(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】スルホンポリマー上に固定された生物活性化合物
(51)【国際特許分類】
C08G 65/48 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
C08G65/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548355
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2022053146
(87)【国際公開番号】W WO2022171683
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ナイル, カムレシュ
(72)【発明者】
【氏名】デヘスース, ゴリヴァー
(72)【発明者】
【氏名】ムーア, セオドア
(72)【発明者】
【氏名】ディニコロ, エマヌエーレ
(72)【発明者】
【氏名】ゴータム, ケーシャブ エス.
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA24
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
4J005BD05
4J005BD06
(57)【要約】
本発明は、イオン結合及び/又は共有結合した生物活性化合物を有するPAESコポリマー(P2)、(P2)を含む物品、(P2)の製造方法、及び(P2)を含む膜などの物品の製造方法に関する。官能化された側鎖PAESコポリマー(P1)により、生物活性な物品を製造するために、コポリマーの官能化側鎖に生物活性化合物を固定化することができる。特に、ヘパリンなどの抗血栓剤を固定化することで、血液透析に適した生物活性膜構造を形成し、血液透析を受けている患者へのそのような抗血栓剤の注入を回避又は排除することができる。好ましい実施形態には、ヘパリン化PAESコポリマー及びそれらを含む膜が含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コポリマー(P2)であって、
- 式(M):
【化1】
の繰り返し単位(R
P2)と、
- 式(Q):
【化2】
の繰り返し単位(R*
P2)と、
を含み、これらの式中、
- 各R
1は、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され;
- 各iは、0~4から独立して選択される整数であり;
- Tは、結合、-CH
2-;-O-;-SO
2-;-S-;-C(O)-;-C(CH
3)
2-;-C(CF
3)
2-;-C(=CCl
2)-;-C(CH
3)(CH
2CH
2COOH)-;-N=N-;-R
aC=CR
b-(各R
a及びR
bは、互いに独立して、水素又はC1~C12アルキル、C1~C12アルコキシ、又はC6~C18アリール基である);-(CF
2)
m-(mは1~6の整数である);6個までの炭素原子の直鎖若しくは分岐の脂肪族二価基、好ましくは-(CH
2)
m’-(m’は1~6の整数である);並びにそれらの組み合わせからなる群から選択され;
- G
Qは、式(G
Q1)、(G
Q2)、(G
Q3)、(G
Q4)、(G
Q5)、又は(G
Q6):
【化3】
のうちの少なくとも1つからなる群から選択され;
これらの式中、
- 各kは、0~4から独立して選択される整数であり;
- 各jは、2~7から独立して選択される整数であり;
- Wは、結合、-C(CH
3)
2-、又は-SO
2-であり、好ましくは-C(CH
3)
2-又は-SO
2-であり、より好ましくは-C(CH
3)
2-であり;
- R
2は、次式:-(CH
2)
p-NR
cBにより表され、pは1~5から選択され、Rcは、独立してC1~C6アルキル又はHであり、Bは、R
2に共有結合及び/又はイオン結合している、好ましくはR
2の窒素原子に結合している生物活性化合物を表し:Bは、
- 抗血栓剤又はその誘導体、
- アミノ酸、
- 核酸、
- グルクロン酸残基、
- ヒアルロン酸又はその誘導体、
- コラーゲン、ケラチン、酵素などのタンパク質、
- EGTAやEDTAなどの金属キレート剤及び/又はプロテアーゼ阻害剤、
- プロスタグランジンなどの酸性脂質、
並びに
- これらの2種以上の化合物の任意の組み合わせ、
からなる群から選択される、コポリマー(P2)。
【請求項2】
繰り返し単位(R
P2)中のTが、結合、-SO
2-及び-C(CH
3)
2-からなる群から選択される、請求項1に記載のコポリマー(P2)。
【請求項3】
iが、繰り返し単位(R
P2)及び繰り返し単位(R*
P2)の各R
1についてゼロである、請求項1~2のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)。
【請求項4】
繰り返し単位(R*
P2)においてkが0であり、jが3である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)。
【請求項5】
繰り返し単位(R
P2)/繰り返し単位(R*
P2)のモル比が、0.01/100~100/0.01、又は1/100~100/1、又は1/1~20/1、又は1/1~15/1、又は好ましくは4/1~15/1で変動する、請求項1~4のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)。
【請求項6】
繰り返し単位(R
P2)が、式(M1)、(M2)、又は(M3):
【化4】
に従う式を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)。
【請求項7】
前記式(G
Q1)、(G
Q2)、(G
Q3)、(G
Q4)、(G
Q5)、(G
Q6)のうちの少なくとも1つにおけるR
2が-(CH
2)
2-NHBである、請求項1~6のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)。
【請求項8】
前記コポリマー(P2)中の繰り返し単位の総モル数を基準として合計で少なくとも50モル%の繰り返し単位(R
P2)及び(R*
P2)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)。
【請求項9】
- 式(N):
【化5】
の繰り返し単位(R*
P1)を更に含み、
式中、
- 各R
1及び各iは、繰り返し単位(R*
P2)におけるものと同じであり;
- G
Nは、次式(G
N1)、(G
N2)、(G
N3)、(G
N4)、(G
N5)、及び(G
N6):
【化6】
からなる群から選択される少なくとも1つの式であり;
これらの式中、
- 各kは、0~4から独立して選択される整数であり;
- 各jは、2~7から独立して選択される整数であり;
- Wは、結合、-C(CH
3)
2-、又は-SO
2-であり、好ましくは-C(CH
3)
2-又は-SO
2-であり、より好ましくは-C(CH
3)
2-であり;
- R
3は、次式:-(CH
2)
p-NHR
cにより表され、pは1~5から選択され、Rcは、独立してC1~C6アルキル又はHであり、好ましくは次式:-(CH
2)
p-NH
2により表され、より好ましくは次式:-(CH
2)
2-NH
2により表される、請求項1~8のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)。
【請求項10】
R
2におけるBが、ヘパリン又はその塩などの抗血栓剤又はその誘導体からなる群から選択される生物活性化合物である、請求項1~9のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)の調製方法であって、
- 酸性水性溶媒中で、好ましくは3~6、又は4.2~5、又は4.4~4.8のpHの酸性水性溶媒中で、任意選択的にはカップリング剤の存在下、コポリマー(P1)を生物活性化合物又はその誘導体と接触させて、前記生物活性化合物を前記コポリマー(P1)に結合させて前記コポリマー(P2)を製造すること、
を含み、
前記ポリマー(P1)が、
- 前記繰り返し単位(R
P2)中のものと同じである前記式(M)の繰り返し単位(R
P1)と、
- 式(N):
【化7】
の繰り返し単位(R*
P1)と、
を含み、式中、
- 各R
1及び各iは、繰り返し単位(R*
P2)におけるものと同じであり;
- G
Nは、次式(G
N1)、(G
N2)、(G
N3)、(G
N4)、(G
N5)、及び(G
N6):
【化8】
からなる群から選択される少なくとも1つの式であり;
これらの式中、
- 各kは、0~4から独立して選択される整数であり;
- 各jは、2~7から独立して選択される整数であり;
- Wは、結合、-C(CH
3)
2-、又は-SO
2-であり、好ましくは-C(CH
3)
2-又は-SO
2-であり、より好ましくは-C(CH
3)
2-であり;
- R
3は、次式:-(CH
2)
p-NHR
cにより表され;pは1~5から選択され、R
cは、独立してC1~C6アルキル又はHであり、好ましくは次式:-(CH
2)
p-NH
2により表され;より好ましくは次式:-(CH
2)
2-NH
2
により表される、方法。
【請求項12】
前記生物活性化合物を前記コポリマー(P1)に共有結合させるプロセスにおいて前記カップリング剤が使用され、前記カップリング剤が、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド)(NHS)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミドメチオジド、ポリマーに結合している1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド、HOAt(1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール)、PyBOP(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、及びPyAOP((7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
医療デバイス、インプラント、膜、コーティング、溶融加工フィルム、溶液加工フィルム、溶融加工モノフィラメント及び繊維、溶液加工モノフィラメント、中空繊維及び中実繊維、コーティング、印刷された物体、並びに射出及び圧縮成形された物体からなる群から選択される物品の、好ましくはバイオプロセス及び医療濾過のための膜(血液透析膜など)、食品及び飲料の加工のための膜、浄水のための膜、廃水処理のための膜、並びに水性媒体を伴う工業プロセス分離のための膜から選択される膜の作製における、請求項1~10のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)の使用。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)を含む物品の作製方法であって、
- 方法a):好ましくは液相で起こる相転換を介した前記物品又はその一部の形成において前記コポリマー(P2)を使用すること;又は
- 方法b):コポリマー(P1)を生物活性化合物又はその誘導体と接触させて前記コポリマー(P2)を製造し、それと同時に前記物品又はその一部を形成すること;又は
- 方法c):コポリマー(P1)を含む予備成形された物品又はその一部を生物活性化合物又はその誘導体と接触させて、前記コポリマー(P2)を製造すること;
のうちの1つを行うことを含み、
前記方法(b)又は(c)における接触工程が、前記生物活性化合物を前記コポリマー(P1)に結合させて前記コポリマー(P2)を製造するために、酸性水性溶媒中で、好ましくは3~6、又は4.2~5、又は4.4~4.8のpHの酸性水性溶媒中で、任意選択的にはカップリング剤の存在下で行うことを含み、
前記ポリマー(P1)が、
- 前記式(M)の繰り返し単位(R
P1)と、
- 式(N):
【化9】
の繰り返し単位(R*
P1)と、
を含み、
式中、
- Tは、繰り返し単位(R
P2)におけるものと同じであり;
- 各R
1及び各iは、繰り返し単位(R*
P2)におけるものと同じであり;
- G
Nは、次式(G
N1)、(G
N2)、(G
N3)、(G
N4)、(G
N5)、及び(G
N6):
【化10】
からなる群から選択される少なくとも1つの式であり;
これらの式中、
- 各kは、0~4から独立して選択される整数であり;
- 各jは、2~7から独立して選択される整数であり;
- Wは、結合、-C(CH
3)
2-、又は-SO
2-であり、好ましくは-C(CH
3)
2-又は-SO
2-であり、より好ましくは-C(CH
3)
2-であり;
-R
3は、次式:-(CH
2)
p-NHR
cにより表され;pは1~5から選択され、R
cは、独立してC1~C6アルキル又はHであり、好ましくは次式:-(CH
2)
p-NH
2により表され;より好ましくは次式:-(CH
2)
2-NH
2
により表される、方法。
【請求項15】
医療デバイス、インプラント、膜、コーティング、溶融加工フィルム、溶液加工フィルム、溶融加工モノフィラメント及び繊維、溶液加工モノフィラメント、中空繊維及び中実繊維、コーティング、印刷された物体、並びに射出及び圧縮成形された物体からなる群から選択される、好ましくはバイオプロセス及び医療濾過のための膜(血液透析膜など)、食品及び飲料の加工のための膜、浄水のための膜、廃水処理のための膜、並びに水性媒体を伴う工業プロセス分離のための膜から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載のコポリマー(P2)を含むか又は請求項14に記載の方法によって製造される物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年2月12日出願の米国仮特許出願第63/148714号及び2021年6月9日出願の欧州特許出願第21178438.4号に基づく優先権を主張するものであり、これらの出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
