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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-07
(54)【発明の名称】遺伝子改変酵母細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20240131BHJP
   C12N 15/81 20060101ALI20240131BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240131BHJP
   C07K 14/395 20060101ALI20240131BHJP
   C07K 14/805 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
C12N1/19
C12N15/81 Z ZNA
C12N15/31
C07K14/395
C07K14/805
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528070
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(85)【翻訳文提出日】2023-07-05
(86)【国際出願番号】 SE2021051128
(87)【国際公開番号】W WO2022103318
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】2051317-2
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520011050
【氏名又は名称】クリシア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イシシュク、オレナ
(72)【発明者】
【氏名】ペトラノヴィッチ ニールセン、ディナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA76X
4B065AA77X
4B065AA80X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA60
(57)【要約】
ポルフォビリノーゲン脱アミナーゼ(HEM3)をコードする酵母遺伝子の過剰発現を含む遺伝子改変を含み、HEM3遺伝子が配列番号7と少なくとも80%の同一性を有する、遺伝子改変酵母細胞。改変酵母細胞のゲノムは、低酸素遺伝子のヘム依存性リプレッサ(ROX1)をコードする遺伝子、ヘムオキシゲナーゼ(HMX1)をコードする遺伝子、液胞プロテアーゼの受容体(VPS10)をコードする遺伝子、及び液胞プロテイナーゼ(PEP4)をコードする遺伝子から選択される1つ又は複数の遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変をさらに含み、1つ又は複数の遺伝子改変は、そのような遺伝子からのポリペプチドの発現が低減若しくは破壊されるか、又は発現されるポリペプチドが非機能的であるような遺伝子改変である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルフォビリノーゲン脱アミナーゼ(HEM3)をコードする酵母遺伝子の過剰発現を含む遺伝子改変を含む遺伝子改変酵母細胞であって、HEM3遺伝子が配列番号7と少なくとも80%の同一性を有し、
改変酵母細胞のゲノムが、低酸素遺伝子のヘム依存性リプレッサ(ROX1)をコードする遺伝子、ヘムオキシゲナーゼ(HMX1)をコードする遺伝子、液胞プロテアーゼの受容体(VPS10)をコードする遺伝子、及び液胞プロテイナーゼ(PEP4)をコードする遺伝子から選択される1つ又は複数の遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変をさらに含み、1つ又は複数の遺伝子改変が、そのような遺伝子からのポリペプチドの発現が低減若しくは破壊されるか、又は発現されるポリペプチドが非機能的であるような遺伝子改変であることを特徴とする、遺伝子改変酵母細胞。
【請求項2】
改変酵母細胞の酵母ゲノムが、低酸素遺伝子のヘム依存性リプレッサ(ROX1)をコードする遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変を含む、請求項1に記載の遺伝子改変酵母細胞。
【請求項3】
改変酵母細胞の酵母ゲノムが、液胞プロテアーゼの受容体(VPS10)をコードする遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変を含む、請求項1又は2に記載の遺伝子改変酵母細胞。
【請求項4】
改変酵母細胞の酵母ゲノムが、ヘムオキシゲナーゼ(HMX1)をコードする遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の遺伝子改変酵母細胞。
【請求項5】
改変酵母細胞の酵母ゲノムが、液胞プロテイナーゼA(PEP4)をコードする遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の遺伝子改変酵母細胞。
【請求項6】
赤血球分子シャペロン(AHSP)をコードするヒト遺伝子を含み、該AHSP遺伝子が配列番号5と少なくとも80%の同一性を有し、該AHSP遺伝子が過剰発現される、請求項1から5のいずれか一項に記載の遺伝子改変酵母細胞。
【請求項7】
ヒトヘモグロビンをコードする遺伝子又は非ヒトヘモグロビンをコードする遺伝子を含み、該非ヒトヘモグロビンが補因子としてのヘム及びガス状リガンドに可逆的に結合するグロビン部分を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の遺伝子改変酵母細胞。
【請求項8】
ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)、ミオグロビン又はP450酵素をコードする遺伝子を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の遺伝子改変酵母細胞。
【請求項9】
酵母細胞が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)及びヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)を含む群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の遺伝子改変酵母細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト及び非ヒトヘモグロビンの産生に使用され得る遺伝子改変酵母細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘモグロビン(Hb)は、血液循環中の赤血球(erythrocytes)(赤血球(red blood cell)、RBC)中の主要な血液タンパク質であり、その主な機能は酸素を肺から組織に運ぶことである。RBCは、総可溶性タンパク質含有量に対して98%ものHbを含有する。ヘモグロビンは、四量体の補因子含有タンパク質であり、成人では、遺伝子HBA及びHBBによってそれぞれコードされる2つのα-及び2つのβ-グロビンサブユニット(αβ)から構成される。各ヘモグロビンサブユニットは、ポルフィリン環の中心にある4つの窒素によって第一鉄原子が配位された1つの非共有結合ヘムb(プロトポルフィリンIX)基を有する。鉄原子は酸素結合の活性部位であるが、タンパク質の有機成分は調節に寄与し、例えば酸素結合の可逆性を確実にする。
【0003】
輸血のための酸素運搬体の必要性が高まるにつれて、持続可能な供給源からのヒトヘモグロビン(Hb)の生産がますます求められている。微生物産生は、このタンパク質の安価で安全で信頼性の高い供給源を提供し得るので、魅力的な選択肢の1つである。しかしながら、補因子の喪失は通常、活性の喪失に関連するので、Hbを含む補因子含有タンパク質の産生は困難である。ヘモグロビンの組換え産生に関する研究は、細菌界、酵母界、動物界、及び植物界のほとんどすべてをカバーする異なる産生宿主を使用することによって、過去40年間進行中であった。
【0004】
Hbフォールディングに重要なα-及びβ-グロビンの化学量論量を得るために、ヒトグロビン遺伝子を大腸菌(E.coli)で単一オペロンで発現させた(Hoffman SJ,Looker DL,Roehrich JM et al.Expression of fully functional tetrameric human hemoglobin in Escherichia coli.Proc Natl Acad Sci U S A.1990.87(21):8521-8525.)。部位特異的突然変異誘発を使用して、細菌での発現時にHbの溶解度を改善した(Weickert MJ,Pagratis M,Glascock CB et al.A mutation that improves soluble recombinant hemoglobin accumulation in Escherichia coli in heme excess.Appl Environ Microbiol.1999.65(2):640-647.)。大腸菌(E.coli)では、赤血球系ヒトα-ヘモグロビン安定化タンパク質(AHSP)の同時発現が、Hb収量を増加させるのに成功したことが証明された(Vasseur-Godbillon C,Hamdane D,Marden MC et al.High-yield expression in Escherichia coli of soluble human alpha-hemoglobin complexed with its molecular chaperone.Protein Eng Des Sel.2006.19(3):91-97.)。
【0005】
酵母は、数千年にわたり食品及び飲料に使用されてきており、一般に安全と見なされている。酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、学術的及び産業的な研究及び用途のための伝統的なモデル生物である。遺伝子操作、ゲノミクス、システム及び合成生物学の方法及びツールの進歩により、幅広い化学物質、燃料、香味料、工業用酵素及び医薬品にとって好ましい細胞工場の1つになった。ヘム含有タンパク質の製造は、血液及び肉代替物の開発に求められている。これらの市場の主な標的タンパク質はヘモグロビンであるため、生産はヘムの利用可能性に依存する。研究されたウシ及びヒトヘモグロビンの血液代替物については、食品用途は、植物起源のヘモグロビン、例えばマメ科植物のヘモグロビンに関心が寄せられている(Fraser RZ,Shitut M,Agrawal P,et al.Safety Evaluation of Soy Leghemoglobin Protein Preparation Derived From Pichia pastoris,Intended for Use as a Flavor Catalyst in Plant-Based Meat.Int J Toxicol.2018;37(3):241-262;及びFraser R,O’Reilly Brown P,et al.Methods and compositions for affecting the flavor and aroma profile of consumables.US 2015/0351435 A1.Dec.10.2015.Impossible Foods Inc.,Redwood City,CA(US).)。
【0006】
出芽酵母(S.cerevisiae)は、サイトゾル区画及びミトコンドリア区画を含む複雑な経路において内因的にヘムを産生し、このプロセスは、炭素源、酸素及びヘムの利用可能性によって厳密に調節される(Zhang L,Hach A.Molecular mechanism of heme signaling in yeast:the transcriptional activator Hap1 serves as the key mediator.Cell Mol Life Sci.1999.56(5-6):415-426;及びHoffman M,Gora M,Rytka J.Identification of rate-limiting steps in yeast heme biosynthesis.Biochem Biophys Res Commun.2003.310(4):1247-1253.)。ヘム生合成は、2つの前駆体、スクシニル-CoA及びグリシンの縮合によってミトコンドリア内で開始する。次いで、この反応の生成物である5-アミノレブリン酸(5-ALA)がサイトゾルに輸送され、そこで次の一連の酵素反応によってコプロポルフィリノーゲンIIIに変換される。ミトコンドリアにおけるさらなる酸化的脱炭酸及び酸化工程により、プロトポルフィリンIXが得られる。ミトコンドリアのフェロケラターゼによる鉄の挿入は、プロセスを完了させる。
