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特表2024-505705チロソール及びサリドロシドの微生物産生
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-07
(54)【発明の名称】チロソール及びサリドロシドの微生物産生
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/22 20060101AFI20240131BHJP
   C12P 19/00 20060101ALI20240131BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240131BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
C12P7/22 ZNA
C12P19/00
C12N1/21
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547635
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-09-29
(86)【国際出願番号】 EP2022053036
(87)【国際公開番号】W WO2022167692
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】21155780.6
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】117340K
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(31)【優先権主張番号】21196276.6
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523297550
【氏名又は名称】シリコライフ エルディーエー
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】デ ピンホ ソアレス,シマン ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】シルバ ゴメス,ジョアナ マルガリダ
(72)【発明者】
【氏名】ダ シルバ ファリア,クリスティアーナ
(72)【発明者】
【氏名】デ アルメイダ ペレイラ ダ ロシャ,イザベル クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】カルバルホ ヴィラサ,パウロ リカルド
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC16
4B064AC17
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD09
4B064CD13
4B064DA01
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065AA80Y
4B065AA88Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB15
4B065BD33
4B065CA05
4B065CA20
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、チロソールを製造する方法であって、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼを異種発現し、かつホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼを過剰発現し、pheAL及びfeaBがともに不活性化又は除去されている、トランスジェニック細菌細胞を、ホスホエノールピルビン酸(phosphoenolpyruvate:PEP)及びエリスロース4-リン酸(erythrose 4-phosphate:E4P)の代謝前駆体、特にグルコース、及び任意にフェニルアラニンを補助剤として含む培地中で増殖し;かつ前記培地からチロソールを抽出する、前記方法に関する。本発明はまた、サリドロシドを製造する方法であって、前記トランスジェニック細胞は、ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼ(UGT85A1、EC:2.4.1.)をさらに異種発現する、前記方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チロソールを製造する方法であって:
a. フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10)
を異種発現し、かつ:
b. ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF)
c. プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA)
の各々を過剰発現し、かつ以下の各々の遺伝子:
i. pheAL(二機能性コリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼ)
ii. feaB(フェニルアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ)
を発現しない、トランスジェニック細菌細胞を:
・ ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びエリスロース4-リン酸(E4P)の代謝前駆体、特にグルコースである前記代謝前駆体、及び
・ 任意に、補助剤としてのフェニルアラニン
を含む培地で増殖し、そして、
前記培地からチロソールを抽出する、
前記方法。
【請求項2】
前記トランスジェニック細菌細胞は、Escherichia属であり、特に前記トランスジェニック細菌細胞は、E.coli種であり、より特に前記トランスジェニック細菌細胞は、E.coli BL21株である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子は、酵母由来であり、特にS.cerevisiae由来である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
サリドロシドを製造する方法であって、
- 請求項1~3のいずれか一項で特定されるとおりのトランスジェニック細菌細胞は、ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼ(UGT85A1)をさらに異種発現し、かつ
- 前記細胞を:
・ ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びエリスロース4-リン酸(E4P)の代謝前駆体、特にグルコース、及び
・ 任意に、補助剤としてフェニルアラニン、
を含む培地で増殖し、かつ
- 前記培地からサリドロシドを抽出する、
前記方法。
【請求項5】
前記ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、植物由来であり、特にArabidopsis由来であり、より特にA.thaliana由来である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記トランスジェニック細菌細胞は、以下のタンパク質:
- アルコールデヒドロゲナーゼ、
- DNA結合性転写調節タンパク質(tyrR)、
及び
- チロシンアミノトランスフェラーゼ
のいずれも過剰発現しない、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記トランスジェニック細菌細胞の唯一異種発現される遺伝子は:
i)前記方法がチロソールの製造を対象としている場合、前記細胞内で唯一異種発現される遺伝子は、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼであり;
ii)前記方法がサリドロシドの製造を対象としている場合、前記細胞内で唯一異種発現される遺伝子は、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ及びウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼである、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記過剰発現される遺伝子及び導入遺伝子は、1つ又は複数のプラスミドベクターを介して前記トランスジェニック細菌細胞に導入され、特に、
- フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ、及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼが、中コピープラスミドベクターによってコードされ、及び/又は
- ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼが、低コピープラスミドベクターによってコードされる、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記トランスジェニック細菌細胞は、前記細胞内で作動可能なプロモーター配列の制御下で前記異種発現又は過剰発現される酵素をコードする1つ又は複数のプラスミドを含み、特にT7プロモーター(配列番号31)、lacプロモーター(配列番号32)、tacプロモーター(配列番号33)、又はtrcプロモーター(配列番号34)の制御下で前記異種発現又は過剰発現される酵素をコードする1つ又は複数のプラスミドを含み、より特に:
- ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が、trcプロモーターの制御下にあり、及び/又は
- フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子が、T7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼをコードする遺伝子が、T7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- プレフェン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が、T7プロモーターの制御下にある、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記異種発現及び/又は過剰発現される遺伝子の発現は、イソプロピル-β-d-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することによって誘導され、特に約0.1mMの濃度のIPTGを96時間添加することによって誘導される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記培地は、10~50g/Lのグルコースを含み、特に15~30g/Lのグルコースを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記導入遺伝子は、前記トランスジェニック細菌細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記培地は:
- 5~10g/LのNaHPO・2HO、
- 2~4g/LのKHPO
- 0.25~1g/LのNaCl、
- 0.5~1.5g/LのNHCl、
- 1~3%(w/v)のグルコース、
- 0.01~0.05%(w/v)の酵母エキス、
- 3~7mMのMgSO
- 0.005~0.02g/LのCaCl
及び
- 抗生物質、
を含み、
- 特に前記抗生物質は、50~200μg/mLのアンピシリン、10~50μg/mLのカナマイシン、及び25~45μg/mLのクロラムフェニコールである、
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
a. 前記フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼは、配列番号1と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%の配列同一性を有し、特に85%、より特に90%、さらにより特に95%、又はなおさらにより特に95%超過の配列同一性を有し、かつ前記フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼは、配列番号1の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有し、及び/又は
b. 前記ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼは、配列番号2と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%の配列同一性を有し、特に85%、より特に90%、さらにより特に95%、又はなおさらにより特に95%超過の配列同一性を有し、かつ前記ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼは、配列番号2の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有し、及び/又は
c. 前記プレフェン酸デヒドロゲナーゼは、配列番号3と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%の配列同一性を有し、特に85%、より特に90%、さらにより特に95%、又はなおさらにより特に95%超過の配列同一性を有し、かつ前記プレフェン酸デヒドロゲナーゼは、配列番号3の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有し、及び/又は
d. 前記ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼは、配列番号4と少なくとも60%、65%、70%、75%の配列同一性を有し、特に85%、より特に90%、さらにより特に95%、又はなおさらにより特に95%超過の配列同一性を有し、かつ前記ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼは、配列番号4の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する、
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年2月08日に出願された欧州特許出願(EP)第21155780.6号、及び2021年9月13日に出願された欧州特許出願(EP)第21196276.6号、並びに2021年7月13日に出願されたポルトガル特許出願第20211000027222号の利益を主張するものであり、これらはすべて参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
本発明は、チロソール(tyrosol)を製造する方法であって、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(phenylpyruvate decarboxylase)を異種発現し、かつホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸(phospho-2-dehydro-3-deoxyheptonate)及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼ(prephenate dehydrogenase)を過剰発現し、pheAL及びfeaBがともに不活性化又は除去されているトランスジェニック細菌細胞を、ホスホエノールピルビン酸(phosphoenolpyruvate:PEP)及びエリスロース4-リン酸(erythrose 4-phosphate:E4P)の代謝前駆体、特にグルコース、及び任意に補助剤としてのフェニルアラニンを含む培地で増殖し;そして前記培地からチロソールを抽出する前記方法に関する。本発明はまた、サリドロシド(salidroside)を製造する方法であって、前記トランスジェニック細胞は、ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼ(UGT85A1、EC:2.4.1.)をさらに異種発現する前記方法に関する。
【0003】
説明
チロソールは工業的価値の高いフェノール化合物であり、精製化学製品として販売されている。
【0004】
サリドロシドはチロソールのグルコシドであり、推定抗うつ作用及び抗不安作用をもたらす可能性のある化合物の一つとして研究されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、植物中のチロソール濃度は低く、そのため商業製品の収量が低くなり、製造コストが高くなる。さらに、植物から高純度のチロソールを得るための天然抽出プロセスは複雑であり、そのため収率も比較的低い。天然に豊富に存在するにもかかわらず、天然資源からの抽出コストが非常に高いため、チロソールは工業的な目的のために化学合成法でも製造されているが、これらの方法は商業的な観点から改善の余地が大きい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
定義
本明細書の文脈で参照される「トランスジェニック細胞」とは、宿主細胞とは異なる生物に由来する少なくとも1つの遺伝子(本明細書では導入遺伝子と呼ぶ)を含む細胞を意味する。この遺伝子は、分子生物学的手法によってトランスジェニック宿主細胞に導入される。
【0007】
本明細書で参照される特定の遺伝子に関する「異種発現」とは、その遺伝子が異種発現するとされる宿主種以外の供給源にその遺伝子が由来することを意味する。
【0008】
本明細書で参照される特定の遺伝子に関する「過剰発現」とは、前記遺伝子の機能的(導入遺伝子又は自己の)バージョンの付加、及び/又は前記遺伝子の自己(天然)バージョンを制御するプロモーター配列の付加であり、これにより野生型(細菌)細胞に対して遺伝子の生物学的活性の有意に高い発現をもたらすことを意味する。遺伝子の生物学的活性の有意に高い発現とは、野生型細菌細胞と比較して、細菌細胞内に少なくとも1.5倍、特に少なくとも2倍の数のmRNA分子が存在することを意味する。過剰発現される遺伝子はまた、野生型の核酸及びアミノ酸配列と比較して、変異(置換、欠失及び/又は挿入)を含んでいることもある。変異は、酵素の効力を高めたり、発現速度を最適化したり、又は酵素特異性を変えたりする。
【0009】
本明細書で参照される特定の遺伝子に関する「不活性化」又は「ノックアウト」とは、その遺伝子の発現が野生型細菌細胞と比較して有意に減少し、特に少なくとも30倍、より特に少なくとも100倍減少しているか、又はその遺伝子の発現がないことを意味する。
【0010】
