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特表2024-506313多能性幹細胞由来の造血性内皮細胞からのリンパ球系細胞の分化方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(54)【発明の名称】多能性幹細胞由来の造血性内皮細胞からのリンパ球系細胞の分化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20240205BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240205BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240205BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20240205BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240205BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240205BHJP
   C07K 14/475 20060101ALN20240205BHJP
   C07K 14/50 20060101ALN20240205BHJP
   C07K 14/54 20060101ALN20240205BHJP
【FI】
C12N5/078
C12N5/10
C12N5/0735
C12N5/0775
C12N5/077
C07K14/47
C07K14/475
C07K14/50
C07K14/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547712
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 KR2022001757
(87)【国際公開番号】W WO2022169297
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】10-2021-0016845
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518018056
【氏名又は名称】スンクワン メディカル ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジ ユン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ア レウム
(72)【発明者】
【氏名】パーク,ジュン ウン
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB19
4B065BB20
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045EA20
(57)【要約】
多能性幹細胞由来の造血性内皮細胞からのリンパ球系細胞の分化方法に係り、造血性内皮細胞が長期培養可能であり、リンパ球系細胞に誘導が可能であるが、T細胞、B細胞、NK細胞のような免疫細胞の生成を誘導するのに容易である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞(pluripotent stem cell)を、bFGF、VEGF及びSCFを含む培地組成物を含む第1培地で培養し、中胚葉性細胞(mesodermal cell)に分化させる段階と、
前記中胚葉性細胞を、TPO、EPO及びIGF-1を含む培地組成物を含む第2培地で培養し、初期造血性内皮細胞(EHE:early hemogenic endothelial cell)に分化させる段階と、
前記EHEを、IL-5、IL-7及びDLLを含む培地組成物を含む第3培地で培養し、後期造血性内皮細胞(LHE:late hemogenic endothelial cell)に分化させる段階と、を含む、多能性幹細胞からリンパ球系細胞(lymphoid lineage blood cell)を製造する方法。
【請求項2】
前記多能性幹細胞は、胚芽幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、体細胞核置換術による胚芽幹細胞(somatic cell nuclear transfer derived stem cell)、及び成体由来間葉系幹細胞によって構成された群のうちから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1培地は、アスコルビン酸、BMP4、またはその混合物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2培地は、bFGF、VEGFA、SCF、FLT3L、GCSF及びIL-6、またはその混合物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記EHEは、下記(a)ないし(d)のうちから選択される1以上の特性を有する、請求項1に記載の方法:
(a)ロッド型(rod type)の形態学的特性を有すること、
(b)明るい黄色光を有すること、
(c)分裂時間(doubling time)が15ないし35時間であること、及び
(d)CD31+、Tie-2+、CD144+、CD34+、またはそれら組み合わせの表面抗原特性を有すること。
【請求項6】
前記第3培地は、bFGF、VEGFA、SCF、FLT3L、GCSF、IL-6、IGF-1、IL15、またはその混合物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記LHEは、下記(a)ないし(b)のうちから選択される1以上の特性を有する、請求項1に記載の方法:
(a)敷石状型(cobblestone-like type)の形態学的特性を有すること、及び
(b)CD31+、CD34+、CD144+、Flk-1+、CD144+CD31+、CD144+CD34+、CD31+CD34+、Flk-1+CD34+、またはそれら組み合わせの表面抗原特性を有すること。
【請求項8】
前記多能性幹細胞を中胚葉性細胞に分化させる段階は、1ないし3日間遂行する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記中胚葉性細胞をEHEに分化させる段階は、6ないし8日間遂行する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記EHEをLHEに分化させる段階は、12ないし13日間遂行する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
