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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(54)【発明の名称】抗菌活性を有する歯科器具
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/08 20060101AFI20240201BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240201BHJP
   C08K 3/015 20180101ALI20240201BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240201BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20240201BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20240201BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20240201BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20240201BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20240201BHJP
   A61L 27/06 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 6/844 20200101ALI20240201BHJP
【FI】
A61C7/08
C08L101/00
C08K3/015
A61P1/02
A61L27/54
A61L27/16
A61L27/18
A61K6/887
A61K6/891
A61L27/04
A61L27/06
A61K6/844
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548572
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 IB2022051239
(87)【国際公開番号】W WO2022172215
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】2021/5102
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523302522
【氏名又は名称】ジンカ エヌヴェー
【氏名又は名称原語表記】ZINKH NV
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100170597
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】シェーン デ フレース
(72)【発明者】
【氏名】ガイ デ フレース
【テーマコード(参考)】
4C052
4C081
4C089
4J002
【Fターム(参考)】
4C052JJ01
4C052JJ09
4C052LL08
4C081AB06
4C081CA08
4C081CA16
4C081CE02
4C081CG02
4C081CG07
4C089AA02
4C089BA04
4C089BA05
4C089BA06
4C089BA07
4C089BA14
4C089BE02
4J002AA011
4J002BB031
4J002BB061
4J002BB121
4J002BB151
4J002BB181
4J002BC061
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG061
4J002BN121
4J002BN151
4J002BP011
4J002CB001
4J002CF031
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF181
4J002CF191
4J002CK021
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL071
4J002CN031
4J002DE106
4J002EG046
4J002EG066
4J002EV026
4J002FD186
4J002GB01
(57)【要約】
本発明は歯科器具に関する。当該装置は、抗菌活性を有するポリマー組成物で作られる。前記ポリマー組成物は、濃度が0.001%~10%である1つ以上の金属イオン及び/又は金属塩を含む。本発明はまた、細菌性口腔病-たとえば歯肉炎、歯周病、及び口臭-の防止又は処置での当該歯科器具の使用にも関する。最終態様として、本発明はまた、当該歯科器具の製造方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科器具であって、抗菌活性を有するポリマー組成物で作られ、前記ポリマー組成物は、濃度が0.001%~10%である1つ以上の金属イオン及び/又は金属塩を含む、歯科器具。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科器具であって、患者の口腔内で当該器具を使用する際の前記金属イオンの放出濃度は、最大21ppmである、歯科器具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯科器具であって、患者の口腔内で当該器具を使用する際の前記金属イオンの放出濃度は、0~10ppmで、より好ましくは0~5ppm、より好ましくは0~1ppm、より好ましくは0~0.5ppmである、歯科器具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の歯科器具であって、前記金属イオン及び/又は前記金属イオンの塩は、前記ポリマー組成物中に分散又は溶解される、歯科器具。