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特表2024-506276シラノール基密度が低減されたヒュームドシリカ粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(54)【発明の名称】シラノール基密度が低減されたヒュームドシリカ粉末
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20240205BHJP
【FI】
C01B33/18 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546241
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(85)【翻訳文提出日】2023-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2022051095
(87)【国際公開番号】W WO2022171406
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】21156545.2
(32)【優先日】2021-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マレイケ ギエッセラー
(72)【発明者】
【氏名】フランク マンゼル
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ライジン
(72)【発明者】
【氏名】ライネル ゴルチェルト
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072CC16
4G072DD05
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH17
4G072MM36
4G072MM40
4G072RR07
4G072RR13
4G072TT01
4G072TT30
4G072UU07
(57)【要約】
シラノール基密度が低減されたヒュームドシリカ粉末
シラノール密度dSiOHが少なくとも1.2SiOH/nmであり、粒径d90が10μm以下である表面未処理ヒュームドシリカ粉末を、350℃~1,250℃で5分~5時間熱処理に供する工程
を含む、シラノール基密度が低減されたヒュームドシリカ粉末の製造方法であり、
前記熱処理の温度および継続時間は、前記シリカのdSiOHが、使用された熱未処理シリカのdSiOHに対し、10%~70%減少されるように選択され、
前記熱処理は、前記ヒュームドシリカ粉末が動いている間に行われ、
前記熱処理の後、必要に応じて表面処理が行われる、方法。
この方法により得られる表面未修飾および修飾ヒュームドシリカ粉末、ならびにその使用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
いかなる表面処理剤による処理によっても表面修飾されておらず、水素化アルミニウムリチウムとの反応により測定されたBET表面積dSiOHに対するシラノール基の数が少なくとも1.2SiOH/nmであり、25℃で120秒間の超音波処理が行われた後のシリカの5重量%水性分散液において静的光散乱法により測定された粒径d90が10μm以下である表面未処理ヒュームドシリカ粉末を、350℃~1,250℃で5分~5時間熱処理に供する工程(A)
を含むヒュームドシリカ粉末の製造方法であり、
前記熱処理の温度および継続時間は、前記シリカのdSiOHが、使用された熱未処理および表面未処理ヒュームドシリカ粉末のdSiOHに対し、10%~70%減少されるように選択され、
前記熱処理は、前記ヒュームドシリカ粉末が動いている間に行われる、方法。
【請求項2】
前記シリカは、前記熱処理工程(A)中、少なくとも1cm/分の運動速度で動く、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記工程(A)の実施前、実施中または実施後に水は添加されない、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理は、ロータリーキルンで行われる、請求項1~請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記工程(A)で得られたヒュームドシリカ粉末を、オルガノシラン、シラザン、非環状ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、およびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理する工程(B)
をさらに含む、請求項1~請求項4のいずれか1項記載のヒュームドシリカ粉末の製造方法。
【請求項6】
前記工程(B)の実施前、実施中または実施後に、使用されたヒュームドシリカ粉末の1重量%未満の量の水を添加する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
(a)水素化アルミニウムリチウムとの反応により測定されたBET表面積dSiOHに対するシラノール基の数が1.17SiOH/nm以下であり、
(b)25℃で120秒間の超音波処理が行われた後のシリカの5重量%水性分散液において静的光散乱法により測定された粒径d90が10μm以下である、
表面未修飾ヒュームドシリカ粉末。
【請求項8】
前記シリカの5重量%水分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱により測定された粒径分布(d90-d10)/d50の範囲が0.8~3.5である、請求項7記載のヒュームドシリカ粉末
【請求項9】
タンピング密度が30g/L~150g/Lである、請求項7または請求項8記載のヒュームドシリカ粉末。
【請求項10】
請求項1~請求項4のいずれか1項記載の方法により得られる、請求項7~請求項9のいずれか1項記載のヒュームドシリカ粉末。
【請求項11】
(a)水素化アルミニウムリチウムとの反応により測定されたBET表面積dSiOHに対するシラノール基の数が0.29SiOH/nm2以下であり、
(b)25℃で120秒間の超音波処理が行われた後の前記シリカの5重量%メタノール分散液における静的光散乱法による粒径d90が10μm以下である、
表面修飾ヒュームドシリカ粉末。
【請求項12】
前記表面修飾シリカの炭素含有量が0.5重量%~3.5重量%である、請求項11記載のヒュームドシリカ粉末。
【請求項13】
請求項5または請求項6記載の方法により得られる、請求項11または請求項12記載のヒュームドシリカ粉末。
【請求項14】
請求項7~請求項13のいずれか1項記載のヒュームドシリカ粉末を含む組成物。
【請求項15】
塗料またはコーティング、シリコーン、医薬品または化粧品、接着剤またはシーラント、トナー組成物、リチウムイオン電池の構成成分として、液体系のレオロジー特性を改質するため、沈降防止剤として、粉末の流動性を改善するため、およびシリコーン組成物の機械的または光学的特性を改善するための請求項7~請求項13のいずれか1項記載のヒュームドシリカ粉末の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径が比較的小さく、シラノール基密度が低減されたヒュームドシリカ粉末、その製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粉末、特にヒュームドシリカ粉末は、さまざまな用途に非常に有用な添加剤である。これらの用途のほんの一部を挙げると、シリカは、塗料、コーティング、シリコーンおよびその他の液体系のレオロジー改質剤または沈降防止剤として使用できる。シリカ粉末は、粉末の流動性を改善したり、シリコーン組成物の機械的または光学的特性を最適化したりできるほか、医薬品または化粧品、接着剤またはシーラント、トナー、およびその他の組成物用の充填剤としても使用できる。
【0003】
特定の用途への適合性を決めるシリカ材料の重要な特性の1つは、シラノール基密度、すなわち、シリカの表面積に対する遊離シラノール基(SiOH) の量に関連している。未処理シリカは、その表面に極性シラノール基が存在するため、親水性である。シリカの表面のシラノール基は、互いに、またはヒドロキシ基、例えば末端ジヒドロキシポリジメチルシロキサンを含むバインダーと、水素結合を形成できる。これらの充填剤と重合体との相互作用の結果、シリカを含む配合物の粘度が不必要に高くなり、ガラス転移温度および結晶化挙動が変化し得る。
【0004】
一方、シラノール基密度が高いヒュームドシリカは、かなりの量の水を吸収する傾向があり、そのようなシリカは含水量が増える。しかしながら、一部の用途、例えばリチウムイオン電池の部品(例:セパレータ、電極、電解液)の添加剤では、水が存在するのは望ましくない。そのため、韓国特許出願公開第20150099648号明細書は、ゲル高分子電解質を備えたリチウムイオン電池に使用できる、ビニル基で修飾されたシリカ粒子でコーティングされたセパレータ膜を開示している。このようなシリカ添加剤に含まれる水は、リチウムイオン電池の一部の水に弱い成分、例えばLiPFと反応するであろう。LiPFは、電解液に含まれていることが多く、電解液の分解を生じさせ、HFなどの反応性物質を放出して、電池の不活性化を助長する。したがって、水に弱い成分が関与する用途には、シラノール密度が低減されたシリカが必要であるか、または有用であり得る。
