(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/30 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
C12P19/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527246
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-04-27
(86)【国際出願番号】 CN2022100139
(87)【国際公開番号】W WO2023273959
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】202110728796.2
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523160173
【氏名又は名称】康盈紅莓(中山)生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100088063
【氏名又は名称】坪内 康治
(72)【発明者】
【氏名】金 彩科
(72)【発明者】
【氏名】趙 媛
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF23
4B064CA19
4B064CB01
4B064CC24
4B064DA20
(57)【要約】
同一の反応系において、(A)アデノシン、リン酸塩、及び酵母細胞により代謝できる糖類を酵母細胞の触媒作用で反応させてATPを生成するステップと、(B)ニコチンアミド、PRPP及びATPをNAMPTの作用で反応させてNMN、ADP及びリン酸塩を生成するステップを含む酵素反応によるNMNの製造ステップとを含む、アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法を提供し、このようにしてATPの生成(再生)、NMNの合成及びATPの利用などの一連の反応を1つの反応系内に統一して行うことにより、NMNの効率的な合成を完了することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の反応系において、(A)アデノシン、リン酸塩、及び酵母細胞により代謝できる糖類を酵母細胞の触媒作用で反応させてATPを生成するステップと、(B)ニコチンアミド、PRPP及びATPをNAMPTの作用で反応させてNMN、ADP及びリン酸塩を生成するステップを含む酵素反応によるNMNの製造ステップとを含む、ことを特徴とするアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項2】
前記ステップ(B)は、リボース-5-リン酸及びATPをRPPKの触媒作用で反応させてPRPP及びAMPを生成するステップをさらに含む、請求項1に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項3】
AMP及びリン酸塩を酵母細胞の作用でADPに転化するステップをさらに含む、請求項2に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項4】
前記ステップ(B)は、リボース及びATPをRKの触媒作用で反応させてリボース-5-リン酸及びADPを生成するステップをさらに含む、請求項2に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項5】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、RK、RPPK及びNAMPTは、液体酵素形態及び固定化酵素形態のうちの少なくとも1種の初期形態で存在する、請求項4に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項6】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、アデノシンとリボースのモル比の範囲は、0.01~1である、請求項5に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項7】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、リボースとリン酸塩のモル比の範囲は、1~20である、請求項6に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項8】
ADP及びリン酸塩を用いて酵母細胞の作用でATPを再生するステップをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項9】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞により代謝できる糖類は、グルコース、スクロース、デンプン及びグリセリンから選択される少なくとも1種である、請求項8に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項10】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞は、酸化的リン酸化代謝を行うことができる酵母細胞である、請求項8に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