(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-09
(54)【発明の名称】TON骨格型モレキュラーシーブの合成
(51)【国際特許分類】
C01B 39/48 20060101AFI20240202BHJP
【FI】
C01B39/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548670
(86)(22)【出願日】2022-01-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 IB2022050743
(87)【国際公開番号】W WO2022172117
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュミット、ジョエル エドワード
(72)【発明者】
【氏名】オジョ、アデオラ フローレンス
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA57
4G073BA63
4G073BD21
4G073CZ05
4G073CZ48
4G073FC12
4G073FD18
4G073FD20
4G073FD21
4G073FD24
4G073GA03
4G073GA14
4G073GB02
4G073UA01
(57)【要約】
固有の特性を有するTON骨格型の分子を作製する方法が開示される。この方法では、構造規定剤である1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンと、アルミナ被覆シリカ及びアルミノケイ酸塩ゼオライトから選択されるケイ素とアルミニウムを組み合わせた供給源とを使用する。得られたモレキュラーシーブをパラフィン系炭化水素原料の脱ろうプロセスに使用することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TON骨格型モレキュラーシーブの合成方法であって、
(1)以下:
(a)ケイ素とアルミニウムを組み合わせた供給源であって、アルミナ被覆シリカ、FAU骨格型のアルミノケイ酸塩ゼオライト、またはそれらの混合物である前記ケイ素とアルミニウムを組み合わせた供給源;
(b)1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを含む構造規定剤(Q);
(c)水酸化物イオンの供給源;
(d)水;及び
(e)種結晶
を含む反応混合物を形成することと、
(2)前記モレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に前記反応混合物を維持することとを含む、前記方法。
【請求項2】
前記反応混合物が、モル比換算で、以下:
【表1A】
の通りの組成を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応混合物が、モル比換算で、以下:
【表1B】
の通りの組成を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記FAU骨格型のアルミノケイ酸塩ゼオライトが、ゼオライトYである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水酸化物イオンの供給源が、アルカリ金属水酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、またはそれらの混合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アルカリ金属カチオン/SiO
2のモル比が、0.1~1.0の範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記種結晶がTON骨格型モレキュラーシーブを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記反応混合物が、0.01重量ppm~10,000重量ppmの種結晶を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記反応混合物が、別のケイ素供給源をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記別のケイ素供給源が、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、アルカリ金属ケイ酸塩、テトラアルキルオルトケイ酸塩、またはそれらの混合物を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記結晶化条件が、125℃~200℃の温度及び1日~10日の時間を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
