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特表2024-506078合成マトリクス及び生合成接着剤を含む二成分封止システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】合成マトリクス及び生合成接着剤を含む二成分封止システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/132 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
A61B17/132
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548284
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(85)【翻訳文提出日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 IB2022051162
(87)【国際公開番号】W WO2022172169
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】63/148,011
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512080321
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ethicon, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ネイティブ・ニール
(72)【発明者】
【氏名】ワインドル・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】フィッツ・ベンジャミン・ディー
(72)【発明者】
【氏名】ヤノス・ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】ツァン・グァンフイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン・イ-ラン
(72)【発明者】
【氏名】デン・メン
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160DD33
4C160MM32
(57)【要約】
本発明は、多孔質基材と、過剰な一級求核基対利用可能な求電子基の約0.2~約0.9:1のモル比における多孔質基材上の少なくとも1つの求核ポリアルキレンオキシド系成分及び少なくとも1つの求電子ポリアルキレンオキシド系を含む、少なくとも1対の共反応性ポリマー試薬と、を含む、止血パッチを対象とする。本発明はまた、そのような止血パッチの製造及び使用のためのプロセスも対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用可能な酸性カルボキシル基を有する多孔質基材と、少なくとも1つの求核ポリアルキレンオキシド系成分及び少なくとも1つの求電子ポリアルキレンオキシド系成分を含む、少なくとも1対の共反応性ポリマー試薬と、を含む、止血パッチであって、前記成分が両方とも、一級求電子基対求核基の約0.2~約0.9:1のモル比で前記多孔質基材上に配置されている、止血パッチ。
【請求項2】
前記共反応性ポリマー試薬のうちの少なくとも1つが、3アームアームポリエチレングリコール系求核剤である、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項3】
前記共反応性ポリマー試薬のうちの少なくとも1つが、3アームアームポリエチレングリコール系求電子剤である、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項4】
前記共反応性ポリマー試薬のうちの少なくとも1つが、4アームアームポリエチレングリコール系求核剤である、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項5】
前記共反応性ポリマー試薬のうちの少なくとも1つが、4アームアームポリエチレングリコール系求電子剤である、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項6】
少なくとも1対の前記共反応性ポリマー試薬が、超音波空気噴霧を介して非水性溶媒噴霧から前記基材に適用される、請求項1に記載の止血パッチを製造するための方法。
【請求項7】
