(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】心臓内機能を提供するように構成された植込み型医療装置
(51)【国際特許分類】
A61N 1/365 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
A61N1/365
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543377
(86)(22)【出願日】2022-02-07
(85)【翻訳文提出日】2023-09-12
(86)【国際出願番号】 EP2022052813
(87)【国際公開番号】W WO2022175123
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512158181
【氏名又は名称】バイオトロニック エスエー アンド カンパニー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】BIOTRONIK SE & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Woermannkehre 1 12359 Berlin Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミドゲット、マデリーヌ アン
(72)【発明者】
【氏名】ヤング、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ウィッティントン、アール.ホリス
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053KK02
4C053KK07
(57)【要約】
心臓内機能を提供するように構成された植込み型医療装置1は、本体10と、本体10上に配置され、心臓感知信号を受信するように構成されたセンサ構成体と、センサ構成体に動作可能に接続された処理回路構成15とを備える。処理回路構成15は、センサ構成体を使用して受信された心臓感知信号を処理して、いくつかの心周期について、心臓感知信号と感知閾値STとの比較に基づいて、心房活動によって生じる心房事象Asを検出し、Y1個の心周期のうちのX1個において心房事象Asが検出されていない場合に低減基準が満たされ、X1が1以上の自然数であり、Y1がX1以上の自然数であるときに、低減基準が満たされているかどうかを評価し、低減基準が満たされた場合に、感知閾値STを低減させるように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓内機能を提供するように構成された植込み型医療装置(1)であって、
本体(10)と、
前記本体(10)上に配置され、心臓感知信号を受信するように構成されたセンサ構成体と、
前記センサ構成体に動作可能に接続された処理回路構成(15)であって、前記処理回路構成(15)は、前記センサ構成体を使用して受信した心臓感知信号を処理して、
いくつかの心周期について、前記心臓感知信号と感知閾値(ST)との比較に基づいて、心房活動によって生じる心房事象(As)を検出し、
Y1個の心周期のうちのX1個において心房事象(As)が検出されていない場合に低減基準が満たされ、X1が1以上の自然数であり、Y1がX1以上の自然数であるときに、前記低減基準が満たされているかどうかを評価し、
前記低減基準が満たされた場合に、前記感知閾値(ST)を低減させるように
構成される、
植込み型医療装置(1)。
【請求項2】
前記センサ構成体は、心臓感知信号として電気信号を受信するように構成された電極構成体によって実装される、請求項1に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項3】
前記本体(10)は、前記植込み型医療装置(1)の発電機(18)に接続可能なリードによって形成される、請求項1又は2に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項4】
前記本体(10)は、リードレス・ペースメーカ装置のハウジングによって形成される、請求項1又は2に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項5】
前記処理回路構成(15)は、現在の周期において前記低減基準が満たされていることが判明した場合、前記現在の周期における心房事象(As)の検出のための前記感知閾値(ST)を低減させるように構成されており、前記低減基準は、前記現在の周期より前のY1個の心周期のうちのX1個において、心房事象(As)が検出されていない場合に満たされる、請求項1から4までのいずれか一項に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項6】
前記処理回路構成(15)は、前記低減基準が満たされた場合、低減係数(L1、L2)によって前記感知閾値(ST)を低減させるように構成される、請求項1から5までのいずれか一項に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項7】
前記処理回路構成(15)は、前記低減基準が少なくとも2つの連続した周期について満たされた場合、ステップ係数(L1、L2)によって追加的に前記感知閾値(ST)を低減させるように構成される、請求項6に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項8】
前記処理回路構成(15)は、さらなる第2の低減基準が満たされているかどうかを評価するように構成され、前記さらなる第2の低減基準は、Y2個の心周期のうちのX2個において、心房事象(As)が検出されていない場合に満たされ、X2はX1よりも大きい自然数であり、Y2はY1よりも大きい自然数である、請求項1から7までのいずれか一項に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項9】
前記処理回路構成(15)は、前記さらなる第2の低減基準に関連付けられた第2の低減係数(L2)によって前記感知閾値(ST)を低減させるように構成される、請求項1から8までのいずれか一項に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項10】
前記処理回路構成(15)は、下限絶対閾値(LAT)を超えて前記感知閾値(ST)を低減させないように構成される、請求項1から9までのいずれか一項に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項11】
前記処理回路構成(15)は、検出された心房事象(As)に関連付けられたピーク振幅(PA)を決定するように構成され、前記処理回路構成(15)は、式
ST(t)=PC・ATR(t)
に基づいて、平均閾値基準を使用して、前記感知閾値(ST)を更新するように構成され、
ここで、ST(t)は前記現在の感知閾値、PCはパーセント比率、ATR(t)は、前記現在の平均閾値基準である、請求項1から10までのいずれか一項に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項12】
前記現在の平均閾値基準は、式
ATR(t)=W・PA(t-1)+(1-W)・ATR(t-1)
によって決定され、
ここで、Wは、前記前のピーク振幅に基づいて、前記平均閾値基準がどれくらい変化すべきかを決定する更新重みを示し、PA(t-1)は、前記前の周期t-1について決定された前記ピーク振幅であり、ATR(t-1)は、前記前の平均閾値基準である、請求項11に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項13】
前記処理回路構成(15)は、前記センサ構成体を介して受信された心臓感知信号から導出された第1の処理信号を処理するための第1の利得(G1)を有する第1の処理チャネル(16)と、前記センサ構成体を介して受信された心臓感知信号から導出された第2の処理信号を処理するための第2の利得(G2)を有する第2の処理チャネル(17)とを備え、前記第2の利得(G2)は、前記第1の利得(G1)よりも高い、請求項1から12までのいずれか一項に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項14】
前記処理回路構成(15)は、前記第1の処理信号を処理して心室活動を検出し、前記第2の処理信号を処理して心房活動を検出するように構成される、請求項13に記載の植込み型医療装置(1)。
【請求項15】
心臓内機能を提供するための植込み型医療装置(1)を動作させるための方法であって、
前記植込み型医療装置(1)の本体(10)上に配置されたセンサ構成体を使用して、心臓感知信号を受信することと、
前記センサ構成体を使用して受信された前記心臓感知信号を、前記センサ構成体に動作可能に接続された処理回路構成(15)を使用して処理して、
