(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】耐衝突破壊性船体構造用鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240201BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20240201BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240201BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20240201BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/14
C22C38/58
C21D8/02 B
C21C7/00 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546421
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 CN2022075505
(87)【国際公開番号】W WO2022171081
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】202110175136.6
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ルー, シャオフイ
(72)【発明者】
【氏名】ガオ, シャン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ツァイイー
(72)【発明者】
【氏名】シー, チン
(72)【発明者】
【氏名】シェン, イェン
【テーマコード(参考)】
4K013
4K032
【Fターム(参考)】
4K013BA14
4K013CB01
4K013EA24
4K013EA25
4K013FA05
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA01
4K032CA02
4K032CB02
4K032CC03
4K032CF03
(57)【要約】
耐衝突破壊性船体構造用鋼が開示される。Feおよび不可避的不純物に加えて、該鋼は、質量パーセンテージで以下の化学元素:C:0.06~0.12%、Si:0.05~0.60%、Mn:1.30~1.70%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%、Mg:0.0005~0.003%、および0<Ca≦0.004%をさらに含み、0.0005%≦Ca+Mg≦0.004%である。さらに、耐衝突破壊性船体構造用鋼の製造方法であって、(1)製錬および連続鋳造ステップ、(2)加熱ステップ、(3)制御された圧延ステップ、(4)空冷ステップ、ならびに(5)焼きならし熱処理ステップ:焼きならし温度をT
q(ここで、
[数1]
であり、各化学元素は、質量による化学元素の含有量におけるパーセント記号の前にある数値で置き換えられ、焼きならし温度の単位は℃である)に制御し、保持時間を分単位のT
h(ここで、T
h=1.5×tであり、tは、mm単位の鋼板の厚さを表す)に制御することを含む製造方法がさらに開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐衝突破壊性船体構造用鋼であって、Feおよび不可避的不純物に加えて、上記鋼が、質量パーセンテージで以下の化学元素:
C:0.06~0.12%、Si:0.05~0.60%、Mn:1.30~1.70%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%、Mg:0.0005~0.003%、および0<Ca≦0.004%
をさらに含み、0.0005%≦Ca+Mg≦0.004%である、耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項2】
上記鋼が、質量パーセンテージで以下の化学元素:
C:0.06~0.12%、Si:0.05~0.60%、Mn:1.30~1.70%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%、Mg:0.0005~0.003%、0<Ca≦0.004%、ならびに残部Feおよび不可避的不純物
を有し、0.0005%≦Ca+Mg≦0.004%である、請求項1に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項3】
上記鋼が、質量パーセンテージで以下:
0<Nb≦0.04%、0<V≦0.05%、および0<B≦0.0005%
を満たすNb、V、およびBのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1または2に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項4】
上記鋼が、質量パーセンテージで以下:
Cr+Ni+Mo+Cu≦0.5%
を満たすCr、Ni、Mo、およびCuのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1または2に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項5】
上記不可避的不純物中のPおよびSの質量パーセンテージでの含有量が、以下:
P≦0.015%およびS≦0.0040%
のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1または2に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項6】