【0005】
従来技術の説明
親水性シリカの性質に応じて、表面積あたり約2~15SiOH/nmのシラノール基密度が観察される。
【0006】
シリカのシラノール基密度を低減するための典型的な試みの1つは、遊離シラノール基を有機シラン基で少なくとも部分的に覆う方法である。したがって、欧州特許出願公開第1433749号明細書には、粒子表面nm当たり0.9~1.7SiOHのシラノール基密度を有する部分疎水性シリカの調製が記載されている。このような部分的に疎水性の粒子の調製は、BET表面積が100m/gのシリカのシランを0.015~0.15ミリモル減量して使用することにより行われる。
【0007】
独国特許第2123233号明細書は、粒子表面nm当たり1.18SiOH/nmを超えるシラノール基密度を有する微粉化二酸化ケイ素の調製方法を記載している。
【0008】
独国特許第1767226号明細書は、流動床中で熱分解法シリカを加熱することによる微粉化シリカの製造方法を開示している。
【0009】
親水性シリカのシラノール基密度を意図的に低減することは、あまり一般的ではない。
【0010】
1つの一般的な方法が米国特許第4,664,679号明細書に記載されており、シラノール基をさまざまなカップリング剤と反応させることによる無水ケイ酸の表面処理が開示されている。
【0011】
米国特許出願公開第2016/0355685号明細書は、テトラメトキシシランを加水分解し、その後、得られた生成物を電気炉内で1,050℃で1時間乾燥および焼成し、2~35m/gの比較的低いBET表面積を有するシリカを準備し、得られた粗大粒子を粉砕し、それらをシランで疎水化する、ゾル・ゲル法によるシリカの調製方法を記載している。
【0012】
米国特許第2,866,716号明細書は、遊離シラノール基を有するコロイダルシリカ基材の表面を修飾する方法を開示しており、この方法は、比表面積が初期値の85%未満に減少するまで300~700℃の温度で当該シリカ基材を加熱する工程を含む。ただし、熱処理されたシリカのシラノール基密度は、およそ2OH/nm以上である。
【0013】
欧州特許出願公開第1860066号明細書は、沈降シリカを噴霧乾燥し、その後、流動床反応器内で450℃で加熱し、粉砕することにより調製される、典型的な残留水分含量が3.5重量%で、シラノール基密度が約2.7OH/nmである沈降シリカの調製を記載している。
【0014】
沈降シリカとコロイダルシリカはどちらも通常、水性媒体中で調製されるため、含水量が比較的高く、多くの場合、シラノール基密度が高い。このようなタイプのシリカは、ヒュームドシリカほど、シリカ基密度の低いシリカを調製するのには適していない。高温での調製過程のために、ヒュームドシリカのシラノール基密度は、通常2.2~3.0SiOH/nmと比較的低く、ヒュームドシリカは、シラノール基密度が低減されたシリカにとってより優れた前駆体である。
【0015】
ヒュームドシリカのシラノール基密度は、Journal of Colloid and Interface Science、125巻1号(1988年)、61~68頁に記載されているように、シリカと水素化アルミニウムリチウムとの反応などの方法により確実に測定できる。典型的な親水性シリカ(Aerosil(登録商標)OX 50、BET=50m/g、Aerosil(登録商標)130、BET=129m/g、Aerosil(登録商標)150、BET=155m/g、Aerosil(登録商標)200、BET=196m/g、Aerosil(登録商標)300、BET=303m/g、Aerosil(登録商標)380、BET=372m/g)と表面処理(疎水性)シリカ(Aerosil(登録商標)R972、BET=102m/g、Aerosil(登録商標)R812、BET=245m/g)との両方を、この方法を使用して分析したところ、典型的な親水性シリカでは約2.0~2.5OH/nm、疎水性シリカでは0.53~0.54OH/nmの典型的なシラノール基密度が示された。
【0016】
米国特許第3,873,337号明細書から、ジメチルジクロロシランで疎水化する前に、乾燥不活性ガス流を用いて流動床内でヒュームドシリカを700~1,000℃で1~60秒間処理して、物理的結合水を除去することが知られている。乾燥時間が非常に短いため、この工程では、結合が弱い水しか除去することができず、シリカのシラノール基は影響を受けない。実際、この方法では、ジメチルジクロロシランによる大規模な疎水化を達成するには、親水性前駆体のシラノール基密度が可能な最大値であることが望ましい。したがって、米国特許第3,873,337号明細書は、シラノール基密度が低減された親水性シリカ粉末の調製を開示していない。
【0017】
特開2014-055072号明細書は、気相法、例えば熱分解法による、50~400m/gのBET表面積および約2.5OH/nmのシラノール基密度を有する非晶質シリカの調製を記載している。このようなシリカ粉末をバインダーおよび溶媒と混合し、酸素を含むガス雰囲気中で100~500℃で加熱することにより、顆粒等の成形体が形成される。このようにして得られた成形体を600~1,200℃で30分~24時間焼成して、0.55~2.09g/cmの範囲の密度を有するmmサイズ範囲の機械的に安定な焼結体を得る。特開2014-055072号明細書は、いかなるシリカ粉末の調製も開示していない。
【0018】
圧密シリカ顆粒またはフラグメントを熱処理して焼結成形体を得ることが従来技術からよく知られている。したがって、国際公開第2009/007180号パンフレットは、ヒュームドシリカ粉末を小さな塊(スラグ)に圧縮し、その後、粒径:100~800μm、タンピング密度:300~600g/Lのフラグメントに粉砕する、シリカガラス顆粒の調製方法を開示している。後者は、ヒドロキシル基の除去に適した雰囲気中で600~1,100℃で加熱され、さらに1,200~1,400℃で焼結される。この特許出願には、小さな粒径を有する粉末は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】韓国特許出願公開第20150099648号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1433749号明細書
【特許文献3】独国特許第2123233号明細書
【特許文献4】独国特許第1767226号明細書
【特許文献5】米国特許第4,664,679号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2016/0355685号明細書
【特許文献7】米国特許第2,866,716号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1860066号明細書
【特許文献9】米国特許第3,873,337号明細書
【特許文献10】特開2014-055072号明細書
【特許文献11】国際公開第2009/007180号パンフレット
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Journal of Colloid and Interface Science、125巻1号(1988年)、61~68頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
課題および解決策
さまざまな組成物中、例えばシリコーンまたは不足組成物中でのヒュームドシリカ充填剤の良好な分散性とチキソトロピー特性は、多くの用途にとって非常に重要である。分散性は主に、シリカ粒子のサイズと、組成物中でのその強凝集(aggregation)および弱凝集(agglomeration)と、に関連している。シリカのチキソトロピー特性は、シリカの強凝集および弱凝集、ならびにシラノール基密度に左右される。従来技術から知られているように、熱処理によるシラノール基含有量の減少は、多くの場合、顕著なBET表面積の減少と粒子の弱凝集と密接に関係している。したがって、親水性シリカのシラノール基密度を大幅に低減すると同時に、BET表面積を変化させず、シリカ粒子を小さく保ち、その粒径分布を狭く保つことは困難である。したがって、ヒュームドシリカ充填剤の良好な分散性と、そのようなシリカが充填された組成物における粘度上昇(増粘効果)の少なさと、を同時に達成することは、非常に難解である。
【0022】
一方、親水性シリカと表面処理シリカの両方、特に疎水性ヒュームドシリカの含水量は、水に弱い用途、例えば、リチウムイオン電池で使用するためには、減らされる必要がある。
【0023】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、分散性が高く、組成物中での粘度上昇が少なく、含水量が少ないヒュームドシリカ粉末と、そのようなシリカ粉末を効率よく製造するのに適した方法と、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、
