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特表2024-505853リルゾールと竜脳とを含有する組成物の脳血管治療薬の調製への応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】リルゾールと竜脳とを含有する組成物の脳血管治療薬の調製への応用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/045 20060101AFI20240201BHJP
   A61K 31/428 20060101ALI20240201BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240201BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 36/54 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61K31/045
A61K31/428
A61P9/10
A61P9/00
A61P43/00 121
A61K36/54
A61K36/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544426
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 CN2022073909
(87)【国際公開番号】W WO2022166695
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】202110141522.3
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523266350
【氏名又は名称】ニューロドーン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チェンピン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、レイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ロン
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC84
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZC75
4C088AB26
4C088AB33
4C088AC05
4C088AC06
4C088BA08
4C088MA02
4C088NA14
4C088ZA59
4C088ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA14
4C206KA17
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA14
4C206NA14
4C206ZA36
4C206ZC75
(57)【要約】
脳血管疾患、特に虚血性脳血管疾患の薬物を調製するために用いられる組成物であって、前記組成物が2-アミノ-6-トリフルオロメトキシベンゾチアゾール又はその薬学的に許容される塩及び竜脳を含む。非臨床細胞試験及び動物薬効試験の結果から、2-アミノ-6-トリフルオロメトキシベンゾチアゾールと(+)-2-ボルネオールは、両方を併用すれば、脳血管疾患に対する薬効を相乗的に上げる機能を持つようになる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-アミノ-6-トリフルオロメトキシベンゾチアゾール、その誘導体、その薬学的に許容される塩又はそのプロドラッグ分子である成分(I)と、
(+)-2-ボルネオール、竜脳、又は有効成分として(+)-2-ボルネオールを用いた薬剤である成分(II)と、を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記成分(I)と前記成分(II)との重量比が30:1~1.5:1であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記成分(I)と前記成分(II)との重量比が15:1~1.5:1であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記成分(I)と前記成分(II)との重量比が15:1~7.5:1であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記成分(I)と前記成分(II)との重量比が1:1、1:3、3:1、9:1、27:1、1:9、1:27、20:1、5:1、15:1及び/又は8:1であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記竜脳が合成竜脳、(-)-2-ボルネオール及び天然竜脳からなる群より選択された一種又は複数種であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物と薬学的に許容される添加物とを含むことを特徴とする、薬剤。
【請求項8】
脳血管疾患を予防及び/又は治療するための医薬品の調製における、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物又は請求項7に記載の薬剤の使用。
【請求項9】
前記脳血管疾患が虚血性脳血管疾患であることを特徴とする、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記虚血性脳血管疾患が虚血性脳卒中であることを特徴とする、請求項8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本出願は、2021年02月02日に中国国家知識産権局に出願された出願番号が202110141522.3、発明名称が「リルゾールと竜脳とを含有する組成物の脳血管治療薬の調製への応用」である中国特許出願に基づく優先権を主張するものであり、その全内容をここに援用する。
【0002】
本発明は、薬学の分野に属し、脳血管疾患、特に虚血性脳血管疾患の治療薬の調製における、2-アミノ-6-トリフルオロメトキシベンゾチアゾールと竜脳又は(+)-2-ボルネオールとの組成物の応用に関する。
【背景技術】
【0003】
