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特表2024-505653手術中の脳の損傷又は傷害を測定するための方法、アッセイ及び組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-07
(54)【発明の名称】手術中の脳の損傷又は傷害を測定するための方法、アッセイ及び組成物
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547067
(86)(22)【出願日】2022-02-03
(85)【翻訳文提出日】2023-09-26
(86)【国際出願番号】 US2022015155
(87)【国際公開番号】W WO2022170000
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】63/144,985
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516122472
【氏名又は名称】ナノソミックス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NanoSomiX, Inc.
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミツハシ,マサト
(72)【発明者】
【氏名】タドコロ,タカヒロ
(72)【発明者】
【氏名】ヨシタニ,ケンジ
(57)【要約】
本開示は、手術前、手術中及び手術後の対象からの生体試料中の脳由来エキソソームを定量するための方法及びアッセイに関する。本開示はまた、手術中の脳損傷を測定及び/又は予後予測するための方法及び組成物も提供する。本開示の組成物及び方法はまた、手術を受ける対象における脳損傷の予防及び/又は処置並びに術後認知機能障害(POCD)の予測及び/又は術後せん妄(POD)の予測においても有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)手術を受ける又は受けた対象から生体試料を得ること、及び(ii)試料を抗体と接触させ、脳由来エキソソームと抗体の間の結合を検出することによって、試料中の脳由来エキソソームを検出することを含む、方法。
【請求項2】
脳由来エキソソームと抗体の間の結合を検出することが、脳由来エキソソームを第2の抗体と接触させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗体が、抗CD171抗体、抗EAAT1抗体又は抗MOG抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第2の抗体が、抗CD9抗体、抗CD63抗体又は抗CD81抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
生体試料中の脳由来エキソソームのレベルを定量することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
エキソソームが、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される2つのエキソソームの割合を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
手術前のNDE/ADE及び/又はODE/ADEの割合が低いことが、対象が術後せん妄を有することを示す、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
対象が脳損傷を有すると診断されている又はその疑いがある、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
脳損傷が術後認知機能障害又は低下(POCD)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
脳損傷が術後せん妄(POD)である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
生体試料が、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
手術が心臓手術である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
外科処置を受ける対象における脳損傷を測定及び/又は検出するための方法であって、(i)手術を受ける前、最中及び/若しくは後に又はそれらのいずれかの組合せで、対象から1つ以上の生体試料を得ること、(ii)1つ以上の試料を抗体と接触させ、脳由来エキソソームと抗体の間の結合を検出することによって、1つ以上の試料中の脳由来エキソソームを検出すること、並びに(iii)1つ以上の試料中の脳由来エキソソームのレベルを対照と比較することを含む、方法。
【請求項15】
脳由来エキソソームのレベルが対照と比較して増加又は減少する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
手術中の脳への損傷を予防、最小化又は処置するための方法であって、(i)手術を受ける又は受けた対象から生体試料を得ること、(ii)試料を抗体と接触させ、脳由来エキソソームと抗体の間の結合を検出することによって、脳由来エキソソームが試料中に存在するか否かを検出すること、並びに(iii)有効量の化合物を投与して、脳への損傷を予防、最小化又は処置することを含む、方法。
【請求項17】
生体試料が、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
化合物が、抗炎症化合物、抗酸化ストレス化合物、フリーラジカルスカベンジャー並びに神経細胞増殖及び生存因子化合物からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
フリーラジカルスカベンジャーがエダラボンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
化合物が手術前、手術中又は手術後に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
化合物が、脳由来エキソソームが試料中に検出された場合に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
化合物が、対照と比較して、脳由来エキソソームが試料中に増加又は減少している場合に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
エキソソームが、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
生体試料が、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
生体試料中の少なくとも2つの脳由来エキソソームの割合を決定することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項26】
手術前のNDE/ADE及び/又はODE/ADEの割合が低いということが、対象が術後せん妄を有する又は有する可能性があることを示す、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
手術を受ける又は受けた対象における脳損傷を測定するためのキットであって、脳由来エキソソームに特異的に結合する1つ以上の薬剤、生体試料を採取及び/又は保持するための1つ以上の容器並びにその使用説明書を含む、キット。
【請求項28】
薬剤が、抗CD9抗体、抗CD63抗体、抗CD81抗体、抗EAAT1抗体、抗OMG抗体及び/又は抗CD171抗体である、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
エキソソームが、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される、請求項27に記載のキット。
【請求項30】
手術が心臓手術である、請求項27に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、2021年2月3日に出願した米国仮特許出願第63/144,985号の優先権を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本開示は、手術前、手術中及び手術後の対象からの生体試料中の脳由来エキソソームを定量するための方法及びアッセイに関する。本開示はまた、手術中の脳損傷を測定及び/又は予後予測するための方法及び組成物を提供する。本開示の組成物及び方法はまた、手術を受ける対象における脳損傷の予防及び/又は処置、並びに術後認知機能障害(POCD)の予測及び/又は術後せん妄(POD)の予測に有用である。
【背景技術】
【0003】
術後認知機能障害又は低下(POCD)は、外科処置後の数週間~数か月以内に起こる遷延性認知機能障害と定義される。心臓手術後の主要合併症(例えば死亡率)の割合は、現在、医療技術及び外科技術が改善されていることから低くなっているが、しかしPOCDの発生率は未だ変わりなく、最も一般的な術後合併症となっている。POCDの報告されている発生率は、定義、検査方法、術後評価の時期に応じて大幅に異なる。心臓手術後のPOCDの発生率は、手術後数週間に30~80%であり、3~6か月後に10~60%であると報告されている。POCDが起こると、長期間の入院及びリハビリテーション、死亡率の増加、生活の質の低下、より一般的には労働障害及び早期退職など、著しく有害な事象を伴い、それにより医療制度に大幅な負担をもたらす。
【0004】
本明細書でBDEと呼ばれる脳由来エキソソーム/小胞(例えば、ニューロン由来、アストロサイト由来、オリゴデンドロサイト由来のエキソソーム/小胞)は生体試料中に存在し、それらのレベルの増加は、手術中又は手術後の脳組織への損傷を評価するために使用することができる。手術後の生体試料中のBDEの正常レベルは確立されていない。したがって、生体試料中のBDEを定量し、手術の結果としてのBDEレベルの変化を評価するための方法が当技術分野において必要とされている。
【0005】
術後せん妄(POD)は、対象が意識、見当識、記憶、知覚及び行動の変化を有する手術後の状態である。PODは珍しいものではなく、様々な種類の手術で経験する一般的な問題のうちの1つである。PODは、機能及び認知機能の低下、入院期間の長期化、施設入所、費用の増大、死亡率の増加を含む転帰不良を伴う。さらに、PODはまた、看護スタッフの作業量も増やす。したがって、PODの予測及び予防は、医療コスト全体を削減して患者ケアの質を維持するために、麻酔科医、外科医、病院医師にとって非常に重要である。手術前にそれが予測されたならば、外科医はより侵襲性の低い処置を検討することができ、麻酔科医は麻酔プロトコルを変更することができ、看護スタッフはPOD管理の準備をすることができる。さらに、神経内科医は、より問題となる術後認知機能低下(POCD)を予防するために、様々な予防治療を行い、患者のケアに積極的に関与することができるようになる。したがって、PODの予測は、麻酔学において未だ対処されていない実質的なニーズである。
【0006】
さらに、BDEを定量するための方法並びに手術中及び手術後の脳損傷を測定するための組成物が当技術分野において必要とされている。それに加えて、エキソソームを定量するための組成物、並びに心臓手術及び他の心臓処置に伴う神経疾患の処置に有用な組成物及び方法が当技術分野において必要とされている。本開示は、BDEレベルの変化を測定し、手術に伴う脳損傷を予測及び/又は予後予測するための正確で非侵襲的な方法を提供することによってこのニーズを満たす。本開示の方法は、心臓手術を受ける又は受けた対象における術後認知機能低下(POCD)及び/又は術後せん妄(POD)の予測、診断、又は予後予測に有用である。本開示は、心臓手術を受けた対象からの生体試料中のエキソソームを定量するための新規な方法、アッセイ、キット及び組成物をさらに提供する。本開示はまた、手術を受ける対象における脳損傷の予防及び/又は処置にも有用な組成物及び方法を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(発明の要旨)
