するために以下の特徴の少なくとも1つにおいて有利であると考えられる:(1)部位の操作によって影響を受ける細菌遺伝子(複数可)は、EcNの増殖に必須ではなく、宿主細菌の生化学的及び生理学的活性を変化させない、(2)部位は容易に編集可能である、(3)部位中のAcoD遺伝子カセットは転写可能である。EcNの対応するゲノム部位の編集に用いたsgRNA配列を以下の表2に示す。
【0090】
【0091】
6.栄養要求株
特定の実施形態において、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌は、栄養要求株関連遺伝子における少なくとも1つの不活性化又は欠失をさらに含む。
【0092】
環境に優しい細菌を作製するために、細菌細胞の生存に必要ないくつかの必須遺伝子を変異誘発によって欠失又は不活性化し、操作された細菌を栄養要求株にすることができる。本明細書において「栄養要求株」とは、後天的な遺伝的欠陥のために合成できない特定の代謝産物の外部供給源を増殖に必要とする宿主細胞(微生物株など)を指す。本明細書で使用する用語「栄養要求株関連遺伝子」は、宿主細胞(例えば、細菌などの微生物)が生存するために必要な遺伝子を指す。栄養要求株関連遺伝子は、微生物が生存又は増殖に必須の栄養素を生産するために必要となる可能性もあり、また転写因子の活性を調節する環境中のシグナル(そのシグナルがないと細胞死に至るようなシグナル)を検出するために必要となる可能性もある。
【0093】
いくつかの実施形態において、栄養要求性改変は、微生物がその必須栄養素を産生するのに必要な遺伝子を欠くために、生存又は増殖に必須な外因的に添加された栄養素の不在下では死滅することを意図する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される遺伝子組換え細菌のいずれかもまた、細胞の生存及び/又は増殖に必要な遺伝子の欠失又は変異を含む。
【0094】
細菌の様々な栄養要求株関連遺伝子は、当技術分野でよく知られている。例示的な栄養要求株関連遺伝子には、これらに限定されないが、以下が含まれる。
【化1】
【0095】
1つの改変では、必須遺伝子thyAを欠失させるか、又は別の遺伝子で置換することにより、遺伝子組換え細菌を、増殖又は生存するために外因性チミンに依存させる。増殖培地にチミンを添加するか、もともとチミンレベルの高いヒトの消化管にチミンを添加すると、thyA栄養要求細菌の増殖と生存を助けることができる。このような改変は、遺伝子組換え細菌が消化管の外や栄養要求性遺伝子産物のない環境では増殖及び生存できないようにするためである。
【0096】
いくつかの実施形態において、プロバイオティック腸内細菌は、チミジン、ウラシル、ロイシン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニン、アデニン、及び非天然アミノ酸からなる群から選択される1つ以上の物質に対する栄養要求株である。いくつかの実施形態において、非天然アミノ酸は、l‐4,4’‐ビフェニルアラニン、p‐アセチル‐l‐フェニルアラニン、p‐ヨード‐l‐フェニルアラニン、及びp‐アジド‐l‐フェニルアラニンからなる群から選択される。
【0097】
いくつかの実施形態において、プロバイオティック腸内細菌は、転写因子の活性を調節する環境中のシグナル(そのシグナルが存在しないと細胞死に至る)を検出することができるアロステリックに調節された転写因子を含む。このような「シグナル伝達分子‐転写因子」対には、トリプトファン‐TrpR、IPTG‐LacI、安息香酸誘導体‐XylS、ATc‐TetR、ガラクトース‐GalR、エストラジオール‐エストロゲン受容体ハイブリッドタンパク質、セロビオース‐CelR、及びホモセリンラクトン‐luxRからなる群から選択されるいずれか1つ以上が含まれる。
【0098】
組換え発現カセット
別の態様において、本開示はまた、AcoDをコードするヌクレオチド配列、及び1つ以上の調節エレメントを含む組換え発現カセットを提供し、ここで、ヌクレオチド配列は、EcNにおける発現のために最適化されており、任意選択で、コドン最適化ヌクレオチド配列は、配列番号111の配列、又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む。
【0099】
本明細書で使用する「発現カセット」という用語は、適切なプロバイオティック腸内細菌において特定のヌクレオチド配列の発現を指示することができるDNA配列を指し、終結シグナルに作動可能に連結された目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む。それはまた、通常、ヌクレオチド配列の適切な翻訳に必要な配列を含む。コード領域は通常、目的のタンパク質をコードするが、目的の機能性RNA、例えばアンチセンス方向という意味の、アンチセンスRNA又は非翻訳RNAをコードすることもある。目的のヌクレオチド配列を含む発現カセットは、キメラであってもよく、これは、その成分の少なくとも1つが、他の成分の少なくとも1つに関して異種であることを意味する。
【0100】
発現カセットは、本明細書で提供されるプロバイオティック腸内細菌においてAcoDポリペプチドを発現するのに適している。発現カセットは、核酸ベクター(例えば、上記のような発現ベクター)の一部として導入され得る。プロバイオティック腸内細菌に適したベクターとしては、プラスミドが挙げられ得る。ベクターは、哺乳動物ゲノム配列のような真核生物ゲノム配列、細菌ゲノム配列のような原核生物ゲノム配列、又はウイルスゲノム配列に相同な配列を含む発現カセットと隣接する配列を含み得る。これにより、発現カセットを相同組換えによって真核細胞、原核生物のゲノム配列又はウイルスのゲノムに導入することが可能になる。
【0101】
本明細書で使用する「組換え」という用語は、インビトロで合成又は他の方法で操作されたポリヌクレオチド(例えば、「組換えポリヌクレオチド」又は「組換え発現カセット」)、細胞又は他の生物学的系で産物を産生するために組換えポリヌクレオチド又は組換え発現カセットを使用する方法、又は組換えポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド(「組換えタンパク質」)を指す。組換えポリヌクレオチドは、例えば、融合タンパク質の発現のために発現カセット又はベクターにライゲーションされた異なる供給源からの核酸分子;又はポリペプチド(例えば、AcoDコード配列のような異種ポリヌクレオチドに作動可能に連結された本発明の発現カセット又はベクター)の誘導性又は構成的発現によって産生されるものを包含する。組換え発現カセットは、1つ以上の調節エレメントに作動可能に連結された組換えポリヌクレオチドを包含する。
【0102】
いくつかの実施形態において、組換え発現カセットは、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、ターミネーター、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の調節エレメントをさらに含む。いくつかの実施形態において、プロモーターは、構成的プロモーター、又は誘導性プロモーター(例えば、嫌気性誘導性プロモーター)である。プロモーターは、内因性プロモーター、又は外因性プロモーターであり得る。いくつかの実施形態において、プロモーターは、配列番号10~49及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、プロモーターは、配列番号10を含む。
【0103】
いくつかの実施形態において、RBSは、配列番号65~67及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態において、ターミネーターは、T7ターミネーターである。
【0104】
III.組成物
