(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(54)【発明の名称】幹細胞から網膜外層細胞の誘導生成方法及びそれによって生成された細胞を含む網膜疾患予防又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240205BHJP
C12N 5/0797 20100101ALI20240205BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20240205BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240205BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20240205BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240205BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20240205BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/0797
C12N5/0735
C12N5/10
C12N5/074
A61P27/02
A61K35/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547114
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 KR2022001533
(87)【国際公開番号】W WO2022169209
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】10-2021-0015038
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517119589
【氏名又は名称】エスバイオメディックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ミョン ス
(72)【発明者】
【氏名】ナム,スン テク
(72)【発明者】
【氏名】オム,ジャン ヒョン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC12
4B065BA25
4B065BA30
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB56
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
本発明は、神経前駆体球(spherical neural mass,SNM)から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)への分化方法及び該分化方法で生成された網膜外層細胞を含む組成物に関する。本発明の分化方法を用いる場合に、神経前駆体球を効率的に網膜外層細胞に分化させることができ、これを関連研究開発及び製品化に有用に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の段階を含む神経前駆体球(spherical neural mass,SNM)から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)への分化方法:
神経前駆体球単一細胞及び神経前駆体球の嚢様構造物を単一培地内で共に培養する段階;及び
神経前駆体球から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)に分化させる段階。
【請求項2】
前記培養する段階は、孔隙性構造物で上下離隔された空間のうち、上段部上に神経前駆体球単一細胞を位置させ、下段部上に神経前駆体球の嚢様構造物を位置させて培養する段階である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記孔隙性構造物は多孔性メッシュ(mesh)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記神経前駆体球単一細胞は、神経前駆体球由来非嚢様構造物から分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記神経前駆体球嚢様構造物は、神経前駆体球由来透明嚢から分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記神経前駆体球は、幹細胞から分化される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記幹細胞は、胚性幹細胞(embryonic stem cells,ESCs)、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cells,iPSCs)、成体幹細胞(adult stem cells)、核置換胚性幹細胞(somatic cell nuclear transfer embryonic stem cell)及び直接分化法(direct reprogramming)によって生成される幹細胞からなる群から選ばれる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記神経前駆体球は、次の段階によって幹細胞から分化される、請求項1に記載の方法:
