(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-07
(54)【発明の名称】腎細胞癌の予後のための炭酸脱水酵素9を発現する循環性マイクロベシクル
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240131BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20240131BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
G01N33/53 S
C12N9/04 Z ZNA
C12N15/53
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549005
(86)(22)【出願日】2021-10-22
(85)【翻訳文提出日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2021079371
(87)【国際公開番号】W WO2022084518
(87)【国際公開日】2022-04-28
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523083735
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ リシェルシェ サイエンティフィケ
(71)【出願人】
【識別番号】523151595
【氏名又は名称】センター ホスピタリア ユニヴェルシテール ドゥアンジェ
(71)【出願人】
【識別番号】523151609
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥアンジェ
(71)【出願人】
【識別番号】511074305
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス,マリア デル カルメン
(72)【発明者】
【氏名】ビゴ,ピエール
(72)【発明者】
【氏名】バーゴリ,ルイーザ
(57)【要約】
本発明は、対象由来のサンプル中の炭酸脱水酵素9を発現する細胞外ベシクル、好ましくはマイクロベシクル(CA9+MV)のレベルを参照レベルと比較することによる、淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)の処置を経ているかまたは経たことがある対象における再発のリスクを予測する方法に関する。また本明細書において、上記対象由来のサンプル中のCA9+MVのレベルを参照レベルと比較することによる、ccRCCを診断またはccRCCを発症するリスクを同定する方法が記載される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)のための処置を経ているかまたは経たことがある対象の再発のリスクを予測する方法であって、
a)前記対象から以前に得たサンプル中の炭酸脱水酵素9を発現する細胞外ベシクル(CA9
+EV)のレベルを測定するステップと、
b)前記CA9
+EVのレベルを参照レベルと比較するステップと、
c)前記CA9
+EVのレベルが前記参照レベルよりも実質的に高い場合、ccRCC再発のリスクが高いグループに前記対象を割り当てるステップ、または前記CA9
+EVのレベルが実質的に前記参照レベルと類似しているかもしくは前記参照レベルよりも低い場合、ccRCC再発のリスクが低いグループに前記対象を割り当てるステップと
を含む、方法。
【請求項2】
CA9
+EVが、炭酸脱水酵素9を発現するマイクロベシクル(CA9
+MV)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CA9
+EV、好ましくはCA9
+MVのレベルが、所定の量のサンプルにおけるCA9
+EV、好ましくはCA9
+MVの絶対数として表される、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
所定の量のサンプルにおけるCA9
+EV、好ましくはCA9
+MVの絶対数が、
a)前記対象から以前に得たサンプルを約260gで約15分間遠心分離するステップと、
b)ステップa)の後に回収された上清を、約1500gで約20分間遠心分離するステップと、
c)所定の量のステップb)の後に回収された上清におけるCA9
+EV、好ましくはCA9
+MVの絶対数を測定するステップと
からなる方法により決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記参照レベルが、ccRCC再発のリスクが低いことが知られている参照対象由来のサンプルまたは参照対象の集団由来のサンプル中のCA9
+EV、好ましくはCA9
+MVの測定に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記参照レベルが、約350個のCA9
+MV/μLサンプルである、請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
対象における淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)を診断するかまたはccRCCを発症するリスクがあると対象を同定する方法であって、
a)前記対象から以前に得たサンプル中の炭酸脱水酵素9を発現する細胞外ベシクル(CA9
+EV)のレベルを測定するステップと、
b)前記CA9
+EVのレベルを参照レベルと比較するステップと、
c)CA9
+EVのレベルが前記参照レベルより実質的に高い場合、前記対象がccRCCに罹患しているかまたはccRCCを発症するリスクがあると結論付けるステップと
を含む、方法。
【請求項8】
CA9
+EVが、炭酸脱水酵素9を発現するマイクロベシクル(CA9
+MV)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
CA9
+EV、好ましくはCA9
+MVのレベルが、前記サンプル中の細胞外ベシクル、好ましくはマイクロベシクルの合計からのCA9
+EV、好ましくはCA9
+MVのパーセンテージとして表される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記参照レベルが、ccRCCを罹患していないかかつ/またはccRCCと診断されていない参照対象または参照対象の集団における、CA9
+EV、好ましくはCA9
+MVの測定に由来する、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記参照レベルが、前記サンプル中のマイクロベシクルの合計からの1.85%のCA9
+MVである、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ccRCCを診断することが、ccRCCの腫瘍の大きさおよび/またはグレードを決定することからなる、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記サンプルが血液サンプルである、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
CA9
+EV、好ましくはCA9
+MVのレベルを測定するステップが、フローサイトメトリーにより行われる、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象由来のサンプル中の炭酸脱水酵素9を発現する細胞外ベシクル、好ましくはマイクロベシクル(CA9+MV)のレベルを参照レベルと比較することによる、淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)の処置を経ているかまたは経たことがある対象における再発のリスクを予測する方法に関する。また本明細書において、上記対象由来のサンプル中のCA9+MVのレベルを参照レベルと比較することによる、ccRCCを診断またはccRCCを発症するリスクを同定する方法が記載される。
【背景技術】
【0002】
