(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(54)【発明の名称】半結晶性粉末ポリアリールエーテルスルホンおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20240205BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240205BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20240205BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20240205BHJP
C08G 65/38 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
B29C64/314
B33Y70/00
B29C64/106
B29C64/153
C08G65/38
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023541957
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(85)【翻訳文提出日】2023-09-06
(86)【国際出願番号】 US2022013653
(87)【国際公開番号】W WO2022173587
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514073570
【氏名又は名称】ジャビル インク
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】ガードナー,トーマス ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ユー,ジョン ゴードン
【テーマコード(参考)】
4F213
4J005
【Fターム(参考)】
4F213AA34
4F213AC04
4F213AR06
4F213AR15
4F213AR20
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL96
4J005AA24
4J005AA25
4J005BA00
4J005BC00
(57)【要約】
積層製造に有用な半結晶性ポリアリールエーテルスルホン(PAES)は、溶液を効果的に形成するのに適した温度で非晶質ポリアリールエーテルスルホンを極性非プロトン性ハロゲン化炭化水素溶媒中に溶かす工程、およびその後、自発的に、その溶液から半結晶性ポリアリールエーテルスルホンの再沈殿をもたらす工程を含む方法によって、製造することができる。この半結晶性ポリアリールエーテルスルホンは、少なくとも30質量%の結晶化度を有することがある。半結晶性PAESは、積層製造中に加熱され、溶融し、互いに層に一体化したときに、実質的に再結晶化せずに、冷め、残留応力が低い、変形のない物品を形成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半結晶性ポリアリールエーテルスルホンを形成する方法において、
(i)非晶質であるか、または約30質量%未満の結晶化度を有する初期ポリアリールエーテルスルホンを、ある温度で極性非プロトン性ハロゲン化炭化水素溶媒中に溶かして、溶液を形成する工程、および
(ii)溶けたポリアリールエーテルスルホンを前記溶液から沈殿させて、前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンを形成する工程であって、前記初期ポリアリールエーテルスルホンが非晶質である場合、該半結晶性ポリアリールエーテルスルホンは、少なくとも約10%から約100%の結晶化度を有し、前記初期ポリアリールエーテルスルホンが30%未満の結晶化度を有する場合、該半結晶性ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度は、該初期ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度より少なくとも約20%大きい、工程、
を有してなる方法。
【請求項2】
前記温度が前記方法の最中ずっと同じである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリアリールエーテルスルホンが前記溶液から自発的に沈殿する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記温度が約20℃から約60℃である、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒が、1から3の炭素を有するハロゲン化炭化水素からなる、請求項2から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化炭化水素がハロアルカンである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒がクロロアルカンからなる、請求項1から6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒がジクロロメタンからなる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記溶かす工程および前記沈殿させる工程が、周囲条件で行われる、請求項1から8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記初期ポリアリールエーテルスルホンが、最大で15質量%の結晶化度を有する、請求項1から9いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記初期ポリアリールエーテルスルホンが実質的に非晶質である、請求項1から10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記初期ポリアリールエーテルスルホンが、
【化1】
で表されるものからなり、式中、nは、重量平均分子量が約30から200kDaであるような整数値であり、mは0から10であり、R
1は、5から10の炭素を有するアリール基であり、R
2は、各発生毎に、独立して、C
1~C
20アルキル、C
5~C
18アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環である、請求項1から11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
-R
1-S(=O)
2-R
1-が、
【化2】
または
【化3】
で表される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
R
2が、独立して、C
1~C
20アルキル、C
5~C
12アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環である、請求項12または13記載の方法。
【請求項15】