本明細書で参照される特定の遺伝子に関する「組換え遺伝子発現」とは、以下を意味する:組換え遺伝子は、分子生物学的手法によって宿主細胞に挿入される。組換え遺伝子は、宿主細胞と同じ生物に由来してもよいし、又は異なる生物に由来してもよい。
【0011】
「補助剤(supplement)」とは、細菌細胞にとって主要な炭素源ではないが、細胞の代謝が化合物の栄養要求を補うことができる十分な量である化合物の量を指す。フェニルアラニンは、pheAL欠失株の栄養要求をカバーするために必要である。本発明者らは、フェニルアラニンの供給源として酵母エキスを有するようなM9Yを使用した。酵母エキス、又は純粋なフェニルアラニンのいずれかのサプリメンテーション(補充)が必要である。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の第1の態様は、以下の酵素:
a. フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10、EC:4.1.1.80)
を異種発現し、以下の各々の酵素:
b. ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF、EC:2.5.1.54)
c. プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA、EC:5.4.99.5及びEC:1.3.1.12)
を過剰発現し、以下の各々の遺伝子:
i. pheAL(二機能性コリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼ(Bifunctional chorismate mutase/prephenate dehydratase)(UniProtKB-P0A9J8;EC:5.4.99.5)
ii. feaB(フェニルアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(Phenylacetaldehyde dehydrogenase)、UniProtKB-P80668;EC:1.2.1.39)
が不活性化又は除去されている(存在しない、発現しない)、
トランスジェニック細菌細胞を、
・ ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びエリスロース4-リン酸(E4P)の代謝前駆体、特にグルコース、及び
・ 任意に、補助剤としてのフェニルアラニン
を含む培地で増殖し、
そして、前記培地からチロソールを抽出する、
チロソールを製造する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、グルコースを炭素源として使用するE.coli BL21(DE3)におけるチロソール及びサリドロシドの生合成を示す。チロソールを製造(産生)するために、遺伝子aroFfbr、tyrAfbr及びScARO10をプラスミドにクローニングし、E.coli BL21(DE3)に形質転換してチロソール産生株を得た。サリドロシドを産生するために、遺伝子AtUGT85A1を異なるプラスミドにクローニングし、E.coli BL21(DE3)に形質転換し、チロソール産生株からサリドロシド産生株を得た。サリドロシド産生については、三角と丸の記号で示すとおり、関連する生合成遺伝子に対して動的制御が存在した:塗りつぶした三角はT7プロモーターの使用を示し、空の三角はtrcプロモーターの使用を示す;1つの丸は低コピー数プラスミドの使用を示し、2つの丸は中コピー数プラスミドの使用を示し、3つの丸は高コピー数プラスミドの使用を示す。略号:ホスホエノールピルビン酸(PEP);エリスロース4-リン酸(E4P);ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroFfbr);3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸7-リン酸(DAHP);プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrAfbr);4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(4-HPP);S.セレビシエ(S.cerevisiae)由来のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ScARO10);4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(4-HPAA);アルコールデヒドロゲナーゼ(Ps);シロイヌナズナ(A.thaliana)由来のウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼ(AtUGT85A1)。
図2図2は、E.coli BL21(DE3)におけるグルコースからのチロソール産生に最適なフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ScARO10、EipdC、及びKpPDC)の選択を示す。a)グルコースからのチロソール生成経路の概略図。b)M9Y培地中の0.1mMのiPTGで誘導されたST93株、ST135株、及びST136株のチロソール力価(g/L)。チロソールの検出のため、培養液は増殖の72時間後にサンプリングした。統計解析はスチューデントのt検定を用いて行った(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。すべてのデータはn=3の生物学的に独立した試料の平均を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
図3図3は、E.coli BL21(DE3)におけるグルコースからのチロソール産生に対するadhPの過剰発現の影響を示す。a)グルコースからのチロソール産生の経路の概略図。b)M9Y培地中の0.1mMのIPTGで誘導したST93株、ST81株、ST114株のチロソール力価(g/L)。チロソールの検出のため、培養液は培養の48時間後にサンプリングした。ST81株を22℃と30℃とで培養し、チロソール力価への影響を評価した。統計解析はスチューデントのt検定を用いて行った(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。すべてのデータはn=3の生物学的に独立した試料の平均を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
図4図4は、E.coli BL21(DE3)におけるグルコースからのチロソール産生を改善するための芳香族アミノ酸経路の操作を示す。a)グルコースからのチロソール産生の経路の概略図。b)フェニルアラニンのサプリメンテーションの有又は無で、M9Y培地中の0.1mMのIPTGで誘導されたfeaB遺伝子及びpheAL遺伝子のノックアウトを有するST170株及び191株のチロソール力価(g/L)。チロソールの検出のために培養液は増殖の96時間後にサンプリングした。統計解析はスチューデントのt検定を用いて行った(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。すべてのデータはn=3の生物学的に独立した試料の平均を表し、エラーバーは標準偏差を示す。ARO10_aroFfbr_tyrAfbrはプラスミドpET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbrに対応し、adhPはpET-28a(+)_adhPに対応する。
図5図5は、E.coli BL21(DE3)におけるグルコースからのサリドロシド産生に対するAtUGT85A1の発現レベルの違いによる影響を示す。a)グルコースからのサリドロシド産生の経路の概略図、b)M9Y培地中で0.1mMのIPTGで誘導したST92株、ST116株、ST131株、及びST176株のサリドロシド及びチロソールの力価(g/L)。サリドロシド及びチロソールの検出のため、培養液を増殖の48時間後に採取した。統計解析はスチューデントのt検定を用いて行った(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。すべてのデータはn=3の生物学的に独立した試料の平均を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
図6図6は、E.coli BL21(DE3)におけるグルコースからのサリドロシド産生を改善するための芳香族アミノ酸経路の操作を示す。a)グルコースからのサリドロシド産生の経路の概略図。b)フェニルアラニンのサプリメンテーションの有又は無でのM9Y培地中の0.1mMのIPTGで誘導したST172株とST178株とのサリドロシド力価(g/L)。サリドロシド検出のため、増殖の96時間後に培養液をサンプリングした。統計解析はスチューデントのt検定を用いて行った(p<0.05、***p<0.001)。すべてのデータはn=3の生物学的に独立した試料の平均を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
図7図7は、E.coli BL21(DE3)におけるグルコースからのヒドロキシチロソール産生に対するhpaBCの発現レベルの違いによる影響を示す。a)グルコースからのヒドロキシチロソール産生経路の概略図。b)1g/Lのアスコルビン酸を補充したM9Y培地中、0.1mMのIPTGで誘導したST76、ST119及びST132株のヒドロキシチロソール力価(g/L)。ヒドロキシチロソールの検出のため、培養液を48時間増殖後にサンプリングした。統計解析はスチューデントのt検定を用いて行った(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。(すべてのデータはn=3の生物学的に独立した試料の平均を表し、エラーバーは標準偏差を示す。)
図8図8は、E.coli BL21(DE3)におけるグルコースからのヒドロキシチロソール産生に対するhpaBCの発現レベルの違いによる影響を示す。a)グルコースからのヒドロキシチロソール産生経路の概略図。b)25%(v/v)の1-ドデカノールの添加の有又は無での1g/Lのアスコルビン酸を補充したM9Y培地中の0.1mMのIPTGで誘導したST119株とST132株のヒドロキシチロソール力価(g/L)。ヒドロキシチロソールの検出のため、培養液を48時間増殖後にサンプリングした。統計解析はスチューデントのt検定を用いて行った。すべてのデータはn=3の生物学的に独立した試料の平均を表し、エラーバーは標準偏差を示す(材料及び方法を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特定の実施形態では、前記トランスジェニック細菌細胞は、Escherichia属であり、特定の実施形態では、前記トランスジェニック細菌細胞は、E.coli種である。特定の実施形態では、前記トランスジェニック細菌細胞は、E.coli BL21株である。
【0015】
特定の実施形態では、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子は酵母由来である。特定の実施形態では、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子は、S.セレビシエ(S.cerevisiae)由来である。
【0016】
本発明の第2の態様は、サリドロシドを製造する方法に関し、
- 前述の実施形態のいずれかで特定されるとおりのトランスジェニック細胞は、ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼ(UGT85A1、EC:2.4.1.)をさらに異種発現し、そして
- 前記細胞を:
・ ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びエリスロース4-リン酸(E4P)の代謝前駆体、特にグルコース、及び
・ 任意に、補助剤としてのフェニルアラニン、
を含む培地で増殖し、かつ
- 前記培地からサリドロシドを抽出する。
【0017】
本発明の第3の態様は、ヒドロキシチロソールを製造する方法に関し、以下の酵素:
a.フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10、EC:4.1.1.80)
を異種発現し、以下の各々の酵素:
b.ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF、EC:2.5.1.54)
c.プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA、EC:5.4.99.5及びEC:1.3.1.12)
d.4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼ(hpaBC、EC:1.14.14.9)
を過剰発現するトランスジェニック細菌細胞を、
・ ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びエリスロース4-リン酸(E4P)の代謝前駆体、特にグルコース、及び
・ 任意に、補助剤としてのフェニルアラニン、
を含む培地で増殖し、そして
前記培地からヒドロキシチロソールを抽出する。
【0018】
別の本発明の第3の態様は、ヒドロキシチロソールを製造する方法に関し、以下の各々の酵素:
a.フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10、EC:4.1.1.80)
b.ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF、EC:2.5.1.54)
c.プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA、EC:5.4.99.5及びEC:1.3.1.12)
d.4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼ(hpaBC、EC:1.14.14.9)
を組換え発現するトランスジェニック細菌細胞を:
・ ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びエリスロース4-リン酸(E4P)の代謝前駆体、特にグルコース、及び
・ 任意に、補助剤としてのフェニルアラニン、
を含む培地で増殖し、そして
前記培地からヒドロキシチロソールを抽出する。
【0019】
特定の実施形態では、4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子は、Escherichia由来である。特定の実施形態では、4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子は、E.coli由来である。
【0020】
特定の実施形態では、4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子は、アミノ酸置換S210T、A211L、及びQ212Eを含む。
【0021】
第3の態様の特定の実施形態では、前記培地は、5~10g/LのNaHPO・2HO、2~4g/LのKHPO、0.25~1g/LのNaCl、0.5~1.5g/LのNHCl、1~3%(w/v)のグルコース、0.01~0.05%(w/v)の酵母エキス、3~7mMのMgSO、0.005~0.02g/LのCaCl、0.5~2.0g/Lのアスコルビン酸、及び抗生物質を含む。
【0022】
第3の態様の特定の実施形態では、ドデカノールが培地に添加される。第3の態様の特定の実施形態では、約25%のドデカノール(v/v)が培地に添加される。ドデカノールは水と混和しないため、培地の上に第2の層を作る。
【0023】
第3の態様の特定の実施形態では、前記細胞は2%(v/v)以上のOで増殖される。第3の態様の特定の実施形態では、前記細胞は2~4%(v/v)のOで増殖される。
【0024】
特定の実施形態では、ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は植物に由来する。特定の実施形態では、ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子はArabidopsis(シロイヌナズナ)に由来する。特定の実施形態では、ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、A.thalianaに由来する。
【0025】
特定の実施形態では、トランスジェニック細菌細胞は、以下のタンパク質:
- アルコールデヒドロゲナーゼ(UniProtKB-P39451;EC:1.1.1.1)、
- DNA結合性転写調節タンパク質(tyrR NCBI GenPept:NP_415839.1)、及び
- チロシンアミノトランスフェラーゼ、(UniProtKB-P04693、EC:2.6.1.57)
のいずれも過剰発現しない。
【0026】
特定の実施形態では、トランスジェニック細菌細胞の導入遺伝子は上記の導入遺伝子だけである。
【0027】
特定の実施形態では、過剰発現される遺伝子及び導入遺伝子は、1つ又は複数のプラスミドベクターを介してトランスジェニック細菌細胞に導入され、特に:
- フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ、及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼが、中コピープラスミドベクターによってコードされ、及び/又は
- ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼが低コピープラスミドベクターによってコードされ、及び/又は
- 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼが低コピープラスミドベクターによってコードされる。
【0028】
特定の実施形態では、前記トランスジェニック細菌細胞は、前記細胞において作動可能なプロモーター配列、特にT7プロモーター(配列番号31)、lacプロモーター(配列番号32)、tacプロモーター(配列番号33)又はtrcプロモーター(配列番号34)の制御下で、前記異種発現又は過剰発現される酵素をコードする1つ又は複数のプラスミドを含み、より特に:
- ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子がtrcプロモーターの制御下にあり、及び/又は
- フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- プレフェン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にあり;及び/又は
- 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にある。
【0029】
特定の実施形態では、前記異種及び/又は過剰発現される遺伝子の発現は、イソプロピル-β-d-チオガラクトピラノシド(IPTG:isopropyl β-d-thiogalactopyranoside)を添加することにより、特に約0.1mMの濃度のIPTGを96時間添加することにより、誘導される。