いくつかの心周期について、前記心臓感知信号と感知閾値(ST)との比較に基づいて、心房活動によって生じる心房事象(As)を検出し、
Y1個の心周期のうちのX1個において心房事象(As)が検出されていない場合に低減基準が満たされ、X1が1以上の自然数であり、Y1がX1以上の自然数であるときに、前記低減基準が満たされているかどうかを評価し、
前記低減基準が満たされた場合に、前記感知閾値(ST)を低減させることと
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に心臓内機能を提供するための植込み型医療装置に関し、特に、心室ペーシング、具体的にはVDDペーシングなどのペーシング機能に関連する。
【背景技術】
【0002】
例えば、リードレス・ペースメーカ装置、又は、皮下植込み型パルス発生器と、患者の心臓内へと延びる1本又は複数のリードとを使用する心臓刺激装置の形態の植込み型医療装置では、心房活動と同期して、患者の心臓の心室、例えば右心室内で、刺激を提供することが望ましい場合がある。このために、心室ペーシングは、心房感知信号を考慮して、例えば、いわゆるVDDペーシング・モードで、心房活動を示す心房事象に基づいて心室ペーシングを制御する。
【0003】
近年、リードレス・ペースメーカへの注目は高まっている。リードレス・ペースメーカは、静脈経由で心臓内へと延びるリードを使用する皮下に植え込まれるペースメーカとは対照的に、ペースメーカ装置自体が心臓内に植え込まれているため、リードを使用せず、このペースメーカは、心臓組織、特に右心室内に植え込むためのカプセルの形状を有している。このようなリードレス・ペースメーカは、リードを使用しないという固有の利点を示し、その利点によって、静脈経由で心臓に接近するリードに関わっている患者にとってのリスク、例えば、気胸、リードの抜け、心穿孔、静脈血栓症などのリスクを低減させることができる。
【0004】
リードレス・ペースメーカ、又は刺激装置のリードは、具体的には、右心室内に植え込まれるように設計されてもよく、この場合、植込みの際、例えば右心室の頂点の近傍に配置される。心室ペーシングは、例えば、房室結節で機能障害が生じているが洞房結節機能は損なわれておらず適正である場合に適用され得る。このような場合、特に、いわゆるVDDペーシングが望まれることがあり、これには、心房トラッキングを伴う心室ペーシングを必要とし、したがって、内因的な心房収縮に基づいて心室でペーシングするために心房活動の感知を必要とする。
【0005】
VDDペーシングは、心室前負荷の最大化、房室弁逆流の制限、低い平均心房圧の維持、並びに、自律神経反射及び神経液性反射の調節を可能にし得る、心室ペーシングを誘引するために、適正な洞房結節機能を利用することによる房室(AV:atrioventricular)同期という、患者の血行動態上の利益が特に動機になっている。
【0006】
文献において、動き、音、及び圧力の感知を含む、心房収縮の機械的事象を検出するためのモダリティを使用するための解決法が模索されてきた(例えば、心房収縮のタイミングを判定するための圧力センサ及び/又は加速度計を含むリードレス心臓内ペースメーカを開示している米国特許出願公開第2018/0021581(A1)号を参照)。機械的事象は一般に小さな信号量を示すので、特に、植込み型医療装置が心室内に配置され、したがって収縮が感知されることになる心房からかなり離れているときは、例えば、動き、音、又は圧力などの機械的事象に基づく信号検出は、感知が困難であり得る。さらに、心房収縮によって生じる壁の運動や血液の動きは、心室に直接伝達されない可能性があり、運動、心音、血圧などの心臓血行動態信号は、姿勢や患者の活動などの外的要因の影響を受けやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0021581(A1)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特に、房室同期を伴う心室ペーシングを可能にし、したがって心房事象に基づく心室ペーシングを提供するために、そのような心房事象の確実な感知を必要とする植込み型医療装置と、植込み型医療装置を動作させるための方法とを提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような要望は、請求項1の特徴を有する、心臓内機能を提供するように構成された植込み型医療装置によって対処される。
【0010】
一態様では、心臓内機能を提供するように構成された植込み型医療装置は、本体と、本体上で心臓感知信号を受信するように構成されたセンサ構成体と、センサ構成体に動作可能に接続された処理回路構成とを備える。処理回路構成は、センサ構成体を使用して受信した心臓感知信号を処理して、いくつかの心周期について、心臓感知信号と感知閾値との比較に基づいて、心房活動によって生じる心房事象を検出し、Y1個の心周期のうちのX1個において心房事象が検出されない場合に低減基準(reduction criterion)が満たされ、X1が1以上の自然数であり、Y1がX1以上の自然数であるときに、低減基準が満たされているかどうかを評価し、前記低減基準が満たされた場合に感知閾値を低減させるように構成される。
【0011】
感知閾値は、一般に、心房事象を検出するために使用される。一般に、心房活動に関連付けられた心臓感知信号が感知閾値と交差する場合、心房事象が存在すると想定される。本明細書では、例えば、植え込み型医療装置が心室、例えば患者の心臓の右心室に植え込まれていると仮定して、遠隔場の心房活動に関連する信号部分と近接場の心室活動に関連する信号部分とを区別するために、例えばウィンドウイング・スキームなどの処理方式を用いることができる。
【0012】
心房活動を確実に検出するためには、心房活動に関連する感知信号が変化する可能性があるため、固定の感知閾値では不十分な場合がある。本明細書において、心房事象が見落とされた場合、すなわち、1つ又は複数の心周期について、例えば、対応する感知信号の閾値交差が識別されないため、心房事象が検出されない場合、感知閾値は、心房事象が再捕捉されるように調節することができ、したがって、例えば、房室同期ペーシングという状況において、信頼性のある定常的な検出動作を可能にする。
【0013】
このため、本明細書では、感知閾値が動的に調整されるアプローチ、特に、いくつかの心周期において見落とされた心房事象を考慮した1つ又は複数の低減基準に基づいて低減されるアプローチを使用することが提案される。
【0014】
特に、低減基準が満たされているかどうかが評価され、低減基準は、Y1個の心周期のうちのX1個において、心房事象が検出されていない場合に満たされる。本明細書では、X1は、1以上の自然数である。Y1も、X1以上の自然数である。
【0015】
低減基準は、短期基準又は長期基準として定義されてもよい。
【0016】
短期基準内では、ごく最近の心周期において、心房事象が見落とされているかどうかがチェックされる。短期基準について、Y1は、例えば1~4の間の値、例えば2であってもよい。X1も、例えば、1~Y1の間の値を有していてもよい。例えば、低減基準内では、現在の心周期の直前の2つの心周期のうちの1つが見落とされているかどうか、又は、現在の心周期の直前の2つの心周期のうちの2つが見落とされているかどうかをチェックすることができる。
【0017】
長期基準内では、例えば、心周期の数の増加に伴い、かなりの数の心房事象が見落とされているかどうかがチェックすることができる。長期基準について、Y1は、例えば、4~16の間の値、例えば8であってもよい。X1も、例えば、3~Y1の間の値、例えば5であってもよい。長期基準内では、例えば、現在の心周期の直前の8つの心周期のうちの5つが見落とされているかどうかをチェックすることができる。
【0018】
低減基準の評価に基づいて、感知閾値が低減される。低減基準が満たされていることが判明した場合、感知閾値は、所定の方法で低減される。低減基準が満たされていない場合、感知閾値は、低減基準に基づいて低減されず、別の所定の方法で、例えば、心房事象について決定されたピーク振幅に基づいて適合され得る。感知閾値は大きすぎる値を事前に有することがあり、前の心周期において見落とされた心房事象をかなりの量生じさせるので、感知閾値を低減させることによって、その後の心周期のための心房事象を高い信頼性で検出することができることが確認され得る。したがって、各周期に基づいて感知閾値を動的に調整することによって、心房検出を改善することができ、心房事象の喪失を限定することができる。
【0019】
特に、センサ構成体は、本体上に配置された1つ又は複数の電極の電極構成体によって形成されてもよい。したがって、センサ構成体によって、電気信号を受信することができ、そのような電気信号は、心臓内電位図の記録を表し、したがって、心臓活動を示す。
【0020】
別の実施例では、センサ構成体は、圧力信号、音響信号、超音波信号、モーション信号、及び/又はインピーダンス信号の様態の心臓信号を感知するように構成されていてもよい。
【0021】