腎細胞癌(RCC)は、現在、三番目に最も一般的な泌尿器がんを表し(Siegel et al., 2015. CA Cancer J Clin. 65(1):5-29)、淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)は、最も頻発するRCCのサブタイプである。このがんは、検出および処置することが困難である。現在、コンピュータ断層撮影または生検検査が、腫瘍の診断およびステージ分類で使用される主な技術である(Miller et al., 2019. CA Cancer J Clin. 69(5):363-385)。この早期RCC、特にccRCCにおける主な治療の手法は、部分または根治的腎摘出術(partial or radical nephrectomy:腎部分切除術または根治的腎摘出術)であるが、疾患の再発が、患者の30~40%において起こる。TNM(腫瘍-リンパ節転移-遠隔転移;Tumor Node Metastasis)ステージングシステムおよび予後スコアは、腎摘出術後の再発のリスクおよび生存率を推定するために開発された(Buti et al., 2012. Oncol Rev. 6(2):e18)。しかしながら、診断および予後技術はccRCCの早期検出を増大させ、死亡率を減少させた(Vuyyala et al., 2019. Cureus. 11(8):e5531)が、ccRCC患者のおよそ半分が、腫瘍切除後に転移を発症しており、転移のリスクを予測する指標は得られていない(Escudier et al., 2019. Ann Oncol. 30(5):706-720)。この理由のため、外科手術後のccRCCのアウトカムを予測し得る予後マーカーの発見が必要とされている。
【0003】
炭酸脱水酵素9(CA9)は、ccRCCにおいて最も研究されている表面抗原の1つであり、今までで、これら必要条件を有する最も見込みのあるバイオマーカーである。CA9は、特定の胃腸管系構造で作製されることを除き、ほぼ全ての組織で弱く発現される金属酵素である。しかしながら、CA9は、低酸素性細胞においてアップレギュレートされ、ヒッペル・リンドウの不活性化の結果としてccRCCにおいて過剰発現される。RT-PCRは腎臓生検サンプル中のCA9の検出のための免疫組織化学的検査にとって好ましい方法であるが、腎腫瘍の非侵襲的な診断のため血液ベースのアッセイが将来性があるであろう。いくつかの研究は、ccRCCにおいて、血清および血漿中の可溶性(s)-CA9の値が他の種類のRCCよりも高いことを示している。しかしながら、CA9の発現と病態特性との間の相関は、議論の余地のある結果を提供した。実際に、ELISAにより決定された血清中s-CA9濃度は、Tステージ、ファーマングレード、および転移状態と相関することが示された。逆に、局在化疾患を有する患者では、血清中s-CA9のレベルは、腫瘍の大きさと相関したが、ファーマングレードとは相関しなかった。これら結果の観点から、s-CA9が診断ツールとみなされ得る可能性は低い。これによって、血清mRNA CA9のための定量的RT-PCRは、より特異的および感受性であり得るが、さらなる試験が必要とされている。
【0004】
よって、腎腫瘍のための強力な非侵襲的なツールが依然として必要とされている。
【0005】
エキソソーム、マイクロベシクル(MV)、およびアポトーシス小体を含む細胞外ベシクル(EV)は、幅広い範囲の小分子の膜結合ベシクルであり、腫瘍細胞を含むほぼ全ての細胞種により放出される(Tkach & Thery, 2016. Cell. 164(6):1226-1232)。またこれらは、血液、尿、母乳、唾液、および精液などのほぼ全ての種類の体液で見出される(van Niel et al., 2018. Nat Rev Mol Cell Biol. 19(4):213-228)。EVは、核酸、タンパク質、および脂質を含み、がんバイオマーカーの研究にとって特に興味深いものである。今まで、EVに結合したRNAが循環性RNAよりも安定しており、診断手法に利用され得るとの多くの報告が示されている。
【0006】
EVはがんにおいて見込みのあるバイオマーカーとみなされ得るが、臨床実務ではEVバイオマーカーはほとんど使用されていない。いくつかの研究は、尿中EVがRCCバイオマーカーとして機能し得ることを示している。実際に、EVにおけるGSTA1、CEBPA、およびPCBD1の発現レベルは、RCC患者および健常な対照と比較してccRCC患者の尿において減少している。興味深いことに、部分または根治的腎摘出術から1カ月後に、これらレベルは、健常対象の値に達するように増加する。さらに、プロテオミクス解析は、尿中EVの中に含まれるタンパク質、例えば、MMP-9、PODXL、DKK4、CA9、およびセルロプラスミンのRCCのバイオマーカーとしての有効性を示している。
【0007】
ここで、本発明者らは、主に、血液中循環性MVおよびそれらの臨床利用を促進する確立された新規方法に焦点を当てた。フローサイトメトリーにより、本発明者らは、RCC患者および健常な対照由来の血漿サンプルにおいてCA9を発現するMV(CA9+MV)のレベルを評価した。
【0008】
この方法は、ELISAなどの従来の方法と比較してより感受性があり迅速であった。さらに本発明者らは、この方法を使用して、臨床病理学的な変数、たとえば一次処置(たとえば外科手術など)の後の患者の腫瘍の大きさ、このISUPグレード、または無増悪生存期間が有意に正確に定義され得ることを示した。
【0009】
よって手短に述べると、本発明者らは、循環性MVにより担持されるCA9の検出が、RCC、特にccRCCの診断および予後のバイオマーカーを表すことを示している。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)のための処置を経ているかまたは経たことがある対象の再発のリスクを予測する方法であって、
a)前記対象から以前に得たサンプル中の炭酸脱水酵素9を発現する細胞外ベシクル(CA9+EV)のレベルを測定するステップと、
b)前記CA9+EVのレベルを参照レベルと比較するステップと、
c)前記CA9+EVのレベルが前記参照レベルよりも実質的に高い場合、ccRCC再発のリスクが高いグループに前記対象を割り当てるステップ、または前記CA9+EVのレベルが実質的に前記参照レベルと類似しているかもしくは前記参照レベルよりも低い場合、ccRCC再発のリスクが低いグループに前記対象を割り当てるステップと
を含む、方法に関する。
【0011】
一実施形態では、CA9+EVは、炭酸脱水酵素9を発現するマイクロベシクル(CA9+MV)である。
【0012】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルは、所定の量のサンプルにおけるCA9+EV、好ましくはCA9+MVの絶対数として表される。
【0013】
一実施形態では、所定の量のサンプルにおけるCA9+EV、好ましくはCA9+MVの絶対数は、
a)前記対象から以前に得たサンプルを約260gで約15分間遠心分離するステップと、
b)ステップa)の後に回収された上清を、約1500gで約20分間遠心分離するステップと、
c)所定の量のステップb)の後に回収された上清におけるCA9+EV、好ましくはCA9+MVの絶対数を測定するステップと
からなる方法により決定される。
【0014】
一実施形態では、参照レベルは、ccRCC再発のリスクが低いことが知られている参照対象由来のサンプルまたは参照対象の集団由来のサンプル中のCA9+EV、好ましくはCA9+MVの測定に由来する。
【0015】
一実施形態では、参照レベルは、約350個のCA9+MV/μLサンプルである。
【0016】
一実施形態では、サンプルは血液サンプルである。
【0017】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルを測定することは、フローサイトメトリーにより行われる。
【0018】
また本発明は、対象における淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)を診断するかまたはccRCCを発症するリスクがあると対象を同定する方法であって、
a)前記対象から以前に得たサンプル中の炭酸脱水酵素9を発現する細胞外ベシクル(CA9+EV)のレベルを測定するステップと、
b)前記CA9+EVのレベルを参照レベルと比較するステップと、
c)CA9+EVのレベルが前記参照レベルより実質的に高い場合、前記対象がccRCCに罹患しているかまたはccRCCを発症するリスクがあると結論付けるステップと
を含む、方法に関する。
【0019】
一実施形態では、CA9+EVは、炭酸脱水酵素9を発現するマイクロベシクル(CA9+MV)である。
【0020】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルは、前記サンプル中の細胞外ベシクル、好ましくはマイクロベシクルの合計からのCA9+EV、好ましくはCA9+MVのパーセンテージとして表される。