水素化アルミニウムリチウムとの反応により測定されたBET表面積dSiOHに対するシラノール基の数が少なくとも1.2SiOH/nmであり、25℃で120秒間の超音波処理が行われた後のシリカの5重量%水性分散液において静的光散乱法(SLS)により測定された粒径d95が10μm以下である表面未処理ヒュームドシリカ粉末を、350℃~1,250℃で5分~5時間熱処理に供する工程(A)
を含むヒュームドシリカ粉末の製造方法であり、
熱処理の温度および継続時間は、シリカのdSiOHが、使用された熱未処理シリカのdSiOHに対し、15%~70%減少されるように選択され、
熱処理は、ヒュームドシリカ粉末が動いている間に行われる、方法
を提供するものである。
【0025】
驚くべきことだが、本発明の方法により、その凝集粒子サイズを非常に小さいレベルに保ちながら、すなわち、熱処理シリカ粒子をさまざまな組成物中に十分に分散できる状態に保ちながら、含水量が特に低いヒュームドシリカ粉末の調製が可能になることが見出された。さらに、この方法により、比較的狭い粒径分布を有する熱処理ヒュームドシリカ粒子が得られた。得られた材料は、その出発材料と同様に、タンピング密度が低いという特徴を有する。この事実により、タンピング密度が低いヒュームドシリカが特に必要なあらゆる用途分野で、例えば充填剤または流動性改良剤として、このような熱処理材料を使用することが可能になる。
【0026】
シリカ粉末の製造方法
方法の工程(A)で使用される表面未処理シリカ
本明細書の文脈における用語「粉末」は、微粒子、すなわち、典型的には平均粒径d50が50μm未満、好ましくは10μm未満の粒子を包含する。
用語「表面未処理」は、本明細書の文脈においては、いかなる表面処理剤による処理によっても表面修飾されていない親水性シリカに関する。
このような表面未処理シリカは、EN ISO3262-20:2000(第8章)に準拠した元素分析により測定して、通常1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の低い炭素含有量を有する。分析された試料は、セラミックるつぼに秤量され、燃焼添加剤が加えられ、酸素流下、誘導炉内で加熱される。存在する炭素は酸化されてCOになる。COガスの量は、赤外線検出器によって定量化される。記載された炭素含有量は、試験条件下で不燃性の化合物(例えば、炭化ケイ素など)を除く、シリカのすべての炭素含有成分を指す。
このような表面未処理ヒュームドシリカのメタノール湿潤性は、通常、メタノール/水混合物中のメタノールの20体積%未満、好ましくは10体積%未満、より好ましくは5体積%未満、より好ましくは約0体積%である。
シリカ粉末の親水性の程度は、例えば国際公開公報第2011/076518号パンフレットの第5~6頁に詳細に記載されているように、そのメタノール湿潤性により測定することができる。純粋なメタノール中では、親水性シリカ粉末は、溶媒で濡れることなくメタノールから完全に分離する。対照的に、純水中では、親水性シリカは溶媒全体に分散する(完全な湿潤が起こる)。親水性シリカ粉末のメタノール湿潤性の測定中、試験したシリカ試料は、さまざまなメタノール/水混合物と混合され、シリカが分離されていないとき、すなわち、使用されるシリカの100%が試験混合物中に十分に分散されたままの状態の最大メタノール含有量が測定される。メタノール/水混合物中のこのメタノール含有量(体積%)は、メタノール湿潤性と呼ばれる。メタノール湿潤性が低いほど、試験されるシリカ粉末の親水性は高くなる。
【0027】
本発明の方法の工程(A)で使用されるヒュームド表面未処理シリカは、好ましくは、水素化アルミニウムリチウムとの反応により測定されたBET表面積dSiOHに対するシラノール基の数が、少なくとも1.3SiOH/nm、より好ましくは少なくとも1.4SiOH/nm、より好ましくは少なくとも1.5SiOH/nm、より好ましくは1.5~3.0SiOH/nmである。
【0028】
BET表面積に対するシラノール基の数dSiOH(シラノール基密度とも呼ばれ、nmあたりのSiOH基の数で表される)は、シリカ粉末と水素化アルミニウムリチウムとの反応による、欧州特許出願公開第0725037号明細書の第8頁第17行目~第9頁第12行目に詳述されている方法により測定できる。この方法は、Journal of Colloid and Interface Science、第2巻、第1号(1988年)、61~68頁にも記載されている。
【0029】
シリカのシラノール(SiOH)基は、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH)と反応され、この反応中に生成されるガス状水素の量、つまり試料中のシラノール基の量nSiOH(ミリモルSiOH/g単位)が測定される。試験された材料の対応するBET表面積(m/g単位)を使用すると、ミリモルSiOH/g単位のシラノール基含有量を、BET表面積に対するシラノール基の数dSiOHに簡単に変換できる:
SiOH[SiOH/nm2]=(nSiOH[ミリモルSiOH/g]×N)/(BET[m/g]×1021
式中、Nは、アボガドロ数(~6.022*1023)である。
【0030】
本発明の方法の工程(A)で使用されるヒュームド表面未処理シリカは、20m/gを超える、好ましくは20m/g~600m/g、より好ましくは30m/g~500m/g、より好ましくは40m/g~400m/gのBET表面積を有することができる。比表面積は、単にBET表面積とも呼ばれ、DIN9277:2014に準拠して、ブルナウアー-エメット-テラー法による窒素吸着により測定できる。
【0031】
本明細書の文脈における用語「シリカ」は、個々の化合物(二酸化ケイ素、SiO)、シリカ系混合酸化物、シリカ系ドープ酸化物、またはそれらの混合物に関する。「シリカ系」とは、対応するシリカ材料が少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも98重量%の二酸化ケイ素を含むことを意味する。
【0032】
「熱分解法」または「熱分解法により製造された」シリカとしても知られる「ヒュームド」シリカは、火炎加水分解または火炎酸化などの熱分解法によって調製される。これには、一般に水素/酸素炎中での、加水分解性または酸化性の出発物質の酸化または加水分解が含まれる。熱分解法に使用される出発物質には、有機物質と無機物質が含まれる。四塩化ケイ素が特に適している。このようにして得られた親水性シリカは非晶質である。ヒュームドシリカは通常、凝集した形態をしている。「凝集」とは、生成時に最初に形成されるいわゆる一次粒子が、その後の反応で互いに強固に結合して三次元ネットワークを形成することを意味する。一次粒子には実質的に細孔がなく、表面に遊離ヒドロキシル基を有する。このような親水性シリカは、必要に応じて、例えば反応性シランで処理することにより疎水化することができる。
【0033】
揮発性金属化合物、例えば塩化物の形の少なくとも2つの異なる金属源を、H/O火炎中で同時に反応させることによって熱分解法混合酸化物を生成することが知られている。このように調製された混合酸化物の全成分は一般に、いくつかの金属酸化物の機械的混合物、ドープ金属酸化物といった他の種類の材料とは対照的に、混合酸化物材料全体に均一に分布する。後者の場合、例えば、いくつかの金属酸化物の混合物の場合、対応する純粋な酸化物の分離領域が存在してよく、それがそのような混合物の特性を決定する。
【0034】
本発明の方法で使用される表面未処理ヒュームドシリカ粉末は、5nm~50nm、好ましくは5nm~40nmの平均一次粒径d50を有することができる。一次粒子の平均サイズd50は、透過型電子顕微鏡(TEM)分析によって測定できる。d50の代表的な平均値を計算するには、少なくとも100個の粒子を分析する必要がある。
【0035】
本発明の方法で使用される表面未処理ヒュームドシリカ粉末は、シリカの5重量%水分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱(SLS)により測定して、10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下、好ましくは1μm以下の粒径d90を有する。結果として得られた測定粒径分布は、全粒子のうちの90%が超えていない粒径を反映した値であるd90を定義するために使用される。上記粒径d90は、強凝集および弱凝集したヒュームドシリカ粒子の粒径を指す。
【0036】
本発明の方法で使用される表面未処理ヒュームドシリカ粉末は、比較的狭い粒径分布を有することが好ましく、これは、3.5以下、好ましくは0.7~3.5、より好ましくは0.8~3.5、より好ましくは1.0~3.2、より好ましくは1.1~3.1、より好ましくは1.2~3.0の粒径分布のスパン(d90~d10)/d50の値によって特徴付けることができる。
【0037】
本発明の方法で使用される表面未処理ヒュームドシリカ粉末は、300g/L以下、より好ましくは250g/L以下、より好ましくは20g/L~250g/L、より好ましくは20g/L~200g/L、より好ましくは25g/L~180g/L、より好ましくは30g/L~150g/Lのタンピング密度を有することが好ましい。さまざまな粉体または粗粒度粒状材料のタンピング密度(「タップ密度」とも呼ばれる)は、DIN ISO 787-11:1995「顔料および増量剤の一般的な試験方法-第11部:タンピング後のタンピング体積と見掛け密度の測定」に準拠して測定できる。これには、撹拌およびタンピング後の床の見掛け密度の測定が含まれる。
