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特表2024-505649正極活物質製造用のるつぼ及びるつぼ組立体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-07
(54)【発明の名称】正極活物質製造用のるつぼ及びるつぼ組立体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
H01M4/36 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546239
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(85)【翻訳文提出日】2023-09-29
(86)【国際出願番号】 KR2021001310
(87)【国際公開番号】W WO2022163888
(87)【国際公開日】2022-08-04
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521363413
【氏名又は名称】エスエム ラブ コーポレーション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SM LAB CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】27,Gacheongongdan 1-gil,Samnam-myeon,Ulju-gun,Ulsan 44953,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セオ ミン ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ヨン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA30
5H050HA07
(57)【要約】
正極活物質製造用るつぼ組立体を提供し、上部が開放され、所定の内部空間を有する第1るつぼ、及び第1るつぼの下に配され、各側壁の上側端に配されるものの、既設定の開放面積を有する切開溝を有する第2るつぼを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開放され、所定の内部空間を有する第1るつぼと、
前記第1るつぼの下に配され、各側壁の上側端に配されるが既設定の開放面積を有する切開溝を有する第2るつぼと、を含む、正極活物質製造用るつぼ組立体。
【請求項2】
前記切開溝の開放面積は、以下の数式による、請求項1に記載の正極活物質製造用るつぼ組立体:
【数1】

:切開溝の開放面積
:第2るつぼ1つの側壁面積。
【請求項3】
前記切開溝は、
前記第2るつぼの高さ中心において、上側に配される、請求項1に記載の正極活物質製造用るつぼ組立体。
【請求項4】
前記第2るつぼは、前記側壁が互いに対向するように配され、
前記切開溝は、複数個で具備されるが、前記側壁にそれぞれ重畳されるように配される、請求項1に記載の正極活物質製造用るつぼ組立体。
【請求項5】
前記第1るつぼ及び前記第2るつぼのうち少なくとも一つは、
下記の化学式で表される化合物によって形成される、請求項1に記載の正極活物質製造用るつぼ組立体:
xAl・yMgO・zSiO
(0.9<x<1、0<y<0.1、0<z<0.1、x+y+z=1)。
【請求項6】
前記第2るつぼは、複数個で具備され、前記第1るつぼの下に、高さ方向に積層される、請求項1に記載の正極活物質製造用るつぼ組立体。
【請求項7】
底と側壁とにより、所定の内部空間を有する正極活物質製造用るつぼにおいて、
前記側壁の上側端に配されるが、既設定の開放面積を有する切開溝を含み、
前記切開溝の開放面積は、以下の数式による、正極活物質製造用るつぼ:
【数2】

:切開溝の開放面積
:1つの側壁面積。
【請求項8】
前記るつぼは、下記の化学式で表される化合物によって形成される、請求項7に記載の正極活物質製造用るつぼ:
xAl・yMgO・zSiO
(0.9<x<1、0<y<0.1、0<z<0.1、x+y+z=1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質を製造するためのるつぼ及びるつぼ組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、1991年にSony社によって商用化された後、小型家電から、中大型電気自動車及びエネルギー保存システムまで、多様な分野で需要が急増している。特に、中大型電気自動車及びエネルギー保存システムのためには、低価型高エネルギー正極素材が必須であるが、現在商用化されている正極活物質である単結晶型LiCoO(LCO)の主原料であるコバルトは、高価である。
【0003】
そのために、最近、中大型二次電池用正極活物質として、LCOの代わりに、Coの一部を他の遷移金属で置換した、LiNiCoMn(NCM)(x+y+z=1)及びLiNiCoAl(NCA)(x+y+z=1)で表されるNi系正極活物質を使用し、そのようなNCM系正極活物質及びNCA系正極活物質は、原料であるニッケルの価格が安価であり、高い可逆容量を有するという長所を有する。特に、高容量の側面において、Niのモル比が50モル%以上であるNCM及びNCAが注目されている。一般的に、そのようなNi系正極活物質は、共沈法で合成された遷移金属化合物前駆体をリチウムソースと混合させた後、固相に合成して製造される。しかしながら、そのように合成されたNi系正極素材は、小さい一次粒子が塊になっている二次粒子形態で存在し、長期間の充放電過程において、二次粒子内部に微細亀裂(micro-crack)が生じるという問題点が存在する。該微細亀裂は、正極活物質の新たな界面と電解液との副反応を誘発し、その結果、ガス発生による安定性低下、及び電解液枯渇による電池性能低下のような電池性能劣化が誘発される。また、高エネルギー密度具現のために、電極密度の増大(>3.3g/cc)を必要とするが、それは、二次粒子の崩壊を誘発し、電解液との副反応による電解液枯渇を誘発し、初期寿命急落を誘発する。結局、既存の共沈法で合成された二次粒子形態のNi系正極活物質は、高エネルギー密度を具現することができないということを意味する。
【0004】
前述の二次粒子形態のNi系正極活物質の問題点を解決するために、最近、単一粒子型Ni系正極活物質に係わる研究がなされている。単結晶型Ni系正極活物質は、そのエネルギー密度具現のために、電極密度増大時(>3.3g/cc)、粒子の崩壊が発生せず、すぐれた電気化学性能を具現しうる。しかしながら、そのような単結晶型Ni系正極活物質は、電気化学評価時、不安定なNi3+イオン、Ni4+イオンにより、構造的及び/または熱的な不安定性により、バッテリ安定性が低下されるという問題点が提起された。従って、高エネルギーリチウム二次電池開発のために、単結晶Ni系正極活物質の不安定なNiイオンを安定化させる技術を求める要求が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、単一粒子の形態を有し、高エネルギー密度を有する正極活物質を製造することができるるつぼ及びるつぼ組立体を提供することを目的とする。また、本発明は、使用寿命が長くなったNi系正極活物質を製造することができるるつぼ及びるつぼ組立体を提供することを目的とする。しかしながら、そのような課題は、例示的なものであり、それらにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上部が開放され、所定の内部空間を有する第1るつぼ、及び前記第1るつぼの下に配され、各側壁の上側端に配されるものの、既設定の開放面積を有する切開溝を有する第2るつぼを含む正極活物質製造用るつぼ組立体を提供する。
【0007】
また、前記切開溝の開放面積は、以下の数式を満足する:
【数1】

:切開溝の開放面積、A:第2るつぼの一側壁面積
【0008】
また、前記切開溝は、前記第2るつぼの高さ中心において、上側にも配される。
【0009】
また、前記第2るつぼは、前記側壁が互いに対向するように配され、前記切開溝は、複数個で具備されるものの、前記側壁にそれぞれ重畳されるように配されうる。
【0010】
また、前記第1るつぼ及び前記第2るつぼのうち少なくとも一つは、下記の化学式で表される化合物によって形成されうる。
xAl・yMgO・zSiO(0.9<x<1、0<y<0.1、0<z<0.1、x+y+z=1)
【0011】
また、前記第2るつぼは、複数個で具備され、前記第1るつぼの下に、高さ方向に積層されうる。
【0012】
本発明の他の態様は、底と側壁とにより、所定の内部空間を有する正極活物質製造用るつぼにおいて、前記側壁の上側端に配されるものの、既設定の開放面積を有する切開溝を含み、前記切開溝の開放面積は、以下の数式による正極活物質製造用るつぼを提供する:
【数2】

:切開溝の開放面積、A:一つの側壁面積
【0013】
また、前記るつぼは、下記の化学式で表される化合物によって形成されうる:
xAl・yMgO・zSiO(0.9<x<1、0<y<0.1、0<z<0.1、x+y+z=1)
【0014】
