(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-07
(54)【発明の名称】多能性幹細胞由来の神経前駆細胞を含む退行性脳疾患治療用の薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/30 20150101AFI20240131BHJP
C12N 5/0797 20100101ALI20240131BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240131BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240131BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240131BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240131BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240131BHJP
A61K 35/545 20150101ALN20240131BHJP
【FI】
A61K35/30
C12N5/0797
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/14
A61P21/00
A61P25/28
A61K35/545
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551636
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(85)【翻訳文提出日】2023-05-08
(86)【国際出願番号】 KR2021015866
(87)【国際公開番号】W WO2022098110
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】10-2020-0147335
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517119589
【氏名又は名称】エスバイオメディックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミニョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ジンセン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ドン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒュン-ミン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC12
4B065BB13
4B065BB19
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
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4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZA94
(57)【要約】
多能性幹細胞由来の神経前駆細胞を含む退行性脳疾患治療用の薬学的組成物に係り、一態様による多能性幹細胞から分化された神経前駆細胞は、アミロイドβ注入動物モデルにおいて、脳室内に注入され、認知機能強化効能を長期間持続させることができる効果があり、アルツハイマー病を含む退行性脳疾患治療に有用に使用されうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞から分化された神経前駆細胞を有効成分として含む、退行性脳疾患の予防用または治療用の薬学的組成物。
【請求項2】
前記多能性幹細胞は、核移植多能性幹細胞(NT-hPSC)、単為生殖から起きる細胞由来の多能性幹細胞(pn-hPSC)、逆分化万能幹細胞(iPSC)及び胚性幹細胞(ESC)からなる群のうちから選択されたいずれか一つである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記退行性脳疾患は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、パーキンソン病、ホンチントン病、軽度認知障害(mild cognitive impairment)、脳アミロイドアンギオパチー、ダウン症候群、アミロイド性脳卒中(stroke)、全身性アミロイド病、ダッチ(Dutch)型アミロイド症、ニーマン・ピック病、老人性痴呆、筋委縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、脊髄小脳性運動失調症(spinocerebellar atrophy)、トゥレット症候群(Tourette’s syndrome)、フリードライヒ歩行失調(Friedreich’s ataxia)、マシャド・ジョセフ病(Machado-Joseph’s disease)、レビー小体認知症(Lewy body dementia)、筋緊張異常(dystonia)、進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy)及び前頭側頭葉痴呆(frontotemporal dementia)からなる群のうちから選択されたいずれか1つの疾患である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、静脈内(IV:intravenous)、海馬内(IH:intrahippocampal)、脳内(intracerebral)、頭蓋内(intracranial)、脊椎内(intraspinal)、脳脊髄液内(intracerebrospinal)、脳室内(ICV:intracerebroventricular)または脊髄腔内(intrathecal)に投与するためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記神経前駆細胞は、前記多能性幹細胞を、タンパク質キナーゼC-β(PKC-β:protein