(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-09
(54)【発明の名称】PICVDシステムにおけるアノード過剰成長を抑制するためのアークビーム走査
(51)【国際特許分類】
C23C 16/50 20060101AFI20240202BHJP
H05H 1/40 20060101ALI20240202BHJP
H05H 1/34 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
C23C16/50
H05H1/40
H05H1/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547845
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(85)【翻訳文提出日】2023-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2022053169
(87)【国際公開番号】W WO2022171702
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツーガー,オトマール
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA05
2G084BB27
2G084CC02
2G084CC23
2G084DD01
2G084DD11
2G084DD67
2G084FF27
2G084FF29
2G084HH03
2G084HH12
2G084HH21
2G084HH22
2G084HH27
2G084HH56
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA28
4K030FA01
4K030JA03
4K030KA34
(57)【要約】
本発明は、アークビームPICVDコーティングシステムにおけるアノード過剰成長を抑制する方法に関し、アークビームPICVDコーティングシステムのコーティングプロセスの少なくとも一部の間、アークビームの走査が、アノードの表面の少なくとも一部にわたって行われる。さらに、本発明は、パーツをコーティングするためのアークビームPICVDコーティングシステムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークビームPICVDコーティングシステムにおけるアノード過剰成長を抑制するための方法であって、前記アークビームPICVDコーティングシステムのコーティングプロセスの少なくとも一部の間、アークビームの走査が、前記アノードの表面の少なくとも一部にわたって行われることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記アノードは実質的に回転対称構成要素であり、前記アークビームの走査は回転対称軸の周りで行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アークビームの走査のために、2対のコイルを使用して、回転対称軸に垂直な振動磁場成分を生成することにより、前記アークビームを引き付け、および/または偏向させて、振動を引き起こすことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アークビームの走査は磁場によって制御され、少なくとも、前記磁場の強度または方向は、前記アノードの上の絶縁層の予想される成長に基づいて設定されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アークビームの走査は、前記アノード上で楕円経路を辿ることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アークビームの走査は、前記アノード上で閉じた経路を辿ることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
アークビーム経路変調の振幅が、前記アノードの直径の10分の1と5分の1との間であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記アノードの表面全体が、前記コーティングプロセス中に少なくとも1回アークビームにさらされることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティングプロセス中、前記アークビームの走査がない場合に前記アノード上の絶縁層のより低い堆積が予想される領域と比較して、前記アークビームの走査がない場合に前記アノード上の絶縁層のより大きな堆積が予想される前記アノードの表面の領域に、前記アークビームをより長い時間向けることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
パーツ(1)をコーティングするためのアークビームPICVDコーティングシステムであって、前記アークビームPICVDコーティングシステムが、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成されることを特徴とする、アークビームPICVDコーティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