項11】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞は、ピキア酵母及び出芽酵母から選択される少なくとも1種である、請求項8に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項12】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、金属イオンがさらに添加される、請求項8に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項13】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、添加された金属イオンは、マグネシウムイオン及びマンガンイオンから選択される少なくとも1種である、請求項12に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項14】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、アデノシンとニコチンアミドのモル比の範囲は、0.01~1である、請求項8に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項15】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、ニコチンアミドとリン酸塩のモル比の範囲は、1~20である、請求項8に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項16】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞は、冷凍保存された湿潤酵母である、請求項8に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項17】
前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、トルエン及びn-ブタノールのうちの少なくとも1種の有機試薬がさらに添加される、請求項8に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【請求項18】
前記ステップ(A)を前記ステップ(B)の前に行うことにより、前記ステップ(B)の反応にATPを提供して、前記ステップ(A)と前記ステップ(B)が同一の反応系において互いに促進する反応状態を形成する、請求項8に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)合成の技術分野に関し、特にアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)を体内で合成するための直接前駆体であり、NMNを補充することは、体内のNADの含有量レベルを向上させる最も効果的な方法であり、体の正常な新陳代謝を促進することに対して広く深くて大きな健康上の意義を有する。高齢者のNADレベルが減少する一方、食物から十分なNMNを得ることができないため、NMNは、大規模に適用されるサプリメントとなることが期待される。
【0003】
現在、NMNの従来の合成技術には、発酵法、化学合成法、半合成法及び全酵素法という4種の方法がある。発酵法について、NMNを生成する微生物菌種を構築する必要があり、この微生物を大量に培養し繁殖させる過程において、菌体細胞でNMNを合成する。様々な種が下等単細胞生物を含めてNMNを体内で触媒合成する重要な酵素(NAMPT、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)の基本的な活性が一般的に低いため、NMNを効率的に発現する菌種を構築することは、非常に困難であり、またNMNの合成経路が長く、多酵素系及び天然の分解酵素系に関するため、NMNを発酵法で効率的で大規模に製造する製造方法は、非常に困難であり、プロセスコストが高く、製品が市場競争力がない。化学合成法について、ニコチンアミド(又はニコチン酸)、テトラアセチルリボース、トリフェニルホスフィンオキシドなどを基礎原料とし、まず化学的方法でニコチンアミドリボシド(NR)を合成し、さらにNRをリン酸化してNMNを得る。該方法の主な問題として、第2ステップの化学的リン酸化ステップが燃えやすく爆発しやすく毒性が高いことに関わり、大規模に産業化すれば環境保護及び安全生産の監督管理上の深刻な問題に直面し、化学的鏡像体の不純物、毒性原料及び溶媒が残留するなどの問題も存在し、その製品の人体への長期適用に関する安全性上の心配が消費者にとって解消しにくい問題である。半合成法は、NRを化学的に合成することを基にNRを酵素法でリン酸化してNMNを得ることであり、該方法は、化学法及び酵素法の長所及び短所を兼備し、その主な問題は、化学法における溶媒及び毒性成分が残留するリスクを有し、また酵素法におけるリン酸化ステップに高価なアデノシン三リン酸(ATP)を必要とし、コストが高いことである。全酵素法は、ニコチンアミド、リボース及びATPなどを基礎原料とし、一連の酵素で連続的に触媒してNMNを形成することである。該方法は、環境保護で安全であるという利点があるが、様々な酵素の発現、精製及び固定化に関するため、酵素のコストが高いという難点があり、全酵素法の他の大きな問題は、ATPの使用量が大きすぎることであり、これは、該方法のコストが高すぎて、普及して使用できない要因である。
