(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】遺伝子改変された細胞の生成方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/89 20060101AFI20240201BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240201BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240201BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240201BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240201BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240201BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240201BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
C12N15/89 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12N15/09 110
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547347
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2022052779
(87)【国際公開番号】W WO2022171543
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523293792
【氏名又は名称】サイトサージ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】CYTOSURGE AG
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ベイヤー, トビアス エー.
(72)【発明者】
【氏名】ガビ, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ユート, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ベグ, マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ミラ, マリア
(72)【発明者】
【氏名】リードマン, サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】モニエ, ポール
(72)【発明者】
【氏名】ベール, パスカル
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA25
4B029BB06
4B029BB11
4B029BB12
4B029CC01
4B029CC02
4B065AA49Y
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4B065AA90Y
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4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA44
(57)【要約】
遺伝子改変された細胞をin vitroで生成するための方法であって、細胞の細胞核へのゲノム編集組成物の直接注入を含み、前記ゲノム編集組成物は、少なくとも1つのCasタンパク質及び別個のゲノム位置を標的とする少なくとも1つのgRNA分子を含み、前記注入は、カンチレバー(4)を含む微小電気機械システム注入チップを用いて実行され、前記カンチレバー(4)は、ナノシリンジ(6)と流体連通しているマイクロチャネル(5)を含み、そして、直接注入は、細胞の核内へのナノシリンジ(6)の挿入によってマイクロチャネル(5)と細胞の核との間に流体連通を提供するステップ、及びゲノム編集組成物を、マイクロチャネル(5)を介してナノシリンジ(6)を通して細胞の核内に注入するステップを含む、方法が開示される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変された細胞を産生するためのin vitroの方法であって、前記方法は、細胞の核へのゲノム編集組成物の直接注入を含み、前記ゲノム編集組成物は、少なくとも1つのCasタンパク質と編集されるゲノム位置を対象とする少なくとも1つのgRNA分子とを含み、前記注入は、カンチレバー(4)を含む微小電気機械システム注入チップを用いて実行され、前記カンチレバー(4)は、ナノシリンジ(6)と流体連通しているマイクロチャネル(5)を含み、そして、直接注入は、細胞の核内へのナノシリンジ(6)の挿入によってマイクロチャネル(5)と細胞の核との間に流体連通を提供すること、及びゲノム編集組成物を、マイクロチャネル(5)を介してナノシリンジ(6)を通して細胞の核内に注入することを含む、方法。
【請求項2】