合成したままの形態で細孔に1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを含む、TON骨格型モレキュラーシーブ。
【請求項14】
SiO
2/Al
2O
3のモル比が、30~100の範囲である、請求項13に記載のモレキュラーシーブ。
【請求項15】
SiO
2/Al
2O
3のモル比が、35~80の範囲である、請求項13に記載のモレキュラーシーブ。
【請求項16】
パラフィン系炭化水素原料の水素異性化プロセスであって、
水素異性化条件で前記パラフィン系炭化水素原料を水素及びTON骨格型モレキュラーシーブを含む触媒と接触させることと、炭化水素原料と比較して分岐型炭化水素が増加した生成物を得ることとを含み、前記触媒が、0.01~10重量%の貴金属をさらに含む、前記プロセス。
【請求項17】
前記パラフィン系炭化水素原料が、n-C8+炭化水素を含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記モレキュラーシーブが、30~100の範囲であるSiO
2/Al
2O
3のモル比を有する、請求項16に記載のプロセス。
【請求項19】
前記モレキュラーシーブが、35~80の範囲であるSiO
2/Al
2O
3のモル比を有する、請求項16に記載のプロセス。
【請求項20】
前記貴金属が、白金、パラジウム、またはそれらの混合物を含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項21】
前記水素異性化条件に、200℃~450℃の温度、0.5~20MPaの圧力、0.1~10h
-1の液空間速度、及び35.6~1781Nm
3/m
3の水素循環速度が含まれる、請求項16に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、TON骨格構造を有するモレキュラーシーブの改善された作製方法、及び炭化水素化合物の触媒転化プロセスにおける、そのように作製されたモレキュラーシーブの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
モレキュラーシーブ材料は、ゼオライト命名法に関するIUPAC委員会の規則に従って、国際ゼオライト協会の構造委員会によって分類される。この分類に従って、構造が確立されている骨格型ゼオライト及び他の結晶性微孔質の結晶性材料は、3文字コードが割り当てられ、「Atlas of Zeolite Framework Types」改訂第6版,Elsevier(2007)に記載されている。
【0003】
構造が確立されている公知のモレキュラーシーブのひとつに、TONと称される材料があるが、これは、固有な1次元の10員環チャンネル系を有するモレキュラーシーブである。TON骨格型モレキュラーシーブの例として、ISI-1、KZ-2、NU-10、シータ-1、及びZSM-22が挙げられる。TON骨格型材料は、パラフィン系炭化水素の脱ろうにおいて触媒としての活性があるため商業的関心が高い。
【0004】
本開示によれば、1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを構造規定剤及びアルミノケイ酸塩出発材料として使用すると、TON型モレキュラーシーブを従来可能だったよりも単純なプロセスによって、かつ短い加熱期間で合成できることが判明した。これらの材料を使用すると、固有の形態及び物理化学的特性を備えたTON型モレキュラーシーブを作製することができる。加えて、結晶サイズの小さいTON型モレキュラーシーブの製造も可能である。
【発明の概要】
【0005】
第1の態様では、TON骨格型モレキュラーシーブの合成方法であって、(1)以下:(a)ケイ素とアルミニウムを組み合わせた供給源であって、アルミナ被覆シリカ、FAU骨格型のアルミノケイ酸塩ゼオライト、またはそれらの混合物である、当該ケイ素とアルミニウムを組み合わせた供給源;(b)1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを含む構造規定剤(Q);(c)水酸化物イオンの供給源;(d)水;及び(e)種結晶を含む反応混合物を形成することと、(2)モレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に上記反応混合物を維持することとを含む方法が提供される。