一実施例では、植込み型医療装置の本体は、植込み型医療装置の発電機に接続可能なリードによって形成することができる。この場合、発電機は、例えば、皮下で心臓から離れて患者の体内に植え込まれてもよく、リードは、センサ構成体が配置された本体が、心臓内、例えば右心室で組織と係合するために右心室内に配置されるように、発電機から心臓内まで延在する本体を形成する。
【0022】
別の実施例では、本体は、リードレス・ペースメーカ装置のハウジングによって形成することができる。この場合、植込み型医療装置は、リードレス装置として形成され、心臓内で刺激及び/又は感知を提供するために心臓の外側の位置から心臓内まで延在しているリードを含んでいない。リードレス・ペースメーカ装置のハウジングは、ハウジングによって形成された遠位端を有する組織上に配置されてもよく、センサ構成体は、例えば、遠位端上、又は遠位端の近傍で(少なくとも一部に)配置され、その遠位端を有する組織上にリードレス・ペースメーカ装置を配置するときに組織と係合する。
【0023】
植込み型医療装置がリードレス・ペースメーカ装置である場合、ハウジングは、植込み型医療装置のカプセル化を提供し、植込み型医療装置は、ハウジング内に、処理回路構成や、バッテリなどのエネルギー貯蔵部や、電気及び電子回路構成などの、自律運転のために必要なすべての構成部品を含む。植込み型医療装置を心臓組織内に植え込むことができ、長期の連続した心臓ペーシング動作を提供するために長期間にわたって心臓組織内に保持することができるように、ハウジングは液密になっている。
【0024】
一実施例では、処理回路構成は、現在の周期において前記低減基準が満たされていることが判明した場合、現在の周期における心房事象の検出のための感知閾値を低減させるように構成されており、低減基準は、現在の周期より前のY1個の心周期のうちのX1個において、心房事象が検出されていない場合に満たされる。したがって、現在の周期では、低減基準が現在の周期の(直)前の心周期について満たされているかどうかがチェックされる。本明細書では、現在の周期より前のY1個の心周期が調べられ、これらのY1個の心周期のうちのX1個において、心房事象が検出されていないかどうかがチェックされる。心房事象が検出されていない場合、低減基準は満たされ、感知閾値は適切に低減される。そうでない場合、低減基準は満たされず、感知閾値は、低減基準に関連付けられた所定の方法に従って低減されない。
【0025】
一実施例では、処理回路構成は、前記低減基準が満たされた場合に、低減係数によって感知閾値を低減させるように構成される。低減係数は、低減基準が満たされた場合に感知閾値を計算するために適用されるパーセント値であってもよい。低減係数は、例えば、5~10%の間、例えば6.25%のステップでプログラム化でき、0~100%の間の値をとることができる。
【0026】
低減係数は、例えば、平均閾値基準値に適用されてもよく、それに基づいて、感知閾値が一般的に設定される。或いは、低減係数は、予め有効な感知閾値に適用されてもよい。
【0027】
一実施例では、事前定義された低減係数によって感知閾値を低減させることに加えて、低減基準が2つ以上の連続した周期について満たされた場合、追加のステップ係数が適用されてもよい。一般に、低減係数は、現在の周期について低減基準が満たされた場合に適用される。少なくとも1つの後続の心周期について低減基準が再び満たされた場合に、追加のステップ係数が適用されてもよい。低減基準が次の心周期について再び満たされた場合、ステップ係数は再び適用されてもよく、その結果、ステップ係数は、複数の心周期について低減基準が満たされた場合、繰り返し適用されてもよい。
【0028】
ステップ係数は、パーセント値をとることもでき、プログラム化することもでき、例えば、5~10%の間、例えば6.25%のステップでプログラム化でき、0~100%の間の値をとることができる。
【0029】
追加のステップ係数は、例えば、予め有効な感知閾値に、特に低減係数の適用後の感知閾値に適用されてもよい。
【0030】
一実施例では、複数の低減基準が適用されてもよい。例えば、上述の低減基準に加えて、他の第2の低減基準が適用されてもよく、第2の低減基準について、Y2個の心周期のうちのX2個において、心房事象が検出されていないかどうかが評価される。本明細書では、X2はX1よりも大きい自然数であり、Y2はY1よりも大きい自然数である。
【0031】
X2及びY2は、X1及びY1よりも大きいので、第2の低減基準は、長期にわたって心周期内のかなりの数の心房事象が見落とされたかどうかをチェックするための長期基準である。Y1個の心周期のうちのX1個の心周期において、心房事象が見落とされているかどうかを評価する第1の低減基準は、この場合、最近のわずかな数の心周期において、かなりの数の心房事象が見落とされているかどうかを評価する短期基準であってもよい。
【0032】
第2の低減基準が満たされる場合、処理回路構成は、一実施例では、第2の低減基準に関連付けられた第2の低減係数によって感知閾値を低減させるように構成されてもよい。第2の低減係数は、一般に、第1の低減基準に関連付けられた第1の低減係数よりも大きく、例えば、5~10%の間、例えば6.25%のステップでプログラム化でき、0~100%の間の値をとることがきる。
【0033】
第2の低減係数は、例えば、平均閾値基準値に適用されてもよく、それに基づいて、感知閾値が一般的に設定される。或いは、第2の低減係数は、予め有効な感知閾値に適用されてもよい。
【0034】
一実施例では、第1の低減基準及び第2の低減基準の両方が満たされる場合、第2の低減基準のみが適用される。したがって、第2の低減基準は、第1の低減基準よりも優先され、その結果、両方の低減基準が満たされた場合、感知閾値は第2の低減係数によって低減される。
【0035】
一実施例では、事前定義された第2の低減係数によって感知閾値を低減させることに加えて、追加の第2のステップ係数は、第2の低減基準が2つ以上の連続した周期について満たされる場合に適用されてもよい。一般に、第2の低減係数は、現在の周期について、第2の低減基準が満たされた場合に適用される。後続の心周期又は複数の心周期について、第2の低減基準が再び満たされた場合、追加の第2のステップ係数が適用されてもよい。第2の低減基準が、次の心周期について再び満たされた場合、第2のステップ係数が再び適用されてもよく、その結果、第2のステップ係数は、複数の心周期について、第2の低減基準が満たされた場合に繰り返し適用されてもよい。
【0036】
第2のステップ係数はまた、パーセント値をとることができ、例えば、5~10%の間、例えば6.25%のステップでプログラム化でき、0~100%の間の値をとることがきる。
【0037】
追加のステップ係数は、例えば、予め適用された感知閾値の設定、特に、第2の低減係数の適用後の感知閾値に適用されてもよい。
【0038】
一実施例では、処理回路構成は、下限絶対閾値を超えて感知閾値を低減させないように構成される。したがって、感知閾値は、下限絶対閾値によって規定される下限に制限される。感知閾値が下限にある間、第1の低減基準及び/又は第2の低減基準が(繰り返し)満たされたとしても、感知閾値のさらなる低減は生じない。
【0039】
一実施例では、処理回路構成は、検出された有効な心房事象に関連付けられたピーク振幅を決定するように構成される。心房事象が検出された場合、心房事象について記録されたデータは、ピーク振幅を決定するために分析される。例えば、心房事象は、心臓感知信号が感知閾値と交差する時点として識別され、心房検出閾値としても表記される。感知閾値の交差から始めて、ピーク検出窓が開始され、ピーク検出窓内で最大の感知信号値が検索され、その後、これがピーク振幅とされる。
【0040】
感知閾値の交差は、(処理された)心臓感知信号の1つの値が心房検出閾値よりも大きい場合に見られる。遠隔場心房信号は、ノイズを含んでいるかもしれないので、別の実施例では、2つ以上のサンプルが感知閾値よりも大きい場合に、及び、大きい場合のみに、心房事象が存在すると想定することができ、これらの実例は、連続していてもよいし、連続していなくてもよい。
【0041】
ピーク振幅を使用して、処理回路構成は、その後の心房事象を検出するために感知閾値を更新するように構成されてもよい。特に、処理回路構成は、下記の式に従って、平均閾値基準とパーセント比率とを使用して、感知閾値を更新するように構成されてもよい。
ST=PC・ATR(t)
ここで、STは現在の感知閾値、PCはパーセント比率、ATR(t)は、周期tについての現在の平均閾値基準である。パーセント比率は、例えば、0%~100%の範囲にあってもよく、プログラム化することができる。
【0042】
平均閾値基準は、下記の式に従ってピーク振幅に基づいて計算及び更新され得る。
ATR(t)=W・PA(t-1)+(1-W)・ATR(t-1)
ここで、Wは、前のピーク振幅に基づいて平均閾値基準がどれくらい変化すべきかを決定する更新重み(update weight)を示し、PA(t-1)は、前の周期t-1について決定されたピーク振幅であり、ATR(t-1)は、前の平均閾値基準である。
【0043】
