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特表2024-505703質量分析法のロバスト性を向上させるために帯域通過濾過衝突セルを使用した高強度イオンビームのMS/MS実施方法
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  • 特表-質量分析法のロバスト性を向上させるために帯域通過濾過衝突セルを使用した高強度イオンビームのMS/MS実施方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-07
(54)【発明の名称】質量分析法のロバスト性を向上させるために帯域通過濾過衝突セルを使用した高強度イオンビームのMS/MS実施方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/00 20060101AFI20240131BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20240131BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240131BHJP
【FI】
H01J49/00 400
H01J49/42 100
H01J49/42 150
G01N27/62 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547630
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-09-01
(86)【国際出願番号】 IB2022051118
(87)【国際公開番号】W WO2022172155
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】63/148,099
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】グナ, ミルシア
(72)【発明者】
【氏名】ソノック, アンドレイ
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041GA03
2G041GA09
2G041GA13
2G041GA29
2G041KA01
2G041KA03
(57)【要約】
一側面において、質量分析法を実施する方法が、開示され、方法は、質量分析計の中に複数の前駆イオンを導入することと、第1の所望の範囲内のm/z比を有する前駆イオンの一部を選択し、複数の前駆イオンを提供することと、前駆イオンのうちの少なくとも一部の断片化を引き起こし、複数の生成イオンを発生させることと、第2の所望の範囲内のm/z比を有する生成イオンの一部を選択することと、選択された生成イオンの質量分析を実施することとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析法を実施する方法であって、前記方法は、
質量分析計の中に複数の前駆イオンを導入することと、
第1の所望の範囲内のm/z比を有する前記前駆イオンの一部を選択することと、
前記選択された前駆イオンのうちの少なくとも一部の断片化を引き起こし、複数の生成イオンを発生させることと、
第2の所望の範囲内のm/z比を有する前記生成イオンの一部を選択することと、
前記選択された生成イオンの質量分析を実施することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記前駆イオンの一部を選択するステップは、前記前駆イオンを第1の質量フィルタの中に導入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生成イオンの一部を選択するステップは、前記生成イオンを第2の質量フィルタの中に導入することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1および第2の質量フィルタのうちのいずれかは、多重極構成において配置された複数のロッドを備えている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ロッドは、前記前駆イオンおよび生成イオンのうちのいずれかの前記一部の選択を促進するために、前記質量フィルタ内に電磁場を発生させるための前記ロッドへの任意のDC電圧および/またはRF電圧の印加のために構成されている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記多重極構成は、四重極構成を備えている、請求項4および5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
質量分析計であって、前記質量分析計は、
イオン源から複数の前駆イオンを受け取るためのオリフィスと、