【0030】
特定の実施形態では、前記培地は、10~50g/Lのグルコース、特に15~30g/Lのグルコースを含む。
【0031】
特定の実施形態では、前記導入遺伝子は、前記トランスジェニック細菌細胞における発現のためにコドン最適化されている。
【0032】
特定の実施形態では、前記培地は、5~10g/L NaHPO・2HO、2~4g/L KHPO、0.25~1g/L NaCl、0.5~1.5g/L NHCl、1~3%(w/v)グルコース、0.01~0.05%(w/v)酵母エキス、3~7mM MgSO、0.005~0.02g/LのCaCl、及び抗生物質を含み、特に抗生物質は、50~200μg/mLのアンピシリン、10~50μg/mLのカナマイシン、及び25~45μg/mLのクロラムフェニコールである。
【0033】
特定の実施形態では、前記細胞は22℃~30℃、特に約30℃で増殖される。
【0034】
特定の実施形態では、タンパク質フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼは、配列番号1と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号1の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する。特定の実施形態では、タンパク質ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼは、配列番号2と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号2の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する。特定の実施形態では、タンパク質プレフェン酸デヒドロゲナーゼは、配列番号3と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号3の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する。特定の実施形態では、タンパク質ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼは、配列番号4と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号4の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する。特定の実施形態では、タンパク質4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼは、配列番号035と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号035の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する。
【0035】
本発明の第4の態様は、上述の実施形態のいずれか1つに規定されるとおりのトランスジェニック細胞に関する。
【0036】
別の第4の態様は、トランスジェニック細胞であって、以下の酵素:
a. フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10、EC:4.1.1.80)
を異種発現し、かつ以下の各々の酵素:
b. ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF、EC:2.5.1.54)
c. プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA、EC:5.4.99.5及びEC:1.3.1.12)
を過剰発現し、かつ以下の各々の遺伝子:
i. pheAL(二機能性コリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼ(UniProtKB-P0A9J8;EC:5.4.99.5)
ii. feaB(フェニルアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ、UniProtKB-P80668、EC:1.2.1.39)
が不活化又は除去されている(存在しない、発現しない)、
前記トランスジェニック細胞に関する。
【0037】
さらに別の第4の態様は、トランスジェニック細胞であって、以下の各々の酵素:
a. フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10、EC:4.1.1.80);
b. ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼ(UGT85A1、EC:2.4.1.);
を異種発現し、以下の各々の酵素:
c. ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF、EC:2.5.1.54)
d. プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA、EC:5.4.99.5及びEC:1.3.1.12)
を過剰発現し、以下の各々の遺伝子:
i. pheAL(二機能性コリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼ(UniProtKB-P0A9J8;EC:5.4.99.5)
ii. feaB(フェニルアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ、UniProtKB-P80668、EC:1.2.1.39)
が不活化又は除去されている(存在しない、発現しない)、
前記トランスジェニック細胞に関する。
【0038】
さらに別の第4の態様は、トランスジェニック細胞であって、以下の酵素:
a. フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10、EC:4.1.1.80)
を異種発現し、以下の各々の酵素:
b. ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF、EC:2.5.1.54)
c. プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA、EC:5.4.99.5及びEC:1.3.1.12)
d. 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼ(hpaBC、EC:1.14.14.9)
を過剰発現する、
前記トランスジェニック細胞に関する。
【0039】
第4の態様の特定の実施形態では、前記トランスジェニック細菌細胞は、Escherichia属であり、特に、前記トランスジェニック細菌細胞は、E.coli種であり、より特に、前記トランスジェニック細菌細胞は、E.coli BL21株である。
【0040】
第4の態様の特定の実施形態では、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子は、酵母由来、特にS.cerevisiae由来である。
【0041】
第4の態様の特定の実施形態では、4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子は、Escherichia由来、特にE.coli由来である。
【0042】
第4の態様の特定の実施形態では、4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子は、アミノ酸置換S210T、A211L、及びQ212Eを含む。
【0043】
第4の態様の特定の実施形態では、ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、植物由来、特にArabidopsis由来、より特にA.thaliana由来である。
【0044】
第4の態様の特定の実施形態では、トランスジェニック細菌細胞は、以下のタンパク質:
- アルコールデヒドロゲナーゼ(UniProtKB-P39451;EC:1.1.1.1)、
- DNA結合性転写調節タンパク質(tyrR NCBI GenPept:NP_415839.1)、及び
- チロシンアミノトランスフェラーゼ、(UniProtKB-P04693、EC:2.6.1.57)
のいずれも過剰発現しない。
【0045】
第4の態様の特定の実施形態では、トランスジェニック細菌細胞の導入遺伝子は上記の導入遺伝子だけである。
【0046】
第4の態様の特定の実施形態では、過剰発現される遺伝子及び導入遺伝子は、1つ又は複数のプラスミドベクターを介してトランスジェニック細菌細胞に導入され、特に:
- フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ、及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼが、中コピープラスミドベクターによってコードされ、及び/又は
- ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼが、低コピープラスミドベクターによってコードされ、及び/又は
- 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼが、低コピープラスミドベクターによってコードされている。
【0047】
第4の態様の特定の実施形態では、前記トランスジェニック細菌細胞は、前記細胞において作動可能なプロモーター配列の制御下、特にT7プロモーター(配列番号31)、lacプロモーター(配列番号32)、tacプロモーター(配列番号33)、又はtrcプロモーター(配列番号34)の制御下で、前記異種発現又は過剰発現される酵素をコードする1つ又は複数のプラスミドを含み、より特に:
- ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、trcプロモーターの制御下にあり、及び/又は
- フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子は、T7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼをコードする遺伝子は、T7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- プレフェン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、T7プロモーターの制御下にあり;及び/又は
- 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子は、T7プロモーターの制御下にある。
【0048】
第4の態様の特定の実施形態では、タンパク質フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼは、配列番号1と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号1の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する。第4の態様の特定の実施形態では、タンパク質ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼは、配列番号2と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号2の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する。第4の態様の特定の実施形態では、タンパク質プレフェン酸デヒドロゲナーゼは、配列番号3と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号3の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する。第4の態様の特定の実施形態では、タンパク質ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼは、配列番号4と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号4の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する。第4の態様の特定の実施形態では、タンパク質4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼは、配列番号035と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号035の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する。
【0049】
本明細書はまた、以下の項目を備える。
項目
項目1.ヒドロキシチロソールを製造する方法であって、以下の酵素:
a. フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10)
を異種発現し、以下の各々の酵素:
b. ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF)
c. プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA)
d. 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼ(hpaBC
を過剰発現するトランスジェニック細菌細胞を:
・ ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びエリスロース4-リン酸(E4P)の代謝前駆体、特にグルコース、及び
・ 任意に、補助剤としてのフェニルアラニン
を含む培地で増殖し、そして
前記培地からヒドロキシチロソールを抽出する、前記方法。
項目2.前記トランスジェニック細菌細胞は、Escherichia属であり、特に前記トランスジェニック細菌細胞は、E.coli種であり、より特に前記トランスジェニック細菌細胞は、E.coli BL21株である、項目1に記載の方法。
項目3.前記フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子は、酵母由来であり、特にS.cerevisiae由来である、項目1又は2に記載の方法。
項目4.前記4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子は、Escherichia由来であり、特にE.coli由来である、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
項目5.前記4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子は、アミノ酸置換S210T、A211L、及びQ212Eを含む、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
項目6.前記トランスジェニック細菌細胞は、以下のタンパク質:
- アルコールデヒドロゲナーゼ、
- DNA結合性転写調節タンパク質(tyrR)、及び
- チロシンアミノトランスフェラーゼ
のいずれも過剰発現しない、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
項目7.前記トランスジェニック細菌細胞の唯一異種発現される遺伝子は、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼである、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
項目8.前記過剰発現される遺伝子及び導入遺伝子は、1つ又は複数のプラスミドベクターを介して前記トランスジェニック細菌細胞に導入され、特に:
- フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ、及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼは、中コピープラスミドベクターによってコードされ、及び/又は
- 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼは、低コピープラスミドベクターによってコードされている、
項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
項目9.前記トランスジェニック細菌細胞は、前記細胞内で作動可能なプロモーター配列の制御下で、特にT7プロモーター(配列番号31)、lacプロモーター(配列番号32)、tacプロモーター(配列番号33)、又はtrcプロモーター(配列番号34)の制御下で、前記異種発現又は過剰発現される酵素をコードする1つ又は複数のプラスミドを含み、より特に:
- 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- プレフェン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にある、
項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
項目10.前記異種発現及び/又は過剰発現される遺伝子の発現は、イソプロピル-β-d-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することによって誘導され、特に約0.1mMの濃度のIPTGを96時間添加することによって誘導される、項目9に記載の方法。
項目11.前記培地は、10~50g/Lのグルコースを含み、特に15~30g/Lのグルコースを含む、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
項目12.前記導入遺伝子は、前記トランスジェニック細菌細胞における発現に対してコドン最適化されている、項目1~11のいずれか一項に記載の方法。
項目13.前記培地は:
・ 5~10g/L NaHPO・2HO、
・ 2~4g/L KHPO
・ 0.25~1g/L NaCl、
・ 0.5~1.5g/L NHCl、
・ 1~3%(w/v)グルコース、
・ 0.01~0.05%(w/v)酵母エキス、
・ 3~7mM MgSO
・ 0.005~0.02g/L CaCl
・ 0.5~2.0g/L アスコルビン酸、及び
・ 抗生物質、特に50~200μg/mLのアンピシリン、10~50μg/mLのカナマイシン、及び25~45μg/mLのクロラムフェニコールである前記抗生物質、
を含む、項目1~12のいずれか一項に記載の方法。
項目14.ドデカノールが前記培地に添加され、特に約25%ドデカノール(v/v)が前記培地に添加される、項目1~13のいずれか一項に記載の方法。
項目15.前記細胞を、2%(v/v)以上のOで増殖し、特に2~4%(v/v)のOで増殖する、項目1~14のいずれか一項に記載の方法。
項目16.