【0038】
本発明の方法で使用される表面未処理ヒュームドシリカ粉末は、カール・フィッシャー滴定法により測定して、3重量%以下、より好ましくは2重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは1.2重量%以下の含水量を有することが好ましい。このカール・フィッシャー滴定は、すべての適切なカール・フィッシャー滴定装置、例えば、STN ISO 760に準拠したカール・フィッシャー滴定装置を使用して実施され得る。
【0039】
熱処理
本発明の方法における表面未処理ヒュームドシリカ粉末の熱処理は、350℃~1,250℃、好ましくは400℃~1,250℃、より好ましくは400℃~1,200℃、より好ましくは500℃~1,200℃、より好ましくは700℃~1,200℃、より好ましくは1,000℃~1,200℃の温度で行われる。この熱処理の継続時間は、適用される温度に左右され、一般に5分~5時間、好ましくは10分~4時間、より好ましくは20分~3時間、さらに好ましくは30分~2時間である。
【0040】
熱処理工程の継続時間は、得られるヒュームドシリカ粉末の特性に大きな影響を与え得ることが観察されている。したがって、350~1,250℃で行われる熱処理工程の継続時間が5分未満の場合、特に、熱処理用の出発材料が熱処理前に予備乾燥されており、それ自体が濡れていない場合、例えば、カール・フィッシャー滴定法で測定して含水量が3重量%以下である場合、通常、シリカの含水量の顕著な減少は観察されない。逆に、熱処理工程の継続時間が5時間を超えると、通常、得られるシリカの含水量にはさらなる大きな変化をもたらさないが、得られる粒子の粒径は大きくなり得る。
【0041】
本発明の方法における熱処理は、遊離シラノール基の縮合およびO-Si-O架橋の形成により遊離シラノール基の数を明らかに減少させる。
【0042】
熱処理工程の温度および継続時間は、シリカのdSiOHが、使用される熱未処理および表面未処理のヒュームドシリカ粉末のdSiOHに対し、10%~70%減少するように選択される。したがって、本発明の方法によって調製されるヒュームドシリカ粉末は、水素化アルミニウムリチウムとの反応により測定して、BET表面積dSiOHに対して、1.55SiOH/nm以下、好ましくは0.6SiOH/nm~1.55SiOH/nm、より好ましくは0.6SiOH/nm~1.5SiOH/nm、より好ましくは0.6SiOH/nm~1.4SiOH/nm、より好ましくは0.6SiOH/nm~1.3SiOH/nm、より好ましくは0.6SiOH/nm~1.2SiOH/nm、より好ましくは0.7SiOH/nm~1.2SiOH/nm、より好ましくは0.8SiOH/nm~1.2SiOH/nm、より好ましくは0.9SiOH/nm~1.2SiOH/nmのシラノール基の数を有する。
【0043】
本発明の方法の工程(A)で使用されるシリカのdSIOHの元の値から10%未満のシラノール密度の減少は、シリカの含水量の実質的な減少または他の有益な効果とは関連しないことが分かった。一方、シラノール基密度の70%以上の減少は、より大きな焼結凝集体を同時に形成する場合にのみあり得、これは、簡単には、例えば超音波処理によっては破壊できない。
【0044】
重要なことは、シラノール密度とは対照的に、熱処理シリカのBET表面積は、通常、本発明の方法の工程(A)を実施している間、比較的小さな程度しか変化しない点である。したがって、熱処理中、ヒュームドシリカ粉末のBET表面積は、本発明の方法の工程(A)で使用される熱未処理および表面未処理シリカのBET表面積に対して、最大50%、より好ましくは最大45%、より好ましくは最大40%、より好ましくは最大35%減少することが好ましい。
【0045】
本発明の方法における熱処理は、不連続(バッチ式)、半連続、または好ましくは連続的に実施され得る。
【0046】
不連続プロセスの「熱処理の継続時間」は、表面未処理ヒュームドシリカが規定温度で加熱されている全時間として定義される。半連続または連続プロセスの場合、「熱処理の継続時間」は、規定の熱処理温度における表面未処理ヒュームドシリカ粉末の平均滞留時間に相当する。
【0047】
本発明の方法は、熱処理工程(A)における表面未処理ヒュームドシリカ粉末の平均滞留時間が10分~3時間となるように連続的に実施されることが好ましい。
【0048】
本発明の方法において、熱処理は、ヒュームドシリカ粉末が動いている間、好ましくは方法中で一定に動いている間に、すなわち、熱処理中にシリカが動いている間に実施されることが好ましい。このような「動的」プロセスは、シリカ粒子が動かない、例えば熱処理中にシリカ粒子が層内、例えばマッフル炉内に存在する「静的」熱処理プロセスの逆である。
【0049】
驚くべきことだが、このような動的熱処理プロセスを適切な温度および熱処理継続時間と組み合わせることにより、さまざまな組成物中で特に良好な分散性を示す、粒径分布の狭い小粒子の製造が可能になることが分かった。対照的に、シリカが全く動かない「静的」熱処理では、粒径がはるかに大きい焼結凝集体が得られ、組成物中での分散性がはるかに悪くなることが分かった。
【0050】
本発明の方法は、シリカを動させながら、シリカ粉末を上記規定温度に規定時間維持できるすべての適切な装置内で実施することができる。適切な装置の中には、流動床反応器およびロータリーキルンがある。ロータリーキルン、特に直径が1cm~2m、好ましくは5cm~1m、より好ましくは10cm~50cmのロータリーキルンが、本発明の方法に使用されることが好ましい。
【0051】
シリカ粉末は、熱処理工程(A)の間、少なくとも一時的に、少なくとも1cm/分、より好ましくは少なくとも10cm/分、より好ましくは少なくとも25cm/分、より好ましくは少なくとも50cm/分の運動速度で動かされることが好ましい。好ましくは、シリカは、熱処理工程の全期間にわたって連続的にこの運動速度で動かされる。ロータリーキルン内の運動速度は、このタイプの反応器の周速度に相当する。流動床反応器内の運動速度は、キャリアガスの流量(流動速度)に相当する。
【0052】
本発明の方法の工程(A)を実施する前、実施中、または実施後に、水を実質的に添加しないことがさらに好ましい。より好ましくは、本発明の方法の工程(A)を実施する前、実施中、または実施後に水を添加しない。このようにして、吸収された水のさらなる蒸発が回避され、より含水量が低い熱処理シリカ粉末が得られ得る。
【0053】
熱処理工程(A)は、例えば空気または窒素などのガス流下で実施することができ、ガスは好ましくは本質的に水を含まないか、または予め乾燥させたものである。
【0054】
「本質的に水を含まない」とは、ガスに関して、ガスの湿度が、温度および圧力などの使用条件下での湿度を超えないこと、すなわち、使用前にガスに蒸気または水蒸気が添加されないことを意味する。本発明の方法の工程(A)で使用されるガスの含水量は、好ましくは5体積%未満、より好ましくは3体積%未満、より好ましくは1体積%未満、より好ましくは0.5体積%未満である。
【0055】
表面処理
本発明のヒュームドシリカ粉末の製造方法は、さらに、
工程(B):工程(A)で得られたヒュームドシリカ粉末を、オルガノシラン、シラザン、非環状ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、およびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理する工程
を含んでよい。
好ましいオルガノシランは、例えば、一般式(Ia)および(Ib):
R’(RO)Si(C2n+1) (Ia)
R’(RO)Si(C2n-1) (Ib)
(式中、R=アルキル、例えばメチル-、エチル-、n-プロピル-、i-プロピル-、ブチル-など、
R’=アルキルまたはシクロアルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチル、シクロヘキシル、オクチル、ヘキサデシルなど、
n=1~20
x+y=3
x=0~2、および
y=1~3である。)
のアルキルオルガノシランである。
【0056】
式(Ia)および(Ib)のアルキルオルガノシランの中で、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシランが特に好ましい。
表面処理に使用されるオルガノシランには、ClまたはBrなどのハロゲンが含まれ得る。以下のタイプのハロゲン化オルガノシランが特に好ましい:
‐一般式(IIa)および(IIb):
Si(C2n+1) (IIa)
Si(C2n-1) (IIb)
(式中、X=Cl、Br、
n=1~20である。)
のオルガノシラン;
‐一般式(IIIa)および(IIIb):
(R’)Si(C2n+1) (IIIa)
(R’)Si(C2n-1) (IIIb)
(式中、X=Cl、Br、
R’=アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル、
n=1~20である。)
のオルガノシラン;
‐一般式(IVa)および(IVb):
X(R’)Si(C2n+1) (IVa)