該当なし。
【0003】
本発明は、イオン結合及び/又は共有結合した生物活性化合物を有する変性PAESコポリマー、特にヘパリン化PAESコポリマー、物品の製造におけるそれらの使用及び物品の製造方法、ポリマー溶液、並びに官能化側鎖PAESコポリマーからそのような変性PAESコポリマーを製造する方法に関する。生物活性な物品又は構造は、そのような変性PAESコポリマーを用いて製造することができる。
【背景技術】
【0004】
ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)ポリマーは、高いガラス転移温度、良好な機械的強度及び剛性並びに優れた耐熱性及び耐酸化性を特徴とする熱可塑性ポリマーの分類である。それらは、極めて優れた加水分解安定性と共に、優れた機械的及び熱的特性を備えていることから、これらのポリマーは、その機械的、熱的及び他の望ましい特徴のため、例えば医療市場を含む幅広い用途向けのコーティング、膜など、幅広い多様な商業用途向けの製品の製造のために一層使用されている。PAESは、少なくとも1つのスルホン基(-SO2-)と、少なくとも1つのエーテル基(-O-)と、少なくとも1つのアリーレン基とを含むポリマーを表すために使用される総称である。
【0005】
商業的に重要なPAESの群には、本明細書でポリスルホン、略してPSUとして特定されるポリスルホンポリマーが含まれる。PSUポリマーは、ジヒドロキシモノマーであるビスフェノールA(BPA)と、ジハロゲンモノマー、例えば4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)との縮合に由来する繰り返し単位を含有する。そのようなPSUポリマーは、Solvay Specialty Polymers USA LLCからUDEL(登録商標)の商標で市販されている。そのようなPSUポリマーの繰り返し単位の構造は、以下:
【化1】
で示される。
【0006】
PSUポリマーは、ガラス転移温度が高く(例えば、約185℃)、高い強度及び靱性を示す。
【0007】
PAESの別の重要な群には、ポリエーテルスルホンポリマー、略してPESが含まれる。PESポリマーは、ジヒドロキシモノマーであるビスフェノールS(BPS)と、ジハロゲンモノマー、例えば4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)との縮合に由来する。そのようなPESポリマーは、Solvay Specialty Polymers USA LLCからVERADEL(登録商標)の商標で市販されている。そのようなPESポリマーの繰り返し単位の構造は、以下:
【化2】
で示される。
【0008】
それぞれBPA及びBPSに基づくPSU及びPESポリマーは、例えば、血液などの生体液と接触して使用される膜を調製するために頻繁に使用されている。
【0009】
血液透析、血液透析濾過、血液濾過、血漿交換、及び血漿回収装置など、様々な医療デバイス、人工臓器、血液浄化装置は、一般にPES膜を備えている。透析膜に使用される合成ポリマーのうち、93%はポリアリールスルホン群に由来し、22%はPESに、71%はPSUに由来する。新しい超高流量透析装置の膜には、主にPSUとPESが含まれている。
【0010】
PESに基づく血液透析膜が血液と接触すると、タンパク質がポリマー表面に吸着する傾向があり、このタンパク質層が血球の凝固及び血小板の付着などの悪影響を引き起こす。血液中のアルブミン、グロブリン、及びフィブリノーゲンなどの血漿タンパク質は、凝固に重要な役割を果たし、PES表面に対して免疫系を誘導する。血液がそのような異物表面と接触すると、凝固プロセスが本質的に開始される可能性がある。凝固カスケードは、血液が血液透析膜と接触するときの血栓反応から始まり、そこでフィブリン血栓が形成され、その結果生じた血栓は膜表面に付着して血液循環を妨害する傾向がある。その結果、血液凝固プロセスのため、血液透析のためのPES膜の使用が制限されていた。
【0011】
PAESポリマー膜上での血液透析中の血液凝固の問題に対処するために、PAESは、(1)バルク改質、(2)表面改質、及び(3)ブレンド(バルク改質とみなされることもある)を用いて改質することができる。バルク改質法はドープ溶液に適用され、膜全体を改質する。バルク改質法については、スルホン化法とカルボキシル化法が主に報告されている。
【0012】
ヘパリンは、血栓症を引き起こすプロセスである凝固を阻害する天然に存在する多糖である。ヘパリンは血液の凝固と血栓形成を妨げるため、「生体適合性」のPSU又はPESの血液透析膜を用いた場合であっても、血液凝固を防ぐために血液透析中に一般的に投与される。薬剤としてのヘパリンは、一般的に静脈への注入によって投与される。ヘパリン投与の必要性をなくせば、透析にかかるコストを削減できるのみならず、患者の転帰も改善できる可能性がある。実際、ヘパリンには副作用が存在し、血液透析を受けている患者の中にはヘパリンに対してアレルギーがある人、或いはその可能性がある人もいる。しかしながら、ヘパリン投与を回避するためには、(i)膜表面に曝される血液に血栓が形成されない必要があり、また(ii)膜表面に血小板が存在しないことが必要である。
【0013】
国際公開第2020/187684A1号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS USA、これは本明細書に組み込まれる)には、官能化側鎖PAESコポリマー、特にアミン官能化側鎖を有する官能化側鎖PAESコポリマーが開示されている。
【0014】
そのような官能化側鎖PAESコポリマーは、血液透析を受ける患者の血液中へのそのような生物活性化合物の注入を回避又は排除する一方で、血液透析に適した機能性膜構造を作製するための生物活性化合物(例えば抗凝固特性を有するもの)を結合又は固定化する可能性を提供する。
【0015】
したがって、本発明は、変性PAESに基づく膜を使用して、血液透析中に抗凝固剤を使用する必要性を低減又は排除することにより、上で言及した問題に対処することを目的とする。
【発明の概要】
【0016】
本開示の第1の態様は、生物活性化合物が結合したポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)(以降「コポリマー(P2)」)に関する。このコポリマー(P2)は、
- 式(M):
【化3】
の繰り返し単位(R
P2)と、
- 式(Q):
【化4】
の繰り返し単位(R*
P2)と、
を含み、これらの式中、
- 各R
1は、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び第四級アンモニウムからなる群から独立して選択され;
- 各iは、0~4から独立して選択される整数であり;
- Tは、結合、-CH
2-;-O-;-SO
2-;-S-;-C(O)-;-C(CH
3)
2-;-C(CF
3)
2-;-C(=CCl
2)-;-N=N-;-C(CH
3)(CH
2CH
2COOH)-;-R
aC=CR
b-(各R
a及びR
bは、互いに独立して、水素又はC1~C12アルキル、C1~C12アルコキシ、又はC6~C18アリール基である);-(CF
2)
m-(mは1~6の整数である);6個までの炭素原子の直鎖若しくは分岐の脂肪族二価基、好ましくは-(CH
2)
m’-(m’は1~6の整数である);並びにそれらの組み合わせからなる群から選択され;
- G
Qは、式(G
Q1)、(G
Q2)、(G
Q3)、(G
Q4)、(G
Q5)、又は(G
Q6):
【化5】
から選択される少なくとも1つの式であり;
これらの式中、
- 各kは、0~4から独立して選択される整数であり;
- 各jは、2~7から独立して選択される整数であり;
- Wは、結合、-C(CH
3)
2-、又は-SO
2-であり、好ましくは-C(CH
3)
2-又は-SO
2-であり、より好ましくは-C(CH
3)
2-であり;
- R
2は、次式-(CH
2)
p-NR
cBにより表され、pは1~5から選択され、R
cは、独立してC1~C6アルキル又はHであり、Bは、R
2に共有結合及び/又はイオン結合している、特にR
2の窒素原子に結合している生物活性化合物(又はその誘導体)を表す。
【0017】
本発明に適した生物活性化合物又はその誘導体「B」の非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:
- 抗血栓剤又はその誘導体、
- アミノ酸、
- 核酸、
- グルクロン酸残基、
- ヒアルロン酸又はその誘導体、
- コラーゲン、ケラチン、酵素などのタンパク質、
- EGTA及びEDTAなどの金属キレート剤及び/又はプロテアーゼ阻害剤、
- プロスタグランジンなどの酸性脂質、
並びに
- これらの2種以上の化合物の任意の組み合わせ。
【0018】
好ましい生物活性化合物又はその誘導体「B」は、ヘパリン又はその塩などの抗血栓剤又はその誘導体からなる群から選択される。
【0019】
本発明の第2の態様は、酸性水性溶媒中で、好ましくは3~6、又は4.2~5、又は4.4~4.8のpHの酸性水性溶媒中で、任意選択的にはカップリング剤の存在下、コポリマー(P1)を生物活性化合物又はその誘導体と接触させて、生物活性化合物をコポリマー(P1)に結合させてコポリマー(P2)を製造すること、を含む、コポリマー(P2)の製造方法に関する。
【0020】
このコポリマー(P1)は、
- 本明細書に記載の式(M)の繰り返し単位(R
P1)と、
- 式(N):
【化6】
の繰り返し単位(R*
P1)と、
を含み、これらの式中、
- 各R
1、i、及びTは、式(M)についてと同様に定義され;
- G
Nは、次式(G
N1)、(G
N2)、(G
N3)、(G
N4)、(G
N5)、及び(G
N6):
【化7】
のうちの少なくとも1つからなる群から選択され;
これらの式中、
- 各kは、0~4から独立して選択される整数であり;
- 各jは、2~7から独立して選択される整数であり;
- Wは、結合、-C(CH
3)
2-、又は-SO
2-であり、好ましくは-C(CH
3)
2-又は-SO
2-であり、より好ましくは-C(CH
3)
2-であり;
- R
3は、次式:-(CH
2)
p-NHR
cにより表され、pは1~5から選択され、R
cは、独立してC1~C6アルキル又はHであり、好ましくは次式:-(CH
2)
p-NH
2により表され、より好ましくは次式:-(CH
2)
2-NH
2により表される。
【0021】
本発明の第3の態様は、医療デバイス、インプラント、膜、コーティング、フィルム、繊維、シート、及び三次元の射出又は成形又は印刷されたパーツなどの物品の製造のための、コポリマー(P2)の使用に関する。
【0022】
本発明の第4の態様は、本明細書に記載のコポリマー(P2)、又は第2の態様に従って本明細書に記載の方法によって製造されたコポリマー(P2)を含む物品に関する。物品は、医療デバイス、インプラント、膜、コーティング、溶融加工フィルム、溶液加工フィルム、溶融加工モノフィラメント及び繊維、溶液加工モノフィラメント、中空繊維及び中実繊維、コーティング、印刷された物体、並びに射出及び圧縮成形された物体からなる群から選択することができる。物品は、膜又はその一部であってもよく、そのような膜は、バイオプロセス及び医療濾過のための膜(血液透析膜など)、食品及び飲料の加工のための膜、浄水のための膜、廃水処理のための膜、並びに水性媒体を伴う工業プロセス分離のための膜から選択することができる。物品は、医療デバイス又はインプラントであってもよい。
【0023】
本発明の第5の態様は、本明細書に記載のコポリマー(P2)、又は第2の態様に従って記載された方法によって製造されたコポリマー(P2)を含む物品の製造方法に関する。コポリマー(P2)を含む物品を製造する方法は、
- 方法a):物品又はその一部の形成においてコポリマー(P2)を使用すること;又は
- 方法b):コポリマー(P1)を生物活性化合物又はその誘導体と接触させてコポリマー(P2)を製造し、それと同時に物品又はその一部を形成すること;又は
- 方法c):コポリマー(P1)を含む予備成形された物品又はその一部を生物活性化合物又はその誘導体と接触させて、コポリマー(P2)を製造すること;
のうちの1つを行うことを含むことができ、
ポリマー(P1)は、本明細書に記載の式(M)の繰り返し単位(RP1)及び式(N)の繰り返し単位(R*P1)を含む。
【0024】
接触工程は、生物活性化合物をコポリマー(P1)に結合させてコポリマー(P2)を製造するために、酸性水性溶媒中で、好ましくは3~6、又は4.2~5、又は4.4~4.8のpHの酸性水性溶媒中で、任意選択的にはカップリング剤の存在下で行うことができる。
【0025】
本発明の様々な態様、利点及び特徴は、詳細な説明及び実施例を参照することにより、より容易に理解及び認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施形態によるヘパリン固定化PSUコポリマー(P2)を製造するための反応スキームである。
【
図2a】一実施形態による、イオン結合したヘパリンPSUコポリマー(P2)を含むPSU膜を形成するために使用される析出浴中のヘパリン添加量の相対量に対するトルイジンブルー染色の強度(b*値)である。
【
図2b】一実施形態による、共有結合したヘパリンPSUコポリマー(P2)を含むPSU膜を形成するために使用される析出浴中のヘパリン添加量の相対量に対するトルイジンブルー染色の強度(b*値)である。
【
図3】一実施形態による、イオン結合したヘパリンPSUコポリマー(P2)を含むPSU膜を形成するために使用される析出浴中での経過時間に対するトルイジンブルー染色の強度(b*値)である。
【
図4】一実施形態による、イオン結合したヘパリンで修飾された様々なPSU膜の血液適合性(aPTT)試験及びトルイジンブルー染色試験の強度の比較である。
【
図5】いくつかの実施形態による、in-situヘパリンイオン結合、ex-situヘパリンイオン結合、及びin-situヘパリン共有結合を有する様々なヘパリン修飾PSU膜の血液適合性(aPTT)試験及びトルイジンブルー染色試験の強度の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
