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特表2024-505966BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体、及びその作製方法並びにその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体、及びその作製方法並びにその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20240201BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240201BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240201BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240201BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240201BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240201BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240201BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240201BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240201BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240201BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240201BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240201BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240201BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C12N1/21
C12N15/63 Z
C07K16/28
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12P21/02 C
A61P37/06
A61P35/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 G
A61K39/395 U
A61K47/68
A61P43/00 107
G01N33/53 D
G01N33/531 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546445
(86)(22)【出願日】2022-05-05
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 CN2022090931
(87)【国際公開番号】W WO2022267702
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】202110704255.6
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521183028
【氏名又は名称】益科思特(北京)医葯科技▲發▼展有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】ユェン チンアン
(72)【発明者】
【氏名】バイ リーリー
(72)【発明者】
【氏名】モン チンウー
(72)【発明者】
【氏名】ヂャオ リークン
(72)【発明者】
【氏名】リー イージャ
(72)【発明者】
【氏名】リー イェンフー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG20
4B064CA10
4B064DA01
4B065AB04
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC03
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085CC05
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045BA01
4H045BA40
4H045BA72
4H045CA11
4H045DA75
4H045DA83
(57)【要約】
本発明は、遺伝子
1689840495729_10
抗体の技術分野に関するものであり、具体的には、BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体、及びその作製方法並びにその使用に関するものである。本発明は、BCMA及びCD3に同時に結合でき、特異的な標的作用を有し、指向性免疫反応を効率的に誘発できる二重特異性抗体を提供する。当該二重特異性抗体は、抗CD3抗体及び抗BCMA抗体の生物学的機能を十分に保持しており、一つの二重特異性抗体分子がBCMAとCD3の標的結合の優れた生物学的機能を同時に有することを実現しており、腫瘍細胞と免疫エフェクター細胞との架け橋となり、免疫エフェクター細胞及び指向性免疫反応を効果的に誘起でき、免疫細胞の腫瘍細胞に対する殺傷効果を有意に向上し、高い標的細胞への殺傷効率を有するとともに、ADCC効果を最小限に抑え、高い安全性を有し、腫瘍の免疫治療において良好な使用見通しがある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
B細胞成熟抗原BCMAに結合する第1のドメインと、T細胞表面抗原CD3に結合する第2のドメインとを含み、
前記第1のドメインと前記第2のドメインとがリンカーペプチドを介して連結され、
前記第1のドメインは、
CDR1、CDR2、CDR3がそれぞれ配列番号4~6で示されるアミノ酸配列を有し、或いは、それぞれ配列番号4~6で示されるアミノ酸配列を参照配列とした、下記の突然変異から選ばれる1種の突然変異、又は多種の突然変異の組み合わせを含むアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、
(1)配列番号4で示されるアミノ酸配列の1番目のSからP又はKへの突然変異、
(2)配列番号4で示されるアミノ酸配列の2番目のYからH、D、G、M又はSへの突然変異、
(3)配列番号4で示されるアミノ酸配列の3番目のAからNへの突然変異、
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列の5番目のSからH、N、A又はMへの突然変異、
(5)配列番号5で示されるアミノ酸配列の1番目のGからV又はTへの突然変異、
(6)配列番号5で示されるアミノ酸配列の3番目のIからHへの突然変異、
(7)配列番号5で示されるアミノ酸配列の4番目のIからD又はAへの突然変異、
(8)配列番号5で示されるアミノ酸配列の5番目のFからHへの突然変異、
(9)配列番号5で示されるアミノ酸配列の7番目のTからKへの突然変異、及び
(10)配列番号6で示されるアミノ酸配列の4番目のFからLへの突然変異、
CDR1、CDR2、及びCDR3がそれぞれ配列番号1~3で示されるアミノ酸配列を有し、或いは、それぞれ配列番号1~3で示されるアミノ酸配列を参照配列とした、下記の突然変異から選ばれる1種の突然変異、又は多種の突然変異の組み合わせを含むアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の5番目のSからN、R又はTへの突然変異、
(2)配列番号3で示されるアミノ酸配列の7番目のLからQ、V又はAへの突然変異、
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列の8番目のIからS、A、R又はPへの突然変異、
(4)配列番号3で示されるアミノ酸配列の10番目のYからM、L、W又はTへの突然変異、及び
(5)配列番号3で示されるアミノ酸配列の11番目のVからL又はQへの突然変異、
を含む、ことを特徴とするBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体。
【請求項2】
BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
B細胞成熟抗原BCMAに結合する第1のドメインと、T細胞表面抗原CD3に結合する第2のドメインと、を含み、
前記第1のドメインと前記第2のドメインとがリンカーペプチドを介して連結され、
前記第1のドメインは、
CDR1が配列番号4、7、8、9のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号5、10のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号6、11のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、
CDR1が配列番号1、12のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号3、13、14、15、16のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、を含み、
好ましくは、前記第1のドメインの重鎖可変領域のCDRは、
(1)CDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(2)CDR1が配列番号7で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(3)CDR1が配列番号8で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有するもの、及び
(4)CDR1が配列番号9で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有するものからのいずれか1種であり、
前記第1のドメインの軽鎖可変領域のCDRは、
(1)CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(2)CDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(3)CDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号14で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(4)CDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するもの、及び
(5)CDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するものからのいずれか1種であり、
より好ましくは、前記第1のドメインの重鎖可変領域のCDR及び軽鎖可変領域のCDRは、
(1)重鎖可変領域のCDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域のCDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(2)重鎖可変領域のCDR1が配列番号8で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域のCDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(3)重鎖可変領域のCDR1が配列番号9で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域のCDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するもの、及び
(4)重鎖可変領域のCDR1が配列番号8で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域のCDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するものからのいずれか1種である、ことを特徴とするBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体。
【請求項3】
