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特表2024-505783心臓内機能を提供するように構成されている植え込み型医療デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】心臓内機能を提供するように構成されている植え込み型医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/362 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
A61N1/362
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535626
(86)(22)【出願日】2022-01-28
(85)【翻訳文提出日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 EP2022052068
(87)【国際公開番号】W WO2022167340
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】63/145,643
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】21157618.6
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512158181
【氏名又は名称】バイオトロニック エスエー アンド カンパニー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】BIOTRONIK SE & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Woermannkehre 1 12359 Berlin Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミドゲット、マデリーヌ アン
(72)【発明者】
【氏名】ヤング、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ウィッティントン、アール.ホリス
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053KK02
4C053KK07
(57)【要約】
心臓内機能を提供するように構成されている植え込み型医療デバイス1であって、本体10と、本体10上に配置され心臓感知信号を受信するように構成されているセンサ構成体と、センサ構成体に動作可能に接続されている処理回路構成15と、を備える、植え込み型医療デバイス1。処理回路構成15は、センサ構成体を使用して受信された心臓感知信号を処理して、心房検出を得るために心房活動によって引き起こされる心房イベントAsを示す可能性のある信号偏向を検出するように、上記心房検出の後続の心室活動によって引き起こされる心室イベントVxを示す信号偏向を検出するように、心房検出と心室イベントVxとの間の時間を表す心房-心室間隔AVIを判定するように、及び、心房-心室間隔AVIに基づいて心房検出が有効か無効かを識別するように、構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓内機能を提供するように構成されている植え込み型医療デバイス(1)であって、
本体(10)と、
前記本体(10)上に配置され、心臓感知信号を受信するように構成されているセンサ構成体と、
前記センサ構成体に動作可能に接続されている処理回路構成(15)であって、前記センサ構成体を使用して受信された心臓感知信号を、
心房検出を得るために心房活動によって引き起こされる心房イベント(As)を示す可能性のある信号偏向を検出するように、
前記心房イベント(As)の後続の心室活動によって引き起こされる心室イベント(Vx)を示す信号偏向を検出するように、
前記心房検出と前記心室イベント(Vx)との間の時間を表す心房-心室間隔(AVI)を判定するように、及び、
前記心房-心室間隔(AVI)に基づいて前記心房検出が有効か無効かを識別するように、処理するよう構成されている、処理回路構成(15)と
を備える、植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項2】
前記センサ構成体は、心臓感知信号としての電気信号を受信するように構成されている電極構成体によって実装されている、請求項1に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項3】
前記本体(10)は、前記植え込み型医療デバイス(1)の発電機(18)に接続可能なリードによって形成されている、請求項1又は2に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項4】
前記本体(10)はリードレス・ペースメーカー・デバイスのハウジングによって形成されている、請求項1又は2に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項5】
前記処理回路構成(15)は、前記心房-心室間隔(AVI)を除外間隔(PVI)と比較するように、並びに、前記心房検出が、前記心房-心室間隔(AVI)が前記除外間隔(PVI)よりも長い場合は有効であると、及び前記心房-心室間隔(AVI)が前記除外間隔(PVI)よりも短い場合は無効であると識別するように構成されている、請求項1から4までのいずれか一項に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項6】
前記処理回路構成(15)は、前記心房検出が有効であると識別された場合に前記心房検出に関連するピーク振幅(PA)を判定するように構成されている、請求項1から5までのいずれか一項に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項7】
前記処理回路構成(15)は、前記心房検出に続いてピーク検出窓(PDW)内で前記心房検出に関連する前記ピーク振幅(PA)を判定するように構成されている、請求項6に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項8】
前記処理回路構成(15)は、前記ピーク振幅(PA)を判定するときに、前記ピーク検出窓(PDW)のある部分が前記除外間隔(PVI)と重なるかどうかを判定するように、及び、前記ある部分内で受信されたデータを除外するように構成されている、請求項7に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項9】
前記処理回路構成(15)は、前記ピーク振幅(PA)を使用して、続く心房イベント(As)を検出するための感知閾値(ST)を更新するように構成されている、請求項6から8までのいずれか一項に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項10】
前記処理回路構成(15)は、平均閾値基準値を使用して、以下の式
ST(t)=PC・ATR(t)