上記化学元素の質量パーセンテージでの含有量が、以下の条件:
1.9≦α≦2.1(ここで、α=6.1C+0.9Mn+1.5V);
4.1≦β≦6.8(ここで、
【数1】
)のうちの少なくとも1つをさらに満たし、式中、各化学元素が、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表す、請求項3に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項7】
上記鋼が、フェライト+パーライトのミクロ組織を有し、フェライト相の体積分率が90%以上である、請求項1または2に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項8】
上記鋼が、315MPa以上の降伏強度、440~570MPaの引張強度、200J以上の-60℃での衝撃エネルギー、1.5mm以上の-60℃でのCTOD、-70℃以下のNDTT、18%以上の一様伸びAg、および38%以上の全伸びA5を有する、請求項1または2に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼の製造方法であって、
(1)製錬および連続鋳造ステップ、
(2)加熱ステップ、
(3)制御された圧延ステップ、
(4)空冷ステップ、ならびに
(5)焼きならし熱処理ステップ:℃単位の焼きならし温度T
qは、
【数2】
(式中、各化学元素は、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表す)を満たし、分単位の保持時間T
hは、T
h=1.5×t(式中、tは、mm単位の鋼板の厚さを表す)を満たす
を含む製造方法。
【請求項10】
ステップ(1)において、溶銑前処理、転炉製錬、LF精錬、RH精錬、介在物の有益な処理、および連続鋳造を順次実施し、上記介在物の有益な処理の段階で、CaSおよびMnSでコーティングされたコアとしてMgO+Al
2O
3を有するサイズ0.2~2.5μmの複合介在物を形成し、このサイズ範囲内の複合介在物の数が、介在物総数の95%以上を占める、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
ステップ(1)において、上記転炉製錬の段階で、スラグ層の厚さ35mm未満でスラグカットオフタッピングを実施し、上記LF精錬の段階で、スラグ中の質量パーセンテージでのFeOおよびMnOの含有量の合計が1%未満であり、(CaO+MgO+MnO)/(SiO
2+P
2O
5)が9超であり、式中、各物質がそれらの対応する質量パーセンテージを表し、上記介在物の有益な処理の段階で、MgおよびCaをワイヤ供給速度160~300m/分で同時に供給する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
ステップ(2)において、スラブ加熱温度が、
【数3】
を満たす℃単位のT
hであり、式中、各化学元素が、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表す、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
ステップ(3)において、初期圧延温度が、T
sr=0.92T
h~0.96T
hを満たすT
srであり、最終圧延温度が、
【数4】
を満たすT
frであり、式中、各化学元素は、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表し、上記初期圧延温度および上記最終圧延温度の単位が、どちらも℃である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
ステップ(3)において、シングルパス圧延圧下率が8~12%であり、累積圧下率が60%以上である、請求項9または13に記載の製造方法。
【請求項15】
ステップ(5)において、保持後に0.2~0.5℃/秒の冷却速度で空冷を実施する、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製品およびその製造方法に関し、特に、船体構造用鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中国経済の急速な発展に伴い、船舶の数も相応して大幅に増加している。同様に、船舶の数の増加に伴って、航行密度はますます高くなり、船舶間の衝突の可能性もますます高くなるであろう。
【0003】
衝突事故が船舶に起こると、船体構造の損傷、貨物の漏出、環境汚染、および死傷者などの悲惨な結果がもたらされることが多い。一般に、衝突中の船舶の巨大な質量および運動エネルギーによって、衝突部位の構造は、急速に弾性変形を超えて塑性変形段階に入り、裂け得る。衝突プロセスは、船舶の衝突によって生じた運動エネルギーが船体構造の変形および周囲の媒体の動きによって吸収されて初めて停止する。船体は、補強鋼板を溶接して形成される。鋼板の破壊および溶接接合部破損は、船体構造の破損において重要な役割を果たしており、構造物の破損メカニズムおよびエネルギー吸収能力に直接的に影響する。
【0004】
現在、船体用の既存の鋼の生産および開発においては、鋼板の耐衝突性が十分に考慮されておらず、そのため、船舶は、衝突時に十分にエネルギーを吸収することも客室の損傷に耐えることもできない。これに基づいて、本発明は、合理的な化学組成設計および生産プロセスの最適化により適切な強度特性、優れた衝撃靱性、および良好な破断および耐亀裂特性を有しつつ優れた耐衝突性および耐破損性を有する耐衝突破壊性船体構造用鋼を得ることを期待している。