電子放出源(カソード)およびコレクタ(アノード)を用いて生成されるDCプラズマアークビームに基づくPICVD(プラズマ誘起化学気相成長(plasma induced chemical vapor deposition))システムは、典型的には0.1mbarと10mbarとの間の範囲の低圧ガス雰囲気中で操作される。このプロセスで使用される混合ガスは、アルゴン(Ar)といった希ガス、水素(H2)、および炭化水素ガスからなる。炭化水素ガスは、成長させる炭素系膜の炭素原子源であり、水素は、ダイヤモンドsp3炭素結合モードにおける成長を保証し、Arは、アークビームプラズマを操作するために必要なものである。このプラズマアークビームは、カソードからアノードへの非畳み込み経路を形成する磁力線を有する磁場によって安定化される。パーツ上にダイヤモンド膜を生成するためのこのようなPICVDプロセスは、[1]、[2]、[3]、[4]、[5]に記載されている。簡潔にするために、カソードおよびアノードは、典型的には、アークビームがカソードからアノードまでの直線状の柱を形成するように、円筒形反応器の反対側に配置される(
図1a~
図1c参照)。
【0002】
磁場は、磁力線10aがカソードからアノードまでの軸に対して実質的に平行でありかつ磁場強度がほぼ均質となるように配置されたコイル(または複数のコイル10)によって生成される。
【0003】
アークビームのホットプラズマにおいて、炭化水素ガス分子が励起されるとともに原子状水素が形成される。これらの種は、アークビームからある距離の場所に位置するパーツに拡散移動する。パーツの表面上においてこれらの種が反応して炭素膜を形成する。パーツからアークビームまでの、適切に選択された距離に対し、ダイヤモンド膜の効率的な成長のための温度条件が満たされる。
【0004】
PICVDシステムでは、任意の表面上で凝縮する励起種からコーティング膜が形成される。これらの励起種は、コーティングシステムにおいて拡散移動する。表面温度に応じて、異なるタイプの凝縮反応が起こり、異なるタイプのコーティングが表面上に成長する。ダイヤモンド型コーティングを作製するためのシステムにおいて、sp3型ダイヤモンド膜の成長は、700~900℃の範囲の温度を有する表面において適切な量の原子水素の存在下で起こる。アークビームのプラズマからの熱放射と、主に原子状水素の発熱表面反応との両方によって加熱される場合、これらの温度条件は、システムの中心におけるアークビームの周りのある半径方向距離において満たされる。より長い距離では、温度はより低く、グラファイトタイプの成長が有利である。より低い温度の領域において、特に水冷式システムの壁の上では、ポリマータイプの膜成長が観察される。
【0005】
プラズマアークビームから特定の距離の場所に位置するパーツ上のダイヤモンド膜成長レートは、アークビームの中心からの距離に決定的に依存する。
図1a、
図1bに示すような典型的な構成において、パーツ1は、アークビーム軸9から固定距離の場所に配置される。
【0006】
そのようなシステムでは、アークビームの安定した動作のために、システムの中心軸上のアークビームについて定められる軸を確保するための、軸対称性を確保する円錐形状のアノード電極が、優先的に使用される。アノードの金属表面に到達する電子は、正のアノードシース電位によって加速される。そうすると、エネルギーの対応する利得は、金属アノード表面において失われる。数100Aまでの典型的なアーク電流の場合、電力損失は数キロワット(kW)まで生じ得る。アノード表面のサイズは、アノードの過熱および溶融を回避するのに十分な冷却を確保するために、適切に設計される必要がある。アノードの内部の適切に設計された水冷チャネルの場合、100W/cm
2を超える範囲の電力密度レベルが円錐形のアノード表面上で生じ得る。アノードにおける数kWの総電力損失により、その表面積は数10cm
2でなければならない。アークビーム内の電流密度は中央で最も高いので、アノード表面上の電力密度も、中央で最も高く、半径の増加に伴って減少する。アノードの中心からの距離の増加に伴い、特定の半径におけるアノード表面に隣接する内部水冷却領域は、一層大きくなり(半径とともに2乗のオーダーで増加し)、その一方で、アークビームからの電力密度は、アークビームの中心よりも遥かに小さなレベルまで減少する。これらの2つの効果は、外径に向かってアノード表面温度を強力に低下させる。コーティングプロセスの開始時におけるアークビームのアノードを
図2aに示す。アークビームは金属表面全体にわたって広がる。
【0007】
これらの事実を考慮すると、絶縁ポリマータイプの膜は、表面温度が最も低いアノード上で、特に、CxHy反応ガスのより高い分圧で、またはより低いアーク電流で、成長し得る。このポリマーオーバーコート膜は、最初に外周から始まり、アノード円錐の中心に向かって時間とともに徐々に成長する。そのような過剰成長およびアノード近傍における狭窄したアークビームを伴うアノードが、
図2bに模式的に示されている。
【0008】