産生された細胞を増殖させて、第1のモノクローナル細胞培養物を生成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のモノクローナル細胞培養物の細胞を第1のサブグループ及び第2のサブグループに分け、前記第1のサブグループの細胞を配列決定によって分析し、前記第2のサブグループの細胞をさらに増殖させて、第2のモノクローナル細胞培養物を生成する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のモノクローナル細胞培養物の細胞をさらに第3のサブグループに分け、前記第3のサブグループの細胞をさらに増殖させて、第3のモノクローナル細胞培養物を生成する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
直接注入の前に、複数の細胞、特に1~1000個の細胞を含む細胞調製物が提供され、前記遺伝子組成物の直接注入が、前記細胞調製物の1つ又は複数の細胞に対して実行され、前記ゲノム編集組成物の直接注入後、前記ゲノム編集組成物が注入された単一細胞が選択されて前記細胞調製物から分離され、任意選択で引き続き個別に増殖されて第1のモノクローナル細胞培養物を生成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記単一細胞の選択及び分離が、開口部(7’)を有するカンチレバー(4’)と、前記カンチレバー(4’)を通って前記開口部(5’)まで延びるマイクロチャネル(5’)とを含む、微小電気機械システム輸送チップによって前記単一細胞を移動させることを含み、移動が、前記単一細胞が前記カンチレバー(4’)に付着するように、負圧を前記マイクロチャネル(5’)にかけることによって実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
細胞の核内への前記ゲノム編集組成物の直接注入の前に、単一細胞が単離され、特に別個のウェル中に単離される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ゲノム編集組成物が、トランスフェクションマーカー、特に蛍光トランスフェクションマーカー、及び/又は、プラスミド若しくはmRNAであってトランスフェクションマーカー、特に蛍光トランスフェクションマーカーをコードするプラスミド若しくはmRNAをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ゲノム編集組成物が、複数のCasタンパク質及び、編集されるゲノム位置をそれぞれ対象とする複数のgRNA分子を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ゲノム編集組成物が、6~9のpH範囲を有する1つ又は複数のバッファー及び/又は無機塩混合物、特に水溶液、例えばNaCl、KCl、MgCl
2、CaCl
2及びそれらの混合物、を有するバッファー組成物をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのCasタンパク質が、Cas9、Cas12、及びCas13、並びに/又はそのニッカーゼ、触媒作用喪失バリアント、若しくは酵素機能にコンジュゲートされた触媒作用喪失バリアントから選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ゲノム編集組成物が、相同組換えのための二本鎖又は一本鎖DNAをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ゲノム編集組成物が、蛍光ナノ粒子、磁性ナノ粒子、若しくは官能化ナノ粒子などのナノ粒子、ウイルス、ミトコンドリアなどの細胞小器官、リボソーム、ホルモン、成長因子、阻害剤、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、神経伝達物質、脂質、脂質、タンパク質及び/若しくは糖のコンジュゲート、RNA、低分子及び薬物のうちの1つ又は複数をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ゲノム編集組成物の直接注入の前に、前記細胞が、1μm/秒~1mm/秒の接近速度でナノシリンジ(6)によって接近される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ゲノム編集組成物が、大気圧に対して0mbar~5000mbarの間の圧力を前記カンチレバーの前記マイクロチャネル(5)にかけることによって細胞の核内に注入される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記微小電気機械システム注入チップが、3D空間内で前記微小電気機械システム注入チップを位置決めするように構成された位置決めユニットに動作可能に接続される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
1~1000fLの量の前記ゲノム編集組成物が、細胞の核内へと直接注入される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの前記gRNA分子が、crRNAとアニーリングされているtracrRNAを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの前記gRNA分子が、crRNA及びtracrRNAの配列を含む単一のRNA分子からなるsgRNAである、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の方法により得られる遺伝子改変された細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の遺伝子改変、特に遺伝子改変された細胞を産生するための方法に関する。