kinase C-β)阻害剤及び骨形成タンパク質(BMP:bone morphogenetic protein)阻害剤を含む培地で三次元培養して形成された胚様体(EB:embryonic body)を二次元培養して分化されたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記多能性幹細胞は、無フィーダ細胞(feeder cell-free)条件下で培養されたものである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記PKC-β阻害剤は、2-[1-(3-ジメチルアミノプロピル)-5-メトキシインドール-3-イル]-3-(1H-インドール-3-イル)マレイミド(2-[1-(3-dimethylaminopropyl)-5-methoxy indol-3-yl]-3-(1H-indol-3-yl)maleimide)、3-[1-(3-イミダゾール-1-イルプロピル-1H-インドール-3-イル)-4-アニリノ-1H-ピロール-2,5-ジオン(3-(1-(3-imidazol-1-ylpropyl)-1H-indol-3-yl)-4-anilino-1H-pyrrole-2,5-dione)、3-(1H-インドール-3-イル)-4-[2-(4-メチルピペラジン-1-イル)キナゾリン-4-イル]ピロール-2,5-ジオン((3-(1H-indol-3-yl)-4-[2-(4-methylpiperazin-1-yl)quinazolin-4-yl]pyrrole-2,5-dione)、3-{1-[3-(アミジノチノ)プロピル]-1H-インドール-3-イル}-3-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)マレイミドメタンスルホネート((3-{1-[3-(amidinothio)propyl]-1H-indol-3-yl}-3-(1-methyl-1H-indol-3-yl)maleimide methane sulfonate)、13-ヒドロキシオクタデカジエン酸(13-hydroxyoctadecadienoic acid)、ビスインドールイルマレイミド(bisindolylmaleimide)、2,6-ジアミノ-N-([1-オキソトリデシル)-2-ピペリジニル]メチル)ヘキサンアミド(2,6-diamino-N-([1-oxotridecyl)-2-piperidinyl]methyl)hexanamide)、4’-ジメチルアミノ-4’-ヒドロキシスタウロスポリン(4’-demethylamino-4’-hydroxystaurosporine)及び3-(13-メチル-5-オキソ-6,7-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール-12(13H)-イル)プロパンニトリル(3-(13-methyl-5-oxo-6,7-dihydro-5H-indolo[2,3-a]pyrrolo[3,4-c]carbazol-12(13H)-yl)propanenitrile)からなる群のうちから選択されたいずれか一つである、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記BMP阻害剤は、ドルソモルフィン(dorsomorphin)(6-[4-[2-(1-ピペリニル)エトキシ]フェニル]-3-(4-ピリジニル)-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン))、ドルソモルフィンホモログ1(DMH1:dorsomorphin homolog 1)(4-[6-[4-(1-メチルエトキシ)フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]-キノリン)、K 02288(3-[(6-アミノ5-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-3-ピリジニル]フェノール)、LDN 212854(5-(6-(4-(1-ピペラジニル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノロン)及びNogginポリペプチドからなる群のうちから選択されたいずれか一つである、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記三次元培養は、1日ないし10日間培養する、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
前記二次元培養は、1日ないし15日間培養する、請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
退行性脳疾患を予防または治療するための薬学的組成物の製造に使用するための多能性幹細胞から分化された、神経前駆細胞の用途。
【請求項12】
多能性幹細胞から分化された神経前駆細胞の有効量を、それを必要とする個体に投与する段階を含む、退行性脳疾患を予防または治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞由来の神経前駆細胞を含む退行性脳疾患治療用の薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
退行性脳疾患は、中枢神経系の神経細胞に退行性変化が示されながら、運動機能及び感覚機能の損傷、記憶・学習・演算推理のような高次的原因機能の阻害のようなさまざまな症状を誘発する疾患である。代表的な疾患としては、アルツハイマー疾患(Alzheimer’s disease)、パーキンソン疾患(Parkinson’s disease)及び記憶喪失などがある。
【0003】