前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンが、30質量%超から60質量%の結晶化度を有する、請求項1から14いずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンが40質量%から55質量%の結晶化度を有する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンを粉砕する工程をさらに含む、請求項1から16いずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記粉砕する工程が、前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンが脆い温度で行われる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記粉砕する工程が行われる温度が、-75℃未満である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記溶媒が、前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンが、最大で約0.5%から微量の溶媒を有するように除去される、請求項1から19いずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記溶媒が、ハロゲンを含有する溶媒であり、前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホン中のハロゲンの量が、約0.1%から微量である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記ハロゲンが塩素である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
30質量%超から100質量%の結晶化度を有するポリアリールエーテルスルホン。
【請求項24】
前記結晶化度が35質量%から60質量%である、請求項23記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項25】
前記結晶化度が約45質量%から55質量%である、請求項24記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項26】
前記ポリアリールエーテルスルホンが、
【化4】
で表されるものからなり、式中、nは、該ポリアリールエーテルスルホンが、約30から200kDaの重量平均分子量を有するような整数値であり、mは0から10であり、R
1は、5から10の炭素を有するアリール基であり、R
2は、各発生毎に、独立して、C
1~C
20アルキル、C
5~C
18アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環である、請求項23から25いずれか1項記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項27】
R
2がC
5~C
12アリール基であり、mが少なくとも1である、請求項26記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項28】
R
1がフェニレン基である、請求項26または27記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項29】
前記ポリアリールエーテルスルホンが、ポリ(1,4-フェニレン-エーテル-エーテル-スルホン)、ポリフェニレンスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(ビスフェノール-Aスルホン)、またはその混合物である、請求項23から28いずれか1項記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項30】
前記ポリアリールエーテルスルホンが、最大で150マイクロメートルの相当球形のD
90粒径を有する粉末である、請求項23から29いずれか1項記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項31】
前記ポリアリールエーテルスルホンが、体積で約1マイクロメートルから100マイクロメートルの平均粒径を有する、請求項23から30いずれか1項記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項32】
前記平均粒径が、約30マイクロメートルから約90マイクロメートルである、請求項31記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項33】
前記ポリアリールエーテルスルホンが、質量で0.1%から微量までの量のハロゲンを有する、請求項23から32いずれか1項記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項34】
前記ハロゲンが塩素である、請求項33記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項35】
物品を形成する方法であって、請求項23から34いずれか1項記載のポリアリールエーテルスルホンをその溶融温度より高い温度に加熱する工程、および該ポリアリールエーテルスルホンを物品に造形する工程を含む方法。
【請求項36】
前記造形する工程が、積層製造によるものである、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記積層製造が、ポリアリールエーテルスルホンの粉末の粉末床からの該粉末の直接溶融による選択的溶解からなる、請求項36記載の方法。
【請求項38】
複数の融合されたポリアリールエーテルスルホン層からなる積層製造された物品であって、そのポリアリールエーテルスルホンは、約0.1%からほぼ微量のハロゲン濃度を有する、積層製造された物品。
【請求項39】
前記ハロゲンが塩素である、請求項38記載の積層製造された部品。
【請求項40】
前記ポリアリールエーテルスルホンが、
【化5】
で表されるものからなり、式中、nは、重量平均分子量が約30から200kDaであるような整数値であり、mは0から10であり、R
1は、5から10の炭素を有するアリール基であり、R
2は、各発生毎に、独立して、C
1~C
20アルキル、C
5~C
18アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環である、請求項38または39記載の積層製造された部品。
【請求項41】
R
2がC
5~C
18アリールであり、mが少なくとも1である、請求項40記載の積層製造された部品。
【請求項42】
R
2がC
5~C
12アリールである、請求項41記載の積層製造された部品。
【請求項43】
前記ポリアリールエーテルスルホンが、ポリ(1,4-フェニレン-エーテル-エーテル-スルホン)、ポリフェニレンスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(ビスフェノール-Aスルホン)、またはその混合物である、請求項38から42いずれか1項記載の積層製造された部品。
【請求項44】
【化6】
で表されるポリアリールエーテルスルホンを含むポリアリールエーテルスルホンであって、式中、nは、該ポリアリールエーテルスルホンが約30から1000kDaの重量平均分子量を有するような整数値であり、mは0から10であり、R
1は、5から10の炭素を有するアリール基であり、R
2は、各発生毎に、独立して、C
1~C
20アルキル、C
5~C
12アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環であり、前記ポリアリールエーテルスルホンは、少なくとも10%の結晶化度を有する、ポリアリールエーテルスルホン。
【請求項45】
溶融および冷却の際に、前記ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度が、5質量%未満に低下する、請求項44記載のポリアリールエーテルスルホン。
【請求項46】