LHEを13ないし28日間さらに培養し、リンパ球系細胞に分化させる段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記LHEを、bFGF、VEGFA、SCF、FLT3L、GCSF、IL-6、IGF-1、IL-7、IL-15、IL-5及びDLL1によって構成された群のうちから選択されるいずれか1以上をさらに含む培地組成物を含むEGM-2基本培地で培養する、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年2月5日に出願された大韓民国特許出願第10-2021-0016845号を優先権として主張し、前記明細書全体は、本出願の参考文献である。本発明は、多能性幹細胞由来の造血性内皮細胞からのリンパ球系細胞の分化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全ての血液の発生と維持は、成人の骨髄に存在する極少数の造血幹細胞(hematopoietic stem cell)に頼っている。骨髄(bone marrow)由来、血液(mobilized peripheral blood)由来または臍帯血(UCB:umbilical cord blood)由来の造血幹細胞の移植は、さまざまな遺伝的疾病または悪性疾患の治療基準として使用されている。しかしながら、組織適合性抗原(HLA:human leukocyte antigen)一致ドナーによる制限的な可能性は、依然として大きな当面課題として残っており、臍帯血の特性上、抗原非適合性にもかかわらず、相対的に少数の造血幹細胞の量が、生着遅延または移植後の生着に、さまざまな問題を引き起こしうる。
【0003】
一方、日本登録特許第5995237号においては、動物のAGM(aorta-gonad-mesonephros)由来血管母細胞を利用し、ヒト血液細胞に分化する方法を開示し、米国公開特許第2004-0235160号においては、動物の造血幹細胞を効果的に分化させる方法が開示されるというように、血管母細胞の生成、及びそれを活用した血液細胞の分化法開発の大切さがクローズアップされている。しかしながら、実際、ヒト血管母細胞を直接血液細胞に分化させる血管細胞分化培養技術法に係わる報告は、ほとんどなく、リンパ球系細胞にまで誘導する方法は、全くない。従って、血液細胞生成を可能にする血管母細胞の最適化された長期培養法を確立する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一態様は、多能性幹細胞(pluripotent stem cell)を、bFGF、VEGF及びSCFを含む第1培地で培養し、中胚葉性細胞(mesodermal cell)に分化させる段階と、前記中胚葉性細胞を、TPO、EPO及びIGF-1を含む第2培地で培養し、初期造血性内皮細胞(EHE:early hemogenic endothelial cell)に分化させる段階と、前記EHEを、IL-5、IL-7及びDLLを含む第3培地で培養し、後期造血性内皮細胞(LHE:late hemogenic endothelial cell)に分化させる段階と、を含む、多能性幹細胞からリンパ球系細胞(lymphoid lineage blood cell)を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様は、多能性幹細胞(pluripotent stem cell)を、bFGF、VEGF及びSCFを含む第1培地組成物を含む第1培地で培養し、中胚葉性細胞(mesodermal cell)に分化させる段階と、前記中胚葉性細胞を、TPO、EPO及びIGF-1を含む第2培地組成物を含む第2培地で培養し、初期造血性内皮細胞(EHE:early hemogenic endothelial cell)に分化させる段階と、前記EHEを、IL-5、IL-7及びDLLを含む第3培地組成物を含む第3培地で培養し、後期造血性内皮細胞(LHE:late hemogenic endothelial cell)に分化させる段階と、を含む多能性幹細胞からリンパ球系細胞(lymphoid lineage blood cell)を製造する方法を提供する。
【0006】
本明細書において、用語「多能性幹細胞(pluripotent stem cell)」は、個体の全組織細胞に分化することができる多能性(pluripotent)や全能性(totipotent)がある自己再生産能(self-renewal)を有する幹細胞を意味する。前記多能性幹細胞は、例えば、胚芽幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、体細胞核置換術による胚芽幹細胞(somatic cell nuclear transfer derived stem cell)などがある。
【0007】
本明細書において、用語「造血性内皮細胞(hemogenic endothelial cell)」は、分化された稀有な血管内皮細胞であり、胚発生の間、造血細胞(hematoblast)に分化されうる。胚芽において、造血細胞の発達は、中胚葉から血管母細胞を介し、血管内皮、及び造血細胞の前駆体(hemopoietic precursor cell)に順次に進められる。
【0008】
本明細書において、用語「血管母細胞(angioblastまたはvasoformative cell)」は、骨髄から派生された一種の内皮前駆体細胞であり、血管の内皮で発達しうる間葉系(mesenchymal)細胞のうち1つである。
【0009】
本明細書において、用語「リンパ球系細胞(lymphoid lineage blood cell)」は、造血幹細胞(hematopoietic stem cell)から分化された系統細胞であり、主に適応免疫系(adaptive immunity)と先天免疫系(innate immunity)とに関与する。該リンパ球系細胞は、例えば、自然殺害細胞(NK cell:natural killer cell)、Tリンパ球、Bリンパ球がある。従って、一態様による方法は、体外において、多能性幹細胞を、NK細胞、Tリンパ球またはBリンパ球のようなリンパ球系細胞に効率的に分化させることができる。
【0010】
一具体例による方法は、多能性幹細胞(pluripotent stem cell)を、bFGF、VEGFA及びSCFを含む第1培地組成物を含む第1培地で培養し、中胚葉性細胞(mesodermal cell)に分化させる段階を含む。前記培地組成物は、通常の細胞培養用培地内に含まれるものでもある。前記細胞培養用培地は、例えば、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle’s Medium、GIBCO、米国)、MEM(Minimal Essential Medium、GIBCO、米国)、BME(Basal Medium Eagle、GIBCO、米国)、RPMI 1640(GIBCO、米国)、DMEM/F10(Dulbecco's Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F-10、GIBCO、米国)、DMEM/F12(Dulbecco's Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F-12、GIBCO、米国)、α-MEM(α-Minimal Essential Medium、GIBCO、米国)、G-MEM(Glasgow’s Minimal Essential Medium、GIBCO、米国)、IMDM(Isocove’s Modified Dulbecco’s Medium、GIBCO、米国)、ApelII(STEMdiff APEL 2 Medium)、EGM-2(EGM Endothelial Cell Growth Medium)などでもある。
【0011】
前記bFGFは、1ないし25ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記bFGFは、例えば、1ないし25ng/ml、1ないし20ng/ml、1ないし15ng/ml、5ないし25ng/ml、5ないし20ng/ml、5ないし15ng/ml、または7ないし12ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該bFGFの含量が前記範囲を超える場合、多能性幹細胞の中胚葉性細胞への分化速度が遅いか、あるいは胚芽幹細胞の性向を帯びるという問題点がある。