本開示は、手術を受けた対象からの試料中のエキソソームを検出及び定量するための新規な方法、組成物及びキットに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一部の実施形態において、本開示は、(i)手術を受ける又は受けた対象から生体試料を得ること、及び(ii)試料を抗体と接触させ、脳由来エキソソームと抗体の間の結合を検出することによって、試料中の脳由来エキソソームを検出することを含む方法を提供する。他の実施形態において、脳由来エキソソームと抗体の間の結合を検出することは、脳由来エキソソームを第2の抗体と接触させることをさらに含む。他の実施形態において、抗体は、抗CD171抗体、抗EAAT1抗体及び抗MOG抗体である。さらに他の実施形態において、第2の抗体は、抗CD9抗体、抗CD63抗体又は抗CD81抗体である。一部の実施形態において、この方法は、生体試料中の脳由来エキソソームのレベルを定量することをさらに含む。他の実施形態において、エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される。さらに他の実施形態において、対象は、脳損傷を有すると診断されている又はその疑いがある。さらに他の実施形態において、脳損傷は、手術後の認知機能障害又は低下(POCD)である。一部の実施形態において、脳損傷は術後せん妄(POD)である。他の実施形態において、生体試料は、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される。一部の実施形態において、手術は心臓手術である。他の実施形態において、手術は開胸手術である。さらに他の実施形態において、手術は、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)又は全大動脈弁置換術(TAR)である。さらに他の実施形態において、手術は、経カテーテル処置、内視鏡処置又は腹腔鏡処置をさらに含む。
【0009】
本開示は、手術を受ける又は受けた対象からの試料中の脳由来エキソソーム(BDE)を検出及び定量するための新規な方法、組成物及びキットを提供する。一部の実施形態において、本開示は、(i)手術を受ける又は受けた対象から生体試料を得ること、及び(ii)試料をBDEに結合する抗体と接触させ、BDEと抗体の間の結合を検出することによって、試料中のBDEを検出することを含む方法を提供する。他の実施形態において、脳由来エキソソームと抗体の間の結合を検出することは、BDEを第2の抗体と接触させることをさらに含む。他の実施形態において、抗体は、抗CD171抗体、抗EAAT1抗体、抗MOG抗体及び/又はニューロン選択的BDE抗体である。一部の実施形態において、エキソソームは小胞である。さらに他の実施形態において、第2の抗体は、抗CD9抗体、抗CD63抗体及び/又は抗CD81抗体である。一部の実施形態において、この方法は、生体試料中のBDEのレベルを定量することをさらに含む。他の実施形態において、エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム及びオリゴデンドロサイト由来エキソソームからなる群から選択される。さらに他の実施形態において、対象は、術後の脳損傷又は術後認知機能障害若しくは低下(POCD)を有する又は発症すると診断されている又はそれらの疑いがある。さらに他の実施形態において、対象は、術後せん妄(POD)を有する又は発症すると診断されている又はそれらの疑いがある。他の実施形態において、生体試料は、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される。一部の実施形態において、手術は心臓手術である。一部の実施形態において、脳由来エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群からの少なくとも2つのエキソソームを含む。他の実施形態において、この方法は、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム、及びミクログリア由来エキソソームからなる群からの2つのエキソソームの割合を決定することをさらに含む。一部の実施形態において、エキソソームの割合は、対照値又は所定値と比較して増加又は減少する。他の実施形態において、手術前のNDE/ADE及び/又はODE/ADEの割合が低いということは、対象が術後せん妄を有し得ることを示す。
【0010】
他の実施形態において、本開示は、外科処置を受ける対象における脳損傷を測定及び/又は検出するための方法であって、(i)手術を受ける前、最中及び/又は後に又はそれらのいずれかの組合せで、対象から1つ以上の生体試料を得ること、(ii)1つ以上の試料を抗体と接触させ、脳由来エキソソームと抗体の間の結合を検出することによって、1つ以上の試料中のBDEを検出すること、並びに(iii)1つ以上の試料中の脳由来エキソソームのレベルを、対照試料及び/又は外科処置の異なる時点で得られた同じ対象試料と比較することを含む、方法を提供する。一部の実施形態において、BDEのレベルは、対照試料又は処置の異なる時点で得られた対象試料と比較して増加又は減少する。他の実施形態において、抗体は、抗CD171抗体、抗EAAT1抗体、抗MOG抗体及び/又は他の神経選択的抗体である。さらに他の実施形態において、第2の抗体は、抗CD9抗体、抗CD63抗体及び/又は抗CD81抗体及び/又は他のエキソソーム特異的抗体である。一部の実施形態において、この方法は、生体試料中のBDEのレベルを定量することをさらに含む。他の実施形態において、エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される。さらに他の実施形態において、対象は、脳損傷を有すると診断されている又はその疑いがある。さらに他の実施形態において、脳損傷は、術後認知機能障害又は低下(POCD)である。さらに他の実施形態において、対象は、術後せん妄(POD)を有する又は発症すると診断されている又はそれらの疑いがある。他の実施形態において、生体試料は、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される。一部の実施形態において、手術は心臓手術である。他の実施形態において、この方法は、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群からの2つのエキソソームの割合を決定することをさらに含む。一部の実施形態において、エキソソームの割合は、対照値又は所定値と比較して増加又は減少する。他の実施形態において、手術前のNDE/ADE及び/又はODE/ADEの割合が低いことは、対象が術後せん妄を有し得ることを示す。
【0011】
他の実施形態において、本開示は、手術中の脳への損傷を予防、最小化又は処置するための対象を特定する方法であって、(i)手術を受ける又は受けた対象から生体試料を得ること、(ii)試料を抗体と接触させ、脳由来エキソソームと抗体の間の結合を検出することによって、脳由来エキソソームが試料中に存在するか否かを検出すること、並びに(iii)有効量の化合物を投与して、脳への損傷を予防、最小化又は処置することを含む、方法を提供する。一部の実施形態において、生体試料は、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される。他の実施形態において、この化合物は、抗炎症化合物、抗酸化ストレス化合物、フリーラジカルスカベンジャー化合物、並びに神経細胞増殖及び生存因子化合物からなる群から選択される。一部の実施形態において、フリーラジカルスカベンジャー化合物は、エダラボンである。さらに他の実施形態において、この化合物は、手術前、手術中又は手術後に投与される。さらに他の実施形態において、この化合物は、脳由来エキソソームが試料中で検出された場合に投与される。一部の実施形態において、この化合物は、対照と比較して、脳由来エキソソームが試料中で増加又は減少している場合に投与される。他の実施形態において、エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される。さらに他の実施形態において、生体試料は、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される。他の実施形態において、この方法は、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群からの2つのエキソソームの割合を決定することをさらに含む。一部の実施形態において、エキソソームの割合は、対照値又は所定値と比較して増加又は減少する。他の実施形態において、この化合物は、脳由来エキソソームのレベルが対照値又は所定値と比較して増加又は減少している場合に投与される。他の実施形態において、手術前のNDE/ADE及び/又はODE/ADEの割合が低いということは、対象が術後せん妄を有し得ることを示す。
【0012】
他の実施形態において、本開示は、対象における手術後の認知機能障害若しくは低下(POCD)又は術後せん妄(POD)を予測、診断及び/又は予後予測するための方法であって、(i)手術を受ける又は受けた対象から生体試料を得ること、(ii)試料中の1つ以上の脳由来エキソソームを検出すること、並びに(iii)試料中の脳由来エキソソームのレベルを対照試料又は対照値と比較し、それによって対象における術後認知機能障害若しくは低下(POCD)又は術後せん妄(POD)を予測、診断及び/又は予後予測することを含む、方法を提供する。一部の実施形態において、生体試料は、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される。一部の実施形態において、エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される。さらに他の実施形態において、生体試料は、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される。一部の実施形態において、脳由来エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群からの少なくとも2つのエキソソームを含む。他の実施形態において、この方法は、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群からの2つのエキソソームの割合を決定することをさらに含む。一部の実施形態において、エキソソームの割合は、対照値又は所定値と比較して増加又は減少する。一部の実施形態において、対象は、心臓手術を受けた又は心臓手術を受ける。他の実施形態において、手術は開胸手術である。さらに他の実施形態において、手術は、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)又は全大動脈弁置換術(TAR)である。さらに他の実施形態において、手術は、経カテーテル処置、内視鏡処置、又は腹腔鏡処置をさらに含む。
【0013】
一部の実施形態において、本開示は、手術を受ける又は受けた対象における脳損傷を測定するためのキットであって、脳由来エキソソームに特異的に結合する1つ以上の薬剤、生体試料を採取及び/又は保持するための1つ以上の容器、並びにその使用説明書を含む、キットを提供する。一部の実施形態において、薬剤は、抗CD9抗体、抗CD171抗体、抗EAAT1抗体、抗MOG抗体、抗CD63抗体及び/又は抗CD81抗体である。他の実施形態において、エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される。さらに他の実施形態において、手術は心臓手術である。
【0014】
一部の実施形態において、本開示は、対象における手術による脳損傷を少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%又は100%の特異性で検出するための方法を提供する。一部の実施形態において、本開示は、対象における手術による脳損傷を少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%又は100%の感度で検出するための方法を提供する。他の実施形態において、本開示は、対象における手術による脳損傷を少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%又は100%の精度で検出するための方法を提供する。
【0015】