溶融および冷却の後に、前記ポリアリールエーテルスルホンが実質的に非晶質である、請求項45記載のポリアリールエーテルスルホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半結晶性粉末ポリアリールエーテルスルホン(PAES)、その製造方法、および積層製造におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元(3D)プリンティングとしても知られている、積層製造は、プリンティング技術だけでなく、実験的試作成形の開発、および製品開発能力において著しく進歩している。3Dプリンティングで、実質的にいかなる形状の物理的物体も形成することができる。
【0003】
典型的に、構築すべき物体は、コンピュータ支援設計(CAD)ソフトウェアを使用して、実質的に3Dのデジタル的にモデル化された画像として作られる。その物体モデルは、薄層に実質的に「スライス」され、その薄層は、最終的に、モデルが3Dプリンタで物理的にどのように構築されるかのパラメータを提供する。3Dプリンティングの従来の方法は、各層のプリンティングパラメータに基づいてモデル化された画像の形状にしたがって、材料を薄層に連続的に堆積させるプリントヘッドを含むので、この実質的なスライス操作が必要とされる。一般的なフィラメントに基づく方法(例えば、溶融フィラメント製造「FFF」、例えば、特許文献1および2を参照のこと)において、プリントヘッドは、プリンタの台座に平行な多数の直線方向に動きながら、加熱された材料(例えば、熱可塑性高分子)を堆積させ、一方で、その台座またはプリントヘッドは、互いから離れる垂直方向に段階的に動く。プリントヘッドは、物体の最終的な最上層が堆積され、それゆえ、物体が完全に形成されるまで、材料を堆積し続ける。
【0004】
積層製造の粉末に基づく方法には、以下のものがある:選択的レーザ焼結(SLS)は、連続層で粉末材料を溶融するためにレーザを使用する3Dプリンティング技術である(例えば、特許文献3を参照のこと)。高速焼結(HSS)およびマルチジェットフュージョン(MJF)3Dプリンティングでは、粉末材料上に赤外線吸収(IR吸収)インクの連続層を同様に堆積させる多数のジェットが利用され、その後、粉末層は、選択的溶融のためにIRエネルギーに暴露される。電子写真3Dプリンティングでは、物体を台座から層毎に構築する回転式光伝導体が利用される。
【0005】
選択的レーザ焼結(SLS)、マルチジェットフュージョン(MJF)、および高速焼結(HSS)3Dプリンティング方法では、同じタイプの浮遊性の固定されていない粉末床が使用される。それらには、一般に、積層構築された物体が、溶融相を得るために加熱機構が異なるだけで、同様の応力を経験するので、プリンティングプロセスに適合するための同じ材料要件がある。典型的に、プリントされた物体に予測される残留応力を決定するために、3Dプリント物体の自由物体図を使用することができる。これは、物体をうまく構築するために必要である。残留応力が高すぎると、その物体は、変形するか、または許容範囲を超えて形が崩れることになる。
【0006】
残留応力は、典型的に、溶融温度と再結晶化温度との間に十分に大きい範囲(window)を有する結晶性または半結晶性熱可塑性高分子を使用することによって、これらの粉末床に基づく3Dプリンタについて最小にされてきた。残念ながら、これは、SLSおよびMJF法を使用して大きいまたは複雑な部品をプリントするためにうまく使用されてきた高分子(例えば、ポリアミド)に限定され、それゆえ、これらの積層製造方法の使用が制限されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5121329号明細書
【特許文献2】米国特許第5503785号明細書
【特許文献3】米国特許第5597589号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、SLS、HSS、MJF、および上述したものなどの方法によって、積層製造物品を製造するために、1つ以上の問題を回避する熱可塑性高分子を提供することが望ましいであろう。特に、高い強度、靱性、高温抵抗、難燃性、およびある場合には、光学的に透明な物品を提供できる熱可塑性高分子を提供することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人は、結晶化度が低く(約30質量%未満)、望ましく非晶質であるポリアリールエーテルスルホン(「PAES」)が、意外なことに、より高い結晶化度(例えば、約30%超から実質的に結晶性まで)を有する半結晶性PAESを形成できるプロセスを見いだした。意外なことに、この半結晶性PAESでは、SLS、HSSまたはMJFなどのプロセスによる積層製造に使用された場合、残留応力および変形の問題のほとんどが避けられる。これは、制限せずに、特有の温度で溶融するが、冷却の際に、どの著しい程度までも再結晶化できず(例えば、5%未満の結晶化度または実質的に非晶質)、一方で、実質的な残留応力または変形が発生せずに、冷却中に高分子の緩和を可能にする、溶融温度とガラス転移温度(Tg)との間に十分に広い間隔を示す本発明のPAESのためであると考えられる。
【0010】
本発明の第1の態様は、半結晶性ポリアリールエーテルスルホンを形成する方法において、(i)非晶質であるか、または約30質量%未満の結晶化度を有する初期ポリアリールエーテルスルホンを、ある温度で極性非プロトン性ハロゲン化炭化水素溶媒中に溶かして、溶液を形成する工程、および(ii)その溶液からのポリアリールエーテルスルホンの沈殿を可能にして、半結晶性ポリアリールエーテルスルホンを形成する工程であって、初期ポリアリールエーテルスルホンが非晶質である場合、半結晶性ポリアリールエーテルスルホンは、少なくとも約10%から約100%の結晶化度を有し、初期ポリアリールエーテルスルホンが30%未満の結晶化度を有する場合、半結晶性ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度は、初期ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度より少なくとも約20%大きい、工程を有してなる方法である。
【0011】
本発明の第2の態様は、30体積%超から100体積%の結晶化度を有するポリアリールエーテルスルホンである。
【0012】
本発明の第3の態様は、物品を形成する方法であって、上記第1または第2の態様のポリアリールエーテルスルホンをその溶融温度より高く加熱する工程、およびそのポリアリールエーテルスルホンを物品に造形する工程を含む方法である。
【0013】
本発明の第4の態様は、複数の融合されたポリアリールエーテルスルホン層からなる積層製造された物品であって、そのポリアリールエーテルスルホンは、約0.1%からほぼ微量のハロゲン濃度を有する、物品である。
【0014】
【0015】
を有するポリアリールエーテルスルホンであって、式中、nは、重量平均分子量が約30から1000kDaであるような整数値であり、mは0から10であり、R1は、5から10の炭素を有するアリール基であり、R2は、各発生毎に、独立して、C1~C20アルキル、C5~C12アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環であり、少なくとも10%の結晶化度を有するポリアリールエーテルスルホンである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の半結晶性PAESは、物品、および特に、生体適合性用途(医療)、配管設備用途、航空宇宙用途、および自動車用途など、PAES高分子の性質(例えば、耐熱性および耐薬品性)を利用する用途のための積層製造物品を製造するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】冷凍粉砕の前後の本発明のポリアリールエーテルスルホンの粉末の一連の異なる倍率の顕微鏡写真
