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特表2024-505700中枢神経系への低疎水性の生物活性薬に対して化学的にカップリングされたトランスポーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-07
(54)【発明の名称】中枢神経系への低疎水性の生物活性薬に対して化学的にカップリングされたトランスポーター
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/55 20170101AFI20240131BHJP
   A61K 31/65 20060101ALI20240131BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240131BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240131BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20240131BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240131BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240131BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
A61K47/55
A61K31/65
A61P25/28
A61P21/00
A61P25/14
A61P25/16
A61P35/00
A61P31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547606
(86)(22)【出願日】2022-02-02
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 IB2022050920
(87)【国際公開番号】W WO2022167954
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】63/145,190
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523297170
【氏名又は名称】スカイバイオ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】SKYBIO LLC
【住所又は居所原語表記】66 West Flagler St., 12th Floor Miami, Florida 33130, United States of America
(71)【出願人】
【識別番号】521469450
【氏名又は名称】コンセジョ ナシオナル デ インヴェスティガシオネス シエンティフィカス イ テクニカス(コニセット)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO NACIONAL DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS Y TECNICAS(CONICET)
【住所又は居所原語表記】Godoy Cruz 2290 Piso 10,C1425FQB Ciudad Autonoma de Buenos Aires,Argentina
(71)【出願人】
【識別番号】523297181
【氏名又は名称】ウニベルシダッド ナシオナル デ トゥクマン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD NACIONAL DE TUCUMAN
【住所又は居所原語表記】Ayacucho 491 San Miguel de Tucuman, Tucuman 4000, Argentina
(71)【出願人】
【識別番号】521469449
【氏名又は名称】ウニベルシダッド デ ブエノス アイレス
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE BUENOS AIRES
【住所又は居所原語表記】Viamonte 430,1053 Ciudad Autonoma de Buenos Aires,Argentina
(71)【出願人】
【識別番号】523297192
【氏名又は名称】システマ プロヴィンシアル デ サルード デ トゥクマン
【氏名又は名称原語表記】SISTEMA PROVINCIAL DE SALUD DE TUCUMAN
【住所又は居所原語表記】25 de Mayo 90, San Miguel de Tucuman, Tucuman, Argentina
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレラ,オスカー ホセ
(72)【発明者】
【氏名】チェイン,ロサナ ニヴェス
(72)【発明者】
【氏名】アヴィラ,セザー ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ソシアス,セルジオ ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】プロパー,ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラ ピンギトーレ,エステバン
(72)【発明者】
【氏名】チャベス,アナリア シルヴィナ
(72)【発明者】
【氏名】ルオン,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】マンザノ,ヴェロニカ エレナ
(72)【発明者】
【氏名】トマス グラウ,ロドリゴ ヘルナン
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス リザラガ,マリア フロレンシア
(72)【発明者】
【氏名】コレンデル,アドリアナ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ペルニコネ,アグスティン オズヴァルド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC01
4C076CC27
4C076CC32
4C076CC41
4C076EE59
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA29
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA16
4C086ZB26
4C086ZB35
(57)【要約】
本開示は、一般式XZXによって定義されるリンカーを通して神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子と共有結合的にカップリングされた修飾テトラサイクリン誘導体を含む化合物、具体的には、修飾テトラサイクリン誘導体が化学修飾ドキシサイクリン誘導体であり、かつ神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子がドーパミンである化合物を提供する。本開示はまた、かかる化合物を調製するためのプロセス、ならびに該化合物を投与することを含む神経変性疾患を処置するための方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子と一般式XZXによって定義されるリンカーを通して共有結合的にカップリングされた修飾テトラサイクリン誘導体を含む、化合物。
【請求項2】
修飾テトラサイクリン誘導体が、式(I):
【化1】
式中
R1は、H、CH2NHR、CH2NRR、およびCORから選択される;
R2は、H、OH、およびOCORから選択される;
R3は、HおよびClから選択される;
R4は、HおよびOHから選択される;ならびに
各Rは、独立して、H、アルキル、ベンジル、アリール、およびアリルから選択される、
によって定義される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
修飾テトラサイクリン誘導体が、化学修飾ドキシサイクリン誘導体である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
修飾テトラサイクリン誘導体が、化合物D5:
【化2】
である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子が、神経保護剤、抗生物質、抗真菌薬、抗新生物薬、または抗炎症薬である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子が、ドーパミンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
リンカーが、以下:
X(-CH2-)nX、式中各Xは、独立して、COおよびCH2から選択され、およびnは、0から16まで及ぶ;
XCH2CH2SSCH2CH2X、式中各Xは、独立して、OCOおよびHNCOから選択される;
【化3】
式中Xは、COである;ならびに
【化4】
式中Xは、COであり、およびRは、アミノ酸置換基である、
からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
リンカーが、式X(-CH2-)nX、式中各Xは、独立して、COおよびCH2から選択され、ならびにnは、0から3まで及ぶ、によって定義される、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
リンカーが、式X(-CH2-)nX、式中Xは、COであり、およびnは、2である、によって定義される、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
化合物が、化合物Pegasusであって、以下の式:
【化5】
によって定義される、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
請求項1に記載の化合物および1以上の薬学的に許容し得る賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項12】
神経変性疾患を処置するための方法であって、治療的に有効な量の請求項1に記載の化合物を、これを必要とする対象へ投与することを含む、前記方法。
【請求項13】
神経変性疾患が、シヌクレイン病である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
神経変性疾患が、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、神経軸索ジストロフィー、およびレビー小体が扁桃体に限局されたアルツハイマー病(AD/ALB)からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
神経変性疾患が、PDである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
神経変性疾患が、標準的なアルツハイマー病(AD)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脳腫瘍、脳の感染性疾患からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
神経変性疾患の処置のための医薬を製造するための、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項18】
神経変性疾患が、シヌクレイン病である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
神経変性疾患が、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、神経軸索ジストロフィー、およびレビー小体が扁桃体に限局されたアルツハイマー病(AD/ALB)からなる群から選択される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
神経変性疾患が、PDである、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
神経変性疾患が、標準的なアルツハイマー病(AD)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脳腫瘍、脳の感染性疾患からなる群から選択される、請求項17に記載の使用。
【請求項22】
神経変性疾患の処置における使用のための、請求項1に記載の化合物。
【請求項23】
神経変性疾患が、シヌクレイン病である、請求項22に記載の使用のための化合物。
【請求項24】
神経変性疾患が、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、神経軸索ジストロフィー、およびレビー小体が扁桃体に限局されたアルツハイマー病(AD/ALB)からなる群から選択される、請求項23に記載の使用のための化合物。
【請求項25】
神経変性疾患が、PDである、請求項24に記載の使用のための化合物。
【請求項26】
神経変性疾患が、標準的なアルツハイマー病(AD)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脳腫瘍、脳の感染性疾患からなる群から選択される、請求項22に記載の使用のための化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、一般に、薬物の担体として有用な、化学的にカップリングされた化合物に関する。より具体的には、本発明は、神経変性疾患の処置のためのかかる化合物を指す。具体的に言うと、本発明は、リンカーを通して、神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子と共有結合的にカップリングされた修飾テトラサイクリン誘導体を含む化合物を指す。さらにより具体的に言うと、本明細書に開示の薬物担体化合物は、in vitroでの神経変性疾患の、とりわけパーキンソン病(PD)の実験モデルにおいて、有用かつ効率的であることが証明されている。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
神経変性疾患は、中枢神経系または末梢神経系のニューロンの選択的に脆弱な集団の進行性喪失によって特徴付けられる、多様な(heterogeneous)一群の障害である。神経変性疾患を患う主なリスク因子が加齢(age)であるところ、ヒト集団における寿命の増大によって、これらの病は、先進国全体にわたる医療制度(health care systems)にとって重大な課題となっている。事実上、アルツハイマー病のみに実施された体系的な研究によると、US単独で770万人が罹患しており、この数は2050年までに1350万まで上昇すると推計されている。加えて、UKにおける認知症ケアに対する実際の支出は、がん、心臓疾患、および脳卒中を合せた費用にほぼ匹敵する。これは、近い将来における医療制度の破綻を避けるために、有効な神経保護治療を緊急に必要としていることを浮き彫りにする。
【0003】
