IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凱菜英医藥集團(天津)股▲分▼有限公司の特許一覧

<>
  • 特表-キラルアミン化合物の合成方法 図1
  • 特表-キラルアミン化合物の合成方法 図2
  • 特表-キラルアミン化合物の合成方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】キラルアミン化合物の合成方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/00 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
C12P13/00 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547319
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 CN2021104842
(87)【国際公開番号】W WO2022166104
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】202110151062.2
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110451383.4
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516336828
【氏名又は名称】凱菜英医藥集團(天津)股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ASYMCHEM LABORATORIES (TIANJIN) CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】洪 浩
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ,ゲイジ
(72)【発明者】
【氏名】肖 毅
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 娜
(72)【発明者】
【氏名】焦 学成
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 玉磊
(72)【発明者】
【氏名】牟 慧▲艷▼
(72)【発明者】
【氏名】王 祖建
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼ ▲凱▼▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】▲賈▼ 如
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 芳
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 文敬
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AE01
4B064AE43
4B064AH19
4B064CA21
4B064CB30
4B064CD05
4B064CD12
4B064DA16
(57)【要約】
キラルアミン化合物の合成方法を提供し、アミノ基転移酵素を採用してアミノ基供与体の作用下でケトン類基質に対してアミノ基転移反応を行い、キラルアミン化合物を獲得し、アミノ基転移酵素の保存的アミノ酸配列領域は、少なくとも領域1 MAGLWCVNと、領域2 YNTFFKTと、を含む。特定の保存的アミノ酸配列領域を有するアミノ基転移酵素を採用して大きな立体障害のキラルアミンを合成することにより、酵素触媒反応体積が少なく、合成経路が短く、製品収率が高く、合成条件に高コストの貴金属触媒を用いる必要がなく、廃液・廃ガス・固形廃棄物を低減し、生産コストを節約する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キラルアミン化合物の合成方法であって、アミノ基転移酵素を採用して、アミノ基供与体の作用下で、式Iで表されるケトン類基質に対してアミノ基転移反応を行い、前記キラルアミン化合物を獲得し、
【化1】
Ar1は、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のアリーレン基、又は置換又は無置換のヘテロアリーレン基を表し、