【0005】
従来技術において、一部の研究者は、鋼板の耐衝突性を研究しているが、依然としていくつかの限界がある。
【0006】
例えば、中国特許出願公開第106086655号には、残留オーステナイトの最適化に有益な耐衝突性熱成形マルテンサイト鋼が開示されており、中炭素(0.1~0.35重量%)、高マンガン(1.5~3.5重量%)、および高アルミニウム(1.0~2.5重量%)の組成設計を採用している。伝統的な熱成形プロセスを採用することによって、鋼中の残留オーステナイトの含有量が増加しており、そのため、残留オーステナイトがオーステナイト粒界やラス束間に薄膜状に分布している。この材料は、1000MPa超の降伏強度、1550MPa超の引張強度、0.7以下の降伏比、16%超の伸び、および26000MPa%超の引張強度と伸びとの積を有する。
【0007】
中国特許出願公開第102286695号には、高炭素(0.14~0.18重量%)および中マンガン(0.8~1.3重量%)の組成設計を採用した高塑性および高靱性の超高強度鋼板およびその製造方法が開示されている。目標の特性を有する鋼板がTMCPおよび焼戻しプロセスによって得られ、鋼板の組織は、微細なラメラ間隔を有する焼戻しソルバイトである。この材料は、960~1080MPaの降伏強度、1020~1150MPaの引張強度、18~25%の伸び、および60J以上の-40℃での衝撃エネルギーを有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的のうちの1つは、耐衝突破壊性船体構造用鋼を提供することである。この鋼は、優れた強度および靱性を有するのみならず、良好な破断および耐亀裂特性、ならびに耐衝突性および耐破損性も有し、船体構築用および超大型船舶船体の構築用の鋼板を生産するために使用することができ、中国における船舶および海洋工学設備用の鋼の現在の開発要件を満たしており、非常に幅広い応用の見通しを有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明は、耐衝突破壊性船体構造用鋼を提供する。Feおよび不可避的不純物に加えて、上記鋼は、質量パーセンテージで以下の化学元素:
C:0.06~0.12%、Si:0.05~0.60%、Mn:1.30~1.70%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%、Mg:0.0005~0.003%、および0<Ca≦0.004%
をさらに含み、0.0005%≦Ca+Mg≦0.004%である。
【0010】
好ましくは、本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼は、質量パーセンテージで以下の化学元素:
C:0.06~0.12%、Si:0.05~0.60%、Mn:1.30~1.70%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%、Mg:0.0005~0.003%、0<Ca≦0.004%、ならびに残部Feおよび不可避的不純物
を有し、0.0005%≦Ca+Mg≦0.004%である。
【0011】
本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼において、すべての化学元素の設計原理は、具体的には以下の通りに示される。
C:本発明における船体構造用鋼は、超低Cの設計を採用しており、そのため、鋼板がCの格子間強化効果によって適切な強度を達成することを確保できる。さらに、超低Cの設計によって、過剰な炭化物の析出を防止することができ、それによって、鋼板の低温靱性および溶接性の低下を回避することができる。したがって、本発明では、Cの質量パーセンテージ含有量を0.06~0.12%に制御する。
【0012】
Si:Siは、鋼の製錬における一般的な軽質脱酸元素であり、特定の固溶強化効果を有する。本発明における船体構造用鋼では、Siの質量パーセンテージ含有量を0.05~0.60%に制御する。
【0013】
Mn:Mnは、低合金および高強度タイプの鋼における最も基本的な合金元素であり、固溶強化によって鋼の強度を改善し、それによって、元素Cの含有量低下により引き起こされる強度損失を補うことができる。しかしながら、鋼中の元素Mnの含有量が多過ぎるべきではないことに留意されたい。鋼中の元素Mnの含有量が多過ぎる場合、鋼板の中心位置における偏析および鋼の低温靱性の低下を引き起こし易くなる。これに基づいて、本発明における船体構造用鋼では、Mnの質量パーセンテージ含有量を1.30~1.70%に制御する。
【0014】
Al:Alは、脱酸のために鋼中に添加される元素であり、材料中のOの含有量を低下させることおよび時効性を改善することができる。さらに、鋼における元素Alの適度な添加は、結晶粒の微細化にさらに有益であり、それによって、強度および靱性が改善される。したがって、本発明における船体構造用鋼では、Alの質量パーセンテージ含有量を0.01~0.06%に制御する。
【0015】
Ti:Tiは、鋼中のN元素の含有量を効果的に抑制して、過度に高いN含有量による鋼の特性への悪影響を回避することができる強力なN固定元素である。同時に、TiおよびNによって形成されるTiN析出相は、スラブおよび鋼板の加熱中の過度の結晶粒成長を抑制することができる。したがって、本発明における船体構造用鋼では、Tiの質量パーセンテージ含有量を0.005~0.012%に制御する。
【0016】