前記非水性溶媒が、有機溶媒を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記非水性溶媒が、アセトンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1対の前記共反応性ポリマー試薬が、乾燥の介在を伴って連続的に適用される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1対の前記共反応性ポリマーが、第1の共反応性ポリマー及び第2の共反応性ポリマーの連続的な目立たない層で適用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのポリエチレングリコール系求電子剤の層が、第1の層として順次適用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記多孔質基材が、酸化セルロース又は酸化再生セルロースを含む、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項13】
前記多孔質基材が、酸化セルロース含有材料又は酸化再生セルロース含有材料の少なくとも第1の層を、ポリグラクチン含有ポリマーの少なくとも第2の層とともに含む、二重層構築物である、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項14】
前記少なくとも1つの求電子ポリアルキレンオキシド系成分が、約10kDの平均分子量Mwを有する、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項15】
前記少なくとも1つの求核ポリアルキレンオキシド系成分が、約4kD~5kDの平均Mwを有する、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項16】
前記多孔質基材が、合成の生分解性及び可撓性マトリクスである、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項17】
前記多孔質基材が、ポリグラクチン910から作製されている不織メッシュの少なくとも1つの層と、組織適用時に局在化酸性基を提供する、本質的に酸化セルロース又は酸化再生セルロース材料からなる不織メッシュの第2の付着層とを含む、請求項16に記載の止血パッチ。
【請求項18】
前記求電子成分が、ポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレートエステル(PEG-SG)を含む、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項19】
前記求核成分が、一級アミン(NH)基の任意のポリマー源からなる群から選択されている、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項20】
前記少なくとも2つの共反応性ポリマー試薬が、約6.4mgポリマー/基材cm~25.5mg/cmの密度で前記基材上に堆積されている、請求項1に記載の止血パッチ。
【請求項21】
前記少なくとも2つの共反応性ポリマー試薬が、スクシンイミジル基(PEG-SG)とアミン基(PEG-アミン)との間の1.2:1.0の固定モル比で、アミン基を含まない二重層基材上に適用されている、請求項20に記載の止血パッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、概して、外科的手技に関し、より具体的には、組織及び器官を封止して、出血、流体漏出、及び空気漏出を管理するためのシステム、デバイス、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切除は、組織又は器官の一部を切り取ることを伴う外科的手技である。肝臓、肺及び胃腸系を含む多種多様な器官に実施される切除は、術後の出血、並びに流体及び空気漏出を効果的に管理することに関連する多くの独自の問題を外科医に提示する。
【0003】
器官切除手技中に、外科医は、止血帯、広範な縫合などを使用することによって、切除表面における大量出血を管理する。一部の外科医は、接着流体(例えば、合成接着剤、フィブリン接着剤ゲル)を使用するが、これらは、完全に硬化する前に切除表面から流出し得るか、又は下層組織への十分な接着若しくは適切な弾性特性が欠けているため硬化後に容易に剥離し得るため、限定されている。
【0004】
肝臓切除。肝臓の全体又は一部を除去することを伴う外科的手技は、一般的に肝切除術と称される。肝部分切除術は、肝臓から充実性腫瘍を除去するための好ましいアプローチである。肝臓の切除中に、切除された領域内の組織境界が破壊され、内部実質及び流動系が露出される。適切な境界の再確立は、即時には生じないが、数日から数週間持続し得る長期の組織治癒プロセスを必要とする。組織治癒プロセス中に、切除された組織は、血液を滲出し、及び/又は器官特異的液体(例えば、胆汁)を漏出し得、術後合併症を引き起こし得る。ある研究では、肝臓切除手技後、胆汁漏出率が約5%であり、これが患者の術後合併症の可能性を劇的に増加させることが見出された。
【0005】