Ar2は、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のシクロアルキル基、又は置換又は無置換の鎖状アルキル基又はヘテロアルキル基を表し、及び
任意的なRであり、Rは、C原子数が1~5の置換又は無置換のアルキレン基を表し、前記Rは、前記Ar1に連結して環を形成し、
ここで、前記置換のアリール基、置換のアリーレン基、置換のヘテロアリーレン基及び置換のアルキレン基における置換基は、それぞれ独立してハロゲン、水酸基、アミノ基、-S-CHから選択され、前記ヘテロアリーレン基及び前記ヘテロアルキル基におけるヘテロ原子は、それぞれ独立してN、O又はSから選択され、
ここで、前記アミノ基転移酵素は、1種類の、保存的アミノ酸配列領域を有するアミノ基転移酵素であり、前記保存的アミノ酸配列領域は、少なくとも領域1と、領域2と、を含み、前記領域1の保存的アミノ酸配列は、MAGLWCVNであり、前記領域2の保存的アミノ酸配列は、YNTFFKTであり、
前記アミノ基転移酵素は、配列番号1で示されるChromobaterium violaceum及び下表中の配列番号2から配列番号55で示されるいずれか1つのアミノ基転移酵素の前記領域1の保存的アミノ酸配列におけるW及び/又はCがAに突然変異した突然変異型アミノ基転移酵素であるか、又は前記アミノ基転移酵素は、前記領域1及び前記領域2を有するという前提で、配列番号1から配列番号55で示されるいずれか1つのアミノ基転移酵素と同じ由来であり、且つ95%以上の相同性を有するアミノ基転移酵素である、ことを特徴とするキラルアミン化合物の合成方法。
【表1】
【請求項2】
前記アミノ基転移酵素は、配列番号1から配列番号55で示されるいずれか1つのアミノ基転移酵素である、ことを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項3】
前記置換のアリール基又はアリーレン基における置換基は、ハロゲン又は-S-CHであり、前記ハロゲン又は-S-CHは、前記アリール基又はアリーレン基のオルト位、メタ位又はパラ位のいずれか1つ又は複数の位置に位置する、ことを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項4】
前記Ar1は、置換又は無置換のアリール基又はアリーレン基を表し、前記Ar2は、無置換のアリール基を表し、前記Rは、C原子数が1~5の無置換のアルキレン基を表し、且つ前記Rは、前記Ar1に連結して環を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項5】
前記Ar1は、無置換のヘテロアリーレン基を表し、前記Ar2は、ハロゲンで置換されたアリール基を表し、前記Rは、水酸基で置換されたC原子数が1~5のアルキレン基を表し、且つ前記Rは、前記Ar1に連結して環を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項6】
前記Ar1は、ハロゲン及びアミノ基で置換されたアリーレン基を表し、前記Ar2は、炭素数が3~8のシクロアルキル基である、ことを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項7】
前記Ar1は、無置換のシクロアルキル基又はアリール基を表し、前記Ar2は、置換又は無置換のシクロアルキル基又はアリール基である、ことを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項8】
前記Ar1は、水酸基、メチル基、エチル基又は-S-CHで置換されたシクロアルキル基又はアリール基を表し、前記Ar2は、無置換のアリール基又はアルキル基である、ことを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項9】
前記ケトン類基質は、以下の通りである、ことを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【化2】
【請求項10】