定義
本明細書において、いくつかの用語は、以下の意味を有することが意図される。
【0028】
本明細書において使用される化合物又は構造に関しての「生物活性」という用語は、そのような化合物又は構造が生物活性を有することを意味することが意図されている。「生物活性」な化合物は治療の可能性を示す場合があり;薬理学的効果を誘発する場合があり;代謝プロセスを調節する場合があり;有益な生理学的、行動的、又は免疫学的効果がある場合があり;抗酸化作用、抗発がん作用、抗炎症作用、抗血栓作用、又は抗菌作用を有する場合があり;受容体活性の阻害を誘発する場合があり;プロテアーゼ阻害剤などの酵素の阻害又は誘導を誘発する場合があり;遺伝子発現の誘導及び阻害を誘発する場合があり;金属キレート化特性を有する場合があり;流体から特定の化合物を除去する吸着剤として機能する場合があり;或いは体内で触媒活性を有する場合がある。一例として、カルボニル基を有する生物活性カルボニル化合物は、その機能性カルボニル基により食品製造プロセス中の反応に関与する場合がある。別の例として、生物活性構造としてのヘパリンで修飾された膜は、血液中及び/若しくは膜表面の凝固を防止する場合があり、並びに/又は血液から低密度リポタンパク質(LDLコレステロール)を除去するのに有用な場合がある。
【0029】
本明細書で使用されるヘパリンは、高度に硫酸化されたグリコサミノグリカンであり、様々な程度に硫酸化された二糖繰り返し単位からなる。この多糖は、典型的には3~30kDaであり平均約12~15kDaであるMWを有するが、ヘパリンの分画されたバージョンはダルテパリンやエノキサパリンのような低MW形態(例えば約3~7kDaのMW)でも存在する。そのような理論に束縛されるものではないが、ヘパリンは、アンチトロンビンを活性化することによって抗凝固活性を発揮するとされている。ヘパリンの誘導体は、好ましくはヘパリンのナトリウム塩などの塩の形態である。
【0030】
用語「溶媒」は、その通常の意味で本明細書において使用され、すなわち別の物質(溶質)を溶解させて分子レベルで一様に分散された混合物を形成し得る物質を示す。高分子溶質の場合、得られる混合物が透明であり、且つ系中で相分離が見られない場合の溶媒中のポリマーの溶液を意味することが一般的である。相分離は、ポリマー凝集体の形成が原因で溶液が濁るか又は曇るようになる、多くの場合に「曇点」と言われる点であると解釈される。
【0031】
本明細書で使用される「BPA」はビスフェノールA又は4,4’-イソプロピリデンジフェノールを意味し;「BPS」はビスフェノールS又は4,4’ジヒドロキシジフェニルスルホンを意味し;「DCDPS」は4,4’-ジクロロジフェニルスルホンを意味し;「DFDPS」は4,4’ジフルオロジフェニルスルホンを意味し;EDCはN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩を意味し;NHSはN-ヒドロキシスクシンイミドを意味する。
【0032】
「膜」という用語は、その通常の意味で本明細書において使用され、すなわち、膜は、その膜と接触する化学種の浸透を緩和する、個別の、通常、薄い界面を意味する。この界面は、分子的に均一であり得る(すなわち構造が完全に均一であり得る)か(稠密膜)、又は化学的若しくは物理的に不均一であり得、例えば有限寸法の空隙、空孔又は細孔を含有し得る(多孔質膜)。膜は、通常、化学種が接触する外表面と細孔内の内表面とを有する。
【0033】
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン標準で較正されたASTM D5296を使用するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって推定することができる。多分散指数(PDI)は、本明細書では重量平均分子量(Mw)対数平均分子量(Mn)の比率として表現される。
【0034】
本明細書において、要素の群からの1つの要素の選択は、
- その群からの2つの要素の選択又は数個の要素の選択、
- 1つ以上の要素が除かれている要素の群からなる要素の部分群からの1つの要素の選択
も明示的に記述する。
【0035】
以降の本明細書の文章において、任意の説明は、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本開示の他の実施形態に適用可能であり、それらと交換可能である。そのように定義された各実施形態は、別段の指示がない限り又は明らかに適合性がない場合を除き、別の実施形態と組み合わせることができる。加えて、本明細書に記載の組成物、製品又は物品、プロセス又は使用の要素及び/又は特徴は、明示的又は暗示的に、あらゆる可能な方法で組成物、製品又は物品、プロセス又は使用の他の要素及び/又は特徴と組み合わせ得ることが理解されるべきであり、これは、本明細書の範囲から逸脱することなく行われる。
【0036】
本明細書では、下限若しくは上限又は下限及び上限によって定義される変数の値の範囲の記述は、変数が、それぞれ下限を除いた若しくは上限を除いた又は下限及び上限を除いた値の範囲内で選択される実施形態も含む。端点による数値範囲の本明細書でのいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び均等物を含む。
【0037】
用語「含む(comprising)」は、「から本質的になる(consisting essentially of)」及び更に「からなる(consisting of)」を包含する。
【0038】
本明細書での単数形「ある(a)」又は「1つ(one)」の使用は、特に明記しない限り、複数形を含む。
【0039】
更に、用語「約(approximately)」、「約(about)」、又は「約(ca.)」が定量値の前に用いられる場合、本教示は、特に明記しない限り、具体的な定量値自体も含む。本明細書で用いるところでは、用語「約(approximately)」、「約(about)」、又は「約(ca.)」は、特に明記しない限り、その名目値からの±10%の変動を意味する。
【0040】
本明細書に引用される全ての特許出願及び刊行物の開示は、それらが本明細書に記載されるものを補完する例示的な手続上の又は他の詳細を提供する範囲で参照により本明細書によって援用される。参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が、ある用語が不明確になり得る程度にまで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0041】
コポリマー(P2)
好ましい実施形態によるコポリマー(P2)は、本明細書に記載の式(M)の繰り返し単位(RP2)と式(Q)の繰り返し単位(R*P2)とを含む。
【0042】
好ましい実施形態では、繰り返し単位(RP2)/繰り返し単位(R*P2)のモル比は、0.01/100~100/0.01、又は1/100~100/1、又は1/1~20/1、又は1/1~15/1、又は好ましくは4/1~15/1であってよい。
【0043】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P2)は、式(N)の繰り返し単位(R*P1)も含み得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P2)は、生物活性化合物に結合した末端基、ヒドロキシル末端基、アミン末端基、及び/又は酸末端基、好ましくは生物活性化合物に結合した末端基及び/又はアミン末端基も含み得る。
【0045】
本発明のコポリマー(P2)は、コポリマー(P2)中の繰り返し単位の総モル数を基準として、少なくとも50モル%、又は少なくとも55モル%、又は少なくとも60モル%、又は少なくとも65モル%、又は少なくとも70モル%、又は少なくとも75モル%、又は少なくとも75モル%、又は少なくとも80モル%、又は少なくとも85モル%、又は少なくとも90モル%の式(M)の繰り返し単位(RP2)を含み得る。
【0046】
好ましい実施形態では、コポリマー(P2)は、コポリマー(P2)中の繰り返し単位の総モル数を基準として、合計で少なくとも50モル%、又は少なくとも60モル%、又は少なくとも70モル%、又は少なくとも80モル%、又は少なくとも90モル%、又は少なくとも95モル%、又は少なくとも99モル%の繰り返し単位(RP2)、(R*P2)、及び任意選択的な(R*P1)を含み得る。
【0047】
コポリマー(P2)は、更に好ましくは、繰り返し単位(RP2)と、(R*P2)と、任意選択的な(R*P1)とから本質的になることができる。
【0048】
コポリマー(P2)は、20000g/モル~200000g/モルのMwを有することができ、好ましい分子量は65000~85000g/モルである。
【0049】
コポリマー(P2)は、2~4.5の多分散指数を有することができ、好ましいPDIは2~3.6である。
【0050】
コポリマー(P2)は、物品又はポリマー溶液、例えば膜ドープ溶液の作製に使用する前に、粉末、プリル、又は「ソフトペレット」の形態であってもよい。
【0051】
コポリマー(P2)は、物品又はポリマー溶液/スラリーの作製に使用される前に、水分を除去するために乾燥されてもよい。
【0052】
繰り返し単位(RP2)
コポリマー(P2)中の繰り返し単位(RP2)は、式(M)のものであり、式中、各R1、i、及びTは既に上述した。
【0053】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P2)は、繰り返し単位(RP2)におけるTが、結合、-SO2-、-C(CH3)2-及びそれらからの混合物からなる群から選択されるようなものである。本発明のコポリマー(P2)は、例えば、Tが-C(CH3)2-である繰り返し単位(RP2)と、Tが-SO2-である繰り返し単位(RP2)とを含み得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P2)は、各R1が、1つ以上のヘテロ原子を任意選択的に含むC1~C12部位;スルホン酸及びスルホネート基;ホスホン酸及びホスホネート基;アミン及び第四級アンモニウム基からなる群から独立して選択されるようなものである。
【0055】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P2)は、繰り返し単位(RP2)の各R1についてiがゼロであるようなものである。
【0056】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P2)は、生物活性化合物で官能化されたPSU、PES、又はPPSUコポリマーであり、その中の繰り返し単位(R
P2)は、式(M1)、(M2)、又は(M3):
【化8】
から選択される少なくとも1つの式、
好ましくは式(M1)及び/又は(M2)から選択される式を有する。
【0057】
好ましい実施形態では、コポリマー(P2)は、ヘパリン官能化PSU、PES、又はPPSUコポリマーであり、その中の繰り返し単位(RP2)は、式(M1)、(M2)又は(M3)から選択される少なくとも1つの式、好ましくは式(M1)及び/又は(M2)から選択される式を有する。
【0058】
繰り返し単位(R*P2)
コポリマー(P2)中の繰り返し単位(R*P2)は、式(Q)のものであり、
式中、
- 各R1及びiは、繰り返し単位(RP2)についてと同様に定義され;
- GQは、前述した式(GQ1)、(GQ2)、(GQ3)、(GQ4)、(GQ5)、又は(GQ6)から選択される少なくとも1つの式であり、
これらの式中、
- 各kは、0~4から独立して選択される整数であり;
- 各jは、2~7から独立して選択される整数であり;
- Wは、結合、-C(CH3)2-、又は-SO2-であり、好ましくは-C(CH3)2-又は-SO2-であり、より好ましくは-C(CH3)2-であり;
-R2-は、次式:-(CH2)p-NRcBにより表され、pは1~5から選択され、Rcは、独立してC1~C6アルキル又はHであり、Bは、R2に共有結合及び/又はイオン結合しており、好ましくはR2の窒素原子に結合している生物活性化合物を表す。
【0059】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位(R*P2)の各R1についてiは0である。
【0060】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位(R*P2)において、kは0であり、jは3である。
【0061】
いくつかの実施形態では、G
Qは、以下の式(G’
Q1)、(G’
Q2)、(G’
Q3)、(G’
Q4)、(G’
Q5)、又は(G’
Q6):
【化9】
から選択される少なくとも1つの式であり、
式中、
- 各k、j、及びR
2は、G
Q1)、(G
Q2)、(G
Q3)、(G
Q4)、(G
Q5)、(G
Q6)と同様に定義される。
【0062】
いくつかの実施形態では、R2は-(CH2)2-NHBである。
【0063】
本発明に適した生物活性化合物又はその誘導体「B」の非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:
- ヘパリン又はその誘導体(例えば塩)などの抗血栓剤、
- アミノ酸、
- 核酸、限定するものではないが、例えばデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、グルクロン酸残基、ヒアルロン酸又はその誘導体、コラーゲンやケラチンや酵素のようなタンパク質、限定するものではないが、例えば
・ラクターゼ;
・グルカノヒドロラーゼ、例えば、α-アミラーゼ及びイソアミラーゼ;
・ペクチン加水分解のためのペクチナーゼ;
・高果糖コーンシロップ製造用の酵素;
・果汁の苦みを除去するための酵素、例えばナリンギン(即時の苦味の原因)及び/又はリモニン(「遅延した苦味」の原因)を除去するための酵素;
・エステラーゼ;
・リパーゼ;
・アシラーゼ;
・酸分解反応、エステル合成又はエステル交換反応、エステル交換反応を促進する酵素;
・ペプシンなどの、ホスホリパーゼ活性又はプロテアーゼ活性を有する酵素;