【0002】
[背景、先行技術]
ゲノム工学ツールは特に、メガヌクレアーゼ3、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、及び最も著名な、クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)ヌクレアーゼのクラスを含むプログラム可能なヌクレアーゼ(PN)に基づいている。
【0003】
PNによりDNA鎖切断(一本鎖切断[SSB]及び二本鎖切断[DSB])を誘導すると、細胞のDNA修復応答が誘発され、損傷が回復する。ほとんどの場合、DSBはDNAの再連結によって修復される。これは多くの場合、配列の変化を引き起こし、ひいては非機能的な遺伝子産物を導く。或いは、別のDNAドナー分子からの鋳型修復が、相同組換え修復(HDR)を通じて生じ得る。これらのDNA修復プロセスは、望ましいゲノム変化を導入するために、ゲノム編集によって利用される。
【0004】
ゲノム工学、個別化医療、及び合成生物学の進歩には、多数の複雑な遺伝子改変された細胞株が必要とされる。過去数十年の間に、これらの細胞株は、基礎的な生物学のより良い理解、疾患のモデル化、及び新たな個別化治療薬の開発を可能にするためのバイオ医薬品研究にとって重要なものとなった。したがって、それらの研究を可能にし、これらの目標を達成するために、多数の改変された細胞株が必要とされている。
【0005】
改変細胞株を生成する既存の製造方法は、DNA、RNA、タンパク質、又はこれらの高分子の組み合わせを数百万個の細胞に送達するバルク方法に基づいている。カーゴの性質に応じて、送達方法には、ウイルスベクター、脂質ベースの小胞、又はエレクトロポレーションなどの物理的方法が含まれるが、これらに限定はされない。トランスフェクション率は、細胞の種類、トランスフェクション方法、及び/又は送達されるカーゴに応じて0~99%の範囲で変化する。さらに、これらのアプローチは全て、ネクローシス又はプログラムされた細胞死につながる細胞への毒性作用を及ぼし得る。トランスフェクション率が十分に高い(>90%)場合には、ポリクローナルなバルク培養が、特定の用途のために使用され得る。
【0006】
しかしながら、基礎生物学において、及びトランスレーショナルな応用では、モノクローナルな細胞株が必要とされる。これらの高分子の送達が成功した後には、モノクローナルな細胞株を生成するために、変更された細胞を同定し、単離するための退屈な選択プロセスが必要となる。これは、FACS又は薬剤選択によって細胞を純化するために、蛍光タンパク質又は薬剤耐性をコードするプラスミドなどの選択可能マーカーを追加することによって達成され得る。選択された細胞は、クローン性のコロニーを形成し、個々のコロニーの部分サンプルが収集されて、所望の改変が存在するかどうかが試験される。正しく改変された細胞クローンは、真のモノクローナル性を保証するために数回の段階希釈にかけられる。概して、このプロセスは、退屈で時間がかかり、十分にスケールしない。同一の細胞内で複数の改変を実行する場合には、追加の改変/編集ごとに生成時間がほぼ線形にスケールするため、スケーリングの問題はさらに悪化する。n個の改変を有する細胞株の生成時間は、n×10週間となる。さらに、トランスフェクション効率が低いため、多くの既知のプロセスは、標的細胞内のCRISPR成分などの必要な改変成分の実際の濃度の十分な制御を提供しない。
【0007】
[開示の概要]
本発明の一般的な目的は、遺伝子改変された細胞を生成するための方法の最先端技術を進歩させ、好ましくは先行技術の欠点を完全に又は部分的に克服することである。好ましい実施形態では、従来技術で知られている方法よりも有意に短い時間で完了可能な、遺伝子改変された細胞を産生するための方法が提供される。さらに好ましい実施形態では、モノクローナルな細胞集合体を生成するためのより簡便及び/又はより迅速なプロセスを可能にする、遺伝子改変された細胞を産生するための方法が提供される。
【0008】
第1の態様では、一般的な目的は、請求項1に記載の遺伝子改変された細胞をin vitroで産生するための方法によって達成される。本方法は、細胞、好ましくは接着細胞、すなわち表面に接着している細胞の核にゲノム編集組成物を直接注入することを含む。ゲノム編集組成物は、少なくとも1つのCasタンパク質及び編集されるゲノム位置を対象とする(directed to)少なくとも1つのgRNA分子を含む。gRNAは典型的には、Casタンパク質との結合を担うヘアピン構造と、標的となるDNAに相補的な配列という2つの機能部分から成る。注入は、特にAFMカンチレバーであり得るカンチレバーを含む微小電気機械システム注入チップを用いて実行され、ここで、カンチレバーは、カンチレバーのナノシリンジと流体連通しているマイクロチャネルを含む。直接注入は、ナノシリンジを細胞の核に挿入し、ゲノム編集組成物を、マイクロチャネルを介してナノシリンジを通して細胞の核に注入することによって、マイクロチャネルと細胞の核との間に流体連通を提供することを含む。本発明に従う方法は、ゲノム編集組成物を単一細胞の核に直接導入することを可能にし、これは特に、例えばNLS配列(核局在化配列)を含むCasタンパク質などの改変Casタンパク質を省くことを可能にする。数千個の細胞への大量トランスフェクションとは対照的に、化学量論が正確に制御され得るため、はるかに信頼性が高く、制御可能なプロセスが提供される。さらに、それぞれの核に注入されるゲノム編集組成物の量が正確に決定され得る。それから、単一細胞それ自体が、本質的にモノクローナルであるモノクローナル細胞株を提供するための増殖の起源として使用され得る。したがって、細胞の退屈な選択及び分析のプロセスが回避される。注入そのものが、カンチレバー型ナノシリンジによる細胞への力フィードバック貫入によって正確に制御可能であり、それにより細胞の損傷、ひいては細胞死が回避され、最終的には、改変に成功した細胞の量が増加する。一般に、カンチレバーの屈曲は、例えば、カンチレバーから反射されたレーザービームを受光するように構成されたフォトダイオードと組み合わせたAFMで一般的であるように、レーザービームによって制御され得る。