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)は、記憶喪失を伴う認知機能の退歩、性格変化及び行動異常のような多様な複合認知障害であり、神経細胞死滅のような非可逆的な機能障害がもたらされ、結局、永久の脳損傷を引き起こす。アルツハイマー病がいかように発生するかということについては、完全な究明がなされておらず、アミロイドβによる痴呆仮説を基にした痴呆治療候補があったが、ほとんど臨床で失敗し、最近、タウのような多様な痴呆治療ターゲット研究が活発になされている。しかしながら、アルツハイマー病患者を対象に、アミロイドβ沈着物と、タウによって生じた神経繊維変化(neurofibrillary tangles)を除去しても、神経再生のような効能を期待し難いが、完全な神経再生を介する根源的な治療が必要な実情である。それにより、幹細胞を利用した痴呆治療剤が開発されているが(国際公開特許WO2016088930A1)、細胞治療剤の主要問題点のうち一つは、移植された細胞の低い細胞生存率(5%未満)であり、移植された細胞は、生体内注入直後、顕著な細胞死滅を経ると報告されている。しかしながら、移植された細胞が死滅されず、長期間治療効果を維持することができる効果的な投与経路に係わる研究は、微々たる実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一態様は、多能性幹細胞から分化された神経前駆細胞を有効成分として含む退行性脳疾患の予防用または治療用の薬学的組成物を提供するものである。
【0005】
他の態様は、退行性脳疾患を予防または治療するための薬学的組成物の製造に使用するための多能性幹細胞から分化された神経前駆細胞の用途を提供するものである。
【0006】
さらに他の態様は、多能性幹細胞から分化された神経前駆細胞の有効量を、それを必要とする個体に投与する段階を含む退行性脳疾患を予防または治療する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様は、多能性幹細胞から分化された神経前駆細胞を有効成分として含む退行性脳疾患の予防用または治療用の薬学的組成物を提供する。
【0008】
用語「多能性幹細胞」とは、自己再生能を有し(未分化状態を維持しながら、多数の細胞分裂周期を通過する能力を有する)、1種以上の多重分化能(1種以上の専門化された細胞に分化する性能)を示すことができる細胞を意味しうる。前記多能性幹細胞は、核移植多能性幹細胞(NT-hPSC)、単為生殖から起きる細胞由来の多能性幹細胞(pn-hPSC)、逆分化万能幹細胞(iPSC)または胚性幹細胞(ESC)でもある。一具体例において、胚性幹細胞(ESC)でもあり、前記胚性幹細胞は、受精卵が母体の子宮に着床する直前である胞胚期胚芽から、内細胞塊(inner cell mass)を抽出し、体外で培養したものを意味しうる。
【0009】
前記多能性幹細胞は、哺乳動物、例えば、ヒト、マウス、ラット、類人猿、牛、馬、豚、犬、羊、山羊または猫に由来する細胞でもある。
【0010】
用語「神経前駆細胞(NPC:neural precursor cell)」は、自己再生産(self-renewal)が可能であり、神経系統細胞であり、分化能を有する細胞でもある。前記神経前駆細胞は、神経前駆細胞(NPC:neural progenitor cell)、神経幹細胞(NSC:neural stem cell)とも呼ばれる。前記神経前駆細胞は、神経細胞(neuron)、星状細胞(astrocyte)または希突起膠細胞(oligodendrocyte)にも分化される。前記神経前駆細胞は、SOX1を発現する細胞でもある。
【0011】
用語「分化(differentiation)」とは、細胞が分裂及び増殖して成長する間、細胞の構造や機能が特殊化される現象を意味しうる。多能性幹細胞は、特定形態の神経前駆細胞を経た後、特定細胞に完全に分化されうる。前記胚性幹細胞は、前記神経前駆細胞に分化され、前記神経前駆細胞は、神経細胞、星状細胞または希突起膠細胞などにも分化される。
【0012】
用語「退行性脳疾患(neurodegenerative disease)」とは、老化が進行されることにより、脳組織または脳細胞の構造または機能が退化されて生じる疾病を意味しうる。
【0013】
一具体例において、前記退行性脳疾患は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、パーキンソン病、ホンチントン病、軽度認知障害(mild cognitive impairment)、脳アミロイドアンギオパチー、ダウン症候群、アミロイド性脳卒中(stroke)、全身性アミロイド病、ダッチ(Dutch)型アミロイド症、ニーマン・ピック病、老人性痴呆、筋委縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、脊髄小脳性運動失調症(spinocerebellar atrophy)、トゥレット症候群(Tourette’s syndrome)、フリードライヒ歩行失調(Friedreich’s ataxia)、マシャド・ジョセフ病(Machado-Joseph’s disease)、レビー小体認知症(Lewy body dementia)、筋緊張異常(dystonia)、進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy)及び前頭側頭葉痴呆(frontotemporal dementia)からなる群のうちから選択されたいずれか1つの疾患でもある。
【0014】
用語「アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)」とは、老人性痴呆と互換的に使用され、老人性斑、神経炎症もつれ(tangles)及び進行性神経損失に特徴づけられる特定退行性脳疾患と係わる精神的な退化を伴う疾病を意味しうる。
【0015】