前述のところ以外の他の側面、特徴、利点は、以下の、発明を実施するための具体的な内容、請求範囲及び図面から明確になるであろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明による正極活物質製造用のるつぼ及びるつぼ組立体は、単一粒子の正極活物質を合成することができる。切開溝がるつぼの側壁に具備され、高温度の熱気がるつぼの内部空間に十分に流入され、単一粒子の正極活物質を合成することができる。
【0016】
本発明による正極活物質製造用のるつぼ及びるつぼ組立体は、単一粒子の正極活物質を量産することができる。るつぼを高さ方向に積層し、るつぼ組立体を形成することができ、積層されたるつぼにおいて、大量に単一粒子の正極活物質を量産することができる。特に、切開溝の開放面積を最小化させることができるので、各るつぼにおいて生産することができる正極活物質の量を極大化させることができる。
【0017】
本発明による正極活物質製造用のるつぼ及びるつぼ組立体は、1μm未満の微粉が低減された正極活物質を生産することができる。るつぼ内Alの組成を増加させることにより、合成された正極活物質において、微粉の量を最小化させることができ、それにより、正極活物質の寿命安定性を向上させることができる。ここで、そのような効果により、本発明の範囲が限定されるものではないということは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例による正極活物質製造用るつぼ組立体を図示する斜視図である。
図2】本発明の一実施例によるるつぼを図示する斜視図である。
図3図2のるつぼの一側壁を図示する図である。
図4図1の正極活物質製造用るつぼを利用した正極活物質製造装置を図示する図である。
図5】実施例1ないし実施例5の正極活物質に係わる走査電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)写真である。
図6】比較例1ないし比較例5の正極活物質に係わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7】実施例6、比較例6-1、比較例6-2の正極活物質に係わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図8】実施例7、比較例7-1、比較例7-2の正極活物質に係わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図9】実施例8、比較例8-1、比較例8-2の正極活物質に係わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図10】実施例9-1、実施例9-2及び比較例9の正極活物質の入道分布を見せてくれるグラフである。
図11】実施例9-1、実施例9-2及び比較例9のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
図12】実施例10-1、実施例10-2及び比較例10のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
図13】実施例11-1、実施例11-2及び比較例11のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
図14】実施例12-1、実施例12-2及び比較例12のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
図15】例示的な具現例によるリチウム電池の模式図である。
図16】実施例1ないし実施例5、及び比較例1ないし比較例5の正極活物質の残留リチウム化合物量を図示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の多様な実施例が、添付図面と係わって記載される。本開示の多様な実施例は、多様な変更を加えることができ、さまざまな実施例を有しうるが、特定実施例が図面に例示され、関連する詳細な説明が記載されている。しかしながら、それらは、本開示の多様な実施例を、特定の実施形態について限定するものではなく、本開示の多様な実施例の思想及び技術範囲に含まれる全ての変更、及び/または均等物ないし代替物を含むと理解されなければならない。図面の説明と係わり、類似した構成要素については、類似した参照符号が使用されている。
【0020】
本開示の多様な実施例で使用されうる「含む」または「含むものでもある」というような表現は、開示(disclosure)された当該の機能、動作または構成要素などの存在を示し、さらなる1以上の機能、動作または構成要素などを制限するものではない。また、本開示の多様な実施例において、「含む」または「有する」というような用語は、明細書上に記載された特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、またはそれらの組み合わせが存在するということを指定するものであり、1またはそれ以上の他の特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、またはそれらの組み合わせの存在または付加の可能性を事前に排除するものではないと理解されなければならない。
【0021】
本開示の多様な実施例において、「または」というような表現は、共に羅列された単語のいかなる組み合わせ、及び全ての組み合わせを含む。例えば、「AまたはB」は、Aを含んでもよく、Bを含んでもよく、あるいはA及びBのいずれを含んでもよい。
【0022】
本開示の多様な実施例で使用された「第1」、「第2」、「最初」または「2番目」というような表現は、多様な実施例の多様な構成要素を修飾することができるが、当該構成要素を限定するものではない。例えば、前記表現は、当該構成要素の順序及び/または重要度などを限定するものではない。前記表現は、一構成要素を他の構成要素と区分するために使用されうる。例えば、第1ユーザ機器と第2ユーザ機器は、いずれもユーザ機器であり、互いに異なるユーザ機器を示す。例えば、本開示の多様な実施例の権利範囲を外れずに、第1構成要素は、第2構成要素と命名され、類似して、第2構成要素も、第1構成要素と命名されうる。
【0023】
ある構成要素が他の構成要素に、「連結されて」いたり、「接続されて」いたりすると言及されたときには、前述のある構成要素が、前述の他の構成要素に直接連結されていたり、直接接続されていたりもするが、前述のある構成要素と、前述の他の構成要素との間に、さらに他の構成要素が存在しうると理解されなければならないのである。一方、ある構成要素が他の構成要素に、「直接連結されて」いたり「直接接続されて」いたりすると言及されたときには、前述のある構成要素と、前述の他の構成要素との間に、さらに他の構成要素が存在しないと理解されなければならないのである。
【0024】
本開示の多様な実施例で使用されている用語は、単に特定実施例について説明するために使用されたものであり、本開示の多様な実施例を限定する意図ではない。単数の表現は、文脈上、明白にそれとは異なるように意味していない限り、複数の表現を含む。
【0025】
取り立てて定義されない限り、技術的であったり科学的であったりする用語を含み、ここで使用される全ての用語は、本開示の多様な実施例が属する技術分野において、通常の知識を有する者によって一般的に理解されるところと同一の意味を有している。
【0026】
一般的に使用される事前に定義されているような用語は、関連技術の文脈上で有する意味と一致する意味を有すると解釈されなければならず、本開示の多様な実施例において明白に定義されない限り、理想的であったり、過度に形式的であったりする意味に解釈されるものではない。
【0027】
図1は、本発明の一実施例による正極活物質製造用るつぼ組立体100を図示する斜視図であり、図2は、本発明の一実施例によるるつぼを図示する斜視図であり、図3は、図2のるつぼの一側壁を図示する図面であり、図4は、図1の正極活物質製造用るつぼを利用した正極活物質製造装置1を図示する図面である。
【0028】
図1ないし図4を参照すれば、正極活物質製造用るつぼ組立体100は、複数個のるつぼが、高さ方向に積層されうる。それぞれのるつぼが、所定の内部空間を有し、正極活物質製造装置1を通過することができる。
【0029】
正極活物質製造装置1は、熱源12が設けられたチャンバ11を具備することができる。チャンバ11は、長手方向に延長され、長手方向を循環するレール13を有しうる。レール13上に、正極活物質製造用るつぼ組立体100が設けられ、レール13に沿って移動するとき、熱源12から供給される熱により、正極活物質がるつぼ組立体100において生成される。
【0030】
正極活物質製造用るつぼ組立体100は、内部空間を有する多様な形状を有しうる。例えば、正極活物質製造用るつぼ組立体100は、多面体形、球形の形状を有しうる。ただし、以下においては、説明の便宜のために、それぞれのるつぼは、大体のところ、六面体形状を有する実施例を中心に説明する。
【0031】
正極活物質製造用るつぼ組立体100は、第1るつぼ110と第2るつぼ120とを具備しうる。
【0032】
第1るつぼ110は、上部が開放され、所定の内部空間を有しうる。第1るつぼ110は、正極活物質製造用るつぼ組立体100の最上部に配される。第1るつぼ110の内部空間には、正極活物質を製造するための材料が保存されうる。正極活物質製造用るつぼ組立体100が正極活物質製造装置1を通過しながら、前記材料は、正極活物質に合成されうる。
【0033】