種々の神経変性障害には、臨床症状に差異が見られるものの、細胞下レベルにおいて多くの共通点があり、タンパク質アミロイドの凝集(Stefani M, Dobson CM. Protein aggregation and aggregate toxicity: new insights into protein folding, misfolding diseases and biological evolution. J Mol Med. 2003;81(11):678-99; Murphy RM. Peptide aggregation in neurodegenerative disease. Annu Rev Biomed Eng. 2002;4:155-74; Duda JE, Lee VM, Trojanowski JQ. Neuropathology of synuclein aggregates. J Neurosci Res. 2000;61(2):121-7)、神経炎症(A, Gallea JI, Sarroukh R, Celej MS, Ruysschaert JM, Raussens V. Amyloid fibrils are the molecular trigger of inflammation in Parkinson's disease. Biochem J. 2015;471(3):323-33. doi: 10.1042/BJ20150617)、酸化ストレス(Pukass K, Richter-Landsberg C. Oxidative stress promotes uptake, accumulation, and oligomerization of extracellular alpha-synuclein in oligodendrocytes. J Mol Neurosci. 2014;52(3):339-52. doi: 10.1007/s12031-013-0154-x; Bieschke J, Zhang Q, Powers ET, Lerner RA, Kelly JW. Oxidative metabolites accelerate Alzheimer's amyloidogenesis by a two-step mechanism, eliminating the requirement for nucleation. Biochemistry. 2005;44(13):4977-83)、およびミトコンドリア機能障害(Nakamura K. alpha-Synuclein and mitochondria: partners in crime? Neurotherapeutics. 2013;10(3):391-9. doi: 10.1007/s13311-013-0182-9; Hsu LJ, Sagara Y, Arroyo A, Rockenstein E, Sisk A, Mallory M, et al. alpha-synuclein promotes mitochondrial deficit and oxidative stress. Am J Pathol. 2000;157(2):401-10. Epub 2000/08/10. doi: 10.1016/s0002-9440(10)64553-1)、およびリソソームの調節異常(Wallings RL, Humble SW, Ward ME, Wade-Martins R. Lysosomal Dysfunction at the Centre of Parkinson's Disease and Frontotemporal Dementia/Amyotrophic Lateral Sclerosis. Trends Neurosci. 2019 Dec;42(12):899-912. doi: 10.1016/j.tins.2019.10.002. Epub 2019 Nov 5. PMID: 31704179; PMCID: PMC6931156)が挙げられる。
【0004】
理想的な処置は、否応なく進行するこれら疾患の臨床経過を変える一次的方法として、根本的な疾患の発症原因を直接標的にするはずである。特定のタンパク質の凝集は、共通する分子の特徴のみならず、おそらく、これに続く神経炎症、酸化ストレス、リソソームの調節異常、およびミトコンドリア機能障害の引き金にもなることが幅広く認められている。さらにまた、これらすべての事象は、神経毒性の正のフィードバックループで繋がっているようである。したがって、正常でないタンパク質凝集の阻害は、アミロイド関連疾患のための治療の主な標的であるはずである。残念ながら、研究および創薬に多大な投資がなされているにもかかわらず、今日まですべての試みが失敗に終わっている。
【0005】
有望な化合物が、in vitroでまたは動物モデルにおいてタンパク質凝集を止めるまたは戻す能力を実証しているものの、残念ながら、これらのほとんどが臨床試験において失敗した。その上、臨床試験登録データベースにおいて神経保護薬(neuroprotective)として目下記載されている、第3相に達するほとんどの薬物は主に、正常でないタンパク質凝集プロセスを阻害する代わりに、神経伝達物質の放出調節または代謝を目的としている(https://clinicaltrials.gov/)。したがって、利用可能なアプローチは、根治より一時しのぎである。
【0006】
神経変性疾患を処置する治療的アプローチはしばしば、ニューロンへの薬物標的化を妨げる血液脳関門(BBB)の保護特質に起因して限定されている。BBBは、循環血液と中枢神経系(CNS)との間の有機的な関門として作用し、ホメオスタシス、分子およびイオンの移動、流入および流出の輸送調節を制御し、ならびに有害物質が脳中へ浸透するのを防止する保護カバーとして作用する。この複雑な関門はまた、CNSへの治療薬の全身送達も制御かつ限定する。選択透過性の高いBBBは、脳障害を処置する薬物を血液循環を介して送達するための最大の障壁を構成する。
【0007】
神経変性疾患の群に属するものとして、以下が言及されることもある: アルツハイマー病(AD)および他の認知症、パーキンソン病(PD)およびPDに関する障害、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、ハンチントン病(HD)、脊髄小脳失調症(SCA)、脊髄性筋萎縮症(SMA)。
【0008】
上に言及されたもののうち、PDは神経変性障害の中で2番目に多く、世界的に7百万~1千万人が罹患しており、運動症状および中脳ドーパミン作動性ニューロンの進行性喪失によって特徴付けられる(Collaborators GPsD. Global, regional, and national burden of Parkinson's disease, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. Lancet Neurol. 2018;17(11):939-53. Epub 2018/10/01. doi: 10.1016/S1474-4422(18)30295-3; Fereshtehnejad SM, Zeighami Y, Dagher A, Postuma RB. Clinical criteria for subtyping Parkinson's disease: biomarkers and longitudinal progression. Brain. 2017;140(7):1959-76. doi: 10.1093/brain/awx118)。レボドパおよびドーパミンのアゴニストなどの、PDに対する利用可能な薬理学的介入は、運動症状を回復させる。しかしながら、これらの処置によって、それら効き目は経時的に喪失され、有害な副作用が引き起こされる(Picconi B, Hernandez LF, Obeso JA, Calabresi P. Motor complications in Parkinson's disease: Striatal molecular and electrophysiological mechanisms of dyskinesias. Mov Disord. 2018;33(6):867-76. Epub 2017/12/08. doi: 10.1002/mds.27261)。これに関連して、疾患の進行を予防または遅延させるために疾患修飾治療を開発する必要不可欠なニーズがある。
【0009】
PDにおける神経変性の分子基盤が未だ議論の的になっているが、その病的状態の開始および播種におけるα-シヌクレイン(AS)アミロイド凝集の中心的役割は明確なようである(Spillantinimg, Schmidtml, Lee VM, Trojanowski JQ, Jakes R, Goedert M. Alpha-synuclein in Lewy bodies. Nature. 1997;388(6645):839-40. Epub 1997/08/28. doi: 10.1038/42166; Araki K, Yagi N, Aoyama K, Choong CJ, Hayakawa H, Fujimura H, et al. Parkinson's disease is a type of amyloidosis featuring accumulation of amyloid fibrils of alpha-synuclein. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019;116(36):17963-9. Epub 2019/08/21. doi: 10.1073/pnas.1906124116)。オリゴマーAS種は、カルシウム流入に付随する膜透過性の変化(Danzer KM, Haasen D, Karow AR, Moussaud S, Habeck M, Giese A, et al. Different species of alpha-synuclein oligomers induce calcium influx and seeding. J Neurosci. 2007;27(34):9220-32. doi: 10.1523/JNEUROSCI.2617-07.2007)、ミトコンドリア損傷(Hsu LJ et al.)、リソソーム漏出(Nishino K, Hsu FF, Turk J, Cromie MJ, Wosten MM, Groisman EA. Identification of the lipopolysaccharide modifications controlled by the Salmonella PmrA/PmrB system mediating resistance to Fe(III) and Al(III). Mol Microbiol. 2006;61(3):645-54.)、微小管破壊(Alim MA, Ma QL, Takeda K, Aizawa T, Matsubara M, Nakamura M, et al. Demonstration of a role for alpha-synuclein as a functional microtubule-associated protein. J Alzheimers Dis. 2004;6(4):435-42; discussion 43-9. Epub 2004/09/04)、および軸索輸送の妨害(Scott DA, Tabarean I, Tang Y, Cartier A, Masliah E, Roy S. A pathologic cascade leading to synaptic dysfunction in alpha-synuclein-induced neurodegeneration. J Neurosci. 2010;30(24):8083-95. Epub 2010/06/18. doi: 10.1523/JNEUROSCI.1091-10.2010)などの種々の機序によって毒性効果を惹起することが示されている。他方、原線維種は、主に炎症プロセスの引き金を引くことによって(Dos-Santos-Pereira M, Acuna L, Hamadat S, Rocca J, Gonzalez-Lizarraga F, Chehin R, et al. Microglial glutamate release evoked by α-synuclein aggregates is prevented by dopamine. Glia. 2018;66(11):2353-65)ではあるが、それら自体の増殖を触媒すること (Bousset L, Pieri L, Ruiz-Arlandis G, Gath J, Jensen PH, Habenstein B, et al. Structural and functional characterization of 2つのalpha-synuclein strains. Nat Commun. 2013;4:2575. doi: 10.1038/ncomms3575)、タンパク質恒常性ネットワークを不安定化させること(Morimoto RI, Driessen AJ, Hegde RS, Langer T. The life of proteins: the good, the mostly good and the ugly. Nat Struct Mol Biol. 2011;18(1):1-4. doi: 10.1038/nsmb0111-1)、および細胞質ゾルのオルガネラの完全性に影響を及ぼすこと(Flavin WP, Bousset L, Green ZC, Chu Y, Skarpathiotis S, Chaney MJ, et al. Endocytic vesicle rupture is a conserved mechanism of cellular invasion by amyloid proteins. Acta Neuropathol. 2017;134(4):629-53. Epub 2017/05/19. doi: 10.1007/s00401-017-1722-x)によってもまた、神経毒性を誘導する。酸化ストレスおよび炎症促進性サイトカインもまた、ASの毒性凝集を促進することを考慮すると(Pukass K et al.)、これらすべてのプロセスは、ニューロンの死、これに続く、隣接する健常ニューロンへの毒性種の拡散をもたらす悪循環を集約することが示唆される(Gonzalez-Lizarraga F, Socias SB, Avila CL, Torres-Bugeau CM, Barbosa LR, Binolfi A, et al. Repurposing doxycycline for synucleinopathies: remodelling of alpha-synuclein oligomers towards non-toxic parallel beta-sheet structured species. Sci Rep. 2017;7:41755. Epub 2017/02/06. doi: 10.1038/srep41755)。よって、PDにおける神経変性の経過を効率的に修正するために、理想的な薬物は、AS凝集を妨害、毒性種の生成を停止、前もって形成された毒性凝集体を解体、および神経炎症プロセスを阻害することが可能であるはずである。加えて、かかる多標的化合物はまた、中枢神経系を標的にする薬の医薬開発においてしばしば無視することのできない(essential)障害物であるBBBの通過能も保有するはずである。ドーパミンそのものの投与によって、この神経伝達物質の欠如は補うことができるが、この分子は、極性が高すぎるためBBBを通過できない。この理由から、1960年以来、最も有効でありかつ広く普及したドーパミン補充治療は、その前駆体であるレボドパ(L-DopaまたはL-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)の送達である(LeWitt PA. Levodopa therapy for Parkinson's disease: Pharmacokinetics and pharmacodynamics. Mov Disord. 2015;30(1):64-72. Epub 2014/12/03. doi: 10.1002/mds.26082)。このアミノ酸は、大型アミノ酸トランスポーターLAT-1を使用してBBBをわずかに通過できるだけで、一旦CNSに入ると脱炭酸されてドーパミンになる。ドーパミンが、今日まで報告されているトランスポーターを何ら有さず、極性が高すぎる化合物であるため脂質に溶けず、BBBを通して拡散できないことに留意することは重要である。
【0010】
1975年に、カルビドパまたはベンセラジドなどの末梢デカルボキシラーゼインヒビターがL-Dopa製剤へ加えられ始め、CNSへ到達するのに必要なL-Dopa用量が低減した(Rinne UK, Birket-Smith E, Dupont E, Hansen E, Hyyppae M, Marttila R, et al. Levodopa alone and in combination with a peripheral decarboxylase inhibitor benserazide (Madopar) in the treatment of Parkinson's disease: A controlled clinical trial. J Neurol. 1975;211(1):1-9. doi: 10.1007/BF00312459)。これらの製剤は、吐き気および嘔吐などの重要な副作用を制御することができた。しかしながら、カルビドパと組み合わせたL-Dopaの持続的な使用によって、運動障害、うつ病、起立性低血圧症、眠気、精神病、および増大した危険行動などの新しい副作用がもたらされた(Hinz M, Stein A, Cole T. Parkinson's disease: carbidopa, nausea, and dyskinesia. Clin Pharmacol. 2014;6:189-94. Epub 2014/12/09. doi: 10.2147/CPAA.S72234)。今日までのところ、CNSの黒質線条体経路におけるドーパミン欠如を緩和するのに承認された利用可能な投与モードは他にはない。
【0011】
治療剤のCNSへの送達は、以下のカテゴリーに分類され得る:
1- 非構造化系:
ドーパミンをCNSへ供給する従来のやり方は、レボドパ+カルビドパまたはベンセラジドを含む製剤を通してのものである。しかしながら、L-Dopa+カルビドパの持続的な使用に由来する副作用がいくつかある。その病因論および弊害の研究によって、カルビドパは、身体全体を通してビタミンB6との不可逆的結合およびその不活化を引き起こすことから、該副作用を担う薬物であることが実証された。それが酵素およびタンパク質の300を超える機能を妨害するので、甚大な影響を受けることになる(Hinz M et al.)。加えて、幻覚および妄想の出現を包含する思考の変化は、中脳辺縁系または中脳皮質系におけるドーパミンの放出に関連する(Rinne UK et al.)。