幹細胞(stem cell)から胚様体(embryoid body)を形成する段階;
前記胚様体から神経ロゼット(neural rosette)及び神経管様構造(neural tube-like structure)を形成する段階;及び
前記神経ロゼット及び神経管様構造から神経前駆体球を形成する段階。
【請求項9】
前記網膜外層細胞は、ロドプシン(rhodopsin)及びβIII-チューブリンの発現が増加するか、又はRPE65及びベストロフィン(Bestrophin)の発現が増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記網膜外層細胞は、視覚細胞(photoreceptor cell)、網膜色素上皮細胞(retinal pigment epithelium cell)、又は視覚細胞及び網膜色素上皮細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記網膜外層細胞は、失明を改善又は予防する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
請求項1による分化方法で生成された網膜外層細胞を含む網膜疾患予防又は治療用薬剤学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経前駆体球(spherical neural mass,SNM)から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)への分化及び生成方法に関する。
【0002】
本特許出願は、2021年02月02日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2021-0015038号に対して優先権を主張し、当該特許出願の開示事項は本明細書に参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
失明は、医学的に光覚がないことをいい、現在、全世界人口の0.2~0.5%に至る数千万の人々が病んでいる疾患で、個人的、社会的及び経済的に大きな損失をもたらしている。全世界的に失明の最大の原因の一つとして網膜の視覚細胞(光受容体細胞、photoreceptor cell)及び網膜色素上皮細胞の変性を挙げることができるが、これは先天的要因又は他の様々な原因によって発生する。網膜未形成、網膜変性(retinal degeneration)、加齢黄斑変性(aged macular degeneration)、糖尿病性網膜疾患(diabetic retinopathy)、網膜色素変性(retinitis pigmentosa)、先天性網膜萎縮症、レーバー先天黒内障(leber congenital amaurosis)、網膜剥離、緑内障(glaucoma)、視神経病症及び外傷など、多くの疾患がこの疾患に該当する。今のところ、これらの疾患に対する根本的な治療のための薬物療法はなく、それらの疾患の原因であり結果である機能不全の視覚細胞及び網膜色素上皮細胞を新しい機能性細胞に再生して移植することが、最も可能性のある治療法とされている。視覚細胞及び網膜色素上皮細胞移植法は、網膜変性を遅延又は抑制し、退化又は変性された網膜を再生後に網膜機能を向上させることによって失明を防止したり又は損傷した視力を再生させ得るものと評価されている。
【0004】
骨髄幹細胞(bone marrow stem cell:BMS)、網膜幹細胞(retinal stem cell:RSC)、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ESC)、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPSC)及び体細胞核置換幹細胞(somatic cell nuclear transfer cell:SCNT)などを用いる眼球疾患の治療可能性が台頭している。しかし、幹細胞から網膜細胞への分化及びこれを用いた細胞治療に対する研究成果は僅かな現状にある。これらの幹細胞から網膜細胞への分化が可能な場合、1)効果的な細胞治療のための無限な細胞供給、2)今まで知られていない胚細胞(embryonic cell)及び網膜起源細胞(retinal progenitor)からの網膜細胞への分化機序の究明、3)網膜の分化関連遺伝子及び分子の発見及びそれに対する病変の究明、4)網膜変性疾患の発生機序の把握、及び5)網膜変性防止及び網膜神経保護のための薬剤開発にも利用可能であろう。
【0005】
始めてヒト胚性幹細胞株が確立されて以来、ヒト胚性幹細胞は非常に様々な種類の細胞に分化できる能力を有しており、前記分化された細胞が各種臓器に発生する疾患を治療できるヒト細胞治療法に適用されることが提案されてきた。すなわち、ヒト胚性幹細胞は性状を正確に究明することができ、臨床治療時に機能不全の細胞を新しい細胞に置換するための細胞を豊富に供給できる強力な候補とされている。ヒト胚性幹細胞から誘導された各種臓器を構成する分化細胞は、正常の分化過程によって形成される当該細胞と同じ性状及び機能を有し得るものと仮定されてきた。この可能性に基づき、発達段階と類似な環境を提供する分化誘導法が膵臓ホルモン-発現内分泌細胞、神経細胞、筋肉細胞、血管内皮細胞の分化などにおいて試みられている。網膜疾患においてもヒト胚性幹細胞から分化された、網膜細胞の代表的な細胞である視覚細胞及び網膜色素上皮細胞を生産するために多くの試みがあってきたが、成績は非常に低調であった。
【0006】