脳血管疾患(cerebrovascular disease、CVD)とは、各種の脳血管疾患に起因した脳病変を指し、その発症過程により急性脳血管疾患(脳卒中)及び慢性脳血管疾患に分けられる。急性脳血管疾患としては、一過性脳虚血発作、脳血栓症、脳塞栓症、高血圧脳病、脳出血及びクモ膜下出血などが挙げられる。慢性脳血管疾患としては、脳動脈硬化症、脳血管性認知症、脳動脈盗血症候群、パーキンソン病などが挙げられる。虚血性脳卒中(Stroke)とは、脳への血液供給動脈(頚動脈及び椎骨動脈)の狭窄や閉塞、及び脳への血液供給不足によって生じる脳組織の壊死の総称である。脳虚血には、一過性脳虚血発作(TIA)、可逆性虚血性神経障害(RIND)、進行性脳卒中(SIE)及び完全脳卒中(CS)に分けられる4つのタイプが含まれる。TIAには脳梗塞が認められないが、RIND、SIE及びCSには程度の異なる脳梗塞が認められた。
【0004】
2-アミノ-6-トリフルオロメトキシベンゾチアゾール(リルゾール、riluzole)は、ベンゾチアゾール系化合物に属し、1950年代に中枢性筋弛緩薬として最初に研究開発され、1995年に米国FDAによって筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis、ALS)の治療薬として承認された。リルゾールは、グルタミン酸が培養のニューロン、脳スライス、及び生体内大脳皮質ニューロンから放出することを阻害できる機能を持っている。その機能は、グルタミン酸作動性神経終末における電位依存性ナトリウムチャネルの不活性化、及び百日咳毒素(PTX)感受性Gタンパク質依存性シグナル伝達プロセスの活性化に起因していると考えられている。また、リルゾールは、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体とkainic acid受容体(IC50 167μM)を非競合的に遮断することにより、グルタミン酸のシナプス後の作用の一部を遮断することもある。生体内で、リルゾールは神経保護、抗けいれん、鎮静などの効果を持っている。一過性全脳虚血のげっ歯類動物モデルにおいて、リルゾールは虚血によるグルタミン酸放出の急増を完全に阻害することができる。体外で、リルゾールは、低酸素の損傷、グルタミン酸摂取阻害剤による毒性の損傷、及び筋萎縮性側索硬化症患者の脳脊髄液中の有毒因子の損傷を避けるように培養のニューロンを保護することができる(Neurology,1996,47(6 Suppl 4),S233S-41)。それから、前臨床動物試験及び人体臨床試験により、リルゾールが脊髄神経保護、神経因性疼痛、てんかん、不安症及びうつ病などに対して一定の治療効果があることが判明されてきた(中国薬学雑誌,2015,50 (14):1165-1168,化学と生物工学,2017,34(2):6-9)。さらに、PD、非定型パーキンソン病、ハンチントン病(Huntington disease,HD)、遺伝性運動失調症(hereditary ataxia)などを含む神経変性運動疾患の治療におけるリルゾールの系統的レビューとメタ分析によると、リルゾールが遺伝性運動失調症患者の症状の改善に用いられることが期待できるが、さらなる臨床的検証研究が必要であると考えられている(Drug Delivery,2017,25(1),43-48)。さらに、ラット中動脈閉塞(MCAO)モデルにおいて、虚血後30分後に4mg/kg及び8mg/kgのリルゾールを単回静脈内注射することにより、ラットの神経欠損スコアと脳梗塞の面積を有意に減少できる(CNS Drug Reviews,1997,3(1),83-101)ということがあった。
【0005】
リルゾールの構造式は次の通りである。
【0006】
【化1】
【0007】
天然竜脳(borneolum)は、クスノキ科の植物(Cinnamomum camphora)の新鮮な枝や葉から抽出・加工して結晶化したものであり、その主成分が(+)-2-ボルネオール((+)-borneol)である。「2015版中国薬局方により、天然竜脳における(+)-2-ボルネオールの含有量が96.0%以上でなければならないことは規定されている」。氷片蓬は、キク科の植物である蓬納香(Blumea balsamifera)の新鮮な葉から抽出・加工して結晶化したものであり、その主成分が(-)-2-ボルネオール((-)-borneol)である。「2015版中国薬局方により、天然竜脳における(-)-2-ボルネオールの含有量が85.0%以上でなければならないことは規定されている」。合成竜脳(borneolum syntheticum)は、(+)-2-ボルネオール及び(-)-2-ボルネオールを主成分とする化学合成品である。(+)-2-ボルネオールは、例えば、抗炎症、抗酸化及びγ-アミノ酪酸(GABA)受容体機能の強化などさまざまな生物活性を示す(Euro J Pharmacol,2017 811,1-11)。また、(+)-2-ボルネオールは、生理学的条件下で、血液脳関門(BBB)の透過性を一時的に可逆的に高めることにより、中枢神経系への薬物送達を提供することができるが、病理学的条件下で、BBBの完全性を維持し、脳組織を保護することができる(Drug Deliv 2017,24:1037-1044、Drug Deliv 2018,25:1617-1633、Biomed Pharmacother 2018,102:874-883)。さらに、(+)-2-ボルネオールは、アフリカツメガエル卵母細胞において、低濃度のGABAによって誘導される組換えヒトGABAR(αβγ2L)の機能を10倍以上増強することができ、そのEC50が248μMであった(Biochemical Pharmacology,2005,69(7),1101-1111)。天然竜脳は、グルタミン酸による誘発されるニューロン損傷を保護する効果を有する(南京医科大学学報(自然科学編)2013,33(5),630-635)。なお、(+)-2-ボルネオールは、すでに原料医薬品として第1類新薬であるエダラボン(+)-2-ボルネオールインフュジョンに適用され、虚血性脳卒中の治療に用いられている(CDE受理番号CXHS1800031)。
【0008】
(+)-2-ボルネオールの化学構造式は次の通りである。
【0009】
【化2】
【0010】
そこで、リルゾールと竜脳とを含む組成物の脳血管疾患への応用を提供することは、実用上で重要な意義がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記事情に鑑みて、本発明は脳血管治療薬の調製におけるリルゾールと竜脳とを含む組成物の使用を提供するものである。前記組成物は、2-アミノ-6-トリフルオロメトキシベンゾチアゾール又はその薬学的に許容される塩と、竜脳又は(+)-2-ボルネオールとを含む。さらに、前記組成物は、2-アミノ-6-トリフルオロメトキシベンゾチアゾール又はその薬学的に許容される塩と、(+)-2-ボルネオールとを含む。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的を実現するために、本発明は以下の技術案を提供する。