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の歯科器具であって、前記金属イオンは、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Sn(スズ)、Se(セレン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Pb(鉛)、Au(金)、Pt(白金)、又はこれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択される、歯科器具。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の歯科器具であって、前記金属イオンは亜鉛であり、亜鉛は、亜鉛塩、好ましくは亜鉛ピロリドンカルボン酸塩(亜鉛PCA)、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、亜鉛ピロリドン、亜鉛ピリチオン、脂肪酸の亜鉛塩、又はそれらの混合物の形態で前記ポリマー組成物中に存在する、歯科器具。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の歯科器具であって、前記ポリマー組成物は1種以上のポリマーからなり、前記ポリマーは、アクリレート及びメタクリレート(ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)など)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリスルホン(PSU)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-グリコール酸(PLGA)共重合体、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)など)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ポリオレフィン及びポリオレフィンコポリマー(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルブチルアルデヒド(PVB)、ポリブチレン(PB)、ポリイソブチレン(PIB)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)など)、スチレン系熱可塑性プラスチック(ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)(SBS)、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート(ASA)など、及びスチレンアクリロニトリル(SAN))、ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド6,6またはポリアミド12など)、ポリカーボネート(PC)及びポリアセタール(ポリオキシメチレン(POM)など)、シリコーン又はそれらの混合物の群から選択される、歯科器具。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の歯科器具であって、当該歯科器具は、歯列矯正用歯列、スポーツ用マウスガード、歯肉炎用マウスガード、歯列矯正用アライナー、仮歯、被せ物(クラウン)、咬合床、義歯、抗菌パッド、口蓋スプリント、いびき防止装置、ホワイトニングシールド、歯ぎしり用スプリント、コーピング、フッ素シールド、個人用印象採得トレー、ミシガンスプリント、薬物シールド、放射線遮蔽スプリント、咬合スプリント、暫定歯科補綴物、又は同様の装置を含む、歯科器具。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の歯科器具であって、たとえば歯肉炎、歯周病、及び口臭のような細菌性口腔病の予防又は処置に用いられる歯科器具。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の歯科器具を製造する方法であって、1つ以上の金属イオン及び/又は金属塩は、当該歯科器具が射出成形、押出成形、熱成形、圧縮成形、又は3D造形によって形成される前に、ポリマーと混合される、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、a 1つ以上の金属イオン及び/若しくは金属塩を水性溶媒又は有機溶媒に溶解又は分散させるステップと、b 前記金属イオン及び/若しくは金属塩の溶液又は分散液を、重合反応によってポリマーを合成するのに適したモノマーの溶液又は分散相に添加するステップと、c 前記重合反応を行うステップと、d 前記の重合した組成物を射出成形、押出成形、熱成形、圧縮成形、又は3D造形することにより歯科器具を形成するステップ、を有する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、ステップbは、ステップcの前に又はステップcと同時に行われる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌作用を有するポリマー組成物で作られる歯科器具に関する。さらに本発明はまた、細菌性口腔病の予防又は処置でのこの歯科器具の使用にも関する。最終態様では、本発明は当該歯科器具の製造方法に関する。
【従来技術】
【0002】