別の態様において、本開示はまた、AcoD又はその機能的均等物を発現する遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌、及び生理学的に許容される担体を含む組成物を提供する。担体は、本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌を哺乳動物における哺乳動物(例えば、ヒト)の胃腸(GI)管に送達するのに適した、適合性のある、生理学的に許容される、非毒性物質であってよい。特定の実施形態において、組成物は、乳酸発酵食品、発酵乳製品、レジスタントスターチ、食物繊維、炭水化物、脂肪、油、香味剤、調味剤、タンパク質及びグリコシル化タンパク質、水、カプセル充填剤、及びグミ材料から選択される1つ以上の生理学的に許容される担体をさらに含む。
【0105】
特定の実施形態において、組成物は食用である。特定の実施形態において、組成物は食品サプリメントである。特定の実施形態において、組成物は、飲料、発酵ヨーグルトなどの機能性食品として処方される。
【0106】
特定の実施形態において、組成物は医薬組成物である。特定の実施形態において、組成物はまた、カプセル、錠剤、液体溶液、例えばカプセル化された凍結乾燥細菌等として、医薬品として製剤化され得る。
【0107】
特定の実施形態において、組成物は、例えば、エリキシル剤、シロップ剤、懸濁剤のような液体形態;又は例えば、カプセル剤、錠剤、粉末剤のような固体形態であり得る。
【0108】
特定の実施形態において、組成物は、凍結乾燥細菌細胞の粉末を含む。凍結乾燥細菌細胞には、ラクトース、トレハロース又はグリコーゲンのような凍結保護剤を採用することができる。
【0109】
特定の実施形態において、遺伝子組換え微生物は生細胞である。特定の実施形態において、組成物は、完成食品、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、又は液体である。特定の実施形態において、組成物は、約0.01~約99.9重量%、約10.01~約89.9重量%、約20.01~約79.9重量%、約30.01~約69.9重量%、約40.01~約69.9重量%、又は約5.01~約59.9重量%の遺伝子組換え微生物を含む。
【0110】
本明細書に開示される組成物は、所与の対象において、1回の投与で、又は複数回の投与にわたって有効であるように製剤化され得る。例えば、単回投与は、組成物が投与される哺乳動物対象において、標的化された疾患又は状態、例えば二日酔い、アルコール性肝疾患のモニターされた症状を軽減するために、又は標的化された疾患又は状態、例えば二日酔い、アルコール性肝疾患の症状を効果的に予防するために、又は標的化された疾患又は状態の進行を効果的に予防するために、実質的に有効である。
【0111】
一般に、組換え細菌の投与量は、対象の年齢、体重、身長、性別、一般的な病状、及び既往歴などの因子に応じて変化する。いくつかの実施形態において、組成物は、単回経口用量が、細菌体及び/又は真菌体の少なくとも約1×104CFUを含むように製剤化され、単回経口用量は、典型的には、細菌体及び/又は真菌体の約1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、又は1×1013CFUを含むであろう。いくつかの実施形態において、組成物は、単回経口投与量が約1×1013CFU以下の細菌体及び/又は真菌体を含むように製剤化される。既知である場合、例えば、所与の株の細胞、又は全ての株の集合体の濃度は、組成物(任意選択で乾燥組成物)1グラムあたり、又は投与用量あたり、例えば、約1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、又は1×1013の生存可能な細菌体(例えば、CFU)である。特定の実施形態において、所与の株の細胞、又は全ての株の集合体の濃度は、組成物(任意選択で乾燥組成物)1グラム当たり、又は投与用量当たり、1×1013以下の生存可能な細菌体(例えば、CFU)である。
【0112】
いくつかの製剤において、組成物は、質量基準で、本開示のプロバイオティック腸内細菌を少なくとも、又は少なくとも約0.5%、1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は90%を超えて含む。いくつかの製剤において、投与量は、質量基準で200、300、400、500、600、700、800、900ミリグラム、又は1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、若しくは1.9グラムの本開示のプロバイオティック腸内細菌を超えない。
【0113】
IV.使用方法
i.アルコール二日酔い
本開示は、本明細書に提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌、及び/又は遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌を含む組成物の治療的用途を提供する。アセトアルデヒドは高度に可溶性の分子であり、本明細書で提供される遺伝子組換え細菌の細胞膜を受動的に拡散して、遺伝子組換え細菌内で発現されたAcoDの基質として機能し、酢酸に酸化され得る。分泌された酵素は、消化管内腔の過酷で変化しやすい環境、例えば低pH、防御や栄養目的のために遊離浮遊タンパク質を分解しようとする敵対的な細菌や真核細胞、NADのような酵素補因子との高い競合、細胞外プロテアーゼなどに直面しなければならないので、酵素の内部局在は、バクテリアから分泌される酵素よりも有利である。一方で、細菌細胞内で発現し機能する酵素は、不快な環境から保護されるため、アセトアルデヒド除去における活性と有効性が著しく向上する。
【0114】
1つの態様において、本開示は、それを必要とする対象におけるアルコール二日酔いを予防及び/又は治療するための方法であって、対象の消化管に、本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。本明細書で使用される「二日酔い」という用語は、これらに限定されないが、疲労及び脱力感、過度の喉の渇き及び口の渇き、頭痛及び筋肉痛、吐き気、嘔吐又は胃痛、睡眠不良又は睡眠減少、光及び音に対する感受性の増加、めまい又は部屋が回転する感覚、震え、集中力の低下、気分障害(うつ、不安、及び被刺激性など)、及び頻拍を含む、不快な徴候及び症状の集合を指す。二日酔いは、アセトアルデヒドの血中蓄積につながる飲み過ぎ及び/又は早飲みの結果である可能性がある。本明細書で使用する「飲み過ぎ」とは、人のアルコール耐性を超える量のアルコールを飲むことを意味する。アルコール耐性は、集団の遺伝的条件によって集団間で異なる。例えば、東アジアの集団によく見られるアセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子の一塩基多型(例えば、ALDH2変異対立遺伝子)は、アルコール耐性を低下させ、あるいはアルコール過敏性すらもたらし、アセトアルデヒドの体内蓄積を引き起こす。
【0115】
本明細書で使用する「アセトアルデヒド」という用語は、アルコール脱水素酵素を介してアルコールを酸化することにより生成されるアルコール代謝経路における毒性中間体を指す。アセトアルデヒドはその後、肝臓でアセトアルデヒド脱水素酵素を介して酢酸に酸化され得る。アセトアルデヒドの蓄積は、アルコール二日酔いの多くの症状の原因である。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、外因性の触媒活性アセトアルデヒド脱水素酵素を導入することによってアセトアルデヒド代謝を促進すれば、アルコール二日酔いの症状を予防及び/又は軽減できると考えられる。したがって、アセトアルデヒドを酢酸に酸化する触媒活性を有する外因性アセトアルデヒド脱水素酵素を産生する対象の消化管内に、本開示の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物を投与することにより、二日酔いの症状を効果的に軽減及び/又は予防することができる。
【0116】