したがって、実際の周期tについて、平均閾値基準は、その周期について決定されたピーク振幅に基づいて決定され、周期t-1において予め有効な平均閾値に基づいて決定される。したがって、各周期について、平均閾値基準は更新され、新たに計算され、その結果、平均閾値基準は、各周期に基づいて動的に調整される。
【0044】
別の実施例では、平均閾値基準は、心房事象が検出された、事前定義された数の心周期、例えば、2~6の間の数の、例えば4つの心周期についてのピーク振幅の平均値として決定され得る。
【0045】
ピーク振幅は、(有効な)心房事象が検出された場合のみ決定される。心房事象が検出されない場合、ピーク振幅は決定されず、平均閾値基準は更新されない。この場合、周期は、見落とされた周期、すなわち、心房活動が感知されない周期としてカウントされる。
【0046】
一実施例では、処理回路構成は、センサ構成体を介して受信された信号から導出された第1の処理信号を処理するための第1の利得を有する第1の処理チャネルと、センサ構成体を介して受信された信号から導出された第2の処理信号を処理するための第2の利得を有する第2の処理チャネルとを備え、第2の利得は、第1の利得よりも高い。
【0047】
一般に、植込み型医療装置は、異なる処理信号を処理するように構成されてもよい。このような処理信号を得るために、センサ構成体が提供され、センサ構成体は、例えば、処理信号が導出される電気信号を受信するための1つ又は複数の電極を備える。本明細書における処理信号は、例えば、各々1つの電極対を使用してそれぞれ得ることができ、異なる処理信号を得るために、同じ電極対、又は異なる電極対が使用され得る。第1のケースでは、心臓内電位図などの単一の電気信号を得ることができ、そこから、異なる処理信号、すなわち第1の処理信号及び第2の処理信号が、別個の処理のために導出される。後者のケースでは、例えば、心室感知信号及び心房感知信号(すなわち、心房感知に最適化した感知を適用することによるもの)に関連する別個の電気信号を、そのような異なる電気信号から第1の処理信号及び第2の処理信号を導出するために受信することができ、異なる電気信号は、例えば、センサ構成体の異なる電極対を使用して受信される。
【0048】
一実施例では、異なる処理信号は、処理回路構成の異なる処理経路で処理される。このために、処理回路構成は、第1の処理信号を処理するための第1の処理チャネルを備え、第1の処理信号は、例えば、患者の心臓の心室内での植込み型医療装置の配置に応じて、第1の処理チャネルがかなり低い利得を呈し得るような大きさとなり得る、例えば、近接場(特に心室)感知信号に関連している。
【0049】
さらに、処理回路構成は、第2の処理信号を処理するための第2の処理チャネルを備え、この第2の処理信号は、例えば、心室内での植込み型医療装置の配置の場合に、植込み位置と信号の発生源との間の距離に応じて振幅が小さく成り得る遠隔場心房感知信号に関連し得る。第2の処理信号の確実な処理を可能にするために、第2の処理チャネルは、第1の処理チャネルの利得よりも高い利得を呈し、その結果、受信した信号内で心房活動に関連する特徴を適切に分析することができる。
【0050】
例えば、心室内での植込み型医療装置の配置のために、心房活動は遠隔場で生じるため、心房活動に由来するP波は、QRS波及びT波に対して小さい振幅を示し得るので、(例えば通常の心室のQRS感知チャネルから得られる)通常の心室感知信号内の心房事象は、判別するのが難しい場合がある。このため、遠隔場活動に関連する信号部分は、第2の処理チャネル内の近接場活動に関連する信号とは別個に処理されてもよく、その結果、第2の処理チャネル内で、遠隔場事象がより高い信頼性及び向上したタイミング精度で検出され得る。
【0051】
一態様では、植込み型医療装置は、右心室又は左心室内に、完全に又は部分的に配置されることになる。
【0052】
一態様では、センサ構成体は、電極構成体によって形成され、電極構成体は、本体の先端の近傍に配置された第1の電極を備える。第1の電極は、植込み型医療装置が植え込まれた状態では心臓組織上に載置されることになり、その結果、第1の電極は、心臓組織内に刺激信号を注入して、例えば、ペーシング動作、特に心室ペーシングを誘発するのに有効な位置で心臓組織に接触することになる。
【0053】
一態様では、電極構成体は、本体の周囲に円周方向に延在する電極リングによって形成された第2の電極を備える。或いは、第2の電極は、例えば、本体上に形成されたパッチ又は別の導電性領域によって形成されてもよい。第2の電極は、本体の先端部から少し離れて、したがって、先端部に配置された第1の電極から少し離れて配置される。
【0054】
一実施例では、処理回路構成は、前記第1の処理信号として、第1の電極と第2の電極との間で感知された第1の信号を処理するように構成される。このような第1の信号は、第1の電極及び第2の電極から成る電極対の間で受信されることになる近接場ベクトルとして表すことができる。第1の電極及び第2の電極は、一実施例では、互いにかなり近接して配置され得るので、そのような電極対は主として、植込み型医療装置にごく接近して、すなわち、植込み型医療装置が心室内に植え込まれる場合に心室内の近接場領域内で、信号を受信するのに適している。第1の電極と第2の電極との間で受信された感知信号は、例えば、信号における近接場(例えば心室)事象を検出するための処理を行うための、第1の処理チャネルに提供される。
【0055】
一実施例では、本体は、先端部から離れた遠隔位置(例えばリードレス・ペースメーカ装置のハウジングの遠端部)を備え、電極構成体は、遠隔位置で本体上に配置された第3の電極を備える。第3の電極は、処理回路構成に動作可能に接続され、その結果、処理回路構成は、第3の電極を介して受信された信号を受信及び処理することが可能になる。
【0056】
一態様では、処理回路構成は、前記第2の処理信号として、第1の電極と第3の電極との間で感知された第2の信号を処理するように構成されている。第1の電極と第3の電極との間で生じるこのような第2の信号ベクトルを遠隔場ベクトルと呼ぶことができ、第1の電極及び第3の電極は、互いに対して、第1及び第2の電極よりも大きい距離を呈する。第2の信号は、植込み型医療装置が心室に配置される場合に、特に、遠隔場における事象、すなわち心房収縮を検出するように処理することができ、その結果、ペーシング刺激を注入する前の内因的な心房活動を第2の信号によって捕捉することができる。
【0057】
ペースメーカ装置の植込みの心室の位置に刺激を心房収縮に続いて適時に注入することによって、房室同期をもたらすために、第1の電極と第3の電極との間で感知される第2の信号を使用して、内因的な心房収縮を感知することができる。第2の信号は、検出された心房事象に基づいてペーシング動作を提供し、これにより、房室(AV)同期下での心室ペーシングを可能にする目的で、信号を処理し、信号から心房事象を検出するために、第2の処理チャネルに提供される。
【0058】
一実施例では、第2の処理チャネルは、第2の処理信号において、ある波部分と別の波部分とを区別するための処理段を備える。処理段は、特に、第2の処理信号に、バンドパス・フィルタリングと、第2の信号の一部をさらなる処理から除外するためのブランキング窓と、移動平均フィルタリングと、整流とのうちの少なくとも1つを適用するように構成することができる。処理段によって、特に、このような波部分は、例えば、心房事象を示す可能性のある、処理される信号内で分離及び/又は強調されることになる。植込み型医療装置が患者の心臓の心室内に配置される場合、遠隔場心房活動に関連する信号部分は、近接場心室活動に関連する信号部分よりもはるかに小さい振幅を有し得る。したがって、この処理は、遠隔場心房活動に関連する信号を含み得るこのような信号部分を識別するために、異なる信号部分を区別する役割を果たす。
【0059】
心臓内電位図において、例えばP波を分離するために、バンドパス・フィルタリングが適用されてもよく、したがって、P波に関連する波部分と、心室活動に由来するQRS波及びT波に特に関連する波部分とを区別することができる。或いは、又はさらに、第2の処理信号の特定の部分、すなわち、遠隔場心房活動以外の事象に由来する信号を含むこのような部分を無効にするためにブランキング法が適用されてもよい。このために、ブランキング窓は、遠隔場活動の対象ではなく、むしろ遠隔場活動の検出に干渉し得る信号部分を静止させるように機能する。したがって、ブランキング窓によって、遠隔場心房活動に関連しない信号のそのような部分は、処理から除外され、その結果、遠隔場活動に関連する(可能性の高い)これらの信号部分に処理が限定される。或いは、又はさらに、移動平均フィルタリング、有限差分、又は信号の整流などの他の方法が適用されてもよい。本明細書では、移動平均フィルタは、処理信号を平滑化するために使用することができる。整流は、信号の大きさが事前定義された閾値を上回る時点を識別するために、処理された信号を(単一の)閾値と容易に比較する役割を果たすことができる。
【0060】