に基づいて前記感知閾値(ST)を更新するように構成され、ここで、ST(t)は現在の感知閾値、PCはパーセンテージ比、ATR(t)は現在の平均閾値基準値である、請求項9に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項11】
前記現在の平均閾値基準値は、以下の式
ATR(t)=W・PA(t-1)+(1-W)・ATR(t-1)
によって決定され、ここで、Wは更新重みを示し、PA(t-1)は先行するサイクルt-1に関して判定されるピーク振幅であり、ATR(t-1)は先行する平均閾値基準値である、請求項10に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項12】
前記処理回路構成(15)は、前記心房検出が無効であると識別された場合に、前記心房検出が発生したときの心周期を見逃されたサイクルとしてカウントするように構成されている、請求項1から11までのいずれか一項に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項13】
前記処理回路構成(15)は、前記センサ構成体を介して受信された心臓感知信号から導出された第1の信号を処理するための第1の利得(G1)を有する第1の処理チャネル(16)と、前記センサ構成体を介して受信された心臓感知信号から導出された第2の処理信号を処理するための第2の利得(G2)を有する第2の処理チャネル(17)とを備え、前記第2の利得(G2)は前記第1の利得(G1)よりも高い、請求項1から12までのいずれか一項に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項14】
前記処理回路構成(15)は、第1の処理信号を処理して心室活動を検出するように、及び前記第2の処理信号を処理して心房活動を検出するように構成されている、請求項13に記載の植え込み型医療デバイス(1)。
【請求項15】
心臓内機能を提供するための植え込み型医療デバイス(1)を動作させるための方法であって、
前記植え込み型医療デバイス(1)の本体(10)上に配置されているセンサ構成体を使用して、心臓感知信号を受信するステップと、
前記センサ構成体に動作可能に接続されている処理回路構成(15)を使用して、前記センサ構成体を使用して受信された心臓感知信号を、
心房検出を得るために心房活動によって引き起こされる心房イベント(As)を示す可能性のある信号偏向を検出するように、
前記心房検出の後続の心室活動によって引き起こされる心室イベント(Vx)を示す信号偏向を検出するように、
前記心房検出と前記心室イベント(Vx)との間の時間を表す心房-心室間隔(AVI)を判定するように、及び、
前記心房-心室間隔(AVI)に基づいて前記心房検出が有効か無効かを識別するように、処理するステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、心臓内機能、特に心室ペーシングなどのペーシング機能、詳細にはVDDペーシングを提供するための、植え込み型医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、リードレス・ペースメーカー・デバイス、又は皮下植え込み型パルス生成器と患者の心臓内へと延びる1本若しくは複数本のリードとを使用する心臓刺激デバイスの形状の、植え込み型医療デバイスでは、患者の心臓の心室、例えば右心室に、心房活動と同期した刺激を与えることが望まれる場合がある。このため、心室ペーシング作用は、心房活動を示す心房イベントに基づいて心室ペーシングを制御するために、例えばいわゆるVDDペーシング・モードにおいて、心房感知信号を考慮に入れることになる。
【0003】
近年、リードレス・ペースメーカーへの注目が高まっている。リードレス・ペースメーカーは、静脈経由で心臓内へと延びるリードを使用する皮下植え込み型ペースメーカーとは対照的に、ペースメーカー・デバイス自体が心臓内に植え込まれ、ペースメーカーは心臓組織、特に右心室に植え込まれるためのカプセルの形状を有しているため、リードは用いない。そのようなリードレス・ペースメーカーはリードを使用しないという固有の利点を呈し、これにより静脈経由で心臓に到達するリードが関与する患者のリスク、例えば気胸、リードの移動、心臓穿孔、静脈血栓などのリスクを低減することができる。
【0004】
リードレス・ペースメーカー又は刺激デバイスのリードは右心室への植え込み用に特に設計されてもよく、この場合植え込み中は、例えば右心室の心尖の近傍に配置される。心室ペーシングは例えば、AV結節において機能不全が生じているが洞結節機能は損なわれておらず適正である場合に必要とされ得る。そのような場合特にいわゆるVDDペーシングが望まれる場合があるが、これには心房トラッキングを伴う心室ペーシングが含まれ、したがって内因的な心房収縮に基づいて心室をペーシングするために心房活動の感知が必要である。
【0005】
VDDペーシングは、心室前負荷の最大化、AV弁逆流の制限、低い平均心房圧の維持、及び自律的な神経液性反射の調節を可能にし得る、適正な洞結節機能を利用した心室ペーシングのトリガによる房室(AV:atrioventricular)同期という、患者の血行動態上の利益を特に動機付けとしている。
【0006】
動き、音、及び圧力の感知を含む心房収縮の機械的イベントを検出するためのモダリティを使用するための解決法が文献において模索されている(例えば、心房収縮タイミングを判定するための圧力センサ及び/又は加速度計を含むリードレス心臓ペースメーカーを開示している特許文献1を参照)。機械的イベントは一般に小さい信号量を呈するので、機械的イベント、例えば動き、音、又は圧力に基づく信号検出は、特に植え込み型医療デバイスが心室内に設置され、したがって収縮が感知されることになる心房からかなり遠くに離れている場合には、感知が困難な場合がある。更に、心房収縮によって生じた壁の動き及び血液の移動は心室に直接伝わらない場合があり、動き、心音、及び圧力などの心臓血行動態信号は、姿勢及び患者活動などの外部要因によって影響され易い。
【0007】
機械的感知の更なる欠点が、上記信号が電気的感知の場合に可能なレートよりも低いレートの心室活動信号と混合する結果現れる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0021581号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特に、房室同期を伴い、したがって心房イベントに基づく心室ペーシングを提供するためにそのような心房イベントの確実な感知を必要とする心室ペーシングを可能にする、植え込み型医療デバイス、及び植え込み型医療デバイスを動作させるための方法を提供することが、目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのような要望は、請求項1の特徴を有する、心臓内機能を提供するように構成されている植え込み型医療デバイスによって対処される。
【0011】
一態様では、心臓内機能を提供するように構成された植え込み型医療デバイスは、本体と、本体上に配置され心臓感知信号を受信するように構成されたセンサ構成体と、センサ構成体に動作可能に接続された処理回路構成と、を備える。処理回路構成は、センサ構成体を使用して受信した心臓感知信号を処理して、心房検出を得るために心房活動によって引き起こされる心房イベントを示す可能性のある信号偏向を検出するように、上記心房vの後続の心室活動によって引き起こされる心室イベントを示す信号偏向を検出するように、心房検出と心室イベントとの間の時間を表す心房-心室間隔を判定するように、及び、心房-心室間隔に基づいて心房検出が有効か無効かを識別するように、構成される。