X(R’)Si(C2n-1) (IVb)
(式中、X=Cl、Br、
R’=アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル、
n=1~20である。)
のオルガノシラン。
【0057】
式(II)~(IV)のハロゲン化オルガノシランの中で、ジメチルジクロロシランおよびクロロトリメチルシランが特に好ましい。
使用されるオルガノシランは、アルキルまたはハロゲン置換基以外の置換基、例えばフッ素置換基またはいくつかの官能基を含むこともできる。好ましくは、一般式(V):
(R’ ’)(RO)Si(CHR’ (V)
(式中、R’ ’=メチル、エチル、プロピルなどのアルキル、またはClもしくはBrなどのハロゲン、
R=メチル、エチル、プロピルなどのアルキル、
x+y=3、
x=0~2、
y=1~3、
m=1~20、
R’=メチル、アリール(例えば、フェニルまたは置換フェニル残基)、ヘテロアリール-C、OCF-CHF-CF、-C13、-O-CF-CHF、-NH、-N、-SCN、-CH=CH、-NH-CH-CH-NH、-N-(CH-CH-NH、-OOC(CH)C=CH、-OCH-CH(O)CH、-NH-CO-N-CO-(CH、-NH-COO-CH、-NH-COO-CH-CH、-NH-(CHSi(OR)、-S-(CHSi(OR)、-SH、-NR(式中、R=アルキル、アリール;R=H、アルキル、アリール;R=H、アルキル、アリール、ベンジル、CNR(式中、R=H、アルキルおよびR=H、アルキルである。)である。)
の官能化オルガノシランが使用される。
【0058】
式(V)の官能化オルガノシランの中で、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0059】
一般式R’RSi-NH-SiRR’(VI)
(式中、R=メチル、エチル、プロピルなどのアルキル;R’=アルキル、ビニルである。)
のシラザンも表面処理剤として適している。最も好ましい式(VI)のシラザンは、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)である。
【0060】
オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D6)などの環状ポリシロキサンも表面処理剤として適している。環状ポリシロキサンの中で最も好ましくは、D4が使用される。
【0061】
別の有用な表面処理剤のタイプは、一般式(VII):
【0062】
【化1】
【0063】
(式中、Y=H、CH、C2n+1(式中、n=1~20である。)、Si(CH(式中、a=2~3、b=0または1、a+b=3である。)、
X=H、OH、OCH、C2m+1(式中、m=1~20である。)、
R、R’=C2o+1(式中、o=1~20である。)などのアルキル、フェニルおよび置換フェニル残基などのアリール、ヘテロアリール、(CH-NH(式中、k=1~10である。)、H、
u=2~1,000、好ましくはu=3~100である。)
のポリシロキサンまたはシリコーン油である。
【0064】
式(VII)のポリシロキサンおよびシリコーン油の中で、最も好ましくは、ポリジメチルシロキサンが表面処理剤として使用される。このようなポリジメチルシロキサンは、通常、162g/モル~7,500g/モルのモル質量、0.76g/mL~1.07g/mLの密度、および0.6mPa・s~1,000,000mPa・sの粘度を有する。
【0065】
本発明の方法の工程(B)において、表面処理剤に加えて水を使用することができる。本発明の方法の工程(B)における表面処理剤に対する水のモル比は、好ましくは0.1~100、より好ましくは0.5~50、より好ましくは1.0~10、より好ましくは1.2~9、より好ましくは1.5~8、より好ましくは2~7である。
【0066】
しかしながら、含水量の低い表面処理シリカ粉末を得る必要がある場合には、プロセスで使用する水の量を最小限に抑える必要があり、理想的には方法の工程中に水を一切添加すべきではない。したがって、工程(B)の実施前、実施中、または実施後には、実質的に水を添加しないことが好ましい。「本質的に水を含まない」という用語は、本明細書の文脈では、工程(B)で使用されるヒュームドシリカ粉末の1%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.1%未満、より好ましくは0.01%未満の水の添加量、最も好ましくは水を一切添加しないことに関係する。
【0067】
表面処理剤および場合により水は、本発明の方法では蒸気および液体の両方の形で使用することができる。
【0068】
本発明の方法の工程(B)は、10℃~250℃の温度で1分間~24時間実施することができる。工程(B)の時間および継続時間は、プロセスおよび/または目標とするシリカ特性に関する特定の要件に従って選択することができる。したがって、処理温度が低いほど、通常はより長い疎水化時間が必要になる。本発明の好ましい一実施形態では、ヒュームドシリカ粉末の疎水化は、10℃~80℃で3時間~24時間、好ましくは5時間~24時間行われる。本発明の別の好ましい実施形態では、本方法の工程(B)は、90℃~200℃、好ましくは100℃~180℃、最も好ましくは120℃~160℃で0.5時間~10時間、好ましくは1時間~8時間実施される。本発明による方法の工程(B)は、0.1バール~10バール、好ましくは0.5バール~8バール、より好ましくは1バール~7バール、最も好ましくは1.1バール~5バールの圧力下で行うことができる。最も好ましくは、工程(B)は、反応温度で使用される表面処理剤の自然蒸気圧下、閉鎖系で行われる。
【0069】
本発明の方法の工程B)において、工程(A)で熱処理を受けたヒュームドシリカ粉末は、好ましくは周囲温度(約25℃)で液体表面処理剤を噴霧され、その後、その混合物は、50℃~400℃の温度で1時間~6時間かけて熱処理される。
【0070】
工程(B)における表面処理の別の方法は、工程(A)で熱処理を受けたヒュームドシリカ粉末を表面処理剤で処理することによって行うことができ、表面処理剤は蒸気の形である。その後、その混合物は、50℃~800℃の温度で0.5時間~6時間かけて熱処理される。
【0071】
工程(B)における表面処理後の熱処理は、例えば窒素などの保護ガス下で行うことができる。表面処理は、スプレー装置を備えた加熱可能なミキサーおよび乾燥機で、連続的にまたはバッチ式で実施できる。適切な装置は、例えば、プラウシェアミキサーもしくはプレート、サイクロン、または流動床乾燥機であってよい。
【0072】
表面処理剤の使用量は、粒子の種類および塗布される表面処理剤の種類によって異なる。しかしながら、工程(A)で熱処理を受けたヒュームドシリカ粉末の量に対して、通常は1重量%~25重量%、好ましくは2重量%~20重量%、より好ましくは5重量%~18重量%の表面処理剤が使用される。
【0073】
表面処理剤の必要量は、使用されるヒュームドシリカ粉末のBET表面積に左右され得る。したがって、工程(A)で熱処理を受けたヒュームドシリカ粉末のBET比表面積1mあたり、0.1μモル~100μモル、より好ましくは1μモル~50μモル、より好ましくは3.0μモル~20μモルの表面処理剤が使用されることが好ましい。
【0074】
本発明の方法の任意の工程C)では、工程(A)で熱処理を受けたヒュームドシリカ粉末および/または方法の工程(B)で得られたヒュームドシリカ粉末を破砕または粉砕して、得られたシリカ粒子の平均粒径を小さくする。
【0075】
本発明の方法の任意の工程(C)における粉砕は、この目的に適した任意の機械、例えば適切なミルによって実現することができる。
【0076】
しかしながら、ほとんどの場合、本発明の方法の任意の工程C)は実施不要であり、望ましくさえない。粗大なシリカ粒子を破砕または粉砕すると、通常、平均粒径が小さくなったシリカ粒子が得られるが、そのような粒子は比較的広い粒径分布を示す。このような粒子は通常、比較的大きな割合で微粉を含んでおり、これらの破砕/粉砕粒子の取り扱いが複雑になる。
したがって、本発明の方法は、いかなる破砕および/または粉砕工程を含まないことが好ましい。
【0077】
表面未修飾ヒュームドシリカ粉末
本発明はさらに、本発明の方法によって得られる表面未修飾シリカ粉末を提供する。
本発明はさらに、好ましくは本発明の方法に従って調製することができる、以下を有する表面未修飾シリカ粉末を提供する。
(a)水素化アルミニウムリチウムとの反応により測定して、1.17SiOH/nm以下、好ましくは0.6SiOH/nm~1.15SiOH/nm、より好ましくは0.6SiOH/nm~1.14SiOH/nm、より好ましくは0.6SiOH/nm~1.1SiOH/nm、より好ましくは0.6SiOH/nm~1.05SiOH/nm、より好ましくは0.6SiOH/nm~1.05SiOH/nm、より好ましくは0.7SiOH/nm~1.05SiOH/nm、より好ましくは0.8SiOH/nm~1.05SiOH/nm、より好ましくは0.9SiOH/nm~1.05SiOH/nmであるBET表面積dSiOHに対するシラノール基の数;
