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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(54)【発明の名称】酸化防止剤を含む溶媒組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 15/06 20060101AFI20240205BHJP
   C09K 15/08 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
C09K15/06
C09K15/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546338
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(85)【翻訳文提出日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 US2022012219
(87)【国際公開番号】W WO2022173546
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】63/147,872
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】ドネート、フェリペ エイ.
(72)【発明者】
【氏名】メイフィールド、ダニエル アール.
【テーマコード(参考)】
4H025
【Fターム(参考)】
4H025AA11
4H025AA17
4H025AC05
(57)【要約】
本発明は、溶媒組成物、及びグリコールエーテル溶媒中における過酸化物の生成を阻害するための方法に関する。一態様では、溶媒組成物は、少なくとも1種のグリコールエーテルと、少なくとも1種の酸化防止剤であって、少なくとも1種の酸化防止剤は、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)及びこれらの混合物からなる群から選択され、溶媒組成物中の酸化防止剤の量は、溶媒組成物の総重量に基づいて1,000重量ppm以下である、少なくとも1つの酸化防止剤と、過酸化物であって、溶媒組成物中の過酸化物の量は、溶媒組成物の総重量に基づいて20ppm未満である、過酸化物と、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒組成物であって、
(a)以下の式:
-O-(CHRCHR)O)
(式中、Rは、1~9個の炭素原子を有するアルキル基又はフェニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素、メチル基又はエチル基であり、ただし、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rは、水素又は1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、nは、1~3の整数である)を有する少なくとも1種のグリコールエーテルと、
(b)少なくとも1種の酸化防止剤であって、前記少なくとも1種の酸化防止剤は、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)及びこれらの混合物からなる群から選択され、前記溶媒組成物中の前記酸化防止剤の量は、前記溶媒組成物の総重量に基づいて1,000重量ppm以下である、少なくとも1種の酸化防止剤と、
(c)過酸化物であって、前記溶媒組成物中の前記過酸化物の量は、前記溶媒組成物の総重量に基づいて20ppm未満である、過酸化物と、を含む、溶媒組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種のグリコールエーテルが、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の溶媒組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種の酸化防止剤が、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエートである、請求項1に記載の溶媒組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種の酸化防止剤が、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)である、請求項1に記載の溶媒組成物。
【請求項5】
前記溶媒組成物中に存在する前記過酸化物の量が、前記溶媒組成物の総重量に基づいて10重量ppm未満である、請求項1に記載の溶媒組成物。
【請求項6】
前記溶媒組成物中の前記酸化防止剤の阻害剤濃度が、前記溶媒組成物の総重量に基づいて50重量ppm~1,000重量ppmである、請求項1に記載の溶媒組成物。
【請求項7】
前記溶媒組成物中に存在するグリコールエーテルの量が、前記溶媒組成物の総重量に基づいて95重量パーセント~99.99重量パーセントである、請求項1に記載の溶媒組成物。