【0013】
第1の側面によれば、本発明により提供される組成物は、以下の成分:
2-アミノ-6-トリフルオロメトキシベンゾチアゾール、その誘導体、その薬学的に許容される塩、又はそのプロドラッグ分子である成分(I)と、
(+)-2-ボルネオール、竜脳、又は有効成分として(+)-2-ボルネオールを用いた薬剤である成分(II)とを含む。
【0014】
本発明のいくつかの具体的な実施形態においては、前記成分(I)と前記成分(II)との重量比が30:1~1.5:1又は27:1~1:27である。
【0015】
本発明のいくつかの具体的な実施形態においては、前記成分(I)と前記成分(II)との重量比が15:1~1.5:1である。
【0016】
本発明のいくつかの具体的な実施形態においては、前記成分(I)と前記成分(II)との重量比が15:1~7.5:1である。
【0017】
本発明のいくつかの具体的な実施形態においては、前記成分(I)と前記成分(II)との重量比が1:1、1:3、3:1、9:1、27:1、1:9、1:27、20:1、5:1、15:1及び/又は8:1である。
【0018】
本発明のいくつかの具体的な実施形態においては、前記竜脳が合成竜脳、(-)-2-ボルネオールおよび天然竜脳のうちの1種又は複数種である。
【0019】
また、第2の側面によれば、本発明は、前記の組成物と薬学的に許容される添加物とを含む薬剤を提供する。
【0020】
さらに、第3の側面によれば、本発明は、脳血管疾患の予防及び/又は治療のための薬剤の調製における前記組成物又は前記薬剤の使用も提供する。
【0021】
本発明のいくつかの具体的な実施形態においては、前記脳血管疾患が虚血性脳血管疾患である。
【0022】
本発明のいくつかの具体的な実施形態においては、前記虚血性脳血管疾患が虚血性脳卒中である。
【0023】
前記組成物における前記竜脳は、天然竜脳、(-)-2-ボルネオール又は合成竜脳である。
【0024】
本発明による薬剤の組み合わせは、脳血管の薬剤の調製に用いられる。この中で、脳血管疾患は、虚血性脳血管疾患であることが好ましく、虚血性脳卒中であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、非臨床細胞試験及び動物薬効試験の結果から、2-アミノ-6-トリフルオロメトキシベンゾチアゾールと(+)-2-ボルネオールは、両方を併用すれば、脳血管疾患に対する薬効を相乗的に上がる作用を持つようになる、という有利な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、NMDA誘発性のニューロン損傷に対するリルゾール及び(+)-2-ボルネオールの効果を示す。ただし、AはNMDA誘発性のニューロン損傷に対するリルゾールの効果を示し、BはNMDA誘発性のニューロン損傷に対する(+)-2-ボルネオールの効果を示す。
図2図2は、NMDA誘発性のニューロン損傷に対するリルゾール及び(+)-2-ボルネオールの阻害率を示す。
図3図3は、NMDA誘発性の初代ニューロン興奮性損傷に対するリルゾール、(+)-2-ボルネオール及び二つの組成物の効果を示す。
図4図4は、NMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対するリルゾール、(+)-2-ボルネオール及び組成物(20:1)の効果を示す。ただし、AはNMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対するリルゾール、(+)-2-ボルネオール及び組成物(20:1)の効果を示し、BはNMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対する(+)-2-ボルネオールの効果を示し、CはNMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(20:1)の効果を示す。
図5図5は、CompuSynソフトウェアによって計算したリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(20:1)の用量-効果関係グラフ(Dose-Effect Curve)(A)、中央値ー効果グラフ(Median-Effect Plot)(B)及び併用係数グラフ(Fa-CI Plot)(C)である。
図6図6は、NMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対するリルゾール、(+)-2-ボルネオール及び組成物(5:1)の効果を示す。ただし、AはNMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対するリルゾールの効果を示し、BはNMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対する(+)-2-ボルネオールの効果を示し、CはNMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(5:1)の効果を示す。
図7図7は、NMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対するリルゾール、(+)-2-ボルネオール及び組成物(1:1)の効果を示す。ただし、AはNMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対するリルゾールの効果を示し、BはNMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対する(+)-2-ボルネオールの効果を示し、CはNMDA誘発性のニューロン興奮性損傷に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(1:1)の効果を示す。
図8図8は、MCAOラットにおける神経欠損症状に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物の効果を示す。
図9図9は、脳梗塞の面積に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物の効果を示す。