【0012】
植え込み型医療デバイス内では、心房活動を示す心房イベントを検出するために、心臓感知信号を処理及び分析するための処理回路構成が使用される。一般に、心房イベントの検出には、心臓感知信号が心房活動を感知するための適切な感知窓内の閾値と比較され、閾値と交差する場合に心房イベントが想定されるスキームが採用され得る。しかしながら、この感知は心室内に植え込まれたデバイス本体上に設置されたセンサ構成体によって心室内で行われ得るので、心房活動は遠隔場(far-field)において行われ、したがって心房感知信号はセンサ構成体において、比較的小さい信号振幅を有する遠隔場信号として受信される。したがって、心内心電図(IEGM:intracardiac electrogram)におけるQRS波形などの、特に心室活動に関連する近接場(near-field)信号をオーバーセンシングするリスクが存在する。
【0013】
特に、センサ構成体が電気的なIEGM信号を感知するための電極構成体である場合、(心室活動によって引き起こされる近接場における信号に起因する)QRS波形の開始が、心房感知信号と誤認される場合があり、その場合心房検出が、QRS波形に関連する信号による閾値交差に基づいて判定された心房イベントとして、誤って識別される可能性がある。
【0014】
この理由から、心房検出が続く心室イベントに対して十分なタイミング期間で発生した場合にのみ、心房検出が有効であると想定することが提案される。このため、心臓感知信号を処理するとき、心臓感知信号における信号偏向が心房イベントを示し得るかどうかが判定される。その後、心室イベントが検出され、想定心房イベントとそれに続く心室イベントとの間のタイミング期間を示す心房-心室間隔が判定される。次いで心房-心室間隔が評価され、心房-心室間隔に基づいて、心房検出が有効であるか又は無効であるかが判定される。このようにして、特に、心房イベントが続く心室イベントから十分な期間をおいて検出されるかどうかを判定することができ、そうである場合にのみ、その心房イベントは真の有効な心房イベントとして想定される。そうでない場合、推定心房イベントは無効であると分類されるが、その理由は、その心房検出が場合によっては後続の心室イベントに近過ぎる可能性があり、したがって例えば、心室活動に起因する心臓感知信号波形、例えば心内心電図におけるQRS波形の開始によって引き起こされている可能性があるためである。
【0015】
センサ構成体は特に、本体上に配置された1つ又は複数の電極の電極構成体によって形成され得る。したがって、センサ構成体によって電気信号を受信することができ、そのような電気信号は心内心電図の記録を表しており、したがって心臓活動を示すものである。
【0016】
別の実施例では、センサ構成体は、圧力信号、音響信号、超音波信号、動き信号、及び/又はインピーダンス信号の形状の心臓信号を感知するように構成され得る。
【0017】
一実施例では、植え込み型医療デバイスの本体は、植え込み型医療デバイスの発電機に接続可能なリードによって形成され得るこの場合、発電機は患者の例えば皮下に心臓から離して植え込まれ、リードは発電機から心臓内へと延びる本体を形成していてもよく、その場合、表面にセンサ構成体が配置されている本体は心臓内に、例えば右心室の組織と係合するために右心室内に設置される。
【0018】
別の実施例では、本体は、リードレス・ペースメーカー・デバイスのハウジングによって形成され得る。この場合、植え込み型医療デバイスはリードレス・デバイスとして形成されるが、これは、心臓の外側の位置から心臓内へと延びる、心臓内での刺激及び/又は感知を提供するためのリードを備えていない。リードレス・ペースメーカー・デバイスのハウジングは、ハウジングによって形成された遠位端を組織上に配置することができ、センサ構成体は例えば、リードレス・ペースメーカー・デバイスの遠位端を組織上に設置したときに、遠位端上又はその近傍に(少なくとも部分的に)配置され、組織と係合する。
【0019】
植え込み型医療デバイスがリードレス・ペースメーカー・デバイスである場合、ハウジングは植え込み型医療デバイスのカプセル化を実現し、植え込み型医療デバイスはハウジング内に、例えば処理回路構成、バッテリなどのエネルギー貯蔵部、電気及び電子回路構成などの、自立的動作に必要な全ての構成要素を含む。ハウジングは流体を通さず、植え込み型医療デバイスを心臓組織内に植え込むことができ、長期の連続的な心臓ペーシング動作を提供すべく心臓組織内に長い期間にわたって維持できるようになっている。
【0020】
一実施例では、処理回路構成は心房-心室間隔を除外間隔と比較するように、及び、心房-心室間隔が除外間隔よりも大きい場合に心房検出が有効であると識別するように構成される。別法として、心房-心室間隔が除外間隔よりも小さい場合、心房検出は無効であると識別される。このことは、検出される心房イベントが続く心室イベントと近過ぎる場合、その心房イベントは、心室近接場信号などの非心房性の起源を有する信号、例えば心内心電図におけるQRS波形の開始に起因している可能性が高い、との知見に基づいている。したがって、誤検出の可能性が高い推定心房イベントを不適格とし破棄するために、続く心室イベントに対するタイミング間隔を使用することができる。心房検出を不適格とすることに関して、本明細書では、心房検出と続く心室イベントとの間のタイミング、すなわち心房-心室間隔が、閾値、すなわち心房除外間隔と比較される。心房検出と続く心室イベントとの間の時間間隔が除外間隔よりも大きい場合にのみ、その心房検出が有効であると想定される。そうでない場合、心房検出は無効であると想定される。
【0021】
心房イベントを判定するためのこの基準は、先行技術の方法の基準と比較して特に単純である。したがって、リソース節減アルゴリズムが有利なリードレス・ペースメーカーでの使用に特に適している。
【0022】
一実施例では、処理回路構成は、心房検出が有効であると識別された場合、心房イベントに関連するピーク振幅を判定するように構成される。心房検出が有効であると識別された場合、ピーク振幅を判定するために、心房イベントに関する記録されたデータが分析される。例えば、心房イベントは、心房検出閾値とも表される心臓感知信号が、感知閾値と交差した時点として識別される。感知閾値との交差から始まってピーク検出窓が開始され、ピーク検出窓内で最大の信号振幅値がその検出のピーク振幅であると想定される。
【0023】
一実施例では、処理回路構成は、ピーク検出窓が除外間隔と重なるかどうかを判定するように構成される。ピーク検出窓は例えば固定長を有し得る。ピーク検出窓が、続く心室イベントに先行しその心室イベントで終了する除外間隔と重なる場合、ピーク検出窓の重なる部分に関連するデータは破棄され、ピーク振幅の判定には使用されない。このことは、除外間隔内の心臓感知信号の部分が、心房活動には関連していないが例えば心室活動に起因する近接場信号に関連している可能性があり、したがってこの信号部分は破棄されるべきであり、心房活動を分析するために処理されるべきではない、との想定に基づいている。