【0009】
さらに、本発明に従う微小電気機械システム注入チップの使用は、制御を失うことなく、注入ステップ自体を短い時間、すなわち1秒~60秒以内に実行することを可能とする。
【0010】
gRNAは、Casタンパク質に結合するための足場及び標的DNA領域に相補的なスペーサーを有する単一のRNAを含み得ることが理解される。或いはgRNAは、標的DNAに相補的なcrRNA及びCas結合に関与するtracrRNAを含み得る。crRNAとtracrRNAは、Casタンパク質に結合する前にアニーリングされなければならないことが理解される。
【0011】
Casタンパク質は、CRISPR関連タンパク質として理解される。gRNAに結合すると、Casタンパク質は規定のゲノム位置へと誘導され得る。Casタンパク質は、SS(ニッカーゼ)及びDS切断を誘導するヌクレアーゼ、並びに触媒作用喪失(catalytic dead)ヌクレアーゼを含み得る。Casタンパク質は、塩基編集活性、転写活性化若しくはリプレッサードメイン、及びその他の目的の活性を含むように改変され得る。本請求は、特定の種由来の特定のCasタンパク質(例えばCas9)に限定されず、他のタイプのCasタンパク質(クラス1、タイプI、III、IV、クラス2、タイプII、V、VI)にも及ぶことが理解される。
【0012】
さらに、標的とされる各DNA配列について、Casタンパク質に結合するDNAに相補的なgRNAの個々のペアが存在することが理解される。したがって、複数のゲノム遺伝子座を一度に標的化するには、標的部位に相補的なgRNAを含むgRNA/Cas複合体が少なくとも1つ存在しなければならない。
【0013】
ナノシリンジは、例えばゲノム編集組成物などの水溶液に対する1~5000mbarの印加圧力で1~60秒以内に1nL未満、好ましくは1pL未満の体積を注入することを可能とする開口部を有する先端部を含む構造的特徴として理解される。マイクロメートル未満の範囲(ナノメートル範囲)の開口部、例えば、直径が10~1500nm、好ましくは10~999nmの開口部は、これらの条件を満たすのに適している。
【0014】
いくつかの実施形態では、ナノシリンジの開口部は、10μm未満、好ましくは5μm未満のサイズ、特に直径を有する。特に、開口部は10nm~5μm、例えば0.1μm~1.5μmのサイズ、特に直径を有し得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、ナノシリンジはピラミッド構造を有していてもよく、ここで、開口部はピラミッド構造のシェル表面上に配置される。そのようなナノシリンジは、ピラミッド構造の頂点が鋭い穿刺先端として機能し、細胞の明確な穿刺を提供することから有利である。
【0016】
いくつかの実施形態では、ナノシリンジは、ナノシリンジ先端部として構成された、好ましくは少なくとも部分的に円筒形状を有する中空の管状体を含み得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、カンチレバー及び/又はマイクロチャネル、特にマイクロチャネルの壁は、オルガノポリシロキサン、特にハロゲン化オルガノポリシロキサンなどの防汚剤でコーティングされている。適切な防汚剤は、Pacram(登録商標)又はSigmacote(登録商標)であり得る。
【0018】
典型的には、ゲノム編集組成物は水溶液であり得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、本方法は、産生された細胞を増殖させて、第1のモノクローナル細胞培養物を生成するステップをさらに含む。増殖は例えば、単一のウェル内で実行され得る。細胞培養物は、複数の細胞を含むこと、すなわち細胞株とみなされ得ることが理解される。本発明に従う方法は、対応する細胞の正確な選択及び注入を可能にする。そのような注入後の細胞を例えば適切な条件下での細胞培養によって増殖させた場合、結果として得られる細胞培養物はそれ自体モノクローナルとなる。したがって、本方法は、遺伝子改変された細胞をわずか2週間~4週間で能率的に産生することを可能にする。
【0020】
いくつかの実施形態では、第1のモノクローナル細胞培養物の細胞、すなわち産生された細胞を増殖させることによって得られる細胞培養物は、少なくとも2つ、特に2つ又は3つのサブグループ、例えば第1のサブグループ、第2のサブグループ、そして任意選択で第3のサブグループへと分けられる。特に、細胞培養物の分割は、生成された細胞の10~20回の集団倍加後に実行され得る。特定の実施形態では、第1のモノクローナル細胞培養物の細胞は、2つのみ、又は3つのみのサブグループに分けられる。
【0021】