前記組成物は、非経口的にも投与される。一具体例において、前記組成物は、静脈内(IV:intravenous)、海馬内(IH:intrahippocampal)、脳内(intracerebral)、頭蓋内(intracranial)、脊椎内(intraspinal)、脳脊髄液内(intracerebrospinal)、脳室内(ICV:intracerebroventricular)または脊髄腔内(intrathecal)に投与するためのものでもある。用語「投与する」、「注入する」、「注射する」及び「移植する」は、相互交換的にも使用され、一具体例による組成物の所望する部位への少なくとも部分的局所化をもたらす方法または経路による個体内への一具体例による組成物の配置を意味しうる。一具体例による組成物の細胞または細胞成分の少なくとも一部を、生存する個体内において、所望する位置に伝達する任意の適切な経路によっても投与される。一具体例において、前記組成物は、脳室内または脊髄腔内に注射され、脳脊髄液に逹するものでもある。既存において、細胞治療剤の投与経路として試みられたほとんどは、直接脳に注入する方法と、静脈注射とであり、生体内注入直後の数日内に、相当な細胞死滅が示されるが、前記組成物脳室内または脊髄腔内に投与すれば、細胞の生存期間が長期間維持されることにより、認知機能強化効能を長期間持続させることができる効果がある。
【0016】
一具体例において、前記神経前駆細胞は、前記多能性幹細胞をタンパク質キナーゼC-β(PKC-β:protein kinase C-β)阻害剤及び骨形成タンパク質(BMP:bone morphogenetic protein)阻害剤を含む培地において三次元培養して形成された胚様体(EB:embryonic body)を二次元培養して分化されたものでもある。
【0017】
一具体例において、前記多能性幹細胞は、無フィーダ細胞(feeder cell-free)条件下で培養されたものでもある。
【0018】
用語「タンパク質キナーゼC(PKC:protein kinase C:)」とは、タンパク質のセリン及びトレオニンのヒドロキシ基をリン酸化させ、タンパク質の機能を調節するタンパク質リン酸化酵素のうち一つを意味しうる。
【0019】
前記「PKC-β阻害剤」は、PKC-βの発現または活性を抑制するものでもある。一具体例において、前記PKC-β阻害剤は、2-[1-(3-ジメチルアミノプロピル)-5-メトキシインドール-3-イル]-3-(1H-インドール-3-イル)マレイミド(2-[1-(3-dimethylaminopropyl)-5-methoxy indol-3-yl]-3-(1H-indol-3-yl)maleimide)、3-[1-(3-イミダゾール-1-イルプロピル-1H-インドール-3-イル)-4-アニリノ-1H-ピロール-2,5-ジオン(3-(1-(3-imidazol-1-yl propyl)-1H-indol-3-yl)-4-anilino-1H-pyrrole-2,5-dione)、3-(1H-インドール-3-イル)-4-[2-(4-メチルピペラジン-1-イル)キナゾリン-4-イル]ピロール-2,5-ジオン((3-(1H-indol-3-yl)-4-[2-(4-methylpiperazin-1-yl)quinazolin-4-yl]pyrrole-2,5-dione)、3-{1-[3-(アミジノチノ)プロピル]-1H-インドール-3-イル}-3-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)マレイミドメタンスルホネート((3-{1-[3-(amidinothio)propyl]-1h-indol-3-yl}-3-(1-methyl-1h-indol-3-yl)maleimide methane sulfonate)、13-ヒドロキシオクタデカジエン酸(13-hydroxyoctadecadienoic acid)、ビスインドールイルマレイミド(bisindolylmaleimide)、2,6-ジアミノ-N-([1-オキソトリデシル)-2-ピペリジニル]メチル)ヘキサンアミド(2,6-diamino-N-([1-oxotridecyl)-2-piperidinyl]methyl)hexanamide)、4’-ジメチルアミノ-4’-ヒドロキシスタウロスポリン(4’-demethylamino-4’-hydroxystaurosporine)及び3-(13-メチル-5-オキソ-6,7-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール-12(13H)-イル)プロパンニトリル(3-(13-methyl-5-oxo-6,7-dihydro-5H-indolo[2,3-a]pyrrolo[3,4-c]carbazol-12(13H)-yl)propanenitrile)からなる群のうちから選択されたいずれか一つでもある。前記PKC-β阻害剤は、5μMないし25μM、5μMないし20μM、6μMないし18μM、8μMないし15μM、または8μMないし12μMの濃度で含まれるものでもある。
【0020】
用語「骨形成タンパク質(BMP:bone morphogenetic protein)」とは、骨及び軟骨の形成を誘導する成長因子を意味しうる。
【0021】
前記「BMP阻害剤」とは、BMPの細胞信号伝逹を阻害する低分子化合物またはポリペプチドでもある。一具体例において、前記BMP阻害剤は、ドルソモルフィン(dorsomorphin)(6-[4-[2-(1-ピペリニル)エトキシ]フェニル]-3-(4-ピリジニル)-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン))、ドルソモルフィンホモログ1(DMH1:dorsomorphin homolog 1)(4-[6-[4-(1-メチルエトキシ)フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]-キノリン)、K 02288(3-[(6-アミノ5-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-3-ピリジニル]フェノール)、LDN 212854(5-(6-(4-(1-ピペラジニル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノロン)及びNogginポリペプチドからなる群のうちから選択されたいずれか一つでもあり、例えば、DMH1でもある。前記BMP阻害剤は、5μMないし25μM、5μMないし20μM、6μMないし18μM、8μMないし15μM、または8μMないし12μMの濃度で含まれるものでもある。