前記第1のドメインの重鎖可変領域が配列番号17、及び19~21のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号18、及び22~27のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記の配列と比べて、前記重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が、以下の2つの特徴の少なくとも1つを有し、a)同じ抗原決定基に結合すること、及びb)配列の同一性が70%、80%、85%、90%、97%、98%又は99%より大きいというアミノ酸配列を有すること、
好ましくは、前記第1のドメインの重鎖可変領域が配列番号17で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号18で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号22で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖可変領域が配列番号19で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号27で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖可変領域が配列番号21で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号25で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号26で示されるアミノ酸配列を有する、ことを特徴とする請求項2に記載のBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体。
【請求項4】
前記第1のドメインは、ジスルフィド結合を介して連結された2つの完全な重鎖-軽鎖ペアであり、
好ましくは、前記重鎖のFc断片は、ヒト又はヒト化抗体のFc断片であり、前記ヒト又はヒト化抗体は、IgG1、IgG2、IgA、IgE、IgM、IgG4又はIgDである、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体。
【請求項5】
前記第1のドメインの重鎖が配列番号32で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号33で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖が配列番号49で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号42で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖が配列番号50で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号44で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖が配列番号51で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号46で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖が配列番号52で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号48で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記配列と比べて、前記重鎖、軽鎖が、以下の2つの特徴の少なくとも1つを有し、a)同じ抗原決定基に結合すること、及びb)配列の同一性が70%、80%、85%、90%、97%、98%又は99%より大きいというアミノ酸配列を有する、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体。
【請求項6】
前記第2のドメインの重鎖可変領域が配列番号28で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号29で示されるアミノ酸配列を有し、
好ましくは、第2のドメインの軽鎖可変領域と重鎖可変領域とがリンカーペプチドを介して一本鎖抗体となるように連結され、前記一本鎖抗体が配列番号31で示されるアミノ酸配列を有する、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体。
【請求項7】
前記第2のドメインは2つの一本鎖抗体を含み、
前記二重特異性抗体は、
(1)前記第2のドメインの2つの一本鎖抗体のC端が、それぞれ、リンカーペプチドを介して前記第1のドメインの2本の重鎖のN端に連結すること、及び
(2)前記第2のドメインの2つの一本鎖抗体のN端が、それぞれ、リンカーペプチドを介して前記第1のドメインの2本の重鎖のC端に連結することのいずれか1種によって連結された対称構造であり、
好ましくは、前記リンカーペプチドのアミノ酸配列は(GGGGX)n(ここで、XがGly又はSerであり、nが1~4の自然数である)であり、
より好ましくは、前記リンカーペプチドのアミノ酸配列は、配列番号30で示されるものである、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体。
【請求項8】
前記第1のドメインの重鎖は、リンカーペプチドを介して第2のドメインと連結した後、配列番号34または35で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖は、配列番号33で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖は、リンカーペプチドを介して第2のドメインと連結した後、配列番号41で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖は、配列番号42で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖は、リンカーペプチドを介して第2のドメインと連結した後、配列番号43で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖は、配列番号44で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖は、リンカーペプチドを介して第2のドメインと連結した後、配列番号45で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖は、配列番号46で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、前記第1のドメインの重鎖は、リンカーペプチドを介して第2のドメインと連結した後、配列番号47で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖は、配列番号48で示されるアミノ酸配列を有する、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体をコードする核酸。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸を含有する生体材料であって、組換えDNA、発現カセット、ベクター、宿主細胞、組換え菌又は細胞株を含む前記生体材料。
【請求項11】
前記第1のドメイン及び前記第2のドメインのコード遺伝子を含む発現ベクターを構築すること、前記発現ベクターを宿主細胞に導入し、前記二重特異性抗体を発現する宿主細胞を得ること、及び宿主細胞を培養し、分離精製によって前記二重特異性抗体を得ること、を含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体の作製方法。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載のBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体、請求項9に記載の核酸、又は請求項10に記載の生体材料の使用であって、
(1)BCMAが発現するB細胞関連疾患を診断、予防又は治療するための医薬品の製造における使用、
(2)BCMAを標的とした疾患を診断、予防又は治療するための医薬品の製造における使用、
(3)BCMAが発現する細胞を殺傷するための医薬品の製造における使用、
(4)BCMA及び/又はCD3の検出試薬の製造における使用、及び
(5)CAR-T療法に適用される関連試薬の製造における使用
のいずれか1種であり、
好ましくは、前記BCMAが発現するB細胞関連疾患がB細胞関連腫瘍、B細胞による自己免疫疾患を含むことを特徴とする前記使用。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載のBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体を含む多重特異性抗体、融合タンパク質、免疫毒素、医薬品又は検出試薬。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本願は、2021年6月24日に出願された発明の名称が「BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体、及びその作製方法並びにその使用」である中国特許出願第202110704255.6号に基づき優先権を主張し、引用によりその全内容を本願に援用する。
【技術分野】
【0002】
本願は、遺伝子組換え抗体の技術分野に関するものであり、具体的には、BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体、及びその作製方法並びにその使用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
モノクローナル抗体は、臨床で腫瘍治療、免疫疾患治療及び抗感染治療に用いられるものである。その中で、腫瘍の治療は現在モノクローナル抗体が最も広く使用されている分野であり、モノクローナル抗体による腫瘍の治療は、疾患細胞の特異的ターゲットに対して免疫系を刺激して標的細胞を殺傷する免疫療法である。モノクローナル抗体に基づいて、さらに薬効を向上させ、毒性や副作用を低減させるために、モノクローナル抗体に基づく新たな抗体医薬品、例えば抗体薬物複合体(Antibody drug conjugate, ADC)、二重特異性抗体(bispecific antibody、 bsAb)及びCAR-T (chimeric antigen receptor T cells)等の新規なタンパク質医薬品や細胞医薬品が急速に発展されている。その中で、二重特異性に基づいて構築された細胞架橋(cell-bridging)二重特異性抗体は、その免疫T細胞及び標的のがん細胞に連結する能力のため、殺傷活性及び特異性が著しく向上し、画期的な臨床的価値があるものとなり、特に注目されている。多発性骨髄腫について、BCMAを標的とする上記の特性を有する細胞架橋二重特異性抗体は、抗体の治療効果を改善するための開発対象の一つであり、抗体工学の研究分野のホットスポットになっている。
【0004】
T細胞表面のCD3分子は、δ、ε、γ、ζの4つのサブユニットから構成されたものであり、その分子量が、それぞれ、18.9kDa、23.1kDa、20.5kDa及び18.7kDaであり、その長さが、それぞれ、171、207、182、164個のアミノ酸残基である。それらは、6本のペプチド鎖を形成し、常にT細胞受容体(T cell receptor、TCR)と密接に結合して8本のペプチド鎖を含むTCR-CD3複合体を形成し、その構造模式図を図1Aに示す。この複合体は、T細胞の活性化、シグナル伝達、及びTCR構造の安定化といった機能を有する。CD3細胞質ドメインには、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif、ITAM)が含まれ、TCRがMHC(major histo-compatibility complex)分子によって提示されたペプチド抗原を認識して結合するため、CD3におけるITAMの保守的な配列内のチロシン残基がT細胞内のチロシンプロテインキナーゼp56lckによりりん酸化され、その後、SH2(Scr homology 2)ドメインを含有する他のチロシンプロテインキナーゼ(例えばZAP-70)を動員する。ITAMのリン酸化及びZAP-70との結合は、T細胞の活性化シグナル伝達プロセスの初期段階での重要な生化学反応の1つである。このため、CD3分子の機能は、TCRを介した抗原認識による活性化シグナルを伝達することである。
【0005】