(b)10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下、好ましくは1μm以下である、25℃で120秒間の超音波処理を行った後のシリカの5重量%水性分散液における静的光散乱法(SLS)により測定された粒径d90。得られる測定粒径分布は、全粒子のうちの90%が超えていない粒径を反映するd90値を定義するために使用される。
【0078】
要件(a)および要件(b)を特徴とする本発明の表面未修飾シリカ粉末は、上記の本発明の方法によって得ることができる。
上述の表面未修飾ヒュームドシリカ粉末は、表面処理されていない、すなわち、いかなる表面処理剤によっても修飾されていないため、本質的に親水性である。
本発明による表面未修飾ヒュームドシリカ粉末は、1.0重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満、よりいっそう好ましくは0.1重量%未満、さらにより好ましくは0.05重量%未満の炭素含有量を有することが好ましい。炭素含有量は、EN ISO3262-20:2000(第8章)に準拠して元素分析により測定できる。
【0079】
本発明による表面未修飾ヒュームドシリカ粉末は、1.0重量%未満、より好ましくは0.7重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.4重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満の含水量を有することが好ましい。含水量は、カール・フィッシャー滴定法によって測定できる。
【0080】
本発明の表面未修飾ヒュームドシリカ粉末は、メタノール/水混合物中のメタノールの15体積%以下、より好ましくは10体積%以下、より好ましくは5体積%以下、特に好ましくは約0体積%のメタノール湿潤性を有することが好ましい。表面未修飾ヒュームドシリカ粉末のメタノール湿潤性は、例えば、国際公開第2011/076518号パンフレットの第5~6頁に詳細に記載されているように測定することができる。
【0081】
本発明による表面未修飾ヒュームドシリカ粉末は、シリカの5重量%水分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱(SLS)により測定して、最大で2μm、より好ましくは0.05μm~1.5μm、より好ましくは0.10μm~1.2μm、より好ましくは0.15μm~1.0μm、より好ましくは0.20μm~0.90μm、より好ましくは0.25μm~0.80μmの数値中央粒径d50を有することが好ましい。結果として得られる測定粒径分布を使用して、全粒子のうちの50%が超えていない粒径を反映する中央値d50を数値中央粒径として定義する。
【0082】
本発明の表面未修飾ヒュームドシリカ粉末は、比較的狭い粒径分布を有することが好ましく、これは、7.0未満、4.0未満、より好ましくは0.8~3.5、より好ましくは0.9~3.2、より好ましくは1.0~3.1、より好ましくは1.0~3.0、より好ましくは1.0~2.5、より好ましくは1.0~2.0の粒径分布のスパンである(d90-d10)/d50の値によって特徴付けることができる。このような粒径分布の狭い親水性シリカ粉末は、さまざまな組成物中での分散性が特に良好であるため好ましい。
【0083】
本発明の表面未修飾ヒュームドシリカ粉末は、300g/L以下、より好ましくは250g/L以下、より好ましくは20g/L~250g/L、より好ましくは20g/L~200g/L、より好ましくは25g/L~180g/L、より好ましくは30g/L~150g/Lのタンピング密度を有することが好ましい。タンピング密度は、DIN ISO 787-11:1995に準拠して測定できる。
【0084】
本発明の表面未修飾ヒュームドシリカ粉末は、20m/gを超える、好ましくは20m/g~600m/g、より好ましくは30m/g~500m/g、より好ましくは40m/g~400m/g、より好ましくは50m/g~300m/gのBET表面積を有することができる。比表面積は、単にBET表面積とも呼ばれ、DIN 9277:2014に準拠して、ブルナウアー-エメット-テラー法による窒素吸着により測定できる。
【0085】
本発明による表面未修飾ヒュームドシリカ粉末は、本発明の方法の工程(A)を実施した後に得ることができ、好ましくは、本発明による表面未修飾ヒュームドシリカ粉末は、本発明の方法の工程(A)を実施することにより得られる。
【0086】
表面修飾ヒュームドシリカ粉末
本発明はさらに、本発明の方法の工程(A)および工程(B)によって得られる表面修飾ヒュームドシリカ粉末を提供するものであり、好ましくは、本発明による表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、本発明の方法の工程(A)および工程(B)を実施することにより得られる。
【0087】
本発明はさらに、以下を有する表面修飾ヒュームドシリカ粉末を提供するものである:
a)水素化アルミニウムリチウムとの反応により測定した、0.29SiOH/nm以下のBET表面積dSiOHに対するシラノール基数;
b)表面処理シリカの5重量%メタノール分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱(SLS)により測定した、10μm以下の粒径d90
【0088】
要件(a)および要件(b)を特徴とする本発明によるこのような表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、本発明の方法の工程(A)および工程(B)を含む本発明の方法によって得ることができる。
【0089】
本発明において、用語「表面修飾された」は、用語「表面処理された」と同様に使用され、表面未処理親水性シリカと、シリカの遊離シラノール基を完全にまたは部分的に修飾する対応する表面処理剤と、の化学反応に関係する。
【0090】
この表面処理剤は、オルガノシラン、シラザン、非環状ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。好ましくは、オルガノシラン、シラザン、またはそれらの混合物が方法で使用される。いくつかの特に有用な表面処理剤は、本発明の方法の表面処理工程(B)に関して上述したものと同一である。
【0091】
本発明の表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、好ましくは本発明の方法に従って調製することができ、BET表面積dSiOHに対するシラノール基数は、0.45SiOH/nm以下、好ましくは0.43SiOH/nm以下、より好ましくは0.41SiOH/nm以下、より好ましくは0.39SiOH/nm以下、より好ましくは0.37SiOH/nm以下、より好ましくは0.35SiOH/nm以下、より好ましくは0.33SiOH/nm以下、より好ましくは0.31SiOH/nm以下、より好ましくは0.29SiOH/nm以下、より好ましくは0.28SiOH/nm以下、より好ましくは0.25SiOH/nm以下、より好ましくは0.20SiOH/nm以下である。特に好ましくは、本発明の表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、BET表面積dSiOHに対するシラノール基数が、0.02SiOH/nmを超え、より好ましくは0.02SiOH/nm~0.45SiOH/nm、より好ましくは0.03SiOH/nm~0.40SiOH/nm、より好ましくは0.05SiOH/nm~0.35SiOH/nm、より好ましくは0.05SiOH/nm~0.33SiOH/nm、より好ましくは0.05SiOH/nm~0.30SiOH/nm、より好ましくは0.03SiOH/nm~0.29SiOH/nm、より好ましくは0.05SiOH/nm~0.28SiOH/nm、より好ましくは0.05SiOH/nm~0.25SiOH/nm、より好ましくは0.07SiOH/~0.20SiOH/nm、より好ましくは0.10SiOH/nm~0.20SiOH/nmである。
【0092】
本発明の表面修飾ヒュームドシリカ粉末のシラノール基密度は、典型的な表面処理ヒュームドシリカと比較して、前例のないほど低い。これにより、そのようなシリカに独特の特性、例えば少ない含水量などがもたらされる。
【0093】
本発明の表面修飾シリカ粉末は、使用される表面処理剤の化学構造に応じて、親水性または疎水性となり得る。好ましくは、疎水性を付与する表面処理剤が使用され、疎水性を有する表面処理シリカ粉末が生成される。
【0094】
本明細書の文脈における用語「疎水性」は、水などの極性媒体に対して親和性が低い表面処理シリカ粒子に関係する。表面処理シリカ粉末の疎水性の程度は、例えば国際公開第2011/076518号パンフレットの第5~6頁に詳述されているように、メタノール湿潤性などのパラメータによって測定することができる。純水中では、疎水性シリカは水から完全に分離し、溶媒で濡れることなくその表面に浮く。対照的に、純メタノール中では、疎水性シリカは溶媒全体に分散しており、完全な湿潤が起こる。メタノール湿潤性の測定では、試験されるシリカ試料をさまざまなメタノール/水混合物と混合し、シリカの湿潤がまだ生じていない、すなわち、試験されるシリカの100%が試験混合物から分離されている状態の最大メタノール含有量を測定する。メタノール/水混合物中のこのメタノール含有量(体積%単位)は、メタノール湿潤性と呼ばれる。このようなメタノール湿潤性のレベルが高いほど、シリカはより疎水性である。