第1るつぼ110は、底と側壁は、開放されていないが、上部は、開放されうる。第1るつぼ110は、上部が開放されるので、正極活物質製造装置1から十分な熱を伝達されうる。第1るつぼ110は、上部が開放された状態で、正極活物質製造装置1を通過するので、正極活物質製造装置1で生じる熱が直接内部空間に流入されうる。
【0034】
第1るつぼ110は、底と側壁とが閉鎖されているので、正極活物質を製造するための十分な熱を維持することができる。第1るつぼ110に熱が伝達されれば、底と側壁とを構成する化合物が熱を長い間維持しているので、第1るつぼ110において、高品質の正極活物質を製造することができる。
【0035】
第2るつぼ120は、第1るつぼ110の下に配される。第2るつぼ120は、底121と側壁122とを具備しうる。第2るつぼ120の上部は、第1るつぼ110と共に開放される。第2るつぼ120は、底121と側壁122とからなる所定の内部空間を有し、正極活物質を製造するための材料が保存されうる。
【0036】
第2るつぼ120は、切開溝OPを有しうる。切開溝OPは、各側壁122の上側端に配されるものの、既設定の開放面積を有しうる。
【0037】
一実施例において、切開溝OPは、第2るつぼ120の高さ方向の中心において、上側に配されうる。切開溝OPは、第2るつぼ120の側壁122の幅の中心に配されうる。切開溝OPは、図3を参照すれば、切開溝OPは、中心ラインCLの上部に配されうる。切開溝OPが側壁122の上側端に配されるので、第2るつぼ120は、正極活物質を製造するための材料が保存されうる空間を確保することができる。前記材料が切開溝OPまで保存されうるので、第2るつぼ120において、多量の正極活物質を製造することができる。
【0038】
一実施例において、第2るつぼ120は、側壁122が互いに対向するように配され、切開溝OPは、複数個で具備されるものの、側壁122にそれぞれ重畳されるように配されうる。図2を参照すれば、第1切開溝OP1と第2切開溝OP2は、x軸方向に互いに対向するように配され、第3切開溝OP3と第4切開溝OP4も、y軸方向に互いに対向するように配される。切開溝OPが互いに対向するように配されるので、正極活物質製造装置1で生成された熱が、第2るつぼ120の内部空間において、容易に移動することができる。
【0039】
一実施例において、切開溝OPの開放面積は、以下の数式をよって設定されうる:
【数3】

:切開溝の開放面積、A:第2るつぼの一側壁面積
【0040】
図5は、実施例1ないし実施例5の正極活物質に係わる走査電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)写真であり、図6は、比較例1ないし比較例5の正極活物質に係わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0041】
図5図6及び表1を参照すれば、実施例1ないし実施例5によるるつぼ組立体で合成された正極活物質を比較することができる。
【0042】
るつぼを3段に積層してるつぼ組立体を提供し、それぞれのるつぼは、図3におけるように、W1の幅(横長及び縦長)、H1の高さを有し、切開溝は、W2の幅、H2の高さを有する。それぞれの実施例と比較例とにおいて、W2及びH2を調節し、側壁の面積において、切開溝の開放面積が占める比(A/A)を異ならせて設定する。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例1ないし実施例5と、比較例1ないし比較例5とにおいて、以下の方法によって正極活物質を合成する。まず、2,000gのNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)、836gのLiCO、6gの(NHHPO、60gのWO、9gのNaOH、及び15gの(NHSを、約15分間機械的に混合する。混合された粉末を、それぞれの実施例及び比較例のるつぼに計量し、1,000℃、4時間、及び700℃、10時間の焼成を介し、正極活物質を得た。図5は、実施例1ないし実施例5の走査電子顕微鏡(SEM)イメージを示す。実施例1ないし実施例5におけるように、A/Aが0.05以上であるるつぼにおいては、単一粒子型Ni系正極活物質が合成されたことを確認することができる。
【0045】
図6は、比較例1ないし比較例5の走査電子顕微鏡(SEM)イメージを示す。比較例1ないし比較例5におけるように、A/Aが0.05未満であるるつぼにおいては、数百nmサイズの小さい粒子が塊になっている多粒子型Ni系正極活物質が製造された。
【0046】
実施例1ないし実施例5による合成された正極活物質(リチウム遷移金属酸化物)は、単一粒子(single particle)でもある。単一粒子は、複数の粒子が凝集されて形成された二次粒子、または複数の粒子が凝集され、凝集体の周囲がコーティングされて形成された粒子(多粒子)と区分される概念である。前記リチウム遷移金属酸化物が単一粒子の形態を有することにより、高い電極密度においても、粒子が崩れることを防止することができる。従って、正極活物質の高エネルギー密度の具現が可能になる。また、複数の単一粒子が凝集された二次粒子に比べ、圧延時に崩れることが抑制され、高エネルギー密度の具現が可能であり、粒子が崩れることによる寿命劣化も防止することができる。
【0047】
本発明の一実施例による第2るつぼ120は、1つの側壁面(A)に対する最小限の切開溝の開放面積(A)を設定し、単一粒子型正極活物質を製造することができる。A/Aの比率が0.05以上であるならば、るつぼ組立体100を介して合成された正極活物質は、単一粒子形態を有するので、高い電極密度においても、粒子が崩れることを防止し、高エネルギー密度の具現が可能であり、粒子が崩れることによる寿命劣化も防止することができる。また、切開溝OPが占める最小面積を設定することができるが、第2るつぼ120の内部空間を最大化させ、1回当たり獲得される単一粒子正極活物質の量を極大化させることができる。
【0048】
図7は、実施例6、比較例6-1、比較例6-2の正極活物質に係わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0049】
図7及び表2を参照すれば、実施例6、比較例6-1、比較例6-2によるるつぼ組立体において合成された正極活物質を比較することができる。
【0050】
るつぼを3段に積層してるつぼ組立体を提供し、それぞれのるつぼは、W1の幅(横長及び縦長)、H1の高さを有し、切開溝は、W2の幅、H2の高さを有する。それぞれの実施例と比較例とにおいて、W2及びH2を調節し、側壁の面積において、切開溝の開放面積が占める比(A/A)を異ならせて設定する。
【0051】
【表2】
【0052】
実施例6、比較例6-1、比較例6-2において、以下の方法によって正極活物質を合成する。まず、2,000gのNi0.9Co0.1(OH)、836gのLiCO、6gの(NHHPO、60gのWO、9gのNaOH、及び15gの(NHSを、約15分間機械的に混合する。混合された粉末をそれぞれのるつぼに計量し、940℃、4時間、及び700℃、10時間の焼成を介し、正極活物質を得た。図7は、実施例6、比較例6-1、比較例6-2の走査電子顕微鏡(SEM)イメージを示す。実施例6におけるように、A/Aが0.05であるるつぼにおいては、単一粒子型Ni系正極活物質が合成されたことを確認することができる。それに反し、比較例6-1、比較例6-2におけるように、A/Aが0.05未満であるるつぼにおいては、数百nmサイズの小さい粒子が塊になっている多粒子型Ni系正極活物質が製造された。A/Aが0.0417である場合にも、多粒子型Ni系正極活物質が製造されたことを確認することができる。
【0053】
図8は、実施例7、比較例7-1、比較例7-2の正極活物質に係わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0054】
図8及び表3を参照すれば、実施例7、比較例7-1、比較例7-2によるるつぼ組立体において合成された正極活物質を比較することができる。
【0055】
るつぼを3段に積層してるつぼ組立体を提供し、それぞれのるつぼは、W1の幅(横長及び縦長)、H1の高さを有し、切開溝は、W2の幅、H2の高さを有する。それぞれの実施例と比較例とにおいて、W2及びH2を調節し、側壁の面積において、切開溝の開放面積が占める比(A/A)を異ならせて設定する。
【0056】
【表3】
【0057】
実施例7、比較例7-1、比較例7-2において、以下の方法によって正極活物質を合成する。まず、2,000gのNi0.88Co0.09Al0.03(OH)、836gのLiCO、6gの(NHHPO、60gのWO、9gのNaOH、及び15gの(NHSを、約15分間機械的に混合する。混合された粉末をるつぼに計量し、1,000℃、4時間、及び700℃、10時間の焼成を介して正極活物質を得た。図8は、実施例7、比較例7-1、比較例7-2の走査電子顕微鏡(SEM)イメージを示す。実施例7におけるように、A/Aが0.05であるるつぼにおいては、単一粒子型Ni系正極活物質が合成されたことを確認することができる。それに反し、比較例7-1、比較例7-2におけるように、A/Aが0.05未満であるるつぼにおいては、数百nmサイズの小さい粒子が塊になっている多粒子型Ni系正極活物質が製造された。A/Aが0.0417である場合にも、多粒子型Ni系正極活物質が製造されたことを確認することができる。