【0004】
従来の4種のNMNの合成方法のうち、全酵素法は、体内の天然の合成方法であり、安全及び環境保護の面において利点が明らかであり、その製造コストをある方法で適切に低減すれば、市場競争力が最も高い方法であるべきである。該方法では、ニコチンアミド、リボース、ATPなどを主な原料とし、(1)リボキナーゼ(RK)でリボースを触媒してリボース-5-リン酸に転化し、(2)ボース-5-リン酸をホスホリボシルピロリン酸トランスフェラーゼ(RPPK)の触媒でホスホリボシル二リン酸(PRPP)に転化し、(3)PRPPとニコチンアミド(NAM)をニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)の作用で結合してNMNを生成するという3つのステップの酵素反応を経てNMNを製造する。全酵素法のこの3つのステップの反応にいずれもATPを消費する必要があり、前の2つのステップの反応においてATPが基質として関与してリン酸基を提供し、生成物がそれぞれADP及びAMPであり、第3ステップの反応においてATPが加水分解されてエネルギーを提供し、生成物がADP及びリン酸塩である。ATPの価格が高く、ATPの使用量を減少させるために、生産実践に、AMP→ADP→ATPというATPを繰り返し利用するための酵素反応をさらにカップリングする必要があり、この2つのステップの反応を2つの特定の酵素で触媒する必要があり、ポリリン酸塩(ピロリン酸塩又はトリポリリン酸塩又はヘキサメタリン酸塩など)で基質にリン酸基を提供する必要があり、生成物としてATP以外、蓄積されたリン酸塩もある。蓄積された大量のリン酸塩が後続きの反応に影響を与えるため、プロセス過程においてリン酸塩の除去ステップが設定され、またこのステップもATPの回収率に影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の全酵素法に比べて、従来の全酵素法の利点を維持するとともに、NMN製品の精製プロセスを簡略化し、かつ原料コストを低減することができるため、製造コストが低い、アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法を提供することを1つの目的とする。
本発明は、従来の全酵素法に比べて、ATPの代わりに安価なアデノシンを用い、かつ反応中に酵母細胞を導入してエネルギー代謝に応じてアデノシンをATPに転化するという方式を用いることにより、従来の全酵素法を合わせてATPの繰り返し利用を実現してATPの回収プロセスを省略し、従来の全酵素法で形成されたリン酸塩を反応物としてリン酸塩の除去プロセスを省略することができ、このようにして上記アデノシンの関与によりNMN製品の精製プロセスを簡略化する、アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法を提供することを1つの目的とする。
本発明は、従来の全酵素法に比べて、ATPの代わりに安価なアデノシンを用い、かつ反応中に酵母細胞を導入してエネルギー代謝に応じてアデノシンをATPに転化するという方式を用いることにより、従来の全酵素法を合わせてATPの繰り返し利用を実現してATP原料の消費を減少させることができ、かつ上記アデノシンの価格がATPの価格よりはるかに低いため、対応するNMN製品の原料コストが顕著に低減されて、より低い製造コストを有する、アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法を提供することを1つの目的とする。
本発明は、従来のATP原料消費に比べて、ATPの代わりに安価なアデノシンを用い、かつ反応中に酵母細胞を導入してエネルギー代謝に応じてアデノシンをATPに転化するという方式を用いることにより、従来の全酵素法を合わせてATPの繰り返し利用を実現し、従来の全酵素法で形成されたリン酸塩を反応物とすることができ、すなわちNMN製品を分離し精製した後の他の反応物と生成物を繰り返して利用して、排出を低減することができ、対応するNMN製品の製造が環境にやさしく、環境コストはより低く、アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法を提供することを1つの目的とする。
本発明は、ニコチンアミド、リボース、アデノシン、リン酸塩、及び酵母細胞により代謝できる糖類を原料とし、RK、RPPK、NAMPT及び酵母細胞を触媒とし、ATPの生成、NMNの合成及びATPの利用を1つの反応系内に統一して行うことにより、NMNの効率的な合成を完了することができ、NMN製品の合成効率を保証するとともに、様々な反応物が基本的に完全に消費されて、排出を低減することができるため、従来の全酵素法に比べて簡単で実現しやすく、コストが低い、アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、本発明に係るアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法は、同一の反応系において、
(A)アデノシン、リン酸塩、及び酵母細胞により代謝できる糖類を酵母細胞の触媒作用で反応させてATPを生成するステップと、
(B)ニコチンアミド、PRPP及びATPをNAMPTの作用で反応させてNMN、ADP及びリン酸塩を生成するステップを含む酵素反応によるNMNの製造ステップとを含む。