【請求項8】
グリコールエーテル溶媒中における過酸化物の生成を阻害するための方法であって、少なくとも1種のグリコールエーテル溶媒を少なくとも1種の酸化防止剤で処理して、前記溶媒中の過酸化物の含有量を低減して、グリコールエーテル溶媒組成物を提供することを含み、前記少なくとも1種のグリコールエーテルは、以下の式:
-O-(CHRCHR)O)
(式中、Rは、1~9個の炭素原子を有するアルキル基又はフェニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素、メチル基又はエチル基であり、ただし、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rは、水素又は1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、nは、1~3の整数である)を有し、前記少なくとも1種の酸化防止剤は、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)及びこれらの混合物からなる群から選択され、前記溶媒組成物中の前記酸化防止剤の濃度は、前記溶媒組成物の総重量に基づいて1,000重量ppm以下であり、前記溶媒組成物中の前記過酸化物の量は、前記溶媒組成物の総重量に基づいて20ppm未満である、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法によって調製された、グリコールエーテル溶媒組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒の処理に使用するための酸化防止剤に関し、具体的には、グリコールエーテル溶媒及び少なくとも1種の酸化防止剤を有する溶媒組成物に関する。本発明はまた、グリコールエーテル溶媒中における過酸化物の生成を阻害するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
グリコールエーテル及びグリコールジエーテル(本明細書では「グリコールエーテル」と総称)は、空気に曝露されたときに過酸化物を形成することが知られている溶媒のクラスに含まれる。グリコールエーテルの過酸化物は、アルデヒド及びカルボン酸に分解される傾向があり、最終的には、所望のアッセイ、酸性度及び色の規格を満たさないグリコールエーテル溶媒が生じる。グリコールエーテル中における過酸化物の形成は、低百万分率レベルで酸化防止剤として有効であることが知られているブチル化ヒドロキシトルエン(butylatedhydroxytoluene、BHT)などの阻害剤を添加することによって低減することができる。この理由から、BHTは、今日、必要な過酸化物阻害をグリコールエーテル溶媒に提供するために、多くの既知のグリコールエーテル溶媒で広く使用されている。
【0003】
DOWANOL(商標)DPnB(ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル)は、BHTで阻害される既知のグリコールエーテル溶媒のうちの1つである。BHTを含有するDOWANOL(商標)DPnBは、様々な洗浄製品で使用される溶媒である。また、BHTを含むDOWANOL(商標)DPnBは、Safer Choice Standard基準を満たすことがUS EPAによって事前承認されている化学成分のCleanGredientデータベースに記載されている。しかしながら、BHTを用いた阻害が成されている化合物を上記リストから除去するというEPAによる最近の決定により、BHT代替物を溶媒に導入することができない限り、BHTを含むDOWANOL(商標)DPnB、並びにBHTを阻害剤として使用する他の溶媒はリストから外されることになる。そのような溶媒のためのBHT代替酸化防止剤を有することが望ましい。
【発明の概要】
【0004】
驚くべきことに、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などの酸化防止剤は、低濃度(例えば、50重量ppm~1000重量ppm)で、グリコールエーテル中の過酸化物及び酸の生成を防ぐことができることが見出された。したがって、本発明は、過酸化物が阻害されたグリコールエーテル溶媒組成物を提供するために、グリコールエーテル溶媒中で低濃度の上記の酸化防止剤のうちの1つ以上を使用することを目的とする。
【0005】
一態様では、本発明の溶媒組成物は、(a)以下の式:
-O-(CHRCHR)O)
(式中、Rは、1~9個の炭素原子を有するアルキル基又はフェニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素、メチル基又はエチル基であり、ただし、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rは、水素又は1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、nは、1~3の整数である)を有する少なくとも1種のグリコールエーテルと、(b)少なくとも1種の酸化防止剤であって、少なくとも1種の酸化防止剤は、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)及びこれらの混合物からなる群から選択され、溶媒組成物中の酸化防止剤の量は、溶媒組成物の総重量に基づいて1,000重量ppm以下である、少なくとも1種の酸化防止剤と、(c)過酸化物であって、溶媒組成物中の過酸化物の量は、溶媒組成物の総重量に基づいて20ppm未満である、過酸化物と、を含む。