現在までの最大の成功の一つとして報告された研究結果は、網膜起源細胞がヒト胚性幹細胞から効果的に誘導されたということであるが、誘導された網膜起源細胞から視覚細胞への分化には失敗した(分化率0.01%未満)(Lamba,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2006;103:12769-74)。
【0007】
したがって、臨床的に適用可能な視覚細胞及び網膜色素上皮細胞の分化方法の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、臨床的に適用が可能な網膜外層細胞、すなわち、視覚細胞及び網膜色素上皮細胞の分化方法を開発しようと鋭意研究努力した。その結果、神経前駆体球単一細胞及び神経前駆体球の嚢様構造物を単一培地内で共に培養する場合に、視覚細胞及び網膜色素上皮細胞への分化効率が高い点を突き止め、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の目的は、次の段階を含む、神経前駆体球(spherical neural mass,SNM)から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)への分化方法を提供することである。
【0010】
神経前駆体球単一細胞及び神経前駆体球の嚢様構造物を単一培地内で共に培養する段階;及び
神経前駆体球から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)に分化させる段階。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記分化方法で生成された網膜外層細胞を含む網膜疾患予防又は治療用薬剤学的組成物を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、前記分化方法で生成された網膜外層細胞を個体に投与する段階を含む網膜疾患治療方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、前記分化方法で生成された網膜外層細胞の網膜疾患治療用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、本発明は、次の段階を含む、神経前駆体球(spherical neural mass,SNM)から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)への分化方法を提供する:
神経前駆体球単一細胞及び神経前駆体球の嚢様構造物を単一培地内で共に培養する段階;及び
神経前駆体球から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)に分化させる段階。
【0015】
本明細書における用語「網膜外層細胞」は、多層構成された網膜を構成する細胞のうち、外層に存在する視覚細胞(photoreceptor cell)及び網膜色素上皮細胞(retinal pigmented epithelium cell)を意味する。
【0016】
本明細書における用語「視覚細胞」は、網膜の外層に存在する桿体細胞(rod cell)及び錐体細胞(cone cell)を意味する。視覚細胞は、光受容器細胞、光受容体細胞などと呼ぶことができる。
【0017】
本明細書における用語「網膜色素上皮細胞」は、網膜の最外層に位置し、脈絡膜(choroid)と接している網膜色素上皮を構成している細胞を意味する。
【0018】
本明細書における用語「神経前駆体球」は、ヒト胚性幹細胞又は誘導万能幹細胞のような全分化能幹細胞から作られた神経前駆細胞又は神経組織から分離された神経前駆細胞が球状に凝集したものを意味する。
【0019】
本発明で用いられる神経前駆体球は、300~700μmのサイズを有してよい。本発明の実施例によれば、前記神経前駆体球は450~550μmのサイズを有してよい。
【0020】
神経前駆体球単一細胞は、神経前駆体球を単一細胞化する段階によって分離されてよい。前記単一細胞化は、微細切片ツールを用いて神経前駆体球を切片化することを含んでよい。このとき、細胞分離酵素を用いて切片化する場合には細胞の損傷が多くて回収率が少ないため、物理的な方法を用いることができる。切片化のためのツールは、解剖顕微鏡下で直径500μm以下の凝集物を切断できるいかなるツールも使用可能であり、具体的には、ガラスパスツールピペットを細く引き伸ばしたもの、直径100μm以下の金属線及びマイクロメートル(μm)サイズの穴を有する金属網などを用いることができる。本発明の実施例によれば、前記切片化はタングステンワイヤーを用いて行った。
【0021】
また、前記切片化された神経前駆体球は、細胞分離用酵素として、トリプシン-EDTA、ディスパーゼ、アクターゼ及びコラゲナーゼなどのように通常の技術分野によく知られた酵素を用いて単一化することができる。本発明の実施例によれば、細胞の単一化はアクターゼを用いて行った。
【0022】
本発明の実施例によれば、切片化された神経前駆体球は、セルスタート(CellStart)でコートされた直径60mm培養皿においてbFGFとN2添加剤が添加された培養培地で12~24時間付着培養した後に培地を除去し、アクターゼ3~5mlを入れて37℃培養器で1~3時間処理して単一細胞化することができる。
【0023】
神経前駆体球の嚢様構造物は、神経前駆体球に存在する水疱形態の透明嚢を意味し、これらは神経前駆体球から水疱形態の透明嚢として突出したり又は全体的に透明嚢に囲まれた形態で存在してよい。前記神経前駆体球の嚢様構造物は、金属線及びマイクロメートル(μm)サイズの穴を有する金属網などを用いて分離することができる。本発明の実施例によれば、前記神経前駆体球の嚢様構造物はタングステンワイヤーを用いて分離した。