このようなポリマー膜は電気絶縁性であり、アノードの過剰成長領域は、アークビームからの電子を伝導するアノードの有効領域にもはや寄与しない。その結果、アノードのこのアクティブ領域は時間とともに減少し、コーティングプロセスにとって好ましい固定された放電電流の場合、静止金属アノード表面上の電力密度が上昇し、蓄積した電力損失が円錐形状のアノードの先端領域に徐々に集中する。結果として、電力密度が局所的に増加し、その結果、電力損失により、一層高い温度で局所的に一層高い熱負荷が生じる。加えて、ビームのこの狭窄は、ビームからアノード内への電位降下を増加させることにもなり、結果として、定アーク電流でより一層高い総電力損失を生じさせる可能性がある。アノードにおけるより高い電位に起因する追加の電力損失の一部は、システムの残りの部分へのより高い電力損失をもたらして、プロセス温度ドリフトを生じさせ、このことが、コーティング品質の悪化を伴って、パーツの表面上の膜成長のためのプロセス条件に悪影響を及ぼし得る。加えて、アークビームの中心がアノード円錐上で側方にドリフトすることがあり、このことがシステムの幾何学的軸の周りに配置されたパーツ上での膜成長の径方向の均一性に何らかの悪影響を及ぼし得ることが、観察されている。
【0009】
コーティング用途では通常経済的な利点であるより高いコーティングレートを達成するために、プロセスガス圧力をできる限り高くなるように増加させることができるが、これは通常、所望の膜の品質特徴によって制限される。しかしながら、より高いプロセス圧力を用いると、アノード上のポリマー過剰成長は、より大きくなって中心まで広がり、最終的にはこれも、製造条件下でのシステムにおける実際に達成可能なコーティングレートを制限することになる。
【0010】
アノード表面上のこの過剰成長を低減または排除する方法は、システム内のパーツの表面上のコーティング膜を得るために選択されるプロセス条件に影響を及ぼさないかまたは最小限にしか影響を及ぼさない、非常に望ましい方法であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、アノード表面上の絶縁過剰成長膜の形成を抑制するための手段および方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、請求項1の特徴を有する方法および請求項10の特徴を有するシステムによって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を改善するさらに他の手段が、図面に模式的に示される本発明のいくつかの実施形態の以下の説明から得られる。請求項、明細書または図面から得られるすべての特徴および/または利点は、構造の詳細、空間的配置およびプロセスステップを含めて、個々におよび多種多様な組み合わせで本発明にとって不可欠となり得る。図面は説明にすぎず決して本発明を限定することを意図しない点に注意されたい。
【0015】
本発明に従い、アークビームPICVDコーティングシステムにおけるアノード過剰成長を抑制するための方法が提供され、アークビームPICVDコーティングシステムのコーティングプロセスの少なくとも一部の間、アノードの表面の少なくとも一部にわたりアークビームの走査が行われる。
【0016】
アノード過剰成長は、絶縁構成要素からなる層を含み得る。アノードの過剰成長が非常に薄い限り、それは電流の流れを損なわない。しかしながら、厚いアノード過剰成長は、非コーティング領域またはより薄いコーティングを有する領域への電流の流れを制限し得る。アークビームPICVDコーティングシステムは、プラズマ放電によって低圧でパーツ上にコーティングを形成するように構成されたアークビームを確立する手段を含み得る。本発明の枠組みにおいて、アークビームの走査は、プラズマをアノードに接続する放電ゾーンの、アノードに対する移動として理解することができる。この移動は、連続的である、または速度が変化する可能性がある。アノードの表面は、アノードの実際の全表面である可能性がある、または、形成されたアノード上に絶縁物がなくアークビームが移動していないときに、アークビームの電流を伝導しているアノード(コーティングされていない場合に限る)の表面の部分とみなすことができる。たとえば、アノード表面は、実質的に、カソードに面するアノードの側の表面である可能性がある。
【0017】
方法ステップは、少なくとも部分的に同時にまたは時系列で次々に実行することができ、方法ステップの順序は、番号で定められる順序に限定される訳ではなく、したがって、個々のステップは、異なる順序で実施することができる。
【0018】
アノードは、実質的に回転対称構成要素であってもよく、アークビームの走査は、回転対称軸の周りで行われてもよい。言い換えると、アノードは、実質的に回転固体として形成されてもよく、アークビームは、この固体の中心軸の周りで移動している。
【0019】
また、アークビームの走査のために、2対のコイルを使用して、回転対称軸に垂直な振動磁場成分を生成することにより、アークビームを引き付け、および/または偏向させて、振動を引き起こしてもよい。言い換えると、カソードとアノードとの間の電場に平行な磁力線をz方向とすると、x-y平面内の磁場は、少なくともx方向またはy方向にアークビームを偏向させる可能性がある。このことが、多種多様な走査パターンをアノードの表面上で実現することにより、アノード表面上の絶縁層の形成を容易かつ効果的に回避または低減し得る、という利点を提供する。
【0020】