Mg:Mgは、硫化物形態を効果的に改善し、介在物を微細化し、鋼板の耐食性を改善することができる。鋼中のMgの含有量が少な過ぎる場合、介在物を改質する効果を達成することができず、鋼中のMgの含有量が多過ぎる場合、タンディッシュノズルの内壁に堆積してノズル閉塞を引き起こすさらに高い融点を有するMgOおよびMgSなどの物質を形成し易い。したがって、本発明における船体構造用鋼では、Mgの質量パーセンテージ含有量を0.0005~0.003%に制御する。
【0017】
Ca:本発明における船体構造用鋼では、Ca処理によって、鋼中の硫化物の形態を制御することができ、鋼板の異方性を改善することができ、低温靱性を改善することができる。さらに、Caも本発明において重要な元素であり、その含有量をMgの含有量と適合させる必要がある。したがって、本発明における船体構造用鋼では、Caの質量パーセンテージ含有量を0<Ca≦0.004%に制御する。
【0018】
さらに、本発明における船体構造用鋼の特性を確保するためには、各化学元素の含有量を制御しながら、MgおよびCaの質量パーセンテージ含有量を0.0005%≦Ca+Mg≦0.004%を満たすようにさらに制御する必要があることに留意されたい。本発明では、カルシウムおよびマグネシウムの併用処理が採用されており、そのため、鋼中の介在物が改質されるため、応力集中および微小亀裂生成の可能性が低下し、鋼の特性の改善に有益である。
【0019】
好ましくは、本発明における船体構造用鋼は、質量パーセンテージで以下:
0<Nb≦0.04%、0<V≦0.05%、および0<B≦0.0005%
を満たすNb、V、およびBのうちの少なくとも1つをさらに含む。
【0020】
鋼の特性をさらに改善するために、3つの元素Nb、V、およびBのうち少なくとも1つを鋼中に添加することもでき、これらの元素は、鋼中で以下の効果を有する。
【0021】
Nb:Nbは、強力な炭窒化物形成元素であり、強い結晶粒微細化効果を有する。鋼中に適量のNbを添加することによって、均一な結晶粒径を得ることができ、加熱プロセスにおける一部の結晶粒の過度な成長による混晶組織の形成ならびに強度および靱性および耐食性の悪化を回避することができる。したがって、本発明における船体構造用鋼では、Nbの質量パーセンテージ含有量を0<Nb≦0.04%に制御することができる。
【0022】
V:Vは、CおよびNと一緒に微細なVNまたはV(CN)析出結晶粒を形成し、それによって、鋼の強化に寄与することができる。しかしながら、鋼中のVの含有量が多過ぎるべきではないことに留意されたい。鋼中のVの含有量が多過ぎると、製造コストが顕著に上昇する。したがって、本発明における船体構造用鋼では、Vの質量パーセンテージ含有量を0<V≦0.05%に制御することができる。
【0023】
B:Bは、鋼の焼入性を改善することができ、鋼の低温亀裂特性に影響を与える。本発明における船体構造用鋼では、Bの質量パーセンテージ含有量を0<B≦0.0005%に制御することができる。
【0024】
上述の元素Nb、V、およびBの添加は、材料のコストを増加させることに留意されたい。特性およびコスト管理を総合的に考慮することによって、本発明の技術的解決策では、好ましくは、これらの要素のうちの1つ以上を添加することができる。
【0025】
好ましくは、本発明における船体構造用鋼は、質量パーセンテージで以下:
Cr+Ni+Mo+Cu≦0.5%
を満たすCr、Ni、Mo、およびCuのうちの少なくとも1つをさらに含む。
【0026】
本発明の上述の技術的解決策では、上述の4つの合金元素Cr、Ni、Mo、およびCuはすべて、固溶強化において効果的に役割を果たすことができる。厚さの大きい鋼板の場合、鋼の強度および靱性は、鋼中に元素Cr、Ni、Mo、およびCuを適度に添加することによって効果的に改善することができる。したがって、本発明の技術的解決策では、好ましくは、上述の元素のうちの少なくとも1つを添加することができ、その質量パーセンテージ含有量は、Cr+Ni+Mo+Cu≦0.5%を満たす。
【0027】
好ましくは、本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼では、不可避的不純物中、PおよびSの質量パーセンテージでの含有量は、以下:
P≦0.015%およびS≦0.0040%
のうちの少なくとも1つを満たす。
【0028】
PおよびSは、どちらも鋼中の不可避的不純物元素であり、鋼中の元素PおよびSの含有量が多過ぎる場合、偏析および介在物などの欠陥を引き起こし易く、溶接性および衝撃靱性を悪化させ易い。より良好な特性およびより高い品質を有する鋼を得るためには、鋼中の不純物元素の含有量を許容可能な技術条件下で可能な限り減少させるべきである。したがって、本発明における船体構造用鋼では、好ましくは、P≦0.015%およびS≦0.0040%となるように制御することができ、介在物の有益な改質技術によって介在物を球状化し、それらのサイズを微細化し、それらの均一分布を達成することが必要であり、その結果、鋼板の強度および靱性が改善される。
【0029】
好ましくは、本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼では、化学元素の質量パーセンテージでの含有量は、以下の条件:
1.9≦α≦2.1(ここで、α=6.1C+0.9Mn+1.5V);
4.1≦β≦6.8(ここで、
【0030】
【数1】
)のうちの少なくとも1つをさらに満たし、式中、各化学元素は、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表す。
【0031】
本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼では、好ましくは、各化学元素の質量パーセンテージ含有量を制御しながら、鋼中の化学元素の質量パーセンテージ含有量を以下の条件:
1.9≦α≦2.1および4.1≦β≦6.8