前記イオンのうちの少なくとも一部を受け取るための第1の帯域通過質量フィルタであって、前記第1の帯域通過質量フィルタは、第1の所望の範囲内のm/z比を有する前記前駆イオンの一部を選択するために構成されている、第1の帯域通過質量フィルタと、
前記第1の帯域通過質量フィルタの下流に配置された衝突セルであって、前記衝突セルは、前記選択された前駆イオンのうちの少なくとも一部を受け取り、それらの少なくとも一部の断片化を引き起こし、複数の生成イオンを発生させる、衝突セルと、
前記生成イオンのうちの少なくとも一部を受け取るための第2の帯域通過質量フィルタであって、前記第2の帯域通過質量フィルタは、第2の所望の範囲内のm/z比を有する前記生成イオンの一部を選択するように構成されている、第2の帯域通過質量フィルタと
を備えている、質量分析計。
【請求項8】
前記衝突セルと前記第2の帯域通過質量フィルタとは、同じチャンバ内に位置付けられている、請求項7に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記衝突セルと前記第2の帯域通過質量フィルタとは、別個のチャンバ内に位置付けられている、請求項7に記載の質量分析計。
【請求項10】
前記第2の帯域通過質量フィルタの下流に配置され、前記選択された生成イオンのうちの少なくとも一部を受け取り、それらの質量分析を提供する質量分析器をさらに備えている、請求項7-9のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項11】
前記質量分析器は、四重極質量分析器を備えている、請求項10に記載の質量分析計。
【請求項12】
前記第1および第2の帯域通過質量フィルタのうちのいずれかは、多重極構成において配置された複数のロッドを備え、前記複数のロッドは、前記前駆イオンおよび生成イオンのうちのいずれかの一部の選択を促進するために、前記帯域通過質量フィルタ内に電磁場を発生させるための前記複数のロッドへのRF電圧および/またはDC電圧のうちのいずれかの印加のために構成されている、請求項7-11のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項13】
前記多重極構成は、四重極構成を備えている、請求項12に記載の質量分析計。
【請求項14】
前記第1の帯域通過質量フィルタは、約0.7~約25の範囲内のm/z帯域幅を有する、請求項7-13のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項15】
前記第2の帯域通過質量フィルタは、約10~約200の範囲内のm/z帯域幅を有する、請求項7-14のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項16】
前記第2の帯域通過質量フィルタは、約200~約400の範囲内のm/z帯域幅を有する、請求項7-14のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記第1の帯域通過質量フィルタの上流に位置付けられたイオンガイドをさらに備え、前記イオンガイドは、前記オリフィスを通過するイオンを受け取り、前記イオンの集束を提供する、請求項7-16のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項18】
前記イオンガイドは、多ロッド構成において配置された複数のロッドを備え、前記複数のロッドは、前記イオンを集束させるための電磁場を発生させるための前記複数のロッドへのRF電圧および/またはDC電圧の印加のために構成されている、請求項17に記載の質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる2021年2月10日に出願され、「Method of Performing MS/MS of High Intensity Ion Beams Using a Bandpass Filtering Collision Cell to Enhance Mass Spectrometry Robustness」と題された米国仮出願第63/148,099号の優先権を主張する。
【0002】
本開示は、概して、質量分析法を実施するための質量分析計および方法、例えば、SRM(選択的反応モニタリング)が検体の構造を解明するために採用される質量分析計を対象とする。
【背景技術】
【0003】
質量分析法(MS)は、定性的用途および定量的用途の両方を伴う検査化学物質の構造を決定するための分析技法である。MSは、未知の化合物を識別すること、分子中の原子の組成を決定すること、その断片化を観察することによって化合物の構造を決定すること、混合されたサンプル中の特定の化学化合物の量を定量化することを行うために有用であり得る。質量分析計は、化学物質をイオンとして検出し、それによって、検体の荷電イオンへの変換が、サンプル処理中に生じなければならない。
【0004】