【0006】
第2の態様では、合成したままの形態で細孔に1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを含むTON骨格型モレキュラーシーブが提供される。
【0007】
第3の態様では、パラフィン系炭化水素原料の水素異性化プロセスであって、水素異性化条件でパラフィン系炭化水素原料を水素及びTON骨格型モレキュラーシーブを含む触媒と接触させることと、炭化水素原料と比較して分岐型炭化水素が増加した生成物を得ることとを含み、当該触媒が、0.01~10重量%の貴金属をさらに含むプロセスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で得た焼成モレキュラーシーブの粉末X線回折(XRD)パターンを示す。
【0009】
【
図2】A及びBは、実施例1の生成物の様々な倍率での例示的な走査型電子顕微鏡写真(SEM)画像を示す。
【0010】
【
図3】実施例2で得た焼成モレキュラーシーブの粉末XRDパターンを示す。
【0011】
【
図4】A及びBは、実施例2の生成物の様々な倍率での例示的なSEM画像を示す。
【0012】
【
図5】実施例3で得た焼成モレキュラーシーブの粉末XRDパターンを示す。
【0013】
【
図6】A及びBは、実施例3の生成物の様々な倍率での例示的なSEM画像を示す。
【0014】
【
図7】実施例4で得た焼成モレキュラーシーブの粉末XRDパターンを示す。
【0015】
【
図8】A及びBは、実施例4の生成物の様々な倍率での例示的なSEM画像を示す。
【0016】
【
図9】実施例5で得た焼成モレキュラーシーブの粉末XRDパターンを示す。
【0017】
【
図10】実施例5の生成物の例示的なSEM画像を示す。
【0018】
【
図11】実施例6で得た焼成モレキュラーシーブの粉末XRDパターンを示す。
【0019】
【
図12】A及びBは、実施例6の生成物の様々な倍率での例示的なSEM画像を示す。
【0020】
【
図13】実施例5の触媒についてのn-デカン転化に関する、温度の関数としての転化率のプロットである。
【0021】
【
図14】実施例5の触媒についてのn-デカン転化に関する、転化率対収率のプロットである。
【0022】
【
図15】実施例5の触媒についてのn-デカン転化に関する、転化率の関数としてのメチルノナン異性体の分布を示すプロットである。
【0023】
【
図16】実施例6の触媒についてのn-デカン転化に関する、温度の関数としての転化率のプロットである。
【0024】
【
図17】実施例6の触媒についてのn-デカン転化に関する、転化率対収率のプロットである。
【0025】
【
図18】実施例6の触媒についてのn-デカン転化に関する、転化率の関数としてのメチルノナン異性体の分布を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
定義
本明細書で使用される「骨格型」という用語は、Ch.Baerlocher、L.B.McCusker及びD.H.Olson著「Atlas of Zeolite Framework Types」(Elsevier、改訂第6版、2007)に記載される意味を有する。
【0027】
「合成したまま」という用語は、結晶化後、構造規定剤を除去する前の形態であるモレキュラーシーブを指す。
【0028】
「Cn」炭化水素という用語は、1分子あたりn個の炭素原子(複数可)を有する炭化水素化合物を意味する。「Cn+」炭化水素という用語は、1分子あたりn個以上の炭素原子(複数可)を有する炭化水素化合物を意味する。「Cn-」炭化水素という用語は、1分子あたりn個以下の炭素原子(複数可)を有する炭化水素化合物を意味する。
【0029】
「SiO2/Al2O3モル比」という用語は、「SAR」と略される場合がある。
【0030】
モレキュラーシーブの合成
TON骨格型モレキュラーシーブは、(1)以下:(a)ケイ素とアルミニウムを組み合わせた供給源であって、アルミナ被覆シリカ、FAU骨格型のアルミノケイ酸塩ゼオライト、またはそれらの混合物である、当該ケイ素とアルミニウムを組み合わせた供給源;(b)1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを含む構造規定剤(Q);(c)水酸化物イオンの供給源;(d)水;及び(e)種結晶を含む反応混合物を形成することと、(2)モレキュラーシーブの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に上記反応混合物を維持することにより合成することができる。
【0031】