【0012】
ドーパミンアゴニスト(DA)は、主に若年患者にとってレボドパの有効な代替であり、5年後の運動合併症のより低い発生率に関連する。これらは、その疾患の初期段階における単剤治療と、PDが進行した患者におけるレボドパとの併用治療との両方において有用である。麦角誘導体は、最初は利用可能なDAであったが、それらの使用は目下、心臓弁膜線維症(cardiac valvular fibrosis)のリスクに起因して制限されている。
【0013】
今日では、非麦角DAの使用がほとんどである。これらは、経口的に(プラミペキソールおよびロピニロール)、経皮的に(ロチゴチン)、または皮下に(アポモルヒネ)投与され得る。近年、経口用の持続的放出するものとして発表されたもの(presentations)が市場に導入され、その薬物の1日1回の投与が可能になった。しかしながら、新しいDAも、重篤な弊害からは免れない(Reichmann H, Bilsing A, Ehret R, Greulich W, Schulz JB, Schwartz A, et al. Ergoline and non-ergoline derivatives in the treatment of Parkinson's disease. J Neurol. 2006;253 Suppl 4:IV36-8. doi: 10.1007/s00415-006-4009-z)。
【0014】
2- ナノ構造化系:
薬物をCNSへ輸送する種々の組成および構造のナノ粒子が研究されている。一般に、これらの粒子は、2nmと100nmとの間のサイズで変動するコロイド状の固体である。これらの系のいずれも、まだ登録も商業段階(commercial phase)にも達しておらず、これらのうち以下のものを言及することができる:
- デンドリマーは、ポリアミド(PAMAM)、ポリプロピル-1-アミン(DAB-dendr-NH2)、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアルカン、ポリフェニレン、ポリフェニルアセチレン等々からのポリマー種の樹枝状3次元ポリマーである。薬物はデンドリマー内にカプセル化されていてもよく、またはその表面へ共有結合的に結合されていてもよい。デンドリマーは、受容体媒介エンドサイトーシスを通してBBBに浸透する。デンドリマー中の薬物のカプセル化は、極めて有望なストラテジーではあるが、長期臨床使用に関する安全性の問題に対処するための、その吸着、分布、代謝、および排出に関するデンドリマー毒物動態学の系統的評価がない。
【0015】
本発明者らの知る限り、デンドリマー中の、ドーパミンまたは細胞死を阻害もしくは停止することが可能な他の神経保護的分子のカプセル化に関し、今日まで文献の開示はない(Zhu Y, Liu C, Pang Z. Dendrimer-Based Drug Delivery Systems for Brain Targeting. Biomolecules. 2019;9(12). Epub 2019/11/27. doi: 10.3390/biom9120790)。デンドリマーは、極めて低いカプセル化効率を有し、黒質線条体経路などの特定の領域において蓄積することは知られていない。
【0016】
- 量子ドットは、トランスフェリン受容体媒介エンドサイトーシスによってBBBを通過する蛍光半導体ナノ粒子である。これらは、金属コアおよび有機カバーから構成されている。それらの輝度、光安定性、修正可能なサイズ、および狭い放射スペクトルによって、これらナノ系は画期的技術に発展する。高感度かつ選択的なドーパミン検出を包含するCNSの様々な用途が記載されている(Zhao D, Song H, Hao L, Liu X, Zhang L, Lv Y. Luminescent ZnO quantum dots for sensitive and selective detection of dopamine. Talanta. 2013;107:133-9. Epub 2013/01/11. doi: 10.1016/j.talanta.2013.01.006)。しかしながら、本発明者らの知る限り、これらのナノ粒子のドーパミン用担体機能は、今日まで何ら報告されていない。その上、長期処置に対してそれらは固有の毒性を現わし、それらの生体適合性は十分に研究されていない。それらの現在の使用は、主に診断に焦点が当たっている。
【0017】
- リポソームは、一般に脂質二重層によって形成されたナノ粒子の一種であって、その内部に親水性の核があり、そこに薬物がカプセル化されている。リポソームは、受容体媒介トランスサイトーシスを通してBBBを通過することが可能である。一旦CNSの内部に入ると、それらを取り囲む膜が破壊され、その内容物が放出される。リポソームの半減期は限定的であるが、その表面がポリエチレングリコール(PEG)で被覆されているとき増加する。脂質二重層は、その中にカプセル化された薬物の加水分解および酸化的分解を防止するのに役立つ。
【0018】
リポソームは、アポモルヒネ(ドーパミンアゴニスト)をカプセル化するために使用されており、CNS内の薬物分布を上手く改善している。また、あるグループは近年、ドーパミンを標的にするための、リポソームをベースとした脳への送達系も研究し、マウスにおける標準的なレボドパ投与との比較において、有効ドーパミン用量を低減させた(Kahana et al. Liposome-based targeting of dopamine to the brain: a novel approach for the treatment of Parkinson's disease. Mol Psychiatry. 2020 May 5. doi: 10.1038/s41380-020-0742-4)。
【0019】
しかしながら、不利な点として、リポソームは、乏しい安定性、低いカプセル化効率、細網内皮系による迅速な排除、細胞との相互作用または吸着、および高い産生費用を有する。
【0020】
- ミセルは、サイズが5~100nmのコロイド粒子であって、2つの部分から構成される: 疎水性の内側および親水性の外側。BBBを通したミセルの浸透は、受容体媒介トランスサイトーシスによって達成される。しかしながら、これらは、あまり安定しておらず、酸化的プロセスに対して極度に感受性があり、CNSへ物質を輸送するそれらの効率が限定されている。
【0021】
今日まで、ドーパミンまたは他の神経保護物質のミセル中のカプセル化に関する研究活動はない。
【0022】
- カーボンナノチューブは、炭素の同素形態から成っており、前記形態は、それら自身に巻き付けられ同心円形に配置された1枚または数枚のシートのグラフェンからなり、サイズが1~50nmの円柱を形成し、特有の電気的特性、機械的特性、および熱的特性を有する。カーボンナノチューブは、BBB中へ挿入され、薬物の放出を可能にさせる。BBBを通るカーボンナノチューブの浸透は主に、受容体媒介エンドサイトーシスによって実施されるが、拡散および食作用などの他の機序もまた実行可能である。これらのナノ構造体は市販されているものの、これらは、金属触媒およびアモルファス炭素でひどく汚染されており、それによって(炎症に起因する)毒性がもたらされ、肉芽腫の形成、生体適合性の問題へ繋がり、ヒトの健康と環境との両方が危険にさらされる。
【0023】
本発明者らが知る限り、ドーパミンまたは他の神経保護物質のカーボンナノチューブ中のカプセル化に関し、今日までそのような研究活動はない。
【0024】
- ポリマーナノ粒子は、1~1000nmの間の広範なサイズを有する。薬物は、これらのナノ粒子と、これらをそれらの表面へ結合し続けさせる吸着または共有結合によって結び付けられ得る。それらは主に、それらの良好な安定性によって特徴付けられる。それらのBBB中への浸透は、受容体媒介エンドサイトーシスを通して生じる。Estevesらは、これらナノ粒子のレチノイン酸との投与が、ドーパミン作動性ニューロンに対する神経保護効果を生み出すことを実証した(Esteves M, Cristovaio AC, Saraiva T, Rocha SM, Baltazar G, Ferreira L, et al. Retinoic acid-loaded polymeric nanoparticles induce neuroprotection in a mouse model for Parkinson's disease. Front Aging Neurosci. 2015;7:20. Epub 2015/03/06. doi: 10.3389/fnagi.2015.00020)。このタイプのナノ粒子を使用する利点の1つは、それらの化学が周知であって、それらの毒性に関する情報が大いにあることである。
【0025】
今日まで、ドーパミンまたはドーパミンアゴニストのポリマーナノ粒子中のカプセル化に関する研究は公開されていない。
【0026】
- 固体脂質ナノ粒子は、サイズが100nmから400nmまで及ぶナノ粒子の一種であり、および室温と体温との両方にて固体状態のままである脂質から構成されるマトリックスである。これらは生分解性であり、生体適合性があり、低い毒性を有する。これらは拡散によってBBBを通過する。Espositoらは、これらのナノ粒子中にドーパミンアゴニストであるブロモクリプチンをカプセル化した(Esposito E, Mariani P, Ravani L, Contado C, Volta M, Bido S, et al. Nanoparticulate lipid dispersions for bromocriptine delivery: characterization and in vivo study. Eur J Pharm Biopharm. 2012;80(2):306-14. Epub 2011/11/09. doi: 10.1016/j.ejpb.2011.10.015)。この経鼻投与された製剤は、マウスのPD実験モデルにおいて硬直の好転を示した。
【0027】
他方、Tsaiらは、ドーパミン受容体アゴニスト(DA)であるアポモルヒネを固体脂質ナノ粒子中に製剤化し、動物モデルにおいて経口のバイオアベイラビリティおよび脳の局部分布を上手く増大させた(Tsai MJ, Huang YB, Wu PC, Fu YS, Kao YR, Fang JY, et al. Oral apomorphine delivery from solid lipid nanoparticles with different monostearate emulsifiers: pharmacokinetic and behavioral evaluations. J Pharm Sci. 2011;100(2):547-57. Epub 2010/08/27. doi: 10.1002/jps.22285)。Kondrashevaらは、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(polyacid (lactic-co-glycolic))であるPLGAと固体脂質ナノ粒子からなるL-DOPA用の新しい担体を設計し、これは経鼻投与されたとき、運動機能の長期にわたる回復を提供し、薬物の効き目を改善する(I.G. Kondrasheva, P.E. Gambaryan, E.S. Severin, A.A. Guseva, A.A. Kamensky. The application of L-DOPA-containing polymeric nanoparticles provides motor function recovery in 6-OHDA-indused Parkinson's disease model. Journal of the Neurological Sciences. 2013, Volume 333, Supplement 1, Page e97. https://doi.org/10.1016/j.jns.2013.07.608)。
【0028】
ドーパミンの固体脂質ナノ粒子中のカプセル化に関する研究が近年公開された(Ortega et al. Lipid nanoparticles for the transport of drugs like dopamine through the blood-brain barrier. Beilstein Archives. 2020, 202079. https://doi.org/10.3762/bxiv.2020.79.v1; Tapeinos et al. Advances in the design of solid lipid nanoparticles and nanostructured lipid carriers for targeting brain diseases. J Control Release. 2017 October 28; 264: 306-332. doi:10.1016/j.jconrel.2017.08.033)。この系の不利な点は、ベシクルがゼラチン化する傾向が強いことと、薬物の組み込み効率が低いこととにある。さらにまた、純粋な脂質入手可能性と調製物に要される保存度合いとによって、この系をスケールアップして、永続的かつ長期的な処置の提供を保証することが実行不能になる。
【0029】
CNSでのそれらの意図した標的へ向かう親水性の薬物を、BBBを通して移行させるための、安定した、安価の、信頼できる輸送方法を開発するニーズが依然としてある。
【発明の概要】
【0030】
本発明の概要
第1の側面に従うと、本発明は、リンカーを通して、神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子と共有結合的にカップリングされた修飾テトラサイクリン誘導体を含む新しい化合物を提供する。
本発明の第2の側面は、本発明の化合物および1以上の薬学的に許容し得る賦形剤を含む医薬組成物を提供することである。
【0031】
本発明の第3の側面は、神経変性疾患を処置するための方法を提供することであって、前記方法は、治療的に有効な量の本発明の化合物を、これを必要とする対象へ投与することを含む。
本発明の第4の側面は、神経変性疾患の処置のための医薬の製造のための、本発明に従う化合物の使用を提供することである。
本発明の第5の側面は、本発明に従う化合物を調製するための方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図面の簡単な記載
以下の図は本明細書の一部を形成し、本発明のある側面をさらに説明することが意図されている。
図1図1.本発明の化合物の1つの代表的な略図であって、生物学的特性およびXlogP値をその各構成要素について、個別におよびカップリングされた構造内に指し示す。
図2図2.ASアミロイド凝集に対するPegasus(D9)の効果。70μM ASを単独で含有するかまたはこれにD9を10μMおよび50μM加え、37℃ 600rpmにて0hおよび120hインキュベートされた溶液中の25μMチオフラビンTの蛍光放射強度。70μM ASおよびドキシサイクリン50μM(DOX)を含有する溶液は、内部対照として包含されるものであった。
【0033】
図3図3.神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞において細胞毒性に対するPegasus(D9)の効果を示すMTTアッセイ。
図4図4.ミクログリアBv2細胞株において細胞毒性に対するPegasus(D9)の効果を示すMTTアッセイ。
図5図5.SH-SY5Y細胞においてα-シヌクレイン原線維(ASf)によって誘導される細胞内の活性酸素種に対するPegasus(D9)の効果を決定するためのCellRoxアッセイ。
【0034】
図6図6.炎症促進性サイトカインIL-1βアッセイ。LPSで刺激されたミクログリア細胞において、IL-1βの放出に対するPegasus(D9)の効果をin vitroで研究した。
図7図7.HEK293TシトクロムC-tGFP細胞株におけるアポトーシスアッセイ。HEK293/シトクロムC-tGFP細胞株における200μMのPegasus(D9)との24hのインキュベーション後のシトクロムC-tGFPの共焦点顕微鏡像。
図8図8.SH-SY5Y細胞におけるリソソーム活性に対するPegasus(D9)の効果。200μMのPegasus(D9)での24h処置後の局在化およびリソソーム数を示す共焦点顕微鏡像。
【0035】
図9図9.Pegasus(D9)によるD1ドーパミン受容体の活性化。HEK_cAMPNmd_DRD1細胞株における用量応答曲線。細胞を、新たな(Fresh)ドーパミン(菱形)、試験(Test)ドーパミン(円形)、Pegasus(D9)(四角形)、またはD5(三角形)で24時間処置した。データ点は、三通りに実施した1回の実験の各条件につき平均値±SDを表す。
図10図10.Pegasus(D9)によるD2ドーパミン受容体の活性化。U2OS_cAMPNmd_DRD2細胞株における用量応答曲線。細胞を、新たなドーパミン(菱形)、試験ドーパミン(円形)、Pegasus(D9)(四角形)、またはD5(三角形)で24時間処置した。データ点は、三通りに実施した1回の実験の各条件につき平均値±SDを表す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の詳細な記載