一実施例では、第1の処理チャネルは、第1の信号における少なくとも1つの近接場事象を検出するための第1の検出段を備える。本明細書では、第2の処理チャネルの処理段は、第1の処理チャネルの第1の検出段によって検出された近接場(例えば心室)事象に基づいて、第2の信号の一部をさらなる処理から除外するためのブランキング窓の少なくとも1つの限度値を決定するように構成することができる。第1の処理チャネルは、近接場事象、すなわち、植え込まれた植込み型医療装置に密に近接した、例えば、植込み型医療装置が中に植え込まれた心室における活動に起因する事象を検出するために、処理信号をより低い利得で処理する役割を果たす。近接場事象はまた、第2の処理信号内でピック・アップされるので、近接場活動に関連するこのような信号部分、すなわち、心室内に植込み型医療装置を配置した場合のQRS波及びT波を無効にするのが有利である。ブランキング窓を正確に配置するために、例えば、心房事象と心室事象との間の一定のタイミングを判定するために、検出された近接場事象を考慮してもよい。検出された近接場事象から、遠隔場事象後に近接場事象がどの時間範囲で典型的に発生するかを判定することができ、その結果、開始時刻及び終了時刻によって規定されるブランキング窓は、近接場心室事象に関連する第2の処理信号のこのような部分を無効にするために適切に設定され得る。
【0061】
例えば、第2の高利得処理チャネル内の電力を節減するために、ブランキング窓の間、第2の処理チャネルは、少なくとも部分的にスイッチが切られてもよい。第2の処理チャネルは、例えば、第2の処理信号を増幅するための増幅段を備えていてもよく、増幅段は、ブランキング窓の時間間隔の間の増幅によって電力が消費されないように、ブランキング窓の期間中、スイッチが切られてもよい。
【0062】
遠隔場心房事象の検出は、ブランキング窓の外側の検出窓において行われる。本明細書では、検出窓は、前のブランキング窓の終了時に(直ちに)開始されてもよく、次のブランキング窓の開始時に終了してもよい。しかしながら、検出窓は、例えば、前のブランキング窓の終了後にいくらか時間遅延して開始されることも考えられる。ブランキング窓の終了と検出窓の開始との合間に、第2の処理チャネルが完全に機能できる状態であってもよく、関連付けられた第2の処理信号を処理してもよいが、遠隔場(心房)事象の検出は、検出窓の開始まで行われない。
【0063】
一実施例では、第2の処理チャネルは、第2の処理信号内における心房事象を検出するための第2の検出段を備える。第2の検出段は、第2の処理チャネルの処理段よりも論理的に後ろに配置することができ、その結果、第2の検出段は、第2の処理チャネルの処理段から処理された信号を受信する。本明細書における第2の検出段は、検出された心房事象のタイミングに関連する情報を出力するために、第2の処理信号において遠隔場心房事象を識別する役割を果たす。
【0064】
第2の処理チャネルの第2の検出段は、特に、第2の処理信号を感知閾値と比較することによって心房事象を検出するように構成され得る。第2の処理信号の大きさが感知閾値を上回る場合、遠隔場心房事象が存在すると結論付けることができる。本明細書における処理は、整流された信号に対して行われてもよく、これにより、整流された信号と比較され得る単一の閾値の適用が可能になる。しかしながら、例えば2つの閾値、すなわち正の閾値及び負の閾値を適用することによって、整流されていない信号において遠隔場心房事象を識別することも可能であり、正の信号部分が正の閾値を上回る場合、及び/又は負の信号部分(の大きさ)が負の閾値を上回る場合に、遠隔場心房事象が識別される。
【0065】
別の態様では、心臓内機能を提供するための植込み型医療装置を動作させるための方法は、植込み型医療装置の本体上に配置されたセンサ構成体を使用して、心臓感知信号を受信することと、センサ構成体を使用して受信された心臓感知信号を、センサ構成体に動作可能に接続された処理回路構成を使用して処理して、いくつかの心周期について、心臓感知信号と感知閾値との比較に基づいて、心房活動によって生じる心房事象を検出し、Y1個の心周期のうちのX1個において心房事象が検出されていない場合に低減基準が満たされ、X1が1以上の自然数であり、Y1がX1以上の自然数であるときに、低減基準が満たされているかどうかを評価し、低減基準が満たされた場合に、感知閾値を低減させることとを備える。
【0066】
装置のために上述した利点及び有利な実施例は、上記に言及されるような方法にも同様に適用することができる。
【0067】
本発明の様々な特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び図面に示される実施例を参照して、より容易に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】植込み型装置がリードレス・ペースメーカ装置の形状で中に埋め込まれた状態のヒトの心臓の概略図である。
【
図3】植込み型医療装置の異なる電極間の信号ベクトルを示す、植込み型医療装置の概略図である。
【
図4】植込み型医療装置の一実施例の処理回路構成の概略図である。
【
図5A】処理回路構成の第1の処理チャネルによって処理された心臓内電位図(IEGM:intracardiac electrogram)の形状の第1の処理信号を示す図である。
【
図5B】処理回路構成の第2の処理チャネルによって処理された第2の処理信号を示す図である。
【
図6】ピーク振幅及び低減基準に基づいていくつかの心周期にわたって適合された感知閾値の一実例を示す図である。
【
図7】複数の心周期及び1つの低減基準の評価の概略図である。
【
図8】概略図で、複数の心周期及び2つの低減基準の評価の一実例を示す図である。
【
図9】リードを有する心臓内刺激装置の形状の植込み型医療装置が右心室内に植え込まれた、ヒトの心臓の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
続いて、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。図面においては、類似の参照番号は類似の構成要素を指し示す。
【0070】
実施例は、本発明を限定するものではなく、単に例示的な実例を表しているに過ぎないことに留意されたい。
【0071】
本発明では、心臓内機能、特に心室ペーシング、具体的にはいわゆるVDDペーシングを提供する植込み型医療装置を提供することが提案される。
【0072】
図1は、右心房RA(RA:right atrium)、右心室RV(RV:right ventricle)、左心房LA(LA:left atrium)、左心室LV(LV:left ventricle)を備えるヒトの心臓を概略図で示しており、右心房RAの壁にいわゆる洞房結節SAN(SAN:sinoatrial node)が位置しており、洞房結節SANは、心臓の電気伝導系を通って進み、その結果心臓を介して血液を送り出すために心臓を収縮させる電気インパルスを自発的に生成する能力を有する細胞群によって形成されている。房室結節AVN(AVN:atrioventricular node)は、心房と心室との間の電気伝導を調節する役割を果たし、冠状静脈洞の開口部付近の心房中隔の下部背面に位置している。房室結節AVNからは、いわゆるヒス束H(H:HIS bundle)が延びており、このヒス束Hは、電気伝導に特化した心筋細胞から成り、右心室RVの周囲のいわゆる右脚RBB(RBB:right bundle branch)を介して、及び、左心室LVの周囲の左脚LBB(LBB:left bundle branch)を介して、房室結節AVNからの電気インパルスを伝達するための電気伝導系の一部を形成する。
【0073】
房室結節AVNでのブロックの場合、心臓H(H:heart)の内因的な電気伝導系が破壊されることがあり、これにより心室活動の内因的な刺激が不十分になる可能性がある、すなわち、右心室RV及び/又は左心室LVの収縮が不十分又は不規則となる。このような場合、ペースメーカ装置による心室活動のペーシングが適用されてもよく、このようなペースメーカ装置は、心臓内組織、具体的には心筋M(M:myocardium)内に刺激エネルギーを注入することによって、心室活動を刺激する。
【0074】
一実施例では、
図1に概略的に示すように、リードレス心臓ペースメーカ装置の形状の植込み型医療装置1は、心室ペーシング動作のために提供され、リードレス・ペースメーカ装置は、リードレス・ペースメーカ装置のハウジングによって形成される本体10を有する。
【0075】
別の実施例では、
図9に示すように、植込み型医療装置1は、発電機18と、植込み型医療装置1の本体10を形成し、発電機18から患者の静脈経由で心臓内へと延びる少なくとも1本のリードとを有する刺激装置であってもよい。
【0076】
一般的な植込み型医療装置は、それらが中に配置されている心室RV、LVから電気信号を受信することによって心室活動を感知するように設計されているが、内因的な心房活動と同期したペーシングを心室において提供することによって、房室(AV)同期を実現するペーシング動作を提供するのが望ましい場合がある。VDDペーシング・モードとも表されるこのようなペーシング・モードについて、心室ペーシングを心房事象に基づいて行うために、心房活動を感知し、心房収縮に関連するこのような心房事象を識別することが必要である。
