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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】インビボでmRNAを送達する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20240201BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240201BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20240201BHJP
【FI】
A61K48/00
A61P35/00
A61P31/12
A61P31/04
A61K31/7088
A61K47/22
A61K38/02
A61K39/00 H
A61P37/04
A61K39/02
A61K39/12
A61K41/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547702
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 EP2022053022
(87)【国際公開番号】W WO2022167688
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】2101726.4
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512038148
【氏名又は名称】ピーシーアイ バイオテック エイエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ホッグセット、アンダース
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB11
4C076BB15
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC32
4C076CC35
4C076DD60
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA11
4C084AA13
4C084BA35
4C084BA44
4C084NA13
4C084ZB26
4C084ZB33
4C084ZB35
4C085AA03
4C085BB11
4C085EE03
4C085GG03
4C085GG05
4C085GG10
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA66
4C086MA70
4C086NA13
4C086ZB09
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は、光化学的内在化の使用によって、被験体において裸のmRNA分子を細胞の細胞質ゾルに導入するインビボの方法であって、光増感剤が、0.000001~0.001μgの量で使用される、スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンであり、細胞の照射の前に、細胞をmRNA分子と光増感剤とに30秒間~10分間接触させる、方法に関する。本方法は、被験体においてポリペプチドを発現させるために使用されうる。また、本方法は、光増感剤およびmRNAを含有する医薬組成物、ならびに、例えばがんまたは感染症を治療または予防するための治療法におけるこれらの分子の使用も対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体においてmRNA分子を細胞の細胞質ゾルに導入するインビボの方法であって、
i)前記細胞をmRNA分子および光増感剤と接触させる工程であって、前記mRNAが裸である、工程と、
ii)前記細胞に、前記光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光を照射する工程と、を含み、
前記光増感剤が、0.000001~0.001μgの量で使用される、スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンであり、
前記接触工程が、30秒間~10分間、実施される、方法。
【請求項2】
前記光増感剤が、TPCS2aまたはその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光増感剤が、0.0001~0.0003μgの量で使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記光増感剤が、0.0005~1μg/mlの濃度、好ましくは0.005~0.5μg/mlの濃度で使用される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記mRNA分子が、50~10,000のヌクレオチド長である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記mRNAが、0.1~100μgの量で、好ましくは5~5000μg/mlの濃度で使用される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記mRNAが、前記細胞内で発現され、好ましくは、前記mRNAによって発現されるポリペプチドが、治療用分子、好ましくは抗体、ワクチンポリペプチド、または細胞傷害性分子である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が、哺乳動物細胞または魚細胞である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記光が、400~475nm、好ましくは400~435nmの波長、または620~750nm、好ましくは640~660nmの波長を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記接触工程が、30秒間~60秒間、実施される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、15秒間~60分間の間、好ましくは0.5~12分間、好ましくは4~6分間、照射される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が、0.01~50J/cm2の光線量で、好ましくは0.3~3J/cm2の光線量で照射される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞を、前記mRNAおよび前記光増感剤に、同時に、別々に、または連続的に、好ましくは同時に、接触させる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記被験体が、哺乳動物または魚であり、好ましくは前記哺乳動物が、サル、ネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、またはモルモットであり、最も好ましくは、前記被験体はヒトである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記mRNAおよび/または前記光増感剤が、局所的に、好ましくは皮内に、筋肉内に、または腫瘍内に、好ましくは注射によって投与される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法でmRNA分子を細胞に導入することによって被験体における細胞内でポリペプチドを発現させるインビボの方法であって、前記mRNA分子が、前記ポリペプチドをコードしている、方法。
【請求項17】
mRNA分子および光増感剤を含む医薬組成物であって、前記mRNAが裸であり、前記光増感剤が、スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンであり、0.000001~0.0001μg未満の量で提供され、好ましくは、前記光増感剤が、請求項2から4のいずれか一項に定義されたものであり、および/または前記mRNAが、請求項5から7のいずれか一項に定義されたものある、医薬組成物。
【請求項18】
治療に使用するための、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
mRNA分子によってコードされたポリペプチドを発現させることによって被験体における疾患、障害、または感染症を治療または予防するために使用するためのmRNA分子および光増感剤であって、前記mRNAが裸であり、前記光増感剤が、0.000001~0.001μgの量で使用される、スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンであり、前記被験体における1つまたは複数の細胞を前記mRNA分子および前記光増感剤と接触させ、前記光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光を照射し、前記接触させる工程が、30秒間~10分間、実施され、好ましくは、前記光増感剤が、請求項2から4のいずれか一項に定義されたものであり、前記mRNAが、請求項5から7のいずれか一項に定義されたものであり、および/または前記細胞、前記光、前記接触、前記照射、前記被験体、および/または前記投与が、請求項8から15のいずれか一項に定義されたものである、mRNA分子および光増感剤。
【請求項20】
mRNA分子によってコードされたポリペプチドを発現させることによって被験体における疾患、障害、または感染症を治療または予防するための医薬の調製における、mRNA分子および光増感剤の使用であって、前記mRNAが裸であり、前記光増感剤が、0.000001~0.001μgの量で使用される、スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンであり、前記被験体における1つまたは複数の細胞を前記mRNA分子および前記光増感剤と接触させ、前記光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光を照射し、前記接触工程が、30秒間~10分間、実施され、好ましくは、前記光増感剤が、請求項2から4のいずれか一項に定義されたものであり、前記mRNAが、請求項5から7のいずれか一項に定義されたものであり、および/または前記細胞、前記光、前記接触、前記照射、前記被験体、および/または前記投与が、請求項8から15のいずれか一項に定義されたものである、使用。
【請求項21】
被験体における疾患、障害、または感染症を治療または予防する方法であって、請求項1から15のいずれか一項に定義の方法により、前記被験体においてmRNA分子をインビボで1つまたは複数の細胞に導入することを含む、方法。
【請求項22】
疾患、障害、または感染症が、好ましくはタンパク質療法、免疫療法、または遺伝子治療のための、1つまたは複数のポリペプチドの発現から恩恵を被ることとなるものである、請求項19から21のいずれか一項に記載の、i)使用のためのmRNA分子および光増感剤、ii)mRNA分子および光増感剤の使用、またはiii)前記疾患、障害、または感染症を治療または予防する方法。
【請求項23】
免疫応答が、前記発現されたポリペプチドに対して起こり、好ましくは、治療または予防が、ワクチン接種を介して起こり、好ましくは、前記ワクチン接種が予防的または治療的なものである、請求項22に記載の、i)使用のためのmRNA分子および光増感剤、ii)mRNA分子および光増感剤の使用、またはiii)疾患、障害、または感染症の前記治療または予防の方法。
【請求項24】
前記疾患ががんであるか、または前記感染症がウイルス感染症もしくは細菌感染症である、請求項22または23に記載の、i)使用のためのmRNA分子および光増感剤、ii)mRNA分子および光増感剤の使用、またはiii)前記疾患、障害、または前記感染症を治療または予防する方法。
【請求項25】