様々な種類の細菌が口腔内に存在する。これらの細菌は通常、生態系のバランスをとって生存し、ヒトにとって負の効果よりも正の効果を有する。保護機能を有し、消化の促進を容易にする多くの良好な最近に加えて、病原性すなわち病気の原因となる細菌も存在する。それらの細菌は歯のエナメルに付着して歯垢を構成する恐れがある。歯垢が硬化すると、歯石と呼ばれる。バランスが崩れると、これは病原性細菌を過剰にする恐れがある。その結果これは、ひどい呼級(口臭)を進展させるだけではなく、病気-たとえば歯茎の膨張(歯肉炎)、歯の周りの骨の膨張(歯周病)-になる恐れもある。今日成人の約2/3が口腔感染症に悩まされている。このことは、具体的にはそのような人たちの多くが規則的に歯磨きをして定期的に歯医者に診てもらっているから悩ましい。抗生物質は一時的に口腔内の細菌を除去するが時間が経つと(通常は数日で)細菌は結局戻ってくる。実際多くの善玉菌もまた抗生物質によって除去されてしまうので、病原性細菌は邪魔されずに増殖する機会を得てしまう。口腔内のウイルス性病原体は、ヒトの全般的な健康にも有害な影響を有する。
【0003】
従って口腔内の有害な病原体の増殖を防止する代替的解決手段が必要とされる。
【0004】
金属イオン及び/又は金属塩による口腔病原体の制御は既に何度も言及されてきた。たとえは抗菌活性のために金属イオン及び/又は金属塩が加えられた練り歯磨きが現在市場に存在する。
【0005】
抗菌特性を有するポリマーも知られている。そのようなポリマーは、ポリマーと金属イオン又は金属塩を混合することによって得られる。抗菌特性及び防腐特性は、これらの金属からイオンを制御しながら解放することに起因する。
【0006】
たとえば特許文献1は、金属粒子又は有機/無機金属複合体と混合されたポリマー組成物で作られた歯科器具、マウスガード、又は他のマウスピースについて記述している。抗菌活性は、ポリマー組成物から金属を制御して解放することによって得られる。
【0007】
特許文献2もまた、感染症耐性を有する医療装置を作成する方法について述べている。1つ以上のポリマーは抗菌成分-具体的には塩化銀とビグアナイド-が混合されている。この抗菌成分は医療装置から制御しながら解放される。
【0008】
意図した結果が実現される-これは細菌の拡散と戦うこと-としても、金属イオンは時間が経つとポリマーから放出される。その結果毒性を持つ副作用が生じる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7661430号特許公報
【特許文献2】米国特許第5019096号特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した問題の少なくとも一部の解決策を見出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、請求項1に記載の歯科器具に関する。より詳細には本発明は歯科器具を開示している。当該歯科器具は抗菌活性を有するポリマー組成物で作られ、前記ポリマー組成物は、0.001%~10%の濃度の1つ以上の金属イオン及び/又は金属塩を含む。この歯科器具の好適実施形態は請求項2~8に記載されている。
【0012】
0.001%~10%の濃度の1つ以上の金属イオン及び/又は金属塩が当該歯科器具の前記ポリマー組成物に含まれているので、抗菌活性が当該歯科器具に供される一方で、前記ポリマーの機械的特性-たとえば硬度、融点、及び可撓性-は保存される。しかしこの濃度は口腔内での有害な病原体-たとえば細菌及びウイルス-の作用を抑制するのに有効かつその能力を発揮するのに十分だということが分かった。それに加えてこの濃度は、金属の毒性を最小限にするのに十分なほど低い。
【0013】
第2態様では、本発明は、請求項9に記載の使用に関する。より詳細には本発明は、細菌性口腔病-たとえば歯肉炎、歯周病、及び口臭-の予防又は処置における当該歯科器具の使用について記載している。
【0014】
最終態様では、本発明は、請求項10に記載の方法に関する。より詳細には本発明は、当該歯科器具を製造する方法について記載している。1つ以上の金属イオン及び/又は金属塩がポリマーに混合される。前記混合は、混合物を射出成形、押出成形、熱成形、圧縮成形、又は3Dプリントすることによって当該歯科器具が成形される前に行われる。好適実施形態は請求項11,12に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
金属イオン及び/又は金属塩の毒性を持つ副作用が回避されるような抗菌特性を有する歯科器具が必要とされている。本発明はこのための解決策を提供する。
【0016】
他に定義がない限り、技術用語および科学用語を含む本発明の説明で使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。本発明の説明をよりよく理解するために、以下の用語を明示的に説明する。
【0017】
本明細書において、不定冠詞(「ある」、「1つの」など)および定冠詞(「その」、「前記」、「当該」など)は、文脈上そうでない場合を除き、単数形および複数形の両方を指す。例えば、「あるセグメント」は1つ以上のセグメントを意味する。
【0018】
本明細書において、測定可能な量、パラメータ、期間、若しくは瞬間などで用いられる「概ね」又は「約」という用語が使用される場合、そのような変動は、記載された本発明において適用可能である限りにおいて、引用値に対して約20%以下、好ましくは約10%以下、より好ましくは約5%以下、さらに好ましくは約1%以下、さらに好ましくは約0.1%以下の変動を意味する。しかしながら、「約」または「概ね」という用語が使用される場合に使用される量の値は、それ自体が具体的に開示されていることを理解しなければならない。
【0019】
「備える」("comprise")、「からなる」又は「構成される」("consisting of")、「設けられる」("provided with")、「有する」("have")、「含む」("include", "contain")という用語は同義語であり、上記用語の前に記載されている事項の存在を示す包括的すなわち開かれた用語であり、従来技術から公知であるかあるいは従来技術に開示されている他の成分、特性、要素、部材、ステップの存在を排除又は妨げるものではない。
【0020】
本明細書に記載の「抗菌活性」とは、一方では、口腔内の微生物増殖に対するポリマーの抑制効果を意味し、他方では、歯科器具の微生物汚染を防止するポリマーの防腐効果を意味する。