【0021】
一実施形態では、参照レベルは、ccRCCを罹患していないかかつ/またはccRCCと診断されていない参照対象または参照対象の集団における、CA9+EV、好ましくはCA9+MVの測定に由来する。
【0022】
一実施形態では、参照レベルは、サンプル中のマイクロベシクルの合計からの1.85%のCA9+MVである。
【0023】
一実施形態では、ccRCCを診断することは、ccRCCの腫瘍の大きさおよび/またはグレードを決定することからなる。
【0024】
一実施形態では、サンプルは血液サンプルである。
【0025】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルを測定するステップが、フローサイトメトリーにより行われる。
【0026】
定義
本発明では、以下の用語は以下の意味を有する。
【0027】
「炭酸脱水酵素9」または「CA9」は、「炭酸脱水酵素(carbonate dehydratase、carbonic anhydrase)IX」とも呼ばれ、これらは本明細書において互換可能に使用され、炭酸水素塩および水素イオンを形成する二酸化炭素の可逆的な水和に関与する酵素ファミリーに属する亜鉛金属酵素を表す。CA9は、正常な組織では発現が限定されているが、細胞癌細胞株では過剰発現する。発現は、ごく少数の正常組織(主に胃粘膜の上皮細胞における正常組織)に限定されており、最も多くのCA9の発現は、細胞癌細胞株で見出されている。ヒトCA9は、配列番号1を有するアミノ酸配列からなる(Uniprot accession number Q16790-1, version 2; last modified on December 6, 2005; Checksum: iBA67195483F0F5CE)。
【0028】
「淡明細胞型腎細胞癌」および「ccRCC」は、本明細書において互換可能に使用されており、成人にみられる最も一般的な腎腫瘍(尿細管上皮由来の腫瘍の70%)を表す。ccRCCは、1cm以下と小さい場合があり、偶発的に見出され得、またはこれは数キログラム程度と大きい場合があり得、多くの場合、触知できる腫瘤としてまたは血尿を伴い疼痛を呈するが、幅広い様々な傍腫瘍性症候群が記載されている。ccRCCは、数年間臨床的に無症状であり得、転移の症状を呈する場合がある。ccRCCは、特徴的な巨視的外観を有し、腫瘍は固形であり、分葉しており、黄色であり、ネクローシスおよび出血により斑入り(variegation)であり、場合により、腫瘍は限局しているかまたは腎周囲の脂肪もしくは腎静脈を浸潤する。
【0029】
「診断」は、医学的診断、すなわち、病的状態、疾患、または病態、たとえばRCC、好ましくはccRCCを同定または決定するプロセスを表す。
【0030】
「細胞外ベシクル」または「EV」は、細胞の外まで、真核細胞の細胞膜を出芽(budding of)することにより形成される異質性ベシクルを表す。マイクロベシクルは、正常細胞よりはがん細胞によって大量に分泌される。これら膜ベシクルは、大きさにおいて不均一であり約10nm~約5000nmの範囲の直径を有するだけでなく、バイオジェネシス経路または細胞供給源においても不均一である。直径0.8μm未満の細胞により流される全ての膜ベシクルは、本明細書においてまとめて「マイクロベシクル」と呼ばれている。細胞外ベシクルの例として、限定するものではないが、マイクロベシクル、マイクロベシクル様粒子、prostasome、エキソソーム、デキソソーム(dexosome)、texosome、ectosome、oncosome、マイクロ粒子、アポトーシス小体、レトロウイルス様粒子、およびヒト内在性レトロウイルス(HERV)粒子が挙げられる。
【0031】
「レベル」は、相対的または絶対的に関わらず、対象由来のサンプル中のバイオマーカーの測定された量(amount、quantity)、または濃度を表す。バイオマーカーのレベルは、サンプル中の対照分子と比較または参照集団における同バイオマーカーのレベルと比較(参照レベルと比較)して決定され得る。
【0032】
「転移」は、がん細胞が1つの臓器または組織から別の隣接していない臓器または組織へ移動するプロセスを表す。腎臓におけるがん細胞は、対象の組織および臓器へと拡散し得、逆に、他の臓器または組織由来のがん細胞が腎臓へと浸潤または転移し得る。腎臓由来のがん性細胞は、身体の他のいずれかの臓器または組織へと浸潤または転移し得る。
【0033】
「マイクロベシクル」または「MV」は、細胞膜の外向きの出芽および分裂により細胞外環境内へ放出される、細胞外ベシクルの一種を表す。これらは、直径30nm程度と小さいかまたは1000nm程度と大きい場合がある。マイクロベシクルは、細胞内伝達においてある役割を果たし、細胞間にてmRNA、miRNA、およびタンパク質などの分子を輸送し得る。
【0034】
「予後」は、疾患の自然経過の間の、がんによる死亡もしくは腫瘍性疾患の再発および転移による拡散を含むがんの進行の尤度、または特定の処置によるものかどうかに関わらず有益なアウトカムの尤度(有益な応答は、限定するものではないが、全生存、長期間の生存(すなわち診断、外科手術、または他の処置後少なくとも3年間、好ましくは少なくとも5、8、または10年間の生存)、無再発生存期間、および無遠隔再発生存期間を含む患者の状態のいずれかの測定の改善を意味する)を表す。よって、「良好な予後」または「正の予後」は、再発を伴うことのない長期間の生存などの有益な臨床上のアウトカムを表し、「悪い予後」または「負の予後」は、がんの再発などの負の臨床上のアウトカムを表す。
【0035】
「参照レベル」は、参照対象由来のサンプル中のバイオマーカーのレベル、または参照集団の幾名かの対象由来のサンプル中のバイオマーカーのレベルの平均値もしくは中央値を表す。参照レベルは、正常な参照レベルまたは疾患状態の参照レベルであり得る。正常な参照レベルは、実質的に健常な対象または参照集団における幾名かの実質的に健常な対象、たとえばRCC、好ましくはccRCCを罹患していないかまたは診断されたことがない対象(または幾名かの対象)におけるバイオマーカーのレベルである。疾患状態の参照レベルは、疾患状態の対象または参照集団における幾名かの疾患状態の対象、たとえばRCC、好ましくはccRCCを罹患しているかまたは診断された対象(または幾名かの対象)におけるバイオマーカーのレベルである。
【0036】
「再発」は、がんの局所的または遠隔の再発(すなわち転移)を表す。たとえば、RCCは、部分腎摘出術、ラジオ波焼灼療法、または凍結融解壊死治療の場合、局所的に再発し得る。またこのがんは、周辺のリンパ節、同側副腎、腎周囲脂肪組織、腎窩、または腰筋に影響し得る。また腎細胞癌は、肺、骨、肝臓などの他の臓器に拡散し得る。再発は、通常、たとえばイメージング試験または生検により決定される。
【0037】
「腎細胞癌」および「RCC」は、本明細書において互換可能に使用され、腎臓の腫瘍を表す。腎臓の腫瘍は、悪性または良性であり得、最も一般的な原発性悪性腎臓腫瘍である。RCCは、通常、各ネフロンの小細管を裏打ちする細胞で開始する。腎細胞腫瘍は、単一の腫瘤として増殖し得、単一の腎臓または両方の腎臓において、複数のRCC腫瘍が発症し得る。用語RCCは、異なるRCCのサブタイプを包有する。顕微鏡の中において、4つの主要な腎細胞がんの組織学的サブタイプ:淡明細胞(従来のRCC、75%)、乳頭状(15%)、嫌色素性(5%)、および集合尿細管(2%)がある。2016年の泌尿生殖器腫瘍の世界保健機関(WHO)の分類(WHO Classification of Tumours Editorial Board, 2016. WHO classification of tumours of the urinary system and male genital organs (4th ed., Vol. 8, WHO Classification of Tumours) (Moch et al., Ed.). Lyon, France: IARC Press; Moch et al., 2016. Eur Urol. 70(1):93-105)は、数十の腎臓新生物のサブタイプを認識している。
【0038】
「リスク分類」は、対象が特定の臨床上のアウトカムを経るリスクのレベル(また尤度)による対象のグループ分けを意味する。対象は、本開示の方法に基づき、リスクグループへと分類されてもよく、リスクのレベル(たとえば高いまたは低いリスク)で分類されてもよい。「リスクグループ」は、特定の臨床上のアウトカムに関して、同様のレベルのリスクを有する対象のグループである。