前記アミノ基供与体は、イソプロピルアミン、イソプロピルアミン塩酸塩、アラニン、n-ブチルアミン又はアニリンである、ことを特徴とする請求項1に記載の合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラルアミン合成分野に関し、具体的には、キラルアミン化合物の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな立体障害のキラルアミン化合物(本願では潜在的キラルカルボニル基の隣の基がメチル基よりも大きい化合物の1種を指す。)は、光学活性物質、機能性分子、薬物及びリガンド合成において広く応用されている1種類の重要なキラル中間体である。しかしながら、このようなキラル化合物の合成に関する報告が少なく、しかも満足できる結果が得られていないのが現状である。例えば、カルボニル基の一側に大きな立体障害のフェニル-tert-ブチルアミノエステルがある選択性は76%である(Angew.Chem.Int.Ed.2007,46,4367)。現在、小さな立体障害(本願では潜在的キラルカルボニル基の隣の基がH又はメチル基である1種類の化合物である。)である不斉水素化反応に対して、いくつかの金属触媒、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウムなどはいずれも良い立体選択性を得たことが報告されているが、カルボニル基の近接立体障害が大きいにつれて、触媒効果が悪くなる。
【0003】
不斉水素化は、ファインケミカル及びプロドラッグを生産するための1種類の技術であるが、この技術は、いくつかの欠点があり、例えば高圧水素ガスを用いる必要があり、生産の安全性に大きな挑戦をもたらし、高価な遷移金属触媒が必要であり、これらの有毒な触媒が後処理過程で慎重に取り扱い、且つ除去する必要がある。また、この過程では、対応するリガンドをスクリーニングするのに多大な労力や物資を要する。多くの場合、この過程には立体選択性が高くないという問題がある(Science,2010,329,305)。いくつかの反応は、また、活性基の保護及び脱保護を必要とする。
【0004】
この様に、従来技術の合成方法はコストが高く、活性基の保護及び脱保護を必要とし、反応条件が厳しく、貴金属触媒を用いるため、新たな合成方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、キラルアミン化合物の合成方法のコストが高く、且つ反応条件が厳しいという従来技術の問題を解決するために、キラルアミン化合物の合成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するために、本発明の一態様によれば、キラルアミン化合物の合成方法を提供し、当該合成方法は、アミノ基転移酵素を採用して、アミノ基供与体の作用下で、式Iで表されるケトン類基質に対してアミノ基転移反応を行い、キラルアミン化合物を獲得し、
【化1】
Ar1は、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のアリーレン基、又は置換又は無置換のヘテロアリーレン基を表し、Ar2は、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のシクロアルキル基、又は置換又は無置換の鎖状アルキル基又はヘテロアルキル基を表し、及び任意的なRであり、Rは、C原子数が1~5の置換又は無置換のアルキレン基を表し、Rは、Ar1に連結して環を形成し、ここで、置換のアリール基、置換のアリーレン基、置換のヘテロアリーレン基及び置換のアルキレン基における置換基は、それぞれ独立してハロゲン、水酸基、アミノ基、-S-CHから選択され、ヘテロアリーレン基及びヘテロアルキル基におけるヘテロ原子は、それぞれ独立してN、O又はSから選択され、ここで、アミノ基転移酵素は、保存的アミノ酸配列領域を有する1種類のアミノ基転移酵素であり、保存的アミノ酸配列領域は、少なくとも領域1と、領域2と、を含み、領域1の保存的アミノ酸配列は、MAGLWCVNであり、領域2の保存的アミノ酸配列は、YNTFFKTであり、当該アミノ基転移酵素は、配列番号1で示されるChromobaterium violaceum及び配列番号2から配列番号55で示されるいずれか1つのアミノ基転移酵素の領域1の保存的アミノ酸配列におけるW及び/又はCがAに突然変異した突然変異型アミノ基転移酵素であるか、又は当該アミノ基転移酵素は、前記領域1及び前記領域2を有するという前提で、配列番号1から配列番号55で示されるいずれか1つのアミノ基転移酵素と同じ由来であり、且つ75%、好ましくは85%、より好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ基転移酵素である。
【0007】
さらに、アミノ基転移酵素は、配列番号1から配列番号55で示されるいずれか1つのアミノ基転移酵素である。