反応混合物は、モル比換算で、表1:
【表1】
(表中、Qは1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを含む)
に示す範囲内の組成を有し得る。
【0032】
アルミナ被覆シリカは、少なくとも30(例えば、30~170、35~100、50~100、60~80、または100~170)のSiO2/Al2O3モル比を有し得る。アルミナ被覆シリカは、Nalcoから入手することができる。FAU骨格型のアルミノケイ酸塩ゼオライトは、ゼオライトYであり得る。アルミノケイ酸塩ゼオライトは、少なくとも30(例えば、30~100、または60~80)のSiO2/Al2O3モル比を有し得る。好適なアルミノケイ酸塩ゼオライトの例として、Zeolyst Internationalから市販されているYゼオライトCBV720、CBV760及びCBV780が挙げられる。ケイ素とアルミニウムを組み合わせた供給源を、反応混合物中の唯一または主要なケイ素及びアルミニウムの供給源として使用してよい。
【0033】
反応混合物は、別のケイ素供給源を含有し得る。存在する場合、ケイ素の好適な供給源として、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、アルカリ金属ケイ酸塩、及びテトラアルキルオルトケイ酸塩が挙げられる。
【0034】
水酸化物イオンの供給源は、アルカリ金属水酸化物であり得る。アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、またはそれらの混合物であり得る。ただし、同等の塩基性が維持される限り、この成分は省略することができる。構造規定剤を使用して水酸化物イオンを提供することができる。存在する場合、アルカリ金属カチオン/SiO2のモル比は、0.05~1.00(例えば、0.05~0.50)の範囲であり得る。
【0035】
構造規定剤(Q)は、以下の構造(1):
【化1】
で表される1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを含む。
【0036】
Qの好適な供給源として、水酸化物、塩化物、臭化物、及び/または他の第四級アンモニウム化合物の塩が挙げられる。
【0037】
反応混合物はまた、典型的にはTON骨格型モレキュラーシーブである種結晶を、望ましくは反応混合物の0.01~10,000重量ppm(例えば、100~5000重量ppm)の量で含有する。種結晶添加は、TONの選択性を向上させる、及び/または結晶化プロセスを短縮するのに有利であり得る。
【0038】
上記の反応混合物からの目的のモレキュラーシーブの結晶化は、例えばポリプロピレンジャーまたはテフロン(登録商標)加工もしくはステンレス鋼のオートクレーブなどの好適な反応容器内で、静置、振盪または撹拌条件下、120℃~200℃(例えば、135℃~180℃)の温度で、使用温度で結晶化が生じるのに十分な時間、例えば、約1日~10日(例えば、2日~7日)実施することができる。結晶化は通常、反応混合物が自生圧力を受けるようにオートクレーブ内にて加圧下で実施される。
【0039】
所望のモレキュラーシーブ結晶が形成された後、遠心分離または濾過などの標準的な機械的分離技術によって固体生成物を反応混合物から分離することができる。回収した結晶を水洗後、数秒から数分(例えば、フラッシュ乾燥の場合は5秒~10分)、または数時間(例えば、75℃~150℃のオーブン乾燥の場合は4時間~24時間)乾燥させて、合成したままのモレキュラーシーブ結晶を得る。乾燥工程は、真空下または大気圧下で行うことができる。
【0040】
結晶化プロセスの結果、回収した結晶性モレキュラーシーブ生成物は、その細孔内に、合成に使用された構造規定剤の少なくとも一部を含有する。
【0041】
合成したままのモレキュラーシーブは、その合成に使用された構造規定剤の一部または全部を除去するために、熱処理、オゾン処理、またはその他の処理を施してもよい。構造規定剤の除去は、合成したままの材料を、空気、窒素、またはそれらの混合物から選択される雰囲気中で、構造規定剤の一部または全部を除去するのに十分な温度で加熱する熱処理(例えば、焼成)を使用して実施することができる。熱処理には大気圧以下の圧力を使用してもよいが、便宜上の理由から大気圧が望ましい。熱処理は、少なくとも370℃(例えば、400℃~700℃)の温度で、少なくとも1分間、一般的には20時間以下(例えば、1~8時間)行ってもよい。
【0042】