mRNAおよび光増感剤が、皮内に、筋肉内に、または腫瘍内に投与されるか、あるいは投与される、請求項22から24に記載の、i)使用のための前記mRNA分子および前記光増感剤、ii)mRNA分子および光増感剤の使用、またはiii)疾患、障害、もしくは感染症を治療もしくは予防する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボでmRNAを細胞の細胞質ゾルに導入する方法であって、光増感剤と該光増感剤を活性化するのに有効な波長の光による細胞の照射とを用いる方法、および、例えば治療的方法において、細胞内でポリペプチドを発現させるための該導入方法の使用に関する。本方法は、極めて低濃度の光増感剤、および照射実施前の活性成分と細胞との短時間接触を用いて達成される。
【背景技術】
【0002】
mRNAは、予防的および治療的ワクチン接種を含む様々な治療を目的とする薬物クラスとしての潜在力をもっている。mRNAをベースとする治療法は、原理上は、非常に多種多様な疾患の治療、例えば、がんやその他の疾患の免疫療法、再生医療(例えば、CVD、神経変性疾患)、がん(免疫療法以外)、急性感染性疾患、およびその他多くの疾患の治療にも使用することができる。しかしながら、これまでは、機能的mRNAの細胞内への送達という課題によって、これらの目的のためのmRNAの使用の普及が著しく妨げられてきた。
【0003】
この問題を克服するため、担体が使用されてきた。合成担体の中で、mRNA分子を送達する最も一般的な手法は、カチオン性脂質の使用によるものであった(FelgnerおよびRingold、1989年、Nature 337、387~388頁;Maloneら、1989年、Proc Natl Acad Sci USA 86、6077~6081頁;Luら、1994年、Cancer Gene Ther 1、245~252頁;Karikoら、1999年、Gene Ther 6、1092~1100頁;Heckerら、2001年、Mol Ther 3、375~384頁.)。これに対し、ポリカチオンの使用例はわずかしかなく、例えば、DEAE-デキストラン(Maloneら 1989年、上記)、ポリ(L-リジン)(FisherおよびWilson 1997年、Biochem J 321(Pt 1)、49~58頁)、デンドリマー(Nairら 1998年、Nat Biotechnol 16、364~369頁)、およびポリエチレンイミン(Bettingerら 2001年、Nucleic Acids Res 29、3882~389頁)などである。利用が最も成功しているmRNA送達のための脂質ビヒクルは、リポフェクタミンである。しかしながら、インビボでのリポフェクタミンの使用において毒性反応が観察されており、このことが、臨床適用に対するこの薬剤の可能性を制限している。
【0004】
しかしながら、安全で制御されたものであり、かつ必要な位置にmRNAを誘導するインビボでのmRNA送達法が、依然として必要とされている。参照により本明細書に組み込まれているWO2019/145419は、担体には頼らず、代わって、mRNAを、目的部位に対して、制御し、時間を調整して放出させることができる光化学的内在化法を使用する方法において、インビボで裸のmRNAが送達されうることを教示している。mRNA送達の標準であるリポフェクタミンの使用と比較して、この方法は、標的細胞へのmRNAの優れたインビボ送達を実現しており、様々な治療的適用に好適である。腫瘍内投与および皮内投与を使用して、同等の有効性が示された。
【0005】
光化学的内在化(PCI)は、エンドサイトーシスを行う膜に限局化する光増感化合物の使用によって引き起こされる、エンドサイトーシスを行う膜の光誘発性破裂に基づく戦略である(Bergら、1999年、Cancer Res 59、1180~1183頁)。照明すると、光増感化合物が、膜を破壊する活性酸素種(ROS)を作り出すことによって酸化的プロセスを開始させる。
【0006】
PCI法は、例えば照明時間または感光剤用量を低減することによって、過剰な有毒種の産生を回避するように適切に手順を調整すれば広範な細胞破壊または細胞死を招かない方法で、細胞の細胞質ゾル中に分子を導入する機序を提供するものである。光化学的内在化(PCI)の基本方法は、参照により本明細書に組み込まれているWO96/07432およびWO00/54802に記載されている。そのような方法では、内在化される分子(本発明ではmRNA分子となる)および光増感剤を、細胞に接触させる。光増感剤および内在化される分子は、細胞内の細胞膜を含有するサブコンパートメントに取り込まれ、すなわち、細胞内小胞(例えば、リソソームまたはエンドソーム)にエンドサイトーシスされる。適切な波長の光に細胞を暴露させると、光増感剤は活性化され、細胞内小胞の膜を破壊する活性酸素種を直接または間接的に発生させる。これによって、内在化した分子が細胞質ゾルに放出される。そのような方法では、大部分の細胞が機能性または生存能に有害な影響を受けていなかったことが見出された。
【0007】
PCI戦略は、様々な分子、例えばsiRNA分子を、インビトロで細胞質ゾルに送達するために使用されている(Boeら、2007年、Oligonucleotides 17、166~173頁;Oliveiraら、2007年、Biochim Biophys Acta 1768、1211~1217頁)。インビボでは、PCI媒介療法の腫瘍治療に対する効果が、ブレオマイシンを用いて(Bergら、2005年、Clin Cancer Res 11、8476~8485頁)、タンパク質毒素ゲロニンを用いて(Selboら、2001年、Int J Cancer 92、761~766頁)、また治療的遺伝子をコードするプラスミドを用いて(Ndoyeら、2006年 Mol Ther 13、1156~1162頁)実証されている。PCIは、数種類の腫瘍の治療に使用するために開発されており(Selboら、2010年、J.Control.Release、148(1)、2~12頁;およびHogset,A.ら、2004年、Adv.Drug Deliver.Rev.、56(1)、95~115頁)、活性薬剤としてブレオマイシンを使用して、第I相臨床試験で検討された(Sultanら、2016年、Lancet Oncol. 17(9):1217~1229頁)。PCIは、活性薬剤としてゲムシタビンを使用する胆管がんの治療のために、目下臨床開発中である(ClinicalTrials.gov ID:NCT01900158)。
【0008】
PCIは、オリゴヌクレオチドの送達に使用されている(Hogsetら、2004年、Adv Drug Deliv Rev、56、95~115頁)。WO2019/145419以前に、mRNAおよびsiRNAなどの関連分子がPCIを用いて内在化されているが、担体が使用されている(WO2008/007073、ならびにBoeおよびHovig、2013年、Methods Mol.Biol.、969:89~100頁)。
【0009】
WO2019/145419は、部位特異的なタンパク質産生をもたらす光誘発性mRNA送達についての具体的なプロトコールを提供している。mRNAトランスフェクションとPCIとを組み合わせることによって、強力な光誘発性タンパク質産生が達成可能であったことを示している。この方法は、時間および部位を特異的に制御できるという利点を有する。さらに、この方法は、トランスフェクション剤の使用およびこれらの薬剤によって生じる副作用を回避するものである。
【0010】
WO2019/145419は、0.0001~1μgの量の光増感剤(スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンから選択され、本明細書では感光剤とも呼ぶ)の使用に関連するものである。これらの方法では、感光剤およびmRNAを被験体の細胞と接触させてから、被験体の細胞を照射して感光剤を活性化する。接触の期間は、すなわち薬剤と細胞との接触(投与後)から照射までは、薬剤を取り込ませるためには、好ましくは45分~90分ではあるが、さらに長い投与時間を使ってもよい。
【発明の概要】
【0011】
驚くべきことに、今回、この方法の有効性に影響を与えることなく、感光剤およびmRNAの両方が細胞と接触する接触工程の期間がわずか30秒に激的に短縮され、感光剤濃度もまた激的に低減されうることが見出された。実際に、優れた結果が実施例に示すように観察された(例えば図2を参照されたい)。光線量は、この用量または接触時間の低減を相殺するために増加させる必要はない。これらの変更のうちのいずれか1つが有効性の低下をもたらしているはずであると推定されていたとすれば、このことは、特に驚くべきことである。
【0012】
本発明以前は、感光剤が照射によって活性化される際、感光剤が細胞内コンパートメントを破壊して細胞内コンパートメント内の(または細胞内コンパートメントに入る)分子を細胞質ゾル中に放出させることとなるように、感光剤の投与後は、感光剤が細胞内コンパートメントに取り込まれるために、十分な時間を考慮しなければならないと考えられていた。しかしながら、わずか30秒というはるかに短い接触工程(すなわち、細胞と感光剤およびmRNAとの接触から照射の間の時間)が有効であることが見出された。理論によって拘泥されることを望むものではないが、感光剤の活性化は、細胞内コンパートメントに対してだけでなく原形質膜に対しても有効であり、mRNA分子に対する原形質膜の透過性を高める一方で、細胞の生存能は維持しうると考えられる。この短い接触工程が、有効であることだけでなく、mRNA分子の取込みを実際に改善することも、驚くべきことである。
【0013】
本発明の方法は、数多くの利点を有する。本方法は、複雑な方法ではなく、様々なmRNA分子および標的細胞/位置によって使用することができる。さらに、分子を放出させるための照射のタイミングおよび位置は、必要とされる効果を達成するために望ましい時間および位置でのみ分子が放出されるように制御されうる。したがって、様々な成分への細胞の暴露が最少化され、望ましくない副作用が最少化される。これは、様々な成分の放出のタイミングおよび位置の制御が(さらに複雑性のレベルを高める)ターゲティング剤の使用なくしては不可能な、mRNA送達の標準的技術とは対照的である。加えて、感光剤の極めて低い用量および光線量の使用が可能であり、これによって、処置を受ける被験体において副作用が回避される。
【0014】
本明細書の実施例に記載するように、極めて低レベルの感光剤(標準的プロトコールの7×106分の1ほどであり、WO2019/145419で使用された量の300分の1以下)が、mRNA送達を達成するために使用される。
【0015】
したがって、第1の態様では、本発明は、被験体においてmRNA分子を1つまたは複数の細胞の細胞質ゾルに導入するインビボの方法を提供するものであり、前記方法は、
i)前記細胞を、mRNA分子および光増感剤と接触させる工程であって、前記mRNAは裸である、工程と、
ii)前記細胞を、前記光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光で照射する工程と、を含み、
前記光増感剤は、0.000001~0.001μgの量で使用される、スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンであり、前記接触工程は、30秒間~10分間、実施される。いったん活性化されると、前記光増感剤を包含する前記細胞内の細胞内コンパートメントは、これらのコンパートメントに包含された(または入ることとなる)mRNAを、mRNAが発現されうる細胞質ゾル中に放出する。加えて、活性化時に光増感剤が原形質膜に及ぼす作用によって、mRNAは、原形質膜を通過して細胞質ゾルに直接入ることが可能となりうる。
【0016】
好ましい態様では、光増感剤(特にTPCS2a)は、0.000003~0.0005μg以下(または0.000003~0.0001以下、0.000001~0.0003μg以下、0.000001~0.0001μg以下、もしくは0.0001~0.0003μg以下)の量で使用され、接触工程は、30秒間~1分、2分、3分、4分、または5分間(例えば、30~60秒)実施され、好ましくは、細胞は、0.3~3J/cm2の光線量で照射される。好ましくは、投与は、皮内また筋肉内である。