【0008】
さらに、置換のアリール基又はアリーレン基における置換基は、ハロゲン又は-S-CHであり、ハロゲン又は-S-CHは、アリール基又はアリーレン基のオルト位、メタ位又はパラ位のいずれか1つ又は複数の位置に位置し、好ましくは、ハロゲンは、F、Cl又はBrである。
【0009】
さらに、Ar1は、置換又は無置換のアリール基又はアリーレン基を表し、Ar2は、無置換のアリール基を表し、Rは、C原子数が1~5の無置換のアルキレン基を表し、且つRは、Ar1に連結して環を形成する。
【0010】
さらに、Ar1は、無置換のヘテロアリーレン基を表し、Ar2は、ハロゲンで置換されたアリール基を表し、Rは、水酸基で置換されたC原子数が1~5のアルキレン基を表し、且つRは、Ar1に連結して環を形成する。
【0011】
さらに、Ar1は、ハロゲン及びアミノ基で置換されたアリーレン基を表し、Ar2は、炭素数が3~8のシクロアルキル基である。
【0012】
さらに、Ar1は、無置換のシクロアルキル基又はアリール基を表し、Ar2は、置換又は無置換のシクロアルキル基又はアリール基である。
【0013】
さらに、Ar1は、水酸基、メチル基、エチル基又は-S-CHで置換されたシクロアルキル基又はアリール基を表し、Ar2は、無置換のアリール基又はアルキル基である。
【0014】
さらに、ケトン類基質は、以下の通りである。
【化2】
【0015】
さらに、アミノ基供与体は、イソプロピルアミン、イソプロピルアミン塩酸塩、アラニン、n-ブチルアミン又はアニリンである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の技術案を適用し、特定の保存的アミノ酸配列領域を有するアミノ基転移酵素を採用して大きな立体障害のキラルアミンを合成することにより、酵素触媒反応体積が少なく、合成経路が短く、製品収率が高く、合成条件に高コストの貴金属触媒を用いる必要がなく、且つ廃液・廃ガス・固形廃棄物を大きく低減し、生産コストを節約する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本願の一部を構成する明細書の添付図面は、本発明のさらなる理解を提供するためのものであり、本発明の例示的な実施例及びその説明は、本発明を解釈するためのものであり、本発明を不当に限定するものではない。図面は下記の通りである。
図1】本発明の実施例による多重配列(配列番号1及び配列番号2から配列番号19)アラインメントの部分的な結果の概略図を示す。
図2】本発明の実施例による多重配列(配列番号19から配列番号37)アラインメントの部分的な結果の概略図を示す。
図3】本発明の実施例による多重配列(配列番号38から配列番号55)アラインメントの部分的な結果の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
なお、本願における実施例及び実施例における特徴は、矛盾しない限り、互いに組み合わせることができる。以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0019】
本願は、大きな立体障害のキラルアミンの合成方法のコストが高く、且つ反応条件が厳しいという従来技術の問題を解決するために、発明者らは、バイオ酵素の方法を採用して合成することを試みたが、アミノ基転移酵素は構造的に大小2つのポケットが天然には存在するため、その転化可能な基質には大きな限界があり、従来技術において大きな立体障害のキラルアミン化合物に対して触媒活性を有するアミノ基転移酵素が報告されていない。この状況を改善するために、発明者らは、既存の報告されているアミノ基転移酵素を大量にスクリーニングし、数千種類以上の野生型アミノ基転移酵素をスクリーニングし、ほとんどが触媒活性を有さない(即ち目的生成物が全く検出されない)にもかかわらず、このような大きな立体障害のキラルアミン化合物の合成を触媒することが可能なアミノ基転移酵素がいくつか見出され、活性は低いが、少なくとも潜在的な改良の基礎を提供する。
【0020】
これらのアミノ基転移酵素は、Chromobaterium violaceumのCvTA野生型アミノ基転移酵素(配列番号1)、CvTA野生型アミノ基転移酵素と同属異種のアミノ基転移酵素及びCvTA野生型アミノ基転移酵素と異属異種のアミノ基転移酵素である。CvTAアミノ基転移酵素と同属異種由来のアミノ基転移酵素(表1に示す)であっても、CvTAアミノ基転移酵素と異属異種由来のアミノ基転移酵素(表2に示す)であっても、これらのアミノ基転移酵素野生型は、低活性(1%未満)であるが、いずれも大きな立体障害の基質のキラルアミン化合物への変換を触媒する一定の活性を有する。