(構造規定剤の一部または全部が除去されている)TON型モレキュラーシーブを水素化金属成分と混合してもよい。水素化金属成分は、水素化-脱水素化機能を実行可能であるモリブデン、タングステン、レニウム、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン、または白金もしくはパラジウムなどの貴金属から選択することができる。このような水素化金属成分は、以下のプロセス、すなわち共結晶化;組成物へのイオン交換;組成物中での含浸または組成物との物理的混合のうちの1つ以上の方法により組成物に組み込むことができる。金属の量は、触媒の0.001~20重量%(0.01~10重量%または0.5~2.0重量%)の範囲であり得る。
【0043】
モレキュラーシーブを合成した後、有機転化プロセスに用いられる温度及びその他の条件に耐性のある別の材料と組み合わせることにより、モレキュラーシーブを触媒組成物に調製することができる。そのような耐性材料は、活性材料、不活性材料、合成ゼオライト、天然に存在するゼオライト、無機材料、またはそれらの混合物から選択することができる。そのような耐性材料の例は、粘土、シリカ、チタニア、アルミナなどの金属酸化物、またはそれらの混合物から選択することができる。無機材料は、天然に存在するものであっても、シリカと金属酸化物との混合物を含むゼラチン状の沈殿物またはゲルの形態であってもよい。耐性材料をモレキュラーシーブと組み合わせて使用する、すなわち、結晶が活性である、合成したままの材料の合成中にそれと混合されるかまたは存在していると、特定の有機転化プロセスにおける触媒の転化率及び/または選択性が変化する傾向がある。不活性な耐性材料は、反応速度を制御するために他の手段を用いることなく経済的かつ規則正しい方法で生成物を得ることができるように、所定のプロセスにおいて転化量を制御するための希釈剤として適切に機能する。これらの材料を天然に存在する粘土(例えば、ベントナイト及びカオリン)に練混すると、商業的運用条件下での触媒の圧壊強度を向上させることができる。不活性な耐性材料(すなわち、粘土、酸化物など)は、触媒の結合剤として機能する。商業利用においては、触媒が粉末状物質に分解するのを防ぐことが望ましいため、良好な圧壊強度を有する触媒は有益であり得る。
【0044】
モレキュラーシーブと複合化できる天然に存在する粘土として、モンモリロナイト及びカオリン族が挙げられ、これらの族にはサブベントナイト、ならびにディキシー粘土、マクナミー粘土、ジョージア粘土及びフロリダ粘土として一般に知られるカオリン、または主な鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライトまたはアノーキサイトであるその他のものが含まれる。そのような粘土は、元の採掘されたままの状態で、または最初に焼成、酸処理もしく化学修飾を施して使用することができる。
【0045】
モレキュラーシーブとの複合化に有用な結合剤には、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、ベリリア、アルミナ、またはそれらの混合物から選択される無機酸化物も含まれる。
【0046】
前述の材料に加えて、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニアなどの多孔質マトリックス材料、ならびにシリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア、及びシリカ-マグネシア-ジルコニアなどの三元組成物とモレキュラーシーブを複合化してもよい。
【0047】
モレキュラーシーブと無機酸化物マトリックスとの相対比率は幅広く変更でき、モレキュラーシーブ含有量は複合材料の1~95重量%(例えば、20~90重量%)の範囲である。
【0048】
触媒は、例えば球体または押出物の形態で従来の方法に用いられる。
【0049】
モレキュラーシーブの特性決定
合成したままの無水形態では、モレキュラーシーブは、モル比換算で、表2:
【表2】
(表中、Qは1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオンを含む)
に示す範囲内の化学的組成を有し得る。
【0050】
本明細書に記載されるように調製されたTON骨格型モレキュラーシーブは、小さい結晶サイズを有し得る。結晶サイズは個々の結晶(双晶を含む)を基準にしているが、結晶の凝集は含まない。結晶サイズは3次元結晶の最長対角線の長さである。SEM及びTEMなどの顕微鏡法を使用して、結晶サイズの直接測定を行うことができる。例えば、SEMによる測定には、材料の形態を高倍率(通常は1000倍~10,000倍)で検査することを伴う。SEM法は、個々の粒子が1000倍~10,000倍の倍率で視野全体に適度に均一に広がるように、モレキュラーシーブ粉末を代表する部分を適切な試料台に分散させることによって行うことができる。この母集団から、ランダムな個々の結晶の統計的に有意な試料(例えば、50~200)を検査し、個々の結晶の最長対角線を測定し、記録する。(明らかに大きな多結晶凝集体である粒子は、測定値に含めるべきではない)。これらの測定値に基づいて、試料の結晶サイズの算術平均を計算する。