【0024】
除外間隔は0msから175msの範囲内にあり得る。
【0025】
除外間隔は固定値としてプログラムされ得る。別法として、除外間隔は適応的であってもよく、例えば、実際の心拍数若しくは平均心拍数に、又は患者の活動を示す活動パラメータに依存してもよい。
【0026】
ピーク振幅を使用して、処理回路構成は、続く心房イベントを検出するための感知閾値を更新するように構成され得る。特に、処理回路構成は、平均閾値基準値及びパーセンテージ比を使用して、以下の式
ST(t)=PC・ATR(t)
に従って感知閾値を更新するように構成することができ、ここで、STはサイクルtに関する現在の感知閾値(sense threshold)であり、PCはパーセンテージ比(percentage ratio)であり、ATR(t)はサイクルtに関する現在の平均閾値基準値(average threshold reference)である。パーセンテージ比は例えば0%から100%の間の範囲内であり得る。
【0027】
感知閾値を設定するために上記の式を一部又は全てのサイクルで使用することができるが、その場合、例えば感知閾値を適合させるためのステップダウン技術を含む、より複雑なスキームが採用され得ることに留意されたい。
【0028】
平均閾値基準値は、ピーク振幅に基づいて、以下の式:
ATR(t)=W・PA(t-1)+(1-W)・ATR(t-1)
に従って計算及び更新することができ、ここで、Wは平均閾値基準値をどの程度変更すべきかを先行するピーク振幅に基づいて判定する更新重みを示し、PA(t-1)は先行するサイクルt-1に関して判定されるピーク振幅(peak amplitude)であり、ATR(t-1)は先行する平均閾値基準値である。実際のサイクルtでは、平均閾値基準値は、先に判定された有効なピーク振幅と、サイクルt-1に関する先行する平均閾値基準値と、に基づいて決定される。したがって、サイクルごとに平均閾値基準値が更新され、新たに計算されて、その結果平均閾値基準値はサイクルごとに動的に調整される。
【0029】
ピーク振幅は、心房-心室間隔と例えば除外間隔との比較に基づいて有効であると認定された心房検出に対してのみ判定される。心房検出が無効であると分類された場合、ピーク振幅は判定されず、平均閾値基準値は更新されない。この場合、そのサイクルは見逃されたサイクル、すなわち心房活動が感知されなかったサイクルとしてカウントされる。このようにして、例えば心内心電図におけるQRS波形の開始などの近接場信号に起因する心房イベントの誤検出が、次のサイクルにおける感知閾値の設定に使用される平均閾値基準値の上昇に誤ってつながる可能性が、特に防止される。
【0030】
一実施例では、処理回路構成は、センサ構成体を介して受信されたセンサ信号から導出された第1の処理信号を処理するための第1の利得を有する第1の処理チャネルと、センサ構成体を介して受信されたセンサ信号から導出された第2の処理信号を処理するための第2の利得を有する第2の処理チャネルと、を備え、第2の利得は第1の利得よりも高い。
【0031】
一般に、植え込み型医療デバイスは、様々な処理信号を処理するように構成され得る。そのような処理信号を得るためにセンサ構成体が提供され、このセンサ構成体は、例えば処理信号が導出される電気信号を受信するための1つ又は複数の電極を備える。ここでの処理信号は例えば、各々が1つの電極対を使用することから得ることができ、異なる処理信号を得るためには、同じ電極対か又は異なる複数の電極対が使用され得る。この第1のケースでは心内心電図などの単一の電気信号を得ることができ、そこから異なる処理信号、すなわち別個に処理される第1の処理信号及び第2の処理信号が導出される。後者のケースでは、例えば心室感知信号及び心房感知信号(すなわち、心房感知に最適化した感知を適用することによるもの)に関連する、別個の電気信号を、そのような異なる電気信号から第1の処理信号及び第2の処理信号を導出するべく受信することができ、それら異なる電気信号は例えば、センサ構成体の異なる複数の電極対を使用して受信される。
【0032】
異なる処理信号は、一実施例では、処理回路構成の異なる処理経路において処理される。このため、処理回路構成は第1の処理信号を処理するための第1の処理チャネルを備え、第1の処理信号は例えば、植え込み型医療デバイスの例えば患者の心臓の心室内での設置に応じて、第1の処理チャネルがかなり低い利得を呈し得るような強さとなり得る、近接場(特に心室)感知信号に関連している。
【0033】
更に、処理回路構成は、第2の処理信号を処理するための第2の処理チャネルを備え、この第2の処理信号は例えば、植え込み型医療デバイスを心室内に設置する場合に、植え込みの位置と信号の発生源との間の距離に起因してその振幅が小さくなり得る、遠隔場心房感知信号に関連し得る。第2の処理信号の確実な処理を可能にするために、第2の処理チャネルは、受信した信号内で心房活動に関連する特徴を適切に分析できるように、第1の処理チャネルの利得よりも高い利得を呈する。
【0034】
例えば心室内に植え込み型医療デバイスを設置する場合、心房活動は遠隔場において生じるため、心房活動に由来するP波が呈する振幅はQRS波及びT波に対して小さい場合があるので、(例えば標準的な心室QRS感知チャネルによって得られる)標準的な心室感知信号内の心房イベントを判別するのは難しい場合がある。この理由により、遠隔場活動に関連する信号部分は第2の処理チャネル内で近接場活動に関連する信号とは別個に処理されてもよく、この結果、第2の処理チャネル内で遠隔場イベントがより高い信頼性及び向上したタイミング精度で検出され得る。
【0035】
植え込み型医療デバイスは一態様では、全体又は一部が右心室又は左心室内に設置されることになる。
【0036】
一態様では、センサ構成体は電極構成体によって形成され、電極構成体は本体の先端部の近傍に配置されている第1の電極を備える。植え込み型医療デバイスが植え込まれた状態では、第1の電極は心臓組織上に留置されることになり、このとき第1の電極は、例えば心臓組織に刺激信号を注入してペーシング作用、特に心室ペーシングを引き起こすのに有効な位置で、心臓組織と接触している。
【0037】
一態様では、電極構成体は、本体の周囲に円周方向に延在する電極リングによって形成されている第2の電極を備える。別法として、第2の電極は例えば、本体上に形成されているパッチ又は別の導電エリアによって形成されてもよい。第2の電極は本体の先端部から距離をおいて、したがって先端部に配置されている第1の電極から距離をおいて、設置されている。
【0038】
一実施例では、処理回路構成は、上記第1の処理信号として、第1の電極と第2の電極との間で感知された第1の信号を処理するように構成されている。そのような第1の信号は、第1の電極及び第2の電極で構成される1対の電極間で受信されることになる近接場ベクトルとして表され得る。第1の電極及び第2の電極は、一実施例では互いにかなり近い距離に位置する場合があるので、そのような電極対は主として、植え込み型医療デバイスに密に近接して、すなわち、植え込み型医療デバイスが心室内に植え込まれる場合に心室内の近接場領域内で、信号を受信するのに適している。第1の電極と第2の電極との間で受信された感知信号は、例えば信号における近接場(例えば心室)イベントを検出するための処理を行うために、第1の処理チャネルに提供される。