【0058】
図9は、実施例8、比較例8-1、比較例8-2の正極活物質に係わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0059】
図9及び表4を参照すれば、実施例8、比較例8-1、比較例8-2によるるつぼ組立体において合成された正極活物質を比較することができる。
【0060】
るつぼを3段に積層してるつぼ組立体を提供し、それぞれのるつぼは、W1の幅(横長及び縦長)、H1の高さを有し、切開溝は、W2の幅、H2の高さを有する。それぞれの実施例と比較例とにおいて、W2及びH2を調節し、側壁の面積において、切開溝の開放面積が占める比(A/A)を異ならせて設定する。
【0061】
【表4】
【0062】
実施例8、比較例8-1、比較例8-2において、以下の方法によって正極活物質を合成する。まず、2,000gのNi0.8Mn0.2(OH)、836gのLiCO、6gの(NHHPO、60gのWO、9gのNaOH、及び15gの(NHSを、約15分間機械的に混合する。混合された粉末をるつぼに計量し、950℃、4時間、及び700℃、10時間の焼成を介して正極活物質を得た。図9は、実施例8、比較例8-1、比較例8-2の走査電子顕微鏡(SEM)イメージを示す。実施例8におけるように、A/Aが0.05であるるつぼにおいては、単一粒子型Ni系正極活物質が合成されたことを確認することができる。それに反し、比較例8-1、比較例8-2におけるように、A/Aが0.05未満であるるつぼにおいては、数百nmサイズの小さい粒子が塊になっている多粒子型Ni系正極活物質が製造された。A/Aが0.0417である場合にも、多粒子型Ni系正極活物質が製造されたことを確認することができる。
【0063】
一実施例において、第1るつぼ110及び第2るつぼ120のうち少なくとも一つは、以下の化学式で表される化合物によって形成される。望ましくは、第1るつぼ110及び第2るつぼ120は、以下の化学式で表される化合物によって形成される:
xAl・yMgO・zSiO(0.9<x<1、0<y<0.1、0<z<0.1、x+y+z=1)
【0064】
比較例及び実施例の粉末を合成するためのるつぼの成分は、下記の表5に示されている。表5に明示されたるつぼは、Al、MgO、SiOの3成分系によって構成されており、るつぼAは、産業的に商用化されたムライト(mullite)るつぼである。
【0065】
るつぼB及びるつぼCは、前記化学式を満足する組成を有するが、るつぼAは、前記化学式を外れる組成を有する。るつぼAは、比較例の合成のために使用され、るつぼB,Cは、実施例の合成のために使用された。
【0066】
【表5】
【0067】
図10は、実施例9-1、実施例9-2及び比較例9の正極活物質の粒度分布を示すグラフである。実施例9-1、実施例9-2及び比較例9は、それぞれ100gのNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)、41.8gのLiCO、0.30gの(NHHPO、3.0gのWO、0.45gのNaOH、及び0.75gの(NHSを、約15分間機械的に混合する。混合された粉末を、るつぼA(比較例9)、るつぼB(実施例9-1)、るつぼC(実施例9-2)に計量し、1,000℃、4時間、及び700℃、1時間の焼成を介して正極活物質を得た。
【0068】
図10は、実施例9-1、実施例9-2及び比較例9によって製造された正極活物質の粒度分布結果を示す。実施例9-1、実施例9-2及び比較例9は、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811)である。るつぼ内のAl組成が高くなることにより、1μm未満の微粉含量が低減されることを知ることができる。さらには、粉末の平均粒径(D50)も、るつぼ内のAl組成が高くなることにより、大きくなることを知ることができる。それは、るつぼを構成する3種類の成分のうち、Alが熱伝導度が最も高く、るつぼ内のAl含量が多くなることにより、同じ温度で焼成しても、るつぼの平均温度が高く、粒子がさらに成長することができるためである。
【0069】
以下において、正極活物質の微粉は、合成された正極活物質において生成された大きさが1μm未満であるものと定義する。高温度における焼成を介し、単一粒子型Ni系正極活物質の合成過程において、過量の微粉(1<μm)が形成されれば、正極活物質粉末は、比表面積が増大され、電気化学性能低下をもたらしてしまう。
【0070】
特に、正極粒子表面の不安定なNiイオンは、持続的な充放電時、電解液副反応を促進させると共に、電気化学的に非活性的な相を形成させて寿命を劣化させる。電気化学的に非活性的な相が生成されれば、正極活物質の構造内部に酸素を放出させ、正極活物質の安定性を低下させる。そのような構造的不安定性も、粉末の比表面積と関連性があるので、それは、長寿命安定性確保のために、微粉(1<μm)除去を介する粉末の比表面積低減が必須であるということを意味する。
【0071】
一実施例によるるつぼ組立体は、Alを90%以上含み、るつぼ組立体で合成された正極活物質は、1μm未満微粉含量を減らし、粉末の比表面積を低減させることができる。
【0072】
図10と表6とを参照すれば、るつぼ内Alの含量が多くなることにより、粒子表面に存在する過量の微粉が低減されることが分かり、粉末の平均サイズがさらに成長したということを知ることができる。粉末の平均サイズが増大すれば、表7でのように、粉末の比表面積を低減させることができる。各比表面積を比較すれば、比較例9は、0.67m2/gであり、実施例9-1は、0.58m2/gであり、実施例9-2は、0.35m2/gである。正極活物質の比表面積低減を介し、電気化学的寿命が向上されるということを意味する。
【0073】
【表6】
【0074】
【表7】
【0075】
図11は、実施例9-1、実施例9-2及び比較例9のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。実施例の電気化学評価のために、2032 R coin type half cell(Welcos)を利用し、リチウム二次電池用正極活物質極板の組成は、正極活物質、導電材(Super-P)、バインダ(PVdF)(KF9300)を94:3:3の重量比によってなっている。極板のローディングレベルは、11mg/cm、電極密度は、3.6g/ccである。電解液は、1.3M LiPF EC(ethylene carbonate)/EMC(ethly methyl carbonate)/DMC(dimethyl carbonate)=3/4/3(v/v/v)を利用した。
【0076】
比較例の電気化学評価は、実施例の評価方法と同一である。初期化成評価のために、組み立てられたセルを10時間のレスト(休止)過程後、0.1Cで4.3Vまで、CC(constant current)モードで充電した後、0.05Cに該当する電流まで、CV(constant voltage)モードで充電を行った。次に、0.1Cで3.0Vまで、CCモードで放電を行った。常温寿命評価のために、0.5Cで4.3Vまで、CCモードで充電した後、0.05Cに該当する電流まで、CVモードで充電を進めた。次に、1Cで3.0Vまで、CCモードで放電を進め、該過程を総50回反復した。
【0077】
初期容量に対し、50回の充電と放電との後の容量維持率を計算し、その結果は、下記表8に示されている。また、サイクルによる容量維持率を示したグラフは、図11に示されている。
【0078】
【表8】
【0079】
表8及び図11を参照すれば、実施例9-1、実施例9-2及び比較例9の常温寿命結果によれば、実施例9-1は、比較例9対比で、50サイクル後、約6%高い寿命維持率を示し、実施例9-2は、比較例9対比で、約12%高い寿命維持率を示す。それは、微粉制御を介する粉末の比表面積が低減されることにより、寿命維持率が向上されることを示す。図12は、実施例10-1、実施例10-2及び比較例10のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
【0080】
実施例10-1、実施例10-2及び比較例10は、それぞれ100gのNi0.80Co0.15Al0.05(OH)、42.0gのLiCO、及び0.30gの(NHHPO、3.0gのWO、0.45gのNaOH、及び0.75gの(NH)2を、約15分間機械的に混合する。混合された粉末を、るつぼA(比較例10)、るつぼB(実施例10-1)、るつぼC(実施例10-2)に計量し、1,000℃、4時間、及び700℃、10時間の焼成を介して正極活物質を得た。
【0081】
実施例10-1、実施例10-2及び比較例10につき、それぞれ初期容量に対し、50回の充電と放電との後の容量維持率を計算し、その結果は、下記表9に示されている。また、サイクルによる容量維持率を示したグラフは、図12に示されている。
【0082】
【表9】
【0083】
表9及び図12を参照すれば、実施例10-1、実施例10-2及び比較例10の常温寿命結果によれば、実施例10-1は、比較例10対比で、約6%高い寿命維持率を示し、実施例10-2は、比較例10対比で、約12%高い寿命維持率を示す。それは、微粉制御を介する粉末の比表面積が低減されることにより、寿命維持率が向上されることを示す。図13は、実施例11-1、実施例11-2及び比較例11のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