【0039】
「サンプル」は、対象由来の、当業者に知られている適切な方法を介し得られた任意の生体物質を表す。サンプルは、臨床上許容される方法、たとえば、細胞、核酸(たとえばDNAおよびRNA)、タンパク質、および/または細胞外ベシクルが保存される方法で、回収され得る。「サンプル」は、身体組織および/または体液、好ましくは体液であり得る。体液の例として、限定するものではないが、血液、血漿、血清、リンパ液、腹水(ascetic fluid)、嚢胞液、尿、胆汁、乳頭滲出液、嘔吐物、母乳、涙、創部ドレナージ、糞便、腟分泌物、滑液、気管支肺胞洗浄液、痰、羊水、腹水、脳脊髄液、胸水、心膜液、精液、唾液、汗、および肺胞マクロファージが挙げられる。本発明の一実施形態では、「サンプル」は、血液サンプル(全血、血漿、および血清を含む)であり得る。
【0040】
「対象」は、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを表す。一実施形態では、対象は、患者、すなわち、健康ケアサービスのレシピエントである。好ましくは、対象は、がん患者であり、すなわち、すなわちこの対象は以前にがんと診断されている。
【0041】
対象または対象の集団に関連した「実質的に健常な」は、上記対象(または上記集団における対象)が、RCC、好ましくはccRCCを罹患していないかまたは診断されていないことを意味する。
【0042】
「外科手術」は、がん性組織の除去のために取られる外科的な方法に当てはまり、開腹術による部分または根治的腎摘出術、ラジオ波焼灼療法(RFA)、凍結融解壊死治療(CRA)、切除、切開、および腫瘍の生検/除去を含む。
【0043】
詳細な説明
本発明は、対象の腎細胞癌を診断する方法に関する。本発明の別の目的は、腎細胞癌を発症するリスクがあると対象を同定する方法である。本発明の別の目的は、腎細胞癌のための処置を経ているかまたは経たことがある対象における、再発のリスクまたは無再発生存期間の確率(chance)を予測する方法である。
【0044】
本方法の一実施形態では、腎細胞癌は、淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)である。
【0045】
一実施形態では、本発明に係る方法は、対象由来のサンプルを準備するステップを含む。
【0046】
一実施形態では、サンプルは、体液である。体液の例として、限定するものではないが、血液、血漿、血清、リンパ液、腹水(ascetic fluid)、嚢胞液、尿、胆汁、乳頭滲出液、嘔吐物、母乳、涙、創部ドレナージ、糞便、腟分泌物、滑液、気管支肺胞洗浄液、痰、羊水、腹水、脳脊髄液、胸水、心膜液、精液、唾液、汗、および肺胞マクロファージが挙げられる。
【0047】
一実施形態では、サンプルは、血液サンプル(全血、血漿、および血清を含む)である。一実施形態では、サンプルは、全血サンプルである。一実施形態では、サンプルは、血漿サンプルである。
【0048】
一実施形態では、サンプルは、対象から以前に採取されており、すなわち本発明の方法は、対象からサンプルを回収する能動的なステップを含まない。結果として、この実施形態では、本発明の方法は、非侵襲的な方法であり、すなわち本発明の方法は、in vitroでの方法である。
【0049】
一実施形態では、サンプルは、対象から適切な容器、たとえばEDTAチューブへと以前に採取されている。
【0050】
一実施形態では、本発明に係る方法は、サンプルを処理するステップを含む。
【0051】
一実施形態では、サンプルを処理するステップは、全血サンプルを遠心分離して、血小板を多く含む血漿を得るステップを含む。一実施形態では、血小板を多く含む血漿は、約260g、約15分間の遠心分離により得られ得る。
【0052】
一実施形態では、サンプルを処理するステップは、全血サンプルを遠心分離して、血小板フリーの血漿を得るステップを含む。一実施形態では、サンプルを処理するステップは、血小板を多く含む血漿サンプルを遠心分離して血小板フリーの血漿を得るステップを含む。一実施形態では、血小板フリーの血漿は、約1500g、約20分間の遠心分離により得られ得る。
【0053】
一実施形態では、本発明に係る方法は、対象由来のサンプル中の炭酸脱水酵素9(CA9)を発現する細胞外ベシクル(EV)(CA9+EV)のレベル、好ましくは、対象由来のサンプル中の炭酸脱水酵素9(CA9)を発現するマイクロベシクル(MV)(CA9+MV)のレベルを測定するステップを含む。
【0054】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルは、限定するものではないが、CA9に対する抗体を使用するフローサイトメトリー、CA9に対する抗体を使用するELISA、質量分析などを含む当業者に知られているいずれかの従来の方法により測定され得る。
【0055】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルは、CA9に対する抗体を使用するフローサイトメトリーにより測定される。フローサイトメトリーの適用に有用なヒトCA9に対するいくつかの抗体、たとえば数例を挙げると、REA658(Miltenyi Biotec ref. #130-110-057)、SP106(AbCam ref. #ab105226)、2D3(AbCam ref. #ab107257)、CA9/781(AbCam ref. #ab216021)、10F7A8(AbCam ref. #ab181464)、MM0610-3B15(AbCam ref. #ab135159)、053(AbCam ref. #ab275578)、GT12(ThermoFisher ref #MA5-16318)、66.4.C2(LifeSpan BioSciences ref. #LS-C357729-20)、OTI1G7(OriGene ref. #TA500623S)、SPM314(OriGene ref. #AM50188PU)、SPM487(OriGene ref. #AM33258PU)、girentuximab(Creative Biolabs)が、市販されている。
【0056】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルは、サンプル中のマイクロベシクルの合計のパーセンテージとして測定され得る。
【0057】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルは、所定の量のサンプル中の(たとえば血漿1μLあたりの)CA9+EV、好ましくはCA9+MVの絶対値、すなわち絶対数として測定され得る。
【0058】
一実施形態では、本発明に係る方法は、測定されたCA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルの値を含む、ハードコピーおよび/またはソフトコピーを調製するステップを含む。
【0059】
ハードコピーの例として、限定するものではないがプリントアウト、手書きの情報、写真、最初に得た(たとえばフローサイトメーター由来の)データが挙げられる。
【0060】
ソフトコピーの例として、限定するものではないが、任意の形態のコンピュータ可読ファイル、たとえば測定を行った機械(たとえばフローサイトメーター)または各分析プログラムから最初に得たデータ出力、上記値を含むワードまたは他のテキストソフトウェア文書;スクリーンショットが挙げられる。
【0061】
上記ハードコピーまたはソフトコピーに含まれる値は、たとえば生の値(すなわち得られた最初のデータ)または計算された値(たとえば測定から派生した数値の形態)であり得ることが理解されるであろう。
【0062】
一実施形態では、本発明の方法は、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルを、参照レベルと比較するステップを含む。
【0063】
一実施形態では、参照レベルは、参照対象における、上述のCA9+EV、好ましくはCA9+MVの測定に由来する。
【0064】
一実施形態では、参照レベルは、参照集団における、上述のCA9+EV、好ましくはCA9+MVの測定に由来する。
【0065】
本明細書中使用される場合、「参照集団」は、少なくとも2、好ましくは少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも50、少なくとも75、少なくとも100名、またはそれ以上の参照対象を含む集団である。
【0066】