【0007】
酵母における組換えヘモグロビンの発現は、内因性ヘム生合成の増強、α-及びβ-グロビン遺伝子発現のバランス、並びに細胞酸素検知の操作に基づく戦略によって有意に改善されている(Liu L,Martinez JL,Liu Z et al.Balanced globin protein expression and heme biosynthesis improve production of human hemoglobin in Saccharomyces cerevisiae.Metab Eng.2014.21:9-16;及びMartinez JL,Liu L,Petranovic D et al.Engineering the oxygen sensing regulation results in an enhanced recombinant human hemoglobin production by Saccharomyces cerevisiae.Biotechnol Bioeng.2015.112(1):181-188.)。ヘム生合成能力は、経路の律速酵素の過剰発現によって増加した(Hoffman M,Gora M,Rytka J.Identification of rate-limiting steps in yeast heme biosynthesis.Biochem Biophys Res Commun.2003.310(4):1247-1253;及びLiu L,Martinez JL,Liu Z et al.Balanced globin protein expression and heme biosynthesis improve production of human hemoglobin in Saccharomyces cerevisiae.Metab Eng.2014.21:9-16.)。一例として、マルチコピープラスミド上でのHEM3遺伝子(ポルフォビリノーゲン脱アミナーゼをコードする)の過剰発現は、細胞内遊離ヘムの最大4倍の増加をもたらす(Liu L,Martinez JL,Liu Z et al.Balanced globin protein expression and heme biosynthesis improve production of human hemoglobin in Saccharomyces cerevisiae.Metab Eng.2014.21:9-16.)。環境酸素のレベルがヘムの細胞内レベルを調節するので、細胞呼吸の調節に関与する転写因子をコードするHAP1遺伝子の欠失による酸素検知の操作は、全細胞可溶性タンパク質含有量の最大7%まで、ヘモグロビン産生をさらに改善することに成功した(Martinez JL,Liu L,Petranovic D et al.Engineering the oxygen sensing regulation results in an enhanced recombinant human hemoglobin production by Saccharomyces cerevisiae.Biotechnol Bioeng.2015.112(1):181-188.)。
【0008】
したがって、最新技術を考慮すると、例えばグルコースを含む安価な基質からの収量がより高い、改良されたヘモグロビン製造方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本開示の目的は、遺伝子改変酵母細胞を提供することである。ヒトヘモグロビン及び非ヒトヘモグロビンの産生に適している遺伝子改変酵母細胞。改変酵母細胞は、最先端の方法と比較して改善されたヘモグロビン収量を提供する。
【0010】
本発明は、添付の独立請求項によって定義される。非限定的な実施形態は、従属請求項、添付の図面、及び以下の説明から明らかになる。
【0011】
第1の態様によれば、ポルフォビリノーゲン脱アミナーゼ(HEM3)をコードする酵母遺伝子の過剰発現を含む遺伝子改変を含み、HEM3遺伝子が配列番号7と少なくとも80%の同一性を有する、遺伝子改変酵母細胞が提供される。改変酵母細胞のゲノムは、低酸素遺伝子のヘム依存性リプレッサ(ROX1)をコードする遺伝子、ヘムオキシゲナーゼ(HMX1)をコードする遺伝子、液胞プロテアーゼの受容体(VPS10)をコードする遺伝子、及び液胞プロテイナーゼ(PEP4)をコードする遺伝子から選択される1つ又は複数の遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変をさらに含み、1つ又は複数の遺伝子改変は、そのような遺伝子からのポリペプチドの発現が低減若しくは破壊されるか、又はポリペプチドが非機能的に発現されるような遺伝子改変である。
【0012】
酵母細胞は、1つ又は複数の遺伝子、例えばROX1及び/又はHMX1遺伝子に1つ又は複数の遺伝子改変を含み、1つ又は複数の遺伝子改変は、そのような遺伝子からのポリペプチドの発現が低減又は破壊されるか、又は発現されるポリペプチドが非機能的であるような遺伝子改変である。これは、遺伝子のコード領域全体の排除(欠失)によって達成され得るか、又は遺伝子が部分的若しくは完全に機能的なポリペプチドをもはや産生しないように、例えばタンパク質の活性が低減若しくは排除されるように、遺伝子又はそのプロモーター及び/若しくはターミネーター領域が改変される(欠失、挿入、又は突然変異などによる)。改変は、遺伝子操作方法、強制進化若しくは突然変異誘発、及び/又は選択若しくはスクリーニングによって達成することができる。
【0013】
酵母細胞は、ポルフォビリノーゲン脱アミナーゼ(HEM3)をコードする酵母遺伝子の過剰発現を含む遺伝子改変を含み、HEM3遺伝子は、配列番号7と少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は100%の同一性を有する。HEM3である遺伝子は、酵母プラスミド(pIYC04など)上に位置し得る。
【0014】
過剰発現の方法は、以下のいずれか:ポルフォビリノーゲン脱アミナーゼ(HEM3)をコードする遺伝子の1、2、3、4又はそれよりも多くのコピーを酵母ゲノムに導入することによって、又はプラスミドの多重コピーによって;又は、強力な構成的プロモーター(遺伝子TEF1又はPGK1のプロモーターなど)によってHEM3遺伝子の天然プロモーターを置換することによって;又はHEM3遺伝子の転写を増加させるようにHEM3遺伝子の天然プロモーターを改変することによって、又はHEM3遺伝子転写物の半減期を増加させるようにHEM3遺伝子の天然ターミネーターを改変することによって;又はHem3ポリペプチドのレベルを増加させるようにHEM3遺伝子翻訳の調節に関与するタンパク質(リプレッサ又はアクチベータのいずれか)を改変することによって、達成することができる。Hem3ポリペプチドは、配列番号8と少なくとも95%同一であり得るか、又は酵母においてHem3活性を有し得る。
【0015】
この遺伝子改変酵母細胞は、例えば、そのようなヘモグロビンをコードする遺伝子が改変酵母細胞のゲノムに導入されており、おそらくまた、そのようなヘモグロビン遺伝子を過剰発現している場合、ヒトヘモグロビン又は非ヒトヘモグロビンの産生に適している。改変酵母細胞は、最先端の方法と比較して改善されたヘモグロビン収量を提供する。
【0016】
改変酵母細胞の酵母ゲノムは、低酸素遺伝子のヘム依存性リプレッサ(ROX1)をコードする遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変を含んでもよい。
【0017】
ROX1遺伝子は、配列番号1の位置679643~680862の酵母ゲノムの染色体XVI上に位置する。ROX1をコードする遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変によって、ヘム依存性リプレッサRox1によるHEM13遺伝子(コプロポルフィリノーゲンIIIオキシダーゼをコードする)の阻害を排除することができる。
【0018】
遺伝子改変は、ROX1遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の欠失を含んでもよい。代替的な突然変異として、ROX1 ORFの部分的欠失を行うことができ、これは、Rox1活性を有しない切断型Rox1ポリペプチドの産生をもたらし得るか、又はRox1ポリペプチドの翻訳を終結させ得る。非機能的なRox1をもたらす任意の遺伝子改変、例えば、ROX1オープンリーディングフレームを破壊する部分的な遺伝子欠失又は挿入が可能である。
【0019】
改変酵母細胞の酵母ゲノムは、液胞プロテアーゼの受容体(VPS10)をコードする遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変を含んでもよい。
【0020】
VPS10遺伝子は、配列番号2の位置191533~186864の酵母ゲノムの染色体II上に位置する。VPS10遺伝子の1つ又は複数の遺伝子改変によって、ヘモグロビン産生のために遺伝子改変酵母細胞を使用する場合、ポルフィリン及びヘモグロビン産生が改善され得、ヘモグロビンの分解産物(ビリルビン)の形成も減少し得る。タンパク質分解のためのヘモグロビンの液胞へのターゲティングは、VPS10遺伝子(液胞加水分解酵素の選別受容体)を遺伝子改変することによって抑制され得る。
【0021】
改変は、VPS10 ORFの欠失を含み得る。代替的な突然変異は、Vps10ポリペプチドの翻訳をもたらさない改変を含んでもよい。代替的な突然変異として、VPS10 ORFの部分的欠失が行われ得、これにより、Vps10活性を有しない切断型Vps10ポリペプチドの産生がもたらされる。VPS10オープンリーディングフレームの破壊を引き起こす、又はVps10ポリペプチドが産生されないか、若しくは不活性Vps10ポリペプチドを引き起こす、任意の種類の突然変異:挿入、欠失、ヌクレオチド置換が可能である。
【0022】
改変酵母細胞の酵母ゲノムは、ヘムオキシゲナーゼ(HMX1)をコードする遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変を含んでもよい。
【0023】
HMX1遺伝子は、配列番号3の位置553725~552631のゲノムの染色体XII上に位置する。
【0024】
HMX1遺伝子の1つ又は複数の遺伝子改変によって、ヘモグロビン産生のために遺伝子改変酵母細胞を使用する場合、ポルフィリン及びヘモグロビン産生が改善され得、ヘモグロビンの分解産物(ビリルビン)の形成も減少し得る。HMX1遺伝子は、特定のヘム切断を担うヘムオキシゲナーゼをコードする。
【0025】
改変は、HMX1 ORFの欠失を含み得る。代替的な突然変異は、HMX1 ORFの部分的欠失を含んでもよく、これは、Hmx1活性を有しない切断型Hmx1ポリペプチドの産生をもたらす。代替的な突然変異は、HMX1オープンリーディングフレームの破壊を引き起こし、Hmx1ポリペプチドが産生されないか、又は不活性Hmx1ポリペプチドの産生をもたらす、任意の種類の突然変異:挿入、欠失、ヌクレオチド置換であり得る。
【0026】
改変酵母細胞は、液胞プロテイナーゼA(PEP4)をコードする遺伝子における1つ又は複数の遺伝子改変を含んでもよい。
【0027】
PEP4遺伝子は、配列番号4の260883~259703のゲノムの染色体XVI上に位置する。
【0028】
PEP4遺伝子の1つ又は複数の遺伝子改変によって、ヘモグロビン産生のために遺伝子改変酵母細胞を使用する場合、ポルフィリン及びヘモグロビン産生が改善され得る。タンパク質分解のためのヘモグロビンの液胞へのターゲティングは、PEP4(液胞プロテイナーゼA)遺伝子を欠失させることによって抑制され得る。
【0029】
改変は、PEP4 ORFの欠失を含み得る。代替的な突然変異は、PEP4 ORFの部分的欠失を含んでもよく、これは、Pep4活性を有しない切断型Pep4ポリペプチドの産生をもたらし得る。代替的な突然変異は、PEP4オープンリーディングフレームの破壊を引き起こし、Pep4ポリペプチドが産生されないか、又は不活性Pep4ポリペプチドの産生をもたらす、任意の種類の突然変異:挿入、欠失、ヌクレオチド置換であり得る。