本開示のこれらの実施形態及び他の実施形態は、本明細書の開示を照らし合わせると当業者には容易に想起され、そのような実施形態はすべて明確に熟慮される。
【0016】
本開示の各限定は、本開示の様々な実施形態を包含し得る。したがって、任意の1つの要素又は要素の組合せに関する本開示の各限定が本開示の各態様に含まれ得ることは予期される。本開示は、その適用において、以下の説明に記載される構成要素の構成及び配置の詳細に限定されない。本開示は、他の実施形態が可能であり、様々な方法で実行又は実施することができる。また、本明細書で使用される語句及び用語は、説明を目的としたものであり、限定するものと見なされるべきではない。本明細書における「含む(including)」、「含む(comprising)」又は「有する」、「含有する(containing)」、「包含する(involving)」及びそれらのバリエーションの使用は、それ以降に列挙される項目及びその等価物、並びに追加の項目を包含することを意味する。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の言及を含むことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本開示のアッセイの一実施形態を示すデータを示す。
図2A-2B】図2は、本開示の例示的なELISAについての相対発光量(RLU)のアッセイ再現性を示すデータを示す。図2Aは、複数の血漿試料を用いた抗CD171 NDE捕捉の複製の結果を示す。図2Bは、IgG対照抗体を使用した、同様の再現可能な活性の欠如を示す。
図3図3は、術前の対象におけるニューロン由来エキソソーム(NDE)の血漿レベルを示すデータを示す。Y軸は、任意に100U/mLを割り当てた標準血漿対照の血漿希釈曲線を使用したU/mLを示す。
図4A-4B】図4Aは、経カテーテル大動脈弁移植術(TAVI)の対象における、ニューロン由来エキソソーム(NDE)血漿単位/mlレベルの術後変化を示すデータである。図4Bは、全動脈血行再建術(TAR)の対象(図4B)における、ニューロン由来エキソソーム(NDE)血漿単位/mlレベルの術後変化を示すデータである。
図5A-5I】図5A~5Iは、TAR処置後のNDE(ニューロン由来エキソソーム)、ADE(アストロサイト由来エキソソーム)、及びODE(オリゴデンドロサイト由来エキソソーム)の血漿レベルの変化を示すデータである。血液試料は、術前及び術後、並びに術後1、2、5日目に採取した。U/mL及びlogU/mLをNDE(図5A、B)、ADE(図5D、E)、及びODE(図5G、H)について示す。図5Aは、PODを発症しなかった対象を示す。図5Bは、術後5日間にPODを発症した対象を示す。図5C:術前試料のlog(U/mL)から術後試料のLog(U/mL)が先引かれた場合のデータを示す(Δlog)。ΔはPOD(-)の平均-標準偏差(n=11)を表し、●はPOD(+)対象の平均+標準偏差(n=7)を表す。図5Dは、PODを発症しなかった対象を示す。図5Eは、術後5日間にPODを発症した対象を示す。図5F:術前試料のlog(U/mL)から術後試料のLog(U/mL)が先引かれた場合のデータを示す(Δlog)。ΔはPOD(-)の平均-標準偏差(n=11)を表し、●はPOD(+)対象の平均+標準偏差(n=7)を表す。図5Gは、PODを発症しなかった対象を示す。図5Hは、術後5日間にPODを発症した対象を示す。図5I:術前試料のlog(U/mL)から術後試料のLog(U/mL)が先引かれた場合のデータを示す(Δlog)。ΔはPOD(-)の平均-標準偏差(n=11)を表し、●はPOD(+)対象の平均+標準偏差(n=7)を表す。
図6A-6C】図6Aは、PODを発症した対象(+)及びPODを発症しなかった対象(-)におけるNDEの血漿レベルを示すデータを示す。Y軸は、任意に100U/mLを割り当てた標準血漿対照の血漿希釈曲線を使用したU/mLを示す。図6Bは、PODを発症した対象(+)及びPODを発症しなかった対象(-)におけるADEの血漿レベルを示すデータを示す。Y軸は、任意に100U/mLを割り当てた標準血漿対照の血漿希釈曲線を使用したU/mLを示す。図6Cは、PODを発症した対象(+)及びPODを発症しなかった対象(-)におけるODEの血漿レベルを示すデータを示す。Y軸は、任意に100U/mLを割り当てた標準血漿対照の血漿希釈曲線を使用したU/mLを示す。
図7A-7E】図7Aは、NDE/ADEの割合を示すデータを示す。図7Bは、ODE/NDEの割合を示すデータを示す。図7Cは、ODE/ADEの割合を示すデータを示す。図7Dは、TAR対象におけるPOD予測をROCにより分析し、NDE/ADEのAUCスコアは81%であった。図7Eは、TAR対象におけるPOD予測をROCにより分析し、ODE/ADEのAUCスコアは84%であった。
図8A-8B】図8Aは、アッセイ検証を示すデータである。A:捕捉抗体の特異性。ヒトCD171に対するマウスモノクローナル抗体(IgG2a)、対照マウスIgG及び対照マウスIgG2aをELISAウェルに固定した。3種の異なる対照ヒト血漿(淡い灰色、中程度の灰色及び濃い灰色のカラム)並びに希釈剤のみ(白色のカラム、不可視)を指定のウェルにアプライし、抗ヒトCD9プローブを使用してELISAを実施した。図8Bは、アッセイ検証を示すデータである。B:プローブの特異性。3種の対照血漿(淡い灰色、中程度の灰色及び濃い灰色のカラム)並びに緩衝液のみ(白色のカラム、不可視)をマウスIgG及び抗CD171固定化ELISAウェルにそれぞれアプライした。次いで、各ウェルを、マウスIgG、マウスIgG2b、抗ヒトCD9(マウスモノクローナルIgG2b)のビオチン化プローブと反応させた。
図8C-8D】図8Cは、アッセイ検証を示すデータである。C.エキソソーム特異性I:エキソソームの減少。血漿試料をそれぞれ抗CD81固定化常磁性ビーズ(濃い灰色のカラム)及び対照マウスIgG固定化常磁性ビーズ(薄い灰色のカラム)とインキュベートし、次いで、上清血漿試料を、抗CD171、抗CD81及び対照マウスIgGが予め固定された、3種の異なるELISAウェルにアプライした。各ウェルを十分に洗浄した後、各ウェルをビオチン化抗CD9と反応させ、サンドイッチELISAを完了した。図8Dは、アッセイ検証を示すデータである。D.エキソソーム特異性II:スパイクされたエキソソーム。エキソソームをExoQuickにより対照血漿から調製し、PBSに懸濁した。3種の異なる希釈エキソソーム及びPBSを血漿又は血漿希釈液に添加し、[CD171+CD9+]を測定した。
図8E-8G】図8Eは、アッセイ検証を示すデータである。E.血漿希釈の試験。3種の対照血漿試料をPBSで希釈し(黒及び白の記号)、マウスIgG(点線)及び抗CD171固定化ELISAウェル(実線)にアプライした。次いで、ELISAを実行した。図8Fは、アッセイ検証を示すデータである。F.アッセイ内再現性。アッセイは常に複製で実行し、2つの複製(RLU)の変動を示した(対象n=134)。それぞれの点は、1人の個人を表す。図8Gは、アッセイ検証を示すデータである。G.アッセイ間の再現性。3種の異なる対照血漿試料を12回別々に分析した。最初のデータを100%として使用し、各実験における変化の%を示した。
図9A-9E】図9Aは、エキソソーム検証を示すデータである。A.SEM。血漿試料を、本発明者らのELISAと全く同じプロトコルを用いて、抗CD171固定化ELISAウェルにアプライした。各ウェルをPBSで十分に洗浄した後、各ウェルの底を打ち抜き、固定溶液に懸濁し、SEMにより分析した。図9Bは、エキソソーム検証を示すデータである。B.SEM。血漿試料を、本発明者らのELISAと全く同じプロトコルを用いて、抗CD171固定化ELISAウェルにアプライした。各ウェルをPBSで十分に洗浄した後、各ウェルの底を打ち抜き、固定溶液に懸濁し、SEMにより分析した。図9Cは、エキソソーム検証を示すデータである。C.SEM。血漿試料を、本発明者らのELISAと全く同じプロトコルを用いて、抗CD81固定化ELISAウェルにアプライした。各ウェルをPBSで十分に洗浄した後、各ウェルの底を打ち抜き、固定溶液に懸濁し、SEMにより分析した。図9Dは、エキソソーム検証を示すデータである。D.SEM。血漿試料を、本発明者らのELISAと全く同じプロトコルを用いて、抗CD81固定化ELISAウェルにアプライした。各ウェルをPBSで十分に洗浄した後、各ウェルの底を打ち抜き、固定溶液に懸濁し、SEMにより分析した。図9Eは、エキソソーム検証を示すデータである。E.NTA。血漿試料を抗CD171及び対照マウスIgG固定化常磁性ビーズにアプライした。捕捉されたエキソソームを低pH2.5溶液で溶出し、中和し、次いで、粒径分布及び濃度をNanoSight NS300により分析した。実線は抗CD171固定化常磁性ビーズからの溶出液であり、点線は対照IgG結合常磁性ビーズからの溶出液である。
図10図10は、対照値の範囲を示すデータである。10代から80歳を超える合計192名の対象を用いて[CD171+CD9+]を決定し、Y軸は対数スケールのU/mlであった。バーは各群の中央値であり、統計解析(スチューデントt検定)はlog値を使用して実行した。
図11A-11C】図11A-11Cは、[CD171+CD9+]のモニタリング血漿レベルを示すデータであり、Y軸は各対象における最初の血液試料からのU/mlの変化の%であり、X軸は血液試料の採取期間(時間~年)であった。A:高校のクロスカントリー選手(非コンタクトスポーツ、n=9)。7月から11月まで月1回採血した。B:高校のアメリカンフットボール選手(コンタクトスポーツ、n=22)。7月から11月まで月1回採血した。C:成人のサッカー選手(n=19)。血液試料は、集中的なヘディング練習の前と、2、24、48時間後に採取した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の説明
本開示は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコル、細胞株、アッセイ及び試薬が変わり得るため、それらが限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、本開示の特定の実施形態を説明することを意図しており、添付の特許請求の範囲に記載の本開示の範囲を限定することを決して意図していないことについても理解されたい。
【0019】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の言及を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「断片」への言及には、複数のそのような断片が含まれる。「抗体」への言及は、1つ以上の抗体及び当業者に公知のその等価物などへの言及である。
【0020】
別段の定義のない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似の又は同等の任意の方法及び材料は、本開示の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法、装置、及び材料についてここで説明する。本明細書で引用されるすべての刊行物は、本開示に関連して使用される可能性のある、刊行物で報告された方法論、試薬及びツールを説明及び開示する目的で、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる部分も、その開示に、先行開示によってそのような開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるものではない。
【0021】