図10図10は、CompuSynソフトウェアによって計算したリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(質量比8:1及び15:1である)がMCAOラットにおける脳梗塞の面積を縮小する場合の用量-効果関係グラフ(Dose-Effect Curve)(A)、中央値ー効果グラフ(Median-Effect Plot)(B)及び併用係数グラフ(Fa-CI Plot)(C)である。
図11図11は、MCAOラットの神経欠損スコア及び脳梗塞の面積に対するリルゾールと、(+)-2-ボルネオール、(-)-2-ボルネオール及び合成竜脳との組成物の効果を示す。ただし、AはMCAOラットの神経欠損スコアに対するリルゾールと(+)-2-ボルネオール、(-)-2-ボルネオール及び合成竜脳との組成物の効果を示し、BはMCAOラットの脳梗塞の面積に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオール、(-)-2-ボルネオール及び合成竜脳との組成物の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明では、脳血管治療薬の調製におけるリルゾールと竜脳とを含有する組成物の応用が開示されている。当業者であれば、本明細書の内容を参考し、プロセスパラメータを適当に改良して本発明を実現することができる。なお、全ての類似な置換及び変更は、当業者にとって自明なものであり、本発明に含まれたものとみなされることに留意する必要がある。本発明に係る方法及び応用を好適な実施例を用いて説明したが、当業者であれば、本発明の技術を実施及び適用するために、本発明の内容、思想、及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載されている方法及び応用を修正又は適切な変更及び組み合わせを行い得ることが明らかである。
【0028】
本発明で提供されるリルゾールと竜脳とを含有する組成物の脳血管治療薬の調製への応用に使用される原材料及び試薬のいずれも市場から購入することができる。
【0029】
以下、実施例を参照しながら、さらに本発明を説明する。
【実施例
【0030】
実施例1 NMDA誘発性の初代皮質ニューロンの興奮性損傷に対するリルゾール及び(+)-2-ボルネオールの効果
【0031】
1.材料と方法
1.1 動物
SD妊娠ラット、Shanghai Slack Experimental Animal Co.,Ltd.(生産許可番号:SCXK(上海)2017-0005)
【0032】
【化3】
【0033】
1.3 初代皮質ニューロンの作製
妊娠18日のSDラットを頚椎脱臼により処死させ、ラットの子宮からE18胎児ラットの脳を取り出し、胎児ラットの大脳皮質組織を分離して氷冷DMEMに入れ、皮質組織上の髄膜と血管を解剖顕微鏡下で除去し、皮質組織を氷冷DMEMに移して小片(約1mm)に切断し、37℃で10分間トリプシンで消化し、その後FBSで消化を停止させ、パスツールピペットで軽く吹き込み、200目篩によりろ過した。ろ過した細胞懸濁液を15mLの遠心管に移し、1000rpmで5分間遠心分離し、上清を捨て、遠心管の底にある細胞塊を37℃に予熱した完全培地(Neurobasal+B27+GlutaMax+1%P/S)で静かに吹き飛ばし、血球計算板で計数する。そして、完全培地で5×10細胞/mLに希釈し、PDLでコーティングした96ウェルプレート(100μL/ウェル)に接種し、1日おきに培地の半分を完全培地に交換し、11日目にニューロンが分化して成熟するまでイン・ビトロ(in vitro)で培養してOGD(oxygen glucose deprivation)試験に用いた。
【0034】
1.4 NMDA誘発性の初代皮質ニューロン興奮性損傷の試験
イン・ビトロ(in vitro)で成熟した初代ニューロン培地を、さまざまな濃度(100、33.3、11.1、3.7、1.23及び0.41μM)のリルゾール(R)又は(+)-2-ボルネオールLocke’s緩衝液(NaCl 154mM、KCl 5.6mM、NaHCO 3.6mM、CaCl 2.3mM、D-Glucose 5.6mM、HEPES 5mM、PH7.4)に交換し、37℃で10分間インキュベートした後、興奮性誘導剤(NMDA終濃度100μM、Glycine終濃度10μM)を加え、30分間誘導した。誘導緩衝液を捨てた後、1mM MgClLocke’sを含む緩衝液で一度洗浄し、完全培地(100μL/ウェル)に交換して4時間再培養した。
【0035】
1.5 ニューロン細胞生存率の測定
初代ニューロン細胞生存率は、発光細胞生存アッセイによって検出された。プロトコールに従って100μL/ウェルに試薬を加え、10分間振盪し、SpectraMaxi3X(Molecule Device)マルチモードマイクロプレートリーダーで化学吸光度(LUM)を読み取り、ニューロン細胞の相対生存率を算出した。
【0036】
計算の式:ニューロンの相対生存率V(%)=(LUM-LUMブランク)/(LUM正常対照群-LUMブランク群)×100%。LUMブランクは、発光細胞生存アッセイ試薬が添加された細胞なしの完全培地ウェルのブランクの読取データである。
【0037】
1.6 化合物による神経保護作用
化合物の興奮性損傷に対する神経保護作用は、ニューロン興奮性損傷への化合物の阻害として表された。相対阻害率=100%×(V化合物-VNMDAモデル)/(V正常対照群-VNMDAモデル)ただし、Vは、ニューロンの相対生存率である。
【0038】
化合物EC50フィッティング:log[化合物濃度]を横軸として、相対阻害率を縦軸として、Prism8(GraphPad)を使用してlog(阻害剤)vs.反応--可変傾き(四つのパラメータ)曲線をフィッティングし、化合物IC50を得た。
【0039】
1.7 データの統計
実験データは平均値±標準偏差(Mean±SD)(n=3)で表された。Prism8(GraphPad)を用いてOne-way ANOVA一元配置分散分析を行った後、Uncorrected Fisher’s LSDで2つの群間の差異を分析した。P<0.05は有意差があることを意味する。###p<0.001は対照群と比較したものである。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001は、NMDAモデル群と比較したものである。
【0040】
2.実験結果
2.1 NMDA誘発性のニューロン損傷に対するリルゾール及び(+)-2-ボルネオールの効果