【0022】
一具体例において、前記三次元培養は、1日ないし10日間培養するものでもあり、例えば、2日ないし6日、または3日ないし5日間培養し、神経外胚葉側に分化させるものでもある。
【0023】
一具体例において、前記二次元培養は、1日ないし15日間培養するものでもあり、例えば、2日ないし8日、3日ないし7日、または4日ないし6日間培養し、ロゼット構造(rosette structure)を形成させるものでもある。
【0024】
用語「予防」とは、前記薬学的組成物の投与により、退行性脳疾患を抑制または遅延させるすべての行為を意味しうる。
【0025】
用語「治療」とは、疾患、障害または病態、またはそれらのうち1以上の症状の軽減、進行抑制または予防を称するか、あるいはそれらを含み、「有効成分」または「薬剤学的有効量」とは、疾患、障害または病態、またはそれらのうち1以上の症状の軽減、進行抑制または予防に十分な、本願で提供される発明を実施する過程において利用される組成物の任意量を意味しうる。
【0026】
一具体例による薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体及び/または添加物を含むものでもある。例えば、滅菌水、生理食塩水、慣用の緩衝剤(リン酸、クエン酸、それ以外の有機酸など)、安定剤、塩、酸化防止剤(アスコルビン酸など)、界面活性剤、懸濁液剤、等張化剤または保存剤などを含むものでもある。一具体例による薬学的組成物が、注射に適する剤形に調剤される場合には、神経前駆細胞が、薬学的に許容可能な担体内に溶解されているか、あるいは溶解されている溶液状態に凍結されたものでもある。
【0027】
一具体例による薬学的組成物の投与量は、神経前駆細胞を基準に、1.0X103ないし1.0X1010細胞/kg(体重)または個体、または1.0X107ないし1.0X108細胞/kg(体重)または個体でもある。ただし、該投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢・体重・性別・病的状態、飲食物、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因により、多様に処方され、当業者であるならば、そのような要因を考慮し、投与量を適切に調節することができるであろう。投与回数は、1回、または臨床的に容認可能な副作用の範囲内において、2回以上が可能であり、投与部位についても、1ヵ所または2ヵ所以上に投与することができる。ヒト以外の動物についても、kg当たりまたは個体当たり、ヒトと同一投与量にするか、あるいは、例えば、目的とする動物とヒトとの器官(心臓など)の容積比(例えば、平均値)などにより、前述の投与量を換算した量を投与することができる。一具体例による治療の対象動物としては、ヒト及びそれ以外の目的とする哺乳動物を例として挙げることができ、具体的には、ヒト、猿、マウス、ラット、兎、羊、牛、犬、馬、豚などが含まれる。
【0028】
一具体例による薬学的組成物は、当該発明が属する技術分野において当業者が容易に実施することができる方法により、薬学的に許容される担体及び/または賦形剤を利用して製剤化することにより、単位用量形態に製造されるか、あるいは多用量容器内に内入させても製造される。このとき、剤形は、オイル中または水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、あるいは粉末、顆粒、錠剤またはカプセル型でもある。また、細胞治療剤は、注射用剤形にも剤形化される。その場合、剤形化されるための公知された一般的成分が利用され、常法によっても剤形化される。
【0029】
一具体例において、前記多能性幹細胞から神経前駆細胞に分化させる方法は、分離された多能性幹細胞を無フィーダ細胞(feeder cell-free)条件下で培養する段階と、前記培養された多能性幹細胞を、PKC-β阻害剤及びBMP阻害剤を含む培地で三次元培養し、胚様体(EB:embryonic body)を得る段階と、前記得られた胚様体を二次元培養で分化させ、ロゼット構造(rosette structure)を形成する段階と、を含むものでもある。前述の多能性幹細胞、神経前駆細胞、分化、PKC-β阻害剤、BMP阻害剤、三次元培養、二次元培養については、前述の通りである。
【0030】
一具体例において、前記方法は、培養された神経前駆細胞を継代培養する段階をさらに含むものでもある。
【0031】
他の態様は、退行性脳疾患を予防または治療するための薬学的組成物の製造に使用するための多能性幹細胞から分化された神経前駆細胞の用途を提供するものである。前記用途において、退行性脳疾患、予防、治療、薬学的組成物、多能性幹細胞、分化、神経前駆細胞については、前述の通りである。
【0032】
さらに他の態様は、多能性幹細胞から分化された神経前駆細胞の有効量を、それを必要とする個体に投与する段階を含む退行性脳疾患を予防または治療する方法を提供するものである。前記方法において、多能性幹細胞、分化、神経前駆細胞、投与、退行性脳疾患、予防、治療については、前述の通りである。
【0033】
用語「有効量」は、疾患の種類、患者の年齢・体重・健康・性別、患者の薬物に対する敏感度、投与経路、投与方法、投与回数、治療期間、配合、または同時使用される薬物のような医学分野に周知された要素により、当業者によって容易に決定されうるであろう。
【0034】
前記個体は、哺乳動物、例えば、ヒト、牛、馬、豚、犬、羊、山羊または猫でもある。前記個体は、退行性脳疾患、例えば、アルツハイマー病の改善、予防または治療の効果を必要とする個体でもある。
【発明の効果】