【0021】
配列番号1の配列は、以下の通りである(459アミノ酸)。
【化3】
【0022】
発明者らは、さらに当該部分の活性を有するアミノ基転移酵素の配列分析を行ったところ、当該部分のアミノ基転移酵素に非常に保存的なアミノ酸領域が複数存在し、図1図2及び図3に示すように、これらの保存的領域の配列相同性は95%以上、場合によっては98%以上、場合によっては100%に達することさえあることを発見した。
【0023】
さらに、発明者らは、実験により、これらの保存的アミノ酸領域は、当該部分のアミノ基転移酵素がいずれも大きな立体障害のキラルアミンの合成を触媒する触媒活性を有する共通性であることを発見した。この推測をさらに検証するために、発明者らは、上記共通の保存的アミノ酸領域から1つ又は数個のアミノ酸を選んで置換し、これらの保存的アミノ酸領域を突然変異させると、触媒活性が向上したアミノ基転移酵素突然変異体を得ることができることを発見した。そこで、発明者らは、大きな立体障害のキラルアミンの合成を触媒するアミノ基転移酵素を発見したことを証明した。
【0024】
上記研究結果を踏まえて、出願人は、本願の技術案を提出した。本願の好ましい実施例では、キラルアミン化合物の合成方法を提供し、本願の上記改造されたアミノ基転移酵素突然変異体を採用して、アミノ基供与体の作用下で、式Iで表されるケトン類基質に対してアミノ基転移反応を行い、キラルアミン化合物を獲得し、
【化4】
Ar1は、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のアリーレン基、又は置換又は無置換のヘテロアリーレン基を表し、
Ar2は、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のシクロアルキル基、又は置換又は無置換の鎖状アルキル基又はヘテロアルキル基を表し、及び
任意的なRであり、Rは、C原子数が1~5の置換又は無置換のアルキレン基を表し、Rは、Ar1に連結して環を形成し、
ここで、置換のアリール基、置換のアリーレン基、置換のヘテロアリーレン基及び置換のアルキレン基における置換基は、それぞれ独立してハロゲン、水酸基、アミノ基、-S-CHから選択され、ヘテロアリーレン基及びヘテロアルキル基におけるヘテロ原子は、それぞれ独立してN、O又はSから選択され、ここで、アミノ基転移酵素は、保存的アミノ酸配列領域を有する1種類のアミノ基転移酵素であり、保存的アミノ酸配列領域は、少なくとも領域1と、領域2と、を含み、領域1の保存的アミノ酸配列は、MAGLWCVNであり、領域2の保存的アミノ酸配列は、YNTFFKTである。
【0025】
上述のように、このような大きな立体障害の基質に対して一定の触媒活性を有するアミノ基転移酵素は、複数の保存的アミノ酸領域を有し、上記で限定された2つの保存的アミノ酸配列領域は、全ての検出された一定の触媒活性を有するアミノ基転移酵素において100%の相同性を有する。そして、予備試験により、このような保存的アミノ酸配列領域は、このような基質を触媒する活性を上昇させる候補領域であることが証明されているため、上記保存的アミノ酸配列領域を有するアミノ基転移酵素は、大きな立体障害の基質を触媒する触媒活性を有し、且つ活性のより高いアミノ基転移酵素に改造されることが望ましく、このような大きな立体障害のキラルアミン化合物の合成効率をさらに向上させ、生産コストを低減し、及び廃液・廃ガス・固形廃棄物を低減する。
【0026】
図1から図3から明らかなように、このようなアミノ基転移酵素は、上記2つの保存的アミノ酸配列領域に加えて、他の保存的アミノ酸配列領域を有する。したがって、好ましい実施例では、上記アミノ基転移酵素は、領域3をさらに含み、領域3の保存的アミノ酸配列は、RWNGYHGSTである。
【0027】
好ましい実施例では、上記アミノ基転移酵素は、配列番号1で示されるChromobaterium violaceum及び下表中の配列番号2から配列番号55で示されるいずれか1つのアミノ基転移酵素の領域1の保存的アミノ酸配列におけるW及び/又はCがAに突然変異した突然変異型アミノ基転移酵素であるか、又は、上記アミノ基転移酵素は、Chromobaterium violaceum由来の配列番号1で示されるアミノ基転移酵素及び表1及び表2中の配列番号2から配列番号55で示されるいずれか1つのアミノ基転移酵素と75%、好ましい85%、より好ましい95%以上の相同性を有し、且つ領域1及び領域2を有するアミノ基転移酵素である。