アセトアルデヒドは発癌物質としても知られており、その毒性作用は十分に研究され、記録されている。例えば、上皮バリアを損傷し、腸管の上皮層の透過性を増加させる(Chaudhry KK et al.,Alcoholism,clinical and experimental research.2015;39:1465‐75)。肝細胞におけるアセトアルデヒドの蓄積の増加はまた、肝線維症を引き起こす可能性があり、これは不活性なALDH2と関連することが示されている(Purohit V et al.,Hepatology(Baltimore,Md).2006;43:872‐8)。ALDH2を過剰発現させると、慢性アルコール誘発性肝障害とアポトーシスを抑制できることが研究で示されている(Guo et al.,Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology.2009;36:463‐8.)。従って、本開示はまた、それを必要とする対象においてアセトアルデヒドのレベルを低下させるための方法であって、対象の消化管に、本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0117】
別の態様において、本開示は、それを必要とする対象においてアジアンフラッシュを予防及び/又は治療するための方法であって、対象の消化管に、本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。本明細書で使用する「アジアンフラッシュ」という用語は、アジア人の集団でしばしば観察される、アルコール摂取に対する顔面紅潮反応を指す。アジアンフラッシュは、アルコール摂取を抑止する防御機構となりうる。しかしながら、人々がより多くのアルコールを飲むことを奨励又は挑戦される社交行事において、アジアンフラッシュを有する個人は、この飲酒暴飲から逃れることができないか、又はこの飲酒暴飲を断ることができない可能性がある。したがって、社会的飲酒が避けられない場面では、アジアンフラッシュの予防及び/又は治療法が必要である。
【0118】
アジアンフラッシュは、一般に、1つ以上のアルコール脱水素酵素、例えばアルデヒド脱水素酵素の欠損と関連している。特定の実施形態において、対象は、1つ以上のアセトアルデヒド脱水素酵素が欠損している。特定の実施形態において、対象は、アセトアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)が欠損している。特定の実施形態において、対象は、ALDH2バリアント対立遺伝子のキャリアである。本明細書で使用される場合、用語「ALDH2バリアント対立遺伝子」は、機能的一塩基多型(SNP)、例えば、エクソン12において、E487K置換、すなわち、ALDH2*487Lys(ALDH2*2とも命名される)をもたらす機能的塩基多形を含むALDH2対立遺伝子を指すことができる。ALDH2*2はミトコンドリアALDH2酵素の機能欠損バージョンをコードし、ALDH2の触媒的不活性化をもたらす(Agarwal,Pathol Biol(Paris).2001 Nov;49(9):703‐9.;Ramchandani et al.,Pathol Biol(Paris).2001 Nov;49(9):676‐82.;Vasiliou et al.,Pharmacology.2000 Sep;61(3):192‐8;Yoshida,Pharmacogenetics.1992 Aug;2(4):139‐47)。用語「ALDH2バリアント対立遺伝子」はまた、ALDH2*1を含み得る。ALDH2*1/*2によってコードされる酵素は部分的に不活性であり、ALDH2*2/*2によってコードされる酵素は完全に不活性である。特定の実施形態において、対象は、ALDH2*1/*2のキャリアである。特定の実施形態において、対象はALDH2*2/*2のキャリアである。
【0119】
ALDH2欠損は、酵素活性レベル及び/又は遺伝子レベルで検出することができる。酵素活性レベルでのALDH2欠損は、当該技術分野で公知の任意の適切な機能的アッセイによって測定することができる。遺伝子レベルでのALDH2欠損は、例えば、限定されないが、増幅アッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイ、又は配列決定アッセイなど、当該分野で公知の任意の方法によって測定することができる。
【0120】
iii.アルコール性肝疾患
アルコール代謝は主に肝臓で行われる。上述のアセトアルデヒドの解毒作用に加え、アセトアルデヒド脱水素酵素が肝臓疾患の発症に関与することも示されている。ALDH2*2は、その関連するアジアフラッシュが対象のアルコール摂取を防ぐ可能性が高いため、アルコール性肝疾患(ALD)の発症から対象を保護する可能性があるが、ALDH2*2対立遺伝子によるALDに対するそのような保護は、アルコール耐性を増加させるアルコール摂取の増加により、時間の経過とともに弱まる可能性がある(Higuchi S et al.,The Lancet、1994;343:741‐2)。従って、ALDH2*2対立遺伝子を持つ対象は、アルコールの摂取を避けない限り、ALDを発症する可能性がある。
【0121】
別の態様において、本開示は、それを必要とする対象においてアルコール性肝疾患(ALD)を予防及び/又は治療するための方法であって、対象の消化管に、本明細書に提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。ALDは、脂肪症から肝硬変までの幅広い肝病変を含む複雑なプロセスである。細胞傷害、炎症、酸化ストレス、再生及び細菌の移動は、アルコール誘発性肝障害の主要な促進因子である。ALDの有病率は、中国、米国、欧州、日本でそれぞれ4.5%、6.2%、6%、1.56‐2.34%と報告されている(Xiao J.et al.,Journal of hepatology.019;71:212‐21;Fan J‐G eg al.,Journal of Gastroenterology and Hepatology.2013;28:11‐7;Rehm J et al.,The Lancet.2009;373:2223‐33;及びSzabo G et al.,Hepatology(Baltimore,Md).2019;69:2271‐83.)。特定の実施形態において、アルコール性肝疾患は、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、アルコール性線維症又はアルコール性肝硬変である。アルコール性脂肪肝は、炎症を伴うアルコール性肝炎に進行し得るALDの初期段階である。アルコール性肝炎はアルコール性肝線維症に進行し、さらにアルコール性肝硬変、次いでアルコール性肝癌へと進行し得る。これらの疾患は、脂肪肝からアルコール性肝炎へ、線維化へ、肝硬変へと順次進行するだけでなく、併発することもある。
【0122】
別の態様において、本開示は、それを必要とする対象において、アルコール性脂肪肝疾患からアルコール性肝線維症、アルコール性肝硬変又はアルコール性肝癌への進行を予防及び/又は遅らせるための方法であって、対象の消化管に、本明細書に提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0123】
別の態様において、本開示は、それを必要とする対象において、アルコール性肝炎からアルコール性肝線維症、アルコール性肝硬変又はアルコール性肝癌への進行を予防及び/又は遅らせるための方法であって、対象の消化管に本明細書に提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0124】
別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象において非アルコール性脂肪肝(NAFLD)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を予防及び/又は治療するための方法であって、対象の消化管に本明細書に提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。特定の実施形態において、NAFLDは、脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変又は肝臓癌である。