【0035】
一態様による多能性幹細胞から分化された神経前駆細胞は、アミロイドβ注入動物モデルにおいて脳室内に注入され、認知機能強化効能を長期間持続させることができるという効果があるが、アルツハイマー病を含む退行性脳疾患治療に有用に使用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】一具体例によるNPCの分化方法及びSOX発現確認結果を示した図である。
【
図2】一具体例によるNPCのアミロイドβ注入動物モデルに対する治療スケジュールを示した図である。
【
図3A】アミロイドβ注入動物モデルに、ES-MSCを、それぞれ静脈注射(IV)、海馬内注射(IH)、脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する、7日目、14日目、21日目、28日目のY字迷路評価結果を示したグラフである。
【
図3B】アミロイドβ注入動物モデルに、ES-MSCを、それぞれ静脈注射(IV)、海馬内注射(IH)、脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する、7日目、14日目、21日目、28日目のNORT認知能力評価結果を示したグラフである。
【
図4A】アミロイドβ注入動物モデルに、NPCを、それぞれ静脈注射(IV)、海馬内注射(IH)、脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する、7日目、14日目、21日目、28日目のY字迷路評価結果を示したグラフである。
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図4B】アミロイドβ注入動物モデルに、NPCを、それぞれ静脈注射(IV)、海馬内注射(IH)、脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する、7日目、14日目、21日目、28日目のNORT認知能力評価結果を示したグラフである。
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図5A】アミロイドβ注入動物モデルにおいて、それぞれ早期継代(p2)及び後期継代(p12)まで培養したNPCを脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する、7日目、14日目、21日目、28日目のY字迷路評価結果を示したグラフである。
【
図5B】アミロイドβ注入動物モデルにおいて、それぞれ早期継代(p2)及び後期継代(p12)まで培養したNPCを脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する、7日目、14日目、21日目、28日目のNORT認知能力評価結果を示したグラフである。
【
図6A】アミロイドβ注入動物モデルにおいて、NPC脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する6週間の長期間観察で確認したY字迷路評価結果を示したグラフである。
【
図6B】アミロイドβ注入動物モデルにおいて、NPC脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する6週間の長期間観察で確認したNORT認知能力評価結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明について、実施例を介し、さらに詳細に説明する。しかしながら、それら実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がそれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1.ヒト胚性幹細胞の神経前駆細胞への分化
1.1.ヒト胚性幹細胞の培養
ヒト胚性幹細胞(hESC:human embryonic stem cell)をフィーダ細胞なしで培養するために、下記のように遂行した。
【0039】
具体的には、細胞付着機能強化剤であるCTS CellstartTM、マトリゲル(Matrigel)、ビトロネオクチン(vitronectin)またはラミニン(laminin)を、表面積9.6cm2である6ウェル組織細胞培養容器(tissue culture dish)に、1,000μl/ウェルの濃度で、4℃で24時間処理した。その後、残っている細胞付着機能強化剤を、常温において、組織細胞培養容器(tissue culture dish)からいずれも除去した後、胚性幹細胞培養液であるmTeSRTM(STEMCELL Technologies,カナダ)、Essential 8TM(Gibco,米国)、StemFit(AJINOMOTO,日本)、TeSRTM-E8TM(STEMCELL Technologies,カナダ)の培養液を、2,000μl/ウェルの濃度で、前記組織細胞培養容器に入れた後、37℃、5% CO2のインキュベーターに位置させた。
【0040】
次に、フィーダ細胞上で増殖されたヒト胚性幹細胞(CHA-hES NT 18,CHA University)をマイクロチップ(Micro-tip,Axygen,米国)を利用し、機械的継代方法(mechanical sub-passage)でもって、小群集(small clumps)に切り、それを、インキュベータに位置させた前記組織細胞培養容器に、40ないし50群集/ウェルになるように分注した。その後、5日間、毎日新たな胚性幹細胞培養液(mTeSRTM)500μl/ウェルで交替させながら、ヒト胚性幹細胞を、フィーダ細胞なしに増殖させた。
【0041】
1.2.ヒト胚性幹細胞の神経前駆細胞への分化の誘導