【0084】
実施例11-1、実施例11-2及び比較例11は、それぞれ100gのNi0.90Co0.10(OH)、41.5gのLiCO、0.30gの(NHHPO、3.0gのWO、0.45gのNaOH、及び0.75gの(NHSを、約15分間機械的に混合する。混合された粉末を、るつぼA(比較例11)、るつぼB(実施例11-1)、るつぼC(実施例11-2)に計量し、940℃、4時間、及び700℃、10時間の焼成を介して正極活物質を得た。
【0085】
実施例11-1、実施例11-2及び比較例11につき、それぞれ初期容量に対し、50回の充電と放電との後の容量維持率を計算し、その結果は、下記表10に示されている。また、サイクルによる容量維持率を示したグラフは、図13に示されている。
【0086】
【表10】
【0087】
表10及び図13を参照すれば、実施例11-1、実施例11-2及び比較例11の常温寿命結果によれば、実施例11-1は、比較例11対比で、約3%高い寿命維持率を示し、実施例11-2は、比較例11対比で、約7%高い寿命維持率を示す。それは、微粉制御を介する粉末の比表面積が低減されることにより、寿命維持率が向上されることを示す。図14は、実施例12-1、実施例12-2及び比較例12のハーフセルに係わる寿命維持率グラフである。
【0088】
実施例12-1、実施例12-2及び比較例12は、それぞれ100gのNi0.80Mn0.10(OH)、41.3gのLiCO、0.30gの(NHHPO、3.0gのWO、0.45gのNaOH、及び0.75gの(NHSを、約15分間機械的に混合する。混合された粉末を混合した粉末を、るつぼA(比較例12)、るつぼB(実施例12-1)、るつぼC(実施例12-2)に計量し、950℃、4時間、及び700℃、10時間の焼成を介して正極活物質を得た。
【0089】
実施例12-1、実施例12-2及び比較例12につき、それぞれ初期容量に対し、50回の充電と放電との後の容量維持率を計算し、その結果は、下記表11に示されている。また、サイクルによる容量維持率を示したグラフは、図14に示されている。
【0090】
【表11】
【0091】
表11及び図14を参照すれば、実施例12-1、実施例12-2及び比較例12の常温寿命結果によれば、実施例12-1は、比較例12対比で、約13%高い寿命維持率を示し、実施例12-2は、比較例12対比で、約19%高い寿命維持率を示す。それは、微粉制御を介する粉末の比表面積が低減されることにより、寿命維持率が向上されることを示す。本発明の実施例のるつぼ及びるつぼ組立体によって生成された正極活物質は、以下の通りである。
【0092】
一態様による正極活物質は、W及びBを含むリチウム遷移金属酸化物を含むコア、及び前記コア表面に配されたリン含有化合物を含むリン含有コーティング層を含むものでもある。
【0093】
前記正極活物質は、前記リチウム遷移金属酸化物内に、B元素及びW元素が導入されることにより、遷移金属酸化物内に含まれたNiイオンの配列性(ordering)上昇により、構造的安定性が向上され、遷移金属と酸素との結合力を増大させ、リチウム電池の充電時及び放電時、酸素放出が抑制され、それを介し、電解液との副反応を抑制し、電解液枯渇を防止することができる。
【0094】
また、前記リチウム遷移金属酸化物を含むコアの表面に、リン含有化合物を含むリン含有コーティング層を含むことにより、該リン含有化合物が、バインダ及び電解液に由来するHFと優先的に反応し、リチウム遷移金属酸化物との副反応を抑制するだけではなく、リン含有化合物が、電解液内に存在する水分と優先的に反応し、リチウム遷移金属酸化物との副反応を抑制することができる。その結果、リチウム遷移金属酸化物の副反応による劣化を抑制することにより、寿命特性が向上される。
【0095】
一具現例によれば、前記正極活物質において、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表されうる:
(化学式1)Li1-xαβ1-α-β2-y
前記化学式1で、
Aは、Na、K、Rb及びCsによって構成された群のうちから選択された1種以上の元素であり、
Tは、S、F及びPによって構成された群のうちから選択された1種以上の元素であり、
Mは、Ni、Co、Mn、Al、Mg、V、Ti及びCaによってなる群のうちから選択された1種以上の元素を含み、
0<x≦0.01、0<y≦0.01、0<α≦0.01、0<β≦0.01である。
【0096】
前記リチウム遷移金属酸化物は、W及びBを含む以外に、前記化学式1で表されているように、前記リチウム遷移金属酸化物内のLiの一部が少、量のアルカリ金属で置換される場合、リチウム電池の充電時、Liイオンの脱離による構造の変形が抑制され、リチウム遷移金属酸化物の構造的安定性が向上される。
【0097】
また、前記化学式1で表されているように、前記リチウム遷移金属酸化物内の酸素の一部が、酸素に比べて高い電気陰性度を有するS、F及びPのうちいずれか1つの元素で置換されることにより、酸素と結合した場合に比べ、遷移金属がさらに高い結合力によって構造内に保存することができ、過酸素格子サイトに位置した元素間の結合力が増大され、電子移動性が向上され、伝導度が向上される。従って、高率サイクル特性も、向上されうる。
【0098】
前記リチウム遷移金属酸化物は、W及びBを含む以外に、前記化学式1で表されているように、前記リチウム遷移金属酸化物内のLiの一部が、少量のアルカリ金属で置換される場合、リチウム電池の充電時、Liイオンの脱離による構造の変形が抑制され、リチウム遷移金属酸化物の構造的安定性が向上される。
【0099】
また、前記化学式1で表されているように、前記リチウム遷移金属酸化物内の酸素の一部が、酸素に比べて高い電気陰性度を有するS、F及びPのうちいずれか1つの元素で置換されることにより、酸素と結合した場合に比べ、遷移金属がさらに高い結合力により、構造内に保存することができ、過酸素格子サイトに位置した元素間の結合力が増大され、電子移動性が向上され、伝導度が向上される。従って、高率サイクル特性も、向上されうる。
【0100】
一具現例によれば、前記化学式1で、前記Aは、Naでもあり、前記Tは、Sでもある。
【0101】
一具現例によれば、前記化学式1で、前記Mは、M1、M2及びM3を含み、前記M1は、Niであり、M2及びM3は、互いに独立して、Co、Mn、Al、Mg、V、Ti及びCaのうちから選択される元素であり、前記Mにおいて、Niのモル比は、75モル%以上でもある。
【0102】
他の具現例によれば、前記化学式1で、前記Mは、M1、M2及びM3を含み、前記M1は、Niであり、M2は、Coであり、M3は、Mn、Al、Mg、V、Ti及びCaのうちから選択される元素であり、前記Mにおいて、Niのモル比は、75モル%以上でもある。
【0103】
さらに他の具現例によれば、前記化学式1で、前記Mは、M1及びM2を含み、前記M1は、Niであり、M2は、Coであり、前記Mにおいて、Niのモル比は、75モル%以上でもある。
【0104】
一具現例によれば、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式2ないし4のうちいずれか一つで表されうる:
【化1】
【0105】
一具現例によれば、前記リチウム遷移金属酸化物は、単一粒子でもある。該単一粒子は、複数の粒子が凝集されて形成された二次粒子、または複数の粒子が凝集され、凝集体の周囲がコーティングされて形成された粒子とは区分される概念である。前記リチウム遷移金属酸化物が単一粒子の形態を有することにより、高い電極密度においても、粒子が崩れることを防止することができる。従って、正極活物質の高エネルギー密度の具現が可能になる。また、複数の単一粒子が凝集された二次粒子に比べ、圧延時に崩れることが抑制され、高エネルギー密度の具現が可能であり、粒子が崩れることによる寿命劣化も防止することができる。
【0106】
一具現例によれば、前記リチウム遷移金属酸化物は、単結晶を有しうる。該単結晶は、単一粒子とは区別される概念を有する。該単一粒子は、内部の結晶の類型と個数とには係わりなく、1つの粒子によって形成された粒子を称するものであり、単結晶は、粒子内にただ1つの結晶を有するものを意味する。前記コアが単結晶を有することにより、構造的安定性が非常に高いだけではなく、多結晶に比べ、リチウムイオン伝導が容易であり、多結晶の活物質に比べ、高速充電特性にすぐれる。
【0107】
一具現例によれば、前記正極活物質は、単結晶及び単一粒子である。該単結晶及び該単一粒子に形成されることにより、構造的に安定し、高密度の電極の具現が可能であり、それを含むリチウム二次電池が、向上された寿命特性及び高エネルギー密度を同時に有しうる。
【0108】
前記化学式2ないし4で表される正極活物質は、単結晶及び単一粒子を有し、リチウム遷移金属酸化物内におけるLiの一部がNaで置換され、遷移金属のうち一部がW及びBで置換され、Oの一部がSで置換されることにより、構造的安定性が顕著に向上され、長寿命特性を示すことができる。
【0109】