a.タンパク質フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼは、配列番号1と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号1の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有し、及び/又は
b.タンパク質ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼは、配列番号2と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号2の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有し、及び/又は
c.タンパク質プレフェン酸デヒドロゲナーゼは、配列番号3と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号3の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有し、及び/又は
d.タンパク質4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼは、配列番号035と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号035の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する、項目1~15のいずれか一項に記載の方法。
項目17.項目1~16のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目18.トランスジェニック細胞であって、以下の酵素:
a. フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10)
を異種発現し、かつ以下の各々の酵素:
b. ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF)
c. プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA)
を過剰発現し、かつ以下の各々の遺伝子:
i. pheAL(二機能性コリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼ)
ii. feaB(フェニルアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ)
を発現しない、
前記トランスジェニック細胞。
項目19.トランスジェニック細胞であって、以下の各々の酵素:
a. フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10);
b. ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼ(UGT85A1);
を異種発現し、かつ以下の各々の酵素:
c. ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF)
d. プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA)
を過剰発現し、かつ以下の各々の遺伝子:
i. pheAL(二機能性コリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼ)
ii. feaB(フェニルアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ)、
を発現しない、
前記トランスジェニック細胞。
項目20.トランスジェニック細胞であって、以下の酵素:
a. フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10)
を異種発現し、かつ以下の各々の酵素:
b. ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroF)、
c. プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrA)、
d. 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼ(hpaBC
を過剰発現する、前記トランスジェニック細胞。
項目21.前記トランスジェニック細菌細胞は、Escherichia属であり、特に前記トランスジェニック細菌細胞は、E.coli種であり、より特に前記トランスジェニック細菌細胞は、E.coli BL21株である、項目17~20のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目22.前記フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子は、酵母由来であり、特にS.cerevisiae由来である、項目17~21のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目23.前記4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子は、Escherichia由来であり、特にE.coli由来である、項目17又は20~22のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目24.前記4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子は、アミノ酸置換S210T、A211L、及びQ212Eを含む、項目17又は20~23のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目25.ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、植物由来であり、特にArabidopsis由来であり、より特にA.thaliana由来である、項目17若しくは19、又は項目21~22のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目26.前記トランスジェニック細菌細胞は、以下のタンパク質:
- アルコールデヒドロゲナーゼ(UniProtKB-P39451;EC:1.1.1.1)、
- DNA結合性転写調節タンパク質(tyrR NCBI GenPept:NP_415839.1)、及び
- チロシンアミノトランスフェラーゼ、(UniProtKB-P04693、EC:2.6.1.57)
のいずれも過剰発現しない、項目17~25のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目27.前記トランスジェニック細胞の唯一異種発現される遺伝子は、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼである、項目18又は20~26のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目28.前記トランスジェニック細胞の唯一異種発現される遺伝子は、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ及びウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼである、項目19又は21~26のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目29.前記過剰発現される遺伝子及び導入遺伝子は、1つ又は複数のプラスミドベクターを介して前記トランスジェニック細菌細胞に導入され、特に:
- フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼが、中コピープラスミドベクターによってコードされ、及び/又は
- ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼが、低コピープラスミドベクターによってコードされ、及び/又は
- 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼが、低コピープラスミドベクターによってコードされる、
項目17~27のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目30.前記トランスジェニック細菌細胞は、前記細胞内で作動可能なプロモーター配列の制御下で、特にT7プロモーター(配列番号31)、lacプロモーター(配列番号32)、tacプロモーター(配列番号33)、又はtrcプロモーター(配列番号34)の制御下で、前記異種発現又は過剰発現される酵素をコードする1つ又は複数のプラスミドを含み、より特に:
- ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子がtrcプロモーターの制御下にあり、及び/又は
- フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にあり、及び/又は
- プレフェン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にあり;及び/又は
- 4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子がT7プロモーターの制御下にある、
項目17~28のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
項目31.
- タンパク質フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼは、配列番号1と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号1の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有し、及び/又は
- タンパク質ホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼは、配列番号2と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号2の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有し、及び/又は
- タンパク質プレフェン酸デヒドロゲナーゼは、配列番号3と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号3の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有し、及び/又は
- タンパク質ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼは、配列番号4と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号4の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有し、及び/又は
- タンパク質4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼは、配列番号035と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は95%超過の配列同一性を有し、かつ配列番号035の触媒活性の少なくとも75%の触媒活性を有する、
項目17~29のいずれか一項に記載のトランスジェニック細胞。
【0050】
材料及び方法
クローニング戦略
遺伝子クローニング及びベクター増殖にはE.coli DH5α細胞(New England BioLabs、マサチューセッツ州、米国)を用いた。この菌株は、適切な抗生物質濃度のルリア・ベルタニ(LB)培地(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキス、10g/LのNaCl)で培養した。この培地の固形バージョンには、20g/Lの寒天を含んだ。培養はすべて37℃で行い、液体培養の場合は振盪条件下(200rpm)で行った。長期保存のため、選択培地の一晩培養液にグリセロールを最終濃度30%(v/v)まで加え、-80℃の冷凍庫で保存した。
【0051】
この研究で使用した遺伝子は、LifeECO Thermal CyclerでPhusion High-Fidelity DNAポリメラーゼ(Thermo Scientific、ウォルサム、米国)を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅した。プライマーはすべてIntegrated DNA Technologies(コーラルビル、米国)から購入した。DNA Clean and Concentrator DNAキット(Zymo Research、アーバイン、米国)を用いてDNA断片を精製した。