【0039】
一実施例では、本体は、先端部から離れた遠隔位置(例えば、リードレス・ペースメーカー・デバイスのハウジングの遠端部)を備え、電極構成体は、遠隔位置において本体上に配置された第3の電極を備える。第3の電極は、処理回路構成が第3の電極を介して受信された信号を受信及び処理することが可能になるように、処理回路構成に動作可能に接続されている。
【0040】
一態様では、処理回路構成は、上記第2の処理信号として、第1の電極と第3の電極との間で感知された第2の信号を処理するように構成されている。第1の電極と第3の電極との間で生じるそのような第2の信号ベクトルを遠隔場ベクトルと呼ぶ場合があり、第1の電極及び第3の電極は互いに対して第1及び第2の電極よりも大きい距離を呈する。第2の信号は特に、植え込み型医療デバイスが心室内に設置される場合に、ペーシング刺激を注入する前の内因的な心房活動を第2の信号によって捕捉できるように、遠隔場におけるイベント、すなわち心房収縮を検出するように処理され得る。
【0041】
心室におけるペースメーカー・デバイスの植え込みの位置に心房収縮に続いて適時に刺激を注入することによって心房-心室同期をもたらすために、第1の電極と第3の電極との間で感知される第2の信号を使用して、内因的な心房収縮を感知することができる。第2の信号は、検出された心房イベントに基づいてペーシング作用を提供し、これにより房室(AV)同期を伴う心室ペーシングを可能にする目的で、信号を処理し信号から心房イベントを検出するために、第2の処理チャネルに提供される。
【0042】
一実施例では、第2の処理チャネルは、第2の処理信号において、ある波部分を別の波部分から区別するための処理段を備える。処理段は特に、第2の処理信号に、バンドパス・フィルタリング、第2の信号の一部を更なる処理から除外するためのブランキング窓、移動平均フィルタリング、及び整流のうちの、少なくとも1つを適用するように構成され得る。処理段によって、特に処理されるべき信号内の例えば心房イベントを示し得るような波部分が、分離及び/又は強調されることになる。植え込み型医療デバイスが患者の心臓の心室内に設置される場合、遠隔場心房活動に関連する信号部分は、近接場心室活動に関連する信号部分よりもはるかに小さい振幅を有し得る。このように、この処理は、遠隔場心房活動に関連する信号を含み得るような信号部分を識別するために、異なる信号部分を区別する役割を果たす。
【0043】
例えば心内心電図におけるP波を分離するために、バンドパス・フィルタリングを適用し、これにより、心室活動に由来するQRS波及びT波に特に関連する波部分から、P波に関連する波部分を区別してもよい。別法として又は追加として、第2の処理信号の特定の部分、すなわち遠隔場心房活動以外のイベントに由来する信号を含むような部分を無効にするために、ブランキング法を適用してもよい。この場合、ブランキング窓が、遠隔場活動にとって重要でなくむしろ遠隔場活動の検出に干渉し得る信号部分を発現させないように機能する。ブランキング窓によって、信号の遠隔場心房活動に関連しないような部分はしたがって、遠隔場活動に関連する(可能性の高い)ような信号部分に処理が限定されるように、処理から除外される。別法として又は追加として、移動平均フィルタリング、有限差分、又は信号の整流などの他の方法を適用してもよい。移動平均フィルタは本明細書では処理信号を平滑化するために使用され得る。整流は、信号の大きさが事前に定義された閾値を上回る時点を識別するために、処理された信号を(単一の)閾値と容易に比較する役割を果たし得る。
【0044】
一実施例では、第1の処理チャネルは、第1の信号における少なくとも1つの近接場イベントを検出するための第1の検出段を備える。本明細書では、第2の処理チャネルの処理段は、第1の処理チャネルの第1の検出段によって検出された近接場(例えば心室)イベントに基づいて、第2の信号の一部を更なる処理から除外するためのブランキング窓の少なくとも1つの限度値を決定するように構成され得る。第1の処理チャネルは、近接場イベント、すなわち植え込まれた植え込み型医療デバイスに密に近接した、例えば植え込み型医療デバイスが中に植え込まれている心室における活動に起因するイベントを検出するために、信号をより低い利得で処理する役割を果たす。近接場イベントは第2の処理信号にも含まれることになるので、近接場活動に関連するような信号部分、すなわち植え込み型医療デバイスが心室内に設置される場合のQRS波及びT波を無効にするのが有利である。ブランキング窓を適正に位置付ける目的で、例えば心房イベントと心室イベントの間の標準的なタイミングを判定するために、検出された近接場イベントを考慮してもよい。開始時間及び停止時間によって定められるブランキング窓が第2の処理信号の近接場心室イベントに関連するような部分を無効にすべく適切に設定され得るように、検出された近接場イベントから、遠隔場イベント後にどのような時間範囲内で近接場イベントが典型的に発生することになるかを判定することができる。
【0045】
例えば第2の高利得処理チャネル内で電力を節減するために、ブランキング窓の間、第2の処理チャネルは少なくとも部分的にオフにされ得る。第2の処理チャネルは例えば、第2の処理信号を増幅するための増幅段を備えてもよく、増幅段は、ブランキング窓の時間間隔中に増幅によって電力が消費されないように、ブランキング窓の期間中オフにされてもよい。
【0046】
ブランキング窓の外にある検出窓において、遠隔場心房イベントの検出が行われる。ここでの検出窓は、先行するブランキング窓の終了時に(直ちに)開始されてもよく、次のブランキング窓の開始時に終了してもよい。ただし、検出窓が例えば、先行するブランキング窓の終了後のある程度の時間遅延時に開始することも考えられる。ブランキング窓の終了と検出窓の開始の間、第2の処理チャネルは完全に機能できる状態であってもよく、関連付けられた第2の処理信号を処理してもよいが、ただしこの場合、検出窓の開始まで遠隔場(心房)イベントの検出は行われない。
【0047】
一実施例では、第2の処理チャネルは、第2の処理信号における心房イベントを検出するための第2の検出段を備える。第2の検出段は、第2の検出段が第2の処理チャネルの処理段から処理された信号を受信するように、第2の処理チャネルの処理段よりも論理的に後ろに配置され得る。ここでの第2の検出段は、検出された心房イベントのタイミングに関連する情報を出力するために、第2の処理信号において遠隔場心房イベントを識別する役割を果たす。
【0048】
第2の処理チャネルの第2の検出段は特に、第2の処理信号を感知閾値と比較することによって心房イベントを検出するように構成され得る。第2の処理信号の大きさが感知閾値を上回る場合、遠隔場心房イベントが存在すると結論付けることができる。ここでの処理は整流された信号に対して行われてもよく、このことにより整流された信号と比較され得る単一の閾値の適用が可能になる。ただし、例えば2つの閾値、すなわち正の閾値及び負の閾値を適用することによって、整流されていない信号において遠隔場心房イベントを識別することも可能であり、この場合、正の信号部分が正の閾値を上回る及び/又は負の信号部分(の大きさ)が負の閾値を上回る場合に、遠隔場心房イベントが識別される。
【0049】