【0012】
また、前記VEGFAは、5ないし40ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記VEGFAは、例えば、5ないし40ng/ml、5ないし35ng/ml、5ないし30ng/ml、5ないし25ng/ml、5ないし20ng/ml、10ないし40ng/ml、10ないし35ng/ml、10ないし30ng/ml、または15ないし25ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該VEGFAの含量が前記範囲未満である場合、細胞増殖が円滑ではないという問題点があり、前記範囲を超える場合、多能性幹細胞が血管内皮細胞に分化されうるという問題点がある。
【0013】
また、前記SCFは、20ないし70ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記SGFは、例えば、20ないし70ng/ml、20ないし65ng/ml、20ないし60ng/ml、20ないし55ng/ml、25ないし70ng/ml、25ないし65ng/ml、25ないし60ng/ml、25ないし55ng/ml、30ないし70ng/ml、30ないし65ng/ml、または40ないし60ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0014】
一具体例において、前記第1組成物は、アスコルビン酸、BMP4、CHIR、またはその混合物をさらに含むものでもある。前記アスコルビン酸は、50ないし250ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記アスコルビン酸は、例えば、50ないし250ng/ml、50ないし200ng/ml、50ないし150ng/ml、70ないし250ng/ml、70ないし230ng/ml、70ないし150ng/ml、または80ないし150ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0015】
また、前記BMP4は、10ないし50ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記BMP4は、例えば、10ないし50ng/ml、10ないし45ng/ml、10ないし40ng/ml、10ないし35ng/ml、10ないし30ng/ml、15ないし50ng/ml、15ないし45ng/ml15ないし40ng/ml、または20ないし35ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0016】
また、前記CHIRは、0.5ないし10nMの濃度で含まれるものでもある。前記CHIRは、例えば、0.5ないし10nM、1ないし10nM、1ないし8nM、1ないし6nM、1ないし4nM、2ないし9nM、2ないし7nM、2ないし5nM、または3ないし6nMの濃度で含まれるものでもある。このとき、該CHIRの含量が前記範囲未満である場合、多能性幹細胞の中胚葉への分化が円滑ではないという問題点があり、前記範囲を超える場合、多能性幹細胞が肝細胞などに分化されうるという問題点がある。
【0017】
一具体例において、前記段階は、1ないし3日間遂行されうる。例えば、前記段階は、1ないし3日間、1ないし2日間、または2ないし3日間遂行されうる。このとき、培養期間が前記範囲未満である場合、多能性幹細胞が中胚葉性細胞に十分に分化されえないという問題点があり、前記範囲を超える場合、多能性幹細胞が、中胚葉から造血性内皮細胞に分化されえず、他系統の細胞に分化されるという問題点がある。
【0018】
一具体例による方法は、前記中胚葉性細胞を、基本培地にTPO、EPO及びIGF-1を含む第2培地組成物を含む第2培地で培養し、初期造血性内皮細胞(EHE:early hemogenic endothelial cell)に分化させる段階を含む。
【0019】
前記TPOは、50ないし250ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記TPOは、例えば、50ないし250ng/ml、50ないし200ng/ml、50ないし150ng/ml、70ないし250ng/ml、70ないし230ng/ml、70ないし150ng/ml、または80ないし150ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該TPOの含量が前記範囲未満である場合、確定的造血(definitive hematopoiesis)過程が円滑ではないという問題点があり、前記範囲を超える場合、巨核球(megakaryocyte)に集中分化されうるという問題点がある。
【0020】
また、前記EPOは、5ないし40ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記EPOは、例えば、5ないし40ng/ml、5ないし35ng/ml、5ないし30ng/ml、5ないし25ng/ml、5ないし20ng/ml、10ないし40ng/ml、10ないし35ng/ml、10ないし30ng/ml、または15ないし25ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該EPOの含量が前記範囲未満である場合、赤血球生成に長時間が必要となるという問題点がある。
【0021】
また、前記IGF-1は、20ないし70ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記IGF-1は、例えば、20ないし70ng/ml、20ないし65ng/ml、20ないし60ng/ml、20ないし55ng/ml、25ないし70ng/ml、25ないし65ng/ml、25ないし60ng/ml、25ないし55ng/ml、30ないし70ng/ml、30ないし65ng/ml、または40ないし60ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、前記IGF-1の含量が前記範囲未満である場合、血液分化決定(commitment)段階が円滑ではないという問題点があり、前記範囲を超える場合、血液分化決定(commitment)段階が骨髄球系に限定されうるという問題点がある。
一具体例において、前記第2組成物は、bFGF、VEGFA、SCF、FLT3L、GCSF及びIL-6、またはその混合物をさらに含むものでもある。
【0022】
前記bFGFは、1ないし25ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記bFGFは、例えば、1ないし25ng/ml、1ないし20ng/ml、1ないし15ng/ml、5ないし25ng/ml、5ないし20ng/ml、5ないし15ng/ml、または7ないし12ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0023】
また、前記VEGFAは、50ないし250ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記VEGFAは、例えば、50ないし250ng/ml、50ないし200ng/ml、50ないし150ng/ml、70ないし250ng/ml、70ないし230ng/ml、70ないし150ng/ml、または80ないし150ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0024】