【0024】
前記神経前駆体球の嚢様構造物は切片化されてよい。
【0025】
神経前駆体球単一細胞及び神経前駆体球の嚢様構造物を単一培地内で共に培養する段階
この段階は、神経前駆体球単一細胞と神経前駆体球の嚢様構造物を単一培地内で共に培養する段階である。
【0026】
本発明の一具現例において、前記培養する段階は、孔隙性構造物で上下離隔した空間のうち、上段部上に神経前駆体球単一細胞を位置させ、下段部上に神経前駆体球の嚢様構造物を位置させて培養する段階である。
【0027】
本発明の一具現例において、前記孔隙性構造物は多孔性メッシュ(mesh)である。
【0028】
本発明の一具現例において、前記神経前駆体球単一細胞は、神経前駆体球の非嚢様構造物から分離されるものである。
【0029】
本発明の一具現例において、前記神経前駆体球嚢様構造物は、神経前駆体球由来透明嚢から分離されるものである。
【0030】
前記神経前駆体球の嚢様構造物は切片化して培養できる。前記神経前駆体球の嚢様構造物の切片サイズに制限はない。
【0031】
前記神経前駆体球の嚢様構造物は、セルスタート(CellStart)がコートされた培養皿に、培養皿当たり15~20個の嚢様構造物切片を入れ、N2、B27添加剤が添加されたDMEM/F12培養培地で付着培養できるが、これに限定されるものではない。前記神経前駆体球の嚢様構造物は、孔隙性構造物で上下離隔された空間のうち下段部上に位置する。
【0032】
神経前駆体球単一細胞は、セルスタートがコートされた培養皿に載せ、細胞を0.5×105~1.5×105個入れた後、神経前駆体球の嚢様構造物と共に1~3週間培養できるが、これに限定されるものではない。前記神経前駆体球単一細胞は、孔隙性構造物で上下離隔された空間のうち上段部上に位置する。
【0033】
前記各段階で使用されるコーティング物質はセルスタートであるが、これに限定されず、細胞付着のための細胞外基質(extracellular matrix;ECM)をさらに含んでよい。これは、未分化幹細胞及び神経細胞は自力で培養皿に付着して成長できず、細胞外基質又は他の支持細胞の助けによって維持培養が可能なためである。
【0034】
細胞外基質は、セルスタート以外にも、他の物質を単独又は混合して使用可能である。
【0035】
本発明の一具現例において、前記神経前駆体球は幹細胞から分化されるものである。
【0036】
本発明の一具現例において、前記幹細胞は全分化能幹細胞である。
【0037】
本発明の一具現例において、前記幹細胞は、胚性幹細胞(embryonic stem cells)、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cells,iPSCs)、成体幹細胞(adult stem cells)、核置換胚性幹細胞(somatic cell nuclear transfer embryonic stem cell)及び直接分化法(direct reprogramming)によって生成される幹細胞からなる群から選ばれるものである。本発明の実施例によれば、前記幹細胞は胚性幹細胞又は誘導万能幹細胞である。
【0038】
本発明の一具現例において、前記神経前駆体球は次の段階によって幹細胞から分化されるものである:
幹細胞(stem cell)から胚様体(embryoid body)を形成する段階;
前記胚様体から神経ロゼット(neural rosette)及び神経管様構造(neural tube-like structure)を形成する段階;及び
前記神経ロゼット及び神経管様構造から神経前駆体球を形成する段階。
【0039】
幹細胞(stem cell)から胚様体(embryoid body)を形成する段階は4~6日間行われてよいが、これに限定されるものではない。
【0040】
幹細胞(stem cell)から胚様体(embryoid body)を形成する段階は、Essential 6細胞培養培地を用いて行われてよいが、これに限定されるものではない。
【0041】
本明細書における用語「胚様体」は、胚性幹細胞に代表される全分化能幹細胞の3次元集合体を意味し、全分化能幹細胞は胚様体によって初期胚芽発生段階の分化過程を再現することができ、内胚葉、中胚葉、外胚葉の全ての三胚葉体細胞に分化可能である。
【0042】
前記胚様体から神経ロゼット(neural rosette)及び神経管様構造を形成する段階は4~6日間行われてよいが、これに限定されるものではない。
【0043】
前記胚様体から神経ロゼット(neural rosette)及び神経管様構造を形成する段階は、セルスタートがコートされている培養皿を用いて行われてよいが、これに限定されるものではない。
【0044】
前記胚様体から神経ロゼット(neural rosette)及び神経管様構造を形成する段階は、前記胚様体形成過程で形成された胚様体を、セルスタートがコートされている培養皿において1/2含有量のN2添加剤のみが添加されたDMEM/F12最小培養培地で4~6日間培養してなり、その後、1/2 N2添加DMEM/F12最小培養培地をbFGFとN2が添加されたDMEM/F12培養培地に交換して5~10日間培養して増殖させることによって行われてよいが、これに限定されるものではない。
【0045】
この段階で使用される培養培地は、bFGFとN2添加剤が添加されたDMEM/F12細胞培養培地であってよいが、神経ロゼットが形成/維持可能な培養液は選択的に制限なく使用可能である。
【0046】