- エチレングリコール四酢酸(EGTA)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート剤及び/又はプロテアーゼ阻害剤;
- プロスタグランジンなどの酸性脂質;又は
- これらの2種以上の任意の組み合わせ。
【0064】
好ましい生物活性化合物又はその誘導体「B」は、ヘパリン又はその塩などの抗血栓剤又はその誘導体からなる群から選択される。
【0065】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P2)は、繰り返し単位(RP2)と、式(GQ1)、(GQ2)、(GQ3)、(GQ4)、(GQ5)、又は(GQ6)から選択される少なくとも2種、又は少なくとも3種、又は少なくとも4種の異なる繰り返し単位(R*P2)とを含み、これらの式中、Wは、結合、-C(CH3)2-、又は-SO2-であり、好ましくは-C(CH3)2-又は-SO2-であり、より好ましくは-C(CH3)2-である。
【0066】
繰り返し単位(R*P1)
コポリマー(P2)は、式(N)の繰り返し単位(R*P1)を更に含むことができ、式中、
- 各R1及びiは、繰り返し単位(R*P2)と同じであり;
- GNは、前述した式(GN1)、(GN2)、(GN3)、(GN4)、(GN5)、及び(GN6)からなる群から選択される少なくとも1つの式であり、
これらの式中、
- 各kは、0~4から独立して選択される整数であり;
- 各jは、2~7から独立して選択される整数であり;
- Wは、結合、-C(CH3)2-、又は-SO2-であり、好ましくは-C(CH3)2-又は-SO2-であり、より好ましくは-C(CH3)2-であり;
- R3は、次式:-(CH2)p-NHRcにより表され、pは1~5から選択され、Rcは、独立してC1~C6アルキル又はHであり、好ましくは次式:-(CH2)p-NH2により表され、より好ましくは次式:-(CH2)2-NH2により表される。
【0067】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位(R*P1)の各R1について、iは0である。
【0068】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位(R*P1)において、kは0であり、jは3である。
【0069】
いくつかの実施形態では、R3は-(CH2)2-NH2である。
【0070】
コポリマー(P2)の末端基
末端基は、コポリマー鎖のそれぞれの末端にある部位である。
【0071】
本発明のコポリマー(P2)は、任意選択的には、少なくとも20μeqのアミン末端基及び/又は生物活性化合物に結合した末端基、例えば少なくとも50μeqのこれらの末端基、少なくとも80μeqのこれらの末端基、少なくとも100μeq、少なくとも150μeq、更には少なくとも200μeqのこれらの末端基を含んでいてもよい。コポリマー(P2)は、これらの末端基を800μeq未満、例えば600μeq未満含んでいてもよい。
【0072】
これらの末端基のいくつかに結合する生物活性化合物は、好ましくは、繰り返し単位(R*P2)に結合するものと同じ生物活性化合物「B」である。
【0073】
コポリマーの製造方法(P2)
本発明の第2の態様は、本明細書に記載の官能化PAESコポリマー(P1)からコポリマー(P2)を製造する方法に関する。
【0074】
コポリマー(P1)は、側鎖アミン基を有する複数の繰り返し単位を含む。任意選択的には、コポリマー(P1)は、ヒドロキシル末端基、アミン末端基、及び/又は酸末端基、好ましくはアミン末端基を更に含んでいてもよい。
【0075】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P2)の製造方法は、酸性水性溶媒中で、任意選択的にはカップリング剤の存在下、コポリマー(P1)を生物活性化合物又はその誘導体(例えば塩)と接触させ、生物活性化合物をコポリマー(P1)に結合させてコポリマー(P2)を製造すること、を含む。
【0076】
酸性水性溶媒は、好ましくは3~6、又は4.2~5、又は4.4~4.8のpHを有する。
【0077】
酸性水性溶媒は、2.5~5のpKaを有する有機酸を含むことができ、好ましくはクエン酸を含むことができる。
【0078】
カップリング剤は、EDC(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩)、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミドメチオジド、ポリマーに結合している1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド、HOAt(1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール)、PyBOP(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、及びPyAOP((7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含み得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、カップリング剤はEDCとNHSとの組み合わせを含み得る。いずれもSigma-Aldrich,U.S.Aから入手可能である。
【0080】
コポリマー(P2)を製造するためのコポリマー(P1)への生物活性化合物の結合は、イオン結合及び/又は共有結合とすることができる。
【0081】
そのような理論に限定されるものではないが、ヘパリンなどの生物活性化合物の、繰り返し単位(R*P1)の側鎖アミン基及び任意選択的なコポリマー(P1)のアミン末端基への連結/結合のメカニズムは、次の通りであろうと考えられる:
- ヘパリンのグリコサミノグリカン構造などの生物活性化合物構造中に存在するカルボン酸基と、アミン基とのイオン結合により、COO基とNH3+基との間にイオン結合が形成される、及び/又は
- COO-基とNH3+基とが共有結合(反応)して-N-CO-結合が形成される。
【0082】
接触工程は、15℃~60℃、又は18℃~40℃、又は20℃~37℃の温度で行うことができる。
【0083】
接触工程は、生物活性化合物(又はその誘導体)をコポリマー(P1)に結合させるために、10分~2時間、又は10分~1時間、又は10分~30分、又は30分~60分の適切な時間行うことができる。適切な接触時間は、酸性水性溶媒中の生物活性化合物(又はその誘導体)の初期添加量に応じて変動し得る。
【0084】
このプロセスでは、コポリマー(P1)がコポリマー(P2)へと修飾され、その結果、生物活性化合物がコポリマー(P1)の側鎖アミン基及び任意選択的なアミン末端基に結合することで、生物活性化合物が固定化されたコポリマー(P2)が接触することになる生体液に関連する特定の特性についてコポリマー(P2)に機能が付与される。他方で、側鎖アミン基と任意選択的なアミン末端基とを有するコポリマー(P1)は、そのような特性を有さない。コポリマー(P2)のこの特定の特性には、血液適合性が含まれ得る。血液適合性は、例えば、血漿の凝固に関する活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)によって測定することができる。
【0085】
コポリマー(P1)
好ましい実施形態では、コポリマー(P1)は、共に既に説明した式(M)の繰り返し単位(RP1)と式(N)の繰り返し単位(R*P1)とを含む。
【0086】
アミン官能化PAESコポリマー(P1)は、国際公開第2020/187684A1号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS USA、これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているコポリマーから選択することができる。
【0087】
アミン官能化PAESコポリマー(P1)へのヘパリンの固定化は、コポリマー(P1)の側鎖上の-NHRc基(好ましくは-NH2基)の利用可能な量と比較して、生物活性化合物(又はその誘導体)の化学量論量未満で行われ得るため、得られるコポリマー(P2)は、アミン官能化PAESコポリマー(P1)に由来する式(N)の繰り返し単位(R*P1)を更に含み得る。
【0088】
コポリマー(P1)は、任意選択的には、少なくとも20μeqのアミン末端基を含んでいてもよく、800μeq未満のこれらの末端基を含んでいてもよい。
【0089】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P1)は、アミン官能化PSU、PES、又はPPSUコポリマーであり、前述した式(M1)、(M2)、又は(M3)から選択される式を有する繰り返し単位(RP1)を含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P1)中の繰り返し単位(RP1)/繰り返し単位(R*P1)のモル比は、通常、コポリマー(P2)中の繰り返し単位(RP2)/繰り返し単位(R*P2)のモル比と同じである。
【0091】
コポリマー(P1)は、20~200kDa、好ましくは65~85kDaのMw、及び2~4.5、好ましくは2~3.6の多分散指数を有し得る。
【0092】
コポリマー(P1)は、物品又はポリマー溶液、例えば膜ドープ溶液の作製に使用する前に、粉末、プリル、又は「ソフトペレット」の形態であってもよい。そのような場合、物品の形成中(同時に)又は形成後に、コポリマー(P1)を生物活性化合物(又はその誘導体)と接触させることによって、コポリマー(P2)をコポリマー(P1)から製造することができる。
【0093】
コポリマー(P1)は、物品又はポリマー溶液、例えば膜ドープ溶液の製造に使用される前に、水分を除去するために乾燥されてもよい。
【0094】
コポリマー(P1)の調製方法
コポリマー(P1)は、様々な化学的プロセス、特にフリーラジカル-熱反応、フリーラジカル-UV反応、塩基-触媒反応又は求核触媒反応によって調製することができる。例えば、コポリマー(P1)は、国際公開第2020/187684A1号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS USA)に記載されているものと同じ方法で、アリル/ビニレン-官能化PAESコポリマー(P0)から調製することができる。PAESコポリマー(P0)は、反応性を有する側鎖アリル/不飽和炭素-炭素二重結合官能基で官能化されているため、コポリマーを効率的に変性するために使用することができる。
【0095】
コポリマー(P0)は、特に、化合物R3-SHと反応する2つのペンダントアリル/ビニレン側鎖を持つ繰り返し単位(R*P0)を含み、式中のR3は次式:-(CH2)p-NHRcにより表され、pは1~5から選択され、Rcは、独立してC1~C6アルキル又はHであり、好ましくは次式:-(CH2)p-NH2により表され、より好ましくは次式:-(CH2)2-NH2により表される。
【0096】
コポリマー(P1)を形成するためのアリル/ビニレン変性PAESコポリマー(P0)のアミノ化は、20℃~90℃、又は40℃~80℃、又は50℃~70℃の温度で行うことができる。
【0097】
アリル/ビニレン変性PAESコポリマー(P0)は、より正確には:
- 式(M)の繰り返し単位(R
P0)と、
- 式(P):
【化10】
の繰り返し単位(R*
P0)と、
- 任意選択的な少なくとも20μeqの反応性末端基と、
を含み、これらの式中、
- 各R
1、i、及びTは、繰り返し単位(R
P2)についてと同様に定義され;
- G
Pは、次式(GP
1)、(GP
2)、(GP
3):
【化11】
のうちの少なくとも1つからなる群から選択され;
これらの式中、
- 各kは、0~4から独立して選択される整数であり、Wは、結合、-C(CH
3)
2-、又は-SO
2-であり、好ましくは-C(CH
3)
2-又は-SO
2-であり、より好ましくは-C(CH
3)
2-である。
【0098】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P0)は、繰り返し単位(RP0)におけるTが、結合、-SO2-、-C(CH3)2-及びそれらからの混合物からなる群から選択されるようなものである。コポリマー(P0)は、例えば、Tが-C(CH3)2-である繰り返し単位(RP0)と、Tが-SO2-である繰り返し単位(RP0)とを含み得る。
【0099】
エチレン性の不飽和はコポリマー(P0)の繰り返し単位(R*
P0)の側鎖上にあるため、その結果、コポリマー(P0)から得られるコポリマー(P1)は、繰り返し単位(R*
P1)の側鎖にアミン基を含むことになり、コポリマー(P1)から得られるコポリマー(P2)は、繰り返し単位(R*
P2)の側鎖に生物活性化合物で官能化された基を含むことになる。
【0100】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P0)は、アリル/ビニレン変性PSU、PES、又はPPSUコポリマーであり、その中の繰り返し単位(RPO)は、式(M1)、(M2)、又は(M3)から選択される少なくとも1つの式を有する。
【0101】
いくつかの実施形態では、コポリマー(P0)中の繰り返し単位(RP0)/繰り返し単位(R*P0)のモル比は、通常、コポリマー(P2)の繰り返し単位(RP2)/繰り返し単位(R*P2)のモル比と同じである。
【0102】
コポリマー(P0)は、好ましくは、それが、コポリマー(P0)中の繰り返し単位の総モル数を基準として少なくとも50モル%、例えば少なくとも55モル%又は少なくとも60モル%の式(M)の繰り返し単位(RP0)を含むようなものとすることができる。%、又は少なくとも60モル%は、
【0103】
コポリマー(P0)は、コポリマー(P0)中の繰り返し単位の総モル数を基準として合計で少なくとも約50モル%、又は約60モル%、又は少なくとも約70モル%、又は少なくとも約80モル%、又は少なくとも約90モル%、又は少なくとも約95モル%、又は少なくとも約99モル%の繰り返し単位(RP0)及び(R*P0)を含み得る。