本発明の様々な特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び図面に示されている実施例を参照することによってより容易に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】リードレス・ペースメーカー・デバイスの形状の植え込み型医療デバイスが中に植え込まれた、ヒトの心臓の概略図である。
図2】植え込み型医療デバイスの概略図である。
図3】植え込み型医療デバイスの異なる電極間の信号ベクトルを示す、植え込み型医療デバイスの概略図である。
図4】植え込み型医療デバイスの実施例の処理回路構成の概略図である。
図5A】処理回路構成の第1の処理チャネルによって処理された心内心電図(IEGM)の形状の第1の処理信号を示す図である。
図5B】処理回路構成の第2の処理チャネルによって処理された第2の処理信号を示す図である。
図6】右心室にリードが植え込まれた心臓刺激デバイスの形状の植え込み型医療デバイスを有する、ヒトの心臓の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
続いて、本発明の実施例について図面を参照して詳細に記載する。図面では、類似の参照番号は類似の構造要素を指し示す。
【0052】
これらの実施例は本発明を限定するものではなく、単に例示的な実例を表しているに過ぎないことに留意すべきである。
【0053】
本発明では、心臓内機能、特に心室ペーシング、詳細にはいわゆるVDDペーシングを提供する、植え込み型医療デバイスを提供することが提案される。
【0054】
図1は、右心房(right atrium)RA、右心室(right ventricle)RV、左心房(left atrium)LA、及び左心室(left ventricle)LVを備えるヒトの心臓を概略図で示しており、右心房RAの壁にいわゆる洞房結節(sinoatrial node)SANが位置しており、この洞房結節SANは、心臓の電気伝導系を通って伝わりその結果心臓を介して血液を圧送するべく心臓を収縮させる電気インパルスを自発的に生み出す能力を有する、一群の細胞によって形成されている。房室結節(atrioventricular node)AVNは、心房と心室の間の電気伝導を調節する役割を果たし、心房内中隔の背中側下方の区域の冠状静脈洞の開口部付近に位置している。房室結節AVNからいわゆるHIS束Hが延びており、このHIS束Hは専ら電気伝導を行う心筋細胞で構成されており、房室結節AVNからの電気インパルスをいわゆる右脚(right bundle branch)RBBを介して右心室RVの周囲に、及びいわゆる左脚(left bundle branch)LBBを介して左心室LVの周囲に伝達するための、電気伝導系の一部を形成する。
【0055】
房室結節AVNでブロックがある場合、心臓Hの内因的な電気伝導系が妨害される場合があり、これにより心室活動の内因的な刺激が不十分になる可能性がある、すなわち、右心室RV及び/又は左心室LVの収縮が不十分又は不規則となる。そのような場合、ペースメーカー・デバイスによる心室活動のペーシングが必要とされる場合があり、そのようなペースメーカー・デバイスは、心臓内組織、特に心筋(myocardium)Mに刺激エネルギーを注入することによって心室活動を刺激する。
【0056】
一実施例では、図1に概略的に示すように、心室ペーシング作用のためのリードレス心臓ペースメーカー・デバイスの形状の植え込み型医療デバイス1が提供され、リードレス・ペースメーカー・デバイスは、リードレス・ペースメーカー・デバイスのハウジングによって形成された本体10を有する。
【0057】
別の実施例では、図6に示すように、植え込み型医療デバイス1は、発電機18と、植え込み型医療デバイス1の本体10を形成し発電機18から患者の心臓内へと静脈経由で延びる少なくとも1つのリードと、を有する、刺激デバイスであり得る。
【0058】
一般的な植え込み型医療デバイスは、それらが中に設置されている心室RV、LVから電気信号を受信することによって心室活動を感知するように設計されているが、内因的な心房活動と同期したペーシングを心室において提供することによって房室(AV)同期を達成するペーシング作用を提供するのが望ましい場合がある。VDDペーシング・モードとも表されるそのようなペーシング・モードの場合、心房イベントに基づいて心室ペーシングを行うために、心房活動を感知する、及び心房収縮に関連するそのような心房イベントを識別する必要がある。
【0059】
ここで図2及び図3を参照すると、一実施例では、特にVDDペーシング・モードで心臓内ペーシングを提供するように構成されているリードレス・ペースメーカー・デバイスの形状の植え込み型医療デバイス1は、植え込み型医療デバイス1を動作させるための電気及び電子構成要素を封入したハウジング10を備える。特に、ハウジング10内には、例えばプログラマ・ワンドなどの外部デバイスと通信するための通信インターフェースも備える、処理回路構成15が封入されている。更に、ハウジング10内には、バッテリの形状のエネルギー貯蔵部などの電気及び電子構成要素が閉じ込められている。ハウジング10はその中に入れられた構成要素のカプセル化を実現し、ハウジング10は、例えば数センチメートルの長さを有する、例えば円筒形シャフトの形状を有する。
【0060】
植え込み型医療デバイス1は心臓内組織M上に直接植え込まれるものである。このため、植え込み型医療デバイス1は先端部100の領域内に、植え込まれた状態において植え込み型医療デバイス1を組織上に固定的に保持するための、心臓内組織Mに係合するための例えばニチノール製ワイヤの形状の、固定デバイス14を備える。
【0061】
図2及び図3の実施例における植え込み型医療デバイス1はリードを備えないが、ハウジング10上に配置されている電極構成体によって心臓活動に関連する信号を受信し、またそのような電極構成体によって刺激信号の発出も行う。図2及び図3の実施例では、植え込み型医療デバイス1は、電極構成体を構成しており、ペーシングを提供するためのペーシング信号を心臓内組織Mに向けて発出する、並びに心臓活動を示す、特に心房及び心室の収縮を示す電気信号を感知する役割を果たす、異なる電極11、12、13を備える。
【0062】
第1の電極11はここではペーシング電極として表されている。第1の電極11はハウジング10の先端部100に設置されており、心臓組織Mと係合するように構成されている。
【0063】
第2の電極12はここではペーシング・リングとして表されている。第2の電極12は第1の電極11に対する逆電極の役割を果たし、第1の電極11と第2の電極12の間で生じる信号ベクトルPは、心臓内組織Mに向かうペーシング信号を発出するためのペーシング・ベクトルPを与える。
【0064】
更に、第2の電極12は、特に心室収縮に関連する感知信号用の感知電極の役割を果たし、第2の電極12と第1の電極11の間で信号ベクトルVが生じ、この信号ベクトルVは近接場ベクトルとして表される。
【0065】
第2の電極12は第1の電極11から距離をおいて設置されており、例えばハウジング10の周囲に円周方向に延在するリングの形状を有する。第2の電極12は例えば、第1の電極11が設置されているハウジング10の先端部100から約1cmの距離に設置されている。
【0066】