本発明は、リンカーを介して、神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子と共有結合的にカップリングされたテトラサイクリン誘導体上に実行された構造上の修飾に基づく、新しい化合物を指す。
【0037】
本明細書に開示の化合物は、生物活性物質にとって、中枢神経系中への担体またはトランスポーターとして有用である。本発明者らは、この薬物担体化合物がBBBを通過し得、かつそれ自体がパーキンソン病(PD)などの神経変性疾患の治療において有用であることを見出している。
【0038】
本明細書に開示のカップリング系の概念証明(POC)を、輸送されるべき分子としてドーパミンを使用して実行した。しかしながら、いずれの当業者も解するとおり、本発明は、神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性のいずれの生物活性分子にも適用されてもよい。これまで本明細書に言及されたとおり、ドーパミンは、PDなどの神経変性病的状態にあるCNS中へ導入される必要があるが、その極性によってその脳への接近が限定されている。本明細書に記載の化学的カップリング手順を適用した後、その結果得られたトランスポーター分子は、遊離ドーパミンのXlogPを実質的に増大させ、BBBに透過する適正な値に達した。トランスポーターは、AS凝集体に対する結合親和性を維持し、ドキシサイクリンに特徴的であって、黒質線条体領域へ指向する可能性があり、、これによって、これらの凝集体が見出される神経変性プロセスの影響を受ける領域においてin vivoで生物蓄積が生成され得る。
【0039】
本発明の化合物の代表的な略図は図1に示されるが、これは生物学的特性およびXlogP値をその各構成要素について、個別におよびカップリングされた構造内に指し示す。
本明細書に開示の化学的にカップリングされたトランスポーターは、置換と神経保護治療との両方を同時に発揮することが可能な部位特異的(site-directed)薬物担体の新しい概念を表す。
【0040】
この意味において、本発明は、言及された臨床条件で目下利用可能な治療の欠点に対処する新規化合物を用いて、神経変性疾患、とりわけPDの処置のための新しい代替手段を提供する。
【0041】
本発明の化合物の産生のための合成スキームを設計するとき、本発明者らは、その抗生物質活性などの不要な効果の阻害を包含するテトラサイクリンの修飾と、輸送されるべき分子を容易にカップリングする官能化可能な(functionalizable)リンカーの添加とを考慮した。抱合された本発明の化合物の設計は、その2分子を、それらの化学構造体を正しく保持するリンカーによって結び合わされることを可能にする。
【0042】
それに応じて、リンカーを通して、神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子と共有結合的にカップリングされた修飾テトラサイクリン誘導体を含む新しい化合物を提供することが、本発明の目的である。
【0043】
本発明の範囲内において、用語「修飾テトラサイクリン誘導体」は、テトラサイクリンと構造的に関係がある化学化合物を指し、式(I):
【化1】
式中
R1は、H、CH2NHR、CH2NRR、およびCORから選択される;
R2は、H、OH、およびOCORから選択される;
R3は、HおよびClから選択される;
R4は、HおよびOHから選択される;ならびに
各Rは、独立して、H、アルキル、ベンジル、アリール、およびアリルから選択される、
で表される。
【0044】
本発明の好ましい態様において、テトラサイクリン誘導体は、化学修飾ドキシサイクリン誘導体である。「化学修飾ドキシサイクリン誘導体」とは、本記載が、当該技術分野において知られている抗生物質であるドキシサイクリンと構造的に関係がある化合物を指す。
【0045】
最も好ましくは、テトラサイクリン誘導体は、式中R1がHであり、R2がOHであり、R3がHであり、およびR4がHである、本発明者らによってD5またはDOXI-5と命名された化合物であって、以下の式:
【化2】
によって定義されるとおりである。
【0046】
本発明の範囲内において、用語「リンカー」は、カップリングされる2つの構造体を連結する特性を有する小さい部分を指し、その中で二官能性の接続要素として作用する。
【0047】
本発明の化合物内に含まれるリンカーは、一般式XZXによって定義される。本発明の具体的な態様において、リンカーは、以下:
X(-CH2-)nX、式中各Xは、独立して、COおよびCH2から選択され、およびnは、0から16まで及ぶ;
XCH2CH2SSCH2CH2X、式中各Xは、独立して、OCOおよびHNCOから選択される;
【化3】
式中Xは、COである;ならびに
【化4】
式中Xは、COであり、およびRは、アミノ酸置換基である、
からなる群から選択される。
【0048】
好ましい態様において、リンカーは、式X(-CH2-)nX、式中nは、0から3まで及ぶ、によって定義される。殊更好ましい態様において、リンカーは、式X(-CH2-)nX、式中Xは、COであり、およびnは、2である、によって定義される。
【0049】
本発明の範囲内において、用語「神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子」は、対象へ投与した際、CNSレベルにて生物学的活性を呈する親水性の化学化合物を指し、前記化学化合物は、神経変性疾患を処置するための薬物として機能することが知られている。かかる化合物の低疎水性によってそのBBBの通過は妨げられ、これに対し化学的修飾をするかまたは正しい担体系を見出すかしなければ、CNSにてその意図した標的に到達することが防止される。
【0050】
神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子は、数ある中でも、神経保護剤(neuroprotectors)、抗生物質、抗真菌薬、抗新生物薬、抗炎症薬などの様々な薬物から選択されてもよい。
殊更好ましい態様において、神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子は、ドーパミンである。
【0051】
最も好ましい態様において、本発明の化合物は、神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子としてドーパミンを、テトラサイクリン誘導体として化合物D5を、および式X(-CH2-)nX(式中Xは、COであり、およびnは、2である)によって定義されるリンカーを含む。かかる態様において、本発明の化合物は、本発明者らがPegasusと命名した化合物であって、以下の式:
【化5】
によって定義される。
【0052】
化合物はまた、D9とも称される。よって用語「Pegasus」および「D9」は、この記載を通してずっと互換的に使用される。
【0053】
本発明の化合物Pegasusの他の利点を下に言及する:
- 前駆体は輸送しないが、生物活性物質は直接輸送する。
- BBBを通過するのに必要な物理化学的特徴を有しているから、アミノ酸トランスポーターは使用しない。
- 先験的に(a priori)デカルボキシラーゼインヒビターと組み合わせて投与される必要がなく、それに関するいずれかあり得る副作用が避けられる。
- in vitroでの実験結果において観察されるとおり、ドキシサイクリンについて報告されている神経保護効果を保持しているようである。
【0054】
本発明の態様において、本発明に従う化合物は、神経変性疾患の処置における使用が意図される。
【0055】
好ましくは、処置されるべき神経変性疾患は、シヌクレイン病である。用語「シヌクレイン病」は、CNS中のASの毒性凝集体の形成によって特徴付けられる神経変性疾患を指すものとして理解されるべきである。本発明の化合物によって処置されてもよいシヌクレイン病の例は、PD、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、神経軸索ジストロフィー、およびレビー小体が扁桃体に限局された(with amygdalar restricted Lewy bodies)アルツハイマー病(AD/ALB)である。殊更好ましい態様において、本発明に従う化合物は、PDの処置における使用が意図される。
【0056】
本発明の化合物は加えて、数ある中でも、標準的な(standard)アルツハイマー病(AD)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脳腫瘍、脳の感染性疾患(brain infectious disease)などの他の神経変性疾患の処置における使用が意図される。
【0057】
本発明の化合物は、好適な医薬組成物内へこれを包含させることによって、これを必要とする対象へ投与されることが意図される。したがって、本発明の化合物が対象へ容易に投与され得るように前記化合物および1以上の薬学的に許容し得る賦形剤を含む医薬組成物の提供が、本発明の別の側面である。
【0058】
本発明の医薬組成物は、当業者に知られている数種の形態を取ってもよい。例えば、医薬組成物は、数ある中でも、錠剤またはカプセルなどの固体経口形態であっても、経口的または非経口的に投与可能な溶液などの液体形態であってもよい。とりわけ考慮すべきは、医薬組成物用に選択される剤形、投与されるべき神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子、および処置されるべき特定の神経変性疾患に従い、薬学的に許容し得る賦形剤は当業者によって選択されてもよい。
【0059】
上に言及されたとおり、本発明に従う化合物は、神経変性疾患の処置における使用が意図される。したがって、神経変性疾患を処置するための方法を提供することが本発明のもう1つの側面であるが、前記方法は、治療的に有効な量の本発明の化合物を、これを必要とする対象へ投与することを含む。処置されるべき神経変性疾患は、シヌクレイン病であってもよく、好ましくはPD、DLB、MSA、神経軸索ジストロフィー、およびAD/ALBからなる群から選択される。代替的に、処置されるべき神経変性疾患は、標準的なアルツハイマー病(AD)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脳腫瘍、および脳の感染性疾患からなる群から選択されてもよい。
【0060】
当業者は、処置されるべき疾患および投与されるべき神経変性疾患を処置するのに有用な低疎水性の生物活性分子の観点から、対象へ投与する治療的に有効な量を確立することができるであろう。
【0061】
殊更好ましい態様において、この本発明の側面は、PDを処置するための方法に関し、前記方法は、治療的に有効な量の本発明の化合物を、これを必要とする対象へ投与することを含む。
【0062】
本発明の追加の側面は、神経変性疾患の処置のための医薬の製造のための、本発明に従う化合物の使用を提供することである。処置されるべき神経変性疾患は、シヌクレイン病であってもよく、好ましくはPD、DLB、MSA、神経軸索ジストロフィー、およびAD/ALBからなる群から選択されてもよい。代替的に、処置されるべき神経変性疾患は、標準的なアルツハイマー病(AD)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脳腫瘍、および脳の感染性疾患からなる群から選択されてもよい。
【0063】
当業者は、本発明のこの側面を、当該技術分野において知られている技法を用いて医薬を製造するために本発明の化合物を使用して実行できるであろう。
殊更好ましい態様において、この本発明の側面は、PDの処置のための医薬を製造するための本発明に従う化合物の使用に関する。
【0064】
本発明のもう1つの側面は、本発明に従う化合物Pegasusを調製するための方法を提供することである。方法は、以下のステップを含む:
i)ドキシサイクリンのC-4でのジメチルアミノ官能の除去。
ii)脱アミノ化産物のC-9でのアミノ官能の導入。
iii)ドーパミン(および誘導体)のフェノール性ヒドロキシル基のベンジルエーテルとしての選択的保護。
iv)コハク酸無水物との反応による先の産物のアミノ官能でのリンカーの導入。これによって、対応するアミド-酸が与えられる。
v)アミド-酸の酸基の、ドキシサイクリンのアミノ基との、混合無水物を介するカップリング。これによってドキシサイクリン-ドーパミン抱合体が供され、これがベンジル基の脱保護の際に所望される化合物(Pegasus)を与える。
【0065】
本特許出願内に包含されている実施例によって明らかにされているとおり、上に記載の方法は、驚くべきやり方で意図した化合物へ繋がる一方、試行された他の方法は該化合物に至るという成功はしなかった。
【0066】
ドキシサイクリン分子に対しその抗生物質活性を排除することによって好適な化学的修飾を実行する合成スキームを設計した。これによって、その分子は、微生物叢および/または環境に対して選択圧を生成させずに長期処置に使用されることが可能になる。加えて、ASの凝集種へのその結合能を妨害しない分子領域においてリンカーを加えることが必要である。テトラサイクリンの構造-機能の関係性の我々の先の知識(Socias SB, Gonzalez-Lizarraga F, Avila CL, Vera C, Acuna L, Sepulveda-Diaz JE, et al. Exploiting the therapeutic potential of ready-to-use drugs: Repurposing antibiotics against amyloid aggregation in neurodegenerative diseases. Prog Neurobiol. 2018;162:17-36. Epub 2017/12/16. doi: 10.1016/j.pneurobio.2017.12.002)に基づき、リンカーをC9にて位置付けたが、これによってドーパミン分子に対し反対端にて共有結合的に結合する架橋(bridge)として働いた。下に詳述される化学分析は、修飾/抱合手順を通してずっと両分子の構造が維持されたことを実証する。
【0067】
また、本発明者らによって使用される合成ストラテジーが、分子の重要な生物学的特性の維持を可能にさせること、およびその結果得られるXlogP(2つの不混和性溶媒の混合物中の平衡にある化合物の濃度比を指し示す分配係数(P))が、分子がBBBを通過するのに必要な疎水性を有することを示唆することを強調することも重要である。
【0068】
本発明の例において示されるであろうが、本明細書に開示される化学的にカップリングされたトランスポーターはまた、ドーパミン作動性細胞培養モデルにとって非毒性分子であることも証明しており、抗酸化活性、抗凝集活性、および抗炎症活性などの、神経学的な病的状態から保護するための有益な特性を保持している。
【0069】
本発明の化合物は、PD治療において有用であり、以下の利点を示す:
a)PDおよび他のシヌクレイン病における治療ストラテジーとして、本発明の化合物は、少なくとも2つの標的:1)分子のテトラサイクリン部分に由来するその神経保護活性を通したニューロン死のプロセス、および2)ドーパミン作動性受容体を活性化する黒質線条体系におけるドーパミンの生物蓄積、を有するであろうことから、ドーパミン欠乏症を軽減しかつ疾患進行に妨害する役目を果たす。
b)これは、神経学的な病的状態において、治療用化合物(例えば、他の手段による投与が適正でないもしくは実行不能である、化学治療用分子、抗生物質分子、抗ウイルス分子、または抗酸化分子)のCNSへの送達における効率を改善する(適正なLogPからも明らかなとおり)。実に、HIV、認知症、てんかん、神経原性疼痛、髄膜炎、および脳がんなどの障害の処置は主に、脳における薬物のより高い濃度への到達能に依存する。
【0070】
本発明の化合物の副作用は依然として臨床試験において研究される必要があるが、その分子の今後の製剤化には、本発明がSNCにたどり着くために前駆体L-dopaもアミノ酸輸送系も使用しないことから、カルビドパの存在を必要としないであろう。
【0071】

本発明を以下の例によってさらに説明するが、これら例はその範囲を限定することを意図していない。その代わり、下に記述される例は、本発明をより良好に実践する(taking into practice)ための例示の態様としてのみ理解されるはずである。
【0072】
例1 - 本発明の化合物の有機合成
本発明の化合物の産生のための合成スキームの設計を下に詳細に記載する。
本発明者らは、リンカーを用い2分子を付着させることによって、抱合された化学的実体を調製した。よって、その合成は、ASの凝集種へのテトラサイクリンの結合能を妨害しない領域内に位置付けられるスペーサーまたはリンカーを通してドーパミン誘導体へ結合されたドキシサイクリン分子に対して好適な化学的修飾を伴うものであった。化学分析によって実証されたとおり、カップリングされた両方の主分子の構造は手順を通してずっと維持された。
【0073】
1.重要中間体9-アミノ-4-デジメチルアミノドキシサイクリンD5の合成