本開示の実施には、別段の指示のない限り、当業者の範囲内の化学、生化学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学及び薬理学の従来の方法が使用される。そのような技術は、文献において十分に説明されている。例えば、Gennaro,A.R.,編(1990)Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版,Mack Publishing Co.;Colowick,S.ら編,Methods In Enzymology,Academic Press,Inc.;Handbook of Experimental Immunology,I~IV巻(D.M.Weir及びC.C.Blackwell編,1986,Blackwell Scientific Publications);Maniatis,T.ら編(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,I~III巻,Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel,F.M.ら編(1999)Short Protocols in Molecular Biology,第4版,John Wiley&Sons;Reamら編(1998)Molecular Biology Techniques:An Intensive Laboratory Course,Academic Press);PCR(Introduction to Biotechniques Series),第2版(Newton&Graham編,1997,Springer Verlag)を参照されたい。
【0022】
本開示は、部分的には、脳由来エキソソームをアッセイして、手術による脳の損傷若しくは傷害並びに/又は術後認知機能障害若しくは低下(POCD)又は術後せん妄(POD)に罹患している又は罹患し得る対象を特定できるという発見に関連する。
【0023】
本開示は、部分的には、手術(例えば心臓手術)を受けた対象の循環中に存在するある特定の脳由来エキソソームにおける予期せぬ異常レベルの発見に基づいている。本開示は、脳由来エキソソームレベルをアッセイして、手術を受けた対象における脳の損傷若しくは傷害及び/又は術後認知機能障害若しくは低下(POCD)又は術後せん妄(POD)を予測、診断及び/又は予後予測することができることを実証する。本開示は、対象からの脳由来エキソソームの測定は、術後認知機能障害若しくは低下(POCD)のその後の発症の予測(例えば、POCDを発症するリスクのある対象の特定)又は術後せん妄(POD)のその後の発症の予測(例えば、PODを発症するリスクのある対象の特定)に使用することができることをさらに示す。
【0024】
本開示はまた、本明細書に記載の方法において使用するための組成物も提供する。そのような組成物には、小分子化合物;抗体又はその機能的に活性な断片を含むペプチド及びタンパク質;並びに低分子干渉リボ核酸(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム及びアンチセンス配列を含むポリヌクレオチドが含まれ得る。(例えば、Zeng(2003)Proc Natl Acad Sci USA 100:9779~9784頁;及びKurreck(2003)Eur J Biochem 270:1628~1644頁を参照されたい。)
【0025】
本開示はさらに、手術を受ける又は受けた対象における脳の損傷又は傷害を測定するためのキットを提供する。これらの実施形態において、このキットは、脳由来エキソソームに特異的に結合する1つ以上の抗体、生体試料を採取及び/又は保持するための1つ以上の容器、並びにキット使用説明書を含む。
【0026】
セクションの見出しは、本明細書では整理の目的のみにおいて使用されており、本明細書に記載の主題を決して制限するものと解釈されるものではない。
【0027】
生体試料
本開示は、手術前、手術中及び手術後の対象からの生体試料中の脳由来エキソソームを定量するための方法及びアッセイを提供する。本開示はまた、手術中の脳の損傷又は傷害を測定するための方法及び組成物を提供する。脳由来エキソソームレベルは、手術前、手術中及び/又は手術後に、又はそれらの組合せでの対象から得られた生体試料で決定される。一部の実施形態において、本開示の生体試料は血液である。一部の実施形態において、約1~10mLの血液が対象から採取される。他の実施形態において、約10~50mLの血液が対象から採取される。血液は、腕、脚又は中心静脈カテーテルを介して到達可能な血液を含む、身体の任意の適切な領域から採取することができる。一部の実施形態において、血液は、手術前、手術中又は手術後に採取される。採取のタイミングを調整して、試料中に存在するエキソソームの数及び/又は組成を増加させることもできる。例えば、血液は、運動後又は血管拡張を誘発する処置後に採取することができる。
【0028】
血液は、採取後に様々な成分と混合し、その後の手法のために試料を保存又は調製することができる。例えば、一部の実施形態において、血液は、採取後、抗凝固剤、細胞固定剤、プロテアーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤、タンパク質、DNA又はRNA保存剤で処理される。一部の実施形態において、血液は、EDTA又はヘパリンなどの抗凝固剤を含む真空採血管を使用して静脈穿刺により採取される。血液はまた、ヘパリンをコーティングした注射器及び皮下注射針を使用して採取することもできる。血液はまた、細胞培養に有用である成分と組み合わせることもできる。例えば、一部の実施形態において、血液は、細胞培養培地又は補充された細胞培養培地(例えばサイトカイン)と組み合わされる。
【0029】
生体試料は、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳脊髄液又は、例えば脳組織を含む他の組織を含めた、当技術分野において公知の他の供給源から得ることもできる。
【0030】
エキソソームの濃縮又は単離
試料は、ポジティブ選択、ネガティブ選択又はポジティブ選択とネガティブ選択の組合せによって、エキソソームを濃縮することができる。一部の実施形態において、エキソソームは直接捕捉される。他の実施形態において、血球細胞が捕捉され、残りの生体試料からエキソソームが採取される。一部の実施形態において、生体試料中の濃縮された脳由来エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及び/又はミクログリア由来エキソソームである。
【0031】
また試料は、エキソソームの生化学的特性の差異に基づいて、脳由来エキソソームについて濃縮することができる。例えば、試料は、抗原、核酸、代謝、遺伝子発現又はエピジェネティックな差異に基づいて、エキソソームについて濃縮することができる。抗原の差異に基づく一部の実施形態において、磁場勾配における抗体結合型磁性ビーズ若しくは常磁性ビーズ又はフローサイトメトリーによる蛍光標識抗体が使用される。核酸の差異に基づく一部の実施形態において、フローサイトメトリーが使用される。代謝の差異に基づく一部の実施形態において、フローサイトメトリー又は別のソーティング技術によって測定される色素の取り込み/排除が使用される。遺伝子発現に基づく一部の実施形態において、サイトカインによる細胞培養が使用される。試料はまた、当技術分野で公知の他の生化学的特性に基づいて、エキソソームについて濃縮することができる。例えば、試料は、pH又は運動性に基づいて、エキソソームについて濃縮することができる。さらに、一部の実施形態において、複数の方法がエキソソームについての濃縮に使用される。他の実施形態において、試料は、抗体、リガンド又は可溶性受容体を使用してエキソソームについて濃縮される。
【0032】
他の実施形態において、表面マーカーを使用して、試料中のエキソソームをポジティブに濃縮する。他の実施形態において、NCAM、CD9、CD63、CD81、ニューロン特異的エノラーゼ、多様なニューロン又はアストロサイト接着タンパク質、ミクログリアCD18/11又はCD3 T細胞膜細胞表面マーカーを使用して、エキソソームを濃縮する。他の実施形態において、SNAP25、CD171、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDATを使用して、エキソソームを濃縮する。一部の実施形態において、エキソソーム集団上では確認されない細胞表面マーカーを使用して、細胞集団を枯渇させることによりエキソソームをネガティブに濃縮する。フローサイトメトリーソーティングを使用して、細胞表面マーカー又は蛍光標識に結合した細胞内マーカー若しくは細胞外マーカーを用いてエキソソームをさらに濃縮することもできる。細胞内マーカー及び細胞外マーカーには、核染色又はエキソソームで優先的に発現される細胞内タンパク質若しくは細胞外タンパク質に対する抗体が含まれ得る。細胞表面マーカーには、エキソソーム上で優先的に発現される細胞表面抗原に対する抗体が含まれ得る(例えばNCAM)。一部の実施形態において、細胞表面マーカーは、例えば、NCAM又はCD171、CD9、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDATを含む、ニューロン由来エキソソーム表面マーカーである。一部の実施形態において、モノクローナルNCAM、CD9、CD63、CD81、ニューロン特異的エノラーゼ、CD171、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDAT抗体を使用して、試料からエキソソームを濃縮又は単離する。ある特定の態様において、NCAM、CD9、CD63、CD81、ニューロン特異的エノラーゼ、CD171、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDAT抗体は、ビオチン化されている。この実施形態において、ビオチン化NCAM又はCD171抗体は、抗体-エキソソーム複合体を形成することができ、これはその後、ストレプトアビジン-アガロース樹脂又はビーズを使用して単離され得る。他の実施形態において、NCAM、CD9、CD63、CD81、ニューロン特異的エノラーゼ、CD171、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDAT抗体は、モノクローナル抗ヒトNCAM、CD9、CD63、CD81、ニューロン特異的エノラーゼ、CD171、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDAT抗体である。
【0033】
一部の実施形態において、生体試料からの濃縮されたエキソソームは、続いて、特定の種類の脳由来エキソソーム(例えば、脳由来エキソソームの亜集団)について濃縮される。例えば、生体試料はエキソソームについて濃縮され、その後、濃縮されたエキソソームは、続いて神経由来エキソソームについて濃縮される。一部の実施形態において、生体試料は、エキソソームの個々の神経細胞源について濃縮される。ある特定の態様において、エキソソームの神経細胞源は、ミクログリア、ニューロン又はアストロサイトである。他の実施形態において、表面マーカーを使用して、特定の種類のエキソソーム(例えば、神経由来エキソソーム)について濃縮する。一部の実施形態において、CD171、CD9、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR及び/又はDAT細胞表面マーカーを使用して、特定の種類のエキソソームについて濃縮する。一部の実施形態において、目的のエキソソーム上では確認されない細胞表面マーカーを使用して、望ましくない細胞集団を枯渇させることによりエキソソームをネガティブに濃縮する。フローサイトメトリーソーティングを使用して、細胞表面マーカー又は蛍光標識に結合した細胞内マーカー若しくは細胞外マーカーを用いて、特定の種類のエキソソームについてさらに濃縮することもできる。細胞内マーカー及び細胞外マーカーは、核染色又は対象のエキソソーム内又は上で優先的に発現される細胞内タンパク質又は細胞外タンパク質に対する抗体を含み得る。細胞表面マーカーは、エキソソーム上で優先的に発現される細胞表面抗原に対する抗体を含み得る(例えば、CD171、CD9、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR及びDAT)。一部の実施形態において、細胞表面マーカーは、例えばCD171を含む、ニューロン由来エキソソーム表面マーカーである。一部の実施形態において、細胞表面マーカーは、例えばEAAT1を含む、アストロサイト由来エキソソーム表面マーカーである。一部の実施形態において、細胞表面マーカーは、例えばOMGを含む、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム表面マーカーである。一部の実施形態において、細胞表面マーカーは、ドーパミン、セロトニン、GABA、グルタミン酸、オピオイド、オレキシン、アドレナリン、ノルアドレナリン、アセチルコリン及び/又はドーパミントランスポーターの受容体である。一部の実施形態において、モノクローナルCD171、CD9、SNAP25、EAAT1、OMG、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDAT抗体を使用して、試料からエキソソームを濃縮又は単離する。ある特定の態様において、CD171、CD9、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDAT抗体は、ビオチン化されている。この実施形態において、ビオチン化CD171、CD9、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDAT抗体は、抗体-エキソソーム複合体を形成することができ、これはその後、ストレプトアビジン-アガロース樹脂又はビーズを使用して単離することができる。他の実施形態において、CD171、CD9、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDAT抗体は、モノクローナル抗ヒトCD171、CD9、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR又はDAT抗体である。