【0104】
コポリマー(P0)は、更に好ましくは、繰り返し単位(RP0)と(R*P0)とから本質的になる。
【0105】
アリル/ビニレン側鎖に加えて、コポリマー(P0)は反応性末端基を更に含み得る。これらの反応性末端基は、ヒドロキシル末端基、アミン末端基、及び/又は酸末端基、好ましくはアミン末端基を含んでいてもよい。コポリマー(P0)は、任意選択的には、少なくとも20μ当量のこれらの反応性末端基、及び/又は800μ当量未満のこれらの反応性末端基を含み得る。
【0106】
コポリマー(P0)の調製方法
アリル/ビニレン官能化コポリマー(P0)は、通常、少なくとも1種の芳香族ジヒドロキシモノマー(a1)と、少なくとも2つのハロゲン置換基を含む少なくとも1種の芳香族スルホンモノマー(a2)と、少なくとも1種のアリル置換芳香族ジヒドロキシモノマー(a3)との縮合によって調製される。
【0107】
コポリマー(P0)を調製するための縮合は、塩基の存在下、好ましくは溶媒中で行われ(好ましくはスルホラン又はNMP中で行われる)、モル比(a1)+(a3)/(a2)は、好ましくは0.9~1.1、例えば0.92~1.08、又は0.95~1.05である。コポリマー(P0)を調製するための縮合反応の温度は、約1~15時間にわたり、約150℃~約350℃、好ましくは約210℃~約300℃に保たれる。
【0108】
いくつかの実施形態では、モノマー(a1)は、モノマー(a1)の総重量を基準として少なくとも50重量%の4,4’ジヒドロキシビフェニル(ビフェノール)、ビスフェノールA、及び/又はビスフェノールSを含む。いくつかの実施形態では、モノマー(a1)は、モノマー(a1)の総重量を基準として少なくとも60重量%、又は少なくとも70重量%、又は少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%のビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、又はそれらの任意の混合物を含む。いくつかの実施形態では、モノマー(a1)は、ビフェノール、又はビスフェノールA、又はビスフェノールS、又はそれらの任意の混合物から本質的になる。
【0109】
いくつかの実施形態では、モノマー(a2)は、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)又は4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン(DFDPS)、好ましくはDCDPSの少なくとも1つを含む4,4-ジハロスルホンである。いくつかの実施形態では、モノマー(a2)は、モノマー(a2)の総重量を基準として少なくとも60重量%、又は少なくとも70重量%、又は少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%のDCDPS、DFDPS、又はそれらの任意の混合物、好ましくはDCDPSを含む。いくつかの実施形態では、モノマー(a2)はDCDPSから本質的になる。
【0110】
いくつかの実施形態では、モノマー(a3)は、モノマー(a3)の総重量を基準として少なくとも50重量%の2,2’-ジアリルビスフェノールA(daBPA)、2,2’-ジアリルビスフェノールS(daBPS)、及び/又は2,2’-ジアリルビフェノール(daBP)、好ましくはdaBPA及び/又はdaBPS、より好ましくはdaBPAを含む。いくつかの実施形態では、モノマー(a3)は、モノマー(a3)の総重量を基準として少なくとも60重量%、又は少なくとも70重量%、又は少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%のジアリルビフェノール、daBPA、及び/又はdaBPS、好ましくはdaBPA及び/又はdaBPS、より好ましくはdaBPAを含む。いくつかの実施形態では、モノマー(a3)はdaBPAから本質的になる。
【0111】
アリル/ビニレン官能化コポリマー(P0)の調製のための縮合条件に関する追加の情報は、国際公開第2020/187684A1号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS USA)の中で見ることができる。
【0112】
コポリマー(P2)を含む物品
本発明の別の態様は、本発明によるコポリマー(P2)を含む物品(好ましくは成形された物品)を提供する。
【0113】
コポリマー(P2)を含む物品は、医療デバイス;インプラント;膜;コーティング;溶融加工フィルム、モノフィラメント及び繊維;溶液加工フィルム(多孔質及び非多孔質フィルム、溶液キャスト膜及び溶液紡糸による膜を含む);溶液加工モノフィラメント;溶融加工モノフィラメント及び繊維;中空繊維及び中実繊維;コーティング;印刷された物体;並びに射出及び圧縮成形された物体からなる群から選択することができる。
【0114】
コポリマー(P2)は、ポリマー表面を有する物品に組み込むことができる。物品はポリマー表面を有することができ、その少なくとも一部は、意図された用途状況において生体液及び/又は食品と直接接触する。ポリマー表面は、物品の外部表面であっても、又は内部表面であってもよい。例えば、医療用インプラントは、血液、血漿、又は血清などの生体液と直接接触することが意図されている外表面を有している。当業者であれば、物品の意図されている用途の状況に基づいて、どの表面が生体液又は食品と接触することが意図されているかを理解するであろう。
【0115】
いくつかの実施形態では、物品の表面はコポリマー(P2)を含むことができる。例えば、コポリマー(P2)は表面の一部を形成することができ、或いはコポリマー(P2)は物品の全て、又は実質的に全てを形成することができる。
【0116】
もう1つの例として、物品の表面は、下にある基材の上に配置された、コポリマー(P2)を含むコーティング又はフィルムを含むことができる。そのような実施形態においては、下にある基材は、コポリマー(P2)とは異なる組成を有する構造要素であってもよい。
【0117】
コポリマー(P2)がフィルム又はコーティングである実施形態においては、フィルム又はコーティングは、約25μm~約1mmの平均厚さを有することができる。
【0118】
いくつかの実施形態においては、コポリマー(P2)を含む成形された物品は、医療デバイス又はインプラント、植込み型除細動器、人工股関節、人工膝関節、心臓ペースメーカー、豊胸インプラント、脊椎固定具(人工脊間板が挙げられるが、これに限定されない)、子宮内避妊器具、人工膝、ステント(冠動脈ステントが挙げられるが、これに限定されない)、ステントグラフト、バイパスグラフト、耳管、プロテーゼ、人工心臓弁、埋め込み可能なチューブ(カテーテルが挙げられるが、これに限定されない)、濾過膜(血液透析膜が挙げられるが、これに限定されない)、手術器具(鉗子、クランプ、開創器、ディストラクター、外科用メス、外科用ハサミ、拡張器、反射鏡、吸引チップ、ステープラー、注射針、ドリル、光ファイバー機器が挙げられるが、これに限定されない)であってよく;好ましくは冠動脈ステント、人工心臓弁、又は心臓ペースメーカーであってよい。
【0119】
コポリマー(P2)は、表面が血液、血漿、又は血清などの生物学的流体と接触することが意図されている場合には、例えば基材(例えばステント用の管状基材)の表面上へのコポリマー(P2)のコーティングの形態で、物品(例えばステント)の表面の少なくとも一部に含まれ得る。或いは、コポリマー(P2)は、物品(例えばステント)の全て、又は実質的に全てを形成することができる。
【0120】
コポリマー(P2)を含む成形された物品はステントであってもよい。ステントは、一般的には、通路を開いた状態に保つために解剖学的血管又は管の内腔に挿入される管である。
【0121】
コポリマー(P2)を含む成形された物品は、好ましくは、バイオプロセス及び医療濾過のための膜(血液透析膜など)、食品及び飲料加工のための膜、浄水のための膜、廃水処理のための膜、並びに水性媒体を伴う工業プロセス分離のための膜から選択される膜又はその一部であってよい。
【0122】
膜の中でも、本発明によるコポリマー(P2)は、血液などの生体液、又は飲料品(例えば果汁、牛乳)などの食品を含む水性媒体との接触が意図される膜の製造に特に適している。
【0123】
構造的観点から、コポリマー(P2)を含む膜は、平坦な構造(例えばフィルム又はシート)、波形構造(例えば波形シート)、管状構造、又は中空繊維の形態で提供することができ;細孔サイズに関する限り、コポリマー(P2)を用いて、又はコポリマー(P1)をコポリマー(P2)へと改質すると同時に、あらゆる種類の膜(精密濾過、限外濾過、ナノ濾過、及び逆浸透用を含めて、非多孔質及び多孔質)を有利に製造することができ;細孔分布は、等方性又は異方性であり得る。
【0124】
コポリマー(P2)を含む成形された物品は、上述したように、フィルムやシートの形態であってもよい。これらの成形物品は、特に、特殊光学フィルム若しくはシートとして有用であり、且つ/又は包装用に適している。
【0125】
更に、コポリマー(P2)を含む成形された物品は、三次元の成形部されたパーツ、特に透明の又は着色されたパーツであることができる。
【0126】
使用される用途の中でも、ヘルスケア用途、特に医療及び歯科用途を挙げることができ、コポリマー(P2)を含む成形された物品は、有利には、単回使用の及び再利用可能な機器及びデバイスにおける金属、ガラス、及び他の従来の材料を置き換えるために使用することができる。
【0127】
コポリマー(P2)の使用
本発明の別の態様は、本明細書に記載の物品(又はその一部)を製造するためのコポリマー(P2)の使用を提供する。
【0128】
この態様は、物品又はその一部を形成する際にコポリマー(P2)を使用することを含み得る。
【0129】
物品の製造方法
本発明の別の態様は、コポリマー(P2)を含む物品(又はその一部)を製造する方法を提供する。そのような方法は、様々な方法で行うことができる。例えば、この方法は、
- 方法(a):物品若しくはその一部を形成する際にコポリマー(P2)を使用すること、又は
- 方法(b):生物活性化合物又はその誘導体とコポリマー(P1)を接触させてコポリマー(P2)を製造すると同時に、物品又はその一部を形成すること、又は
- 方法(c):コポリマー(P1)を含む予備成形された物品又はその一部を生物活性化合物又はその誘導体と接触させてコポリマー(P2)を製造すること、
のうちのいずれか1つを行うことを含むことができ、
方法(b)又は方法(c)におけるコポリマー(P1)は、本明細書に記載の式(M)の繰り返し単位(RP1)及び式(N)の繰り返し単位(R*P1)を含む。
【0130】
いくつかの実施形態では、物品が膜又はその一部である場合、方法は、好ましくは、膜又はその一部を形成するために液相(例えば析出浴)中で起こる相転換を含む。
【0131】
方法(b)又は方法(c)における接触工程は、生物活性化合物をコポリマー(P1)に結合させてコポリマー(P2)を製造するために、酸性水性溶媒中で、好ましくは3~6、又は4.2~5、又は4.4~4.8のpHの酸性水性溶媒中で、任意選択的にはカップリング剤の存在下で行うことができる。
【0132】
方法(a)のいくつかの実施形態では、物品は、コポリマー(P2)を含む溶液から形成することができる。
【0133】
いくつかの実施形態では、方法(b)はin-situ法と呼ばれることがあり、一方で方法(c)はex-situ法と呼ばれることがある。
【0134】
方法(b)のいくつかの実施形態では、生物活性化合物がコポリマー(P1)、特にコポリマー(P1)のアミン側鎖及び任意選択的なアミン末端基とイオン結合及び/又は共有結合してin-situでコポリマー(P2)が形成されるように物品が形成されるのと同時に、酸性水性溶媒中で、コポリマー(P1)、生物活性化合物(又はその誘導体)、及び任意選択的にはカップリング剤を使用して、in-situでコポリマー(P2)が製造されるように物品を製造することができる。
【0135】
方法(c)のいくつかの実施形態では、物品(又はその一部)は、最初にコポリマー(P1)を使用して予備成形することができ、ある形状に予備成形された後、予備成形された物品は、コポリマー(P2)を、特に物品の表面上でex-situで形成するために、生物活性化合物をコポリマー(P1)に、特にコポリマー(P1)のアミン側鎖及び任意選択的なアミン末端にイオン結合及び/又は共有結合させるように、酸性水性溶媒中で、生物活性化合物又はその誘導体及び任意選択的なカップリング剤と接触させられる。
【0136】
コポリマー(P2)を含む物品(又はその一部)を製造する方法の更に別の実施形態では、1種以上の生物活性化合物の固定化は、方法(d)の2つの(連続した)工程で行うことができる:
1/物品の形成前又は形成中に、少なくとも1つの(第1の)生物活性化合物をコポリマー(P1)上に固定化して、コポリマー(P2)を製造すること;及び
2/少なくとも(第2の)生物活性化合物(工程1/で使用した生物活性化合物と同じ又は異なるもの)を、物品中に既に存在するコポリマー(P2)上に固定化して、コポリマー(P2’)を形成すること。
【0137】
好ましくは、少なくとも同じ生物活性化合物が、これらの2つの固定化工程1/及び2/で使用される。
【0138】
コポリマー(P2)と(P2’)の違いは、コポリマー構造に結合している生物活性化合物の量と、コポリマー構造に残存するアミン基の量である。
【0139】
好ましくは、ある程度の「未結合」又は「遊離」アミン基が保持され、それらがその後固定化工程2/で使用される(第2の)生物活性化合物の結合部位として機能できるように、方法(d)における固定化工程1/は、コポリマー(P1)の(側鎖及び/又は末端基の)アミン基のモル量に対して化学量論量未満の(第1の)生物活性化合物を用いて行われる。
【0140】
方法(d)のいくつかの例では、固定化工程1/は、(第1の)生物活性化合物とイオン結合するように行われ得る一方で、固定化工程2/は、工程1/で使用した生物活性化合物と同じであるか、又は異なる(第2の)生物活性化合物と共有結合するように行うことができ、或いはその逆である。
【0141】