一実施例では、前記ステップ(B)は、リボース-5-リン酸及びATPをRPPKの触媒作用で反応させてPRPP及びAMPを生成するステップをさらに含む。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法は、AMP及びリン酸塩を酵母細胞の作用でADPに転化するステップをさらに含む。
一実施例では、前記ステップ(B)は、リボース及びATPをRKの触媒作用で反応させてリボース-5-リン酸及びADPを生成するステップをさらに含む。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、RK、RPPK及びNAMPTは、液体酵素形態及び固定化酵素形態のうちの少なくとも1種の初期形態で存在する。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、アデノシンとリボースのモル比の範囲は、0.01~1である。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、リボースとリン酸塩のモル比の範囲は、1~20である。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法は、ADP及びリン酸塩を用いて酵母細胞の作用でATPを再生するステップをさらに含む。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞により代謝できる糖類は、グルコース、スクロース、デンプン及びグリセリンから選択される少なくとも1種である。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞は、酸化的リン酸化代謝を行うことができる酵母細胞である。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞は、ピキア酵母及び出芽酵母から選択される少なくとも1種である。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、金属イオンがさらに添加される。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、添加された金属イオンは、マグネシウムイオン及びマンガンイオンから選択される少なくとも1種である。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、アデノシンとニコチンアミドのモル比の範囲は、0.01~1である。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、ニコチンアミドとリン酸塩のモル比の範囲は、1~20である。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞は、冷凍保存された湿潤酵母である。
一実施例では、前記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、トルエン及びn-ブタノールのうちの少なくとも1種の有機試薬がさらに添加される。
一実施例では、前記ステップ(A)を前記ステップ(B)の前に行うことにより、前記ステップ(B)の反応にATPを提供して、前記ステップ(A)と前記ステップ(B)が同一の反応系において互いに促進する反応状態を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の説明は、本発明を開示して当業者が本発明を実現することができるためのものである。以下の説明における好ましい実施例は、例示的なものにすぎず、当業者であれば他の明らかな変形を想到することができる。以下の説明に定義される本発明の基本的な原理は、他の実施形態、変形例、改良例、均等例、及び本発明の要旨及び範囲を逸脱しない他の技術手段に適用することができる。
当業者であれば理解すべきこととして、本発明の開示において、用語「縦方向」、「横方向」、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」、「垂直」、「水平」、「頂」、「底」、「内」、「外」などで示す方向又は位置関係は、本発明を説明しやすく説明を簡略化するためのものにすぎず、示された装置又は素子が特定の方向を有し、特定の方向で構成され動作しなければならないことを示すか又は示唆するものではないため、上記用語は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。
なお、用語「一」は、「少なくとも1つ」又は「1つ以上」であると理解すべきであり、すなわち一実施例では、1つの素子の数は、1つであってもよく、別の実施例では、上記素子の数は、複数であってもよく、用語「一」は、数を限定するものであると理解すべきではない。
【0008】
本発明は、従来の全酵素法に比べて、ATPの代わりに安価なアデノシンを用い、かつ反応中に酵母細胞を導入してエネルギー代謝に応じてアデノシンをATPに転化するという方式を用いることにより、従来の全酵素法を合わせてATPの繰り返し利用を実現し、従来の全酵素法で形成されたリン酸塩を反応物とする、アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法を提供する。
【0009】