肺切除。肺切除手技は、典型的には、術後空気漏出の高い発生率をもたらす、かなりの量の組織操作及び処理を必要とする。空気漏出に対処するために使用される標準化技法は、肺組織を縫合又はステープル固定することを伴う。しかしながら、これらの技法はしばしば、特に気腫患者において、肺実質の固有の破砕性に起因して気密封止部を作成することに無効である。いくつかの事例では、局所接着剤が、胸膜剥離上又はステープルライン上のいずれかに直接適用されるが、これらの技法はしばしば、空気漏出を防止するためには不十分である。
【0006】
GI切除。胃腸(gastrointestinal、GI)手技はしばしば、疾患を効果的に治療するために患者の腸の解剖学的構造の大部分を切除することを伴う。GI組織を除去した後、外科医は、患者の消化器系を再建する必要がある。GI再建は、腸の繊細な構造、下部結腸への制限された血液供給、複雑な解剖学的構造への制限された外科医のアクセス、及び典型的には周辺組織に影響を及ぼす病状に起因して複雑である。しかしながら、外科医がGI再建手技中に細心の注意を払ったときでさえも、外科的に作成された吻合部位における漏出から生じる合併症を有する、ある割合の患者が存在する。GI漏出は、しばしば漏出の管理に失敗する追加の手術及び治療を必要とする、壊滅的な結果をもたらし得る。
【0007】
上記の合併症を考慮して、術中及び術後の出血、並びに流体及び空気漏出を効果的に管理することに向けられた多くの努力がなされてきた。例えば、固形器官を切除するとき、外科医は、典型的には、止血帯及び広範な縫合を使用することによって、切除表面における大量出血を管理する。少量の出血及び流体漏出はしばしば、切除表面を被覆するために接着流体(例えば、合成接着剤、フィブリン接着剤)を使用することによって管理されるが、硬化した接着剤が下層組織への十分な接着又は適切な弾性特性を欠いているため、接着流体は、硬化前に切除表面から流出し、及び/又は硬化後に剥離する傾向があるため、これらの方法論は、限定的な成功を達成している。
【0008】
Covidienは、切除された組織表面を封止するためのVERISET(登録商標)止血パッチを販売している。VERISET(登録商標)止血パッチは、酸化再生セルロース(oxidized regenerated cellulose、ORC)層及び反応性ポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG)層から構成される。パッチは、表面に圧力を印加することによって組織表面に適用される。ORCマトリクスが不透明であるという事実に起因して、切除表面上に圧力を印加しながら、外科医は、切除表面の状態を評価するためにVERISET(登録商標)止血パッチを通して見ることができない。パッチはまた、低い可撓性を伴って剛性であり、したがって、良好な組織共形可能性を達成しないか、又は組織運動に迎合的なままであり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の欠陥を考慮すると、外科医が器官及び組織の切除表面を効果的に封止し、組織及び器官の切除表面からの術中及び術後の出血、流体漏出及び/若しくは空気漏出を防止すること、並びに/又はその管理に成功することを可能にする、改良されたシステム、デバイス、及び方法の継続的な必要性が存在する。
【0010】
今日まで、術中及び術後の出血、流体漏出、並びに空気漏出を管理するために器官の切除表面を封止することに向けられた多くの努力がなされてきた。これらの努力のうちのいくつかは、切除表面にメッシュを適用し、続いて、フィブリン接着剤を適用して切除表面を封止することを伴う。しかしながら、動物モデル実験は、フィブリン接着剤がメッシュを器官の切除表面に接着させるための組織結合強度を有していないことを示す。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、少なくとも2つの異なる架橋性ポリアルキレンオキシド系成分、好ましくは、PEG-NHS及びPEG-NH2を吸収性マトリクス上に連続的に堆積させるためのシステム及びプロセスを対象とする。血液の存在下などの水性環境では、1)PEG-NHS及びPEG-NH2成分は、架橋して、出血を停止させ得るゲル様の機械的障壁を形成する傾向があり、2)PEG-NHSは、組織タンパク質のNH2基と架橋し、それによって、組織へのプロトタイプの接着につながる。この組織接着機能にもかかわらず、本出願人らは、選択されたマトリクス構造を用いて、過剰なPEG-NH2成分を堆積させることが有利であることを発見した。
【0012】
本発明者らは、これら2つのポリオキシアルキレンオキシド系反応性成分のモル比が、パッチの止血効力に重要であることを観察した。モル比臨界の潜在的な理由は、2つの機構、すなわち、ゲル形成及び組織接着が競合することである。したがって、PEG-NHS及びPEG-NH2の最適なモル比においてのみ、プロトタイプがその止血基準を満たす方法で2つの機構が共存する。
【0013】