【0006】
別の態様では、本発明は、グリコールエーテル溶媒中における過酸化物の生成を阻害するための方法であって、少なくとも1種のグリコールエーテル溶媒を少なくとも1種の酸化防止剤で処理して、溶媒中の過酸化物の含有量を低減して、グリコールエーテル溶媒組成物を提供することを含み、少なくとも1種のグリコールエーテルは、以下の式:
-O-(CHRCHR)O)
(式中、Rは、1~9個の炭素原子を有するアルキル基又はフェニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素、メチル基又はエチル基であり、ただし、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rは、水素又は1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、nは、1~3の整数である)を有し、少なくとも1種の酸化防止剤は、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)及びこれらの混合物からなる群から選択され、溶媒組成物中の酸化防止剤の濃度は、溶媒組成物の総重量に基づいて1,000重量ppm以下であり、溶媒組成物中の過酸化物の濃度は、溶媒組成物の総重量に基づいて20ppm未満である、方法に関する。
【0007】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される本発明の方法のいずれかを使用して調製された、グリコールエーテル溶媒組成物に関する。
【0008】
これら及び他の実施形態は、「発明を実施するための形態」において、より詳細に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書全体にわたって使用される場合、以下の略称は、文脈上別途明確に指示されない限り、以下の意味を有する:「<」は、「未満」を意味し、「>」は、「よりも大きい」を意味し、「≦」は、「以下」を意味し、「≧」は、「以上」を意味し、「@」は、「において」を意味し、μm=ミクロン、g=グラム、mg=ミリグラム、L=リットル、mL=ミリリットル、g/mL=1ミリリットル当たりのグラム、ppm=百万分率、ppmw=重量百万分率、rpm=1分間当たりの回転数、m=メートル、mm=ミリメートル、cm=センチメートル、min=分、s=秒、hr=時間、℃=摂氏温度、mmHg=水銀柱ミリメートル、psig=1平方インチ当たりのポンド、kPa=キロパスカル、%=パーセント、体積%=体積パーセント、及び重量%=重量パーセント、である。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態は、溶媒組成物に関する。一実施形態では、溶媒組成物は、(a)以下の式:
-O-(CHRCHR)O)
(式中、Rは、1~9個の炭素原子を有するアルキル基又はフェニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素、メチル基又はエチル基であり、ただし、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rは、水素又は1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、nは、1~3の整数である)を有する少なくとも1種のグリコールエーテルと、
(b)少なくとも1種の酸化防止剤であって、少なくとも1種の酸化防止剤は、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)及びこれらの混合物からなる群から選択され、溶媒組成物中の酸化防止剤の量は、溶媒組成物の総重量に基づいて1,000重量ppm以下である、少なくとも1種の酸化防止剤と、
(c)過酸化物であって、溶媒組成物中の過酸化物の量は、溶媒組成物の総重量に基づいて20ppm未満である、過酸化物と、を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、グリコールエーテルは、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びこれらの混合物からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、溶媒組成物中のグリコールエーテルの量は、溶媒組成物の総重量に基づいて95重量パーセント~99.99重量パーセントである。