BCMA(即ち、B-細胞成熟抗原、TNFRSF17、CD269)は、分化した形質細胞で優先的に発現する腫瘍壊死(TNF)受容体スーパーファミリーに属する非グリコシル化I型膜貫通型蛋白質であり、B細胞の成熟、成長、及び生存に関与するものである。BCMAは最初、ヒト成熟Bリンパ球のゴルジ体内の内在性膜タンパク質、即ち細胞内タンパク質として報告され、BCMAがB細胞の発育やホメオスタシスに重要な役割を果たしているように思われることが示されている。
【0006】
BCMAの発現はB細胞系統に限られ、そして主に形質細胞や形質芽細胞(図1のB)に存在し、ある程度でメモリーB細胞に存在するが、実際には末梢のB細胞に存在しない。BCMAは、多発性骨髄腫(MM)細胞にも発現する。BCMAは、そのファミリーメンバーである膜貫通活性化剤及びサイクロフィリンリガンドインタラクタ(TACI)及びTNFファミリー受容体(BAFF-R)のB細胞活性化因子とともに、体液性免疫、B細胞の発育、及びホメオスタシスのさまざまな側面といったものを調節する。BCMAは、BCMAの高親和性リガンドであるAPRIL(増殖誘導リガンド、CD256、TNFSF13)と、BCMAの低親和性リガンドであるB細胞活性化因子BAFF(THANK、BlyS、Bリンパ球刺激因子、TALL-1、及びzTNF4)との2つのTNFスーパーファミリーのリガンド(図1C)の受容体である。APRILとBAFFは、構造的類似性、並びに重複するが異なる受容体結合特異性を示している。負の制御因子TACIもBAFFとAPRILの両方に結合する。APRILとBAFFは、BCMA及び/又はTACIの配位に結合して転写因子NF-κBを活性化させ、さらに生存促進Bcl-2ファミリーメンバー(例えば、Bcl-2、Bcl-xL、Bcl-w、Mcl-1、A1)の発現を増加させ、アポトーシス促進因子(例えば、Bid、Bad、Bik、Bimなど)の発現を減少させることによって、細胞のアポトーシスを阻害して生存を促進する。この組み合わせが奏する作用は、B細胞の分化、増殖、生存、及び抗体の産生を促進する。BCMAの発現は、B細胞分化の後期段階で現れ、形質芽細胞及び形質細胞が骨髄で長期的に生存することに有利である。
【0007】
BCMAは、非常に重要なB細胞バイオマーカーであり、MM細胞の表面に広く存在し、MM及びその他の血液悪性腫瘍の人気な免疫療法の標的である。連続の3期ASCO年次総会で、BCMAは業界で注目されている焦点である。米国がん研究所(CRI)の最新の分析によれば、BCMAはCD19に次いで2番目の人気な抗がん細胞療法の標的になっている。MMは、異質性疾患の1種であり、t(11;14)、t(4;14)、t(8;14)、del(13)、del(17)(その他を除く)染色体転座によって引き起こされることが多い。MM患者は、骨髄浸潤、骨破壊、腎不全、免疫不全、及び癌診断による心理的負担などの、疾患に関連するさまざまな症状を経る可能性がある。
【0008】
MMでは、化学療法や幹細胞移植の治療方法は生存率を向上させることができるが、しばしば有害な副作用を伴うため、MMは依然として治療が困難である。化学療法、プロテアーゼ阻害剤、免疫調節剤サリドマイド誘導体、及びCD38標的抗体において大きな進展があるが、ほとんど全ての患者が最終的に再発することとなる。従って、この分野では新薬に対する需要は依然として緊急である。今まで、多発性骨髄腫の患者にとって最も一般的な2つの治療選択肢は、ステロイド、サリドマイド、レナリドマイド、ボルテゾミブ、または多種の細胞毒性試薬の組み合わせ、及びより若年患者向けの高用量化学療法を採用するとともに自家幹細胞移植を併用することである。多くの移植は自家型であり、即ち、患者自身の細胞を使用することである。このような移植は、治癒的ではないが、選択された患者の寿命を延ばすことが示されている。新たに診断された患者に対する初期療法として使用し、または再発の場合に使用することができる。適切的に疾患を管理するために、患者に一種以上の移植を採用することを勧めることがある。この疾患の治療に用いられる化学療法剤は、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びメルファランであり、それが例えばサリドマイド、レナリドマイド、ボルテゾミブなどの免疫調節剤、及び皮質ステロイド(例えば、デキサメタゾン)との併用療法は、すでに、新たに診断された患者、及び化学療法または移植が失敗した疾患進行末期の患者に対する、骨髄腫を治療するための重要な選択肢となっている。
【0009】
現在、MMの治療に用いられる治療法は、通常、非治癒的である。高齢、その他の重い病気もあること、またはその他の身体的制約により、幹細胞移植は、ほとんどの患者に適用しない選択肢である。化学療法は多発性骨髄腫を部分的に制御することしかできず、完全な緩和を達成することは殆どない。従って、新たな革新的治療法が強く望まれている。
拮抗型BCMA特異的抗体は、正常及び悪性のB細胞における強力な生存促進シグナル伝達経路に関連するNF-κB活性化を阻害できる。
【0010】
血液由来の腫瘍または自己免疫疾患を対抗するための他の方法は、BAFF及びAPRIL(即ちTNFリガンドスーパーファミリーのリガンド)と、BAFF及び/またはAPRILによって活性化される受容体TACI、BAFF-R及びBCMAとの間の相互作用に着目するものである。例えば、ヒト免疫グロブリンのFc-ドメインをZymogenetics社のTACIと融合させてアタシセプト(TACI-Ig)を産生することにより、これらの2つのリガンドを中和して受容体の活性化を阻害する。アタシセプトは、現在、全身性エリテマトーデス(SLE、第III期)、多発性硬化症(MS、第II期)及び関節リウマチ(RA、第II期)を治療するための臨床試験段階にあり、ならびにB細胞悪性腫瘍である慢性リンパ性白血病(CLL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、及びMMを治療するための第I期臨床試験段階にある。前臨床研究では、アタシセプトは体外及び体内でナイーブMM細胞及びMM細胞株の増殖及び生存を減少させた。これは、TACIリガンドのMM細胞に対する関連性を示している。ほとんどのMM細胞及びその派生細胞株は、いずれもBCMAやTACIを発現するため、両方の受容体は、リガンドによって媒介された増殖及び生存を促進する可能性がある。これらのデータは、BCMA及びTACIに対する拮抗作用が形質細胞障害の治療に有益である可能性があることを示している。また、TACIと交差反応するBCMA特異的抗体が報告された(WO02/066516)。
【0011】
Human Genome Sciences社とGlaxoSmithKline社は、BAFFを標的とするベリムマブと呼ばれる抗体を開発した。ベリムマブは、可溶性BAFF及びその受容体BAFF-R、BCMAやTACIのB細胞への結合を阻害することができる。ベリムマブはB細胞に直接的に結合しないが、BAFFに結合することにより、自己反応性B細胞を含めたB細胞の生存を阻害し、B細胞から免疫グロブリンを産生する形質細胞へ分化することを減少させることができる。
【0012】
しかし、BCMA、BAFF-R、及びTACI(即ち、TNF受容体スーパーファミリーに属するB細胞受容体)及びそれらのリガンドであるBAFF及びAPRILが、癌及び/または自己免疫疾患を対抗する治療案に適用する事実が存在しても、この病状を治療するための他の利用可能な選択肢が必要である。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、第一、BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体及びその活性断片を提供することを目的とする。
本発明は、第二、上記抗体又はその活性断片をコードする核酸を提供することを目的とする。
【0014】
本発明は、第三、上記抗体又はその活性断片の使用を提供することを目的とする。
具体的には、本発明は以下の技術案を提供する。
【0015】
まず、本発明は、
BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
B細胞成熟抗原BCMAに結合する第1のドメインと、T細胞表面抗原CD3に結合する第2のドメインとを含み、
第1のドメインと第2のドメインとがリンカーペプチドを介して連結され、
第1のドメインは、
CDR1、CDR2、CDR3がそれぞれ配列番号4~6で示されるアミノ酸配列を有し、或いは、それぞれ配列番号4~6で示されるアミノ酸配列を参照配列とした、下記の突然変異から選ばれる1種の突然変異、又は多種の突然変異の組み合わせを含むアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、
(1)配列番号4で示されるアミノ酸配列の1番目のSからP又はKへの突然変異
(2)配列番号4で示されるアミノ酸配列の2番目のYからH、D、G、M又はSへの突然変異
(3)配列番号4で示されるアミノ酸配列の3番目のAからNへの突然変異
(4)配列番号4で示されるアミノ酸配列の5番目のSからH、N、A又はMへの突然変異
(5)配列番号5で示されるアミノ酸配列の1番目GからV又はTへの突然変異
(6)配列番号5で示されるアミノ酸配列の3番目のIからHへの突然変異
(7)配列番号5で示されるアミノ酸配列の4番目のIからD又はAへの突然変異
(8)配列番号5で示されるアミノ酸配列の5番目のFからHへの突然変異
(9)配列番号5で示されるアミノ酸配列の7番目のTからKへの突然変異
(10)配列番号6で示されるアミノ酸配列の4番目のFからLへの突然変異
【0016】
CDR1、CDR2、及びCDR3がそれぞれ配列番号1~3で示されるアミノ酸配列を有し、或いは、それぞれ配列番号1~3で示されるアミノ酸配列を参照配列とした、下記の突然変異から選ばれる1種の突然変異、又は多種の突然変異の組み合わせを含むアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の5番目のSからN、R又はTへの突然変異
(2)配列番号3で示されるアミノ酸配列の7番目のLからQ、V又はAへの突然変異
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列の8番目のIからS、A、R又はPへの突然変異
(4)配列番号3で示されるアミノ酸配列の10番目のYからM、L、W又はTへの突然変異
(5)配列番号3で示されるアミノ酸配列の11番目のVからL又はQへの突然変異
を含む、ことを特徴とするBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体を提供する。
【0017】
本発明は、完全合成一本鎖ヒト抗体ライブラリーから抗BCMAの遺伝子組換え一本鎖抗体をスクリーニングし、その抗体の可変領域遺伝子の配列を取得し、点突然変異キットにより突然変異体ライブラリーを構築し、親和性の高いクローンを得て、これらのクローンのDNAを混合し、組換えによって一本鎖抗体のコンビナトリアルライブラリーを組み立て、それをスクリーニングした後、ヒトBCMAと結合する親和性が高いBCMA抗体を得る。
【0018】
本発明により提供される抗体可変領域のアミノ酸配列パターンは、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4である。本願では、FR及びCDRの領域分画は、Kabat命名システムに基づくものである。ここで、FR1~4は4つのフレームワーク領域を表し、CDR1~3は3つの超可変領域を表す。FR1~4は、定常領域配列から分離されたもの(例えば、ヒト免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖、サブクラスまたはサブファミリーに最も一般的に使用されるアミノ酸など)であってもよく、単独のヒト抗体フレームワーク領域から分離されたもの、又は異なるフレームワーク領域の遺伝子を組み合わせたものであってもよい。
【0019】
更なるスクリーニングにより、本発明は、
BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
B細胞成熟抗原BCMAに結合する第1のドメインと、T細胞表面抗原CD3に結合する第2のドメインと、を含み、
第1のドメインと第2のドメインとがリンカーペプチドを介して連結され、
第1のドメインは、
CDR1が配列番号4、7、8、9のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号5、10のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号6、11のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、
CDR1が配列番号1、12のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号3、13、14、15、16のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、を含むBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体を提供し、その第1のドメインはBCMAに対してより高い親和性を示す。