一般的な高ニッケル系リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含む正極活物質の場合、不安定なNiイオンの安定化が必須であるが、結晶内の遷移金属サイトのうち一部にW及びBが導入されることにより、正極活物質が、全体的に電荷均衡をなすことができることになり、Ni(II)イオンから不安定なNi(III)またはNi(IV)イオンへの酸化を抑制し、不安定なNi(III)またはNi(IV)は、Ni(II)に還元されうる。なお、遷移金属の一部を、異種元素であるB及びWで置換することによる伝導度の損失は、Oの一部をSで置換することによって補償され、Liの一部をNaで置換することにより、充放電時の構造的変形によるLiの伝導度低下も抑制することにより、単結晶の構造的に安定した高容量、及び長寿命の正極活物質が得られる。さらには、リチウム遷移金属酸化物と、電解液または水分との副反応を抑制するために、リチウム遷移金属酸化物の表面に、リン含有化合物、例えば、LiPOを含むリン含有コーティング層を導入した。そのようなリン含有化合物は、電解液に由来するHF、または電解液内に存在する水分との副反応を防止し、それにより、高い安定性及び長寿命の特性が保証される。
【0110】
一具現例によれば、前記リチウム遷移金属化合物を含むコアは、全体範囲において、均一な組成を有しうる。それにより、充電時及び放電時にも、構造的に安定した構造を維持することができ、リチウムの移動を妨害しないので、高率特性を有する。
【0111】
一具現例によれば、前記リン含有化合物は、結晶質、非晶質、またはそれらの組み合わせでもある。
【0112】
例えば、前記リン含有化合物は、結晶質のLiPOを含むか、あるいはリチウム原子、リン原子及び酸素原子を含む非晶質のリン含有化合物を含むものでもある。
【0113】
一具現例によれば、前記正極活物質におけるリン(P)元素のモル比は、前記正極活物質に含まれた元素全体において、0.2モル%以下でもある。
【0114】
一具現例によれば、前記リン含有化合物は、下記化学式5で表される化合物を含むものでもある:
(化学式5)LiPbO
0<a≦3、0<b≦1、及び0<c≦4である。
【0115】
一具現例によれば、前記コーティング層は、コア表面において連続するコーティング層、またはコア表面において部分的に存在するアイルランド状のコーティング層を有しうる。例えば、前記コーティング層は、コア表面において、アイルランド状のコーティング層を有しうる。
【0116】
一具現例によれば、前記コーティング層は、数nmの厚みを有しうる。例えば、前記コーティング層は、1nmないし10nmでもある。
【0117】
一具現例によれば、前記正極活物質は、CuKα線を利用するXRD(X-ray diffraction)分析によって得られたX線回折スペクトルの2θ=20°ないし25°でピークを有しうる。
【0118】
例えば、前記正極活物質は、CuKα線を利用するXRD分析によって得られたX線回折スペクトルにおいて、少なくとも2θ=22.3°±0.5、23.0°±0.5、及び24.8°±0.5でピークを有しうる。
【0119】
前記X線回折スペクトルにおいて、2θ=20°ないし25°におけるピークは、LiPOの存在を意味する。また、後述するが、そのようなピークは、正極活物質のコーティング層で観察されるので、正極活物質は、コア内部には、P元素を含まないということを知ることができる。
【0120】
前記リン含有化合物、例えば、LiPOを含むコーティング層は、Ni系正極活物質合成過程で生成される残留リチウム化合物、例えば、LiCO、LiOHとリン含有化合物との反応生成物であり、それにより、残留リチウム化合物と電解液との副反応によるガス発生を抑制し、電池の安定性を向上させる。それだけではなく、LiPOを含むコーティング層は、高いイオン伝導度を有し、リチウムイオンの拡散を促進させることができる。
【0121】
一具現例によれば、前記正極活物質の平均粒径(D50)は、0.1μmないし20μmでもある。例えば、前記平均粒径(D50)は、0.1μmないし15μm、0.1μmないし10μm、1μmないし20μm、5μmないし20μm、1μmないし15μm、1μmないし10μm、5μmないし15μm、または5μmないし10μmでもある。前記正極活物質の平均粒径が前記範囲に属する場合、所望する体積当たりエネルギー密度を具現することができる。前記正極活物質の平均粒径が20μmを超える場合、充放電容量の急激な低下をもたらすことになり、0.1μm以下である場合、所望する体積当たりエネルギー密度を得難い。
【0122】
以下、一態様による正極活物質の製造方法について詳細に説明する。
【0123】
一具現例による正極活物質の製造方法は、Li元素含有化合物、W元素含有化合物、B元素含有化合物、A元素含有化合物、M元素含有化合物、T元素含有化合物及びP元素含有化合物を混合し、リチウム遷移金属酸化物前駆体を得る段階と、前記前駆体を熱処理し、下記化学式1で表されるリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質を得る段階と、を含み、前記リチウム遷移金属酸化物は、表面にリン含有コーティング層を含む:
(化学式1)Li1-xαβ1-α-β2-y
【0124】
前記化学式1で、
Aは、Na、K、Rb及びCsによって構成された群のうちから選択された1種以上の元素であり、
Tは、S、F及びPによって構成された群のうちから選択された1種以上の元素であり、
Mは、Ni、Co、Mn、Al、Mg、V、Ti及びCaによってなる群のうちから選択された1種以上の元素を含み、
0<x≦0.01、0<y≦0.01、0<α≦0.01、0<β≦0.01である。
【0125】
前記化学式1に係わる具体的な説明は、前述のところを参照する。
【0126】
前記混合段階は、前記特定元素含有化合物を機械的混合することを含む。前記機械的混合は、乾式によって行われる。前記機械的混合は、機械的力を加え、混合する物質を粉砕して混合し、均一な混合物を形成することである。該機械的混合は、例えば、化学的に不活性であるビード(beads)を利用するボールミル(ball mill)、遊星ミル(planetary mill)、撹拌ボールミル(stirred ball mill)、振動ミル(vibrating mill)のような混合装置を利用して行われうる。このとき、混合効果を極大化させるために、エタノールのようなアルコール、ステアリン酸のような高級脂肪酸を選択的に少量添加することができる。
【0127】
前記機械的混合は、酸化雰囲気で行われるが、それは、遷移金属供給源(例:Ni化合物)における遷移金属還元を防ぎ、活物質の構造的安定性を具現するためのものである。
【0128】
前記リチウム元素含有化合物は、リチウム水酸化物、リチウム酸化物、リチウム窒化物、リチウム炭酸化物、またはそれらの組み合わせを含むものでもあるが、それらに限定されるものではない。例えば、リチウム前駆体は、LiOHまたはLiCOでもある。
【0129】
前記A元素含有化合物は、Na、K、Rb及びCsによって構成された群のうちから選択された1種以上の元素の水酸化物、酸化物、窒化物、炭酸化物、またはそれらの組み合わせを含むものでもあるが、それらに限定されるものではない。例えば、NaOH、NaCO、KOH、KCO、RbOH、RbCO、CsOHまたはCsCOでもある。
【0130】
前記W前駆体は、Wの水酸化物、酸化物、窒化物、炭酸化物、またはそれらの組み合わせを含むものでもあるが、それらに限定されるものではない。例えば、W(OH)、WO、またはそれらの組み合わせでもある。
【0131】
前記B元素含有化合物は、Bの水酸化物、酸化物、窒化物、炭酸化物、またはそれらの組み合わせを含むものでもあるが、それらに限定されるものではない。例えば、B(OH)、B、またはそれらの組み合わせでもある。
【0132】
前記M元素含有化合物は、Ni、Co、Mn、Al、Mg、V、Ti及びCaのうち1種以上の元素の水酸化物、酸化物、窒化物、炭酸化物、またはそれらの組み合わせを含むものでもあるが、それらに限定されるものではない。
【0133】
前記T元素含有化合物は、S、F及びPのうち1種以上の元素の水酸化物、酸化物、窒化物、炭酸化物、アンモニウム化物、またはそれらの組み合わせを含むものでもあるが、それらに限定されるものではない。例えば、(NHSでもある。
【0134】
前記P元素含有化合物は、P元素を提供することができる化合物をいずれも含む。例えば、(NHHPOでもある。
【0135】
前記混合する段階後、熱処理する段階を含むものでもある。前記熱処理段階は、第1熱処理段階及び第2熱処理段階を含むものでもある。前記第1熱処理段階及び前記第2熱処理段階は、連続して遂行されるか、あるいは第1熱処理段階後に休息期を有しうる。また、前記第1熱処理段階及び前記第2熱処理段階は、同一のチャンバ内においてなされか、あるいは互いに異なるチャンバ内においてもなされる。
【0136】
前記第1熱処理段階における熱処理温度は、前記第2熱処理段階における熱処理温度よりも高い。
【0137】
前記第1熱処理段階は、熱処理温度800℃ないし1,200℃で遂行されうる。前記熱処理温度は、例えば、850℃ないし1,200℃、860℃ないし1,200℃、870℃ないし1,200℃、880℃ないし1,200℃、890℃ないし1,200℃、または900℃ないし1,200℃でもあるが、それらに限定されるものではなく、前記範囲内において、任意の2つの地点を選択して構成された範囲をいずれも含む。
【0138】