【0034】
他の実施形態において、脳由来エキソソームは、生体試料から単離又は濃縮され、生体試料中に存在するエキソソームが薬剤に結合してエキソソーム-薬剤複合体を形成する条件下で、生体試料を薬剤と接触させること、及びエキソソーム-薬剤複合体からエキソソームを単離して、エキソソームを含む試料を取得することを含み、試料中に存在するエキソソームの純度は、生体試料中に存在するエキソソームの純度よりも高い。ある特定の実施形態において、薬剤は、抗体又はレクチンである。エキソソーム-レクチン複合体を形成するのに有用なレクチンは、米国特許出願公開第2012/0077263号に記載されている。一部の実施形態において、脳由来エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム又はミクログリア由来エキソソームである。一部の実施形態において、複数の単離ステップ又は濃縮ステップが実施される。本実施形態のある特定の態様において、第1の単離ステップを実施して血液試料からエキソソームを単離し、第2の単離ステップを実施して神経由来エキソソームを他のエキソソームから単離する。他の実施形態において、エキソソーム-薬剤複合体のエキソソーム部分は、溶解試薬を使用して溶解され、溶解されたエキソソームのタンパク質レベルがアッセイされる。一部の実施形態において、抗体-エキソソーム複合体は、固相上に作製される。さらに他の実施形態において、本方法は、エキソソームを抗体-エキソソーム複合体から遊離させることをさらに含む。ある特定の実施形態において、固相は、非磁性ビーズ、磁性ビーズ、アガロース又はセファロースである。他の実施形態において、エキソソームは、抗体-エキソソーム複合体を3.5~1.5の低pHに曝露することによって遊離される。さらに他の実施形態において、遊離されたエキソソームは、高pH溶液を添加することにより中和される。他の実施形態において、遊離されたエキソソームは、遊離されたエキソソームを溶解溶液とインキュベートすることにより溶解される。さらに他の実施形態において、溶解溶液は、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤を含有する。
【0035】
脳の損傷又は傷害
本開示は、手術を受ける又は受けた対象における脳の損傷又は傷害を測定、診断及び/又は予後予測するための方法を提供する。脳損傷は、脳細胞の破壊又は劣化又は有害な変化を引き起こす傷害である。脳傷害は、患者の脳が長時間にわたって酸素不足にされた場合、又は麻酔による毒性の結果として、手術中に発生する可能性がある。これが発生する場合、重度の手術外傷、麻酔薬自体、診療記録の記入ミスによる誤った用量の麻酔薬の投与、患者の体格及び体重の計算ミス、誤った麻酔薬の選択、麻酔下の時間の長さ、心肺バイパス処置又は他の侵襲的処置の使用及び期間などが原因であり得る。
【0036】
せん妄は、不注意及び認知障害をもたらす急性の錯乱状態である。内科的条件又は外科的条件は、多くの場合、せん妄を引き起こす可能性がある。手術対象者におけるせん妄は、脳の神経組織損傷と関連しており、これは認知能力の喪失につながる可能性がある(例えば、術後せん妄、POD)。
【0037】
認知機能障害は、心臓手術後の脳損傷の最も一般的な臨床上のエビデンスである。これは、訓練された検査官による神経心理学的検査により検出することができる。記憶、精神運動速度、実行機能、視覚・構成能力、集中力における障害は、手術後の脳損傷の特徴である。術後認知機能障害(POCD)は、心臓手術後の退院前に、対象の14%~48%において検出され得る。さらに、障害は、6週間では少なくとも30%において、6か月間では25%において検出され続ける。(SeinesらLancet1999;353:1601頁;及びvan Dijkら J Thorac Cardiovasc Surg.2000;120:632頁。)
【0038】
一部の実施形態において、本開示は、医師が手術中及び/又は手術後に対象の脳損傷を測定、診断及び/又は予後予測することを可能にする。他の実施形態において、本開示は、医師が診断の可能性として脳損傷を除外又は排除することを可能にする。さらに他の実施形態において、本開示は、医師が手術後に脳損傷を発症するリスクのある対象を特定することを可能にする。他の実施形態において、本開示は、医師が、術後認知機能障害若しくは低下(POCD)又は術後せん妄(POD)を対象が後で発症するかどうかを予測することを可能にする。さらなる実施形態において、本開示は、医師が、手術を受ける又は受けた対象の治療レジメンを処方し、又は治療による利益を予測することを可能にする。一部の実施形態において、手術は、心臓手術(例えば、全動脈血行再建術又は経カテーテル大動脈弁置換術)である。
【0039】
一部の実施形態において、手術中又は手術後に循環中の脳由来エキソソームが増加することは、脳損傷が発生している又は発生したことを示す。循環中の脳由来エキソソームの割合な変化は、せん妄及び術後認知機能障害若しくは低下を含む脳損傷の重症度と関連している。
【0040】
脳由来エキソソーム及び抗原
脳由来エキソソームレベルは、手術中に脳損傷を有する又は有するリスクのある対象から採取した生体試料でアッセイされる。脳由来エキソソーム抗原を使用して、生体試料中の脳由来エキソソームのレベルを検出又は測定することができる。一部の実施形態において、抗原は、ドーパミン、セロトニン、GABA、グルタミン酸、オピオイド、オレキシン、アドレナリン、ノルアドレナリン、アセチルコリン及び/又はドーパミントランスポーターの受容体である。一部の実施形態において、抗原は、CD9、CD61、CD81、CD171、SNAP25、EAAT1、OMG、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR及び/又はDATである。他の公知の抗原を本開示の抗原と組み合わせて使用することができる。そのような抗原の例は、米国特許出願公開第2015/0119278号で提供されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0041】
当業者は、本開示の脳由来の検出及び分析に利用することができるいくつかの方法及び装置を有する。患者の検査試料中のエキソソームレベルに関しては、イムノアッセイ装置及び方法が使用されることが多い。これらの装置及び方法は、様々なサンドイッチアッセイ、競合アッセイ又は非競合アッセイ形式で標識分子を利用して、目的の分析物の存在又は量に関連するシグナルを生成することができる。さらに、バイオセンサー及び光学イムノアッセイなどのある特定の方法及び装置を用いて、標識分子を必要とすることなく、分析物の存在又は量を決定することができる。
【0042】
好ましくは、脳由来エキソソームはイムノアッセイを使用して分析されるが、他の方法は当業者に周知である。脳由来エキソソームの存在又は量は、一般的に、各マーカーに特異的な抗体を使用し、特異的な結合を検出することにより決定される。任意の適切なイムノアッセイ、例えば、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、競合結合アッセイ、平面導波路技術(planar waveguide technology)などを利用することができる。抗体のマーカーへの特異的な免疫学的結合は、直接的又は間接的に検出することができる。直接標識には、抗体に結合された蛍光タグ又は発光タグ、金属、色素、放射性核種などが含まれる。間接標識には、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼなど、当技術分野において周知の様々な酵素が含まれる。
【0043】
脳由来エキソソームに特異的な固定化抗体の使用もまた、本開示によって企図されている。抗体は、磁性又はクロマトグラフィーのマトリックス粒子、アッセイ場所(マイクロタイターウェルなど)の表面、固体基板材料(プラスチック、ナイロン、紙など)の断片など、様々な固体支持体に固定化することができる。アッセイストリップは、抗体又は複数の抗体を固体支持体上でアレイ状にコーティングすることによって調製することができる。次いで、このストリップを検査試料に浸漬し、洗浄ステップ及び検出ステップを経て迅速に処理し、着色スポットなどの測定可能なシグナルを生成することができる。
【0044】
複数の脳由来エキソソームの分析は、別々に実施することができ又は1つの試験試料で同時に実施してもよい。複数の試料を効率的に処理するために、いくつかのマーカーを1つの試験に組み合わせることができる。さらに、当業者であれば、同一個体からの複数の試料(例えば、連続した時点での)を試験することの価値を認識するであろう。このような連続試料を試験するにより、脳由来エキソソームレベルの経時的変化を特定することができる。脳由来エキソソームレベルの増加又は減少、並びにマーカーレベルの変化の欠如は、限定するものではないが、事象の発症からのおよその時間、回収可能な組織の存在及び量、薬物療法の適切性、様々な療法の有効性、事象の重症度の特定、疾患の重症度の特定、並びに将来の事象のリスクを含む患者の転帰の特定を含む、疾患の状態に関する有用な情報を提供することができる。
【0045】
本開示で言及されている脳由来エキソソームの組合せからなるアッセイは、鑑別診断に関連する関連情報を提供するために構築することができる。そのようなパネルは、1、2、3、4、若しくは5つ以上又は個々の脳由来エキソソームを使用して構築することができる。単一の脳由来エキソソーム又は脳由来エキソソームのより大きなパネルを含む脳由来エキソソームのサブセットの分析は、様々な臨床設定における臨床感度又は臨床特異性を最適化するために、本開示内に記載の方法を用いて実施され得る。一部の実施形態において、脳由来エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される。一部の実施形態において、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群からの2つのエキソソームの割合が決定される。
【0046】
脳由来エキソソームレベルの分析は、様々な物理的形式においても実施することができる。例えば、マイクロタイタープレートの使用又は自動化を使用して、多数の試験試料の処理を容易にすることができる。代替的に、単一試料形式を開発して、例えば、外来での搬送又は緊急治療室の設定において、タイムリーな方法で即時の処置及び診断を容易にすることができる。特に有用な物理的形式は、複数の異なる分析物を検出するための複数の個別のアドレス指定可能な位置を有する表面を含む。そのような形式には、タンパク質マイクロアレイ又は「タンパク質チップ」及びキャピラリーデバイスが含まれる。
【0047】
本開示の脳由来エキソソームは、手術中及び/又は手術後の脳損傷の早期検出及びモニタリングにおいて重要な役割を果たす。脳損傷に関連する脳由来エキソソームは、典型的には、測定可能な身体試料中で確認される。測定された量は、基礎疾患又は疾患の病態生理、脳損傷の有無、将来の術後認知機能障害若しくは認知低下(POCD)又は術後せん妄(POD)の確率と相関し得る。対象が症状に対する処置を受ける際に、測定された量は、治療法に対する反応性とも相関する。一部の実施形態において、本開示の1つ以上の脳由来エキソソームのレベルの増加は、脳損傷を示唆する。したがって、本開示の方法は、脳損傷の診断において有用である。