【
図2】粉砕後のポリアリールエーテルスルホンの粒径の体積プロット
【
図3】本発明のポリアリールエーテルスルホンの示差走査熱量測定のプロット
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここに提示された説明と実例は、本発明、その原理、およびその実用的応用を当業者に知らせる意図がある。記載された本開示の特定の実施の形態は、包括的であること、または本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0019】
ここに用いられているような「1つ以上」は、列挙された構成要素の少なくとも1つ、または複数が、開示されたように使用されてもよいことを意味する。任意の成分または構成要素の機能性は、原材料の不完全さ、反応体の不完全な変換、および副生成物の形成のために、平均的な機能性であることがあるのが理解されよう。
【0020】
先に述べたように、非晶質または低結晶化度のポリアリールエーテルスルホン(PAES)は、溶媒中に溶けたときに、自発的な沈殿を経ることがあり、ここで、沈殿した半結晶性PAESは、約30質量%より大きい結晶化度を有することがあるのが分かった。
【0021】
ある実施の形態において、初期PAESは、ある程度の結晶化度を有することがあるが、溶解と沈殿の際に、沈殿した半結晶性PAESは、初期PAESと比べて、少なくとも20%、30%、40%または50%だけ増加している結晶化度を有し、半結晶性PAESの結晶化度は、30%超、40%超、または45%超から55%、60%、70%、80%、90%または実質的に結晶性までのどこかであることが望ましい。低結晶化度のPAESの初期結晶化度は、典型的に、ここに記載されたように決定された少なくとも約0.1%または1%など、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満からある微量の結晶化度である。
【0022】
別の実施の形態において、初期PAESは、ある程度の結晶化度を有することがあるが、溶解と沈殿の際に、沈殿した半結晶性PAESの結晶化度は、初期PAESと比べて、少なくとも20%、30%、40%または50%だけ増加している結晶化度を有し、半結晶性PAESの結晶化度は、30%超、40%超、または45%超から55%、60%、70%、80%、90%または実質的に結晶性までのどこかであることが望ましい。
【0023】
典型的に、そのPAESは、
【0024】
【0025】
で表され、式中、nは、1、10、または20から1000、500または200kDaのどこかの重量平均分子量(Mw)を有するPAESを生じる任意の整数値であり、mは、典型的に、0から10で変動し、R1の各発生は、以下に限られないが、1,2-、1,3-、または1,4-フェニレン、もしくは以下に限られないが、4,4’-ジフェニレン等のジフェニレンなどの約5~10の炭素原子の芳香環または縮合環を表し、R2の各発生は、独立して、C1~C20アルキル、C5~C18またはC5~C12芳香環もしくは5~10の炭素原子からなる縮合環、またはその組合せである。断片構造-R1-S(=O)2-R1-も、式2および3に示された縮合複素環構造のいずれかを表すことがあり、R1基の総数の少なくとも60%が芳香族であるか、または各R2は、少なくとも1つのC6~30の芳香族基を含む。断片構造-R1-S(=O)2-R1-も、式2および3に示された縮合複素環構造のいずれかを表すことがある:
【0026】
【0027】
または
【0028】
【0029】
実施の形態において、R1およびR2は、アリールまたはジアリール化合物の残基であることがある:
【0030】
【0031】
別の実施の形態において、式(1)のPAESは、mは、ゼロ以上の整数値(典型的に、1から10、6、5、4、3、または2)を有し、各R2は、芳香族ジヒドロキシ化合物などのジヒドロキシ化合物の残基である:
【0032】
【0033】
【0034】
式(3)、(4)、および(5)において、各R3、R4、およびR5は、独立して、例えば、以下に限られないが、ハロゲン原子(例えば、塩素または臭素)、C3~20アルコキシ、C1~20ヒドロカルビル基(例えば、C1~20アルキル、ハロゲン置換C1~10アルキル、C6~10アリール、またはハロゲン置換C6~10アリール)であり、p、q、およびrは、各々独立して0から4の整数であり、よって、p、q、またはrが4未満である場合、環の各未置換炭素の価数は、水素で満たされ、Xは、2つのフェノール基を接続する架橋基を表し、ここで、各C6アリーレン基の架橋基とヒドロキシル置換基は、C6アリーレン基上で互いにオルト、メタ、またはパラ(好ましくはパラ)に配置され、X基は、例えば、単結合、-O-、-S-、-S(=O)-、-S(=O)2-(例えば、ビスフェノール-S)、-C(=O)-、または環式または非環式、芳香族または非芳香族であり得、さらに、ハロゲン、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、またはリンなどの複素原子をさらに含み得る、C1~20有機基からなる。
【0035】
特別なジヒドロキシ化合物としては、以下に限られないが、レゾルシノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(アリール環の各々がパラ置換されており、Xは、式(3)におけるイソプロピリデンである、「ビスフェノールA」または「BPA」)、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-フタルイミジン、2-フェニル-3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン(「N-フェニルフェノールフタレインビスフェノール」、「PPPBP」、または3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニルイソインドリン-1-オン)、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(「イソホロンビスフェノール」としても公知である)が挙げられる。
【0036】
適切なポリアリールエーテルスルホンの例は、
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
の任意の1つ以上であることがある。溶融なPAES高分子の例に:テキサス州、アーリントン所在のCurbel Plastics Inc.から商標名RADELとして市販されているもの、UJU New Materials,Ltd.からPARYLSで市販されているもの、およびジョージア州、アルファレッタ所在のSolvay Specialty Polymers USA,LLCからUDELで市販されているものなどの、ポリエーテルスルホン(PSU、カタログ番号25667-42、式7)、ポリ(1,4-フェニレン-エーテル-エーテル-スルホン)(PESまたはPEES、カタログ番号28212-68-2、式8)、ポリフェニレンスルホン(PPSU、カタログ番号25839-81-0、式9)、およびポリ(ビスフェノール-Aスルホン)(PSF、カタログ番号25135-51-7、式10)がある。
【0042】