D5の合成について、これまでに記載された手順に倣った。その手順に対し、好適な修飾を導入した(WO 2003057169として公開された国際出願; C. Berens et al. ChemBioChem 2006, 7, 1320-1324; TC Barden et al. J. Med. Chem. 1994, 37, 3205-3211)。
【0074】
採用された手順は、市販のドキシサイクリン塩酸塩(またはドキシサイクリンヒクラート(hyclate))からのドキシサイクリン遊離形態(D1)の調製を要した。これは、NaOH溶液の添加の際その塩の水溶液からD1の沈殿によって成功裏に達成された。次のステップは、D1のC-4ジメチルアミノ基の脱離であった(その骨格のC原子のナンバリングは下のスキームIに示される)。このため、D1をTHF中の過剰ヨウ化メチルで処置することで、トリメチルアンモニウム塩D2が与えられた。この化合物D2は酢酸中のZn(0)と反応して、脱アミノ化された誘導体D3が与えられた。
【0075】
スキームI
【化6】
【0076】
反応性の高い官能性(アミノ基)を四環式コア中に導入するために、D3のニトロ化を硝酸カリウムおよび硫酸で実行し、ニトロ誘導体D4が産生された。このプロセスにおいて、これまでに記載されたD4の単離および精製プロトコルを修飾し、連続的な沈殿(successive precipitations)を使用して、D4が良好な純度で得られた。次に、D4のニトロ基の水素化分解によって、誘導体9-アミノ-4-デジメチルアミノドキシサイクリンD5がもたらされた。C-9でのアミノ官能性は、この分子のドーパミンとの抱合を可能にさせるためのリンカーを導入するのに不可欠である。ニトロ化および水素化分解のステップを下のスキームIIに示す。
【0077】
スキームII
【化7】
【0078】
2.D5またはドーパミンにおけるスペーサー(リンカー)の導入および両ユニットの抱合体の形成
D5とドーパミンとの間に共有結合を得るため、本発明者らは、二官能性の結合要素(本明細書においてスペーサーまたはリンカーと称される)をこれら2つの分子間に導入した。最初に2-クロロ塩化アセチルを結合剤として使用した。下のスキームIIIに示されるとおり、この化合物をD5と反応させることで中間体6が与えられた。ドーパミンのアミノ基の攻撃による塩素原子の置換反応によって、ドキシサイクリン-ドーパミン抱合体へ繋がる。しかしながら、C-10のフェノール性OHの分子内攻撃が生じて、環状化合物8へ繋がった。
【0079】
残念ながら、様々な反応条件下での6とドーパミンとの間のカップリングの試みはすべて、不成功に終わった。
【0080】
スキームIII
【化8】
【0081】
この芳しくない結果が、Clを含有する反応中心のドキシサイクリン核との近接に起因して立体効果の影響を受けたかどうかを検証するため、鎖長がより長いハロゲン化誘導体を導入した。このため、DCCをカップリング剤として使用し、D5の5-ブロモ吉草酸との反応を実行した。予想どおりアミド誘導体D8が、下のスキームIVに示されるとおりに得られた。この誘導体D8をNMRおよびMS分光法によって特徴付けた。しかしながら、次のステップ(Brのドーパミンとの置換)でも、満足のいく結果が生み出されなかった。
【0082】
スキームIV
【化9】
【0083】
次いで合成ストラテジーを修飾してD5のコハク酸無水物との反応を行い、予想された産物(D9)が与えられた。下のスキームVを見よ。D9とドーパミンとの間のアミド形成のために様々な縮合剤(DCC、EDCI、HOBt)を使用したが、試験された数種の条件下ではカップリング産物形成は観察されなかった。
【0084】
スキームV
【化10】
【0085】
他方、コハク酸無水物リンカーをドーパミンへ加えることによって、反応順序に対する修飾を提案した。ドーパミンのアミノ基によって無水物が開くこのやり方によって、D10へ繋がった(下のスキームVIを見よ)。残念ながら、採用された様々な縮合剤の存在下での、D10のカルボン酸の、D5のアミノとの縮合によって、予想された化合物は産生されなかった。
【0086】
スキームVI
【化11】
【0087】
D5とドーパミンとの間のカップリング反応のすべての試みが不成功に終わった; これは、分子に存在する他の官能基との不要な相互作用または非選択的な反応へ繋がり得るこれら前駆体の多官能化(polyfunctionalization)に起因し得た。この理由から、合成ストラテジーを修飾して、ドーパミンのO-ベンジル化誘導体に対する反応を試行することを決め、これを下に記載の多段階手順を通して調製した。
【0088】
3.ドーパミン(および誘導体)のフェノール性ヒドロキシルのベンジルエーテルとしての保護
ドーパミンのフェノール性ヒドロキシル基は、アミノ基の反応において競合し得る求核剤(nucleophiles)である。かかるフェノール性ヒドロキシル基を不活性化するため、これらをベンジルエーテルとして保護した。この保護は、ドーパミンの極性を低減し、D5は不溶性である有機溶媒においてその可溶性を増大する(よって、精製を容易にさせる)という追加の利点を有するであろう。加えて、保護はまた、D5の官能性との強い水素結合相互作用の生成をも防止し得た。ベンジルエーテルは、触媒(Pd/C)存在下での水素化分解を経ることで、元のヒドロキシル基を再生させる。ベンジルエーテルを得るため、B. Xuらによって記載された手順(J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 9938-9939)に倣った。
【0089】
最初に、ドーパミンのアミノ基を、NaOH/ジオキサンの存在下ジ-tert-ブチルジカーボナート[(BOC)2O]との反応を通してtert-ブチルオキシカルボニル(BOC)誘導体(11)として保護した。次いで化合物11を過剰の臭化ベンジル/K2CO3で処置することで、ジ-O-ベンジルエーテル12が与えられた。12のアミノ基を、BOC-カルバマートのトリフルオロ酢酸での加水分解によって放出することで、所望されるジ-O-ベンジル化誘導体13が産生された。
【0090】
スキームVII
【化12】
【0091】
リンカーを13にて導入するため、この化合物のコハク酸無水物との反応を行うことで、アミド-酸14が成功裏に与えられた。しかしながら、EDCI/HOBtの存在下での、ならびに他のカップリング試薬との、14とD5との間のカップリング反応は不成功に終わった(下のスキームVIIIを見よ)。
【0092】
スキームVIII
【化13】
【0093】
幸運なことに、混合無水物15(単離されていない)を介する14のD5とのカップリングは、ドキシサイクリン-ドーパミン抱合体16(スキームIXを見よ)を生産したが、これはより容易に単離され、精製された。D16のベンジル基の水素化分解による除去によって、標的分子、すなわち、好ましい本発明の化合物Pegasusへ繋がった。この産物を沈殿によって単離し、メタノール:水 30:70を溶媒として使用する逆相hplcによって精製した。メタノール中で記録されたクロマトグラムは、8.4minの保持時間を有する単一ピークを呈した。
【0094】
スキームIX
【化14】
【0095】
例2 - 化合物Pegasusの最も信頼の置ける合成経路
一般実験手順
NMRスペクトルは、500MHz(1H)もしくは125.7MHz(13C)にて、または300MHz(1H)もしくは75.6MHz(13C)にて記録した。化学シフト(δ、ppm単位)は、内部標準(1Hの場合CDCl3中のMe4Si(δ:0.0)および13Cの場合CDCl3(δ:77.0))に対し、または残留溶媒ピークに対し言及した。データ多重度は、s(一重項)、d(二重項)、t(三重項)、q(四重項)、m(多重項)、br(ブロード)として指し示される; カップリング定数(J)は、ヘルツ(Hz)で与えられる。1Hおよび13C NMRスペクトルの割り当ては、2D 1H-COSYまたはNOESY、および2D 1H-13C HSQCによって補助した。高分解能質量スペクトル(HRMS)は、エレクトロスプレイイオン化(ESI)技法およびQ-TOF検出を使用して得た。分析的薄層クロマトグラフィー(TLC)は、シリカゲル60 F254アルミニウム支持プレート(層厚0.2mm)上、およびシリカゲル60 RP F254Sアルミニウム支持プレート上で実行した。スポットは、UV光への曝露によって、およびCe/Mo染色で黒焦げにすること(charring)によって視覚化した。カラムクロマトグラフィーは、シリカゲル60(230~400メッシュ)で実行した、または逆相の場合、オクタデシル官能化シリカゲルを固定相として採用した。使用されたクロマトグラフィー溶媒または段階的溶媒極性勾配は、個々の各化合物について特定する。旋光度は、室温にて1dmセル中、指し示された溶媒においてナトリウムD線にて測定した。他に断らない限り、すべての市販化合物は、さらなる精製はせず、供給者から得られたまま使用した。
【0096】
ドキシサイクリン塩酸塩からのドキシサイクリン遊離形態(D1)
【化15】
【0097】
ドキシサイクリン塩酸塩(2.0g、[α]D 20=-113.5(c1、MeOH中10mM HCL)を蒸留水(6mL)に溶解し、pH≒5へ至るまで1M水性NaOHを滴加した。この時点にて白色固体が形成された。固体を濾過し、メタノール(20mL)に溶解した。新しい白色沈殿物が現れるまで溶液を20min撹拌した。固体を濾過し乾燥させることで、ドキシサイクリン遊離形態(D1、1.3g、75%)が供された;[α]D 20=+250.7(c 1,THF),1H NMR((CD3)2CO,500MHz)δ:7.53(t,1H,J7,8=J8,9=8.1Hz,H-8),7.02(d,1H,J8,9=8.1Hz,H-9),6.82(d,1H,J7,8=8.1Hz,H-7),4.21(brt,1H,J5a,5≒J4a,5≒4.0Hz,H-5),3.59(brd,1H,J4a,4=9.6Hz,H-4),2.93(dq,1H,J6,Me=6.7,J5a,6=12.8Hz,H-6),2.74(dd,1H,J5a,5=4.0,J5a,6=12.8Hz,H-5a),2.63(dd,1H,J4a,4=9.6,J4a,5=4.0Hz,H-4a),2.53(s,6 H,N(CH3)2),1.61(d,3H,J6,Me=6.7Hz,CH3);13C NMR((CD3)2CO,125.7MHz)δ:194.7(C-1,3,11),174.9,174.5(C-12,CONH2),163.4(C-10),148.7(C-6a),137.6(C-8),117.4,116.8,116.4(C-7,9,10a),106.4(C-11a),92.0(C-2),76.0(C-12a),69.9(C-5),66.2(C-4),48.9(C-4a),48.2(C-5a),42.6(N(CH3)2),38.5(C-6),16.7(CH3)。
【0098】
この同じ手順をドキシサイクリンヒクラートへ適用することで、69%の純粋なD1が生産された。
【0099】
ドキシサイクリンヨウ化メチル塩(D2)の合成
【化16】
【0100】
乾燥THF(40mL)中のD1(2.0g、4.5mmol)の溶液へ、室温にてかつAr雰囲気下でヨウ化メチル(2.5mL、40mmol)を滴加した。反応物を45℃にて24h撹拌し、減圧下で蒸発によって溶媒を除去した。その結果得られた固体を無水CH2Cl2(15mL)で洗浄し乾燥させることで、D2(2.6g、98%)が与えられた。[α]D 20 +31.2(c 1.0,THF);1H NMR((CD3)2CO,200MHz)δ:7.55(t,1H,J7,8=J8,9=8.0Hz,H-8),6.97(d,1H,J8,9≒8.0Hz,H-7),6.86(d,1H,J7,8≒8.1Hz,H-9),5.44(s,1H,OH),3.89(brt,1H,H-5),3.69(s,9H,N(CH3)3),3.53(brd,1H,H-4),2.97-2.60(m,3H,H-4a,5a,6),1.56(d,3H,J6,Me=6.4Hz,CH3);HRMS(ESI) m/z [M]+算出C23H27N2O5 459.1762,実測459.1762。
【0101】
4-デジメチルアミノドキシサイクリンD3の合成
【化17】
【0102】
50%(v/v)水性の酢酸(30ml)中のD2(1g、1.7mmol)の溶液へ、亜鉛末(0.6g、9.2mmol)を加え、混合物を室温にて20min撹拌した。懸濁液をセライトのパッドに通して濾過した。濾過物を、濃HCl(1mL)を含有する水(100mL)で希釈し、この混合物を氷浴中1h撹拌した。形成された固体を濾過し、真空中で乾燥させた。このアモルファス固体をD3(0.48g,70%)として特徴付けた;[α]D 20 -50.8(c 1.0,アセトン);1H NMR((CD3)2CO,500MHz)δ:7.51(t,1H,J7,8=J8,9=8.0Hz,H-8),6.96(d,1H,J8,9=8.0Hz,H-9),6.84(d,1H,J7,8=8.0Hz,H-7),4.41(d,1H,J5,OH=8.5Hz,OH), 3.79(br q,1H,J4a,5=9.5,J5a,5=7.7,J5,OH=8.5Hz,H-5),3.06(dd,1H,J4a,4=5.5,J4,4'=18.6Hz,H-4),2.97(dd,1H,J4a,4'=2.9,J4,4'=18.6Hz,H-4'),2.79(m,1H,J6,Me=6.8,J5a,6=12.5Hz,H-6),2.51(dd,1H,J5a,5=7.7,J5a,6=12.5Hz,H-5a),2.47(ddd,1H,J4a,4=5.5,J4a,4'=2.9,J4a,5=9.5Hz,H-4a),1.57(d,3H,J6,Me=6.8Hz,CH3);13C NMR((CD3)2CO,125.7MHz)δ:195.9,194.6,193.2(C-1,3,11),176.0,174.9(C-12,CONH2),163.1(C-10),149.1(C-6a),137.4(C-8),116.8,116.7,116.6(C-7,9,10a),107.4(C-11a),99.7(C-2),75.7(C-12a),69.6(C-5),44.4(C-4a),47.6(C-5a),39.5(C-6),30.6(C-4),16.4(CH3);HRMS(ESI) m/z [M+Na]+算出C20H19NNaO8 424.0998,実測424.1003。
【0103】
4-デジメチルアミノ-9-ニトロドキシサイクリンD4の合成
【化18】
【0104】
D3(0.5g、1.2mmol)へ、これまで氷浴中で冷却されていた97%H2SO4(4mL)をゆっくり加えた。この溶液へ、KNO3(0.16g、1.6mmol)を加え、混合物を0℃にて2h撹拌した。反応物を冷メタノール(5mL)で希釈し、水(35mL)の添加の際に沈殿物が形成された。褐色固体を濾過して真空中で乾燥させ、次いでアセトン(4mL)に溶解した。ジクロロメタン(15mL)の添加の際に黒色沈殿物が現れた。この混合物を20min撹拌しながら活性炭で処置し、次いでセライトパッドに通して濾過した。固体を捨て、濾過物をヘキサン(70mL)でゆっくり希釈することで、黄色固体としてのD4(0.35g、65%)の沈殿を誘発した;[α]D 20 -6.5(c 1.0,アセトン);1H NMR((CD3)2CO,200MHz)δ:8.15(d,1H,J7,8=8.6Hz,H-8),7.17(d,1H,J7,8=8.6Hz,H-7),3.83(dd,1H,J4a,5=11.4,J5a,5=7.8Hz,H-5),3.00-2.91(m,3H,H-4,H-4'およびH-6),2.61(dd,1H,J5a,6=12.5,J5a,5=7.8Hz,H-5a),2.47(ddd,1H,J4a,4=5.3,J4a,4'=3.3,J4a,5=11.4Hz,H-4a),1.60(d,3H,J6,Me=6.8Hz,CH3);13C NMR((CD3)2CO,50.3MHz)δ:165.5(C-12,CONH2),155.1(C-7),137.4(C-6a),132.1(C-9),118.5,118.2(C-9,10a) 116.5(C-8),107.5(C-11a),94.6(C-2),75.6(C-12a),69.2(C-5),46.6(C-5a),44.2(C-4a),38.8(C-6),33.4(C-4),16.2(CH3);HRMS(ESI) m/z [M+Na]+算出C20H18N2NaO10 469.0854,実測469.0854。
【0105】
9-アミノ-4-デジメチルアミノドキシサイクリンD5の合成
【化19】
【0106】