【0012】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の酸化防止剤は、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエートである。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の酸化防止剤は、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)である。いくつかの実施形態では、溶媒組成物中の酸化防止剤の量は、溶媒組成物の総重量に基づいて50ppm~1,000ppmである。
【0013】
いくつかの実施形態では、グリコールエーテル溶媒組成物中に存在する過酸化物の濃度は、溶媒組成物の総重量に基づいて10ppm未満である。
【0014】
本発明で使用されるグリコールエーテルは、通常、高度に純粋な化合物であるが、同族系列の混合物を含む場合もある。アルコールがエチレンオキシド又はプロピレンオキシドと反応してグリコールエーテルを生成するとき、1つ、2つ若しくは3つのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド単位を含有する生成物の混合物が得られることはよく知られている。この混合物は、蒸留によって主成分に分離されるが、時には少量の1つの同族体が所与の生成物中に残留する場合もある。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明において有用なグリコールエーテルは、95%~99.99%の純度で使用され、前述の同族体化合物のうちの1つ以上を含み得る。通常、グリコールエーテルのいくつかの商業的実施形態は、同族体の混合物である。
【0016】
本発明において有用ないくつかの市販のグリコールエーテルの例としては、例えば、The Dow Chemical Companyから商品名DOWANOL(商標)として市販の製品、例えば、プロピレングリコールn-ブチルエーテル(DOWANOL(商標)PnB)、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(DOWANOL(商標)DPnB)、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル(DOWANOL(商標)TPnB)、プロピレングリコールn-プロピルエーテル(DOWANOL(商標)PnP)、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル(DOWANOL(商標)DPnP)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(DOWANOL(商標)PMA)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(DOWANOL(商標)DPMA)、及びジプロピレングリコールジメチルエーテル(PROGLYDE(商標)DMM)など、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
本発明の溶媒組成物中のグリコールエーテル(成分(a))の濃度は、例えば、溶媒組成物の総重量に基づいて、いくつかの実施形態では90重量パーセント~99.99重量パーセント、又はいくつかの実施形態では95重量%~99.99重量%であり得る。
【0018】
本発明の実施形態で使用される酸化防止剤(成分(b))は、例えば、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、及びこれらの混合物を含む1種以上の化合物を含むことができる。
【0019】
本発明の実施形態で使用することができる市販の酸化防止剤の1つの非限定的な例としては、BASFから市販されているペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)であるIrganox1010が挙げられる。L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエートは、CAS番号137-66-6であり、Spectrum Chemical Manufacturing Corporation又はSigma-Aldrich Co.から市販されている。
【0020】
本発明の溶媒組成物中にそのような酸化防止剤を含めることにより、1種以上の酸化防止剤は、グリコールエーテル中に存在する過酸化物の濃度及びグリコールエーテルの酸性度の両方を低減することができる。
【0021】
本発明の溶媒組成物で使用することができる1種以上の酸化防止剤(成分(b))の量は、例えば、溶媒組成物の総重量に基づいて、一実施形態では50重量ppm~1,000重量ppm、他の実施形態では50重量ppm~500重量ppm、他の実施形態では100重量ppm~400重量ppm、他の実施形態では150重量ppm~350重量ppm、及び他の実施形態では200重量ppm~300重量ppmであり得る。酸化防止剤の濃度が1,000ppmを超える場合、酸化防止剤はグリコールエーテル中で色を生じさせる場合があり、酸化防止剤の濃度が50ppm未満である場合、いくつかの実施形態では、酸化防止剤はグリコールエーテル中で十分な過酸化物阻害を提供することができない場合がある。
【0022】