本発明に係る方法の一実施形態では、参照対象は、実質的に健常な対象である。
【0067】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルを参照レベルと比較するステップは、「眼による」比較を含み得る。
【0068】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルを参照レベルと比較するステップは、1つ以上の統計分析の形態を含み得る。
【0069】
このような統計分析の例として、限定するものではないが、回帰分析、単変量解析、多変量解析、変分計算、ベストフィット解析、曲線の適合、外挿、内挿、最小二乗、平均値の計算、シミュレーション解析、logrank検定、カプランマイヤー推定量などが挙げられる。
【0070】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルを参照レベルと比較するステップは、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルの統計的または数学的な表現(たとえば絶対値、平均値、中央値、または回帰)を、参照レベルの統計的または数学的な表現(たとえば絶対値、平均値、中央値、または回帰)と比較するステップを含み得るかまたはからなり得る。
【0071】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルと参照レベルとの間の差異は、統計上有意に異なる。
【0072】
「統計上有意に異なる」は、統計分析において、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルと参照レベルとの間の差異が、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01未満、またはそれ以下のp値を示すことを意味する。
【0073】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルと参照レベルとの間の差異の評価は、特に本明細書中開示される実施例の観点において、参照レベルと比較してCA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルを解釈できる医師にゆだねられる。
【0074】
一実施形態では、本発明の方法は、RCC(好ましくはccRCC)を罹患しているかまたは発症するリスクがあると対象を診断するステップを含む。
【0075】
一実施形態では、対象は、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルが参照レベルよりも実質的に高い場合、RCC(好ましくはccRCC)を罹患しているかまたは発症するリスクがあると診断される。
【0076】
用語「実質的に高い」は、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルと参照レベルとの間の十分に高い度合いの差異、たとえば統計上有意に異なることを表す。
【0077】
一実施形態では、CA9+EVのレベルおよび参照レベルは、細胞外ベシクルの合計のパーセンテージとして表される。
【0078】
一実施形態では、CA9+MVのレベルおよび参照レベルは、マイクロベシクルの合計のパーセンテージとして表される。
【0079】
一実施形態では、対象は、対象由来のサンプル中のマイクロベシクルの合計からのCA9+EV、好ましくはCA9+MVのパーセンテージが、参照対象由来のサンプルまたは参照集団由来のサンプル中のマイクロベシクルの合計からのCA9+EV、好ましくはCA9+MVのパーセンテージよりも実質的に高い場合、RCC(好ましくはccRCC)を罹患しているかまたは発症するリスクがあると診断される。
【0080】
一実施形態では、CA9+EVの参照レベルは、サンプル中の細胞外ベシクルの合計からの少なくとも1%のCA9+EV、たとえばサンプル中の細胞外ベシクルの合計からの1%±0.5%、1.5%±0.5%、2%±0.5%、2.5%±0.5%、3%±0.5%、またはそれ以上のCA9+EVであり;好ましくはCA9+EVの参照レベルは、サンプル中の細胞外ベシクルの合計からの約1.85%のCA9+EVである。
【0081】
一実施形態では、CA9+MVの参照レベルは、サンプル中のマイクロベシクルの合計からの少なくとも1%のCA9+MV、たとえばマイクロベシクルの合計からの1%±0.5%、1.5%±0.5%、2%±0.5%、2.5%±0.5%、3%±0.5%、またはそれ以上のCA9+MVであり;好ましくはCA9+MVの参照レベルは、サンプル中のマイクロベシクルの合計からの約1.85%のCA9+MVである。
【0082】
一実施形態では、診断するステップは、RCC(好ましくはccRCC)の大きさを決定するステップを含む。一実施形態では、診断するステップは、RCC(好ましくはccRCC)のグレードを決定するステップを含む。
【0083】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルは、腫瘍の大きさと正に相関する。
【0084】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルは、ccRCCのグレードと正に相関する。一実施形態では、ファーマングレード付けシステムまたはISUPグレード付けシステムが、ccRCCのグレードを決定するために使用され、好ましくは、ISUPグレード付けシステムが、ccRCCのグレードを決定するために使用される。
【0085】
ファーマングレード付けシステム(Fuhrman et al., 1982. Am J Surg Pathol. 6(7):655-663)は、欧州および米国で病理医により広く使用されており(Zisman et al., 2001. J Clin Oncol. 19(6):1649-1657; Zisman et al., 2002. J Clin Oncol. 20(23):4559-4566; Frank et al., 2002. J Urol. 168(6):2395-2400; Karakiewicz et al., 2007. J Clin Oncol. 25(11):1316-1322);このシステムは、RCCを、核の特徴に基づきグレード1、2、3、および4と分類し、全てのステージのRCC患者において最も有意な予後変数のうちの1つを提示している。別のグレード付けシステムが、ISUP(International Society of Urologic Pathologists)により提案されている(Delahunt et al., 2014. Eur Urol. 66(5):795-798)。ISUPグレード付けシステムは、RCCを、以下:
グレードI:400倍の倍率で腫瘍細胞核小体が見えないかまたは小さく好塩基性;
グレードII:400倍の倍率で腫瘍細胞核小体が顕著であるが100倍の倍率では顕著ではない;
グレードIII:100倍の倍率で腫瘍細胞核小体が好酸球性であり明確に視認可能;
グレードIV:広範囲の核の多形性を示し、ならびに/または腫瘍巨細胞および/もしくは肉腫様および/もしくは棒状体の脱分化を示す腫瘍のいずれかの比率の存在を含む腫瘍
のグレードI、II、III、およびIVと分類する。
【0086】
一実施形態では、本発明の方法は、RCC(好ましくはccRCC)のための処置を経たかまたは経たことがある対象において、再発のリスクまたは無再発生存期間の確率を予後診断するステップを含む。
【0087】
一実施形態では、対象は、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルが参照レベルよりも実質的に高い場合、RCC(好ましくはccRCC)の再発のリスクが高いグループに割り当てられる。
【0088】
この実施形態では、参照レベルは、参照対象または参照集団における上述のCA9+EV、好ましくはCA9+MVの測定に由来し、上記参照対象は、RCC(好ましくはccRCC)の再発のリスクが低いことが知られている対象である。
【0089】
あるいは、対象は、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルが参照レベルと実質的に類似またはこれよりも高い場合、RCC(好ましくはccRCC)の再発のリスクが高いグループに割り当てられる。
【0090】
この実施形態では、参照レベルは、参照対象または参照集団における上述のCA9+EV、好ましくはCA9+MVの測定に由来し、上記参照対象は、RCC(好ましくはccRCC)の再発のリスクが高いことが知られている対象である。