非晶質PAESは、ある温度で非プロトン性極性ハロゲン化炭化水素溶媒に解け、その後、沈殿し得る。沈殿は、溶解および再沈殿の間中ずっと一貫した温度(すなわち、±5℃以内)で行われる。しかしながら、沈殿は、そうするのが望ましければ、溶液を冷却することによって、促進してもよい。言い換えると、沈殿は、自発的に生じ得る。温度は、初期PAESの溶解および半結晶性PAESの沈殿によるだけでも変動することがあるのが理解されよう。「自発的」とは、非溶媒の添加、播種、または冷却など、外因的沈殿手段が用いられないことを意味する。初期PAESの溶解を促進するために加熱が用いられる場合、どのような冷却も、遅く、周囲条件下で溶液を冷ますだけで生じる冷却を超えないと考えられる。別の実施の形態において、冷却速度は、例えば、沈殿した粒子の粒径または形態を変えるために、冷却によって、加速してもよい。ある実施の形態において、溶解と再沈殿は、どのような加熱または冷却も適用せずに、周囲条件(約20℃から約30℃およびほぼ大気圧)で行われる。溶解と沈殿は、揮発性溶媒の損失を制限し、溶媒の回収を促進するために、閉鎖系で行われることがある。
【0043】
初期PAESの溶解を促進するために、初期PAESを、当該技術分野で公知のものなどどのような適切な方法によって、粉砕しても、切断しても、細断しても、微粉砕しても、またはサイズを減少させてもよい。溶解と沈殿は、撹拌しながら行うことが望ましい。所望の剪断を実現するために、例えば、羽根車、磁気撹拌装置、ホモジナイザー、コロイドミル、超音波撹拌、キャビテーションなどの使用を含む、当該技術分野で公知のものなど、どの適切な撹拌方法を使用してもよい。有用な撹拌の例は、どの市販のミキサで実現されてもよい。
【0044】
剪断のレベル(例えば、撹拌機の回転速度)および反応器の冷却速度は、沈殿したPAESの粒径に影響を与えるように変えてもよいことが認識されよう。例えば、より速い撹拌は、より遅い撹拌と比べて、より小さい粒子を生じるであろうし、より速い冷却速度は、より遅い冷却速度と比べて、より小さい粒子が生じるであろう。
【0045】
先に述べたように、非晶質であることが望ましい、初期PAESは、非プロトン性極性ハロゲン化炭化水素溶媒中に溶けた場合、自発的に沈殿して、本発明のPAESを形成できることが見いだされた。説明のための非プロトン性極性ハロゲン化炭化水素溶媒は、例えば、ハロゲン化脂肪族またはハロゲン化芳香族炭化水素、および特に、最大で約6の炭素原子を有するもの、または構造に1つ以上のハロゲン原子を含む芳香族化合物であることがある。詳しくは、ハロゲン化炭化水素は、塩素化炭化水素、および特に、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、または1,1,1-トリクロロエタンなどの塩素化アルカンまたはアルケン、もしくは以下に限られないが、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、または1,2,3-トリクロロベンゼンなどの塩素化アレーン、もしくはその任意の組合せであってよい。特定の実施の形態において、溶媒は、冷却も加熱も施さずに周囲条件で使用されるジクロロメタンである。
【0046】
典型的に、溶解の温度は、溶媒の沸点より低く、凝固点までのどの温度であってもよい。一般に、その温度は、20℃から約60℃または40℃であり、繰り返すために、溶解と沈殿の際中に、一定(5℃以内)に維持されることが望ましいであろう。溶解にかかる時間は、どれだけの時間であってもよく、2または3分、30分、60分から、24時間、10時間、5時間または2時間までに及ぶことがある。沈殿は、同じ期間で行われてもよい。先に述べたような圧力は、周囲圧力またはどの有用な圧力であってもよく、溶媒の回収を促進し、環境への揮発減量を最小にするために、閉鎖系で行われることが望ましい。
【0047】
沈殿した半結晶性PAESは、当該技術分野で公知のものなど、どの適切な方法によって溶媒から分離されてもよい。例示の方法は、溶媒の遠心分離、蒸発または昇華(例えば、真空または凍結乾燥の適用の有無にかかわらない加熱)、もしくは直列または並列の任意の組合せにより加速することのできる、スクリーニング、濾過、沈降およびデカンテーションの1つ以上であることがある。たとえ、半結晶性PAESが溶媒から分離されたとしても、誘導結合プラズマ(ICP)質量分析技術などの公知の技術によって半結晶性PAES中に存在するハロゲンの量で決定されるであろう、質量で、約0.1%、500ppm(百万分率)、250ppm、100ppm、10ppmからほぼ微量(約1ppb)など、常に少量が残る。ある実施の形態において、好ましくは非晶質である、初期PAESは、ハロゲンを含まず(すなわち、ハロゲン置換基を有さない)、形成される半結晶性PAESは、上述した量のハロゲンを有し、そのハロゲンは、例えば、本発明の方法を行う際に使用される任意の残留ハロゲン化溶媒から生じる塩素であることが望ましい。
【0048】
前記方法は、結果として得られた半結晶性PAESの粉砕をさらに含むことがある。粉砕は、当該技術分野で公知のものなど、どの適切な方法によって行われてもよい。実例として、冷凍粉砕と一般に称されるものなど、半結晶性PAESが砕けやすくなる温度での製粉が使用されることがある。一般に、冷凍粉砕の温度は、約0℃未満、-25℃未満、-50℃未満から、約-75℃、-100℃、-150℃、または-190℃のどの温度であってもよい。ある実施の形態において、ドライアイスまたは液体窒素を使用して、冷却が行われる。
【0049】
本発明の半結晶性PAESは、少なくとも約30質量%から実質的に結晶性の結晶化度を有し、結晶化度の度合いが高いほど望ましい。結晶化度が、35%、40%または45%から、実質的に結晶性、90%、80%、75%、60%または55%のどこかであることが望ましい。結晶化度は、当該技術分野で公知のものなど、どの適切な方法によって決定されてもよい。実例として、結晶化度のパーセントは、例えば、Rigaku SmartLab X線回折計を使用することなど、広角X線回折(WAXD)を含むX線回折により、またはTA Instruments DSC250示差走査熱量計ASTM D3418-15を使用することなど、示差走査熱量測定(DSC)により、決定することができる。
【0050】
半結晶性PAESは、望ましくは、積層製造物品を製造するのに有用な粒径を有し、典型的に、体積で、約1マイクロメートル(μm)、10μm、20μmまたは30μmから、150μm、125μm、100μmまたは90μmの、中央粒径(D50)を有する。同様に、粉末の一貫した加熱と溶解を可能にするために、半結晶性PAESが、体積で、最大で300μm、200μmまたは150μmのD90および少なくとも0.1μm、0.5μmまたは1μmのD10を有することが望ましい。D90は、粒子の90体積%がそのサイズ以下である、粒径分布における粒径(相当球径)を意味し、同様に、D50は、粒子の少なくとも50体積%がそのサイズ未満である、粒径分布における粒径(相当球径)を意味し、D10は、粒子の少なくとも10体積%がそのサイズ未満である、粒径分布における粒径(相当球径)を意味する。粒径は、例えば、十分な数の粒子(約100から約200の粒子)のレーザ回折または顕微鏡写真の画像解析を含む、当該技術分野で公知のものなど、どの適切な方法によって決定されてもよい。代表的なレーザ回折計は、Microtrac S3500などのMicrotracにより製造されているものである。
【0051】
本発明の方法により製造された半結晶性PAESにより、変形したり、望ましくない量の残留応力を有したりしない造形物品を形成できることが分かった。例えば、以下に限られないが、半結晶性PAESは、SLS、MJF、HSSまたは電子写真術などの積層製造方法によって、物体に製造されることがある。実例として、SLSにおいて、半結晶性PAES粉末の層が、粉末の溶融温度より低い固定温度で床上に堆積され、その床の所定の(選択された)区域が、上述したようにレーザ制御され、向けられるような加熱源を使用して、互いに焼結(融合)される。次に、複数の層が、連続して堆積されて、その層内と先の層に焼結されて、積層製造された部品を構築する。