0.41~100μMの濃度範囲において、リルゾールは濃度依存的にNMDA誘発ニューロンの細胞生存率を増加させ、33.3及び100μMの濃度でニューロンの細胞生存率を有意に増加させることができた(図1A)。(+)-2-ボルネオールは、0.41~3.7μMの濃度下で濃度依存的に興奮性損傷の細胞生存率を増加させたが、濃度をさらに増加(10~100μM)した後にニューロンの細胞生存率がある程度に低下するようになった(図1B)。
【0041】
化合物の濃度-阻害率の曲線によれば、リルゾール及び(+)-2-ボルネオールによる神経保護作用のEC50は、それぞれ約40μM(Emax~60%)及び2μM(Emax~15%)であった(図2)。
【0042】
実施例2 NMDA誘発初代皮質ニューロン興奮性損傷に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物の効果
【0043】
1.材料と方法
1.1 動物は実施例1と同様であった。
【0044】
1.2 試薬と消耗品は実施例1と同様であった。
【0045】
1.3 初代皮質ニューロンの作製は実施例1と同様に行った。
【0046】
1.4 NMDA誘発性の初代皮質ニューロン興奮性損傷の試験
イン・ビトロ(in vitro)で成熟した初代ニューロン培地を、さまざまな濃度リルゾール(R)、(+)-2-ボルネオール(B)又はリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(RB)(表1参照)Locke’s緩衝液(NaCl 154mM、KCl 5.6mM、NaHCO 3.6mM、CaCl 2.3mM、D-Glucose 5.6mM、HEPES 5mM、PH7.4)、37℃で10分間インキュベートした後、興奮性誘導剤(NMDA終濃度100μM、Glycine終濃度10μM)を加え、30分間誘導した。誘導緩衝液を捨てた後、1mM MgClLocke’sを含む緩衝液で一度洗浄し、完全培地(100μL/ウェル)に交換してさらに4時間培養した。
【0047】
【表1】
【0048】
注:Rはリルゾール、Bは(+)-2-ボルネオール、Rはリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物を表し、X/Yデータ1-6は、各化合物のそれぞれの濃度であり、それぞれ100、33.3、11.1、3.7、1.23及び0.41μMである。各群の薬剤に対して5つの複製ウェル(n=5)を設置した。細胞培養培地中のDMSOの終濃度が0.2%になるように各化合物をDMSOに溶解した。
【0049】
1.5 ニューロン細胞生存率の測定は実施例1と同様に行った。
【0050】
1.6 データの統計は実施例1と同様であった。
【0051】
実験データは平均値±標準偏差(Mean±SD)(n=3)で表された。Prism8(GraphPad)を用いてOne-way ANOVA一元配置分散分析を行った後、Uncorrected Fisher’sLSDで2つの群間の差異を分析した。P<0.05は有意差があることを意味する。###p<0.001はControl(対照群)と比較したものである。*p<0.05、**p<0.01はNMDAモデル群と比較したものである。
【0052】
2.実験結果
2.1 初代ニューロン興奮性損傷に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物の効果
図3に示すように、0.41~100μMの濃度範囲において単独投与された場合、リルゾールは、R2(33.3μM)の濃度条件下で、NMDA誘発興奮性損傷のニューロンの細胞生存率を有意に低下させたが、(+)-2-ボルネオールは、R4(3.7μM)の濃度のみで、NMDA誘発興奮性損傷のニューロンの細胞生存率を有意に向上させた。リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物R1B1(1:1)、R2B1(1:3)、R2B2(1:1)、R2B3(3:1)、R2B4(9:1)、R2B5(27:1)、R3B1(1:9)、R3B2(1:3)、R3B3(1:1)、R3B4(3:1)、R3B5(9:1)、R3B6(1:27)、R4B1(1:27)、R4B2(1:9)、R4B3(1:3)、R4B4(1:1)、R4B5(3:1)、R4B6(9:1)は、NMDA誘発的ニューロンの細胞生存率を有意に向上することができた。これは、リルゾールと(+)-2-ボルネオールを27:1~1:27の比例で組み合わせると、神経保護作用に対する相乗効果が生じることが可能になるを示している。
【0053】
実施例3 初代ニューロン興奮性損傷の保護に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(20:1)の相乗性に関する研究
【0054】
1.材料と方法
1.1 動物は実施例1と同様であった。
【0055】
1.2 試薬と消耗品は実施例1と同様であった。
【0056】
1.3 初代皮質ニューロンの作製は実施例1と同様に行った。
【0057】
1.4 NMDA誘発性の初代皮質ニューロン興奮性損傷の試験
イン・ビトロ(in vitro)で成熟した初代ニューロン培地を、さまざまな濃度のリルゾール(R)、(+)-2-ボルネオール(B)又はリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(20:1)のLocke’s緩衝液(表2参照)、37℃で10分間インキュベートした後、興奮性誘導剤(NMDA終濃度100μM、Glycine終濃度10μM)を加え、30分間誘導した。誘導緩衝液を捨てた後、1mM MgCl2 Locke’sを含む緩衝液で一度洗浄し、完全培地(100μL/ウェル)に交換して4時間再培養した。
【0058】
【表2】
【0059】
1.5 ニューロン細胞生存率の測定は実施例1と同様であった。
【0060】
1.6 化合物による神経保護作用については、実施例1と同様に調べた。
【0061】
1.7 組成物の相乗性の分析
CompuSynソフトウェア(ComboSyn、 Inc)を用いて、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとを固定比例で組み合わせた組成物による神経保護作用に対して相乗性分析を行った。
【0062】
1.8 データの統計
実験データは平均値±標準偏差(Mean±SD)(n=3~6)で表された。Prism8(GraphPad)を用いてOne-way ANOVA一元配置分散分析を行った後、Uncorrected Fisher’s LSDで2つの群間の差異を分析した。P<0.05は有意差があることを意味する。###p<0.001は対照群と比較したものである。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001はNMDAモデル群と比較したものである。