また、前記SCFは、100ないし500ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記SCFは、例えば、100ないし500ng/ml、100ないし450ng/ml、100ないし400ng/ml、100ないし350ng/ml、150ないし500ng/ml、150ないし450ng/ml、150ないし350ng/ml、200ないし500ng/ml、250ないし400ng/ml、170ないし330ng/ml、または220ないし300ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0025】
また、前記FLT3Lは、100ないし400ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記FLT3Lは、例えば、100ないし400ng/ml、100ないし350ng/ml、100ないし320ng/ml、100ないし300ng/ml、100ないし280ng/ml、100ないし260ng/ml、100ないし240ng/ml、100ないし220ng/ml、150ないし400ng/ml、150ないし300ng/ml、または150ないし250ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該FLT3Lの濃度が前記範囲未満である場合、初期造血性内皮細胞の血液細胞への分化集中度が下がってしまうという問題点がある。
【0026】
また、前記GCSFは、5ないし50ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記GCSFは、例えば、5ないし50ng/ml、5ないし45ng/ml、5ないし40ng/ml、5ないし35ng/ml、5ないし30ng/ml、5ないし25ng/ml、10ないし50ng/ml、10ないし45ng/ml、10ないし40ng/ml、10ないし35ng/ml、15ないし30ng/ml、または15ないし25ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該GCSFの含量が前記範囲未満である場合、初期造血性内皮細胞の骨髄球系細胞への分化督励が良好になされないのである。
【0027】
また、前記IL-6は、10ないし70ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記IL-6は、例えば、10ないし70ng/ml、10ないし65ng/ml、10ないし60ng/ml、10ないし55ng/ml、20ないし70ng/ml、20ないし65ng/ml、20ないし60ng/ml、30ないし60ng/ml、または45ないし55ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該IL-6の含量が前記範囲未満である場合、確定的リンパ球生成(lymphopoiesis)が良好になされないのである。
【0028】
一具体例において、前記段階は、6ないし8日間遂行されうる。このとき、培養期間が前記範囲未満である場合、造血性内皮細胞の成長と膨脹とが萎縮してしまうという問題点があり、前記範囲を超える場合、中胚葉において、造血性内皮細胞の分化が十分に起凝らず、造血性内皮細胞の頻度が少なくなるという問題点がある。
【0029】
前記初期造血性内皮細胞は、下記の(a)ないし(d)のうちから選択される1以上の特性を有するものでもある:
(a)ロッド型(rod type)の形態学的特性を有すること:
(b)明るい黄色光を有すること:
(c)分裂時間(doubling time)が15ないし35時間であること:及び
(d)CD31+、Tie-2+、CD44+、CD34+、またはそれら組み合わせの表面抗原特性を有すること。
【0030】
前記方法は、前記EHEを、IL-5、IL-7及びDLLを含む第3培地組成物を含む第3培地で培養し、後期造血性内皮細胞(LHE:late hemogenic endothelial cell)に分化させる段階を含む。
【0031】
前記IL-5は、20ないし70ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記IL-5は、例えば、20ないし70ng/ml、20ないし65ng/ml、20ないし60ng/ml、20ないし55ng/ml、25ないし70ng/ml、25ないし65ng/ml、25ないし60ng/ml、30ないし60ng/ml、または45ないし55ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該IL-5の含量が前記範囲未満である場合、リンパ球系細胞の数が少なくなりうるという問題点があり、前記範囲を超える場合、赤血球細胞が多量に生成されるという問題点がある。
【0032】
また、前記IL-7は、5ないし40ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記IL-7は、例えば、5ないし40ng/ml、5ないし35ng/ml、5ないし30ng/ml、5ないし25ng/ml、10ないし40ng/ml、10ないし35ng/ml、10ないし30ng/ml、または15ないし35ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該IL-7の含量が前記範囲未満である場合、NK細胞への分化が円滑ではなくなる。
【0033】
また、前記DDL1は、5ないし50ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記DDL1は、例えば、5ないし50ng/ml、5ないし45ng/ml、5ないし40ng/ml、5ないし35ng/ml、5ないし30ng/ml、10ないし50ng/ml、10ないし45ng/ml、10ないし40ng/ml、10ないし30ng/ml、15ないし30ng/ml、または20ないし30ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該DDL1の含量が前記範囲未満である場合、血液細胞内において、リンパ球系細胞の増殖速度が遅くなったり、血管母細胞において、リンパ球系細胞が良好に分離されえなかったりするという問題点があり、前記範囲を超える場合、NK細胞よりは、T細胞への分化が容易となってしまう。
【0034】
一具体例において、前記第3培地は、bFGF、VEGFA、SCF、FLT3L、GCSF、及びIL-6、IGF-1、IL-15、またはその混合物をさらに含むものでもある。
【0035】
前記bFGFは、1ないし25ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記bFGFは、例えば、1ないし25ng/ml、1ないし20ng/ml、1ないし15ng/ml、5ないし25ng/ml、5ないし20ng/ml、5ないし15ng/ml、または7ないし12ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0036】
また、前記VEGFAは、5ないし250ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記VEGFAは、例えば、50ないし250ng/ml、50ないし200ng/ml、50ないし150ng/ml、70ないし250ng/ml、70ないし230ng/ml、70ないし150ng/ml、または80ないし150ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0037】