【0091】
一実施形態では、対象は、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルが参照レベルよりも実質的に低い場合、RCC(好ましくはccRCC)の再発のリスクが低いグループに割り当てられる。
【0092】
この実施形態では、参照レベルは、参照対象または参照集団における上述のCA9+EV、好ましくはCA9+MVの測定に由来し、上記参照対象は、RCC(好ましくはccRCC)の再発のリスクが高いことが知られている対象である。
【0093】
あるいは、対象は、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルが参照レベルと実質的に類似するかまたはこれよりも低い場合、RCC(好ましくはccRCC)の再発のリスクが低いグループに割り当てられる。
【0094】
この実施形態では、参照レベルは、参照対象または参照集団における上述のCA9+EV、好ましくはCA9+MVの測定に由来し、上記参照対象は、RCC(好ましくはccRCC)の再発のリスクが低いことが知られている対象である。
【0095】
一実施形態では、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベル、および参照レベルは、所定の量のサンプルにおける(たとえば血漿1μLあたりの)CA9+EV、好ましくはCA9+MVの絶対値、すなわち絶対数として表される。
【0096】
一実施形態では、所定の量のサンプルにおけるCA9+EV、好ましくはCA9+MVの絶対数は、
a)サンプルを約260gで約15分間遠心分離し、
b)ステップa)の後に回収した上清を約1500gで約20分間遠心分離し、
c)ステップb)の後に回収した所定の量の上清におけるCA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルを、たとえばフローサイトメトリーなどにより測定する
ことを含むかまたはからなる方法により測定され得る。
【0097】
一実施形態では、CA9+EVの参照レベルは、少なくとも200個のCA9+EV/μL血漿、たとえば200、250、300、350、400個、またはそれ以上のCA9+EV/μL血漿であり、好ましくはCA9+MVの参照レベルは、約350個のCA9+EV/μL血漿である。
【0098】
一実施形態では、CA9+MVの参照レベルは、少なくとも200個のCA9+MV/μL血漿、たとえば200、250、300、350、400個、またはそれ以上のCA9+MV/μL血漿であり、好ましくはCA9+MVの参照レベルは、約350個のCA9+MV/μL血漿である。
【0099】
CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベルは、サンプルがどのように処理されるかに応じて変動し得ることが、当業者に容易に理解される。CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベル、および本明細書中記載のいずれかの関連する参照レベルを測定するためのいずれかの方法が、例示的な目的のため提供されている;しかしながら、当業者は、CA9+EV、好ましくはCA9+MVのレベル、および参照レベルの両方が、比較可能なデータを有するために同じ方法を使用して測定されることを理解するものであろう。
【0100】
本発明の別の目的は、それを必要とする対象の腎細胞癌(RCC)を処置する方法である。
【0101】
本方法の一実施形態では、腎細胞癌は、淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)である。
【0102】
一実施形態では、本発明に係る方法は、本明細書中記載の方法により、対象でRCC(好ましくはccRCC)を診断するステップを含む。一実施形態では、本発明に係る方法は、本明細書中記載の方法により、RCC(好ましくはccRCC)を発症するリスクがあると対象を同定するステップを含む。
【0103】
一実施形態では、対象がRCC(好ましくはccRCC)と診断されたかまたはRCC(好ましくはccRCC)を発症するリスクがある場合、本発明に係る方法は、RCC(好ましくはccRCC)に関して対象を処置するステップを含む。
【0104】
RCC(好ましくはccRCC)に関して対象を処置するための手段または方法は、当業者に知られている。これらは、限定するものではないが、外科手術および免疫療法を含む。外科手術は、がんおよび任意選択でその周辺の腎臓の一部を除去することを目的とする。早期RCC(好ましくはccRCC)では、ラジオ波焼灼療法(RFA)、凍結融解壊死治療(CRA)、または開腹術による部分腎摘出術(PN)が、がんを伴う腎臓の一部を除去するために行われ得る。RCC(好ましくはccRCC)が腎臓の中央にある場合、または腫瘍が大きい場合、腎臓全体が、開腹術による根治的腎摘出術(RN)により除去されなければならない場合がある。免疫療法は、がん細胞の増殖および拡散を特異的に停止させるために当該がん細胞の表現型の変化を標的とすることを目的とする。RCC(好ましくはccRCC)の処置で使用される免疫療法の例として、限定するものではないが、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、およびパゾパニブが挙げられる。
【0105】
一実施形態では、本発明に係る方法は、本明細書中記載の方法により、RCC(好ましくはccRCC)に関する処置を経た対象または当該処置を経たことのある対象の再発のリスクまたは無再発生存期間の確率を予測するステップを含む。
【0106】
一実施形態では、対象が高いリスクのRCC(好ましくはccRCC)の再発グループに割り当てられた場合、本発明に係る方法は、再発性RCC(好ましくは再発性ccRCC)に関して対象を処置するステップを含む。対象は、一次処置に応じてさらに処置され得る。たとえば、ラジオ波焼灼療法(RFA)、凍結融解壊死治療(CRA)、または開腹術による部分腎摘出術(PN)の後に、対象は、可能である場合RFA、CRA、もしくはPNによるか、または開腹術による根治的腎摘出術(RN)によりさらに処置され得る。対象がすでに一次処置として開腹術による根治的腎摘出術(RN)を経験していた場合、上記対象は、外科的な切除によるかまたは免疫療法によりさらに処置され得る。
【0107】
一実施形態では、対象が低リスクのRCC(好ましくはccRCC)の再発グループに割り当てられた場合、本発明に係る方法は、アクティブサーベイランス下に対象を置くステップを含む。
【0108】
「アクティブサーベイランス」または「監視的待機」は、症状が出現または変化するまでいずれの処置も提供することなく対象の病態を密接にモニタリングすることを意味する。
【0109】
一実施形態では、対象は、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくは霊長類である。一実施形態では、対象はヒトである。
【0110】
一実施形態では、対象は雄性である。一実施形態では、対象は雌性である。
【0111】
一実施形態では、対象は、小児、青年、または成年である。
【0112】
一実施形態では、対象は、40歳超である。一実施形態では、対象は、50歳超である。一実施形態では、対象は、60歳超である。一実施形態では、対象は、70歳超である。一実施形態では、対象は、80歳以上である。
【0113】
一実施形態では、対象は、0~20歳である。一実施形態では、対象は、20~40歳である。一実施形態では、対象は、40~50歳である。一実施形態では、対象は、50~55歳である。一実施形態では、対象は、55~60歳である。一実施形態では、対象は、60~65歳である。一実施形態では、対象は、65~70歳である。一実施形態では、対象は、70~75歳である。一実施形態では、対象は、75~80歳である。一実施形態では、対象は、80~85歳以上である。
【0114】
一実施形態では、対象は、現在/過去にRCC(好ましくはccRCC)と診断されない/されなかった。一実施形態では、対象は、RCC(好ましくはccRCC)と診断されるリスクがある。一実施形態では、対象は、現在/過去にRCC(好ましくはccRCC)と診断されている/された。
【0115】
一実施形態では、対象は、以下の症状:腹部のしこり、血尿、説明できない体重減少、食欲減少、疲労感、視覚の問題、一定した側部の疼痛、および/または女性における過度な毛髪の成長のうちの少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、またはそれ以上を呈する場合、RCC(好ましくはccRCC)と診断されるリスクがあるとみなされる。