本発明はまた、グリコールエーテル溶媒中における過酸化物の生成を阻害するための方法に関する。一実施形態では、グリコールエーテル溶媒中における過酸化物の生成を阻害するための方法は、少なくとも1種のグリコールエーテル溶媒を少なくとも1種の酸化防止剤で処理して、溶媒中の過酸化物の含有量を低減して、グリコールエーテル溶媒組成物を提供することを含み、少なくとも1種のグリコールエーテルは、以下の式:
-O-(CHRCHR)O)
(式中、Rは、1~9個の炭素原子を有するアルキル基又はフェニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素、メチル基又はエチル基であり、ただし、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rがメチル基又はエチル基である場合、Rは水素であり、Rは、水素又は1~4個の炭素原子を有するアルキル基であり、nは、1~3の整数である)を有し、少なくとも1種の酸化防止剤は、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)及びこれらの混合物からなる群から選択され、溶媒組成物中の酸化防止剤の濃度は、溶媒組成物の総重量に基づいて1,000重量ppm以下であり、溶媒組成物中の過酸化物の濃度は、溶媒組成物の総重量に基づいて20ppm未満である。少なくとも1種のグリコールエーテルは、上記で考察したグリコールエーテル(成分(a))のいずれかを含み得る。いくつかの実施形態では、酸化防止剤は、上記で考察したように、L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、及びこれらの混合物のうちの1つ以上を含むことができる。
【0023】
酸化防止剤でのグリコールエーテルの処理は、例えば、(a)少なくとも1種のグリコールエーテルと(b)少なくとも1種の酸化防止剤とを組み合わせる、ブレンドする、又は混合することを含む多数の方法で実施することができる。成分の混合は、生成物を一緒に配合する任意の周知の手段及び当技術分野で周知のプロセス用機器によって行うことができる。本明細書で使用される酸化防止剤(L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート))は、一般に固体として入手可能である。固体形態の酸化防止剤を用いる場合、それらは、予め秤量された袋から混合容器中のグリコールエーテル溶媒に添加され得る。あるいは、酸化防止剤は、濃縮酸化防止剤溶液を作製するために、既知の濃度の少量のグリコールエーテル溶媒と予備混合することができ、次いで、既知の量の濃縮酸化防止剤溶液を、注入槽から又はポンプを使用して大量の阻害されていないグリコールエーテル溶媒に添加し、十分に混合して、所望の最終濃度を得ることができる。酸化防止剤のグリコールエーテルへの添加は、周囲温度(約25℃)及び周囲圧力(約760mmHg又は14.7psig)で行うことができる。
【0024】
グリコールエーテル溶媒を酸化防止剤で処理し、溶媒を完全に阻害するための方法で使用される時間の量は、使用される酸化防止剤、処理されるグリコールエーテル、処理するために使用される技術、混合速度、及び他の要因を含む多数の要因に依存し得る。グリコールエーテルは、いくつかの実施形態では少なくとも10分間、いくつかの実施形態では少なくとも25分間、いくつかの実施形態では少なくとも30分間、いくつかの実施形態では最長60分間、いくつかの実施形態では10~50分間、いくつかの実施形態では10~30分間、酸化防止剤で処理される。概して、酸化防止剤の不適切な溶解を回避するために、より短い処理時間は避けるべきであるが、より長い時間は問題を引き起こさない。
【0025】
本明細書に記載のとおり阻害処理を受けた後に生じる阻害されたグリコールエーテル溶媒組成物は、それぞれ溶媒組成物の総重量に基づいて、いくつかの実施形態では20重量ppm未満、他の実施形態では0重量ppm~15重量ppm、更に別の実施形態では0.01重量ppm~10重量ppmの残留濃度の、グリコールエーテル中に存在する望ましくない過酸化物を有する。グリコールエーテル中に存在する過酸化物の残留濃度は、本明細書の実施例の章に記載される技術を使用して測定される。過酸化物は、溶媒用途のいくつかに対して望ましくない干渉を起こす可能性があるため、グリコールエーテルは過酸化物規格を有する。
【0026】
更に、上記の処理を受けた後に生じるグリコールエーテル溶媒組成物は、例えば、過酸化物の制御、酸性度の低下、及び/又は<25のAPHA色指数を有することを含む、いくつかの有益な特性を有し得る。
【0027】
本明細書に記載のとおり調製された阻害されたグリコールエーテル溶媒組成物は、有利なことに、多くの製品の中でも、例えば、洗浄剤、塗料、パーソナルケア製品用の溶剤系及び水系製剤を含む様々な用途において有用であり得る。
【実施例
【0028】
以下の実施例は、本発明を更に詳細に説明するために提示されるが、特許請求の範囲の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。別途指示されない限り、全ての部及びパーセントは、重量基準である。