【0052】
意外なことに、半結晶性粉末は、溶融し、互いに融合し、次いで、実質的に再結晶化せず、変形したり、層内、および特に積層製造物品の複数の層間で、望ましくない量の残留応力を有したりしない部品が得られる。この特有の特徴により、制限せずに、特有の溶融温度に加えて、大きい作業範囲が可能になると考えられる。「作業範囲」は、材料が溶融する開始温度(融点、「Tm」)と、材料が再結晶化する開始温度(「Tc」)または非晶質高分子のTg温度との間の温度差である。本発明の半結晶性PAESは、明確な溶融挙動(溶融挙動を示さない同じ組成の非晶質PAESと比べて)を有するが、加熱の際に著しく結晶化せず、Tg温度は融点よりも相当低いので、本発明のPAESは、意外なことに、積層製造方法とそれにより製造される部品にとって有用である。典型的に、作業範囲は、10℃、15℃、または20℃から100℃、50℃、30℃、または25℃までのどこかである。
【0053】
上述したように、半結晶性PAESは、溶融してから冷却した際に、実質的に結晶化しない。「実質的に結晶化しない」とは、溶融と冷却の後の結晶化度が、最大で5%から、半結晶性PAES(すなわち、溶融前)の結晶化度のわずかまたは実質的に非晶質である。典型的に、半結晶性PAESの融点より高い温度に加熱することによる、物品(例えば、積層製造物品)を形成した後の結晶化度は、最大で5%、2%または1%から非晶質であり、非晶質が好ましい。
【0054】
本発明のある実施の形態において、半結晶性PAESは、複数の融合PAES層からなる積層製造物品を製造するめたに使用され、ここで、積層製造物品を製造するために使用されるPAESは、上述したような本発明の半結晶性PAESである。言い換えると、PAESは、上述したようなハロゲン化炭化水素溶媒から生じる、ある量のハロゲンを有するものである。
【実施例】
【0055】
以下の実施例は、本発明のPAESを形成するための方法を説明するために与えられる。全ての部および百分率は、特に明記のない限り、質量に基づく。
【0056】
実施例1:
空気圧駆動式オーバーヘッドスターラーが取り付けられ、15Lのジクロロメタン(「DCM」、99.5%以上、安定化ACS、BDH)が装填された20Lのガラス製反応器に、ペレット形態にある2.25kgのポリフェニルエーテルスルホン(「PPSU」、Paryls F1250またはF1350、UJU New Materials,Ltd.)を徐々に加えた。その混合物を周囲温度および周囲圧力において180rpmの速度で撹拌して、約1.5時間後にポリフェニルエーテルスルホンのDCM溶液を生成した。PPSU粉末の沈殿が、溶解が終わってから2時間以内に始まり、さらに10~12時間後に実質的に完了し、スラリーが形成された。このスラリーを濾過して、ジクロロメタンで濡れた粉末を得て、これを、空気中、対流式オーブン内、真空オーブン内、またはマイクロ波真空オーブン内のいずれかで乾燥させた。再利用のために溶媒をより完全に回収するために、例えば、ロータリーエバポレータで、スラリーからジクロロメタン溶媒を直接蒸発させることも可能である。
【0057】
沈殿過程により得られた半結晶性PPSU粉末を、液体窒素を使用して冷凍粉砕(例えば、Alpine製ピン式ミル内で)し、SLSプリンティングに使用する前に、150μmの網で篩にかけた。
【0058】
密度および流動性。この実施の形態で調製された冷凍粉砕された半結晶性PPSU粉末の平均嵩密度を、例えば、Ray-Ran Apparent Bulk Density Apparatusを使用して、0.59g/cm3であると測定した(ASTM D7481-18-嵩およびタップ密度)。2000タップ後の平均タップ密度を、例えば、Quantachrome Dual Autotapを使用して、0.76g/cm3であると測定した(平均ハウスナー比=1.30、カー指数(Carr’s index)23.0)。ガス比重瓶法による粉砕粉末の平均密度は、例えば、AccuPyc 1340ガス(ヘリウム)比重瓶で、1.35g/cm3であると測定した(ASTM D5965-19)。静止角は、例えば、Copley Scientific BEP2粉末流動性試験機で、30.4°であると測定した(ASTM D6393-14)。雪崩角は、例えば、Mercury Scientific Revolution粉末分析器を使用して、48.6±3.9°であると測定し、動的密度は、0.55g/cm3であると決定され、表面フラクタルは、2.73±35%であると決定された。
【0059】
粒径および分布(PSD)。冷凍粉砕したPPSU粉末のPSDは、Microtrac S3500レーザ回折計を使用して空気中で、値D
90=92.3μm、D
50=45.3μm、D
10=24.7μmを有すると決定された。体積によるプロットが、
図2に示されている。
【0060】
走査型電子顕微鏡検査(SEM)。
図1のSEM画像により、PSDの結果と一致する、典型的なサイズの球状の部分的に凝集した粒子が明らかになった。
【0061】
示差走査熱量測定(DSC)。DSCは、20℃/分の走査速度で行った。ガラス転移が226.22℃で観察され、その後、253.41℃で溶融が始まり、268.79℃でピークとなった(
図3の(A)参照のこと)。溶解のエンタルピーは、21.963J/gであると決定された。冷却の際に、再結晶化は明白ではなかった。しかしながら、ガラス転移が221.39℃で現れ(
図3の(B)参照のこと)、再び、2回目の加熱の際に226.22℃で現れ(
図3の(C)参照のこと)、その後、
図3に示されるように、溶融挙動は観察されなかった。
【0062】
結晶化度のパーセント。半結晶性PPSU粉末の結晶化度のパーセントは、粉末X線回折によって、49.76%である決定された。この値と溶解の測定エンタルピーから、PPSUの100%の結晶性試料の溶解エンタルピーは、44.14J/gである予測できる。
【0063】
半結晶性PAES粉末のSLSプリンティング。実施例1の半結晶性PPSU粉末を、Farsoon ST252Pレーザ焼結システムでのレーザ焼結プロセスに利用した。3キログラムの半結晶性PPSUをその装置の供給ピストンに装填し、ピストン中に沈ませ、セメント振動器を使用して、最適なタップ密度を達成した。不活性窒素雰囲気下で、材料を供給ピストンから物品ピストンへと0.100mmの層厚で逆回転ローラを使用して、層毎の様式で移動させた。近赤外線ヒータからの十分な熱吸収を可能にするために、90秒間隔で層を広げ、その期間で、供給ピストンの温度を60℃から180℃に昇温させ、部品床の温度を60℃から207℃に昇温させた。部品床の温度が、一旦、207℃の設定点に到達したら、選択された区域を固体部品に溶融するために、表1に示された以下の走査システムパラメータを使用して、部品区域を曝露した:
【0064】
【0065】
製造される部品には、薄いディスク、十字架、「窓」試験片、およびASTM D638タイプIVの引張バーがあった。部品は、黄褐色の色合いで半透明であり、裸眼で認識できる変形は示さなかった。成形部品中のPAESは、非晶質であった。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
製造される部品には、薄いディスク、十字架、「窓」試験片、およびASTM D638タイプIVの引張バーがあった。部品は、黄褐色の色合いで半透明であり、裸眼で認識できる変形は示さなかった。成形部品中のPAESは、非晶質であった。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