【0017】
本発明の方法を明確化する定義および好ましい態様は、本明細書に記載した使用に、同様に適用する。
【0018】
本明細書において言及される場合、前記「mRNA」分子は、リボヌクレオチドの重合体であり、各リボヌクレオチドは、リン酸基および窒素含有塩基(典型的には、アデニン、グアニン、シトシン、またはウラシル)と会合した糖リボースを含有している。分子の機能性に影響を与えない条件で分子の半減期を延ばすように、例えば、修飾された骨格、または天然には存在しないヌクレオチド、またはプソイドウリジン、2-チオウリジン、5-メチルウリジン、5-メチルシチジン、もしくはN6-メチルアデノシンなどの天然の修飾ヌクレオチドを有する、修飾された分子を使用してもよい。このように、「mRNA」という用語は、したがって、そのような修飾された分子も含み、すなわち、同じ機能を示す、すなわちコード配列を発現させるためのリボソームとの相互作用および翻訳を示す、mRNAの誘導体またはバリアントも包含する。好ましいバリアントとしては、(上記のように)修飾された骨格が使用されているか、または(合成中に導入されうる)1つまたは複数の天然には存在しない塩基もしくは天然の修飾ヌクレオチドが使用されているバリアントが挙げられる。
【0019】
DNAの場合もそうであるように、RNAは相補的な水素結合を形成することができ、RNAは、二本鎖(dsRNA)、一本鎖(ssRNA)、または一本鎖のオーバーハングを有する二本鎖でありうる。好ましくは、本発明によって使用されるmRNAは、一本鎖である。一本鎖の分子は、二本鎖領域、例えば内部の塩基対合を介して形成されたヘアピン構造を含む、三次構造を形成していてもよい。好ましくは、mRNAは、5’キャップおよび3’ポリ(A)テール(例えば、120~150ヌクレオチド長)を有する。フランキング非翻訳領域が3’および/または5’末端に存在していてもよい。好ましくは、前記mRNA分子は、50~10,000ヌクレオチド長、より好ましくは50~1000または1000~5000ヌクレオチド長であり、例えば、100~500または1500~2500ヌクレオチド長である(センス鎖を考慮した場合)。
【0020】
mRNAは裸である。これは、担体またはその他の分子と会合していないこと、すなわち、その内在化を助けるための他のいかなる成分にも結合またはコンジュゲートされておらず、あるいはそれらによって運搬されないことを意味する。mRNAを可溶化するかあるいは希釈剤となる水などの溶媒または溶液は、分子の内在化に対する効果をもっていないため、担体とはみなされない。そのような会合には、結合によるにせよ、立体的封入によるにせよ、または適切な条件下で分子が会合したままとなるように分子を互いに連結するその他の方法によるにせよ、あらゆる連結が含まれる。したがって、トランスフェクション剤または担体は使用されない。この意味では、使用されるmRNAは裸であり、すなわち、その内在化に影響を与える会合された分子は含んでいない。本明細書に記載の方法においてmRNAと共に使用される光増感剤は、mRNAのための担体またはトランスフェクション剤となるものではない。
【0021】
好ましくは、mRNAは、ポリペプチドをコードしており、すなわち、翻訳されればポリペプチド形成することになる十分に連続した暗号化コドンを運ぶ。ポリペプチドは、翻訳直後にプロセシングおよび/または輸送を可能にするシグナルペプチドを含んでいてもよい。ポリペプチドは、1つの機能性実体を含んでいても複数の機能性実体を含んでいてもよく、例えば、ポリペプチドは、ワクチン接種のために使用されうる1つまたは複数のペプチド抗原を含んでいてもよい。mRNAは、翻訳の結果が複数のポリペプチドとなるような、複数のポリペプチドをコードしていてもよい。非翻訳コドン、例えば終止コドンもまた、mRNA分子中に存在していてもよい。本明細書において言及される場合、「ポリペプチド」(ペプチドを包含する)は、少なくとも5つの連続したアミノ酸を含む。好ましい態様では、ポリペプチドは、少なくとも10、20、または30アミノ酸長、および3000未満、2000未満、1000未満、700未満、500未満、200未満、または100未満のアミノ酸長、例えば、10~100、200、500、700、1000、2000、または3000までのアミノ酸長である。
【0022】
好ましい態様では、ポリペプチドは、細胞内で発現される。ひとたび細胞に内在化されたmRNAは、リボソームによって拘束され、mRNAは、細胞の遺伝子発現装置を使用してアミノ酸配列に翻訳される。ポリペプチドは、好ましくは治療用分子、すなわち治療的特性を有するポリペプチドであり、例えば、ワクチンポリペプチド、抗体、酵素、サイトカイン、増殖因子、またはペプチドホルモンなどである。
【0023】
本方法は、複数の種類のmRNA分子を細胞に導入するために使用されうる。言い換えると、異なる配列を有するmRNA分子を、同時に細胞に導入することができる。mRNA分子が発現する分子は、別々の方法で作用しても、互いに相互作用してもよい。
【0024】
mRNAの適切な調製方法は、当技術分野では既知であり、化学合成、インビトロ転写、mRNA発現ベクター、およびPCR発現カセットが挙げられる。そのような技術は、当技術分野ではよく知られている。例えば、Ponら、2005年、Nucleosides Nucleotides Nucleic Acid.24(5~7)、777~81頁、Duら、2006年、Biochem.Biophys.Res.Commun.345(1)、99~105頁、およびKatohら、2003年、Nucleic Acids Res Suppl.(3)、249~50頁、Sahinら、2014年、Nat.Rev.Drug Discov.、13(10)、759~780頁を参照されたい。本発明における使用のためのmRNAはまた、細胞または組織から単離されうる。特に、これは個別化治療を可能にするものであり、例えば、がん免疫療法において、被験体の腫瘍から単離したmRNAを使用して、患者に特異的な腫瘍抗原の発現を可能にする。
【0025】
本発明の方法は、mRNA分子の細胞質ゾルへの移行を達成するものである。しかしながら、細胞と接触したもれなくすべて分子の取込みが達成できないことは理解されるであろう。しかしながら、PCIを使用していないバックグラウンドレベルと比較して有意なかつ改善された取込みが、達成可能である。
【0026】
好ましくは、本発明の方法は、これらの細胞の発現産物でその効果がはっきりわかる十分なレベルの、mRNA分子の取込みを可能にする。細胞と接触されるmRNAの適切な濃度は、この目標が達成されるように、例えば、細胞と例えば24時間、48時間、72時間、または96時間(例えば、24~48時間)インキュベーションさせた後に、コードされた配列の発現が望ましいレベルに達成するように、調整されうる。光増感剤の種類および/または濃度、ならびに照射時間もまた、必要な発現が達成されるように調整されうる。
【0027】
本明細書で使用される「および/または」は、存在する列挙された選択肢のうちの1つまたは両方(または複数)を指し、例えば、A、B、および/またはCは、選択肢i)A、ii)B、iii)C、iv)AおよびB、v)AおよびC、vi)BおよびC、ならびにvii)A、B、およびCを包含する。
【0028】
発現レベルは、ウエスタンブロット法などの当技術分野で既知の標準的技術を使用して、細胞内のタンパク質レベルを決定することによって測定されうる。
【0029】
発現は、PCIを使用せずに達成された発現と比較して評価されうる。比較は、PCIの存在下と非存在下において、特定のmRNA(および/または感光剤)濃度においてみられるタンパク質発現のレベルの間で行われうる。例えば、治療的方法を含む本発明の方法は、好ましくは、PCI技術の照射工程の非存在下で方法を実行することによって達成されたポリペプチド発現と比較して、少なくとも10%、例えば、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%以上、例えば、少なくとも100%、200%、300%、400%、または500%の、ポリペプチドの発現の増強を可能にする。特に好ましい態様では、本発明の方法は、PCIを使用せずリポフェクタミンを使用する送達と比較して、少なくとも10%、例えば、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%以上、例えば、少なくとも100%、200%、300%、400%、または500%、発現を改善する。好都合には、コードされたポリペプチドは、被験体において1~100μgの量が産生されるように発現される。そのような量は、ワクチン接種および免疫療法には十分である。ポリペプチドが、直接治療目的で、例えばタンパク質療法の方法において使用される場合、より大量に、例えば1~100mgが生成されうる。
【0030】
「細胞(単数)」または「細胞(複数)」は、体内、すなわち被験体内に存在する。用語「細胞(単数)」または「細胞(複数)」は、本明細書では互換的に使用される。したがって、細胞は、被験体内でまたは生物内で、すなわち、インビボの細胞として提供される。用語「細胞」は、すべての真核細胞(昆虫細胞を含む)を含む。代表的な「細胞」には、したがって、哺乳動物および非哺乳動物の動物細胞ならびに昆虫細胞の全種類が含まれる。しかしながら、好ましくは、細胞は、哺乳動物由来の細胞、例えば、サル、ネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット由来の細胞であるが、最も好ましくはヒト由来の細胞である。あるいは、細胞は、魚細胞であってもよい。
【0031】
「被験体」は、哺乳動物、爬虫類、鳥、昆虫、または魚を指す。好ましくは、被験体は哺乳動物であり、特に、霊長類(好ましくはヒト)、飼育動物もしくは愛玩動物、家畜、または実験動物である。別の好ましい態様では、被験体は魚である。したがって、好ましい動物としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ネコ、イヌ、サル、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ウマ、および魚が挙げられる。
【0032】
本明細書で使用される「接触させること」とは、細胞内への内在化のために適切な条件下で、細胞と光増感剤および/またはmRNAとを互いに物理的に接触させることを指す。本発明の方法および使用では、接触は、インビボで行われる。接触工程のためのタイミングおよび選択肢を含む、本発明を実施する好ましい方法は、以下で論じる。
【0033】
接触工程の期間とは、薬剤が、照射前に、それらが投与される標的細胞と接触している時間、すなわち、両薬剤が標的細胞と接触するようになってから照射までの時間を指す(標的細胞とは、処置される細胞、例えばがん細胞であり、mRNAがその中へ放出される細胞である。)。mRNAおよび感光剤を同時に細胞に接触させる場合は、接触工程の期間は、(同時の)この接触の開始から照射までである(標的細胞への局所的な直接的投与が用いられる場合、接触の開始は、投与と同時に始まる。)。しかしながら、両薬剤を細胞に同時には接触させない場合は、接触工程の期間は、投与後、照射まで両薬剤が細胞と接触している時間とする。すなわち、例えば、mRNAが0時点で標的細胞に直接投与され、感光剤が1分時点で標的細胞に直接投与され、照射が3分時点で実施されるとすれば、接触工程は(すなわち両薬剤について)、2分である。
【0034】
連続的な投与方法および使用では、mRNAと細胞の接触開始から感光剤と細胞の接触開始の間(あるいは逆もまた同様)のタイミングは、好ましくは5分未満、好ましくは60秒未満、特に好ましくは30秒未満である。一部のそのような場合では、投与および標的細胞との接触は、同時に、すなわち標的細胞に直接投与されるときに起きうる。
【0035】