【0116】
一実施形態では、対象は、以前にRCC(好ましくはccRCC)に関して処置されていなかった。一実施形態では、対象は、以前にRCC(好ましくはccRCC)に関して処置されていた。一実施形態では、対象は、現在、RCC(好ましくはccRCC)に関して処置されている。
【0117】
RCC処置の例として、限定するものではないが、外科手術および免疫療法が挙げられる。外科手術は、がんおよび任意選択でその周辺の腎臓の一部を除去することを目的とする。早期RCC(好ましくはccRCC)では、ラジオ波焼灼療法(RFA)、凍結融解壊死治療(CRA)、または開腹術による部分腎摘出術(PN)が、がんを伴う腎臓の一部を除去するために行われ得る。RCC(好ましくはccRCC)が腎臓の中央にある場合、または腫瘍が大きい場合、腎臓全体が、開腹術による根治的腎摘出術(RN)により除去されなければならない場合がある。免疫療法は、がん細胞の増殖および拡散を特異的に停止させるために当該がん細胞の表現型の変化を標的とすることを目的とする。RCC(好ましくはccRCC)の処置で使用される免疫療法の例として、限定するものではないが、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、およびパゾパニブが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【
図1A-E】
図1A-Eは、細胞表面マーカーCA9に関して染色することによる循環性MVのフローサイトメトリーによる検出を示すフローサイトメトリーのプロットおよびグラフのセットである。
【
図1A】抗CA9抗体で染色した後の1名の対照および1名のRCC患者由来のCA9-MVの代表的なフローサイトメトリーのプロット。
【
図1B】対照(n=16)およびRCC患者(n=76)由来のCA9
+MV/μL血漿のパーセンテージの平均値を示すグラフ。データは、平均値±SEMとして示される。*P<0.05。
【
図1C】1名の対照、1名のn-ccRCC患者、および1名のccRCC患者由来のCA9-MVの代表的なフローサイトメトリーのプロット。パーセンテージは、CA9マーカー(x軸)対FSlog特性(y軸)をプロットすることにより可視化され、アイソタイプ対照に基づきゲート化した血漿中循環性MVの染色に対し正のイベントの数を示す。
【
図1D】対照(n=16)、n-ccRCC患者(n=12)、およびccRCC(n=64)患者におけるCA9
+MV/μL血漿のパーセンテージの平均値を示すグラフ。データは、平均値±SEMとして示される。*P<0.05。
【
図1E】フローサイトメトリーおよび腫瘍の大きさ(cm)により検出されるCA9を発現するMV/μl血漿のパーセンテージ間のスピアマンの相関を示すグラフ。
【
図2A-B】
図2A-Bは、腫瘍を外科手術にて除去する前および除去から1カ月後のccRCC患者の血漿由来のCA9
+MVのパーセンテージの比較を示すフローサイトメトリーのプロットおよびグラフのセットである。
【
図2A】腎摘出術前(0日目)および腎摘出術から1カ月後(+1カ月)の1名のRCC患者由来のCA9
+MVの代表的なフローサイトメトリーのプロット。
【
図2B】腎摘出術前(ccRCC)および腎摘出術から1カ月後(ccRCC 1M)のRCC患者(n=10)由来のCA9
+MVのパーセンテージの平均値を示すグラフ。ウィルコクソン検定が、統計上有意性を決定するために使用された。*P<0.05。
【
図3A-C】
図3A-Cは、ELISAにより測定した対照、RCC患者、n-ccRCC患者、およびccRCC患者における血清中のs-CA9の濃度を示すグラフのセットである。
【
図3A】対照(n=16)およびRCC患者(n=76)においてpg/mLで表現される血漿中s-CA9濃度の平均値を示すグラフ。データは、平均値±SEMとして示される。**P<0.01。
【
図3B】対照(n=16)、n-ccRCC患者(n=12)、およびccRCC(n=64)患者におけるpg/mLで表される血漿中s-CA9濃度の平均値を示すグラフ。データは、平均値±SEMとして示される。**P<0.01。
【
図3C】ELISAおよび腫瘍の大きさ(cm)により観察されるs-CA9の血漿中濃度(pg/mL)間のスピアマンの相関を示すグラフ。
【
図4】
図4は、フローサイトメトリーにより検出したCA9
+MVのパーセンテージを使用した受信者動作特性(ROC)曲線解析である。
【
図5A-B】
図5A-Bは、フローサイトメトリーにより検出した循環性CA9
+MV(A)またはELISAにより検出したs-CA9濃度(B)の数による全患者の無増悪生存期間を示すグラフのセットである。
【
図5A】フローサイトメトリーにより測定した低い絶対数(<350)のCA9
+MVを有するRCC患者は、高い値(≧350)を有する患者よりも良好な無増悪生存期間を明らかにした。
【
図5B】ELISAにより測定したs-CA9濃度とこれら患者の無増悪生存期間との間に相関は観察されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0119】
実施例
本発明は、以下の実施例によりさらに示される。
【0120】
実施例1:フローサイトメトリーによるCA9を担持するマイクロベシクルの検出
材料および方法
コホートに含まれる患者
この試験で報告される臨床データは、UroCCR project(NCT03293563)、CNIL承認番号DR-2013-206のフレームワークの中で回収された。この前向きの単施設試験は、2017年5月~2019年1月の間の限局性腎腫瘍を外科手術により処置した全ての患者を含んでいた。
【0121】
術前の臨床データは、国立腎がんデータベース(Reseau Francais de Recherche sur le Cancer du Rein-Uro-CCR)を介して回収および匿名化された。これらは、年齢、性別、および腫瘍の大きさを含んでいた。腫瘍は、TNM 2009分類(Kidney (ICD-O C64), 2010. In Sobin et al. (Eds.), TNM classification of malignant tumours (7th Ed., pp. 255-257). Oxford, UK: Wiley-Blackwell)により分類し、組織学的なサブタイプは、2015 WHOの腎臓腫瘍の分類(Moch et al., 2016. Eur Urol. 70(1):93-105)により記録した。腎細胞癌のISUPグレード(Delahunt et al., 2019. Histopathology. 74(1):4-17)を分析した。腎摘出術の日付は、フォローアップの開始とみなした。
【0122】
まとめると、16名の個体を対照として扱い、これらのうち8名は、RCC以外の泌尿器科系病態(感染症、尿路結石など)で入院していた。他の血漿対照は、8名の健常なドナーから得た。
【0123】
77名の患者(52名が男性、25名が女性)が、この試験に含まれていた。RCCとは異なる細胞癌を有する患者は除外された。RCC患者のうち、71名は局在性または局所的に進行した腎がんを有しており、6名は、転移性腎細胞癌を有していた。患者の特徴は、表1にまとめられている。フォローアップの終了時に、9名の患者が死亡し、このうち5名の患者ががんにより死亡した。転移を伴わない患者のフォローアップの中央値は、13.5(3-48)カ月であった。診断時に転移を伴わない患者のうち、11名が局所性または転移性の再発を経験した。
【0124】
最後に、10名の患者由来の血液サンプルを、腫瘍切除から1カ月後に回収し、これらサンプルを使用して、血液中のCA9+MVのレベルが腫瘍切除後に変化したかどうかを決定した。
【0125】
【0126】
サンプルの処理
末梢血(8mL)を、血小板の活性化を最小限にするため21ゲージの針を使用して末梢静脈からEDTAで処置したチューブ(Vacutainers, Becton Dickinson, Le Pont de Claix, France)に回収して、回収から2時間以内にアッセイのため処理した(Agouni et al., 2008. Am J Pathol. 173(4):1210-1219)。血液の回収は、外科手術前に行った。
【0127】