【0077】
ここで
図2及び
図3を参照すると、一実施例では、心臓内ペーシングを、特にVDDペーシング・モードで提供するように構成されているリードレス・ペースメーカ装置の形状の植込み型医療装置1は、植込み型医療装置1を動作させるための電気及び電子構成要素を封入したハウジング10を備える。特に、ハウジング10内には、例えば、プログラマ・ワンドなどの外部装置と通信するための通信インターフェースも備える、処理回路構成15が封入されている。さらに、ハウジング10内には、バッテリの形状のエネルギー貯蔵部などの電気及び電子構成要素が閉じ込められている。ハウジング10は、内部に受容された構成要素をカプセル化し、ハウジング10は、例えば数センチメートルの長さを有する、例えば円筒形シャフトの形状を有する。
【0078】
植込み型医療装置1は、心臓内組織Mに直に植え込まれることになる。このために、植込み型医療装置1は、心臓内組織Mと係合して、植込み型医療装置1を植え込まれた状態で組織上に固定的に保持するために、先端部100の領域内に、例えばニチノール製ワイヤの形状の固定装置14を備える。
【0079】
図2及び
図3の実施例における植込み型医療装置1は、リードを備えていないが、ハウジング10上に配置されている電極構成体によって心臓活動に関連する信号を受信し、このような電極構成体によって刺激信号の発出も行う。
図2及び
図3の実施例では、植込み型医療装置1は、異なる電極11、12、13を備えており、それらは、電極構成体を構成し、ペーシングを提供するためのペーシング信号を心臓内組織Mに向けて発出する、並びに、心臓内活動を示す、特に心房及び心室収縮を示す電気信号を感知する役割を果たす。
【0080】
本明細書では、第1の電極11は、ペーシング電極として表されている。第1の電極11は、ハウジング10の先端部100に配置され、心臓内組織Mと係合するように構成されている。
【0081】
本明細書では、第2の電極12は、ペーシング・リングとして表されている。第2の電極12は、第1の電極11に対するカウンター電極の役割を果たし、第1の電極11と第2の電極12との間で生じる信号ベクトルPは、心臓内組織Mに向かってペーシング信号を発出するためのペーシング・ベクトルP(P:pacing vector)を提供する。
【0082】
さらに、第2の電極12は、特に心室収縮に関連する信号を感知するための感知電極の役割を果たし、第2の電極12と第1の電極11との間で信号ベクトルVが生じ、信号ベクトルVは、近接場ベクトルとして表される。
【0083】
第2の電極12は、第1の電極11から少し離れて配置され、例えば、ハウジング10の周囲を円周方向に延在するリングの形状を有する。第2の電極12は、例えば、第1の電極11が配置されているハウジング10の先端部100から約1cmの距離に配置される。
【0084】
植込み型医療装置1は、
図2及び
図3の実施例では、ハウジング10の遠端部101に配置された第3の電極13をさらに備え、第3の電極13は、遠隔場における心臓活動を示す信号を感知するための感知電極の役割を果たす。特に、信号ベクトルAは、第3の電極13と第1の電極11との間で生じ、信号ベクトルAは、例えば、心房収縮を示す信号をピック・アップし、遠隔場ベクトルとして表される。
【0085】
電極11、12、13は、処理回路構成15と動作可能に接続しており、処理回路構成15は、第1の電極11及び第2の電極12が、心室で刺激を提供するためのペーシング信号を発出するように構成されている。処理回路構成15は、さらに、電極11、12、13を介して受信された信号を処理して心臓活動、特に心房及び心室収縮を感知するように構成されている。
【0086】
植込み型医療装置1が、
図9の実施例に示すように、発電機18と、発電機18から延在するリードとを備えている場合、例えば3つの電極11、12、13を備える同様の電極構成体は、
図9に示すように、右心室RV内に植え込まれて延在するリード上に配置され、その結果、上記電極構成体も、患者の心臓内に延在するリードを有する植込み型医療装置1の一実施例を適用する。この場合、処理回路構成15は、発電機18の一部であってもよく、リード上に配置された電極構成体に動作可能に接続されていてもよい。
【0087】
中に植込み型医療装置1が配置された心室においてペーシングを提供するために、特にVDDモードでのペーシングを可能にするために、心房活動の感知は、房室(AV)同期を得るように心室におけるペーシングを時間設定するために、検出された心房感知マーカを提供するために必要とされる。このため、特に右心房RA(
図1及び
図9を参照)からの遠隔場信号は、右心室RVにおける心臓内組織M上に植え込まれている植込み型医療装置1によって、右心室RVにおける同期ペーシングを可能にするために感知される。
【0088】
ここで
図4を参照すると、処理回路構成15は、一実施例では、心室活動及び心房活動に関連する異なる処理信号を処理するための2つの処理チャネル16、17を備える。本明細書において、通常、心臓内電位図(IEGM)は、心室活動(特にQRS波)と、心房活動(特にP波)に関連する信号部分とを含むが、心房活動に関連する信号部分は、遠隔場信号源から生じ、したがって、近接場における、すなわち、植え込まれた植込み型医療装置1のごく近くで生じる心室活動に関連する信号部分よりもはるかに目立たず、且つ、はるかに小さい振幅を有する。このため、2つの処理チャネル16、17は、異なる利得G1、G2と関連付けられており、第1の処理チャネル16は、かなり低い利得G1で心室事象を識別するように第1の処理信号を処理する役割を果たし、第2の処理チャネル17は、大幅に高い利得G2で心房事象を識別するように第2の処理信号を処理するように構成されている。
【0089】
特に、第1の処理チャネル16は、電極11、12、13から成る電極構成体に接続されており、第1の処理チャネル16は、電極11、12を介して受信された信号(
図2及び
図3では近接場ベクトルV)を特に感知及び処理するように構成される。第1の処理チャネル16は、利得G1を有する第1の増幅段161と、増幅段161に続いて、第1の処理チャネル16内で処理された第1の処理信号から心室感知マーカVxを識別するように構成される検出段162とを備える。
【0090】
第2の処理チャネル17は、電極11、12、13から成る電極構成体に同様に接続されており、第2の処理チャネル17は、特に、
図2及び
図3に示すように、遠隔場ベクトルAを介して、すなわち、ハウジング10の先端部100及び遠端部101に配置された電極11、13の間で感知された信号を処理するように構成されてもよい。第2の処理チャネル17は、第2の利得G2を有する第2の増幅段171を備え、第2の増幅段171には、処理段172及び第2の検出段173が続いている。
【0091】
処理段172は、増幅後の第2の処理信号を事前処理する役割を果たす。次いで、検出段173は、第2の処理信号内の心房事象を識別するために、処理された信号を評価及び分析する役割を果たし、その後、第2の処理チャネル17は、処理された信号において検出された心房事象を示す心房感知マーカAsを出力する。
【0092】
さらに、処理回路構成15は、第1の処理チャネル16及び第2の処理チャネル17から受信したタイミング情報を使用して、ペーシング・タイミング、特に房室同期ペーシングを実現するためのVDDタイミングを提供するタイミング段174を備える。
【0093】
心房事象を識別及び分析するために、第2の処理チャネル17の利得G2は、第1の処理チャネル16の利得G1よりも(大幅に)高い。これによって、一般に、心房事象に関連する信号部分を分析することが可能になるが、心房事象に関連するこのような信号部分を、他の信号部分、特に近接場における心室事象に関連して、したがって、遠隔場における心房事象に由来する信号部分よりもはるかに強い信号部分から判別することが必要になる。
【0094】
処理段172内では、例えば、バンドパス・フィルタリングと、ウィンドウイング(例えば部分的ブランキング)と、移動平均フィルタリングによる平滑化と、整流とが行われ得る。P波欠損を増強させながら、非ゼロ・ベースラインを除去するために、一次又は二次差分を適用してもよい。
【0095】
図5A及び
図5Bは、異なる処理チャネル16、17で処理される信号S1、S2の実例を示しており、上部の
図5Aは、第1の処理チャネル16によって処理される信号S1を示し、下部の
図5Bは、第2の処理チャネル17によって処理される信号S2を示す。処理の結果、心室事象Vx及び心房事象Asは識別され、対応するマーカが出力される。
【0096】
図5Bから明らかなように、心房事象Asの感知は、心室活動に潜在的に関連する可能性のある信号S2の信号部分を無効にするためのブランキング窓T
blankを特に採用するウィンドウイング・スキームを使用する。
【0097】