【0020】
さらに、上記のBCMAに結合する抗体において、以下の抗体はBCMAに対してより高い親和性を示す:
重鎖可変領域のCDR領域配列が、
(1)CDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(2)CDR1が配列番号7で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(3)CDR1が配列番号8で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有するもの、及び
(4)CDR1が配列番号9で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有するものからのいずれか1種であり、
軽鎖可変領域のCDR領域配列が、
(1)CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(2)CDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(3)CDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号14で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(4)CDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するもの、及び
(5)CDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するものからのいずれか1種である抗体。
【0021】
さらに、上記のBCMAに結合する抗体において、以下の抗体はBCMAに対してより高い親和性を示す:
重鎖可変領域のCDR及び軽鎖可変領域のCDRが、
(1)重鎖可変領域のCDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域のCDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(2)重鎖可変領域のCDR1が配列番号8で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域のCDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するもの、
(3)重鎖可変領域のCDR1が配列番号9で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域のCDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するもの、及び
(4)重鎖可変領域のCDR1が配列番号8で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域のCDR1が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3が配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するものからのいずれかの1種である抗体。
【0022】
上記CDRの配列に基づいて、下記の可変領域配列を有する抗体(第1のドメイン)は、BCMAに対して高い親和性を示す:
重鎖可変領域が配列番号17、19~21のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号18、22~27のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有するもの。
【0023】
上記重鎖可変領域、軽鎖可変領域に基づいて、その配列に比べて、a)同じ抗原決定基に結合すること、及びb)配列の同一性が70%、80%、85%、90%、97%、98%又は99%より大きいことという両者の少なくとも一者を満たすアミノ酸配列も本発明の保護範囲にある。
【0024】
更には、下記の可変領域配列を有する抗体(第1のドメイン)は、BCMAに対してより優れた親和性を示す:
重鎖可変領域が配列番号17で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号18で示されるアミノ酸配列を有するもの、
或いは、重鎖可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するもの、
或いは、重鎖可変領域が配列番号19で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するもの、
或いは、重鎖可変領域が配列番号21で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号25で示されるアミノ酸配列を有するもの、
或いは、重鎖可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号26で示されるアミノ酸配列を有するもの。
【0025】
本発明の二重特異性抗体において、第1のドメインは、BCMAに結合可能な抗体であり、軽鎖と重鎖とがジスルフィド結合を介して結合された、2つの完全な重鎖-軽鎖ペアを含む。
【0026】
第1のドメインの重鎖のFc断片は、ヒト又はヒト化抗体(IgG1、IgG2、IgA、IgE、IgM、IgG4又はIgD)のFc断片であっても良い。
【0027】
本発明の実施形態の1つでは、第1のドメインの重鎖のFc断片がヒト又はヒト化抗体IgG4のFc断片である。
【0028】
本発明の好ましい実施形態として、
第1のドメインの重鎖が配列番号32で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号33で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、第1のドメインの重鎖が配列番号49で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号42で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、第1のドメインの重鎖が配列番号50で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号44で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、第1のドメインの重鎖が配列番号51で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号46で示されるアミノ酸配列を有し、
或いは、第1のドメインの重鎖が配列番号52で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号48で示されるアミノ酸配列有する。
【0029】
これらのBCMAに結合する抗体は、BCMAに対して高い親和性を有するとともに、CD3に結合する抗体と二重特異性抗体を形成する時に両者の機能が十分に発揮されることを確保することができる。
【0030】
上記重鎖配列、軽鎖配列に基づいて、当該配列に比べて、a)同じ抗原決定基に結合すること、b)配列の同一性が70%、80%、85%、90%、97%、98%又は99%より大きいことという両者からの少なくとも一者を満たすアミノ酸配列も本発明の保護範囲にある。
【0031】
本発明により提供される上記のヒト源の抗ヒトBCMA抗体は、0.2nM~10nMの親和性でヒトBCMAに結合する。この抗体は、BCMAリガンドがヒトBCMAに結合することを阻害する。この抗体はBCMAを発現する細胞に結合し、前記細胞はヒト多発性骨髄腫細胞又はリンパ腫細胞であってもよい。
【0032】
CD3抗原に結合する第2のドメインにおいて、その重鎖可変領域が配列番号28で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号29で示されるアミノ酸配列を有する。
【0033】
第2のドメインの軽鎖可変領域と重鎖可変領域とがリンカーペプチドを介して一本鎖抗体のように連結され、且つ当該一本鎖抗体が配列番号31で示されるアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0034】
本発明の二重特異性抗体は、下記の構造となるように設計されることが好ましい:第1のドメインが2つの完全な重鎖-軽鎖ペアを含み、第2のドメインが2つの一本鎖抗体を含み、前記二重特異性抗体は、
(1)第2のドメインの2つの一本鎖抗体のC端が、それぞれ、リンカーペプチドを介して第1のドメインの2本の重鎖のN端に連結すること、及び
(2)第2のドメインの2つの一本鎖抗体のN端が、それぞれ、リンカーペプチドを介して第1のドメインの2本の重鎖のC端に連結することのいずれか1種によって連結された対称構造である。
【0035】
本発明は、上記の第1のドメイン及び第2のドメインの配列について、上記の対称構造の二重特異性抗体は、他の構造の二重特異性抗体に比べて、第1のドメイン及び第2のドメインにおける一次抗体の特異的抗原結合能をより良好に保持することができるとともに、BCMA及びCD3に結合する優れた生物学的機能を有し、製造プロセス及び薬効等において明らかな優勢を有することを見出した。本発明は、特異的な標的作用を有し、指向性免疫反応を効率的に誘発し、腫瘍細胞を殺傷することができる、上記の抗体分子構造を有するBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体を開発した。
【0036】
第1のドメインと第2のドメインとを連結するためのリンカーペプチドのアミノ酸配列は(GGGGX)n(ここで、XがGly又はSerであり、nが1~4の自然数である)であることが好ましい。
本発明の好ましい実施態様として、リンカーペプチドのアミノ酸配列は、配列番号30で示されるものである。
【0037】
上記の構造を有する二重特異性抗体の例として、本発明は、ヒトに対するCD3×BCMA二重特異性抗体を提供し、上記の一本鎖抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域及びモノクローナル抗体の重鎖と軽鎖を有する構造及び配列において、本発明は、CD3とBMCAに同時に結合することができる2つの二重特異性抗体を構築した。その構造及び配列が下記の通りである。
【0038】
(1)第1のドメインの重鎖が第2のドメインと連結して、配列番号34で示されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を形成し、第1のドメインの軽鎖が配列番号33で示されるアミノ酸配列を有するもの
(2)第1のドメインの重鎖が第2のドメインと連結して、配列番号35で示されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質を形成し、第1のドメインの軽鎖が配列番号33で示されるアミノ酸配列を有するもの
(3)第1のドメインの重鎖がリンカーペプチドを介して第2のドメインに連結した後、配列番号41で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号42で示されるアミノ酸配列を有するもの
(4)第1のドメインの重鎖がリンカーペプチドを介して第2のドメインに連結した後、配列番号43で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号44で示されるアミノ酸配列を有するもの
(5)第1のドメインの重鎖がリンカーペプチドを介して第2のドメインに連結した後、配列番号45で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号46で示されるアミノ酸配列を有するもの
(6)第1のドメインの重鎖がリンカーペプチドを介して第2のドメインに連結した後、配列番号47で示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖が配列番号48で示されるアミノ酸配列を有するもの