【0052】
プラスミドはPlasmid Miniprepキット(Zymo Research)を用いて抽出した。すべての消化は、適切なFastDigest(登録商標)制限エンドヌクレアーゼ(Thermo Scientific)を用いて行った。ライゲーションはT4 DNAリガーゼ(Thermo Scientific)を用いて行い、Mix & Go E.coli Transformation Kit&Buffer Set(Zymo Research)を用いて化学的にコンピテントなE.coli DH5α細胞及びE.coli BL21(DE3)に形質転換した。ライゲーションの成功は、DreamTaq(Thermo Scientific)を用いたコロニーPCRによって確認し、さらにシーケンシング(StabVida、リスボン、ポルトガル)によって確認した。手順は製造元の指示に従って実施した。
【0053】
tyrAfbr遺伝子及びコドン最適化遺伝子ScARO10、KpPDC、EipdC、及びAtUGT85A1を、IDT DNA Technology(コーラルビル、米国)から購入し、tyrAfbr及びScARO10の場合はpET-21a(+)ベクター(Novagen、ダルムシュタット、ドイツ)にクローニングし、KpPDC及びEipdCの場合はpJET1.2ベクター(CloneJET PCRクローニングキット、Thermo Scientific)にクローニングし、UGT遺伝子の場合はpET-28a(+)ベクター(Novagen、ダルムシュタット、ドイツ)にクローニングした。aroFfbr及びhpaBC遺伝子は、New England BioLabs(マサチューセッツ州、米国)のE.coli BL21(DE3)ゲノムDNAから増幅した。hpaBC遺伝子は、チロソールに対する活性を向上させるために、HpaBサブユニットのS210T、A211L及びQ212Eで変異させた(Chen、2019)。adhPは、Isabel Rocha氏のグループ(ミーニョ大学、ポルトガル)の厚意により提供された。
【0054】
プラスミドの構築及び菌株
プラスミドpET-21a(+)、pET-28a(+)、pACYCDuet、及びpRSFDuet(Novagen、ダルムシュタット、ドイツ)を用いて、T7lacプロモーター及びリボソーム結合部位(RBS)の制御下で各タンパク質を個別に発現させた。すべてのプラスミドを従来の分子生物学的手法によって構築し、プラスミド構築の成功はコロニーPCRと適切なプライマーを用いた目的の領域のシーケンシングによって確認した。
【0055】
遺伝子クローニング及びプラスミド増殖の宿主としてE.coli DH5αを用い、一方で親株であるE.coli BL21(DE3)はチロソール、サリドロシド、ヒドロキシチロソールを製造(産生)するように操作した。すべての菌株について、適切な抗生物質濃度(100μg/mLのアンピシリン、30μg/mLのカナマイシン、及び34μg/mLのクロラムフェニコール)を含むLB寒天プレートで陽性形質転換体を単離し、37℃で一晩培養した。形質転換の成功を確認するため、数個の形質転換コロニーを、適切な抗生物質を加えたLB培地で一晩培養した。その後、プラスミドを抽出し、適切な制限酵素で消化し、1%(w/v)のアガロースゲルで消化を実行することにより、正しい断片の長さを確認した。
【0056】
チロソールプラスミド及び菌株の構築
アンピシリン耐性マーカーを持つプラスミドpET-21a(+)(Novagen)を用いて、遺伝子adhP、aroFfbr、tyrAfbr及びコドン最適化遺伝子ScARO10をクローニングした。最適化されたフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子ScARO10を、プライマー対ARO10_pet_fw/ARO10_RBS_rev(プライマーは表1に示す)を用いてPCRによって増幅し、プラスミドpET-21a(+)を、プライマー対pet21a_fw/pet21a_revを用いてPCRによって増幅した。これらの2つの断片を、環状ポリメラーゼ伸長クローニング(CPEC)を用いて融合した(Quan,J.ら,Nat Protoc6,242-251(2011))。次に、このPCR産物を、NdeIとHindIIIで制限したプライマーARO10_pet_fw及びARO10_hindiii_revを用いてPCRで増幅し、またこれらの酵素で制限したプラスミドpET-21a(+)にクローニングし、pET-21a(+)_ScARO10を生成した。D147N変異を持つaroFfbrのPCR産物を、プライマー対aroF_fbr_RBS_fw/aroF_D147N_rev、及びaroF_D147N_fw/aroF_fbr_RBS_revを用いて、PCRで2つの断片に増幅した。これらの2つの断片をプライマー対aroF_fbr_RBS_fw/aroF_fbr_RBS_revを用いてPCR法で融合し、かつ前の構築物のHindIII及びNotI制限部位に制限及びライゲーションし、pET-21a(+)_ScARO10_aroFfbrを生成した。M53I及びA354Vの変異を持つコリスミ酸ムターゼ又はプレフェン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子tyrAfbrは、IDT DNA Technology(米国)から取り寄せ、前の構築物にクローニングするためにNotI及びXhoIで制限して、pET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbrを生成した。アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子adhPは、Isabel Rocha教授のグループ(ミーニョ大学、ポルトガル)の厚意により提供されたプラスミドpET-28a(+)_adhPから、プライマーTyr2_adhp_JO_fw、及びTyr2_adhp_JO_revを用いてPCR法により増幅し、プラスミドpET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbrをNotIで制限した後、該増幅断片及び該プラスミドを次いでIn-Fusion(登録商標)HD Cloning Plusキット(TaKaRa、フランス)を用いてライゲーションし、pET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_adhP_tyrAfbrを形成した。
【0057】
【表1】
【0058】
あるいは、カナマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドpET-28a(+)(Novagen)も、aroFfbr及びtyrAfbrの遺伝子のクローニングに使用した。そのために、pET-28a(+)プラスミドをpet21a_fw及びpet28a_RBS_revのプライマーを用いてPCRで増幅し、そしてaroFfbr遺伝子を、RRBS_linker_st7_fw及びaroF_fbr_RBS_revのプライマーを用いて、pET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbrプラスミドから増幅した。その後、環状ポリメラーゼ伸長クローニング(CPEC)を用いて両断片を結合し、pET-28a(+)_aroFfbrを生成した。その後、このプラスミドをプライマーpet21a_fwとaroF_fbr_RBS_revとを用いてPCRで増幅し、tyrAfbr遺伝子はpET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbrプラスミドからプライマーRBS_linker_st7_fwとtyrA_fbr_pet_revとを用いて増幅した。最後に、これら2つの断片をCPEC戦略で融合し、pET-28a(+)_aroFfbr_tyrAfbrを形成した。
【0059】
さらに、ScARO10の代わりに、Enterobacter sp.由来のEipdC遺伝子とKomagataella phaffii由来のKpPDC遺伝子によりそれぞれコードされる2つの別のデカルボキシラーゼを試験した。そのために、事前にpJET1.2(Thermo Scientific)にクローニングした合成遺伝子をXbaI及びHindIIIで制限し、またこれらの酵素で制限したpET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbrにクローニングし、それぞれ、pET-21a(+)_EipdC_aroFfbr_tyrAfbr及びpET-21a(+)_KpPDC_aroFfbr_tyrAfbrを生成した。
【0060】
本研究で構築及び使用したプラスミド及びチロソール産生株を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
サリドロシドプラスミド及び菌株の構築
プラスミドpET-28a(+)を用いて、チロソールからサリドロシドへの変換で構成される提示の経路の最終段階に対応するコドン最適化遺伝子AtUGT85A1をクローニングした。AtUGT85A1遺伝子を、NcoI及びBamHIに制限部位を有するプライマーUGT85a1_ncoi_fw及びUGT85A1_bamhi_rev(プライマーを表3に示す)を用いてPCRにより増幅し、pET-28a(+)にクローニングし、pET-28a(+)_AtUGT85A1を生成した。
【0063】
さらに、異なるプラスミドのコピー数を試験するために、AtUGT85A1遺伝子を、それぞれクロラムフェニコール及びカナマイシンの耐性マーカーを有するプラスミドpACYCDuet及びpRSFDuetにクローニングした。pACYCDuet_AtUGT85A1プラスミド及びpRSFDuet_AtUGT85A1プラスミドを構築するために、AtUGT85A1遺伝子をpET28a(+)_AtUGT85A1プラスミドからNdeI及びXhoIを用いて抽出し、またこれらの酵素で消化したpACYCDuet及びpRSFDuetにそれぞれクローニングした。
【0064】
さらに、サリドロシド産生を増加させるために、プライマーpacyc_trc_mc2_fw及びpacyc_trc_mc2_revを用いてPCR法を使用して、pACYCDuet_AtUGT85A1内のT7lacプロモーターをtrcプロモーターに置き換え、pACYCDuet_trc-プロモーター_AtUGT85A1を生成した。
【0065】
【表3】
【0066】
本研究で構築及び使用したプラスミド及びサリドロシド産生株を表4に示す。
【表4】

【0067】
ヒドロキシチロソールプラスミド及び菌株の構築
プラスミドpET-28a(+)を用いて、チロソールをヒドロキシチロソールに変換する役割の酵素であるHpaBサブユニットのS210T、A211L、及びQ212Eに変異を持つhpaBC遺伝子をクローニングした。Chenらによって同定されたこれらの変異は、チロソールに対するHpaBの活性及び特異性を向上させる。hpaBC遺伝子は、E.coli BL21(DE3)のゲノムDNAを鋳型として使用して、プライマー対hpaB_rbs_xbai/hpab_210_2_rev及びhpab_210_2_fw/hpac_bamhi_revを用いて、所定の変異を挿入するために2つの断片にPCRにより増幅した(プライマーを表5に示す)。これらの2つの断片をプライマー対hpaB_rbs_xbai/hpac_bamhi_revを用いてPCR法を用いて融合し、プラスミドpET-28a(+)のXbaI及びBamHI制限部位に制限及びライゲーションし、pET-28a(+)_hpaBCを形成した。
【0068】
さらに、プラスミドコピー数の違いによる影響を試験するため、hpaBC遺伝子を、それぞれクロラムフェニコールとカナマイシンとの耐性マーカーを持つプラスミドpACYCDuetとpRSFDuetとにクローニングした。いずれの場合も、hpaBC遺伝子をpET-28a(+)_hpaBCプラスミドから抽出し、各プラスミドのNdeI及びXhoIの制限部位に制限及びライゲーションし、pACYCDuet_hpaBC及びpRSFDuet_hpaBCを生成した。
【0069】
【表5】
【0070】
本研究で構築及び使用したプラスミド及びヒドロキシチロソール産生株を表6に示す。
【0071】
【表6】
【0072】
菌株の維持及び培養培地
全菌株をLBブロス培地(10g/L トリプトン、5g/L 酵母エキス、10g/L NaCl)及びM9Y培地で培養した。M9Y培地は、1×M9最小塩類(NaHPO・2HO、8.5g/L;KHPO、3.0g/L;NaCl、0.5g/L;NHCl、1.0g/L)及び2%(w/v)グルコースを含有し、かつ0.025%(w/v)酵母エキス、5mM MgSO、0.011g/L CaCl、及び適切な濃度の抗生物質(100μg/mL アンピシリン、30μg/mL カナマイシン、及び34μg/mL クロラムフェニコール)を補充したものであった。さらに、E.coli BL21(DE3)ΔpheALΔfeaBをバックグラウンドとする株には、20mg/Lのフェニルアラニンを補充した。