植え込み型医療デバイス1は、図2及び図3の実施例では、ハウジング10の遠端部101に設置されている第3の電極13を更に備え、第3の電極13は、遠隔場における心臓活動を示す信号を感知するための感知電極の役割を果たす。特に、信号ベクトルAは第3の電極13と第1の電極11の間で生じ、信号ベクトルAは例えば心房収縮を示す信号を含んでおり、遠隔場ベクトルと表される。
【0067】
電極11、12、13は処理回路構成15と動作可能に接続しており、処理回路構成15は、第1の電極11及び第2の電極12に、心室に刺激を与えるためのペーシング信号を発出させるように構成されている。処理回路構成15はまた更に、電極11、12、13を介して受信された信号を、心臓活動、特に心房及び心室収縮の感知を行うべく処理するように構成されている。
【0068】
図6の実施例に示すように、植え込み型医療デバイス1が、発電機18と発電機18から延びるリードとを備える刺激デバイスの形状を有する場合、図6に示すように、右心室RV内に植え込まれ、そこへと延びるリード上に、例えば3つの電極11、12、13を備える同様の電極構成体が配置されてもよく、その場合上記の内容は、患者の心臓内へと延びるリードを有する植え込み型医療デバイス1の実施例にも当てはまる。この場合、処理回路構成15は発電機18の一部であってもよく、リード上に配置された電極構成体と動作可能に接続されていてもよい。
【0069】
植え込み型医療デバイス1が中に設置されている心室においてペーシングを提供する目的で、特にVDDモードでのペーシングを可能にする目的で、房室(AV)同期が得られるように心室におけるペーシングを時間設定するための心房感知マーカの検出を実現するために、心房活動の感知が必要である。このため、右心室RV内の心臓内組織M上に植え込まれている植え込み型医療デバイス1による右心室RVにおける同期ペーシングを可能にするために、特に右心室RV(図1及び図6を参照)からの遠隔場信号が感知されることになる。
【0070】
ここで図4を参照すると、処理回路構成15は、一実施例では、心室活動及び心房活動に関連する異なる処理信号を処理するための、2つの処理チャネル16、17を備える。本明細書では通常、心内心電図(IEGM)は、心室活動(特にQRS波)及び心房活動(特にP波)に関連する信号部分と、心房活動に関連するが遠隔場信号源から生じ、したがって近接場における心室活動に関連する、すなわち植え込まれた植え込み型医療デバイス1に密に近接して生じる信号部分よりも、はるかに目立たず、且つはるかに小さい振幅を有する信号部分と、を含む。この理由から、2つの処理チャネル16、17は異なる利得G1、G2と関連付けられ、第1の処理チャネル16は、かなり低い利得G1で心室イベント(ventricular event)Vxを識別するように第1の処理信号を処理する役割を果たし、第2の処理チャネル17は、顕著に高い利得G2で心房イベントを識別するように第2の処理信号を処理するように構成されている。
【0071】
特に、第1の処理チャネル16は電極11、12、13で構成される電極構成体に接続されており、第1の処理チャネル16は、電極11、12を介して受信された信号(図2及び図3の近接場ベクトルV)を感知及び処理するように特に構成されている。第1の処理チャネル16は利得G1を有する第1の増幅段161を備え、第1の増幅段161に続いて、第1の処理チャネル16内で処理された第1の処理信号から心室感知マーカVxを識別するように構成されている、検出段162が存在する。
【0072】
第2の処理チャネル17は電極11、12、13で構成される電極構成体に同様に接続されており、第2の処理チャネル17は、図2及び図3に図示するように、ハウジング10の先端部100及び遠端部101に設置されている電極11、13の間の遠隔場ベクトルAを介して感知された信号を処理するように特に構成されている。第2の処理チャネル17は第2の利得G2を有する第2の増幅段171を備え、第2の増幅段171には処理段172及び第2の検出段173が続いている。
【0073】
処理段172は、増幅後の第2の処理信号を事前処理する役割を果たす。次いで検出段173は、第2の処理信号内の心房イベントを識別するべく、処理された信号を評価及び分析する役割を果たし、第2の処理チャネル17はその場合、処理された信号において検出された心房イベントを示す心房感知マーカ(atrial sense marker)Asを出力する。
【0074】
更に、処理回路構成15は、第1の処理チャネル16及び第2の処理チャネル17から受信されたタイミング情報を使用してペーシングのタイミング、特に心房-心室同期ペーシングを達成するためのVDDタイミングを提供する、タイミング段174を備える
【0075】
心房イベントを識別及び分析するために、第2の処理チャネル17の利得G2は、第1の処理チャネル16の利得G1よりも(顕著に)高い。このことによって一般に、心房イベントに関連する信号部分を分析することが可能になるが、心房イベントに関連するそのような信号部分を、他の信号部分、特に近接場における心室イベントVxに関連しておりしたがって遠隔場における心房イベントから発する信号部分よりもはるかに強い信号部分から、判別することが必要になる。
【0076】
処理段172内で、例えばバンドパス・フィルタリング、窓化(windowing)(例えば部分的ブランキング)、移動平均フィルタリングによる平滑化、及び整流が行われ得る。P波欠陥(defection)を向上させながら非ゼロ・ベースラインを除去するために、一次又は二次差分を適用してもよい。
【0077】
図5A及び図5Bは異なる処理チャネル16、17で処理された信号S1、S2の例を示しており、上側の図5Aは、第1の処理チャネル16によって処理された信号S1を示しており、下側の図5Bは、第2の処理チャネル17によって処理された信号S2を示している。処理の結果、心室イベントVx及び心房イベント(atrial event)Asが識別され、対応するマーカが出力される。
【0078】
図5Bから明らかなように、心房イベントAsの感知には、信号S2の心室活動に関連している可能性のある信号部分をブランキングするためのブランキング窓Tblankを特に採用する、窓化スキームが使用される。
【0079】
特に、第1の処理チャネル16における心室イベントVxの検出によって、心房イベントAsと心室イベントVxとの間のタイミングが判定され得る。そのようなタイミングに従ってブランキング窓Tblankの開始点及び終了点を設定することができ、その結果、心房活動に関連しない信号部分が処理から除外される。このようにして、心室活動に関連する信号部分が心房イベントAsの検出に干渉できないように、強い心室信号を抑制することができる。
【0080】
ブランキング窓Tblankの間、第2の処理チャネル17はオフにされ得る。特に、第2の処理チャネル17の増幅段171を、電力を節減するためにオフにしてもよい。
【0081】
一般に、心房イベントAsの検出はブランキング窓Tblankの外で行われる。ここでは、心房イベントAsを検出するための検出窓Tsenseは、先行するブランキング窓Tblankの終了時に開始し得る。別法として、検出窓Tsenseは、図5Bの実施例に示されているように、先行するブランキング窓Tblankの終了に対して遅延を有してもよく、その場合、第2の処理チャネル17内での信号処理は、先行するブランキング窓Tblankの終了時に開始するが、心房イベントAsの検出は特定の遅延後に初めて開始する。