【0028】
より好ましい実施例では、上記アミノ基転移酵素は、Chromobaterium violaceum由来の配列番号1で示されるアミノ基転移酵素及び表1及び表2中の配列番号2から配列番号55で示されるいずれか1つのアミノ基転移酵素である。
【0029】
本願における言及された大きな立体障害の基質とは、潜在的キラルカルボニル基の隣の基がメチル基よりも大きい1種類の化合物を指し、上記定義に適合する任意の化合物は、このようなアミノ基転移酵素によって触媒される基質として用いることができる。好ましい実施例では、置換のアリール基又はアリーレン基における置換基は、ハロゲン又は-S-CHであり、ハロゲン又は-S-CHは、アリール基又はアリーレン基のオルト位、メタ位又はパラ位のいずれか1つ又は複数の位置に位置し、好ましくは、ハロゲンは、F、Cl又はBrである。
【0030】
好ましい実施例では、Ar1は、置換又は無置換のアリール基又はアリーレン基を表し、Ar2は、無置換のアリール基を表し、Rは、C原子数が1~5の無置換のアルキレン基を表し、且つRは、Ar1に連結して環を形成する。
【0031】
好ましい実施例では、Ar1は、無置換のヘテロアリーレン基を表し、Ar2は、ハロゲンで置換されたアリール基を表し、Rは、水酸基で置換されたC原子数が1~5のアルキレン基を表し、且つRは、Ar1に連結して環を形成する。
【0032】
好ましい実施例では、Ar1は、ハロゲン及びアミノ基で置換されたアリーレン基を表し、Ar2は、炭素数が3~8のシクロアルキル基である。
【0033】
好ましい実施例では、Ar1は、無置換のシクロアルキル基又はアリール基を表し、Ar2は、置換又は無置換のシクロアルキル基又はアリール基である。
【0034】
好ましい実施例では、Ar1は、水酸基、メチル基、エチル基又は-S-CHで置換されたシクロアルキル基又はアリール基を表し、Ar2は、無置換のアリール基又はアルキル基である。
【0035】
好ましい実施例では、ケトン類基質は、以下の通りである。
【化5】
【0036】
好ましい実施例では、アミノ基供与体は、イソプロピルアミン、イソプロピルアミン塩酸塩、アラニン、n-ブチルアミン又はアニリンである。
【0037】
以下、具体的な実施例を挙げて上記技術案及び技術効果について説明する。
【化6】
【0038】
(一)第1の部分は、異なる種属由来の野生型アミノ基転移酵素の、このような大きな立体障害の基質に対する触媒活性についてスクリーニング及び検証する。
【0039】
(実施例1)野生型アミノ基転移酵素のスクリーニング
本実施例は、まずChromobaterium violaceum由来のアミノ基転移酵素(配列は配列番号1で示され、CvTA野生型アミノ基転移酵素と記す。)を選択し、その目的の大きな立体障害の基質(基質1)の合成を触媒する触媒活性を試験した。ここで、CvTA野生型アミノ基転移酵素が基質1を触媒する詳細な過程は、1mLの系に1mgの基質1、0.1mgのPLP、1mgのイソプロピルアミン塩酸塩、50mgの酵素粉末、pH8.0 100mMリン酸塩緩衝液を含み、30℃で40h反応させた。
【0040】
その結果、CvTA野生型アミノ基転移酵素が基質1の合成を触媒する効率は0.56%であった。
【0041】
次に、上記CvTA野生型アミノ基転移酵素と同属であるが異種であり、且つアミノ酸配列が配列番号1と比較して、82%以上の相同性を有する野生型アミノ基転移酵素(具体的には表1を参照)を選択し、且つその触媒活性を試験し、触媒過程が上記と同様であった。その結果、CvTA野生型アミノ基転移酵素と同様に、これらの野生型のアミノ基転移酵素菌種が目的の大きな立体障害の基質(基質1)の合成を触媒する効率が0.01%~1%であった。具体的な結果を表1に示す。
【表1】
10:番号10の酵素は、Chromobacterium属には属さないが、相同性が高いため同表に示した。
上表中、+は、転化率0.01%~0.1%、++は、転化率0.1~0.5%、+++は、転化率0.5~1%を表す。
【0042】
(実施例2)
Chromobacterium由来のアミノ基転移酵素に加えて、本願は、Chromobaterium violaceumと69%から87%の相同性を有する他の由来のアミノ基転移酵素も試験した。具体的な情報を表2に示す。
【0043】