光増感剤は、活性化種を発生させるのに適切な波長および強度で照明すると活性化される薬剤である。好都合には、そのような薬剤は、細胞内コンパートメント、特にエンドソームまたはリソソームに限局化する薬剤でありうる。様々な種類のそのような光増感剤が当技術分野では既知であり、参照により本明細書に組み込まれているWO96/07432を含む文献中に記載されている。本発明によれば、使用される光増感剤は、スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンである。
【0036】
好ましい態様では、メソテトラフェニルクロリンは、TPCS2a(テトラフェニルクロリンジスルホネート)またはTPBS2a(テトラフェニルバクテリオクロリンジスルホネート)であり、スルホン化テトラフェニルポルフィンは、TPPSn、例えばTPPS4またはTPPS2a(テトラフェニルポルフィンスルホネートまたはジスルホネート)であり、ジまたはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンは、AlPcS2a(アルミニウムフタロシアニンジスルホネート)である。それらの薬学的に許容される塩を使用してもよい。
【0037】
特に好ましいのは、TPCS2aおよびTPPS2aであり、その構造を下記に示す。
【化1】
矢印は、2つの分子間の構造の違いを指し示している。
【0038】
任意選択により、光増感剤は、光増感剤の取込みを容易にするかあるいは高めるよう作用することができる1つまたは複数の担体分子またはターゲティング分子に、結合、会合、またはコンジュゲートされていてもよい。したがって、光増感剤は、担体に連結されていてもよい。例えば、光増感剤は、コンジュゲートの形態で、例えばキトサンベースのコンジュゲートで、例えば、参照によって本明細書に組み込まれているWO2013/189663に開示されているコンジュゲートで提供されてもよい。
【0039】
位置特異性は、目的の部位での照射による局所送達および活性化によって達成されうるが、必要に応じて、光増感剤分子が所望の細胞または組織へ取り込まれる特定の細胞取込みを促すこととなる特定のターゲティング分子に会合またはコンジュゲートさせることによって、光増感剤を特定の細胞(例えばがん細胞)または組織に向かわせてもよい。
【0040】
例えば、Curiel、1999年、Ann.New York Acad.Sci.886、158~171頁、;Bilbaoら、1998年、Gene Therapy of Cancer書誌中(Waldenら編、Plenum Press、New York);PengおよびRussell、1999年、Curr.Opin.Biotechnol.10、454~457頁、;Wickham、2000年、Gene Ther.7、110~114頁に記載されているような、多様なターゲティング分子が使用されうる。
【0041】
光増感剤を活性化するための細胞の「照射(irradiation)」とは、以下に記載するような直接または間接的な光の投与を指す(本明細書では照明(illumination)と呼ぶこともある)。したがって、細胞は、光源を用いて、例えば、直接、または、例えば細胞が皮膚表面より下にあるかもしくはすべての細胞が直接照明されるわけではない細胞層の形態である場合のインビボでは、間接的に、すなわちその他の細胞を遮ることなく、照明されてもよい。好ましい照射方法は、以下に記載する通りである。
【0042】
好都合には、前記方法は、次に説明するように行われうる。担体が光増感剤のために使用される場合、担体と光増感剤を適切な条件および濃度下でただ混合し、この2成分を相互作用させることによって、担体を光増感剤に、会合、結合、またはコンジュゲートさせてもよい。この接触工程が行われる条件、ならびに担体および光増感剤それぞれの適切な濃度は、慣例の試験を行うことによって当業者によって容易に決定されうる。
【0043】
本発明の方法では、mRNA分子および光増感剤(任意選択により、担体および/またはターゲティング分子を伴う)は、同時に、別々に、または逐次的に細胞に適用され、その結果、光増感剤およびmRNA分子は、エンドソーム、リソソーム、もしくはコンパートメントを限定しているその他の細胞内膜中に、エンドサイトーシスされるかまたはその他の方法で移動するか、あるいは原形質膜を通過して直接細胞内に移動する。下記で論じるように、場合によっては、光増感剤は、細胞に入ることはできないが、mRNAの細胞内への透過を可能にしうる。
【0044】
mRNA分子および光増感剤は、一緒にまたは逐次的に細胞に適用されてもよい。好都合には、mRNAは、光増感剤と同時に細胞に投与される(ただし、これらは別々に、例えば逐次的に投与されてもよい)。これは、照射前に短い接触工程が用いられる場合、特に重要である。mRNA分子および光増感剤は、細胞によって同じまたは異なる細胞内コンパートメント中に取り込まれてもよい(例えば、これらは共移動されてもよい)。感光剤/mRNAの投与後の照射のタイミングによって、これらの分子は、照射時に、細胞によってすでに取り込まれていることもあれば、まだ取り込まれていないこともある。例えば、極めて短期間の接触工程が使用される場合、取り込まれた分子もあれば取り込まれていない分子もあるが、照射後に細胞による取込みが続いている可能性がある。場合によって、mRNA/感光剤は、細胞内コンパートメント中に取り込まれることなく、原形質膜を通過して直接取り込まれることもあり、特に、下記で論じるように、感光剤が、ひとたび活性化されてしまい、原形質膜の完全性に影響を及ぼしうる場合はそうである。
【0045】
好適な波長の光への細胞の暴露によって、光増感剤が活性化され、次いで、光増感剤が、細胞内コンパートメントの膜の破壊を、さらには可能性として原形質膜の破壊ももたらす。感光剤の両親媒性の性質を考慮すると、感光剤は、膜と会合し、その部位で活性化され、膜の破壊をもたらしうるものである。理論に拘泥するつもりはないが、破壊された原形質膜は、細胞によるまだ取り込まれていないmRNAの取込みを増強させうると想定される。mRNAは、光増感剤と同じコンパートメントに位置している可能性があり、光増感剤が活性化されると、細胞質ゾル中に放出されうるか、あるいは原形質膜を通過して直接入ることができる。したがって、これらの方法では、細胞を光に暴露する最終工程が、mRNAを、光増感剤と同じ細胞内コンパートメントからの放出および/または原形質膜の通過によって細胞質ゾルに進入させる。
【0046】
本明細書で使用される「内在化」とは、分子の細胞質ゾル内送達を指す。本発明の場合、「内在化」は、したがって、細胞内/膜結合コンパートメントから細胞の細胞質ゾル中への分子の放出工程、または原形質膜を通過する細胞質ゾル中への分子の進入工程である。
【0047】
本明細書で使用される場合、「細胞の取込み」または「移行」は、細胞膜に対して外側にある分子が細胞内に取り込まれる内在化工程であって、その結果、例えば、エンドサイトーシスまたは別の適切な取込み機序によって、例えば、細胞内膜で限られたコンパートメント、例えば小胞体、ゴルジ体、リソソーム、エンドソームなどの中にまたはそれらと会合して、あるいは単に原形質膜を横切って移入することによって、分子が外郭の細胞膜に対して内側に見出されることになるような、内在化工程のうちの1つを指す。
【0048】
細胞を光増感剤およびmRNA分子と接触させる工程は、任意の簡便な方法または所望の方法で行ってもよい。上記で論じたように、これらの薬剤は、一緒に、別々に、同時に、または逐次的に細胞に適用されうる。
【0049】
光増感剤は、(本明細書で論じた限定を条件とする)適切な濃度および適切な長さの時間で細胞に接触される。これらの濃度および時間は、当業者によって慣例の技術を使用して容易に決定されうるものであり、例えば、使用される具体的な光増感剤、投与方法、標的細胞の種類および位置、治療方針、患者/被験体の年齢および体重、医学的効能、処置される身体または身体領域などの因子に依存することとなり、選択に応じて変更または調整されうる。光増感剤の濃度は、ひとたび細胞内に、例えばその細胞内コンパートメントのうちの1つまたは複数の中にまたはそれらと会合して、取り込まれ、照射によって活性化されれば、1つまたは複数の細胞構造が破壊されるような、例えば、1つまたは複数の細胞内コンパートメントが溶解もしくは破壊されるような、あるいは原形質膜を破壊できるようなものでなければならない。
【0050】
光増感剤は、0.000001~0.001μg(または0.001μg未満)、好ましくは0.00001~0.0001μg(または0.0001μg未満)の量で使用される。別の好ましい範囲としては、0.000001~0.00001μg、0.000001~0.0001μg(または0.0001μg未満)、0.000003~0.0005μg、0.000003~0.0001μg、0.000001~0.0003μg、0.000003~0.0003μg、または0.0001~0.0003μgが挙げられる。これは、25μgなどPCIで通常使用される量、またはWO2019/145419の中で使用された量よりかなり低い。用量は、投与の方法および光線量に応じて選択されうる。例えば、皮内または筋肉内投与の場合、0.000001~0.001μgの用量が選択されうる(例えば、0.000001~0.0001μg、または0.0001μg未満)。腫瘍内送達の場合、同じまたはより高い用量が使用でき、例えば、0.00001~0.001μg(例えば、0.0001~0.0003μg)の用量が選択されうる。上記の用量を、小さな局所領域(1立方センチメートル未満)への局所送達に使用してもよい。より大きな領域が処置される場合、用量はそれに応じて調整されうる。
【0051】
光増感剤は、好都合には、0.0005~1μg/ml、好ましくは0.005~0.5μg/mlの濃度の溶液で提供される。この濃度は、局所送達に好適である。
【0052】
同様の考慮は、mRNAにも適用する。mRNAは、好ましくは0.1~100μg、例えば1~10μgの量で使用される。用量は、上記で論じたように、投与の方法に応じて選択されうる。上記の用量を、小さな局所領域(1立方センチメートル未満)への局所送達に使用してもよい。より大きな領域が処置される場合、用量はそれに応じて調整されうる。RNAは、好都合には、5~5000μg/ml、好ましくは50~500μg/mlの濃度の溶液で提供される。この濃度は、局所送達に好適である。
【0053】
適切な濃度はまた、当該mRNA分子および光増感剤、当該細胞、ならびに細胞内で達することが望まれる最終濃度を考慮に入れるべきである。本明細書で論じたように、短い接触工程によって、驚くべきことに、当該分子の高い取込みがもたらされる。
【0054】
本発明によれば、細胞、光増感剤、およびmRNAの間の接触工程は、30秒~10分、好ましくは30秒~60秒(または2分、3分、または4分)、または30秒~5分である。標的細胞に同時かつ直接的に投与する場合は、接触工程の期間は、細胞の光増感剤およびmRNAとのインキュベーションの総計時間と同じである。しかしながら、逐次的に使用される場合は、光増感剤またはmRNAは、接触工程の期間より長い時間、細胞と接触していてもよい。すなわち、例えば、接触工程は2分の長さであるが、mRNAが光増感剤の1分前に添加されるならば、mRNAは、合計3分間、細胞とインキュベートされる。
【0055】
mRNA分子は、適切な濃度および適切な長さの時間で細胞に接触される。適切な濃度は、上記で論じた通りである。接触時間および接触工程の長さは、光増感剤に関して上記で論じた通りである。
【0056】
好ましい態様では、照射に先立ち、mRNAおよび光増感剤を同時に細胞に接触させ、これを接触工程の開始とする。
【0057】
mRNA分子および光増感剤をインビボで標的細胞に接触させるインキュベーションの適切な時間(または接触工程期間)を得ることは、投与の方法ならびにmRNA分子および光増感剤の種類などの因子に依存することとなる。例えば、mRNA分子が、処置される腫瘍、組織、または器官中に注入されるならば、注入点付近の細胞は、mRNA分子と接触した状態となり、よって、注入点からより遠い距離に位置する、おそらくより遅い時点でかつより低い濃度でmRNA分子と接触した状態になる細胞より、迅速にmRNA分子を取り込む傾向がある。