0.1%濃HClを含有するメタノール(6mL)中のD4(0.2g、0.5mmol)の溶液へ、10%Pd/C(30mg)を加え、混合物を44psiでの水素で室温にて20h処置した。混合物をセライトパッドに通して濾過し、残渣をメタノールで洗浄した。濾過物および洗浄液(washing liquors)をプールして濃縮した。その結果得られた残渣をエタノール(2mL)に溶解し、酢酸エチル(30mL)を滴加した際に沈殿を誘発することで、D5(125mg、60%)がわずかに灰色の固体として供された;[α]D 20 -30.0(c 0.5,MeOH);1H NMR(CD3OD,500MHz)δ:7.61(d,1H,J7,8=8.3Hz,H-8),7.10(d,1H,J7,8=8.3Hz,H-7),3.67(dd,1H,J4a,5=10.8,J5a,5=8.0Hz,H-5),3.05(dd,1H,J4a,4=5.5,J4,4'=18.6Hz,H-4),2.92(dd,1H,J4a,4'=2.4,J4,4'=18.6Hz,H-4'),2.78(m,1H,J6,Me=6.9,J5a,6=12.4Hz,H-6),2.44(dd,1H,J5a,5=8.0,J5a,6=12.4Hz,H-5a),2.32(ddd,1H,J4a,4=5.5,J4a,4'=2.4,J4a,5=10.8Hz,H-4a),1.55(d,3H,J6,Me=6.9Hz,CH3);13C NMR(CD3OD,125.7MHz)δ:196.5,194.5 x 2(C-1,3,11),177.2,175.04(CONH2,C-12),155.8(C-10),150.4(C-6a),130.9(C-8),118.9,118.1(C-9,10a) 117.3(C-7),108.0(C-11a),99.5(C-2),76.0(C-12a),69.8(C-5),47.7(C-5a),44.9(C-4a),40.0(C-6),31.3(C-4),16.2(CH3);HRMS(ESI) m/z [M]+算出C20H21N2O8 417.1292;実測417.1295。
【0107】
9-(2-クロロアセトアミド)-4-デジメチルアミノドキシサイクリンD6の合成
【化20】
【0108】
褐色の底フラスコ中、D5(125mg、0.30mmol)を無水DMF(1.5mL)に溶解し、塩化クロロアセチル(25μL、0.3mmol)およびNaHCO3(73mg、0.90mmol)を加えた。混合物を室温にて30min撹拌し、次いで追加の量の塩化クロロアセチル(19μL、0.2mmol)およびNaHCO3(36mg、0.40mmol)を加えた。混合物を室温にて2h撹拌し、反応をDMFの蒸発によって終わらせた。メタノールの残渣への添加によって黒色沈殿物の形成へ繋がり、これを濾過して捨てた。水をメタノール溶液へ加えることで褐色固体の形成へ繋がり、これを乾燥させ、D6(54mg、36%)として同定した;1H NMR((CD3)2SO,200MHz);8.13(d,1H,J7,8=8.2Hz,H-8),6.92(d,1H,J7,8=8.3Hz,H-7),4.41(s,2H,CH2Cl),3.45(m,1H,H-5),2.95(m,2H,H-4,H-4'),2.50-2.43(m,2H,H-4a,5、DMSOと重複),1.42(d,3H,J6,Me=6.3Hz,CH3)。
【0109】
五環式誘導体D7の合成
【化21】
【0110】
マグネットバーありの丸底フラスコ中、D6(24mg、0.03mmol)を無水CH3CN(0.7mL)に溶解した。次いでドーパミン(0.03mmol)を加え、反応物を窒素でパージし、50℃にて15h撹拌した。溶媒の蒸発によって、シリカゲルTLC(EtOAc:C5H5N:H2O 9:2.5:1)に従うとかなり複雑な産物の混合物へ繋がった。水からの沈殿によって少量の固体(7mg)へ繋がり、D7として同定された産物に富んだ。夾雑物は未反応のD6であった。D7についての診断シグナル(Diagnostics signal):1H NMR((CD3)2CO,200MHz);8.45(d,1H,J7,8=8.5Hz,H-8),6.96(d,1H,J7,8=8.5Hz,H-7),4.67(d,1H,J=5.2Hz,COCH2O),4.60(d,1H,J=5.2Hz,COCH2O),3.45(m,1H,H-5),1.52(d,3H,J6,Me=6.9Hz,CH3)。4.67ppmにて観察された一重項は、HO-フェノールのハロゲン化炭素への分子内求核攻撃によって塩化物が置き換えられた環状産物の形成を示唆した。
【0111】
9-(5-ブロモペンタンアミド)-D5(D8)の合成および試みられたドーパミンとの反応
【化22】
【0112】
0℃まで冷却された無水ジクロロメタン(9mL)中の5-ブロモ吉草酸(325mg、1.8mmol)の溶液へ、無水ジクロロメタン(1.8mL)中のDCC(185mg、0.9mmol)の溶液を滴加した。反応物を0℃にて30min撹拌し、次いで-18℃(氷/塩浴)まで冷却し1h撹拌した。この後(After this time)、尿素副産物の沈殿物を濾過して捨てた。有機溶液を濃縮することで5-ブロモ吉草酸から対称な無水物が供され、これを次のステップのために取っておいた。
【0113】
別の丸底フラスコ中、D5(100mg、0.24mmol)を乾燥DMF(3.0mL)に溶解し、5-ブロモ吉草酸無水物のDMF溶液を加えながら室温にて撹拌した。重炭酸ナトリウム(0.04g、0.5mmol)を添加する際、反応混合物を3h撹拌した。逆相TLC(H2O:MeOH 1:1)による検査によって、Rf 0.31の新しいスポットの形成が示された。混合物を濾過して過剰のNaHCO3を除去し、水性濃HClでpH2まで酸性化した。溶媒を蒸発によって除去し、残渣をMeOHに溶解した。水の添加によってD8(90mg、50%)の沈殿が誘発された。
【0114】
1H NMR(CDCl3,300MHz);8.53(d,1H,J7,8=8.5Hz,H-8),6.89(d,1H,J7,8=8.5Hz,H-7),3.77(m,1H,H-5),3.45(m,3H,CH2Br),1.60(d,3H,J6,Me=5.3Hz,CH3);産物の13C NMR((CD3)2CO,125.7MHz)は、34.4、33.0、24.9、および24.2ppmにて吉草酸アミド残渣のシグナルを呈した。
HRMS(ESI) m/z [M+Na]+算出C25H28N2BrO9 579.0973、実測579.0971および581.0941(同位体のパターン 1:1)。
【0115】
化合物D6と同じように、かつ類似した条件下での、ドーパミンによるD8の臭化物の試みられた置換は不成功に終わった。
【0116】
D5のコハク酸無水物との添加による、D9の合成、およびD9のドーパミンとの試みられたカップリング
【化23】
【0117】
コハク酸無水物(81mg、1.0mmol)および重炭酸ナトリウム(0.08g、1.0mmol)を連続して加えながら、乾燥DMF(2mL)中のD5(0.2g、0.5mmol)の溶液を室温にて撹拌した。反応物を2h撹拌し、次いで逆相TLC(H2O:MeCN 7:3)による検査によってRf 0.34の新しいスポットの形成が示された。粗混合物を濾過して過剰のNaHCO3を除去し、濃HClでpH2まで酸性化した。溶媒を蒸発によって除去した。逆相カラムクロマトグラフィー(H2O:MeCN 7:3)による精製によってD9(150mg、60%)が供された;1H NMR((CD3)2CO,500MHz);8.46(d,1H,J7,8=8.3Hz,H-8),6.90(d,1H,J7,8=8.3Hz,H-7),3.79(t,1H,J4a,5=J5a,5=10.2Hz,H-5),3.05(dd,1H,J4a,4=5.5,J4,4'=18.7Hz,H-4),2.96(dd,1H,J4a,4'=3.2,J4,4'=18.7Hz,H-4'),2.81(t,2H,Jx,z=6.6Hz,H-Z),2.70(t,2H,Jx,z=6.6Hz,H-X),2.70(H-6、H-Xの下で重複),2.50-2.43(m,2H,H-4a,5),1.54(d,3H,J6,Me=6.8Hz,CH3);13C NMR((CD3)2CO,125.7MHz)δ:;195.9,194.6,193.1(C-1,3,11),176.3,174.9,174.2,171.3(CONH2,COOH,C-12,CONH),152.1(C-10), 142.6(C-6a),127.3,127.2(C-8,9),116.0,115.8(C-7,10a),107.4(C-11a),99.7(C-2),75.7(C-12a),69.6(C-5),47.8(C-5a),44.3(C-4a),39.1(C-6),32.2(C-4),16.3(CH3)。C-X、C-Zのシグナルは、NMR溶媒の信号(peal)の下にある。
【0118】
D9とドーパミン塩酸塩との間のカップリング反応は、カップリング試薬としてのEDCI/HOBtの存在下で不成功に終わった。以下の手順をカップリング反応のために採用した:D9(1eq)を乾燥DMF(2mL)に溶解し、EDCI(1eq.)およびHOBt(1eq.)を、0℃にて30分間撹拌した溶液へ加えた。溶液を室温にてもう1.5h撹拌した。次いでTEA(3eq.)およびドーパミン塩酸塩を反応混合物へ加えた。溶液を逆相TLCによって監視したが、溶液を室温にて終夜撹拌し続けたときであっても、何らの変化も観察されなかった。
【0119】
ドーパミンのコハク酸無水物とのカップリングによるD10の合成
【化24】
【0120】
セプタム(septum)を備えた褐色の丸底フラスコ中、ドーパミン塩酸塩(0.2g、1.0mmol)をピリジン(3mL)に溶解し、コハク酸無水物(140mg、1.4mmol)をゆっくり加えた。混合物を24h撹拌し、次いでTLC(EtOAc:MeOH 9:1)によってドーパミン(Rf 0)の、より速く移動する産物(Rf 0.27)への完全な変換が示された。溶媒を減圧下で蒸発させ、残渣をMeOHで処置することで、D10(1.22g、91%)が白色のアモルファス固体として供された;1H NMR((CD3)2CO,500MHz)δ:6.72(d,1H,J5,6=8.0Hz,H-6),6.71(d,1H,J3,5=2.0Hz,H-3),6.53(dd,1H,J3,5=2.0,J5,6=8.0Hz,H-5),3.35(t,2H,J1',2'=6.7Hz,H-2'),2.64(t,2H,J1',2'=6.7Hz,H-1'),2.59(t,1H,J1'',2''=7.0Hz,H-1''),2.47(t,1H,J1'',2''=7.0Hz,H-2'');13C NMR(CDCl3,125.7MHz)δ:174.1,172.6(CO),145.5,144.1(C-1,2),131.7(C-4),120.6(C-5),116.4,115.8(C-3,6),41.8(C-2'),35.6(C-1'),31.0× 2(C-1'',2'')。
【0121】
DCCまたはEDCIをカップリング剤として使用するドーパミン誘導体(D10)のD5とのカップリングを試みたが不成功に終わった。カップリング反応に係る一般手順は以下であった:
乾燥DMF(1mL)中の等モルの分量(0.07mmol)のD10およびD5をアルゴン雰囲気下で30min撹拌した。次いで、カップリング剤(2eq.)を室温にて混合物へ加えた。反応物を12h撹拌した。TLC分析(nBuOH:EtOH:H2O 0.5:0.5:0.1)により、D5(Rf 0.20)およびD10(Rf 0.66)が未反応のまま残存していたので、予想された産物の形成は観察されなかった。
【0122】
N-tert-ブチルオキシカルボニル-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エタンアミン(N-Bocドーパミン、11)の合成
【化25】
【0123】
褐色の丸底フラスコ中、ドーパミン塩酸塩(1.0g、5.3mmol)を、これまでに超音波処理されたジオキサン(10mL)と1M水性のNaOH(5mL)との混合物に溶解した。混合物を10min撹拌し、ジ-tert-ブチルジカーボナート(1.3g、5.8mmol)を加えた。反応物を室温にて4h、N2雰囲気下で撹拌し、次いでTLC(ヘキサン:EtOAc 2:8、1滴のAcOHあり)によってドーパミン(Rf 0)の速く移動する産物(Rf 0.8)への完全な変換が示された。溶液をHCl(1M)でpH2まで酸性化し、次いでEtOAc(x 3)で抽出した。有機層を乾燥させて(Na2SO4)濃縮することで、11(1.22g、91%)が供された;1H NMR((CD3)2CO,500MHz)δ:7.69(brs,2H,OH),6.73(d,1H,J5,6=8.0Hz,H-5),6.70(d,1H,J2,6=2.0Hz,H-2),6.53(dd,1H,J2,6=2.0,J5,6=8.0Hz,H-6),5.87(brs,1H,NH),3.20(dt,2H,J=6.1Hz,H-1'),2.62(t,2H,J=6.1Hz,H-2'),1.39(s,9H,(CH3)3CON);13C NMR(CDCl3,125.7MHz)δ:156.6(CO),145.8,144.2(C-3,4),132.1(C-1),120.8(C-6),116.6,116.0(C-2,5),78.4((CH3)3CON),43.1(C-1'),36.3(C-2'),28.6((CH3)3CON);HRMS(ESI) m/z [M+Na]+算出C13H19NNaO4 276.1206;実測 276.1204。
【0124】
N(H-1')に近接したメチレンのシグナルが、tert-ブチルカルバマートに起因して迅速な相互変換にある2つの回転異性体のせいで、部分的に重複した2つの三重項として見られた。
【0125】
N-tert-ブチルオキシカルボニル-2-(3,4-ビス(ベンジルオキシ)フェニル)エタンアミン(ジ-O-ベンジル-N-Bocドーパミン、12)の合成
【化26】
【0126】
DMF(20mL)およびK2CO3(4.4g、32mmol)に溶解された11(1.3g、5.3mmol)の懸濁液を室温にて30min撹拌した。0℃(氷浴)まで冷却する際、撹拌を継続しながら臭化ベンジル(1.8mL、16mmol)を滴加した。反応物を24h保ち、次いでTLC(ヘキサン:EtOAC 7:3)による監視によって出発化合物(Rf=0.35)の極性の低いスポット(Rf=0.57)への変換が示された。水を加え0℃まで冷却することで、固体産物の形成へ繋がった。混合物を1h撹拌しながら氷浴中に保ち、沈殿を完了させた。固体を濾過し、水で洗浄して乾燥させることで、12(1.65g、72%)が与えられた;1H NMR(CDCl3,300MHz)δ:7.48-7.27(m,10 H,H-芳香族),6.87(d,1H,J5,6=8.1Hz,H-5),6.80(d,1H,J2,6=2.0Hz,H-2),6.70(dd,1H,J5,6=8.1,J2,6=2.0Hz,H-6),5.14,5.13(2 s,2Hの各々,OCH2Ph),4.49(brs,1 H,NH),3.31(dt,2H,J1',2'=6.7Hz,H-1'),2.69(t,2H,J1',2'=6.7Hz,H-2'),1.44(s,9H,(CH3)3)C);13C NMR(CDCl3,75MHz)δ:155.9(NHCO),149.0,147.7(C-3,4),137.5,137.3,132.4,128.5,127.8,127.4,127.3,121.7,115.9,115.5(C-1,2,5,6),71.5,71.4(OCH2Ph),41.8(C-1'),35.7(C-2'),28.4((CH3)3)C),27.7((CH3)3)C)。HRMS(ESI) m/z [M+Na]+算出C27H31NNaO4 456.2153;実測456.2145。
【0127】
11に関しては、N(H-1')に近接したメチレンのシグナルが、tert-ブチルカルバマートに起因して迅速な相互変換にある2つの回転異性体のせいで、部分的に重複した2つの三重項として見られた。
【0128】
2-(3,4-ビス(ベンジルオキシ)フェニル)エタンアミン(13)の合成
【化27】
【0129】
CH2Cl2(11mL)中の12(0.84g、1.94mmmol)の溶液へ、トリフルオロ酢酸(1.7mL)を加え、室温にて2h撹拌した。反応物をTLC(ヘキサン:EtOAc 3:7)によって監視し、出発材料(Rf 0.57)の極性のある産物(Rf 0)への変換が明らかにされた。1M NaOHの添加によって溶液のpHを9へ調整し、CH2Cl2(20mL)で迅速に抽出した。有機層を飽和水性NaClで洗浄し、乾燥させ濃縮することで、13(0.46g、72%)が供された;1H NMR(CDCl3,300MHz)δ:7.52-7.25(m,10 H,H-芳香族),6.90(d,1H,J5,6=8.1Hz,H-5),6.81(d,1H,J2,6=1.9Hz,H-2),6.71(dd,1H,J5,6=8.1,J2,6=1.9Hz,H-6),5.17,5.15(2 s,2Hの各々,OCH2Ph),2.87(t,2H,J1',2'=6.7Hz,H-1'),2.64(t,2H,J1',2'=6.7Hz,H-2'),1.81(brs,2 H,NH2);13C NMR(CDCl3,75MHz)δ:149.0,147.6(C-3,4),137.5,137.4,128.5,127.8,127.4(C-芳香族Ph),133.2(C-1),121.8(C-6),116.1(C-2),115.4(C-5),71.5,71.4(OCH2Ph),43.4(C-1'),39.3(C-1');HRMS(ESI) m/z [M]+算出C22H24NO2 334.1802,実測334.1804。
【0130】
13のコハク酸無水物への添加による14の合成、および14のD5との試みられたカップリング
【化28】
【0131】