具体的には、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法では、ニコチンアミド、リボース、アデノシン、リン酸塩及び酵母細胞により代謝できる糖類を原料とし、RK、RPPK、NAMPT及び酵母細胞を触媒とし、ATPの生成、NMNの合成及びATPの利用を1つの反応系内に統一して行うことにより、NMNの効率的な合成を完了することができ、反応式がニコチンアミド+リボース+酵母細胞により代謝できる糖類+アデノシン+リン酸塩+O2→NMN+ATP+CO2+H2Oである。該反応系において、酵母細胞は、酸化的リン酸化代謝過程で、酵母細胞により代謝できる糖類の脱水素化及び酸化によりエネルギーを提供して、リン酸塩とアデノシンの結合を促進して、アデニル酸(AMP)を生成し、続いてADP及びATPを生成し、続いてATPがリボースからのPRPPの生成を促進し、PRPPがさらにNAMと反応してNMNを生成する。反応系における従来の、及び生成されたADP、AMP、アデノシン及びリン酸塩なども、いずれも酵母細胞によりATPに自動的に転化されて、反応に関与し続けることができ、従来の全酵素法に比べて、形成されたリン酸塩を反応物としてリン酸塩の除去プロセスを省略することができ、かつATPの繰り返し利用を実現してATPの回収プロセスを省略してATP原料の消費を減少させることができ、このようにして上記アデノシンの関与によりNMN製品の精製プロセスを簡略化する。
【0010】
さらに、本発明の一実施例では、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法では、ニコチンアミド、リボース、リン酸塩、アデノシン、スクロース及びマグネシウムイオンを原料とし、RK、RPPK、NAMPT及び出芽酵母を触媒とし、水溶液において、開始pHを中性範囲とし、空気に接触しながら撹拌し、反応させる。このように、ATPの生成、NMNの合成及びATPの利用は、1つの反応系内に行われ、様々な反応物は、基本的に完全に消費され、対応する反応系は、簡単で実現しやすく、コストが低く、かつ環境にやさしく、環境コストはより低い。
【0011】
本発明の別の実施例では、ニコチンアミド、D-リボース及びアデノシンなどを基質とし、出芽酵母、RK磁性固定化酵素、RPPK磁性固定化酵素及びNAMPT磁性固定化酵素を用いて、ワンポット法でNMNを製造する。1Lの反応系に最終濃度が50mMのアデノシン、最終濃度が330mMのリン酸水素二カリウム、最終濃度が70mMのリン酸二水素カリウム、最終濃度が120mMのスクロース、最終濃度が50mMの塩化マグネシウム、最終濃度が5mMの塩化マンガン、300gの出芽酵母を順に添加し、十分に撹拌し溶解させた後、反応温度を37℃に制御し、1時間発酵させた。上記酵母発酵液に最終濃度が100mMのニコチンアミド、最終濃度が50mMのD-リボース、100gのリボキナーゼ磁性固定化酵素、100gのホスホリボシル二リン酸キナーゼ磁性固定化酵素、及び300gのニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ磁性固定化酵素(以上の3種の磁性固定化酵素は、いずれも香港生命科技研究院有限公司により提供される)を添加し、300rpmで撹拌し反応させ、反応温度を37℃に制御し、自動滴定装置を用いて、3Mの水酸化ナトリウムで反応pHを6.0に制御した。反応過程において高速液体クロマトグラフィーでNMNの濃度を検出し、反応が4時間内に終了し、反応により13.77gのNMNを得て、反応転化率が82.4%であった。
【0012】
注意すべきこととして、酵素の使用量を減少させ、かつ反応の複雑さを軽減するために、本発明に係る反応中間体のリボース-5-リン酸及びPRPPは、反応の基質(原料)として反応系に直接的に添加されてもよい。リボースの代わりにリボース-5-リン酸を原料として用いると、リボキナーゼ(RK)を使用する必要がなく、リボースの代わりにPRPPを原料として用いると、RK及びRPPKという2種の酵素を使用する必要がない。
【0013】
本発明の別の実施例では、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法では、ホスホリボシル二リン酸、ニコチンアミド及びアデノシンなどを基質とし、酵母及びニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼを用いて、ワンポット法でNMNを製造する。1Lの反応系に最終濃度が100mMのニコチンアミド、最終濃度が50mMのホスホリボシル二リン酸、最終濃度が50mMのアデノシン、最終濃度が330mMのリン酸水素二カリウム、最終濃度が70mMのリン酸二水素カリウム、最終濃度が120mMのスクロース、最終濃度が50mMの塩化マグネシウム、最終濃度が5mMの塩化マンガン、300gの出芽酵母、300Uの液体のニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼを順に添加し、十分に撹拌し溶解させた後、反応温度を37℃に制御し、反応pHを6.0に制御し、300rpmで撹拌し反応させ、反応過程において高速液体クロマトグラフィーでNMNの濃度を検出し、反応が4時間内に終了し、反応により15.44gのNMNを得て、反応転化率が92.4%であった。
【0014】