【0051】
本明細書に記載されるように合成されたTON骨格型モレキュラーシーブは、その粉末X線回折(XRD)パターンによって特性決定される。TON骨格型モレキュラーシーブを代表する粉末XRDパターンは、M.M.J.Treacy及びJ.B.Higgins著「Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites」(Elsevier、改訂第5版、2007)にて参照することができる。
【0052】
本明細書で報告するX線回折データは、CuKα放射線を使用する標準技術によって収集した。回折パターンにおけるわずかな変動は、格子定数の変化に起因する特定の試料の骨格種のモル比の変動から生じる可能性がある。加えて、十分に小さい結晶は、ピークの形及び強度に影響し、かなり広がったピークになる。また、回折パターンにおけるわずかな変動は、調製に使用される有機化合物の変動からも生じる可能性がある。焼成により、XRDパターンにわずかなシフトが生じる可能性もある。これらのわずかな変動にもかかわらず、基本的な結晶格子構造は変化せず維持される。
【0053】
パラフィン系炭化水素原料の水素異性化
本モレキュラーシーブは、水素異性化条件で触媒と水素とを接触させてパラフィン系炭化水素原料を水素異性化する際の触媒として使用するのに適しており、炭化水素原料と比較して分岐型炭化水素が増加した生成物を生成する。
【0054】
水素異性化条件には、200℃~450℃(例えば、250℃~400℃)の温度、0.5~20MPa(例えば、1~15MPa)の圧力、0.1~10h-1(例えば、0.5~5h-1)の液空間速度、及び35.6~1781Nm3/m3(例えば、890~1424Nm3/m3)の水素循環速度が含まれる。
【0055】
炭化水素原料がn-C8+炭化水素(例えば、n-C10+炭化水素、またはn-C15+炭化水素)を含む場合、炭化水素原料は特定の種類に限定されない。より具体的には、そのような炭化水素原料の例として、灯油及びジェット燃料などの比較的軽質な蒸留留分、あらゆる種類の原油、常圧蒸留残渣(常圧残渣油)、減圧塔残渣、減圧蒸留残渣(減圧残渣油)、循環原料、合成原油(例えば、シェールオイル、タール油など)、軽油、減圧軽油、ろう下油、及びフィッシャー・トロプシュ合成油に由来する燃料留分またはワックス留分などの高沸点原料、ならびにその他の重油が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下の例示的な実施例は、非限定的であることを意図する。
【0057】
実施例1
23mLテフロン(登録商標)オートクレーブ中で、3.96gの水酸化1,3,4-トリメチルイミダゾリウム水溶液(0.98mmol OH-/g)を5.21gの脱イオン水と混合した。次に、1.0gのCBV780 Yゼオライト(SAR=80)、続いてゼオライトTONの種結晶を添加し、よく混合した。密閉したオートクレーブを43rpmで回転させながら170℃で3日間加熱した。濾過により材料を回収し、多量の水で洗浄し、最後に85℃で風乾した。
【0058】
薄層の材料を焼成皿に静置することにより材料を空気中で焼成し、マッフル炉内で室温から120℃まで1℃/分の速度で加熱し、120℃で2時間保持した。次に、温度を1℃/分の速度で540℃まで上昇させ、540℃で5時間保持した。温度を再び1℃/分で595℃まで上昇させ、595℃で5時間保持した。その後、材料を室温まで放冷した。
【0059】
焼成した材料の粉末XRDパターンを
図1に示す。これは、材料がTON骨格ゼオライトであることを示している。
図2のA及びBは、生成物の様々な倍率での例示的なSEM画像を示す。示されるように、結晶は、平均長が1μm超、平均幅が約0.5μm、及び平均厚さが0.1μm未満である柱状形態を有する。
【0060】
実施例2
23mLテフロン(登録商標)オートクレーブ中で、0.72gの水酸化1,3,4-トリメチルイミダゾリウム水溶液(0.98mmol OH-/g)を0.17gのLiOH・H2O及び7.22gの脱イオン水と混合した。次に、4.0gのアルミナ被覆シリカ(SAR=100、固形分26.5%、Nalco)、続いてゼオライトTONの種結晶を添加し、よく混合した。密閉したオートクレーブを43rpmで回転させながら170℃で3日間加熱した。濾過により材料を回収し、多量の水で洗浄し、最後に85℃で風乾した。