【0030】
ROX1遺伝子、HMX1遺伝子、VPS10遺伝子及びPEP4遺伝子から選択される遺伝子改変のいくつか又はすべてを含む遺伝子改変酵母細胞は、ヘモグロビン産生のために使用される場合、これらの遺伝子改変がより少ない遺伝子改変酵母細胞と比較して、改善されたヘモグロビン収量を示す。ROX1遺伝子、HMX1遺伝子、VPS10遺伝子及びPEP4遺伝子から選択される遺伝子改変の少なくとも1つを含む遺伝子改変酵母細胞は、ヘモグロビン産生に使用された場合、これらの遺伝子改変を含まない酵母細胞と比較して、改善されたヘモグロビン収量を示す。
【0031】
遺伝子改変酵母細胞は、赤血球分子シャペロン(AHSP)をコードするヒト遺伝子を含んでもよく、AHSP遺伝子は、配列番号5と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも100%の同一性を有し、AHSP遺伝子は、過剰発現される。産生されたAHSPは、配列番号6と少なくとも95%同一であるか、又は、産生されたポリペプチドは、酵母においてAHSP活性を有する。
【0032】
AHSP遺伝子は、酵母プラスミド(pIYC04など)上に位置し得る。
【0033】
α-ヘモグロビン安定化タンパク質(AHSP)の過剰発現は、改変細胞がヘモグロビン産生のために使用される場合、そのようなASHP過剰発現のない遺伝子改変酵母細胞株Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4(すなわち、ROX1遺伝子、HMX1遺伝子、VPS10遺伝子及びPEP4遺伝子における遺伝子改変を含む)と比較して、ヘモグロビン産生の58%もの増加をもたらし得る。
【0034】
過剰発現の方法は、以下のいずれか:赤血球分子シャペロン(AHSP)をコードする遺伝子の1、2、3、4又はそれよりも多くのコピーを酵母ゲノムに導入することによって、又はプラスミドの多重コピーによって;又は、強力な構成的プロモーター(遺伝子TEF1又はPGK1のプロモーターなど)によってAHSP遺伝子の天然プロモーターを置換することによって;又はAHSP遺伝子の転写を増加させるようにAHSP遺伝子の天然プロモーターを改変することによって、又はAHSP遺伝子転写物の半減期を増加させるようにAHSP遺伝子の天然ターミネーターを改変することによって;又はAHSPポリペプチドのレベルを増加させるようにAHSP遺伝子翻訳の調節に関与するタンパク質(リプレッサ又はアクチベータのいずれか)を改変することによって、達成することができる。
【0035】
1つの実験では、ROX1遺伝子、HMX1遺伝子、VPS10遺伝子及びPEP4遺伝子のすべてにおける改変、並びにAHSPの過剰発現を含み、ヘモグロビン産生のために使用される上記のような遺伝子改変酵母細胞は、ヒトヘモグロビンを発現するが記載された改変(ROX1、HMX1、VPS10、PEP4の欠失及びAHSPの過剰発現)を有さない酵母細胞(WT/H3/ααβ株など)と比較して、ヒトヘモグロビンを含む総ポルフィリンの産生が1.9倍多いことを示した。
【0036】
上記の遺伝子改変酵母細胞は、ヒトヘモグロビンをコードする遺伝子又は非ヒトヘモグロビンをコードする遺伝子を含み、非ヒトヘモグロビンが補因子としてのヘム及びガス状リガンドに可逆的に結合するグロビン部分を含んでもよい。
【0037】
ヒトヘモグロビンサブユニットα、HBA、配列番号9及びヘモグロビンサブユニットβ、HBB、配列番号10をコードする遺伝子、又は非ヒトヘモグロビンをコードする遺伝子は、酵母プラスミド(pSP-GM1など)上に位置し得る。ヘモグロビン遺伝子は過剰発現され得る。
【0038】
過剰発現の方法は、ヘモグロビンをコードする遺伝子の1、2、3、4又はそれよりも多くのコピーを酵母ゲノムに導入することによって、又はプラスミドの多重コピーによって;又は、強力な構成的プロモーター(遺伝子TEF1又はPGK1のプロモーターなど)により ヘモグロビン遺伝子の天然プロモーターを置換することによって;又はヘモグロビン遺伝子の転写を増加させるようにヘモグロビン遺伝子の天然プロモーターを改変することによって、又はヘモグロビン遺伝子転写物の半減期を増加させるようにヘモグロビン遺伝子の天然ターミネーターを改変することによって;又はヘモグロビンのレベルを増加させるようにヘモグロビン遺伝子翻訳の調節に関与するタンパク質(リプレッサ又はアクチベータのいずれか)を改変することによって、達成することができる。
【0039】
一例では、ヒトHBA遺伝子の1つのコピーを強力なプロモーターPGK1の下にクローニングし、ヒトHBA遺伝子の第2のコピーを強力なプロモーターTEF1の下にクローニングし、ヒトHBB遺伝子を強力なプロモーターPGK1の下にクローニングすることができる。
【0040】
補因子としてのヘム及びガス状リガンドに可逆的に結合するグロビン部分を含有する非ヒトヘモグロビンは、例えば、ウシヘモグロビン又は他の脊椎動物由来のヘモグロビン、植物ヘモグロビン(例えば、ダイズ、エンドウ豆、イネ又はオオムギなど由来)であり得る。ここで、ガス状リガンドとは、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、及び一酸化窒素を意味する。非ヒトヘムタンパク質は、補因子としてのヘムを有するなど、ヒトヘモグロビンと同様の特性を有するため、活性のためにヘムを必要とし、したがって上述の改変酵母細胞において産生することが可能である。植物ヘモグロビン(例えばダイズ、エンドウ豆、イネ又はオオムギ由来の非共生植物ヘモグロビン)は、本明細書に記載の酵母株で発現させることができる。
【0041】
ヒトヘモグロビン遺伝子の過剰発現、HEM3遺伝子の過剰発現、AHSP遺伝子の過剰発現、ROX1遺伝子の欠失、HMX1遺伝子の欠失、VPS10遺伝子の欠失、及びPEP4遺伝子の欠失を含む遺伝子改変を含む遺伝子改変酵母細胞は、グルコース発酵中に産生される全酵母タンパク質に対する細胞内ヒトヘモグロビンの収量が18%もの高さであることを示す。これは、これまでに知られているように、グルコースを基質として使用する酵母において報告されたヒトヘモグロビンの最高の産生である。このヘモグロビン産生は、酸素消費速度の増加及びより高いグリセロール収量を伴い、これは、高タンパク質産生条件下又は酸素制限下でNADHレベルをバランスさせる酵母細胞の応答であると仮定される。
【0042】
そのような遺伝子改変酵母細胞は、配列番号11と少なくとも95%同一であるヘモグロビンα活性を有するポリペプチド、及び配列番号12と少なくとも95%同一であるヘモグロビンβ活性を有するポリペプチドを提供するために使用され得る。
【0043】
代替の一実施形態では、遺伝子改変酵母細胞は、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)、ミオグロビン又はP450酵素をコードする遺伝子を含んでもよい。
【0044】
ミオグロビンは、MB遺伝子によってコードされるヘム含有タンパク質である。ヒトP450 2S1は、CYP2S1遺伝子によってコードされるヘム含有タンパク質である。HBOC、ミオグロビン又はP450酵素をコードする遺伝子は、酵母プラスミド(pESC-URA又はpSP-GM1など)上に位置し得る。
【0045】
第2の態様によれば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)及びヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)を含む群から選択される、上記の遺伝子改変酵母細胞が提供される。
【0046】
好ましい実施形態では、酵母細胞はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
【0047】
そのような改変されたサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)酵母細胞は、上述の遺伝子改変、すなわち遺伝子ROX1、VPS10、HMX1、及びPEP4の欠失、並びにHEM3遺伝子、AHSP遺伝子、及びヒトヘモグロビン遺伝子の過剰発現(2コピーのHBA(ヘモグロビンサブユニットアルファ、αをコードする)、1コピーのHBB(ヘモグロビンサブユニットベータ、βをコードする))を有するΔrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβであってもよく、細胞内ヒトヘモグロビン産生に使用され得る。
【0048】
第3の態様によれば、上記の遺伝子改変酵母細胞を用いて産生された産物が提供される。
【0049】
そのような産物は、ヒトヘモグロビン遺伝子をそのゲノムに有する上記の改変酵母細胞によって産生されたヒト又は非ヒトヘモグロビンであってもよく、ヘモグロビンは培地に分泌される。あるいは、産物は、そのゲノム中にそのようなタンパク質をコードする遺伝子を有する上記の改変酵母細胞によって産生されるヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)、ミオグロビン又はP450酵素であり得る。産物は、例えば、血液代替物又は食品添加物若しくは代替物であり得る。
【0050】
本発明は、添付の図面に示される実施形態を参照して、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】ヘム及びヘモグロビンの分解が低減された酵母株(すなわち、本開示による遺伝子改変酵母細胞)の構築の概略図を示す。
【0052】
図2】構築された酵母株の全ポルフィリンを示す。 株:1-WT/空ベクター、対照;2-WT/HEM3/ααβ;3-Δrox1/HEM3/ααβ,4-Δrox1Δvps10/HEM3/ααβ,5-Δrox1Δvps10Δhmx1/HEM3/ααβ,6-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3/ααβ,7-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ。
【0053】
図3】ウェスタンブロッティングによって研究された構築株におけるヘモグロビン発現を示す。A)ヒトヘモグロビンHbAを発現する酵母株のTCAタンパク質抽出物のタンパク質SDS PAGEゲル。B)抗アルファヘモグロビン抗体を使用したウェスタンブロッティング。株:1-WT/空ベクター、対照;2-WT/HEM3/ααβ;3-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3/ααβ,4-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ。
【0054】
図4】発酵の6時間での構築された株によるROS産生を示す。株:1-WT/空ベクター、対照;2-WT/HEM3/ααβ;3-Δrox1/HEM3/ααβ,4-Δrox1Δvps10/HEM3/ααβ,5-Δrox1Δvps10Δhmx1/HEM3/ααβ,6-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3/ααβ,7-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ。
【0055】
図5】発酵の24時間での構築された株によるROS蓄積を示す。グルコース発酵の24時間で試料を収集し、ジヒドロローダミン123染色によってROSを検出した。各株の5000個の細胞をフローサイトメトリーによって分析した。株:1-WT/空ベクター、対照;2-WT/HEM3/ααβ;3-Δrox1/HEM3/ααβ,4-Δrox1Δvps10/HEM3/ααβ,5-Δrox1Δvps10Δhmx1/HEM3/ααβ,6-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3/ααβ,7-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ。
【0056】
図6】構築された株の増殖速度を示す。株:1-WT/空ベクター、対照;2-WT/HEM3/ααβ;3-Δrox1/HEM3/ααβ,4-Δrox1Δvps10/HEM3/ααβ,5-Δrox1Δvps10Δhmx1/HEM3/ααβ,6-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3/ααβ,7-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ。
【0057】