前記第2熱処理段階は、熱処理温度は、700℃ないし800℃で遂行されうる。前記熱処理温度は、710℃ないし800℃、720℃ないし800℃、730℃ないし800℃、740℃ないし800℃、750℃ないし800℃、700℃ないし780℃、700℃ないし760℃、700℃ないし750℃、または700℃ないし730℃でもあるが、それらに限定されるものではなく、前記範囲内において、任意の2つの地点を選択して構成された範囲をいずれも含む。
【0139】
一具現例によれば、前記第1熱処理段階における熱処理時間は、前記第2熱処理段階における熱処理時間よりも短い。
【0140】
例えば、前記第1熱処理段階において、熱処理時間は、3時間ないし5時間、4時間ないし5時間、または3時間ないし4時間でもあるが、それらに限定されるものではなく、前記範囲内において、任意の2つの地点を選択して構成された範囲をいずれも含む。
【0141】
例えば、前記第2熱処理段階において、熱処理時間は、10時間ないし20時間、10時間ないし15時間でもあるが、それらに限定されるものではなく、前記範囲内において、任意の2つの地点を選択して構成された範囲をいずれも含む。
【0142】
前記第1熱処理段階は、800℃ないし1,200℃の熱処理温度で、3時間ないし5時間熱処理する段階を含むものでもある。
【0143】
前記第2熱処理段階は、700℃ないし800℃の熱処理温度で、10時間ないし20時間熱処理する段階を含むものでもある。
【0144】
前記第1熱処理段階は、リチウム遷移金属酸化物が、層状構造の正極活物質を形成すると共に、粒子の成長を誘発し、単結晶の形状をなさしめる。前記第1熱処理段階においては、二次粒子形状のリチウム遷移金属酸化物内のそれぞれの一次粒子が急激に成長し、粒子間応力に耐えることができなくなることにより、一次粒子の内部が現れながら互いに融合され、二次電池用単結晶正極活物質が形成されると見られる。前記第2熱処理段階は、第1熱処理段階でより低い温度で、熱処理を長期間行うことにより、第1熱処理段階で生成された層状構造の結晶度を高くする。該第1熱処理段階及び該第2熱処理段階を介し、単一層、単結晶、単一粒子のニッケル系正極活物質が得られる。
【0145】
一具現例によれば、前記製造方法によって製造されたリチウム遷移金属酸化物は、単結晶、単一粒子であり、前記単結晶は、層状構造を有しうる。また、前記リチウム遷移金属酸化物の平均粒径は、0.1μmないし20μmでもある。
【0146】
また、前記正極活物質の製造方法によって製造された正極活物質は、W元素及びB元素は、構造内のNiサイトで置換され、T元素、例えば、S元素がOサイトで置換される。また、A元素がLiのサイトで置換されることにより、既存に、Ni2+の酸化を抑制するだけではなく、既存に存在する不安定なNi3+イオンのNi2+イオンへの還元が誘発される。還元されたNi2+イオンとLiイオンは、イオン半径が類似しており、Li/Ni無秩序化(disordering)が促進され、コア内において、部分的に酸素格子構造を変化させる。該酸素格子構造が部分的に変化されることにより、P元素は、構造内の正四面体サイトを占めることにより、PO構造を形成することができず、コア内の正四面体位置にP元素が浸透することができず、正極活物質表面にリン含有化合物、例えば、LiPO形態で存在するのである。
【0147】
また、前記方法によって製造された正極活物質は、表面に、リン含有化合物を含むコーティング層を含むことにより、残留リチウムの量、及び不安定なNiイオンの量が同時に低減された正極活物質が得られ、そのような正極活物質を採用したリチウム二次電池は、高エネルギー密度及び長寿命を有する。
【0148】
他の態様によれば、前述の正極活物質を含む正極が提供される。
【0149】
さらに他の態様によれば、前記正極と、前記負極と、電解質と、を含むリチウム二次電池架提供される。
【0150】
前記正極、及びそれを含むリチウム二次電池は、次のような方法によって製造されうる。
【0151】
まず、正極が準備される。
【0152】
例えば、前述の正極活物質、導電材、バインダ及び溶媒が混合された正極活物質組成物が準備される。前記正極活物質組成物が、金属集電体上に直接コーティングされ、正極板が製造される。代案としては、前記正極活物質組成物が、別途の支持体上にキャスティングされた後、前記支持体から剥離されたフィルムが金属集電体上にラミネーションされ、正極板が製造されうる。前記正極は、前述のところで列挙された形態に限定されるものではなく、前記形態以外の形態でもある。
【0153】
前記導電材としては、天然黒鉛、人造黒鉛のような黒鉛;カーボンブラック;炭素ナノチューブのような導電性チューブ;フルオロカーボン、酸化亜鉛、チタン酸カリウムのような導電性ウィスカ;酸化チタンのような導電性金属酸化物;などが使用されうるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、導電材として使用されうるものであるならは、いずれも使用されうる。
【0154】
前記バインダとしては、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、それらの混合物、それらの金属塩、またはスチレンブタジエンゴム系ポリマーなどが使用されうるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、バインダとして使用されうるものであるならば、いずれも使用されうる。他のバインダの例としては、前述のポリマーのリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩またはNa塩などが使用されうる。
【0155】
前記溶媒としては、N-メチルピロリドン、アセトンまたは水などが使用されうるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野で使用されうるものであるならば、いずれも使用されうる。
【0156】
前述の正極活物質、導電材、バインダ及び溶媒の含量は、リチウム電池において、一般的に使用されるレベルである。リチウム電池の用途及び構成により、前述の導電材、バインダ及び溶媒のうち1以上が省略されうる。
【0157】
次に、負極が準備される。
【0158】
例えば、負極活物質、導電材、バインダ及び溶媒を混合し、負極活物質組成物が準備される。前記負極活物質組成物が、3μmないし500μmの厚みを有する金属集電体上に直接コーティングされて乾燥され、負極板が製造される。代案としては、前記負極活物質組成物が、別途の支持体上にキャスティングされた後、前記支持体から剥離されたフィルムが金属集電体上にラミネーションされ、負極板が製造されうる。
【0159】
前記負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せずに、導電性を有するものであるならば、特別に制限されるものではなく、例えば、銅、ニッケル、銅の表面にカーボンで表面処理したものが使用されうる。
【0160】
前記負極活物質は、当該技術分野において、リチウム電池の負極活物質として使用されうるものであるならば、いずれも可能である。例えば、リチウム金属、リチウムと合金可能な金属、遷移金属酸化物、非遷移金属酸化物及び炭素系材料によってなる群のうちから選択された1以上を含むものでもある。
【0161】
例えば、前記リチウムと合金可能な金属は、Si、Sn、Al、Ge、Pb、Bi、Sb、Si-Y合金(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素、またはそれらの組み合わせ元素であり、Siではない)、Sn-Y合金(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素、またはそれらの組み合わせ元素であり、Snではない)などでもある。前記元素Yとしては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Rf、V、Nb、Ta、Db、Cr、Mo、W、Sg、Tc、Re、Bh、Fe、Pb、Ru、Os、Hs、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、B、Al、Ga、Sn、In、Ti、Ge、P、As、Sb、Bi、S、SeまたはTeでもある。
【0162】
例えば、前記遷移金属酸化物は、リチウムチタン酸化物、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物などでもある。
【0163】
例えば、前記非遷移金属酸化物は、SnO、SiO(0<x<2)などでもある。
【0164】
前記炭素系材料としては、結晶質炭素、非晶質炭素、またはそれらの混合物でもある。前記結晶質炭素は、無定形、板状、鱗片状(flake)、球形または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛のような黒鉛でもあり、前記非晶質炭素は、ソフトカーボン(soft carbon)(低温焼成炭素)またはハードカーボン(hard carbon)、メゾ相ピッチ(mesophase pitch)炭化物、焼成されたコークスなどでもある。
【0165】
負極活物質組成物において、導電材、バインダ及び溶媒は、前記正極活物質組成物の場合と同一のものを使用することができる。
【0166】
前述の負極活物質、導電材、バインダ及び溶媒の含量は、リチウム電池で一般的に使用されるレベルである。リチウム電池の用途及び構成により、前述の導電材、バインダ及び溶媒のうち1以上が省略されうる。