のうちの少なくとも1つを満たすようにさらに制御することができる。αの値を上述の範囲内に設定することによって、C、Mn、およびVの固溶強化効果および析出強化効果を十分に利用することができ、そのため、鋼は良好な強度および塑性を有する。βの値を上述の範囲内に設定することによって、フェライトの結晶粒径が十分に微細化されることを確保でき、そのため、鋼は良好な強度、靱性、および塑性、ならびに耐衝突性および耐破壊性を有する。
【0032】
好ましくは、本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼のミクロ組織は、フェライト+パーライトであり、ここで、フェライト相の体積分率は、鋼が良好な強度および靱性、ならびに耐衝突性および耐破壊性を有することを確保するために、90%以上である。
【0033】
好ましくは、本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼は、315MPa以上の降伏強度、440~570MPaの引張強度、200J以上の-60℃での衝撃エネルギー、1.5mm以上の-60℃でのCTOD(亀裂先端開口変位)、-70℃以下のNDTT(無延性遷移温度)、18%以上の一様伸びAg、および38%以上の全伸びA5を有する。
【0034】
本発明の別の目的は、耐衝突破壊性船体構造用鋼の製造方法を提供することである。この製造方法は、生産プロセスが単純であり、得られる船体構造用鋼は、優れた強度および靱性を有するのみならず、良好な耐衝突性および耐破壊性、ならびに破断および耐亀裂特性も有する。この鋼は、315MPa以上の降伏強度、440~570MPaの引張強度、200J以上の-60℃での衝撃エネルギー、1.5mm以上の-60℃でのCTOD、-70℃以下のNDTT、18%以上の一様伸びAg、および38%以上の全伸びA5を有し、良好な応用の見通しおよび高い応用価値を有する。
【0035】
上述の目的を達成するために、本発明は、
(1)製錬および連続鋳造ステップ、
(2)加熱ステップ、
(3)制御された圧延ステップ、
(4)空冷ステップ、ならびに
(5)焼きならし熱処理ステップ:℃単位の焼きならし温度Tqは、
【0036】
【数2】
(式中、各化学元素は、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表す)を満たし、分単位の保持時間T
hは、T
h=1.5×t(式中、tは、mm単位の鋼板の厚さを表す)を満たす
を含む上述の耐衝突破壊性船体構造用鋼の製造方法を提供する。
【0037】
本発明における製造方法のステップ(5)において、焼きならし温度:
【0038】
【数3】
に制御することによって、鋼板の完全なオーステナイト化が確保されるのみならず、より高い温度での鋼板のオーステナイト化も促されて、炭窒化物の十分な固溶が実現され、鋼中の合金の均一な分布が促進され、それによって、偏析により形成される微視的な電気化学的腐食が緩和される。
【0039】
これに対応して、本発明における上述のステップ(5)において、保持時間Th=1.5×tに制御するが、これは主に、鋼板を十分にオーステナイト化し、かつ鋼中の元素Cおよびマイクロアロイ元素を均質化するためである。
【0040】
好ましくは、本発明におけるステップ(1)において、溶銑前処理、転炉製錬、LF精錬、RH精錬、介在物の有益な処理、および連続鋳造を順次実施し、介在物の有益な処理の段階で、CaSおよびMnSでコーティングされたコアとしてMgO+Al2O3を有するサイズ0.2~2.5μmの複合介在物を形成し、このサイズ範囲内の複合介在物の数は、介在物総数の95%以上を占める。
【0041】
好ましくは、ステップ(1)において、転炉製錬の段階で、スラグ層の厚さ35mm未満でスラグカットオフタッピングを実施し、LF精錬の段階で、スラグ中の質量パーセンテージでのFeOおよびMnOの含有量の合計は1%未満であり、(CaO+MgO+MnO)/(SiO2+P2O5)は9超であり、式中、各物質はそれらの対応する質量パーセンテージを表し、介在物の有益な処理の段階で、MgおよびCaをワイヤ供給速度160~300m/分で同時に供給する。
【0042】
本発明における製造方法のステップ(1)において、転炉製錬の段階で、スラグカットオフタッピングを実施し、スラグ層の厚さを35mm未満になるように制御し、その結果、鋼取鍋内のスラグの酸化性を低下させることができ、酸素活量の増加および溶鋼の再リン化を防止することができ、その後の白色スラグの生成および介在物の改質が促進される。
【0043】
これに対応して、LF精錬の段階で、(CaO+MgO+MnO)/(SiO2+P2O5)(式中、各物質はその質量パーセンテージで置き換えられる)を9超になるように制御し、その結果、スラグが良好な脱リンおよび脱硫能力を有することを確保できる。鋼取鍋内の白色スラグ生成では、スラグ中の質量によるFeOおよびMnOの含有量の合計を1%未満になるように制御し、これによって、溶融スラグの還元性および完全な脱硫を確保し、それによって、溶鋼中の介在物の含有量を減少させ、鋼の強度および靱性、ならびに耐食性を改善することができる。
【0044】
好ましくは、ステップ(2)において、スラブ加熱温度は、
【0045】
【数4】
を満たす℃単位のT
hであり、式中、各化学元素は、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表す。
【0046】
ステップ(2)において、マイクロアロイ炭窒化物の十分な固溶を確保するために、スラブ加熱温度Thを上述の値に設定し、それによって、合金元素の均質化を促進し、鋼中の巨視的および微視的偏析を緩和し、異なる相および成分間の電位差の違いによる腐食一次セルの形成を低減し、したがって、鋼板の耐食性を改善する。