また、前記SCFは、100ないし500ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記SCFは、例えば、100ないし500ng/ml、100ないし450ng/ml、100ないし350ng/ml、100ないし250ng/ml、100ないし150ng/ml、150ないし500ng/ml、150ないし400ng/ml、150ないし300ng/ml、170ないし250ng/ml、200ないし250ng/ml、または300ないし350ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0038】
また、前記FLT3Lは、100ないし400ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記FLT3Lは、例えば、100ないし400ng/ml、100ないし350ng/ml、100ないし320ng/ml、100ないし300ng/ml、100ないし280ng/ml、100ないし260ng/ml、100ないし240ng/ml、100ないし220ng/ml、150ないし400ng/ml、150ないし300ng/ml、または150ないし250ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0039】
また、前記GCSFは、5ないし50ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記GCSFは、例えば、5ないし50ng/ml、5ないし45ng/ml、5ないし40ng/ml、5ないし35ng/ml、5ないし30ng/ml、5ないし25ng/ml、10ないし50ng/ml、10ないし45ng/ml、10ないし40ng/ml、10ないし35ng/ml、15ないし30ng/ml、または15ないし25ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0040】
また、前記IL-6は、10ないし70ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記IL-6は、例えば、10ないし70ng/ml、10ないし65ng/ml、10ないし60ng/ml、10ないし55ng/ml、20ないし70ng/ml、20ないし65ng/ml、20ないし60ng/ml、30ないし60ng/ml、または45ないし55ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0041】
また、前記IGF-1は、20ないし70ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記IGF-1は、例えば、20ないし70ng/ml、20ないし65ng/ml、20ないし60ng/ml、20ないし55ng/ml、25ないし70ng/ml、25ないし65ng/ml、25ないし60ng/ml、25ないし55ng/ml、30ないし70ng/ml、30ないし65ng/ml、または40ないし60ng/mlの濃度で含まれるものでもある。
【0042】
また、前記IL-15は、5ないし40ng/mlの濃度で含まれるものでもある。前記IL-15は、例えば、5ないし40ng/ml、5ないし35ng/ml、5ないし30ng/ml、5ないし25ng/ml、5ないし20ng/ml、10ないし40ng/ml、10ないし35ng/ml、10ないし30ng/ml、または15ないし25ng/mlの濃度で含まれるものでもある。このとき、該IL-15の含量が前記範囲未満である場合、NK細胞への分化及び維持が困難であるという問題点があり、前記範囲を超える場合、T細胞のような他細胞への分化激励(encouragement)も共に起こり、NK細胞のみをターゲットにするか、あるいはリンパ球系細胞のうちいずれか1つだけへの選択的分化が困難であるという問題点がある。
【0043】
一具体例において、前記段階は、12ないし13日間遂行されうる。このとき、分化期間が前記範囲未満である場合、初期造血(primary hematopoiesis)過程が十分に起こらず、確定的造血(definitive hematopoiesis)過程の細胞生成とその頻度とが少なくなのに影響を与えるという問題点がある。
【0044】
前記後期造血性内皮細胞は、下記の(a)ないし(b)のうちから選択される1以上の特性を有するものでもある:
(a)さざれ石型(cobble stone-like type)の形態学的特性を有すること;及び
(b)CD31+、CD34+、CD144+、Flk-1+、CD144+CD31+、CD144+CD34+、CD31+CD34+、Flk-1+CD34+、またはそれら組み合わせの表面抗原特性を有すること。
【0045】
前記方法は、前記LHEを、13ないし28日間さらに培養し、リンパ球系細胞に分化させる段階をさらに含むものでもある。例えば、前記LHEを、13ないし28日間、13ないし27日間、13ないし26日間、13ないし25日間、13ないし24日間、13ないし22日間、13ないし20日間、15ないし28日間、15ないし25日間、または20ないし28日間さらに培養することができる。このとき、培養期間が前記範囲未満である場合、造血性内皮細胞がリンパ球系細胞に十分に分化されえないという問題点があり、前記範囲を超える場合、リンパ球系細胞の促進が遅延され、リンパ球系細胞を十分に得ることができないという問題点がある。
【0046】
また、前記リンパ球系細胞に分化させる段階は、bFGF、VEGFA、SCF、FLT3L、GCSF、IL-6、IGF-1、IL-7、IL-15、IL-5及びDLL1によって構成された群のうちから選択されるいずれか1以上をさらに含む培地組成物を含むEGM-2基本培地でLHEを培養することでもある。
【0047】
すなわち、一態様による方法は、リンパ球系細胞の分化適正性に合う培地条件を最適化させ、分化段階別に前記培地を適用することにより、造血性内皮細胞の長期培養が可能になるのである。
【0048】
他の態様は、前記方法によって製造されたリンパ球系細胞を提供する。
【0049】
さらに他の態様は、前記リンパ球系細胞を有効成分として含む癌の予防用または治療用の薬学的組成物を提供する。さらに他の態様は、前記リンパ球系細胞を有効成分として含む細胞治療剤を提供する。前記有効成分のリンパ球系細胞、その細胞集団、またはその培養液を、それを必要とする個体に投与する段階を含む癌の予防方法または治療方法を提供する。
【0050】
前記リンパ球系細胞の具体的な内容は、前述の通りである。前記方法によって製造されたリンパ球系細胞は、免疫活性を有するが、免疫抗癌剤に利用可能である。
【発明の効果】
【0051】
一態様による方法は、造血性内皮細胞を、長期培養することができ、リンパ球系細胞に誘導することができるが、T細胞、B細胞、NK細胞のような免疫細胞の生成を誘導しやすいのである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】初期造血性内皮細胞及び後期造血性内皮細胞の性状を示した写真である。
図2A】後期造血性内皮細胞の培養時間による細胞形態を示した写真、及び単一細胞の増殖を示したグラフである。
図2B】後期造血性内皮細胞のマーカータンパク質発現を確認した写真である。
図3A】ApelII基本培地でHEを培養し、1日目、3日目、7日目、及びその後の細胞形状を示した写真である。
図3B】EGM-2基本培地でHEを培養し、1日目及び3日目の細胞形状を示した写真である。