上記の開示または保護しようとする配列番号1~52で示される配列には、「保守的な配列修飾」、即ち、前記抗体または前記アミノ酸配列を含む抗体の結合特性に有意に影響及び改変しないヌクレオチド及びアミノ酸配列修飾が含まれる。前記保守的な配列修飾には、ヌクレオチド又はアミノ酸の置換、付加又は欠失が含まれる。部位特異的変異導入及びPCRに媒介される突然変異誘発などの当分野の標準的な技術によって修飾を配列番号1~52に導入することができ、保守的なアミノ酸置換として、アミノ酸残基が、類似な側鎖を有するアミノ酸残基または他のアミノ酸残基に置換されることが含まれている。当分野では、類似な側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが定義されている。これらのファミリーとして、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。従って、ヒト抗BCMA抗体における非必須アミノ酸残基を同一側鎖ファミリー由来の別のアミノ酸残基で置換することが好ましい。
【0039】
従って、上記で開示された前記アミノ酸配列を有する抗体及び/又は上記で開示されたアミノ酸配列を含む抗体には、実質的に保守的な配列により修飾された類似な配列によってコードされた抗体、又は保守的な配列により修飾された類似な配列を含む抗体も含まれており、いずれも本発明の範囲内のものと見なされるべきである。
また、本発明は、前記BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体をコードする核酸を提供する。
【0040】
コドンの縮退を考慮すると、本発明の前記抗体をコードする遺伝子は、そのコード領域において、アミノ酸配列を改変しない条件で、上記の抗体をコードする遺伝子配列を改変し、同じ抗体をコードする遺伝子を得ることができる。当業者は、抗体を発現する宿主のコドン偏位に応じて、遺伝子を人工的に合成・改造することにより、抗体の発現効率を向上させることができる。
【0041】
さらに、本発明は、前記BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体をコードする核酸を含有する生体材料であって、組換えDNA、発現カセット、ベクター、宿主細胞、組換え菌又は細胞株を含む生体材料を提供する。
【0042】
ここで、前記ベクターは、クローンベクター、発現ベクターを含むが、これらに限定されるものではなく、プラスミドベクター、ウイルスベクター、トランスポゾン等のベクターであってもよい。
【0043】
前記宿主細胞または細胞株は、微生物または動物の細胞または細胞株に由来するものであってもよい。
【0044】
また、本発明は、前記第1のドメイン及び前記第2のドメインのコード遺伝子を含む発現ベクターを構築すること、前記発現ベクターを宿主細胞に導入し、前記二重特異性抗体を発現する宿主細胞を得ること、及び宿主細胞を培養し、分離精製によって前記二重特異性抗体を得ること、を含むBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体の作製方法を提供する。
【0045】
前記二重特異性抗体を作製する時、当業者は、必要に応じて、当分野の通常の宿主細胞、発現ベクター、発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、及び抗体の分離精製方法を選択することができる。
【0046】
本発明により提供されるBCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体の機能に基づいて、本発明は、BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体、それをコードする核酸、または当該核酸を含有する生体材料の、下記のいずれか1種の使用を提供する。
【0047】
(1)BCMAが発現するB細胞関連疾患を診断、予防又は治療するための医薬品の製造における使用(ここで、前記BCMAが発現するB細胞関連疾患がB細胞関連腫瘍(多発性骨髄腫またはリンパ腫を含むがこれらに限定されない)、B細胞による自己免疫疾患を含むことが好ましい)
(2)BCMAを標的とした疾患を診断、予防又は治療するための医薬品の製造における使用(ここで、前記の医薬品が抗悪性腫瘍薬または自己免疫疾患を治療するための医薬品であることが好ましい)
(3)BCMAが発現する細胞を殺傷するための医薬品の製造における使用
(4)BCMA及び/又はCD3の検出試薬の製造における使用
(5)CAR-T療法に適用される関連試薬の製造における使用
【0048】
上記のBCMAが発現するB細胞関連疾患は、BCMAを高度又は過剰に発現する悪性腫瘍及び自己免疫疾患であることが好ましい。
【0049】
本発明により提供される二重特異性抗体は、その自体が治療及び診断に用いられることができる。抗体は、標識、架橋、またはカップリングされること、又は他のタンパク質またはペプチド分子と融合発現することにより、複合体(例えば、細胞毒性物質、放射性毒素及び/または化学分子など)を形成し、診断及び治療に用いられることができる。
【0050】
また、本発明は、BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体が含まれる多重特異性抗体、融合タンパク質、免疫毒素、医薬品又は検出試薬を提供する。
【0051】
上記の免疫毒素は、様々な形態で細胞毒性剤に結合する二重特異性抗体を含む。
【0052】
前記結合の様々な形態は、抗体の標識、体外での架橋、または分子カップリングである。前記細胞毒性剤には、化学分子、放射性同位元素、ペプチド、毒素、及び細胞殺傷性、または細胞死誘導特性を有する他の物質が含まれる。
【0053】
上記の融合タンパク質は、本発明が提供する二重特異性抗体と、特定の機能を有する他のタンパク質またはペプチド分子との複合体を含む。
【0054】
具体的には、前記融合タンパク質は、抗体遺伝子を免疫毒素またはサイトカイン遺伝子に連結させて組換え発現ベクターを構築し、哺乳動物細胞または他の発現系によって組換え融合タンパク質分子を得るものであってもよい。
【0055】
上記の医薬品、検出試薬は、さらに、薬学の分野及び検出試薬の分野で許容される他の有効成分または
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(例えば、抗体の成分及び薬理学的に許容される送達分子または溶液)を含んでもよい。ここで、治療に用いられる成分は無菌であり、低温凍結乾燥のものであってもよい)。
【0056】
本発明の二重特異性抗体は、BCMAにより誘導される生物学的活性の1種以上を阻害することができる。BCMAとそのリガンドとの結合を遮断することによってその機能を発揮することができるが、BCMAを高度に発現する細胞を殺傷することによってその機能を発揮することもでき、或いはBCMAに結合した複合体が内在化されて細胞表面のBCMAが消費されることによってその機能を発揮することもできる。BCMA拮抗剤が有する全ての干渉機能を本発明の目的と同等に扱うべきである。
【発明の効果】
【0057】
本発明は、遺伝子組換え及びファージ表面ディスプレイライブラリー技術によって天然の完全ヒト配列の一本鎖抗体ライブラリーから抗ヒトB細胞表面抗原BCMAの特異的抗体をスクリーニングする。親和性の成熟を改進することによって、結合能が顕著的に向上された複数のクローンを得て、それらのヒトBCMAに対する親和性は0.26nM~0.31nMである。フローサイトメトリーによって測定された見かけ親和性が、親抗体より61~97倍向上された。これは、本発明の抗ヒトBCMA抗体及び最適化された突然変異体がいずれも良好なBCMAに結合する能力を有することを検証した。
【0058】
これに基づいて、本発明は、BCMA及びCD3に同時に結合することができ、特異的な標的作用を有し、指向性免疫反応を効率的に誘起することができる二重特異性抗体を提供する。当該二重特異性抗体は、抗CD3抗体及び抗BCMA抗体の生物学的機能を十分に保持しており、一つの二重特異性抗体分子がBCMAとCD3に同時に結合する優れた生物学的機能を有することを実現し、腫瘍細胞と免疫エフェクター細胞の架け橋となり、免疫エフェクター細胞及び指向性免疫反応を効率的に誘起でき、免疫細胞の腫瘍細胞に対する殺傷効果を有意に向上させるとともに、ADCC効果を最小限に抑え、高い安全性を有する。
【0059】
本発明により提供される二重特異性抗体は、治療応用において良好な見通しがあり、主にヒトBCMA及びCD3に特異的に結合する活性を有することとして表現されている。ELISA検出及びフローサイトメトリー検出によると、この抗体は、H929及びRPMI8226細胞の表面のBCMA及びT細胞に特異的に結合できるため、標的特異性が良好であったことが示されている。体外細胞への殺傷効率の検出によると、当該二重特異性抗体は高い標的細胞殺傷効率を有する。
【0060】
また、本発明により提供される二重特異性抗体は、構造が完全に対称的であるという特徴を有するため、宿主で発現する時、他の構造のタンパク質のアイソフォームを産生することがなく、抽出・精製プロセスの難易度を大幅に下げることができ、製造が簡単で、収率が高い優勢を有し、腫瘍免疫療法において広い使用見通しがある。
【0061】
本発明は、BCMAを標的とする抗腫瘍抗体薬の開発、CAR-T試薬の開発、ならびにB細胞関連炎症及び自己免疫疾患などの他の疾患の予防及び治療のために、二重特異性抗体の候補分子を提供した。本発明の二重特異性抗体は、免疫細胞と腫瘍細胞に同時に結合することができ、指向性T細胞免疫反応を誘起し、腫瘍細胞を特異的且つ効果的に殺傷することができ、多発性骨髄腫の抗体医薬品として開発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1図1は本発明の背景技術に記載のBCMAの発現及びTCR構造模式図であり、その中で、AがBCMA抗原のB細胞の発生期間における発現を示すものであり、BがBCMA抗原のリガンド作用シグナル伝達チャンネルを示すものであり(出典:fimmu-09-01821-g001.jpg(1050×762)(frontiersin.org))、CがT細胞受容体(TCR)複合体の構造及びそのCD3の組成を示すものである(出典:https://www.researchgate.net/publication/299549376)。
図2図2は本発明の実施例2においてフローサイトメーター(FACS)を用いてBCMAとリードクローン(lead clone)B10との結合を分析した結果を示すものであり、その中で、上の2つの写真が陰性対照(NC)の分析結果であり、真ん中の2つの写真が陽性対照(PC)の分析結果であり、下の2つの写真が候補クローンB10(B10)の分析結果である。
図3図3は本発明の実施例3においてフローサイトメーターを用いてB10及びその親和性成熟の突然変異体の結合を分析した結果を示すものであり、その中で、A、B、C、D、EがそれぞれB10、B10.3、B10.4、B10.5、B10.9のH929細胞への結合の分析結果であり、F、G、H、I、JがそれぞれB10、B10.3、B10.4、B10.5、B10.9のRPMI8226細胞への結合の分析結果である。
図4図4は、本発明の実施例3において、それぞれ、ELISA及びフローサイトメーターを用いて、J6、B10及びそれらの突然変異体の結合を分析、比較した結果を示すものであり、その中で、AがELISAを用いた場合の結果、BがFACSを用いた場合の結果である。
図5図5は、本発明の実施例4においてFISTプラットフォームに基づいて構築された抗BCMA×CD3二重特異性抗体の構造模式図であり、その中で、AがN末端融合(nFIST)で構築された二重抗体(抗CD3一本鎖抗体が抗BCMA抗体VHのN末端に融合したもの)の構造模式図であり、BがC末端融合(cFIST)で構築された二重抗体(抗CD3一本鎖抗体が抗BCMA抗体FcのC末端に融合したもの)の構造模式図である。
図6図6は本発明の実施例5における二重特異性抗体K3B10.3及びB10.3K3のSDS-PAGEによる電気泳動図であり、その中で、A及びCが還元SDS-PAGEによる電気泳動図であり、B及びDが非還元SDS-PAGEによる電気泳動図であり、A及びBがK3B10.3二重特異性抗体のSDS-PAGEによる電気泳動結果であり、C及びDがB10.3K3二重特異性抗体のSDS-PAGEによる電気泳動結果であり、レーンMがタンパク質分子量標準を表し、レーン1が目標タンパク質である。
図7図7は本発明の実施例5で精製された二重特異性抗体K3B10.3及びB10.3K3の、HPLC-SECによる純度分析で得られたピークグラフであり、その中で、Aが二重特異性抗体K3B10.3のピークグラフであり、Bが二重特異性抗体B10.3K3のピークグラフである。
図8図8は本発明の実施例6においてフローサイトメーターを用いて、K3B10.3及びB10.3K3のヒトJurkat T細胞への結合、RPMI細胞への結合を分析した結果を示すものであり、その中で、Aが二次抗体対照の分析結果であり、BがK3B10.3、CがB10.3K3のCD3への結合の分析結果であり、Dが二次抗体対照の分析結果であり、EがK3B10.3、FがB10.3K3のBCMAへの結合の分析結果である。