【0073】
操作したE.coli株の単一コロニーを、適切な抗生物質を含む10mlの液体LB培地に植菌するのに使用し、37℃で一晩、200rpmで撹拌して増殖させた。次いで、前培養液を、初期光学密度(OD600)0.1で、適切な抗生物質を含む50mLのLB培地を含有する250mL振盪フラスコに移した。最初に、細胞密度(OD600)が0.6~0.8になるまで、200rpm、37℃のロータリーシェーカーで培養した。この時点で、チロソール及びサリドロシドの場合、細胞を遠心分離(6000rpm、10分間)により回収し、適切な抗生物質を加えた50mlのM9Y培地に再懸濁し、最終濃度0.1mM又は1mMのイソプロピル1-チオ-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)で遺伝子発現を誘導した。誘導後、培養液は22℃又は30℃で、200rpmで撹拌しながらインキュベートした。HPLC分析及び細胞密度測定のため、0時間、誘導時間24、48、72、96、及び121時間に培養液の試料を採取した。ヒドロキシチロソールの場合、以下の複数の変更を加えて上記のように細胞を培養した:a)1g/Lのアスコルビン酸の添加、b)誘導16時間での増殖培地への12.5mlの1-ドデカノールの添加又は非添加。これらの配合は、ヒドロキシチロソールの回収率を向上させることを目的とした。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析及び細胞密度測定のため、0時間、誘導時間24時間、48時間に培養液試料を採取した。実験はすべて3重で行い、試料はHPLC及び核磁気共鳴分光法(NMR)により分析した。
【0074】
分析方法
発酵培地のチロソール、サリドロシド、ヒドロキシチロソール、グルコース、及び有機酸の含有量を、HPLCを使用して分析した。NMR法を使用して、培地試料中のチロソール、サリドロシド、及びヒドロキシチロソールの存在を確認し、二相性増殖の1-ドデカノール画分中のヒドロキシチロソールを定量した。
【0075】
各サンプリングでは、この培養液から1mLの培養液を取り出し、15000rpmで10分間遠心分離して、培地から細胞を分離した。次に、上清を孔径0.22μmのメンブレンフィルターでHPLCバイアル中に濾過して、さらなる分析まで-20°Cで保存した。
【0076】
チロソール、サリドロシド、及びヒドロキシチロソールの濃度は、SHIMADZUのDAD SPD-M20A検出器を搭載したSHIMADZU(京都、日本)のHPLC装置のモデルNexera X2により定量した。試料は、Phenomenex(カリフォルニア州、米国)のKinetex(登録商標)C18カラム(150mm×2.1mm;粒子径1.7μm)を用いて分析した。チロソール及びサリドロシドの分析については、発酵上清試料5μlを、溶媒A(HO中0.1%のギ酸)及び溶媒B(0.1%のギ酸含有アセトニトリル)を含む移動相とともにカラムに適用した。各試料は30℃、流速0.5ml/min、及び以下のHPLC条件で溶出した:溶媒B濃度は5%に1分間維持され、その後4分間かけて5%から9%に増加させ、5分間かけて9%から30%に増加させた後、6分間30%に維持され、最後に2分間かけて30%から5%に減少させた。化合物は280nmで検出した。この条件では、チロソール及びサリドロシドの保持時間はそれぞれ7分及び5分であった。培養液中のチロソール及びサリドロシドを定量するため、一連の既知濃度のチロソール標準物質(Fisher、米国)及びサリドロシド標準物質(Sigma-Aldrich、米国)を水に溶解して検量線を作成した。検量線のR係数は0.99超過であった。ヒドロキシチロソールの分析には、発酵上清試料10μlを、溶媒A(HO中0.5%の酢酸)及び溶媒B(100%のアセトニトリル)を含む移動相とともにカラムに適用した。各試料を30℃、流速0.3mL/min、及び以下のHPLC条件で溶出した:溶媒B濃度は5%で2分間維持させ、その後2分間かけて5%から9%に増加させ、その後6分間かけて9%から30%に増加させ、その後4分間30%に維持させ、最後に2分間かけて30%から5%に減少させた。ヒドロキシチロソールを8分の保持時間で280nmにて検出した。培養液中のヒドロキシチロソールを定量するために、水に溶解した一連の既知濃度のヒドロキシチロソール標準物質(TCI、日本)を用いて検量線を作成した。検量線のR係数は0.99超過であった。
【0077】
グルコース及び発酵産物の定量分析は、JascoのUV-2075 Plus検出器及びRI-4030 Plus検出器を搭載した同じくJasco(日本)のモデルLC-NetII/ADCのHPLC装置を用いて実施した。試料は、Bio-Rad(米国)のAminex HPX-87Hカラム(300mm×7.7mm)を用いて分析し、60°Cに保ち、0.5mM HSOを移動相として流速0.5mL/minで使用した。グルコース及びエタノールを屈折率(RI)検出器(4030、Jasco)で検出し、有機酸(酢酸、ギ酸、乳酸、コハク酸、及びピルビン酸)をUV検出器を用いて210nmで検出した。各代謝物の既知濃度の標準物質を注入することにより検量線を得た。試料中の代謝物濃度は、検量線と試料のピーク面積を比較することにより算出した。検量線のR係数は0.99超過であった。
【0078】
二相性増殖の1-ドデカノール画分中のヒドロキシチロソールは、BRUKER(米国)のNMR装置モデルAvance II 400MHz分光計を使用して、プロトン磁気共鳴分光法(H)により定量した。そのために、300μlの1-ドデカノール画分を300μlの重水素化クロロホルムと5μlの250mMのギ酸溶液(内部標準)で希釈した。チロソール、ヒドロキシチロソール、及びサリドロシドの生成を確認するために、HPLCで分析した陽性試料は、速やかに10%(v/v)のDOを入れたNMR管に移し、上記の分光計で読み取った。
【0079】
すべての細胞の光学密度(OD600)の測定は、Thermo Fisher(米国)のNanoDrop One分光光度計を用いて行った。
【0080】
統計分析
実験はすべて独立して3回行った。実験データは平均値±標準偏差で表される。スチューデントのt検定を使用して統計分析を実施した。P値が0.05未満の場合、操作した株間の差異は有意であるとみなした。
【0081】
配列
タンパク質配列:
【表7】
【0082】
遺伝子配列:
【表8】
【0083】
プロモーター配列
【表9】
【実施例
【0084】
この研究の主な目標は、1リットルあたりグラムの力価までE.coli内でのチロソール及びその誘導体の製造のバイオプロセスを最適化することであった。これは、これらの化合物には付加価値が高く、重要な生物学的活性及び有用性があるためである。そのために、E.coli BL21(DE3)を操作して、図1に示した経路でチロソール及びサリドロシドを産生した。
【0085】
実施例1:E.coli BL21(DE3)におけるチロソール生合成経路の実装
E.coli BL21(DE3)に実装されたチロソール生合成経路(図1)は、グルコースから始まり、これはいくつかの工程を経て4-ヒドロキシフェニルピルビン酸に変換され、最後にS.cerevisiae由来のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(ARO10)及び内因性アルコールデヒドロゲナーゼによって4-ヒドロキシフェニルピルビン酸がチロソールに変換されて終了する。最初に、S.cerevisiae由来の遺伝子ARO10を選択してpET-21a(+)に挿入し、得られたプラスミドをE.coli BL21(DE3)にクローニングしてST53株を形成した。ST53株は、M9Y培地中、1mMのiPTGで48時間誘導した後、0.05±0.00g/Lのチロソールを生成した。この結果は、ScARO10と内因性ADHとを組み合わせて過剰発現させると、グルコースを基質として使用して4-ヒドロキシフェニルピルビン酸をチロソールに変換できることを裏付けるものであった。チロソールの産生を改善するために、E.coli由来のホスホ-2-デヒドロ-3-デオキシヘプトン酸アルドラーゼ(aroFfbr)及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼ(tyrAfbr)をpET-21a(+)又はpET-28a(+)に挿入し、E.coli BL21(DE3)で過剰発現させて、それぞれST93株とST96株とを得た。これら2つの株は、これら3つの遺伝子がオペロン様システムでよりよく働くのか、或いはプロモーター-遺伝子組織でよりよく働くのかを理解するために構築した。ST93株及び96株を用いて、M9Y培地中1mMのIPTGで48時間誘導した後、チロソール産生が有意に促進され(p<0.001)、ST93株では0.21±0.01g/L、ST96株では0.14±0.00g/Lを達成した。さらに、チロソールの産生が細胞密度(OD600nm)と逆相関することを確認することができ、これによりチロソールの産生が細胞増殖に影響することが示された。これらの結果はまた、同一ベクターでのScARO10の異種発現、及びaroFfbr及びtyrAfbrの過剰発現によって、チロソール産生が促進されたことを示している。
【0086】
実施例2:IPTG濃度の最適化
イソプロピル-β-d-チオガラクトピラノシド(IPTG)は、強力なT7プロモーター及びtrcプロモーターの効果的な誘導剤であり、クローニング手順で一般的に使用される。チロソール産生株の誘導に最適なIPTG濃度を選択するため、M9Y培地中で、0.1mM及び1mMのIPTGで48時間誘導した。この条件下で、ST93株は0.1mM及び1mMのIPTGでの誘導後、それぞれ0.65±0.07g/L及び0.21±0.01g/Lのチロソールを得た(表10)。このようにして、0.1mMのIPTGがチロソール産生株を誘導するのに最適な濃度であることが判明した。
【0087】
【表10】
【0088】
実施例3:最適なフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼの選択
フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼはエールリッヒ経路に関与する酵素であり、フェニルピルビン酸からフェニルアセトアルデヒドへの脱炭酸を触媒する(図2a)。本研究では、どのデカルボキシラーゼがチロソール産生に最適な酵素であるかを評価するために、それぞれ、S.cerevisiae、Enterobacter sp.及びKomagataella phaffii由来のScARO10、EipdC及びKpPDCをpET-21a(+)にクローニングし、E.coli BL21(DE3)に形質転換した。このようにして、それぞれScARO10、KpPDC、及びEipdCを保有するST93株、ST135株、及びST136株を構築した。これらの株をグルコース2%のM9Yで増殖し、0.1mMのIPTGで72時間誘導した。結果は、M9Y培地において0.1mMのiPTGでの誘導の72時間後に、ST93株は0.73±0.04g/Lのチロソールを産生し、ST135株は0.31±0.05g/Lのチロソールを産生でき、ST136株は0.09±0.01g/Lのチロソールしか産生しないことを示している(図2b)。これを考慮すると、ST93株はST135株よりも2倍多くの量のチロソールを産生し、ST136株と比較して8倍多くの量のチロソールを産生したため、チロソール産生に最適なデカルボキシラーゼはARO10であった。さらにまたしても、チロソールの量が多いほど(ST93)、細胞密度(OD600nm)が低い(図2b)。
【0089】
実施例4:adhP過剰発現の影響
Isabel Rocha教授のグループの厚意により提供されたアルコールデヒドロゲナーゼAdhPは、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドをチロソールに還元することができ、大きな基質に対してより優れた性能を発揮するように改良された(図3a)。adhP遺伝子をpET-28a(+)又はpET-21a(+)にクローニングし、それぞれE.coli BL21(DE3)に形質転換して、ST81株及びST114株を生成し、adhPの過剰発現がチロソール産生に及ぼす影響を評価した。M9Y培地中0.1mMのiPTGで48時間誘導した後に、ST81株は0.60±0.18g/Lのチロソールを産生でき、ST114株は0.51±0.01g/Lのチロソールを産生できた(図3b)。これらの結果を、図3bに示した同じ条件下でST93株が得た力価(0.65±0.07g/L)と比較すると、ST93株とST81株が得た力価に有意差はないが(p>0.05)、ST114株はST93株と比較して有意にチロソール生成量が少ない(p<0.01)ことから、adhPの過剰発現はチロソール産生を改善しなかったことが検証できた(データは示さず)。