図3C】DMEM/F12基本培地でHEを培養し、1日目、3日目、7日目、及びその後の細胞形状を示した写真である。
図4A】後期造血性内皮細胞におけるマーカータンパク質を確認した結果である。
図4B】CD31細胞のTie-2 enrichmentを確認した写真である。
図5A】マウスの肝臓内造血性内皮細胞におけるリンパ球系細胞生成を確認した結果である。
図5B】マウスAGM内造血性内皮細胞におけるリンパ球系細胞生成を確認した結果である。
図5C】それぞれの基本培地で培養した造血性内皮細胞の性状及びコロニー形成、リンパ球系細胞、並びに骨髄球系細胞の生成程度を図表化し、造血性内皮細胞の形態を確認した結果である。
図5D】AGM内の分化された細胞を利用し、CD45、CD4、CD8、NK1.1の発現程度を分析した結果を示したグラフである。
図6A】ヒト全分化能幹細胞由来の造血性内皮細胞からのリンパ球系細胞の生成段階別細胞の性状及び発現マーカーを示した結果である。
図6B】IL-5及びDDL1を処理したスポットにおいて、リンパ球系細胞への分化がなされるか否かということをリンパ球系転写因子の発現によって確認したグラフである。
図7A】ヒト全分化能幹細胞由来の後期造血性内皮細胞の培養31日目Tリンパ球前駆細胞であるγδT細胞の表面マーカーをFACSで確認した結果である。
図7B】ヒト全分化能幹細胞由来の後期造血性内皮細胞の培養31日目Tリンパ球前駆細胞であるγδT細胞の表面マーカーを定量化したグラフである。
図7C】ヒト全分化能幹細胞由来の後期造血性内皮細胞の培養31日目Tリンパ球前駆細胞であるγδT細胞の細胞形態を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明理解の一助とするために、望ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をさらに容易に理解するために提供されるものであるのみ、下記実施例により、本発明の内容が限定されるものではない。
【0054】
[製造例]
製造例1.幹細胞の造血性内皮細胞(hemogenic endothelial cell)への分化及び維持のための培養条件確立
幹細胞の造血性内皮細胞への分化及び培養条件が確認された。具体的には、(株)チァバイオテックから入手した幹細胞(以下、「CHA52細胞」とする)2.0x10個を、6ウェル培養皿のうち、マトリゲルがコーティングされた1ウェルに分注し、2日間培養した。その後、前記細胞を、基本培地(StemlineII培地)に、bFGF 7ng/ml、CHIR 1nM、アスコルビン酸60ng/ml、VEGFA 15ng/ml、SCF 35ng/ml及びBMP4 18ng/mlを含む中胚葉特異条件培地で3日間培養した(以下、「段階I」とする)。その後、前記細胞を、基本培地(ApelII培地)に、bFGF 7ng/ml、VEGFA 15ng/ml、SCF 180ng/ml、FLT3L 150ng/ml、GCSF 18ng/ml、TPO 80ng/ml、EPO 17ng/ml、IL-6 25ng/ml及びIGF-1 30ng/mlを含む最適化された培地で6日間さらに培養した(以下、「段階II」とする)。6日目までの期間を前造血性内皮細胞(pro HE:pro hemogenic endothelial cell)と命名し、6日目になる日、造血性内皮細胞を継代培養し、高純度に分離させた。このとき、0.25%トリプシン/EDTAで培養基内を3分間処理し、単層(single layer)に分布された非造血性内皮細胞が先に落ちるところが確認された。その後、DPBSで培地を洗浄した後、0.25%トリプシン/EDTAでさらに処理し、造血性内皮細胞クラスタ(cluster)を単一細胞で分離させた。分離された単一細胞を、0.44μmフィルタで濾過した後、1ウェルから出た細胞を2ウェルに分け、基本培地(ApelII培地)に、bFGF 11ng/ml、VEGFA 50ng/ml、SCF 170ng/ml、FLT3L 150ng/ml、GCSF 18ng/ml、IL-6 35ng/ml、IGF-1 25ng/ml、IL-7 15ng/ml、IL-15 10ng/ml、IL-5 25ng/ml及びDLL1 7ng/mlを含む条件培地で21日間継代培養した(以下、「段階III」とする)。21日目まで3~4日間に、1回ずつ培地の半交換(half change)を維持した。
【0055】
製造例2~4
それぞれの段階において、下記表1~3の構成及び含量を含むという点を除いては、前記製造例1と同一方法で遂行した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
[実施例]
実施例1.造血性内皮細胞の性状確認
前記製造例1の段階IIIで培養した造血性内皮細胞を、培養13日目を基準にし、初期造血性内皮細胞(EHE:early hemogenic endothelial cell)と後期造血性内皮細胞(LHE:late hemogenic endothelial cell)とに分けた後、各細胞の性状が、顕微鏡(x100,x200及びx400)を利用して確認された。
【0060】
図1は、初期造血性内皮細胞及び後期造血性内皮細胞の性状を示した写真である。
【0061】
その結果、図1に示されているように、初期造血性内皮細胞の場合、広くない分布の細胞塊をなし、クラスターを形成するところを確認することができ、該初期造血性内皮細胞外に、他細胞が共に分布するところを確認することができた。このとき、CD31、VE-カドヘリンのような造血性内皮細胞のマーカータンパク質が発現するところを確認することができた。
【0062】
また、培養13日目以後の後期造血性内皮細胞の場合、初期造血性内皮細胞に比べ、さらに多くの細胞が凝集されたところを確認することができ、そこで浮び上がる血液細胞の場合、確定的血液(definitive blood)の様相を示した。そのような後期造血性内皮細胞は、培養後期に行くほど細胞質が薄くなって細くなりながら、寿命が尽きるところを確認することができた。また、該後期造血性内皮細胞から、FLK-1+の巨核球・赤血球の先祖細胞(progenitors)が出ることを確認することができた。それら1つの後期造血性内皮細胞から、いくつかの巨核球・赤血球の先祖細胞を生成し、クローン増殖(clonal expansion)した結果、造血性内皮細胞は、主にロッド状形態(rod-like cells)を示し、典型的な血管内皮細胞の形態である敷石状形態(cobblestone-like cells)や間葉系幹細胞(mesenchymal stromal cells)形態とは差別されることを確認することができた。該後期造血性内皮細胞によって形成された血液細胞は、初期段階の、主に原始的血液細胞(primitive blood cell(主に、骨髄球系である))であり、後期造血性内皮細胞由来の細胞においては、確定的血液細胞(definitive blood cell(骨髄球系とリンパ球系とのいずれをも含む))を有しており、生成された血管内皮細胞におけるチューブ形成(tube formation)がなされることを確認することができた。前述のような結果から推し量り、造血性内皮細胞は、血管内皮細胞の特性と、血液細胞の特性とをいずれも保有しているとで思料される。
【0063】
図2Aは、後期造血性内皮細胞の培養時間による細胞形態を示した写真、及び単一細胞の増殖を示したグラフである。
【0064】