【0095】
本発明の表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、メタノール/水混合物中のメタノール含量が20体積%を超える、より好ましくは30体積%~90体積%、より好ましくは30体積%~80体積%、特に好ましくは35体積%~75体積%、最も好ましくは40体積%~70体積%のメタノール湿潤性を有する。
【0096】
本発明の表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、シリカの5重量%メタノール分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱(SLS)により測定して、10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下の粒径d90を有する。結果として得られる測定粒径分布は、全粒子のうちの90%が超えていない粒径を反映する値であるd90を定義するために使用される。
【0097】
本発明による表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、シリカの5重量%メタノール分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱(SLS)により測定して、最大で2μm、より好ましくは0.05μm~1.5μm、より好ましくは0.10μm~1.2μm、より好ましくは0.15μm~1.0μm、より好ましくは0.20μm~0.90μm、より好ましくは0.25μm~0.80μmの数値中央粒径d50を有することが好ましい。結果として得られる測定粒径分布は、全粒子のうちの50%が超えていない粒径を反映する中央値d50を数値中央粒径として定義するのに使用される。本発明の表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、比較的狭い粒径分布を有することが好ましく、これは、粒径分布のスパンである(d90-d10)/d50の値が7.0以下、より好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、好ましくは0.7~3.5、より好ましくは0.8~3.5、より好ましくは1.0~3.2、より好ましくは1.1~3.1、より好ましくは1.2~3.0であることによって特徴付けることができる。このように粒径分布が狭い表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、さまざまな組成物中での分散性が特に良好であり、好ましい。
【0098】
本発明の表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、15m/gを超える、好ましくは15m/g~500m/g、より好ましくは30m/g~400m/g、より好ましくは40m/g~300m/g、より好ましくは50m/g~250m/gのBET表面積を有することができる。
【0099】
本発明の表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、10g/Lを超える、より好ましくは20g/L~300g/L、より好ましくは25g/L~250g/L、より好ましくは30g/L~220g/L、より好ましくは35g/L~200g/L、より好ましくは40g/L~150g/L、より好ましくは45g/L~120g/L、より好ましくは50g/L~100g/Lのタンピング密度を有することが好ましい。タンピング密度は、DIN ISO 787-11:1995に準拠して測定できる。
【0100】
本発明による表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、元素分析により測定して、0.2重量%~10重量%、好ましくは0.3重量%~7重量%、より好ましくは0.4重量%~5重量%、より好ましくは0.5重量%~4重量%、より好ましくは0.5重量%~3.5重量%、より好ましくは0.5重量%~3.2重量%、より好ましくは0.5重量%~3.0重量%、より好ましくは0.5重量%~2.5重量%、より好ましくは0.5重量%~2.0重量%、より好ましくは0.5重量%~1.5重量%の炭素含有量を有する。元素分析は、EN ISO3262-20:2000(第8章)に準拠して実施できる。分析試料は、セラミックるつぼに秤量され、燃焼添加剤が加えられ、酸素流下、誘導炉内で加熱される。存在する炭素は、酸化されてCOになる。COガス量は、赤外線検出器により定量化される。
【0101】
特に好ましくは、本発明による表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、炭素含有量が非常に低いこと、例えば0.5重量%~3.5重量%、より好ましくは0.5重量%~3.0重量%、さらには0.5重量%~2.0重量%であることを特徴とする。しかしながら、これは、広範な表面処理の達成、例えば、メタノール/水混合物中、例えば30~80体積%、より好ましくは35~75体積%、より好ましくは40~70体積%のそのような表面処理ヒュームドシリカが高度な疎水性を達成するのに十分である。このような表面処理ヒュームドシリカ粉末では、最大程度の表面処理、例えばシリカ粉末の最大程度の疎水性を達成するために、最小限の量の表面処理剤が使用される。
【0102】
また特に好ましくは、本発明による表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、例えば0.5重量%~3.5重量%、より好ましくは0.5重量%~3.0重量%、さらには0.5重量%~2.0重量%のように炭素含有量が低いとともに、例えば0.35SiOH/nm以下、より好ましくは0.30SiOH/nm以下、より好ましくは0.25SiOH/nm以下のようにBET表面積dSiOHに対するシラノール基数が少ない。この場合、表面処理剤の使用量を最小限に抑えることで、表面処理ヒュームドシリカの水分含有量を最小限に抑えることができる。
【0103】
本発明の表面修飾ヒュームドシリカ粉末の乾燥減量(LOD)は、好ましくは5.0重量%未満、より好ましくは3.0重量%未満、より好ましくは2.0重量%未満、より好ましくは1.0重量%未満、より好ましくは0.8重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満である。乾燥減量は、ASTM D280-01(方法A)に準拠して測定できる。
【0104】
本発明による表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、0.8重量%未満、より好ましくは0.6重量%未満、より好ましくは0.4重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満の含水量を有することが好ましい。含水量は、カール・フィッシャー滴定法により測定できる。
【0105】
ヒュームドシリカ粉末を含む組成物
本発明の別の目的は、本発明による表面未修飾ヒュームドシリカ粉末および/または本発明による表面修飾ヒュームドシリカ粉末を含む組成物である。
【0106】
本発明による組成物は、少なくとも1つのバインダーを含むことができる。バインダーは、組成物の個々の部分を互いに結合し、必要に応じて1つまたは複数の充填剤および/または他の添加剤を結合し、したがって組成物の機械的特性を改善することができる。このようなバインダーは、有機物質または無機物質を含むことができる。バインダーは、場合により反応性有機物質を含む。有機バインダーは、例えば、(メタ)アクリレート、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、アラビアゴム、カゼイン、植物油、ポリウレタン、シリコーン樹脂、ワックス、セルロース接着剤およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。このような有機物質は、例えば溶媒の蒸発、重合、架橋反応、または別のタイプの物理的または化学的変化により、使用される組成物の硬化を引き起こし得る。このような硬化は、例えば、熱的に、またはUV放射線または他の放射線の作用下で起こり得る。単一(一)成分系(1-C)および多成分系の両方、特に二成分系(2-C)をバインダーとして適用することができる。本発明にとって特に好ましいのは、(好ましくは二成分系として、)水系バインダーまたは水と混和性の(メタ)アクリレート系バインダーおよびエポキシ樹脂である。
【0107】
有機バインダーに加えて、またはその代替物として、本発明の組成物は無機硬化性物質を含有することができる。このような無機バインダーは、鉱物バインダーとも呼ばれ、添加物質を互いに結合するという有機バインダーと本質的に同じ役割を果たす。さらに、無機バインダーは、非水硬性バインダーと水硬性バインダーに分類される。非水硬性バインダーは、空気中でのみ硬化するカルシウム石灰、ドロマイト石灰、石膏および硬石膏などの水溶性バインダーである。水硬性バインダーは、空気中および水の存在下で硬化し、硬化後は水不溶性となるバインダーである。これらには、水硬性石灰、セメント、石材セメントが含まれる。さまざまな無機バインダーの混合物も本発明の組成物に使用することができる。