図7】抗ヘモグロビンα抗体を使用したTCAタンパク質抽出物のウェスタンブロッティングを示す。株:1-WT/空ベクター、対照;2-WT/HEM3/ααβ;3-Δrox1/HEM3/ααβ,4-Δrox1Δvps10Δhmx1/HEM3/ααβ,5-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3/ααβ,6-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ。
【0058】
図8】酵母で発現されたヘモグロビンが一酸化炭素に結合することを示す。CO放出化合物CORM-3で処理した酵母粗抽出物の上清の吸収スペクトル。株:1-WT/ HEM3/ααβ;2-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ。
【0059】
図9】酵母で発現されたビリルビンバイオセンサを示す。 A)ヘム/ヘモグロビン分解産物ビリルビンの蓄積を研究するために、プロモーターPGK1下の酵母でmCherry-UnaG構築物を発現させた。 B)HbAを発現する異なる株におけるmCherry-UnaG緑色蛍光収量:B1)及びB2)野生型(WT);B3)Δrox1;B4)Δrox1Δvps10;B5)Δrox1Δvps10Δhmx1;B6)Δrox1Δvps10Δpep4。2つの生物学的レプリケートを分析に使用した。
【0060】
図10A図10Aは、Hbfusion(Hb融合)発現が、図9B3のHbAと比較して、より少ないビリルビン形成をもたらすことを示す。Δrox1におけるmCherry-UnaG緑色蛍光収量:Hbfusionなし。
図10B図10Bは、Hbfusion発現が、図9B3のHbAと比較して、より少ないビリルビン形成をもたらすことを示す。Δrox1におけるmCherry-UnaG緑色蛍光収量:Hbfusionあり。2つの生物学的レプリケートを分析に使用した。
【0061】
図11】AHSP株の細胞サイズが増加したことを示す。CASYモデルTT細胞株によって推定された細胞体積:1-WT/HEM3/ααβ;2-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ。
【0062】
図12】ヘモグロビン産生株の細胞サイズを示す。グルコース発酵の異なる時点でCASY Model TT Cell Counterによって推定された異なる酵母株の細胞体積。
【0063】
図13A図13Aは、酵母におけるGFP-Hbfusionレポーター構築物の発現を示す。
図13B図13Bは、酵母におけるGFP-Hbfusionレポーター構築物の発現を示す。
図13C図13Cは、酵母におけるGFP-Hbfusionレポーター構築物の発現を示す。
図13D図13Dは、酵母におけるGFP-Hbfusionレポーター構築物の発現を示す。
図13E図13Eは、酵母におけるGFP-Hbfusionレポーター構築物の発現を示す。
図13F図13Fは、酵母におけるGFP-Hbfusionレポーター構築物の発現を示す。
図13G図13Gは、酵母におけるGFP-Hbfusionレポーター構築物の発現を示す。 グルコース発酵中のGFP-Hbfusionレポーターを保有する株のバイオマス当たりのGFP-蛍光収量を、BioLector(登録商標)において2回の生物学的レプリケートで分析した。
【0064】
図14】培地中の鉄補足の増加がヘモグロビン産生を改善し、ヘモグロビン分解を減少させることを示す。 A1、A2)100及び200μMのFe3+を含むSD培地におけるポルフィリン合成。 B1、B2、B3、B4)抗Hbアルファ及び抗Gapdh抗体を使用したWT株及びAHSP株のTCA抽出物のタンパク質SDSゲル及びウェスタンブロッティング。 C1、C2)ビリルビンバイオセンサの蛍光は、Fe3+の量がより多い培地ではより低い
【0065】
図15】15A:WT/HEM3/ααβ及び15B:Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ株の増殖、グルコース消費、及び代謝産物収量を示す。
【0066】
図16】ヘモグロビンの発現及びヘモグロビン株の総タンパク質含有量を示す。 A1、A2)抗ヘモグロビンα抗体を用いたウェスタンブロッティングによるヘモグロビン産生の推定。 B)24時間及び48時間でのバイオリアクタ培養中の細胞の相対タンパク質含有量。
【0067】
図17】バイオリアクタにおける発酵中の27時間及び48時間での異なる株におけるヘモグロビン産生を示す。 A)抗ヘモグロビンα抗体を用いたウェスタンブロッティング。株:1,2-WT/HEM3/ααβ;3,4-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ;5,6-Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3/ααβ。 B)総タンパク質含有量に対するHb含有量。
【0068】
図18】ウェスタンブロッティングによって決定されたWT株及びΔrox1Δvps10Δhmx1Δpep4株における異なるヘムタンパク質の発現を示す。両方の株において、ヘムタンパク質遺伝子を出芽酵母(S.cerevisiae)のHEM3遺伝子と共発現させた。A)MYG-BOV:ウシ(Bos taurus)のMB(ミオグロビン)遺伝子によってコードされるウシミオグロビンの発現;B)HBL-HOR:オオムギ(Hordeum vulgare)のGLB1遺伝子によってコードされる非共生ヘモグロビンの発現;C)CYP2S1-Hs:ホモサピエンス(Homo sapiens)のCYP2S1によってコードされるシトクロムP450 2S1の発現。Gapdh(グリセルアルデヒドデヒドロゲナーゼ)シグナルを使用してデータを正規化した。
【0069】
図19】3つの異なる酵母株における分泌経路を介したヘモグロビン融合の発現を示す。 A)ヘモグロビンは、CENPK113-11c rox1 vps10 hmx1 pep4、184M、及びINVSc1株において、融合ペプチドとして発現した(出芽酵母(S.cerevisiae)の天然のα-因子リーダー配列とのαγ-グロビン融合物により、分泌経路に誘導される)。 B)γグロビン鎖に対するポリクローナル抗体を使用したSDSタンパク質ゲル及びウェスタンブロッティングの結果。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下に記載されるさらなる発展を伴う本発明の実施形態は、例としてのみ見なされるべきであり、特許請求の範囲によって提供される保護の範囲を限定することを決して意図するものではない。(なお、本明細書において「本研究」とは、本特許出願に開示された研究をいう。)
【実施例
【0071】
実験
【0072】
転写リプレッサROX1の欠失は、細胞内ヘモグロビンレベルを増加させる
【0073】
低酸素遺伝子のアクチベータである転写因子Rox1は、ヘム生合成経路のリプレッサでもある。Rox1は、HEM13遺伝子の転写を阻害する。以前の研究は、出芽酵母(S.cerevisiae)におけるROX1遺伝子の欠失又はその発現の変化が、α-アミラーゼ及びインスリン前駆体などの異種タンパク質の産生の改善をもたらすことを見出した(Liu L,Zhang Y,Liu Z et al.Improving heterologous protein secretion at aerobic conditions by activating hypoxia-induced genes in Saccharomyces cerevisiae.FEMS Yeast Res.2015.15(7).pii:fov070;及びHuang M,Bao J,Hallstrom BM,et al.Efficient protein production by yeast requires global tuning of metabolism.Nat Commun.2017.8(1):1131.)。ROX1遺伝子の欠失はまた、ヘムの細胞内レベルの増加をもたらした(Zhang T,Bu P,Zeng J et al.Increased heme synthesis in yeast induces a metabolic switch from fermentation to respiration even under conditions of glucose repression.J Biol Chem.2017.292(41):16942-16954.)。ヘモグロビンサブユニットα(2コピーのHBA、α)及びサブユニットβ(1コピーのHBB、β)をコードするHEM3遺伝子ヒト遺伝子を保有する組換えヘモグロビンA(HbA)発現のためのプラスミド(pIYC04+HEM3及びpSP-GM1+ααβ、図1及び下記の表1を参照)で形質転換した場合、Δrox1株は、ヘム前駆体5-アミノレブリン酸(5-ALA)を含む培地上のヘモグロビン発現プラスミドを保有するWT(野生型)と比較して、より高いポルフィリン蓄積の結果であるより暗い赤色の色素沈着を示した。Δrox1株は、ヘモグロビン発現プラスミドを担持するWTと比較して、1.2倍多い量の総ポルフィリンを蓄積することが分かった(図2)。ポルフィリン産生におけるその優れた特徴のために、Δrox1株をさらなる操作戦略のためのバックグラウンド株として選択した。この試験で使用した酵母株は、以下の表2を参照されたい。
【表1-1】


【表1-2】


【表1-3】


【表2-1】


【表2-2】


【表2-3】


【表2-4】

【0074】
ヘム及びヘモグロビンの分解に関与する遺伝子の欠失は、単独で、及びAHSPの過剰発現と組み合わせて、Hbレベルの増加をもたらす。
【0075】
ヘモグロビンの産生を改善するために、本発明者らは、ヘモグロビンとヘムの両方の細胞内分解を減少させる戦略に従った(図1)。本発明者らは、出芽酵母(S.cerevisiae)においてVPS10(複数の液胞加水分解酵素に対するI型膜貫通選別受容体をコードする)、PEP4(液胞アスパルチルプロテアーゼ[プロテイナーゼA]をコードする)及びHMX1(ER局在化ヘムオキシゲナーゼをコードする)遺伝子を欠失させ、AHSP遺伝子によってコードされるヒトα-ヘモグロビン安定化タンパク質を過剰発現させた(図1)。3つの欠失をCre-loxシステム及び選択マーカーとしてのkanMX(Δvps10、Δhmx1、及びΔpep4)によってΔrox1株バックグラウンドに導入した。各欠失の後、(本明細書の「材料及び方法」の章に記載されるように)Creリコンビナーゼ発現の誘導によってkanMXマーカーを除去した。VPS10及びPEP4遺伝子は、液胞へのミスフォールドタンパク質のターゲティング及びそれらの液胞分解に影響を及ぼすことが知られているが、HMX1遺伝子はヘム分解経路の一部である(Hong E,Davidson AR,Kaiser CA.A pathway for targeting soluble misfolded proteins to the yeast vacuole.J Cell Biol.1996.135(3):623-633;Protchenko O,Philpott CC.Regulation of intracellular heme levels by HMX1,a homologue of heme oxygenase,in Saccharomyces cerevisiae.J Biol Chem.2003.278(38):36582-7;及びMarques M,Mojzita D,Amorim MA et al.The Pep4p vacuolar proteinase contributes to the turnover of oxidized proteins but PEP4 overexpression is not sufficient to increase chronological lifespan in Saccharomyces cerevisiae.Microbiology.2006.152(Pt 12):3595-3605.)。Pep4p液胞プロテイナーゼは、酸化されたタンパク質のターンオーバーに寄与する。
【0076】
AHSP遺伝子をクローニングし、出芽酵母(S.cerevisiae)宿主における発現のためにそのコドンが最適化された合成ペプチドとしてpIYC04+HEM3プラスミド(表1)上に発現させた。すべての欠失株を成体ヘモグロビン(HbA)発現プラスミド(pIYC04+HEM3及びpSP-GM1+ααβ又はpIYC04+HEM3+AHSP及びpSP-GM1+ααβ[表1])で形質転換した。