【0090】
さらに、AdhP触媒に最適な条件を調べるため、ST81株を22℃のM9Y培地中で、0.1mMのiPTGで48時間誘導した。この条件下で、ST81株は0.29±0.02g/Lのチロソールを産生できたが(図3b)、これはこの株を30℃で誘導した場合に得られた力価よりもさらに低かった。すべての結果を考慮すると、チロソールを産生する最良の株及び条件は、30℃にてM9Y中で0.1mMのiPTGにより72時間誘導した後のST93であった(0.73±0.04g/L)。
【0091】
実施例5:芳香族アミノ酸経路の操作
前述のとおり、E.coliの内因性ADHは4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドをチロソールに還元することが可能であるが、この中間体化合物は、FeaBと名付けられた内因性フェニルアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼによっても4-ヒドロキシフェニルアセテートに酸化され得る(図4a)。一方、二機能性酵素のコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼ(PheA)は、フェニルアラニン及びチロシンの生合成における非常に重要なノードを担当しており、炭素フラックスをコリスミ酸からフェニルアラニンに転換する役割を担っている(図4a)。その結果、これら2つの遺伝子の破壊は、炭素フラックスをチロソール産生に向かわせることが知られている。チロソールの産生を改善するために、feaB遺伝子とpheAL遺伝子とのノックアウトを保有するE.coli BL21(DE3)株(SilicoLifeの研究室で入手可能)を、ScARO10、aroFfbr、及びtyrAfbrの遺伝子を持つpET-21a(+)に宿主として使用し、ST191株を生成した。さらに、本発明者らはまた、ScARO10、aroFfbr及びtyrAfbrの遺伝子をpET-21a(+)に、adhP遺伝子をpET-28a(+)に形質転換することにより、ST170株を得て、feaB及びpheALの欠失株におけるadhPの過剰発現も評価した。これらの2株を増殖した結果、本発明者らは、M9Y培地中0.1mMのIPTGで96時間誘導した後、ST191は0.78±0.02g/Lのチロソールを産生し、一方でST170は1.03±0.07g/Lのチロソールを産生すると結論づけた(図4b)。チロソールの産生は増殖72時間でもまだ増加していたため、増殖は96時間まで延長したことに注意されたい。細胞密度(OD600nm)については、ノックアウト株の場合、ノックアウトしていないそれぞれの株(ST93及びST81)に比べて増殖が低下していることが確認できた。チロソールへの炭素の偏りだけでなく、この減少は、フェニルアラニン栄養要求を引き起こすpheALのノックアウトによるフェニルアラニン不足によっても部分的に説明できる。したがって、酵母エキス0.025%を含有するM9Y培地のフェニルアラニン量では、この栄養要求をカバーしきれないのではないかと本発明者らは考えた。この仮説を検証するため、ST170株とST191株とを、20mg/Lのフェニルアラニンを補充したM9Y培地中で、0.1mMのIPTGで96時間誘導した。この条件下で、ST170株とST191株とは、それぞれ0.80±0.07g/Lと1.41±0.02g/Lのチロソールを生成した(図4b)。
【0092】
これらの結果を分析すると、フェニルアラニンの添加はST191でのチロソール産生を有意に改善し(p<0.001)、ST170では減少することが確認できる。さらに、これらの菌株の増殖はフェニルアラニンの添加によって異なる挙動を示し、フェニルアラニンを添加しない場合の増殖と比較して、ST170ではパラメータが改善され、ST191では応答がなかった。結論として、本研究で達成されたグルコースからの最高のチロソール力価は、10mMに相当するST191株で1.41±0.02g/Lであり、M9Y培地で0.1mMのIPTGと20mg/Lのフェニルアラニンの添加とにより96時間誘導した後に達成された。この結果は、Yangらによる力価を裏付けるものであり、Yangらは、ScARO10を異種発現させ、かつfeaB、pheA、tyrB、及びtyrRの遺伝子をノックアウトしたE.coli MG1655を操作することにより、M9Y培地中0.6mMのIPTGで48時間誘導した後、グルコースから1.32g/Lのチロソールを産生した(Yangら、Chinese Journal of Chemical Engineering,26,2615-2621)。しかしながら、この研究では、ScARO10遺伝子、aroFfbr遺伝子、及びtyrAfbr遺伝子を保有し、かつfeaB遺伝子及びpheAL遺伝子を欠失させた株により、本発明者らはYangらよりも6%多くチロソールを産生している。さらに、本発明者らは、pETシステムにクローニングされたオペロン様システムにおけるaroFfbr及びtyrAfbrの過剰発現を伴うScARO10の異種発現が、最初に構築された株(ST53)と比較して、チロソール産生を約92%改善することを確認している。さらに、feaB遺伝子とpheAL遺伝子とをノックアウトした株は、ノックアウトしていない株に比べ、チロソールの産生が約50%増加した。一方、AdhPの過剰発現では、チロソール産生は改善されず、それどころか、上述のとおり、この酵素を持たない株と比較して7%減少した。
【0093】
サリドロシドの産生
サリドロシドはフェニルエタノイド配糖体であり、植物界に広く分布し、近年アダプトゲン作用における重要な役割のために注目されてきた。過去10年間に、E.coliでの新しい代謝遺伝子操作的アプローチが実施されたが、より効果的な戦略が求められている。
【0094】
実施例6:E.coli BL21(DE3)におけるサリドロシド生合成経路の操作
E.coli BL21(DE3)で作成されるサリドロシド生合成経路を、さまざまなプラスミドでのScARO10遺伝子及びAtUGT85A1遺伝子の異種発現、及びaroFfbr遺伝子及びtyrAfbr遺伝子の過剰発現によって達成した。この経路の重要な工程は、ウリジン二リン酸依存性グリコシルトランスフェラーゼ(UGT85A1)によって媒介されるチロソールのサリドロシドへのグリコシル化である。この遺伝子をpET-28a(+)に挿入し、pET-21a(+)_ScARO10を保有するE.coli BL21(DE3)に、及びpET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbrを保有するE.coli BL21(DE3)に形質転換し、それぞれST95株及びST92株を得た。両方の株をグルコースを含むM9Y培地で好気的に増殖させ、ST95株に対してM9Y培地中1mMのIPTGによる誘導、及びaroFfbr及びtyrAfbrの過剰発現の48時間後に、サリドロシド及びチロソールが最大0.02±0.01g/Lを示し、一方ST92株は、同じ条件で、ST95株よりも10倍高い力価のサリドロシドを生成することができた(サリドロシド0.24±0.05g/L及びチロソール0.13±0.03g/L)。この結果は、ST93株によるチロソール産生で得られた結果を支持するものであり、ScARO10の異種発現を伴うaroFfbr及びtyrAfbrの過剰発現が、UGT85A1によるチロソール産生、ひいてはサリドロシド産生を増強したことを示すものである。
【0095】
実施例7:サリドロシドのIPTG試験及び培地の最適化
0.1mMのIPTGによる誘導がまた、サリドロシド産生に最適な濃度かどうかを検証する目的で、ST92株をM9Y培地で0.1mMのIPTGで48時間誘導した。この条件下で、ST92株はM9Y培地で48時間の誘導後、0.41±0.07g/Lのサリドロシドと0.15±0.04g/Lのチロソールとを生成した(表11)。この結果から、チロソール産生と同様に、サリドロシド産生も1mMのIPTGの代わりに0.1mMのIPTGで誘導することで有意に増強されることが示された(p<0.001)。
【0096】
【表11】
【0097】
しかしながら、ST92株の代謝は、試験したIPTGの両方の濃度でチロソールが蓄積されるため、サリドロシド産生においてボトルネックを示した。この蓄積は、次のようなさまざまなシナリオで説明することが可能である:低pHによる増殖停止、UDPグルコース又は培地から枯渇した他の重要な栄養素の発酵代謝の欠乏の帰結、又は不適切な酵素の生成/フォールディング。それ故、サリドロシド産生におけるグルコース及びpHの影響をみるために異なるM9Y培地の組成を試験した。そのために、ST92株を、2倍量の塩類(2×M9Y)を含むM9Yにおいて0.1mMのIPTGで誘導し、5、10又は20g/Lのグルコースを48時間かけて補完した。これらの条件下で、ST92株は、5g/Lのグルコースから0.10±0.00g/Lのサリドロシド及び0.08±0.00g/Lのチロソール、10g/Lのグルコースから0.26±0.00g/Lのサリドロシド及び0.12±0.02g/Lのチロソール、並びに20g/Lのグルコースから0.34±0.01g/Lのサリドロシド及び0.19±0.00g/Lのチロソールを生成可能であった(表12)。グルコースの供給に関しては、2×M9Y培地に20g/Lのグルコースを添加することでサリドロシド産生が促進されたが、20g/Lのグルコースで補完したM9Y培地では最良のサリドロシド力価を達成した(0.41±0.07g/L)。この結果は、2倍量の塩類を添加してM9Y培地を緩衝化しても、サリドロシドの産生は改善されないことを示している。
【0098】
【表12】
【0099】
一方、培地のpHの変動は、20g/Lのグルコースで補完した2×M9Y培地では、5g/L及び10g/Lのグルコースを補充した2×M9Y培地よりも有意に大きかった(p<0.01)。このpH変動は酢酸産生に起因するもので、2×M9Y培地を20g/Lのグルコースで補完すると、酢酸産生はより高くなった。さらに、20g/Lのグルコースで補完した2×M9Y培地及びM9Y培地のpHの変動は、あまり有意ではなかった(p<0.05)。これらすべてを考慮すると、サリドロシド産生に最適な条件は、20g/Lのグルコースで補完したM9Y培地中で、0.1mMのIPTGで誘導することであった。
【0100】
実施例8:AtUGT85A1遺伝子に対する動的制御
培地最適化のあらゆる試みにもかかわらず、サリドロシド産生のボトルネックは克服されていない。そこで、UGT85A1の発現レベルを異なるコピー数のプラスミドにクローニングすることで変化させることがサリドロシド産生に効果があるかどうかを理解するために新たな戦略を実施した(図5a)。このように、AtUGT85A1をpACYCDuet(低コピー)又はpRSFDuet(高コピー)のプラスミドにクローニングし、pET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbrを保有するE.coli BL21(DE3)に形質転換し、それぞれST116株及びST131株を得た。これらの菌株の増殖は、ST116では0.49±0.10g/Lのサリドロシド、及び0.39±0.06g/Lのチロソール、並びにST131では0.35±0.06g/Lのサリドロシド、及び0.03±0.00g/Lのチロソールの産生値を示した。試料は0.1mMのIPTG及びM9Y培地での誘導後48時に採取した(図5b)。
【0101】
これらの結果をST92株で得られたもの(サリドロシド0.41±0.07g/L、チロソール0.15±0.04g/L)と比較すると、ST92株と116株とではサリドロシドの産生量に有意差はなかったが(p>0.05)、ST116株は、絶対値においてより多くのサリドロシドを蓄積したと結論づけることができた。また、ST116ではST92に比べてチロソールの蓄積量がより多い。一方、ST131株に対応する高コピープラスミドpRSFDuetは、サリドロシドの産生の値が最も低かった(図5b)。
【0102】
さらに、プラスミドコピー数を増加させると(pACYCDuet<pET-28a(+)<pRSFDuet)、チロソールのサリドロシドへの変換はほぼ完全に達成されたが、サリドロシドの力価は増強されず、これはおそらくUGT85A1が不溶性である可能性があることを示している。このことを考慮して、チロソール変換とサリドロシド力価とを最適化するために、pACYCDuet_AtUGT85A1のT7プロモーターをtrcプロモーターに置き換えてST176株を生成した。この株は、M9Y培地中、0.1mMのiPTGで48時間誘導した後、1.64±0.07g/Lのサリドロシドを産生可能であり、0.10±0.06g/Lのチロソールしか産生できなかった(図5b)。したがって、これらの結果から、AtUGT85A1を低コピー数のプラスミド(pACYCDuet)で、かつそれほど強くないプロモーター(trcプロモーター)の影響下で異種発現させることにより、チロソールのサリドロシドへの変換がほぼ完全に行われ、サリドロシドの力価が向上したことが明らかになった。