特に、第1の処理チャネル16内の心室事象Vxの検出によって、心房事象Asと心室事象Vxとの間のタイミングが判定され得る。このようなタイミングに従って、ブランキング窓Tblankの開始点及び終了点を設定することができ、したがって、心房活動に関連しない信号部分を処理から除外することができる。心室活動に関連する信号部分が心房事象の検出に干渉できないように、強力な心室信号をこのようにして抑制することができる。
【0098】
ブランキング窓Tblankの間、第2の処理チャネル17は、オフにすることができる。特に、第2の処理チャネル17の増幅段171は、電力を節約するために、スイッチを切ってもよい。
【0099】
一般に、心房事象の検出は、ブランキング窓T
blankの外で行われる。本明細書では、心房事象を検出するための検出窓T
senseは、前のブランキング窓T
blankの終了時に開始されてもよい。或いは、検出窓T
senseは、
図5Bの実施例に示すように、前のブランキング窓T
blankの終わりに対して遅延する可能性があり、その結果、第2の処理チャネル17内での信号処理は、前のブランキング窓T
blankの終了時に開始されるが、心房事象の検出は、特定の遅延の後にのみ開始される。
【0100】
一般に、感知窓T
senseにおいて、
図5Bに示すように、信号S2が感知閾値ST(ST:sense threshold)と交差する場合に、心房事象Asが存在すると想定される。感知信号S2の整流に基づいて、比較が行われてもよい。或いは、正及び負の感知閾値STが使用されてもよく、それらは同じ値を有していてもよく、又は、それらの値は異なっていてもよい。本明細書では、閾値交差は、1つの信号値が感知閾値STよりも大きい場合に想定することができる。或いは、事前定義された数の信号値が、感知閾値ST、例えば、2つ以上の連続したサンプル値よりも大きい場合、感知閾値STの交差が想定される。
【0101】
一般に、心房事象Asが検出される場合、
図5Bの第2の心周期の場合と同様に、心房事象Asは、特に、感知閾値STを更新するため、及び、房室同期ペーシングを実現するために、さらなる処理用に使用される。
【0102】
特に、心房事象Asは、感知閾値STの交差が識別された時点としてみなされる。心房事象Asの時点で、ピーク検出窓PDW(PDW:peak detection window)は開始され、そのピーク検出窓PDWの間に記録されたデータに基づいて、ピーク振幅PA(PA:peak amplitude)は、ピーク検出窓PDW内の最大信号値として決定される。これは、第2の周期について
図5Bで右に示されている。
【0103】
また、心房事象Asの検出の場合、房室遅延AVD(AVD:atrial-ventricular delay)が判定され、その後の処理に使用されてもよい。房室遅延AVDの経過後に心室事象Vxが検出されない場合、心室刺激を引き起こすためにペーシング信号を注入することができる。
【0104】
ピーク振幅PAは、一実施例では、感知閾値STを更新するために使用されてもよい。特に、処理回路構成15は、下記の式に従って、平均閾値基準とパーセント比率とを使用して、感知閾値STを更新するように構成されてもよい。
ST=PC・ATR(t)
ここで、STは現在の感知閾値、PCはパーセント比率、ATR(t)は、現在の周期tについての平均閾値基準である。パーセント比率は、例えば、0%~100%の範囲にあってもよい。
【0105】
平均閾値基準は、いくつかの前の心周期の平均値に基づいて決定することができ、その心周期において、心房事象が識別され、対応するピーク振幅値が得られる。この場合の平均閾値基準は、例えば、前の心周期におけるピーク振幅値の平均値として決定され得る。
【0106】
別の実施例では、平均閾値基準は、下記の式に従ってピーク振幅PAに基づいて計算され得る。
ATR(t)=W・PA(t-1)+(1-W)・ATR(t-1)
ここで、Wは、前のピーク振幅に基づいて平均閾値基準がどれくらい変化すべきかを決定する更新重みを示し、PA(t-1)は、前の周期t-1について決定されたピーク振幅であり、ATR(t-1)は、前の平均閾値基準である。
【0107】
したがって、実際の周期tについて、平均閾値基準は、その周期tについて決定されたピーク振幅に基づいて決定され、周期t-1において予め有効な平均閾値に基づいて決定される。したがって、心房事象Asが検出される各周期について、平均閾値基準は、更新及び新たに計算され、その結果、平均閾値基準は、各周期に基づいて動的に調整される。
【0108】
(有効な)心房事象が検出されない場合、ピーク振幅PAは決定されず、平均閾値基準ATRは更新されない。このようにして、心房事象Asの誤検出が、感知閾値STの偽増加及びその後の心房活動の捕捉喪失を引き起こし得ることが回避される。これは、
図5A及び
図5Bに示すような第1の心周期の場合であり、感知閾値STの交差は検出されず、それに対応して心房事象は識別されない。
【0109】
感知閾値STは、一般に、前の心周期において検出された心房事象Asのピーク振幅値PAに基づいて設定される。それに対応して、前の心周期のピーク振幅値に応じて、感知閾値STを動的に上昇又は低下させることができる。
【0110】
しかしながら、これは心房事象Asが検出された場合にのみ適用される。心房事象Asが心周期で検出されない場合、ピーク振幅PAは決定されず、上記方式スキームに基づく感知閾値の動的な調整は行われない。しかしながら、心房事象Asを確実に検出し、心房事象Asを可能な限り多くの周期で得るために心房事象Asの安定した確実な捕捉を得たいという一般的な要望があるので、かなりの数の心房信号の見落としがある場合に、心房活動に関連する信号の再捕捉をするために対策が講じられるべきである。心周期における1つ又は複数の心房事象Asの見落としは、感知閾値STが高すぎることを示し、したがって、心房活動を再捕捉するために低下させるべきであることを示し得る。
【0111】
このため、1つ又は複数の低減基準に基づいて、かなりの数の心房事象Asが心周期について見落とされていることが判明した場合、段階的な減衰手順において感知閾値STを動的に調整することが提案される。これらの低減基準は、「Y個のうちのX個という基準」として定式化される。Y個の心周期のうちのX個において心房事象Asが検出されない場合、低減基準は、それに対応して満たされる。
【0112】
本明細書における低減基準は、短期基準及び長期基準を含むことができる。
【0113】
短期基準では、例えば、Y1個の心周期のうちのX1個において、心房事象Asが検出されていないかどうかを評価することができる。この場合、短期基準は真であると想定され、感知閾値STは適切な方法で調整される。本明細書におけるX1及びY1は自然数であり、ここで、X1は0よりも大きく、Y1はX1以上である。本明細書の短期基準内では、ごく最近の心周期において、かなりの数の心房事象Asが見落とされているかどうかがチェックされる。Y1は、それに対応して、例えば、1~4の間の値をとることができ、X1は、1~Y1の間の値と想定することができる。
【0114】
例えば、Y1は2に等しくてもよく、Xは1又は2に等しくてもよい。したがって、2つの以前の心周期のうちの1つにおいて、心房事象が見落とされているかどうか、又は、2つの以前の心周期のうちの2つが見落とされているかどうかがチェックされる。
【0115】
長期基準では、例えば、Y2個の心周期のうちのX2個において、心房事象Asが検出されていないかどうかを評価することができる。この場合、長期基準は、真であると想定され、感知閾値STは適切な方法で調整される。X2及びY2は自然数であり、ここで、Y2はY1よりも大きく、例えば、4~16の間の値を有することができ、X2はX1よりも大きく、Y2以下であり、例えば、3~15の間の値を有することができる。
【0116】
例えば、Y2は8に等しくてもよく、X2は5に等しくてもよい。したがって、8つの以前の心周期のうちの5つにおいて、心房事象Asが見落とされているかどうかがチェックされる。
【0117】
短期低減基準に対応する第1の低減基準が満たされる場合、第1の低減係数が適用されてもよい。或いは、又はさらに、長期低減基準に対応する第2の低減基準が満たされる場合、第2の低減係数が適用されてもよく、第2の低減係数は、第1の低減係数よりも強い低減を引き起こすことができる。
【0118】
本明細書において、一実施例では、第2の低減基準が満たされる場合、第2の低減係数のみが適用される。
【0119】
第1の低減係数及び第2の低減係数は、両方ともパーセント値であってもよい。低減係数は、例えば5~10%の間、例えば6.25%のステップでプログラム化できる。各低減係数は、0~100%の値をとることができ、第2の低減係数は、一般に第1の低減係数よりも強い低減を引き起こすことができる。
【0120】
各低減係数は、各低減基準が現在の心周期について満たされる場合に適用される。さらに、複数の連続した心周期について、各低減基準が繰り返し満たされた場合、低減係数に加えて、追加のステップ係数が、感知閾値をさらに低減するように適用され得る。
【0121】
【0122】