その結果、図2Aに示されているように、後期造血性内皮細胞の培養1日目においては、ポルピリン(porpyrin)の前駆物質である5-アミノレブリン酸合成酵素(5-aminolevulinate synthase)によるものと推定される明るい光により(白色矢印で表示される)、顕微鏡上で明るい黄色光を示すところを確認することができた。しかしながら、赤芽球(erythroblast)を全て生成した後の造血性内皮細胞においては、明るい光が消えることを確認することができた(D9(10日目以後))。また、5日目、造血性内皮細胞においては、出芽(budding)される赤芽球(erythroblast)の形態を確認することができ、7日目以後、赤芽球が形成されるところを確認することができた。前記造血性内皮細胞のdoubling dayは1.2日ほどであり、分裂時間(doubling time)は、平均29.5時間ほどであることが確認された。
【0065】
図2Bは、後期造血性内皮細胞のマーカータンパク質発現が確認された写真である。
【0066】
その結果、図2Bに示されているように、9日目以後、クラスターをなす造血性内皮細胞において、マーカータンパク質であるCD31、Tie-2、CD34などが発現されるところが確認され、一部細胞においては、RUNX1、ブラキウリ(Brachyury)のような中胚葉マーカーが核中に残っているところを確認することができた。また、造血性内皮細胞から血液細胞として浮び上がるとき、該血液細胞にFLK-1タンパク質が集中的に発現されるところを確認することができた。
【0067】
実施例2.培養条件による後期造血性内皮細胞の増殖及び分化
前記実施例1で培養された後期造血性内皮細胞を、1ヵ月間、冷凍保管した後、37℃ウォーターバスで解凍させた。その後、後期造血性内皮細胞の増殖及び分化に適する培地を確認するために、3種基本培地(ApelII,EGM-2及びDMEM/F12培地)を使用し、ApelII培地及びDMEM/F12培地の場合、bFGF 7ng/ml、VEGFA 15ng/ml、SCF 180ng/ml、FLT3L 150ng/ml、GCSF 18ng/ml、TPO 80ng/ml、EPO 17ng/ml、IL-6 25ng/ml、IGF-1 30ng/ml、IL-345ng/ml及びCHIR 1nMを添加した。EGM-2培地の場合、前記製造例1のIII段階と同一の種類及び量のサイトカインをさらに添加した。その後、冷凍後に解凍した後期造血性内皮細胞を、前記3個の培地においてそれぞれ培養し、全ての培地は、3~4日に1回ずつ、培地の半交換(half change)を維持した。後期造血性内皮細胞の場合、冷凍後に解凍した血管内皮細胞であるために、培養皿に付着(attachment)して増殖すると期待された。
【0068】
図3Aは、ApelII基本培地において造血性内皮細胞を培養し、1日目、3日目、7日目、及びその後の細胞形状を示した写真である。
【0069】
その結果、図3Aに示されているように、ApelII基本培地においては、ほとんどの造血性内皮細胞が、培養皿の付着(attachment)に失敗し、早く死ぬことを確認することができた。しかしながら、7日目以後まで生存した造血性内皮細胞の場合、内皮細胞としての機能が安定化されれば、白血球類似細胞(WBC-like cell)を生成したり、赤芽球コロニーを形成したりするところを確認することができた。ただし、BGM-2基本培地及びDMEM/F12基本培地で培養した造血性内皮細胞の血液細胞生産量に比べ、顕著に少なかった。
【0070】
図3Bは、EGM-2基本培地で造血性内皮細胞を培養し、1日目及び3日目の細胞形状を示した写真である。
【0071】
その結果、図3Bに示されているように、EGM-2基本培地で培養した造血性内皮細胞は、培養皿に付着した後、安定して増殖し、増殖速度も、他の基本培地に比べて速く、安定していた。特に、7日以上増殖された造血性内皮細胞の場合、典型的な敷石状形態の血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell)群と、非定形的な血管内皮細胞形態の細胞群とに分けられたところを確認することができた。一方、ApelII基本培地で培養した細胞において、細胞付着がなされていない細胞を、EGM-2培地で3日間培養し、付着細胞の増殖を誘導した後、さらにApelII培地で培養した結果、造血性内皮細胞が正常に増殖するところを確認することができた。すなわち、EGM-2基本培地は、造血性内皮細胞の増殖と生着とに肯定的であり、培養皿内において、造血性内皮細胞が安定している付着と増殖とを行うことにより、血液細胞の生産に影響を及しうる。
【0072】
図3Cは、DMEM/F12基本培地で造血性内皮細胞を培養し、1日目、3日目、7日目、及びその後の細胞形状を示した写真である。
【0073】
その結果、図3Cに示されているように、DMEM/F12基本培地で培養した造血性内皮細胞は、培養皿に付着し、増殖するところを確認することができた。EGM-2基本培地で培養した造血性内皮細胞と比較し増殖速度が4~5日ほど遅れたが、造血性内皮細胞のコロニーが多数形成され、8日目以後からは、多量の血液細胞を安定して生成するところを確認することができた。
【0074】
実施例3.造血性内皮細胞で発現するタンパク質マーカーの確認
前記実施例2の基本培地により、造血性内皮細胞で発現するマーカータンパク質の発現を比較した。その結果、基本培地によるマーカータンパク質の発現に大きく違いがなく、造血性内皮細胞において、典型的なマーカータンパク質が発現するところを確認することができた。
【0075】
図4Aは、EGM-2基本培地で3日間培養した造血性内皮細胞におけるマーカータンパク質を確認した結果である。
【0076】
図4Bは、EGM-2基本培地で14日間培養した造血性内皮細胞のTie-2 enrichmentを確認した写真である。
【0077】
その結果、図4Aに示されているように、EGM-2基本培地で培養した造血性内皮細胞グループにおいては、CD31 27.9%、CD34 8.2%、CD144 29.9%、Flk-1 4.5%のタンパク質マーカーが発現され、CD144+CD31+11.3%、CD144+CD34+ 8.5%、CD31+CD34+ 10.2%、Flk-1+CD34+ 4.9%のタンパク質マーカーが発現されるところを確認することができた。また、図4Bに示されているように、CD31を利用し、MACSソーティング(sorting)されグループにおいて、Tie-2の発現が、CD31+細胞群において、24.9% enrichmentされているところを知ることができ、CD31-細胞群においては、1.8% enrichmentされているところを確認することができた。そのような結果は、CD31+細胞の造血性内皮細胞へのcommitmentを示唆する。また、Tie2>CD144>CD31>CD34>FLK1の順序で、造血性内皮細胞マーカーが発現することを確認することができた。
【0078】
実施例4.リンパ球系細胞の生成誘導のための造血性内皮細胞の培養条件確認
前記実施例2の結果を基に、リンパ球系生成を誘導するための造血性内皮細胞の培養条件がさらに確認された。まず、10.5~11.5日のマウス胎児(rat fetus)において、AGM(aorta gonad mesonephros)と肝組織とを分離させた。その後、1.5mlエッペンドルフチューブ(Eppendorf tube)ふたの裏でミンチ(mincing)した組織を、DPBSで洗浄した後、前記実施例2と同一の3種培地において、マウスの出生日である20日目まで培養した。それぞれの培地で培養された造血性内皮細胞の形態を確認するために、ヘマトキシリン・エオジン(hematoxylin & eosin)染色を行った。
【0079】