【0021】
本明細書に記載されている「原子吸光分析法(AAS)」とは、元素を定量的に測定する分析技術の総称であり、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)および誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を含む。
【0022】
端点による数値区間の引用は、端点間のすべての整数、分数及び/又は実数を含み、これらの端点も含まれる。
【0023】
細菌はどこにでもあるが、すべての細菌が悪い細菌というわけではない。危険なのは主に特定の病原性細菌であり、特に増殖しすぎて炎症を引き起こす場合である。今日成人の約2/3が口腔感染症に悩まされている。そのことは、具体的にはそのような人たちの多くが規則的に歯磨きをして定期的に歯医者に診てもらっているから悩ましい。細菌の増殖に対抗できる歯科器具があれば、このような細菌の増殖を抑えることができるだろう。抗生物質は一時的に口腔内の細菌を除去するが時間が経つと細菌は結局戻ってくる。実際多くの善玉菌もまた抗生物質によって除去されてしまうので、病原性細菌は邪魔されずに増殖する機会を得てしまう。金属イオン及び/又は対応する金属塩は、例えば、細菌の生存に重要な特定の細菌酵素の阻害(殺菌特性)又は細菌のバイオフィルムの形成の減少(静菌特性)によって、抗菌性を有することができる。
【0024】
歯科器具は口腔内に挿入され、夜間に装着される夜間矯正器具のように、長期間口腔内に存在することもある。
【0025】
第一態様において、本発明は歯科器具に関する。当該器具は抗菌活性を有するポリマー組成物で作られ、前記ポリマー組成物は、0.001%以上10%以下、より好ましくは0.001%以上5%以下、より好ましくは0.001%以上3%以下、より好ましくは0.001%以上2%以下、より好ましくは0.001%以上1%以下、より好ましくは0.001%以上0.5%以下、より好ましくは0.01%以上0.1%以下の濃度で1種以上の金属イオンおよび/または金属塩を含む。
【0026】
プラスチック組成物の抗菌性および防腐性は、これらの金属のイオンの存在によるものである。なぜなら金属イオンは、幅広い静菌性及び殺菌性を含む抗菌活性を示すからである。
【0027】
歯科器具が抗菌活性を有するポリマー組成物からなるため、歯科器具は、一方では口腔内に存在する細菌およびウイルスの量を減少させることができる。プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗菌活性を測定する標準化された方法は、ISO22196に記載されている。さらにポリマー組成物は防腐特性も示し、歯科器具上での微生物の増殖及びバイオフィルムの形成を制限することで、このように口腔内に細菌が侵入するリスクを抑えることができる。容易に変形可能なポリマー組成物(例えば、熱可塑性プラスチック)を使用することにより、歯科器具は、使用者の必要性及び希望に容易に適合させることができる。
【0028】
1種以上の金属イオン及び/又は金属塩が0.001%以上10%以下の濃度で歯科器具のポリマー組成物中に含まれているので、一方では抗菌活性が歯科用器具に付与され、他方ではポリマー組成物の硬度、溶融温度、及び可撓性などの機械的特性が維持される。また金属イオン及び/又は金属塩のこの濃度の毒性は非常に低いので、ポリマー組成物は歯科器具に使用するのに極めて好適となる。
【0029】
本発明では、「歯科器具」という用語は、使用者の口腔内に配置可能で、そこで矯正、予防、及び/又は滅菌機能を果たす任意の装置を意味すると解される。より具体的には、一の実施形態では、当該歯科器具は、歯列矯正用歯列、スポーツ用マウスガード、歯肉炎用マウスガード、歯列矯正用アライナー、仮歯、被せ物(クラウン)、咬合床、義歯、抗菌パッド、口蓋スプリント、いびき防止装置、ホワイトニングシールド、歯ぎしり用スプリント、コーピング、フッ素シールド、個人用印象採得トレー、ミシガンスプリント、薬物シールド、放射線遮蔽スプリント、咬合スプリント、暫定歯科補綴物、又は同様の装置を含む。
【0030】
金属イオン及び/又は金属塩とポリマーとの間の相溶性が不十分な場合、ポリマーは時間の経過とともに金属イオンを放出する。したがって好適実施形態では、金属イオン及び/又は前記金属イオンの塩は、ポリマー中に分散又は溶解される。これは、モノマーの溶液又は分散相への金属イオン及び/又は金属塩の添加を、これらのモノマーの重合反応前または重合反応中に行うことによって実現される。このようにして、金属イオン及び/又は金属塩がプラスチック組成物中に取り込まれ、プラスチックと金属イオン及び/又は金属塩との間の相溶性は、金属イオンの放出濃度が長期間であっても制限されたままであるようなものとなる。
【0031】
またポリマー組成物が、本発明による歯科器具のような機器の製造に使用される場合、ポリマーと金属塩との間の結合は、金属イオンの放出濃度が制限されたままであるようなものとなる。これは、特に口腔のような身体と密に接触する器具にとって重要である。なぜなら、放出される金属イオンの濃度が高すぎると、望ましくない副作用を引き起こす可能性があるからである。これは炎症から慢性中毒にまでまで及び、神経障害などの深刻な状態につながることさえある。
【0032】
一の実施形態では、患者の口腔内で当該器具を使用する際の金属イオンの放出濃度は、最大21ppm(パーツ・パー・ミリオン)より好ましくは0~5ppm、より好ましくは0~1ppm、より好ましくは0~0.5ppmである。このように金属イオンの放出が非常に低いか金属イオンの放出が全くない状態は、「浸出していない」と表現することができる。
【0033】
好適実施形態では、当該器具は、例えば口腔のような水性環境に少なくとも24時間、好ましくは少なくとも36時間曝露されても、そのような値を超えない。
【0034】