【0047】
好ましくは、ステップ(3)において、初期圧延温度は、Tsr=0.92Th~0.96Thを満たすTsrであり、最終圧延温度は、
【0048】
【数5】
を満たすT
frであり、ここで、初期圧延温度および最終圧延温度の単位は、どちらも℃であり、各化学元素は、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表す。
【0049】
上述の技術的解決策では、初期圧延温度Tsr=0.92Th~0.96Thに制御する主な理由は、鋼板をより高い温度で再結晶領域において圧延して十分に再結晶させることで、均一かつ等軸のオーステナイト結晶粒を形成することを確保することである。最終圧延温度
【0050】
【数6】
(式中、各化学元素は、その化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値で置き換えられる)に制御し、それによって、鋼板を非静的再結晶温度よりも高い温度で圧延して混晶を回避することを確保できるのみならず、圧延プロセスにおける十分な冷却スペースが存在することも確保できる。
【0051】
好ましくは、ステップ(3)において、シングルパス圧延圧下率は8~12%であり、累積圧下率は60%以上である。
【0052】
シングルパス圧延圧下率は8~12%に制御されるが、これは主に、鋼板が各パスで十分な再結晶駆動力を有すること、および鋼板の結晶粒を均質化して元のオーステナイトの結晶粒径を圧延後に25~30μmに保つという条件を満たすのに十分な圧延パスとなることを確保するためである。上述の(3)のステップにおいて、累積圧下率は60%以上になるように制御されるが、これは主に、十分な再結晶が鋼板のコアで起こって十分な均質化を達成することを確保し、それによって、コアの強度および靱性、ならびに破断および耐亀裂特性を確保するためである。
【0053】
好ましくは、上述のステップ(5)において、空冷を保持後に実施し、空冷の冷却速度は0.2~0.5℃/秒である。これは主に、鋼板において90%超のフェライト相比率を有するミクロ組織を形成するためである。
【0054】
従来技術と比較して、本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼およびその製造方法は、以下の利点および有益な効果を有する。
【0055】
本発明は、鋼板が適切な強度特性、優れた衝撃靱性、ならびに良好な破断および耐亀裂特性を有しつつ、優れた耐衝突性および耐破損性を有するように、組成設計、組織制御、および生産プロセスなどの側面から設計されている。
【0056】
従来技術と比較して、本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼は、独自の組成設計技術、純鋼製錬技術、介在物の有益な制御技術、鋼均質化技術、ならびに結晶粒径制御およびミクロ組織制御技術を採用しており、それらによって、315MPaの強度要件、良好な低温衝撃靱性、破断および耐亀裂特性、ならびに優れた耐衝突破壊性を満たす鋼を生産することができ、鋼は、組織、組成、およびプロセス設計において従来技術とは大きく異なる。
【0057】
生産された本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼は、315MPa以上の降伏強度、440~570MPaの引張強度、200J以上の-60℃での衝撃エネルギー、1.5mm以上の-60℃でのCTOD、-70℃以下のNDTT、18%以上の一様伸びAg、および38%以上の全伸びA5を有し、超大型タンカー、液化石油ガス運搬船、液化天然ガス運搬船、ケミカルタンカー、およびコンテナ船などの超大型船舶の船体の構築に使用することができ、そのため、船舶の安全な運航を確保し、原油および化学薬品の漏出によって引き起こされる汚染を減少させることができ、非常に幅広い応用の見通しを有する。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、具体的な実施形態と組み合わせて、本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼およびその製造方法をさらに説明および記載する。しかしながら、説明および記載は、本発明の技術的解決策に対する不適切な限定を構成するものではない。
【0059】
実施形態1~6および比較例1
実施形態1~6の耐衝突破壊性船体構造用鋼および比較例1の比較鋼は、どちらも以下のステップによって製造する。
(1)以下の表1-1および表1-2に示される化学組成に従って製錬および鋳造を実施するステップ:溶銑前処理、転炉製錬、LF精錬、RH精錬、介在物の有益な処理、および連続鋳造を順次実施し、介在物の有益な処理の段階で、CaSおよびMnSでコーティングされたコアとしてMgO+Al2O3を有するサイズ0.2~2.5μmの複合介在物を形成し、このサイズ範囲内の複合介在物の数は、介在物総数の95%以上を占める。
転炉製錬の段階では、スラグ層の厚さ35mm未満でスラグカットオフタッピングを実施し、LF精錬の段階で、質量によるスラグ中のFeOおよびMnOの含有量の合計を1%未満になるように制御し、(CaO+MgO+MnO)/(SiO2+P2O5)は9超であり、式中、各物質はその質量パーセンテージで置き換えられ、介在物の有益な処理の段階で、MgおよびCaをワイヤ供給速度160~300m/分で同時に供給する。
(2)加熱ステップ:スラブ加熱温度を℃単位の
【0060】
【数7】
に制御する。
(3)制御された圧延ステップ:初期圧延温度をT
sr=0.92T
h~0.96T
hに制御し、最終圧延温度を
【0061】
【数8】