【0125】
本明細書で使用する「非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)」は、過度のアルコール摂取がない場合の脂肪肝環境を表すために使用される包括的な用語である。世界の一般人口の25%がNAFLDの診断基準を満たすと推定されており、男性により多く、加齢とともに増加する。
【0126】
NAFLDの初期段階は、肝細胞における異所性脂肪の蓄積(脂肪症)などの特徴に基づいて検出することができる。脂肪症は一般に良性で無症状である。しかし、肥満/代謝障害を併発すると、脂肪症は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に進行し、肝線維化、重症の場合は肝細胞癌(HCC)、肝不全のリスクが高まる。
【0127】
NASHは、肝細胞のバルーン化や炎症などの特徴によって組織学的に検出することができる。良性脂肪症とは異なり、NASHは、患者の10~28%において線維症/肝硬変に進行する重大な健康上の脅威を示す。NASHから線維化/肝硬変へのさらなる進行は、これらの患者における死亡率の高い予測因子である。
【0128】
アルコール欠乏食にもかかわらず、NASHに進行したNAFLDを有する患者は、患者の全身循環及び呼気中のアルコールレベル(すなわち、内因性アルコール又は腸内細菌由来エタノール)の上昇と、アルコール脱水素酵素遺伝子の遺伝子転写の増加とが依然として関連していることが、研究によって見出されている(Baker et al.,PLoS One、Vol.5.Iss.3)。このようなアルコールは、患者体内のアルコール産生微生物叢(Escherichia、Ruminococcus、Klebsiella pneumoniaなど)による炭水化物発酵から産生される可能性があり、内因性アルコールは、門脈内毒素血症の増加をもたらす腸管バリア機能の障害を介した肝細胞への直接的な毒性作用や、末梢細胞における核因子‐κB(NF‐κB)シグナル伝達経路のアップレギュレーションを介して、NAFLDの進行に関与している可能性がある(Zhu et al.,Hepatology.2013 Feb;57(2):601‐9;Canfora et al.,Nat Rev Endocrinol.2019 May;15(5):261‐273;及びYuan et al.,2019,Cell Metabolism 30,675‐688)。
【0129】
NASHにおける4‐HNEタンパク質付加物の有意な蓄積によって示唆されるように、研究はまた、有意な酸化ストレス及びALDH活性の低下を示している。4‐HNEは、ALDH2活性部位ペプチドの共有結合修飾であり、ALDH2の強力な不可逆的阻害剤であることが報告されており、このことは、4‐HNEによるALDH2の不活性化がNASHの原因である可能性を示している(Li et al.,Toxicological sciences:an official journal of the Society of Toxicology.2018;164:428‐38;及びDoorn et al.,Chemical research in toxicology.2006;19:102‐10)。従って、本開示はまた、それを必要とする対象においてNAFLDのNASHへの進行を予防及び/又は遅らせるための方法であって、対象の消化管に有効量の遺伝子組換えプロバイオティクス腸内細菌又は本明細書で提供される組成物を投与することを含む、上記方法を提供する。別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象においてNASHの肝線維症への進行を予防及び/又は遅らせるための方法であって、対象の消化管に本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティクス腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象においてNASHの肝線維症への進行を予防及び/又は遅らせるための方法であって、対象の消化管に、本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。NAFLD/NASH患者は、本開示の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物から利益を得ることができ、この組成物は、in vitro及びin vivoでアセトアルデヒドを効果的に分解し、NASH患者において不活性化されたALDH2を補い、有毒なアセトアルデヒドの体内蓄積を防止することが示されている。
【0130】
特定の実施形態では、対象は、基準レベルに対して上昇した血中エタノール又は血清エタノールレベルを有する。本明細書で使用する場合、血中エタノール又は血清エタノールに関する「基準レベル」という用語は、比較を可能にするベンチマークレベルを指す。基準レベルは、所望の目的に応じて当業者が選択することができる。適切な基準レベルを決定するための手段は当業者に知られており、例えば、基準レベルは、経験、既存の知識、又は臨床研究から収集されたデータから決定することができる。例えば、血中アルコールの基準レベルは、性別が同じで体重が同等であり、任意で体調、投薬歴、食事、睡眠などの他の要因も同等である健常者の血中アルコールレベルとすることができる。例えば、Zhuらの報告(Hepatology,57(2):2013,page 601‐609)によれば、血清エタノールレベルは、健常対象では約25μMであるが、NASH患者では約35μMである。特定の実施形態において、対象は、基準レベルよりも少なくとも10%、15%、20%、25%、又は30%高い血清エタノールレベルを有する。
【0131】
特定の実施形態において、対象は、基準レベルに対してアルコール産生腸内微生物叢の存在量の増加を有する。特定の実施形態において、アルコール産生腸内微生物叢の存在量とは、健常人におけるそのような微生物叢の基準レベル又は量に対するアルコール産生微生物叢の量の増加を指す。また、アルコール産生腸内微生物叢の存在量の増加は、健常人のアルコール産生腸内微生物叢と比較して、患者のアルコール産生腸内微生物叢のアルコール産生能力の向上を指す場合もある。例えば、アルコール産生腸内微生物叢は、異常な状態、例えばNASH患者において、健康な人よりも多くのアルコールを産生する(そのような微生物叢の量の増加によるか、又はアルコール産生能力の増強による)一般的な腸内微生物叢であり得る。例示的なアルコール産生腸内微生物叢には、限定されないが、Klebsiella pneumonia(肺炎桿菌)、Escherichia(エシェリヒア)、Bacteroides(バクテロイデス)、Bifidobacterium(ビフィドバクテリウム)、Clostridium(クロストリジウム)、及び酵母が含まれる(Yuan et al.,2019、Cell Metabolism 30,675‐688;Frantz JC et al.,J Bacteriol 1979;137:1263‐1270;Zhu et al.,Hepatology 2013 Feb;57(2):601‐9;Amaretti A et al.Appl Environ Microbiol 2007;73:3637‐3644;及びWeimer PJ et al.,Appl Environ Microbiol 1977;33:289‐297)。対象におけるアルコール産生腸内微生物叢の存在量は、例えば、フルクトース又はグルコースなどの炭水化物、を含む適切な培地中で嫌気的又は好気的に発酵させた後、対象から単離した糞便サンプルによって産生されたアルコール濃度をアッセイすることによって測定することができる(Yuan et al.,2019、Cell Metabolism 30、675‐688)。対象におけるアルコール産生腸内微生物叢の存在量はまた、対象の糞便サンプルからゲノムDNAを単離し、ゲノムDNAの配列決定(例えば、16SリボソームRNAパイロシーケンシング)を行い、続いて微生物叢組成の同定、分類及び存在量分析を行うことによって測定することもできる(Zhu et al.,Hepatology.2013 Feb;57(2):601‐9)。存在量が増加しているかどうかを判断するには、上述の方法に従って測定された対象の糞便サンプルが産生するアルコール濃度、又は上述の方法に従って測定及び分析された対象の微生物叢の存在量結果を、正常な対象のそれと比較することができる。