【0048】
一部の実施形態において、脳由来エキソソームのレベルは、免疫組織化学、免疫細胞化学、免疫蛍光、免疫沈降、ウェスタンブロッティング及びELISAからなる群から選択される方法によって測定される。
【0049】
臨床アッセイの性能
本開示の方法は、臨床アッセイに使用して、手術を受ける又は受けた対象における脳損傷を測定、診断及び/又は予後予測することができる。臨床アッセイの性能は、アッセイの感度、特異性、ROC曲線下面積(AUC)、精度、陽性適中率(PPV)及び陰性適中率(NPV)を決定することによって評価することができる。本明細書には、手術を受ける又は受けた対象における脳損傷を測定、診断及び/又は予後予測するためのアッセイが記載されている。
【0050】
このアッセイの臨床性能は、感度に基づき得る。本開示のアッセイの感度は、少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%又は100%であり得る。このアッセイの臨床性能は、特異性に基づき得る。本開示のアッセイの特異性は、少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%又は100%であり得る。このアッセイの臨床性能は、ROC曲線下面積(AUC)に基づき得る。本開示のアッセイのAUCは、少なくとも約0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9又は0.95であり得る。このアッセイの臨床性能は、精度に基づき得る。本開示のアッセイの精度は、少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%又は100%であり得る。
【0051】
組成物
本開示の方法において有用な組成物には、脳由来エキソソーム上の抗原を特異的に認識する組成物であって、抗原がCD9、CD63、CD81若しくはCD171、EAAT1又はOMGである、組成物が含まれる。さらに他の実施形態において、この組成物は、ペプチド、核酸、抗体及び小分子からなる群から選択される。
【0052】
ある特定の実施形態において、本開示は、脳由来エキソソームを特異的に検出する組成物に関する。本明細書の他の箇所で詳述するように、本開示は、CD9及びCD171が、手術による脳損傷の診断又は予後予測に使用され得る脳由来エキソソームの亜集団に対する特異的抗原であるという発見に基づいている。一部の実施形態において、本開示の組成物は、CD9、CD171、SNAP25、EAAT1、OMGP、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR及びDATに特異的に結合し、検出する。他の実施形態において、本開示の組成物は、ドーパミン、セロトニン、GABA、グルタミン酸、オピオイド、オレキシン、アドレナリン、ノルアドレナリン、アセチルコリン及び/又はドーパミントランスポーターの受容体に特異的に結合し、検出する。
【0053】
一部の実施形態において、この組成物は抗体を含み、抗体は脳由来エキソソーム上で確認される抗原に特異的に結合する。本明細書で使用され、以下でさらに論じられている「抗体」という用語は、脳由来エキソソームと特異的に反応するその断片も含むことを意図している。抗体は従来の技術を使用して断片化することができ、その断片は抗体全体について上述したのと同じ方法で、有用性についてスクリーニングすることができる。例えば、F(ab)断片は、抗体をペプシンで処理することによって生成することができる。得られたF(ab)断片は、ジスルフィド架橋を還元する処理をして、Fab断片を生成することができる。抗原結合部分はまた、組換えDNA技術によって又はインタクトな抗体を酵素的切断又は化学的切断することによっても生成することができる。抗原結合部分には、特に、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、dAb及び相補性決定領域(CDR)断片、単鎖抗体(scFv)、単一ドメイン抗体、二重特異性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ダイアボディ及びポリペプチドに特異的抗原結合を付与するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含むポリペプチドが含まれる。ある特定の実施形態において、抗体は、それに結合され検出可能な標識をさらに含む(例えば、標識は、放射性同位体、蛍光化合物、酵素又は酵素補因子であり得る)。
【0054】
ある特定の実施形態において、本開示の抗体はモノクローナル抗体であり、またある特定の実施形態において、本開示は、本開示の脳由来エキソソームに特異的に結合する新規抗体を生成するための方法を利用可能にする。例えば、脳由来エキソソームに特異的に結合するモノクローナル抗体を生成する方法は、検出可能な免疫応答を刺激するのに有効な量の脳由来エキソソーム又はその断片を含む免疫原性組成物をマウスに投与すること、マウスから抗体産生細胞(例えば、脾臓からの細胞)を得て、抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させて抗体産生ハイブリドーマを得ること、抗体産生ハイブリドーマを試験して、脳由来エキソソームに特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定することを含み得る。ハイブリドーマが得られると、細胞培養で、任意選択的にハイブリドーマ由来細胞が脳由来エキソソームに特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する培養条件下で、増殖させることができる。モノクローナル抗体は、細胞培養物から精製することができる。
【0055】
抗体に関して使用される場合の「と特異的に反応する」という用語は、当技術分野において一般的に理解されているように、抗体が目的の抗原(例えば、脳由来エキソソーム)と目的ではない他の抗原との間で十分に選択的であることを意味することを意図する。治療用途などの抗体を用いるある特定の方法において、結合におけるより高度な特異性が望まれる場合がある。モノクローナル抗体は、一般的に、(ポリクローナル抗体と比較して)所望の抗原と、交差反応するポリペプチドとの間で効果的に識別する、より強い傾向を有する。抗体:抗原相互作用の特異性に影響する特性の1つは、抗原に対する抗体の親和性である。所望の特異性は、様々な親和性で達成され得るが、一般的に、好ましい抗体は、約10-6、10-7、10-8、10-9以下の親和性(解離定数)を有する。
【0056】
抗体は、例えば、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソームを含む、本開示のエキソソームのエピトープに特異的に結合するように生成することができる。一部の実施形態において、ニューロン由来エキソソームは、シナプス前ドーパミン作動性ニューロン由来エキソソーム又はシナプス後ドーパミン作動性、セロトニン作動性、GABA作動性、グルタミン酸作動性及びオピオイドニューロン由来のエキソソームである。
【0057】
さらに、望ましい抗体を同定するために抗体のスクリーニングに使用される技術は、得られる抗体の特性に影響を与え得る。様々な異なる技術が、特に望ましい抗体を同定するために抗体と抗原の間の相互作用を試験するのに利用可能である。そのような技術には、ELISA、表面プラズモン共鳴結合アッセイ(例えば、Biacore結合アッセイ、Biacore AB、Uppsala、Sweden)、サンドイッチアッセイ(例えば、IGEN International,Inc.の常磁性ビーズシステム、Gaithersburg、Md.)、ウェスタンブロット、免疫沈降アッセイ、免疫細胞化学及び免疫組織化学が含まれる。
【0058】
一部の実施形態において、本開示は、手術を受ける対象における脳損傷を予防及び/又は処置するために使用される組成物に関する。本明細書の他の箇所で詳述するように、本開示は、CD171、CD9、CD61、CD81、SNAP25、EAAT1、OMG、DR1、SR2A、SR2C、GABAB1、GluR-1、KOR、OR及びDATが脳由来エキソソームの特定の亜集団の細胞表面マーカーであるという発見に基づいている。
【0059】
したがって、一実施形態において、本開示は、手術中又は手術後に脳由来エキソソームの亜集団を検出及び/又は定量するのに有用な組成物を提供する。
【0060】
処置の方法
本開示の組成物及び方法はまた、手術中の脳への損傷を予防、最小化又は処置するのに有用である。本開示は、手術中の脳への損傷を予防、最小化又は処置するための方法であって、(i)手術を受ける又は受けた患者から生体試料を得ること、(ii)試料を抗体と接触させ、脳由来エキソソームと抗体の間の結合を検出することによって、脳由来エキソソームが試料中に存在するかどうかを検出すること、及び(iii)有効量の化合物を投与して脳への損傷を予防、最小化又は処置することを含む、方法を提供する。一部の実施形態において、生体試料は、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される。他の実施形態において、この化合物は、抗炎症化合物、抗酸化ストレス化合物、フリーラジカルスカベンジャー(例えばエダラボン)、並びに神経細胞増殖及び生存因子化合物からなる群から選択される。さらに他の実施形態において、この化合物は、手術前、手術中、又は手術後に投与される。さらに他の実施形態において、この化合物は、脳由来エキソソームが試料中に検出された場合に投与される。一部の実施形態において、この化合物は、対照と比較して試料中の脳由来エキソソームが増加又は減少している場合に投与される。他の実施形態において、エキソソームは、ニューロン由来エキソソーム、アストロサイト由来エキソソーム、オリゴデンドロサイト由来エキソソーム及びミクログリア由来エキソソームからなる群から選択される。さらに他の実施形態において、生体試料は、全血、血清、血漿、尿、間質液、腹膜液、子宮頸部スワブ、涙液、唾液、頬スワブ、皮膚、脳組織及び脳脊髄液からなる群から選択される。
【0061】
一部の実施形態において、神経保護剤が本開示の方法において使用される。本開示の方法において使用することができる神経保護剤は、Panahiら(2018)Journal of Pharmacopuncture;21(4):226~240頁に記載されている。一部の実施形態において、神経保護化合物は、グルタミン酸遮断薬(例えば、ポリギニンR18、NA-1)、スタチン(例えばアトルバスタチン)、ホルモン(例えばメラトニン)、造血成長因子(例えばエリスロポエチン)、フリーラジカルスカベンジャー(例えばテンポール)、免疫抑制剤(例えばシクロスポリンA)、粘液溶解剤(例えばNAC)、ベータ-アドレナリン受容体遮断薬(例えばカルベジロール)、COX-2阻害剤(例えばセレコキシブ)及び/又は生薬(例えばクルクミン)である。
【0062】
キット
本開示の別の態様は、手術を受ける又は受けた対象における脳損傷を検出又は測定するためのキットを包含する。異なる構成要素を有する様々なキットが本開示によって企図されている。一般的に言えば、キットは、対象から得られた生体試料中の1つ以上の脳由来エキソソームを定量するための手段を含む。別の実施形態において、キットは、生体試料を採取するための手段、生体試料中の1つ以上の脳由来エキソソームを定量するための手段及びキット内容の使用説明書を含む。ある特定の実施形態において、キットは、生体試料中の脳由来エキソソームを濃縮又は単離するための手段を含む。さらなる態様において、エキソソームを濃縮又は単離するための手段は、生体試料から脳由来エキソソームを濃縮又は単離するために必要な試薬を含む。ある特定の態様において、キットは、脳由来エキソソーム又は特定の種類の脳由来エキソソーム(例えば神経由来エキソソーム)の量を定量するための手段を含む。さらなる態様において、脳由来エキソソームの量を定量するための手段は、脳由来エキソソームの量を検出するために必要な試薬を含む。
【0063】
本開示のこれら及び他の実施形態は、本明細書の開示を考慮すれば当業者には容易に想起されよう。
【実施例
【0064】