【0063】
2.実験結果
2.1 初代ニューロン興奮性損傷に対するリルゾール、(+)-2-ボルネオール及び組成物(20:1)の効果
実施例1の結果に基づいて、化合物の濃度が1/4×ED50、1/2×ED50、1×ED50、2×ED50及び4×ED50となるように設計し、リルゾールの濃度を10、20、40、80及び160μMとし、(+)-2-ボルネオールの濃度を0.5、1、2、4及び8μMとし、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物のモル比を20:1とした。リルゾール、(+)-2-ボルネオール及びその両方の組成物は、濃度依存的にNMDA誘発損傷のニューロンの細胞生存率を増加させることができ、また、その効果は、組成物のほうがリルゾール又は(+)-2-ボルネオールより優れている(図3)。
【0064】
2.2 リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物による神経保護作用の相乗性分析
Chou-Talalay方程式の原理により、CompuSynソフトウェアを用いて固定比例の組成物の併用係数(CI)を算出した(表3、図5参照)ところ、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(リルゾールと(+)-2-ボルネオールのモル比は20:1であった)はCI<1であったことから、リルゾール及び(+)-2-ボルネオールはニューロン興奮性損傷の保護に対して相乗作用を有することが分かった。
【0065】
【表3】
【0066】
実施例4 初代ニューロン興奮性損傷の保護に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(5:1)の相乗性に関する研究
【0067】
1 材料と方法
1.1 動物は実施例1と同様であった。
【0068】
1.2 試薬と消耗品は実施例1と同様であった。
【0069】
1.3 初代皮質ニューロンの作製は実施例1と同様であった。
【0070】
1.4 NMDA誘発性の初代皮質ニューロン興奮性損傷の試験
イン・ビトロ(in vitro)で成熟した初代ニューロン培地を、さまざまな濃度のリルゾール(R)、(+)-2-ボルネオール(B)又はリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(5:1)のLocke’s緩衝液(表2参照)、37℃で10分間インキュベートした後、興奮性誘導剤(NMDA終濃度100μM、Glycine終濃度10μM)を加え、30分間誘導した。誘導緩衝液を捨てた後、1mM MgCl2 Locke’sを含む緩衝液で一度洗浄し、完全培地(100μL/ウェル)に交換して4時間再培養した。
【0071】
【表4】
【0072】
1.5 ニューロン細胞生存率の測定は実施例1と同様に行った。
【0073】
1.6 化合物による神経保護作用については、実施例1と同様に調べた。
【0074】
1.7 組成物の相乗性の分析
CompuSynソフトウェア(ComboSyn、Inc)を用いて、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとを固定比例で組み合わせた組成物による神経保護作用に対して相乗性分析を行った。
【0075】
1.8 データの統計は実施例3と同様に行った。
【0076】
2.実験結果
2.1初代ニューロン興奮性損傷に対するリルゾール、(+)-2-ボルネオール及び組成物(5:1)の効果
リルゾールの濃度を2.5、5、10、20及び40μMとし、(+)-2-ボルネオールの濃度を0.5、1、2、4及び8μMとし、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物のモル比は5:1であった。リルゾール、(+)-2-ボルネオール及びその両方の組成物は、濃度依存的にNMDA誘発損傷のニューロンの細胞生存率を増加させることができ、また、その効果は、組成物(5:1)のほうがリルゾール又は(+)-2-ボルネオールより優れていた(図6)。
【0077】
2.2 リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物による神経保護作用の相乗性分析
Chou-Talalay方程式の原理に従って、CompuSynソフトウェアを用いて固定比例の組成物の併用係数(CI)を算出したところ(表5参照)、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(リルゾールと(+)-2-ボルネオールのモル比を5:1とした)はCI<1であったことから、リルゾール及び(+)-2-ボルネオールはニューロン興奮性損傷の保護に対して相乗作用を有することが分かった。
【0078】
【表5】
【0079】
実施例5 初代ニューロン興奮性損傷の保護に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(1:1)の相乗性に関する研究
【0080】
1 材料と方法
1.1 動物は実施例1と同様であった。
【0081】
1.2 試薬と消耗品は実施例1と同様であった。
【0082】
1.3 初代皮質ニューロンの作製は実施例1と同様に行った。
【0083】
1.4N MDA誘発性の初代皮質ニューロン興奮性損傷の試験
イン・ビトロ(in vitro)で成熟した初代ニューロン培地を、さまざまな濃度のリルゾール(R)、(+)-2-ボルネオール(B)又はリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(1:1)のLocke’s緩衝液(表2参照)、37℃で10分間インキュベートした後、興奮性誘導剤(NMDA終濃度100μM、Glycine終濃度10μM)を加え、30分間誘導した。誘導緩衝液を捨てた後、1mM MgCl2 Locke’sを含む緩衝液で一度洗浄し、完全培地(100μL/ウェル)に交換して4時間再培養した。
【0084】
【表6】
【0085】
1.5 ニューロン細胞生存率の測定は実施例1と同様に行った。
【0086】
1.6 化合物による神経保護作用について実施例1と同様に調べた。
【0087】
1.7 組成物の相乗性の分析
CompuSynソフトウェア(ComboSyn、Inc)を用いて、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとを固定比例で組み合わせた組成物による神経保護作用に対して相乗性分析を行った。