金属イオンの放出をこの量に制限することにより、口腔内及び身体の他の部分における金属イオンの濃度が制限される。体内の金属イオン濃度が過度に高くなると、特定の症状を引き起こす可能性がある。例えば、コロイド状の銀又は銀粒子を長期間使用すると、銀中毒又は皮膚壊死を引き起こす可能性がある。多量の銅に慢性的にさらされると、今度は肝硬変、溶血、腎臓、脳、及びその他の臓器の損傷を引き起こし、その結果昏睡、肝細胞の壊死、循環不全、及び死に至ることもある。亜鉛の急性過剰摂取は主に胃腸症状を引き起こす。多量の亜鉛に慢性的にさらされると、体内の細胞代謝及び免疫系に悪影響を及ぼす。さらにこのことは、前立腺がんリスクを高め、味覚に影響を及ぼす恐れがある。
【0035】
口腔内への金属イオン放出が制限されたにもかかわらず、本発明の発明者らは、高分子歯科器具が抗菌活性を示すことを発見した。理論に束縛されることを望まないが、これは、存在する金属イオンが唾液腺の機能に好影響を与え、それによって細菌の増殖に影響を与えること、並びに、細菌及びウイルスなどの病原体がポリマー並びにその近傍の構造物に付着するのを防止する帯電イオン場を形成することに一因があると思われる。病気の存在下で細菌の増殖を止めることで、免疫系は炎症の制御を取り戻し、身体を治癒する機会を得る。
【0036】
起こり得るプラスチックからのイオンの移行は、移行試験など、この目的向けのものとして知られている試験によって定量化することができる。これらは確立された標準条件下で実施される。金属イオン及び/又は金属塩が組み込まれたポリマーは、既知の体積の特定の模擬物質中に浸漬され、ポリマーから模擬物質へのイオンの移行が測定される。このような模擬物質の例としては、水及びBHI(ブレイン・ハート・インフュージョン)培地がある。イオン濃度を測定するのに適した分析技術は、一方では誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)及び誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)のような原子分光分析技術であり、他方ではストリッピングボルタンメトリーのような電気化学分析技術である。XPS(X線光電子分光分析)、XRF(蛍光X線分析)、EDAX(電子分散X線分析)、SIMS(二次イオン質量分析)も、イオン濃度の測定に使用できる。好適実施形態では、ICP-AESが、ポリマーからのイオンの移行の測定に採用される。
【0037】
一の実施形態では、金属イオンは、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Sn(スズ)、Se(セレン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Pb(鉛)、Au(金)、Pt(白金)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0038】
これらの金属イオンは、その抗菌活性及び防腐活性で知られている。好適実施形態では、イオン粒子の大きさは1μm~5μmである。
【0039】
好適実施形態では、金属イオンは亜鉛であり、亜鉛は、亜鉛塩、好ましくはピロリドンカルボン酸亜鉛(PCA亜鉛)、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、ピロリドン亜鉛、ピリチオン亜鉛、脂肪酸の亜鉛塩、又はそれらの混合物の形態でポリマー中に存在する。一の実施形態では、亜鉛は脂肪酸の亜鉛塩の混合物の形態で存在する。
【0040】
亜鉛は必須微量元素である。とりわけ亜鉛は、体内のエネルギー産生、細胞代謝、DNA及びRNAの合成、並びに免疫系の調節に重要な役割を果たしている。さらに亜鉛は抗菌作用があることでも知られている。例えば亜鉛は皮膚の表層に存在し、ウイルスや細菌に対する防御バリアを形成する。近年、数多くの研究により、亜鉛イオンの抗菌及び抗ウイルス作用、特に口腔内の重要な細菌である連鎖球菌及び放線菌などのグラム陽性菌に対する抗菌作用が確認されている。実際、亜鉛イオンは静菌性と殺菌性を有している。このことは亜鉛イオンが、細菌の増殖を抑制し、細菌自体の生存又は細菌のバイオフィルム形成の基礎となる様々な生物学的プロセスを阻害することができることを意味する。
【0041】
一の実施形態において、ポリマー組成物は1種以上のポリマーからなる。前記ポリマーは、アクリレート及びメタクリレート(ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)など)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリスルホン(PSU)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-グリコール酸(PLGA)共重合体、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)など)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ポリオレフィン及びポリオレフィンコポリマー(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルブチルアルデヒド(PVB)、ポリブチレン(PB)、ポリイソブチレン(PIB)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)など)、スチレン系熱可塑性プラスチック(ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)(SBS)、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート(ASA)など、及びスチレンアクリロニトリル(SAN))、ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド6,6またはポリアミド12など)、ポリカーボネート(PC)及びポリアセタール(ポリオキシメチレン(POM)など)、シリコーン又はそれらの混合物の群から選択される。