本開示は、本開示を単に例示することを意図する、以下の実施例を参照することによってさらに理解されよう。これらの実施例は、特許請求の範囲の記載の開示を単に説明するために提供される。本開示は、例示された実施形態によって範囲が限定されるものではなく、これらは、本開示の単一の態様の例示としてのみ意図されている。機能的に同等であるすべての方法は、本開示の範囲内である。本明細書に記載のものに加えて、本開示の様々な改変は、前述の説明から当業者には明らかとなろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲内に含まれるものとする。
【0065】
[実施例1]
心臓手術を受けた対象の生体試料からの脳由来エキソソームの単離及び定量
脳由来エキソソーム(BDE)は、以下のように、心臓手術を受けた対象の生体試料から単離及び定量した。経カテーテル大動脈弁移植(TAVI)を受けた対象47名、及び全動脈血行再建術(TAR)を受けた対象18名が、日本の国立循環器病研究センター(NCCC)で施設内審査委員会(IRB)が承認された後、この研究で募集された。EDTA血液が手術前及び手術後に同日に採取され、続いて1日目、2日目、5日目に採取され、血漿を分離して-80℃の冷凍庫で凍結した。これらの試料は、ニューロン由来エキソソーム(NDE)分析のため、ドライアイスパッケージに入れて研究室に送られた。
【0066】
例示的なアッセイの原理を図1に示す。血漿試料(5μLを緩衝液で希釈し最終容量40μLにした)を、ニューロンに対する抗体(CD171=L1CAM)が予め固定化された酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)ウェルにアプライした。CD171+生体分子が捕捉された後、未結合物質が十分な洗浄ステップによって除去され、続いてビオチン化抗CD9抗体との反応が行われた。次に、CD171+CD9+の二重陽性生体分子(ニューロン由来エキソソーム、NDE)を、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン及びビオチン-チラミド増幅を用いた化学発光ELISAによって検出した。エキソソームは粘着性があり、IgGに非特異的に結合するので、血漿試料を、対照マウスIgGが固定化されているELISAウェルにもアプライした。CD9反応については、このような非特異的反応を排除するため、過剰量の対照マウスIgGが含まれていた。抗CD171及びCD9は両方ともマウスモノクローナル抗体であったため、マウスIgGを対照として使用した。
【0067】
手術前、手術後、及び1~5日目の試料中のNDEを単一のELISAプレートで分析し、各ELISA読み取り値(相対発光量(RLU))を手術前値のRLUで割ることにより、手術後の変化(変化%)を算出した。複数のELISAプレートからのデータを統合するため、標準血漿対照試料の同等希釈を100単位/mlとして割り当て、各ELISAプレートで使用し、RLUをU/mLに変換した。
【0068】
図2Aに示すように、CD171+CD9+二重陽性値(NDE)の複製変動は、r=0.9966と小さかった。IgGへの非特異的結合(図2B、x軸)は、NDE値(図2B、y軸)と比較して非常に小さかった。したがって、その後の研究では、NDE値はIgGなしで分析された。
【0069】
図3に示すように、手術前試料中のNDEの血漿レベルは、TAVI群とTAR群の間で差異はなかった。
【0070】
図4Aに示すように、41名のTAVI対象についての手術後NDE値は安定しており、200%未満であったが、6名の対象は200%を超える増加を示した(12.5%)。反対に、16名のTAR対象は200%を超える増加を示し(88.9%)、2名の対象しか200%を超える増加は示さなかった(図4B)。その増加は、TAVIよりもTARの方が実質的に高く、4名のTAR対象は1000%(10倍)を超える増加を示した(図4B)。興味深いことに、TAVIとTARの両方でのそのような増加は一過性であり、徐々に低減した。しかし、5日目後でも、38名のTAVI対象中の5名(13.2%)と、17名のTAR対象中の13名(76.5%)が200%を超える増加を依然として示した。
【0071】
これらの結果から、NDEの血漿レベルがTAVI及びTARの術後の対象において有意に増加することが示された。この結果は、本開示の方法及び組成物を使用して、手術後の対象からの試料中の脳由来エキソソームを定量及び検出することができることを証明した。これらの結果はさらに、本開示の方法及び組成物が、手術に伴う脳損傷の測定に有用であることを示唆した。これらの結果はまた、本開示の組成物及び方法が、手術を受ける対象における脳損傷の予防及び/又は処置に有用であることを示唆した。
【0072】
[実施例2]
末梢血中の脳由来エキソソーム測定による術後せん妄の予測
以下のように、心臓手術を受けた対象の生体試料から脳由来エキソソーム(BDE)を単離及び定量し、術後せん妄を予測した。血漿試料は、それぞれ、低侵襲性経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)(n=30)及び侵襲性開胸手術の全大動脈弁置換術(TAR)(n=29)の対象から手術前に採取した。各患者は、せん妄を観察するために少なくとも5日間、経過観察された。研究の最初のセットでは、PODを示さなかった11名のTAR対象と、PODを発症した7名のTAR対象からの手術前、手術後、手術後1、2、及び5日目(対象につき5時点)を分析した。その後の研究において、すべての対象(TAVIが30名及びTARが29名)からの手術前血漿試料を分析した。
【0073】
標準及びアッセイ対照に使用したEDTA血漿試料は、3つの異なる販売元から購入した(Innovative Research,Novi,MI,BioIVT,Westbury,NY及びEquitech Enterprise,Kerrville,TX)。ヒトCD171(Thermo Fisher Scientific,WalthamMA)、EAAT1(興奮性アミノ酸トランスポーター1)(Abeam,Waltham,MA)、MOG(ミエリン・オリゴデンドロサイト糖タンパク質)(Thermo Fisher)、CD9(ビオチン化、BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ)及び対照マウスIgG(Equitech)に対する抗体、酵素結合抗体免疫吸着検定法(ELISA)(Sigma Aldrich,St Louis MO)用の96ウェルプレート、ELISAコーティング緩衝液(BioLegend,San Diego,CA)及びELISA用各種試薬(Thermo Fisher Scientific)もまた、指定の供給業者から購入した。
【0074】
抗CD171、抗EAAT1及び抗MOGをELISAウェルに固定した。血漿試料を血漿希釈剤で最終体積40μLに希釈し、次いでELISAウェルにアプライし、室温で1時間インキュベートした。PBSで十分な洗浄ステップを行った後、各ウェルを、0.8%ウシ血清アルブミン、40μg/mLマウスIgGを補充したビオチン化プローブと反応させ、反応をさらに1時間続けた。各ウェルをPBSで2回洗浄した後、各ウェルを、10%BSA及び30%ブロッカーカゼインを補充したポリ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ストレプトアビジンの1/4,000希釈液と反応させ、インキュベートを20分間継続した。洗浄ステップの後、各ウェルを、PBS:水(1:1)溶液で希釈した0.0006%過酸化水素(CVS Pharmacy,Irvine,CA)と5分間インキュベートし、非特異的に結合したHRPコンジュゲートを除去した。過酸化水素の吸引後、各ウェルを、1/3希釈した化学発光基質(Super Signal)と4分間混合し、次いで相対発光量(RLU)をルミノメーター(Active GLO,ANSH Labs,Webster,TX)により決定した。100単位/mL(U/mL)に任意に割り当てた標準血漿を使用し、RLUのELISA測定値を4パラメーターのロジスティック式によってU/mLに変換した。
【0075】
NDEの血漿中レベルは対象の間で広く分布しており、そのような分布はODEにおいても見られた(図5A図5B図5G図5G、y軸は対数スケール)。NDE、ADE、ODEの変化(Δlog)を計算した場合(図5C図5F及び図5I)、NDE及びODEの血漿レベルはTAR手術後に大幅に増加したが、ADEでは増加せず、このようなNDE及びODEの増加は、POD対象において非POD対象よりも有意に高かった。各患者からのデータを分析した場合(図5A図5B図5D図5E図5G及び図5H)、NDE及びODEの術後レベルは、POD(-)群とPOD(+)群の間でかなり似ていたが、一方、術前値は、対象の数が限られていたため統計的有意性は確認されなかったものの、POD(-)患者群と比較してPOD(+)の患者群においてわずかに低かった。
【0076】
その後の研究において、本発明者らはNDE、ADE及びODEの術前値に注目し、TAR対象(n=29)の数を増やし、TAVI対象(n=30)を含めた。TAR対象の約半数(n=13)がPODを発症したが、TAVIでは2名の対象のみがPODを示した。図6A図6Cに示すように、NDE(図6A)及びODE(図6C)の術前値は、POD(-)よりもPOD(+)の対象で低かった。しかし、NDE/ADE、ODE/NDE及びODE/ADEの割合を計算した後、分散は解消された(図7A図7C、Y軸は等分目盛)。POD(-)対象と(+)対象を組み合わせた場合、TAVI群とTAR群は、それぞれ同様のNDE/ADE、ODE/NDE、ODE/ADEを示した(図7A図7C)。しかし、TAR群において、NDE/ADE(図7A)及びODE/ADE(図7C)は、POD(-)対象よりもPOD(+)対象で有意に低かった(NDE/ADEについてはp=0.0016、ODE/ADEについてはp=0.001)。これらの結果から、手術前のNDE/ADE及びODE/ADEのレベルが低い対象は、PODを発症する可能性が高く、受診者動作特性(ROC)分析による曲線下面積(AUC)は81%を超えることが示された(図7D図7E)。このような低NDE/ADE及びODE/ADE対象は、低侵襲性TAVRを用いた場合、PODを誘発しなかった。
【0077】
これらの結果からは、NDE及びODEの血漿レベルがTAR手術後の対象においては有意に増加することが示された。POD(+)対象におけるNDE及びODEは、POD(-)対象よりも有意に高かった(図5A図5I)。この結果から、本開示の方法及び組成物を使用して、手術後の対象からの試料中の脳由来エキソソームを定量及び検出することができることが証明された。これらの結果はまた、本開示の方法及び組成物が術後せん妄を予測するのに有用であることも明らかにした。これらの結果はさらに、本開示の方法及び組成物が、手術に伴う脳損傷の測定に有用であることを示唆した。これらの結果はまた、本開示の組成物及び方法が、手術を受ける対象における脳損傷の予防及び/又は処置に有用であることを示唆した。
【0078】
[実施例3]
ニューロンマーカーCD171とエキソソームマーカーCD9の間の血漿ベースイムノアッセイを使用した脳損傷後のモニタリング
ニューロンマーカーCD171とエキソソームマーカーCD9の間の血漿ベースイムノアッセイを使用した脳損傷後のモニタリングは、以下のようにして実施した。
【0079】
ヒトCD171(IgG2a、Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)及びCD81(BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ)、対照マウスIgG2a(BioLegend,San Diego,CA)及び正常マウスIgG(Equitech-Bio,Kerrville,TX)に対するマウスモノクローナル抗体をELISAコーティング緩衝液(BioLegend)で希釈し、50μLを高容量の白色8ウェルストリップ(Coming #3923,Sigma Aldrich,St Louis MO)にアプライした。700rpmで一定に振盪しながら1時間インキュベートした後(インキュベーション中は常に振盪を加えた)、各ウェルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Thermo Fisher)で1回洗浄し、未希釈のブロッカーカゼイン(Thermo Fisher)とさらに1時間インキュベートした。
【0080】