【0077】
ポルフィリン及びヘモグロビンの両方の産生は段階的に増加し、AHSP過剰発現株において最高レベルに達した(図2)。赤血球及び大腸菌(E.coli)では、AHSPは、遊離α-グロビンサブユニットと安定な複合体を形成することにより、α-グロビンの分解を防ぐ(Kihm AJ,Kong Y,Hong W et al.An abundant erythroid protein that stabilizes free alpha-haemoglobin.Nature.2002.417(6890):758-763;Vasseur-Godbillon C,Hamdane D,Marden MC et al.High-yield expression in Escherichia coli of soluble human alpha-hemoglobin complexed with its molecular chaperone.Protein Eng Des Sel.2006.19(3):91-97.)。本発明者らの酵母モデルでは、AHSP遺伝子の過剰発現はヘモグロビン産生を58%増加させた(図3)。Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ株における24時間での総ポルフィリンレベルは、WT/HEM3/ααβ株と比較して2.6倍高かった(図2)。Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ株は、グルコース発酵の初期段階でROSレベルのわずかな低下を示したが、6時間では(図4)、抗酸化剤AHSP活性に起因する可能性があり(Yu X,Kong Y,Dore LC et al.An erythroid chaperone that facilitates folding of alpha-globin subunits for hemoglobin synthesis.J Clin Invest.2007.117(7):1856-1865;及びKiger L,Vasseur C,Domingues-Hamdi E et al.Dynamics of α-Hb chain binding to its chaperone AHSP depends on heme coordination and redox state.Biochim Biophys Acta.2014.)、本発明者らは、24時間で、ヘモグロビン産生の増加が、他のタンパク質産生酵母で起こるように(Shimizu and Hendershot.Oxidative Folding:Cellular Strategies for Dealing With the Resultant Equimolar Production of Reactive Oxygen Species.Antioxid Redox Signal.2009.11(9):2317-31;Tyo KE,Liu Z,Petranovic D,Nielsen J.Imbalance of heterologous protein folding and disulfide bond formation rates yields runaway oxidative stress.BMC Biol.2012.10:16.)、ROS産生の増加と正に相関することを観察した(図2図5)。ヘモグロビン産生の増加は、おそらく細胞内のより高いタンパク質産生又は/及び酵母に対するヘモグロビンの毒性のために、酵母の増殖速度の低下も伴っていた(図6)。pep4欠失の導入後、ヘモグロビンのα-グロビンバンドは、タンパク質SDSゲル及びウェスタンブロッティングの両方によって容易に検出可能であった(図3図7)。
【0078】
酵母のヘモグロビン活性は、一酸化炭素生成化合物(CORM-3)で細胞抽出物を処理した後に形成されたカルボキシヘモグロビン(Hb-CO)の吸収スペクトルによって検出された(図8)。CO生成化合物(CORM-3)で処理したΔrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ株の無細胞抽出物は、WT/HEM3/ααβ株と比較して、419nm(Hb-COに対応)で3倍高い吸収ピークを有していた(図8)。
【0079】
操作株では、ヘモグロビン分解産物ビリルビンの生成量が低下する
【0080】
以前に記載された操作株を、ヘモグロビン分解産物ビリルビンの蓄積について分析した。これは、以前に開発されたウナギ筋肉由来のビリルビン結合バイオセンサUnaGタンパク質を使用することによって行った(Kumagai A,Ando R,Miyatake H et al.A bilirubin-inducible fluorescent protein from eel muscle.Cell.2013.153(7):1602-11.)。ビリルビンの赤色及び緑色蛍光アッセイのために開発されたプラスミドmCherry-FDDからのmCherry-UnaG融合物(Navarro R,Chen LC,Rakhit R et al.A Novel Destabilizing Domain Based on a Small-Molecule Dependent Fluorophore.ACS Chem Biol.2016.11(8):2101-4.)を、酵母で使用するためにベクターpIYC04+HEM3上の酵母プロモーターPGK1下にクローニングした(表1)。構築したプラスミドpIYC04+HEM3+mCherry-UnaG(表1)を異なる欠失株に形質転換して、ビリルビン形成に対する導入突然変異の影響を検証した(図9A)。ヘモグロビンA及びmCherry-UnaG発現プラスミドの両方を保有する野生型株は最も高い蛍光収量を有し、rox1欠失の導入は蛍光収量を約30%低下させた(図9B3)。rox1株はより嫌気性であり、より低いビリルビン形成はヘム分解酵素のより低い発現に起因し得る。その後のvps10欠失は、蛍光をさらに約40%減少させた(図9B4)。rox1vps10バックグラウンドにおけるヘムオキシゲナーゼをコードする遺伝子(ビリルビンの前駆体であるビリベルジン形成に関与するHMX1)の欠失は蛍光を約10%減少させたが、一方、同じ株バックグラウンドにおけるPEP4遺伝子の欠失は発酵終了時にビリルビンの16%増加をもたらした(対応する図9B5及び図9B6)。ビリルビンバイオセンサの蛍光は、Hb融合構築物の発現時に低く、HbAと比較して四量体形態でより安定であった(図10)。
【0081】
より高いヘモグロビン産生を有する株は、より大きなサイズ及び細胞密度を示す
【0082】
ヘモグロビン産生が増加したAHSP株(Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+AHSP/ααβ)は、その細胞サイズを約2倍増加させた(図11)。より大きな細胞は、通常、より多くのタンパク質を含有する。強制的な高タンパク質産生下では、リボソーム活性に制約があり、したがって酵母は、増殖速度を遅くし、細胞サイズを増加させることによって適応する(Kafri M,Metzl-Raz E,Jona G et al.The Cost of Protein Production.Cell Rep.2016.14(1):22-31.)。興味深いことに、AHSP株は最大の細胞体積を有していたが(図11図12)、中間株Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3/ααβの細胞体積(それはAHSPよりも58%低いHb量を産生した(図3))は、対照株WT/HEM3/ααβよりもわずか10%~36%高かった(図12)。
【0083】
ヘモグロビン-GFP構築物は細胞質に局在する
【0084】
構築された株におけるヘモグロビンの発現及び局在化を監視するために、本発明者らは、N末端GFP-Hb融合(αγ)構築物からなるレポーター構築物を導入した(「材料及び方法」)。GFP蛍光収量(バイオマスによって正規化)は、野生型と比較して、Δrox1、Δvps10、及びΔhmx1突然変異の導入により実質的に増加した(図13)。pep4突然変異は、GFP蛍光収量をわずかにさらに増加させた(図13)。
【0085】
培地への鉄の補足は、組換えヘモグロビン産生を増加させ、ビリルビン形成を減少させる。
【0086】
出芽酵母(S.cerevisiae)におけるヘム生合成の最終工程は、HEM15遺伝子によってコードされるフェロキレート酵素によるポルフィリン環への鉄の取り込みである(Labbe-Bois R.The ferrochelatase from Saccharomyces cerevisiae.Sequence,disruption,and expression of its structural gene HEM15.J Biol Chem.1990.265(13):7278-7283.)。鉄原子はヘム分子に安定性を付与し、ヘム分解は、ヘムオキシゲナーゼによる鉄、CO、及びビリベルジンの放出を介して起こる。
【0087】
本発明者らは、培地中の鉄の量が増加すると、ポルフィリン合成及びヘモグロビンタンパク質産生レベルが上昇することを見出した(図14A1図14A2)。さらに、培地中のFe3+濃度の増加は、ビリルビン形成量の低下をもたらす(図14C1図14C2)。
【0088】
バイオリアクタにおけるヘモグロビン産生
【0089】
構築した株のヘモグロビン産生を、通気及びpHを制御したバッチバイオリアクタで研究した(「材料及び方法」)。これらの条件下で、AHSP株の最大比増殖速度は対照株WT/HEM3/ααβより20%低かった(表3)。AHSP株は、より高い収量のグリセロール(2倍高い)及びアセタート(30%高い)を産生し、酸素消費速度が増加した(図15;表3)。一方、CO収量は6%低下した(図15;表3)。グリセロール、アセタート産生、及び酸素消費速度の増加は、細胞が細胞内のレドックス不均衡に対処していることを示す。これらの条件下で、AHSP株は、ウェスタンブロット(図16A1図16A2)によって推定されるように、48時間の培養後にその総タンパク質含有量の18%までのヘモグロビンを産生することが見出され、このレベルは対照株WT/HEM3/ααβのレベルよりも6倍高かった。AHSP株のヘモグロビン産生レベルは、発酵の48時間での総細胞タンパク質増加と正の相関を有し(図16B)、これはおそらく液胞タンパク質分解の減少の操作によるものであった。AHSPタンパク質を欠く中間株Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4は、その総タンパク質含有量の約8%のHbしか産生しなかったが(図17)、対照株WT/HEM3/ααβは、以前に報告されたように(Liu L,Martinez JL,Liu Z et al.Balanced globin protein expression and heme biosynthesis improve production of human hemoglobin in Saccharomyces cerevisiae.Metab Eng.2014.21:9-16.)、細胞内ヘモグロビンの最大約3~4%を蓄積した。ヘモグロビンに加えて、Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4株は、ヒトチトクロムP450 2S1、ウシミオグロビン及びオオムギ由来の非共生ヘモグロビンなどのより多くの他のヘム含有タンパク質を産生することも見出された(図18)。
【表3】
【0090】
ヘモグロビン分解の低減は、その分泌にとって有益である
【0091】
α因子リーダー-ヘモグロビン融合構築物は、3つの異なる株バックグラウンドで発現した:INVSc1(タンパク質発現のために開発された2倍体株、Invirogen(商標))、184M(Huang M,Bai Y,Sjostrom SL et al.Microfluidic screening and whole-genome sequencing identifies mutations associated with improved protein secretion by yeast.Proc Natl Acad Sci U S A.2015.112(34):E4689-96.)、及びこの研究で構築したCENPK113-11c Δrox1 Δvps10Δhmx1Δpep4(図19A)。培地濃縮前の培地ではヘモグロビンは検出されなかった。しかし、Amicon 10kDa遠心分離フィルタ(Merck Millipore)によって培地を濃縮した後、184M及びCENPK113-11c Δrox1 Δvps10Δhmx1Δpep4の2つの株でウェスタンブロッティングによってヘモグロビンを検出することができた(図19B)。INVSc1ではヘモグロビンは検出されなかった(図19B)。約30kDaのタンパク質バンドが両方の株で検出されたが、184M株は、より小さなサイズのバンドがほとんど検出されなかった(図19B)。これは、184M株におけるヘモグロビンの部分的な分解を示し得る。184M株は、ROX1遺伝子及びVPS10遺伝子の両方のダウンレギュレーションを引き起こすものを含むいくつかの突然変異を保有しているが、PEP4遺伝子発現は変化しなかった(Huang M,Bao J,Hallstrom BM et al.Efficient protein production by yeast requires global tuning of metabolism.Nat Commun.2017.8(1):1131.)。