加えて、総PEG密度は、最適化された範囲が組織への十分な接着のために識別された、新規の挙動を実証した。更に、過剰な量が、結果として生じるポリマー塊の基材への一体化を防止する、プラズマ/液相に対して大部分が不浸透性のゲル様の機械的障壁を形成するため、ポリアルキレンオキシド反応性成分の総量は上限を有することが発見された。
【0014】
本特許出願は、上記で識別される欠陥を克服し、組織を効果的に封止して、出血、流体漏出、及び空気漏出を制御するための好ましいシステム、デバイス、及び方法を開示する。
【0015】
一実施形態では、本システムの第1の構成要素は、担体マトリクス(例えば、メッシュ若しくは不織)又は基材である。一実施形態では、マトリクスは、不織マトリクスである。一実施形態では、合成マトリクスは、生分解性合成マトリクスである。
【0016】
一実施形態では、マトリクスは、酸化セルロース、好ましくは、酸化再生セルロースの織成又は不織層との構造化された組み合わせで、Ethicon,Inc.(Somerville,New Jersey)によってVICRYL(登録商標)ポリグラクチン910材料という商標で製造及び販売されているポリグラクチン910(polyglactin 910、PG910)材料から作製された吸収性合成基材などの合成基材又はパッチから作製され得る。一実施形態では、ポリグラクチン910材料は、織成酸化セルロース材料の層にニードルパンチによって取り付けられる、約90%グリコリド及び10%L-ラクチドのコポリマー材料であり得る。
【0017】
一実施形態では、合成マトリクスは、器官の組織表面上に配置され、組織表面及び/又は器官の形状に共形化するように適合される可撓性又は共形化可能不織マトリクスであり得る。一実施形態では、合成マトリクスは、生体吸収性である。
【0018】
一実施形態では、創傷被覆材は、共反応性であり、反応を最小限に抑えるために連続的に堆積される、反応性成分の少なくとも2つの層を更に含む。一実施形態では、反応性成分は、生体適合性の反応性求電子剤及び求核剤を含み得る。一実施形態では、求電子剤は、PEG-SGを含み得る。一実施形態では、求核剤は、アミン(NH2)基(例えば、一級アミン部分)の任意のポリマー源、好ましくは、ポリエチレングリコールアミン(PEG-NH2)、及びこれらの組み合わせから選択され得る。
【0019】
一実施形態では、本発明は、利用可能な酸性カルボキシル基を有する多孔質基材と、少なくとも1つの求核ポリアルキレンオキシド系成分及び少なくとも1つの求電子ポリアルキレンオキシド系成分を含む、少なくとも1対の共反応性ポリマー試薬と、を含む、止血パッチを対象とする。ポリマー試薬成分は、一級求電子(NHS)基対求核(NH2)基の約0.2~約0.9:1のモル比で多孔質基材上に配置される。当該共反応性ポリマー試薬のうちの少なくとも1つは、3アームアーム又は4アームポリエチレングリコール系求核剤であり得る。当該共反応性ポリマー試薬のうちの少なくとも1つは、3アーム又は4アームポリエチレングリコール系求電子剤であり得る。少なくとも1つの求電子ポリアルキレンオキシド系成分は、約5kD~30kD、好ましくは、10kD~20kDの平均分子量Mwを有することができる。少なくとも1つの求核ポリアルキレンオキシド系成分は、約4kD~20kkD、好ましくは、約10kD未満、より好ましくは、約4kD~5kDの平均Mwを有することができる。求電子成分は、ポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレートエステル(polyethylene glycol succinimidyl glutarate ester、PEG-SG)から構成されたポリマー材料であり得る。求核成分は、利用可能な一級アミン(NH2)基を有する任意のポリマー源からなる群から選択されるポリマー材料であり得る。
【0020】
止血パッチは、主に酸化セルロース又は酸化再生セルロースの材料から構築されている多孔質基材を有することを特徴とし得る。多孔質基材は、酸化セルロース含有材料又は酸化再生セルロース含有材料の少なくとも第1の層を、ポリグラクチン含有ポリマーの少なくとも第2の層とともに有する、二重層構築物であり得る。多孔質基材は、好ましくは、生分解性かつ可撓性の層で、好ましくは、合成成分及びセルロース成分のブレンドから構築される。
【0021】
一実施形態では、多孔質基材は、ポリグラクチン910から作製された不織メッシュの少なくとも1つの層と、組織適用時に局在化酸性基を提供する、主に酸化セルロース又は酸化再生セルロース材料から構成された不織メッシュの第2の付着層とを含む。
【0022】