質量分析計における信号および分解能低下の主要因のうちの1つは、質量分析器への着目検体以外のイオンの透過および質量分析器の内側表面上でのそのようなイオンの蓄積に起因し、それは、それらの表面の帯電および付随する性能の低下につながり得る。この問題を緩和するために、いくつかの質量分析計では、イオンは、第1の質量分析器へのそれらの導入に先立って、濾過される。
【0005】
選択的反応モニタリング(SRM)は、タンデム質量分析法において使用される方法であり、タンデム質量分析法において、特定の質量の前駆イオンが、タンデム質量分析計の第1のステージにおいて選択され、前駆イオンの断片化反応のイオン生成物が、検出のための質量分析計の第2のステージにおいて選択される。第1のステージにおけるイオン濾過の使用は、第2のステージの上流に位置付けられる質量分析計の種々の構成要素の汚染の問題を低下させることに役立つことができるが、前駆イオンの断片化に起因して発生させられる生成イオンは、生成イオンを検出するために採用された質量分析器上に蓄積され、故に、性能低下を引き起こし得る。
【0006】
故に、質量分析法を実施するための改良された質量分析計および方法、特に、検体のSRMを行うために採用され得るそのような質量分析計の必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一側面において、質量分析計の中に複数の前駆イオンを導入することと、第1の所望の範囲内のm/z比を有する前駆イオンの一部を選択し、複数の前駆イオンを提供することと、前駆イオンのうちの少なくとも一部の断片化を引き起こし、複数の生成イオンを発生させることと、第2の所望の範囲内のm/z比を有する生成イオンの一部を選択することと、選択された生成イオンの質量分析を実施することとを含む、質量分析法を実施する方法が、開示される。
【0008】
いくつかの実施形態において、イオン源によって受け取られるイオンの一部の選択は、前駆イオンを第1の質量フィルタの中に導入することによって遂行されることができ、質量分析のための生成イオンの一部の選択は、生成イオンを第2の質量フィルタの中に導入することによって遂行されることができる。質量フィルタは、様々な異なる方法において実装されることができる。例として、いくつかの実施形態において、質量フィルタは、所望のm/z比を有するイオンが質量フィルタを通過する一方、他のm/z比を有するイオンは、例えば、不安定な軌道を受けることによって、質量フィルタを通した通過を妨げられることを確実にするためにRF電圧および/またはDC電圧が印加され得る多重極構成において配置された複数のロッドを含むことができる。
【0009】
いくつかの実施形態において、多重極構成は、四重極構成であることができる。さらに、いくつかの実施形態において、ロッドのうちの1つ以上へのRF電圧および/またはDC電圧の印加は、イオン源から受け取られたイオンまたは生成イオンの一部の選択を促進するために、質量フィルタ内に電磁場を発生させることをもたらす。
【0010】
関連する側面において、イオン源から複数のイオンを受け取るためのオリフィスと、イオンのうちの少なくとも一部を受け取るための第1の帯域通過質量フィルタとを含む質量分析計が、開示され、第1の帯域通過質量フィルタは、複数の前駆イオンを提供するための第1の所望の範囲内、または所望の値におけるm/z比を有するイオンの一部を選択するために構成されている。質量分析計は、前駆イオンのうちの少なくとも一部を受け取り、それらの少なくとも一部の断片化を引き起こし、複数の生成イオンを発生させるための第1の帯域通過フィルタの下流に配置された衝突セルをさらに含むことができる。質量分析計はさらに、生成イオンのうちの少なくとも一部を受け取るための第2の帯域通過質量フィルタを含むことができ、第2の帯域通過質量フィルタは、選択された範囲内または値のm/z比を有する生成イオンの一部を選択するように構成される。選択された生成イオンは、次いで、それらの質量スペクトルを発生させるために、例えば、下流の質量分析器を介して質量分析されることができる。
【0011】
いくつかの実施形態において、衝突セルおよび第2の帯域通過質量フィルタは、同じチャンバ内に位置付けられる。そのようなチャンバは、前駆イオンのうちの少なくとも一部の断片化を促進するために、約1~約10ミリトルの範囲内の圧力に維持されることができる。代替として、衝突セルおよび第2の帯域通過質量フィルタは、別個のチャンバ内に位置付けられることができ、第2の帯域通過質量フィルタは、衝突セルの下流に配置され、所望の範囲内または所望の値におけるm/z比を示す生成イオンの一部を選択するように構成される。
【0012】