【0058】
細胞とmRNAおよび光増感剤が接触している、短時間の、制御された接触工程を得る必要性を考慮すると、薬剤の局所投与が必要である。
【0059】
疑義を避けるために明記すれば、接触工程の時間とは、両薬剤が、一緒に、直接、標的細胞と接触している時間の期間を指す。しかしながら、薬剤のうちの1つが、この(両薬剤を必要とする)接触工程が開始する前に、標的細胞と接触されていてもよい。さらに、薬剤は、標的細胞へ向かう自身の道筋を作るため、投与の時間は、接触の時間に先行していてもよい。局所投与が使用される場合、直接的な接触は、投与後、直ちにまたは短時間で始まる。
【0060】
光増感剤を活性化するための光照射工程は、当技術分野で公知の技術および手順に従って行ってもよい。照明の光線量、波長、および期間は、光増感剤を活性化するのに、すなわち反応種を発生させるのに、十分でなければならない。好適な光源は、当技術分野ではよく知られている。
【0061】
使用される光の波長は、使用される光増感剤に応じて選択される。光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光は、光増感剤を暴露させるとすぐに、活性酸素種の産生を誘発することができる。好適な人工光源は当技術分野において公知であり、例えば、青色(400~475nm)または赤色(620~750nm)波長光を使用する。TPCS2aの場合、例えば、400~500nmの間の波長、より好ましくは400~450nmの間の波長、例えば400~435nmもしくは420~435nm、さらにより好ましくは約435nm、または435nmの波長が使用されうる。別法では、例えば腫瘍組織では、より深い光浸透度を保証するために赤色光が使用されうる。この場合、620~750の波長、例えば、640~660nmの波長が使用されうる。適切な感光剤、例えばポルフィリンまたはクロリンが、緑色光によって活性化されうる場合、例えばKillerRed(Evrogen、Moscow、ロシア)感光剤を、緑色光によって活性化してもよい。
【0062】
好適な光源は当技術分野において公知であり、例えば、PCI Biotech ASのLumiSource(登録商標)ランプがある。別法として、60mWまで調整可能な出力および400~435nmの発光スペクトルを有するLEDベースの照明装置を使用してもよい。赤色光では、好適な照明源は、PCI Biotech AS 652nmレーザーシステムSN576003ダイオードレーザーであるが、任意の好適な赤色光源を使用してもよい。
【0063】
適切な光線量は、当業者によって選択され得、この場合もやはり、光増感剤、および標的細胞または組織中に蓄積される光増感剤の量に依存することとなる。例えば、感光剤フォトフリンおよびプロトポルフィリン前駆体5-アミノレブリン酸を用いる、がんの光線力学治療のために一般に使用される光線量は、高体温を回避するために、200mW/cm2未満のフルエンス範囲で50~150J/cm2の範囲である。可視スペクトルの赤色域においてより高い吸光係数を有する光増感剤が使用される場合、通常、光線量はより低い。しかしながら、蓄積される感光剤が少ない非癌性組織の治療の場合、必要とされる総光量は、がん治療の場合より実質的に高くなり得る。さらに、細胞生存率が維持されるのであれば、有毒種の過剰レベルの発生は避けるべきであり、適宜、関連するパラメーターが調整されうる。
【0064】
適切な光線量は、当業者によって選択され得、この場合もやはり、使用される光増感剤および標的細胞または組織中に蓄積される光増感剤の量に依存することとなる。可視スペクトルの(使用される感光剤に応じて、例えば、赤色域において、あるいは青色光が使用される場合は青色域において)より高い吸光係数を有する感光剤が使用される場合、通常、光線量はより低い。例えば、60mWまで調整可能な出力および400~435nmまたは420~435nmの発光スペクトルを有するLEDベースの照明装置を用いる場合、0.05~20mW/cm2、例えば2.0mW/cm2のフルエンス範囲で、0.24~7.2J/cm2の範囲の光線量が使用されうる。別法として、例えば、LumiSource(登録商標)ランプが使用されるのであれば、0.1~20(例えば、Lumisource(登録商標)によって供給する場合、13)mW/cm2のフルエンス範囲で、0.1~6J/cm2の範囲の光線量が適切である。赤色光の場合、0.1~5mW/cm2のフルエンス範囲、例えば0.81mW/cm2で、0.03~8J/cm2の光線量、例えば0.03~4J/cm2、例えば0.3J/cm2の光線量が使用されうる。
【0065】
好都合には、光源および照射時間は、細胞が、13mW/cm2のフルエンス率で、0.01~50J/cm2の光線量、例えば0.1~10J/cm2など、例えば0.4~5J/cm2の光線量で照射されるように選択される。好ましくは、細胞は、0.3~3J/cm2または0.3~6J/cm2までの光線量で照射される。
【0066】
本発明の方法において細胞が光に暴露される時間は、様々であってもよい。細胞質ゾル中へのmRNA分子の内在化の効率は、一般的には、これを越えると細胞傷害およびそれによる細胞死が増加するとされる最大値までは、光への暴露の増大に伴って上昇する。
【0067】
照射工程の好ましい時間の長さは、標的、光増感剤、標的細胞または組織中に蓄積される光増感剤の量、および光増感剤の吸収スペクトルと光源の発光スペクトルとの間の重なりなどの因子に依存する。一般的には、照射工程の時間の長さは、分から時間のオーダーであり、例えば、好ましくは60分以下であり、例えば15秒~60分まで、好ましくは0.5~12分まで、好ましくは4~6分間である。
【0068】
本発明の方法は、光化学的治療によって、すなわち光増感剤の活性化直後の有毒種の発生を介して、一部の細胞死滅を必然的に起こしうる。提案された用途によって、この細胞死は、重要ではないこともあれば、一部の適用(例えば、がん治療)には実際に有利なこともある。しかしながら、好ましくは、mRNAを翻訳し、コードされたポリペプチドを発現させるためには、細胞死は回避される。本発明の方法は、光増感剤の濃度と相関させて光線量を選択することによって、生存細胞の分画または割合が調節されるように改変してもよい。この場合もやはり、そのような技術は、当技術分野において既知である。
【0069】
生細胞が望ましい適用では、実質的にすべてのまたはかなり大部分の細胞(例えば、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、70%、80%、または90%の細胞)は死滅しない。PCI処置後の細胞生存率は、MTS試験などの当技術分野において既知の標準的技術によって測定されうる。
【0070】
感光剤の活性化によって誘発される細胞死の量にかかわらず、mRNA分子が細胞内で効果を有するためには、PCI効果が現れる個々の細胞の一部が光化学的治療のみでは死滅しないように、光線量を調節することが重要である(とはいえ、分子が細胞傷害効果を有する場合は、細胞はこれらの分子を細胞内に導入することによって次いで死滅することもある)。
【0071】
細胞傷害効果は、例えば、本発明の方法によって腫瘍細胞中に内在化され、細胞傷害性分子を発現するmRNA分子を使用することによって、達成されうる。
【0072】
本発明の方法は、特定の遺伝子産物の発現を含む様々な目的のために、例えば、タンパク質療法、免疫療法、および遺伝子治療の方法において、インビボで使用される。
【0073】
したがって、本発明は、以上に定義したような方法によって、mRNA分子を細胞に導入することによって被験体における細胞内でポリペプチドを発現させるインビボの方法であって、前記mRNA分子が前記ポリペプチドをコードする、方法を提供する。
【0074】
これらの方法は、細胞の発現プロファイルを変更するために、もしくは特定の遺伝子の発現の影響を決定するために、および/または治療的目的のために使用されうる。
【0075】
本発明の方法はまた、ポリペプチド発現により恩恵を被る任意の疾患、障害、または感染症の治療において、例えば、直接または間接的に作用する治療用分子をもたらす1つまたは複数の遺伝子を発現させることによって、使用されうる。そのような分子は、治療的成果をもたらすように直接作用しうるか、あるいは、例えば免疫応答を引き起こすかもしくは遺伝子発現の変更を助けることによって、間接的に作用し得、したがって、以下でさらに詳しく論じるような、被験体に対する遺伝子治療を提供しうる。そのような治療用分子には、適切な部位を標的にして疾患、感染症、または障害を治療しうる治療的抗体(またはそれらの抗原結合性フラグメント)がある。治療用分子はまた、酵素、または代謝に必要な別の機能分子、例えば、増殖因子、サイトカイン、またはペプチドホルモンであってもよい。別法として、阻害剤または細胞死を誘導する分子、例えば、細胞傷害性分子が使用されうる。好都合には、発現されたポリペプチドは、例えば予防的または治療的ワクチン接種のための、免疫応答を起こしうる抗原分子を提供しうる。免疫応答は、病原性感染、例えば細菌もしくはウイルス感染に対して、または体内の異常な細胞、例えばがん細胞に対して起こりうる。したがって、ポリペプチドは、がんワクチンまたは細菌抗原もしくはウイルス抗原などの抗原分子であってもよい。本発明の好ましい使用を、以下にてさらに詳しく論じる。
【0076】
本発明は、治療的使用に好適な組成物を提供する。したがって、本発明は、mRNA分子および光増感剤を含む医薬組成物であって、前記mRNAが裸であり、前記光増感剤が、スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンであり、かつ0.000001~0.0001μg未満の量で提供される、医薬組成物を提供する。また、治療法での使用のための該組成物も提供される。好ましくは、前記光増感剤および/または前記mRNAは、上記で定義の通りである。医薬組成物は、活性成分に加えて、1つまたは複数の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤を含む。
【0077】
別法として、mRNAと光増感剤とは、異なる機序またはタイミングでの投与または適用を可能にする、別々の溶液または組成物中にあってもよい。本明細書において言及される場合、「同時投与」および「同時適用」は、(タイミングに関して、あるいは同じ組成物において)両成分を同時に使用することではなく、同じ方法において使用することを指す。
【0078】
別法として、本発明は、本明細書に記載したようなmRNA分子および光増感剤を含むキットを提供する。好ましくは、前記キット(または製品)は、医学的処置における同時の、別々の、または連続的な使用のためのものである。
【0079】
本発明は、mRNA分子によってコードされたポリペプチドを発現させることによって被験体における疾患、障害、または感染症を治療または予防するために使用するためのmRNA分子および光増感剤を、さらに提供するものである。ここでは、前記mRNAは裸であり、前記光増感剤は、0.000001~0.001μgの量で使用される、スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンであり、前記被験体における1つまたは複数の細胞を、前記mRNA分子および光増感剤と接触させ、光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光を照射し、前記接触工程は、30秒間~10分間実施される。好ましくは、光増感剤および/または前記mRNAは、上記で定義した通りであり、意図された治療または予防は、好ましくは上記の方法を使用して行われる。
【0080】