一実施形態では、本発明は、少なくとも1対の共反応性ポリマー試薬が、一例として空気又はガスを使用することができる、非水性溶媒噴霧から、又は超音波噴霧を介して、基材に適用される、本明細書に記載される止血パッチを製造するための方法を対象とする。非水性溶媒は、全体的又は部分的にアセトンなどの有機溶媒であり得る。少なくとも1対の共反応性ポリマー試薬は、代替共反応性ポリマー試薬の目立たない層の適用の間に介在する乾燥工程を伴って、連続的に適用することができる。少なくとも1対の共反応性ポリマーは、好ましくは、第1の共反応性ポリマー及び第2の共反応性ポリマーの連続的な目立たない層で適用される。少なくとも1つのポリエチレングリコール系求電子剤の層は、順序において第1の目立たない層として適用することができる。
【0023】
本明細書でより詳細に記載されるように、不織ブレンドマトリクスの構築の材料は、適切な支持を提供し、反応性成分の組み合わせが流体及び/又は気密封止部を形成するための優れたレベルの接着を形成する様式で硬化するために、局在化酸性基に寄与することが決定されている。
【0024】
加えて、最小限の水性環境下で吸収性マトリクス上に共反応性接着剤成分を連続的に堆積させることは、好適な創傷被覆材を生産することが見出されている。更に、本出願人らは、共反応性接着剤成分のモル比を制御することが、パッチの止血効力に重要であることを発見した。理論に束縛されるものではないが、共反応性接着剤成分の好ましいモル比は、PEG-NHSなどのポリマー求電子剤及びPEG-NH2などのポリマー求核剤が架橋して、ゲル様の機械的障壁を形成する傾向があり、PEG-NHSなどのポリマー求電子剤が組織タンパク質のNH2基と架橋する、2つの反応機構の平衡を保つと考えられる。加えて、共反応性接着剤成分の総密度は、選択された範囲が組織への十分な接着を提供する、新規の挙動を実証した。
【0025】
本明細書でより詳細に開示されるように、第1及び第2の成分が基材上に堆積される順序、並びに生合成接着剤の特定の組成は、封止剤の効力に影響を及ぼし得、したがって、特定の適用時の効果的な使用のために修正及び/又は調整され得る。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(PEG-SG)は、医療デバイスにおいて十分に確立された安全性プロファイルを有し、Duraseal及びCosealなどの封止剤製品で使用されている。スクシンイミジルグルタレートは、弱アルカリ性条件下で、タンパク質、例えば、コラーゲン上のアミン基と反応して、アミド結合を形成する。PEG中に設計された切断可能なエステルリンカーは、ポリマーがインビボで分解可能であることを可能にする。この形態のPEGはまた、分子間架橋を可能にするその長いスペーサー領域に起因して、複数のコラーゲン繊維にわたって架橋する能力も提供する。
【0027】
一実施形態では、二反応性成分封止剤は、好ましくは、軟質器官の組織上に配置されるように適合される合成マトリクスを含む。一実施形態では、合成マトリクスは、反応性成分とともに組織表面上に配置されるメッシュマトリクス又は不織マトリクスであり得る。一実施形態では、不織マトリクスは、可撓性及び/又は共形化可能であり、生合成接着剤が合成マトリクスに適用された状態で組織表面上に配置されるために適合される。
【0028】
一実施形態では、合成マトリクスは、好ましくは、繊維と、繊維間に配置される隙間とを含む。
【0029】
一実施形態では、生合成又は合成接着剤は、共反応性成分の実質的な反応を防止する様式で、生分解性合成マトリクス(例えば、VICRYL(登録商標)不織PG910)に適用される。生合成接着剤成分は、1つの成分が送達のためのpHで反応を防止する保護脱離基を有する、使用の直前に予め混合されるPEG-NH2及びポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレート(PEG-SG)の溶液であり得る。代替的に、生合成接着剤成分は、共反応性成分の個々の溶液の連続的な適用及び乾燥によってマトリクス上に提供することができる。なおも更に、生合成接着剤成分は、粉末形態でマトリクス上に個別に、又はブレンドとして提供することができる。
【0030】
比較例1及び2:PEG-NHSが、血液タンパク質及び組織中に存在するアミン求核試薬と反応する可能性が高い求電子剤であるため、織物基材上にPEG-NHSを個別にコーティングすることが、出血創傷への基材の接着を促進することが予想された。しかしながら、求核剤PEG-NH2を含まない求電子剤PEG-NHSのみを適用することは、出血表面にパッチを接着させることに効果的ではないことが見出された。
【0031】
一例として、16.0mg/cmの4アーム(10kDa)PEG-NHSを不織カルボキシルメチルセルロース(carboxylmethylcellulose、CMC)基材上に堆積させ、これをブタ脾臓生検パンチ出血モデルで評価した。このモデルでは、例示的なCMCパッチは、止血効力を提供することに効果的ではなかった。
【0032】
同様に、求電子剤PEG-NHSを含まない求核剤PEG-NH2のみを適用することは、出血表面にパッチを接着させることに効果的ではなかった。一例として、6.5mg/cmの4アーム(4kDa)PEG-NH2を不織カルボキシメチルセルロース(CMC)基材上に適用することは、止血効力を提供することに効果的ではなかった。