方法(d)の更に別の例では、固定化工程1/は、(第1の)生物活性化合物をコポリマー(P1)上に共有結合させてコポリマー(P2)を製造するために、カップリング剤を用いて物品を形成する前に又は形成中に行うことができる一方で、固定化工程2/は、物品を形成した後に、コポリマー(P2)上に(第2の)生物活性化合物(固定化工程2/における第1の生物活性化合物と同じであるか又は異なる)をイオン結合させてコポリマー(P2’)を製造するために、カップリング剤なしで行うことができる。
【0142】
膜又はフィルム(物品として)
いくつかの実施形態では、上述した通りに製造された物品は、フィルム若しくは膜、又はそれらの一部とすることができる。
【0143】
物品(好ましくは成形された物品)の特定の実施形態は、コポリマー(P2)を含む膜に関する。膜は、水、食品、又は血液などの生体液を精製するために使用することができる。
【0144】
本発明によれば、膜は、典型的には、平均細孔径及び空隙率(すなわち膜全体における多孔質の割合)によって特徴付けることができる微多孔質膜である。
【0145】
膜は、20~90%の重量空隙率(%)を有することができ、且つ細孔を含み、前記細孔の少なくとも90体積%は、5μm未満の平均細孔径を有する。膜の重量空隙率は、膜の総体積で割った細孔の容積と定義される。
【0146】
厚さ全体にわたって一様な構造を有する膜は、一般に、対称膜として知られており、厚さ全体にわたって細孔が均一に分布していない膜は、一般に、非対称膜として知られている。非対称膜は、薄い選択的な層(厚さ0.1~1μm)と、支持体としての役割を果たし、且つこの膜の分離特性にほとんど影響を及ぼさない高多孔質の厚い層(厚さ100~200μm)とで特徴付けられる。
【0147】
膜は、平らなシートの形態又は管状の形態であり得る。
【0148】
膜は複数のフィルムを使用して形成されてもよい。
【0149】
管状の膜は、その寸法に基づいて、3mm超の直径を有する管状膜;0.5mm~3mmに含まれる直径を有するキャピラリー膜;及び0.5mm未満の直径を有する中空繊維に分類される。キャピラリー膜は、中空繊維とも呼ばれる。
【0150】
中空繊維は、表面積が大きいコンパクトなモジュールが必要とされる用途で特に有利である。
【0151】
本発明による膜は、従来の公知の膜作製方法のいずれかを利用して、例えば溶液キャスティング又は溶液紡糸法によって製造され得る。
【0152】
本発明による膜は、液相で行われる相転換法によって作製することができ、前記方法は、
(i)本明細書に記載のコポリマー(P1)又は(P2)と極性溶媒とを含むポリマー溶液を調製する工程、
(ii)前記ポリマー溶液を処理して膜にする工程、
(iii)前記膜を非溶媒浴に接触させる工程、
を含む。
【0153】
本明細書に記載の物品の製造方法の様々な実施形態(例えば方法(a)、(b)、(c)、(d))は、フィルム又は膜の製造に同様に適用可能である。
【0154】
特定の実施形態では、フィルム又は膜は、最初にコポリマー(P1)を使用して製造することができ、予備成形された後、コポリマー(P1)を含む予備成形されたフィルム又は膜は、コポリマー(P2)を、膜又はフィルム上に、特に膜又はフィルムの(内側及び外側の)表面上に、ex-situで形成するために、生物活性化合物をコポリマー(P1)に、特にコポリマー(P1)のアミン側鎖及び任意選択的なアミン末端にイオン結合及び/又は共有結合させるように、酸性水性溶媒中で、生物活性化合物(又はその誘導体)及び任意選択的なカップリング剤と接触させられる。
【0155】
更に別の実施形態では、フィルム又は膜上への1種以上の生物活性化合物の固定化は、物品の形成方法に関連して本明細書に記載の通り、2つの連続する固定化工程で行うことができる。
【0156】
膜又はフィルムは、本明細書に記載のコポリマー(P2)とは異なる少なくとも1種のポリマーを更に含んでいてもよい。例えば、膜又はフィルムは、コポリマー(P1)、別のスルホンポリマー、例えばポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリ(ビフェニルエーテルスルホン)(PPSU)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)、例えばポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、又はPEEKとポリ(ジフェニルエーテルケトン)とのコポリマー(PEEK-PEDEKコポリマー)、ポリラクチド(PLA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び/又はポリエチレングリコール(PEG)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを更に含み得る。
【0157】
いくつかの実施形態では、膜又はフィルムは、コポリマー(P2)とは異なる少なくとも別のスルホンポリマー、例えばコポリマー(P1)、PSU、PES、PPSU、PC、PPO、PEI、PLA、PVP、及び/又はPEGからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを更に含んでいてもよく、前記PEGは好ましくは少なくとも200の分子量を有する。
【0158】
膜又はフィルムは、ポリマーの総重量を基準として、本明細書に記載のコポリマー(P2)を少なくとも1重量%、若しくは少なくとも2重量%、少なくとも3重量%、少なくとも4重量%、少なくとも5重量%、少なくとも6重量%、若しくは少なくとも7重量%、若しくは少なくとも8重量%の量で含むことができ、且つ/又はポリマーの総重量を基準として、本明細書に記載のコポリマー(P2)を50重量%超、例えば55重量%超、60重量%超、65重量%超、70重量%超、75重量%超、80重量%超、85重量%超、90重量%超、92重量超、若しくは95重量%超の量で含むことができる。
【0159】
一実施形態によれば、膜又はフィルムは、コポリマー(P2)と、任意選択的なコポリマー(P2)とは異なる別のスルホンポリマー、例えば本明細書に記載のコポリマー(P1)、PSU、PES、PPSUを、ポリマーの総重量を基準として1~99重量%%、例えば2~98重量%、3~97重量%、又は4~96重量%の範囲の量で含むことができる。
【0160】
膜又はフィルムは、溶剤、充填剤、滑沢剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、防曇剤、つや消し剤、顔料、染料、及び蛍光増白剤などの少なくとも1種の非ポリマー系成分も更に含み得る。
【0161】
ポリアリールエーテルスルホンポリマーから膜を形成する方法の適切な例は、米国特許出願公開第2019/054429A1号明細書(Solvay Specialty Polymers USA)に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0162】
膜を作製するためのポリマー溶液(SP)
本発明の別の態様は、極性有機溶媒[溶媒(SSP)]中にコポリマー(P1)又は(P2)を含む、膜を作製するためのポリマー溶液/スラリー(SP)に関する。
【0163】
ポリマー溶液/スラリー(SP)は、好ましくはポリマー溶液である。
【0164】
SPは、本明細書に記載のコポリマー(P1)又は(P2)とは異なる少なくとも1種の追加のポリマー、例えば別のスルホンポリマー、例えばPSU、PES、PPSU、PPS;PAEK、例えばPEEK、PEKK、PEK、又はPEEK-PEDEKコポリマー;PPO;PLA;PEI;PC;PVP;及び/又はPEGを更に含み得る。
【0165】
SPは、特に、細孔形成剤として少なくとも200の分子量を有するPVP及び/又はPEGを含み得る。
【0166】
SP中のコポリマー(P1)及び/又はコポリマー(P2)及び任意選択的な追加のポリマーの総濃度は、SPの総重量を基準として少なくとも8重量%、若しくは好ましくは少なくとも10重量%とすることができ、且つ/又はSPの総重量を基準として最大70重量%;若しくは最大60重量%;若しくは最大50重量%;若しくは最大40重量%;若しくは最大30重量%である。SPの総重量を基準として10~25重量%、より好ましくは10~22重量%の範囲であるSP中のポリマーの総濃度が特に有利である。
【0167】
SP中の溶媒(SSP)の濃度は、SPの総重量を基準として少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%とすることができ、且つ/又はSPの総重量を基準として最大70重量%;好ましくは最大65重量%;より好ましくは最大60重量%である。
【0168】
SP中の溶媒(SSP)は、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルホン(DMSO2)、ジフェニルスルホン、ジエチルスルホキシド、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド(一般にテトラメチレンスルホン又はスルホランと呼ばれる)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-ブチルピロリジノン(NBP)、N-エチルピロリドン(NEP)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N’-ジメチルプロピレン尿素(DMPU)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロチオフェン-1-モノオキシド、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。好ましくは、SP中の溶媒(SSP)は、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)であり、膜又はフィルムの製造に特に適している。
【0169】
SP中で単独で又は組み合わせて使用され得る例示的な溶媒(SSP)は、米国特許出願公開第2019/054429A1号明細書(Solvay Specialty Polymers Italy)(特に段落[0057]~[0129]に記載されている溶媒)及び国際公開第2019/048652号パンフレット(Solvay Specialty Polymers USA)に記載されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0170】
SPは、造核剤及び充填剤などの追加の成分を含有し得る。
【0171】
生体液の浄化方法
本発明の更なる態様は、本明細書に記載のコポリマー(P2)を含む膜又はフィルムを通す濾過工程を少なくとも含む浄化方法を対象とすることができる。
【0172】
好ましくは、浄化方法は、体外回路で実行されるヒト生体液、好ましくは血液産物(全血、血漿、分画血液成分又はこれらの混合物など)を浄化するための方法である。方法を実行するための体外回路は、上述した少なくとも1つの膜を又はフィルムを含む少なくとも1つの濾過装置(又はフィルタ)を含む。
【0173】
本明細書で意図されるように、体外回路を通した血液浄化方法は、拡散による血液透析(FD)、血液濾過(HF)、血液濾過透析(HDF)及び血液濃縮を含む。HFでは、血液は、限外濾過によって濾過されるが、HDFでは、血液は、FDとHFとの組み合わせによって濾過される。
【0174】
体外回路を通した血液浄化方法は、典型的には、血液透析器(すなわちFD、HF又はHFDのいずれか1つを実行するように設計されている機器)によって実行される。そのような方法では、血液は、尿素、カリウム、クレアチニン及び尿酸のような廃棄溶質及び廃棄液から濾過され、それにより廃棄溶質及び廃棄液を含まない血液が得られる。
【0175】
典型的には、血液浄化方法を実行するための血液透析器は、膜の中空繊維の円筒状束を含み、前記束は、両端を有し、これらは、それぞれいわゆるポッティングコンパウンドに固定されており、ポッティングコンパウンドは、通常、束の末端を一体に保持する接着剤としての役割を果たす高分子材料である。ポッティングコンパウンドは、当技術分野で公知であり、これらとしては、特にポリウレタンが挙げられる。圧力勾配を適用することにより、血液は、血液ポートを介して膜の束を通してポンプ送液され、濾過生成物(「透析液」)は、フィルタの周囲の空間を通してポンプ送液される。
【実施例】
【0176】
ここで、以下の実施例を参照しながら本発明をより詳細に説明するが、その目的は例示にすぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0177】
原材料
Solvay Speciality Polymersから入手可能なDCDPS(4,4’-ジクロロジフェニルスルホン)
Covestro,U.S.Aから入手可能なBPA(ビスフェノールA)
Nicca Chemical companyから入手可能なBPS(ビスフェノールS)
Sigma-Aldrich,U.S.Aから入手可能なdaBPA(2,2’-ジアリルビスフェノール)
Armand productsから入手可能なK2CO3(炭酸カリウム)
Solvay SA,Franceから入手可能なNaHCO3(重炭酸ナトリウム)
Sigma-Aldrich,U.S.Aから入手可能なNMP(2-メチルピロリドン)
Sigma-Aldrich,U.S.Aから入手可能なシステアミン塩酸塩
Sigma-Aldrich,U.S.Aから入手可能な3-アミノフェノール
Miller-Stephenson Chemical Co.,Inc.から入手可能なADVN(2,2’-アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル))。
BOC sciences,U.S.Aから入手可能なヘパリンナトリウム
Sigma-Aldrich,U.S.Aから入手可能なEDC(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩)
Sigma-Aldrich,U.S.Aから入手可能なNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)