【0088】
1.8 データの統計は実施例3と同様であった。
【0089】
2.実験結果
2.1 初代ニューロン興奮性損傷に対するリルゾール、(+)-2-ボルネオール及び組成物(1:1)の効果
リルゾールの濃度を0.5、1、2、4及び8μMとし、(+)-2-ボルネオールの濃度を0.5、1、2、4及び8μMとし、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物のモル比を1:1とした。リルゾールは、この濃度範囲において保護作用がある程度の濃度依存性を有し、(+)-2-ボルネオール及び組成物(1:1)は、濃度依存的にNMDA誘発損傷のニューロンの細胞生存率を増加させることができ、また、その効果は、組成物(1:1)のほうがリルゾール又は(+)-2-ボルネオールより優れている(図7)。
【0090】
2.2 リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物による神経保護作用の相乗性分析
Chou-Talalay方程式の原理に従って、CompuSynソフトウェアを用いて固定比例の組成物の併用係数(CI)を算出したところ(表7参照)、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(リルゾールと(+)-2-ボルネオールのモル比を1:1とした)はCI<1であったことから、リルゾール及び(+)-2-ボルネオールはニューロン興奮性損傷の保護に対して相乗作用を有することが分かった。
【0091】
【表7】
【0092】
実施例6 リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物が局所脳虚血再灌流障害に対して保護する効果に関する研究
【0093】
1 材料と方法
1.1 被験動物
Sprague-Dawley(SD)ラット、雄、SPFグレード、体重250-280g。
【0094】
1.2 被験薬剤
リルゾール及び(+)-2-ボルネオールは実施例1と同様であった。
【0095】
1.3 実験方法
1.3.1 局所脳虚血再灌流モデルの作成
頚内動脈縫合法により、ラット局所脳虚血再灌流モデルを作成した。麻酔したラットの手足と頭を輪ゴムで縛り(後肢は膝関節の上、前肢は手首関節の上に固定された)、動物を手術台に仰臥位で固定し、動物用シェーバーで頭から胸部までの毛を剃り、皮膚をアルコールで消毒した。頚部を正中線で切開し、皮下組織を鈍的に剥離した。頚の前三角の表面にある薄い筋膜を剥離し、下端-鎖骨舌骨筋の下端を引き出し、この筋肉と平行に縦に脈動する動脈が見え、動脈の殻を開いて右頚動脈分岐部を露出させ、右総頚動脈、外頚動脈、内頚動脈を剥離し、迷走神経を穏やかに剥離し、外頚動脈を結紮して切断した。総頚動脈の近位端を閉塞し、外頚動脈結紮の遠位端から切開し、塞栓線を挿入し、総頚動脈の分岐部を通って内頚動脈に入り、その後、抵抗が感じるとことまでゆっくりと挿入し(分岐部から約20mm)、中大脳動脈への血液供給がすべて遮断された。糸で外頚動脈の切開口の下に塞栓線をわずかに固定し、総頚動脈の近位端で閉塞している糸を緩め、創に滅菌生理食塩水を浸したガーゼで被覆させ、ラットを加温パッドに置いて保温した。右側脳虚血2.0時間後に、塞栓線をゆっくり引き抜くことにより血液供給を回復して再灌流を行い、固定された塞栓線の糸で外頚動脈を結紮し、皮膚を縫合し、消毒した。ラットを清潔な飼料中に置いて、麻酔から覚めるまで通常状態と呼吸を観察し、飼料と水を加え、常法によって飼育した。
【0096】
1.3.2 動物の群分けと投与
被験動物を、9つの群:リルゾール群(6mg/kg及び12mg/kg、i.v.)、(+)-2-ボルネオール群(0.4mg/kg及び0.8mg/kg、i.v.)、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物群(6.4mg/kg及び12.8mg/kg、i.v.,リルゾール:(+)-2-ボルネオール=15:1)及びモデル群に分けた。脳虚血モデルを作成した後、動物を一重盲検法により等しい確率で各群に割り当てた。動物には再灌流直後に静脈内に薬剤を1回投与したが、モデル群の動物には等量の生理食塩水を投与した。脳虚血後24時間に神経性欠損症状を評価し、その後、動物を処死させ、脳を取り出し、染色し、写真を撮って脳梗塞の面積を測定した。
【0097】
1.3.3 神経欠損症状スコアと脳梗塞の面積の測定
改善されたBederson 5ポイントスケールを使用して神経欠損症状を評価した。一重盲検法によって脳虚血後のラットの神経欠損症状を評価した。すなわち、試験設計者により動物を群別でマークし、神経欠損症状を採点する試験者に群わけの情報を知らせなかった条件下で、採点が終了した後、採点者がさまざまなマークの採点結果を設計者に渡し、設計者により各試験群の各動物のスコアを評価した。
【0098】
【表8】
【0099】
TTC染色により、脳梗塞の程度を測定した。動物の神経性欠損症状を評価した後、COで処死させ、斬首後、脳を取り出し、嗅球、小脳、及び下位脳幹を取り除いた。生理食塩水で脳表面の血液を洗浄し、表面上の残りの水を吸収し、-20℃に20min置き、取り出し直後に視線面に垂直な交差面で2mmおきに冠状切片を切り出した後、1%TTC溶液中に染色を行った(37℃、30min)。正常脳組織は暗赤色に染まり、虚血脳組織は淡く染まった。生理食塩水で洗浄後、脳切片を正面から後ろ側の順に一列に迅速に並べ、表面の残りの水を吸収し、表面を乾燥させ、次に、写真撮影した。
【0100】
脳梗塞面積の計算:Image Jソフトウエアで写真の処理を行い、以下の式を用いて左脳の対応する面積及び右脳の非梗塞領域の面積を求め、梗塞範囲の割合を算出した。
【0101】
脳梗塞体積の計算方法:
V=t(A1+A2+A3+……+An)
ただし、tは切片の厚さ、Aは梗塞面積である。
【0102】
%I=100%×(V-V)/V
ただし、%Iは梗塞体積の割合、VCは対象側(左半球)の脳体積、VLは梗塞側(右半球)非梗塞領域の体積である。
【0103】
1.4 組成物の相乗性の分析
CompuSynソフトウェア(ComboSyn、Inc)を用いて、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとを非固定比例で組み合わせた組成物による神経保護作用に対して相乗性分析を行う。
【0104】
1.5 データの統計