図9図9は本発明の実施例7のcFIST二重抗体のBCMA抗原への結合、及びそれらにより媒介されたT細胞のBCMA発現細胞RPMI8226に対する殺傷を示すものであり、その中で、AはB10の親和性が向上された突然変異型二重抗体のBCMA抗原への結合のELISA測定結果を示すものであり(ここで、抗体は200ng/wellでコーティングし、ビオチン-BCMAは250ng/mlから半希釈され)、Bは、B10の親和性が向された突然変異型二重抗体の当該突然変異型二重抗体により媒介されたBCMA発現細胞に対する殺傷を示すものである(ここで、B10K3に対してそれぞれ高濃度及び低濃度で実験し、低濃度(B10K3)では標準S曲線が得られず、高濃度(B10(high)K3)では標準S曲線が得られ、当該曲線によってEC50値を計算した。)。
図10図10は本発明の実施例7におけるBCMA二重抗体により媒介されたT細胞のBCMA発現レベルの異なる細胞に対する殺傷を示すものであり、その中で、AがH929細胞であり、BがRPMI8226細胞である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0064】
実施例1 天然ヒト抗体ファージ表面ディスプレイライブラリーから抗ヒトBCMA抗体をスクリーニングする
抗体ライブラリー技術は、ある動物(ヒトを含む)のすべての抗体可変領域遺伝子をプラスミドまたはファージにクローングし、後者を大腸菌に感染させた後、抗体断片をファージ粒子の表面、または大腸菌のペリプラズムや
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に発現させ、その後、標的抗原によって抗体ライブラリーから特異的抗体遺伝子を持つクローンをスクリーニングして、相応の特異的抗体を得る技術である。抗体ライブラリーには、腫瘍に関連する膜タンパク質抗原、自己免疫疾患に関連する自己抗原、ウイルス性疾患に対するウイルス抗原のような多くの基礎研究や臨床開発に必要な抗体がスクリーニングされている。これは、抗体ライブラリー技術が基礎研究や抗体医薬品の開発において大きな応用可能性があることを示している。特に、ヒト抗体ライブラリーから得られた完全ヒトモノクローナル抗体は、マウスハイブリドーマ技術によってヒトモノクローナル抗体を得ることが困難であるという障害を克服した。ヒト抗体配列の高度な保守性のため、これらの抗体のヒト自己免疫系に対する免疫原性は、動物由来の抗体より遥かに低く、より安全である。
【0065】
非免疫ヒト天然抗体ライブラリーは、健康な人を抗体遺伝子の供給源とし、これらの人がドナーと呼ばれる。天然の完全ヒト抗体配列を使用しているため、得られた抗体はヒト免疫系に対する免疫原性が極めて低い。分子生物学及びDNA操作技術によって、RNA抽出キット(例えば、QIAGENのRNeasy Mini Kit、カタログ番号:74104)にてドナー末梢血単核細胞(PBMC)からすべてのRNAを抽出した後、各RNAサンプルから等量のものを採取して合わせ、逆転写キット(例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック社のcDNA合成キット(SuperScriptTM IV Reverse Transcriptase))にて軽鎖及び重鎖の遺伝子cDNAを合成した。これらの抗体cDNAをテンプレートとし、増幅の第1ラウンドでは、各サブグループ特異的な上流プライマー及び定常領域プライマーを用いてPCR増幅を行い、各サブグループの全てのメンバーの遺伝子を得た。PCRの第2ラウンドでは、架橋付き重鎖可変領域(VH)3“末端プライマーセットと架橋付き軽鎖可変領域(VL)5’末端プライマーセットは、得られるVHとVLがリンカーを介して連結できるように、それぞれ、各自の他の末端プライマー(特異的な制限酵素部位を含む)と組み合わせて、一本鎖抗体(scFv)遺伝子を形成した。これらの一本鎖抗体の遺伝子の5’末端及び3’末端の特異的酵素切断部位を利用してこれらのscFv遺伝子を溶原性ファージミド(phagemid、例えば、M13ファージミド)ベクターにクローンし、抗体ライブラリーを構築した。当該ライブラリーの大きさは50億コロニーフォーミングユニット(cfu)に達した。
【0066】
バイオパニングとは、特異的な標的によって抗体から特異的なクローンをスクリーニングすることを指す。ヒトBCMA抗原特異的なヒト抗体を得るために、液相スクリーニングによってパニングを行う。液相パニング法の一般的な手順としては、まず、市販のBCMA抗原(BCMA-Fc融合タンパク質、Acrobiosystems、カタログ番号BC7-H5254)をビオチンで修飾し、各分子に3~5個のビオチン分子を架橋させ、遊離ビオチンを除去する。適量のビオチンにマークされたBCMA抗原を、ストレプトアビジンがカップリングされた磁性ビーズに結合させた(例えば、DynabeadsTMM-280ストレプトアビジン、サーモフィッシャーサイエンティフィック社、カタログ番号11205D)。異なる抗体を発現する100億個のファージ粒子を含むヒト抗体ライブラリーを1部解凍した。磁性ビーズ及び抗体ライブラリは、非特異的な作用部位を除去するために、いずれも4%脱脂粉乳溶液(4%MPBS)で遮断された。磁性ビーズ上にアビジンに結合されていないストレプトアビジンが存在する可能性があり、そしてBCMA抗原分子がヒトFcで構成される融合タンパク質であるため、それらに結合する抗体クローンを除去するために、解凍された抗体ライブラリーにストレプトアビジン及びヒト抗体Fcを十分な量(使用する標的タンパク質に対して50~100倍の過剰量)で添加する必要がある。遮断された抗体ライブラリー溶液を磁性ビーズとともに(合計体積<1ml)1.5mlのエッペンドルフチューブに加え、BCMA特異的ファージと抗体とが結合するように室温で2時間回転混合しながらインキュベートした。インキュベートが完了した後、エッペンドルフチューブを磁性ラックに1分間置き、磁性ビーズと溶液を分離させた。ピペットガンで溶液をできるだけ完全に除去し、新しいチップ(tip)に置換し、洗浄液PBST(リン酸緩衝液(PBS)溶液中に最終濃度が0.05%となるようにTween 20を添加したもの)1mlをエッペンドルフチューブに加え、磁性ラックから離し、ピペットガンで磁性ビーズを緩やかに浮遊させ、磁性ラック上に改めて配置して磁性ビーズと溶液とを分離させた。溶液を除去し、このように3回繰り返した。次に、洗浄液をPBSに変更し、磁性ビーズを3回洗浄した。洗浄により、非特異的で低親和性のファージ抗体はほとんど除去され、特異的なファージ抗体が磁性ビーズ上に残留した。磁性ビーズに溶出液(10mMグリシン、pH2.0)を加え、磁性ビーズを再度浮遊させ、室温で10分間放置し、磁性ビーズと溶液を磁性ラックで分離させ、溶液をきれいなエッペンドルフチューブに吸い込み、1/10 1M トリス溶液(Tris溶液)(pH8.0)を加えて溶液を中和したものが、BCMA抗原に結合する数千の異なるファージ抗体が含まれている溶出液であり、これにより第1ラウンドのパニングが完了した。
【0067】
親和性が高い特異的抗体クローンをさらに得るために、より多くのパニングが必要である。このために、第1ラウンドのパニングにより溶離されたファージ抗体溶液を、M13ファージを感染可能な大腸菌(例えば、TG1株)に対数期で感染させ、感染液を得た。少量な感染液を取り、一連の10倍勾配希釈(通常、原液の100万分の1までに希釈し、最後の3つの勾配希釈のものを取り、コーティングする)を行って、第1ラウンドで生産した溶出液(output)の力価(titer)を測定した。この力価は、第1ラウンドの最大ダイバーシティとも呼ばれ、第1ラウンドにパニングされた溶出液の力価は通常10E6 cfu以下である。残りの感染液を、すべて相応の抗生物質を含む細菌培養プレート上にコーティングし、終夜培養して、コロニーを得た。コロニーを掻き取り、培地で再懸濁し、第1ラウンドの溶出液(output)の多様性を含む十分な量の再懸濁液を、十分な量の液体培地(2YT培地に最終濃度がそれぞれ100μg/ml及び2%となるようにカルベニシリンと及びグルコースがを入れた2YT-CG)を含む振とうフラスコに入れ、再懸濁液を0.1 OD600以下までに希釈し、対数期、即ちOD600が約0.5に達するまで培養した。これらの第1ラウンドのパニングによって得られた抗体をファージ粒子の表面に再びディスプレイさせるために、10mlの細菌溶液を取り、補助ファージM13K07を加え、感染多重度が20:1となるように37℃で30分間静置した(この段階はファージレスキューと呼ばれる)。遠心分離し、菌体を50 mlの発現培地(2YT培地に最終濃度がそれぞれ100 μg/ml及び30 μg/mlとなるようにカルベニシリン及びカナマイシンを入れた2YT-AK)で再懸濁させ、30℃で200 rpm/分で終夜培養した。翌日、遠心分離により上清を回収し、1/5体積のPEG8000/NaCl(PEG-8000 20%、NaCl 2.5 M)を加え、十分に混合させ、氷上で1時間インキュベートした。30分間高速遠心分離(11,500×g)して、ファージ抗体粒子を得た。沈殿を1mlのPBS溶液に再懸濁させ、再び高速遠心分離機に置き、細菌の破片を除去した。上清は、第1ラウンドのパニング後の増幅液であり、それに含まれる各抗体クローンはいずれも数万倍以上に増幅されている。この増幅液は、第2ラウンドのパニング実験に使用できる。第2ラウンドのパニング操作は、PBST/PBSによる洗浄をそれぞれ6回(6/6)までに増やすこと以外、第1ラウンドの操作方法とまったく同じである。第3ラウンドでは、洗浄回数をさらに10/10までに増やすことができる。複数ラウンドのパニングは、通常、特異的なクローンを効果的に濃縮し、多様性が大幅に減少したが、それらの親和性が高く、その後のモノクローナルのスクリーニングに便利である。
【0068】
特異的なモノクローナル抗体を得るためには、モノクローナルファージ酵素結合アッセイ(モノファージELISA)が必要である。このために、第2ラウンド及び/または第3ラウンドの勾配希釈で十分に分離できる単一コロニーを、2YT-AGを含む96ウェルプレートに個別に接種し(各プレートあたりコロニーを93個接種し、陰性対照として三個のウェルを保留する)、終夜培養した。これはマスタープレート(master plate)である。マスタープレート内の各ウェルの細菌溶液を新たな培養プレートに接種し、対数期までに増殖させ、各クローンの抗体がファージ表面にディスプレイするように上記のファージレスキューを行った。通常の96ウェル酵素結合プレートにBCMA抗原(1 μg/ml)をコーティングするとともに、同じ濃度でヒトFcで他の酵素結合プレートをコーティングした。各モノクローナルファージ抗体を個別に発現する細菌溶液をそれぞれBCMAプレート及びFcプレートの対応のウェルに添加し後、適切な二次抗体及び西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)がカップリングされた三次抗体を添加し、基質を発色させ、吸光度(450nM)を読み取った。BCMA陽性クローンの判断方法では、Fcプレート上で陰性(吸光度がそのプレートの陰性ウェルの1.5倍以下)であるが、BCMAプレート上で陽性(吸光度がそのプレートの陰性ウェルの3倍超え)でかつそのウェルの吸光度がFcプレート上の対応のウェルの吸光度より高いクローンを、BCMA陽性クローンと判断する。分析したところ、10個のウェルに対応するクローンは、BCMA抗原のみに対して陽性であるが、Fcに対して陰性であることが示され、これらのクローンをヒット(hit)と総称した。
【0069】
これらのヒット細菌溶液を、それぞれマスタープレートの対応のウェルから3 mlの2YT-CGに接種し、37℃で置き、200rpm/分で終夜培養した。翌日、ファージミドDNAを抽出し、特異的プライマーで各ヒットを含む一本鎖抗体領域の配列を測定した。コード領域のDNA配列をアミノ酸配列に翻訳し、それらに対して複数配列を比較して(CLUSTALW、ウェブサイトへのリンク https://www.genome.jp/tools-bin/clustalw)、クローンの特異性を判断した。分析したところ、これらの10個のヒットは、配列上で2つの異なるクローンに属し、その中の1つはB10と命名され、これにより抗ヒトBCMA抗原の完全ヒト抗体の可変領域配列を得た。B10の重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列がそれぞれ配列番号4~6で示されるものであり、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列がそれぞれ配列番号1~3で示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号17で示されるものであり、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号18で示されるものである。B10の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域からなる一本鎖抗体のアミノ酸配列は、配列番号36で示されるものである。