本発明の別の説明では、本発明は、mRNA分子によってコードされたポリペプチドを発現させることによって被験体における疾患、障害、または感染症を治療または予防するための医薬の調製における、mRNA分子および光増感剤の使用を提供する。ここでは、前記mRNAは裸であり、前記光増感剤は0.000001~0.001μgの量で使用される、スルホン化メソテトラフェニルクロリン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、またはジもしくはテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニンであり、前記被験体における1つまたは複数の細胞を、前記mRNA分子および光増感剤と接触させ、光増感剤を活性化させるのに有効な波長の光を照射し、前記接触工程は、30秒間~10分間実施される。好ましくは、前記光増感剤および/または前記mRNAは、本明細書で定義した通りである。好ましくは、前記細胞は、本明細書に記載したような方法に供される。
【0081】
任意選択により、前記医薬は、前記mRNA分子および光増感剤のうちの1つだけを含有していてもよく、また、前記医薬中に存在しない前記mRNA分子または光増感剤が前記疾患、障害、または感染症を治療または予防する際に前記患者(または被験体)に投与されるためのものである方法において、使用されうる。
【0082】
本発明のさらに別の説明では、本発明は、被験体における疾患、障害、または感染症を治療または予防する方法であって、本明細書で定義したような方法により、前記被験体においてmRNA分子をインビボで1つまたは複数の細胞に導入することを含む方法を提供する。
【0083】
本明細書で定義される場合、「治療」は、治療前の症状と比較して、治療中の疾患、障害、または感染症の1つまたは複数の症状を低減させるか、緩和するか、あるいは排除することを指す。「予防(Prevention)」(または予防すること(preventing)もしくは予防処置(prophylaxis))は、疾患、障害、または感染症の発症を遅延させることまたは予防することを指す。予防は、完全なものであってもよく、またはある個人もしくは細胞においてのみ、もしくは限られた時間のみ、有効なものであってもよい。
【0084】
治療または予防される疾患、障害、または感染症は、1つまたは複数のポリペプチドの発現により恩恵を被ると考えられる任意の状態でありうる。そのような状態は、例えば、内在性ポリペプチドが所要のレベルで発現されていないか、存在していない場合、ポリペプチドの低発現または未発現を示しうるものであるか、あるいは、(例えば、代謝プロセスを修正するためにまたはワクチン接種のために)より高いレベルが治療的であると考えられる場合、治療目的の外因性ポリペプチド、例えばワクチン接種のためもしくは細胞死を実現するための外因性ポリペプチド、例えば細胞傷害性分子の使用によって恩恵を被ると考えられるものである。別の態様では、以下に記載するように、治療法は遺伝子治療であってもよい。場合によって、遺伝子治療は、被験体において欠損または欠落している均等物に取って代わる遺伝子を提供しうる。発現されたポリペプチドは、治療的な方法で直接作用しうるか(例えば、細胞傷害性分子)、または治療的応答、例えば治療的免疫応答を引き起こしうる。特に好ましい治療される疾患、障害、または感染症としては、がん、心臓血管系疾患、自己免疫疾患、嚢胞性線維症、ハンチントン病、アルツハイマー病、およびパーキンソン病などの神経変性疾患、インフルエンザ、肝炎(例えば、B型およびC型)、HIV、およびヘルペスなどのウイルス感染症、結核、ハンセン病、クラミジア、リステリア、レジオネラ、およびコレラなどにおける細胞内または細胞外細菌による感染症ならびに大腸菌(E.coli)、緑膿菌(P.aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、連鎖球菌種(Streptococcus spp.)、髄膜炎菌(N.meningitidis)、および化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)による感染症、例えばマラリアおよびリーシュマニア症における、寄生虫による感染症、ならびに本明細書において論じたその他の疾患、障害、または感染症が挙げられる。
【0085】
インビボでの使用は、タンパク質療法、免疫療法、および遺伝子治療の方法に分けられる。
【0086】
タンパク質療法の方法では、mRNAは、例えば遺伝性変異もしくは発現低下によって患者が欠失しているタンパク質、または治療効果を有すると考えられるタンパク質を産生させるために使用される。ある別法では、これは、例えば、酵素、ペプチドホルモン、サイトカイン、増殖因子、血液凝固因子(出血性障害における)、またはその他の重要なタンパク質でありうる。この場合、欠落タンパク質をコードするmRNAが体内の(例えば、皮膚、筋肉、肝臓などの)好適な細胞に送達され、その結果、これらの細胞が、産生細胞内部に(例えば、mRNAが細胞内酵素をコードしている場合)、局所的に(例えば、ある特定の組織中で増殖因子を産生するために)、または全身的に(例えば、欠落している血液凝固因子またはペプチドホルモンを産生するために)作用することとなる欠落タンパク質を産生する。
【0087】
第2の別法では、タンパク質は、治療効果を有するタンパク質でありうるが、必ずしも天然のものとは限らない。例えば、mRNAは、ある感染病原体に対する1つまたは複数の抗体をコードしていてもよい。この場合、mRNAが体に(抗体タンパク質を産生し、抗体タンパク質を血流中に分泌することができる任意の組織中に)送達されると、体は、感染症の発生を迅速に阻止しうる感染病原体に対する抗体を迅速に(4~6時間で)合成することとなる。そのような治療法は、特定の感染病原体に極めて特異的となり、例えば、抗生物質耐性による問題を被ることはならない。好ましくは、この方法は、例えば、ウイルス、細菌(特に細胞外細菌であるが細胞内細菌も)、および寄生虫などの病原体によって生じる急性感染症を(体の免疫系が優勢となりうるまで)治療するために使用されうる。該方法はまた、様々な疾患、障害、または感染症を治療するために体の免疫応答を補うために使用されうる。疾患、障害、または感染症としては、インフルエンザ、肝炎(例えば、B型およびC型)、HIV、およびヘルペス、ならびにその他多数のウイルス感染症などのウイルス性疾患;結核、ハンセン病、クラミジア、リステリア、レジオネラ、およびコレラなどにおける(細胞外または細胞内)細菌による感染症、ならびに大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌種、髄膜炎菌、および化膿性連鎖球菌による感染症、ならびにその他幾つかの感染症;例えばマラリアおよびリーシュマニア症における、寄生虫による感染症が挙げられる。
【0088】
抗体は、抗体タンパク質が有用であることが知られる治療にも使用されうる。そのような治療には、がんだけでなく、自己免疫疾患(関節リウマチ、炎症性腸疾患など)などのその他の疾患群も含まれる。
【0089】
その他の天然には存在しない治療的タンパク質としては、例えばがんを治療するための、細胞傷害性分子が挙げられる。
【0090】
第3の別法では、mRNAは、再生の目的で、例えば、所望の方法で標的組織の再構築を助けることとなるタンパク質の局所的産生を誘導するために使用されうる。すなわち、例えば、傷の適切な治癒を促進することとなる因子(例えば増殖因子)または梗塞後の心臓など虚血性組織において新たな血管の形成を誘導することとなる因子をコードするmRNAが使用されうる。別の例としては、パラクリン因子のパルス状の産生を生じさせて、例えば、有益な応答、例えば心筋梗塞後の心筋および血管の再生、を引き起こすのに有効な方法で前駆細胞を分化させるように導くための、mRNAの使用がある(Zangiら、2013年、Nat.Biotechnol.、31(10)、898~907頁)。同様の原理は、例えば、神経組織への損傷(例えば、物理的損傷、脳血栓症に起因する、またはアルツハイマー病もしくはパーキンソン病における)の修復のために、眼およびその他多種の組織損傷における組織の再生のために使用されうる。
【0091】
特に好ましい一実施形態では、治療される疾患は、がんである。この場合、タンパク質療法が、幾つかの方法で実行されうる(または免疫療法も、以下に記載するように代替的に使用されうる)。例えば、mRNAは、例えば、チェックポイント阻害剤(例えば、mRNAによってコードされたモノクローナル抗体)、免疫細胞上の副刺激分子を活性化することとなるリガンド(例えば、CD40リガンド)、または例えば腫瘍浸潤性マクロファージに対して作用することによって、抗腫瘍免疫応答を増強しうる方法で腫瘍微小環境を調節する、パラクリン式に作用する因子などの、抗腫瘍免疫応答を調節するタンパク質の局所的または全身的発現のために使用されうる。
【0092】
免疫療法の方法では、発現されたポリペプチドは、治療的免疫応答を引き起こすために使用される。これには、予防的または治療的ワクチン接種法が含まれうる。そのような方法は、感染性疾患を治療するために使用されうる。例えば、予防的ワクチン接種は、感染病原体への暴露の前に、関連する抗原を使用して、その後の暴露に対する獲得免疫を得る場合に使用されうる。好ましい標的感染性疾患は、典型的には、T細胞応答が重要となる疾患である。例としては、インフルエンザ、肝炎(例えば、B型およびC型)、HIV、ヘルペス、およびその他多数のウイルス感染症などのウイルス性疾患;結核、ハンセン病、クラミジア、リステリア、レジオネラ、およびコレラなどにおける(細胞内または細胞外)細菌による感染症、ならびに大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌種、髄膜炎菌、および化膿性連鎖球菌による感染症、ならびにその他幾つかの感染症;例えばマラリアおよびリーシュマニア症における、寄生虫による感染症が挙げられる。予防的免疫応答を生じさせ、かつ本発明の方法において使用されるコード化mRNAを生成するために、適切な抗原が選択される。
【0093】
治療的ワクチン接種、すなわち、mRNA内在化後に発現される抗原に対して免疫応答を生じさせることによる感染した被験体の治療も、また企図される。この場合、好ましい標的疾患は、予防的ワクチン接種について前述した疾患などの、ウイルス、細菌(通常は細胞内であるが細胞外も)、および寄生虫による慢性感染症である。
【0094】
特に注目したのは、がん治療における免疫療法の使用である。これは、上記のように、予防的ワクチン接種および治療的ワクチン接種のいずれも含む。
【0095】
遺伝子治療の方法もまた使用されうる。本明細書において言及される場合、遺伝子治療の方法は、1つまたは複数の遺伝子を被験体内に導入するかもしくは被験体内で改変するか、あるいは被験体における1つまたは複数の遺伝子の発現を改変する方法であるとみなされる。すなわち、例として、mRNAは、被験体のゲノムの変更を支援すると考えられるポリペプチドをコードしうる。すなわち、例えば、標的細胞における染色体DNAの配列特異的な改変において有用な酵素をコードするmRNAを、例えば変異遺伝子を修正するためにまたは病因である変異遺伝子の非変異型のコピーを挿入するために、使用してもよい。そのような酵素の例としては、Cas9(CRISPR技術)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼmRNA(TALEN mRNA)、および部位特異的リコンビナーゼが挙げられる。必要に応じて、mRNAは、例えば「正しい」DNA配列を挿入して変異を修正するために、「ドナーDNA」と共に使用されることとなる場合もあれば、mRNAは、例えば遺伝子を不活性化するために、単独で使用されうる場合もある。好ましい態様では、該方法は、ハンチントン病、嚢胞性線維症、およびその他の遺伝性疾患を治療するために使用されうる。
【0096】