【0103】
実施例9:feaB及びpheAL遺伝子のノックアウトの影響
サリドロシドへの代謝の流れを改善するために、本発明者らは、最良の2つの遺伝子組織をクローニングし、その産生を改善することを試み、この最良の遺伝子組織を、feaB遺伝子及びpheAL遺伝子ノックアウトを保有するE.coli BL21(DE3)にクローニングし(図6a)、pET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbr及びpACYCDuet_AtUGT85A1を有するST172株、並びにpET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbr及びpACYCDuet_trc-pm_AtUGT85A1を有するST178株を生成した。M9Y培地で0.1mMのIPTGで96時間の誘導後、ST172株は0.59±0.09g/Lのサリドロシド及び0.80±0.08g/Lのチロソールを産生でき、ST178株は2.70±0.06g/Lのサリドロシド及び0.09±0.02g/Lのチロソールを産生できた(図6b)。
【0104】
ここでも、ST178では、大部分のチロソールがサリドロシドに変換され、以前に観察されたように、ST172は、かなりの量のチロソールとともにサリドロシドを蓄積した。結論として、AtUGT85A1を低コピープラスミドにクローニングすること、及びより弱いプロモーターの影響下であることで、タンパク質の産生をバランスさせ、サリドロシド力価を有意に改善した。さらに、ノックアウトにより、ノックアウトしていない菌株と比較して、両菌株でサリドロシド産生が向上していることも確認できた。
【0105】
それに加えて、フェニルアラニンのサプリメンテーションがサリドロシド生成に及ぼす影響も評価した。そのために、ST172株とST178株とを、20mg/Lのフェニルアラニンを補充したM9Y培地中で、0.1mMのIPTGで96時間誘導した。この条件下で、ST172株は0.43±0.01g/Lのサリドロシド及び0.90±0.03g/Lのチロソールを産生でき、ST178株は1.25±0.42g/Lのサリドロシド及び0.40±0.12g/Lのチロソールを産生できた(図6b)。これらの結果から、フェニルアラニンの添加は、チロソールの場合とは逆に、サリドロシドの産生を減少させることが示された(データは示さず)。したがって、本研究で達成されたグルコースからの最良のサリドロシド力価は、20g/Lのグルコースで補完されたM9Y培地中、0.1mMのIPTGで121時間誘導後に、ST178株(3.11±0.19g/Lのサリドロシド)によってもたらされた。この結果は、E.coli BL21(DE3)を、PcAAS及びAtUGT85A1の異種発現、並びにtyrR、pheA、及びfeaBの遺伝子のノックアウトにより操作することにより、25℃のM9Y培地中、1mMのIPTGで48時間誘導した後、グルコースから0.28g/Lのサリドロシドしか産生しなかったChungらの結果よりも約10倍多いサリドロシド量に相当する(Chung,ら,Escherichia coli.Scientific Reports,7,1-8,(2017))。
【0106】
ヒドロキシチロソールの産生
ヒドロキシチロソールは、オリーブに最も豊富なフェノール性アルコールの1つであり、栄養補助食品、農薬、化粧品、及び食品産業への応用に理想的な複数の特別な特性を持っている。しかし、すべてのすでに行われた研究の他に費用対効果の高いアプローチはまだ見つかっていない。
【0107】
実施例10:E.coli BL21(DE3)におけるhpaBCの過剰発現
ヒドロキシチロソールの生合成における基本的な工程は、チロソールからヒドロキシチロソールへの変換である。この工程を媒介するために、文献には複数の可能な候補となる酵素が挙げられている。Espinらはキノコのチロシナーゼを使用したが、この酵素は不安定で、フェノール及びアスコルビン酸によってこの活性が阻害される。Liebgottらが行った別の研究では、異なる細菌由来の4-ヒドロキシフェニル酢酸3-ヒドロキシラーゼが、チロソールをヒドロキシチロソールに変換する役割を担っていることが示された。さらに、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダF6(Pseudomonas putida F6)及びハロモナス種(Halomonas sp.)のHTB24株など、いくつかの芳香族化合物分解微生物の他の天然の加水分解酵素がチロソールをヒドロキシチロソールに変換することを同定した。より最近では、チロソールに対する活性及び特異性を向上させるために、4-ヒドロキシフェニル酢酸3-モノオキシゲナーゼ(HpaBC)がE.coliから遺伝子操作された。この操作した酵素により、彼らはチロソールに対する高い活性を達成し、チロソールに対するドッキングエネルギーが野生型HpaBCよりもはるかに低いことを発見した。そこで、本研究では、HpaBCがE.coliの内因性酵素であり、基質としてのチロソールからのより優れた性能について操作されているため、いずれの酵素からHpaBCを選択した。このようにして、ヒドロキシチロソールの生合成経路を、ScARO10遺伝子の異種発現及びaroFfbr遺伝子、tyrAfbr遺伝子及びhpaBC遺伝子の過剰発現によって、E.coli BL21(DE3)に実装した(図7a)。この考え方に基づき、hpaBC過剰発現、ひいてはヒドロキシチロソール産生におけるプラスミドコピー数の影響を評価するために3つの株を構築した。3株ともpET-21a(+)_ScARO10_aroFfbr_tyrAfbrを保有しているが、hpaBCを、ST76株についてはpET-28a(+)に、ST119株についてはpACYCDuetに、ST132株についてはpRSFDuetに、クローニングした。その後、すべての株を、ヒドロキシチロソールの酸化を避けるため、1g/Lのアスコルビン酸を補充したM9Y培地中で、0.1mMのIPTGで48時間誘導した。この条件下で、ST76株は0.08±0.02g/Lのヒドロキシチロソールを産生し、ST119株は0.57±0.06g/Lのヒドロキシチロソールを産生し、ST132株は0.48±0.12g/Lのヒドロキシチロソールを産生した(図7b)。すべての菌株で、残留のチロソール量が蓄積された(80mg/L未満)。ST119とST132とは、それぞれ低コピープラスミドと高コピープラスミドとを有し、有意に異なる量のヒドロキシチロソールを産生しなかったため(p>0.05)、これらの結果は一致しなかった。しかしながら、ST132でのヒドロキシチロソールの産生はST119株及びST76株よりも一様でないことに注意することが重要であり、これはプラスミドの不安定性を示している。一方、中コピープラスミドを持つST76株は、他の2株よりもヒドロキシチロソールの産生量が少ない株である。さらに、細胞密度(OD600nm)が低かったのはST119株であり、これはチロソール及びサリドロシドで観察されたとおり、ヒドロキシチロソールを多く産生する株であった。また、ヒドロキシチロソールに対する毒性は、ヒドロキシチロソールの濃度が1g/L未満では報告されていない。一方、この菌株の増殖中に、本発明者らは、培地が濃い色に変化することに気づいた。これは、ヒドロキシチロソールを含む培地成分の酸化を示している。
【0108】
実施例11:二相性増殖の影響
前述したとおり、ヒドロキシチロソールは抗酸化物質であり、製造過程で酸化されやすく、チロソール又はサリドロシドよりも不安定である。そのほか、ヒドロキシチロソールは1g/L超過で細胞増殖に対する抑制効果を示すことが報告されている。これを考慮して、本発明者らは、ヒドロキシチロソールを隔離し、その酸化及び細胞毒性を回避できる1-ドデカノールを用いた二相性増殖(biphasic growth)を設計した。そうするために、本発明者らは、増殖がもはや観察されなくなったとき(タンパク質誘導後16時間に起こる)、25%(v/v)の1-ドデカノールを培地に添加した。最大産生は、1g/Lのアスコルビン酸を補充し、かつ12.5mlの1-ドデカノールを添加したM9Y培地中で0.1mMのIPTGを用いた誘導の48時間にて検出した(図8b)。結果は、ST119株及びST132株がそれぞれ0.92±0.15g/L及び0.63±0.06g/L、並びに微量のチロソールを産生できたことを示している。1-ドデカノールの添加の有無にかかわらず、ST119株及びST132株によって得られたヒドロキシチロソール力価を比較すると、二相系においてST119株及びST132株では産生がそれぞれ30%超過及び20%超過増加したことが確認できる。しかし、細胞密度は改善されず、これは増殖停止がヒドロキシチロソールの蓄積と関連していないことを示している。これらの結果から、二相系がヒドロキシチロソールの産生を安定化することが確認され、hpaBCを低コピープラスミド(ST119)にクローニングする場合、ST132株の高コピープラスミドに比べてヒドロキシチロソールの力価が向上することが明らかになった。
【0109】
実施例:12 IPTGの最適化
チロソール及びサリドロシドのように、ヒドロキシチロソールの産生に最適な誘導条件を評価するために、異なるIPTG濃度を試験した。この場合、ST119株を、1g/Lのアスコルビン酸を補充し、かつ12.5mLの1-ドデカノールを添加したM9Y培地中で、0.1mM及び0.2mMのIPTGで48時間誘導した。ST119株は、0.2mMのIPTGによる誘導後に0.56±0.09g/Lのヒドロキシチロソール及び微量のチロソールを生成したが、これはST119株を0.1mMのIPTGで誘導した場合に得られるヒドロキシチロソール力価(ヒドロキシチロソール0.92±0.15g/L)よりも有意に低かった(表13)。さらに、ヒドロキシチロソールの蓄積量が異なるにもかかわらず、0.1mM又は0.2mMのIPTGで誘導した場合、細胞密度(OD600nm)に影響はなかった。この結果から、ヒドロキシチロソールの産生に最適な条件は、1g/Lのアスコルビン酸を補充し、かつ12.5mlの1-ドデカノールを添加したM9Y培地中で、0.1mMのIPTGで48時間誘導することであると理解することができた。遺伝子がpETシステムで過剰発現したARO10、aroFfbr、tyrAfbr及びHpaBCタンパク質の溶解性を評価するため、SDS-PAGEゲルを行ったところ、過剰産生されたタンパク質は主に可溶性であることが実証された。
【0110】
【表13】
【0111】
結論として、ヒドロキシチロソール産生のための最良の条件は6mMであり、ST119株を用いて、1g/Lのアスコルビン酸及び20g/Lのグルコースを補充し、かつ12.5mlの1-ドデカノールを添加したM9Y培地中の0.1mMのIPTGによる誘導後48時間に得られた。この条件下で、0.92±0.15g/Lのヒドロキシチロソールを蓄積することができ、これは、1-ドデカノールを添加しない産生と比較して約40%の増加に相当し、本発明者らの知る限り、報告されている中で最高のヒドロキシチロソール力価である。しかしながら、チロソールのヒドロキシチロソールへの変換は、チロソール株ST191と比較して60%しか変換されないため、あまり効率的ではなかった。グルコースからのE.coliにおけるヒドロキシチロソールの産生は、ScARO10遺伝子の異種発現、ADH6、tyrA、ppsA、tktA、及びaroGの遺伝子の過剰発現、及びfeaB遺伝子のノックアウトによりE.coli BW25113を操作することによることが以前に報告されている(ヒドロキシチロソール0.65g/L)。彼らは、37℃のM9Y培地中で0.5mMのIPTGで細胞を誘導することにより、この産生を達成した。この結果を本研究で得られたものと比較すると、Liらは約30%少ないヒドロキシチロソールを産生し、このことは、0.1mMのIPTGの代わりに0.5mMのIPTGを使用すること、本研究者らよりも多くの遺伝子を過剰発現させること、及びfeaB遺伝子のみをノックアウトすることによって説明することができる。
【0112】
実施例13:HT1経路を用いたE.coliでのヒドロキシチロソールの産生
【表14】
【0113】
【表15】
【0114】
細胞をLB培地で2時間増殖させ、30℃でM9Y+2%グルコース+0.1mMのIPTG(通常培地)に洗浄及び再懸濁し、72時間インキュベートした。hpaBCの低コピー数は、ヒドロキシチロソールの蓄積に有利である。ドデカノールの添加により、ヒドロキシチロソールの産生量は約40%増加した。二相系はヒドロキシチロソールの産生を安定させた。pheaL遺伝子及びfeaB遺伝子のノックアウト及び酸素制限により、ヒドロキシチロソールの蓄積は減少した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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【国際調査報告】