いくつかの実施形態では、第1のサブグループは、第1のモノクローナル細胞培養物の細胞の5%~20%を含み得る。いくつかの実施形態では、第2のサブグループは、第1のモノクローナル細胞培養物の細胞の60%~90%を含み得る。いくつかの実施形態では、第3のサブグループは、第1のモノクローナル細胞培養物の細胞の5%~20%を含み得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、第1のサブグループの細胞、特にそれらのDNA配列は、配列決定によって分析される。特に、細胞DNAは、例えば細胞の化学的及び/又は酵素的処理によって初めに遊離させることができる。特定の実施形態では、遊離されたDNAはPCRによって増幅される。特に、編集されるゲノム位置の上流及び下流に位置するssDNAオリゴヌクレオチドが、PCRに使用され得る。遊離して増幅されたDNAは、それから配列決定によって分析される。いくつかの実施形態では、遊離されたDNA、増幅されたDNAはそれぞれ、サンガー配列決定によって配列決定される。
【0023】
いくつかの実施形態では、取得された配列は、編集を同定するために予想される未改変の配列と比較される。編集はさらに、適切なコンピュータ実施方法によって特徴付けられてもよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、第2のサブグループの細胞は、特にウェルプレートのウェル内で、さらに増殖されて、第2のモノクローナル細胞培養物を生成する。このステップは、好ましくは、第1のサブグループの細胞が分析されている間に実行される。当業者には理解されるように、増殖は適切な細胞培養培地中で実行される。第2のサブグループの細胞の増殖は、それぞれ2~4日間、2~12回の集団倍加で実行され得る。第1のサブグループの細胞の分析から得られた配列決定の結果は、第2のサブグループの細胞の遺伝子型を同定するために使用され得る。特定の実施形態では、所望の変異を含む細胞は、例えば凍結保存によって保存される。凍結保存培地は、例えば、1~30%のDMSOを含む通常の増殖培地、又は特殊な市販の凍結保存培地(例えば、Cryostore、Sigma)から成り得る。いくつかの実施形態では、改変されていない、すなわち所望の変異を含まない細胞もまた一定量保存され、特に凍結保存される。これには、対照実験にとって有益となる改変細胞と同じ処理を受けた対照細胞のセットが得られ、よって、得られた第2のモノクローナル細胞培養物に関する実験におけるデータ解釈の誤りが低減するという利点がある。
【0025】
第1のモノクローナル細胞培養物の細胞、すなわち産生された細胞を増殖させることによって得られる細胞培養物が2つのサブグループ、すなわち上記の第1及び第2のサブグループへと分けられる実施形態は、細胞がさらに増殖及び保存されている間に第1のサブグループが分析されるため、細胞株生成の効率を有意に高める。これにより、所望の遺伝子改変を受けた細胞のみが確実に保存される。
【0026】
いくつかの実施形態では、第3のサブグループの細胞は、特にウェルプレートのウェル内で、さらに増殖されて、第3のモノクローナル細胞培養物を生成する。第3のサブグループの細胞は、第2のサブグループの細胞とは独立して別個に増殖させられることが理解される。当業者には理解されるように、増殖は適切な細胞培養培地中で実行される。第2のサブグループの細胞の増殖は、それぞれ2~4日間、2~12回の集団倍加で実行され得る。凍結保存培地は、例えば、1~30%のDMSOを含む通常の増殖培地、又は特殊な市販の凍結保存培地(例えば、Cryostore、Sigma)から成り得る。第3のサブグループの増殖された細胞は保存、特に凍結保存され得る。第3のサブグループの増殖された細胞は、第2のサブグループの増殖された細胞のバックアップ細胞として機能する。したがって、第2のサブグループの増殖された細胞の偶発的な損失が回避され、バックアップ細胞が容易に提供され得る。
【0027】
第1のモノクローナル細胞培養物の増殖された細胞を分割することには、モノクローナルな遺伝子改変された細胞株の生成に8週間~16週間を必要とし、さらにはるかに厄介な先行技術の方法と比較して、必要な時間がわずか2週間~6週間程度に短縮されるという利点がある。さらに、遺伝的浮動のリスクは追加の倍加ごとに高まることから、集団倍加の回数、例えば対照分析を行わない倍加の回数が低減される結果、より信頼性の高い方法となる。
【0028】
いくつかの実施形態では、直接注入のステップの前に、複数の細胞、特に1~1000個の細胞を含む細胞調製物が提供され、遺伝子組成物の直接注入が1つ又は複数の細胞に対して実行され、例えば、遺伝子組成物の直接注入が、細胞調製物の細胞の最大10%、20%、30%、40%、50%、例えば60%、例えば70%、例えば80%、例えば90%、例えば95%、例えば100%に対して実行される。ゲノム編集組成物の直接注入後、ゲノム編集組成物を注入された単一細胞が選択され、細胞調製物から分離され、任意選択で引き続き個別に増殖されて第1のモノクローナル細胞培養物を生成する。そのような実施形態は、比較的速い注入ステップにより、複数の異なるモノクローナル細胞株が生成され得るという利点を有する。通常、注入は連続して実行されるが、細胞の分離後、特定の単一細胞が分離されてもよく、任意選択で単一のウェルへと供給され、次いで増殖によるモノクローナル細胞培養の起点として機能し得る。したがって、有意に短縮されたプロセス時間内で、異なるモノクローナル細胞株が生成され得る。そのようなプロセスにおいて時間を制限するステップは、注入ではなく、複数の異なるモノクローナル細胞株に対して並行して実行可能な増殖ステップであることに留意されたい。
【0029】