アークビームの走査は磁場によって制御されると考えられ、少なくとも、磁場の強度または方向は、アノード上の絶縁層の予想される成長に基づいて設定される。言い換えると、アークビームの形状および運動を制御する磁場を設定することにより、アークビームがアノード表面上で動かされなかった場合に大きな成長が予想される領域が、堆積プロセス中により長い時間にわたってアークビームを受ける可能性がある。これにより、必要に応じてアノードの表面がアークビームを受けるようにすることができるので、アノード表面上の絶縁層の堆積を容易かつ効果的に回避または低減することができる、という利点が得られる。
【0021】
アークビームの走査を、アノード上で楕円経路を辿るようにすることができる。言い換えると、z軸がアノードとカソードとの間の経路に沿って定められるとすると、x軸上の振動は、y軸上の振動と、振幅が異なる。楕円経路は、非円形の過剰成長パターンを効率的に回避できるという利点を提供する。
【0022】
有利には、アークビームの走査を、アノード上の閉じた経路を辿るようにすることができる。閉じた経路は、たとえば、振動磁場によって容易に実現することができ、その結果、リサージュ(またはリサジュー)状のパターンをアノードの表面に形成することができる。
【0023】
また、アークビーム経路変調の振幅を、アノードの直径の10分の1と5分の1との間にすることができる。この動きの範囲は、表面のアノード上の絶縁層の堆積を効果的に低減する。
【0024】
さらに、アノードの表面全体を、コーティングプロセス中に少なくとも1回アークビームにさらすことが考えられる。特に、表面全体は、通常は絶縁層によって被覆されているアノードの表面全体と理解されねばならない。アノード表面が、たとえばホルダによって少なくとも部分的にマスクされる場合、表面全体は非マスク領域であると想定される。このようにして、アノードの表面全体の上に絶縁層が堆積することを効果的に抑制することができる。
【0025】
また、コーティングプロセス中、アークビームの走査がない場合にアノード上の絶縁層のより低い堆積が予想される領域と比較して、アークビームの走査がない場合にアノード上の絶縁層のより大きな堆積が予想されるアノードの表面の領域に、アークビームをより長い時間向けることが可能である。予想される堆積パターンが、アークビーム走査の制御にフィードバックされ、それにより、絶縁層の堆積の低減をループごとに改善することができる。
【0026】
本発明のさらに他の態様において、パーツをコーティングするためのアークビームPICVDコーティングシステムが提供され、このアークビームPICVDコーティングシステムは、本発明に係る方法を実行するように構成される。
【0027】
したがって、本発明に係るシステムは、本発明に係る方法を参照しつつ詳細に説明した利点と同じ利点をもたらす。
【0028】
本発明のさらに他の特徴および詳細は、従属請求項、本明細書および図面から得られる。本発明に係る方法に関して説明した特徴および詳細は、当然ながら、各場合において、本発明に係るシステムに関しても適用され、その逆もまた同様であり、したがって、本発明の個々の態様に関する開示について、相互参照が常に行われるまたは行われ得る。
【0029】
基本的な考え方は、アノード表面の全域にわたるアークビームの制御された周期的運動である。最初の極めて薄い過剰成長が、1つの運動サイクル中に、アークビームの中に一時的に存在しない表面領域上に形成される可能性があるが、表面領域のすべての部分が、完全な1つの運動サイクルにわたる過程でアークビームの中に連続的に存在する。これらの領域上のオーバーコートは、電子伝導を抑制する絶縁性を発生させることができない程度の薄さのままである。これらの極めて薄い層を通るわずかに減少した伝導は、運動サイクル中にアークビームがその後これらの領域にわたって移動するときに、アークビームのわずかな追加の電圧降下を生じさせる可能性がある。この電圧降下は、追加の電力損失につながり、その結果、局所的な表面温度上昇が生じる。これが、このオーバーコート層を蒸発または崩壊させ、アークビームがアノードのこの区間を通過した後に、その領域を金属表面として残す。アノード全体にわたる周期的運動により、表面は導電状態のままであり、アノードにおけるアークビームの狭窄は生じない。
【0030】
アノードの回転対称性を考慮すると、周期的運動パターンは、アノードの中心軸を中心とするアークビームの円形運動であってよく、これは
図3に概略的に示される。アークビーム運動の円形経路は、アークビームを偏向させるための面内磁場成分を生成するコーティングシステムチャンバの外側のコイルのセットによって実現することができる。
図4aはそのようなシステムの平面図を示し、
図4bは側面図を示す。優先的には、システムの反対側にある2対のコイルが、x方向およびy方向の磁場成分を生成するために使用される。
【0031】
これらのコイル内の適切に変調された電流により、水平面内でシステムの中心軸を中心としてその方向に回転している水平磁場ベクトルBxyが生成される。コイルが垂直でない場合も、単に個々のコイル電流の、適合させた振幅および対応する位相関係により、同じ回転磁場ベクトルを実現することができる。
【0032】