【0042】
ポリ乳酸-グリコール酸(PLGA)共重合体-例えばデンプン系、糖系、セルロース系、ポリヒドロキシアルカノエート系-は、生分解性があり、環境への影響が少ないという利点がある。
【0043】
好適実施形態において、ポリマー組成物は熱可塑性ポリマーを含む。工業用ポリマーの80%超は熱可塑性プラスチックである。熱可塑性プラスチックは、加熱されると軟化するプラスチック材料である。これは、加熱されても硬いままである熱硬化性材料とは対照的である。熱可塑性プラスチック材料の利点は、様々な用途で再利用できることである。再加熱することで、材料を他の所望の形状に成形することができる。前述したように、本発明の文脈において、熱可塑性プラスチックを使用することで、歯科器具を使用者の希望及び必要性に応じてこのように成形できるのは特に興味深いことである。加熱されると再び変形可能な熱硬化性であるビトリマーも本発明の範囲内である。
【0044】
異なるポリマーを組み合わせて、所望の特性を有するポリマー組成物を得ることができる。
【0045】
既に述べたように、ポリマー組成物中に含まれる金属イオンの濃度により、本発明による歯科器具は抗菌活性を有する。これにより、当該器具は、口腔内に設置された場合、口腔内に存在する細菌の量を減少させることができる。また、その抗菌効果により、当該器具は、例えば開放創を保護し、それにより、この開放創の治癒を促進及び保証ことができる。さらにポリマー組成物中に含まれる金属イオンの濃度は、防腐効果をももたらし、とりわけ歯科器具上での細菌の増殖及びバイオフィルムの形成を制限する。このことは、歯科器具の保守に利点をもたらし、歯科器具の細菌汚染を防止する。これにより、歯科器具上での増殖に起因し得る口腔内での細菌増殖を最小限に抑えることができる。
【0046】
これに関して、第2態様では、本発明は、歯肉炎、歯周病、及び口臭などの細菌性口腔疾患の予防又は治療に使用するための前述の歯科器具に関する。細菌は、口腔内の老廃物、例えば食べかす、死んだ上皮細胞、又は唾液の成分で生存する。人間の代謝と同じように、これは排泄されなければならない最終生成物を生み出す。嫌気性細菌(酸素なしで生きている)は、とりわけ最終産物として硫黄を生成する。そのガスは口臭の原因となることが多い。HSの揮発を直接抑制する効果を有し、それによって口臭の低減に寄与する様々なイオンが文献に記載されている。このような金属イオンが含まれるポリマー組成物で作られる本発明による歯科器具を使用することにより、細菌の増殖を抑制することが可能となり、口臭の発生及び/又は進行に対抗することができる。
【0047】
歯肉炎すなわち歯肉の炎症は、歯肉の発赤及び腫脹を特徴とする。また歯肉は、触れられると簡単に出血する。歯肉炎は、歯の周りに歯垢及び歯石がたまることで起こる。歯石は非常に粗い表面を有しているため、細菌は、歯の表面よりも容易に歯石に付着できる。炎症が歯肉以外の組織にも及ぶ場合は、歯周炎と呼ばれる。これにより骨のレベルが下がり、深くなった歯周ポケット(これは歯と歯茎の間の隙間である)ができる。これらの歯周ポケットでは、嫌気性細菌が邪魔されずに増殖する機会がある。炎症は、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ユーバクテリウム(Eubacterium)など、いくつかの細菌によって引き起こされる。歯肉炎及び歯周炎は、歯科医師による歯垢及び歯石の除去だけでなく、口腔内の細菌増殖を除去することによって治癒することができる。本発明による歯科器具を使用することにより、細菌の増殖を抑えることが可能となり、歯肉炎及び歯周炎の発症並びに/又は進行に対抗することができる。
【0048】
最終態様において、本発明は、前述の歯科器具を製造する方法に関する。当該方法では、当該歯科器具が射出成形、押出成形、熱成形、圧縮成形、又は3D造形によって形成される前に、1つ以上の金属イオン及び/又は金属塩がポリマーと混合される。
【0049】
一の実施形態では、金属イオン及び/又は金属塩の活性混合物は、調合によってポリマー組成物に混合される。「調合」(Compounding)とは、溶融状態のポリマーと添加剤を混合/調製することによって、プラスチック及び/又は合成繊維を製造するための配合物を生成することである。
【0050】
代替実施形態において、当該方法は、
1つ以上の金属イオン若しくは金属塩を水性溶媒又は有機溶媒に溶解又は分散させるステップと、
得られた金属イオン及び/若しくは金属塩の溶液又は分散液を、重合反応によってポリマーを合成するのに適したモノマーの溶液又は分散相に添加するステップと、
重合反応を行うステップと、
重合した組成物を射出成形、押出成形、熱成形、圧縮成形、又は3D造形することにより歯科器具を形成するステップを有する。
【0051】
一の実施形態では、金属イオン及び/若しくは金属塩の溶液又は分散液をモノマーの溶液又は分散相に添加した後、モノマーの重合からポリマーが得られるまで全体が撹拌される。
【0052】
一の実施形態では、金属イオンは、(カルボキシル)脂肪酸による有機金属塩の混合物の形態で存在する。
【0053】
一の実施形態において、金属イオンは、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Sn(スズ)、Se(セレン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Pb(鉛)、Au(金)、またはPt(白金)からなる群から選択される。好適実施形態では、金属イオンは亜鉛であり、亜鉛は、亜鉛塩、好ましくは亜鉛ピロリドンカルボン酸塩(亜鉛PCA)、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、亜鉛ピロリドン、亜鉛ピリチオン、脂肪酸の亜鉛塩、又はそれらの混合物の形態でポリマー中に存在する。
【0054】