【0092】
改変酵母細胞遺伝子型は、例えば、上述の遺伝子改変、遺伝子の欠失(ROX1、VPS10、HMX1、PEP4)及び遺伝子の過剰発現(HEM 3、ヘモグロビンを分泌経路に導き、細胞の外側で分泌培地に導くための、接合フェロモンα因子(MF(ALPHA)1)のアルファリーダー配列を有するサブユニットアルファ(α)及びサブユニットガンマ(γ)を含むヘモグロビン融合タンパク質(Hbfusion))を有するΔrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+alpha leader-Hbfusionであり得る。分泌型ヘモグロビンのヌクレオチド配列は、配列番号13と少なくとも95%同一であり得る。分泌型ヘモグロビンのポリペプチド配列は、配列番号14と少なくとも95%同一であるか、又はポリペプチドは、酵母分泌経路においてヘモグロビン活性を有する。
【0093】
考察
【0094】
ヒトヘモグロビン(Hb)は、どの発達段階で合成されるかに応じて、異なるサブユニットのヘテロ四量体である。すべてのヘモグロビンは補欠分子族(ヘムb)を持ち、これがグロビン鎖に共同して組み込まれ、ポリペプチドのフォールディングに影響を与える。ヘムレスヘモグロビンは酸素と結合することができないため、ヘムの利用可能性は、ヘモグロビン合成にとってだけでなく、その主要な機能にとっても重要である。代謝操作は、酵母におけるヘム産生を実質的に増加させることができる。ポルフォビリノーゲン脱アミナーゼをコードするHEM3などのヘム生合成の制限遺伝子(Hoffman M,Gora M,Rytka J.Identification of rate-limiting steps in yeast heme biosynthesis.Biochem Biophys Res Commun.2003.310(4):1247-1253.)の過剰発現は、出芽酵母(S.cerevisiae)においてヘム産生とヘモグロビン産生の両方を有意に増加させた(Liu L,Martinez JL,Liu Z et al.Balanced globin protein expression and heme biosynthesis improve production of human hemoglobin in Saccharomyces cerevisiae.Metab Eng.2014.21:9-16.)。
【0095】
本発明者らの株設計、すなわち本発明による遺伝子改変酵母細胞の本発明者らの設計では、本発明者らはHEM3遺伝子過剰発現戦略も使用した。酵母では、ヘムの細胞内レベルは、転写因子Hap1によって酸素利用可能性に応答して転写レベルで厳密に調節される。Hap1は、HEM13遺伝子のリプレッサであるRox1を活性化する(Keng T.HAP1 and ROX1 form a regulatory pathway in the repression of HEM13 transcription in Saccharomyces cerevisiae.Mol Cell Biol.1992.12(6):2616-2623;Martinez JL,Liu L,Petranovic D et al.Engineering the oxygen sensing regulation results in an enhanced recombinant human hemoglobin production by Saccharomyces cerevisiae.Biotechnol Bioeng.2015.112(1):181-188.)。ROX1遺伝子の欠失はまた、低酸素誘導遺伝子を活性化し(Ter Linde JJ,Steensma HY.A microarray-assisted screen for potential Hap1 and Rox1 target genes in Saccharomyces cerevisiae.Yeast.2002.19(10):825-840.)、出芽酵母(S.cerevisiae)における他の異種タンパク質、例えばα-アミラーゼ、インスリン及びインベルターゼの産生を改善することが以前に示された(Liu L,Zhang Y,Liu Z et al.Improving heterologous protein secretion at aerobic conditions by activating hypoxia-induced genes in Saccharomyces cerevisiae.FEMS Yeast Res.2015.15(7).pii:fov070.)。Rox1によるHEM13遺伝子阻害を排除するために、ヘモグロビン発現のバックグラウンド株としてΔrox1を使用した。Δrox1株は、HEM3遺伝子過剰発現下でより高いポルフィリン量を産生することが証明された。異種タンパク質合成は、宿主における相同タンパク質分解機構によって悪影響を受け、タンパク質産生の成功は、これらのプロセスの抑制に大きく依存する。これに対処するために、本発明者らは、ヘムの分解が減少し、グロビンペプチドの分解が減少した、ヘモグロビン産生出芽酵母(S.cerevisiae)株、すなわち本発明による遺伝子改変酵母細胞を操作した。ヘムの細胞内レベルは、ヘム分解によって調節される。HMX1遺伝子によってコードされるヘムオキシゲナーゼは、鉄飢餓及び酸化ストレス時にヘムを分解する(Protchenko O,Philpott CC.Regulation of intracellular heme levels by HMX1,a homologue of heme oxygenase,in Saccharomyces cerevisiae.J Biol Chem.2003.278(38):36582-7.)。高タンパク質産生条件下では、ミスフォールドタンパク質は液胞分解を標的とする。複数の液胞加水分解酵素のためのI型膜貫通選別受容体をコードするVPS10遺伝子は、折り畳まれていないタンパク質の液胞ターゲティングに関与する(Marcusson EG,Horazdovsky BF,Cereghino JL et al.The sorting receptor for yeast vacuolar carboxypeptidase Y is encoded by the VPS10 gene.Cell.1994.77(4):579-586.)。VPS10遺伝子の欠失及びその活性低下は、他の異種タンパク質の産生を改善することが示された(Hong E,Davidson AR,Kaiser CA.A pathway for targeting soluble misfolded proteins to the yeast vacuole.J Cell Biol.1996.135(3):623-633;Huang M,Bao J,Hallstrom BM et al.Efficient protein production by yeast requires global tuning of metabolism.Nat Commun.2017.8(1):1131.)。PEP4遺伝子は、酸化ストレスによる損傷タンパク質のリサイクルに重要な液胞アスパルチルプロテアーゼをコードする。PEP4遺伝子の突然変異は、異なる酵母株における異なる異種タンパク質の産生に有益であった(Marques M,Mojzita D,Amorim MA et al.The Pep4p vacuolar proteinase contributes to the turnover of oxidized proteins but PEP4 overexpression is not sufficient to increase chronological lifespan in Saccharomyces cerevisiae.Microbiology.2006.152(Pt 12):3595-3605;及びWang ZY,He XP,Zhang BR.Over-expression of GSH1 gene and disruption of PEP4 gene in self-cloning industrial brewer’s yeast.Int J Food Microbiol.2007.119(3):192-199.)。
【0096】
本発明者らが、ROX1、VPS10、HMX1及びPEP4遺伝子欠失を組み合わせたとき、すなわち、本発明に従った遺伝子改変酵母細胞において、本発明者らは、ウェスタンブロッティングなしでもタンパク質ゲルにおいてヘモグロビンを検出することができた。ビリルビン結合蛍光バイオセンサを使用することによって、本発明者らは、この変異体、すなわち本発明に従った遺伝子改変酵母細胞が、はるかに少ない量のヘモグロビン分解産物、ビリルビン、したがってより多くの産物を産生することを確認した。鉄の補充はまた、本発明者らの株におけるヘモグロビン産生を改善し、ビリルビン形成を減少させた。ヘムオキシゲナーゼ発現は鉄酸化ストレスによって調節されるため(Protchenko O,Philpott CC.Regulation of intracellular heme levels by HMX1,a homologue of heme oxygenase,in Saccharomyces cerevisiae.J Biol Chem.2003.278(38):36582-7;及びCollinson EJ,Wimmer-Kleikamp S,Gerega SK et al.The yeast homolog of heme oxygenase-1 affords cellular antioxidant protection via the transcriptional regulation of known antioxidant genes.J Biol Chem.2011.286(3):2205-2214.)、鉄量が多い培地及びΔrox1株ではその発現が低下する。ヘモグロビン分子を安定化し、赤血球におけるその分解及び酸化を防止するヒトAHSP遺伝子(α-ヘモグロビン安定化タンパク質)の過剰発現(Kihm AJ,Kong Y,Hong W et al.An abundant erythroid protein that stabilizes free alpha-haemoglobin.Nature.2002.417(6890):758-763;Feng L,Gell DA,Zhou S et al.Molecular mechanism of AHSP-mediated stabilization of alpha-hemoglobin.Cell.2004.119(5):629-640;Yu X,Kong Y,Dore LC et al.An Erythroid Chaperone That Facilitates Folding of Alpha-Globin Subunits for Hemoglobin Synthesis J Clin Invest.2007.117(7):1856-1865;Mollan TL,Yu X,Weiss MJ et al.The role of alpha-hemoglobin stabilizing protein in redox chemistry,denaturation,and hemoglobin assembly.Antioxid Redox Signal.2010.12(2):219-231.)は、Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4酵母株におけるヘモグロビン産生の58%の増加をもたらした。AHSP発現は、発酵の初期段階(6時間)でROS形成を減少させたが、発酵の24時間でAHSP株は最大量のROSを蓄積し、これはヘモグロビン及び細胞ポルフィリンの量と正の相関を有していた。バイオリアクタでは、AHSP株ヘモグロビンレベルは、総細胞内タンパク質含有量に対して18%であった。これは、Martinez JL,Liu L,Petranovic D et al.(Engineering the oxygen sensing regulation results in an enhanced recombinant human hemoglobin production by Saccharomyces cerevisiae.Biotechnol Bioeng.2015.112(1):181-188)によって以前に報告されたものよりも2.6倍高かった。タンパク質分解の減少を操作することによって達成された高タンパク質産生は、細胞の総タンパク質含有量の増加(約20%)に伴って細胞の体積を増加させ、AHSP株において増殖速度を313%低下させた。これらは、高いタンパク質合成負荷に適応する細胞の特徴であり、出芽酵母(S.cerevisiae)におけるレポーター構築物の使用について以前に報告された(Kafri M,Metzl-Raz E,Jona G,et al.The Cost of Protein Production.Cell Rep.2016.14(1):22-31.)。