【0070】
実施例2 抗体機能の検証
得られたBCMA抗体クローンが、精製されたBCMA抗原及び細胞膜表面に発現されているBCMAに結合したかどうかを検証するために、B10一本鎖抗体の遺伝子を真核生物発現ベクターpFH(Excyte社製)にクローンし、プラスミドpFH-B10を得た。このベクターでは、scFv遺伝子がヒトIgG4のFc遺伝子と融合してscFv-Fc形態のタンパク質を発現している。それは、プロテインA(Potein A)によって親和性精製することができ、(HRPまたはフルオレセイン)標識抗ヒトFc抗体によって検出することもできる。
【0071】
B10のscFv-Fcタンパク質を得た後、オクテットRED(Octet RED)によって当該抗体のBCMAへの結合を検測したところ、B10のBCMAへの特異的結合が確認された。
【0072】
フローサイトメーターを用いてB10のBCMA発現細胞株H929(NCI―H929、ATCCCRT―9068TM)への結合を検測したところ、B10が細胞膜表面のBCMA抗原に特異的に結合したことが示された(図2を参照)。このFACS分析では、4区画の左上隅の百分率(陽性百分率)は、各一本鎖抗体の細胞表面抗原への結合の強さを表す。クローンB10の陽性百分率は48.96%であることから、当該抗ヒトBCMA抗原の抗体結合能が検証された。
【0073】
実施例3 抗体の親和性成熟
体外での親和性成熟は、DNAレベルで突然変異を導入し、タンパク質結合のレベルでスクリーニングする、急速的に分子進化を指向する操作である。B10抗体の場合、免疫原性を高める可能性のある突然変異を導入すること、又は抗体の構造を顕著的に改変することを回避するために、突然変異部位がCDR領域の配列に制限され、かつ各位置がいずれもそれぞれ飽和突然変異を行い、各突然変異がそれぞれに発現してそれぞれに検測される。
【0074】
親和性成熟の操作プロセスは、下記の通りである。まず、B10の軽鎖可変領域遺伝子及び重鎖可変領域遺伝子をそれぞれpUFLベクター上(pUFLは、大腸菌で抗体Fabを発現できるプラスミドであり、Excyte社製のものである)にクローンし、B10のFab型を得た。CDR領域の単一サイトランダム突然変異プライマーの全セットを設計し、点突然変異キット(QuikChange Lightning Multi-Site Directed Mutagenesis Kit、Agilent カタログ番号 210515 )を使用して、それぞれに各CDR部位をPCR突然変異させ、それぞれにBL21(DE3)コンピテントセルに形質転換し、それぞれにモノクローナルコロニープレートを調製し、これらの突然変異体はまとめて単一サイト突然変異体ライブラリーと呼ばれる。同時に、親抗体B10のFabベクターも形質転換した。30個超えのコロニーを選別してDNAを調製し、突然変異領域を配列解析し、突然変異率を評価した。突然変異率が適切(80%超え)である場合、各CDR位置の突然変異に応じて92個のコロニーを選別し、対応の培地(2YT中に100 μg/mlのカルベニシリン+0.1%のグルコースを含むもの)を含む96ウェルプレートに入れ、別途に3個の親コロニーを選別し、ブランク対照として3個のウェルを保留した。プレートを37℃で置き、300rpm/分で6時間培養し、IPTGを終濃度が1mMとなるように添加し、30℃に移し、300rpm/分で終夜培養し、Fab断片が発現し、さらに培地中に分泌した。
【0075】
予備実験により、B10親抗体Fabの抗原BCMA-Fcへの結合のA450吸光度がバックグラウンドシグナルの約3倍よりわずかに高くなるように酵素結合の反応条件を最適化した。一日先に酵素結合プレート上に0.25μg/mlでBCMA-Fc抗原をコーティングし、翌日に、ウェルごとに分泌発現した突然変異型Fabを添加し、HRPによってカップリングされた抗ヒトFabを二次抗体とし、基質を発色させ、A450を読み取り、シグナルが親のウェルの最高値の1.5倍より高いウェルに対応するクローンを得て、これらのクローンはヒットと呼ばれる。軽鎖可変領域及び重鎖可変領域におけるすべてのヒットを収集し、誘導発現及び酵素結合実験を改めて行うことにより、それらが確かに親抗体よりも高い親和性を有することを確認した。反復陽性のクローンのプラスミドに対して突然変異領域の配列を解析し、CDRアミノ酸の突然変異情報を得た。このプロセスは、一次スクリーニングと呼ばれる。これにより、CDR領域の全ての親和性の向上に有益な突然変異情報を得た。重鎖可変領域CDRにおける親和性を与える突然変異部位を表1に示し、軽鎖可変領域CDRにおける親和性を与える突然変異部位を表2に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
一次ライブラリーから酵素結合実験によるスクリーニングによってCDR領域全体の親和性向上に有益な全ての単一突然変異情報を得た後、主要な有益的突然変異を含むように新たな多重点突然変異のプライマーを再設計し、再度に点突然変異キットによって突然変異体ライブラリーを構築した。このライブラリーは、コンビナトリアルライブラリーと呼ばれる。できるだけ軽鎖可変領域及び重鎖可変領域における全ての突然変異の組み合わせをスクリーニングするために、それぞれの複数の突然変異を含む軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の組み合わせライブラリーをそれぞれに構築及びスクリーニングした。軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号22~26で示されるような5つの突然変異配列を含む、軽鎖可変領域の組み合わせライブラリーにおいて親和性が最も高い上位5つのクローンを得た。それらの軽鎖可変領域のCDR1は配列番号1、12のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、CDR2は配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3は配列番号3、13、14、15、16のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有する。
【0079】
重鎖可変領域の組み合わせライブラリーにおいて酵素結合スクリーニングを実施することによって、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号19~21で示されるような3つの突然変異配列を含む、重鎖可変領域の組み合わせライブラリーにおいて親和性が最も高い上位3つのクローンを得た。それらの重鎖可変領域のCDR1は配列番号7、8、9のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を有し、CDR2は配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、CDR3は配列番号11で示されるアミノ酸配列を有する。
【0080】
上記の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の中で最も親和性の高い上位5つのクローンのDNAを混合し、酵素切断や連結の組換え方法によって最終的な一本鎖抗体のコンビナトリアルライブラリーに組み立てた。このライブラリーをスクリーニングし、シグナルが最も高い上位10位を選別し、それらのDNA配列を解析したところ、相応のアミノ酸配列が配列番号37~40で示されるものである4つの異なる一本鎖抗体クローンを得た。
【0081】
得られた突然変異体の親和性が向上したかどうかを検証するために、B10親抗体及び最後に得られた4つの突然変異体B10.3、B10.4、B10.5、B10.9(アミノ酸配列はそれぞれ配列番号37~40で示されるものである)とFcとの融合タンパク質(即ち、scFv-Fc)をそれぞれ発現させ、精製した。精製された生成物を、2つの発現レベルの異なるBCMA陽性細胞株H929及びRPMI8226上でフローサイトメーターによって検測した。それらのH929細胞への結合の百分率は、それぞれ、親抗体B10が75.31%であり、突然変異体B10.3が97.96%までに向上し、突然変異体B10.4が97.89%までに向上し、突然変異体B10.5が97.17%までに向上し、突然変異体B10.9が91.61%までに向上した。RPMI8226細胞への結合の百分率は、それぞれ、親抗体B10が5.54%であり、突然変異型B10.3が54.89%までに向上し、突然変異型B10.4が57.51%までに向上し、突然変異型B10.5が58.18%までに向上し、突然変異型B10.9が42.89%までに向上した。これらの結果は、4つの突然変異体は、B10に比べて、いずれもBCMAへの結合を有意に向上したことを示した(図3を参照)。
【0082】
得られたB10及びその誘導体化抗体の親和性を知るために、ELISAによってB10親抗体及び最後に得られた4つの突然変異体を、親和性既知のBCMA抗体J6(即ちクローンJ6M0であり、特許[WO2012163805A1]の記載によれば、その親和性が約0.2nMである)とそれぞれ比較する実験を行った。異なる濃度の抗体で酵素結合プレートをコーティングした後、生物素化BCMA抗原、ストレプトアビジンがカップリングされた西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、及び発色基質を順に添加した。得られたシグナル-抗体勾配曲線を図4Aに示し、相対親和性変化倍数を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
上記の結果により、固有の親和性では、親抗体B10のヒトBCMAへの結合はJ6より有意に弱いため、S行曲線が得られず、その親和性の数値を生成できなかったことが示された。また、B10.3の親和性は約0.26nM、B10.4の親和性は約0.31nM、B10.5の親和性は約0.27nM、B10.9の親和性は約0.29nMであった。
【0085】
これらの抗体の細胞表面のBCMAに対する見かけ親和性を知るために、B10親抗体及び最後に得られた4つの突然変異体と、J6とを、それぞれBCMAを発現する細胞株RPMI8226と結合するフローサイトメトリーによって比較実験を行った(図4B、表4を参照)。その結果、細胞レベルでは、親B10のEC50は、J6(EC50が2.741μg/mlである)より約1.5倍で向上され、1.575μg/mlであった。B10.3、B10.4、B10.5及びB10.9のEC50は、それぞれ、0.02822μg/ml、0.03429μg/ml、0.04063μg/ml及び0.04514μg/mlであった。J6に比べて、これらの親和性が向上された突然変異体のEC50の向上倍数は、それぞれ97.13、79.94、67.46、及び60.72であった。
【0086】
【表4】
【0087】
実施例4 BCMA×CD3二重特異性抗体の設計
本実施例は、腫瘍細胞表面抗原BCMA及び免疫細胞表面抗原CD3を標的とし、二重特異性抗体を設計した。
【0088】
本発明は、タンパク質構造設計ソフトウェアと大量の人工的実験によるスクリーニングとを組み合わせて、BCMA及びCD3に結合する複数種の二重特異性抗体構造から、一本鎖抗体単位及びモノクローナル抗体単位を含む、対称構造を有する二重特異性抗体の構造をスクリーニングして決定した。本発明では、このような技術プラットフォームはFIST(fusion of IgG and scFv technology)と呼ばれている。例えば、抗BCMAモノクローナル抗体単位は、IgG抗体として、2つの完全な軽鎖-重鎖ペア(即ち、完全なFab及びFcドメインを含み、軽鎖と重鎖とがジスルフィド結合を介して連結されているもの)を含み、抗-CD3は、一本鎖抗体単位として2つの一本鎖抗体(ScFv)を含むことができる。一本鎖抗体とモノクローナル抗体とがリンカーペプチド(配列番号30で示されるもの)により連結されており、一本鎖抗体とモノクローナル抗体との連結方式として、以下のような連結方式を設計し、対称構造を有する二重特異性抗体を得た(図5)。
【0089】
一本鎖抗体のC末端をモノクローナル抗体の重鎖可変領域(VH)のN末端に連結し、nFISTを得た(図5のA)。一本鎖抗体は、リンカーペプチドを介してIgG-FcのC末端に融合して、cFISTを得ることもできる(図5のB)。
【0090】