半結晶性ポリアリールエーテルスルホンを形成する方法において、
(i)非晶質であるか、または約30質量%未満の結晶化度を有する初期ポリアリールエーテルスルホンを、ある温度で極性非プロトン性ハロゲン化炭化水素溶媒中に溶かして、溶液を形成する工程、および
(ii)溶けたポリアリールエーテルスルホンを前記溶液から沈殿させて、前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンを形成する工程であって、前記初期ポリアリールエーテルスルホンが非晶質である場合、該半結晶性ポリアリールエーテルスルホンは、少なくとも約10%から約100%の結晶化度を有し、前記初期ポリアリールエーテルスルホンが30%未満の結晶化度を有する場合、該半結晶性ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度は、該初期ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度より少なくとも約20%大きい、工程、
を有してなる方法。
実施形態2
前記温度が前記方法の最中ずっと同じである、実施形態1に記載の方法。
実施形態3
前記ポリアリールエーテルスルホンが前記溶液から自発的に沈殿する、実施形態1または2に記載の方法。
実施形態4
前記温度が約20℃から約60℃である、実施形態2または3に記載の方法。
実施形態5
前記溶媒が、1から3の炭素を有するハロゲン化炭化水素からなる、実施形態2から4いずれか1つに記載の方法。
実施形態6
前記ハロゲン化炭化水素がハロアルカンである、実施形態5に記載の方法。
実施形態7
前記溶媒がクロロアルカンからなる、実施形態1から6いずれか1つに記載の方法。
実施形態8
前記溶媒がジクロロメタンからなる、実施形態7に記載の方法。
実施形態9
前記溶かす工程および前記沈殿させる工程が、周囲条件で行われる、実施形態1から8いずれか1つに記載の方法。
実施形態10
前記初期ポリアリールエーテルスルホンが、最大で15質量%の結晶化度を有する、実施形態1から9いずれか1つに記載の方法。
実施形態11
前記初期ポリアリールエーテルスルホンが実質的に非晶質である、実施形態1から10いずれか1つに記載の方法。
実施形態12
前記初期ポリアリールエーテルスルホンが、
【化11】
で表されるものからなり、式中、nは、重量平均分子量が約30から200kDaであるような整数値であり、mは0から10であり、R
1
は、5から10の炭素を有するアリール基であり、R
2
は、各発生毎に、独立して、C
1
~C
20
アルキル、C
5
~C
18
アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環である、実施形態1から11いずれか1つに記載の方法。
実施形態13
-R
1
-S(=O)
2
-R
1
-が、
【化12】
または
【化13】
で表される、実施形態12に記載の方法。
実施形態14
R
2
が、独立して、C
1
~C
20
アルキル、C
5
~C
12
アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環である、実施形態12または13に記載の方法。
実施形態15
前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンが、30質量%超から60質量%の結晶化度を有する、実施形態1から14いずれか1つに記載の方法。
実施形態16
前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンが40質量%から55質量%の結晶化度を有する、実施形態15に記載の方法。
実施形態17
前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンを粉砕する工程をさらに含む、実施形態1から16いずれか1つに記載の方法。
実施形態18
前記粉砕する工程が、前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンが脆い温度で行われる、実施形態17に記載の方法。
実施形態19
前記粉砕する工程が行われる温度が、-75℃未満である、実施形態18に記載の方法。
実施形態20
前記溶媒が、前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンが、最大で約0.5%から微量の溶媒を有するように除去される、実施形態1から19いずれか1つに記載の方法。
実施形態21
前記溶媒が、ハロゲンを含有する溶媒であり、前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホン中のハロゲンの量が、約0.1%から微量である、実施形態20に記載の方法。
実施形態22
前記ハロゲンが塩素である、実施形態21に記載の方法。
実施形態23
30質量%超から100質量%の結晶化度を有するポリアリールエーテルスルホン。
実施形態24
前記結晶化度が35質量%から60質量%である、実施形態23に記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態25
前記結晶化度が約45質量%から55質量%である、実施形態24に記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態26
前記ポリアリールエーテルスルホンが、
【化14】
で表されるものからなり、式中、nは、該ポリアリールエーテルスルホンが、約30から200kDaの重量平均分子量を有するような整数値であり、mは0から10であり、R
1
は、5から10の炭素を有するアリール基であり、R
2
は、各発生毎に、独立して、C
1
~C
20
アルキル、C
5
~C
18
アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環である、実施形態23から25いずれか1つに記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態27
R
2
がC
5
~C
12
アリール基であり、mが少なくとも1である、実施形態26に記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態28
R
1
がフェニレン基である、実施形態26または27に記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態29
前記ポリアリールエーテルスルホンが、ポリ(1,4-フェニレン-エーテル-エーテル-スルホン)、ポリフェニレンスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(ビスフェノール-Aスルホン)、またはその混合物である、実施形態23から28いずれか1つに記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態30
前記ポリアリールエーテルスルホンが、最大で150マイクロメートルの相当球形のD
90
粒径を有する粉末である、実施形態23から29いずれか1つに記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態31
前記ポリアリールエーテルスルホンが、体積で約1マイクロメートルから100マイクロメートルの平均粒径を有する、実施形態23から30いずれか1つに記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態32
前記平均粒径が、約30マイクロメートルから約90マイクロメートルである、実施形態31に記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態33