【0132】
特定の実施形態において、組成物は、アルコールの消費前、消費中、又は消費後に投与される。特定の実施形態において、組成物は、アルコールの消費開始の24時間前までに対象に投与される。
【0133】
二日酔い予防は、本明細書で提供される組成物を、アルコール摂取前(例えば、24時間前、20時間前、18時間前、16時間前、14時間前、12時間前、10時間前、8時間前、6時間前、4時間前、2時間前、1時間前、又は0.5時間前のいずれかまで)に対象に投与することによって達成することができる。二日酔いの治療及び/又は軽減は、アルコールの消費中及び/又は消費後、又は対象が二日酔いの症状を発症する任意の時間に、本明細書で提供される組成物を投与することによって達成することができる。例えば、本組成物は、アルコール摂取後24時間、20時間、18時間、16時間、14時間、12時間、10時間、8時間、6時間、4時間、2時間、1時間又は0.5時間のいずれかまで投与することができる。
【0134】
アルコール性肝疾患又は非アルコール性脂肪肝の予防及び/又は治療は、本明細書で提供される組成物を対象に一定間隔で(例えば、1日1回、1日2回、1日3回など、一定期間)投与することによって達成され得る。
【0135】
ALDH2バリアント対立遺伝子はまた、限定されるものではないが、胃癌、アルツハイマー病、骨粗鬆症、心筋梗塞、高血圧、食道癌及び頭頸部癌を含む、いくつかの他の疾患又は病態生理学的状態と関連することが見出されている。従って、本開示はまた、上記の疾患又は病態生理学的状態のいずれかを予防、治療及び/又は進行を遅らせるための方法であって、対象の消化管に、本明細書で提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量を投与することを含む、上記方法を提供する。
【0136】
別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象におけるアルコール二日酔いを予防及び/又は治療するための医薬の製造における、本明細書において提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量の使用を提供する。
【0137】
別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象におけるアセトアルデヒドのレベルを低下させるための医薬の製造における、本明細書において提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量の使用を提供する。
【0138】
別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象においてアジアンフラッシュを予防及び/又は治療するための医薬の製造における、本明細書において提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量の使用を提供する。
【0139】
別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象においてアルコール性肝疾患を予防及び/又は治療するための医薬の製造における、本明細書において提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量の使用を提供する。
【0140】
別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象において、アルコール性脂肪肝疾患からアルコール性肝線維症、アルコール性肝硬変又はアルコール性肝癌への進行を予防及び/又は遅らせるための医薬の製造における、本明細書において提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量の使用を提供する。
【0141】
別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象において、アルコール性肝炎からアルコール性肝線維症、アルコール性肝硬変又はアルコール性肝癌への進行を予防及び/又は遅らせるための医薬の製造における、本明細書において提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量の使用を提供する。
【0142】
別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象において、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を予防及び/又は治療するための医薬の製造における、本明細書において提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量の使用を提供する。
【0143】
別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象におけるNAFLDからNASHへの進行を予防及び/又は遅らせるための医薬の製造における、本明細書において提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量の使用を提供する。
【0144】
別の態様において、本開示はまた、それを必要とする対象において、NASHから肝線維症への進行を予防及び/又は遅らせるための医薬の製造における、本明細書において提供される遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は組成物の有効量の使用を提供する。
【実施例】
【0145】
実施例1.ガイドRNA(gRNA)プラスミドZL‐003_kefBの調製
gRNAプラスミドZL‐003_kefBの概略地図を
図1に示すが、これは当該技術分野で公知の従来の方法を用いて構築した。簡単に述べると、NGG PAM配列(N20NGG)とともに20bpの配列を標的統合配列の両鎖上で検索し、EnNゲノムに対してブラストした。ユニークな20bpの配列が、標的統合部位のsgRNAとして選択された。sgRNAの上流と下流にそれぞれ300~500bpの配列を左相同アーム(LHA)と右相同アーム(RHA)として選択した。このsgRNA配列をZL‐003プラスミド上のgRNAスキャフォールドのリバースプライマーの5’末端に付加した後、設計したsgRNA配列とともにgRNAスキャフォールドをZL‐003から増幅し、PCR産物とZL‐003プラスミドをともに消化し、消化したZL‐003プラスミドを脱リン酸化した後、消化したPCR断片とライゲーションしてgRNAプラスミドZL‐003_kefBを作製した。
【0146】
例2.ドナー遺伝子カセット(kefB_J23119_AcoD、kefB_J23101_AcoD、及びkefB_J23108_AcoD)の設計
EcNのゲノムに組み込む目的遺伝子、すなわちアセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子AcoDは、Cupriavidus necatorに由来する。AcoDのアミノ酸配列を配列番号1に示す。標的遺伝子は、GeneScript社製のクローニングプラスミド(例えばpUC57)上で合成した(pUC57_AcoD,配列番号2)。標的遺伝子はプラスミドpUC57_AcoDから増幅し、選択した統合部位のLHAとRHAはEcNのゲノムから増幅した。これらの断片のPCRに用いたプライマーは、LHAとRHAに隣接する標的遺伝子とオーバーラップPCRでライゲーションできるように、互いに15~20bpの相同配列を持っていた。直鎖のPCR産物をドナー遺伝子カセットとして用いた。