【0108】
バインダーに加えて、またはバインダーの代わりに、本発明の組成物はまた、マトリックスポリマー、例えば、ポリオレフィン樹脂(例:ポリエチレンまたはポリプロピレン)、ポリエステル樹脂(例:ポリエチレンテレフタレート)、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、またはこれらの混合物を含有することもできる。本発明のヒュームドシリカ粉末は、そのようなマトリックスポリマーに組み込まれること、またはその表面にコーティングを形成することができる。
【0109】
ヒュームドシリカ粉末およびバインダーとは別に、本発明による組成物は、少なくとも1つの溶媒および/または充填剤および/または他の添加剤をさらに含有することができる。
【0110】
本発明の組成物に使用される溶媒は、水、アルコール、脂肪族および芳香族炭化水素、エーテル、エステル、アルデヒド、ケトンおよびそれらの混合物からなる群から選択することができる。例えば、使用される溶媒は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、酢酸エチルおよびアセトンであり得る。特に好ましくは、断熱組成物に使用される溶媒は、300℃未満、特に好ましくは200℃未満の沸点を有する。このような比較的揮発性の溶媒は、本発明による組成物の硬化中に容易に蒸発または気化することができる。
【0111】
本発明の表面修飾ヒュームドシリカ粉末は、トナー組成物での使用に特に適している。
【0112】
ヒュームドシリカ粉末の使用
本発明の表面修飾および/または本発明の表面修飾シリカ粉末は、塗料またはコーティング、シリコーン、医薬品または化粧品、接着剤またはシーラント、トナー組成物、リチウムイオン電池、特にセパレータ、その電極および/または電解質の構成成分として、ならびに、液体系のレオロジー特性を改質するため、沈降防止剤として、粉末の流動性を改善するため、およびシリコーン組成物の機械的または光学的特性を改善するために使用できる。
【実施例
【0113】
分析方法
BET比表面積[m/g]については、DIN 9277:2014に準拠し、ブルナウアー-エメット-テラー法による窒素吸着により測定した。
BET表面積dSiOH[SiOH/nm]に対するシラノール基数については、欧州特許出願公開第0725037号明細書の第8頁第17行目~第9頁第12行目に詳述されているように、シリカ粉末の予備乾燥試料と水素化リチウムアルミニウム溶液との反応により測定した。この方法は、Journal of Colloid and Interface Science、第125巻、第1号(1988年)61~68頁にも記載されている。
タンピング密度[g/L]については、DIN ISO 787-11:1995「顔料および増量剤の一般的試験方法-第11部:タンピング後のタンピング体積および見掛け密度の測定」に準拠して測定した。
粒径分布、すなわちd10値、d50値、d90値およびスパン(d90-d10)/d50[μm]については、表面処理シリカの5重量%メタノール分散液(疎水性シリカ粉末の場合)または水分散液(親水性シリカ粉末の場合)を25℃で120秒間超音波処理した後、レーザー回折粒径分析装置(HORIBA LA-950)を使用して静的光散乱(SLS)により測定した。
メタノール湿潤性[メタノール/水混合物中のメタノールの体積%]については、国際公開第2011/076518号パンフレットの第5~6頁に詳述されている方法に従って測定した。
炭素含有量[重量%]については、EN ISO3262-20:2000 (第8章)に準拠して元素分析により測定した。分析される試料をセラミックるつぼに秤量し、燃焼添加剤を加え、酸素流下、誘導炉内で加熱した。存在する炭素は酸化されてCOになる。COガスの量を赤外線検出器により定量化する。
含水量[重量%]については、カール・フィッシャー滴定装置を使用したカール・フィッシャー滴定により測定した。
【0114】
出発物質
出発物質1として、BET表面積:46m/gおよびタンピング密度:117g/LのAerosil(登録商標)EG50(製造元:Evonik Operations GmbH社)を使用した。出発物質2として、BET表面積:282m/gおよびタンピング密度:43g/LのAerosil(登録商標)300(製造元:Evonik Operations GmbH社)を使用した。
【0115】
実施例1
出発物質1を、直径:約160mm、長さ:2mのロータリーキルンで400℃で熱処理した。シリカの平均ロータリーキルン滞留時間は1時間であった。回転速度を5rpmに設定したので、シリカの処理量は、約1kg/時間であった。乾燥させてフィルター処理した圧搾空気を、約1m/時間の流量でキルン出口へ(熱処理シリカ流とは逆流で)連続的に供給し、チューブ内の対流に予備調整空気を供給する。このプロセスはスムーズであった。ロータリーキルンの目詰まりは見られなかった。得られた熱処理シリカの物理化学的性質を表1に示す。
【0116】
実施例2~5および比較例1は、700~1,300℃の熱処理温度を適用したこと以外は実施例1と同様に実施した。実施例2~5ではロータリーキルンの目詰まりは見られなかったが、比較例1では顕著な目詰まりが見られた。得られた熱処理シリカの物理化学的性質を表1に示す。
【0117】
比較例2は、出発物質1をチャンバーキルン(製造元:Nabertherm社)内で熱処理することにより行った。床の高さが最大1cmである層を1,200℃で1時間熱処理した。得られた熱処理シリカの物理化学的性質を表1に示す。
【0118】
実施例6
出発物質2を、直径:約160mm、長さ:2mのロータリーキルンで400℃で熱処理した。シリカの平均ロータリーキルン滞留時間は1時間であった。このプロセスはスムーズであった。ロータリーキルンの目詰まりは見られなかった。得られた熱処理シリカの物理化学的性質を表2に示す。
【0119】
実施例7~10および比較例3は、700~1,300℃の熱処理温度を適用したこと以外は実施例6と同様に実施した。実施例7~10ではロータリーキルンの目詰まりは見られなかったが、比較例2では顕著な目詰まりが見られた。得られた熱処理シリカの物理化学的性質を表2に示す。
【0120】
比較例4は、出発物質2をチャンバーキルン(製造元:Nabertherm社)内で熱処理することにより行った。床の高さが最大1cmである層を11,00℃で1時間熱処理した。得られた熱処理シリカの物理化学的性質を表1に示す。
【0121】
実施例11
実施例10で得られた熱処理済の親水性シリカ(100g)をヘキサメチルジシラザン(HMDS)で表面処理した。この目的のために、HMDS(8.6g)を蒸発させた。シリカ粉末をデシケーター内で薄層にして100℃まで加熱し、次いで真空にした。続いて、圧力が300ミリバールに上昇するまで、気化したHMDSをデシケーター内に入れた。試料を空気でパージした後、デシケーターから取り出した。このようにして得られた表面処理シリカは、BET表面積が190m/g、炭素含有量が1.13%、シラノール密度が0.16SiOH/nm、メタノール/水混合物中でのメタノール湿潤性が45%であり、表面処理シリカの5重量%メタノール分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱(SLS)により測定した粒径d90が10μm未満であった。
【0122】
表1は、出発物質1の熱処理によって得られるヒュームドシリカ粉末の物理化学的特性を示す(BET=46m/g、タンピング密度=117g/L)。出発物質1のBET表面積、タンピング密度および粒径は、熱処理が1200℃までの温度で行われる実施例1~5ではあまり変化しない。逆に、1300℃の高温(比較例1)では、BET表面積の急減と、タンピング密度および粒径(例:d90値)の両方の増加が見られた(表1)。BET表面積と粒径の変化は、1200℃で熱処理を行ったが熱処理中にシリカを移動させなかった比較例2においてさらに顕著であった。出発物質1のシラノール基密度(2.78OH/nm)は、実施例1~5および比較例1で大幅に減少し、最大の変化は400~1000℃の範囲で起こった。興味深いことに、1300℃のより高い温度(比較例1)では、シラノール基密度のさらなる低減は達成できなかった。
【0123】
表2は、表1の試験(実施例6~10、ならびに比較例3および4)と同様の結果をまとめているが、出発物質2(BET=282m/g、タンピング密度=43g/L)を使用しており、その結果は表1の結果と同様の傾向を示している。
したがって、ヒュームドシリカ粉末を動かしながら、親水性ヒュームドシリカ粉末を400~1200℃の温度範囲で一定時間熱処理することにより、粒径が比較的小さく、BET表面積とタンピング密度がほとんど変化しないシリカ粉末を製造することができた。このような熱処理シリカ粉末は、特に低い含水量によって特徴付けられる。
このような熱処理シリカの表面処理を水を添加せずに行うことにより、シラノール基密度と含水量が特に低い高疎水性シリカ粉末を製造することができる(実施例11)。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【国際調査報告】