前述の実施例1.1の無フィーダ細胞(feeder cell-free)条件下で培養されたヒト胚性幹細胞を、コラゲナーゼ(collagenase)を利用し、多能性幹細胞の三次元凝集体である胚様体(EB:embryonic body)を形成した。無異種感染物質(xenopathogen-free)培養培地条件において、プロテインキナーゼC阻害剤(PKC-βinhibitor)とBMP阻害剤(DMH1)とを添加し、4日間三次元培養を介し、神経外胚葉(neuroectoderm)側に分化させた。その後、三次元に培養されたEBを、細胞培養ディッシュに付け、5日間二次元培養で分化させ、特定形態であるロゼット構造(rosette structure)を形成させ、物理的にロゼッ部位を獲得し、神経前駆細胞(NPC:neural precursor cell)を分離した。そのように得られたNPCを確認するために、流細胞分析器(flow cytometry)を利用し、神経前駆細胞特異的なタンパク質である転写因子であるSOX1(SRY-Box Transcription Factor 1)の発現を確認した。以下においては、神経前駆細胞を「NPC」とする。
【0042】
比較例1.ヒト胚性幹細胞の間葉系幹細胞への分化
1.1.ヒト胚性幹細胞の外胚葉性細胞への分化誘導
前述の実施例1.1において、フィーダ細胞なしに増殖させたヒト胚性幹細胞を外胚葉性細胞に分化させるために、TGF-β抑制剤とBMP抑制剤とで処理した。
【0043】
具体的には、TGF-β阻害剤(SB431542)またはPKC-β Inhibitorと、DMH1(BMP阻害剤)とをジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma,米国)に、それぞれ10mM,5Mm,0.5mMスタック濃度に溶かした後、最終濃度が10μM、5μM、0.5μMになるように、胚性幹細胞分化液(DMEM/F12(20%(v/v)SR、1%(v/v)NEAA、0.1mM β-メルカプトエタノール、1%(v/v)ペニシリン・ストレプトマイシン+SB341542 10μM/ml+0.5μM/ml)、DMEM/F12(20%(v/v)SR、1%(v/v)NEAA、0.1mM β-メルカプトエタノール、1%(v/v)ペニシリン・ストレプトマイシン+PKC-β Inhibitor 5μM/ml+0.5μM/ml)、DMEM/F12(インシュリン10μM/ml、トランスフェリン14μM/ml、セレン9μM/ml+SB341542 10μM/ml、またはDMEM/F12(インシュリン10μM/ml、トランスフェリン14μM/ml、セレン9μM/ml+PKC-β Inhibitor 5μM/ml))に希釈させた。その後、前述の実施例1.1において、5日間増殖培養されたヒト胚性幹細胞を、SB431542、PKC-β Inhibitor及びDMH1を含む前記胚性幹細胞分化液において、浮遊状態で4日間処理し、外胚葉性細胞に分化させた。
【0044】
1.2.外胚葉性細胞の前処理
前述の比較例1.1の浮遊状態の外胚葉性細胞を、細胞付着機能強化剤であるマトリゲル(Matrigel)、ビトロネオクチン(vitronectin)でもって、常温で1時間処理した。その後、残っている細胞付着機能強化剤を、常温において、組織細胞培養容器(tissue culture dish)からいずれも除去した後、浮遊している細胞を付着させ、5日間、外胚葉誘導培地(DMEM/F12+インシュリン25μM/ml+bFGF 20μM/ml)で育てた。
【0045】
1.3.間葉系幹細胞への分化の誘導
前述の比較例1.2において、流細胞分析器を介し、Neural Crestマーカーであるp75が発現されるか否かということを調べた後、外胚葉性細胞を、間葉系幹細胞培地(DMEM/F12(10%(v/v)FBS、4ng/ml bFGF、1%(v/v)NEAA、0.1mM β-メルカプトエタノール、1%(v/v)ペニシリン・ストレプトマイシン、a-MEM(10%(v/v)FBS、4ng/ml bFGF)、Cellartis(R)MSC Xeno-Free Culture Medium、StemMACSTM MSC Expansion Media Kit、MSC NutriStem(R)XF Medium、StemXVivo Xeno-Free Human MSC Expansion Medium、またはCellCor Serum Free Chemically Defined Medium)で分化させて継代培養し、間葉系幹細胞を得た。
【0046】
具体的には、分化9日目(day)に、培養培地をいずれも除去した後、1%(v/v)ペニシリン・ストレプトマイシンを混合したPBSで細胞を洗浄した。その後、StemProTM AccutaseTM Cell Dissociation Reagentを、37℃、5% CO2において5分間処理し、単一細胞化させた後、間葉系幹細胞培地において中性化させた後、1,000rpmで5分間遠心分離させた。次に、遠心分離されて得られた細胞を、CTS CellstartTM、ゲラチン(gelatin)、フィブロネクチン(fibronectin)が事前にコーティングされた1ウェルプレート/12ウェルのプレートにいずれも分注し、その後、80~90%の細胞密集度(confluency)に至るたびに継代培養し、細胞密集度は、1x10^4細胞/cm2で継代培養を行い、大きさは、12ウェルプレート(継代0)→6ウェルプレート(継代1)→T-25フラスコ(継代2)→T-75フラスコ(継代3)の順序で、0.05%トリプシンを常温で処理し、単一細胞化させる方式でもって、持続継代培養した。この過程において、非間葉系幹細胞は、脱落され、間葉系幹細胞を得た。
【0047】
以下においては、胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞を「ES-MSC」とする。
【0048】
実験例1.NPCの痴呆治療効果の確認
1.1.動物モデルの作製