【0147】
特に、EcN_kefB_J23119_AcoDカセットのPCRに使用したプライマーをそれぞれ以下の表3に示す。プライマー1及び2は、高忠実度熱安定DNAポリメラーゼを用いてプラスミドpUC57‐AcoD(Shanghai Sunny Biotechnology Co.,Ltd.により合成)からAcoD断片を増幅するために使用した。プライマー3及び4は、研究室で合成したプラスミドZL‐003_kefB_J23119‐GFPからターミネーター‐kefB RHアーム断片を増幅するために使用した。プライマー5と6は、研究室で合成したプラスミドZL‐003_kefB_J23119‐GFPからKefB LHアーム‐J23119‐RBS断片を増幅するために使用した。最後にプライマー5と4を用いて、AcoD断片、ターミネーター‐kefB RHアーム断片、及びKefB LHアーム‐J23119‐RBS断片を鋳型として、kefB_J23119‐AcoD(配列番号7)断片を増幅した。kefB_J23101_AcoDフラグメントとkefB_J23108_AcoDフラグメントは、異なるプロモーターを使用した以外は同様の方法で合成した。
【0148】
【0149】
kefB‐J23119‐AcoD、kefB‐J23101‐AcoD及びkefB‐J23108‐AcoD断片は、
図2に示すように、正しいサイズ(2489bp)であることが確認され、次のステップでさらなるゲノム統合に使用することができる。
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
例3.遺伝子組換えEcNの構築
エレクトロポレーションコンピテントEcN細胞を調製した。実施例1に記載のgRNA切断プラスミドZL‐003_kefBの200ng、及び実施例2に記載の相同組換え用ドナーRNA断片の2μgを、エレクトロポレーションコンピテント細胞100μLに添加した。混合後、細胞をあらかじめ冷却した2mmエレクトロポレーションキュベットに移し、表4に示す条件でエレクトロポレーションした。形質転換後、細胞を30℃の900μL SOC培地に回収し、220RPMで3時間インキュベートした。その後、50μg/mL スペクチノマイシン、50μg/mL ストレプトマイシン、及び100μg/mL アンピシリンを添加したLB寒天培地に細胞をプレーティングし、30℃で一晩培養した。
【0154】
【0155】
1.PCRの検証
3枚のプレートからそれぞれ8個のシングルコロニーを採取した:EcN/kefB::J23119‐AcoD、EcN/kefB::J23101‐AcoD、及びEcN/kefB::J23108‐AcoDを30μLのLB培地に再懸濁し、PCR検証を行った。プライマー kefB‐verify‐f:GCAGACGAACATTTCGACTG(配列番号101)及びkefB‐ verify‐r:ATCGCCATTGAATCCTGTGC(配列番号102)を用いて、1μLの細菌懸濁液を鋳型としてPCR検証を行った(2×rapid Taq Master Mix)。PCR反応系を表5に示す。
【0156】
【0157】
【0158】
電気泳動の結果、目的のバンドと一致した株のPCR産物は、さらにシーケンシング(Shanghai Sunny Biotechnology Co.Ltd.)に送られた。シーケンシングの結果、ゲノムが正しく統合された株を、EcN/kefB::J23119‐AcoD(遺伝子組換え細菌119)、EcN/kefB::J23101‐AcoD(遺伝子組換え細菌101)、及びEcN/kefB::J23108‐AcoD(遺伝子組換え細菌108)を含む遺伝子組換え株として選択した。
【0159】
2.シャペロンプラスミドの構築
分子シャペロン遺伝子の増幅には、Takara Biomedical Technology(Beijing)Co.,Ltd.(宝日医生物技術(北京)有限公司)から購入したシャペロンプラスミドpKJE7(分子シャペロン:dnaK、dnaJ、grpEを発現)及びpGro‐TF2(分子シャペロン:groES、groEL、tigを発現)を用いた。
【0160】
プライマーgrpE‐ter‐f:
【化5】
及びRBS‐dnaK‐r:
【化6】
を用いて、ZL‐003_lldDを鋳型(当研究室に保存)とし、高忠実度DNAポリメラーゼKODを用いてZL‐003_lldD骨格を増幅した。同時にプライマーRBS‐dnaK‐f:
【化7】
及びgrpE‐ter‐r:
【化8】
を用いて、高忠実度DNAポリメラーゼKODを用いて、プラスミドPkje7を鋳型としてdnaK‐dnaJ‐grpE断片を増幅した。ZL‐003_lldD骨格とdnaK‐dnaJ‐grpE断片をClon Express Ultra One Step Cloning Kitを用いてライゲーションし、統合プラスミドZL‐003_IldD‐J23115‐KJE(配列番号8)を得た。
【0161】
プライマーtig‐ter‐f:
【化9】
及びRBS‐groES‐r:
【化10】
を用いて、ZL‐003_tkrAを鋳型として、高忠実度DNAポリメラーゼKODを用いてZL‐003_tkrAの骨格を増幅した。
同時にプライマーRBS‐groES‐f:
【化11】
及びtig‐ter‐r:
【化12】
を用いて、プラスミドpG‐TF2を鋳型としてKOD DNAポリメラーゼを用いてgroES‐groEL‐tig断片を増幅した。ZL‐003_tkrA骨格とgroES‐groEL‐tig断片をClon Express Ultra One Step Cloning Kitを用いてライゲーションし、統合プラスミドZL‐003_tkrA‐J23115‐Gro(配列番号9)を得た。
【0162】
119‐4(EcN/kefB::J23119‐AcoD‐4)コンピテント細胞を調製し、次いでプラスミドZL‐003_IldD‐J23115‐KJE及びZL‐003_tkrA‐J23115‐Groでそれぞれ形質転換した。目的株119‐4/IldD::J23115‐KJE及び119‐4/tkrA::J23115‐GroはPCR検証及びシーケンシング後に得た。
【0163】
本発明で使用したプラスミドと株をそれぞれ表7と表8に示す。
【0164】
【0165】
【0166】
図3Bは、組換え細菌119におけるAcoD遺伝子の転写レベルが、組換え細菌101における転写レベルの3倍であり、組換え細菌108における転写レベルの6倍であったことを示している。このことは、
図3Aに示した結果と合わせて、本発明においては、組換え細菌119中のプロモーターJ23119が好ましいことを示唆している。
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
【化18-1】
【化18-2】
【化18-3】
【化18-4】
【0173】
【化19-1】
【化19-2】
【化19-3】
【化19-4】
【0174】
実施例4.組換え細菌株のアセトアルデヒド代謝活性の検出
1.組換え細菌株のアセトアルデヒド耐性の検出
対照細菌、組換え細菌119及び組換え細菌101からシングルコロニーを採取し、それぞれ0mM、5mM、10mM、15mM、20mM及び30mMのアセトアルデヒドを含むLB寒天プレートにプレーティングし、37℃で一晩増殖させた。その結果、対照細菌、組換え細菌119及び組換え細菌101のいずれも、アセトアルデヒド濃度が15mMでも正常に増殖できることがわかった(
図3)。
【0175】
2.in vitroでの組換え細菌株のアセトアルデヒド代謝活性の検出
1)組換え細菌反応試料の調製
(1)一定量の細菌を室温で遠心分離し、1500μLの10mMアセトアルデヒド(無菌水で調製)に再懸濁し、37℃で1時間反応させた。
【0176】
(2)遠心分離後、100μlの上清を採取し、900μLの無菌水で10倍に希釈して更に検出した。
【0177】
2)標準試料の調製:
(1)2Mアセトアルデヒドを無菌水で10mMに希釈し、組換え細菌培養液と反応させた。
【0178】
(2)2Mアセトアルデヒドを無菌水で1mM、0.5mM、及び0.25mMに希釈し、HPLC標準物質とした。
【0179】
3)アセトアルデヒドの誘導体化
(1)誘導体化試薬の調製:2,4‐ジニトロフェニルヒドラジン(2,4‐DNPH、Sangon Biotech(Shanghai) Co.,Ltd.、分析試薬)12mgに10%塩酸25ml(35%塩酸23ml+水77ml)を加え、超音波で溶解し、誘導体化試薬を得た。
【0180】
(2)誘導体化反応:1.5mL EPチューブに900μlの超純水、300μlの組換え細菌反応試料又は標準溶液を加え、次いで上記の方法に従って調製した300μlの2,4‐ジニトロフェニルヒドラジン溶液を加えた。次いでチューブをよく混合した後、60℃で60分間インキュベートした。氷冷後、HPLC検出直前に0.22μm水系ろ過膜でろ過した。
【0181】
(3)HPLC検出:20μLの試料を、HPLC検出用のAthena C18 HPLCカラム(Anpel Laboratory Technologies(Shanghai)Inc、4.6×250mm、5μm)で流した。サンプルは、移動相としてH2O:アセトニトリル(40:60)で、カラム温度は40℃として、1.0mL・min-1で流した。サンプルは検出波長360nmで検出した。
【0182】
(4)検出結果:
図4より、対照株と比較して、119株の6×10
9CFUを1時間反応させた後のアセトアルデヒド残存量は1mM未満、101株の6×10
9CFUを1.5時間反応させた後のアセトアルデヒド残存量は1mM未満、108株の6×10
9CFUを1.5時間反応させた後のアセトアルデヒド残存量は4.4mMであった。これは、プロモーターの強さがアルデヒド脱水素酵素の活性に影響することを示している。一般に、より強いプロモーターは細菌株の増殖に悪影響を及ぼす可能性が高いと考えられている。しかしながら、本開示の発明者らは、驚くべきことに、最も強いプロモーターJ23119を含む細菌株と、比較的弱いプロモーターJ23101を含む細菌株の両方が、良好に増殖し、15mMまでの濃度のアセトアルデヒドに耐えることができることを見出した(
図3A)。本開示の発明者らはさらに驚くべきことに、EcNをシャーシ細菌として選択することが、他の細菌株、例えば枯草菌(Bacillus subtilis)よりも有利であることを見出した。
図4は、本発明の菌株119の6×10
9CFUが、10mMアセトアルデヒド中で1時間反応させた後、約90%のアセトアルデヒドを消費できることを示しており、これは、ZBioticsら、US2019076489A1に示されるように、組換え枯草菌(同量の細菌で同時間培養した場合、約40%のアセトアルデヒドしか分解されなかった)よりもアセトアルデヒド分解においてはるかに効率的である。
【0183】
図6は、アセトアルデヒドの開始濃度が10mMの場合、対照株と比較して、分子シャペロンgroES‐groEL‐tigを過剰発現させた組換え細菌119/Groと、dnaK‐dnaJ‐grpEを過剰発現させた組換え細菌119/KJEの両方が、1時間で約9mMのアセトアルデヒドを消費したことを示している。これらのデータから、分子シャペロンを過剰発現させることで、アセトアルデヒド脱水素酵素の触媒活性をある程度促進できることが示唆されたが、その効果は有意ではなかった。
【0184】
実施例5.組換え細菌株の最適化
1.アセトアルデヒド脱水素酵素
先の結果に示したように、Nissle 1917株自体もアセトアルデヒド脱水素酵素(AldB)遺伝子を発現していることを考慮すると、Nissle 1917株単独によるアセトアルデヒド代謝効率は非常に低いことから、AldBの発現量を増加させれば、菌株によるアセトアルデヒド代謝活性も向上するのではないかと推測した。そこで本実施例では、シングルコピーのJ23119‐AldB発現カセット(その配列は配列番号112に記載)をNissle 1917株のゲノムのkefB部位に挿入し、AldBを過剰発現する組換え株を構築した。その結果を
図7に示す。野生型のNissle 1917株と比較して、AldBを過剰発現させた組換え株ではアセトアルデヒドの代謝効率が著しく向上した。10mMのアセトアルデヒド中で1時間反応させた後、約5mMのアセトアルデヒドを分解できたことから、大腸菌内在性のAldB遺伝子の発現を増加させることで、アセトアルデヒド代謝活性を確かに改善できることが示唆された。しかし、J23119‐AcoD発現カセットを挿入した組換え株119は、同じ時間内に9mMのアセトアルデヒドを代謝することができ、これはAldBを過剰発現させた組換え株よりもはるかに高い値であった。従って、この実施例は、Cupriavidus necator由来のAcoDが、Nissle 1917株由来の内在性AldBよりも、アセトアルデヒド代謝のための組換え株の構築により適していることを、驚くべきことに検証した。
【0185】
J23119‐AldB発現カセットを含む配列は以下の通りであり、ここで大文字及びローマン体の部分はkefBの上流及び下流の相同断片であり;イタリック体の部分はプロモーター、AldB遺伝子及びT7ターミネーターを含むAldB遺伝子の発現カセットであり;小文字のイタリック体の配列はJ23119プロモーター及びRBS部位であり;そして大文字のイタリック体の下線のついた配列はAldB遺伝子のオープンリーディングフレームである。
【0186】
【0187】
2.シストロン
この実施例では、AcoDのオープンリーディングフレームワーク(ORF)の上流にBCD2シストロン(その配列は配列番号62に記載されている)を付加することにより、組換え株によるアセトアルデヒド代謝活性をさらに向上させることができるかどうかをさらに検討した。AcoDのオープンリーディングフレームの上流にBCD2シストロンを持つ組換え株を構築するために、シングルコピーのJ23119‐BCD2‐AcoD発現カセット(その配列は配列番号113に記載)をNissle 1917株のゲノムのkefBサイトに挿入した。その結果を
図8に示す。BCD2シストロンを持たないAcoD株と比較すると、アセトアルデヒドを90%代謝するのに、AcoD株が1時間かかったのに対し、BCD2を持つ組換え株は45分しかかからなかった。このことから、シストロンの添加により、組換え細菌のアセトアルデヒド代謝活性がさらに向上することが示唆された。
【0188】
J23119‐BCD2‐AcoD発現カセットを含む配列は以下の通りであり、大文字及びローマン体の部分はkefBの上流及び下流の相同断片であり、イタリック体の部分はプロモーター、BCD2シストロン、AcoD遺伝子及びT7ターミネーターを含むAcoD遺伝子の発現カセットであり;小文字のイタリック体の配列はJ23119プロモーターとRBS部位であり、大文字のイタリック体の下線の付いた配列はAcoD遺伝子のオープンリーディングフレームであり、大文字のイタリック体の二重下線の付いた配列はBCD2シストロンである。
【0189】
【0190】
3.インビボでの組換え細菌株のアセトアルデヒド代謝活性の検出
動物実験はPharmaLegacy Laboratories(Shanghai)Co.,Ltd.に委託した。8~9週齢の雄性SDラットを無作為に2群に分け、各群6匹とした。各群に500μL(5×1011CFU)の対照細菌又は組換え細菌119を胃内投与した。3時間後、各ラットに2g/kg体重の用量のエタノールを経口投与した(調製した60%アルコール(V/10)を使用)。エタノール経口投与の0、1、2.5、及び5時間後に頸静脈より採血し、血清を採取した。
【0191】
1)エタノール/アセトアルデヒド標準物質の調製:非実験SDラットの同年齢の血清試料を採取し、これに一定濃度のエタノールとアセトアルデヒドを添加した(3種類の標準物質には、それぞれ40μmのエタノールと4μmのアセトアルデヒド、20μmのエタノールと2μmのアセトアルデヒド、及び10μmのエタノールと1μmのアセトアルデヒドが含まれている)。
【0192】