一の実施形態において、ポリマー組成物は1種以上のポリマーからなる。前記ポリマーは、アクリレート及びメタクリレート(ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)など)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリスルホン(PSU)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸-グリコール酸(PLGA)共重合体、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)など)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ポリオレフィン及びポリオレフィンコポリマー(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルブチルアルデヒド(PVB)、ポリブチレン(PB)、ポリイソブチレン(PIB)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)など)、スチレン系熱可塑性プラスチック(ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)(SBS)、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート(ASA)など、及びスチレンアクリロニトリル(SAN))、ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド6,6またはポリアミド12など)、ポリカーボネート(PC)及びポリアセタール(ポリオキシメチレン(POM)など)、シリコーン又はそれらの混合物の群から選択される。
【0055】
前述の方法のステップaで使用される溶媒は好ましくは、水、エチルアルコール、メタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、アセトニトリル、又は2つ以上の溶媒の混合物から選択される。一の実施形態において、水は、混合物中、5重量%~100重量%、好ましくは20重量%~100重量%の割合で使用される。一の実施形態において、エチルアルコールは、混合物中、5重量%~15重量%、好ましくは5重量%~10重量%の割合で使用される。一の実施形態では、メタノールは、混合物中、5重量%~10重量%、好ましくは5重量%~7重量%の割合で使用される。一の実施形態において、アセトンは、混合物中、3重量%~70重量%で、好ましくは10重量%~65重量%の割合で使用される。一の実施形態において、イソプロピルアルコールは、混合物中、2重量%~20重量で、好ましくは5重量%~15重量%の割合で使用される。
【0056】
本方法の一実施形態では、得られた金属イオン若しくは金属塩の溶液又は分散液は、重合反応前にモノマーの溶液又は分散相に添加される。当該方法の別の実施形態では、得られた金属イオン若しくは金属塩の溶液又は分散液は、重合反応中にモノマーの溶液又は分散相に添加される。好適実施形態では、金属イオン若しくは金属塩の溶液又は分散液は、モノマーの溶液又は分散相に滴下添加される。得られた金属イオン若しくは金属塩の溶液又は分散液を、重合反応前若しくは重合反応中に添加されるモノマーの溶液又は分散相に添加することにより、金属イオン及び/又は金属塩がポリマーに取り込まれ、ポリマーからの金属イオン及び/又は金属塩の放出が最小限に抑えられる。
【0057】
重合反応は、当技術分野で知られている任意の方法で実施することができる。一の実施形態では、所望の立体選択性又は立体規則性を実現するために、適切な触媒が使用される。
【0058】
歯科器具を形成する成形技術は、射出成形、押出成形、熱成形、圧縮成形、又は3D造形などの当技術分野で公知の任意の技術を含む。射出成形では、粒状又は粉末として供給されるプラスチックが溶融されて粘性の塊となり、キャビティが所望の製品の形状である金型に高圧で射出される。冷却によりプラスチックが固化し、目的の製品が得られる。射出成形は、プラスチック部品の最も一般的な成形技術の一つである。
【0059】
これらの成形技術はすべて高温で行われる。本発明による1種以上の金属イオン及び/又は金属塩を含むポリマー組成物は耐熱性であるため、例えばPETおよびTPUポリマーのような、より高い溶融温度を有するポリマーと共に使用することができる。
【0060】
本発明による1種以上の金属イオン及び/又は金属塩を含有するポリマー組成物は、均質な混合物が得られ得るような組成物である。一の実施形態では、混合物は、均質な混合物を得るように混合される。これには例えば、特定の樹脂(ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂またはシリコーン樹脂など)が必要であり、ポリマー組成物のモノマーが室温で金属イオン及び/又は金属塩と混合され、全体が硬化される。
【0061】
一の実施形態において、歯科器具の形状は、ボイル・アンド・バイト技術によって装着者の歯に適合される。それによって器具は、温かい温度にされることによって、部分的に溶融され、成形され、その後、冷たい温度にされることによって、所望の形状に再び硬化され得る。
【0062】
別の好適実施形態では、歯科器具の形状は、ポリマーを加熱機で加熱し、次いで歯のインプレッション全体にわたって吸引を行うことによって、装着者の歯に適合される。
【0063】
さらに別の実施形態では、歯科器具の形状は、ミリング技術を使用して得られる。さらに別の実施形態では、歯科器具の形状は、3D造形技術を用いて得られる。さらに別の実施形態では、歯科器具の形状は、ポリマー組成物を(手動で)成形することによって得られる。さらなる実施形態において、ポリマー組成物は、成形される前に、最初にある温度まで加熱される。
【0064】