Sigma-Aldrich,U.S.Aから入手可能なクエン酸
Sigma-Aldrich,U.S.Aから入手可能なNaHPO4
Sigma-Aldrich,U.S.Aから入手可能なトルイデン(Toluidene)ブルー
【0178】
試験方法
GPC-分子量(Mn、Mw)
分子量(Mn、Mw)は、塩化メチレンを移動相として使用するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。Agilent Technologies製のガードカラム付きの2本の5μ混合Dカラムを分離のために使用した。クロマトグラムを得るために254nmの紫外線検出器を用いた。1.5ml/分の流量及び移動相中の0.2w/v%溶液の20μLの注入量を選択した。較正は、12の狭い分子量のポリスチレン標準(ピーク分子量範囲:371,000~580g/モル)を用いて行った。
【0179】
熱重量分析(TGA)
TGA実験は、TA Instrument TGA Q500を用いて実施した。TGA測定値は、窒素下で20℃から800℃まで10℃/分の加熱速度でサンプルを加熱することによって得た。
【0180】
1H NMR
1H NMRスペクトルは、重水素化溶媒としてTCE又はDMSOを用いて、400MHz Bruker分光計で測定した。全てのスペクトルは、溶媒中の残存プロトンを基準とする。
【0181】
DSC
存在する場合、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)を測定するためにDSCを用いた。DSC実験は、TA Instrument Q100を用いて実施した。DSC曲線は、20℃/分の加熱及び冷却速度で25℃~320℃でサンプルを加熱し、冷却し、再加熱し、且つ次いで再冷却することによって記録した。全てのDSC測定値は、窒素パージ下で取った。報告されるTg及びTm値は、特に明記しない限り、2回目の加熱曲線を使用して規定した。
【0182】
アミン含有量の推定
撹拌しながら0.2~0.3gのポリマーのサンプルを55mLの塩化メチレンに溶解した。15mLの氷酢酸を添加した。次いで、Metrohm Solvotrode電極を備えたMetrohm Titrando 809 Titratorを使用して、酢酸中の0.1N過塩素酸を用いてサンプルを電位差滴定した。過塩素酸滴定液はサンプル中の塩基性基と反応し、全ての塩基が中和されると電位曲線の終点を生成する。サンプルを試験する前に、2つのブランクと1つの対照サンプルを試験した。各サンプルについて2回同じ試験を行った。結果は、100μeq/gを超える塩基濃度の値については5%以内、100μeq/g未満の値については10μeq/g以内で2回の分析が一致した後にのみ報告された。
【0183】
塩基濃度の計算:
[サンプル塩基、μeq/g]=(N過塩素酸)×(V過塩素酸-Vブランク)×1000/Wサンプル
・N過塩素酸=過塩素酸のモル数(N)
・V過塩素酸=過塩素酸の体積(mL)
・Vブランク=ブランクの体積(mL)
・Wサンプル=サンプルの重量(g)
【0184】
ブランク値は、試料滴定終点電位と同じmV電極電位を達成するために必要な滴定剤の量から決定した。
【0185】
実施例1
I.アリル/ビニレン変性PSUコポリマー(P0-A)の調製
アリル/ビニレン変性PSUコポリマー(P0-A)は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2020/187684A1号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS USA)に記載のスキーム1に従って調製した。
【0186】
共重合は、オーバーヘッドスターラーと、窒素導入口と、オーバーヘッド蒸留装置とを備えたガラス製反応器(2L)中で行った。モノマー:4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(201.01g)、ビスフェノールA(145.42)、及び2,2’-ジアリルビスフェノールA(19.9g)を最初に容器に添加し、続いて炭酸カリウム(105.45g)及びNMP(464g)を添加した。得られた反応混合物を、1℃/分の昇温を用いて室温から190℃まで加熱した。加熱を停止することによって反応を終わらせた。反応混合物を濾過し、メタノール中で凝固させ、110℃で乾燥した。
【0187】
コポリマーはラセミ体生成物の形態であった。重合中の塩基の存在及び高温のため、2,2’-ジアリルビスフェノールモノマーは、二重結合の位置が側鎖に沿って変化するように重合中にラセミ化した。これにより、国際公開第2020/187684A1号パンフレットに記載のスキーム1で示されたように、二重結合が側鎖の末端にあるか、又は側鎖の末端の1つ前の炭素にある場合があるという事実によって互いに異なる分子が形成された。
【0188】
アリル/ビニレン-変性PSUコポリマー(P0-A)の特性評価
GPC:Mn=29321g/mol、Mw=144711g/mol、PDI=4.94
【0189】
1H NMR:不飽和基の存在は、ポリマー中の2,2’-ジアリルBPAモノマーの組み込みを示す6.1~6.4ppmの多重項の出現によって確認された。
【0190】
II.アミン-官能化PSUコポリマー(P1-A)の調製
アミン官能化PSUコポリマー(P1-A)は、反応混合物が(AIBNの代わりに)ADVNを含み、反応がNMP中で(70℃ではなく)50℃で行われた以外は国際公開第2020/187684A1号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS USA)(参照により本明細書に組み込まれる)に記載のスキーム7に従って調製した。
【0191】
アミン官能化は、オーバーヘッドスターラーと窒素導入口とを備えたガラス製反応器(1L)中で行った。アリル/ビニレン変性PSUコポリマー(P0-A)(122.3g)、システアミン塩酸塩(56g)を室温でNMP(877g)に溶解した。反応混合物をN2で少なくとも45分間パージし、次いで反応を50℃まで加熱し、ADVN(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(12.35g)を添加した。反応を12時間進行させた後、加熱を停止した。次いで、反応混合物を、50gのK2CO3が添加された3,000mLの水の中で凝固させた。その後、凝固したポリマーを水(3,000mL)で洗浄し、メタノール(3,000mL)で2回洗浄し、その後110℃で乾燥した。
【0192】
アミン官能化PSUコポリマー(P1-A)の特性評価
GPC:Mn=7368g/mol、Mw=30406g/mol、PDI=4.13
アミン基:381ueq/g
【0193】
1H NMR:不飽和基の変換は、ポリマーへの側鎖アミノ基の組み込みを示す6.1~6.4ppmの多重項の消失によって確認された。
【0194】
IV.ヘパリン官能化PSUコポリマー(P2-A)の調製
ヘパリン官能化PSUコポリマー(P2-A)は、
図1に示されているスキームに従って調製することができる。このスキームでは、PSUコポリマー(P1)は、式(M1)の繰り返し単位(R
P1)及び式(N)の繰り返し単位(R*
P1)で示され、
G
N=G
N6(k=0、j=2)であり、R
3=-(CH
2)
2-NH
2である。
【0195】
実施例2
V.アリル/ビニレン変性PESコポリマー(P0-B)の調製
アリル/ビニレン変性PESコポリマー(P0-B)は、反応を(190℃ではなく)210℃で、(NMPではなく)スルホラン中で行ったことを除いて、国際公開第2020/187684A1号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS USA)に記載のスキーム3に従って調製した。
【0196】
共重合は、オーバーヘッドスターラーと、窒素導入口と、オーバーヘッド蒸留装置とを備えたガラス製反応器(2L)中で行った。モノマー:4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(145g)、ビスフェノールS(113.8g)、及び2,2’-ジアリルビスフェノール(13.87g)を最初に容器に入れ、続いて炭酸カリウム(71.17g)及びスルホラン(431g)を添加した。反応混合物を、1℃/分の昇温を用いて室温から210℃まで加熱した。加熱を停止することによって反応を終わらせた。反応混合物を濾過し、メタノール中で凝固させ、110℃で乾燥した。
【0197】
コポリマーはラセミ体生成物の形態であった。重合中の塩基の存在及び高温のため、2,2’-ジアリルビスフェノールモノマーは、二重結合の位置が側鎖に沿って変化するように重合中にラセミ化した。これにより、スキーム3のように、二重結合が側鎖の末端にあるか、又は側鎖の末端の1つ前の炭素にある場合があるという事実によって互いに異なる分子が形成された。
【0198】
アリル/ビニレン-変性PESコポリマー(P0-B)の特性評価
GPC:Mn=19720g/mol;Mw=60788g/mol;PDI=3.08
DSC:135℃
TGA:430℃
【0199】
1H NMR:不飽和基の存在は、ポリマー中の2,2’-ジアリルBPAモノマーの組み込みを示す6.1~6.4ppmの多重項の出現によって確認された。
【0200】
VI.アミン官能化PESコポリマー(P1-B)の調製
アミン官能化PSUコポリマー(P1-B)は、反応混合物が(AIBNではなく)ADVNを含んでおり、反応をNMP中で(70℃ではなく)50℃で行ったことを除いて、国際公開第2020/187684A1号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS USA)に記載のスキーム7に従って、アリル/ビニル変性PESコポリマー(P0-B)から調製した。
【0201】
アミン官能化は、オーバーヘッドスターラーと窒素導入口とを備えたガラス製反応器(1L)中で行った。アリル/ビニレン変性PESコポリマー(P0-B)反応溶液(200g)とシステアミン塩酸塩(6.64g)をN2で少なくとも45分間パージし、次いで反応物を50℃に加熱し、ADVN(4.81g)を添加した。反応を12時間進行させた後、加熱を停止した。次いで、反応混合物を、50gのK2CO3が添加された3,000mLの水の中で凝固させた。その後、凝固したポリマーを水(3000mL)で洗浄し、メタノール(3,000mL)で2回洗浄し、その後110℃で乾燥した。
【0202】
アミン官能化PESコポリマー(P1-B)の特性評価
GPC:Mn=3876g/mol;Mw=11855g/mol;PDI=3.06
アミン基:381ueq/g
【0203】
VII.ヘパリン官能化PESコポリマー(P2-B)の調製
ヘパリン官能化PESコポリマー(P2-B)は、
図1に示されるスキームと同様に、アミン官能化PSUコポリマー(P1-B)から調製することができる。
【0204】
実施例3
in-situ法(b)による膜のキャスティング/ヘパリン化
ヘパリン官能化PSUコポリマーを含む一連の膜は、相転換プロトコルを使用するいわゆるin-situ「方法(b)」により、ヘパリンナトリウム塩の存在下でアミン官能化PSUコポリマー(P1-A)のサンプルからキャストした。
【0205】
ヘパリン含有溶液の調製
ヘパリン含有溶液を調製した。これには以下のものが含まれていた:
- N,Nジメチルアセトアミド(DMAc);
- Na2HPO4とクエン酸とを含むpH4.6の緩衝原液;
- ヘパリン塩原液(299.55gの脱イオン水中に0.45gのヘパリンナトリウム塩を含有);
- 水;
- 任意選択的な、カップリング剤原液(299.82gの水中に0.09gのEDCと0.09gのNHSとを含有)。
【0206】
相転換プロトコルの条件を表1に示す。
【0207】
【0208】
ヘパリン塩をアミン官能化PSUコポリマー(P1-A)に共有結合させるために、原液の形態のカップリング剤(EDC+NHS)を使用したが、イオン結合についてはカップリング剤を省略した。
【0209】
緩衝液、ヘパリン塩、及びカップリング剤の原液を使用することにより、緩衝液、ヘパリン、及びカップリング剤の含有量の影響を容易に調べることができた。緩衝液、ヘパリン、及びカップリング剤の量(重量)を変えることができ、またその後、作製した膜の全てについて一定の析出浴体積を達成するために水の量を調整することができた。
【0210】
ポリマードープ溶液
実施例1で示した手順に従って製造したアミン官能化PSUコポリマー(P1-A)を基質として使用して、イオン結合又は共有結合のいずれかによってヘパリンを結合させた。
【0211】
ポリマー溶液(DMAc中10%w/wのPSUコポリマー(P1-A))を、膜をキャストする前に2.7ミクロンのガラス繊維フィルタを通して濾過した。濾液は透明で明るい溶液であり、微粒子による汚染を示すものはないはずである。濾液は、元のポリマー溶液と同様に着色している場合がある。
【0212】
析出浴
新しい析出浴(脱イオン水中の5%w/wDMAc(最終濃度))を各膜の形成に使用した。
【0213】
ドープ溶液のキャスティング
ガラス板(10インチ×6インチ×1/4インチ)を備えた6ミルのドローバーを使用して、室温で手作業で膜をキャストした。ガラス板を脱イオン水中に保管し、フィルムをキャストする前に生乾きの状態にした。典型的には、約3g(目標範囲:2.75~3.25g)のドープポリマー溶液をキャストした。これにより、ポリマー溶液の使用率が90%を超えた。すなわち、ポリマー溶液の90%超が膜の形態になり、残りは無駄になった(ドローバーに付着した)。
【0214】
多孔質膜の形成及び洗浄
キャスト膜の浸漬から1~2時間以内に、析出浴(析出媒体としての脱イオン水中5%w/wのDMAc500g)を調製した。清浄なポリプロピレン製の保管ボックス(公称1ガロンの容積、13インチ×8インチ×5インチ)を析出浴容器として使用した。
【0215】
キャストドープポリマー溶液(3g)が表面(キャストフィルム)上に広げられたガラスプレートを、ガラス板をできるだけ浅い角度で析出浴の中に注意深く滑らせることにより、ヘパリンが入っている500gの析出浴(表1を参照)に直ちに浸漬した。
【0216】