経路の直径は、外径から中心に向かって成長するアノード上の過剰成長層を最小にするまたは排除するように調整される。回転の直径は、アークビームが歪んで安定したコーティングプロセスに悪影響を及ぼすほど過剰に大きくはない。静的なアークビームで非円形の過剰成長が生じる場合、その軸を過剰成長パターンに合わせて調整した楕円形の経路を、水平コイルの電流の適切な変調によって簡単に生成することができる。オーバーコートがアノード軸を中心としていない場合、適切な静的オフセット電流をコイルに印加して、アークビームをアノード中心上に静的に偏向させることができる。
【0033】
変調周期Tp=1/f、変調周波数fの場合の、xコイルおよびyコイルに対する対応する電流信号を、以下のように記述することができる。
【0034】
【0035】
変調の周期は、1周期中の過剰成長形成が、導電性を持ちつつ極めて薄い状態を保つよう、十分に短いものが選択されねばならない。
【0036】
静的アークビームを用いた実験から推定される、オーバーコート層の厚さは、典型的には、数時間のプロセス後、数10μmの範囲となり得る。その結果、オーバーコート成長レートは、1ナノメートル/秒未満のレベルとなり得る。変調期間が数10秒以下継続すると、極めて薄いオーバーコート層はわずか数nmのレベルに留まり、これは依然として、アークビームの電子がアノードに到達することができる程度の導電性である。
【0037】
アークビームの周期的運動は、アークビームの柱の周囲に位置するパーツ上の所望のダイヤモンド膜の成長レートに対し、意図せずして影響を及ぼし得る。パーツ上の膜の成長レートは、アークビーム軸からの距離に応じて決まり、ビーム軸からの距離が減少/増加するにつれて、大きく/小さくなる。(静的アークビーム軸と合体する)システム軸を中心として回転するアークビームを用いると、パーツ表面上における成長レートは、ビームの円運動の回転周波数で変調される。この変調が静的アークビームによる成長レートと比較して小さくコーティングプロセス全体の変調サイクルの数が多い限り、これらの変調は、膜形成に対して最小限の影響しか与えず、変調サイクルからの成長変動が多数の変調サイクルにわたって平均化されるため、全体的な厚さは影響を受けない状態を保つ。加えて、特定の非正弦波変調方式を用いると、正弦波変調がいくらかの変動を残す可能性がある場合、パーツの厚さ変動がより適切に最小化される一方で、アノード上の過剰成長をなおも抑制することができる。
【0038】
典型的な例において、アノードの直径は50~100mmのオーダーであってもよい。最初に、アークビームはアノードの全領域にわたって広がる。経時的に、静的アークビームを用いると、C含有ガスの分圧、全圧、およびアークビーム電流レベルのような、プロセス条件に応じて、オーバーコートは、アノードの外径からアノードの直径の半分未満の内径を有するリングまで成長する可能性があり、プロセスの開始時の全アノード面積の四分の一未満の金属領域をアノード上に残す。典型的には10mmのアークビーム変調振幅を用いると、過剰成長領域を、アノードの外径におけるわずかな縁のみに低減することができ、アノード表面のほぼ全体が金属のまま残る。変調振幅の増加に伴って放電電圧がある程度増加するので、変調振幅の選択は、過剰成長を排除することと、膜製造プロセスにとって不利となる可能性があるやり方でプロセスパラメータに対して場合によっては影響を与えることとの間で折り合いをつけることである。
【0039】
図5および
図6は、本発明に係る方法およびシステムの効果を示す。これらの図はいずれも、コーティングプロセスで使用された円錐形のアノード(100)を示す写真の模式的な平面図である。
図5において、本発明に係る方法およびシステムが使用されており、
図6は、本発明に係る方法およびシステムを使用しないコーティングプロセスの結果を示す。比較すると、本発明に係る方法およびシステムに従う、
図5の過剰成長領域(101)が、遥かに小さいことがわかる。アノード(100)上の絶縁層の厚さが、本発明に係る方法およびシステム(図示せず)を使用しない場合、大きくなることに注意されたい。特に、アークビームPICVDコーティングシステムのコーティングプロセスの少なくとも一部の間、アークビームの走査がアノード(100)の表面の少なくとも一部に対して行われる場合、コーティングプロセスの完了後に、被覆されていない大きな領域(102)が残る。
【0040】
実施形態の上記説明は、実施例の文脈において本発明を排他的に記述している。当然ながら、実施形態の個々の特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、技術的に妥当であれば、互いに自由に組み合わせることができる。
[1]:Karner, Pedrazzini, Bergmann, US 5753045
[2]:"High current d.c. arc (HCDCA) technique for diamond deposition", J.Karner, M.Pedrazzini, C.Hollenstein, Diamond and Related Materials 5, (1996), 217-220
[3]:"Verfahren zur Diamantbeschichtung", D.Franz, J.Karner, WO 03/031675 A2
[4]:Franz, Karner, US 7192483
[5]:Karner, Pedrazzini, Bergmann, US 5902649
【国際調査報告】