【0061】
合成したままの材料を実施例1に記載の方法に従って焼成した。
【0062】
焼成した材料の粉末XRDパターンを
図3に示す。これは、材料がTON骨格ゼオライトであることを示している。
図4のA及びBは、生成物の様々な倍率での例示的なSEM画像を示す。示されるように、結晶は、平均長が1μm超及び平均厚さが0.1nm未満である束針状の形態であった。
【0063】
実施例3
23mLテフロン(登録商標)オートクレーブ中で、0.72gの水酸化1,3,4-トリメチルイミダゾリウム水溶液(0.98mmol OH-/g)を0.096gのLiOH・H2O、1.76gの1M KOH及び5.54gの脱イオン水と混合した。次に、4.0gのアルミナ被覆シリカ(SAR=100、固形分26.5%、Nalco)、続いてゼオライトTONの種結晶を添加し、よく混合した。密閉したオートクレーブを43rpmで回転させながら170℃で3日間加熱した。濾過により材料を回収し、多量の水で洗浄し、最後に85℃で風乾した。
【0064】
合成したままの材料を実施例1に記載の方法に従って焼成した。
【0065】
焼成した材料の粉末XRDパターンを
図5に示す。これは、材料がTON骨格ゼオライトであることを示している。
図6のA及びBは、生成物の様々な倍率での例示的なSEM画像を示す。示されるように、結晶は、平均長が1μm超、平均幅が約0.1μm、及び平均厚さが100nm未満である柱形の束針状の形態であった。
【0066】
実施例4
23mLテフロン(登録商標)オートクレーブ中で、1.91gの水酸化1,3,4-トリメチルイミダゾリウム水溶液(0.98mmol OH-/g)を0.085gのLiOH・H2O及び3.42gの脱イオン水と混合した。次に、1.0gのCBV780 Yゼオライト(SAR=80)、続いてゼオライトTONの種結晶を添加し、よく混合した。密閉したオートクレーブを43rpmで回転させながら150℃で3日間加熱した。濾過により材料を回収し、多量の水で洗浄し、最後に85℃で風乾した。
【0067】
合成したままの材料を実施例1に記載の方法に従って焼成した。
【0068】
焼成した材料の粉末XRDパターンを
図7に示す。これは、材料がTON骨格ゼオライトであることを示している。
図8のA及びBは、生成物の様々な倍率での例示的なSEM画像を示す。示されるように、結晶は、平均寸法が1μm×1μm未満、平均厚さが50nm未満の不規則形状小板の形態であった。
【0069】
実施例5
125mLテフロン(登録商標)オートクレーブ中で、5.38gの水酸化1,3,4-トリメチルイミダゾリウム水溶液(0.88mmol OH-/g)を27.24gの1M KOH及び21.2gの脱イオン水と混合した。次に、21.0gのアルミナ被覆シリカ(SAR=35;固形分24.5%、Nalco)、さらに7.02gのLUDOX(登録商標)AS-30コロイダルシリカ、続いてゼオライトTONの種結晶を添加し、よく混合した。密閉したオートクレーブを43rpmで回転させながら175℃で2日間加熱した。濾過により材料を回収し、多量の水で洗浄し、最後に85℃で風乾した。
【0070】
合成したままの材料を実施例1に記載の方法に従って焼成した。
【0071】
焼成した材料の粉末XRDパターンを
図9に示す。これは、材料がTON骨格ゼオライトであることを示している。
図10は、生成物の例示的なSEM画像を示す。示されるように、結晶は小さい結晶サイズの繊維質の束針状の形態であった。
【0072】
次に、焼成した材料を、硝酸アンモニウム溶液中で加熱することによりアンモニウム形態に変換した(典型的には、H2O10mL中に1gのNH4NO3/1gのゼオライト、85℃で少なくとも3時間)。その後、材料を濾過した。これを2回繰り返し、合計3回の交換を行った。最後に、導電率が100μS/cm未満になるまで脱イオン水で材料を洗浄し、85℃で風乾した。
【0073】
n-プロピルアミン昇温脱着法(TPD)を用いて酸点密度を特性決定したところ、522μmol H+/gであることが判明した。
【0074】
窒素微細孔容積は0.095cm3/gであることが判明し(tプロット解析)、BET表面積は232.6m2/gであった。
【0075】
材料のSARは、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)によれば、44.7であることが判明した。
【0076】
パラジウム交換して0.5重量%Pdにするために、1.6gのNH4