キャスト膜は、典型的には析出浴中に1時間保持した。約5分程度の短い浸漬時間では、ヘパリンの有意な結合は得られなかった。実施例6に示されているように、適切な浸漬時間は、析出浴への初期ヘパリン添加量に応じて変化した。浸漬時間は10~60分間、又は10分~30分、又は30分~60分の範囲で変化し得る。
【0217】
1時間浸漬した後、ガラス板と膜を析出浴から取り出した。次いで、膜を脱イオン水の穏やかな流れの下で1分間洗浄した。その後、膜を1kgの真水浴に1時間浸漬した。1時間後、膜を脱イオン水の穏やかな流れで1分間洗浄し、次いで周囲温度で風乾した。
【0218】
実施例4
イオン結合又は共有結合によるアミン官能化コポリマー(P1)へのヘパリンの結合の比較(トルイジンブルー染色試験を使用)
ヘパリンの固定化は、in-situ「方法(b)」により多孔質膜の形成中に行った。ヘパリンナトリウム塩を、カップリング剤(EDC及びNHSを含有)あり又はなしで、pH4.6の酸性水中でアミン官能化PSUコポリマー(P1-A)と接触させて、膜を形成しながらイオン結合又は共有結合したヘパリンを有するコポリマー(P2-A)を形成した。
【0219】
アミン官能化PSUコポリマー(P1-A)は、3つのモノマー:DCDPS、daBPA、及びBPA(実施例1に記載)を用いて形成されたアリル/ビニレン変性PSUコポリマー(P0-A)に由来し、daBPAのモル数はDCDPSのモル数の9モル%であり、BPAのモル数はDCDPSのモル数の91モル%であった。
【0220】
析出浴(カップリング剤なし)中でアミン官能化PSUコポリマー(P1-A)を4つの異なる添加量のヘパリン塩と接触させてイオン結合したヘパリンPSUコポリマー(P2-A)を得ることにより、4つの膜をin-situ法(b)により形成した。
【0221】
他の4つの膜は、共有結合したヘパリンPSUコポリマー(P2-A)を得るために、析出浴(カップリング剤としてEDCとNHSを使用)中で4つの異なるヘパリン塩添加量でin-situ法(b)により形成した。
【0222】
コポリマー(P2)へのヘパリン固定化の測定方法
乾燥膜の染色
膜が付いたガラス板を、又は膜が剥がれている場合には膜を、約100gのトルイジンブルー溶液に1分間浸漬した。膜がガラス板から剥がれた場合、膜側に関し、どちらの面が膜のガラス面であり、どちらの面が膜のいわゆる空気面であるかに注意深く気を配らなければならない。浅いトレイを使用する場合は、トレイを軽く揺すって、トルイジン溶液が膜表面上で確実に移動するようにする必要がある。その後、膜を脱イオン水の穏やかな流れの下で1分間洗浄し、次いで周囲温度で風乾した。
【0223】
膜の青色の染色は、ヘパリンの存在を示す。ヘパリン化され、それによってヘパリン官能化コポリマー(P2)を含み、ガラス板から剥がされたPSU膜では、膜の空気面のみが染色されたこと、すなわち膜のガラス面にヘパリンが結合していないことが観察された。
【0224】
乾燥膜上のヘパリン結合の測定
膜表面上のヘパリンのレベルを評価する技術は、平坦なシート膜などの固体サンプルのトルイジンブルーの取り込み(染色)を測定することによって、膜表面に存在するヘパリンの含有量を測定する。
【0225】
膜表面のデジタル画像を作成し、その画像を切り取って、染色された膜の代表的な領域を分離することができる。その後、画像を色分解によって分析する。色分解は、画像内の色を分離するプロセスである。このプロセスは、k-meansクラスタリングアルゴリズムにより行うことができる。k-meansクラスタリングは、「n」個のデータポイントを「k」個のクラスター(互いに素なサブセット)に分割することを目的としており、各データポイントは、クラスターのプロトタイプとして機能する、最も近い平均を持つクラスターに属する。「k」は、単に最終出力に望まれるクラスターの数を指す。「データポイント」は色であり、距離関数は2つの色が「どの程度異なるか」のある尺度である。k-meansクラスタリングアルゴリズムは、これらの色を指定された数のセットにまとめてから、各セットの平均色を計算する。例えば、トゥルーカラー画像とも呼ばれることがあるRGB画像は、個々のピクセル(データポイント)ごとに赤、緑、及び青の色成分を定義するm×n×3のデータ配列として保存される。オンライン色分解ツールは、http://mkweb.bcgsc.ca/colorsummarizer/及びhttps://www.dcode.fr/image-pixel-readerで見ることができる。
【0226】
k-meansクラスタリングアルゴリズムによるこの色分離は、例えばヘパリン結合に関連する青色の染色を決定するのに有用なb*色値を平均として提供する表形式のデータを生成する。すなわち、分析ではヘパリンの存在量が多いほど、より多くのトルイジンブルーが錯体化し、その結果、より青色の染色が得られる。この技術は、膜上の実際のヘパリン担持量の定量的な評価を提供しないと考えられ得るものの、ヘパリン化された異なるPSU膜を形成する際の様々なヘパリン担持量の相対的な比較を可能にする。
【0227】
結果
トルイジンブルー染色の強度(-b*値)は、析出浴中のヘパリン添加量の相対量(例えば1、0.5、0.2、及び0.1)に関し、形成された膜のそれぞれについて報告されており、イオン結合したヘパリンPSUコポリマー(P2)を有する膜については
図2aに、共有結合したヘパリンPSUコポリマー(P2)を有する膜については
図2bに報告されている。この例では、1500ppmの最も高いヘパリン添加量を相対量1で表し、150ppmの最も低いヘパリン添加量を相対量0.1で表している。結合したヘパリンの相対量(ヘパリン-トルイジン複合体のb*値によって測定)は、析出浴中のヘパリンの相対量の関数であったことに留意すべきである。
【0228】
トルイジンブルー染色プロトコルに基づくと、アミン官能化PSUコポリマー(P1)へのヘパリンのイオン結合により、共有結合と比較して析出浴中でヘパリンがより効率的に使用された。
【0229】
また、アミン官能化PSUコポリマー(P1)中のアミン側鎖の所定の同じ量の含有量では、共有結合と比較してイオン結合を介してより高いレベルのヘパリン結合が達成された。
【0230】
実施例5
in-situ法(b)において析出浴中でヘパリンを用いる浸漬時間の影響
析出浴内で2つの異なる初期ヘパリン含有量(150ppm、1500ppm)を使用してin-situ法(b)によりヘパリン固定化を実行しながら、様々な膜を形成した。
【0231】
ヘパリンナトリウム塩溶液を、カップリング剤なしで、pH4.6の酸性水中でアミン官能化PSUコポリマー(P1)と接触させて、膜を形成しながらイオン結合したヘパリンを有するコポリマー(P2)を形成した。
【0232】
アミン官能化PSUコポリマー(P1)は、3つのモノマー:DCDPS、daBPA、及びBPA(実施例1に記載)を用いて形成されたアリル/ビニレン変性PSUコポリマー(P0)に由来し、daBPAのモル数はDCDPSのモル数の9モル%であり、BPAのモル数はDCDPSのモル数の91モル%であった。
【0233】
イオン結合したヘパリンPSUコポリマー(P2)から得られた膜のトルイジンブルー染色の強度(b*値)を、
図4の析出浴中での経過時間(60分まで)に対して報告する。
【0234】
析出浴中の初期ヘパリン添加量が高い(1500ppm)場合、効果的なヘパリン結合の時間が10分程度と非常に迅速であることが観察された。
【0235】
他方で、析出浴中の初期ヘパリン添加量が低い(150ppm)と、ヘパリンの結合速度が遅くなるようであり、時間と共に着実に増加し、約30分で横ばいになり始め、
図4の-b*の色値に示されているように、ヘパリン添加量が高い方よりも約2倍高いヘパリン結合レベルに達した。
【0236】
実施例6
ヘパリン固定化PSU膜の血液適合性(aPTT)
5つのヘパリン固定化PSU(P2)膜(サンプル5~9)及び3つのベースラインPSU膜(サンプル2~4)について、血液適合性(aPTT)を測定した。ベースラインのPSU膜試験片は、典型的なPSU(サンプル2)、アリル変性PSU=コポリマーP0-A(サンプル3)、及びアミン官能化PSU=コポリマーP1-A(サンプル4)を使用して製造した。全ての膜サンプルは、水中にDMAcを5%含む析出浴を使用して製造した。サンプル5~8は、いわゆるin-situ法(「方法(b)」)によって製造し、サンプル9は、いわゆるex-situ法(「方法(c)」)によって製造した。ヘパリン固定化PSUサンプル5~7及び9ではヘパリンがイオン結合していた一方で、ヘパリン固定化PSUサンプル8ではカップリング剤(EDS+NHS)を使用してヘパリンが共有結合していた。固定化に使用したヘパリン含有浴は異なるヘパリン初期添加量(サンプル5、8、及び9では1500ppm、サンプル6では500ppm、サンプル7では150ppm)を有していた。
【0237】
血液凝固試験(活性化部分トロンボプラスチン時間「aPTT」の決定)
血液適合性(aPTT)は、血漿の凝固(血栓形成)時間を測定する。典型的には、膜試験片との接触前後のaPTTの差の%が見積もられる。対照サンプルは、試験片と接触していない血液であった。活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)試験は、多孔質の平らなシート膜と接触させた後に行った。
【0238】
試験手順は次の通りであった:
- ヒトの新鮮な全血をクエン酸ナトリウムと共にバイアル(各膜サンプルごとに1つのバイアル)に入れた;
- 接触は、6cm2/mlの表面積/体積比に到達するようにバイアル内の膜を全血で浸漬することによって行い、動的条件(オービタルスターラー)で37℃±1℃の温度で30分間インキュベートした;
- 次いで、この血液を3000Gで20分間遠心分離し、上清血漿を得た;
- この上清血漿でaPTTを測定した。
【0239】
最後に試験血漿をコロイド活性化剤(ケイ酸マグネシウムアルミニウム)と混合し、続いて塩化カルシウム(濃度0.025mol/lの溶液)を添加し、凝固時間を測定した。
【0240】
結果
血液適合性(aPTT)試験の秒単位で表される凝固時間が、対照サンプル1、5つのヘパリン固定化PSU膜(サンプル5~9)、及び3つのベースラインPSU膜(サンプル2~4)について表2に報告されている。トルイジンブルー染色の強度の値も、5つのヘパリン固定化PSU膜(サンプル5~9)について表2に報告されている。対照サンプルは、膜に接触していない血液由来の血漿について測定された凝固時間を意味する。
【0241】
【0242】
ヘパリン固定化PSU膜(サンプル5~9)と対照PSU膜(サンプル2~4)との間には、血液適合性(aPTT)に非常に大きな差があることが観察された。言い換えると、ヘパリンで修飾された膜(サンプル5~9)と接触した血液から抽出された血漿は、ベースラインのPSU膜(サンプル2~4)と接触した血漿と比較して、凝固がはるかに遅かった。また、ヘパリン固定化膜(サンプル5~9)のみが、血漿が膜に接触していない対照サンプル1と比較して、凝固時間の有意な増加を示した。
【0243】
実施例7
ヘパリン固定化PSU(P2)膜の血液適合性(aPTT)とトルイジンブルー染色強度の比較
図3において、イオン結合したヘパリンで修飾されたPSU膜(サンプル5~7)について、血液適合性(aPTT)試験とトルイジンブルー染色試験強度を比較した。
【0244】
図3に示されているように、サンプル5~7は、トルイジンブルーを用いた染色によって決定されたように、減少したレベルの固定化ヘパリンを含んでいた。トルイジンブルー染色試験に対応して、固定化したヘパリンのレベルが増加するのに伴い、血液凝固時間(aPTTによる)が増加した。
【0245】
実施例8
in-situ法(b)又はex-situ法(c)によるアミン官能化コポリマー(P1)へのヘパリンの結合の比較
ヘパリンの固定化は、in-situ法(b)による多孔質膜の形成中に行った。すなわち、ヘパリンナトリウム塩をアミン官能化PSUコポリマー(P1)と接触させて、膜の形成と同時にヘパリンがイオン結合又は共有結合したコポリマー(P2)を形成した。
【0246】
比較のために、ex-situ法(c)により、予め形成されたアミン官能化PSU多孔質膜(洗浄直後)に対してヘパリンの固定化を行った。いくつかの予め形成された多孔質膜を様々な含有量のヘパリンナトリウム塩と接触させ、水浴に1時間浸漬して、イオン結合又は共有結合したヘパリンを有するコポリマー(P2)を形成した。浸漬した多孔質膜を洗浄し、その後風乾した。
【0247】
血液適合性(aPTT)試験とトルイジンブルー染色試験の強度を、in-situヘパリンイオン結合、ex-situヘパリンイオン結合、及びin-situヘパリン共有結合について
図5で比較した。
【0248】
血液適合性試験からは、トルイジンブルー染色試験における同じ-b*色値によって決定された同じヘパリン担持量では、アミン官能化コポリマー(P1)を含む予め形成された膜上にex-situ法(c)によってヘパリンを固定化した場合の方が、結合したヘパリンのaPTTに対する有効性/活性が高いことが示された。いかなる理論によっても制限されるものではないが、ヘパリンがコポリマー(P2)に結合する形式は、膜表面上のヘパリンの立体構造に影響を及ぼし、したがって最終的に血液凝固につながる化学的プロセスのカスケードを引き起こす様々な血液成分と相互作用するヘパリン領域の利用可能性にも影響を及ぼすと考えられる。
【0249】
また、in-situ法(b)では、ヘパリン結合レベルが共有結合と比較してイオン結合で大幅に改善されたことも示された。
【0250】
本発明の好ましい実施形態が示され且つ説明されてきたが、当業者によるその変更は、本発明の趣旨又は教示から逸脱することなく行われ得る。本明細書に記載される実施形態は、単なる例示であり、限定ではない。システム及び方法の多くの変形及び変更が可能であり、それらは本発明の範囲内である。したがって、保護の範囲は、上で説明した記載に限定されず、以下の特許請求の範囲によってのみ限定され、その範囲は、特許請求の範囲の主題の均等物を全て含む。各々及び全ての特許請求の範囲は、本発明の実施形態として本明細書に組み込まれている。したがって、特許請求の範囲は、更なる説明であり、また本発明の好ましい実施形態への追加である。
【国際調査報告】