特定の実施形態において、単一細胞の選択及び分離は、開口部を有するカンチレバーと、カンチレバーを通って開口部まで延びるマイクロチャネルとを含む、微小電気機械システム輸送チップによって単一細胞を移動させることを含み、移動は、単一細胞がカンチレバーに付着するように、環境に対して負圧をマイクロチャネルにかけ、付着した細胞と一緒にカンチレバーを全体として移動させることによって実行される。移動は、単一細胞を開口部に接触させ、負圧をかけることによって実行され得る。典型的には、微小電気機械システム輸送チップのカンチレバーは、微小電気機械システム注入チップのカンチレバーと比較すると、特に開口部に、鋭いエッジ又は先端を含まない。したがって、微小電気機械システム輸送チップのカンチレバーは、開口部を含む平らな細長い要素又は表面を含んでいてもよい。負圧をかけると、分離される細胞は、部分的に開口部へと吸い込まれて、カンチレバーに付着する。次いで、選択された細胞を分離するために、特に細胞培養物の残りの細胞に対して、カンチレバーを移動させることができる。細胞は、例えば、単一のウェルなどの別個の容器へと輸送されてもよく、好ましくは自動的に輸送され得る。その後のステップでは、選択及び分離された細胞を増殖させて、モノクローナル細胞培養物が生成され得る。そのような実施形態は、微小電気機械システム輸送チップが、微小電気機械システム注入チップと容易に組み合わせ可能で、すなわち同じ自動要素及び機能が使用可能で、時間を節約し、細胞損傷を避けることができる穏やかな方法で、細胞選択が正確に実行され得るという利点を有する。
【0030】
いくつかの実施形態では、付着細胞はまず、隣接する細胞及び培養容器から移される前に、(例えば、トリプシン、EDTAによる)局所的な化学的及び/又は酵素的処理によって剥離され得る。これらの溶液は、微小電気機械システム輸送チップによって局所的に送達され得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、細胞の核内へのゲノム編集組成物の直接注入の前に、単一細胞が単離され、特に別個のウェル中に単離される。したがって、複数の細胞のうちの1つ又は複数が提供され、対応する細胞調製物の所与の細胞に対して直接注入が実行される実施形態とは対照的に、直接注入の前に、単一細胞が初めに単離及び分離される。これは、本発明に従う直接注入により、ゲノム編集組成物が高度に制御可能な条件下で細胞の核に直接導入されるため、遺伝子改変の成功率がバルクトランスフェクション法よりもはるかに高いことから可能となっている。したがって、単一細胞を出発点として使用し、それを改変した後、増殖させてモノクローナル細胞株を生成することができる。単離は、例えば、上で開示した微小電気機械システム輸送チップを使用して実行され得る。いくつかの実施形態では、単一細胞の単離は、単一細胞を別個のウェル、特に別個のウェルの中心に沈着させる細胞プリンティング装置を用いて実行され得る。容易に理解されるように、単一細胞の単離は一般に、複数の細胞がそれぞれ別個のウェル中に単離されるように、複数回反復され得る。したがって、12、24、48、又は96個のウェルを有するウェルプレートの各ウェルは、例えば、単一の単離された細胞を含み得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、単離された単一細胞は、一定の回復時間インターバルの間、例えば2~24時間、増殖培地中で維持される。特に、単離された単一細胞(複数可)は4℃~37℃の温度、及び/又は0~95%の湿度、及び/又は0.1vol%~10vol%のCO2濃度で維持され得る。この期間中に、単離された単一細胞は、ゲノム編集組成物の核への直接注入前に回復し得る。好ましくは、モノクローナル性が注入前に検証され得る。
【0033】
微小電気機械システム注入チップ及び/又は微小電気機械システム輸送チップは、例えば、Si、SiO2又はSi3N4から作製され得る。
【0034】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集組成物は、トランスフェクションマーカー及び/又はトランスフェクションマーカーをコードするプラスミド若しくはmRNAをさらに含む。適切なトランスフェクションマーカーは、トランスフェクションが成功したかどうかを決定することを可能にし、したがって、本発明に従う方法に対する直接的な制御機構を提供する。これはさらに、分離される細胞の選択も簡素化し得る。特定の実施形態では、トランスフェクションマーカーは、蛍光トランスフェクションマーカー又はルシフェラーゼ酵素であり得る。適切な蛍光トランスフェクションマーカーは、GFP、RFP、YFP、BFP、ローダミンなどである。トランスフェクションマーカーは、いくつかの実施形態では、0.5ng/μL~250ng/μL、特に0.5ng/μL~100ng/μLの濃度で存在し得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションは、その核内にゲノム編集組成物が注入された細胞、増殖によってこの細胞から発生した細胞をそれぞれスキャンすることによってモニターされる。特定の実施形態では、モニタリングは顕微鏡、特にEVOS M7000などの画像化システムを用いて行われる。モニタリングは、所定の時点で、又は一定の時間間隔で行われ得る。例えば、モニタリングは1日目、2日目、4日目、及び10日目に行われ得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集組成物は、複数のCasタンパク質及び複数のgRNA分子を含む。個々のgRNAは、配列の相補性によってゲノム位置に標的化される。gRNAは1つのCasタンパク質と複合体を形成し、それによってCasタンパク質を前記ゲノム位置に誘導することができる。その後、Casタンパク質のヌクレアーゼ活性が、標的のゲノム位置を切断する。Casタンパク質の性質に応じて、ヌクレアーゼはSS(一本鎖)又はDS(二本鎖)DNA切断を誘導し得る。