【0033】
合計25.5mg/cmのPEG(PEG-NHS、10kDaの4アーム[4ARM-SG-10K]及びPEG-NH2、5kDaの4アーム[4ARM-NH2-5000])を、織成酸化再生セルロース及び不織吸収性ポリマー(PG910)の層から構成された4インチ×2インチの基材(二重層基材)上に適用した。総PEG装填密度は同じままであったが、PEG-NHS対PEG-NH2のモル比は、0.6、1.2及び1.8に変化した。
【0034】
【表1】
【0035】
本出願人らの研究の結果は、PEG-NHS対PEG-NH2のモル比が0.6~1.8の間で増加するにつれて、止血効力が減少することを示す。加えて、結果は、PEGモル比が、このモデルにおけるこれらのプロトタイプの止血性能において重要な変数であることを示す。
【0036】
加えて、PEG-NHS対PEG-NH比のモル比は、0.25(30.6mg/cmPEG-NH2、19.2mg/cmPEG-NHS)であり、ヘパリン化ブタ出血モデル(脾臓、肝生検パンチ、及び腎部分切除術)では止血効力を実証することが見出された。
(PEGアミンPEG-AM-4K、PEG-NHS-4アームN-ヒドロキシスクシンイミドグルタレートエステル末端PEG、Mw約10,000g/mol、4ARM-SG-10K)
【0037】
まとめられた3つの研究からの観察は、PEGのモル比が線形傾向を辿らないことを本発明者らが発見することを可能にした。PEG-NHS対PEG-NH2モル比が0に近づくと、プロトタイプの止血効力は、0.25と比較して増加し続けず、0の止血効力まで低下する。PEG-NHS対PEG-NH2モル比が無限大に近づくと、止血効力が0まで低下するとともに、2つのPEGが粘着性ゲル複合体を作成するために必要とされる。データは、0.25~1.8の最適なPEG-NHS対PEG-NH2モル比範囲を支持する。
【0038】
PEG比の示唆された範囲内の試料が関連する出血急性動物モデルで機能的であることを実証するために、以下の研究を実施した。被験物質は、ヘパリン化ブタ出血モデル(脾臓生検パンチ及び脾臓切除)で止血効力を実証した。PEG-NH2(4アーム及び4Kの分子量)並びにPEG NHS(4アーム、n-ヒドロキシスクシンイミドグルタレートエステル末端PEG、10kの分子量、4ARM-SG-10K)。使用された基材は、二重層基材であり、成分の各々のアセトン溶液、最初に、PEG-NH2溶液、次いで、PEG-NHS溶液を、二重層基材上に超音波で噴霧した。コーティングレベル及び止血モデルが以下に列挙される:
【0039】
【表2】
【0040】
スクシンイミジル基PEG-SGとPEG-アミン上のアミン基との間の1.2:1:0の固定モル比で、組織剥離力に対するその効果について、PEG堆積密度(基材表面積当たりの堆積された全PEGの質量)を評価した。0mg/cm(コーティングされていない)~51.0mg/cm(標準S1堆積密度の200%)の範囲の堆積密度を有する二重層プロトタイプについて、剥離接着力を評価した。興味深いことに、剥離力は、最初にPEG堆積密度の増加とともに増加したが、6.4mg/cm~最大25.5mg/cmの密度(標準S1堆積密度の25%~最大100%)で横ばい状態に達した。25.5mg/cmの堆積密度を超えると、剥離力が低下し始める。
【0041】
この傾向は、組織へのPEGでコーティングされたPEMの界面化学接着及び後続のゲル形成が、上記の固定比ではPEGの堆積密度に依存して低い閾値である一方で、6.4mg/cmの閾値を上回ると、PEG層は、組織に接着するとともに互いに強力な架橋ゲルを形成するために十分な機能性を有することを示唆する。しかしながら、25.5mg/cmのPEG密度を上回ると、組織表面と両方のPEGとの間に強力な相互接続されたゲルを形成する能力は、個々のPEG層の過剰な空間分離によって妨げられ得る。
【0042】
【表3】
【0043】
実施例:連続溶液噴霧(超音波)を介した製造
このプロセスでは、個々のPEGのコーティング層が、そのPEGの標的密度に達するまで、超音波噴霧器を使用して適用される。乾燥空気が噴霧ポリマー溶液のためのキャリアガスとして使用されるが、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスも使用することができる。一実施形態では、標的密度に達するまでマトリクス上にPEG-NH2層を最初にコーティングし、次いで、マトリクスを真空下で乾燥させ、その後、それぞれの標的密度に達するまでPEG-SGの層をコーティングする。次いで、完全にコーティングされたマトリクスを真空下で乾燥させ、包装する。
【0044】
本明細書に開示される封止システムは、患者の凝固系とは無関係である。したがって、外科医は、ほとんどの凝固タンパク質が肝臓で産生されるため、切除されている患者では損なわれ得る、患者の凝固状態とは無関係な止血及び封止を実現することができる。封止システムはまた、抗血小板及び抗凝固療法、例えば、アスピリン、ヘパリン、又はワルファリンを受けている患者に使用され得る。