神経前駆体球から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)に分化させる段階
この段階は、神経前駆体球単一細胞と神経前駆体球の嚢様構造物を単一培地内で共に培養した後、神経前駆体球単一細胞と嚢様構造物が網膜外層細胞に分化される段階である。
【0047】
本発明の一具現例において、前記神経前駆体球は、神経前駆体球単一細胞、神経前駆体球の嚢様構造物、又は神経前駆体球単一細胞及び神経前駆体球の嚢様構造物である。
【0048】
本発明の一具現例において、前記網膜外層細胞は、視覚細胞(photoreceptor)、網膜色素上皮細胞(retinal pigment epithelium)、又は視覚細胞(photoreceptor)及び網膜色素上皮細胞(retinal pigment epithelium)である。
【0049】
本発明の一具現例において、前記網膜外層細胞は、ロドプシン(rhodopsin)及びβIII-チューブリン(tubulin)発現が増加するものであるか、RPE65及びベストロフィン(Bestrophin)の発現が増加するものである。
【0050】
本発明の一具現例において、前記網膜外層細胞は、失明を改善又は予防するものである。
【0051】
本発明の他の態様によれば、本発明は、前記分化方法で生成された網膜外層細胞を含む網膜疾患予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0052】
本発明の一具現例において、前記網膜疾患は、網膜未形成、網膜変性(retinal degeneration)、加齢黄斑変性(aged macular degeneration)、糖尿病性網膜疾患(diabetic retinopathy)、網膜色素変性(retinitis pigmentosa)、緑内障(glaucoma)、視神経病症、外傷、網膜剥離、レーバー先天黒内障及び先天性網膜萎縮症からなる群から選ばれるものである。
【0053】
前記網膜外層細胞は、前記分化方法に記載された網膜外層細胞と同じ細胞であるので、網膜外層細胞に関する記載は、明細書の過度な複雑性を避けるために省略する。
【0054】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記分化方法で生成された網膜外層細胞を個体に投与する段階を含む網膜疾患治療方法に関する。
【0055】
前記「個体」とは、疾病の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒト又は非ヒトである霊長類、マウス(mouse)、イヌ、ネコ、ウマ及びウシなどの哺乳類を意味する。
【0056】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記分化方法で生成された網膜外層細胞の網膜疾患治療用途に関する。
【0057】
前記網膜外層細胞は、上述した分化方法に記載された網膜外層細胞と同じ細胞であるので、網膜外層細胞に関する記載は、明細書の過度な複雑性を避けるために省略する。
【発明の効果】
【0058】
本発明の特徴及び利点を要約すると、次の通りである:
本発明は、神経前駆体球(spherical neural mass,SNM)から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)への分化方法及び前記分化方法で生成された網膜外層細胞を含む組成物を提供する。
【0059】
本発明の分化方法を用いる場合に、培養培地及び基本培養添加剤以外には他の化学的構成物又は他の支持細胞無しで神経前駆体球のみで効率的に神経前駆細胞を網膜外層細胞に分化させることができ、これを関連研究開発及び製品化に有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1A】本発明の一実施例に係る網膜外層細胞分化誘導段階別細胞形態及び分離培養に用いられる培養皿を示す。
【
図1B】本発明の一実施例に係る網膜外層細胞分化誘導段階別細胞形態及び分離培養に用いられる培養皿を示す。
【
図2】本発明の一実施例によって、SNMの特性を分析した結果を示す。
【
図3A】網膜外層細胞分化に最適の分離培養方法を確認した結果を示す(神経前駆体球単一細胞のみ培養)。
【
図3B】網膜外層細胞分化に最適の分離培養方法を確認した結果を示す(神経前駆体球単一細胞と嚢様切片の混合培養)。
【
図3C】網膜外層細胞分化に最適の分離培養方法を確認した結果を示す(細胞培養インサートに嚢様切片、6ウェル細胞培養皿に神経前駆体球単一細胞を1日培養後に分離培養)。
【
図3D】網膜外層細胞分化に最適の分離培養方法を確認した結果を示す(細胞培養インサートに神経前駆体球単一細胞、6ウェル細胞培養皿に嚢様切片を1日培養後に分離培養)。
【
図3E】網膜外層細胞分化に最適の分離培養方法を確認した結果を示す(細胞培養インサートの下面に神経前駆体球単一細胞、6ウェル細胞培養皿に嚢様切片を1日培養後に分離培養)。
【
図4A】本発明の一実施例によって、胚性幹細胞から分化された視覚細胞の分化有無をマーカーの発現有無で確認した結果を示す。
【
図4B】本発明の一実施例によって、誘導万能幹細胞から分化された視覚細胞の分化有無をマーカーの発現有無で確認した結果を示す。
【
図4C】本発明の一実施例によって、視覚細胞の分化有無をcyclic GMPの濃度を測定して確認した結果を示す。
【
図4D】本発明の一実施例によって、胚性幹細胞から分化された視覚細胞の分化有無をロドプシン(rhodopsin)、βIII-チューブリン(βIII-tubulin)、ネスチン(Nestin)遺伝子発現で確認した結果を示す。