本実施例では、抗-CD3一本鎖抗体UCHT1の可変領域配列は、文献(Beverley,P.C.&Callard,R.E.Distinctive functional characteristics of human “T” lymphocytes defined by E rosetting or a monoclonal anti-T cell antibody (1981) Eur.J.Immunol.11,329~334)に由来するものであった、ヒト化改造された(Shalaby et.al.,Development of humanized bispecific antibodies reactive with cytotoxic lymphocytes and tumor cells overexpressing the HER2 protooncogene.(1992) J Exp Med.Jan 1;175(1):217~25)ものである。このように構築された一本鎖抗体は、K3(配列番号31で)と命名され、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域にそれぞれ挿入された2つのシステイン(Cys)を含み、折り畳まれた後に鎖間ジスルフィド結合を一対形成し、その重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号28で示されるものであり、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号29で示されるものである。
【0091】
実施例5 BCMA×CD3二重特異性抗体の作製
実施例4で設計されたnFIST及びcFIST形式の二重特異性抗体に従って遺伝子をコードして、発現ベクターpG4HKにクローンすることによって、2つの二重特異性抗体K3B10.3及びB10.3K3を得た。それらの重鎖アミノ酸配列は、それぞれ、配列番号34及び35(モノクローナル抗体の重鎖と一本鎖抗体とがリンカーペプチドを介して連結された融合ペプチドである)で示されるものであり、軽鎖アミノ酸配列は配列番号33で示されるものである。K3B10.3及びB10.3K3に対応する発現プラスミドを、それぞれCHO-K1に安定的にトランスフェクションし、二重特異性抗体タンパク質を作製した。
【0092】
cFIST形式によってより多くの抗BCMA×CD3の二重特異性抗体を構築した。この中、BCMAに結合するIgG単位の重鎖可変領域は配列番号17~21で示されるものに由来し、BCMAに結合するIgG単位の軽鎖可変領域は配列番号18、22、25~27で示されるものに由来した。これらの抗体のプラスミドを293F細胞にトランスフェクションし、一過性発現及びプロテインAによってそれらをさらに精製し、B10K3(重鎖アミノ酸配列が配列番号41で示されるものであり、軽鎖アミノ酸配列が配列番号42で示されるものである)、B10.3K3、B10.4K3(重鎖アミノ酸配列が配列番号43で示されるものであり、軽鎖アミノ酸配列が配列番号44で示されるものである)、B10.5K3(重鎖アミノ酸配列が配列番号45で示されるものであり、軽鎖アミノ酸配列が配列番号46で示されるものである)、B10.9K3(重鎖アミノ酸配列が配列番号47で示されるものであり、軽鎖アミノ酸配列が配列番号48で示されるものである)二重抗体を得た。SDS-PAGEによる純度分析を行ったところ、モノマーが90%以上であったことが示された。それらのBCMA抗原への結合の検測結果を図9Aに示す。
【0093】
上記の二重特異性抗体について、高純度の二重特異性抗体を得るために、以下の手順に従って実施した。(1)試料液の前処理:発酵培養された上清を2000rpmで10分間遠心分離した後、0.22μMのメンブレーンフィルターで濾過処理した。(2)アフィニティークロマトグラフィー:Mabselect SuReアフィニティークロマトグラフィーカラム(GE社から購入、商品番号18-5438-02)を用い、前処理された発酵液における抗体を捕捉した。緩衝液(10mM PBS、0.1M NaCl、pH7.0)でクロマトグラフィーカラムの平衡化を十分に行い、試料液をアフィニティークロマトグラフィーカラムに流し、溶離液(0.1M クエン酸、pH3.0)で溶出した。(3)陽イオン交換クロマトグラフィー:アフィニティークロマトグラフィーで作製されたサンプルを、分子篩交換クロマトグラフィーでさらに精製し、緩衝液(50 mM PBS、0.2 Man NaSO、pH6.7)で溶出した。
【0094】
K3B10.3及びB10.3K3に対してSDS-PAGE及びHPLC-SECの検測を行い、SDS-PAGEの結果を図6に示す。このうち、K3B10.3の還元型SDS-PAGE電気泳動の検測結果を図6Aに示し、非還元型SDS-PAGE電気泳動の検測結果を図6Bに示し、B10.3K3の還元型SDS-PAGE電気泳動の検測結果を図6Cに示し、非還元型SDS-PAGE電気泳動の検測結果を図6Dに示す。HPLC-SECの検測結果を図7に示す。その中、K3B10.3のSECの検測結果を図7Aに示し、B10.3K3のSECの検測結果を図7Bに示す。その検測結果によると、発現及び精製によって二重特異性抗体K3B10.3及びB10.3K3を作製することに成功した。精製された二重特異性抗体のモノマーの純度は95%以上である。
【0095】
実施例6 フローサイトメトリー法による二重特異性抗体とT細胞との結合活性の検測
健康なヒトドナーのPBMC細胞を収集してT細胞を精製し、1×10cell/チューブでPBSに再懸濁し、結合緩衝液(0.5%w/v BSA+2mM EDTAを含むPBS)1 mlで細胞を1回洗浄し、遠心分離(350×g、4℃、5分間)した後、結合緩衝液200μlで細胞を再懸濁した。5μg/mlとなるように二重特異性抗体K3B10.3及びB10.3K3をそれぞれ添加し、氷上で45分間インキュベートした。上記のように細胞を一回洗浄した後、結合緩衝液100μlで細胞を再懸濁した。サンプルチューブに蛍光標識二次抗体(PE anti-human IgG Fc Antibody、Biolegend、409304)5μlを加え、アイソタイプコントロールチューブにアイソタイプコントロール(PE Mouse IgG2a、κ Isotype Ctrl(FC)Antibody、Biolegend、400213 )を加え、氷上で15min遮光してインキュベートした。上記のように細胞を一回洗浄した。細胞をPBS200μlで再懸濁した後、機械(Beckman)にかけて測定した。
【0096】
フローサイトメトリーによるK3B10.3及びB10.3K3のヒトT細胞への結合の検測結果を図8に示し、その中、対照の検測結果を図8Aに示し、K3B10.3のT細胞への結合の検測結果を図8Bに示し、B10.3K3のT細胞への結合の検測結果を図8Cに示す。その結果によると、二重特異性抗体K3B10.3及びB10.3K3は、いずれもT細胞に特異的に結合でき、即ち二重特異性抗体融合タンパク質は一本鎖抗体抗CD3の結合機能を保持している。
【0097】
抗BCMA単位のBCMAへの結合を検測するために、当該実験のT細胞をRPMI8226(ATCC(R)CCL-155)に変更し、類似なFACS実験を実施した。対照の検測結果を図8Dに示し、K3B10.3及びB10.3K3の検測結果を図8E及びFに示す。
【0098】
実施例7 二重特異性抗体により媒介された体外での細胞殺傷の効率の検測
本実施例は、それぞれH929-luc及びRPMI8226-Lucを標的細胞とし、PBMCを免疫エフェクター細胞として、二重特異性抗体B10K3、B10.3K3、B10.4K3、B10.5K3、B10.9K3及びK3B10.3により媒介された標的細胞の殺傷効果を検測した。具体的な実験手順は次の通りである。
【0099】
1)標的細胞の用意:H929-luc及びRPMI8226-Luc(ルシフェラーゼで標識されたH929及びRPMI8226細胞、Excyte社のラボで製造したもの)細胞を培養し、上下にピペッティングして標的細胞を均一に混合させてから計数し、1000rpmで5分間遠心分離し、PBSで1回洗浄した。標的細胞を遠心分離して洗浄した後、GT-T551培地で密度が0.2×10/mlとなるように調整し、1ウェルあたり50μlを加え、つまり1ウェルにおける細胞数が10,000個であった。
2)PBMCの用意:PBMCをエフェクター細胞とした。液体窒素タンク内に凍結保存されたPBMCを取り出して解凍し(細胞の凍結保存及び再培養を参考)、PBSまたはGT-T551培地を含む15mlの遠心チューブに加え、1000rpmで5分間遠心分離し、PBSまたはGT-T551培地で2回洗浄し、細胞数、生存率及び密度を計測し、生細胞の密度が2×10/mlとなるように調整し、1ウェルあたり50μlを加え、つまり1ウェルにおける細胞数が100,000個であった。
3)抗体の希釈:GT-T551培地で二重特異性B10K3、B10.3K3、B10.4K3、B10.5K3、B10.9K3、K3B10.3及びB10.3K3をそれぞれ希釈し、抗体の初期濃度が10nMとなるように調整した。1:5の比率で順次希釈した。希釈された抗体100μlを上記で用意した細胞に加え、均一に混合し、96ウェルプレートをインキュベーターに置き、18時間後に殺傷効果を検測した。
4)検測:H929またはRPMI8226の標的細胞がLuciferase遺伝子を持っているため、LUMINEX法によって標的細胞への殺傷効率を検測した。
Steady-GLO(Promega社)を基質として、キット内の緩衝液を解凍して融化させた後、基質粉末に添加して均一に混合し、1本あたり5mlまたは10ml分注し、Steady-GLO基質の再構築を完了した。共培養された細胞を上下にピペッティングして均一に混合させてから、100μlを取って不透明な白プレートに移し、再構築のSteady-GLO基質100μlを加え、均一に混合するように軽くたたき、5分間放置した後プレートを読み取った。検測装置はSynergy HTであった。
5)データ処理:標的細胞の殺傷率の計算式は次の通りである。
標的細胞の殺傷率(百分率)=100×(標的細胞のみ含むウェルの数値-検測ウェルの数値)/標的細胞のみ含むウェルの数値
【0100】
全ての検測ウェルの標的細胞の殺傷率に対応する抗体濃度をlog10に変換し、これを横軸とし、殺傷率を縦軸としてグラフを作成した。cFIST形式の二次抗体B10K3、B10.3K3、B10.4K3、B10.5K3、及びB10.9K3の感受性細胞株RPMI8226に対する殺傷濃度-勾配曲線を図9Bに示し、各勾配の殺傷百分率を表5に示す。
【0101】
K3B10.3及びB10.3K3の結果を図10に示し、それらのRPMI8226に対する殺傷百分率を表6に示し、それらのH929に対する殺傷百分率を表7に示す。その結果によると、二重特異性抗体B10.3K3は、いずれもPBMCが腫瘍細胞株H929またはRPMI8226を殺傷することを効率的に媒介することができ、
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のB10.3K3の分子は、いずれも抗BCMAの生物学的機能及び抗CD3モノクローナル抗体の生物学的機能を同時に有する。K3B10.3により媒介された標的細胞RPMI8226を殺傷する効力は、B10.3K3より顕著に弱く、特にH929細胞に対する殺傷効果がほとんどない。B10.9K3、B10.5K3、B10.4K3、B10.3K3、及びB10K3により媒介された標的細胞の殺傷のEC50は、それぞれ8.759pM、12.87pM、7.839pM、5.833pM、及び281.7pMであった。
【0102】
【表5】
【0103】
【表6】
【0104】
【表7】
【0105】
上記の表5、表6及び表7において、各二重特異性抗体の二つの縦欄の数値は、2回の繰り返し実験の結果(duplicate)である。
【0106】
上記において、一般的な説明及び具体的な実施形態で本発明を詳しく説明したが、本発明に基づき、いくつかの修正や改善を行い得ることは、当業者にとって自明である。従って、本発明の趣旨から逸脱しない範疇で行われるこれらの修正や改善は、いずれも本発明の保護しようとする範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、BCMA及びCD3に結合する二重特異性抗体及びその作製方法並び使用に関するものである。本発明は、BCMA及びCD3を同時に結合し、特異的な標的作用を有し、指向性免疫反応を効率的に誘発できる二重特異性抗体を提供する。当該二重特異性抗体は、抗CD3抗体及び抗BCMA抗体の生物学的機能を十分に保持しており、一つの二重特異性抗体分子がBCMAとCD3の標的結合の優れた生物学的機能を同時に有することを実現しており、腫瘍細胞と免疫エフェクター細胞との架け橋となり、免疫エフェクター細胞及び指向性免疫反応を効果的に誘起でき、免疫細胞の腫瘍細胞に対する殺傷効果を有意に向上させ、高い標的細胞への殺傷効率を有するとともに、ADCC効果を最小限に抑え、高い安全性を有し、腫瘍の免疫治療において良好な使用見通しがある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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【国際調査報告】