【0029】
本発明の実施例(発明例)及び比較例(比較例)で使用した様々な用語及び名称について、以下で説明する。発明例及び比較例で使用した様々な酸化防止剤化合物並びに溶媒について、以下で述べる。
【0030】
酸化防止剤及び溶媒
2つの酸化防止剤を、グリコールエーテル溶媒と潜在的に相溶性であると特定し、空気の存在下における60℃での1週間の加速安定性試験における評価のために選択する。評価のために選択された2つの酸化防止剤は、(1)L-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエート、及び(2)ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(BASFからIrganox1010として市販されている)である。
【0031】
最初に予備的な溶解度測定を行って、酸化防止剤がグリコールエーテル溶媒に十分に可溶性であるかどうかを決定し、酸化防止剤が十分に可溶性であることを見出す(例えば、少なくとも500ppm~1,000ppmの濃度まで)。
【0032】
上記の酸化防止剤を、The Dow Chemical CompanyからDOWANOL(商標)の商品名で入手可能な以下の3種のグリコールエーテル溶媒を用いて評価する:
(1)プロピレングリコールn-ブチルエーテル(DOWANOL(商標)PnB、「PnB」)、(2)ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(DOWANOL(商標)DPnB、「DPnB」)、及び(3)ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル(DOWANOL(商標)DPnP、「DPnP」)。
【0033】
溶媒中における過酸化物形成及び酸生成を防止又は最小化する酸化防止剤の能力について、酸化防止剤を評価する。酸化防止剤を含有する溶媒の性能を、阻害されていない生成物の性能と比較する。
【0034】
溶媒から過酸化物を除去するための全般的な手順
阻害されていない(すなわち、BHTを含まない)DOWANOL(商標)DPnP及びDOWANOL(商標)DPnBの試料を調達する。これらの試料は、50ppmを超える過酸化物を含有する。したがって、これらの溶媒が試験酸化防止剤(阻害剤)で阻害され得るようになる前に、溶媒から過酸化物を除去する必要があった。(i)約20mLの砂、(ii)20mLのセライト珪藻土、及び(iii)300mLの活性化アルミナが充填されたクロマトグラフィーカラムに溶媒を通すことによって、上記に列挙した阻害されていない溶媒試料から過酸化物を有効に除去する。上記の充填クロマトグラフィーカラム((i)から(iii)の順序で充填)は、2リットルの溶媒量から、1~13ppmの濃度にまで溶媒から過酸化物を除去することができる。続いて、溶媒をPnBについて記載した装置(次の節)で蒸留し、所望の濃度の試験阻害剤(酸化防止剤)で迅速に阻害する。
【0035】
蒸留による溶媒からのBHTの除去
溶媒が試験酸化防止剤で阻害可能となる前に、PnBからBHTを除去する必要があった。これは、高沸点BHTから溶媒を留去することによって達成される。他の2つの溶媒(DPnB及びDpNP)もまた、アルミナカラムを通ることに由来する潜在的な他の不純物を排除するために、この手順を通過させる。熱電対ウェル、テフロン撹拌棒及び2つのガラス栓を備えた1Lの4つ口丸底フラスコをドラフトの格子(hood lattice)に固定し、12インチ銀ジャケット付きビグリューカラムを取り付ける。熱電対ウェル、コールドフィンガーコンデンサー及び共通の窒素/真空ラインに接続されたストップコック弁を有するフラクションカッターを備えた一体型蒸留ヘッドを、カラムの上部に配置する。500mL丸底フラスコを受け器として使用する。デジタル温度コントローラに接続された加熱マントルを1Lフラスコに取り付け、磁気撹拌プレートをマントルの下に配置する。デジタル温度コントローラから通じる制御及び高制限用熱電対を、マントルとフラスコとの間に配置する。内部フラスコ温度及び留出物温度を監視するために、デジタル温度計から通じる熱電対を熱電対ウェルの内部に配置する。約500mLの溶媒を開放口よりフラスコに添加し、その後ガラス栓で覆う。撹拌プレートを低速で作動させる。真空トラップにドライアイスを加え、減圧ポンプを作動させる。装置内の圧力は、Tescom背圧調整器及び3psig窒素ラインからの窒素流によって所望の値に調整することができた。圧力はデジタルRosemountゲージによって読み取る。システムは、ガラス機器の偶発的な過剰加圧から保護するために、適所に圧力逃し弁を有する。装置内の圧力を約10~20mmHgに低下させ、フラスコを加熱して溶媒を留出させる。留出物の最初の20mL画分を回収し、廃棄する。合計約300mLの留出物が回収されるまで蒸留を続ける。BHTの除去は、GC分析によって確認する。この溶媒を、以下に記載されるような所望の濃度の試験酸化防止剤で迅速に阻害する。
【0036】
酸化防止剤を試験するための全般的な手順