【
図4E】本発明の一実施例によって、胚性幹細胞から分化された網膜上皮細胞の分化有無をRPE65、ベストロフィン(Bestrophin)、ZO-1マーカーで確認した結果を示す。
【
図4F】本発明の一実施例によって、誘導万能幹細胞から分化された網膜上皮細胞の分化有無をRPE65、ベストロフィン(Bestrophin)、ZO-1マーカーで確認した結果を示す。
【
図5A】本発明の一実施例によって、分化された視覚細胞及び網膜上皮細胞の生体内生着を動物実験によって確認した結果を示す。
【
図5B】本発明の一実施例によって、分化された視覚細胞及び網膜上皮細胞の効能を測定するために行う網膜電位図測定を示す図である
【
図5C】本発明の一実施例によって、分化された視覚細胞及び網膜上皮細胞の効能を網膜電位図測定によって確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのもので、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【実施例】
【0062】
本明細書全体を通じて、特定物質の濃度を示すために使われる「%」は、特記しない限り、固体/固体は(重量/重量)%、固体/液体は(重量/体積)%、及び液体/液体は(体積/体積)%である。
【0063】
ヒト胚性幹細胞(human Embryonic stem cells,hESC)培養
網膜外層細胞分化のための未分化されたhESCs(SNUhES32)は、Vitronectin(GIBCO,A27940)コーティング培養皿でEssential 8(GIBCO,A15169-01)培養液を用いて培養した。
【0064】
この時、未分化幹細胞はコロニー(Colony)形態で培養した。7日間培養を原則とするが、コロニー中央部分が分化に誘導されようとすれば、ガラスピペット先端部分を鉤の形態にしたツールを用いて、20~30個程度の格子状に切り、100個の切片を、Vitronectinがコートされた新しい培養皿に移して継代培養し、3日目から7日目まで毎日24時間経過前に培養液を交換して維持した。
【0065】
誘導万能幹細胞(Induced pluripotent stem cells,iPSCs)培養
前記hESC培養方法と同じ方法により、視覚細胞分化のための未分化されたiPSCs(hFSiPS1)を培養した。
【0066】
免疫細胞化学(Immunocytochemistry)分析
細胞を4%パラホルムアルデヒド溶液に10分間固定させた。
【0067】
それぞれの抗体が細胞質内によく透過されるように、0.1%トリプンX-100(in PBS)溶液で15分間反応させ、2%ウシ血清アルブミン(BSA,in PBS)溶液で室温で1時間反応させた。
【0068】
その後、一次抗体と4℃で細胞を結合させた。前記一次抗体が結合した細胞を確認するために、それぞれの一次抗体由来種に合う二次抗体を使用した(下記表1参照)。
【0069】
最後に、細胞核を確認するために、4‘,6-ジアミノ-2-フェニルインドール(DAPI)が含まれたPBSに10分間反応させて核染色を完了した後、蛍光顕微鏡を用いてイメージを得、重要マーカーを確認及び分析した。
【0070】
【0071】
ヒト全分化能幹細胞から網膜外層細胞への分化
全分化能幹細胞株である未分化されたヒト胚性幹細胞(hESC)又は誘導万能幹細胞(iPSC)を解凍時点から2回継代培養を行って安定化させ、3回目の継代培養後に7日間培養を維持した。
【0072】
7日培養されたヒト胚性幹細胞(hESC)又は誘導万能幹細胞(iPSC)(全分化能幹細胞)の培養液を除去し、DPBS(-)で1回水洗した後、ディスパーゼ1mlを入れ、37℃培養器で3分間反応させて細胞を分離した。分離された細胞は、胚様体(Embryoid body,EB)の形成のためにペトリ培養皿にEB培地(Essential 6、0.5%ペニシリンストレプトマイシン)で5日間培養した。
【0073】
EB 5日目に神経性細胞のみ育ち得るようにEBをセルスタートコーティング皿に移し、神経選択培地であるDMEM/F12培地(0.5% N2基材(substrate)、2mM L-グルタミン、1%非必須アミノ酸(NEAA)、0.5%ペニシリンストレプトマイシン、0.1mMベータ-メルカプトエタノールを含む。)で5日間培養した。さらに、神経ロゼット(Neural rosette)と神経管様構造(Neural tube like structure)の形成及び増殖のために、増殖培地であるDMEM/F12培地(0.5% N2基材、2mM L-グルタミン、20ng/ml bFGF(basic fibroblast growth factor)、1%非必須アミノ酸(NEAA)、0.5%ペニシリンストレプトマイシン、0.1mM ベータ-メルカプトエタノールを含む。)で4~7日間培養して増殖した。
【0074】
その後、神経ロゼット(Neural rosette)と神経管様構造(Neural tube like structure)の形成及び増殖のためにN2bF培地(DMEM/F12培地に1% N2基材、2mM L-グルタミン、20ng/ml bFGF(basic fibroblast growth factor)、1%必須アミノ酸(NEAA)、0.5%ペニシリンストレプトマイシン、0.1mMベータ-メルカプトエタノールを含む。)で10~14日間培養した。
【0075】
培養期間中に神経ロゼット及び神経管様構造が観察されると、ガラスパスツールピペットを細く引き伸ばしたツールを用いて底から離して切断し、その後、ペトリ皿に移してN2bF培地で培養して神経前駆体球(spherical neural mass,SNM)として形成させた。