実験データは平均値±標準偏差(Mean±SD)(n=10)で表された。One-way ANOVA一元配置分散分析を行った後、Fisher’s LSDで2つの群間の差異を分析した。P<0.05は有意差があることを意味する。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001はMCAOモデルに比較したものである。nsは、図に示されている群の間に統計的な差異がないことを意味する。
【0105】
2.実験結果
2.1 神経欠損症状に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物の効果
図8に示すように、リルゾール、(+)-2-ボルネオール及び組成物は、いずれも用量依存的にMCAOラットにおける神経欠損のスコアを減少することができた。また、MCAOモデル群と比べて、リルゾール8mg/kg群、(+)-2-ボルネオール1mg/kg群、組成物(リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの質量比を8:1とした)4.5mg/kg及び9mg/kg群、組成物(リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの質量比を15:1とした)6.4mg/kg及び12.8mg/kg群は、MCAOラットにおける神経欠損のスコアが有意に減少した。さらに、リルゾール又は(+)-2-ボルネオール群に比べて、組成物群は、神経欠損のスコアがより低くなった傾向が見られた。
【0106】
2.2 脳梗塞の面積に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物の効果
図8に示すように、MCAOモデル群と比べて、リルゾール4及び8mg/kg群、(+)-2-ボルネオール0.5及び1mg/kg群、組成物(リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの質量比を8:1とした)4.5mg/kg及び9mg/kg(8:1)、組成物(リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの質量比を15:1とした)6.4mg/kg及び12.8mg/kgは、用量依存的に脳梗塞の面積を有意に減少した。さらに、リルゾール又は(+)-2-ボルネオール群に比べて、組成物群は、動物における脳梗塞の面積がより低かった。
【0107】
2.3 脳梗塞の面積の縮小に対するリルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物の相乗性分析
Chou-Talalay方程式の原理に従って、CompuSynソフトウェアを用いて非固定比例の組成物の併用係数(CI)を算出した(表9、図10参照)ところ、リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物(リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの質量比を8:1とした)はCI<1であったことから、リルゾール及び(+)-2-ボルネオールは、MCAOラット脳梗塞の面積を減少する点で相乗作用を有することが分かった。
【0108】
【表9】
【0109】
実施例7 リルゾールと(+)-2-ボルネオール、(-)-2-ボルネオール及び合成竜脳との組成物が局所脳虚血再灌流障害に対して保護する効果に関する研究
【0110】
1 材料と方法
1.1 被験動物は実施例6と同様であった。
【0111】
1.2 被験薬剤
リルゾール及び(+)-2-ボルネオールは実施例1と同様であった。
(-)-2-ボルネオール及び合成竜脳は、Shanghai Aladdin Biochemical Technology Co.,Ltd.から購入された。
【0112】
1.3 実験方法
1.3.1局所脳虚血再灌流モデルの作成は実施例6と同様に行った。
【0113】
1.3.2 動物の群分けと投与
被験動物を、4つの群:リルゾールと(+)-2-ボルネオールとの組成物群(8mg/kgリルゾール及び1mg/kg(+)-2-ボルネオール、i.v.)、リルゾールと(-)-2-ボルネオールとの組成物群(8mg/kgリルゾール及び1mg/kg(-)-2-ボルネオール)、リルゾール合成竜脳組成物群(8mg/kgリルゾール及び1mg/kg合成竜脳)及びモデル群に分けた。脳虚血モデルを作成した後、動物を一重盲検法により等しい確率で各群に割り当てた。動物には再灌流直後に静脈内に薬剤を1回投与したが、モデル群の動物には等量の生理食塩水を投与した。脳虚血後24時間に神経性欠損症状を評価し、その後、動物を処死させ、脳を取り出し、染色し、写真を撮って脳梗塞の面積を測定した。
【0114】
1.3.3 神経性欠損症状のスコア及び脳梗塞の面積の測定は実施例6と同様に行った。
【0115】
1.4 データの統計
実験データは平均値±標準偏差(Mean±SD)(n=10)で表された。One-way ANOVA一元配置分散分析を行った後、Fisher’s LSDで2つの群間の差異を分析した。P<0.05は有意差があることを意味する。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001はMCAOモデルに比較したものである。nsは、図に示されている群の間に統計的な差異がないことを意味する。
【0116】
2 実験結果
2.1 MCAOラットにおける神経欠損症状及び脳梗塞の面積に対する組成物の効果
図11に示すように、リルゾール(8mg/kg)と(+)-2-ボルネオール(1mg/kg)との成物、リルゾール(8mg/kg)と(-)-2-ボルネオール(1mg/kg)との組成物、およびリルゾール(8mg/kg)と合成竜脳(1mg/kg)との組成物は、いずれもMCAOラットにおける神経欠損のスコア及び脳梗塞の面積を有意に減少することができた。さらに、神経欠損のスコア及び脳梗塞の面積に対して、この3つの組成物の間には差異がなかった。
【0117】
以上、本発明で提供されるリルゾールと竜脳とを含有する組成物の脳血管治療薬の調製への応用について詳細に説明した。本発明の原理と実施形態は、本明細書が特定の例を使用して説明され、以上の実施例における説明は本発明の方法と要旨を理解するためにのみ使用されるものである。なお、当業者にとって、本発明の原理から逸脱せずに本発明に幾つの改良や修飾を加える可能性があるが、それらの改良及び修飾も本発明の特許範囲に収まることに留意する必要がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】