【0037】
いくつかの実施形態では、Casタンパク質は、そのヌクレアーゼドメインを不活化する変異を保有し得る。この場合、Casタンパク質を他のタンパク質又はタンパク質ドメインと融合させて、特定の活性を追加してもよい。これは、転写活性化若しくは抑制ドメイン、塩基編集機能、蛍光ドメイン、又は他の酵素活性であり得るが、これらに限定はされない。
【0038】
gRNAのCasタンパク質への最適な結合のためには、10:1~1:10、特に1:1~1:10の化学量論が好ましい。
【0039】
典型的には、ゲノム編集組成物は一般に、1つのCasタンパク質と複合体を形成する少なくとも1つの個別のgRNA分子を含有し、それにより、1つの別個のゲノム実体を標的化する。いくつかの実施形態では、ゲノム編集組成物は、1~500の個々のgRNA/Cas複合体を含み得る。これらを同時に注入することで、1~500の異なるゲノム遺伝子座を標的化することができる。そのような実施形態は、単一の注入ステップによる単一の細胞中での複数の遺伝子編集イベントを可能とする。したがって、連続的なバルクトランスフェクションとは対照的に、必要な薬剤を単一のステップで選択的に注入できるため、複数の遺伝子編集イベントが時間節約的な方法で実行される。
【0040】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集組成物はさらにバッファー組成物を含み、バッファー組成物は、6~9のpH範囲を有する1つ又は複数のバッファー及び/又は無機塩混合物、特に水溶液、例えばNaCl、KCl、MgCl2、CaCl2及びそれらの混合物を有する。塩混合物は、細胞固有の内部浸透圧に適合するように構成される。適切なバッファーは、PBS、HEPES、トリス/HCl、トリス/HCl/EDTA、TCEPなどのうちの1つ又は複数から選択され得る。バッファー濃度は、0.1mM~200mMの間であり得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのCasタンパク質は、Cas9、Cas12、及びCas13、並びに/又はそのニッカーゼ、触媒作用喪失バリアント(catalytic dead variant)、又は、塩基エディター、蛍光タンパク質、ヌクレアーゼ、転写活性化因子若しくは抑制因子、エピジェネティック修飾因子などの酵素機能にコンジュゲートされた触媒作用喪失バリアントから選択される。
【0042】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集組成物は、二本鎖又は一本鎖DNAをさらに含む。特定の実施形態では、二本鎖又は一本鎖DNAの長さは、50bp~10kbの間である。二本鎖又は一本鎖DNAの濃度は、例えば、相同組換えの場合、0.1pmol/μL~100pmol/μLであり得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集組成物は、注入効率を追跡し、注入量の計算を可能にするように構成されたトレーサーをさらに含む。適切なトレーサーは、例えば、特に0.1mg/mL~10mg/mLの濃度のルシファーイエローの水溶液であり得る。特定の実施形態では、ゲノム編集組成物は、適切な注入効率標識、特にAtto550などの蛍光標識で標識された標識tracrRNAを含む。特に、gRNAに含まれる非標識tracrRNAと標識tracrRNAとの比は、1:10~10:1の範囲であり得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集組成物は、蛍光ナノ粒子、磁性ナノ粒子、若しくは官能化ナノ粒子などのナノ粒子、ウイルス、ミトコンドリアなどの細胞小器官、リボソーム、ホルモン、成長因子、阻害剤、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、神経伝達物質、脂質、脂質とタンパク質及び/若しくは糖のコンジュゲート、RNA、低分子及び薬物のうちの1つ又は複数をさらに含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集組成物の直接注入に先立ち、細胞が、細胞損傷を回避する1μm/秒~1mm/秒の接近速度でナノシリンジによって接近される。特定の実施形態では、ナノシリンジの接近は、一定の接近速度を保証する制御ユニットの制御下にある。
【0046】
いくつかの実施形態では、細胞膜を貫通するためにナノシリンジによって加えられる力は、1nN~5000nNの間、好ましくは700nN~1500nNの間である。
【0047】
ゲノム編集組成物を注入した後の細胞損傷を回避するために、いくつかの実施形態では、ナノシリンジは、1μm/秒~1000μm/秒の速度で細胞から引き抜かれる。
【0048】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集組成物を細胞の核へと注入するための注入時間は、1秒~60秒の間である。
【0049】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集組成物は、大気圧に対して0mbar~5000mbarの間の圧力をカンチレバーのマイクロチャネルに加えることによって細胞の核内に注入される。
【0050】