【0076】
SNM継代培養は、直径が500μm程度になると、0.1mmタングステンワイヤを用いて機械的に切断する方法で行ったし、最大10回まで特性が変わることなく継代可能であった。
【0077】
網膜外層細胞への分化のための分離培養1日前に、セルスタートコーティング6ウェル培養皿に神経前駆体球由来嚢様構造物を付着培養し、また、セルスタートコーティング細胞培養インサートに神経前駆体球非嚢様構造物から単一化した細胞(神経前駆体球単一細胞)を付着培養した。SNM単一細胞化は、切片化したSNMをセルスタートコーティング培養皿に付着培養し、1日後にアクターゼを処理して単一細胞化した。分離培養のための細胞培養にはN2B27細胞培養培地を用いた。
【0078】
分離培養は、嚢様構造物切片が培養されている6ウェル培養皿に、単一細胞化した神経前駆体球単一細胞が培養されている細胞培養インサートを入れて行ったし、細胞培養にはN2B27細胞培養培地を使用し、分離培養3週間に、分化が終了するまで2日に1回ずつ培地を交換した。
【0079】
図1A及び
図1Bは、上記の過程を日別に簡単に模式化し及び段階別細胞形態で示す図である。
【0080】
網膜外層細胞分化最適化
SNMまで分化が完了した細胞を用いて、網膜外層細胞分化に最適化された培養条件を探すために次のような条件の培養を行った。
【0081】
a)SNM細胞のみ培養、
b)SNM細胞と嚢様切片の混合培養、
c)細胞培養インサートに嚢様切片、6ウェル細胞培養皿にSNM単一細胞1日培養後に分離培養、
d)細胞培養インサートにSNM単一細胞、6ウェル細胞培養皿に嚢様切片1日培養後に分離培養、
e)細胞培養インサートの下面にSNM単一細胞、6ウェル細胞培養皿に嚢様切片1日培養後に分離培養。
【0082】
上記の条件は、セルスタートコートされた培養皿で行われたし、細胞培養培地は、N2B27培地を用いて培養した。
【0083】
逆転写重合酵素増幅反応(RT-PCR)
分離培養時間によって網膜外層細胞への分化有無を確認するために、網膜外層細胞のうち視覚細胞で発現するマーカーであるロドプシンの転写レベルにおける発現に対するRT-PCR分析を次のように行った。
【0084】
TRIzol Reagent(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を用いて、SNMから分化された視覚細胞のRNAを得たし、AMV RT(reverse transcriptase)を用いるメーカーの指示方法(AccuPower RT PreMix;Bioneer,Taejeon,Korea)によってoligo-dTをプライマーとして用いてcDNA合成を行った。
【0085】
PCR増幅は、Taqポリメラーゼ(HiPi Plus 5x PCR Premix;Elpis biotech,Taejeon,Korea)を用いて行ったし、標準方式を用いた。PCR条件は、94℃で5分間変性後に94℃・30秒、55℃・30秒、72℃・10秒を30回反復した。他のmRNAとの相対的な発現を分析するためにGAPDH(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)mRNAの信号に基づいてcDNAの量を標準化した。
【0086】
様々な条件のアニーリング温度とサイクル回数を反復実験した結果、比例的に増幅される区間がそれぞれのプライマー対に対して決定され、PCR条件は最適化された。
【0087】
遺伝子発現分析に用いらたプライマーの配列を、下記表2に示す。
【0088】
【0089】
光伝達経路代謝物質濃度測定法
cGMP酵素免疫測定キット(GE Healthcare)を、分離培養7日目の網膜外層細胞から光伝達経路代謝物質濃度を測定するために、メーカーのプロトコルにしたがって使用した。ホスホディエステラーゼ抑制剤(IBMX,50mM)はcGMP測定48時間前に処理した。
【0090】
網膜退化齧歯類モデルでのSNM由来網膜外層細胞移植
6週齢のSDラットに滅菌された1% NaIO3サリン溶液を1回静脈注射した(70mg/kg)。静脈注射4日後に動物は、チレタミン/ゾラゼパム(tiletamine/zolazepam)(Zoletil(登録商標))とキシラジン(xylazine)の筋肉注射で麻酔処理した。
【0091】
瞳孔は、トロピカミド(tropicamide)0.5%とフェニレフリン(phenylephrine)HCl 2.5%目薬(Mydrin-P(登録商標))によって拡張され、proparacine HCl 0.5%(Alcaine(登録商標))局部目薬痲酔剤を処理した。
【0092】
移植前に、SNM由来網膜外層細胞は、DAPI(10μg/ml)と共に30分間培養された。培地でDAPIを除去するために数回洗浄過程を行ったし、37℃、0.05%トリプシン/0.1% EDTA下で5分間培養することによって分離した。
【0093】
手術顕微鏡を用いて視覚化し分離されたそれぞれの網膜外層細胞(1×105cells/2μl)を、ハミルトン注射器(Hamilton syringe)に付いた26ゲージの針を用いて網膜下空間又は硝子体腔に注入した。
【0094】
サイクロスポリンA(Cyclosporine A)(210mg/l,Cipol-N(登録商標),Chong Kun Dang,Seoul,Korea)は、移植1日前に、脱核過程前まで飲料水に投与した。移植1週後に、眼球を脱核化し、包埋化合物(embedding compound)(FSC 22(登録商標),Leica microsystems,IL)を用いて急速凍結処理した。