一般に、低減基準が満たされない場合、感知閾値STは、事前定義された通常のパーセント比率PC(PC:percentage ratio)を適用することによって、(前の心周期のピーク振幅値PAに基づいて計算された)平均閾値基準ATR(ATR:average threshold reference)に基づいて計算され、パーセント比率は、例えば、40%~100%の間、例えば80%の値を有する。パーセント比率PCは係数として適用され、したがって、感知閾値STは、PC×ATRの値をとる。
【0123】
心周期iでは、例えば短期低減基準に対応する第1の低減基準が満たされていることが判明した場合、感知閾値STは、第1の低減係数L1によって低減される。第1の低減係数L1は、例えば、有効な平均閾値基準ATRに適用され、その結果、感知閾値STは例えば、L1×平均閾値基準ATRの現在の値として計算される。
【0124】
事前定義された数の複数の連続した周期において、第1の低減基準が満たされる場合、追加の段階的な減衰は、現在有効な感知閾値STにステップ係数L11を掛けることによって適用することができ、ステップ係数L11は、
図6に示すように、繰り返し適用することができる。ステップ係数L11は、2つの連続した周期において、低減基準が満たされる場合に適用することができる。ステップ係数L11は、
図6の周期i+aに示すように、2以上の連続した周期において、低減基準が満たされる場合にのみ、代替的に適用することができる。
【0125】
心周期i+bにおいて、心房事象が検出され、第1の低減基準がもはや満たされない場合、平均閾値基準ATRは、現在決定されたピーク振幅PAに従って調整され、ステップ係数L11を元に戻すことによって、及び、平均閾値基準ATRに低減係数L1を適用することのみによって、感知閾値STが決定される。
【0126】
周期i+cにおいて、再び、事前定義された数の連続した周期について第1の低減基準が満たされることが判明した場合、ステップ係数L11は、感知閾値STを低減させるために再び適用される。
【0127】
心周期i+dにおいて、(潜在的に、第1の低減基準に加えて)第2の低減基準も満たされ、その場合、第2の低減基準に関連付けられた低減係数L2は、感知閾値STを計算するために適用される。第2の低減係数L2によって、
図6から明らかなように、感知閾値STの低減が強調される。
【0128】
心周期i+eにおいて、事前定義された数の連続した周期について第2の低減基準が満たされることが判明し、その結果、第2の低減基準に関連付けられた追加のステップ係数L21が、感知閾値STをさらに低減させるために適用される。
【0129】
本明細書では、
図6から明らかなように、感知閾値STは、下限絶対閾値LAT(LAT:lower absolute threshold)を超えて低減させることはできず、下限絶対閾値は、感知閾値STの下限として機能し、したがって、感知閾値STの絶対最小値を表す。
【0130】
心周期i+fにおいて、心房事象が検出され、それに対応して、平均閾値基準ATRが調整され、ステップ係数L21が元に戻され、その結果、感知閾値STは、第2の低減基準に関連付けられた低減係数L2のみを絶対閾値基準ATRに適用することによって決定される。
【0131】
心周期i+gにおいて、第2の低減基準がもはや真ではなく、心房事象が検出され、それに対応して、平均閾値基準ATRが増加し、感知閾値STが、第1の低減基準に関連付けられた低減係数L1のみを適用することによって計算される。
【0132】
心周期i+hにおいて、第1の低減基準ももはや満たされず、心房事象が検出され、それに対応して、平均閾値基準ATRが調整され、感知閾値STが、通常動作を示すパーセント比率PCのみを適用することによって計算される。
【0133】
図7は、Y個のうちのX個という基準として定式化された単一の低減基準に基づく感知閾値STの調整の一実例を示し、X及びYは2に等しい。したがって、2つの心周期のうちの2つにおいて、心房事象Asが検出されていないかどうかが評価される。
【0134】
図7に示す実例では(及び
図8の実例でも同様に)、1列目において、心周期が番号付けされている。2列目には、検出された心房事象As及び心室事象Vxが示されている。心房事象Asが検出されない場合、これは、×印で示される。また、検出が行われた場合、現在の周期において測定されたP波についてのピーク振幅値(PA)が示される。
【0135】
図示の実例では、低減基準は、心周期i~i+3において満たされていない。しかしながら、心周期i+4では、現在及び前の心周期において心房事象が検出されなかったことが判明し、それに対応して、「2つのうちの2つ」の低減基準が満たされる。したがって、第1の低減基準に関連する低減係数L1が適用され、感知閾値STが、現在有効な平均閾値基準値ATR(7.5)に低減係数L1(0.45)を掛けることによって計算される。したがって、周期i+5についての閾値STは、3.4の値をとる。
【0136】
次に続く心周期i+5、i+6では、低減基準は満たされず、したがって、感知閾値STは、通常のパーセント比率PC(0.8)に基づいて再び計算される。しかしながら、心周期i+7では、低減基準は再び満たされ、低減係数L1が、次の周期i+8についての感知閾値STを計算するために適用される。
【0137】
図示の一実例では、平均閾値基準ATRは、ATR(i+1)=W*PA(i)+(1-W)*ATR(i)として計算され、ここで、更新重みWは0.5である。
【0138】
図8に示す別の実例では、2つの低減基準が適用される。第1の基準は、短期基準であり、2つの心周期のうちの1つにおいて、心房事象Asが検出される場合に満たされる(
図8の6列目)。第2の低減基準は、長期基準であり、8つのうちの5つの心周期において、心房事象Asが検出されていない場合に満たされる(
図8の7列目)。
【0139】
図8の実例では、低減基準は、心周期i~i+2において満たされておらず、それに対応して、感知閾値STは、通常のパーセント比率PC(0.8)を適用することによって計算される。第1の低減基準は、心周期i+3及びi+4において満たされ、それに対応して、第1の低減基準に関連する低減係数L1(0.6)が感知閾値STを計算するために適用される。心周期i+5では、再び、低減基準は満たされておらず、したがって、通常のパーセント比率PCが適用される。心周期i+6~i+8では、第1の低減基準は満たされ、それに対応して、第1の低減係数L1は、感知閾値STを計算するために適用される。次いで、心周期i+9では、第2の低減基準も満たされ、第2の低減基準に対応する低減係数L2(0.4)は、感知閾値STを計算するために適用される。第2の低減基準はまた、心周期i+10において満たされるのに対し、心周期i+11において、再び低減基準は満たされない。
【0140】
見落とされた心房事象Asの場合に、感知閾値STを段階的に低減させるために、段階的な減衰方式で感知閾値STを調整することによって、特に、かなりの数の心周期において、心房事象が検出されていない場合には、感知閾値STを適切に低減させることによって、確実な心房捕捉を得ることができる。
【0141】
第2の処理チャネル17によって出力される心房感知マーカAsを使用して、心室同期ペーシングは実現され得る。このために、検出された心房感知マーカAsに続いて、心房感知マーカAsの後に事前定義された時間遅延窓内で、(第1の処理チャネル16によって出力される)内因的な心室感知マーカVxが生じるかどうかを検出することができ、この場合、刺激は必要とされない。心室感知マーカVxが検出されない場合、刺激パルスを発出して、心室における同期ペーシングを引き起こすことができる。
【0142】
逆に、非同期ペーシングを実行することもできる。
【0143】
植込み型医療装置によって受信された遠隔場電気信号を利用して、遠隔場事象、特に、植込み型医療装置が心室内に植え込まれる場合の心房事象の優れた検出を提供することができる。電気信号を使用すること及び評価することによる遠隔場事象のトラッキングによって、特に、姿勢及び患者活動などの外的要因に対する、一貫性及び信頼性の向上が可能になり得る。
【符号の説明】
【0144】
1 植込み型医療装置(リードレス・ペースメーカ装置)
10 本体(ハウジング)
100 先端部
101 遠端部
11 第1の電極(ペーシング電極)
12 第2の電極(ペーシング・リング)
13 第3の電極
14 固定装置
15 処理回路構成
16 第1の処理チャネル
161 増幅段
162 検出段
17 第2の処理チャネル
171 増幅段
172 処理段
173 検出段
174 タイミング段
18 発電機
A 心房ベクトル
As 心房事象
AVD 房室遅延
AVN 房室結節
G1、G2 利得
H ヒス束
i 心周期
L1、L2 低減係数(%)
L11、L21 ステップ係数(%)
LA 左心房
LAT 下限絶対閾値
LBB 左脚
LV 左心室
M 心臓内組織(心筋)
P ペーシング・ベクトル
PA ピーク振幅
PDW ピーク検出窓
RA 右心房
RBB 右脚
RV 右心室
S1、S2 信号
SAN 洞房結節
ST 感知閾値
Tblank ブランキング窓
Tsense 検出窓
V 心室ベクトル
Vx 心室事象
【国際調査報告】