図5Aは、マウスの肝臓内造血性内皮細胞におけるリンパ球系細胞生成を確認した結果であり、図5Bは、マウスAGM内造血性内皮細胞におけるリンパ球系細胞生成を確認した結果である。図5Cは、それぞれの基本培地で培養された造血性内皮細胞の性状及びコロニー形成、リンパ球系細胞、並びに骨髄球系細胞の生成程度を図表化し、造血性内皮細胞の形態を確認した結果である。
【0080】
肝組織由来血液細胞においては、造血性内皮細胞の獲得がほとんどなされていないが、該造血性内皮細胞で作られた血液細胞が肝臓に浸潤(infiltration)して成熟する過程において、それぞれの3種培地によって異なる傾向を示すところが確認された。具体的には、図5Aに示されているように、EGM-2基本培地の場合、造血性内皮細胞がいずれも死ぬことが確認された。一方、ApelII基本培地の場合、3日目内に、巨核球・赤血球細胞、前正赤芽球(pronormoblast)から正染性正赤芽球(orthochromic normoblast)まで細胞が迅速に誘導され、6日目内に細胞が消えるところを確認することができた。また、DMEM/F12基本培地の場合、赤血球系よりは、巨核球・赤血球細胞由来の巨核母球、巨核球(MK-II)まで分化が旺盛であり、前血小板突起とsiliaとの形成を目につくように確認することができた。特に、Heme装着赤血球系の細胞よりは、白血球系細胞の生成が多いところを確認することができた。
【0081】
なお、図5Bに示されているように、AGMに存在する造血性内皮細胞の場合、培地により、最大9日目までの培養程度が異なることを確認することができた。具体的には、EGM-2基本培地の場合、血液細胞の消滅が目立って上昇しているところを確認することができた。すなわち、ヒト全分化能由来の造血性内皮細胞とは異なるように、マウスの造血性内皮細胞は、長期間生存しないということを知ることができる。しかしながら、ApelII基本培地の場合、赤血球系細胞のenrichmentが早くなされ、白血球系細胞の増殖が顕著に増大するところを確認することができた。また、DMEM/F12基本培地の場合、赤血球系細胞の分化より、巨核球と白血球との分化程度が顕著に高いことを確認することができた。結果として、図5Cに示されているように、肝臓及びAGMに由来する細胞は、EGM-2基本培地に比べ、DMEM/F12基本培地及びApelII基本培地において、付着及び細胞増殖が活発になされ、造血性内皮細胞及び血球細胞において、長期間分化が可能であることを知ることができる。
【0082】
図5Dは、AGM内の分化された細胞を利用し、CD45、CD4、CD8、NK1.1の発現程度を分析した結果を示したグラフである。
【0083】
その結果、図5Dに示されているように、ApelII基本培地の場合、10日目に、浮遊(suspension)細胞内の自然殺害細胞の誘導が最も高く、DMEM/F12基本培地の場合、6日目に、巨核球と共に、CD4,CD8細胞の誘導が迅速に促されて維持されるところを確認することができた。従って、前記2個の基本培地のいずれにおいても、AGM由来の血液細胞が維持されるということを知ることができる。
【0084】
実施例5.ヒト多能性幹細胞の造血性内皮細胞及び血液細胞への分化確認
前記実施例4において、マウス胎児の体内由来の造血性内皮細胞が血液細胞に分化するところが確認されたことを基に、前記実施例1で培養された後期造血性内皮細胞を、実施例2の培地において、分化及び増殖し、血液細胞に分化させた後、表面マーカーが確認された。具体的には、前記製造例1において、段階IないしIIIによって21日間培養した造血性内皮細胞を、34日目になる日までさらに培養した。このとき、培養28日目以後には、造血性内皮細胞の脱落がなされたり、細胞死滅の頻度が増大したりするために、造血性内皮細胞の機能的な窓(functional window)を21~28日目までに定めた。34日目になる日まで培養された造血性内皮細胞に限り、0.25%トリプシン/EDTAでさらに処理し、細胞クラスターを単一細胞に分離させた。その後、CFUアッセイ(assay)を行い、骨髄球系細胞のコロニー生成いかんが確認された。
【0085】
図6Aは、ヒト全分化能幹細胞由来の造血性内皮細胞からのリンパ球系細胞の生成段階別細胞の性状及び発現マーカーを示した結果である。
【0086】
図6Bは、IL-5及びDDL1で処理したスポット(spot)において、リンパ球系細胞への分化がなされるか否かということを、リンパ球系転写因子の発現によって確認したグラフである。
【0087】
その結果、図6Aに示されているように、13日目以後34日目まで培養された造血性内皮細胞は、骨髄球系細胞のコロニーが生成され、分化がなされることを確認することができた。また、図6Bに示されているように、IL-5及びDLL1で処理したスポット(spot)において、リンパ球系転写因子(transcription factor)が多数発現されることを確認することができた。すなわち、一様相による培地は、ヒト多能性幹細胞の長期培養が可能であり、造血性内皮細胞及び血管細胞(リンパ球系細胞)への分化が可能であるということを知ることができる。
【0088】
実施例6.ヒト多能性幹細胞のTリンパ球前駆細胞への分化確認
前記実施例4において、 マウス胎児の体内由来の造血性内皮細胞が血液細胞に分化するところが確認されたことを基に、前記実施例1で培養された後期造血性内皮細胞を、実施例2の培地で分化及び増殖し、Tリンパ球前駆細胞、すなわち、αβT細胞の前駆細胞であるγδT細胞に分化させた後、表面マーカーが確認された。具体的には、前記製造例1において、段階IないしIIIによって21日間培養された造血性内皮細胞を、31日目になる日までさらに培養した。このとき、培養31日目に、確定的造血生成過程を介し、リンパ球系細胞の生成がなされるので、造血性内皮細胞の機能的な窓(functional window)を、21~31日までに定めた。培養後31日目になる日、FACSを行い、細胞表面マーカーを分析した。
【0089】
図7Aは、ヒト全分化能幹細胞由来の後期造血性内皮細胞の培養31日目Tリンパ球前駆細胞であるγδT細胞の表面マーカーをFACSで確認した結果である。
【0090】
図7Bは、ヒト全分化能幹細胞由来の後期造血性内皮細胞の培養31日目Tリンパ球前駆細胞であるγδT細胞の表面マーカーを定量化したグラフである。
【0091】
図7Cは、ヒト全分化能幹細胞由来の後期造血性内皮細胞の培養31日目Tリンパ球前駆細胞であるγδT細胞の細胞形態を確認した結果である。
【0092】
その結果、図7A及び図7Bに示されているように、後期造血性内皮細胞は、培養22日目に、確定的造血細胞の段階に移りながら、CD3の発現が示され始めた。また、培養31日目に、付着細胞と比較し、 浮遊(suspension)細胞において、CD3陽性細胞数が有意的に多く、約40%の頻度率を示すことを確認することができた。また、CD3陽性細胞において、TCR受容体亜型(subtype)を確認することができ、付着細胞と比較し、浮遊細胞において、TCR Vδ2の発現が有意的に高いということを確認することができた。
【0093】
前述の本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有した者であるならば、本発明の技術的思想や、必須な特徴を変更せずとも、他の具体的な形態に容易に変形が可能であるということを理解することができるであろう。従って、以上で記述された実施例は、全ての面において、例示的なものであり、限定的ではないと理解されなければならない。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
【国際調査報告】