上記で論じたように、特に好ましい態様では、該方法は、免疫応答を引き起こすために、特にワクチン接種を達成するために使用される。本明細書において言及される場合、免疫応答とは、インビボでの宿主防御システムの任意の反応である。本明細書において言及される場合、「ワクチン接種」とは、疾患、障害、または感染症の発生(またはさらなる発生)に対して予防的または治療的である免疫応答を誘発するための抗原(または抗原を含有する分子)の使用であり、この場合、該疾患、障害、または感染症は、該抗原の異常な発現または存在と関連している。好ましくは、疾患は、がんである。一実施形態では、ワクチン接種は、例えば、がんまたは本明細書に記載したような慢性の寄生虫、細菌、もしくはウイルス感染症の治療において、治療的なものである。別の実施形態では、ワクチン接種は、例えば、がんを予防するために、または治療的ワクチン接種による早期がんの治療後のさらなるがん発生を抑えるために、予防的なものである。さらなる実施形態では、感染症、例えば、例えば肝炎もしくはHIV感染などのウイルス感染症、マラリアのような寄生虫感染症、または細菌感染症(例えば結核)などの、上記論じたような感染症に対する免疫応答を引き起こす場合、ワクチン接種は、本質的に予防的なものである。
【0097】
ワクチン接種の方法では、mRNAは、ワクチン接種のための好適な抗原分子を発現する。
【0098】
多くのそのような抗原または抗原性ワクチン成分は、当技術分野において既知であり、あらゆる種類の細菌抗原もしくはウイルス抗原、または原生動物もしくそれより高等の生物を含む任意の病原種の実際の抗原もしくは抗原性成分が含まれる。伝統的にはワクチンの抗原性成分は生物全体(生生物、死生物、弱毒化生物のいずれにせよ)を含んでおり、すなわち全細胞ワクチンであったが、加えて、サブユニットワクチン、すなわち生物の特定の抗原性成分を、例えばタンパク質もしくはペプチドをまたは炭水化物さえも、ベースとしたワクチンが広く検討されており、文献で報告されてきている。任意のそのような「サブユニット」ベースのワクチン成分は、本発明の発現されたポリペプチドとして使用されうる。
【0099】
しかしながら、本発明は、例えば、5~500個のアミノ酸のペプチド、例えば、15~75個または8~25個などの10~250個のアミノ酸のペプチドであるペプチドワクチンの分野において、特定の有用性を見出すものである。
【0100】
厖大な数のペプチドワクチン候補が、例えば、AIDS/HIV感染症またはインフルエンザ、イヌパルボウイルス、ウシ白血病ウイルス、肝炎などのウイルス性疾患および感染症の治療において、文献で提案されている(例えば、Phanuphakら、1997年、Asian Pac.J.Allergy.Immunol.、15(1)、41~8頁;Naruse、1994年、北海道医学雑誌、69(4)、811~20頁;Casalら、1995年、J.Virol.、69(11)、7274~7頁;Belyakovら、1998年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95(4)、1709~14頁;Naruseら、1994年、Proc.Natl.Sci.USA、91(20)、9588~92頁;Kabeyaら、1996年、Vaccine、14(12)、1118~22頁;Itohら、1986年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、83(23)9174~8頁を参照されたい)。同様に、その他の生物または種由来のペプチド抗原が実際に使用されうるように、細菌性ペプチドも使用することができる。
【0101】
病原生物由来の抗原に加えて、ペプチドもまた、がんまたは多発性硬化症などのその他の疾患に対するワクチンとしての使用が提案されている。例えば、突然変異癌遺伝子ペプチドは、細胞傷害性Tリンパ球の刺激において抗原として作用するがんワクチンとして、大きな見込みをもっている(Schirrmacher、1995年、Journal of Cancer Research and Clinical Oncology、121、443~451頁;Curtis、1997年、Cancer Chemotherapy and Biological Response Modifiers、17、316~327頁)。合成ペプチドワクチンもまた、転移性黒色腫の治療に関して評価されており(Rosenbergら、1998年、Nat.Med.、4(3)、321~7頁)、各患者の腫瘍内で変異したペプチドエピトープに基づいた個別化mRNAベースワクチンは、がん治療に対して大きな見込みを示している(Sahinら、2017年、Nature、257、222~226頁)。多発性硬化症の治療のためのT細胞受容体ペプチドワクチンが、Wilsonら、1997年、J.Neuroimmunol.、76(1-2)、15~28頁に記載されている。任意のそのようなペプチドワクチン成分は、文献中にペプチドワクチンとして記載または提案されたペプチドのうちのいずれかが実際に使用されうるように、本発明による発現ポリペプチドとして使用されうる。ワクチン接種のために使用されるmRNAは、例えば、上記のSahinら、2017年に記載されているように、1つのペプチド抗原をコードしていても、1つのポリペプチドに翻訳される幾つかの異なるペプチド抗原をコードしていてもよい。
【0102】
インビボでの本明細書に記載の薬剤または細胞の投与には、当技術分野において一般的または標準的な任意の投与方法が、例えば、経口、非経口(例えば、筋肉内、経皮吸収的、皮下、経皮穿刺的、腹腔内、髄腔内、または静脈内)、腸管、頬側、直腸、または局所(すなわち、直接的な適用)、体表の内外双方などへの投与方法が使用されうる。しかしながら、具体的には、短い接触工程を考慮すると、投与は投与方法に関係なく局所的である。本発明は、光増感剤またはmRNA分子(またはそれらを含有する細胞)が局在化されうる細胞を含有するいかなる組織に対しても使用することができ、該組織には固形組織だけでなく体液部分も含まれる。感光剤が標的細胞によって取り込まれ、光を適切に送達できる限り、あらゆる組織を治療することができる。細胞に投与する場合、方法は、光を送達する能力によって限定されない。好ましい投与方法は、局所投与または注射によって実行可能である、皮内、腫瘍内、皮下、筋肉内であり、特に、皮内、筋肉内、または腫瘍内投与である。好ましくは、投与は注射による。このようにして、必要な薬剤が標的細胞に直接送達される。
【0103】
したがって、本発明の組成物は、薬学分野において既知の技術および手順に従った任意の簡便な方法で、例えば、1つまたは複数の薬学的に許容される担体または賦形剤を使用して、製剤化されうる。「薬学的に許容される」とは、本明細書において言及される場合、組成物のその他の成分と適合性があり、かつレシピエントに生理学的に許容される成分を指す。組成物の性質、および担体または賦形剤材料、投与量などは、選択物、および所望の投与経路、治療の目的などに応じて慣例の方法で選択されうる。投与量も、同様に慣例の方法で決定することができ、分子の性質、治療の目的、患者の年齢、投与方法などに応じて決定されてもよい。光増感剤に関しては、照射時に膜を破壊する効力/能力も考慮されるべきである。
【0104】
所望の成果、すなわち疾患、障害、または感染症の治療または予防を達成するために、本方法またはそれらの一部を繰り返してもよい。すなわち、方法を全体として、適切な間隔をおいた後、複数回(例えば、2回、3回、またはそれ以上)実施してもよく、あるいは方法の一部を、例えば、本明細書で定義したようなmRNAおよび/もしくは光増感剤のさらなる投与、または追加の照射工程を、繰り返してもよい。例えば、方法または方法の一部を、最初に実施した後、数日、例えば5~60日の間(例えば、7日、14日、15日、21日、22日、42日、または51日)、例えば7~20日、好ましくは14日、または数週間、例えば1~5週間の間(例えば、1週間、2週間、3週間、または4週間)、再び実施してもよい。方法のすべてまたは一部を、適切な時間間隔をおいて、例えば2週間または14日ごとに、複数回繰り返してもよい。好ましい一実施形態では、方法は、少なくとも1回繰り返される。別の実施形態では、方法は、2回繰り返される。
【0105】
次に、以下の図面を参照にして、以下の非限定的な実施例において、本発明をさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0106】
図1】(A)2μgのルシフェラーゼmRNA(TriLink L-6107、5meC、ψ)を、単独でまたは0.003μgのTPCS2aと混合して注射し(実施例1、プロトコールについての表1を参照されたい)、投与の5分後に赤色光を照明した各マウスの大腿筋における2箇所の注射部位の生物発光イメージング、および(B)各動物について、注射部位から得た筋肉組織におけるルシフェラーゼ活性を示す図である。
図2】2μgのルシフェラーゼmRNAを、単独でまたは0.003μgのTPCS2aと共に注射し、示したような投与後の様々な時間において青色光を照明した後の、マウスの皮内注射部位から得た皮膚における平均ルシフェラーゼ活性を示す図である。
図3】2μgのルシフェラーゼmRNAを、単独でまたは(示したような)様々な濃度のTPCS2aと共に注射し、投与の30秒後に青色光を照明した後の、マウスの皮内注射部位から得た皮膚における平均ルシフェラーゼ活性を示す図である。
図4】2μgのルシフェラーゼmRNAを、単独でまたは(示したような)様々な濃度のTPCS2aと共に注射し、投与の30秒後に青色光を照明した後の、マウスの皮内注射部位から得た皮膚における平均ルシフェラーゼ活性を示す図である。
図5】(A)2μgのルシフェラーゼmRNAを、単独でまたは0.003μgのTPCS2aと共に注射し、投与の30秒後に青色光を照明した後の、各マウスの皮膚における2箇所の注射部位の生物発光イメージング、および(B)Aから得られた平均結果を示す図である。
図6】(A)2μgのルシフェラーゼmRNAを、単独でまたは0.0003もしくは0.0001μgのTPCS2aと共に注射し、投与の30秒後に青色光を照明した各群についての、筋肉における注射部位での平均生物発光、および(B)各群についての、これらの部位から得た筋肉組織における平均ルシフェラーゼ活性を示す図である。
図7】2μgのルシフェラーゼmRNAを、単独でまたは(示したような)様々な濃度のTPCS2aと共に注射し、投与の30秒後に青色光を照明した後の、マウスの注射部位から得た筋肉組織における平均ルシフェラーゼ活性を示す図である。
図8】2μgのルシフェラーゼmRNAを、単独でまたは(示したような)様々な濃度のTPCS2aと共に注射し、投与の10分後に青色光を照明した後の、マウスの注射部位から得た筋肉組織における平均ルシフェラーゼ活性を示す図である。
図9】2μgのルシフェラーゼmRNAを、単独でまたは0.0001μgのTPCS2aと共に注射し、投与の5分後(図9A)または10分後(図9B)に赤色光を(示した線量で)照明した後の、マウスの注射部位から得た筋肉組織における平均ルシフェラーゼ活性を示す図である。
図10】2μgのルシフェラーゼmRNAを、単独でまたは(示したような)様々な濃度のTPCS2aと共に注射し、投与の5分後に赤色光を照明した後の、実験1および2(それぞれ、図10AおよびB)についての各群の動物について、2箇所の筋肉内注射部位の生物発光イメージングの平均結果を示す図である。
【実施例
【0107】
[実施例1]
(mRNA/感光剤を注射した5分後に赤色光照明を行う、インビボでのBL/6マウスへの筋肉内mRNA送達)
従来の使用より短い接触時間および低い感光剤用量を使用して、インビボでのマウスへの裸のmRNAの筋肉内送達を調べる実験を行った。
【0108】
(材料および方法)
(マウス)
C57BL/6系統(Charles River)の雌マウスを使用した。動物個体識別、ならびに飼育ケージ、順化、環境、食餌、および給水の条件は、Oslo University Hospital-The Radium Hospitalの動物施設における現行の標準作業手順に従った。投与開始時の週齢および体重:5~6週齢、18~20g。注射域は、照明前に剪毛した。
(mRNA)
ホタルルシフェラーゼmRNA(修飾型塩基5-メトキシウリジン(5moU)およびキャップ構造としてTriLink CleanCap(商標)修飾を有するL-7202、TriLink Biotechnologiesから購入、San Diego、米国)を使用した。
(感光剤)