質量分析器が、第2の帯域通過質量フィルタによって選択された生成イオンのうちの少なくとも一部を受け取り、それらの質量分析を提供するために、第2の帯域通過質量フィルタの下流に位置付けられることができる。様々な質量分析器が、採用されることができる。例えば、いくつかの実施形態において、質量分析器は、四重極質量分析器であることができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、第1および第2の帯域通過質量フィルタのうちのいずれかは、多重極構成、例えば、四重極構成に従って配置された、複数のロッドを含み、複数のロッドは、イオン源から受け取られたイオンおよび/または生成イオンの選択を促進するために、帯域通過質量フィルタ内に電磁場を発生させるための複数のロッドへのRF電圧および/またはDC電圧の印加のために構成されている。
【0014】
いくつかの実施形態において、第1の帯域通過質量フィルタは、約0.7~約25の範囲内のm/z帯域幅を有し、第2の帯域通過質量フィルタは、約10~約200の範囲内のm/z帯域幅を有する。いくつかの実施形態において、第2の帯域通過質量フィルタは、約200~約400の範囲内のm/z帯域幅を有する。
【0015】
いくつかの実施形態において、イオンガイドが、オリフィスを通過するイオンを受け取り、イオンの集束を提供するための第1の帯域通過質量フィルタの上流に位置付けられる。イオンガイドは、多ロッド構成において配置された複数のロッドを含むことができ、複数のロッドは、イオンを集束させるための電磁場を発生させるための複数のロッドへのRF電圧および/またはDC電圧の印加のために構成されている。
【0016】
本教示の種々の側面のさらなる理解が、下記に手短に説明される以下の詳細な説明および関連付けられた図面を参照して取得されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、質量分析法を実施する方法における種々のステップを描写する本教示のある実施形態によるフローチャートである。
図2図2は、本教示のある実施形態による質量分析計である。
図3図3は、生成イオンの一部をそれらのm/z比に基づいて選択するための図2の質量分析計において採用される質量フィルタのロッドへのDC電圧およびRF電圧の印加のある例である。
図4図4は、別の実施形態による質量分析計の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本教示は、概して、質量分析法を実施する方法、およびそのような方法が実装され得る質量分析計に関する。いくつかの実施形態において、複数の前駆イオンが、例えば、背景ガス(例えば、N)との衝突を介して断片化され、所望の範囲内のm/z比を有する生成イオンの一部が、質量分析のために選択される。
【0019】
図1のフローチャートを参照すると、質量分析法を実施するための本教示のある実施形態による方法は、複数のイオンを質量分析計の中に導入すること(ステップ1)と、例えば、質量フィルタを介して、所望の値における(または、所望の範囲内のm/z比を有する)それらのイオンの一部を選択し、複数の前駆イオンを提供すること(ステップ2)と、(例えば、衝突解離を介して)選択された前駆イオンのうちの少なくとも一部の断片化を引き起こし、複数の生成イオンを提供すること(ステップ3)とを含む。方法は、所望の範囲内のm/z比を有する生成イオンの一部を選択すること(ステップ4)と、選択された生成イオンの質量分析を実施すること(ステップ5)とをさらに含む。
【0020】
本教示による方法は、様々な質量分析計内に実装され、イオン断片化のための様々な技法を使用することができる。
【0021】
例として、図2は、複数のイオンを発生させるためのイオン源102を含む、質量分析計100を図式的に描写する。様々なイオン源が、本教示の実践において採用されることができる。好適なイオン源のいくつかの例は、限定ではないが、とりわけ、エレクトロスプレーイオン化デバイス、噴霧器補助エレクトロスプレーデバイス、化学イオン化デバイス、噴霧器補助アトマイゼーションデバイス、化学イオン化デバイス、マトリクス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)イオン源、フォトイオン化デバイス、レーザイオン化デバイス、サーモスプレーイオン化デバイス、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源、ソニックスプレーイオン化デバイス、グロー放電イオン源、および電子衝撃イオン源を含むことができる。
【0022】
発生させられたイオンは、カーテンプレート104のオリフィス104aおよびオリフィスプレート106のオリフィス106aを通過し、オリフィスプレート106は、カーテンプレートの下流に位置付けられ、カーテンプレートから分離され、それによって、ガスカーテンチャンバが、オリフィスとカーテンプレートとの間に形成される。カーテンガス供給部(図示せず)は、カーテンプレート104とオリフィスプレート106との間に(例えば、Nの)カーテンガス流動を提供し、大型中性粒子を脱集塊化し、排出することによって、質量分析計の下流区分を清浄に保つことに役立つことができる。カーテンチャンバは、高い圧力(例えば、大気圧を上回る圧力)に維持されることができる一方、質量分析計の下流区分は、1つ以上の真空ポンプ(図示せず)を通した排出を介して、1つ以上の選択された圧力に維持されることができる。