【0045】
一実施形態では、求電子剤は、PEG-SGを含み得る。一実施形態では、求核剤は、ポリエチレングリコールアミン(PEG-NH2)並びにアルブミン及びPEG-NH2の組み合わせなどのNH基の任意のポリマー源から選択され得る。
【0046】
上記の説明は本発明の実施形態を対象とするが、本発明の基本的な範囲から逸脱することなく、本発明の他の及び更なる実施形態が考案され得、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。例えば、本発明では、本明細書に記載されるか、又は本明細書に参照により組み込まれる実施形態のうちのいずれかに示される特徴のうちのいずれかは、本明細書に記載されるか、又は本明細書に参照により組み込まれる他の実施形態のうちのいずれかに示される特徴のうちのいずれかとともに組み込まれ、かつ本発明の範囲内に依然として含まれ得ることが企図されている。
【0047】
〔実施の態様〕
(1) 利用可能な酸性カルボキシル基を有する多孔質基材と、少なくとも1つの求核ポリアルキレンオキシド系成分及び少なくとも1つの求電子ポリアルキレンオキシド系成分を含む、少なくとも1対の共反応性ポリマー試薬と、を含む、止血パッチであって、前記成分が両方とも、一級求電子基対求核基の約0.2~約0.9:1のモル比で前記多孔質基材上に配置されている、止血パッチ。
(2) 前記共反応性ポリマー試薬のうちの少なくとも1つが、3アームアームポリエチレングリコール系求核剤である、実施態様1に記載の止血パッチ。
(3) 前記共反応性ポリマー試薬のうちの少なくとも1つが、3アームアームポリエチレングリコール系求電子剤である、実施態様1に記載の止血パッチ。
(4) 前記共反応性ポリマー試薬のうちの少なくとも1つが、4アームアームポリエチレングリコール系求核剤である、実施態様1に記載の止血パッチ。
(5) 前記共反応性ポリマー試薬のうちの少なくとも1つが、4アームアームポリエチレングリコール系求電子剤である、実施態様1に記載の止血パッチ。
【0048】
(6) 少なくとも1対の前記共反応性ポリマー試薬が、超音波空気噴霧を介して非水性溶媒噴霧から前記基材に適用される、実施態様1に記載の止血パッチを製造するための方法。
(7) 前記非水性溶媒が、有機溶媒を含む、実施態様6に記載の方法。
(8) 前記非水性溶媒が、アセトンを含む、実施態様6に記載の方法。
(9) 少なくとも1対の前記共反応性ポリマー試薬が、乾燥の介在を伴って連続的に適用される、実施態様6に記載の方法。
(10) 少なくとも1対の前記共反応性ポリマーが、第1の共反応性ポリマー及び第2の共反応性ポリマーの連続的な目立たない層で適用される、実施態様9に記載の方法。
【0049】
(11) 少なくとも1つのポリエチレングリコール系求電子剤の層が、第1の層として順次適用される、実施態様10に記載の方法。
(12) 前記多孔質基材が、酸化セルロース又は酸化再生セルロースを含む、実施態様1に記載の止血パッチ。
(13) 前記多孔質基材が、酸化セルロース含有材料又は酸化再生セルロース含有材料の少なくとも第1の層を、ポリグラクチン含有ポリマーの少なくとも第2の層とともに含む、二重層構築物である、実施態様1に記載の止血パッチ。
(14) 前記少なくとも1つの求電子ポリアルキレンオキシド系成分が、約10kDの平均分子量Mwを有する、実施態様1に記載の止血パッチ。
(15) 前記少なくとも1つの求核ポリアルキレンオキシド系成分が、約4kD~5kDの平均Mwを有する、実施態様1に記載の止血パッチ。
【0050】
(16) 前記多孔質基材が、合成の生分解性及び可撓性マトリクスである、実施態様1に記載の止血パッチ。
(17) 前記多孔質基材が、ポリグラクチン910から作製されている不織メッシュの少なくとも1つの層と、組織適用時に局在化酸性基を提供する、本質的に酸化セルロース又は酸化再生セルロース材料からなる不織メッシュの第2の付着層とを含む、実施態様16に記載の止血パッチ。
(18) 前記求電子成分が、ポリエチレングリコールスクシンイミジルグルタレートエステル(PEG-SG)を含む、実施態様1に記載の止血パッチ。
(19) 前記求核成分が、一級アミン(NH)基の任意のポリマー源からなる群から選択されている、実施態様1に記載の止血パッチ。
(20) 前記少なくとも2つの共反応性ポリマー試薬が、約6.4mgポリマー/基材cm~25.5mg/cmの密度で前記基材上に堆積されている、実施態様1に記載の止血パッチ。
【0051】
(21) 前記少なくとも2つの共反応性ポリマー試薬が、スクシンイミジル基(PEG-SG)とアミン基(PEG-アミン)との間の1.2:1.0の固定モル比で、アミン基を含まない二重層基材上に適用されている、実施態様20に記載の止血パッチ。
【国際調査報告】