血漿試料を血漿希釈液で最終容量40μLに希釈し、次いで、適切な抗体及び対照IgGを予め固定化したELISAウェルにアプライした。ELISAウェルを室温で1時間インキュベートした。PBSを用いた十分な洗浄ステップの後、各ウェルを、0.8%ウシ血清アルブミン(BSA、Thermo Fisher)、40μg/mLマウスIgG(Equitech-Bio)を補充したビオチン化プローブと反応させ、反応をさらに1時間続けた。捕捉したエキソソームをインタクトな状態で維持するため、手順の間のいかなる時点でもtween-20は使用しなかった。ビオチン化は、EZ link Sulfo-NHS-LC-Biotin(Thermo Fisher)を使用して、販売者のプロトコルに従って実施し、その後スピンカラムにより遊離ビオチンを除去した。各ウェルをPBSで2回洗浄した後、各ウェルを、10%BSA(Equitech-Bio)及び30%ブロッカーカゼイン(Thermo Fisher)を補充した1/4,000希釈のポリ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ストレプトアビジン(Thermo Fisher)と反応させ、インキュベーションを20分間続けた。洗浄ステップの後、各ウェルを、PBS:水(1:1)溶液で希釈した0.0006%過酸化水素(CVS pharmacy,Irvine,CA)で5分間インキュベートし、非特異的に結合したHRPコンジュゲートを除去した。過酸化水素の吸引後、各ウェルを、1/3希釈の化学発光基質(Super Signal Thermo Fisher)と4分間混合し、次いで、相対発光量(RLU)をルミノメーター(Active GLO,ANSH Labs,Webster,TX)で測定した。100単位/mL(U/mL)に任意に割り当てた標準血漿を使用し、RLUのELISA測定値を4パラメーターのロジスティック式によりU/mLに変換した。
【0081】
エキソソームを捕捉し洗浄した後、各ELISAの底をパンチャーにより動かし、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(PBS)、pH7.4(Sigma Aldrich)中の2%グルタルアルデヒドに懸濁した。導電性染色については、ウェルの底を0.1MのPBS中の1%タンニン酸(Nacalai Tesque、Kyoto,Japan)で1時間処理し、緩衝液で1時間すすぎ、0.1M PBS中の1%四酸化オスミウム(OsO4)に1時間浸漬した。次いで、試験片を段階的エタノール系列で脱水し、t-ブチルアルコールに移し、凍結乾燥機(ID-2;Eiko Co.,Tokyo,Japan)で乾燥させた。続いて、乾燥させた試験片をアルミニウムベース上に取り付け、イオン・スパッターコーター(El 030;Hitachi,Tokyo,Japan)で白金パラジウムによりコーティングした。最後に、試験片を、加速電圧5kVの電界放射型走査電子顕微鏡(S4100;Hitachi,Tokyo,Japan)で観察した。
【0082】
本発明者らは、最初に、[CD171CD9]が不可逆的ではなく、pH2.5~2.0の酸性溶液で洗浄することにより解離することを確認した。本発明者らはまた、ELISAウェルと同じ表面特性を有する適切な常磁性ビーズ(PM-50、Spherotech,Lake Forest,IL)を発見し、ELISA用に開発された手順を常磁性ビーズに即座にアプライすることができるようにした。常磁性ビーズの性能を検証した後、血漿試料を常磁性ビーズにアプライした。次いで、捕捉されたエキソソームをpH2.5溶液により溶出し、直ちに適量の1M Tris、pH8.0を添加することによって中和した。高解像度粒度分布及び濃度分析は、Particle Technology Labs(Downers Grove,IL)でNanoSight NS300を使用して実施した。
【0083】
対照EDTA-血漿試料は、3つの異なる販売元(Innovative Research,Novi,MI、BioIVT,Westbury,NY及びEquitech Enterprise,Kerrville,TX)から購入した。EDTA血漿は治験審査委員会の承認に従って採取され、同意を各参加者から得た。高校生選手及び成人サッカー選手からの血漿試料がインディアナ大学から収集され、大学ラグビー選手の試料は慶応大学(Japan)から収集された。TARを受けた対象からの血漿試料は、国立循環器病研究センター(Japan)にて5つの時点(術前、術後、術後1、2、5日目)で収集した。すべての血漿試料は凍結され、分析まで-80℃の冷凍庫で保存された。
【0084】
ELISA検証。捕捉抗体の特異性:ヒトCD171に対するマウスモノクローナル抗体(IgG2a)、対照マウスIgG及び対照マウスIgG2aをELISAウェルに固定した。3つの異なる対照ヒト血漿及び希釈液のみを所定のウェルにアプライし、抗ヒトCD9プローブを使用してELISAを実施した。図8Aに示すように、3つの血漿すべてが抗CD171固定化ウェル上で、対照マウスIgG及びアイソタイプ対照マウスIgGウェルよりも高いCD9シグナルを示した。血漿#3はIgG2a対照ウェルで限定的なシグナルを示したが、抗CD171のレベルは、IgG2aのレベルよりもはるかに高かった。#3の血漿は、IgGの非特異的結合の問題並びに異なるドナーからの血漿の変動を強調する良い例である。
【0085】
プローブ特異性:3つの対照血漿及び緩衝液のみを、マウスIgG又は抗CD171を固定したELISAウェルにアプライし、マウスIgG、マウスIgG2b、又は抗ヒトCD9(マウスモノクローナルIgG2b)のビオチン化プローブと反応させた。図8Bに示すように、3つの血漿試料はすべて、抗CD171固定化ウェルでは高い抗CD9シグナルを示したが、対照ウェル、対照プローブ及び緩衝液対照からのシグナルは最小であり、CD9特異性が示された。
【0086】
エキソソーム特異性I:エキソソームの減少。血漿試料を、抗CD81又は対照マウスIgG固定化常磁性ビーズとそれぞれ1時間インキュベートし、エキソソームを除去した。ビーズを磁気分離によって除去し、上清血漿試料を、抗CD171、抗CD81及び対照マウスIgGを予め固定化した3つの異なるELISAウェルにアプライした。十分に洗浄した後、ウェルをビオチン化抗CD9と反応させ、サンドイッチELISAを完了した。図8Cに示すように、抗CD81処理血漿(w/、濃い灰色のカラム)中の[CD81+CD9+]エキソソームは、対照IgG処理血漿(w/o、薄い灰色のカラム)と比較して約50%減少しており、エキソソームの約半分がこの手順によって除去されたことを示唆している。[CD171+CD9+]エキソソームは、エキソソーム減少処理によって同程度まで減少し、[CD171+CD9+]がエキソソームであることが示唆された。
【0087】
エキソソーム特異性II:スパイクエキソソーム。エキソソームを、ExoQuick(System Biosciences,Palo Alto,CA)の手順を使用して対照血漿から調製し、PBSに懸濁した。3つの異なる希釈エキソソーム及びPBSを血漿又は血漿希釈液に添加し、[CD171+CD9+]を測定した。図8D(□)に示すように、調製したエキソソームは用量依存的に[CD171+CD9+]を示した。血漿試料へのエキソソームの添加もまた、エキソソームのみの場合と同様の傾きで、用量依存的に[CD171+CD9+]を増加させた(●)。これらのデータは、[CD171+CD9+]がエキソソーム依存性であることを示唆している。
【0088】
血漿希釈試験:図8Eに示すように、3つの異なる血漿中の[CD171+CD9+]は、抗CD171固定化ウェル(黒塗り;●▲■)では血漿容量依存的に直線的な増加を示しが、試料が対照マウスIgG固定化ELISAウェル(白抜き記号;
【0089】
【化1】
)にアプライされた場合にはシグナルは非常に低いままであった。これらのデータは、アッセイの特異性だけでなく、各試料のELISAデータの結果を標準血漿の希釈曲線を使用してU/mLに変換できることを裏付けている。
【0090】
アッセイの再現性:アッセイは、常に複製で実施し、図8Fに示すように、アッセイ内の複製の変動(n=134対象)は極めて小さく、アッセイ間(n=8実行)の変動(図8G)は、1回目の測定から90~158%の変動のままであった。
【0091】
エキソソームの確認。SEM:SEMは平らな表面が必要であるので、本発明者らは、各ELISAウェルの底を、表面を傷つけることなく慎重に除いた。本発明者らは、抗CD171(図9A図9B)を使用したNDE及び抗CD81を使用したパンエキソソーム(図9C図9D)の2つの異なるエキソソームをそれぞれ捕捉剤として試験した。SEM画像は、明確な表面特性を持つエキソソームの視覚化を示した。いずれも球状であって、100~200nmの同様の大きさであった。NDEは、パンエキソソームよりわずかに小さかった。図9A図9Dは、各パネルにおいて単一の典型的なエキソソームを示しているが、多くの同様の図も確認された。
【0092】
NTA:血漿試料を抗CD171及び対照マウスIgG固定化常磁性ビーズにアプライした。捕捉されたエキソソームを低pH2.5溶液で溶出し、中和した後、方法に記載されているようにNTAにアプライした。図9Eに示すように、抗CD171固定化常磁性ビーズからの溶出溶液は、SEMのサイズに等しい150~300nmの粒子を示したが、対照IgG固定化ビーズからの溶液はそのような粒子を示さなかった。抗CD171もまた、380、500、580及び720nm付近に小さなピークを示したが、これは試料中に大きな分子/凝集体が存在することを示唆している。
【0093】
対照値の範囲。本発明者らは、10代から80代以上の幅広い年齢層の様々な提供源から血漿試料を採取した(合計192名の対象)。これらの試料は、3つの異なる市販の供給源から、また米国及び日本の両国の異なる学術協同研究者から採取された。すべての性別及び民族情報が含まれていた。驚いたことに、[CD171CD9]は個人間で広く分散しており、その分散はほぼ2~3対数幅であった(図10)。しかし、その変動はランダムではなく、各年齢群において対数スケールで正規分布を示していた。興味深いことに、このレベルは加齢によって有意に低下した(図10)。
【0094】
[CD171CD9]のレベルのモニタリング
【0095】
対照:[CD171CD9]は個体間で大幅に異なっていたが(図10)、高校のクロスカントリー選手(非コンタクトスポーツ、n=9)の7月~11月においては同一個体内で値が安定しており、大きな変動を示した1名の個体を除いて、7月に得られた値から+/-50%以内におさまっていた(図11A)。これは、アッセイが途中で実質的に改善されていたにもかかわらず、本発明者らの以前の刊行物(7)で報告された結果と同様であった。
【0096】
コンタクトスポーツ選手:高校アメリカンフットボール選手(n=22)もまた、7月から11月まで安定していた(図11B)。脳震盪を起こした高校生選手は、今シーズン中いなかった。成人サッカー選手(n=19)もまた、練習2時間後にわずかな増加が見られたが、集中的なヘディング練習後の3日間、非常に安定していた(図11C)。
【0097】
これらの結果から、脳由来エキソソームの血漿レベルは、TAR手術後の対象において有意に増加していることが明らかであった。POD(+)対象における脳由来エキソソームは、POD(-)対象よりも有意に高かった。この結果からは、本開示の方法及び組成物を使用して、手術後の対象からの試料中の脳由来エキソソームを定量及び検出することができることが証明された。これらの結果はまた、本開示の方法及び組成物が、術後せん妄を予測するのに有用であることも明らかにした。これらの結果はさらに、本開示の方法及び組成物が、手術に伴う脳損傷を測定するのに有用であり得ることを示唆した。これらの結果はまた、本開示の組成物及び方法が、手術を受ける対象における脳損傷を予防及び/又は処置するのに有用であり得ることを示唆した。
【0098】
本明細書に示し説明したものに加えて、本開示の様々な改変は、前述の説明から当業者には明らかである。そのような改変は、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0099】
本明細書で引用したすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2A-2B】
図3
図4A-4B】
図5A-5I】
図6A-6C】
図7A-7E】
図8A-8B】
図8C-8D】
図8E-8G】
図9A-9E】
図10
図11A-11C】
【国際調査報告】