【0023】
本実施形態において、カーテンプレートおよびオリフィスプレートのオリフィスを通過するイオンは、QJetイオンガイドによって受け取られ、QJetイオンガイドは、質量分析計の下流構成要素への透過のためのイオンビームを形成するための四重極構成において配置される4つのロッド108(そのうちの2つが、この図において可視である)を備えている。使用時、QJetイオンガイドは、ガス動態および無線周波数場の組み合わせを使用して、オリフィスプレート106の開口部を通して受け取られるイオンを捕捉し、集束させるために採用されることができる。
【0024】
イオンビームは、QJetイオンガイドから出て行き、レンズIQ0を介して後続のイオンガイドQ0の中に集束され、Q0は、4つのロッド110(そのうちの2つが、この図において可視である)を含み、4つのロッド110は、四重極構成において配置され、RF電圧および/またはDC電圧が、イオンをそれらがQ0イオンガイドを通過するときに集束させるために4つのロッド110に印加され得る。他の実施形態において、六重極または八重極構成等の他の多重極構成も、利用されることができる。いくつかの実施形態において、Q0イオンガイドの圧力は、例えば、約3ミリトル~約10ミリトルの範囲内に維持されることができる。本実施形態において、Q0イオンガイドは、四重極構成において配置された4つのロッド109を含み、RF電圧および/またはDC電圧が、イオンガイドを通過するイオンを集束させるための電磁場を発生させるために4つのロッド109に印加され得る。
【0025】
Q0イオンガイドは、イオンレンズIQ1と、ブルベーカレンズとして機能する、短く太いレンズST1とを介して、質量フィルタとして機能するように構成された下流のイオンガイドQ1にイオンを送達する。本実施形態において、イオンガイドQ1は、四重極構成(但し、他の実施形態において、他の多重極構成も、採用され得る)において配置され、RF電圧および/またはDC電圧が印加され得る4つのロッド112(そのうちの2つが、この図において可視である)を含む。いくつかの実施形態において、Q1イオンガイドは、例えば、約0.6~約4×10-5トルの範囲内の圧力に維持され得る真空チャンバ内に据え付けられることができる。
【0026】
より具体的に、本実施形態において、四重極ロッド組Q1は、着目m/z値または着目範内のm/z値を有するイオンを選択するための従来の透過RF/DC四重極質量フィルタとして動作させられることができる。例として、四重極ロッド組Q1は、質量分解モードにおける動作のために好適なRF/DC電圧を提供されることができる。例えば、印加されたRFおよびDC電圧のパラメータは、Q1が選定されたm/z比の透過窓を確立し、それによって、これらのイオンが、殆ど摂動されていない状態でQ1を横断し得るように、選択されることができる。しかしながら、窓の外に該当するm/z比を有するイオンは、四重極内に安定した軌道を達成せず、四重極ロッド組Q1を横断することを防止されることができる。この動作モードが、Q1のための動作の1つの可能な動作モードにすぎないことを理解されたい。
【0027】
本実施形態において、Q1質量フィルタによって選択されたイオンが、短く太いレンズおよびイオンレンズIQ2を介して衝突セルQ2の中に集束される。本実施形態において、衝突セルQ2は、例えば、約1ミリトル~約10ミリトルの範囲内の圧力に維持され得る加圧されたコンパートメントを含むが、他の圧力も、この目的または他の目的ために使用され得る。好適な衝突ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等)が、衝突セルによって受け取られるイオンのうちの少なくとも一部を断片化するために、ガス入口(図示せず)を介して提供されることができる。
【0028】
本実施形態において、衝突セルQ2は、互いに対して直列に配置されたロッドの3つの組Q2a、Q2b、およびQ2cを含む。本実施形態において、Q2aロッド組は、四重極構成において配置された4つのロッド(そのうちの2つが、図において可視である)を含み、それを通るイオン通過のための通路を提供する。イオンは、それらがQ2aロッド組間の通路を通過するときに衝突を受けることができ、衝突は、衝突セルによって受け取られるイオン(本明細書では、前駆イオンとも称される)の少なくとも一部の断片化を引き起こし、複数の生成イオンを発生させる。Q2aロッド組へのRF電圧の印加は、前駆イオンおよび/または生成イオンを半径方向に制限するための電磁場を提供することができる。Q2aへのDC電圧の印加は、Q1ロッドオフセットに対する電位降下を提供することができ、電位降下は、前駆イオンを衝突セルの中に加速し、断片化を誘発するために要求される。いくつかの実施形態において、Q1ロッドオフセット電圧に対するQ2aDCオフセット電圧は、約5~約150Vの範囲内であることができる。