本実施例では異なる由来の野生型のアミノ基転移酵素も、54位から63位及び84位から96位のアミノ酸配列が高度保存性を示した。これらの野生型のアミノ基転移酵素は、試験により、目的の大きな立体障害の基質(基質1)に対しても0.01%~1%の触媒活性を有することが示された(表2参照)。
【表2】
上表中、+は、転化率0.01%~0.1%,++は、転化率0.1~0.5%、+++は、転化率0.5~1%を表す。
【0044】
さらに、表1及び表2に示すような異なるアミノ基転移酵素菌株の配列アラインメントを行い、アラインメント結果を図1から図3に示す。多重配列アラインメントの結果から、野生型Chromobaterium violaceumアミノ基転移酵素の配列(即ち配列番号1)を参照とし、56位から63位の保存的アミノ酸配列領域及び84位から96位の保存的アミノ酸配列領域の2つの領域は、列挙された種属のアミノ基転移酵素において高度に保存され、且つ構造的に基質結合に近い位置にあり、比較的重要なアミノ酸であることが分かった。したがって、この2つの保存的アミノ酸領域は、大きな立体障害の基質に対する親和性を改良し、触媒活性のさらなる向上に寄与することが推測される。
【0045】
(実施例3)
このような上記保存的アミノ酸領域を有するアミノ基転移酵素が、大きな立体障害の基質の触媒活性に及ぼす影響をさらに確認するために、発明者らは、Chromobaterium violaceum由来のアミノ基転移酵素(即ち配列番号1)における保存的アミノ酸領域1(具体的な配列はDGMAGLWCVNVGYGR)におけるアミノ酸W及びCに対してA突然変異を予備的に行ったところ、これらの保存的アミノ酸の突然変異後の基質1に対する触媒効率はいずれも向上し、W-A突然変異後の転化率が5~10%までに向上し、C-A突然変異後の転化率が1~5%までに向上することを発見した(具体的な反応過程は実施例1における記載と同じである。)。
【0046】
他の種由来のアミノ基転移酵素の、当該保存的部位で同じ突然変異が発生した後、基質への転化率が向上することを確認するために、発明者らは、他の由来のアミノ基転移酵素に対しても上記同じ突然変異を行い、検出結果を下表に示す。
【表3】
上表中、++++は、転化率1%~5%、+++++は、転化率5~10%を表す。
【0047】
このことから、保存的アミノ酸配列領域上の保存的アミノ酸部位をさらに認識し、且つ触媒活性を向上させる特徴配列の候補とすることにより、さらに全ての野生型菌株に当該特徴配列を導入する。上記データは、この特徴配列を導入した後は、全ての野生型アミノ基転移酵素が、目的の大きな立体障害の基質(基質1)に対して著しく向上した触媒活性を有することを示している。
【0048】
(実施例4)
発明者らは、さらに異なる大きな立体障害の基質(具体的には以下の基質2から基質13を参照)に対する触媒活性を検出し、本発明の55種類の野生型アミノ基転移酵素及びW-A及びC-A突然変異後の対応する突然変異体を採用し、実施例1と類似の反応条件に従って、以下の異なる基質に対する触媒活性を検出した。
【化7】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】
【表8】
【0054】
【表9】
【0055】
【表10】
【0056】
【表11】
【0057】
【表12】
【0058】
【表13】
【0059】
【表14】
【0060】
【表15】
【0061】
以上の説明から明らかなように、本発明の上記実施例は、以下の技術効果を実現し、1)上記複数の異なる由来の保存的領域を有する野生アミノ基転移酵素を採用して生物触媒を行うことにより、重金属触媒を用いる必要がなく、グリーンケミストリーを実現する。2)重金属触媒に比べて、アミノ基転移酵素を採用して反応を触媒し、合成経路が短く、廃液・廃ガス・固形廃棄物の低減に寄与し、生産コストを節約する。3)異なる由来のアミノ基転移酵素を用い、保存的部位突然変異を行ったアミノ基転移酵素突然変異体は、大きな立体障害のケトン類基質を触媒する生物転化反応を向上させることができ、4)基質タイプは、広く適用可能である。
【0062】
上記は、本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明を限定するものではなく、当業者にとって本発明は様々な変更及び変形が可能である。本発明の精神及び原則を逸脱しない範囲で、なされる任意の修正、均等置換、改良などは、本発明の保護の範囲内に含まれるものとする。

図1
図2
図3
【国際調査報告】