【0095】
冷却片をPBSで洗浄し、0.1%トリプンX100を含むPBS溶液の3%ウシ血清アルブミン溶液でブロッキングした。ブロッキング後には1次抗体と共に1日間反応したし、免疫組織化学的検査のために、抗体はAnti-bШ-tub抗体及び混合ヒト抗体、RPE65及びZO-1抗体を使用した。
【0096】
網膜電位図は、細胞移植後4、12、24週目にb波(b-wave)を測定した。
【0097】
結果
ヒト全分化能幹細胞から網膜外層細胞分化
図1A及び
図1Bには、本発明の一連の過程を模式化し、段階別細胞形態を示す。
【0098】
全分化能幹細胞(胚性幹細胞及び誘導万能幹細胞を含む。)を網膜外層細胞に分化させるためには神経系細胞に分化を誘導しなければならない。初期から培養構造及び細胞培養培地を用いて神経前駆細胞選別培養、増殖培養、神経特異的構造物誘導、神経前駆体球形成段階を経て神経前駆細胞への効率的な分化を誘導したし、神経前駆体球は、別の分化信号を与えないと、初期や反復的な継代後にも神経前駆細胞の性質を維持することが分かった(
図2)。
【0099】
最終的には、神経前駆体球の2タイプの構造物のみを分離培養し、本発明の目的である視覚細胞と網膜上皮細胞が効率的に分化されることを確認した。
【0100】
本発明は、全分化能幹細胞を用いた視覚細胞及び網膜上皮細胞分化に外部の細胞伝達信号活性剤及び抑制剤のような培地補充物無しに培養方法によっても分化効率を画期的に増加させることができることを確認した。
【0101】
網膜外層細胞分化最適化
上記の「網膜外層細胞分化最適化」の欄における分化条件a)の場合には、視覚細胞のマーカーであるロドプシンの発現がほとんど見られず(
図3A)、b)培養条件の場合には、嚢様構造物由来細胞のみが生き残り、神経前駆体球単一細胞はほとんど生き残らない現象を確認した(
図3B)。c)培養条件は、神経前駆体球単一細胞においてロドプシンの発現が見られたが(
図3C)、d)培養条件に比べては低い傾向を示したし、d)培養条件でロドプシンの発現が最も高いことを確認した(
図3D)。e)培養条件は、神経前駆体球単一細胞でロドプシンの発現がd)培養条件と類似の傾向を示したが(
図3E)、細胞培養インサートの下面に神経前駆体球単一細胞を付着させたため、嚢様構造物由来の混合を完全に排除することはできず、それぞれの回収が容易でないため、d)培養条件が網膜外層細胞(視覚細胞)分化に最適であることが分かった。
【0102】
全分化能幹細胞由来網膜外層細胞の機能的な特性分析
成熟した視覚細胞の細胞性機能と関連した特定分子マーカーの免疫細胞化学法を用いて確認した。
図4A及び
図4Bから確認できるように、胚性幹細胞又は誘導万能幹細胞から分化が完了した細胞は、blueopsin、redopsin、PDE6b、recoverin、rhodopsinを発現し、神経細胞のマーカーであるβIII-tubulinも共に発現することを確認した。
【0103】
視覚細胞の機能評価をin vitroで行い得る方法は、光伝達経路代謝物質濃度が、明所及び暗所での差を測定することによって分かる。機能する光伝達経路がある場合に、cyclic GMPの濃度に差が出るが、分化された視覚細胞を明所と暗所で同一期間培養したとき、暗所に比べて明所で培養した細胞のcyclic GMPの濃度が減少したし、ホスホディエステラーゼ抑制剤(IBMX)を処理した時にも同じ様相を確認した。これは、本発明によって分化された視覚細胞が光伝達経路を内在するということであり、よって、視覚細胞に分化されたことを意味する(
図4C)。
【0104】
分離培養期間中に視覚細胞の特異タンパク質であるロドプシンの発現をRT-PCRで確認した結果、分離培養7日目にロドプシンのmRNA発現が最も高いことが確認された。このような結果は、分離培養7日目に視覚細胞の分化が既に高いレベルで起きることを示し、21日目には神経前駆細胞マーカーであるネスチン(Nestin)がほとんど発現していない点から、大部分の細胞が分化完了したことが確認される(
図4D)。
【0105】
網膜色素上皮細胞の分化有無を特定分子マーカーの免疫細胞化学法を用いて確認した。
図4E及び
図4Fから確認できるように、胚性幹細胞又は誘導万能幹細胞から分化完了した網膜色素上皮細胞がZO-1、RPE65、ベストロフィン(Bestrophin)を発現させることを確認した。
【0106】
網膜退化齧歯類モデルでのSNM由来網膜外層細胞移植による効能
本発明に基づいて分化された視覚細胞及び網膜色素上皮細胞を、網膜退化ラットに移植し、12週後に生着能を確認した結果、DAPIと共にヒト抗体及び神経細胞マーカーであるβIII-チューブリンが発現することを確認した。また、網膜上皮細胞マーカーであるRPE65とベストロフィンが上皮細胞マーカーであるZO-1と共に発現することを確認した(
図5A)。なお、移植した細胞はいずれも網膜外層から観察されたため、移植細胞が高い生着能を有することが分かった。
【0107】
網膜電位図測定結果は、いかなる移植群からもb波振幅(b-wave amplitude)が維持されることを確認したし(
図5B)、移植後、時間の経過につれて視機能が若干の減少を示すが、対照群に比べて有意に増加していることを確認した。なお、視覚細胞の移植はRPE移植に比べて高い視機能改善を示した(
図5C)。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、神経前駆体球(spherical neural mass,SNM)から網膜外層細胞(retinal outer layer cells)への分化及び生成方法に関する。
【配列表】
【国際調査報告】