本発明の別の実施例では、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法では、ニコチンアミド、リボース-5-リン酸及びアデノシンなどを基質とし、出芽酵母、ホスホリボシル二リン酸キナーゼ、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼを用いて、ワンポット法でNMNを製造する。1Lの反応系に最終濃度が50mMのアデノシン、最終濃度が330mMのリン酸水素二カリウム、最終濃度が70mMのリン酸二水素カリウム、最終濃度が120mMのスクロース、最終濃度が50mMの塩化マグネシウム、最終濃度が5mMの塩化マンガン、300gの出芽酵母を順に添加し、十分に撹拌し溶解させた後、反応温度を37℃に制御し、1時間発酵させた。上記酵母発酵液に終濃度が100mMのニコチンアミド、終濃度が50mMのリボース-5-リン酸、300Uの液体のニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ及び300Uのホスホリボシル二リン酸キナーゼを添加し、300rpmで撹拌し反応させ、反応温度を37℃に制御し、自動滴定装置を用いて、3Mの水酸化ナトリウムで反応pHを6.0に制御した。反応過程において高速液体クロマトグラフィーでNMNの濃度を検出し、反応が6時間内に終了し、反応により14.42gのNMNを得て、反応転化率が86.3%であった。
【0015】
本発明をさらに説明するために、本発明に記載のアデノシンが関与するNMN全酵素合成方法は、同一の反応系において、
(A)アデノシン、リン酸塩、及び酵母細胞により代謝できる糖類を酵母細胞の触媒作用で反応させてATPを生成するステップと、
(B)ニコチンアミド、PRPP及びATPをNAMPTの作用で反応させてNMN、ADP及びリン酸塩を生成するステップを含む酵素反応によるNMNの製造ステップとを含む。
さらに、上記ステップ(B)は、リボース-5-リン酸及びATPをRPPKの触媒作用で反応させてPRPP及びAMPを生成するステップをさらに含む。
注意すべきこととして、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法は、AMP及びリン酸塩を酵母細胞の作用でADPに転化するステップをさらに含む。
さらに、上記ステップ(B)は、リボース及びATPをRKの触媒作用で反応させてリボース-5-リン酸及びADPを生成するステップをさらに含む。
なお、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、RK、RPPK及びNAMPTは、液体酵素形態及び固定化酵素形態のうちの少なくとも1種の初期形態で存在する。
【0016】
特に、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、アデノシンとリボースのモル比の範囲は、0.01~1である。
さらに、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、リボースとリン酸塩のモル比の範囲は、1~20である。
注意すべきこととして、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法は、ADP及びリン酸塩を用いて酵母細胞の作用でATPを再生するステップをさらに含む。
【0017】
なお、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞により代謝できる糖類は、グルコース、スクロース、デンプン及びグリセリンのうちの単一の糖類又は混合糖類を含むが、それらに限定されない。
さらに、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞は、酸化的リン酸化代謝を行うことができる様々な酵母細胞であり、例えば、ピキア酵母又は出芽酵母である。
好ましくは、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、マグネシウムイオン、マンガンイオンなどの金属イオンがさらに添加されてもよい。
好ましくは、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、アデノシンとニコチンアミドのモル比の範囲は、0.01~1である。
好ましくは、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、ニコチンアミドとリン酸塩のモル比の範囲は、1~20である。
注意すべきこととして、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、酵母細胞は、冷凍保存された湿潤酵母であってもよい。
特に、上記アデノシンが関与するNMN全酵素合成方法の反応系において、トルエン又はn-ブタノールの有機試薬がさらに添加されてもよい。
注意すべきこととして、本発明のいくつかの実施例では、反応進行において、上記ステップ(A)を上記ステップ(B)の前に行うことにより、上記ステップ(B)の反応にATPを提供して、上記ステップ(A)と上記ステップ(B)が同一の反応系において互いに促進する反応状態を形成する。
【0018】
当業者であれば理解されるように、以上の実施例は、例示的なものにすぎず、異なる実施例の特徴を互いに組み合わせることにより、本発明に開示した内容に基づいて容易に想到できるが上記説明において明確に指摘されない実施形態を得ることができる。
当業者であれば理解すべきこととして、上記説明に示す本発明の実施例は、例示的なものにすぎず、本発明を限定するものではない。本発明の目的は、既に完全で効果的に達成される。本発明の機能及び構造原理は、実施例に示され、かつ説明され、上記原理から逸脱することなく、本発明の実施形態に対して任意の変形又は修正を行うことができる。
【国際調査報告】