【0097】
高レベルの細胞内ヘモグロビン産生は、AHSP株の発酵プロファイルの変化を引き起こした。酸素消費量の増加、この株による副生成物であるグリセロール及びアセタートの産生は、レドックス不均衡を示す。rox1(低酸素遺伝子発現をもたらす)、hmx1(鉄枯渇をもたらす)突然変異及びヘモグロビン産生(鉄枯渇)の組み合わせとして構築された株の複雑な表現型は、細胞内の全体的な酸素制限を引き起こした。グリセロール及びアセタートは、嫌気性条件下でNADH/NADPHバランスを満たすように産生される(Villadsen J,Nielsen J,Liden G.Bioreaction Engineering Principles.Springer US.2011.)。細胞が鉄を欠乏すると、その呼吸鎖がうまく機能せず、NADHを蓄積し、GPD2遺伝子の発現を誘導してグリセロールを産生することによって応答する(Ansell R,Adler L.The effect of iron limitation on glycerol production and expression of the isogenes for NAD(+)-dependent glycerol 3-phosphate dehydrogenase in Saccharomyces cerevisiae.FEBS Lett.1999.461(3):173-177.)。代謝操作によってこの株の補因子不均衡に対処する戦略は、ヘモグロビン産生をさらに改善するために使用することができる。
【0098】
結論として、本発明者らは、全細胞タンパク質に対して(全細胞タンパク質の)最大18%のヒトヘモグロビン(HbA)を産生することができる出芽酵母(S.cerevisiae)株、すなわち本発明に従った遺伝子改変酵母細胞を操作した。この株、すなわち本発明に従った遺伝子改変酵母細胞は、ヘモグロビン系酸素運搬体(HBOC)、又は他のヘム含有タンパク質(例えば、持続可能な食品又は飼料生産)、又はヘム酵素(例えばP450)の開発のためのヘモグロビンの持続可能かつ安全な供給源として使用することができる。本明細書に記載の株は、グルコースからヘモグロビン及び他のヘムタンパク質をP450として高収率で産生することができるので、HBOC又は食品を開発する産業のためのヘモグロビン又は他のヘムタンパク質産生体として使用することができる。
【0099】
材料及び方法
【0100】
培地及び株の増殖条件
【0101】
本発明の実施形態の実験で使用される培地及び株を以下に提供する。この試験で使用した株を上記の表2に列挙する。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)CEN.PK 113-11C(MATa his3Δ1 ura 3-52 MAL2-8c SUC2)(Entian and Kotter,1998.)及びそのΔrox1変異体(Liu L,Zhang Y,Liu Z et al.Improving heterologous protein secretion at aerobic conditions by activating hypoxia-induced genes in Saccharomyces cerevisiae.FEMS Yeast Res.2015.15(7).pii:fov070.)をヒトヘモグロビン産生の宿主として使用した。酵母株を完全富栄養培地YPD(5g/L酵母エキス、10g/Lペプトン、20g/Lグルコース)中30℃で維持した。ヘモグロビンA発現プラスミドpIYC04+HEM3及びpSP-GM1+ααβ(Liu L,Martinez JL,Liu Z et al.Balanced globin protein expression and heme biosynthesis improve production of human hemoglobin in Saccharomyces cerevisiae.Metab Eng.2014.21:9-16.)を有する形質転換体を、炭素源として20g/Lグルコースを含む、ウラシル及びヒスチジンの両方を含まない合成完全培地SD(アミノ酸を含まない硫酸アンモニウムを含む6.9g/L酵母窒素塩基(Formedium(商標))、ヒスチジン及びウラシルを含まない0.75g/L合成完全ドロップアウト混合物(Formedium(商標))、pH6.0)で選択した。追加の鉄をSD培地(Fe3+を含むSD)に添加した(100μMクエン酸第二鉄、Sigma-Aldrich)。欠失変異体を、0.2g/Lの濃度のG418を含むYPD培地で選択した。Creリコンビナーゼ誘導によるkanMXマーカー除去のために、形質転換体をYPG培地(5g/L酵母エキス、10g/Lペプトン、10g/Lガラクトース)上で一晩増殖させた。Δrox1株におけるポルフィリン産生の評価のために、5-アミノレブリン酸(5-ALA)をSD培地に1mMの濃度で添加した。
【0102】
遺伝子ノックアウト株の作製
【0103】
この研究で使用したオリゴヌクレオチドプライマー及びプラスミドを表1に列挙する。Ashbya gossypii TEF1(Steiner S,Philippsen P.Sequence and promoter analysis of the highly expressed TEF gene of the filamentous fungus Ashbya gossypii.Mol Gen Genet.1994.242(3):263-271.)の制御下で発現される優性選択マーカーkanMXを有する欠失カセットを遺伝子ノックアウトに使用した。その後のマーカー除去をCre-loxシステム(Creリコンビナーゼは、出芽酵母(S.cerevisiae)のプロモーターGAL1下で発現された)によって行った(Wenning L,Yu T,David F et al.Establishing very long-chain fatty alcohol and wax ester biosynthesis in Saccharomyces cerevisiae.Biotechnol Bioeng.2017.114(5):1025-1035.)。欠失カセットは、LoxPに隣接するkanMX及びCreリコンビナーゼ、並びに出芽酵母(S.cerevisiae)のHMX1、VPS10及びPEP4標的遺伝子に相同な約50bpのヌクレオチド配列を担持していた。形質転換後に酵母においてインビボで修復されるkanMX遺伝子の335bpの重複領域を含む鋳型プラスミドpDel1及びpDel2(表1(Wenning L,Yu T,David F et al.Establishing very long-chain fatty alcohol and wax ester biosynthesis in Saccharomyces cerevisiae.Biotechnol Bioeng.2017.114(5):1025-1035.))からの2つの断片において、各欠失カセットを増幅し(断片1:標的遺伝子5’配列-loxP-half kanMX遺伝子;断片2:kanMX遺伝子(重複部分を有する後半)-GAL-プロモーター-Creリコンビナーゼ-LoxP-標的遺伝子3’配列、次いでΔrox1変異体に共形質転換した。HMX1遺伝子欠失カセットを、Del-HMX1-1及びDel1-revプライマー対(PCR断片1)、Del2-for及びDel2-HMX1-2(PCR断片2)によって増幅した。VPS10遺伝子欠失カセットを、VPS10-1及びDel1-rev(PCR断片1)、Del2-for及びVPS10-2(PCR断片2)によって増幅した。PEP4遺伝子欠失カセットを、PEP4-4及びDel1-rev(PCR断片1)、Del2-for及びPEP4-2(PCR断片2)によって増幅した(表1)。欠失カセットを有する形質転換体を、0.2g/Lの濃度のG418を含むYPD培地で選択した。遺伝子欠失をPCR分析によって検証し、得られた変異体をさらなる研究のために選択した。Creリコンビナーゼ発現を誘導するために、ガラクトース(YPG)を含む富栄養培地で形質転換体を一晩増殖させ、次いでYPDに播種した。この処理後にG418を含むYPD上で成長する能力を失った形質転換体を、さらなる研究のために選択した。
【0104】
プラスミド及び合成DNA
【0105】
この研究で構築したプラスミド及び使用したオリゴヌクレオチドを表1に列挙する。ヒトアルファヘモグロビン安定化タンパク質(AHSP)遺伝子の配列を、出芽酵母(S.cerevisiae)に対してコドン最適化し(https://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=4932)、GenScriptから合成DNAとして得た。次いで、コドン最適化断片をAHSP-1及びAHSP-2プライマーで増幅し、プロモーターPGK1下でプラスミドpIYC04+HEM3にクローニングして、プラスミドpIYC04+HEM3+AHSPを得た。細菌E.coliのためのヘモグロビン融合(αγサブユニット融合)構築物(Chakane S.(2017).Towards New Generation of Hemoglobin-Based Blood Substitutes.Department of Chemistry,Lund University)を、酵母における使用に適合させるために、本発明者らはまず、出芽酵母(S.cerevisiae)発現のためにコドン最適化した(Hbfusionと命名)。GFP ORFを、プラスミドp416TEFGFP(Jensen ED,Ferreira R,Jakociunas T et al.Transcriptional reprogramming in yeast using dCas9 and combinatorial gRNA strategies.Microb Cell Fact.2017.16(1):46.)からプライマーHbF-GFP-1及びHbF-GFP-2を用いて増幅し、プライマーHbF-GFP-3及びH3AFHb-2で増幅したHbfusion構築物と融合させ、Gibson Assembly(登録商標)(New England Biolabs、NEB)を使用して強力な構成的プロモーターPGK1の下でpIYC04+HEM3プラスミドにクローニングし、プラスミドpIYC04+HEM3+GFP-Hbfusionを得た。pIYC04+HEM3+mCherry-UnaGをpIYC04+HEM3(Liu L,Martinez JL,Liu Z et al.Balanced globin protein expression and heme biosynthesis improve production of human hemoglobin in Saccharomyces cerevisiae.Metab Eng.2014.21:9-16.)のベース上に構築した。mCherry-UnaG融合物を、プライマーFDD-B/FDD-X(表1)を用いてmCherry-FDDベクター(Addgene #80629(Navarro R,Chen LC,Rakhit R et al.A Novel Destabilizing Domain Based on a Small-Molecule Dependent Fluorophore.ACS Chem Biol.2016.11(8):2101-4.))