【0082】
一般に、図5Bに示されているように、検出窓Tsenseにおいて信号S2が感知閾値(sense threshold)STと交差する場合、心房イベントAsが存在すると想定される。この比較は感知信号S2の整流に基づいて行われ得る。別法として、正又は負の感知閾値STを用いてもよく、これらは同じ値を有しても、値が異なっていてもよい。
【0083】
図5Bから明らかなように、感知信号S2内には、近接場活動、特に心室活動に起因する信号部分が存在する可能性があり、それらは例えば、QRS波形の開始の結果生じ得る。したがって、図5Bに示すように、最初の心房イベントAsについては閾値交差は近接場効果に起因しており、したがってこの閾値交差は心房活動には起因していない可能性がある、ということが生じ得る。その場合、心房イベントAsが誤検出される可能性がある。
【0084】
このため、本明細書では、心房イベントAsを、続く心室イベントVxに対するタイミングに基づいて評価することが提案される。
【0085】
特に、存在する可能性のある心房イベントAsが最初に判定されるスキームが提案される。次いで、続く心室イベントVxが判定される。これら2つのイベントに基づいて、心房-心室間隔(atrial-ventricular interval)AVIが判定される。心房-心室間隔AVIは、Vx前間隔(pre-Vx interval)とも表される除外間隔PVIと比較される。心房-心室間隔AVIが除外間隔PVIよりも小さいと判明した場合、心房イベントAsは不適格とされ無効であると想定されるが、これは図5Bの最初の心房イベントAsの場合である。そうではなく、心房-心室間隔AVIが除外間隔PVIよりも大きい場合、これは図5Bに示す2番目の心房イベントAsの場合であるが、心房イベントAsは有効であると想定される。
【0086】
したがって、検出された心房イベントAsが続く心室イベントVxに近過ぎると判明した場合、心房イベントAsは不適格とされ、更なる処理には使用されない。
【0087】
心房イベントAsが有効であると認定された場合、これは図5Bの2番目の心房イベントAsの場合であるが、その心房イベントAsは更なる処理に、特に感知閾値STを更新するために及び心房-心室同期ペーシングを達成するために、使用される。
【0088】
特に、心房イベントAsは、信号S2が感知閾値STと交差する時点として解釈される。心房イベントAsの時にピーク検出窓(peak detection window)PDWが開始され、そのピーク検出窓PDWの間に記録されたデータに基づいて、ピーク検出窓PDW内の最大信号値として、ピーク振幅(peak amplitude)PAが判定される。このことが図5Bの右側で2番目の心房イベントAsについて示されている。
【0089】
また、心房イベントAsが有効であると判明した場合、心房イベントの感知からペースの開始までの内部遅延として、心房-心室遅延(atrial-ventricular delay)AVDがプログラムされ得る。
【0090】
ピーク検出窓PDWが除外間隔PVIと重なる場合、ピーク検出窓PDWの重なる部分は、重なる部分内に記録されたデータは破棄されピーク振幅PAの判定に使用されない、というかたちで処理から除外される(重なる部分は例えば、続く心室イベントVxを判定するのに続いて識別されてもよく、またピーク振幅PAは場合によっては、続く心室イベントVxの検出後に初めて判定される)。
【0091】
ピーク振幅PAは感知閾値STを更新するために使用される。特に、処理回路構成15は、平均閾値基準値及びパーセンテージ比を使用して、以下の式
ST=PC・ATR(t)
に従って感知閾値STを更新するように構成することができ、ここで、STは現在の感知閾値であり、PCはパーセンテージ比であり、ATR(t)は現在のサイクルtに関する平均閾値基準値である。パーセンテージ比は例えば0%から100%の間の範囲内であり得る。
【0092】
平均閾値基準値は、ピーク振幅PAに基づいて、以下の式:
ATR(t)=W・PA(t-1)+(1-W)・ATR(t-1)
に従って計算及び更新することができ、ここで、Wは平均閾値基準値をどの程度変更すべきかを先行するピーク振幅に基づいて判定する更新重みを示し、PA(t-1)は先行するサイクルt-1に関して判定されるピーク振幅であり、ATR(t-1)は先行する平均閾値基準値である。実際のサイクルtでは、平均閾値基準値は、先に判定された有効なピーク振幅と、サイクルt-1に関する先行する平均閾値基準値と、に基づいて決定される。したがって、サイクルごとに平均閾値基準値が更新され、新たに計算されて、その結果平均閾値基準値は、サイクルごとに動的に調整される。
【0093】
心房心室間隔AVIが除外間隔PVIよりも小さいため心房イベントAsが無効であると判明した場合、ピーク振幅PAは判定されず、感知閾値STは更新されない。このようにして、心房イベントAsの誤検出によって感知閾値STの誤った上昇及び続く心房活動の捕捉の喪失が生じることが回避される。
【0094】
第2の処理チャネル17によって出力される心房感知マーカAsを使用して、心室同期ペーシングを達成し得る。このために、検出された心房感知マーカAsに続いて、心房感知マーカAsの後に事前に定義された時間遅延窓内で(第1の処理チャネル16によって出力される)内因的な心室感知マーカVxが生じるかどうかを検出することができ、この場合は刺激は必要ない。心室感知マーカVxが検出されない場合、刺激パルスを発出して、心室における同期ペーシングを引き起こすことができる。
【0095】
逆に、非同期型ペーシングを行うこともできる。
【0096】
植え込み型医療デバイスによって受信された遠隔場電気信号を利用することによって、遠隔場イベント、特に植え込み型医療デバイスが心室内に植え込まれる場合の心房イベントの、優れた検出を提供できる。電気信号の使用及び評価による遠隔場イベントのトラッキングによって、特に姿勢及び患者活動などの外部要因に対する、一貫性及び信頼性の向上が可能になり得る。
【符号の説明】
【0097】
1 植え込み型医療デバイス
10 本体(ハウジング)
100 先端部
101 遠端部
11 第1の電極(ペーシング電極)
12 第2の電極(ペーシング・リング)
13 第3の電極
14 固定デバイス
15 処理回路構成
16 処理チャネル
161 増幅段
162 検出段
17 処理チャネル
171 増幅段
172 処理段
173 検出段
174 タイミング段
18 発電機
A 信号ベクトル(心房/遠隔場ベクトル)
As 心房イベント(心房感知マーカ)
AVD 心房-心室遅延
AVI 心房-心室間隔
AVN 房室結節
G1、G2 利得
H HIS束
LA 左心房
LBB 左脚
LV 左心室
M 心臓内組織(心筋)
P 信号ベクトル(ペーシング・ベクトル)
PA ピーク振幅
PDW ピーク検出窓
PVI 除外間隔(Vx前間隔)
RA 右心房
RBB 右脚
RV 右心室
S1、S2 信号
SAN 洞房結節
ST 感知閾値
blank ブランキング窓
sense 感知窓
V 信号ベクトル(心室/近接場ベクトル)
Vx 心室イベント(心室感知マーカ)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
【国際調査報告】