TPCS2a(Amphinex(登録商標)、PCI Biotech AS、Norway)は、20μlの量のPBSに混合して使用した(例えば、0.0003μg用量の場合、0.000015μg/μl溶液を使用)。
(方法)
下記の表に示した量のmRNA(1μg/μlの原液から調製した0.1μg/μl水溶液20μl)を、TPCS2a有りまたは無しで各動物の大腿筋に注射した。
【0109】
【表1】
【0110】
1~6の動物では、各動物の両大腿筋(「右注射部位」および「左注射部位」)に、mRNA/TPCS2a注射の5分後に赤色光を6分間照明した(652nmの波長ピーク、1J/cm2の光を放出するレーザーを使用)。7~12の動物では照明しなかった。注射から20時間後、動物をIVISによって解析し、筋肉ホモジネート中のルシフェラーゼ活性を測定した(Luciferase Assay System、Promega、カタログ番号E1500)。
【0111】
筋肉ホモジネートは、Precellyホモジナイザーおよびホスファターゼとプロテアーゼ阻害剤とを含む溶解緩衝液(MSD、カタログ番号R60TX-2、R70AA-1)を使用して、凍結組織試料から調製した。タンパク質分析は、DC Protein Assay(Biorad)を使用して行った。ルシフェラーゼは、試料中のタンパク質の質量あたりの相対単位(RLU=相対発光単位)として表した。
【0112】
(IVISプロトコール)
1.照明(またはTPCS2a注射)から20~24時間後、3mgのD-ルシフェリンをマウス腹腔内に注射した(15mg/ml原液を200μl)。
2.約10分後、ゾレチル(15mg/kgキシラジン、7.5mg/kgブトルファノール、9mg/kgゾラゼパム、および9mgチレタミン)を皮下注射して、マウスに麻酔をかけた。
3.D-ルシフェリン(Caliper Life Sciences)注射から20分後、マウスをIVIS装置(IVIS Spectrum、モデル124375R from PerkinElmer、AndorカメラIS0825R4582;iKon Living Image バージョン:4.5.2.18424。ビニング係数:8;励起フィルター:ブロック;吸収フィルター:オープン;f値:1)内に配置し、発光の自動露光によって写真を撮影した。
4.生物発光は、「全光束」(光子/秒)×105として表した。
【0113】
(結果)
図1Aは、1~6の各動物(表1を参照されたい)について、2箇所の注射部位の生物発光イメージングを示している。PCIを受けた部位は、mRNAを単独投与した対照部位よりも有意に強い発光を示した。これは、ルシフェラーゼ測定でも反映されていた(図1B)。PCI処置した部位の平均増加倍率は、mRNAを単独処置した部位より4.9倍高いものであった。感光剤を用いない照明では、同様の向上はみられなかった(データ非表示)。
【0114】
[実施例2]
(mRNA/感光剤の注射後、様々な時間に青色光照明を行う、インビボでのBL/6マウス皮膚への皮内mRNA送達)
様々な接触時間を使用して、マウスにおける皮膚へのインビボの裸のmRNA送達を調べる実験を行った。
【0115】
(材料および方法)
材料および方法は、皮内投与であり、かつ青色光を使用したことを除いては、実施例1で使用した通りとした(PCI Biotech AS製LumiSource照明装置からの約435nmにピークを有する400から540nmの間の波長、13mW/cm2のフルエンス率、6分の照明によって、4.7J/cm2を送達)。ルシフェラーゼ活性は、皮膚ホモジネートを使用したことを除いては、実施例1に記載の通り評価した。
【0116】
投与および照明プロトコールは、下記の表、表2に記載の通りとした。
【0117】
【表2】
【0118】
(結果)
ルシフェラーゼ測定の結果を図2に示す。10分間の接触時間では、mRNA送達は約20倍増強し、一方、従来使用されてきた長い接触時間では、有効性がはるかに低かったことが明白である。
【0119】
[実施例3]
(様々な濃度の感光剤を用いてmRNA/感光剤を注射して、30秒後に青色光照明を行う、インビボでのBL/6マウス皮膚への皮内mRNA送達)
様々な感光剤用量および30秒の短い接触時間を使用して、マウスの皮膚へのインビボでの裸のmRNA送達を調べる実験を行った。
【0120】
(材料および方法)
材料および方法は、実施例2で使用した通りとした。ルシフェラーゼ活性は、皮膚ホモジネートを使用したことを除いては、実施例1に記載の通り評価した。
投与および照明プロトコールは、下記の表、表3に記載の通りとした。
【0121】
【表3】
【0122】
(結果)
ルシフェラーゼ測定の結果を図3に示す。照明前の接触が短時間であっても、感光剤は低い用量(0.003μg)の方が高い用量より有効であることがわかった。
【0123】
[実施例4]
(様々な濃度の感光剤を用いてmRNA/感光剤を注射して、30秒後に青色光照明を行う、インビボでのBL/6マウス皮膚への皮内mRNA送達)
様々な感光剤用量および30秒の短い接触時間を使用して、マウスの皮膚へのインビボでの裸のmRNA送達を調べる実験を行った。
【0124】
(材料および方法)
材料および方法は、実施例3で使用した通りとしたが、さらに低い用量も用いた。ルシフェラーゼ活性は、皮膚ホモジネートを使用したことを除いては、実施例1に記載の通り評価した。
投与および照明プロトコールは、下記の表、表4に記載の通りとした。
【0125】
【表4】
【0126】
(結果)
ルシフェラーゼ測定の結果を図4に示す。さらに低い用量(0.0003μg)の感光剤では、照明前の接触が短時間であっても、有効であることわかった。
【0127】
[実施例5]
(mRNA/感光剤を注射して、30秒後に青色光照明を行う、インビボでのBL/6マウス皮膚への皮内mRNA送達)
低い感光剤用量および30秒の短い接触時間を使用して、インビボでのマウスの皮膚への裸のmRNA送達を調べる実験を行った。
【0128】
(材料および方法)
材料および方法は、実施例2で使用した通りとした。動物は、2箇所の部位(左または右)で注射した。IVISは、実施例1に記載の通り調査した。
投与プロトコールは、下記の表、表5に記載の通りとした。動物は、投与の30秒後に青色光を照明した。
【0129】
【表5】
【0130】
(結果)
図5Aは、1から6の各動物(表5を参照されたい)について、2箇所の注射部位の生物発光イメージングを示している。平均結果を図5Bに示す。PCIを受けた部位は、mRNAを単独投与した対照部位より有意に強い発光(約7.2倍の増加)を示したことがわかる。
【0131】
[実施例6]
(様々な感光剤濃度を用いてmRNA/感光剤を注射して、30秒後に青色光照明を行う、インビボでのBL/6マウスへの筋肉内mRNA送達)
様々な感光剤濃度を使用して、インビボでのマウスの筋肉への裸のmRNA送達を調べる実験を行った。
【0132】
(材料および方法)
材料および方法は、(実施例2のように)青色光を使用したことを除いては、実施例1で使用した通りとした。IVISは、実施例1に記載した通りに調査した。ルシフェラーゼ活性は、実施例1に記載した通り評価した。
投与および照明プロトコールは、下記の表、表6に記載の通りとした。
【0133】
【表6】
【0134】
(結果)
図6Aは、各群(表6を参照されたい)についての、注射部位における平均の生物発光を示している。図6Bは、各群についての、ルシフェラーゼの平均結果を示している。PCIを受けた部位は、mRNAを単独投与した対照部位より有意に強い発光およびルシフェラーゼ活性を示したこと、また、0.0001μgの低い感光剤用量が極めて有効であったことがわかる。
【0135】
[実施例7]
(様々な感光剤濃度を用いてmRNA/感光剤を注射して、30秒後に青色光照明を行う、インビボでのBL/6マウスへの筋肉内mRNA送達)
様々な感光剤濃度を使用して、インビボでのマウスの筋肉への裸のmRNA送達を調べる実験を行った。
【0136】
(材料および方法)
材料および方法は、(実施例2のように)青色光を使用したことを除いては、実施例1で使用した通りとした。ルシフェラーゼ活性は、実施例1に記載した通りに評価した。
投与および照明プロトコールは、下記の表、表7に記載の通りとした。
【0137】
【表7】
【0138】
(結果)
ルシフェラーゼ測定の結果を図7に示す。より低い用量の感光剤(0.0003μg)は、照明前の接触が短時間であっても、有効であることわかった。
【0139】
[実施例8]
(様々な感光剤濃度を用いてmRNA/感光剤を注射して、10分後に青色光照明を行う、インビボでのBL/6マウスへの筋肉内mRNA送達)
様々な感光剤濃度を使用して、インビボでのマウスの筋肉への裸のmRNA送達を調べる実験を行った。
【0140】
(材料および方法)
材料および方法は、(実施例2のように)青色光を使用したことを除いては、実施例1で使用した通りとした。ルシフェラーゼ活性は、実施例1に記載した通りに評価した。
投与および照明プロトコールは、下記の表、表8に記載の通りとした。
【0141】
【表8】
【0142】
(結果)
ルシフェラーゼ測定の結果を図8に示す。感光剤は低い用量(0.0003μg)の方が高い用量より有効であることがわかった。
【0143】
[実施例9]
(mRNA/感光剤を注射して、5分後または10分後に様々な光線量によって赤色光照明を行う、インビボでのBL/6マウスへの筋肉内mRNA送達)
様々な光線量、濃度、および照明前の間隔を使用して、マウスの筋肉へのインビボでの裸のmRNA送達を調べる実験を行った。
【0144】
(材料および方法)
材料および方法は、下記のように様々な光線量を使用したことを除いては、実施例1で使用した通りとした。ルシフェラーゼ活性は、実施例1に記載した通りに評価した。
投与および照明プロトコールは、下記の表、表9に記載の通りとした。投与後でかつ照明前に、5分または10分のいずれかの間隔をとる、2セットの実験を行った。
【0145】
【表9】
【0146】
(結果)
ルシフェラーゼ測定の結果を図9に示す。5分の間隔と0.0001μgのTPCS2a用量を用いた場合、0.3~3J/cm2の赤色光線量範囲にわたって、PCIによって8~9倍の上昇が観察された(図9A)。10分の間隔も有効ではあったが、5分の間隔と同じレベルではなく、0.3~3J/cm2までの光線量で上昇するように思われた(図9B)。
【0147】
[実施例10]
(極めて低い感光剤濃度を用いてmRNA/感光剤を注射して、5分後に赤色光照明を行う、インビボでのBL/6マウスへの筋肉内mRNA送達)
極めて低い感光剤用量を使用して、5分の接触時間の後、インビボでのマウスへの裸のmRNAの筋肉内送達を調べる実験を行った。
【0148】
(材料および方法)
材料および方法は、実施例1で使用した通りとした。動物には、2箇所の部位(左右大腿)で注射した。IVISは、実施例1に記載した通り調査した。
投与プロトコールは、下記の表、表10に記載の通りとした。動物は、投与の5分後に赤色光を照明した(1J/cm2)。
【0149】
【表10】
【0150】
(結果)
図10は、実験1および2(それぞれ、図10AおよびB)について、各群の動物について、2箇所の注射部位の生物発光イメージングの平均結果を示している。5分の間隔を用いた場合、それぞれ、0.0001μgおよび0.0003μgのTPCS2a用量で、5倍および7倍の上昇が観察された。TPCS2aを0.000003μgの極めて低い用量で使用した場合でも、効果が観察された(図10B)。
【0151】
(実施例から得られた結論)
IVISの結果とルシフェラーゼ測定の結果との間では十分な一致が認められた。mRNA/感光剤の注射後たった30秒で照明を行った場合の上昇倍率(PCI/mRNA単独)は、注射の60分後に照明を行うこれまでの実験で得られている上昇倍率(3~5倍の向上)より高い。感光剤を使用しない場合と比較した向上は、約30倍である。より短い接触時間は、極めて低い感光剤用量においても有効であり、これによって被験体における副作用の低減が可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】