+形態の材料を15.3gの脱イオン水及び7.0gの0.156N NH4OH溶液、続いて1.6gのパラジウム溶液と混合した。パラジウム溶液は、21gの脱イオン水及び3gの0.148N NH4OH溶液に0.36gのPd(NH3)4(NO3)2を混ぜ合わせることにより調製した。次に、pHを確認し、必要に応じて、pH10に達するまで濃水酸化アンモニウムを滴下することにより10に調整した。室温で3日間放置した後、pHを再度確認し、必要に応じて10に再調整し、さらにもう1日放置した。濾過により材料を回収し、脱イオン水で洗浄し、85℃で一晩風乾した。Pd形態の材料を乾燥空気中、1℃/分で120℃まで昇温して120℃で180分間保持した後、1℃/分で482℃まで加熱して482℃で180分間保持することにより焼成した。最後に、材料を5kpsiでペレット化し、粉砕して、20~40メッシュにふるい分けした。
【0077】
実施例6
125mLテフロン(登録商標)オートクレーブ中で、5.37gの水酸化1,3,4-トリメチルイミダゾリウム水溶液(0.88mmol OH-/g)を27.18gの1M KOH及び20.1gのDI水と混合した。次に、29.0gのアルミナ被覆シリカ(SAR=80;固形分26.9%、Nalco)、続いてゼオライトTONの種結晶を添加し、よく混合した。密閉したオートクレーブを43rpmで回転させ、175℃で2日間加熱した。濾過により材料を回収し、多量の水で洗浄し、最後に85℃で風乾した。
【0078】
実施例5に記載の方法に従って材料を焼成し、アンモニウム形態に変換した。
【0079】
焼成した材料の粉末XRDパターンを
図11に示す。これは、材料がTON骨格ゼオライトであることを示している。
図12のA及びBは、生成物の様々な倍率での例示的なSEM画像を示す。示されるように、結晶は、結晶サイズが極小である、やや層状の形態を有している。
【0080】
n-プロピルアミンTPDを用いて酸点密度を特性決定したところ、340μmol H+/gであることが判明した。
【0081】
窒素微細孔容積は0.10cm3/gであることが判明し(tプロット解析)、BET表面積は240.1m2/gであった。
【0082】
材料のSARは、ICP-MSによれば、70.1であることが判明した。
【0083】
実施例5に記載の方法に従って、0.5重量%Pdへの交換を実施した。
【0084】
実施例7
n-ヘキサデカンの水素転化率
0.5gのパラジウム交換試料を、触媒の上流にアランダムを充填した長さ23インチ×外径0.25インチのステンレス鋼反応チューブの中心に充填し、原料を予熱した(全圧1200psig;1気圧及び25℃で測定した場合、順流の水素速度が160mL/分;順流の液体供給速度が1mL/時)。最初に全材料を流動水素中、約315℃で1時間還元した。生成物は、30分ごとに1回、オンラインキャピラリーガスクロマトグラフィー(GC)により分析した。GCからの生データを自動データ収集/処理システムにより収集し、生データから炭化水素転化率を計算した。
【0085】
転化率は、他の生成物(イソ-C16異性体を含む)を生成するために反応したn-ヘキサデカンの量であると定義した。収率は、n-C16以外の生成物の重量パーセントとして表され、産出生成物であるイソ-C16が含まれた。転化率96%での結果を表3に報告する。
【表3】
【0086】
実施例8
n-デカンの水素転化率
触媒試験のために、0.5gのパラジウム触媒(600℃での熱重量分析により決定された無水試料の重量)を、触媒の上流にアランダムを充填した長さ23インチ×外径0.25インチのステンレス鋼反応チューブの中心に充填し、原料を予熱した(全圧1200psig;1気圧及び25℃で測定した場合、順流の水素速度が12.5mL/分;順流の液体供給速度が1mL/時)。最初に触媒を流動水素中、315℃で1時間還元した。反応は230℃~310℃の温度で実施した。生成物は、60分ごとに約1回、オンラインキャピラリーGCにより分析した。GCからの生データを自動データ収集/処理システムにより収集し、生データから炭化水素転化率を計算した。転化率は、他の生成物(イソ-C10を含む)を生成するために反応したn-デカンのモル%量であると定義した。イソ-C10の収率は、n-デカン以外の生成物のモルパーセントとして表される。分解生成物(C10未満)の収率は、分解生成物に変換されたn-デカンのモルパーセントとして表される。結果を
図13から
図18に示し、主要な触媒性能指標を表4に示す。
【0087】
変性拘束指数(CI
*)は、総異性体収率約5%での5-メチルノナンに対する2-メチルノナンの比として計算され、これを表4に示す。
【表4】
【国際調査報告】