から増幅し、BamHI及びXhoIで消化したpIYC04+HEM3とライゲーションした。CPOT+α-leader-Hbfusion+HEM3をCPOTud(Liu Z,Tyo KE,Martinez JL et al.Different expression systems for production of recombinant proteins in Saccharomyces cerevisiae.Biotechnol Bioeng.2012.109(5):1259-68.)のベース上に構築した。αリーダー配列を有する断片を、プライマー対Alpha-1及びAlpha-2で増幅した。ヘモグロビンαγ融合(Hbfusion)を有する断片を、pIYC04+HEM3+GFP-HbfusionからプライマーFusion-1及びFusion-2で増幅した。得られた断片をGibson Assembly登録商標()(New England Biolabs、NEB)によってKpnI及びNheI消化CPOTプラスミドにクローニングし、プラスミドCPOT+α-leader-Hbfusionを得た。プロモーターTEF1の制御下のHEM3遺伝子をプライマー対HEM3CPOT-1及びHEM3CPOT-2で増幅し、CPOT+α-leader-HbfusionのBamHI部位にクローニングした。pIYC04+HEM3+α-leader-HbfusionをpIYC04+HEM3(Liu L,Martinez JL,Liu Z et al.Balanced globin protein expression and heme biosynthesis improve production of human hemoglobin in Saccharomyces cerevisiae.Metab Eng.2014.21:9-16.)に基づいて構築した。α-leader-Hbfusion構築物を担持する断片を、プライマーH3AFHb-1及びH3AFHb-2を用いてCPOT+α-leader-Hbfusion+HEM3から増幅し、BamHI及びXhoI消化pIYC04+HEM3にクローニングした。CYP2S1 ORFをプロモーターGAL10下でpESC-URAのBamHI及びXhoIにクローニングしたpESC-URA+CYP2S1を、出芽酵母(S.cerevisiae)発現のためのコドン適合を有する合成DNAとしてGenScriptから入手し、His6タグを保有した。ウシ(Bos taurus)のMB遺伝子のORFをプロモーターGAL10下でpESC-URAのBamHI及びXhoIにクローニングしたpESC-URA+MYG-BOVを、出芽酵母(S.cerevisiae)発現のためのコドン適合を有する合成DNAとしてGenScriptから入手し、His6タグを保有した。オオムギ(Hordeum vulgare)のGLB1遺伝子のORFをプロモーターGAL10下でpESC-URAのBamHI及びXhoIにクローニングしたpESC-URA+HBL-HORを、出芽酵母(S.cerevisiae)発現のためのコドン適合を有する合成DNAとしてGenScriptから入手し、His6タグを保有した。
【0106】
グルコース発酵及び代謝産物分析
【0107】
バッチグルコース発酵を、フラスコ内で、バイオリアクタ内で厳密に制御された条件下で行った。振盪フラスコ発酵を、200rpmで25mlの液体培地中、30℃で行い、前培養物から0.2の初期OD600で接種した。バッチ発酵を、500mlの作業容量を有する1.0L Biostat Qplus(C)バイオリアクタ(Sartorius Stedim Biotech、ドイツ)で行った。温度を30℃及びpH6.0に維持した。前培養物から0.1の初期OD600でバイオリアクタに接種した。溶存酸素量は酸素センサで測定し、30%超を維持した。体積流量(通気)を60L/h(2vvm)に設定し、撹拌機の速度を600rpmで一定にした。乾燥重量は、バイオマスをメンブレンフィルタ(0.45μm、MontaMil(登録商標)MCE、Frisenette、デンマーク)上に収集し、その後乾燥させることによって測定した。培養培地中の代謝産物を、HPLC(Dionex Ultimate 3000 HPLC(モデル1100-1200 Series HPLC System,Agilent Technologies、ドイツ)、HPX-87Hカラム(BIO-RAD、米国)を備える)によって培養培地中で測定した。バイオリアクタからのオフガスをフォームトラップに通し、質量分析計(Model Prima PRO Process MS、Thermo Fisher Scientific(商標)、英国)によって分析した。
【0108】
ROS検出
【0109】
活性酸素種(ROS)レベルを、Johansson M,Chen X,Milanova S et al.PUFA-induced cell death is mediated by Yca1p-dependent and-independent pathways,and is reduced by vitamin C in yeast.FEMS Yeast Res.2016.16(2):fow007によって記載されたプロトコルによってジヒドロローダミン123色素を使用してインビボで測定した。この目的のために、6時間の発酵、細胞を遠心分離によって回収し、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液で洗浄した。細胞を、50μMジヒドロローダミン123を補充した50mMクエン酸ナトリウム緩衝液と共に暗所で30分間さらにインキュベートした。染色後、細胞をスピンダウンし、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液で洗浄した。FLUOstar Omegaマイクロプレートリーダー(励起485nm及び発光520nmフィルタを有する)及びGuava easyCyte(商標)8HTフローサイトメーター(Millipore)を使用して蛍光によって、ローダミン(ジヒドロローダミン123の酸化形態)の形成を検出した。
【0110】
ポルフィリン含有量分析
【0111】
細胞のヘム及びポルフィリン含有量は、前述のように決定した(Liu L,Martinez JL,Liu Z et al.Balanced globin protein expression and heme biosynthesis improve production of human hemoglobin in Saccharomyces cerevisiae.Metab Eng.2014.21:9-16.)。遊離細胞ヘム及び総ポルフィリン含量を、シュウ酸処理後、FLUOstar Omegaプレートリーダー分光光度計でλ=400nmでの励起及びλ=600nmでの発光によるそれらの蛍光によって決定した。
【0112】
吸収スペクトルによるカルボキシヘモグロビンの検出
【0113】
酵母細胞粗抽出物を以前記載されたように調製した(Ishchuk OP,Martinez JL,Petranovic D.Improving the production of cofactor containing proteins:production of human hemoglobin in yeast.In:Gasser B and Mattanovich D(eds).Recombinant Protein Production in Yeast.Methods in Molecular Biology,vol.1923.2019.Humana Press,New York,NY.)。細胞粗抽出物用の100mMリン酸カリウム緩衝液は、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Fisher Scientific)、0.6mg/mlのCO放出化合物CORM-3(Sigma-Aldrich)、2mM MgCl、1mMジチオスレイトール及び1mM EDTAを含有した。細胞残屑除去後、カルボキシヘモグロビン量を、同じ濃度(13mg/ml)を有する試料のタンパク質抽出物のスペクトル分析によって決定した。
【0114】
細胞体積の決定
【0115】
酵母細胞体積は、CASY Model TT Cell Counter and Analyzer(Roche Diagnostics International Ltd.)を用いて決定した。細胞を24、48、72及び96時間の培養でバイオリアクタから回収し、CASYトン緩衝液に再懸濁し、60μmの毛細管を使用して分析した。
【0116】
タンパク質抽出及びウェスタンブロッティング。
【0117】
Baerends RJ,Faber KN,Kram AM et al.A stretch of positively charged amino acids at the N terminus of Hansenula polymorpha Pex3p is involved in incorporation of the protein into the peroxisomal membrane.J Biol Chem.2000.275(14):9986-9995に記載されているように、TCA処理によって総タンパク質を抽出し、タンパク質をプレキャストSDS-ポリアクリルアミドゲル(4~20%勾配、Mini-PROTEAN(登録商標)TGX Stain-Free(商標)Precast Gels、BIO-RAD)上での電気泳動によって分離し、PVDF膜(Trans-Blot(登録商標)Turbo Mini PVDF Transfer Packs,BIO-RAD)に電気泳動転写し、抗ヘモグロビン抗体(ヘモグロビンα抗体(D-16):sc-31110、ヤギポリクローナル、Santa Cruz Biotechnology)とハイブリダイズさせた。ヘモグロビンシグナル検出のために、二次抗体をアルカリホスファターゼ(抗ヤギIgG、Sigma-Aldrich)又はホースラディッシュペルオキシダーゼ(抗ヤギIgG、Fisher-Scientific)のいずれかとコンジュゲートさせて使用した。シグナル強度をImage Lab(商標)(BIO-RAD)で分析した。
【0118】
全細胞中のタンパク質濃度
【0119】
Verduyn C,Postma E,Scheffers WA et al.Physiology of Saccharomyces cerevisiae in anaerobic glucose-limited chemostat cultures.J Gen Microbiol.1990.136(3):395-403に記載されているように、タンパク質含有量を決定した。各株を分析する場合、等量の酵母乾燥重量を使用した。
【0120】
統計解析
【0121】
ソフトウェアパッケージMinitab(登録商標)18.1を使用して、得られたデータを分析した。
【配列表フリーテキスト】
【0122】
配列表1 <223>ゲノムから欠失した酵母細胞ROX1遺伝子配列
配列表2 <223>ゲノムから欠失した酵母細胞VPS10遺伝子配列
配列表3 <223>ゲノムから欠失した酵母細胞HMX1遺伝子配列
配列表4 <223>ゲノムから欠失した酵母細胞PEP4遺伝子配列
配列表5 <223>酵母細胞AHSP遺伝子配列
配列表6 <223>酵母細胞AHSPポリペプチド配列
配列表7 <223>酵母細胞HEM3遺伝子
配列表8 <223>酵母細胞Hem3ポリペプチド配列
配列表9 <223>ヒトヘモグロビンサブユニットαをコードする配列
配列表10 <223>ヒトヘモグロビンサブユニットβをコードする配列
配列表11 <223>ヒトヘモグロビンサブユニットα
配列表12 <223>ヒトヘモグロビンサブユニットβ
配列表13 <223>改変酵母細胞、Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+alpha leader-Hbfusionから分泌されたヘモグロビンをコードする配列
配列表14 <223>改変酵母細胞、Δrox1Δvps10Δhmx1Δpep4/HEM3+alpha leader-Hbfusion
から分泌されたヘモグロビンのポリペプチド配列
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図13G
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図15
図16
図17
図18-1】
図18-2】
図19-1】
図19-2】
【配列表】
2024505606000001.app
【国際調査報告】