以下において、本発明は、本発明を例示する非限定的な実施例によって説明され、これらは、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、また限定するものとして解釈されるべきではない。
実施例
【実施例1】
【0065】
亜鉛の放出量を測定するために、ポリマー組成物中に約0.081%の濃度の亜鉛が含まれる本発明による歯肉炎マウスガードがビーカー内に入れられ、既知の体積のシミュラントに完全に浸漬された。実施例1の実施形態では、ポリマー組成物は3%のエチレン-酢酸ビニル及び97%のポリプロピレンからなるが、他のポリマー組成物も可能であることは言うまでもない。この実施形態では、亜鉛は特定の脂肪酸の亜鉛塩の混合物の形でEVAポリマー中に存在し、EVAポリマー中のこの亜鉛塩混合物の濃度は2.7%である。他の形態や濃度の亜鉛もポリマー組成物中に存在してもよいことは言うまでもない。この例では、水が模擬物質として使用された。その後、ビーカーは70℃のオーブンに合計2時間入れられた。2時間経過後、ビーカーはオーブンから取り出された。模擬物質は、ポリマーから移行した可能性のある亜鉛の量を測定するためにICPで分析された。水が模擬物質として使用された場合、ポリマー組成物からの亜鉛の移行は0.109ppmであった。銀、金、銅、白金、錫、又はアルミニウムを0.081%の濃度で含むポリマー組成物で作られた歯肉炎マウスガードを用いた移行試験でも、ポリマー組成物からのそれぞれの金属イオンの移行は限定的であった。
【実施例2】
【0066】
ポリマー組成物中に約3%の濃度の銀が含まれる、本発明による抗菌性ポリマー組成物から作製された歯列矯正用アライナーが、特定の細菌株に対する歯列矯正用アライナーの有効性を評価するために試験された。
【0067】
無孔性プラスチック表面の抗菌活性を評価するための国際標準法を用いて、2種類の細菌株(Escherichia Coli ATCC 8739(Gram-)及びStaphylococcus Aureus ATCC 6538(Gram+))について製品が試験された。最初の細菌懸濁液は、コロニー形成単位(cfu/ml)で表される一定の細菌濃度になるように希釈された。歯列矯正用アライナーと抗菌性のない対照製品が、試験用に最適な大きさに切断された。アライナーと対照製品は前述の基準菌株で処理され、滅菌ポリエチレンフィルムで覆われ、約37℃のインキュベーターに24時間入れられた。培養期間終了後、サンプルは中和溶液で洗浄され、この溶液中の細菌量が測定された。得られた結果から、37℃で24時間培養した後、前述の抗菌性ポリマー組成物からなる歯列矯正用アライナーの群では、対照群に対して細菌の量が減少することが示された。特に、コロニー形成単位の80%(大腸菌の場合)及び93%(黄色ブドウ球菌の場合)の減少が、歯列矯正用アライナー群において、対照群に対して明らかであった。
【0068】
これらの試験は、本発明による他のポリマー組成物についても繰り返され、その結果は、実施例2に記載されたポリマー組成物についての結果と一致した。
【実施例3】
【0069】
本発明による抗菌性ポリマー組成物からなる術後マウスガードが、歯科インプラント埋入後の外科創傷の治癒時間を短縮する効果を評価するために試験された。ポリマー組成物は0.25%の銅を含み、術後96時間の間、1日最低23時間傷口に適用された。試験は、本発明による抗菌性ポリマー製マウスガードを受けた患者10人、非抗菌性マウスガードを受けた患者10人、およびマウスガードを受けなかった最終対照群に実施された。この試験の結果、本発明の抗菌性マウスガードを使用した場合、マウスガードを使用しなかった対照群に対して約20%、非抗菌性マウスガードを使用した群に対して約15%の治癒時間の短縮が認められた。
【実施例4】
【0070】
本発明による2つの異なるポリマー組成物(「組成物A+」と「組成物B+」)からの亜鉛の放出を測定するために、約0.01%の亜鉛濃度を有する両ポリマー組成物を、既知の体積の水を入れたビーカーに1週間完全に浸漬した。唾液の大部分は水で構成されているので、水はこの放出を測定するのに適した模擬物質とみなされた。
【0071】
この培養期間の前と後(それぞれT0とT1)に、水中の亜鉛濃度をICPで測定した。対照として、亜鉛を含まないポリマー組成物(「組成物A-」と「組成物B-」)も実験に含めた。両ポリマー組成物中の亜鉛濃度も、水の入ったビーカーでの培養期間(それぞれT0とT1)の前後にICPで測定した。
【0072】
以下の表1は、水中で測定された亜鉛の平均濃度を示している。これは、水中の亜鉛濃度がほとんど増加しないことから、1週間後のポリマー組成物からの亜鉛の放出が非常に小さいことを示している。
【0073】
このことは、表2のデータからも確認できる。この表は、水中での培養期間の前後における、それぞれのポリマー組成物中の亜鉛の平均濃度を示している。このことから、ポリマー組成物中の亜鉛濃度は、1週間の水中培養後も実質的に変化していないことがわかる。これらの試験は、本発明による他のポリマー組成物についても繰り返され、その結果は、本実施例に記載のポリマー組成物についての結果と一致した。
【0074】
このデータは、本発明のポリマー組成物からの金属イオンの放出が例外的に低いことを実証している。
【表1】
【0075】
既知量の水を入れたビーカー中のZn濃度(mg/L)のICPによる測定。0.01%の亜鉛を含むか含まない組成物A(それぞれ組成物A+とA-)、又は0.01%の亜鉛を含むか含まない組成物B(それぞれ組成物B+とB-)を用いた1週間の培養期間(それぞれT0とT1)の前後の測定について、3回の測定による平均値と対応する標準偏差(SD)を示す。
【表2】
【0076】
既知体積の水を入れたビーカー中で、1週間の培養期間(それぞれT0およびT1)の前後における、異なるポリマー組成物のICPによるZn濃度(mg/kg)の測定。"+"は、Znを0.01%の濃度で含む組成物を示す。"-"は、Znを添加していない組成物を示す。3回の測定の平均とそれに対応する標準偏差を表に示す。
【国際調査報告】