2)血清中のアルコール及びアセトアルデヒドの含量の検出(ヘッドスペースガスクロマトグラフィ)
(1)検出条件:0.2mlのヘッドスペース試料をFID検出器に注入し、試料注入器及び検出器を140℃に加熱し、カラムオーブンを35℃から70℃まで徐々に加熱し、キャリアガス(N2)、H2及び空気をそれぞれ20、50及び500Ml/minの流速で注入した。
【0193】
(2)試料分析:100μlの実験動物血清試料又は上記のように調製した100μlのエタノール/アセトアルデヒド標準物質を対応するヘッドスペースボトルに添加し、次いでインキュベーター内で70℃で20分間インキュベートし、0.2mlのヘッドスペースガスを抽出し、クロマトグラフに注入して分析した。
【0194】
(3)検出結果:
図5より、エタノールを摂取させてから1時間後、組換え細菌を摂取させたラットの残存エタノール含量及びアセトアルデヒド含量は、対照細菌を摂取させたラットの半分未満であった。トレンドラインは、組換え細菌を摂取させたラットのエタノール及びアセトアルデヒドの代謝速度が、対照細菌を摂取させたラットの代謝速度よりも有意に速いことを示している。
【0195】
エタノール含量の変動:エタノール投与1時間後の血中エタノール含量は、対照細菌群53.65±17.88μM、組換え細菌群20.76±8.39μMであった。エタノール投与2.5時間後の上記群の血中エタノール含量は、それぞれ25.86±17.19μM、及び18.03±5.01μMであった。5時間後、両群の血中アルコールは正常レベルに戻った。
【0196】
アセトアルデヒド含量の変動:エタノール投与1時間後、対照細菌群及び組換え細菌群の血中アセトアルデヒド含量は、それぞれ8.12±1.20μM及び4.23±1.39μMであった。エタノール投与2.5時間後の上記群の血中アセトアルデヒド含量は、それぞれ3.34±0.19μM及び2.12±0.81μMであった。5時間後、両群の血中アセトアルデヒドは正常レベルに戻った。
【配列表フリーテキスト】
【0197】
配列番号2~115 <223> 合成
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-10-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアルデヒド脱水素酵素をコードするヌクレオチド配列を含む外因性発現カセットを含む、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌であって、
該プロバイオティック腸内細菌が大腸菌(Escherichia coli)Nissle 1917株(EcN)であ
る;
アセトアルデヒド脱水素酵素が、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)由来の天然に存在するAcoDである;
アセトアルデヒド脱水素酵素が、配列番号1のアミノ酸配列、又はその少なくとも80%の配列同一性を有し、かつアルデヒドを酸化する実質的な活性を保持するアミノ酸配列を含む;
アセトアルデヒド脱水素酵素をコードするヌクレオチド配列が、EcNにおける発現のためにコドン最適化されており、任意選択で、コドン最適化されたヌクレオチド配列が、配列番号111の配列又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む、上記遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項2】
発現カセットが、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、ターミネーター、シストロン、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上のエレメントを含む1つ以上の調節エレメントをさらに含む、請求項
1に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項3】
プロモーターが構成的プロモーター又は誘導性プロモーターであ
り;
好ましくは構成的プロモーターが配列番号10を含むか、又は
好ましくは誘導性プロモーターが、嫌気性誘導性プロモーター、任意選択で、配列番号53のヌクレオチド配列を含む;
RBSが、配列番号65~67及び少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む;
ターミネーターがT7ターミネーターである;及び/又は
シストロンがBCD2である;好ましくはシストロンが、配列番号62のヌクレオチド配列又は少なくとも80%の配列同一性を有するその相同配列を含む
、請求項
2に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項4】
外因性発現カセットが、遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌のゲノムに統合される、請求項1~
3のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項5】
シャペロンタンパク質dnaK、dnaJ、
及びgrpE、
又はgroES、groEL、
及びti
gを発現する、請求項1~
4のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項6】
栄養要求株関連遺伝子における少なくとも1つの不活性化又は欠失をさらに含む、
好ましくは、プロバイオティック腸内細菌が、チミジン、ウラシル、ロイシン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニン、アデニン、及び非天然アミノ酸からなる群から選択される1つ以上の物質に対する栄養要求株である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌と、生理学的に許容される担体とを含む
;
好ましくは組成物が食用である;
より好ましくは組成物が食品サプリメントである、組成物。
【請求項8】
組成物が、乳酸発酵食品、発酵乳製品、レジスタントスターチ、食物繊維、炭水化物、脂肪、油、香味剤、調味剤、タンパク質及びグリコシル化タンパク質、水、カプセル充填剤、及びグミ材料から選択される1つ以上の生理学的に許容される担体をさらに含む、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
遺伝子組換え微生物が生細胞である、請求項
7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~
6のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項
7~
9のいずれかに記載の組成
物を含む、それを必要とする対象のアルコール二日酔いを予防及び/又は治療する
ための医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~
6のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項
7~
9のいずれかに記載の組成
物を含む、それを必要とする対象のアセトアルデヒドのレベルを低下させる
ための医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~
6のいずれかに記載の遺伝子組換えプロバイオティック腸内細菌又は請求項
7~
9のいずれかに記載の組成
物を含む、それを必要とする対象のアジアンフラッシュを予防及び/又は治療する
ための医薬組成物。
【請求項13】
対象が1つ以上のアルデヒド脱水素酵素を欠損している、請求項
10~12のいずれかに記載の
医薬組成物。
【請求項14】
組成物がアルコールの摂取前、摂取中又は摂取後に投与される、請求項
10~13のいずれかに記載の
医薬組成物。
【請求項15】
対象がALDH2バリアント対立遺伝子のキャリアである、請求項
10~14のいずれかに記載の
医薬組成物。
【国際調査報告】