DMF(3mL)中の13(115mg、0.3mmol)の溶液へ、K2CO3(140mg、1.0mmol)を加え、溶液を10min撹拌した。コハク酸無水物(40mg、0.4mmol)の添加の際、溶液を室温にて4h撹拌した。TLC(EtOAc、2滴のHAcOあり)による検査によって、より速く移動する化合物(Rf 0.25)の完全な形成が示された。反応混合物を1M HCl(≒0.5mL)でpH2まで酸性化し、水を加えて沈殿を誘発した。混合物を氷浴中1h撹拌し、形成された固体を濾過した。固体をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc 5:5→3:7、1%HAcOあり)によって精製することで、14(127mg、84%)が供された;1H NMR(CDCl3,200MHz)δ:7.49-7.22(m,10 H,H-芳香族),6.88(d,1H,J5,6=8.1Hz,H-5),6.76(brd,1H,J2,6=2.1Hz,H-2),6.66(dd,1H,J5,6=8.1,J2,6=2.1Hz,H-6),5.76(t,JNH,c=5.9Hz,NH),5.15,5.14(2 s,2Hの各々,OCH2Ph),3.44(q,2H,J1',2'=J1',NH=6.5Hz,H-1'),2.66(m,4H,H-2',b),2.36(t,2H,Ja,b=6.4Hz,H-a);
1H NMR((CD3)2SO,500MHz)δ:7.49-7.29(m,10 H,H-芳香族),7.90(brs,1H,-NH),6.96(d,1H,J5,6=8.2Hz,H-5),6.94(d,1H,J2,6=1.9Hz,H-2),6.71(dd,1H,J5,6=8.2,J2,6=1.9Hz,H-6),5.11,5.08(2 s,2Hの各々,OCH2Ph),3.20(dd,2H,J1',2'=7.5,J1',NH=5.6Hz,H-1'),2.60(d,2H,Jc,d=7.5Hz,H-2'),2.41(d,2H,Ja,b=6.7Hz,H-a),2.29(d,2H,Ja,b=6.7Hz,H-b);13C NMR((CD3)2SO,125.7MHz)δ:173.9(COOH),170.9(CONH),148.2,146.7(C-3,4),132.7(C-1),128.4 127.7 × 2,127.6,127.5,(OCH2Ph) 121.1(C-6),115.1(C-2),114.7(C-5),70.2,70.1(OCH2Ph),40.4(C-1'),34.7(C-2'),30.1(C-b),29.2(C-a)
HRMS(ESI) m/z [M]+算出C26H28NO5 434.1962,実測434.1952。
【0132】
EDCI/HOBtの存在下でのならびに他のカップリング試薬での、14とD5との間のカップリング反応を試みたが、不成功に終わった。
【0133】
抱合体ドキシサイクリン-ドーパミン[N1-(4-デジメチルアミノドキシサイクリン-9-イル)-N4-(3,4-ジヒドロキシフェネチル)スクシンアミド、D16]の合成
【化29】
【0134】
無水DMF(2mL)中の14(156mg、0.36mmol)の溶液を-5℃まで冷却し、クロロギ酸エチル(33μL、0.36mmol)およびトリエチルアミン(50μL、0.36mmol)を15minにわたって滴加した。中間体である無水カーボナート15は単離しなかった。さらに15min経った後、乾燥DMF(2mL)中のD5(100mg、0.24mmol)および微粉末化NaHCO3(20mg、0.24mmol)を連続して加えた。反応物を2h撹拌し、次いでシリカゲルTLC(EtOAc:C5H5N:H2O 9:2.5:1)によって、D5(Rf 0.68)と比較してわずかに速く移動するスポット(Rf 0.70)の形成が示された。UV照射下254nmにてしか明らかにならなかったD5とは対照的に、その産物はλ254および365nmにて明らかになった。また反応物を、D5(Rf 0.75)より移動が遅い新しいスポット(Rf 0.35)の形成を確認する逆相TLC(H2O:MeCN 1:1)も使用して監視した。粗混合物を濾過して過剰NaHCO3を除去し、HCl(c)でpH2まで酸性化した。減圧下での蒸発によって溶媒を除去し、油状残渣を5%水性溶液LiClで洗浄して過剰DMFを除去した。
【0135】
逆相カラムクロマトグラフィー(MeOH:H2O 1:1→3:2)による精製、これに続く溶媒の蒸発によって、D16が帯黄色粉末(200mg、60%)として供された。[α]D 20 -30.1(c 0.2,MeOH);1H NMR(CD3OD,500MHz);δ:8.16(d,1H,J7,8=8.3Hz,H-8),7.47-7.22(m,10H,芳香族),6.90(d,1H,Jf,j=1.0Hz,H-f),6.88(d,1H,Ji,j=8.2Hz,H-i),6.80(d,1H,J7,8=8.3Hz,H-7),6.72(d,1H,Jf,i=7.9,Ji,j=1.0Hz,H-j),5.12-5.00(m,6H,CH2Ar),3.60(q,1H,J4a,5=10.7,J5a,5=8.0Hz,H-5),3.35(t,2H,J=7.2Hz,CH2-c),3.03(brd,1H,J4,4'=18.0Hz,H-4),2.90(brd,1H,J4,4'=18.0Hz,H-4'),2.69(t,2H,J=7.3Hz,CH2-d),2.56(m,1H,J=6.7Hz,H-6),2.51,2.42(2 t,4H,J=6.8Hz,CH2-a,CH2-b),2.35-2.28(m,2H,H-4a,5a),1.43(d,3H,J6,Me=6.7Hz,CH3);13C NMR(CD3OD,125.7MHz)δ:196.4,195.4,194.6(C-1,3,11),175.0,174.6,174.2,173.2(CONH2,2 CONH,C-12),153.5(C-10),150.3,148.7(C-g,C-h),144.2(C-6a),134.3(C-e),138.8-128.8(Ph基のC-芳香族およびC-8),126.7(C-9),122.9(C-j),117.1,117.0(C-f,C-i),116.6(C-10a),116.1(C-7),108.0(C-11a),100.1(C-2),72.6,72.4(C-12a,CH2Ar),69.9(C-5),48.0,44.9(C-4a,5a),42.0(C-c),39.6(C-6),36.0(C-d),32.0,31.4(C-a,C-b),30.2(C-4),16.2(CH3);HRMS(ESI) m/z [M+Na]+算出C46H46N3O12 832.3076,実測832.3078.
【0136】
D16の水素化分解: Pegasusの合成
10%Pd/C(50mg)を含有するMeOH(5mL)中の化合物D16の溶液を、44psi(3atm)にて20h水素化させた。混合物をメタノール(10mL)で希釈し、触媒をセライトパッドに通して濾過してメタノール(4mL)で洗浄した。濾過物および洗浄物(washings)を収集して濃縮した。残渣を最少量のメタノールに溶解し、水の添加の際に沈殿を誘発した。その結果得られた褐色の黄色い固体を遠心分離によって単離して乾燥させることで、Pegasus(85mg、54%)が供された;[α]D 20 -16.7(c 1.1,MeOH);1H NMR(CD3OD,500MHz);δ:8.16(d,1H,J7,8=7.9Hz,H-8),6.87(d,1H,J7,8=7.9Hz,H-7),6.67(d,1H,Ji,j=7.9Hz,H-i),6.64(s,1H,H-f),6.52(d,1H,Jj,i=7.9Hz,H-j),3.63(q,1H,J4a,5=10.2,J5a,5=8.3Hz,H-5),3.35(m,2H,MeODと重複,CH2-c),3.15(brd,1H,J4,4'=17.7Hz,H-4),2.92(dd,1H,J4,4'=17.7Hz,H-4'),2.74,2.55(brt,2H,CH2-a,CH2-b),2.63(t,2H,J=6.5Hz,CH2-d),2.63(1H,CH2-dの下で重複,H-6),2.34(m,2H,H-4a,5a),1.50(d,3H,J6,Me=6.4Hz,CH3);13C NMR(CD3OD,125.7MHz)δ:196.4-195.5(C-1,3,11),175.1,175.0,174.5,173.3(CONH2,2 CONH,C-12),153.6(C-10),146.2,144.7(C-g,C-h),144.4(C-6a),132.1(C-e),129.3(C-8),126.6(C-g),121.1(C-j),116.8,116.3(C-f,C-i),116.7(C-10a),116.1(C-7),108.0(C-11a),100.0(C-2),76.1(C-12a),69.9(C-5),48.1,44.9(C-4a,5a),42.4(C-c),39.7,35.9(C-6,C-d),33.1,32.3(C-a,C-b),31.3(C-4),16.2(CH3);HRMS(ESI) m/z [M+Na]+算出C32H33N3NaO12 674.1956,実測674.1972。
【0137】
例3 - 毒性のAS凝集を妨害する本発明の化合物の能力の特徴付け
ASアミロイド原線維形成に対するPegasus(D9)の効果を評価するため、凝集反応を、LeVine(LeVine H, 3rd. Thioflavine T interaction with synthetic Alzheimer's disease beta-amyloid peptides: detection of amyloid aggregation in solution. Protein Sci 1993; 2(3): 404-10; LeVine H, 3rd. Quantification of beta-sheet amyloid fibril structures with thioflavin T. Methods Enzymol 1999; 309: 274-84.)に従って実施した。手短に、交差(cross-)β構造の形成を、蛍光の交差βレポータープローブであるチオフラビンT(ThT)を、インキュベーション混合物から抽出されたアリコートへ、異なる時刻に加えることによって追跡した。
【0138】
組換えヒトASの発現および精製を、これまでに記載されるとおり(Hoyer W, Antony T, Cherny D, Heim G, Jovin TM, Subramaniam V. Dependence of AS aggregate morphology on solution conditions. J Mol Biol 2002; 322(2): 383-93)実施し、純度をSDS-PAGEによって査定した。モノマーASの貯蔵液を20mM HEPES(pH7.4)において調製した。測定に先立ち、タンパク質溶液を濾過し、12,000 x gにて30min遠心分離した。タンパク質濃度を、消衰係数ε275=5600 cm-1 M-1を使用し275nmでの吸光度によって決定した。使用した凝集プロトコルは、先の研究(Kaylor J, Bodner N, Edridge S, Yamin G, Hong DP, Fink AL. Characterization of oligomeric intermediates in alpha-synuclein fibrillation: FRET studies of Y125W/Y133F/Y136F alpha-synuclein. J Mol Biol 2005; 353(2): 357-72; Danzer KM, Haasen D, Karow AR, et al. Different species of alpha-synuclein oligomers induce calcium influx and seeding. J Neurosci 2007; 27(34): 9220-32; Avila CL, Torres-Bugeau CM, Barbosa LR, et al. Structural characterization of heparin-induced glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase protofibrils preventing alpha-synuclein oligomeric species toxicity. J Biol Chem 2014; 289(20): 13838-50; Gonzalez-Lizarraga F, Socias SB, Avila CL, et al. Repurposing doxycycline for synucleinopathies: remodelling of alpha-synuclein oligomers towards non-toxic parallel beta-sheet structured species. Scientific reports 2017; 7: 41755)から適応させた。
【0139】
凝集反応のために、20mM HEPES(pH7.4)中のモノマーAS(70μM)のアリコートをThermomixer comfort(Eppendorf)中、10もしくは50μM D9の不在下または存在下で、37℃および600rpmにてインキュベートした。ThT蛍光アッセイを使用してHoriba FluoroMax-4蛍光分光計で凝集を監視した。図2に観察されたとおり、D9は、陽性対照ドキシサイクリンとちょうど同程度に強力に、AS凝集を(10μMと50μMとの両方にて)阻害することができた(図2)。
【0140】
例4 - 本発明の化合物の抗生物質活性の決定
例1において合成された化合物の抗生物質活性を検査するために、E.coli DH5α(Gram(-))を高感度の指標株としてを使用してアッセイを実施した。
本発明者らは、固体LB培地中の最小阻害濃度(MIC)を決定するため、2mg/mlの出発濃度および各希釈において10μlの体積で、段階2倍希釈を使用した。
【0141】
試験化合物の抗細菌活性を、ディスク拡散法を使用して評価した(Kavanagh, F. Dilution methods of antibiotic assays in Analytical Microbiology. 1963; Pomares MF, Vincent PA, Farias RN, Salomon RA. Protective action of ppGpp in microcin J25-sensitive strains. J Bacteriol. 2008 - 190:4328-34)。手短に言えば、フィルター-紙ディスクを10μlの2倍段階希釈の試験化合物で含浸させ、LB固体培地ペトリ皿上へ置いた。次いで、静止期にあるE.coli DH5α培養物のアリコート(50μl)を3mlの上層寒天(0.7%寒天)と混合し、プレート上へ掛けた。37℃にて終夜インキュベーションした後、プレートを種々の阻害度について検査した。試験化合物によって生み出される阻害度は最小阻害濃度(MIC)として表現され、目に見える細菌の成長を阻害する化合物の最低濃度として定義される。各試験を、参照化合物のドキシサイクリンに対し二通りに実施した。表1に観察されるとおり、参照化合物のドキシサイクリンは、31.25μg/mlのMICを提示した一方、本発明の化合物であるD9は、試験された濃度にて抗生物質活性を提示しなかった。
【0142】
【表1】
表1: Pegasus(D9)および他の関連化合物の抗生物質活性のディスク拡散アッセイによる決定
【0143】
例5 - 本発明の化合物の細胞毒性
5.1.神経芽細胞腫 SH-SY5Y細胞に対するPegasus細胞毒性の効果
細胞生存率に対するPegasus(D9)の影響を、ミトコンドリア活性に基づき生存細胞数を報告する比色チアゾリルブルーテトラゾリウムブルー(Thiazolyl Blue Tetrazolium Blue)(MTT)代謝活性アッセイを使用し(Mosmann T. Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival: application to proliferation and cytotoxicity assays. J Immunol Methods 1983; 65(1-2): 55-63)、SH-SY5Y神経芽細胞腫細胞株において研究した。
【0144】
SH-SY5Y細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)および1%抗生物質/抗真菌薬で補充された100μlのDMEMで、96-ウェルプレートに15,000細胞/ウェルにて播種し、37℃および5%CO2にて24hインキュベートした。その後、細胞をD9溶液5μM、50μM、または100μMの25μlアリコートで処置し(ウェル中の最終濃度は夫々、1μM、10μM、および20μM)、24hインキュベートした。細胞生存率を決定するため、これまでにMosmann(1983)によって記載されたとおりMTTアッセイを使用した。すべての実験を六通りに実施し、相対的な細胞生存率(%)を、未処置対照条件と比べたパーセンテージとして表現した。
【0145】
最大20μMまでのPegasusで処置された細胞と対照で処置された細胞との間のMTT代謝回転において、有意差は観察されなかった。これはPegasus(1、10、および20μMにて)がSH-SY5Y細胞に対して細胞毒性効果を何ら有さなかったことを指し示す(図3)。