所望の量の酸化防止剤を小数第4位まで秤量して、内蔵熱電対ウェルを備える250mLの丸底フラスコに入れる。試験溶媒の70mLのアリコートをメスシリンダー内で計り、風袋既知のフラスコに添加する。溶媒の重量を記録する。テフロン撹拌棒を入れ、空気に曝されている還流冷却器にフラスコを取り付け、ドラフトの格子に固定する。デジタル温度コントローラに接続された加熱マントルをフラスコに取り付け、撹拌プレートをマントルの下に配置する。温度コントローラから通じる制御及び高温制限用熱電対を、フラスコとマントルとの間に配置する。別個のデジタル温度計から通じる熱電対を、熱電対ウェルの内部に配置する。撹拌機を起動し、60℃±1℃でフラスコ内の溶媒を維持するために必要なマントル温度である約80℃~90℃にマントル温度を制御するように、温度コントローラを設定する。並行して実行される他の同一の実験設定で、この手順を繰り返す。1週間が経過した後、加熱を中止し、溶媒を室温まで放冷した後、その過酸化物及び酸含有量を測定する。
【0037】
分析手順
パーセント酸性度測定
ASTM D1613に記載されている方法に従って、試料の酸性度を測定する。ASTM D1613法では、試料をイソプロパノールと混合し、次いで、希水酸化ナトリウムで試料のフェノールフタレイン終点まで滴定する必要がある。溶媒の酸含有量を測定するために使用される全般的な手順は、以下のとおりである。
【0038】
無水イソプロパノールの50mLのアリコートを、テフロン撹拌棒の入った、オーブンで乾燥させた250mLの三角フラスコに添加する。使い捨てピペットを使用して、6滴の0.5%アルコール性フェノールフタレインをフラスコに添加する。次いで、フラスコ内のアルコールを、0.02NのNaOH溶液で薄いピンク色の終点まで滴定する。溶媒の試験試料の25mLのアリコートを、前述のフラスコにピペットで移し、上記の滴定を繰り返す。試料の滴定に使用されたNaOH溶液の体積を記録し、以下の式に従って、重量パーセント(重量%)酢酸(acetic acid、AA)として酸性度を計算するために使用する。
重量%AA=(NaOH溶液のmL)×(NaOH溶液の規定度)×0.12/試料密度(g/mL)
【0039】
上記の式で使用した25℃における溶媒試料の密度は、以下のとおりである:PnB=0.875g/mL、DPnB=0.907g/mL;及びDpNP=0.916g/mL。
【0040】
過酸化物含有量測定
試験溶媒試料の過酸化物含有量を、過酸化物とヨウ化物イオンとの反応、及びそれに続く遊離ヨウ素のチオ硫酸塩での滴定に基づく分析方法で測定する。この手順を使用して、本明細書に記載され、特許請求の範囲に列挙されるグリコールエーテル溶媒組成物中の過酸化物含有量を測定する。溶媒の過酸化物含有量を測定するために使用する手順は、以下のとおりである。
【0041】
試験溶媒の試料35.0gを秤量して250mLの三角フラスコに入れ、続いて、100mLの無水イソプロパノール及び10mLの氷酢酸を添加する。100mLの無水イソプロパノール及び10mLの氷酢酸を別の250mLの三角フラスコに添加することによって、ブランクを調製する。201.9gのヨウ化カリウム(KI)結晶を168.3gの脱イオン水と混合することによって予め調製しておいた飽和KI溶液の1mLのアリコートを各フラスコにピペットで移し、各フラスコに栓を取り付ける。フラスコを軽く振盪し、次いで、暗所キャビネットに5分間入れる。次いで、フラスコを暗所キャビネットから取り出し、テフロン撹拌棒をフラスコに入れる。次いで、各フラスコの内容物を、目視観察によって判定したときに溶媒の黄色が消失するまで、0.005Nチオ硫酸ナトリウム(市販の0.1Nチオ硫酸ナトリウムを希釈することによって調製)で順次滴定する。淡黄色が観察される溶媒は、通常、溶媒が、少量の希チオ硫酸ナトリウム溶液で滴定され得る比較的低い過酸化物濃度を有することを示す。暗黄色が観察される溶媒は、高い過酸化物濃度を有する溶媒を示す可能性が非常に高い。この場合、0.005Nチオ硫酸ナトリウムの代わりに、未希釈の0.1Nチオ硫酸ナトリウムを滴定剤として使用する。以下の式に従って、ppm過酸化物として溶媒の過酸化物濃度を計算する:
過酸化物(ppm)=[(試験した試料に対するNaS溶液のmL-ブランク試料に対するNaS溶液のmL)×NaSのN×8,000]/g(試料)
【0042】
結果の概要
表1は、酸化防止剤を含む場合と含まない場合のグリコールエーテル溶媒中の過酸化物及び酸の濃度を示す。表1において、「Antiox.1」はL-アスコルビン酸-6-ヘキサデカノエートを指し、「Antiox.2」はペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)を指す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1にまとめた結果は、両方の酸化防止剤が、3つ全てのグリコールエーテル中の過酸化物及び酸の濃度を、阻害されていない溶媒(比較例A~C)中で観察された濃度と比較して非常に低いレベルまで効果的に低下させたことを示す。DPnBを用いた実施例(本発明の実施例1~7)は、約100ppm~約1000ppmの酸化防止剤濃度範囲が過酸化物及び酸形成に対して同様の保護を提供することを示した。
【国際調査報告】