【0167】
次に、前記正極と前記負極との間に挿入されるセパレータが準備される。
【0168】
前記セパレータは、リチウム電池で一般的に使用されるものであるならば、いずれも使用可能である。電解質のイオン移動に対して低抵抗でありながら、電解液含湿能にすぐれるものが使用されうる。前記セパレータは、単一膜または多層膜でもあり、例えば、ガラスファイバ、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの組合わせ物のうちから選択されたものであり、不織布の形態でも織布の形態でもよい。また、ポリエチレン/ポリプロピレン2層セパレータ、ポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレン3層セパレータ、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層セパレータのような混合多層膜が使用されうる。例えば、リチウムイオン電池には、ポリエチレン、ポリプロピレンのような巻取り可能なセパレータが使用され、リチウムイオンポリマー電池には、有機電解液含浸能にすぐれるセパレータが使用されうる。例えば、前記セパレータは、下記方法によって製造されうる。
【0169】
高分子樹脂、充填剤及び溶媒を混合し、セパレータ組成物が準備される。前記セパレータ組成物が、電極上部に直接コーティングされて乾燥され、セパレータが形成されうる。または、前記セパレータ組成物が、支持体上にキャスティングされて乾燥された後、前記支持体から剥離されたセパレータフィルムが電極上部にラミネーションされ、セパレータが形成されうる。
【0170】
前記セパレータ製造に使用される高分子樹脂は、特別に限定されるものではなく、電極板の結合材として使用される物質がいずれも使用されうる。例えば、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、またはそれらの混合物などが使用されうる。
【0171】
次に、電解質が準備される。
【0172】
例えば、前記電解質は、有機電解液でもある。また、前記電解質は、固体でもある。例えば、ボロン酸化物、リチウム酸窒化物などでもあるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、固体電解質として使用されるものであるならば、いずれも使用可能である。前記固体電解質は、スパッタリングなどの方法でもって、前記負極上に形成されうる。
【0173】
例えば、有機電解液は、有機溶媒にリチウム塩が溶解されて製造されうる。
【0174】
前記有機溶媒は、当該技術分野において、有機溶媒として使用されうるものであるならば、いずれも使用されうる。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートのような環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネートのような鎖状カーボネート;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトンのようなエステル類;1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2-ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフランのようなエーテル類;アセトニトリルのようなニトリル類;ジメチルホルムアミドのようなアミド類などがある。それらを、単独または複数個組み合わせて使用することができる。例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを混合した溶媒を使用することができる。
【0175】
また、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリルのような重合体電解質に、電解液を含浸したゲル状重合体電解質や、LiI、LiN、LiGeα、LiGeαδ(Xは、F、Cl、Br)のような無機固体電解質を使用することができる。
【0176】
前記リチウム塩も、当該技術分野において、リチウム塩として使用されうるものであるならば、いずれも使用されうる。例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiClO、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、LiAlO、LiAlCl、LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)(ただし、x、yは、自然数である)、LiCl、LiI、またはそれらの混合物などである。
【0177】
本発明の一具現例による正極活物質は、リン含有化合物を含むコーティング層の存在により、フッ素含有電解質を使用する場合においても、優秀な安定性を有しうる。
【0178】
図15は、例示的な具現例によるリチウム電池の模式図である。
【0179】
図15に示されているように、前記リチウム電池1は、正極3、負極2及びセパレータ4を含む。前述の正極3、負極2及びセパレータ4が巻き取られたり、折り畳まれたりして、電池ケース5に収容される。次に、前記電池ケース5に有機電解液が注入され、キャップ(cap)アセンブリ6に密封され、リチウム電池1が完成される。前記電池ケース5は、円筒状、角形、パウチ型、コイン型または薄膜型などでもある。例えば、前記リチウム電池1は、薄膜型電池でもある。前記リチウム電池1は、リチウムイオン電池でもある。
【0180】
前記正極と前記極との間にセパレータが配され、電池構造体が形成されうる。前記電池構造体がバイセル構造に積層された後、有機電解液に含浸され、得られた結果物がパウチに収容されて密封されれば、リチウムイオンポリマー電池が完成される。
【0181】
また、前記電池構造体は、複数個積層されて電池パックを形成し、そのような電池パックが、高容量及び高出力が要求される全ての機器に使用されうる。例えば、ノート型パソコン、スマートフォン、電気車両(EV:electric vehicle)などに使用されうる。
【0182】
また、前記リチウム電池は、寿命特性及び高率特性にすぐれるので、電気車両(EV)に使用されうる。例えば、プラグインハイブリッド車両(PHEV:plug-in hybrid electric vehicle)のようなハイブリッド車両に使用されうる。また、多量の電力保存が要求される分野に使用されうる。例えば、電気自転車、電動工具、電力保存用システムなどに使用されうる。
【0183】
図16は、実施例1ないし実施例5、及び比較例1ないし比較例5の正極活物質の残留リチウム化合物量を図示するグラフである。
【0184】
実施例1ないし実施例5と、比較例1ないし比較例5とにおいて、以下の方法により、正極活物質を合成する。まず、2,000gのNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)、836gのLiCO、6gの(NHHPO、60gのWO、9gのNaOH、及び15gの(NHSを、約15分間機械的に混合する。混合された粉末を、それぞれの実施例及び比較例のるつぼに計量し、1,000℃、4時間、及び700℃、10時間の焼成を介して正極活物質を得た。
【0185】
【表12】
【0186】
表12及び図16を参照すれば、比較例1ないし比較例5の製造方法によって製造された正極活物質は、残留リチウムの量が、56,400ppmないし33,570ppmの高い数値を示す。一方、実施例1ないし実施例5の製造方法によって製造された正極活物質は、残留リチウム化合物(LiCO、LiOH)の総量が、20,000ppm以下に急減することを確認することができる。A/A値が0.042である比較例3の場合、残留リチウム化合物の総量が31,850ppmであり、0.04である比較例5の場合も、残留リチウム化合物の総量が33,570ppmに達する。A/A値が0.05である実施例1は、残留リチウム化合物の量が19,630ppm以下であり、比較例に比べ、10,000ppm以上低減されていることを確認することができる。
【0187】
切開溝の開放面積と、るつぼ1つの側壁面積との比が0.05になる点まで残留リチウムの量が急減し、その後には、開放面積と側壁面積との比が増大しても、残留リチウム化合物の量は、非常に緩く減少する。
【0188】
残留リチウム化合物は、電解液と副反応を起こし、ガスを発生させるので、電池の安定性を低下させる重要な要因である。従って、切開溝の開放面積と、るつぼ1つの側壁面積との比が0.05以上にあるとき、製造された正極活物質は、20,000ppm以下の残留リチウム化合物を有し、電池の安定性を大きく向上させることができる。
【0189】
以上のうに、本発明は、図面に図示された実施例を参照して説明されたが、それらは、例示的なものに過ぎず、当該技術分野において通常の知識を有する者であるならば、それらから多様な変形、及び均等な他の実施例が可能であるという点を理解するであろう。従って、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求範囲の技術的思想によって定められるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】