簡潔に述べると、血液を、260gで15分間遠心分離し、血小板を多く含む血漿を、全血から分離した。次に、血小板を多く含む血漿を、1500gで20分間さらに遠心分離して、血小板フリーの血漿(PFP)を得た。PFPを凍結し、その後使用するまで-80℃で保存した。
【0128】
CA9を保有するマイクロベシクルの性質決定
血漿中MVの性質決定を、炭酸脱水酵素9に対し特異的な抗体(CA9)-PE,(Cat# 130-110-057, Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)を使用してフローサイトメトリーにより行った。この抗体を、4℃で30分間インキュベートした。無関係なヒトIgGを、アイソタイプが一致した陰性対照として使用した。サンプルは、フローサイトメーター500 MPLシステム(Beckman Coulter, Villepinte, France)で分析した。MVの定量化は、FC500サイトメーター(Beckman Coulter, France)上で既知の濃度の較正した10μmの大きさのFlowcountビーズ(Beckman Coulter)を使用して行った。
【0129】
結果
MVの定量化が臨床状況にて診断ツールとして使用できるかどうかを決定するために、本発明者らは、MVの精製ステップを伴わずに血漿中の循環性MVを分析した。MVの定量的および定性的なフローサイトメトリーの分析に最適な構成および設定は、Nolte-’T Hoenら(2013. J Leukoc Biol. 93(3):395-402)による試験から出典されている。よって、最適な設定を使用して、バックグラウンドノイズを超える100nmの蛍光ポリスチレンビーズを効率的に検出した。
【0130】
CA9は、フローサイトメトリーにより循環性MVのカーゴの構成要素として検出された。RCC患者サンプルは、抗CA9抗体による強力な正の染色を呈し、対応する対照サンプルは、弱い蛍光シグナルのみを示した(
図1A)。
【0131】
本発明者らは、血漿中のCA9を担持するMV(CA9
+MV)のパーセンテージが疾患、ステージ、またはグレードに関連するかどうかを評価した。第1に、本発明者らは、循環性MVにより担持されるCA9のレベルと性別、年齢、またはccRCC TNMステージとの間に有意な関連を見出さなかった(表2)。次に、本発明者らは、CA9
+MVのパーセンテージが、対照由来の血漿よりもRCC患者由来の血漿において有意に高いことを見出した(
図1B)。RCCのサブグループでは、CA9
+MVは、健常な対照と比較した場合、ccRCC由来の血漿において有意に高かった(
図1Cおよび1D)。さらに、ccRCC患者におけるCA9
+MVのレベルは、n-ccRCC患者のサンプルよりも顕著に高かった(
図1Cおよび1D)。
【0132】
興味深いことに、ccRCC患者由来の血漿におけるCA9
+MVのパーセンテージは、外科手術後に減少し(
図2Aおよび2B)、フローサイトメトリーにより得られたCA9のシグナルが腫瘍由来のMVから生じることが示唆される。
【0133】
さらに、ccRCC患者において、CA9
+MVは、腫瘍の大きさ(
図1E)およびISUPグレードI-II対III-IV(表2)と相関した。
【0134】
【0135】
実施例2:血漿中CA9濃度の定量的な分析
材料および方法
血漿中のCA9濃度のELISAによる測定
可溶性血漿CA9(s-CA9)を、製造社のプロトコルにしたがい、ヒト炭酸脱水酵素9 Quantikin ELISA kit(Cat# DCA900, R&D Systems, Minneapolis, MN, USA)によって定量化した。
【0136】
簡潔に述べると、血漿サンプルまたは標準的な対照サンプルを、CA9に対し特異的な抗体でコーティングしたマイクロプレート上で、室温で2時間インキュベートした。このプレートを洗浄して結合していない抗体を除去した。
【0137】
コンジュゲート溶液のインキュベーションの後、基質溶液を添加した。30分後に色の展開を止めた。マイクロプレートリーダー(VICTOR Multilabel plate reader)を使用して、450nmでの比色濃度を決定した。
【0138】
最終的な結果は、標準曲線により計算した。結果は、pg/mLで表した。この方法の定量化の限界の平均値は、2.28pg/mLであった。
【0139】
結果
ELISAにより検出したs-CA9のレベルは、健常な対照由来の血漿よりもRCC患者(n=70)由来の血漿において有意に高かった(
図3A)。特に、ccRCC患者における血漿中s-CA9のレベルは、健常な対照よりも有意に高かった。血漿中s-CA9のレベルの平均値は、ccRCC患者において117.5pg/mL(範囲5-550.29)、n-ccRCC患者において91.2pg/mL、および対照において47.12pg/mLであった(
図3B)。
【0140】
しかしながら、ELISAにより検出した血漿中s-CA9のレベルは、ccRCC患者での病態検査で測定した腫瘍の大きさ(
図3C)、ISUPグレードまたは病態のステージ(表3)と相関しなかった。これは、CA9
+MVが腫瘍の大きさ(
図1E)およびISUPグレードI-II対III-IV(表2)と相関した実施例1で得たデータとは対照的である。
【0141】
【0142】
実施例3:ccRCCにおける診断ツールとしての循環性CA9+MVのロバスト性
方法
受信者動作特性(ROC)曲線
ccRCCと健常な対照との間のCA9+MVの診断特性を評価するために、受信者動作特性(ROC)曲線をプロットし、他の診断特徴、たとえば有意な変数の感度、特異度、陽性的中率(PPV)、陰性的中率(NPV)、ユールのQ係数、Youden指数、およびカイ二乗検定を計算した。
【0143】
結果
ccRCCにおけるCA9
+MVを検出するための診断ツールとしてのフローサイトメトリーのロバスト性を試験するために、本発明者らは、ROC曲線を作成した(
図4)。ccRCCを予測するためのフローサイトメトリーにより検出したCA9
+MVのカットオフ値は、64名の患者のROC曲線に由来していた。1.85%超のCA9
+MVは、0.70の曲線下面積(AUC)(95% CI:0.57-0.84)、68.8%の感度、60.9%の特異度を示した。
【0144】
64名のccRCC患者のうち、フローサイトメトリー上で1.85%の高いカットオフを達成する個体の88.6%(PPV)が、ccRCCと正確に診断された。逆に、1.85%以下のカットオフを達成する個体の30.7%(NPV)は、健常と正確に診断された。Youden指数が0.3であるにもかかわらず、ユールのQ係数は0.55として計算され、フローサイトメトリーにより検出したCA9+MVとccRCCとの間に強力な関連が表された。さらに、カイ二乗検定の結果は0.05以下であり(表4)、1.85%の閾値がこれら患者において予測されるとみなし得ることが示されている。
【0145】
【0146】
実施例4:無増悪生存期間の評価
方法
無増悪生存期間の予後
CA9+MVのパーセンテージに加え、同様に、血漿1μLあたりの絶対値での計算を、Flowcountビーズを使用して76名の患者でのフローサイトメトリーにより行った。臨床的かつ病理学的な特徴とフローサイトメトリーにより検出したCA9+MVの絶対数と、ELISAにより測定したs-CA9の濃度との間の関連は、表5に報告されている。ここで、高CA9グループおよび低CA9グループへ患者を分け、閾値を確立するために、中央値を使用した。無増悪生存期間(PFS)は、転移を伴わない患者ではカプランマイヤー法を使用して推定し、比較は、ログランク検定により行った。
【0147】
【0148】
結果
フローサイトメトリーにより決定したCA9+MVの中央値は、350MV/μL血漿(33-47328)であり、ELISAにより定量化したs-CA9の濃度の中央値は、88pg/mL(4-550)であった(n=70)。腫瘍の大きさ(p=0.05)および腫瘍の再発(p=0.006)は、CA9+MV/μL血漿の高い値と相関していた。
【0149】
多数のCA9
+MV(>350個のCA9
+MV/μL血漿)を有する患者は、少ない数のCA9
+MV(<350個のCA9-MV/μL血漿)を有する患者と比較して低い無増悪生存期間(p=0.01)を有しており(
図5A)、ELISAにより測定した高濃度のs-CA9(>88pg/mL)は、低い無増悪生存期間(p=0.089)と有意に相関しなかった(
図5B)。
【0150】
結論として、CA9+MVのレベルを決定することは、s-CA9の濃度とは異なり、強力なRCC再発の予後を提供する。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】