前記ポリアリールエーテルスルホンが、0.1体積%から微量までの量のハロゲンを有する、実施形態23から32いずれか1つに記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態34
前記ハロゲンが塩素である、実施形態33に記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態35
物品を形成する方法であって、実施形態23から34いずれか1つに記載のポリアリールエーテルスルホンをその溶融温度より高い温度に加熱する工程、および該ポリアリールエーテルスルホンを物品に造形する工程を含む方法。
実施形態36
前記造形する工程が、積層製造によるものである、実施形態35に記載の方法。
実施形態37
前記積層製造が、ポリアリールエーテルスルホンの粉末の粉末床からの該粉末の直接溶融による選択的溶解からなる、実施形態36に記載の方法。
実施形態38
複数の融合されたポリアリールエーテルスルホン層からなる積層製造された物品であって、そのポリアリールエーテルスルホンは、約0.1%からほぼ微量のハロゲン濃度を有する、積層製造された物品。
実施形態39
前記ハロゲンが塩素である、実施形態38に記載の積層製造された部品。
実施形態40
前記ポリアリールエーテルスルホンが、
【化15】
で表されるものからなり、式中、nは、重量平均分子量が約30から200kDaであるような整数値であり、mは0から10であり、R
1
は、5から10の炭素を有するアリール基であり、R
2
は、各発生毎に、独立して、C
1
~C
20
アルキル、C
5
~C
18
アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環である、実施形態38または39に記載の積層製造された部品。
実施形態41
R
2
がC
5
~C
18
アリールであり、mが少なくとも1である、実施形態40に記載の積層製造された部品。
実施形態42
R
2
がC
5
~C
12
アリールである、実施形態41に記載の積層製造された部品。
実施形態43
前記ポリアリールエーテルスルホンが、ポリ(1,4-フェニレン-エーテル-エーテル-スルホン)、ポリフェニレンスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(ビスフェノール-Aスルホン)、またはその混合物である、実施形態38から42いずれか1つに記載の積層製造された部品。
実施形態44
【化16】
で表されるポリアリールエーテルスルホンを含むポリアリールエーテルスルホンであって、式中、nは、該ポリアリールエーテルスルホンが約30から1000kDaの重量平均分子量を有するような整数値であり、mは0から10であり、R
1
は、5から10の炭素を有するアリール基であり、R
2
は、各発生毎に、独立して、C
1
~C
20
アルキル、C
5
~C
12
アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環であり、前記ポリアリールエーテルスルホンは、少なくとも10%の結晶化度を有する、ポリアリールエーテルスルホン。
実施形態45
溶融および冷却の際に、前記ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度が、5質量%未満に低下する、実施形態44に記載のポリアリールエーテルスルホン。
実施形態46
溶融および冷却の後に、前記ポリアリールエーテルスルホンが実質的に非晶質である、実施形態45に記載のポリアリールエーテルスルホン。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半結晶性ポリアリールエーテルスルホンを形成する方法において、
(i)非晶質であるか、または約30質量%未満の結晶化度を有する初期ポリアリールエーテルスルホンを、ある温度で極性非プロトン性ハロゲン化炭化水素溶媒
からなる溶媒中に溶かして、溶液を形成する工程、および
(ii)溶けたポリアリールエーテルスルホンを
、±5℃以内の一定の温度で、沈殿手段を外部から施さずに、前記溶液から沈殿させて、前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンを形成する工程であって、前記初期ポリアリールエーテルスルホンが非晶質である場合、該半結晶性ポリアリールエーテルスルホンは、少なくとも約10%から約100%の結晶化度を有し、前記初期ポリアリールエーテルスルホンが30%未満の結晶化度を有する場合、該半結晶性ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度は、該初期ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度より少なくとも約20%大き
く、該初期ポリアリールエーテルスルホンが、
【化1】
で表されるものからなり、式中、nは、重量平均分子量が約30から1000kDaであるような整数値であり、mは0から10であり、R
1
は、5から10の炭素を有するアリール基であり、R
2
は、各発生毎に、独立して、C
1
~C
20
アルキル、C
5
~C
18
アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環である、工程、
を有してなる方法。
【請求項2】
前記温度が前記方法の最中ずっと同じである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒がハロゲン化脂肪族炭化水素である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒がクロロアルカンからなる、
請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記溶かす工程および前記沈殿させる工程が、周囲条件で行われる、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記初期ポリアリールエーテルスルホンが、最大で15質量%の結晶化度を有する、
請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記初期ポリアリールエーテルスルホン
が非晶質である、
請求項6記載の方法。
【請求項8】
-R
1-S(=O)
2-R
1-が、
【化2】
または
【化3】
で表される、
請求項1記載の方法。
【請求項9】
R
2が、独立して、C
1~C
20アルキル、C
5~C
12アリールまたは5~10の炭素原子の縮合環である、
請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記半結晶性ポリアリールエーテルスルホンが、30質量%超から60質量%の結晶化度を有する、
請求項1記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10いずれか1項記載の方法により形成されたポリアリールエーテルスルホンであって、30質量%超から100質量%の結晶化度
、および0.1質量%から1質量ppbまでの量のハロゲンを有
し、溶融および冷却の際に、該ポリアリールエーテルスルホンの結晶化度が5質量%未満に低下するポリアリールエーテルスルホン。
【請求項12】
物品を形成する方法であって、
請求項11記載のポリアリールエーテルスルホンをその溶融温度より高い温度に加熱する工程、および該ポリアリールエーテルスルホンを物品に造形する工程を含
み、
前記造形する工程が、前記ポリアリールエーテルスルホンからなる粉末の直接溶融による選択的溶解を含む積層製造によるものである、方法。
【国際調査報告】