に制御し、初期圧延温度および最終圧延温度の単位は、どちらも℃であり、シングルパス圧延圧下率は8~12%であり、累積圧下率は60%以上である。
(4)空冷ステップ:ならびに
(5)焼きならし熱処理ステップ:焼きならし温度を℃単位の
【0062】
【数9】
に制御し、保持時間を分単位のT
h=1.5×t(式中、tは、mm単位の鋼板の厚さを表す)に制御する。保持が完了した後に空冷を実施し、空冷の冷却速度を0.2~0.5℃/秒に制御する。
【0063】
本発明では、実施形態1~6の耐衝突破壊性船体構造用鋼の化学組成設計および関連するプロセスが、すべて本発明の設計基準要件を満たすことに留意されたい。しかしながら、比較例1の比較鋼は、化学組成設計において本発明の設計基準要件を満たさないパラメータを有する。
【0064】
実施形態1~6の耐衝突破壊性船体構造用鋼および比較例1の比較鋼のすべての化学元素の質量パーセンテージは、表1-1および表1-2に一覧にされている。
【0065】
【0066】
【0067】
表1-2において、α=6.1C+0.9Mn+1.5V、および
【0068】
【数10】
であり、式中、各化学元素は、その化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値で置き換えられる。
【0069】
表2には、上述のプロセスステップにおける実施形態1~6の耐衝突破壊性船体構造用鋼および比較例1の比較鋼の具体的なプロセスパラメータが一覧にされている。
【0070】
【0071】
得られた実施形態1~6の耐衝突破壊性船体構造用鋼および比較例1の比較鋼をそれぞれサンプリングする。実施形態および比較例の完成した製品板を、引張試験、シャルピーVノッチ衝撃試験、CTOD試験(鋼板の破壊靱性を試験するための指標)、およびNDTT特性確認試験(鋼板の耐亀裂特性を測定するための重要な指標)にかけ、実施形態および比較例の試験結果を表3に一覧にする。
【0072】
関連する測定方法は、以下の通りに示される。
引張試験:GB/T228.1に基づいて、厚さ50mm未満の鋼板については全厚板状引張試験片を採用し、厚さ50mm超の鋼板については棒状引張試験片を採用することによって、室温引張特性を試験する。
シャルピーVノッチ衝撃試験:GB/T229に基づいて、シャルピーV型衝撃試験片を採用することによって、板厚のt/4の位置における-60℃での衝撃特性を試験する。
CTOD試験:BS7448-1に基づいて、全厚CTOD試験片を採用することによって、-60℃での材料の破壊靱性を試験する。
NDTT特性確認試験:GB/T6803-2008に基づいて、試験片P3を採用することによって、材料の無延性遷移温度を試験する。
【0073】
表3には、実施形態1~6の耐衝突破壊性船体構造用鋼および比較例1の比較鋼の試験結果が一覧にされている。
【0074】
【0075】
表3から、実施形態1~6の耐衝突破壊性船体構造用鋼の総合特性は、比較例1の比較鋼の総合特性よりも明らかに優れていることが分かる。比較鋼と比較して、実施形態1~6の耐衝突破壊性船体構造用鋼は、一様伸びAgおよび全伸びA5が50%以上大幅に増加している。
【0076】
表3に示されるように、比較例1の比較鋼と比較して、実施形態1~6の耐衝突破壊性船体構造用鋼は、良好な強度および靱性、破断および耐亀裂特性、ならびに耐衝突性および耐破損性を有し、実施形態1~6の耐衝突破壊性船体構造用鋼は、330~360MPaの降伏強度、460~470MPaの引張強度、205J以上の-60℃での衝撃エネルギー、1.51mm以上の-60℃でのCTOD、-75℃以下のNDTT、18.5%以上の一様伸びAg、および38.4%以上の全伸びA5を有する。
【0077】
以上のことから、合理的な化学組成設計およびプロセス最適化によって、本発明における耐衝突破壊性船体構造用鋼が、適切な強度特性、優れた衝撃靱性、良好な破断および耐亀裂特性、ならびに優れた耐衝突性および耐破損性を同時に有し得ることが分かる。耐衝突破壊性船体構造用鋼は、超大型タンカー、液化石油ガス運搬船、液化天然ガス運搬船、ケミカルタンカー、およびコンテナ船などの超大型船舶の船体の構築に効果的に適用することができ、非常に幅広い応用の見通しを有する。
【0078】
本発明における技術的特徴の組み合わせ方は、本発明の特許請求の範囲に記載されている組み合わせ方または特定の実施形態に記載されている組み合わせ方に限定されることはなく、本発明に記載されているすべての技術的特徴は、それらの間に矛盾がない限り、どのような手法でも自由に組み合わせるまたは組み込むことができることに留意されたい。
【0079】
さらに、先に一覧にされている実施形態が本発明の特定の実施形態にすぎないことに留意されたい。明らかではあるが、本発明は上述の実施形態に限定されることはなく、当業者であれば、本発明の保護範囲内に含まれる同様の変更または変形形態を、本発明により開示されている内容から直接的に得るまたは容易に想到することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐衝突破壊性船体構造用鋼であって、Feおよび不可避的不純物に加えて、上記鋼が、質量パーセンテージで以下の化学元素:
C:0.06~0.12%、Si:0.05~0.60%、Mn:1.30~1.70%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%、Mg:0.0005~0.003%、および0<Ca≦0.004%
をさらに含み、0.0005%≦Ca+Mg≦0.004%である、耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項2】
上記鋼が、質量パーセンテージで以下の化学元素:
C:0.06~0.12%、Si:0.05~0.60%、Mn:1.30~1.70%、Al:0.01~0.06%、Ti:0.005~0.012%、Mg:0.0005~0.003%、0<Ca≦0.004%、ならびに残部Feおよび不可避的不純物
を有し、0.0005%≦Ca+Mg≦0.004%である、請求項1に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項3】
上記鋼が、質量パーセンテージで以下:
0<Nb≦0.04%、0<V≦0.05%、および0<B≦0.0005%
を満たすNb、V、およびBのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1または2に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項4】
上記鋼が、質量パーセンテージで以下:
Cr+Ni+Mo+Cu≦0.5%
を満たすCr、Ni、Mo、およびCuのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1または2に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項5】
上記不可避的不純物中のPおよびSの質量パーセンテージでの含有量が、以下:
P≦0.015%およびS≦0.0040%
のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1または2に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項6】
上記化学元素の質量パーセンテージでの含有量が、以下の条件:
1.9≦α≦2.1(ここで、α=6.1C+0.9Mn+1.5V);
4.1≦β≦6.8(ここで、
【数1】
)のうちの少なくとも1つをさらに満たし、式中、各化学元素が、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表す、請求項3に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項7】
上記鋼が、フェライト+パーライトのミクロ組織を有し、フェライト相の体積分率が90%以上である、請求項1または2に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項8】
上記鋼が、315MPa以上の降伏強度、440~570MPaの引張強度、200J以上の-60℃での衝撃エネルギー、1.5mm以上の-60℃でのCTOD、-70℃以下のNDTT、18%以上の一様伸びAg、および38%以上の全伸びA5を有する、請求項1または2に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼。
【請求項9】
請求項
1に記載の耐衝突破壊性船体構造用鋼の製造方法であって、
(1)製錬および連続鋳造ステップ、
(2)加熱ステップ、
(3)制御された圧延ステップ、
(4)空冷ステップ、ならびに
(5)焼きならし熱処理ステップ:℃単位の焼きならし温度T
qは、
【数2】
(式中、各化学元素は、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表す)を満たし、分単位の保持時間T
hは、T
h=1.5×t(式中、tは、mm単位の鋼板の厚さを表す)を満たす
を含む製造方法。
【請求項10】
ステップ(1)において、溶銑前処理、転炉製錬、LF精錬、RH精錬、介在物の有益な処理、および連続鋳造を順次実施し、上記介在物の有益な処理の段階で、CaSおよびMnSでコーティングされたコアとしてMgO+Al
2O
3を有するサイズ0.2~2.5μmの複合介在物を形成し、このサイズ範囲内の複合介在物の数が、介在物総数の95%以上を占める、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
ステップ(1)において、上記転炉製錬の段階で、スラグ層の厚さ35mm未満でスラグカットオフタッピングを実施し、上記LF精錬の段階で、スラグ中の質量パーセンテージでのFeOおよびMnOの含有量の合計が1%未満であり、(CaO+MgO+MnO)/(SiO
2+P
2O
5)が9超であり、式中、各物質がそれらの対応する質量パーセンテージを表し、上記介在物の有益な処理の段階で、MgおよびCaをワイヤ供給速度160~300m/分で同時に供給する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
ステップ(2)において、スラブ加熱温度が、
【数3】
を満たす℃単位のT
hであり、式中、各化学元素が、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表す、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
ステップ(3)において、初期圧延温度が、T
sr=0.92T
h~0.96T
hを満たすT
srであり、最終圧延温度が、
【数4】
を満たすT
frであり、式中、各化学元素は、対応する化学元素の質量パーセンテージにおけるパーセント記号の前にある数値を表し、上記初期圧延温度および上記最終圧延温度の単位が、どちらも℃である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
ステップ(3)において、シングルパス圧延圧下率が8~12%であり、累積圧下率が60%以上である、請求項9または13に記載の製造方法。
【請求項15】
ステップ(5)において、保持後に0.2~0.5℃/秒の冷却速度で空冷を実施する、請求項9に記載の製造方法。
【国際調査報告】