【0029】
本実施形態において、Q2Bロッド組およびQ2Cロッド組の各々は、四重極構成において配置される4つのロッドを含む。Q2Bロッド組は、所望の範囲内(または所望の値)のm/z比を有する生成イオンを選択するための質量フィルタとして機能する。より具体的に、四重極ロッド組Q2Bは、質量分解モードにおいて動作するために好適なRF/DC電圧を提供されることができる。例えば、印加されるRFおよびDC電圧のパラメータは、Q2Bが所望の範囲内のm/z値を有する生成イオンのための透過窓を確立するであろうように選択されることができる。Q2cロッド組へのRF電圧および/またはDC電圧の印加は、同様に、前駆イオンおよび/または生成イオンを半径方向に制限するための電磁場を提供することができる。Q2cに印加されるDC電圧は、Q2bロッド組に印加されるDCロッドオフセットより0.5~1V誘引性であろう。
【0030】
図3は、12a、12b、12c、および12dとして付番されるQ2Bロッドに印加され得るRF電圧のある例を図式的に描写する。より具体的に、ロッド12bおよび12cを横断して印加される電圧は、以下の式(1)に従って定義されることができ、ロッド12aおよび12dを横断して印加される電圧は、以下の方程式(2)に従って定義されることができる。
R02b-[U-Vcos(Ωt)] 式(1)
R02b+[U-Vcos(Ωt)] 式(2)
式中、
R02bは、概して、Q2aロッド組に適用されるDCロッドオフセットより約0.5~1Vの範囲内で誘引性であるように設定されたDCロッドオフセット電圧を表し、
Uは、分解DC電圧の振幅を表し、
Vは、RF電圧の振幅を表し、
Ωは、RF電圧の角周波数を表し、Ω=2πfであり、fは、RF電圧の周波数を表す。
【0031】
いくつかの実施形態において、分解DC(すなわち、U)電圧は、約1~約500Vの範囲内であることができ、RF電圧の振幅(すなわち、V)は、約10Vp-p~約3,000Vp-pの範囲内であることができ、RF電圧の周波数(すなわち、f)は、約300kHz~約5MHzの範囲内であることができる。所与のU、V、およびΩに関して、全体的イオン運動が、特定の値における(または、特定の範囲内の)m/zを有するあるイオンのために安定した軌道をもたらすことができる。そのようなイオンは、四重極質量分析器を通過することができる一方、他のイオンは、不安定な軌道を経験し、故に、四重極質量分析器を通した通過を防止されることができる。
【0032】
Q2bロッドによって選択された生成イオンは、加えて、Q2c区分内で衝突によって冷却され、次いで、衝突セルQ2から出て行き、イオンレンズIQ3および短く太いレンズST3によって、下流の四重極質量分析器Q3の中にその入口115を介して集束される。
【0033】
四重極質量分析器Q3は、四重極構成において互いに対して配置された4つのロッド116を含み、RF電圧および/またはDC電圧が、当技術分野において公知である様式において4つのロッド116に印加され、生成イオンの質量分析を提供し得る。
【0034】
上記の実施形態において、質量フィルタは、衝突セルチャンバ内に配置されるが、他の実施形態において、1つ以上の質量フィルタが、1つ以上の別個のチャンバ内の衝突セルの下流に配置されることができる。例として、図4は、そのような実施形態による質量分析計500のある例を図式的に描写し、該実施形態は、それが衝突セルのロッドが位置付けられるチャンバと別個のチャンバ内の衝突セルの下流に配置される帯域通過質量フィルタQxを含むことを除き、上記の実施形態に類似する。
【0035】
衝突セル402によって発生させられた生成イオンは、生成イオンを四重極質量分析器の中に集束させるように機能する、短く太いレンズを介して、下流の四重極質量分析器Q3によって受け取られる。四重極質量分析器Q3は、四重極構成において互いに対して配置され、RF電圧および/またはDC電圧が、当技術分野において公知である様式において印加され、生成イオンの質量分析を提供し得る4つのロッドを含む。Q3質量分析器によって透過されたイオンは、出口レンズ118および120を通過した後、分析器モジュール124の一部である、イオン検出器120によって検出される。
【0036】
本教示は、従来の質量分析計に対するいくつかの利点を提供する。例として、本教示による質量分析計は、衝突セルの下流に配置される、質量分析器および/またはイオン光学系等の構成要素内のより少ない汚染を示すことができる。
【0037】
当業者は、上記の実施形態に対する種々の変更が、本発明の範囲から逸脱することなく、行われ得ることを理解するであろう。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】