【0146】
5.2.ミクログリアBv2細胞株に対するPegasus細胞毒性の効果
C57/BL6マウスモデルに由来するミクログリア細胞株であるBv2細胞に対してMTTアッセイを使用してD9の細胞毒性誘発能もまた研究した。このためBv2細胞を、種々のPegasus濃度の存在下および不在下で、37℃にてインキュベートした。Bv2細胞はミクログリアの形態的特徴および機能的特徴を保持しており、したがって広範なミクログリアモデルである。これらの細胞は、v-raf/v-myc担持J2レトロウイルスによって不死化されており、核v-mycおよび細胞質v-rafのがん遺伝子産物を、ならびにenv gp70抗原を表面レベルにて、発現している。
【0147】
Bv2細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)および1%抗生物質/抗真菌薬(PSA)で補充された100μlのDMEM中、ポリ-L-リシンで処置された96-ウェルプレートに15,000細胞/ウェルにて播種し、37℃および5%CO2にて24hインキュベートした。その後、細胞を50μMおよび100μM Pegasus溶液の25μlアリコートで処置し(ウェル中の最終濃度は10μMおよび20μM)、24hインキュベートした。細胞生存率を決定するため、これまでにMosmannによって記載されたとおり比色MTT代謝活性アッセイを使用した。すべての実験を六通りに実施し、相対的な細胞生存率(%)を、未処置対照条件と比べたパーセンテージとして表現した。結果は、MTTシグナルにおいて有意な変化が得られなかったことから、Pegasusが、最大20μMまでの濃度にて、細胞毒性を誘発しなかったことを示した(図4)。
【0148】
例6 - Pegasusは、SH-SY5Y細胞において、ASfによって誘発される細胞内活性酸素種のレベルを低減する。
神経変性の主要経路として指し示された病態生理学的機序の中でも、ミトコンドリア機能障害および酸化ストレスは、神経炎症およびタンパク質の誤った折り畳みを増強することが証明されている。さらにまた、これらのプロセスは、ミトコンドリア機能障害および酸化ストレスの引き金も引き、細胞、とくにニューロンにとって致命的結果となる悪循環を推進する。結果的に、AS凝集体は、活性酸素種(ROS)の増大した産生を誘発することが可能であり、それによって神経変性プロセスが悪化する。
【0149】
D9の抗酸化特性を特徴付けるために、細胞モデルにおいて活性酸素種(ROS)のAS誘発産生に対するその保護作用を査定した。このためSH-SY5Y細胞を、ASの原線維(ASf)(37℃および600rpmにて120hインキュベートされたAS)で処置し、産生された活性酸素種を、ROSによる酸化を経て安定した蛍光化合物を形成するCellROX(登録商標) Orange Reagent(Invitrogen)を使用して検査した。
【0150】
図5に示されるとおり、SH-SY5Y細胞を、処置しないままであるか(非処置、NT)、または7μM ASf(ASf)、7μMのASf+D9 10μM(ASf+D9)、および対照(D9)としてD9 10μM単独で処置した。加えて、細胞をまた、陽性対照としてのドキシサイクリン10μM+7μM ASf(ASf+Doxy)、および10μMドキシサイクリン単独(Doxy)でも処置した。すべての条件で、37℃および5%CO2にて24hインキュベートした。処置およびインキュベーションの後、5μM CellROX(登録商標) Orange Reagent(Invitrogen)を用い、プローブを30min加えてPBSで3回洗浄し、これに続く蛍光顕微鏡法による分析によって細胞内活性酸素種が明らかになった。無作為に選んだ視野の蛍光画像を、Zeiss Axio Vert.A1倒立型蛍光顕微鏡を使用し同一の取得パラメータで取得した。
【0151】
予想どおり、SH-SY5Y細胞は、蛍光プローブCellROX(登録商標) Orange Reagentのより強い放射によって指し示されるとおり(図5a,b)、ASf'で処置されたとき増大した量の細胞内ROSを表示した。逆に言うと、細胞をD9の存在下ASfで処置したとき(図5c)、ROS産生の増大が観察されなかった。これは本発明の化合物が、ASfによって特異的に誘発される酸化ストレスからSH-SY5Y細胞を保護することができたことを指し示す。同様に、陽性対照ドキシサイクリンもまた、酸化ストレスから細胞を保護することができた(図5e)。加えて、D9の存在によっても、またドキシサイクリンの存在によっても、細胞内ROSを誘発しなかった(図5d,f)。顕微鏡法によって得られた結果の定量化を図5gに表示する。
【0152】
例7 - 炎症促進性サイトカインIL-1βの放出に対する本発明の化合物の効果
インターロイキン-1β(IL-1β)は、感染および傷害に対する宿主-防御応答に極めて重要である、強力な炎症促進性サイトカインであって、11のIL-1ファミリーメンバーの中で最も特徴付けられており、かつ最も研究されている。
【0153】
LPS活性化ミクログリアに対するPegasusの効果を評価するため、Bv2細胞をPegasus(D9)(200μM)で予め処置した。4hの処置後、細胞をLPS(10μg/mL、最終濃度)で24hにわたり刺激した。ドキシサイクリン(Doxy)(200μM)およびデキサメタゾン(Dexa)(200μM)を抗炎症効果の陽性対照として使用した。ELISAアッセイ(Mouse IL-1 beta ELISA Kit,Cat# BMS6002,Invitrogen)によって、IL-1βサイトカイン濃度を、製造業者によって提供された指示に従い測定した。
【0154】
PegasusはLPSの炎症性作用を有意に減少させ、IL-1βの低減された産生へ繋がった。加えて、Pegasus(D9)単独でのBv2細胞への処置は、IL-1β放出の有意な増大へは繋がらなかった。これはこの分子が、Bv2細胞において炎症促進性効果を発揮しないことを指し示す(図6)。
【0155】
例8 - 遺伝子組換えシトクロム-C-GFP HEK293T細胞株モデルにおけるアポトーシスに対するPegasusの効果
家族性型のPDに関連する遺伝子の同定によって、神経変性に関与する多くの分子経路が突き止められている。かかる遺伝子の1つはPTEN誘発キナーゼ1(PINK1)であって、これはストレス誘発ミトコンドリア機能障害から細胞を保護するミトコンドリアのセリン/トレオニン-タンパク質キナーゼである。PINK1突然変異は、孤発性PD患者に関連することが示されている。事実上、PINK1は、早期発病PDにおいて2番目に頻度の高い原因遺伝子であり、この遺伝子の突然変異によってその常染色体劣性型の疾患が引き起こされる。PINK1の頻出するミスセンス突然変異またはトランケート突然変異は、PARK6(家族性PD6型)の発症原因に関係する。野生型PINK1の過剰発現は、アポトーシス誘導性(apoptogenic)シトクロムcのミトコンドリアからの放出、カスパーゼ-3の活性化、およびプロテアソームインヒビターMG132によって誘発されるアポトーシス細胞死を阻止することが示されている。N末がトランケートされたPINK1(NΔ35)は、ミトコンドリア局在化配列を欠き、MG132誘発シトクロムC放出および細胞毒性を阻止しない。したがって、損傷したミトコンドリアからのシトクロムCの放出は、アポトーシスシグナリングにおいて中心的な事象と考えられている。ミトコンドリア損傷およびアポトーシスのPegasus(D9)の誘発能を特徴付けるため、ミトコンドリアからのシトクロムCの放出によってアッセイしたとき、遺伝子組換えシトクロムC-tGFP HEK293細胞株を使用した(INNOPROT #P30801)(Goldstein JC, Munioz-Pinedo C, Ricci JE, et al. Cytochrome C is released in a single step during apoptosis. Cell Death Differ 2005; 12(5): 453-62)。
【0156】
ミトコンドリアのシトクロムC-tGFPの局在化および分布に対するPegasusの効果を、HEK293/シトクロムC-tGFP細胞株(INNOPROT #P30801)において200μMのD9で24hインキュベーションした後に、共焦点顕微鏡法によって視覚化した。画像をZEISS LSM800 Confocal Microscopeにおいて取得した。
【0157】
図7に示されるとおり、アポトーシスマーカーであるシトクロムC-tGFPの局在化および分布において、200μMのPegasus(D9)の存在下または不在下で、24hのインキュベーション後、対照とPegasusで処置された条件との間での差異は観察されなかった。シトクロムCは、両ケースにおいて、ミトコンドリア構造体へ局在化したようであった(図7、挿入図)。
【0158】
例9 - 神経芽細胞腫細胞株SH-SY5Yにおけるリソソームに対するPegasusの効果
リソソームは、自己貪食(autophagic)経路の最終目的地である。LysoTracker(商標)蛍光プローブは、酸性pHのベシクル中に優先的に蓄積する色素であって、オルガネラの局在化、それら常在タンパク質を研究し、オルガネラの機能性を査定し、リソソーム数および小胞pHの異常性を定量し(Eskelinen EL, Schmidt CK, Neu S, et al. Disturbed cholesterol traffic but normal proteolytic function in LAMP-1/LAMP-2 double-deficient fibroblasts. Mol Biol Cell 2004; 15(7): 3132-45)、ならびに生細胞における自食胞/リソソーム融合の効率を検査するために(Gonzalez-Polo RA, Boya P, Pauleau AL, et al. The apoptosis/autophagy paradox: autophagic vacuolization before apoptotic death. J Cell Sci 2005; 118(Pt 14): 3091-102.)、生細胞および固定細胞においてリソソームを追跡するために幅広く使用される。
【0159】
SH-SY5Y細胞におけるリソソーム活性に対するPegasusの効果を、200μMのPegasusで24h処置した後、LysoTracker(商標) Deep Red(ThermoFisher #L12492)によってマークされたリソソームの局在化および数を視覚化することによって推計した。インキュベーション後、細胞を、共焦点顕微鏡法のために調製されたPFA 4%中で固定した。画像をZEISS LSM800共焦点顕微鏡において取得した。
【0160】
結果は、200μMのPegasus有りまたは無しでインキュベートされたSH-SY5Y細胞において明白な差異は観察されなかったことから、化合物がSH-SY5Y細胞においてリソソームの生物発生を妨害しないことを示唆する(図8)。
【0161】
例10 - 本発明の化合物のD1型およびD2型受容体結合効率
ドーパミン受容体は、Gタンパク質共役7回膜貫通タンパク質のスーパーファミリーに属する。Gタンパク質共役受容体は、真核細胞において主要シグナル伝達系の1つの構成要素となっている。これら受容体をコードする配列は、アゴニスト-アンタゴニスト結合部位へ寄与すると考えられているそれら領域において、哺乳動物種にわたり強く保存されている。ドーパミン受容体ファミリーの様々なメンバーは一般に、「D1様」または「D2様」のいずれかに分類される。D1様受容体はD1受容体およびD5受容体を含むが、これらはGSタンパク質へのカップリングを介してアデニル酸シクラーゼを活性化する。
【0162】
アッセイを、SpainのInnoprot S.L.によって実施し、Pegasus、中間体化合物DOXI-5、および参照化合物としてドーパミンの、D1型およびD2型受容体活性化効率を評価した。前記参照化合物は、試料の渡航(travel)条件によって引き起こされ得るあらゆる影響を考慮して、提供者によって新たに得られたものと、試験化合物と一緒に送られたものとの両方であった。
【0163】
試験化合物
- Pegasus(D9)
- DOXI-5(D5)
- 試験ドーパミン(Sigma-Aldrich、PegasusおよびDOXI-5と一緒に送られた参照化合物)
- 新たなドーパミン(Sigma-Aldrich、アッセイの現場(site)にて得られた参照化合物)
【0164】
試薬および機器
- DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地、Sigma-Aldrich、D6429)
- DMEM-F12(Sigma-Aldrich、D9785)
- Opti-MEM(Opti-Minimal Essential Medium、Thermo-Fisher scientific 31985070、バッチ1932076)
- FBS(ウシ胎仔血清、Sigma-Aldrich F7524、バッチ BCBW6329)
- 平底黒色96-ウェルプレート(Becton Dickinson 353219、バッチE1804340)
【0165】
方法
HEK_cAMPNmd_FP650_D1およびU2OS_cAMPNmd_FP650_D2細胞を夫々、30.000および20.000細胞/ウェルの密度にて、96ウェルプレートに播種した。細胞を10%FBSで補充されたDMEMまたはDMEM-F12培地中、37℃にて加湿された5%CO2雰囲気中24hにわたり管理した。
第2日に、細胞を、Opti-MEM中で希釈された新たなドーパミン、試験ドーパミン、Pegasus(D9)、またはDOXI-5(D5)化合物の、30μMから出発する10の1:3段階希釈で処置した。次いで細胞を24hインキュベートした。すべての実験を三通りに実行した。
【0166】
Nomadバイオセンサの活性化を検出するため、アッセイ培地を除去してカルシウムおよびマグネシウムありの100mlのDPBSによって置き換えた。HEK_cAMPNmd_FP650_D1細胞株において、化合物のアゴニスト効果を、Sinergy II BiotekマイクロプレートリーダーにおいてFP650タンパク質蛍光シグナル(励起/放射 max=590/665nm)に適切なフィルターを使用し、cAMPNomadバイオセンサの蛍光放射の変化を定量化することによって測定した。U2OS_cAMPNmd_FP650_D2細胞において、CellInsight CX7 HCS Platformを使用して画像を取得し、1細胞当たりの蛍光ベシクル数をHCS Studio Cell Analysis Softwareで定量化した。
【0167】
結果
D1またはD2受容体の活性化調節における化合物の効果を、Nomadバイオセンサをベースとしたアッセイを使用し、cAMPシグナリングを測定することで分析した。アゴニストアッセイについては、細胞を、Opti-MEMに溶解した、10の異なる濃度(30μMから出発する1:3段階希釈)の新たなドーパミン、試験ドーパミン、Pegasus(D9)、またはDOXI-5(D5)とともに24時間インキュベートした。
【0168】
HEK_cAMPNmd_FP650_D1において、化合物の効果を、Synergy II Biotekマイクロプレートリーダーを使用し、蛍光強度の変化を測定することで分析した(図9)。
【0169】
結果は、新たなドーパミンが5.48x10-7MのEC50を呈したことを示した。同様に、試験ドーパミンは、6.92x10-7MのEC50を示した。Pegasusのケースにおいては、D1受容体を活性化する化合物の効き目は1桁分減少し、2.8x10-6MのEC50であった。最終的に、DOXI-5(D5)は、Nomadバイオセンサの活性化を引き起こさなかったことから、D1受容体のアゴニストとしては作用しなかった。
【0170】
この同じ実験を、U2OS_cAMPNmd_FP650_D2細胞株においても実行した(図10)。化合物の効果を、HCS Studio Cell Analysis Softwareを使用し、細胞の細胞質中の蛍光ベシクル数を定量化することで分析した。
【0171】
このケースにおいて、新たなドーパミンは、試験ドーパミンのEC50(7.2x10-6M)と同様に7.44x10-6MのEC50を示した。Pegasusが1.13x10-5MのEC50を示した一方、DOXI-5(D5)は、Nomadバイオセンサの活性化を引き起こさなかったことから、D2受容体のアゴニストとしては作用しなかった。
【0172】
結論
- 化合物Pegasus(D9)およびDOXI-5(D5)は、D1とD2との両方の機能的アッセイにおいて酷似する効果を有する。
- 渡航条件は、D1およびD2に対するアゴニストとして作用するドーパミンの能力に有意に影響を与えなかった。
- Pegasus(D9)は、D1受容体とD2受容体との両方のアゴニスト能力を呈するが、ドーパミンよりいくらかその度合いが低かった。
- DOXI-5(D5)は、Nomadバイオセンサの活性化を誘発しないことから、D1またはD2受容体のアゴニストではない。
図1
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【国際調査報告】