生後6週の体重が23~25gほどになる雄B6系マウスを利用し、1飼育場(cage)に5匹ずつ飼育し、12時間明暗で21℃の条件で維持され、えさ及び飲み水を提供した。記憶力欠損を起こす物質であるアミロイドβ1-42を10%ジメチルスルホキシド(DMSO)食塩水に溶かした後、37℃で1週間培養し、100μM濃度に準備した。マウスを、3%イソフルラン(isoflurane)を利用して吸入麻酔させた後、呼吸麻酔機器を利用し、1.5%イソフルランを手術の間保持した。脳定位固定装置を準備した後、実験動物の頭を固定させ、ブレグマ(bregma)から、後方-0.9mm、側面1.7mm、深さ2.2mmに、アミロイドβ1-425μlを、26ゲージ針がついている10μlハミルトンマイクロシリンジ(Hamilton microsyringe)で10分間注入した。
【0049】
1.2.NPCの投与、及び行動の評価
前述の実施例1で作製されたNPCは、継代培養を3回行ったp3(継代(passage)3)または12回行ったp12(継代(passage)12)を使用した。NPCの投与は、アミロイドβ注入動物モデル作製後7日目に行い、全ての動物モデルの実験は、ブラインドで行った。各細胞は、1バイアル当たり3×106個細胞で凍らせ、使用時、マウス一匹当たり3×105個細胞を生理食塩水300μlに溶かし、尾静脈注射に注入した。併せて、海馬内注射及び脳室内注射は、5μlに溶かし、脳定位固定装置を利用して注入し、対照群は、同一量で生理食塩水を注入した。
【0050】
手術前、Y字迷路とNORT認知能力との評価を訓練させ、それを点数化した後、行動評価を進目、手術後5日目に病変モデルを選定して実験を進めた。
図2は、一具体例によるNPCのアミロイドβ注入動物モデルに対する治療スケジュールを示した図面である。手術5日後、細胞株を処理し、認知機能が改善されるか否かということを、7日間、14日間、21日間そして28日間測定した。
【0051】
行動の評価は、下記のY字迷路評価及びNORT認知能力評価を行った。
【0052】
Y字迷路評価(Y-maze test):装置は、3個の通路(arm)に伸び、アルファベットY字状をしており、各種の長さは、35cm、高さ15cm、幅5cmであり、同一角度に位置させる。実験動物の動きを、交差回数で示すが、交差回数は、連続して3個の通路を順次に通過したとき、1回交差したと定義される(spontaneous alteration)。各実験動物は、一方の迷路から始め、他の迷路に行くようにさせ、正しい交差を成功した回数を点数化し、百分率で表現した。2分間自由に動くようにさせた後、5分間測定した。
【0053】
ノベルオブジェクト認識評価(NORT:novel object recognition test):齧歯類の好奇心を刺激する認知実験技法であり、既存適応訓練期間の間、同一物体2個に対する記憶を注入させ、測定開始と同時に、異なる物体、異なる色相の物体に置き換えることにより、本能的な好奇心を誘導し、記憶力を測定する。2分間、目慣れた(familiar)物体で自由に動くようにさせ、新たな(novel)物体に替えた後、5分間測定し、新たな物体に留まる時間を、各物体に留まる時間の和で除した後、百分率で表現した。
【0054】
図3A及び
図3Bは、アミロイドβ注入動物モデルに、ES-MSCを、それぞれ静脈注射(IV:intravenous injection)、海馬内注射(IH:intrahippocampal injection)、脳室内注射(ICV:intracerebroventricular injection)で投与したグループに対する、7日目、14日目、21日目、28日目のY字迷路評価結果及びNORT認知能力評価結果を示したグラフである。
【0055】
図4A及び
図4Bは、アミロイドβ注入動物モデルに、NPCを、それぞれ静脈注射(IV)、海馬内注射(IH)、脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する、7日目、14日目、21日目、28日目のY字迷路評価結果及びNORT認知能力評価結果を示したグラフである。
【0056】
その結果、
図3A及び
図3Bに示されているように、ES-MSCを、アミロイドβ注入動物モデル作製後7日目に投与したとき、静脈注射(IV)で効能があったが、3週目から機能低下が観察され、他の注入方法いずれも、1~2週目に増大するが、その後、低減する傾向性を示すことを確認した。それと異なり、NPCの場合、
図4A及び
図4Bに示されているように、NPCを、アミロイドβ注入動物モデル作製後7日目に投与したとき、静脈注射(IV)及び海馬内注射(IH)いずれも、2週間、認知機能強化効能を示すようであったが、いずれも低減し、一方、脳室内注射(ICV)は、4週間、認知機能強化効能が維持されることを確認した。
【0057】
図5A及び
図5Bは、アミロイドβ注入動物モデルにおいて、それぞれ早期継代(p2)及び後期継代(p12)まで培養したNPCを脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する、7日目、14日目、21日目、28日目のY字迷路評価結果及びNORT認知能力評価結果を示したグラフである。
【0058】
その結果、
図5A及び
図5Bに示されているように、早期継代(p2)及び後期継代(p12)まで培養したNPCを脳室内注射(ICV)で投与することにより、2つの細胞グループのいずれにおいても、認知機能強化効能が観察されることを確認した。
【0059】
図6A及び
図6Bは、アミロイドβ注入動物モデルにおいて、NPC脳室内注射(ICV)で投与したグループに対する6週間の長期間観察で確認したY字迷路評価結果及びNORT認知能力評価結果を示したグラフである。
【0060】
その結果、
図6A及び
図6Bに示されているように、アミロイドβ注入後、NPCを投与していないグループに比べ、NPC脳室内注射(ICV)で投与したグループにおいて、正常群と類似したレベルで認知機能が強化されることを確認し、そのような認知機能強化効能が6週間の長期間の間にも持続することを確認した。
【0061】
総合すれば、前記結果は、NPCが、ES-MSCに比べ、認知機能強化効能の持続効果にすぐれ、特に、NPCを脳室内に注射(ICV)する場合、他の投与経路に比べ、認知機能強化効能の長期間持続が可能であるので、アルツハイマー病のような退行性脳疾患において、有意な治療効果を得ることができるということを意味する。
【国際調査報告】