いくつかの実施形態では、微小電気機械システム注入チップ及び/又は微小電気機械システム輸送チップは、3D空間内で微小電気機械システム注入チップを位置決めするように構成された位置決めユニットに動作可能に接続される。位置決めユニットは、自動位置決めユニットであり得る。また、それは制御ユニットの制御下にあってもよい。位置決めユニットは、少なくとも1セットの軸、例えば3つの直交軸(x、y、z)によって実現され、それによりデカルト座標運動力学ロボット構造が確立されてもよい。x軸とy軸は横軸と呼ばれ、動作構成において、それぞれ重力方向を横切る水平である一方、z軸は縦軸と呼ばれ、重力方向と一致している。軸は典型的には電動軸であり、例えば当技術分野で一般に知られているリニアスピンドル又はリニアモータドライブとして実現される。いくつかの実施形態では、横方向の軸の一方(例えばy軸)が、ベース支持体上に別個に配置され、他の2つの軸(例えばx軸及びz軸)が、一方の軸が他方の軸を担持するように組み合わせて配置される。他の実施形態では、3つの軸全てが、組み合わせて配置される(例えば、y軸はx軸を担持し、z軸はx軸を担持する)。
【0051】
いくつかの実施形態では、レーザービームが、カンチレバーに向けられ、フォトダイオードが、カンチレバーによって反射されるレーザービームを収集するように配置される。レーザービームを供給するレーザー及びフォトダイオードはどちらも、制御ユニットの制御下にあり得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、視覚的な制御は、顕微鏡によって達成されてもよく、これも制御ユニットによって制御され得る。顕微鏡には、蛍光又は共焦点イメージング手段が装備されていてもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、1~1000fLの量のゲノム編集組成物が、細胞の核内へと直接注入される。
【0054】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのgRNA分子は、crRNAとアニーリングされているtracrRNAを含む。そのような実施形態では、tracrRNAとcrRNAは典型的には共有結合していない。そのようなアニーリングされたgRNAは、crRNAとtracrRNAの配列を含む単一のRNA分子からなるsgRNAと比較して、標的DNAの切断効率が低いことが知られている。しかしながら、本発明に従う方法は、(従来のトランスフェクションバリアが省かれ、成分が核内へと直接送達されるという事実により)はるかに高いゲノム編集効率と特異性を有するため、アニーリングされたgRNAの使用による効率の低下は無視できる。しかしながら、強力な利点は、sgRNAと比較してアニーリングされたgRNAの効率が低下するため、オフターゲット率が大幅に低下し、それによってオフターゲット効果の発生が減少することである。
【0055】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのgRNA分子は、crRNA及びtracrRNAの配列を含む単一のRNA分子から成る、又はそれを含むsgRNAである。
【0056】
別の態様によれば、一般的な目的は、本明細書に記載される実施形態のいずれかに従う方法によって得られる遺伝子改変された細胞によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】
図1は、古典的な遺伝子改変アプローチの概略図を示している。細胞は古典的なトランスフェクション法によってトランスフェクトされ、0~72時間増殖させられ(1)、陽性細胞(
*)がFACS又は薬剤耐性スクリーニングによって選択され(2)、死細胞は廃棄される(3)。次に、選択された細胞が増殖させられ(4)、分析される。陽性細胞クローンがさらに培養され(5)、モノクローナル性を保証するために必要な数ラウンドの段階希釈にかけられる(6)及び(7)。モノクローナル細胞株を生成するためのプロセス全体には通常、10週間程度かかる。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に従う、表示のカンチレバー型ナノシリンジを介した単一の単離細胞1の細胞核2へのゲノム編集組成物3の直接注入を示している。
【
図3】
図3は、本発明に従う方法の別の実施形態を示している。複数の細胞を含む細胞調製物が提供され、ステップ(1)において、遺伝子組成物の直接注入が、細胞調製物の1つ又は複数の細胞に対して実行される。一定時間後、ゲノム編集組成物を注入した細胞の1つ(黒い点で示される)が選択され、開口部を有するカンチレバーと、カンチレバーを通して開口部まで延びるマイクロチャネルとを含む微小電気機械システム輸送チップを用いて、細胞調製物から分離される。マイクロチャネルに負圧を加えると、細胞が部分的に開口部へと吸い込まれ、カンチレバーに付着する。
【
図4】
図4a)及びb)は、ナノシリンジ6と流体連通しているマイクロチャネル5を有するカンチレバー4を含む微小電気機械システム注入チップの異なる実施形態を示している。ナノシリンジ6は、
図4a)の実施形態では、本明細書に記載されるようなピラミッド構造を有している。マイクロチャネル5と流体連通している開口部7は、頂点8には配置されず、ピラミッド構造のシェル表面に配置される。
図4bでは、ナノシリンジ6は、鋭利な先端であり、その開口部がマイクロチャネル5と流体連通している中空の管状体9を含んでいる。
図4c)は、カンチレバー4’と、マイクロチャネル5’と流体連通している開口部7’とを有する微小電気機械システム輸送チップを示している。見てわかるように、開口部7’は、平らな表面に配置されており、それによってマイクロチャネル5’に負圧が加わったときに細胞を損傷し得る鋭いエッジを回避している。
【国際調査報告】